特許第6368093号(P6368093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

特許6368093グリーン積層体、グリーン積層体の製造方法、及び、焼成積層体の製造方法
<>
  • 特許6368093-グリーン積層体、グリーン積層体の製造方法、及び、焼成積層体の製造方法 図000003
  • 特許6368093-グリーン積層体、グリーン積層体の製造方法、及び、焼成積層体の製造方法 図000004
  • 特許6368093-グリーン積層体、グリーン積層体の製造方法、及び、焼成積層体の製造方法 図000005
  • 特許6368093-グリーン積層体、グリーン積層体の製造方法、及び、焼成積層体の製造方法 図000006
  • 特許6368093-グリーン積層体、グリーン積層体の製造方法、及び、焼成積層体の製造方法 図000007
  • 特許6368093-グリーン積層体、グリーン積層体の製造方法、及び、焼成積層体の製造方法 図000008
  • 特許6368093-グリーン積層体、グリーン積層体の製造方法、及び、焼成積層体の製造方法 図000009
  • 特許6368093-グリーン積層体、グリーン積層体の製造方法、及び、焼成積層体の製造方法 図000010
  • 特許6368093-グリーン積層体、グリーン積層体の製造方法、及び、焼成積層体の製造方法 図000011
  • 特許6368093-グリーン積層体、グリーン積層体の製造方法、及び、焼成積層体の製造方法 図000012
  • 特許6368093-グリーン積層体、グリーン積層体の製造方法、及び、焼成積層体の製造方法 図000013
  • 特許6368093-グリーン積層体、グリーン積層体の製造方法、及び、焼成積層体の製造方法 図000014
  • 特許6368093-グリーン積層体、グリーン積層体の製造方法、及び、焼成積層体の製造方法 図000015
  • 特許6368093-グリーン積層体、グリーン積層体の製造方法、及び、焼成積層体の製造方法 図000016
  • 特許6368093-グリーン積層体、グリーン積層体の製造方法、及び、焼成積層体の製造方法 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368093
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】グリーン積層体、グリーン積層体の製造方法、及び、焼成積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/632 20060101AFI20180723BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20180723BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20180723BHJP
【FI】
   C04B35/632
   H01B3/12 309
   H01B3/12 338
   H01B3/12 339
   H01B3/12 333
   H01B3/12 323
   H01B3/12 324
   H01G13/00 391E
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-5113(P2014-5113)
(22)【出願日】2014年1月15日
(65)【公開番号】特開2015-131749(P2015-131749A)
(43)【公開日】2015年7月23日
【審査請求日】2016年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 聡子
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 邦彦
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−082437(JP,A)
【文献】 特開2011−202139(JP,A)
【文献】 特開2004−090868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
H01B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状で、外に凸の曲面である側端面を有する基板と、
前記基板の前記側端面上に接着・積層されたグリーンシートと、
を含み、
前記グリーンシートは、第1無機粉体、及びガラス転移点が20℃以上48℃以下の物質を含むバインダ、を含んで構成され、前記グリーンシート全体に対して前記バインダが占める体積割合が20体積%以上60体積%以下である、常温で粘着性を有するグリーンシートであり、
