(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
盛土や地山に設けられた改良杭には、法肩から法尻へ向かう方向、或いは地山から空間へ向かう方向に強い土圧が作用することになる。特に地震時には、その土圧は更に大きくなる。しかし、改良杭は、それのみでは十分な強度を有していないので、改良杭内に鋼材を鉛直方向に延びるように配置することにより、強度を補強して用いる必要がある。また、鋼材を補強材として機能させるためには、鋼材を所定以上の定着長で改良杭に定着させる必要がある。しかしながら、盛土の土砂を固化させてできた改良杭は強度が十分でないことが多く、鋼材を確実に定着させるためには、相当な定着長を確保する必要がある。そして、定着長を多くとるためには、改良杭を地中深くまで形成しなければならず、その分だけ固化剤や芯材が多く必要となる。
つまり、これまで提案されてきた改良杭による盛土の耐震補強や土留めは、工期が長く、コストがかかるものであった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、固化剤等からなる改良体を用いた土構造物の耐震補強構造または土留構造を、短期間かつ低コストで構築できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本出願に係る発明は、土構造物と、前記土構造物の内部に鉛直方向に延びるように設けられた改良体とからなる土構造物の耐震補強構造であって、
前記改良体は、土砂と固化剤を少なくとも含む混合物が固化してできた改良杭と、前記改良杭よりも強度の高い材料で棒状に形成され、下部が前記改良杭の
中心軸よりも前記土構造物の天端寄りの部位内に鉛直方向に延びるように配置された状態で前記改良杭に定着し、上部が前記改良杭の上方に突出した芯材と、前記改良杭よりも強度の高い材料で形成され、前記芯材の上部が定着
し、前記芯材の鉛直方向の相対移動を規制する定着部を備えることを特徴とする。
【0008】
ここで、土構造物とは、盛土、堤防、切土など、土砂で形成される構造物全般を指す。
また、芯材を形成する、改良杭よりも強度の高い材料には、鋼、繊維強化プラスチック(FRP)、有機材料等が含まれる。
また、定着部を形成する、改良杭よりも強度の高い材料には、モルタルやコンクリート等が含まれる。
【0009】
一般的に、芯材が定着する材料の強度が高いほど、芯材が定着するのに必要な定着長は短くなる。本発明によれば、芯材の上部が改良杭よりも強度の高い材料に定着するので、改良体の強度を改良杭と芯材のみで構成した従来の改良杭より落とすことなく、改良体全体の長さを短くすることができる。従って、土構造物に、従来技術を用いた場合と比べて遜色ない耐震性を持たせながらも、改良体を短くする分だけ工期を短くできるとともに、必要となる固化剤や芯材が少なくなるので、コストを抑えることができる。
【0010】
なお、上記発明において、前記定着部は、モルタルまたはコンクリートで形成されているものとしてもよい。
一般的なモルタルやコンクリートは、土砂と固化剤からなる改良杭に比べ20倍以上の高強度を有するので、このようにすれば、従来の改良杭に劣らない強度を有する改良体を、より短く形成することができる。従って、より一層工期を短縮できるとともに、コストを下げることができる。
【0011】
また、本出願に係る他の発明は、鉛直方向に延びる改良体を、地山の側面に沿って水平方向に複数配列することにより形成された地中連続壁を有する土留構造であって、前記複数の改良体の少なくとも一部は、土砂と固化剤を少なくとも含む混合物が固化してできた改良杭と、前記改良杭よりも強度の高い材料で棒状に形成され、下部が前記改良杭の
中心軸よりも前記土構造物の天端寄りの部位内に鉛直方向に延びるように配置された状態で前記改良杭に定着し、上部が前記改良杭の上方に突出した芯材と、前記改良杭よりも強度の高い材料で形成され、前記芯材の上部が定着
し、前記芯材の鉛直方向の相対移動を規制する定着部を備えることを特徴とする。
【0012】
係る発明によれば、芯材の上部が改良杭よりも強度の高い材料に定着するので、改良体の強度を改良杭と芯材のみで構成した従来の改良杭より落とすことなく、改良体全体の長さを短くすることができる。従って、地山の崩壊を十分に抑制しながらも、改良杭を短くする分だけ工期が短くなるとともに、必要となる固化剤や芯材が少なくなるので、コストを抑えることができる。
