【実施例1】
【0018】
本発明に係るヒュームフードの稼動状態出力装置を
図1から
図10を参照して説明する。なお、排気装置としてヒュームフードを例に説明する。ヒュームフード1は、什器本体2の内部に作業空間3を有し、この作業空間3内の空気を排気するための排気装置30に接続される排気口4が什器本体2の上部に設けられている。なお、什器本体2の作業空間3の下方に設けられる台座はその図示を省略している。排気装置30は、排気口4に接続される活性炭フィルタを有する乾式スクラバー31、部屋の壁34を貫通して設けられ乾式スクラバー31に接続される排気ダクト32、室外に設けられ排気ダクト32に接続される排気ファン33により構成される。更に、排気ファン33は、ファンのプーリと電動機のプーリとがVベルトを介して接続されており、電動機はインバータによりPWM制御されるものである。
【0019】
什器本体2の前面側には、その上方に強化ガラス等で構成された固定ガラス板5が固定されている。また、固定ガラス板5の下方位置には、什器本体2の開口8を開閉するために昇降される昇降扉6が設けられている。更に、この昇降扉6は、固定ガラス板5と同様に強化ガラス等で構成された昇降ガラス板7を有しており、この昇降ガラス板7の下端縁には、使用者が把持する把持片6aが取り付けられている。使用者は、この把持片6aを掴んで昇降扉6を昇降させることで、什器本体2の開口8を開閉させることができる。
図1は昇降扉6が約3分の1上昇した状態を示している。
【0020】
実験をする際には、操作ボタン25を操作し、排気ファン33や図示しない照明を作動させた後、所望の位置まで昇降扉6を上げ、開口8から手を挿入し、作業空間3内において揮発性の薬品などを用いて実験を行う。制御部50は、昇降位置を検出する扉位置センサ6b(稼動データ検出手段)からの昇降位置(L)信号を入力し、予め記憶部52に記憶されている開口8の幅Wに乗算し、開口8の開口面積S(=L×W)を求める(ステップ1)。この開口面積Sから開口8における目標値である面風速1.0m/sを実現するための排気ファン33の電動機をPWM制御する際の周期(パルス幅)を求め(ステップ2)、この周期により電動機を制御する(ステップ3)。なお、目標値である面風速は、予め固定値を設定しておいてもよいし、使用する薬剤等に応じた適切な値を操作ボタン25から入力してもよい。いずれにしても、法規制例えば0.5m/s以上、使用する薬剤、電動機の消費電力等を考慮して設定すればよい。
【0021】
また、ヒュームフード1の制御部50は、タブレット端末100からの要求信号100Aを受け取ると、ヒュームフード1の稼動データを応答信号1Aとして返信する。タブレット端末100は、ヒュームフード専用の端末であってもよいし、アプリケーションをインストールして使用する汎用の端末であってもよい。
【0022】
次いで、タブレット端末100の画面について説明する。
図2(a)に示すホーム画面では、「製品情報」、「面風速」、「履歴」及び「メンテナンス」のアイコンが表示されており、各アイコンはタッチすることにより操作が可能となるGUI(グラフィカルユーザインタフェース)として機能する。各アイコンをタッチすることにより、
図2(b)〜
図2(e)の画面に切り替わる。
【0023】
図2(b)は製品情報を示す画面であり、ヒュームフード1のコード、製造ロットNo、当該タブレット端末100にインストールされたソフトウェアのヴァージョン等の情報が表示される。
図2(c)は、面風速を数値による現在値とグラフによるトレンドを示すものである。ヒュームフード1に面風速表示の機能が無くても面風速を把握することができ、モニターとして使用できる。また、グラフと共に現在値を数字により示すから、直感的に現在の面風速とそのトレンドを把握することができる。
【0024】
図2(d−1)、(d−2)は、履歴を示す画面であり、
図2(d−1)に示す画面は、ヒュームフード1の累積稼動時間(例えば排気ファン33の累積稼動時間)、昇降扉6を吊架するワイヤーの累積移動距離を示しており、
図2(d−2)に示す画面は、開口8における面風速として、2つの選択された時刻間(詳細は後述する。)における面風速の平均、標準偏差σ、警告値、注意値の回数を表示している。履歴を示すことにより、稼動状況、使用環境を把握できる。
【0025】