前記グリーンシートの厚さをt(μm)とし、前記基板の前記側端面の曲率半径をR(μm)とし、前記バインダのガラス転移点をTg(ケルビン)としたとき、2.9・(R/Tg)≦t≦225・(R/Tg)の関係が成立し、
前記バインダは、重量平均分子量が8000以上100万以下のアクリル系バインダである、グリーン積層体。
【請求項2】
請求項1に記載のグリーン積層体において、
前記グリーンシートの厚さが100μm以上1000μm以下である、グリーン積層体。
【請求項3】
基板と、前記基板の上に接着・積層されたグリーンシートと、を備えたグリーン積層体の製造方法であって、
前記基板として、平板状で、外に凸の曲面である側端面を有する基板を用い、
第1無機粉体、分散媒、及びガラス転移点が20℃以上48℃以下の物質を含む重量平均分子量が8000以上100万以下のアクリル系のバインダ、を含むスラリーを成形・固化して、前記グリーンシート全体に対して前記バインダが占める体積割合が20体積%以上60体積%以下である、常温で粘着性を有する前記グリーンシートを作成し、
前記作成された粘着性を有するグリーンシートを、常温で、前記基板の前記側端面上に接着・積層することによって、前記グリーンシートの厚さをt(μm)とし、前記基板の前記側端面の曲率半径をR(μm)とし、前記バインダのガラス転移点をTg(ケルビン)としたとき、2.9・(R/Tg)≦t≦225・(R/Tg)の関係が成立する前記グリーン積層体を得る、グリーン積層体の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のグリーン積層体の製造方法において、
前記グリーンシートの厚さが100μm以上1000μm以下である、グリーン積層体の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の製造方法を用いて、第2無機粉体を含む緻密な焼成体である前記基板の上に前記粘着性を有するグリーンシートを常温で接着・積層してグリーン積層体を作成し、
前記作成されたグリーン積層体を焼成することによって、前記第2無機粉体を含む緻密な焼成体の上に前記第1無機粉体を含む多孔質の焼成体が積層された焼成積層体を得る、焼成積層体の製造方法。
【請求項6】
請求項に記載の焼成積層体の製造方法において、
前記第1無機粉体を含む多孔質の焼成体の気孔率が30体積%以上60体積%以下であり、
前記第2無機粉体を含む緻密な焼成体の気孔率が10体積%以下である、
焼成積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項又は請求項に記載の焼成積層体の製造方法において、
前記第1無機粉体は、第1セラミックス粉体であり、
前記第2無機粉体は、前記第1セラミックス粉体とは組成又は微構造が異なる第2セラミックス粉体である、焼成積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリーンシート、グリーン積層体、グリーン積層体の製造方法、及び、焼成積層体の製造方法に関する。本明細書において、「グリーン」とは、焼成前の状態を指す。
【背景技術】
【0002】
従来より、「無機粉体、分散媒、及びバインダを含むスラリーを成形・固化してグリーンシート(グリーンテープ)を作成し、前記作成されたグリーンシートを基板の上に接着・積層してグリーン積層体を得て、前記得られたグリーン積層体を焼成して焼成積層体を得る」方法、が広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
上記文献には、基板の上にグリーンシートを積層するにあたり、そのグリーンシートを基板の上に接着(固定)するために、粘着性を有する(自着性の)グリーンシートを使用することを提案している。これにより、接着剤等を利用することなく、グリーンシートを基板の上に接着(固定)することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3498308号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明者は、比較的厚い(例えば、厚さが100μm以上1000μm以下の)グリーンシートを基板の上に接着・積層するため、「常温で粘着性を有する(自着性の)グリーンシートを作成し、このグリーンシートを基板の上に常温で接着・積層すること」を検討している。
【0006】
この「常温で粘着性を有するグリーンシート」には、「人間が手で扱い易いこと(所謂「ハンドリング性」が良いこと)」、「基板に対する十分な接着力が常温で備わっていること」、及び、「後の焼成時に確実に焼き締まること」が少なくとも要求される。本発明者は、種々の研究・実験を重ねた結果、上記要求を満足し得るグリーン積層体の製造方法を見出した。なお、「確実に焼き締まる」とは、具体的には、焼成後において、粉体同士の接触に起因する「ネック形成」又は「粒成長」が生じることによって焼成体の形状が保持されること、を指す。
