(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
外装建材用の塗装金属板では、クロメート系塗装鋼板が使用されている。当該クロメート系塗装鋼板では、成型加工性や切断端面部の耐食性を向上するための取組みが為されており、クロメート系塗装鋼板は、長期に亘る耐久性を有していた。一方、近年では外装建材の技術分野においても、環境保全に対する強い関心が寄せられている。このため、環境へ悪影響を及ぼすか、またはその可能性が懸念される成分の使用を禁止する法的規制が検討されている。たとえば、塗装金属板において、防錆成分として汎用されている6価クロム成分については、近い将来に使用を制限することが検討されている。クロメートフリー塗装鋼板についても、塗装前処理や防錆顔料の適正化など種々の検討が行われ、成形加工部や切断端面部では、クロメート系塗装鋼板と遜色がない特性が得られるようになった。
【0005】
しかしながら、クロメート系塗装鋼板では、平坦部耐食性は大きな問題とならなかったが、クロメートフリー塗装鋼板では平坦部での腐食が顕著となることがあり、特に、シリカ粒子を上記光沢調整剤に用いた場合、
図1に示されるように、実使用において、想定した使用年数よりも早くに、平坦部でしみ状錆や塗膜膨れなどの腐食が発生することがあった。
【0006】
本発明は、クロメートフリーであっても、クロメート防錆処理された金属板を含む塗装金属板と同等以上の優れた平坦部耐食性を有する塗装金属板および外装建材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、平坦部での前述した腐食の原因について鋭意検討した。
図2は、クロメートフリーの塗装金属板の平坦部における腐食している部分の顕微鏡写真である。
図2中、A部は、上塗り塗膜から光沢調整剤としてのシリカ粒子が露出している部分であり、B部は、シリカ粒子が上塗り塗膜から脱落した部分である。また、
図3は、上記塗装金属板のA部の、
図2中の直線Lに沿っての断面の反射電子顕微鏡写真であり、
図4は、上記塗装金属板のB部の、
図2中の直線Lに沿っての断面の反射電子顕微鏡写真である。
図3は、上塗り塗膜の表面に露出したシリカ粒子にはクラックが発生している様子を明確に示しており、
図4は、シリカ粒子が脱落した上塗り塗膜の穴が、金属板の腐食の起点になっていることを明確に示している。
【0008】
上記のように、本発明者らは、シリカ粒子のような細孔を有する粒子を光沢調整剤に用いた場合、当該腐食は、上塗り塗膜の、光沢調整剤が割れ、崩壊し、あるいは脱落した部分で生じること、を確認し、また、実使用によって減耗していく上塗り塗膜から露出した光沢調整剤が割れ、崩れて、上塗り塗膜から脱落すること、を確認した。
【0009】
また、本発明者らは、光沢調整剤についても検討した結果、平均粒径で規定されているシリカ粒子には、上塗り塗膜の厚さに対して当該平均粒径よりもかなり大きな粒子が含まれていることを確認した。たとえば、本発明者らは、上記光沢調整剤に用いられる市販のシリカ粒子のうち、平均粒径が3.3μmであるシリカ粒子を電子顕微鏡で観察したところ、粒径が約15μmのシリカ粒子が含まれていることを確認した(
図5)。さらに、本発明者らは、当該シリカ粒子の表面(
図6A中のB部)を観察したところ、凝集粒子特有の無数の微細な隙間が表面に開口していることを確認した(
図6B)。
【0010】
また、本発明者らは、上塗り塗膜にさらに用いられうる艶消し剤としてシリカやポリアクリロニトリル(PAN)などのような凝集粒子を用いた場合も同様に、上塗り塗膜から露出した艶消し剤が割れ、崩壊し、あるいは脱落した部分が腐食の起点になることを確認した(
図7および
図8)。
【0011】
そして、本発明者らは、上塗り塗膜の膜厚に対する特定の粒径の2種類の一次粒子を用いることによって、金属板におけるクロム系の化成処理および下塗り塗膜中の含クロム防錆顔料の使用による耐食性と同等かそれ以上の耐食性が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の塗装金属板、外装建材および塗装金属板の製造方法に関する。