図2(e)は、メンテナンスの時期を示す画面であり、現在から何ヶ月後にメンテナンスが必要であるかという予知を要素毎に示すものである。この予知は、稼動データを基準値と比較することにより、交換が必要となるヒュームフード1の要素を事前に特定することが可能となる。また、この画面では、メンテナンスが必要な要素を現在時刻から近い順に並べるから、その把握が容易である。
【0026】
また、定期メンテナンスが6ヶ月であり、それよりも短い時期にメンテナンスが必要な要素、この場合フィルタを他の要素と識別可能な表示例えばハイライト、異なる色とすることが好ましい。このようにすることで、
図2(e)に示した3ヵ月後のフィルタ交換を使用者に強く促すことが可能となる。また、使用者では対処が困難な排気ダクト32を含む清掃が8ヶ月後であることが分かる。このことから、フィルタ交換を使用者が行うとして、次回の定期メンテナンスを通常の6ヶ月に代えて8ヶ月とすることも可能であり、稼働状況や使用環境に合わせて適時なメンテナンスが可能となる。なお、法規により定められた期間例えば12ヶ月を超えない範囲で選定することは当然である。このことから、12ヶ月よりも長いメンテナンス時期を示すものについては、12ヶ月以上という表示をしている。なお、これに代えて実際に演算により得られた「30ヶ月後」等の表示としてもよい。
【0027】
図3を参照し、制御部50は、CPUを有する演算処理部51、フラッシュメモリを有し各種データを記憶する記憶部52、センサ等から信号(データ)を入力する入力部53、外部のタブレット端末100と無線通信を行う送受信部54(稼動状態出力手段)から構成されている。入力部53は、入力ポート53aから、扉位置センサ6bの扉昇降位置信号の他、排気ダクト32内に設けた風速センサ32bの風速信号、排気ファン33の電動機の駆動信号(PWM信号)等を入力する。扉位置センサ6b、風速センサ32b、及びこの駆動信号を出力する手段は、稼動データ検出手段である。
【0028】
次いで、演算処理部51により記憶部52にデータを記憶させる手順の例を説明する。
図5を参照し、時刻t1はヒュームフード1を新設し稼動を開始した時刻2013年12月20日12時00分、時刻t2は時刻t1から6ヶ月後の初回のデータサンプリング時の時刻2014年6月20日12時00分である。ここで、データサンプリングとは、選択された2つの時刻間における稼動データのサンプリングを意味する。例えば定期メンテナンスの際にデータサンプリングを行うから、以下、データサンプリング時として定期メンテナンス時の時刻を例に説明する。時刻t3、t4、t5は、それぞれ時刻t2、t3、t4から6ヶ月後の時刻である。ここで、定期メンテナンスの間隔である隣接する2つの時刻は選択された2つの時刻である。また、T1、T2、T3、T4は、選択された2つの時刻間(以下単に区間ともいう。)である。
【0029】
図4、
図5は、現在時刻が定期メンテナンス時の時刻t2であり、稼動状態として、開口8における面風速に関するものであり、テーブル8T1、8T2、8T3、8T4は、それぞれ選択された2つの時刻間T1、T2、T3におけるデータを記憶する。現在時刻は時刻t2であるから、テーブル8T1のみにデータが記憶されている。面風速の第2閾値8ref2は、0.5m/sであり、これ未満であると(異常側の値であると)、インジケータ13の一部を赤色点滅させて警報を行う値Aである。第1閾値8ref1は、第2閾値8ref1よりも大きい(正常側の値)0.5m/s以上0.6m/s未満であり、注意すべき値Bである。これら警報を行う値A、注意すべき値Bは、障害を発生する可能性が高い要素に関連する値として時刻と共にテーブル8T1の形式で記憶させる。なお、時刻と共に面風速を例えば1分毎に記憶するようにしても良いが、障害を発生する可能性が高い要素に関連する値のみを記憶すると記憶部52を占有する領域が少なく好ましい。
【0030】
また、タブレット端末100に履歴を表示するには、
図4(a)のテーブル形式に加えて、
図4(b)に示す区間毎の稼動データや、
図5に示す時系列グラフの形式が履歴やトレンドの把握が容易であるという観点からは好ましい。このような表示形式に変換するための演算は、演算処理部51で行いその結果を記憶部52に記憶させるものであっても良いし、演算の元となる稼動データを記憶部52に記憶させておき、この稼動データをタブレット端末100に応答信号として送信し(1A)、タブレット端末100の演算部により、表示形式に変換する演算をするようにしてもよい。
