特許第6368102号(P6368102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368102
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】摩擦係合装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 25/0638 20060101AFI20180723BHJP
   F16D 13/70 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   F16D25/0638 100
   F16D13/70 Z
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-26088(P2014-26088)
(22)【出願日】2014年2月14日
(65)【公開番号】特開2015-152081(P2015-152081A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230101177
【弁護士】
【氏名又は名称】木下 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100180079
【弁理士】
【氏名又は名称】亀卦川 巧
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 祥司
(72)【発明者】
【氏名】小栗 和夫
(72)【発明者】
【氏名】寺田 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅俊
【審査官】 星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−099192(JP,A)
【文献】 特開昭61−274125(JP,A)
【文献】 特開2009−222182(JP,A)
【文献】 実開昭62−196934(JP,U)
【文献】 実開平02−096030(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/0638
F16D 13/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のケース及び回転可能なハブと、
前記ケースの外径壁部の内側にスプライン嵌合し、プレッシャプレートを含む相手部材と、
前記ハブに取付けられ、前記相手部材と摩擦係合する摩擦板と、
前記ケースの内部に設けられている油圧室と、
前記油圧室に嵌合され、該油圧室に作動油が供給されることにより前記ケースの軸方向に作動するピストンと、
前記ピストンに連動し、前記プレッシャプレートを前記ケースの軸方向に押圧する押圧部と、
前記ケースの外径壁部の内側であって、前記プレッシャプレートとピストンとの間に嵌込まれ、スナップリングで抜止めされ、外径側の一方の面が前記スナップリングと接し、内径側の他方の面が前記ピストンに接し、前記ピストンを押戻す皿ばねを有する摩擦係合装置であって
前記皿ばねの反転までを含む前記ピストンの作動範囲において、前記スナップリングが、前記皿ばね側の面に、その径方向断面で前記皿ばねの単一の着力点を有し、前記皿ばねとスナップリングとの着力点から前記皿ばねとピストンとの接点までの距離が一定であることを特徴とする、
摩擦係合装置。
【請求項2】
回転可能なドラム及びハブと、
前記ドラムの外径壁部の内側にスプライン嵌合し、プレッシャプレートを含む相手部材と、
前記ハブに取付けられ、前記相手部材と摩擦係合する摩擦板と、
前記ドラムの内部に設けられている油圧室と、
前記油圧室に嵌合され、該油圧室に作動油が供給されることにより前記ドラムの軸方向に作動するピストンと、
前記ピストンに連動し、前記プレッシャプレートを前記ドラムの軸方向に押圧する押圧部と、
前記ドラムの内径壁部の外側に嵌込まれ、スナップリングで抜止めされ、内径側の一方の面が前記スナップリングと接し、外径側の他方の面が前記ピストンと接し、前記ピストンを押戻す皿ばねを有する摩擦係合装置であって