【0007】
本発明に係るグリーン積層体の製造方法は、「第1無機粉体、分散媒、及びバインダを含むスラリーを成形・固化して、常温で粘着性を有する前記グリーンシートを作成し、前記作成された粘着性を有するグリーンシートを、常温で、前記基板の上に接着・積層することによって前記グリーン積層体を得る」方法である。第1無機粉体は、典型的にはセラミックス粉体であるが、金属粉体であっても、「セラミックス粉体と金属粉体との混合粉体」であってもよい。
【0008】
この製造方法の特徴は、前記バインダが、ガラス転移点が20℃以上48℃以下の物質を含み、且つ、前記グリーンシート全体(第1無機粉体、分散媒、バインダ、及び、気孔を含む)に対して前記バインダが占める体積割合(以下、「バインダの体積割合」と呼ぶ)が(乾燥状態で)20体積%以上60体積%以下であることにある。前記グリーンシートの厚さは、(乾燥状態で)100μm以上1000μm以下であることが好適であり、前記バインダの重量平均分子量は、8000以上100万以下であることが好ましい。なお、本明細書にて「気孔」とは、焼成前(グリーン体)か焼成後(焼成体)かにかかわらず、物体内に存在する空間を指す。
【0009】
本発明者は、上記要求を満足するために、バインダのガラス転移点と、バインダの体積割合に着目した。そして、本発明者は、前記バインダのガラス転移点が20℃以上48℃以下であり、且つ、バインダの体積割合が(乾燥状態で)20体積%以上60体積%以下であると、上記要求が満足され得ることを見出した(詳細は後述する)。
【0010】
上記本発明に係る製造方法を用いて、前記粘着性を有するグリーンシートを「第2無機粉体を含む基板」の上に常温で接着・積層することによって、グリーン積層体が得られる。ここで、前記基板は、グリーン体であっても焼成体であってもよい。前記基板の全体が多孔質であっても緻密質であってもよい。また、前記基板の一部のみ構造が異なっていてもよい。具体的には、例えば、前記基板の表面が緻密質で、前記基板の内部が多孔質であってもよい。
【0011】
前記基板が「前記第2無機粉体を含む緻密な焼成体」である場合、前記グリーン積層体を焼成することによって、「前記第2無機粉体を含む緻密な焼成体」の上に「前記第1無機粉体を含む多孔質の焼成膜」が積層された焼成積層体を得ることができる。この場合、「前記第1無機粉体を含む多孔質の焼成膜」の気孔率が30体積%以上60体積%以下であり、「前記第2無機粉体を含む緻密な焼成体」の気孔率が10体積%以下であることが好適である。なお、前記第2無機粉体も、前記第1無機粉体と同様、典型的にはセラミックス粉体であるが、金属粉体であってもよい。また、第2無機粉体は、第1無機粉体と組成及び微構造が同じであっても、第1無機粉体とは組成又は微構造が異なっていてもよい。
【0012】
上記本発明に係るグリーン積層体の製造方法に使用されるグリーンシートは、「第1無機粉体、及びバインダ、を含んで構成されたグリーンシートであって、前記バインダは、ガラス転移点が20℃以上48℃以下の物質を含み、前記グリーンシート全体に対して前記バインダが占める体積割合が20体積%以上60体積%以下である、常温で粘着性を有するグリーンシート」と記載することができる。
【0013】
ところで、一般に、グリーンシートが基板の平面上に接着・積層される場合と比べて、グリーンシートが基板の曲面上に接着・積層される場合、焼成後にて、「グリーンシートの焼成によって得られた焼成膜」にクラック及び剥離が生じ易い。基板の曲面の曲率半径に対してグリーンシート(焼成膜の前躯体)の厚さが大きいほど、上記クラック及び剥離が生じ易くなる。
【0014】
この点に関し、本発明者は、本発明に係る上述したグリーンシートを使用すると、基板の曲面の曲率半径に対してグリーンシート(焼成膜の前躯体)が比較的厚くても、上記クラック及び剥離が生じ難いことを見出した。具体的には、前記グリーンシートの厚さをt(μm)とし、前記基板の前記曲面の曲率半径をR(μm)とし、前記バインダのガラス転移点をTg(K(ケルビン))としたとき、2.9(R/Tg)≦t≦225(R/Tg)の関係が成立する場合において、上記クラック及び剥離が生じ難いことが判明した(詳細は後述する)。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る焼成積層体の全体の斜視図である。
図2図1の2−2断面図である。
図3図1に示した焼成積層体の作製に使用される基板の全体の斜視図である。
図4図1に示した焼成積層体の作製に使用される「PETフィルム付きグリーンシート」の全体の斜視図である。