図5は、区間T1における面風速の内、第1閾値8ref1、第2閾値8ref2と共に、警報を行う値A、注意すべき値Bをプロットした形式の表示であるので、いずれ時点において面風速が不足乃至不足気味であったかの把握が容易である。
【0031】
図4(b)には、区間T1における種別として、警報を行う値A、注意すべき値Bの回数、区間における平均面風速、区間における面風速の標準偏差σが示されている。種別については、上述したようにして得ることが可能である。また、平均面風速は、風速センサ32bからの風速信号と開口面積Sの関係から得られた面風速の平均をとったものである。この面風速は、目標面風速となるようにフィードバック制御されるものであるから、異常がなければ略目標面風速に等しい。また、風速センサ32bからの風速信号と開口面積Sの関係から得られた面風速の標準偏差σを得ることで、面風速のばらつきを把握することができる。
【0032】
また、種別として、警報を行う値A、注意すべき値Bの回数を示すから、面風速の目標値が適切であったか否か、経年劣化によるセンサ6b、32bや排気ダクト32の汚れ、排気ファン33の性能低下等のメンテナンスの予知判断に利用することができる。例えば、これらの回数、平均値、標準偏差σを予め実験的に保持している基準値と比較することにより、メンテナンス時期を予知できる。ここで、メンテナンス時期の予知には、インジケータ13に警報を行う値Aに加えて、この値よりも大きい値(すなわち正常値側の値)である注意すべき値Bも利用しているから、予知の精度に優れる。
【0033】
次いで、予知の一手法をフィルタの交換時期を例に説明する。フィルタの標準的な交換時期に関する交換基準データが記憶部52に記憶されている。この交換基準データは、ヒュームフード1が設置される部屋の種別すなわち一般の部屋であるのかクリーンルームであるのかに関する係数K1、目標面風速に関する係数K2、面風速(風速センサ33と開口8の面積の関係から得た値)の標準偏差に関する係数K3、一日あたりの稼働時間(目標面風速となるように排気ファン33を制御している時間)に関する係数K4、エラーの割合(エラーとは上述した値A、値B)に関する係数K5、単位時間当たりの排気ファン33の駆動電力に関する係数K6を予め実験的に得たものである。これらの係数を基準となる12月に乗じ、交換時期(月)=K1×K2×K3×K4×K5×K6×12月(計算式1)により、何ヵ月後に交換が必要となるかを予知することができる。
【0034】
なお、係数K1については、ヒュームフード1を設置したときに、部屋に応じた値に予め設定しておくとよい。その他の係数K2〜K6は、ヒュームフード1を稼動することによりその稼動状態や使用環境に応じて得られる係数である。
【0035】
ここで、係数K1は、部屋内の粉塵によりフィルタの寿命が左右されるから、例えば一般的な部屋の場合には1.0、クリーンルームの場合にはクラスに応じて2.5〜4.0である。係数K2は、目標面風速が高いほどフィルタの寿命が短くなるから、目標面風速が1.5m/sのときに0.8、1.0m/sのときに1.0、0.8m/sのときに1.2m/sである。係数K3は、面風速の標準偏差が大きいほど面風速がばらついておりフィルタの寿命が短くなることが予測されるから、σ=0.3以下のときに1.0、σ=0.3を超えるときに0.9である。
【0036】
係数K4は、一日あたりの稼働時間が長いほど、フィルタの寿命が短くなり、同じ時間稼動する際には連続運転の方が継続した実験や薬品の一時的保管等フィルタに対する影響が小さいことが多いから、
図6に示すように、一日あたりの稼動時間が2時間のとき1.5、同様に6時間のとき1.0、12時間のとき0.5、24時間のとき0.2である。係数K5は、エラーが発生する要因は、ヒュームフード1自体の経年劣化や故障以外に、不慣れな使用者による不適切な作業や、空調設備など部屋の環境変化によることも多いから、エラーの割合が高いほど係数を小さくする、例えば、値Aには値Bの2倍の重み付けをしその合計が、3回以下のときは1.0、4回〜10回のときは0.9、10回以上のときは0.7とする。
【0037】
係数K6は、単位時間当たりの排気ファン33の駆動電力に関するもので、ある稼動時間が経過したときに、基準の値からの偏差に基づき修正を行うものである。