前記皿ばねの反転までを含む前記ピストンの作動範囲において、前記スナップリングが、前記皿ばね側の面に、その径方向断面で前記皿ばねの単一の着力点を有し、前記皿ばねとスナップリングとの着力点から前記皿ばねとピストンとの接点までの距離が一定であることを特徴とする、
摩擦係合装置。
【請求項3】
回転可能なドラム及びハブと、
前記ドラムの外径壁部の内側にスプライン嵌合し、プレッシャプレートを含む相手部材と、
前記ハブに取付けられ、前記相手部材と摩擦係合する摩擦板と、
前記ドラムの内部に設けられている油圧室と、
前記油圧室に嵌合され、該油圧室に作動油が供給されることにより前記ドラムの軸方向に作動するピストンと、
前記ピストンに連動し、前記プレッシャプレートを前記ドラムの軸方向に押圧する押圧部と、
前記ドラムの内径壁部の外側に嵌込まれ、スナップリング及び該スナップリングに隣接する環状部材で抜止めされ、内径側の一方の面が前記環状部材と接し、外径側の他方の面が前記ピストンと接し、前記ピストンを押戻す皿ばねを有する摩擦係合装置であって
前記皿ばねの反転までを含む前記ピストンの作動範囲において、前記環状部材が、前記皿ばね側の面に、その径方向断面で前記皿ばねの単一の着力点を有し、前記皿ばねと環状部材との着力点から前記皿ばねとピストンとの接点までの距離が一定であることを特徴とする、
摩擦係合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦係合装置(多板クラッチと多板ブレーキを含む。)であって、特に、そのピストンのリターンスプリングである皿ばねが接するスナップリング又は環状部材の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
制動又はトルク伝達を目的として、交互に設けられた摩擦板と相手部材とを摩擦係合させる摩擦係合装置は、その摩擦係合を実現させるために、一般的には、油圧式のピストンを用い、油圧でピストンを作動させ、ピストンと連動する(ピストンに設けられている場合を含む。)押圧部によって相手部材のプレッシャプレートを軸方向に押すという構成が採用されている。また、油圧を解放した際、摩擦板と相手部材との摩擦係合を解除させるために、ピストンを元の位置に押戻すばね(リターンスプリング)が設けられている。そして、このような構成の摩擦係合装置には、そのリターンスプリングとして皿ばねが使用されているものがあり、その例として、以下に挙げるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−35180号公報
【0004】
特許文献1には、リターンスプリングである皿ばねの皿ばねの内径側の一方の面が、スナップリングに隣接して配置されている支持部材に接し、外径側の他方の面がピストンの径方向中央より僅かに外径側に接している多板クラッチが開示されている。なお、皿ばねは、ピストンを油圧室の方向へ付勢している。
【0005】
一方、図8(a)に示す多板ブレーキ100(径方向半分の要部のみが表されている。)は、ケース130の外径壁部134の内側にスプライン嵌合している複数の相手部材132と、相手部材132の間にそれぞれ位置するようにハブ140に取付けられている摩擦板142と、相手部材132に面する側面の周方向に間隔を空けて設けられた円弧状の押圧部116(図8(b)参照。)を具え、油圧室111に嵌込まれている環状のピストン114と、ピストン114と相手部材132との間であって、ケース130の外径壁部134の内側にスナップリング128で抜止めされている皿ばね120を有する。皿ばね120は、内径側切片126の一方の面がピストン114に接し、ピストン114を油圧室111の方向へ付勢している。
【0006】
特許文献1に示す多板クラッチと図8に示す多板ブレーキのいずれにおいても、それらの皿ばねは、ピストンが相手部材の方向に移動したとき、ピストンとスナップリング(或いは、支持部材)に挟まれて圧縮され、油圧が解放されたとき、ピストンを油圧室の方向へ押戻すという機能を果たす。しかし、スナップリングの皿ばね受け面が平面である場合、ピストン作動時、皿ばねのストローク過程で皿ばねの着力点位置がずれてしまうことがある。図示して説明すれば、図9(a)と(b)に示すように、皿ばね120とスナップリング128との着力点Pの位置は、ピストン114の移動によって、特に、皿ばね120が反転したときに、スナップリング128の径方向に大幅にずれてしまう。すると、皿ばね120とスナップリング128との着力点Pから皿ばね120とピストン114との着力点までの距離が変動し、皿ばねによる荷重が連続的に変化しないので、ピストン114を押戻す機能に支障を来たす恐れがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、前述した従来技術の問題点に鑑み、荷重設計の自由度が高い摩擦係合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、円筒状のケース及び回転可能なハブと、