【0013】
[1]金属板と、前記金属板上に配置される上塗り塗膜とを有する塗装金属板であって、前記上塗り塗膜は、第1の粒子および第2の粒子を含む一次粒子を有し、前記上塗り塗膜の膜厚Tは、3〜20μmの範囲内であり、個数基準の累積粒度分布において、前記第1の粒子は0.05T〜0.75Tの間にピークを有し、前記第2の粒子は1T〜4Tの間にピークを有し、前記上塗り塗膜中における前記第1の粒子および前記第2の粒子の含有量は、いずれも0.01〜15体積%である、塗装金属板。
【0014】
[2]前記金属板は、非クロメート防錆処理が施されており、前記塗装金属板は、クロメートフリーである、[1]に記載の塗装金属板。
【0015】
[3]前記金属板は、クロメート防錆処理が施されている、[1]または[2]に記載の塗装金属板。
【0016】
[4]前記塗装金属板および前記上塗り塗膜の間に下塗り塗膜をさらに有する、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の塗装金属板。
【0017】
[5]前記下塗り塗膜および前記上塗り塗膜の間に中塗り塗膜をさらに有する、[4]に記載の塗装金属板。
【0018】
[6]75°における光沢度が1〜25である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の塗装金属板。
【0019】
[7]外装用塗装金属板である、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の塗装金属板。
【0020】
[8][1]〜[6]のいずれか一項に記載の塗装金属板で構成されている外装建材。
【0021】
[9]金属板と、前記金属板上に配置される上塗り塗膜とを有する塗装金属板を製造する方法であって、樹脂、第1の粒子および第2の粒子を含有する上塗り塗料を前記金属板上に塗布する工程と、前記上塗り塗料の塗膜を硬化して前記上塗り塗膜を形成する工程と、を含み、前記第1の粒子および前記第2の粒子は、一次粒子であり、前記上塗り塗膜の膜厚Tは、3〜20μmの範囲内であり、個数基準の累積粒度分布において、前記第1の粒子は0.05T〜0.75Tの間にピークを有し、前記第2の粒子は1T〜4Tの間にピークを有し、前記上塗り塗膜中における前記第1の粒子および前記第2の粒子の含有量は、いずれも0.01〜15体積%である、塗装金属板の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、想定される使用年数における光沢調整剤の露出や割れなど、および艶消し剤の割れや脱落などが予防される。その結果、クロメートフリーであっても、クロメート防錆処理された金属板を含む塗装金属板と同等かそれ以上の優れた平坦部耐食性を有する塗装金属板が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
塗装金属板は、金属板と、金属板上に配置される上塗り塗膜とを有する。以下、本発明の一実施の形態に係る塗装金属板の各構成要素について説明する。
【0025】
(金属板)
金属板は、本実施の形態における効果が得られる範囲において、公知の金属板から選ぶことができる。当該金属板の例には、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、Zn−Al合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、ステンレス鋼板(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系を含む)、アルミニウム板、アルミニウム合金板、銅板などが含まれる。上記金属板は、耐食性、軽量化および対費用効果の観点から、めっき鋼板であることが好ましい。当該めっき鋼板は、特に、耐食性の観点、および外装建材としての適性の観点から、溶融55%Al―Zn合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板またはアルミニウムめっき鋼板であることが好ましい。