【0013】
また、本出願に係る他の発明は、土構造物または地山の内部に、改良体を、鉛直方向に延びるように設ける改良体の構築方法において、前記土構造物または地山の内部に固化剤を注入して、前記土構造物の土砂または地山の土砂と混合し、前記固化剤と前記土砂とが混合してできた混合物を固化させることにより、前記改良体の下部となる改良杭を形成し、前記改良杭の
中心軸よりも前記土構造物の天端寄りの部位内に、前記改良杭よりも強度の高い材料で棒状に形成された芯材を、下部が前記改良杭の内部で鉛直方向に延び、かつ、上部が前記改良杭の上方に突出するように挿入して、下部を前記改良杭に定着させ、前記芯材の上部の周囲に、前記改良杭よりも強度の高い材料で、前記改良体の上部となる定着部を
、前記芯材と定着し、前記芯材の鉛直方向の相対移動を規制するように形成
することを特徴とする。
【0014】
係る発明によれば、芯材の上部が改良杭よりも強度の高い材料に定着するので、改良体の強度を改良杭と芯材のみで構成した従来の改良杭より落とすことなく、改良体全体の長さを短くすることができる。従って、必要な耐震性能または土留性能を発揮させながらも、改良杭の形成開始位置を浅くできる分だけ工期を短くできるとともに、使用する固化剤や芯材が少なくなるので、コストを抑えることができる。
【0015】
なお、上記発明において、前記芯材の上方の土砂を掘削して、前記芯材の上部の周囲に空間を形成し、前記空間にモルタルまたはコンクリートを流し込んで固化させることにより、前記芯材を前記モルタルまたは前記コンクリートに定着させるようにしてもよい。
このようにすれば、空間周囲の盛土、或いは盛土の土留めが型枠の代わりになるので、モルタルまたはコンクリートを流し込んで固化させるだけで定着部が形成でき、施工が容易になる。
【0016】
また、上記発明において、前記改良体を設ける対象が前記土構造物であり、前記土構造物の下の地山が改良により強度を発現しやすいものである場合には、前記地山の内部に前記改良杭の下部を形成し、その後、前記改良杭の下部の上方にある土構造物の内部に前記改良杭の上部を形成するようにしてもよい。
このようにすれば、改良体の下部の強度が高まり、改良体の強度を、改良しても強度を発現しにくい土砂を改良して形成した改良杭より落とすことなく、改良体全体の長さを短くすることができる。
【0017】
また、上記発明において、前記芯材の下端部を、前記改良杭の下部に定着させるようにしてもよい。
このようにすれば、芯材の下部が強度の高い部位に定着するので、改良杭全体の長さを更に短くすることができる。
【0018】
また、上記発明において、前記改良杭を形成した後、前記改良杭に鉛直方向に延びる穴を穿孔し、前記穴に前記芯材を挿入し、前記改良杭と前記芯材との間隙に、初めは流動性を有し、硬化後は前記改良杭よりも強度が高くなる充填材を充填して固化させるようにしてもよい。
このようにすれば、まだ固化していない土砂と固化剤との混合物に芯材を挿入することが困難である場合であっても、芯材を改良杭に定着させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、固化剤等からなる改良杭を用いた土構造物の耐震補強構造または土留構造を、短期間かつ低コストで構築することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1発明第1実施形態>
以下、
図1〜5を参照して、第1発明の第1実施形態について詳細に説明する。
【0022】
〔土構造物の耐震補強構造〕
まず、土構造物の耐震補強構造について、盛土を例にして説明する。
図1は本実施形態に係る盛土の耐震補強構造10の鉛直断面図であり、
図2は
図1のII−II断面図である。
盛土の耐震補強構造10は、盛土1を、盛土1の法面12に設けられた擁壁2と、法面から盛土1の内部にかけて設けられた複数の改良体3とによって、その強度を高めたものとなっている。また、盛土1の脇には、構造物Stが、盛土1と間隔を置かずに設けられており、盛土1の法面12の脇にスペースを確保することができない状態となっている。
【0023】
盛土1は、
図1の紙面に対して直交する方向に沿って連続的に築造されている。盛土1を築造方向と直交する面で切断した時の断面の形状は略台形(