図7は、開口8の開口割合が1/3、1/4、1/6毎に累積稼動時間に対する駆動電力の基準となる値が示されている。開口割合が1/3の状態でt7時間稼動し、このときの排気ファン33の駆動電力(単位時間の駆動電力=駆動電力量/稼動時間)を排気ファン33のインバータのPWM制御の指令値から求める。求めた駆動電力W1が基準の値W0よりも大きければ、部屋内に塵が多い、ろ過を多く必要とする薬品が用いている等が原因であると推測され、偏差に応じて1.0よりも小さい値とする。求めた駆動電力が基準の値W0と同じときは1.0、基準の値W0よりも小さいときは偏差に応じて1.0よりも大きい値とする。なお、
図6、
図7に示すデータはいずれも実験等により予めその基準データとして作成しておく。
【0038】
例えば、2014年6月20日の初回の定期メンテナンス時(
図2(d−1)の時刻t2)における予知について説明する。係数K1は1.0である。ヒュームフード1は一般の部屋に設置されているからである。係数K2は1.0である。6ヶ月間の稼動時における平均面風速1.0m/s(
図2(d−2))は目標面風速1.0m/sに等しいからである。係数K3は0.9である。面風速の標準偏差0.6(
図2(d−2))は基準となる0.3よりも大きいからである。係数K4は0.9である。6ヶ月間の累積稼働時間は1234時間(
図2(d−1))であるから一日あたりの稼働時間は6.9時間であり、基準となる6時間よりも長いからである。係数K5は0.95である。エラーの割合である重み付けをした合計回数は9回であり、基準となる3回よりも多いからである。係数K6は0.95である。1日あたり6時間稼動したときの6ヶ月間の排気ファン33の駆動電力量の基準となる値は450kW・hであるのに対し、実際の6ヶ月間の排気ファン33の駆動電力量は630kW・hであった。そして単位時間あたりの電力0.51kW(=630kW・h/1234h)は、基準となる電力0.41kW(=450kW/(6h*183日))よりも大きいからである。
【0039】
以上の係数K1〜K6を計算式1にあてはめると、交換時期(月)=1.0×1.0×0.9×0.9×0.95×0.95×12月となり8.8月となる。そして、現時刻t2までに6ヶ月経過しているから、今後もヒュームフード1を期間T1と同様に使用したと仮定して、2.8ヶ月後にフィルタを交換すれば良いと判断できる。3ヵ月後の交換を示す「3月」をタブレット端末100に表示する(
図2(e))。なお、表示する月数をより安全サイドにたって「2月」としても良い。
【0040】
なお、以上では、説明を単純化するために、期間T1に渡って、開口8の開口割合が一定、目標面風速が一定の場合について説明したが、期間内において、開口8の開口割合や目標面風速が変わることもあるが、その場合には、それぞれの稼動条件で稼動した時間に応じて、係数K2〜K6を得るためのパラメータに重みをつけて求めればよい。また、排気ダクト32の清掃が必要な時期や排気ファン33のメンテナンス時期についても同様にして推測(予知)することができる。排気ファン33のメンテナンスとしては電動機側プーリとファン側プーリ間のVベルトの張りや磨耗、ファンや電動機の発熱、振動、異音、潤滑オイルの注入量の確認などである。
【0041】
次に、昇降扉6の吊架線材であるワイヤーの交換時期の予知について説明する。交換時期の予知の説明に先立って、ヒュームフード1における開閉扉6の吊架に関する構造について簡単に説明する。
【0042】
図8及び
図9は昇降扉6が全閉した状態を示している。昇降扉6は、その左右下端がワイヤー等で構成された吊架線材9,9に接続された状態で吊架されている。
図1に示すように、昇降扉6を吊架する左右一対の吊架線材9,9は、複数の滑車10を介して什器本体2の一方の側部(本実施例では左側部)に設けられた重量のある金属板等で構成される錘11に接続されている。この錘11の重量と昇降扉6の重量とを同一にしてバランスを取ることで、使用者が昇降扉6を軽い力で昇降できるようになっている。
【0043】
什器本体2の前面側の上部位置は、開閉可能な化粧パネル12で覆われている。また、この化粧パネル12を開放することで、什器本体2の上部位置にある吊架線材9、滑車10及び制御基部50を実装した制御基板等のメンテナンスを行うことができる。更に、化粧パネル12には、ヒュームフード1の作動状態を点灯、点滅、セグメントによる文字表示により示す複数のインジケータ13が設けられており、このインジケータ13の点灯を制御する点灯基板(図示略)が化粧パネル12の裏面側に設けられている。また、什器本体2の前面側の右側のパネルには、ヒュームフード1の電源スイッチ、照明の電源スイッチ等の操作ボタン25が設けられている。
