【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により説明する。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<ゼラチン調製及び外科用シーラント調製>
(参考例1)
非特許文献1に記載された、ジメチルスルホキシド中におけるアミノ基のコレステリルクロロホルミエートへの求核置換反応を用いた方法により、タラ由来ゼラチン(Mw=10万)の側鎖のアミノ基のうちの8.3mol%を疎水性基(コレステリル基:Cholと略記する。)で置換した疎水化冷水魚由来ゼラチンである8.3Chol−cGltnを合成した。
【0044】
次に、pH8.0のPBSに40wt%で8.3Chol−cGltnを溶解して、第1剤水溶液を調製した。別途、pH8.0のPBSに水溶性架橋剤4S−PEGを溶解して、第2剤水溶液を調製した。4S−PEGの濃度は、第1剤水溶液と第2剤水溶液を等体積で混合した時に8.3Chol−Gltnの反応性アミノ基と4S−PEG中活性エステル基の当量比が1:1となるようにした。これは、以下においても同様である。
【0045】
(実施例1)
タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の9.6mol%を疎水性基(ステアロイル基:Steと略記する。)で置換して9.6Ste−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。
【0046】
(参考例2)
タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の1.9mol%を疎水性基(Chol)で置換して1.9Chol−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。
【0047】
(参考例3)
タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の12.2mol%を疎水性基(Chol)で置換して12.2Chol−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。
【0048】
(参考例4)
タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の3.2mol%を疎水性基(プロパノイル基:Proと略記する。)で置換して3.2Pro−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。
【0049】
(参考例5)
タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の6.4mol%を疎水性基(Pro)で置換して6.4Pro−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。
【0050】
(参考例6)
タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の13.7mol%を疎水性基(Pro)で置換して13.7Pro−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。
【0051】
(参考例7)
タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の2.1mol%を疎水性基(ヘキサノイル基:Hxと略記する。)で置換して2.1Hx−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。
【0052】
(参考例8)
タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の8.5mol%を疎水性基(Hx)で置換して8.5Hx−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。
【0053】
(参考例9)
タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の18.3mol%を疎水性基(Hx)で置換して18.3Hx−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。
【0054】
(実施例2)
タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の3.8mol%を疎水性基(ラウロイル基:Lauと略記する。ドデカノイル基ともいう。)で置換して3.8Lau−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。
【0055】
(実施例3)
タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の9.0mol%を疎水性基(Lau)で置換して9.0Lau−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。
【0056】
(実施例4)
タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の19.0mol%を疎水性基(Lau)で置換して19.0Lau−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。
【0057】
(実施例5)
タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の4.0mol%を疎水性基(Ste)で置換して4.0Ste−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。
【0058】
(実施例6)
タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の18.7mol%を疎水性基(Ste)で置換して18.7Ste−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。
【0059】
(比較例1)
疎水化ゼラチンに代えて、原料タラゼラチン(Org−cGltnと略記する。)を用いたことを除き、参考例1と同様にして比較用の外科用シーラントを調製した。
【0060】
(比較例2)
フィブリンシーラントとしてボルヒール(商品名)を用いた。
【0061】
表1に、以上の外科用シーラントの内容を示す。
【表1】
【0062】
<ゲル調製>
(参考例1−G〜比較例2−G)
参考例1の8.3Chol−cGltn水溶液150μlと第2剤水溶液150μlを混合して、型に入れ、37℃条件下で5分間静置した。これにより、直径4.0mm、厚さ1.0mmの8.3Chol−cGltnと4S−PEGからなるディスクゲル(「参考例1−G」と表す。以下、同様。)を調製した。なお、混合の際、透明な混合溶液に所定量のブリリアントブルー色素を混入して、着色して、ゲルの大きさを明確に認識できるようにした。以下、同様にして表2に示す各ディスクゲルを調製した。