図5】基板の上面にグリーンシートを貼り付ける際の様子を示した斜視図である。
図6】基板の上面に「PETフィルム付きグリーンシート」が貼り付けられたグリーン積層体を示した斜視図である。
図7図6に示した状態においてPETフィルムを剥がす様子を示した斜視図である。
図8】PETフィルムを剥がすことによって得られたグリーン積層体を示した斜視図である。
図9】本発明の実施形態の変形例に係る焼成積層体の図1に対応する斜視図である。
図10図9の10−10断面図である。
図11図9に示した焼成積層体の焼成前の積層体であるグリーン積層体を示した斜視図である。
図12図11の12−12断面図である。
図13】比較例についての、「基板の曲面の曲率半径、バインダのガラス転移点、及びグリーンシートの厚さ」と「クラック発生の有無」との関係を示したグラフである。
図14】本実施形態についての、「基板の曲面の曲率半径、バインダのガラス転移点、及びグリーンシートの厚さ」と「クラック発生の有無」との関係を示したグラフである。
図15】比較例では得られず本実施形態を採用することによって得られた「クラック等が発生しない領域」を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係るグリーンシート、並びに、本発明の実施形態に係るグリーン積層体及び焼成積層体の製造方法について説明する。
【0017】
(焼成積層体の構成)
図1及び図2は、本発明の実施形態に係る焼成積層体を示す。この積層体は、直方体状の基板10と、基板10の上面(平面)に積層された薄い直方体状(平板状)の膜20と、から構成された焼成体である。この積層体では、基板10の上面の全域に亘って膜20が形成されている。この焼成積層体の幅A(y軸方向)、奥行きB(x軸方向)、高さC(z軸方向)はそれぞれ、例えば、10mm以上200mm以下、50mm以上500mm以下、1mm以上8mm以下である。
【0018】
基板10は、第2セラミックスで構成された緻密な焼成体である。なお、基板10は、多孔質であってもよい。第2セラミックスとしては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化銅、又は、これらのうちの一つ以上を含む複合酸化物が使用され得る。「酸化ジルコニウム」には、例えば、イットリア安定化ジルコニアなどの添加元素が含まれていてもよい。基板10の厚さは、1mm以上8mm以下である。
【0019】
膜20は、基板10より薄く、且つ、第1セラミックスで構成された多孔質の焼成膜である。第1セラミックスとしては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化銅、又は、これらのうちの一つ以上を含む複合酸化物が使用され得る。「酸化ジルコニウム」には、例えば、イットリア安定化ジルコニアなどの添加元素が含まれていてもよい。第2セラミックスは、第1セラミックスに対して組成又は微構造が異なる。一般に、焼成によるセラミックスの体積収縮率は1%以上70%以下である。このため、例えば、膜20の前駆体であるグリーンシートの厚さが(乾燥状態で)100μm以上1000μm以下である場合、貼り付け面(積層面、下面)が拘束された状態にある膜20の厚さは、概ね30μm以上990μm以下となる。膜20の気孔率は、30体積%以上60体積%以下である。気孔の平均径は0.2μm以上10μm以下である。ここで、「気孔」とは、焼成前(グリーン体)か焼成後(焼成体)かにかかわらず、物体内に存在する空間を指す。
【0020】
(焼成積層体の製造方法)
次に、図1及び図2に示した焼成積層体の製造方法について、図3図8を参照しながら説明する。以下、各図において符号の末尾に「g」が付された部材は、「焼成前の状態」(グリーン)を表すものとする。また、焼成前の状態の成形体を単に「成形体」と呼び、「成形体」を焼成したものを「焼成体」と呼ぶものとする。
【0021】
先ず、図3に示すように、直方体状の緻密な焼成体である基板10が準備される。基板10は、例えば、「第2セラミックス粉体、分散媒、及びバインダを含むスラリー」を基板10に対応する形状に成形・固化し、この成形体を焼成することによって得られる。第2セラミックス粉体としては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化銅、又は、これらのうちの一つ以上を含む複合酸化物が好ましい。この粉体のメジアン径は、例えば、0.9μm以上10μm以下である。基板10の気孔率は、10体積%以下である。「酸化ジルコニウム」には、例えば、イットリア安定化ジルコニアなどの添加元素が含まれていてもよい。
【0022】
