(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
<第1の実施の形態>
<1.システムブロック図>
図1は、本実施形態に係る車両制御システム10の構成を示す図である。車両制御システム10は、例えば自動車などの車両に設けられている。以下、車両制御システム10が設けられる車両を「自車両」という。また、自車両の進行方向を「前方」、進行方向と逆方向を「後方」という。図に示すように、車両制御システム10は、レーダ装置1と、車両制御装置2とを備えている。
【0022】
本実施の形態のレーダ装置1は、周波数変調した連続波であるFM−CW(Frequency Modulated Continuous Wave)を用いて、自車両の周辺に存在する移動物や静止物の物標に係る物標データを導出する。ここで移動物とはある速度で移動し、自車両の速度とは異なる相対速度を有する物標である。また静止物とは、自車両の速度と略同一の相対速度を有する物標である。
【0023】
またレーダ装置1は、物標から反射した反射波がレーダ装置1の受信アンテナに受信されるまでの距離(以下、「縦距離」という。)(m)、自車両に対する物標の相対速度(m/s)、自車両の左右方向(車幅方向)における物標の距離(以下、「横距離」という。)(m)などのパラメータを有する物標データを導出し、導出した物標データを車両制御装置2に出力する。なお横距離は、自車両の中心位置を0(ゼロ)とし、自車両の右側では正の値、自車両の左側では負の値で表現される
車両制御装置2は自車両のブレーキおよびスロットル等に接続され、レーダ装置1から出力された物標データに基づき自車両の挙動を制御する。例えば車両制御装置2は、渋滞時に先行車との所定距離(例えば、0.5m)以上の車間距離を保持しつつ、自車速が所定速度(例えば、5m/s)以下で先行車を追従する制御を行う。先行車は、自車線内に存在し、縦距離が最も小さい移動物として導出される物標に対応する車両である。これにより本実施の形態の車両制御システム10は、ACC(Adaptive Cruise Control)システムとして機能する。
【0024】
<2.レーダ装置ブロック図>
図2は、レーダ装置1の構成を示す図である。レーダ装置1は、例えば車両のフロントバンパー内に設けられ、車両外部に送信波を出力し物標からの反射波を受信する。またレーダ装置1は、送信部4と、受信部5と、信号処理装置6とを主に備える。
【0025】
送信部4は信号生成部41と、発振器42とを備えている。信号生成部41は三角波状に電圧が変化する変調信号を生成し、発振器42に供給する。発振器42は、信号生成部41で生成された変調信号に基づいて連続波の信号を周波数変調し、時間の経過に従って周波数が変化する送信信号を生成し、送信アンテナ40に出力する。
【0026】
送信アンテナ40は、発振器42からの送信信号に基づいて、送信波TWを自車両の外部に出力する。送信アンテナ40が出力する送信波TWは、所定の周期で周波数が上下するFM−CWとなる。送信アンテナ40から自車両の前方に送信された送信波TWは、他の車両などの物標で反射されて反射波RWとなる。
【0027】
受信部5は、アレーアンテナを形成する複数の受信アンテナ51と、その複数の受信アンテナ51に接続された複数の個別受信部52とを備えている。本実施の形態では受信部5は、例えば4つの受信アンテナ51と、4つの個別受信部52とを備えている。4つの個別受信部52は、4つの受信アンテナ51にそれぞれ対応している。各受信アンテナ51は物標からの反射波RWを受信し、各個別受信部52は対応する受信アンテナ51で得られた受信信号を処理する。
【0028】
各個別受信部52は、ミキサ53と、A/D変換器54とを備えている。受信アンテナ51で受信された反射波RWから得られた受信信号は、ローノイズアンプ(図示省略)で増幅された後にミキサ53に送られる。ミキサ53には送信部4の発振器42からの送信信号が入力され、ミキサ53において送信信号と受信信号とがそれぞれミキシングされる。これにより送信信号の周波数と、受信信号の周波数との差となるビート周波数を示すビート信号が生成される。ミキサ53で生成されたビート信号は、A/D変換器54でデジタルの信号に変換された後に信号処理装置6に出力される。
【0029】
信号処理装置6は、CPUおよびメモリ63などを含むマイクロコンピュータを備えている。信号処理装置6は、演算の対象とする各種のデータを、記憶装置であるメモリ63に記憶する。信号処理装置6は、マイクロコンピュータでソフトウェア的に実現される機能として、送信制御部61、フーリエ変換部62、および、データ処理部7を備えている。送信制御部61は、送信部4の信号生成部41を制御する。
【0030】
フーリエ変換部62は、複数の個別受信部52のそれぞれから出力されるビート信号を対象に、高速フーリエ変換(FFT)を実行する。これによりフーリエ変換部62は、複数の受信アンテナ51の各受信信号に係るビート信号を、周波数領域のデータである周波数スペクトラムに変換する。フーリエ変換部62で得られた周波数スペクトラムは、データ処理部7に対して出力される。
【0031】
データ処理部7は、複数の受信アンテナ51それぞれの周波数スペクトラムに基づいて、自車両の周辺(例えば、前方)に存在する物標に係る物標データを導出する。データ処理部7は、導出した物標データを車両制御装置2に出力する。
【0032】
またデータ処理部7は、主な機能として物標データ導出部71、物標データ処理部72、および、物標データ出力部73を備えている。物標データ導出部71は、フーリエ変換部62で得られた周波数スペクトラムに基づいて物標に係る物標データを導出する。物標データ処理部72は、導出された物標データを対象にして連続性判定、および、フィルタなどの各種の処理を行う。
【0033】