【0044】
図9に示すように、固定ガラス板5及び昇降扉6は、什器本体2の開口の左右側辺に設けられる左右一対のレール部材14に保持されている。また、昇降扉6は、レール部材14内に配置される落下防止装置を介して吊架線材9に吊架されている。この落下防止装置は、昇降扉6の左右下端のそれぞれに設けられ、吊架線材9が切断されたり、吊架線材9が錘11から外れたりした場合などの非常時に作動して、昇降扉6の落下を防止するために設けられている。
【0045】
また、昇降扉6を上昇させて所定の開口量(約3分の1)まで開放した状態で、使用者が作業空間3内に手を差し入れて実験を行うようにしている。なお、作業空間3内で行う実験は、排気装置を作動させながら行うようになっており、昇降扉6下方の開口から作業空間3内に空気が給気されるとともに、作業空間3内の空気が排気口4を通じて排気されるようになっている。このように作業空間3内を流れる空気は、常に一方向に流れるようになっており、作業空間3内で発生したガス等が使用者に向かって逆流しないようになっている。
【0046】
また、昇降扉6が一定の開口量以上に開かれると、昇降扉6下方の開口から流れ込む給気量が排気量を上回り、作業空間3内の空気が使用者側に向かって逆流してしまう虞がある。これを防止するめに、昇降扉6が一定の開口量以上に開かないように規制するストッパ部材16が設けられている。なお、ストッパ部材16は、什器本体2の開口の左右側辺のうち左方側にのみ設けられている(
図2参照)。また、作業空間3内の清掃やメンテナンスを行う際には、ストッパ部材16を操作すると昇降扉6の規制状態を解除できるようになっており、昇降扉6を全開させることができる。
【0047】
前述のとおり、昇降扉6を所定の開口量(約3分の1)まで開放した状態で、使用者が作業空間3内に手を差し入れて実験を行うため、昇降扉6を吊架する吊架線材9の健全性は、作業者の安全にかかわる。そこで、本発明のヒュームフードは、前面扉の昇降に基づく吊架線材9の交換時期を判定する交換時期を判定できるようにした。以下、演算処理部51が行う交換時期の判定について説明する。
【0048】
吊架線材の移動に伴うプーリ41の回転を検出するプーリ回転検出手段40を有し、プーリ回転検出手段40の出力からプーリ41の回転停止の回数の積算値またはプーリ41の回転角の積算値を演算し、前記積算値と、プーリの回転停止の回数の許容値Nwまたはプーリの回転角度の許容値Lwとを比較して、吊架線材9の交換時期を判定するものである。
【0049】
プーリ回転検出手段40により求められたプーリの回転停止の積算値Nsまたはプーリの回転角度の積算値Lsが、吊架線材の交換時期に達しているか否かを判定するために、プーリの回転停止の回数の許容値Nw、プーリの回転角度の許容値Lwを求める必要がある。以下、プーリの回転停止の回数の許容値Nwと、プーリの回転角度の許容値Lwを求める方法について説明する。
【0050】
吊架線材9の寿命は、理論的に決めることが困難なため、実験的に決めている。吊架線材に荷重を加えた状態で、プーリ上に吊架線材を繰り返し移動させることにより、吊架線材が破断に至るまでのプーリの回転停止の回数の積算値とプーリの回転角度の積算値を個別に求めている。昇降扉の大きさによって、吊架線材に加わる荷重が異なるため、荷重の大きさも変えて、データを採取し、さらに安全率を加味して、プーリの回転停止の回数の許容値Nwまたはプーリの回転角度の許容値Lwをデータベース化している。
【0051】
演算処理部51は、プーリの回転停止の積算値Nsまたはプーリの回転角度の積算値Lsと、実験的に求めたプーリ41の回転停止の回数の許容値Nwまたはプーリ41の回転角度の積算値の許容値Lwを比較し、前記積算値Ns、Lsが、許容値Nw、Lwに達すると吊架線材9の交換時期に達したと判定する。
【0052】
演算処理部51は、吊架線材9の交換時期に達したと判定すると、交換時期に達したことをインジケータ13に表示し、使用者に交換時期を知らせる。また、吊架線材9の交換時期と達したと判定すると、警報を発する報知手段を備えている。警報は、警報音のほか、警告灯、表示による報知を使用することができる。
【0053】