図1には、片側の法面近傍のみ図示)をしている。天端11は水平になっており、その上方には、軌道や道路(図示省略)が、盛土1の連続する方向に沿って設けられている。法面12の上部(以下上部法面12a)は所定の勾配を有しており、法面12の下部(以下下部法面12b)は、構造物Stによる用地の制約上、上部法面12aよりも勾配が急になっている。
このような形状に築造された盛土1は、補強が十分でない場合、図のPで示すような側面視円弧状の曲面(以下すべり面)を境にして、側部の土砂が崩壊し易くなることが知られている。なお、図のすべり面Pは、擁壁2のみで盛土1を補強した場合に計算上想定されるものを示しており、本実施形態のような形状の盛土1では、天端11の中央部付近から法尻14にかけて広がるのが一般的である。
【0024】
擁壁2は、下部法面12b全体を覆うように形成されている。擁壁2は、
図1に示した方向から見たときに、下部法面12bと平行に傾斜している、すなわち、盛土1によりかかるように設けられ、自重を盛土1に作用させることにより盛土1の土圧に対抗するようになっている。
【0025】
改良体3は、盛土1の連続する方向に沿って、所定間隔を空けて並ぶように複数本設置されている。各改良体3は、想定されるすべり面Pを貫通するように設けられており、すべり面P近傍における盛土1の強度が高められている。
各改良体3は、盛土1内に設けられた改良杭31、改良杭31内を鉛直方向に貫通するとともに、上部が改良杭31の上方に突出するように配置された芯材32、改良杭31の上方、かつ芯材32の上部周りに設けられた定着部33からなる。
【0026】
改良杭31は、セメントスラリー等の固化剤と、盛土1を構成する土砂と同じものとが混合された状態で固化したもので、上部法面12aの下方に、鉛直方向に延びる円柱状に形成されている。また、改良杭31は、上述したすべり面Pを上下に貫通するように、かつ、その下部が盛土1の下の地山Gに達するように形成されている。改良杭31の上面には、アンカー311が打ち込まれている。
【0027】
芯材32は、鋼材(形鋼を含む)やFRP等の改良杭31よりも強度の高い材料を棒状に形成したものであり、円柱状の改良杭31の、中心軸Cよりも天端11側寄りの部位内に、鉛直方向に延び、その下端が、すべり面Pや盛土1と地山Gとの境界面Bよりも下まで達するように一本または複数本(
図2は複数本の場合)配置されている。芯材32の下部は、改良杭31に定着しており、その上部は、改良杭31の上面から上方へと突出し、上端部は側方へと曲げられている。なお、芯材32を、1本の改良杭31に対して複数本用いる場合は、互いに並行に、かつ、上方から見たときに、
図2に示すような、改良杭31の上面視円形の側面に沿うような配置にするのが好ましい。
【0028】
定着部33は、モルタルまたはコンクリート(場合によっては鉄筋を併用してもよい)で、改良杭31の上方に設けられ、改良杭31から上方に突出した芯材32に固着している。すなわち、芯材32の上部は定着部33に定着している。また、定着部33は、改良杭31のアンカー311にも固着しており、これにより、改良杭31と定着部33の一体性が高められている。なお、1本の改良杭31に対して複数本の芯材32を用いている場合、各芯材32の上端部にそれぞれ定着部33を形成してもよいし、一の定着部33に複数の芯材32の上端部が定着するようにしてもよい。
【0029】
一般的に、芯材32の定着長は、定着する材料の強度に依存する。すなわち、芯材32の定着する材料の強度が高いほど、定着長を短くすることができる。このため、本実施形態のように、芯材32の一部を改良杭31よりも強度の高いモルタルまたはコンクリート(定着部)に定着させることにより、芯材32全体を改良杭31に定着させる場合に比べ、改良体3の強度を落とすことなく、改良体3全体の長さを短くすることができる。従って、盛土1に、従来技術を用いた場合と比べて遜色ない耐震性を持たせながらも、改良体3を短くする分だけ工期が短くなるとともに、必要となる固化剤gや芯材32が少なくなるので、低コストで盛土1に必要な耐震性を持たせることができる。
【0030】
〔土構造物の耐震補強方法〕
次に、盛土1を上述したような耐震補強構造とする方法について説明する。
本実施形態の盛土1の補強方法は、改良体形成・芯材配置工程、および定着部形成工程からなる。
【0031】
(改良体形成・芯材設置工程)
初めの改良体形成・芯材設置工程では、まず、