また物標データ処理部72は、主な機能として関係付与部72a、距離差算出部72b、および、位置予測部72cを備えている。これらの機能により、後述するフィルタ処理において、過去の物標導出処理(以下、「過去処理」という。)で導出された先行車のリアバンパー等が設けられている車体の後端部に係る物標データ(以下、「後端部データ」という。)が、直近の物標導出処理(以下、「直近処理」という。)で導出されない場合、過去処理で算出された後端部データと、先行車の後端部以外の部分に係る物標データとの距離差に基づき、直近処理の後端部データの位置等を予測したデータ(以下、「予測データ」という。)が生成される。このような予測データを生成する詳細な処理については後述する。なお、先行車は比較的車高の高いトラック等の車両である。また以下では、後端部以外の部分は、例えば先行車のバッテリ等が設けられている車体の底部に係る物標データ(以下、「底部データ」という。)を例に説明を行う。
【0034】
物標データ出力部73は、予測データを含む物標データを車両制御装置2に出力する。なおデータ処理部7には、自車両に設けられた車速センサ81、および、ステアリングセンサ82などの各種センサからの情報が、車両制御装置2を介して入力される。データ処理部7は、車速センサ81から車両制御装置2に入力される自車両の速度、および、ステアリングセンサ82から車両制御装置2に入力される自車両の舵角などを処理に用いることができる。
【0035】
<3.物標データのパラメータ導出>
次に、レーダ装置1が物標データのパラメータ(縦距離、横距離、および、相対速度)の一部を導出する手法(原理)を説明する。
図3は、送信波TWと反射波RWとの関係を示す図である。説明を簡単にするため、
図3に示す反射波RWは理想的な一つの物標のみからの反射波としている。
図3においては送信波TWを実線で示し、反射波RWを破線で示す。また
図3の上部において、縦軸は周波数(GHz)横軸は時間(msec)を示している。
【0036】
図に示すように、送信波TWは、所定の周波数を中心として所定の周期で周波数が上下する連続波となっている。送信波TWの周波数は、時間に対して線形的に変化する。以下では、送信波TWの周波数が上昇する区間を「アップ区間」といい、下降する区間を「ダウン区間」という。また送信波TWの中心周波数をfo、送信波TWの周波数の変位幅をΔF、送信波TWの周波数が上下する一周期の逆数をfmとする。
【0037】
反射波RWは、送信波TWが物標で反射されたものであるため、送信波TWと同様に、所定の周波数を中心として所定の周期で周波数が上下する連続波となる。ただし反射波RWには、送信波TWに対して時間Tの時間遅延が生じる。この遅延する時間Tは、自車両に対する物標の距離(縦距離)Rに応じたものとなり、光速(電波の速度)をcとして次の数1で表される。
【0038】
【数1】
また、反射波RWには、自車両に対する物標の相対速度Vに応じたドップラー効果により、送信波TWに対して周波数fdの周波数偏移が生じる。
【0039】
このように、反射波RWには、送信波TWに対して、縦距離に応じた時間遅延とともに相対速度に応じた周波数偏移が生じる。このため
図3の下部に示すように、ミキサ53で生成されるビート信号のビート周波数(送信波TWの周波数と反射波RWの周波数との差の周波数)は、アップ区間とダウン区間とで異なる値となる。以下、アップ区間のビート周波数をfup、ダウン区間のビート周波数をfdnとする。なお、
図3の下部において、縦軸は周波数(kHz)、横軸は時間(msec)を示している。
【0040】
ここで物標の相対速度が0(ゼロ)の場合(ドップラー効果による周波数偏移がない場合)のビート周波数をfrとすると、この周波数frは次の数2で表される。
【0041】
【数2】
この周波数frは上述した遅延する時間Tに応じた値となる。このため、物標の縦距離Rは、周波数frを用いて次の数3で求めることができる。
【0042】
【数3】
また、ドップラー効果により偏移する周波数fdは、次の数4で表される。
【0043】
【数4】
物標の相対速度Vは、この周波数fdを用いて次の数5で求めることができる。
【0044】
【数5】
以上の説明では、理想的な一つの物標の縦距離および相対速度を求めたが、実際には、レーダ装置1は、自車両の前方に存在する複数の物標からの反射波RWを同時に受信する。このためフーリエ変換部62が、受信信号から得たビート信号をFFT処理した周波数スペクトラムには、それら複数の物標それぞれに対応する情報が含まれている。
【0045】
<4.周波数スペクトラム>
図4は、このような周波数スペクトラムの例を示す図である。
図4の上部はアップ区間における周波数スペクトラムを示し、
図4の下部はダウン区間における周波数スペクトラムを示している。図中において、縦軸は信号のパワー(dB)、横軸は周波数(kHz)を示している。
【0046】
図4の上部に示すアップ区間の周波数スペクトラムにおいては、3つの周波数fup1,fup2,fup3の位置にそれぞれピークPuが表れている。また、
図4の下部に示すダウン区間の周波数スペクトラムにおいては、3つの周波数fdn1,fdn2,fdn3の位置にそれぞれピークPdが表れている。なお、以下では周波数を別の単位のbin(ビン)と呼ぶことがある。1binは約467Hzに相当する。
【0047】
相対速度を考慮しなければ、このように周波数スペクトラムにおいてピークが表れる位置の周波数は、物標の縦距離に対応する。1binは、縦距離約0.36mに相当する。そして例えば、アップ区間の周波数スペクトラムに注目すると、ピークPuが表れる3つの周波数fup1,fup2,fup3に対応する縦距離の位置それぞれに、物標が存在していることになる。
【0048】
このため、物標データ導出部71(
図2参照。)は、アップ区間およびダウン区間の双方の周波数スペクトラムに関して、所定の閾値P1を超えるパワーを有するピークPu,Pdが表れる周波数を抽出する。以下、このように抽出される周波数を「ピーク周波数」という。
【0049】
図4に示すようなアップ区間およびダウン区間の双方の周波数スペクトラムは、一つの受信アンテナ51の受信信号から得られる。したがって、フーリエ変換部62は、4つの受信アンテナ51の受信信号のそれぞれから、
図4と同様のアップ区間およびダウン区間の双方の周波数スペクトラムを導出する。
【0050】