分散媒としては、例えば、炭化水素系(トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等)、エーテル(エチレングリコールモノエチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等)、アルコール(イソプロパノール、1−ブタノール、エタノール、2−エチルヘキサノール、テルピネオール、エチレングリコール、グリセリン等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン等)、エステル(酢酸ブチル、グルタル酸ジメチル、トリアセチン等)、多塩基酸(グルタル酸等)が使用され得る。特に、多塩基酸エステル(例えば、グルタル酸ジメチル等)、多価アルコールの酸エステル(例えば、トリアセチン等)等の、「2以上のエステル結合を有する溶剤」を使用することが好ましい。バインダとしては、例えば、アクリル系、ブチラール系、エポキシ系などが、単独又は混合された状態で使用され得る。また、イソシアネート、エチレングリコールなどのポリオールが使用され得る。バインダ(の有機成分)として、ウレタン樹脂のようにゲル化反応(化学反応、例えば、イソシアネートとポリオールとの間で生じるウレタン反応)により固化するゲル化剤(加熱により反応が起こる熱硬化性樹脂を含む)が使用されてもよいし、ゲル化剤以外の材料(即ち、化学反応では固化せず、乾燥によってのみ固化する材料)が使用されてもよい。
【0023】
また、図4に示すように、膜20に対応する形状を有するグリーンシート20gが準備される。即ち、グリーンシート20gは、基板10より薄い直方体状の成形体である。グリーンシート20gの厚さは、(乾燥状態で)100μm以上1000μm以下である。
【0024】
グリーンシート20gは、薄くて変形し易いので、図4に示すように、PETフィルムに貼り付けられた状態(以下、「PETフィルム付シート20g」と呼ぶ)で準備される。なお、グリーンシート20g単独で準備されてもよい。
【0025】
グリーンシート20gは、「第1セラミックス粉体、分散媒、及びバインダを含むスラリー」を薄板状(テープ状)に成形・固化した後、膜20に対応する形状に切り出して得られる。ここで、「固化」とは、分散媒の揮発又は化学反応によってグリーン体の形状が保持されること、を指す。この成形は、ドクターブレード法等を使用して行われる。第1セラミックス粉体は、第2セラミックス粉体に対して組成又は微構造が異なる。第1セラミックス粉体としては、例えば、例えば、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化銅、又は、これらのうちの一つ以上を含む複合酸化物が好ましい。この粉体のメジアン径は、例えば、0.2μm以上10μm以下である。分散媒としては、例えば、炭化水素系(トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等)、エーテル(エチレングリコールモノエチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等)、アルコール(イソプロパノール、1−ブタノール、エタノール、2−エチルヘキサノール、テルピネオール、エチレングリコール、グリセリン等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン等)、エステル(酢酸ブチル、グルタル酸ジメチル、トリアセチン等)、多塩基酸(グルタル酸等)が使用され得る。特に、多塩基酸エステル(例えば、グルタル酸ジメチル等)、多価アルコールの酸エステル(例えば、トリアセチン等)等の、「2以上のエステル結合を有する溶剤」を使用することが好ましい。
【0026】
バインダとしては、ガラス転移点が20℃以上48℃以下の物質が使用される。具体的には、例えば、アクリル系樹脂が挙げられる。これらの中でも、特に、ポリメタクリル酸n−ブチル(ガラス転移点:20℃)を使用することが好適である。ガラス転移点が常温に近いため、グリーンシートの保型性と接着性とを共に良好に維持することが容易だからである。バインダ中における「ガラス転移点が20℃以上48℃以下の物質」の体積割合は30%以上である。また、バインダの重量平均分子量は8000以上100万以下であることが好適である。
【0027】
なお、グリーンシート20g(より具体的には、スラリー)には、必要に応じて、可塑剤、増粘剤、及び、分散助剤が含まれていてもよい。更には、グリーンシート20g(スラリー)には、焼成後の気孔率の調整のため、造孔材(焼成で消失する材料であり、例えば、アクリル樹脂の粒子)が含まれてもよい。これにより、グリーンシート20gの状態では気孔でなかった部分のうち、造孔材が占めていた部分は、焼成後の膜20では気孔となる。この場合、膜20の内部において大きな気孔(例えば、直径が2μm以上10μm以下)が形成され得る。なお、グリーンシート20gを焼成して得られる焼成膜20の気孔率の調整は、グリーンシート20g内に含まれる第1セラミックス粉体の平均粒径を調整することによっても達成可能である。