前記ケースの外径壁部の内側にスプライン嵌合し、プレッシャプレートを含む相手部材と、
前記ハブに取付けられ、前記相手部材と摩擦係合する摩擦板と、
前記ケースの内部に設けられている油圧室と、
前記油圧室に嵌合され、該油圧室に作動油が供給されることにより前記ケースの軸方向に作動するピストンと、
前記ピストンに連動し、前記プレッシャプレートを前記ケースの軸方向に押圧する押圧部と、
前記ケースの外径壁部の内側であって、前記プレッシャプレートとピストンとの間に嵌込まれ、スナップリングで抜止めされ、外径側の一方の面が前記スナップリングと接し、内径側の他方の面が前記ピストンに接し、前記ピストンを押戻す皿ばねを有する摩擦係合装置であって
前記皿ばねの反転までを含む前記ピストンの作動範囲において、前記スナップリングが、前記皿ばね側の面に、その径方向断面で前記皿ばねの単一の着力点を有し、前記皿ばねとスナップリングとの着力点から前記皿ばねとピストンとの接点までの距離が一定であることを特徴とする摩擦係合装置、
又は、
回転可能なドラム及びハブと、
前記ドラムの外径壁部の内側にスプライン嵌合し、プレッシャプレートを含む相手部材と、
前記ハブに取付けられ、前記相手部材と摩擦係合する摩擦板と、
前記ドラムの内部に設けられている油圧室と、
前記油圧室に嵌合され、該油圧室に作動油が供給されることにより前記ドラムの軸方向に作動するピストンと、
前記ピストンに連動し、前記プレッシャプレートを前記ドラムの軸方向に押圧する押圧部と、
前記ドラムの内径壁部の外側に嵌込まれ、スナップリングで抜止めされ、内径側の一方の面が前記スナップリングと接し、外径側の他方の面が前記ピストンと接し、前記ピストンを押戻す皿ばねを有する摩擦係合装置であって
前記皿ばねの反転までを含む前記ピストンの作動範囲において、前記スナップリングが、前記皿ばね側の面に、その径方向断面で前記皿ばねの単一の着力点を有し、前記皿ばねとスナップリングとの着力点から前記皿ばねとピストンとの接点までの距離が一定であることを特徴とする摩擦係合装置、
又は、
回転可能なドラム及びハブと、
前記ドラムの外径壁部の内側にスプライン嵌合し、プレッシャプレートを含む相手部材と、
前記ハブに取付けられ、前記相手部材と摩擦係合する摩擦板と、
前記ドラムの内部に設けられている油圧室と、
前記油圧室に嵌合され、該油圧室に作動油が供給されることにより前記ドラムの軸方向に作動するピストンと、
前記ピストンに連動し、前記プレッシャプレートを前記ドラムの軸方向に押圧する押圧部と、
前記ドラムの内径壁部の外側に嵌込まれ、スナップリング及び該スナップリングに隣接する環状部材で抜止めされ、内径側の一方の面が前記環状部材と接し、外径側の他方の面が前記ピストンと接し、前記ピストンを押戻す皿ばねを有する摩擦係合装置であって
前記皿ばねの反転までを含む前記ピストンの作動範囲において、前記環状部材が、前記皿ばね側の面に、その径方向断面で前記皿ばねの単一の着力点を有し、前記皿ばねと環状部材との着力点から前記皿ばねとピストンとの接点までの距離が一定であることを特徴とする摩擦係合装置によって前記課題を解決した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、皿ばねの外径側又は内径側の一方の面と接しているスナップリング又は環状部材が、皿ばね側の面に、皿ばねの反転までを含むピストンの作動範囲において、その径方向断面で皿ばねの単一の着力点を有するから、当該作動範囲において、皿ばねとスナップリングとの着力点から皿ばねとピストンとの着力点までの距離が変動しない。従って、皿ばねの反転時までを含めて、急激な荷重特性の変化を発生させることなく、皿ばねの荷重特性を安定させる、すなわち、安定してピストンに荷重を与えることができるので、従来に比べて、荷重設計の自由度を格段に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第一実施形態の径方向半分の要部を示す縦断面図。