4つの受信アンテナ51は同一の物標からの反射波RWを受信しているため、4つの受信アンテナ51の周波数スペクトラムの相互間において、抽出されるピーク周波数は同一となる。ただし、4つの受信アンテナ51の位置は互いに異なるため、受信アンテナ51ごとに反射波RWの位相は異なる。このため、同一binとなる受信信号の位相情報は、受信アンテナ51ごとに異なっている。
【0051】
また、同一binの異なる角度に複数の物標が存在する場合は、周波数スペクトラムにおける一つのピーク周波数の信号に、それら複数の物標についての情報が含まれる。このため、物標データ導出部71は、方位演算処理により、一つのピーク周波数の信号から、同一binに存在する複数の物標についての情報を分離し、それら複数の物標それぞれの角度を推定する。同一binに存在する物標は、それぞれの縦距離が略同一となる物標である。
【0052】
物標データ導出部71は、4つの受信アンテナ51の全ての周波数スペクトラムにおいて同一binの受信信号に注目し、それら受信信号の位相情報に基づいて物標の角度を推定する。
【0053】
このような物標の角度を推定する手法としては、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)、および、PRISM(Panchromatic Remotesensing Instrument for Stereo Mapping)などの周知の角度推定方式を用いることができる。これにより、物標データ導出部71は、一つのピーク周波数の信号から、複数の角度、および、それら複数の角度それぞれの信号パワーを導出する。
【0054】
<5.角度スペクトラム>
図5は、方位演算処理により推定された角度を、角度スペクトラムとして概念的に示す図である。図中において、縦軸は信号のパワー(dB),横軸は角度(deg)を示している。角度スペクトラムにおいて、方位演算処理により推定された角度は所定の閾値P2を超えるピークPaとして表れる。以下、方位演算処理により推定された角度を「ピーク角度」という。このように一つのピーク周波数の信号から同時に導出された複数のピーク角度は、同一binに存在する複数の物標の角度を示す。
【0055】
物標データ導出部71は、このようなピーク角度の導出を、アップ区間およびダウン区間の双方の周波数スペクトラムにおける全てのピーク周波数に関して実行する。
【0056】
このような処理により、物標データ導出部71は、自車両の前方に存在する複数の物標それぞれに対応するピークデータを導出する。ピークデータは、上述したピーク周波数、ピーク角度、および、ピーク角度の信号パワー(以下、「信号パワー」という。)等のパラメータを有している。データ処理部7は、アップ区間およびダウン区間の双方で、このピークデータを導出する。
【0057】
物標データ導出部71は、さらに、このように導出したアップ区間のピークデータとダウン区間のピークデータとをペアリング処理により対応付ける。物標データ導出部71は、例えば、それぞれの区間のピーク角度と信号パワーとを用いて、マハラノビス距離MDを数6により算出する。
【0058】
【数6】
数6のθdは、アップ区間のピーク角度とダウン区間のピーク角度との角度差を示し、θpはアップ区間の信号パワーとダウン区間の信号パワーとのパワー差を示す。また、aおよびbは係数を示す。
【0059】
物標データ導出部71は、マハラノビス距離MDが最小値となるアップ区間およびダウン区間の2つのピークデータを対応付ける。このように物標データ導出部71は、同一の物標に関するピークデータ同士を対応付ける。これにより、物標データ導出部71は、自車両の前方に存在する複数の物標それぞれに係る物標データを導出する。この物標データは、2つのピークデータを対応付けて得られるため「ペアデータ」とも呼ばれる。
【0060】
物標データ導出部71は、物標データ(ペアデータ)の元となったアップ区間、および、ダウン区間の2つのピークデータのパラメータを用いることで、当該物標データのパラメータ(縦距離、横距離、および、相対速度)を導出できる。
【0061】
物標データ導出部71は、アップ区間のピーク周波数を上述した周波数fupとして用い、ダウン区間のピーク周波数を上述した周波数fdnとして用いる。そして、物標データ導出部71は、上述した数2および数3を用いて物標の縦距離Rを求めることができ、上述した数4及び数5を用いて物標の相対速度Vを求めることができる。
【0062】
さらに、物標データ導出部71は、アップ区間のピーク角度をθup、ダウン区間のピーク角度をθdnとして、次の数7により物標の角度θを求める。そして、物標データ導出部71は、この物標の角度θと縦距離Rとに基づいて、三角関数を用いた演算により物標の横距離を求めることができる。
【0063】
【数7】
<6.物標データ導出処理>
次に、データ処理部7が、物標データを導出して車両制御装置2に出力する物標データの導出処理の全体的な流れについて説明する。
図6は、物標データ導出処理の流れを示す図である。データ処理部7は、物標データ導出処理を、一定時間(例えば、1/20秒)ごとに周期的に繰り返す。物標データ導出処理の開始時点では、4つの受信アンテナ51の全てに関してアップ区間、および、ダウン区間の双方の周波数スペクトラムが、フーリエ変換部62からデータ処理部7に入力されている。
【0064】
まずデータ処理部7の物標データ導出部71が、周波数スペクトラムを対象に、ピーク周波数を抽出する(ステップS11)。物標データ導出部71は、アップ区間およびダウン区間のそれぞれの区間における周波数スペクトラムのうち、所定の閾値を超えるパワーを有するピークが現れる周波数をピーク周波数として抽出する。
【0065】
次に、物標データ導出部71は、方位演算処理により、抽出したピーク周波数の信号に係る物標の角度を推定する。物標データ導出部71は、同一binに存在する複数の物標それぞれの角度と、信号パワーとを導出する(ステップS12)。
【0066】