【0026】
金属板は、その表面に化成処理皮膜を有することが、塗装金属板の密着性および耐食性を向上させる観点から好ましい。化成処理は、金属板の塗装前処理の一種であり、化成処理皮膜は、塗装前処理によって形成される組成物の層である。上記金属板は、非クロメート防錆処理が施されていることが、塗装金属板の製造および使用における環境への負荷を軽減する観点から好ましく、クロメート防錆処理が施されていることが、耐食性をさらに高める観点から好ましい。
【0027】
非クロメート防錆処理による上記化成処理皮膜の例には、Ti−Mo複合皮膜、フルオロアシッド系皮膜、リン酸塩皮膜、樹脂系皮膜、樹脂およびシランカップリング剤系皮膜、シリカ系皮膜、シリカおよびシランカップリング剤系皮膜、ジルコニウム系皮膜、および、ジルコニウムおよびシランカップリング剤系皮膜、が含まれる。
【0028】
上記の観点から、金属板における、Ti−Mo複合皮膜の付着量は、全TiおよびMo換算で10〜500mg/m
2であることが好ましく、上記フルオロアシッド系皮膜の付着量は、フッ素換算または総金属元素換算で3〜100mg/m
2であることが好ましく、リン酸塩皮膜の付着量は、リン元素換算で0.1〜5g/m
2であることが好ましい。
【0029】
また、樹脂系皮膜の付着量は、樹脂換算で1〜500mg/m
2であることが好ましく、樹脂およびシランカップリング剤系皮膜の付着量は、Si換算で0.1〜50mg/m
2であることが好ましく、シリカ系皮膜の付着量は、Si換算で0.1〜200mg/m
2であることが好ましく、シリカおよびシランカップリング剤系皮膜の付着量は、Si換算で0.1〜200mg/m
2であることが好ましく、ジルコニウム系皮膜の付着量は、Zr換算で0.1〜100mg/m
2であることが好ましく、ジルコニウムおよびシランカップリング剤系皮膜の付着量は、Zr換算で0.1〜100mg/m
2であることが好ましい。
【0030】
また、クロメート防錆処理の例には、塗布型クロメート処理、および、リン酸―クロム酸系処理、が含まれる。上記の観点から、金属板における当該クロメート防錆処理による皮膜の付着量は、クロム元素換算で20〜80g/m
2であることが好ましい。
【0031】
(上塗り塗膜)
上塗り塗膜は、樹脂、光沢調整剤(第1の粒子)および艶消し剤(第2の粒子)を有する。樹脂は、意匠性や耐候性などの観点から、適宜選択される。上塗り塗膜を構成する樹脂の例には、ポリエステル、アクリル樹脂およびウレタン樹脂が含まれる。
【0032】
上塗り塗膜の膜厚Tは、厚すぎると生産性の低下や製造コストの上昇などの原因となることがある。一方、上塗り塗膜の膜厚Tは、薄すぎると所期の意匠性や所期の耐久性が得られないことがある。たとえば、生産性が良好であり、所期の光沢と発色を呈し、かつ少なくとも10年の外装建材としての実使用が可能な塗装金属板を得るためには、上塗り塗膜の膜厚Tは、3〜20μmである。なお、上塗り塗膜の膜厚Tは、14μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。また、上塗り塗膜の膜厚Tは、19μm以下であることが好ましく、18μm以下であることがより好ましい。上塗り塗膜の膜厚Tは、例えば上塗り塗膜の艶消し剤が存在しない部分の複数個所における底面から表面までの距離の平均値である。
【0033】
また、塗装金属板が上塗り塗膜以外の他の塗膜を有する場合には、上塗り塗膜の膜厚Tは、当該他の塗膜の存在をさらに考慮して決めることが可能である。たとえば、塗装金属板が後述する下塗り塗膜と上塗り塗膜とを有する場合には、上塗り塗膜の膜厚Tは、意匠性、耐食性および加工性の観点から、9〜20μmであることが好ましい。また、塗装金属板が下塗り塗膜と後述する中塗り塗膜と上塗り塗膜とを有する場合には、上塗り塗膜の膜厚Tは、上記の観点から、3〜15μmであることが好ましい。