【0028】
グリーンシート20gの全体に対するバインダが占める体積割合(以下、「バインダの体積割合」と呼ぶ)は、(乾燥状態にて)20体積%以上60体積%以下である。バインダのガラス転移点、及び、バインダの体積割合が上記の範囲内に調整されていることに起因して、このグリーンシート20g(本発明の実施形態に係るグリーンシート)は、常温で粘着性を有する。この粘着性は、主として、グリーンシート中に含まれるバインダによってもたらされる。加えて、このグリーンシート20gは、「常温で粘着性を有するグリーンシート」としての「発明の概要」の欄で記載した全ての要求を満足する。この点については後に詳述する。
【0029】
続いて、グリーンシート20gが粘着性を有する状態で、且つ、常温にて、図5に示すように、PETフィルム付シート20g(のグリーンシート20g)が基板10の上面(接着面)が貼り付けられる。このとき、グリーンシート20gが有する粘着性を利用することによって、グリーンシート20gが基板10の上面に接着・固定される。これにより、図6に示す積層体が得られる。なお、図6に示す状態で、グリーンシート20gが、0.001kgf/mm以上の接着力(JIS Z0237)を備えていると好ましい。
【0030】
PETフィルム付シート20gの基板10に対する押圧力は、PETフィルム付きシート20gの自重のみによって付与されてもよいし、ゴムなどを介してPETフィルム付きシート20gの上面を加圧することによって調整されてもよい。PETフィルム付シート20gの基板10に対する押圧力は、20kgf/cm以下であることが好適である。これにより、図6に示す積層体の変形が抑制され得る。
【0031】
このような押圧状態は、常温にて、例えば、10秒間以上300秒間以下に亘って継続される。なお、この押圧状態の終了後、基板10に対するグリーンシート20gの接着をより確実とするため、図6に示す積層体に対して、50℃以上150℃以下で5分間以上60分間以下程度の乾燥処理(加熱処理)を施してもよい。
【0032】
次いで、図7に示すように、図6に示す積層体からPETフィルムが剥がされる。この結果、図8に示すように、「緻密な焼成体である基板10の上面に、比較的厚いグリーンシート20gが接着・積層されたグリーン積層体」が得られる。
【0033】
そして、このグリーン積層体が、400℃以上750℃以下で1時間以上10時間以下に亘って脱脂される。その後、脱脂後のグリーン積層体が、900℃以上1600℃以下で1時間以上10時間以下に亘って焼成される。この結果、グリーンシート20gの内部に残存していた分散媒、及びバインダが揮発・除去されて、図1及び図2に示す焼成積層体、即ち、「緻密な焼成体である基板10の上面に多孔質の焼成膜20が積層された焼成積層体」が得られる。
【0034】
(常温で粘着性を有するグリーンシートに含まれるバインダの、ガラス転移点及び体積割合の適正な範囲)
上述した「常温で粘着性を有するグリーンシート20g」には、「人間が手で扱い易いこと(所謂「ハンドリング性」が良いこと)」、「基板10に対する十分な接着力が常温で備わっていること」、及び、「後の焼成時に確実に焼き締まること」が少なくとも要求される。
【0035】
本発明者は、種々の研究・実験を重ねた結果、これらの要求内容が、グリーンシートに含まれるバインダの「ガラス転移点及び体積割合」と密接な関係があることを見出した。加えて、本発明者は、これらの要求を満足するために必要な「バインダのガラス転移点」及び「バインダの体積割合」の範囲を見出した。以下、この結論を得るために行われた試験Aについて説明する。
【0036】
(試験A)
試験Aでは、図1図8に示した本実施形態に係る焼成積層体について、表1に示すように、グリーンシート(より具体的には、スラリー)に含まれるバインダの「ガラス転移点及び体積割合の組み合わせ」が異なる複数のサンプルが作製された。
【0037】
【表1】
【0038】
各サンプル(焼成積層体)として、図1及び図2に示すように、「緻密な焼成体である直方体状の基板の上面に、板状の多孔質の焼成膜が積層された焼成積層体」が作製された。各サンプル(積層焼成体)の幅A(y軸方向)、奥行きB(x軸方向)、高さC(z軸方向)はそれぞれ、50mm、100mm、5mmであった。基板の気孔率は5体積%以上10体積%以下であった。焼成膜の気孔率は30体積%以上60体積%以下であった。各サンプルは、上述した図3図8に示したように、「緻密な焼成体である基板の上面に、常温にて、粘着性を有するグリーンシートを接着・積層して得られたグリーン積層体」を焼成することによって得られた。基板を構成する第2セラミックスとしては、アルミナが使用された。グリーンシートは、ドクターブレード法を用いて成形された。グリーンシート用のスラリーには、第1セラミックス粉体として「ジルコニアの粉体」、分散媒として「ブタノール、及び、トルエン」、可塑剤として「フタル酸エステル」、造孔材として「アクリル樹脂ビーズ」、が含まれていた。グリーンシートの厚さは、100μmであった。