図3に示すように、上部法面12aに、作業用の足場Scを構築し、その上方に改良杭31を形成するための機材M1を設置する。そして、盛土1内に改良杭31を形成する。本実施形態では、例えば、高圧噴射撹拌工法を用いて形成する。具体的には、まず、機材M1の下端部にある噴射口から高圧の固化剤gを地山Gへと噴射して、地山Gの土砂を切削するとともに、土砂3aと固化剤gとを混合させていく。その後、噴射口を上方へ移動させながら固化剤gの噴射および盛土1の土砂3aとの攪拌を行っていく。
【0032】
所定範囲の土砂3aを固化剤gと混合させた後は、
図4に示すように、足場Scから改良杭31の形成に用いた機材M1を撤去して、まだ固化していない土砂3aと固化剤gとの混合物内に、芯材32を、上部法面12aから混合物の下端部内まで押し込む。押し込み方としては、長い1本の芯材32を押し込んでいくようにしてもよいし、芯材32を複数の短い棒材に分割し、その内の一本の棒材を押し込み、その上端に次の棒材を継ぎ足して更に押し込んでいくという作業を繰り返すようにしてもよい。一本の改良杭に対し複数本の芯材32を用いる場合には、複数本の芯材32を、位置を側方にずらしながら順次押し込んでいく。土砂3aと固化剤gとが混合したものが固化すると、改良杭31が形成され、芯材32が改良杭31に定着する。
【0033】
(定着部形成工程)
芯材32を改良杭31に定着させた後は、定着部形成工程に移る。定着部形成工程では、まず、芯材32上部の周囲の土砂を、改良杭31の上面が露出するまで掘削する。掘削は、
図5に示すように、芯材32の周囲に筒状の土留壁33aを形成しながら行う。その後、芯材32の上端部を側方へと折り曲げ、改良杭31の上面にアンカー311を打ち込み、土留壁33aの内側空間S1に鉄筋籠(図示省略)を組む。そして、土留壁33aの内側空間S1にコンクリートまたはモルタルを流し込む。こうすれば、土留壁33aが型枠の代わりになるので、モルタルまたはコンクリートを流し込む作業が容易になる。流し込んだコンクリートまたはモルタルが固化すると、
図1に示した定着部33が形成され、芯材32の上部が定着部33に定着する。こうして、1本の改良体3が盛土1の内部に構築される。なお、定着部33形成後にできる上部法面12aとの段差は、そのままとしてもよいし、埋め戻してもよい。
【0034】
この後、上述した、改良体形成・芯材設置工程、定着部形成工程を、足場Scを組み立てる位置を、盛土1の連続する方向に所定距離ずらしながら複数回繰り返すことにより、盛土1内に、複数の改良体3が盛土1の連続する方向に沿って並ぶように設けられ、本実施形態の盛土の耐震補強構造10が完成する。
【0035】
<第2実施形態>
次に、
図6〜8を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。なお、ここでは、第1実施形態と相違する点のみ説明することとし、同様の点については説明を省略する
【0036】
〔土構造物の耐震補強構造〕
まず、土構造物の耐震補強構造について、本実施形態においても盛土を例に説明する。
図6は、本実施形態に係る盛土の耐震補強構造10Aの鉛直断面図である。
本実施形態の盛土の耐震補強構造10Aは、改良杭の構成が第1実施形態と異なる。
【0037】
本実施形態の改良体3Aは、改良杭31と芯材32との間に埋込材34が充填されたものとなっている。
埋込材34は、セメントミルクやモルタル等、定着部33を形成するコンクリート等に比べて高い流動性、充填性を有しつつ、材料不分離性を確保できる材料を固化させたものであり、改良杭31と芯材32とに固着している。すなわち、本実施形態の芯材32の下部は、埋込材34を介して改良杭31に定着している。
【0038】
〔土構造物の耐震補強方法〕
次に、盛土1を上述したような耐震補強構造10Aとする方法について説明する
本実施形態の盛土の耐震補強方法は、改良体形成を終えた後に芯材設置を行う点が第1実施形態と異なる。
【0039】
(改良体形成工程)
本実施形態では、まず、第1実施形態と同様に噴射口を上方へ移動させながら固化剤gの噴射および土砂3aとの攪拌を行っていく。所定範囲の土砂3aを固化剤gと混合させた後は、芯材32を挿入することなく、土砂3aと固化剤gの混合物をそのまま固化させ改良杭31を形成する。
【0040】
(芯材設置工程)
盛土1内に改良杭31を形成した後は、芯材設置工程に移る。芯材形成工程では、まず、足場Scから改良杭31の形成に用いた機材M1を撤去して、芯材32上部の周囲の土砂を、改良杭31の上面が露出するまで掘削する。掘削は、
