(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6367990
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物、熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物の製造方法、改質熱可塑性高分子フィルム及び改質熱可塑性高分子フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 171/02 20060101AFI20180723BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20180723BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20180723BHJP
A01G 9/14 20060101ALI20180723BHJP
C08J 7/04 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
C09D171/02
C09D7/61
B32B27/00 103
A01G9/14 S
C08J7/04 SCES
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-21974(P2017-21974)
(22)【出願日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年4月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100081798
【弁理士】
【氏名又は名称】入山 宏正
(72)【発明者】
【氏名】山田 享弘
(72)【発明者】
【氏名】潮谷 和史
(72)【発明者】
【氏名】小澤 真貴子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 淳介
【審査官】
吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5963923(JP,B1)
【文献】
実開平02−138545(JP,U)
【文献】
特許第5948482(JP,B1)
【文献】
特開平08−090732(JP,A)
【文献】
特開2001−190471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
A01G 9/14−26
A01G 11/00−15/00
C09K 3/18
B32B
C08J 7/04−06
C08J 5/18−22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の無機カチオンコロイドゾルを固形分換算で100質量部に対し、ポリエーテル変性シリコーンを10〜50質量部、下記のポリオキシアルキレン誘導体を2〜30質量部及び数平均分子量1000〜9800のエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマーを45〜75質量部の割合で含有して成ることを特徴とする熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物。
無機カチオンコロイドゾル:カチオンアルミナゾルを固形分換算で20〜100質量%及びカチオンシリカゾルを固形分換算で0〜80質量%(固形分換算で合計100質量%)の割合で含有して成る無機カチオンコロイドゾル
ポリオキシアルキレン誘導体:下記の出発化合物1モル当たりエチレンオキシドが3〜100モルの割合で付加している化合物、下記の出発化合物1モル当たりエチレンオキシドとプロピレンオキシドが合計で3〜100モルの割合でランダム状に付加している化合物及び下記の出発化合物1モル当たりエチレンオキシドとプロピレンオキシドが合計で3〜100モルの割合でブロック状に付加している化合物から選ばれる少なくとも一つ
出発化合物:炭素数8〜22の脂肪族アルコール、炭素数8〜22の脂肪酸、アルキル基の炭素数8〜22のアルキルフェノール及び炭素数8〜22のモノアルキルアミンから選ばれる少なくとも一つ
【請求項2】
下記の改質無機カチオンコロイドゾルを固形分換算で100質量部に対し、ポリエーテル変性シリコーンを10〜50質量部、下記のポリオキシアルキレン誘導体を2〜30質量部及び数平均分子量1000〜9800のエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマーを45〜75質量部の割合で含有して成ることを特徴とする熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物。
改質無機カチオンコロイドゾル:下記の無機カチオンコロイドゾルの固形分粒子に下記のシラノール化合物の縮合重合物が、無機カチオンコロイドゾルの固形分/シラノール化合物の縮合重合物=100/1〜100/10(質量比)の割合で付着している改質無機カチオンコロイドゾル。
無機カチオンコロイドゾル:カチオンアルミナゾルを固形分換算で20〜100質量%及びカチオンシリカゾルを固形分換算で0〜80質量%(固形分換算で合計100質量%)の割合で含有して成る無機カチオンコロイドゾル
シラノール化合物:トリアルコキシシラン類、ジアルコキシシラン類及びモノアルコキシシラン類から選ばれる少なくとも一つのシラノール形成性有機シラン化合物を加水分解処理したもの。
ポリオキシアルキレン誘導体:下記の出発化合物1モル当たりエチレンオキシドが3〜100モルの割合で付加している化合物、下記の出発化合物1モル当たりエチレンオキシドとプロピレンオキシドが合計で3〜100モルの割合でランダム状に付加している化合物及び下記の出発化合物1モル当たりエチレンオキシドとプロピレンオキシドが合計で3〜100モルの割合でブロック状に付加している化合物から選ばれる少なくとも一つ
出発化合物:炭素数8〜22の脂肪族アルコール、炭素数8〜22の脂肪酸、アルキル基の炭素数8〜22のアルキルフェノール及び炭素数8〜22のモノアルキルアミンから選ばれる少なくとも一つ
【請求項3】
エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマーが、数平均分子量2000〜6000のものである請求項1又は2記載の熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物。
【請求項4】
エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマーが、エチレンオキシドの重合割合が5〜50質量%のものである請求項1〜3のいずれか一つの項記載の熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物。
【請求項5】
エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマーが、エチレンオキシドの重合割合が15〜45質量%のものである請求項1〜3のいずれか一つの項記載の熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物。
【請求項6】
ポリエーテル変性シリコーンが、HLBが4〜16のものである請求項1〜5のいずれか一つの項記載の熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物。
【請求項7】
ポリオキシアルキレン誘導体が、下記の出発化合物1モル当たりエチレンオキシドが5〜50モルの割合で付加している化合物、下記の出発化合物1モル当たりエチレンオキシドとプロピレンオキシドが合計で5〜50モルの割合でランダム状に付加している化合物及び下記の出発化合物1モル当たりエチレンオキシドとプロピレンオキシドが合計で5〜50モルの割合でブロック状に付加している化合物から選ばれる少なくとも一つである請求項1〜6のいずれか一つの項記載の熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物。
出発化合物:炭素数8〜22の脂肪族アルコール及び炭素数8〜22の脂肪酸から選ばれる少なくとも一つ
【請求項8】
下記の第1工程及び下記の第2工程を経ることを特徴とする熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物の製造方法。
第1工程:下記の無機カチオンコロイドゾルの存在下に、該無機カチオンコロイドゾルの固形分100質量部当たり1〜10質量部の割合となる量のシラノール形成性有機シラン化合物を加水分解処理し、更に生成したシラノール化合物を縮合重合させて改質無機カチオンコロイドゾルを得る工程
無機カチオンコロイドゾル:カチオンアルミナゾルを固形分換算で20〜100質量%及びカチオンシリカゾルを固形分換算で0〜80質量%(固形分換算で合計100質量%)の割合で含有して成る無機カチオンコロイドゾル
第2工程:工程1で得た改質無機カチオンコロイドゾルを固形分換算で100質量部に対し、ポリエーテル変性シリコーンを10〜50質量部、下記のポリオキシアルキレン誘導体を2〜30質量部及び数平均分子量1000〜9800のエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマーを45〜75質量部の割合で配合して熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物を得る工程
ポリオキシアルキレン誘導体:下記の出発化合物1モル当たりエチレンオキシドが3〜100モルの割合で付加している化合物、下記の出発化合物1モル当たりエチレンオキシドとプロピレンオキシドが合計で3〜100モルの割合でランダム状に付加している化合物及び下記の出発化合物1モル当たりエチレンオキシドとプロピレンオキシドが合計で3〜100モルの割合でブロック状に付加している化合物から選ばれる少なくとも一つ
出発化合物:炭素数8〜22の脂肪族アルコール、炭素数8〜22の脂肪酸、アルキル基の炭素数8〜22のアルキルフェノール及び炭素数8〜22のモノアルキルアミンから選ばれる少なくとも一つ
【請求項9】
熱可塑性高分子フィルムの表面処理面に、請求項1〜7のいずれか一つの項記載の熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物が固形分として0.1〜2.0g/m2付着していることを特徴とする改質熱可塑性高分子フィルム。
【請求項10】
表面処理がコロナ放電処理であり、処理面のぬれ張力が35mN/m以上である請求項9記載の改質熱可塑性高分子フィルム。
【請求項11】
農業用被覆フィルムである請求項9及び10記載の改質熱可塑性高分子フィルム。
【請求項12】
下記の第1工程及び下記の第2工程を経ることを特徴とする改質熱可塑性高分子フィルムの製造方法。
第1工程:熱可塑性高分子フィルムに表面処理をして、処理面のぬれ張力を35mN/m以上にする工程
第2工程:第1工程で得た熱可塑性高分子フィルムの表面処理面に対し、請求項1〜8のいずれか一つの項記載の熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物を固形分として0.1〜2.0g/m2となるよう塗布する工程
【請求項13】
表面処理がコロナ放電処理であり、処理面のぬれ張力が35mN/m以上である請求項12記載の改質熱可塑性高分子フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用ハウスに用いるフィルムに耐用性を有する流滴性を付与することができる熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物、かかる組成物の製造方法、かかる組成物を用いた改質熱可塑性高分子フィルム及びかかる改質熱可塑性高分子フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用ハウスの被覆材として、熱可塑性高分子フィルムが広く使用されている。しかし、熱可塑性高分子フィルムは疎水性の性質を持つため、曇りを生じて日光の透過を低下すると農作物が生育不良となり、また付着した水滴が落下して病害を発生する等の問題もある。このため、従来から、農業用ハウスに用いるフィルムには防曇剤として非イオン界面活性剤を添加したものや流滴剤としてコロイダルシリカ及びコロイダルアルミナを主成分としたものを付着させたものが提案され、またコーティング工程での塗布性の改善、フィルム表面のべたつき及び展張時の摩擦による流滴性低下を改善したもの等も提案されている(例えば特許文献1〜4参照)。しかし、これら従来の熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物には、乾燥状態と湿潤状態が繰り返される農業用ハウスのフィルムに長期間の使用に耐え得る優れた流滴性を付与する上で不充分という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−298954号公報
【特許文献2】特開昭62−241984号公報
【特許文献3】特開2000−160146号公報