さらに、演算処理部51は、プーリ41の回転停止の積算値Nsまたはプーリ41の回転角度の積算値Lsと、プーリ41の回転停止の回数の積算値の許容値Nwまたはプーリ41の回転角度の積算値の許容値Lwと比較し、吊架線材9の交換が必要となるまでの昇降扉の昇降回数を表示させる手段も備えている。作業者は、吊架線材9の交換が必要となる時期を事前に予測できるので、メンテナンスが必要となる時期を考慮して、吊架線材等の準備をすることが可能となる。
【0054】
このように、演算処理部51が、プーリ41の回転停止の回数の積算値またはプーリ41の回転角の積算値に基づいて、吊架線材の交換時期を判定するので、使用者は、適正な交換時期を把握でき、使用者の安全を確保できる。また、従来のように吊架線材の使用頻度が少ない状態で交換することがなくなり、ランニングコストを低減できる。
【0055】
以上では、演算処理部51が交換時期を判定するものについて説明したが、タブレット端末100から要求されたとき(100A)に、送受信部54がプーリ41の回転停止の回数の積算値、回転角度の積算値を送信し(1A)、交換時期の判定をタブレット端末100で行いその結果をタブレット端末100の画面に表示するものであってもよい。
【0056】
また、上述に加えて、演算処理部51は、扉位置センサ6bの扉昇降位置信号から、1時間毎の昇降扉6の開閉回数、昇降距離及び累積開閉回数、累積昇降距離を求め、時刻と共に記憶部52に記憶させる。例えば、
図10に示すように、開閉回数及び累積開閉回数を時刻と共に記憶させる。
図10において、テーブル6T2は、2014年6月20日12時00分から2014年12月20日12時00分までの6ヶ月間のデータを1時間毎に記憶するものを示している。1時間毎に開閉回数と、累積開閉回数を記憶させているから、このデータをもとに時間を横軸とし縦軸を回数としてグラフ化すれば、ヒュームフード1の稼動状態を簡単に把握することができる。なお、
図10中6T1、6T2、6T3、6T4はそれぞれ区間T1、T2、T3、T4におけるデータである。現在時刻が時刻t3であるから、テーブル6T1、6T2にデータが記憶されている。また、記憶部52の記憶領域の占有量を減らすという観点からは、区間T1における開閉回数の合計値と開閉回数の累積の合計値のみを記憶させるものであってもよい。
【0057】
以上述べたように、本発明のヒュームフード1の稼動状態出力装置は、稼動データ記憶装置から、選択された2つの時刻間T1、T2・・・のいずれかにおける稼動データを出力可能になっている稼動状態出力手段とを備えたから、2つの時刻間におけるヒュームフードの稼動状態、使用環境を把握できる。例えば、その把握により、ヒュームフードの次回のメンテナンス時期を決定できる。
【0058】
また、2つの選択された時刻の一方の時刻がヒュームフード1を新設した時刻t1、その他方の時刻が初回のメンテナンス時(データサンプリング時)t2であるから、ヒュームフードの稼動状態、使用環境を、さらに初期状態との対比で把握できる。ここで、ヒュームフード1を新設したときは、汚れ等がなく、かつ部品の経年劣化もなく、ヒュームフード1の性能を正確に把握できるときであるから、新設したときのデータを利用することにより、メンテナンスの予知を他の時刻とした場合に比較して正確に行うことができる。また、ヒュームフード1を新設してから初回のメンテナンス時までの稼動状態を示すデータを出力可能とすることで、このデータを用いて、当該ヒュームフード1の稼動状態や使用環境を把握することができるから、メンテナンス作業者は、初回のメンテナンス時に、使用者に対し適切な助言ができる。また、新設以外の時刻としては、ヒュームフード1のメンテナンス時の時刻、特に清掃を伴うメンテナンス時の時刻が好ましい。これはメンテナンスによりセンサ等から得られる稼動データが離散するからである。
【0059】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0060】
例えば、排気ファンとして、算出された目標面風速となるように、電動機をインバータにより制御する可変風量排気型のものについて説明したが、排気風量が固定された一定のもの、複数の一定の風量に切り換え可能なものであってもよい。この場合には、排気ファンの排気量と開口8の開口割合から求められる面風速と、風速センサ32bと開口8の開口割合から求められる面風速とを比較することにより、メンテナンス時期を決める係数を求めるようにすればよい。