これにより、物標データ導出部71は、自車両の前方に存在する複数の物標それぞれに対応するピークデータを導出する。物標データ導出部71は、アップ区間およびダウン区間の双方で、ピーク周波数、ピーク角度、および、信号パワーのパラメータを有するピークデータを導出する。
【0067】
物標データ導出部71は、アップ区間のピークデータと、ダウン区間のピークデータとの全ての組み合わせに基づくマハラノビス距離MDを算出し、マハラノビス距離MDが最小値となる2つのピークデータを対応付けるペアリングを行う(ステップS13)。
【0068】
物標データ導出部71は、アップ区間およびダウン区間の2つのピークデータの対応付けができた場合は、それら2つのピークデータに基づくペアデータを導出する。物標データ導出部71は、導出したペアデータのそれぞれに関して、上述した演算によりパラメータ(縦距離、横距離、および、相対速度)を導出する。
【0069】
次に、物標データ導出部71は、導出したペアデータのうちから物標データの確定判定を行う(ステップS14)。物標データ導出部71が導出したペアデータには、ノイズなどの不要なデータが含まれることがある。このため、物標データ導出部71は、導出したペアデータのうちが物標に係るペアデータか否かを判定して、物標に係るペアデータのみを物標データとして確定する。
【0070】
物標データ導出部71は、過去処理で確定した物標データに対して、直近処理で所定範囲内の位置に導出されたペアデータを対応付ける。そして物標データ導出部71は、過去処理で確定した物標データと対応付けができたペアデータを物標に係る物標データとして確定する。
【0071】
また、対応付けができなかったペアデータには、直近処理で新規に導出された物標に係る物標データも含まれている。このため、物標データ導出部71は、対応付けができなかったペアデータについては、次回以降の処理において所定回数(例えば、3回)以上対応付けができた場合に、確定した物標データとして取り扱う。
【0072】
このような処理により、物標データ導出部71は、自車両の周辺の物標に係る物標データを導出する。物標データ導出処理は一定時間(例えば、1/20秒)ごとに周期的に繰り返されることから、物標データ導出部71は、物標に係る物標データを一定時間ごとに導出することになる。
【0073】
そのため、複数回の処理において、所定回数以上対応付けが行われた物標データについては、物標として確定した(ステップS15でYes)として、車両制御装置2への出力対象とすべく次の連続性判定等の処理が実行される。これに対して、対応付けが所定回数未満の物標データについては、物標として確定していない(ステップS15でNo)として処理が終了し、次回以降の処理で物標として所定回数以上の対応付けが行われているか否かが再度判定される。
【0074】
次に、物標データ処理部72は、連続性判定を行う(ステップS16)。物標データ処理部72は、過去処理で導出された物標データと、直近処理で導出された物標データとの時間的な連続性を判定する。換言すれば、物標データ処理部72は、過去処理で導出された物標データと、直近処理で導出された物標データとが同一の物標か否かを判定する。例えば、過去処理は前回の物標データ導出処理であり、直近処理は今回の物標データ導出処理である。
【0075】
なお、物標データ処理部72は、直近処理において、過去処理で導出された物標データと連続性を有する物標データが導出されていない場合、すなわち過去処理で導出された物標データの連続性がないと判定された場合、過去処理で導出された物標データのパラメータ(縦距離、横距離、および、相対速度)に基づき、直近処理で導出されていない物標データを仮想的に導出する「外挿処理」を行う。
【0076】
外挿処理により導出された仮想の物標データ(以下、「仮想データ」という。)は、直近処理で導出された物標データとして取り扱われる。そして外挿処理が、ある物標データに対して連続して複数回、あるいは比較的高い頻度で行われると、物標をロストしたとしてその物標データはメモリ63から削除される。具体的には、その物標を示す物標番号のパラメータの情報が削除され、その物標番号にはパラメータが削除されたことを示す値(削除フラグOFFを示す値)が設定される。物標番号はそれぞれの物標データを識別する指標であり、物標データごとに異なる番号が付与される。
【0077】
次に、物標データ処理部72は、過去処理および直近処理のそれぞれの処理で導出された2つの物標データのパラメータ(縦距離、横距離、および、相対速度)を時間軸方向に平滑化して物標データ導出する(ステップS17)。このようなフィルタ処理後の物標データは、瞬時値を表すペアデータに対して「フィルタデータ」とも呼ばれる。物標データ処理部72は、フィルタデータを導出した後、過去処理で導出された後端部データが直近処理で導出されていない場合、予めメモリ63に記憶した後端部データと底部データとの距離差に基づき、後端部に係る予測データを生成する。予測データの生成処理は後に詳述する。
【0078】
次に物標データ処理部72は移動物判定を行い、各物標データの移動物フラグ、および、前方車フラグを設定する(ステップS18)。移動物フラグは、当該物標データが示す物標が移動中であるか否かを示すフラグである。一方、前方車フラグは、当該物標データが示す物標が自車両と同一方向に過去に一度でも移動したか否かを示すフラグである。移動物フラグは、物標データ導出処理ごとに設定され、現時点の物標の状態をリアルタイムに表す。これに対して、前方車フラグは、時間的に連続する物標データ同士(同一の物標に係る物標データ同士)で値が順次に引き継がれる。
【0079】
物標データ処理部72は、対地速度(絶対速度)と走行方向とに基づいて、移動物フラグおよび前方車フラグを設定する。なお対地速度および走行方向は、物標データの相対速度と、車速センサ81から得られる自車両の速度とに基づいて導出される。
【0080】