【0039】
グリーンシート用のスラリーに含まれる、ガラス転移点が5℃、20℃、26℃、36℃、48℃、65℃のバインダとして、それぞれ、共栄社化学製KC500、根上工業製アクリル系バインダM6003、M6701、M6664、M0603、M5001が使用された。グリーン積層体の焼成(より具体的には、グリーンシートの焼成)は、600℃で2時間の脱脂後、1000℃で1時間に亘って行われた。表1におけるバインダの体積割合は、乾燥状態(グリーンシート(スラリー)が乾燥した状態、即ち、スラリー中のバインダが残存する一方でスラリー内の分散媒が揮発除去された状態)での値である。バインダの重量平均分子量は、8000以上100万以下であった。
【0040】
この試験Aでは、各サンプルについて、緻密焼成体である基板の上にグリーンシートを貼り付ける際において、「グリーンシートが手で扱い易いか否か」(観点1)、及び、「基板に対するグリーンシートの接着力が常温で十分に備わっているか否か」(観点2)が評価され、グリーン積層体の焼成後においては、「グリーンシートが確実に焼き締まったか否か」(観点3)が評価された。
【0041】
これらの結果は表1に示すとおりである。表1において、「○」は、上記の各評価の結果の全てが良いことを示し、「×」は、上記の各評価の結果の少なくとも1つが悪いことを示す。表1において、「×」で示された領域のうち、太線枠aで囲まれた領域では、グリーンシートが柔らか過ぎてルミラーからの剥離後にグリーンシートの形状が保持され得ないことに起因して(観点1)について評価が悪かった。これは、常温に対してバインダのガラス転移点が低過ぎることに起因すると考えられる。太線bで囲まれた領域では、常温でのグリーンシートの粘着性が低過ぎることに起因して(観点2)について評価が悪かった。これは、常温に対してバインダのガラス転移点が高過ぎることに起因すると考えられる。太線cで囲まれた領域では、常温でのグリーンシートの粘着性が低過ぎることに起因して(観点2)について評価が悪かった。これは、スラリー中のバインダの体積割合が低過ぎることに起因すると考えられる。太線dで囲まれた領域では、焼成後にてグリーンシートの焼き締まりが不十分であることに起因して(観点3)について評価が悪かった。これは、スラリー中のバインダの体積割合が高過ぎる(即ち、第1セラミックス粉体の体積割合が低過ぎる)ことに起因すると考えられる。
【0042】
表1から、バインダのガラス転移点が20℃以上48℃以下であり、且つ、バインダの体積割合が20体積%以上60体積%以下であると、上記(観点1)、(観点2)、及び(観点3)の全てについて評価が良いことが分かる。以上、これらの条件を満足することによって、グリーンシートが、「常温で粘着性を有するグリーンシート」としての上述した全ての要求を満足する、ことが判明した。
【0043】
(基板の曲面に貼り付けられたグリーンシートにおけるクラック等の抑制)
上述した図1図8を参照しながら説明した実施形態は、基板の平面上にグリーンシートが貼り付けられていた。これに対し、基板の曲面上にグリーンシートが貼り付けられる場合を考える。一般に、グリーンシートが基板の平面上に貼り付けられる場合と比べて、グリーンシートが基板の曲面上に貼り付けられる場合、グリーンシート内に発生する内部応力に起因して、焼成後にて、「グリーンシートであった焼成膜」にクラック及び剥離(以下、「クラック等」と呼ぶ)が生じ易い。基板の曲面の曲率半径に対してグリーンシート(焼成膜)の厚さが大きいほど、上記クラック等が生じ易くなる。
【0044】
この点に関し、本発明者は、上述した「バインダのガラス転移点が20℃以上48℃以下であり、且つ、バインダの体積割合が20体積%以上60体積%以下である、常温で粘着性を有するグリーンシート」を使用すると、基板の曲面の曲率半径に対してグリーンシート(焼成膜)が比較的厚くても、上記クラック等が生じ難いことを見出した。以下、この結論を得るために行われた試験Bについて説明する。
【0045】
(試験B)
試験Bでは、図1及び図2にそれぞれ対応する図9及び図10に示すように、一対の側端面が外に凸の曲面である緻密な焼成体である基板10と、基板10の一対の側端面を含む表面に積層された一対の多孔質の焼成膜20、20と、を備えた複数のサンプル(焼成積層体)が作製された。これらのサンプルは、図11及び図12に示すように、「緻密な焼成体である基板10の一対の側端面上に一対のグリーンシート20gを貼り付けることによって得られたグリーン積層体」を焼成して得られた。