【特許文献4】特許第5963923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、乾燥状態と湿潤状態とが繰り返される場合であっても、展張した初期から優れた流滴性を発揮し、また展張後も長期にわたり優れた流滴性を維持し、更には耐擦傷性にも優れ、塗布したフィルム面にべたつきが極めて少ない熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物、かかる組成物の製造方法、かかる組成物を用いた改質熱可塑性高分子フィルム及びかかる改質熱可塑性高分子フィルムの製造方法を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、特定の無機カチオンコロイドゾル、ポリエーテル変性シリコーン、特定のポリオキシアルキレン誘導体及び特定のエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマーを特定割合で含有して成る熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物が正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、下記の無機カチオンコロイドゾルを固形分換算で100質量部に対し、ポリエーテル変性シリコーンを10〜50質量部、下記のポリオキシアルキレン誘導体を2〜30質量部及び数平均分子量1000〜9800のエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマーを45〜75質量部の割合で含有して成ることを特徴とする熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物に係る。また本発明は、下記の改質無機カチオンコロイドゾルを固形分換算で100質量部に対し、ポリエーテル変性シリコーンを10〜50質量部、下記のポリオキシアルキレン誘導体を2〜30質量部及び数平均分子量1000〜9800のエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマーを45〜75質量部の割合で含有して成ることを特徴とする熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物に係る。更に本発明は、かかる組成物の製造方法、かかる組成物を用いた改質熱可塑性高分子フィルム及びかかる改質熱可塑性高分子フィルムの製造方法に係る。
【0007】
無機カチオンコロイドゾル:カチオンアルミナゾルを固形分換算で20〜100質量%及びカチオンシリカゾルを固形分換算で0〜80質量%(固形分換算で合計100質量%)の割合で含有して成る無機カチオンコロイドゾル。
【0008】
改質無機カチオンコロイドゾル:前記の無機カチオンコロイドゾルの固形分粒子に下記のシラノール化合物の縮合重合物が、無機カチオンコロイドゾルの固形分/シラノール化合物の縮合重合物=100/1〜100/10(質量比)の割合で付着している改質無機カチオンコロイドゾル。
【0009】
シラノール化合物:トリアルコキシシラン類、ジアルコキシシラン類及びモノアルコキシシラン類から選ばれる少なくとも一つのシラノール形成性有機シラン化合物を加水分解処理したもの。
【0010】
ポリオキシアルキレン誘導体:下記の出発化合物1モル当たりエチレンオキシドが3〜100モルの割合で付加している化合物、下記の出発化合物1モル当たりエチレンオキシドとプロピレンオキシドが合計で3〜100モルの割合でランダム状に付加している化合物及び下記の出発化合物1モル当たりエチレンオキシドとプロピレンオキシドが合計で3〜100モルの割合でブロック状に付加している化合物から選ばれる少なくとも一つ。
【0011】
出発化合物:炭素数8〜22の脂肪族アルコール、炭素数8〜22の脂肪酸、アルキル基の炭素数8〜22のアルキルフェノール及び炭素数8〜22のモノアルキルアミンから選ばれる少なくとも一つ。
【0012】
先ず、本発明に係る熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物(以下、本発明の組成物という)について説明する。本発明の組成物は、前記した無機カチオンコロイドゾル又は改質無機カチオンコロイドゾルを固形分換算で100質量部に対し、ポリエーテル変性シリコーンを10〜50質量部、ポリオキシアルキレン誘導体を2〜30質量部及び数平均分子量1000〜9800のエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマーを45〜75質量部の割合で含有して成るものであるが、無機カチオンコロイドゾル又は改質無機カチオンコロイドゾルを固形分換算で100質量部に対し、ポリエーテル変性シリコーンを20〜40質量部、ポリオキシアルキレン誘導体を5〜20質量部及びポリアルキレングリコールを50〜70質量部の割合で含有して成るものがより好ましい。
【0013】
前記の無機カチオンコロイドゾルは、カチオンアルミナゾルを20%以上の割合で含むものであり、任意でカチオンシリカゾルを併用することができる。カチオンアルミナゾルを固形分換算で20〜100質量%及びカチオンシリカゾルを固形分換算で0〜80質量%(固形分換算で合計100質量%)の割合で含有して成るものが好ましく、カチオンアルミナゾルを固形分換算で30〜100質量%及びカチオンシリカゾルを固形分換算で0〜70質量%(固形分換算で合計100質量%)の割合で含有してなるものがより好ましい。
【0014】
かかるカチオンアルミナゾルは、いわゆるコロイダルアルミナであり、水分散液として市販されているものをそのまま使用することができる。そのような市販品として例えば、アルミナゾル100、アルミナゾル200、アルミナゾル520(以上、いずれも日産化学社製の商品名)、カタロイドAS−1、カタロイドAS−2、カタロイドAS−3J(以上、いずれも日揮触媒化成社製の商品名)等が挙げられる。
【0015】
かかるカチオンシリカゾルも、水分散液として市販されているものをそのまま使用することができる。そのような市販品としては例えば、スノーテックスAK、スノーテックスAK−L(以上、いずれも日産化学社製の商品名)、カタロイドSN(日揮触媒化成社製の商品名)、クォートロンPL−3−C(扶桑化学工業社製の商品名)等が挙げられる。
【0016】
かかる無機カチオンゾルの粒子径は、平均粒子径や二次分散径で表され、平均粒子径としては、5〜50nm、二次分散径としては50〜200nmのものを用いることができる。これら粒子径の測定方法としては、透過型電子顕微鏡による観察やBET吸着法による比表面積測定法等が挙げられる
【0017】
本発明の組成物では、以上説明した無機カチオンコロイドゾルに代えて、改質無機カチオンコロイドゾルを用いたものが好ましい。改質無機カチオンコロイドゾルは、シラノール形成性有機シラン化合物を加水分解処理し、更に生成したシラノール化合物を縮合重合させて無機カチオンコロイドゾルに付着させたものである。
【0018】
かかる改質無機カチオンコロイドゾルの固形分粒子(アルミナやシリカのコロイド粒子)の表面に付着しているシラノール化合物の縮合重合物は、シラノール形成性有機シラン化合物を加水分解し、生成したシラノール化合物を縮合重合することにより得ることができる。詳しくは後述するように、前記した無機カチオンコロイドゾルの存在下で、シラノール形成性有機シラン化合物を加水分解し、引き続き生成したシラノール化合物を縮合重合することにより、無機カチオンコロイドゾルの固形分粒子にシラノール化合物の縮合重合物が付着した改質無機カチオンコロイドゾルを得ることができる。