図7に示すように、芯材32の周囲に筒状の土留壁33aを形成しながら行う。そして、足場Scに穿孔機M2を設置する。そして、穿孔機M2で改良杭31の上面の、中心軸Cよりも天端11寄りの箇所から改良杭31を鉛直下方へ向かって穿孔し、挿入穴31bを形成する。挿入穴31bは、改良杭31を貫通しない(改良杭31中に挿入穴31bの底ができる)範囲で、持たせたい強度に応じた穿孔深さとなる(定着長を確保できる)ように形成する。その後、
図8に示すように、挿入穴31bに、芯材32を、その下端が挿入穴31bの底に届くまで挿入する。そして、セメントミルクまたはモルタルを、芯材32と挿入穴31bの隙間に充填する。セメントミルクまたはモルタルが固化すると埋込材34が形成され、
図6に示したように、芯材32が埋込材34を介して改良杭31に定着する。
【0041】
<第3実施形態>
次に、
図9を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。なお、ここでは、第1実施形態と相違する点のみ説明することとし、同様の点については説明を省略する
【0042】
〔土構造物の耐震補強構造〕
まず、土構造物の耐震補強構造について、本実施形態においても盛土を例に説明する。
図9は、本実施形態に係る盛土の耐震補強構造10Bの鉛直断面図である。
本実施形態の盛土の耐震補強構造10Bは、対象とする盛土や地山の土質が限定されている点、および改良杭の構成が第1実施形態と異なる。
【0043】
本実施形態の盛土1bの下にある地山Gbは、盛土1bと比較して、改良しやすい良質な土質となっている。具体的には、地山Gbが砂質土であり、盛土1bが粘性土或いは粘性土を含む砂質土である場合や、地山Gbが粘性土を含む砂質土であり、盛土1bが粘性土である場合等、地山Gbの土砂の方が、盛土1bの土砂よりも砂質土の割合が高くなっている。
【0044】
本実施形態の改良杭3Bは、改良体31の下部、より具体的には、地山Gb内部に設けられた部位の強度が、盛土1b内部に設けられた上部よりも高くなっている。以下、改良体31の下部(上部よりも強度が高い部位)を下定着部31aと称する。また、芯材32の下端部は、下定着部31aに定着している。このため、改良杭3Aは、第1実施形態と遜色ない強度を有しつつも、第1実施形態よりも短くなっている(下端の位置が浅くなっている)。従って、その分だけ、工期が短くなるとともに、必要となる固化剤gや芯材32が少なくなるので、従来と比べて遜色ない耐震性を有する盛土の耐震補強構造10Bを低コストで構築することができる。
【0045】
〔土構造物の耐震補強方法〕
次に、盛土1を上述したような耐震補強構造10Bとする方法について説明する。
本実施形態の盛土の耐震補強方法は、改良体形成工程の流れが第1実施形態と異なる。
【0046】
(改良体形成工程)
本実施形態の改良体形成工程では、境界面Bよりも下方であって第1実施形態における改良体形成工程の開始位置よりも浅い位置から改良体の形成を開始する。そして、開始位置から境界面Bまでの改良体の形成は、第1実施形態の改良体形成工程で用いた固化剤よりも濃度の高い固化剤または固化性能の高い配合の固化剤を用いることにより、或いは、土砂3a単位体積当たりの固化剤gの注入量を第1実施形態よりも増やすことにより形成する。土砂の中に含まれる砂質土の割合が高いほど、固化剤や施工方法等、諸条件を変えることで強度を高め易くなるので、このようにすることで、盛土1に比べ砂質土の割合の高い地山Gb中には、改良体31よりも強度の高い下定着部31aが形成される。一方、盛土1bを形成する相対的に砂質土の割合の低い土砂を地山Gbの土砂と同様の条件で改良しても、強度の向上はあまり期待できないので、コストを抑えるため、下定着部31aを形成した後の改良体31の上部は、第1実施形態と同様にして形成する。
【0047】
このようにすれば、改良体31の下部(下定着部31a)の強度が改良体31の上部よりも高まるので、改良杭3Bの強度を損なうことなく、下部を含む全体を上部と同様にして形成した改良体31と芯材32のみで構成した改良杭より鉛直方向の長さを短くすることができる。従って、改良体31の形成開始位置を浅くできる分だけ工期が短くなるとともに、使用する固化剤gや芯材32が少なくなるので、コストを抑えることができる。