物標データ処理部72は、複数の物標データを一つの物体に属するデータとして1つにまとめる結合を行う(ステップS19)。物標データ処理部72が、後端部データと底部データとを導出した場合、これらの2つのデータは同じ物体、すなわち同一車両に属する物標データである。そのため、これらの2つの物標データを1つにまとめて後端部のデータのみを車両制御装置2の出力対象とする。底部データではなく、後端部データのみを出力対象とする理由は、自車両のフロントグリル等の先端部と、先行車の後端部との縦距離を物標データのパラメータとして導出して車両制御装置2に出力することで、ACCの追従走行において自車両と先行車とが衝突しないための正確な車間距離が取得されるためである。
【0081】
そして物標データ出力部73は、予測データを含む物標データを車両制御装置2に出力する(ステップS18)。物標データ出力部73は、導出された複数の物標データから所定数(例えば、10個)の物標データを出力対象として選択し、選択した物標データのみを出力する。物標データ出力部73は、物標データの縦距離と横距離とを考慮して、自車線内に存在し、かつ、自車両に近い物標に係る物標データを優先的に選択する。
【0082】
以上のような物標データ導出処理で導出された物標データのパラメータは、それぞれの物標データを示す物標番号のパラメータとしてメモリ63に記憶され、次回以降の物標データ導出処理において過去処理で導出された物標データとして用いられることになる。
【0083】
<7.フィルタ処理>
<7−1.フィルタデータの導出と関係付与処理>
次に、フィルタの処理(ステップS17)について、
図7を用いて説明する。
図7は、フィルタの処理の流れを示す図である。最初に物標データ処理部72は、過去処理および直近処理のそれぞれの処理で導出された2つの物標データのパラメータを時間軸方向に平滑化してフィルタデータを導出する(ステップS101)。
【0084】
次に、物標データ処理部72は、関連フラグがONの物標データ(フィルタデータ)が導出されているか否かを判定する(ステップS102)。関連フラグは、後端部データと底部データとの関連付けが行われている場合に、底部データにON状態で設定されるフラグであり、後端部データと底部データとの位置関係等から、2つの物標データが同一車両に属する物標データであることを示すフラグである。時間的に連続する物標データ同士(同一の物標に係る物標データ同士)でこのフラグに関する値等が順次に引き継がれる。
【0085】
このステップS102の判定において、最初に過去処理で後端部データと底部データとの関連付けが行われていない場合、すなわち関連フラグONの物標データが導出されていない(ステップS102でNo)場合について説明する。
【0086】
物標データ処理部72は、複数のフィルタデータのうち自車両との接近により送信範囲から外れ導出不能となる可能性のある縦距離が最も小さい後端部データが存在するか否かを判定する(ステップS103)。
【0087】
この処理の具体的な処理内容を以下で説明する。物標データ処理部72は、自車両の絶対速度が所定速度(例えば、5m/s)以下の場合、すなわち自車両が前進している状態から略停止状態に至った場合に、複数のフィルタデータに対し、以下の(a1)〜(a4)の条件を満たすか否かを判定する。このように自車両の絶対速度が所定速度以下の場合に処理を行うことで、レーダ装置1の処理負荷を軽減できる。なお以下の処理では、判定の対象となるフィルタデータを対象フィルタデータという。
【0088】
(a1)縦距離≦7m
(a2)相対速度<1m/s
(a3)外挿フラグ=オフ
(a4)−1.8m≦横距離≦1.8m
(a1)および(a2)の条件により、比較的低速で走行している自車両と、対象フィルタデータが属する先行車とが、接近した状態で略同一の速度で走行していることが判定される。
【0089】
(a3)の条件により、対象フィルタデータが、外挿処理されたデータでないことが判定される。即ちこのデータが時間的な連続性を有するデータであることが判定される。
【0090】
(a4)の条件により、対象フィルタデータが、自車両の走行する自車線内に存在する物標に係るデータであることが判定される。なお、−1.8mは、自車両が車線の略中央を走行する場合のその車線の左端までの距離であり、1.8mは右端までの距離である。
【0091】
そして、対象フィルタデータが(a1)〜(a4)の条件を全て満足する(ステップS103でYes)ことで、そのフィルタデータは、自車両との接近により送信範囲から外れ導出不能となる可能性のある縦距離が最も小さい後端部データと判定される。後端部データと判定されたデータの物標番号には、後端部データであることを示す指標がメモリ63に記憶される。
【0092】
なお、上述では(a1)〜(a4)の条件を全て満足するフィルタデータが1つと仮定して説明したが、4つの条件を全て満足するフィルタデータが複数存在する場合、連続性判定において連続性ありとされた回数が多いフィルタデータが、後端部データと判定される。連続性の回数が少ないフィルタデータに係る物標よりも、連続性の回数の多いフィルタデータに係る物標の実際に存在する可能性が高いためである。また(a1)〜(a4)の条件を一つでも満足しない場合(ステップS103でNo)、物標データ処理部72は、自車両との接近により送信範囲から外れ導出不能となる可能性のある後端部データは存在しないと判定し、フィルタ処理を終了する。
【0093】
次に、物標データ処理部72は、複数のフィルタデータのうち、ステップS103で導出された後端部データに対応する同一物体の底部データが存在するか否かを判定する(ステップS104)。
【0094】
この処理の具体的な処理内容を以下で説明する。物標データ処理部72は、上述の後端部データと判定されたフィルタデータ以外の複数のフィルタデータに対し、以下の(b1)〜(b4)の条件を満たすか否かを判定する。
【0095】
(b1)0.5m≦対象フィルタデータの縦距離−後端部データの縦距離≦3m
(b2)|対象フィルタデータの相対速度−後端部データの相対速度|≦1m/s
(b3)外挿フラグ=オフ
(b4)−1.8m≦横距離≦1.8m
(b1)および(b2)の条件により、対象フィルタデータに係る物標が、後端部データよりも自車両から離れた位置に存在し、後端部データが属する物標(先行車)と同じ物標に属するフィルタデータであることが判定される。
【0096】