【0019】
かかるシラノール形成性有機シラン化合物としては、1)メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン、γ−クロロプロピルトリプロポキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、2)ジメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のジアルコキシシラン類、3)トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン等のモノアルコキシシラン類等が挙げられる。なかでも、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0020】
かかる改質無機カチオンコロイドゾルは、シラノール化合物の縮合重合物が、無機カチオンコロイドゾルの固形分粒子の表面の全部又は一部を被覆したような形態で付着しており、その一部は無機カチオンコロイドゾルの固形分粒子と化学的に結合しているものと推察される。かかる改質無機カチオンコロイドゾルは、無機カチオンコロイドゾルの固形分粒子にシラノール化合物の縮合重合物が、無機カチオンコロイドゾルの固形分/シラノール化合物の縮合重合物=100/1〜100/10(質量比)の割合で付着しているものが好ましいが、無機カチオンコロイゾゾルの固形分/シラノール化合物の縮合重合物=100/2〜100/8(質量比)の割合で付着しているものがより好ましい。
【0021】
本発明の組成物に供するポリエーテル変性シリコーンとしては、市販されているものをそのまま使用することができる。そのような市販品として例えば、TSF4440、TSF4441、TSF4445、TSF4446、TSF4452、TSF4460(以上、いずれもモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製の商品名)、X22−4952、X−22−4272、KF−6123、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−644、KF−6204、X−22−4515、KF−6004(以上、いずれも信越シリコーン社製の商品名)、SH8700、SH8410、SH8400、L−7002、FZ−2104、FZ−77、L−7604、FZ−2203、FZ−2208(以上、いずれも東レダウコーニング社製の商品名)などがあげられるが、なかでもTSF4440、KF−354L、KF−945、SH8400、KF−6004等、HLBが4〜16のものが好ましい。
【0022】
本発明の組成物に供するポリオキシアルキレン誘導体は、下記の出発物質にエチレンオキシドを付加している化合物及びエチレンオキシドとプロピレンオキシドを併用して付加している化合物であり、エチレンオキシドとプロピレンオキシドを併用して付加している場合はブロック状及びランダム状のどちらの構造としてもよい。また、付加モル数は、下記の出発物質1モルに対し、エチレンオキシドだけを付加している場合は単独で、また、エチレンオキシドとプロピレンオキシドを併用して付加している場合は合計で3〜100モルが好ましく、5〜50モルがより好ましい。
【0023】
出発化合物:炭素数8〜22の脂肪族アルコール、炭素数8〜22の脂肪酸、アルキル基の炭素数8〜22のアルキルフェノール及び炭素数8〜22のモノアルキルアミンから選ばれる少なくとも一つ
【0024】
本発明の組成物に供する出発化合物は、炭素数8〜22の脂肪族アルコール、炭素数8〜22の脂肪酸、アルキル基の炭素数が8〜22のアルキルフェノール又はアルキル基の炭素数が8〜22のモノアルキルアミンから選ばれる少なくとも一つであり、炭素数8〜22の脂肪族アルコールとしては、カプリルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、ペラルゴンアルコール、カプリンアルコール、ウンデシルアルコール、炭素数9〜11の2級アルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、リシリレイルアルコール、ベヘニルアルコール等が挙げられ、炭素数8〜22の脂肪酸としてはカプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、エイコサン酸、ベヘン酸等が挙げられ、アルキル基の炭素数が8〜22のアルキルフェノールとしては、オクチルフェノール、ノニルフェノール、デシルフェノール、ドデシルフェノール、オクタデシルフェノール等が挙げられ、アルキル基の炭素数が8〜22のモノアルキルアミンとしては、カプリルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、トリデシルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベヘニルアミン等が挙げられるが、なかでも、炭素数8〜22の脂肪族アルコール及び炭素数8〜22の脂肪酸がより好ましい。
【0025】
本発明の組成物に供するポリオキシアルキレン誘導体としては、以上説明したとおりであるが、具体的には、炭素数8〜22の脂肪族アルコールのエチレンオキシド付加体としては、カプリルアルコールエチレンオキシド5モル付加体、2−エチルヘキシルアルコールエチレンオキシド100モル付加体、ペラルゴンアルコールエチレンオキシド5モル付加体、ウンデシルアルコールエチレンオキシド30モル付加体、炭素数9〜11の2級アルコールエチレンオキシド9モル付加体、ラウリルアルコールエチレンオキシド10モル付加体、パルミチルアルコールエチレンオキシド50モル付加体、ステアリルアルコールエチレンオキシド20モル付加体、イソステアリルアルコールエチレンオキシド20モル付加体、オレイルアルコールエチレンオキシド14モル付加体、ベヘニルアルコールエチレンオキシド24モル付加体等が挙げられ、炭素数8〜22の脂肪族アルコールのエチレンオキシドとプロピレンオキシドを併用する付加体としては、カプリルアルコールエチレンオキシド10モルプロプレンオキシド10モルランダム付加体、2−エチルヘキシルアルコールプロピレンオキシド30モルエチレンオキシド30モル付加体、カプリンアルコールエチレンオキシド30モルプロピレンオキシド20モルランダム付加体、ラウリルアルコールエチレンオキシド9モルプロピレンオキシド9モルランダム付加体、トリデシルアルコールエチレンオキシド10モルプロピレンオキシド10モルランダム付加体、炭素数12〜13の脂肪族混合アルコールのエチレンオキシド10モルプロピレンオキシド10モルランダム付加体、ミリスチルアルコールプロピレンオキシド13モルエチレンオキシド10モルブロック付加体、テトラデシルアルコールプロピレンオキシド13モルエチレンオキシド11モルブロック付加体、ペンタデシルアルコールプロピレンオキシド13モルエチレンオキシド10モルブロック付加体、炭素数14〜15の脂肪