図2】(a)は、本発明の第一実施形態のスナップリングの一部の縦断面図、(b)は、そのピストンを油圧で作動させたときの要部の縦断面図、(c)は、その油圧を解放したときの縦断面図。
図3】(a)は、本発明の第二実施形態のスナップリングの一部の縦断面図、(b)は、そのピストンを油圧で作動させたときの要部の縦断面図、(c)は、その油圧を解放したときの縦断面図。
図4】(a)は、本発明の第三実施形態のスナップリングの一部の縦断面図、(b)は、そのピストンを油圧で作動させたときの要部の縦断面図、(c)は、その油圧を解放したときの縦断面図。
図5】本発明の第四実施形態の径方向半分の要部を示す縦断面図。
図6】(a)は、本発明の第四実施形態のスナップリングの一部の縦断面図、(b)は、そのピストンを油圧で作動させたときの要部の縦断面図、(c)は、その油圧を解放したときの縦断面図。
図7】本発明の第五実施形態の径方向半分の要部を示す縦断面図。
図8】(a)は、従来の多板ブレーキの径方向半分の要部を示す縦断面図、(b)は、その皿ばねと押圧部の関係を軸方向から見た径方向半分の概略図。
図9】(a)は、従来の多板ブレーキのピストンを油圧で作動させたときの要部の縦断面図、(b)は、その油圧を解放したときの縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施例を、図1〜7を参照して説明する。但し、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の第一実施形態の摩擦係合装置(多板ブレーキ)の径方向半分の要部を示す縦断面図である。多板ブレーキ10は、ハブ40の回転軸(図示省略。)に対して対称をなしている。なお、図に示されていない多板ブレーキ10の他の構成と動作については、従来の多板ブレーキと同様であるため、図示及び説明を省略する。
【0013】
図1に示すように、多板ブレーキ10は、ケース30とハブ40を具え、ケース30の外径側に位置する外径壁部34の内側には、スプラインが設けられ、ピストン14側から順に、プレッシャプレート32a、中間プレート32b、エンドプレート32cからなる環状の相手部材32がスプライン嵌合している。相手部材32のそれぞれの間には、ハブ40の外周側に取付けられている環状の摩擦板42が配設されている。なお、摩擦板42には、通常、摩擦材が貼付けられる。ケース30の内部には、油圧室11を形成する油圧シリンダ18が設けられており、油圧シリンダ18には、ピストン14が嵌め込まれている。ピストン14には、これと連動する押圧部16が形成されている。また、皿ばね20は、プレッシャプレート32aとピストン14との間に位置するようにケース30の外径壁部34の内側に嵌め込まれ、スナップリング28で抜止めされている。皿ばね20の外径側の一方の面は、スナップリング28に接し、内径側の他方の面は、ピストン14の一部に接しているので、皿ばね20は、ピストン14を油圧室11の方向(相手部材32と反対方向)に付勢することができる。
【0014】
ここで、スナップリング28は、図2(a)に示すように、その両面に、内周側に向かって先細りのテーパ29を具えている。図2(b),(c)に示されているように、皿ばね20の外径側の一方の面がスナップリング28のテーパ29の面に接しているので、図2(b)に示されている、油圧によってピストン14がプレッシャプレート32a(図1参照)方向に移動し、皿ばね20が反転している状態から、図2(c)に示されている、油圧が解放され、ピストン14が皿ばね20によって油圧室11方向に押戻されている状態までの皿ばね20とスナップリング28との着力点Pの位置は変動しない。ここで、スナップリング28のように、内周側に向かって先細りのテーパ29を設けた場合、皿ばね20の外径側の一方の面は、スナップリング28のテーパ29の面(テーパ29の開始位置の面を含む。)に接している必要がある。また、ピストン14の作動範囲内で、着力点Pよりも内径側及び外径側の皿ばね20のスナップリング28側の面がスナップリング28の皿ばね20側の面に接しないように皿ばね20の形状及びテーパ29のテーパ角を設定する必要がある。これらが接してしまうと、着力点Pの位置がずれてしまうからである。なお、スナップリング28の場合、テーパは両面に設けられているが、これはスナップリング28の皿ばね20側の面に設ければ足りる。