(b3)の条件により、対象フィルタデータが、外挿処理されたデータでないことが判定される。即ちこのデータが時間的な連続性を有するデータであることが判定される。
【0097】
(b4)の条件により、対象フィルタデータが、自車両の走行する自車線内に存在する物標に係るデータであることが判定される。
【0098】
そして、対象フィルタデータが(b1)〜(b4)の条件を全て満足する(ステップS104でYes)ことで、フィルタデータはステップS103で導出された後端部データに対応する同一物体の底部データに該当すると判定される。物標データ処理部72の関係付与部72aは、次いで底部データと判定されたデータを示す物標番号のパラメータに、ステップS103で導出された後端部データの物標番号を記憶する(ステップS105)。言い換えると関係付与部72aは、後端部データと底部データとの2つのフィルタデータを関連付ける。そして関係付与部72aは、底部データのパラメータに、後端部データと底部データとが関連付けられたことを示す値(関連フラグONを示す値)を設定する(ステップS106)。このように関連フラグがONに設定される底部データは、1つのデータのみである。底部データに該当したフィルタデータの関連フラグがONに設定されるためには、後端部データと関連付けられる必要があり、後端部データに該当するデータは、縦距離が最も小さい物標データのためである。
なお、上述では(b1)〜(b4)の条件を全て満足するフィルタデータが1つと仮定して説明したが、4つの条件を全て満足するフィルタデータが複数存在する場合、連続性判定において連続性ありとされた回数が多いフィルタデータが底部データと判定される。また(b1)〜(a4)の条件を一つでも満足しない場合(ステップS104でNo)、後端部データに対応する底部データは存在しないと判定し、フィルタ処理は終了する。
【0099】
ここで、2つのフィルタデータの関連付けの具体例について、
図8〜
図11を用いて説明する。
図8および
図9は、縦距離がある程度離れている先行車101からの反射波に基づく物標データについて説明する図である。
図8に示すように、自車線RDを走行する自車両CAは、レーダ装置1を備えており、送信波TWが自車両CAの進行方向に出力される。
【0100】
送信波TWの送信範囲には、先行車101の車体の一部が含まれている。具体的には、先行車101のリアドアやリアバンパー等が設けられた後端部RAと、バッテリ等が設けられた底部BAとが送信範囲に含まれている。そして
図9に示すように、物標データ導出部71が、先行車101の後端部RAからの直接波dwによる物標データTA1(▼)と、底部BAからのマルチパス波mwによる物標データTB1(■)とを導出する。
【0101】
このようなマルチパス波が発生する理由は、先行車101の車高がレーダ装置1の搭載高よりも高い位置となっているためである。例えば、先行車101の車高は、自車線RDの路面からリアバンパーが設けられている位置までの高さであり、レーダ装置1の搭載高は、自車線RDの路面からレーダ装置1の搭載位置までの高さである。
【0102】
図10は、後端部データとして判定される具体例を説明する図である。
図10の破線で示す判定範囲D1は、(a1)および(a4)の条件に基づく範囲であり、レーダ装置1の位置を縦方向の距離0mとした場合、縦方向の距離L1が7mとなる。また、横方向の距離S1は自車線RDの車線幅に相当し3.6mとなる。
【0103】
物標データTA1の位置が、
図10に示すように判定範囲D1の範囲内にあれば、(a1)および(a4)の条件が満たされ、その他の(a2)の相対速度の条件と、(a3)の外挿処理が行われていない条件とが満たされることで、物標データTA1は後端部データTA1と判定される。
【0104】
次に、
図11は、底部データとして判定される具体例を説明する図である。
図11に示す自車線RD内に導出されている物標データTB1と、物標データTA1との縦方向の距離差Laが0.5m以上〜3m以下の場合、(b1)および、(b4)の条件が満たされ、その他の(b2)の相対速度の条件と、(b3)の外装処理が行われていいない条件とが満たされることで、物標データTB1は底部データTB1に該当すると判定される。
【0105】
図7のステップS106の処理に戻り、関係付与部72aが底部データに該当するフィルタデータの関連フラグをONに設定した(ステップS106)後、距離差算出部72bは、底部データTB1の縦距離から後端部データTA1の縦距離を減算した値である距離差を算出し、この距離差を底部データTB1のパラメータとしてメモリ63に記憶して(ステップS107)、フィルタ処理を終了する。これにより、先行車101に属する縦距離の異なる後端部データTA1と底部データTB1との互いの位置関係が、メモリ63に記憶される。そして、この2つのデータの位置関係を示す距離差の情報は、関連フラグのON/OFFを示す値とともに底部データTB1と連続性を有するフィルタデータに引き継がれる。
【0106】
<7−2.予測データの生成>
次に、これまで説明した物標導出処理を過去処理と仮定し、直近処理のステップS101の処理で、過去処理の底部データTB1と連続性を有する底部データTB2が導出されたとして説明を続ける。なお底部データTB2は、過去処理で導出された底部データTB1から関連フラグONを示す値と距離差の情報とを引き継いでいる。
【0107】
ステップS102の処理において、底部データのTB2の関連フラグはONである(ステップS102でYes)ため、物標データ処理部72は、底部データTB2の縦距離が所定距離(例えば、10m)未満か否かを判定する(ステップS108)。
【0108】
そして、物標データ処理部72は、底部データTB2の縦距離が所定距離、例えば10m未満の場合(ステップS108でYes)、後端部データTA1と連続性を有するフィルタデータ(後端部データTA2)が、導出されているか否かを判定する(ステップS109)。
【0109】