族混合アルコールのプロピレンオキシド13モルエチレンオキシド11モルブロック付加体等が挙げられ、炭素数8〜22の脂肪酸のエチレンオキシド付加体としては、カプリル酸エチレンオキシド10モル付加体、ラウリン酸エチレンオキシド12モル付加体、パルミチン酸エチレンオキシド5モル付加体、ステアリン酸エチレンオキシド13モル付加体、オレイン酸エチレンオキシド13モル付加体等が挙げられ、炭素数8〜22の脂肪酸のエチレンオキシドとプロピレンオキシドを併用する付加体としては、カプリル酸エチレンオキシド10モルプロプレンオキシド10モルランダム付加体、カプリン酸エチレンオキシド40モルプロピレンオキシド10モルランダム付加体、ラウリン酸エチレンオキシド10モルプロピレンオキシド10モルランダム付加体、ミリスチン酸プロピレンオキシド13モルエチレンオキシド10モルブロック付加体、ペンタデカン酸プロピレンオキシド13モルエチレンオキシド10モルブロック付加体、オレイン酸プロピレンオキシド24モルエチレンオキシド24モルブロック付加体、ベヘン酸エチレンオキシド10プロピレンオキシド10モルランダム付加体等が挙げられ、アルキル基の炭素数が8〜22のアルキルフェノールのエチレンオキシド付加体としては、オクチルフェノールエチレンオキシド3モル付加体、ノニルフェノールエチレンオキシド10モル付加体、デシルフェノールエチレンオキシド12モル付加体、ドデシルフェノールエチレンオキシド100モル付加体等が挙げられ、アルキル基の炭素数が8〜22のアルキルフェノールのエチレンオキシドとプロピレンオキシドを併用する付加体としては、オクチルフェノールエチレンオキシド50モルプロピレンオキシド10モルランダム付加体、ノニルフェノールプロピレンオキシド10モルエチレンオキシド35モルランダム付加体、デシルフェノールプロピレンオキシド3モルエチレンオキシド10モルブロックブロック付加体、オクタデシルフェノールプロピレンオキシド10モルエチレンオキシド80モルランダム付加体等が挙げられ、アルキル基の炭素数が8〜22のモノアルキルアミンのエチレンオキシド付加体としては、カプリルアミンエチレンオキシド4モル付加体、ラウリルアミンエチレンオキシド10モル付加体、ミリスチルアミンエチレンオキシド20モル付加体、ステアリルアミンエチレンオキシド45モル付加体等が挙げられ、アルキル基の炭素数が8〜22のモノアルキルアミンのエチレンオキシドとプロピレンオキシドを併用する付加体としては、カプリルアミンエチレンオキシド20モルプロピレンオキシド10モルランダム付加体、ラウリルアミンエチレンオキシド10モルプロピレンオキシド10モルランダム付加体、パルミチルアミンプロピレンオキシド10モルエチレンオキシド20モルブロック付加体、ステアリルアミンプロピレンオキシド20モルエチレンオキシド60モルブロック付加体、ベヘニルアミンエチレンオキシド20モルプロピレンオキシド5モルブロック付加体等が挙げられる。なかでも、炭素数8〜22の脂肪族アルコールのエチレンオキシド付加体、炭素数8〜22の脂肪族アルコールのエチレンオキシドとプロピレンオキシドを併用する付加体、炭素数8〜22の脂肪酸のエチレンオキシド付加体及び炭素数8〜22の脂肪酸のエチレンオキシドとプロピレンオキシドを併用する付加体で、且つ、出発物質1モルに対し、エチレンオキシドを5〜50モル付加しているもの及びエチレンオキシドとプロピレンオキシドを合計で5〜50モル付加しているものが好ましく、炭素数12〜13の脂肪族混合アルコールエチレンオキシド10モルプロピレンオキシド10モルランダム付加体、ラウリルアルコールエチレンオキシド10モル付加体、炭素数9〜11の脂肪族混合2級アルコールエチレンオキシド9モル付加体、オレイルアルコールエチレンオキシド14モル付加体、ステアリルアルコールエチレンオキシド20モル付加体、炭素数14〜15の脂肪族混合アルコールプロピレンオキシド13モルエチレンオキシド11モルブロック付加体、カプリル酸エチレンオキシド10モル付加体、ラウリン酸エチレンオキシド12モル付加体、ステアリン酸エチレンオキシド13モル付加体、ベヘニルアルコールエチレンオキシド24モル付加体、ラウリルアルコールエチレンオキシド9モルプロピレンオキシド9モルランダム付加体、オレイン酸プロピレンオキシド24モルエチレンオキシド24モル付加体、オレイン酸エチレンオキシド13モル付加体、ラウリルアルコールエチレンオキシド5モル付加体等が挙げられる。
【0026】
本発明の組成物に供するエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマーは、数平均分子量1000〜9800のものであるが、なかでも数平均分子量2000〜6000のものが好ましい。またエチレンオキシドの重合割合が5〜50質量%のものが好ましく、更には15〜45質量%のものがより好ましい。エチレンオキシド及びプロピレンオキシドの結合様式としては、エチレンオキシドから形成された単位のブロック−プロピレンオキシドから形成された単位のブロック、プロピレンオキシドから形成された単位のブロック−エチレンオキシドから形成された単位のブロック、エチレンオキシドから形成された単位のブロック−プロピレンオキシドから形成された単位のブロック−エチレンオキシドから形成された単位のブロック(以下、E−P−E型という)、プロピレンオキシドから形成された単位のブロック−エチレンオキシドから形成された単位のブロック−プロピレンオキシドから形成された単位のブロック(以下、P−E−P型という)等が挙げられるが、E−P−E型が好ましい。数平均分子量は水酸基価より算出することができ、水酸基価はJIS K0070に記載の方法により求めることができる。
【0027】
次に、本発明に係る熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物の製造方法(以下、本発明の組成物の製造方法という)について説明する。本発明の組成物の製造方法は、下記の第1工程及び第2工程を経る製造方法である。
【0028】
第1工程:下記の無機カチオンコロイドゾルの存在下に、シラノール形成性有機シラン化合物を加水分解処理し、更に生成したシラノール化合物を縮合重合させて該無機カチオンコロイドゾルの固形分100質量部当たり1〜10質量部の割合となる量で付着させて改質無機カチオンコロイドゾルを得る工程
無機カチオンコロイドゾル:カチオンアルミナゾルを固形分換算で20〜100質量%及びカチオンシリカゾルを固形分換算で0〜80質量%(固形分換算で合計100質量%)の割合で含有して成る無機カチオンコロイドゾル
【0029】
第2工程:工程1で得た改質無機カチオンコロイドゾルを固形分換算で100質量部に対し、ポリエーテル変性シリコーンを10〜50質量部、ポリオキシアルキレン誘導体を2〜30質量部及び数平均分子量1000〜9800のエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマーを45〜75質量部の割合で配合して熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物を得る工程