【0015】
図3は、本発明の第二実施形態の要部を示している。スナップリング28aは、図3(a)に示すように、皿ばね20側の面に、その内周側から外周側に向かって先細りのテーパ29aを具えている。すなわち、スナップリング28aの内径側の端部の軸方向寸法が最大になるように形成されている。図3(b),(c)に示されているように、皿ばね20の外径側の一方の面がスナップリング28aのテーパ29aの終点位置の面に接しているので、図3(b)に示されている、油圧によってピストン14がプレッシャプレート32a(図1参照)方向に移動して、皿ばね20が反転している状態から、図3(c)に示されている、油圧が解放され、ピストン14が皿ばね20によって油圧室11方向に押戻されている状態までの皿ばね20とスナップリング28aとの着力点Pの位置は変動しない。ここで、スナップリング28aのように、外周側に向かって先細りのテーパ29aを設けた場合、皿ばね20の外径側の一方の面は、スナップリング28aのテーパ29aの終点位置の面に接している必要がある。また、ピストン14の作動範囲内で、着力点Pよりも外径側の皿ばねの面がスナップリング28の皿ばね20側の面に接しないように皿ばね20の形状及びテーパ29aのテーパ角を設定する必要がある。これらが接してしまうと、着力点Pの位置がずれてしまうからである。
【0016】
図4は、本発明の第三実施形態の要部を示している。スナップリング28bは、図4(a)に示すように、皿ばね20側の面に、突起29bを具えている。図4(b),(c)に示されているように、皿ばね20の外径側の一方の面がスナップリング28bの突起29bの皿ばね20側の先端の面に接しているので、図4(b)に示されている、油圧によってピストン14がプレッシャプレート32a(図1参照)方向に移動して、皿ばね20が反転している状態から、図4(c)に示されている、油圧が解放され、ピストン14が皿ばね20によって油圧室11方向に押戻されている状態までの皿ばね20とスナップリング28bとの着力点Pの位置は変動しない。ここで、スナップリング28bのように、皿ばね20側の面に、突起29bを設けた場合、皿ばね20の外径側の一方の面は、スナップリング28bの突起29bの先端の面に接している必要がある。また、ピストン14の作動範囲内で、着力点Pよりも内径側及び外径側の皿ばねの面がスナップリング28の皿ばね20側の面に接しないように皿ばね20の形状及び突起29bの位置、形状、又は高さを設定する必要がある。これらが接してしまうと、着力点Pの位置がずれてしまうからである。
【0017】
以上に説明したスナップリング28,28a,28bのように、皿ばね20の反転までを含むピストン14の作動範囲において皿ばね20の単一の着力点Pを有する構成とすれば、当該作動範囲において、皿ばね20の着力点Pから皿ばね20とピストン14との接点である着力点Qまでの距離が変動しない。従って、皿ばね20の反転時までを含めて、急激な荷重特性の変化を発生させることなく、皿ばね20の荷重特性を安定させる、すなわち、安定してピストン14に荷重を与えることができるので、皿ばね20の反転時までを含めた荷重設計ができ、従来に比べて、荷重設計の自由度を格段に高めることができる。なお、スナップリング28のように、皿ばね20の着力点Pと着力点Qとの距離を長く確保できる構成は、大きな荷重を得られるので好ましい。
【0018】
また、本発明は、図5に示すような摩擦係合装置(多板クラッチ)50にも適用可能である。多板クラッチ50は、ドラム70の回転軸(図示省略。)に対して対称をなしている。なお、図に示されていない多板クラッチ50の他の構成と動作については、従来の多板クラッチと同様であるため、図示及び説明を省略する。
【0019】