詳細には、底部データTB1と関連付けられた後端部データTA2が、直近処理よりも前の物標導出処理で導出されず、その処理以降、複数回の処理で外挿処理を繰り返した場合、その物標をロストしたと判断され後端部データTA2を示す物標番号に、パラメータが削除されたことを示す値(削除フラグONを示す値)が設定される。物標データ処理部72は、後端部データTA2を示す物標番号に削除フラグONを示す値が設定されているか否かを判定する。
【0110】
後端部データTA2を示す物標番号に削除フラグONを示す値が設定されている場合(ステップS109でYes)、物標データ処理部72の位置予測部72cは、後端部データTA2が自車両CAとの接近により送信範囲から外れ導出不能となったと判断し、直近処理の底部データTB2の位置と、底部データTB2に引き継がれた距離差とを用いて、後端部データTA2の予測データを生成する(ステップS110)。
【0111】
これにより、レーダ装置1は、実際には存在するが導出されていない先行車101の後端部データのTA2の正確な位置を予測できる。またレーダ装置1は、自車両CAの車速が所定速度以下の場合で、かつ、後端部データTA1と底部データTB1との関連付けが行われた以降の限定的な場合に、このような予測データを生成することで、処理負荷を軽減できる。
【0112】
ここで、予測データを生成する具体例について、
図12〜
図14を用いて説明する。
図12および
図13は、縦距離が近づいた先行車101からの反射波に基づく物標データについて説明する図である。
図12に示すように、自車両CAが先行車101に近づくことで、後端部RAが送信波TWの送信範囲外となる。その結果、
図13に示すように、物標データ導出部71は、底部BAからのマルチパス波mwによる物標データTB2(■)を導出する。なお、この物標データTB2は物標データTB1と連続性を有するフィルタデータである。そのため物標データTB2は、底部データTB1と連続性を有する底部データTB2ともいえる。
【0113】
図14は、後端部データTAの予測データが生成された状態を示す図である。
図14の左図に示すように、直近処理において、後端部データTA2は導出されておらず、底部データTB2のみが導出されている。このような場合に、
図14の右図に示すように、位置予測部72cが底部データTB2の位置と距離差の情報を用いて後端部データTA2の予測データを生成する。なお、この予測データのパラメータの縦距離は、底部データTB2の縦距離から距離差を減算した値である。なお、縦距離の値が異常値となることを防止するため、予測データの縦距離の最低値が0.5m以上となるように条件を設定してもよい。また、距離差は、後端部データと底部データが共に導出されている場合に、時間的に連続する距離差の平均値あるいは、なまし値としてもよい。さらに、その他のパラメータである横距離や相対速度は、底部データTB2と同じ値が採用される。
【0114】
このように同一車両に属する2つの異なる位置の物標データの位置関係を予め取得し、2つの物標データの位置関係が常に一定であることを利用することで、一方の物標データが導出されない場合でも、他方の物標データの位置に基づき一方の物標データの正確な位置を予測できる。
【0115】
これにより、レーダ装置1は先行車101に接近してその後端部RAを導出できない状態になった場合であっても、先行車101の後端部RAの正確な位置を導出できる。また車両制御装置2は、先行車101の後端部に基づく車両制御を行うことができ、自車両と先行車との衝突を防止し、ユーザに対する車両の安全性を向上できる。
【0116】
図7のステップS108に戻り、底部データTB2の縦距離が10m以上の場合(ステップS108でNo)、物標データ処理部72は、底部データTB2のパラメータに後端部データとの関連付けがないことを示す値(関連フラグOFFを示す値)を設定する(ステップS111)。底部データTB2の縦距離が10m以上となるときは、上述の
図8で示したように送信波TWの送信範囲に後端部RAも含まれるため、後端部データTA2が導出されることとなる。このように実際に後端部データTA2が導出される状態の場合、位置予測部72cは予測データの生成を停止する。これによりレーダ装置1は、後端部データTA2のより正確な位置を導出できるとともに、処理負荷を軽減できる。
【0117】
<7−3.予測データ生成の効果>
次に、後端部データTA1と底部データTB1との関連付けに基づく、後端部データTA2の予測データの生成の効果について、
図15および
図16を用いて説明する。
図15は、予測データの生成の処理を導入する前(従来)のフィルタデータの導出状況を示す図である。
【0118】
図15(a)は、結合前のフィルタデータの導出状況を示すグラフであり、
図15(b)は、結合後のフィルタデータの導出状況を示すグラフである。各グラフの縦軸はフィルタデータの縦距離(m)を示し、横軸は物標導出処理の時間(msec)を示す。
【0119】
図15(a)の実線で示す推移線LA1およびLA2は、後端部データTA2を含む後端部データTA1と連続性を有するフィルタデータ(後端部データTA)の縦距離の推移を示し、実践で示す推移線LBは、底部データTB2を含む底部データTB1と連続性を有するフィルタデータ(底部データTB)の縦距離の推移を示す。
【0120】
時刻t0〜t1まで、先行車101が自車両CAに徐々に近づくにつれて推移線に示すように2つのフィルタデータの縦距離が小さくなる。そして、時刻t1以降、後端部データTAの縦距離約1.5m以下となると、後端部データTAが導出されない状態が時刻t2まで継続する。自車両CAと先行車101との距離が近づいたことにより、後端部RAが送信範囲外となったためである。なお、推移線LBに示すように底部データTBは、縦距離約2.5mの位置で導出され、時刻t2まで連続性を有した状態で導出される。
【0121】
そのため、
図15(b)の時刻t0〜t1までは、推移線LA1に示すように結合により後端部データTAが先行車101に係る物標データとして車両制御装置2に出力され、後端部データTAの縦距離に基づき車両制御が行われる。しかし、時刻t1〜t2までは、推移線LB1に示すように結合により底部データTBが先行車101の物標データとして車両制御装置2に出力され、底部データTBの縦距離に基づき車両制御が行われる。