【0030】
本発明の組成物の製造方法において、第1工程で用いる無機カチオンコロイドゾル及びシラノール形成性有機シラン化合物については、無機カチオンコロイドゾルとシラノール化合物の縮合重合物の割合も含め、前記したことと同様であり、また第2工程で用いるポリエーテル変性シリコーン、ポリオキシアルキレン誘導体及びポリアルキレングリコールについては、これらの割合も含めて、前記した通りである。
【0031】
次に、本発明に係る改質熱可塑性高分子フィルム(以下、本発明のフィルムという)について説明する。本発明のフィルムは、熱可塑性高分子フィルムの表面処理面に、前記した本発明の組成物が固形分として0.1〜2.0g/m
2付着しているものである。
【0032】
本発明のフィルムは、本発明の組成物を塗布することとなる熱可塑性高分子フィルムの面に表面処理をした後、本発明の組成物を塗布したものである。表面処理としては、コロナ放電処理、大気圧プラズマ処理、火炎処理等、公知の方法が挙げられるが、コロナ放電処理が好ましい。表面処理した面のぬれ張力は35mN/m以上とするのが好ましく、35〜70mN/mとするのがより好ましい。本発明において、ぬれ張力は、JIS−K6768の記載に準じて測定される値である。
【0033】
本発明のフィルムに供する熱可塑性樹脂としては、1)ポリオレフィン系樹脂、2)ポリ塩化ビニル系樹脂、3)ポリエステル系樹脂等が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のα−オレフィンの単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン・1−ヘキセン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体等のα−オレフィンの共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・酢酸ビニル・メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー樹脂等α−オレフィンを主成分とする異種単量体との共重合体が挙げられ、ポリ塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・エチレン共重合体、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・メチルメタクリレート共重合体、ポリ塩化ビニリデン等が挙げられ、ポリエステル系樹脂としてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレナフタレート等が挙げられ、複数種類の樹脂をブレンドして使用してもよい。なかでも、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。かかるポリオレフィン系樹脂におけるα−オレフィン共重合体は、いずれも公知の高活性チーグラー触媒、メタロセン触媒等の均一系触媒を用い、気相法、溶液重合法等によって得られるものがより好ましく、密度が0.86〜0.94g/cm
3、MFRが0.01〜20g/10分であるものが特に好ましい。ポリオレフィン系樹脂は、二つ以上のポリオレフィン系樹脂を混合して用いることもできる。これらの熱可塑性樹脂には、通常使用される酸化防止剤、耐候剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、防霧剤、保温剤、顔料等を必要に応じて含有することができる。
【0034】
本発明のフィルムに供する熱可塑性高分子フィルムの製造方法としては、特に制限はなく、例えば、インフレーション成形法、Tダイ成形法等が挙げられる。フィルムは単層フィルムでも多層フィルムでもよく、また、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよい。農業用フィルムとしては、インフレーション成形により成形された前記ポリオレフィン系樹脂からなる熱可塑性高分子フィルムが好適である。
【0035】
本発明のフィルムの用途に特に制限はないが、農業用被覆フィルムに用いる場合に、効果の発現が著しい。
【0036】
最後に、本発明に係る改質熱可塑性高分子フィルムの製造方法(以下、本発明のフィルムの製造方法という)について説明する。本発明のフィルムの製造方法は、下記の第1工程及び下記の第2工程を経る製造方法である。
【0037】
第1工程:熱可塑性高分子フィルムに表面処理をして、処理面のぬれ張力を35mN/m以上にする工程
【0038】
第2工程:第1工程で得た熱可塑性高分子フィルムの表面処理面に対し、前記した本発明の組成物を固形分として0.1〜2.0g/m
2となるよう塗布する工程
【0039】
本発明のフィルムの製造方法において、熱可塑性高分子フィルムについては前記した通りである。第1工程は、熱可塑性高分子フィルムに表面処理をして、処理面のぬれ張力を35mN/m以上にする工程であるが、ぬれ張力を35〜70mN/mの範囲内にすることが効果が発現しやすく好ましい。表面処理としてはコロナ放電処理、大気圧プラズマ処理、火炎処理等、公知の方法で行う事ができるが、コロナ放電処理が好ましい。本発明において、ぬれ張力は、JIS−K6768の記載に準じて測定される値である。
【0040】
また第2工程は、第1工程で得た熱可塑性高分子フィルムの表面処理面に対し、前記した本発明の組成物を固形分として0.1〜2.0g/m
2となるよう塗布する工程である。本発明の組成物を熱可塑性高分子フィルムに塗布するには、公知の塗布法を用いることができる。これには例えば、スプレーコート法、浸漬コート法、ロールコート法、ドクターブレードコート法、ワイヤーバーコート法、エアナイフコート法等が挙げられる。
【発明の効果】
【0041】
以上説明した本発明によると、乾燥と湿潤状態を繰り返しながら使用された場合でも、展張した初期から優れた流滴性を発揮し、展張後も長期にわたり優れた流滴性を維持し、更には耐擦傷性にも優れ、塗布したフィルム面にべたつきが極めて少ないという効果がある。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0043】
試験区分1(熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物の調製)
・実施例1