【0063】
<周波数依存動的粘弾性測定:貯蔵弾性係数および膜強度測定>
次に、MCR301 粘弾性計を用いて、0.1〜100(1/s)の角周波数領域でひずみ5%の測定条件で、各ディスクゲルの貯蔵弾性係数(Storage modulus)を測定した。また、角周波数1.0(1/s)の貯蔵弾性係数を圧縮弾性係数(Compressive modulus)とし、表2に示した。
図4〜8に各ディスクゲルの角周波数依存性を示すグラフ(a)および圧縮弾性係数を示す棒グラフ(b)示した。いずれのグラフにおいても、比較のために、原料ゼラチン(比較例1−G)及びフィブリンシーラント(比較例2−G)のデータも示した。
【0064】
【表2】
【0065】
図4(a)〜8(a)に示すように、測定周波数領域では、いずれの材料も安定した貯蔵弾性係数挙動を示した。また、いずれの参考例、実施例のディスクゲルもフィブリンシーラント(比較例2‐G)と比べて貯蔵弾性係数が高かった。中でも、実施例2〜4(
図7(a))、実施例1、5、6(
図8(a))は、比較例1−Gに比べても貯蔵弾性係数が高かった。
【0066】
図4(b)〜8(b)に示すように、いずれの参考例、実施例のディスクゲルもフィブリンシーラント(比較例2‐G)と比べて圧縮弾性係数が高く、とりわけ実施例1〜6(
図7(b)及び
図8(b))は、原料ゼラチンよりも圧縮弾性係数が高いことが分かった。
図9は、置換基ごとに置換率と圧縮弾性係数の関係を示す図である。同図から分かるように、炭素数12(Lau)及び炭素数18(Ste)の疎水性基は、置換率4〜19モル%程度までの広い範囲で、圧縮弾性係数が高く、これらの置換基を有するゼラチンの接着力も合わせて考慮すると、優れた封止力が達成できることが分かった。
【0067】
<ゲル化時間測定>
(参考例1−T)
参考例1の8.3Chol−cGltn水溶液である第1剤水溶液150μlと第2剤水溶液150μlを混合して、直径16mmのガラスチューブ内に入れた。次に、ガラスチューブ内にマグネットを入れ、マグネットスターラ―を用いて、37℃、280rpm条件で撹拌したところ、徐々にゲル化が進み、マグネットの回転がゆっくりとなり、最終的にマグネットが停止するまでの時間をゲル化時間とした。同様の測定を参考例5、参考例8、実施例3、実施例5、比較例1について行った。結果を表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
表3に示すように、疎水性基で置換したゼラチンはすべて、疎水性基の無いゼラチン(Org)に比べて、ゲル化時間が速かった。
【0070】
<耐圧強度測定用サンプル作製>
(実施例1‐R)
ラット摘出肺のエアーリークモデルの作製は、非特許文献5に記載の方法を参考に行った。ラット肺は膨らんだ状態と萎んだ状態に大きな差があるため、まず、ラット摘出肺の気管部に空気導入管を接続し、紐により閉塞してから、ラット摘出肺の内部に空気を導入して、ラット摘出肺を膨らませた。
【0071】
肺を膨らませた状態で、ラット摘出肺の表面に対して20ゲージの注射針(20G針)を深さ約2mm刺して、欠損部を形成し、欠損モデルを作製した。そして、ラット摘出肺の内部の空気圧と外気圧を平衡状態として5分間安定させた。次いで、リング中心部に前記欠損部が位置するように、ラット摘出肺の表面に厚さ0.5mm、内径7.0mm、外径20.0mmのシリコーンリングを配置した。
【0072】
次に、実施例1の外科用シーラント(9.6Ste−cGltnの水溶液と4S−PEG水溶液からなる)をシリコーンリング内の肺表面に円形状に塗布し、5分間硬化させて、欠損部を封止した後、シリコーンリングをはずして、耐圧強度測定用サンプル(実施例1−R)とした。
【0073】
<耐圧強度測定>
得られた耐圧強度測定用サンプルを、37℃生理食塩水中に浸漬し、1mL/secで肺へ空気を送入した。シーラントに亀裂が発生し、水中で泡の発生が見られたときの空気圧力(Air leak pressure)を耐圧強度とした。同様にして、参考例1(8.3Chol−cGltn)、比較例1及び2について耐圧強度を測定した。結果を表4に示す。
【0074】
【表4】
【0075】
上表から分かるように、実施例1(9.6Ste−cGltn)は、参考例1(8.3Chol−cGltn)、比較例1(Org)、比較例2(フィブリン)のいずれに比べても耐圧強度が高く、優れた封止力があることが分かった。
【0076】
<浸漬したディスクゲルの含水率算出>
参考例1−G(8.3Chol−cGltn)、実施例1−G(9.6Ste−cGltn)、比較例1−G(Org−cGltn)の各ディスクゲルを、上述の方法で作製し、直ちに37℃の生理食塩水に浸漬した。浸漬開示時から1、3、5、10、15、30、60、120、240分間経過時で、ディスクゲルの質量(所定時間浸漬後質量:Wt)を測定した。測定後、ゲル内部のナトリウムイオンを取り除くため、ディスクゲルを37℃の2mlのMilli Q水中に24時間浸漬してから、48時間凍結乾燥して、ディスクゲルの質量(乾燥後質量:Wd)を測定した。
【0077】
得られたWt、Wdの値から(1)式より、ゲル中に含まれる含水率%(Water content)を算出した。結果を表5に示す。
Water content=(Wt−Wd)×100…(1)
【0078】
【表5】
【0079】
図10は、各ディスクゲルの含水率(算出値)の経時変化を示すグラフであって、(a)はOrg−cGltn(比較例1−G)であり、(b)は8.3Chol−cGltn(参考例1−G)であり、(c)は9.6Ste−cGltn(実施例1−G)である。
図10より、いずれのディスクゲルにおいても、約80%であった初期含水率は、30分後には約90%に変化し、ほぼ平衡状態に達した。ここから、作製直後のディスクゲルを浸漬したときに含水率の変化が生じるものの、大きな変化はないことが確認された。
【0080】
<浸漬したディスクゲルの膨潤変化>
上記実験において、浸漬開始時から0、10、30、60、120、240分間経過時で、各ディスクゲルの膨潤変化を写真撮影した。
図11は、各ディスクゲルの膨潤変化を示す写真である。
図11に示すように、Org−cGltn(比較例1‐G)のディスクゲルの大きさは、浸漬後10分の時点で、直径が僅かに増加した。その後、大きな変化がなかった。また、8.3Chol−cGltn(参考例1−G)、9.6Ste−cGltn(実施例1−G)のディスクゲルでは、30分後に直径が僅かに増加した。その後、大きな変化がなかった。これは疎水性基の効果によるものと考えられる。
【0081】
なお、ゲルは膨潤すると、一般にゲル内部の高分子密度が減少し、膜強度が低下しゲル破壊および組織からの剥離を引き起こす可能性がある。外科用シーラントは湿潤環境で用いられるので、同環境で用いられても、膨潤しにくいことが求められる。8.3Chol−cGltn(参考例1‐G)、9.6Ste−cGltn(実施例1‐G)のディスクゲルでは、浸漬後30分以降は膨潤の変化は少なかった。これらの結果から、本発明の外科用シーラントは、体内の湿潤環境でも十分な封止力を、長期間備えることが分かった。