特に、首都圏において軌道を支持している鉄道用盛土は、本実施形態のような土質条件で築造されている場合が多いので、本実施形態のように下定着部31aを設けることは、数多くの盛土を短期間で耐震補強する上で効果的である。
【0048】
<第2発明実施形態>
次に、
図10を参照して、第2発明の実施形態について説明する。なお、ここでは、第1発明の第1実施形態と相違する点のみ説明することとし、同様の点については説明を省略する。
第1発明は、改良体3を用いた土構造物の耐震補強構造であったが、第2発明は、改良体3を用いた土留構造となっている。
【0049】
〔土留構造〕
まず、土留構造について説明する。
図10(a)は本実施形態に係る土留構造10Cの斜視図であり、
図10(b)は
図10(a)のb−b断面図である。
土留構造10Cは、例えば、地山に形成された空間S2の両側面を、一対の地中連続壁4によって土留めしたものとなっている。
【0050】
各地中連続壁4は、改良体3を水平方向に複数隣接するように設けることで一の壁体としたものである。個々の改良体3の構成は、第1実施形態で用いた改良体3と同様である。
なお、定着部33は、改良体3毎に個別に設けたものとしてもよいし、複数の芯材32をまとめて定着できるように改良体3の並び方向に長く延びるように形成したものとしてもよい。
各改良体3の下部は、空間S2の底面よりも下に位置し、地山G中に埋設されている。
【0051】
〔土留方法〕
次に、上述したような土留構造を構築する方法について説明する。
まず、地山Gの空間S2を形成しようとする箇所の側方に、複数の改良体3を形成する。個々の改良体3の形成方法は、ほぼ第1実施形態と同じであるが、
図10(b)に示したように、地山Gの作業箇所が水平である場合には、作業台の構築を省略することができる。
改良体3は、形成済みの改良杭の隣に接するように順次形成するようにしてもよいし、より隙間なく形成するために、各改良体3を、一本の改良杭の幅よりも少し短い間隔をあけて形成した後、改良体3と改良体3との間に、新たな改良体3を、既設の改良体3の改良体と一部一体化するように形成してもよい。なお、
図10(a)に示したように、定着部33を複数の改良体3の並び方向に長く延びるように形成する場合には、予め改良杭31および芯材32のみの未完成の改良杭を複数構築した後、最後に定着部33Cを形成するようにする。
【0052】
一対の地中連続壁4を互いに並行となるように構築した後は、その間の土砂を掘削する。土砂が所定深さまで掘削されると、一対の地中連続壁4の間に空間S2が形成され、空間S2の側方の地山Gが地中連続壁4によって土留された状態となる。
【0053】
以上、本出願に係る発明を実施形態に基づいて具体的に説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、第1発明の第1〜3実施形態では盛土を例にしたが、切土や堤防等、他の土構造物にも適用することができる。
また、第1〜第3実施形態では法面の一部が擁壁で保護された盛土を例にしたが、擁壁の無い土構造物にも適用することができる。
また、第1〜3実施形態では、複数の改良杭を間隔が空くように形成したが、第2発明の地中連続壁のように複数の改良杭を隣接させて壁体としてもよい。
また、第1発明の第3実施形態や第2発明の実施形態では、改良杭を、芯材が改良体に直接定着したものとしたが、第2実施形態のように、埋込材を介して定着したものとしてもよい。
また、第1実施形態では、芯材を埋め込んだ後に定着部を形成するための空間を形成したが、土砂と固化剤の混合を始める前や、土砂と固化剤を混合させた後であって芯材を埋め込む前に形成するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、芯材32の上端部を側方に折り曲げることにより定着力を高めるようにしたが、上端部に定着プレートを取り付けたり、ジョイントを用いて定着部や擁壁支持部内の鉄筋と一体化させたりしてもよい。
また、上記実施形態では、高圧噴射攪拌工法で改良体を形成したが、機械撹拌工法、高圧噴射併用型機械攪拌工法など、土砂3aと固化剤gによる改良体を形成できる方法であれば何でもよい。
また、上記実施形態では、改良杭31と定着部33とを結合させるアンカー311を、改良杭31の固化後に打ち込むようにしたが、改良杭31の形成中(固化する前)にアンカー311を配置しておき、固化時に定着させるようにしてもよい。