水331.3部、カチオンアルミナゾル(X1−1)740.7部(固形分13.5%)を混合して無機カチオンコロイドゾルを調製した。この無機カチオンコロイドゾルにシラノール形成性有機シラン化合物(Y−1)8部を混合して固形分濃度10%の混合液を調製し、50℃で5時間撹拌してシラノール形成性有機シラン化合物(Y−1)を加水分解処理し、更に生成したシラノール化合物を縮合重合させて改質無機カチオンコロイドゾル(A−1)を得た。この改質無機カチオンコロイドゾル(A−1)は、前記の無機カチオンコロイドゾルの固形分粒子にシラノール化合物の縮合重合物が付着しているものであった。次いで、この改質無機カチオンコロイドゾル(A−1)の固形分換算で100部に、水8900部、ポリエーテル変性シリコーン(B−1)30部、ポリオキシアルキレン誘導体(C−1)10部及びエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマー(D−1)60部を加えて撹拌し、固形分濃度2%の熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物(S−1)を得た。
【0044】
・実施例2〜37及び比較例1〜19
実施例1の場合と同様にして、(改質)無機カチオンコロイドゾル(A−2)〜(A−13)及び(ar−1)〜(ar−3)を調製し、更に実施例2〜37及び比較例1〜19の熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物(S−2)〜(S−37)及び(sr−1)〜(sr−19)を得た。以上の各例で調製した(改質)無機カチオンコロイドゾルの内容を表1にまとめて示し、また以上の各例で得た熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物の内容を表2及び表3にまとめて示した。
【0045】
【表1】
【0046】
表1において、
X1−1:粒子径7〜15nmの羽毛状結晶型アルミナゾル
X1−2:二次分散径100〜150nmの繊維状結晶型アルミナゾル
X1−3:粒子径15〜30nmの板状結晶型アルミナゾル
X2−1:粒子径10〜15nmのアルミナ変性シリカゾル
X2−2:粒子径10〜14nmのアルミナ変性シリカゾル
X2−3:粒子径30〜40nmのアルミナ変性シリカゾル
Y−1:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
Y−2:γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン
Y−3:メチルトリエトキシシラン
Y−4:γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
Y−5:γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン
Y−6:トリメチルメトキシシラン
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
表2及び表3において、
A−1〜A−13,ar−1〜ar−3:表1に記載の(改質)無機カチオンコロイドゾル
B−1:ポリエーテル変性シリコーン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製の商品名TSF4440、HLB=14)
B−2:ポリエーテル変性シリコーン(信越シリコーン社製の商品名KF−354L、HLB=16)
B−3:ポリエーテル変性シリコーン(信越シリコーン社製の商品名KF−945、HLB=4)
B−4:ポリエーテル変性シリコーン(東レダウコーニング社製の商品名SH8400、HLB=8)
B−5:ポリエーテル変性シリコーン(信越シリコーン社製の商品名KF−6004、HLB=9)
BR−1:ポリジメチルシリコーン(信越シリコーン社製の商品名KF−96)
BR−2:長鎖アルキル変性シリコーン(信越シリコーン社製の商品名KF−412)
【0050】
C−1:炭素数12〜13の脂肪族混合アルコールのエチレンオキシド10モルプロピレンオキシド10モルランダム付加体
C−2:ラウリルアルコールのエチレンオキシド10モル付加体
C−3:炭素数9〜11の脂肪族混合2級アルコールのエチレンオキシド9モル付加体
C−4:オレイルアルコールのエチレンオキシド14モル付加体
C−5:ステアリルアルコールのエチレンオキシド20モル付加体
C−6:炭素数14〜15の脂肪族混合アルコールのプロピレンオキシド13モルエチレンオキシド11モルブロック付加体
C−7:カプリル酸のエチレンオキシド10モル付加体
C−8:ラウリン酸のエチレンオキシド12モル付加体
C−9:ステアリン酸のエチレンオキシド13モル付加体
C−10:ベヘニルアルコールのエチレンオキシド24モル付加体
C−11:ラウリルアルコールのエチレンオキシド9モルプロピレンオキシド9モルランダム付加体
C−12:オレイン酸のプロピレンオキシド24モルエチレンオキシド24モルブロック付加体
C−13:オレイン酸のエチレンオキシド13モル付加体
C−14:ラウリルアルコールエチレンオキシド5モル付加体
C−15:カプリルアミンエチレンオキシド4モル付加体
C−16:ノニルフェノールエチレンオキシド10モル付加体
C−17:2−エチルヘキシルアルコールエチレンオキシド100モル付加体
CR−1:メタノール
CR−2:エチレングリコール
【0051】
D−1:エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマー(E−P−E型、エチレンオキシドの重合割合が20%、数平均分子量2200)
D−2:エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマー(E−P−E型、エチレンオキシドの重合割合が30%、数平均分子量5000)
D−3:エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマー(E−P−E型、エチレンオキシドの重合割合が17%、数平均分子量5000)
D−4:エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマー(E−P−E型、エチレンオキシドの重合割合が34%、数平均分子量2900)
D−5:エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマー(E−P−E型、エチレンオキシドの重合割合が15%、数平均分子量6000)
D−6:エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマー(E−P−E型、エチレンオキシドの重合割合が45%、数平均分子量2000)
D−7:エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマー(E−P−E型、エチレンオキシドの重合割合が5%、数平均分子量1000)
D−8:エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマー(E−P−E型、エチレンオキシドの重合割合が50%、数平均分子量9500)
DR−1:ポリエチレングリコール(三洋化成工業社製の商品名PEG−400、数平均分子量400)
DR−2:ポリエチレングリコール(明成化学工業社製の商品名アルコックスR−150、数平均分子量150000)