多板クラッチ50は、ドラム70とハブ80を具え、ドラム70の外径側に位置する外径壁部74の内側には、スプラインが設けられ、ピストン54側から順に、プレッシャプレート72a、中間プレート72b、エンドプレート72cからなる環状の相手部材72がスプライン嵌合している。相手部材72のそれぞれの間には、ハブ80の外周側に取付けられている環状の摩擦板82が配設されている。なお、摩擦板82には、通常、摩擦材が貼付けられる。ドラム70の内部には、油圧室51が形成されており、ピストン54が嵌め込まれている。ピストン54には、これと連動する押圧部56が形成されている。また、ドラム70の内径壁部76の外側に、環状の皿ばね60がスナップリング68で抜止めされている。皿ばね60の内径側の一方の面は、スナップリング68に接し、外径側の他方の面は、ピストン54の一部に接しているので、皿ばね60は、ピストン54を油圧室51の方向(相手部材72と反対方向)に付勢することができる。
【0020】
スナップリング68は、図6(a)に示すように、その両面に、外周側に向かって先細りのテーパ69を具えている。図6(b),(c)に示されているように、皿ばね60の内径側の一方の面がスナップリング68のテーパ69の面に接しているので、図6(b)に示されている、油圧によってピストン54がプレッシャプレート72a(図5参照)方向に移動し、皿ばね60が反転している状態から、図6(c)に示されている、油圧が解放され、ピストン54が皿ばね60によって油圧室51方向に押戻されている状態までの皿ばね60とスナップリング68との着力点Pの位置は変動しない。ここで、スナップリング68のように、外周側に向かって先細りのテーパを設けた場合、皿ばね60の内径側の一方の面は、スナップリング68のテーパ69の面(テーパ69の開始位置の面を含む。)に接している必要がある。また、ピストン54の作動範囲内で、着力点Pよりも内径側及び外径側の皿ばね60のスナップリング68側の面がスナップリング68の皿ばね60側の面に接しないように皿ばね60の形状及びテーパ69のテーパ角を設定する必要がある。これらが接してしまうと、着力点Pの位置がずれてしまうからである。なお、スナップリング68の場合、テーパは両面に設けられているが、これはスナップリング68の皿ばね60側の面に設ければ足りる。本構成により、多板クラッチ50は、皿ばね60の着力点Pから皿ばね60とピストン54との接点である着力点Qまでの距離が変動しないので、多板ブレーキ10と同様の効果を奏することができる。なお、スナップリング68の皿ばね60側の面を、図3,4に示すスナップリング28a,28bの皿ばね20側の面のような形状にすることもできる。
【0021】
また、図7に示すように、皿ばね60とスナップリング68aの間に設けられる環状部材61の皿ばね60側の面に、その外周側に向かって先細りのテーパ63を設けた態様としてもよい。これにより、多板クラッチ50と同様の効果を奏することができる。なお、環状部材61は、主に、スナップリング68aが遠心力によってドラム70の内径壁部76から抜け落ちてしまうのを防ぐために使用されるものである。皿ばね60の内径側の一方の面は、環状部材61のテーパ63の面(テーパ63の開始位置の面を含む。)に接している必要があること、及びピストン54の作動範囲内で、着力点Pよりも内径側及び外径側の皿ばね60の面が環状部材61の皿ばね60側の面に接しないように皿ばね60の形状及びテーパ63のテーパ角を設定する必要があるということは、スナップリング68(図5,6参照)と同じである。また、環状部材61の皿ばね60側の面を、図3,4に示すスナップリング28a,28bの皿ばね20側の面のような形状にすることもできる。
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、皿ばねの反転時までを含めて、皿ばねの荷重特性を安定させることができるので、荷重設計の自由度が高い摩擦係合装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0023】
10,50,50a 摩擦係合装置(多板ブレーキ,多板クラッチ)
11,51 油圧室
14,54 ピストン
16,56 押圧部
20,60 皿ばね
28,68,68a スナップリング
30 ケース
32,72 相手部材
32a,72a プレッシャプレート
34,74 外径壁部
40,80 ハブ
42,82 摩擦板
61 環状部材
70 ドラム
P 着力点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9