【0046】
図12に示すように、基板10の側端面の曲率半径をRμmとし、グリーンシート20gの厚さをtμmとする。また、バインダのガラス転移点をTg(K(ケルビン))とする。この試験Bでは、(R/Tg)及びtの組み合わせが異なる本実施形態についての複数のサンプルと、(R/Tg)及びtの組み合わせが異なる比較例についての複数のサンプルと、が作製された。本実施形態についてのサンプルでは、グリーンシート20gとして、「バインダのガラス転移点が20℃以上48℃以下であり、且つ、バインダの体積割合が20体積%以上60体積%以下である、常温で粘着性を有するグリーンシート」が使用された。比較例についてのサンプルでは、グリーンシート20gとして、「バインダのガラス転移点が80℃以上であり、且つ、バインダの体積割合が20体積%以上60体積%以下であるグリーンシート」が使用された。各サンプルにおいて、グリーンシート中のバインダ以外の成分の材料、基板の材料及び寸法、並びに、焼成条件を含むその他の種々の試験条件については、試験Aと同じとされた。
【0047】
この試験Bでは、各サンプルについて、図11及び図12に示すグリーン積層体を焼成して図9及び図10に示す焼成積層体を得た後、「グリーンシート20gであった焼成膜20」にクラック等が発生したか否かが評価された。この評価は、目視、及び、光学顕微鏡を使用して行われた。図13は、比較例についての複数のサンプルに関する評価結果を示し、図14は、本実施形態についての複数のサンプルに関する評価結果を示す。図13及び図14において、「○」は、上記クラック等が確認されないこと(クラック等なし)を示し、「×」は、上記クラック等が確認されたこと(クラック等あり)を示す。
【0048】
図13から理解できるように、比較例では、図13のグラフ上において、「t=2.9・(R/Tg)」で表わされる直線の下側領域にてクラック等が発生せず、同直線の上側領域にてクラック等が発生する、といえる。同様に、図14から理解できるように、本実施形態では、図14のグラフ上において、「t=255・(R/Tg)」で表わされる直線の下側領域にてクラック等が発生せず、同直線の上側領域にてクラック等が発生する、といえる。
【0049】
図13及び図14との比較から明らかなように、図15に微細なドットで示す領域は、比較例ではクラック等が発生する一方で本実施形態ではクラック等が発生しない領域である、と言える。換言すれば、比較例では得られず、本実施形態を採用することによって初めて得られた「クラック等が発生しない領域」である。
【0050】
以上のことから、「バインダのガラス転移点が20℃以上48℃以下であり、且つ、バインダの体積割合が20体積%以上60体積%以下である、常温で粘着性を有する本実施形態のグリーンシート」を使用すると、比較例のグリーンシートを使用した場合と比べて、基板の曲面の曲率半径に対してグリーンシート(焼成膜)が比較的厚くても、上記クラック等が生じ難い、ということができる。
【0051】
本発明は上記実施形態及び変形例に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記各実施形態では、第2セラミックスで構成された緻密な焼成体である基板が使用されているが、緻密な金属で構成された基板が使用されてもよい。また、第2セラミックス又は金属で構成された多孔質の基板が使用されてもよい。
【0052】
また、上記各実施形態では、「焼成体である基板の上にグリーンシートが貼り付けられることで得られたグリーン積層体」が焼成されて、焼成積層体が得られているが、グリーン体である基板の上にグリーンシートが貼り付けられることで得られたグリーン積層体」が焼成されて、焼成積層体が得られてもよい。
【0053】
また、上記各実施形態では、グリーンシートを焼成して得られる焼成膜20が多孔質(気孔率が30体積%以上60体積%以下)であるが、同焼成膜20が緻密質(気孔率が10体積%以下)であってもよい。
【0054】
また、上記各実施形態では、「焼成体である基板の上に粘着性を有するグリーンシートのみが貼り付けられることで得られたグリーン積層体」が焼成されて2層の焼成積層体が形成されているが、「焼成体である基板の上に粘着性を有するグリーンシートが貼り付けられ、その粘着性を有するグリーンシートの上に粘着性を有さないグリーンシートが貼り付けられることで得られたグリーン積層体」が焼成されて3層以上の焼成積層体が形成されてもよい。
【符号の説明】
【0055】
10…基板、20…焼成膜、20g…グリーンシート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15