DR−3:ポリエチレングリコール(三洋化成工業社製の商品名PEG−10000、数平均分子量11000)
DR−4:エチレンオキシド−プロピレンオキシドランダム重合ポリマー(エチレンオキシドの重合割合が50%、数平均分子量3500)
DR−5:エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマー(E−P−E型、エチレンオキシドの重合割合が25%、数平均分子量700)
DR−6:エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマー(E−P−E型、エチレンオキシドの重合割合が83%、数平均分子量14600)
【0052】
試験区分2(改質熱可塑性高分子フィルムの製造)
実施例38
エチレン・1−ブテン共重合体(エチレン共重合比率96%、密度0.930g/cm
3、MFR1.0g/10分)を、直径75mmでリップ間隙3mmのダイを取り付けたインフレーション成形機に供し、樹脂押し出し温度200℃及びBUR=1.8の条件下でインフレーション成形を行ない、厚さ150μmのオレフィン重合体フィルムを作製した。次いで、このオレフィン重合体フィルムにコロナ処理放電を施し、コロナ放電処理面のぬれ張力を44mN/mとした後、かかるコロナ放電処理面に試験区分1で調製した熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物(S−1)を固形分として0.3g/m
2となるようグラビアコート法により塗布し、70℃に温調した温風乾燥炉に1分間滞留させて、各例の改質熱可塑性高分子フィルムを得た。
【0053】
・実施例39〜74及び比較例20〜38
実施例38の場合と同様にして、実施例39〜74及び比較例20〜38の改質熱可塑性高分子フィルムを得た。以上の各例で製造した改質熱可塑性高分子フィルムの内容を表4及び表5にまとめて示した。
【0054】
試験区分3(改質熱可塑性高分子フィルムの評価)
・初期流滴性及び長期流滴性の評価
試験区分2で製造した各例の改質熱可塑性高分子フィルムを、ハウスの内温30℃でハウスの外温10℃に調節した15度の傾斜面を有するテストハウスに1m
2張り、初期(1日後)及び長期(30日後)に水滴付着状況を観察し、水滴防止効果すなわち流滴性を以下の基準で評価した。結果を表4及び表5にまとめて示した。
【0055】
流滴性の評価基準
5:水滴の付着無し
4:水滴の付着面積が10%未満
3:水滴の付着面積が10%以上〜50%未満
2:水滴の付着面積が50%以上〜80%未満
1:水滴の付着面積が80%以上
【0056】
・繰り返し流滴性の評価
試験区分2で製造した各例の改質熱可塑性高分子フィルムを、水を入れた水槽の上部に、水温10℃で外温30℃に調節した条件下、15度の傾斜で24時間張って湿潤状態とし、その後取り外して24時間乾燥した後、再度水槽の上部に前記と同様に張った。これを10回繰り返した後の水滴付着状況を確認し、流滴性を初期流滴性及び長期流滴性と同様の基準で評価した。
【0057】
・耐擦傷性の評価
摩擦試験機(大栄科学精機製作所社製の学振型染色堅牢度試験機)のアームの摩擦面にビニールテープを貼って300gの荷重をかけ、試験区分2で製造した各例の改質熱可塑性高分子フィルムの塗布面100cm
2に10往復摩擦させた後、摩擦させた部分に湯気を当て、水滴が付着して生じる曇部分により、塗膜の剥離程度を観察し、塗膜の耐剥離強度すなわち耐擦傷性を以下の基準で評価した。結果を表4及び表5にまとめて示した。
【0058】
耐擦傷性の評価基準
5:塗膜の剥がれ無し
4:塗膜の剥がれ面積が10%未満
3:塗膜の剥がれ面積が10%以上〜50%未満
2:塗膜の剥がれ面積が50%以上〜80%未満
1:塗膜の剥がれ面積が80%以上
【0059】
・べたつきの評価
試験区分2で製造した各例の改質熱可塑性高分子フィルムから20cm×20cmの正方形の試料片を2枚切り出し、この試料片の塗布面同士を重ね、荷重1kg/m
2を均等にかけて、50℃にて24時間保持した後、重ねた状態のフィルムを10mm×10mmの正方形に切断して試験片とし、この試験片について双方のフィルム間の剥離力すなわちべたつきを以下の基準で評価した。結果を表4及び表5にまとめて示した。
【0060】
べたつき評価基準
5:剥離力が50mN/10mm未満
4:剥離力が50mN/10mm以上〜100mN/10mm未満
3:剥離力が100mN/10mm以上〜150cmN/10mm未満
2:剥離力が150mN/10mm以上〜200mN/10mm未満
1:剥離力が200mN/10mm以上
【0061】
・液安定性の評価
試験区分1で調製した各例の熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物を、密閉容器中にて、室温20℃で静置保管した際の分離の状況を観察し、分離するまでの時間により液安定性を以下の基準で評価した。結果を表4及び表5にまとめて示した。
【0062】
液安定性の評価基準
5:24時間以上分離無し
4:12時間以上〜24時間未満分離無し
3:6時間以上〜12時間未満分離無し
2:2時間以上〜6時間未満分離無し
1:2時間未満に分離
【0063】
・塗布性の評価
試験区分2で製造した各例の改質熱可塑性高分子フィルムの塗布面の状態を観察し、以下の基準で塗布性を評価した。結果を表4及び表5にまとめて示した。
【0064】
塗布性の評価基準
5:むら、はじきが発生していない
4:一部にむらが発生している
3:全体にむらが発生している
2:一部にはじきが発生している
1:全体にはじきが発生している
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
表1〜表3に対応する表4及び表5の結果からも明らかなように、本発明の組成物を塗布すると、乾燥と湿潤状態を繰り返しながら使用された場合でも、展張した初期から優れた流滴性を発揮し、展張後も長期にわたり優れた流滴性を維持し、更には耐擦傷性にも優れ、塗布したフィルム面にべたつきが極めて少ないことがわかる。
【要約】
【課題】乾燥状態と湿潤状態とが繰り返される場合であっても、展張した初期から優れた流滴性を発揮し、また展張後も長期にわたり優れた流滴性を維持し、更には耐擦傷性にも優れ、塗布したフィルム面にべたつきが極めて少ない熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物、かかる組成物の製造方法、かかる組成物を用いた改質熱可塑性高分子フィルム及びかかる改質熱可塑性高分子フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性高分子フィルムコーティング用組成物として、特定の(改質)無機カチオンコロイドゾル、ポリエーテル変性シリコーン、特定のポリオキシアルキレン誘導体及び特定のエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック重合ポリマーを特定割合で含有して成るものを用いた。
【選択図】なし