【0122】
先行車101の底部BAは、後端部RAよりも自車両CAの位置から離れた位置に存在する。そのため、車両制御装置2が底部BAの位置によりACCの制御に基づく車両制御を行うと、自車両CAと先行車101とが衝突する可能性がある。
【0123】
なお、
図15(a)および(b)の時刻t2以降は、例えば先行車101が前進し、自車両CAとの縦距離が大きくなることで、後端部RAが送信範囲内となり、後端部データTAの導出が再開される。その結果、推移線LA2に示すように後端部データTAの縦距離が導出され、車両制御装置2は、後端部データTAに基づく車両制御を行う。
【0124】
図16は、予測データの生成処理を導入した後(本実施の形態)のフィルタデータの導出状況を示す図である。
図16(a)は、結合前のフィルタデータの導出状況を示すグラフであり、
図16(b)は、結合後のフィルタデータの導出状況を示すグラフである。
【0125】
図16(a)の実線で示す推移線LAは、後端部データTAの縦距離の推移を示し、一点鎖線で示す推移線LBは、底部データTBの縦距離の推移を示す。時刻t1までは
図15で説明した内容と同様である。
【0126】
次に時刻t1〜t2では、後端部データは導出されないが、位置予測部72cが後端部データTAの位置を予測した予測データを生成するため、この予測データに基づく後端部データTAの縦距離が導出されている。また、
図16(b)では、結合後、推移線LAに示すように後端部データTAが先行車101に係る物標データとして車両制御装置2に出力される。そのため、車両制御装置2は、時刻t1〜t2の間は、後端部データが導出されない状態であっても、後端部データTAの予測データに基づき車両制御を行え、時刻t0〜t1の間、および、時刻t2以降は、実際に導出された後端部データTAに基づき車両制御を行うことができる。その結果、車両制御装置2はACCの制御において、先行車101の後端部RAの位置を先行車101の位置として制御を行うことができ、自車両CAと先行車101との衝突の可能性がなくなり、ユーザに対する車両の安全性を向上できる。
【0127】
<8.まとめ>
以上のように、本実施の形態では、レーダ装置1の物標データ導出部71が、先行車101の後端部データTAと底部データTBとを導出している場合に、物標データ処理部72の関係付与部72aが、後端部データTAと底部データTBとを予め関係付けておき、距離差算出部72bが2つのデータの縦距離差を算出する。そして、自車両CAと先行車101とが近づき先行車101の後端部RAがレーダ装置1の送信範囲外となり、後端部データTAが導出されない場合に、位置予測部72cが、底部データTBの位置と2つのデータの距離差とを用いて、後端部データTAの予測データを生成する。これにより、レーダ装置1は、実際には存在するが導出されていない先行車101の後端部データTAの正確な位置を予測できる。また車両制御装置2は、先行車101の後端部RAに基づく車両制御を行うことができ、自車両CAと先行車101との衝突を防止し、ユーザに対する車両の安全性を向上できる。
【0128】
また、先行車101が前進する等して、底部データTBの縦距離が所定距離以上となった場合、後端部データTAが送信範囲内となるため、位置予測部72cは、後端部データTAの予測データの生成を停止する。これによりレーダ装置1は、実際に導出された後端部データTAに基づき、より正確な後端部の位置を導出でき、処理負荷を軽減できる。
【0129】
<9.変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。以下では、このような変形例について説明する。上記実施の形態及び以下で説明する形態を含む全ての形態は、適宜に組み合わせ可能である。
【0130】
上記実施の形態では、底部データTB2の縦距離が所定距離(例えば、10m)以上の場合(ステップS108でNo)、物標データ処理部72は、底部データTB2のパラメータに後端部データとの関連付けがないことを示す値(関連フラグOFFを示す値)を設定する(ステップS111)ことについて説明した。このような条件に加えて、物標データ処理部72は、予測データ生成後、後端部データTA2が予測位置近傍に実際に導出された場合に、底部データTB2のパラメータに関連フラグOFFを示す値を設定するようにしてもよい。これによりレーダ装置1は、予測データの生成を停止する適正なタイミングを確実に判断できる。
【0131】
また、上記実施の形態では、縦距離等を用いた各条件において、具体的な値に基づく判定について説明した。これに対して、各条件におけるこれらの値はその条件の目的を満足する値であればその他の値であってもよい。
【0132】
また上記実施の形態では、レーダ装置1の送信アンテナ40の本数は1本、受信アンテナ51の本数は4本として説明した。このようなレーダ装置1の送信アンテナ40および受信アンテナ51の本数は一例であり、複数の物標データを導出できれば他の本数であってもよい。
【0133】
また上記実施の形態では、レーダ装置1は車両の前部(例えばフロントグリル内)に設けられると説明した。これに対してレーダ装置1は、車両外部に送信波を出力できる箇所であれば、車両の後部(例えばリアバンパー)、左側部(例えば、左ドアミラー)、および、右側部(例えば、右ドアミラー)の少なくともいずれか1ヶ所に設けてもよい。
【0134】
また上記実施の形態では、送信アンテナからの出力は、電波、超音波、光、および、レーザ等の物標データを導出できる方法であればいずれを用いてもよい。
【0135】
また上記実施の形態では、レーダ装置1は車両以外に用いられてもよい。例えばレーダ装置1は、航空機および船舶等に用いられてもよい。
【0136】
また上記実施の形態では、プログラムに従ったCPUの演算処理によってソフトウェア的に各種の機能が実現されると説明したが、これら機能のうちの一部は電気的なハードウェア回路により実現されてもよい。また逆に、ハードウェア回路によって実現されるとした機能のうちの一部は、ソフトウェア的に実現されてもよい