【0061】
また、可変風量排気型として、排気ダクト内に排気流量を調整可能なダンパを設け、算出された目標排気風量となるようにダンパ開度を調節するものであってもよい。この場合には、ダンパ開度と開口8の開口割合から求められる面風速と、風速センサ32bと開口8の開口割合から求められる面風速とを比較することにより、メンテナンス時期を決める係数を求めるようにすればよい。
【0062】
また、1台のヒュームフードが1台の排気ファンに接続されるものについて説明したが、複数台のヒュームフードの排気ダクトを1つの排気マニホールドを介して1台の排気ファンに接続されるものであってもよい。この場合には、排気ダクト内に排気流量を調整可能なダンパを設けることが一般的であるから、ヒュームフード毎に、上述と同様にしてメンテナンス時期を決める係数を求めるようにすればよい。また、この形式の場合、タブレット端末に複数台のヒュームフードの稼動データを集め、メンテナンスの時期順に表示するとよい。このようにすると、メンテナンス頻度が高いヒュームフードには大容量のフィルタを用いる等して、各ヒュームフードのメンテナンス時期を合わせることができる。
【0063】
ヒュームフードとして、乾式のものについて説明したが、湿式スクラバーを有する湿式のものであってもよい。湿式の場合には、吸着剤や循環タンクにおける洗浄の時期をヒュームフードの稼動状態、使用環境を用いて予知することが好ましい。
【0064】
また、定期メンテナンスの間隔である隣接する2つの時刻を、選択された2つの時刻として説明したが、必ずしも隣接する2つの時刻である必要はなく、定期メンテナンスの開始時刻に合わせる必要もない。但し、定期メンテナンス終了時を選択された2つの時刻の一方の時刻に合わせると、定期メンテナンス時に清掃や調整が施されることが多いから、定期メンテナンス終了時を選択された2つの時刻の一方の時刻とすることが好ましい。また、選択された時刻として2つの時刻を例に説明したが、2つ以上であれば3つでも4つでもよい。数が増えるにつれて、記憶容量や演算の負荷が増えるが、予知の精度が向上する。3つ以上の時刻間を選択する場合には、直近の選択された2つの時刻間における稼動データは、現在の使用環境、稼動条件をより的確に反映したものであるから、直近の選択された2つの時刻間における稼動データを他の選択された2つの時刻間における稼動データよりも大きな重みをつけることが好ましい。
【0065】
また、定期メンテナンスの間隔T1、T2、・・・を6ヶ月としたが6ヶ月である必要はなく、また間隔T1、T2、・・・をそれぞれ異なる期間としてもよい。
【0066】
また、制御部50が送受信部54により、外部のタブレット端末100と無線通信するものについて説明したが、接続コネクタを有し、外部のタブレット端末100と有線により通信するものであってもよい。
【0067】
また、制御部50の記憶部52に稼動データを記憶させるものについて説明したが、入力部53がセンサ等から入力した入力信号を外部の図示しないパソコン等の外部装置に定期的又は要求されたときに送信し、その外部装置の記憶部に稼動データを記憶させ、その記憶したデータをタブレット端末100等に出力するものであってもよい。要するに、ヒュームフード1の選択された2つの時刻間における稼動データを出力することができるものであればよい。
【0068】
また、各区間T1、T2、T3、T4・・・の稼動データをテーブル8T1、8T2、8T3、8T4・・・、6T1、6T2、6T3、6T4・・・の形式で記憶するものについて説明したが、記憶部52の記憶領域を占有するという観点からは、直前の1つ乃至2の区間の稼動データのみを記憶するものであってもよい。
【0069】
また、送受信部53から送信された稼動データを用いて、ヒュームフード1のメンテナンス時期、稼動状態、使用環境等を得るものについて説明したが、これら以外例えば使用者への音声ガイダンス(昇降扉を開けたまま電源がOFFされたときに昇降扉の閉鎖を促すガイダンス等)に用いることを妨げるものではない。
【0070】
また、実施例では、排気装置としてヒュームフードを例に説明したが、本発明はヒュームフード、局所排気装置、卓上フード、簡易フード、安全キャビネット、バイオハザード用キャビネット、またはグリーンベンチ等、要するに開口から作業空間に取り込まれた空気を強制的に排気する装置に適用できる。