【0034】
光沢調整剤は、上塗り塗膜の表面を適度に粗すために上塗り塗膜中に配合され、光沢を伴う所期の外観を塗装金属板に付与する。また、製造ロット間での光沢のバラツキを調整するためにも使用される。光沢調整剤の大きさおよび上塗り塗膜における含有量は、所期の光沢に応じて適宜に決められる。光沢調整剤は、所定の個数基準の累積粒度分布を示す。上塗り塗膜における光沢調整剤の個数基準の累積粒度分布は、上塗り塗膜の断面の観察により確認することが可能であり、あるいは、画像解析法およびコールター法で(例えば、ベックマン・コールター社製 精密粒度分布測定装置「Multisizer4」を用いて)測定することが可能である。このとき、上塗り塗膜の膜厚をT(μm)とすると、光沢調整剤は、0.05T〜0.75Tの間にピークを有する。また、光沢調整剤のピーク位置は、上塗り塗膜の光沢を効率よく調整する観点から、0.2T〜0.6Tを満たすことが好ましい。また、光沢調整剤の平均粒径R1は、例えば塗装金属板が中塗り塗膜を有する場合には1.0μm以上であることが好ましく、あるいは塗装金属板が実質的に上塗り塗膜のみを有する場合では2.0μm以上であることが好ましい。光沢調整剤が小さすぎると上塗り塗膜の光沢が高すぎ、所期の意匠性が得られないことがある。
【0035】
上塗り塗膜における光沢調整剤の含有量は、0.01〜15体積%である。当該含有量が多すぎると上塗り塗膜の光沢が低すぎ、また加工部密着性が低下する。光沢調整剤の含有量が少なすぎると当該光沢が制御できないため、多くても少なくても所期の意匠性が得られないことがある。たとえば、75°における光沢度が1〜25の塗装金属板を得るためには、上塗り塗膜中における光沢調整剤の含有量は、0.4体積%以上であることが好ましく、0.6体積%以上であることがより好ましい。また、前述の理由から、上塗り塗膜中における光沢調整剤の含有量は、13体積%以下であることが好ましく、11体積%以下であることがより好ましい。光沢調整剤の含有量は、上塗り塗膜の灰分の測定や上塗り塗膜の溶解による光沢調整剤の回収、複数箇所での元素識別した断面像についての画像解析などによって確認することが可能である。
【0036】
光沢調整剤は、一次粒子である。ここで「一次粒子」とは、その空隙に存在する物質(例えば水)が膨張したときに粒子を崩壊させうるような、細孔を有さない粒子を言う。光沢調整剤は、公知の一次粒子から選ぶことができる。一次粒子は、無機粒子であってもよいし、有機粒子であってもよい。無機粒子の光沢調整剤の例には、各種ガラス、炭化ケイ素、窒化ホウ素、ジルコニア、アルミナ・シリカなどが含まれる。また、有機粒子の光沢調整剤の例には、アクリル、ポリウレタン、ポリエステル、メラミン、尿素、ポリアミドなどが含まれる。
【0037】
艶消し剤は、上塗り塗膜に光沢調整剤により付与される粗さよりも大きな目視で確認できる凹凸を発現し、テクスチャーを付与するために上塗り塗膜中に配合され、所期の外観を塗装金属板に付与する。また、当該艶消し剤は、通常、上塗り塗膜よりも大きい粒径を有するものを含み、上塗り塗膜への傷つきを防止することができる。これにより塗装金属板の耐傷付き性を向上させることもできる。艶消し剤の大きさおよび上塗り塗膜における含有量は、所期の光沢に応じて適宜に決められる。光沢調整剤は、所定の個数基準の累積粒度分布を示す。上塗り塗膜における艶消し剤の個数基準の累積粒度分布は、光沢調整剤と同様に確認することができる。このとき、艶消し剤は、上塗り塗膜の膜厚をTとすると、1T〜4Tの間にピークを有する。また、艶消し剤のピーク位置は、上塗り塗膜に好適なテクスチャーを付与する観点から、2T〜3Tを満たすことがより好ましい。また、艶消し剤の平均粒径R2は、例えば塗装金属板が中塗り塗膜を有する場合には、3μm以上または2T以上であることが好ましく、あるいは塗装金属板が実質的に上塗り塗膜のみを有する場合では、10μm以上または2T以上であることが好ましい。
【0038】
なお、個数基準の累積粒度分布において、光沢調整剤(第1の粒子)のピーク(第1のピーク)を含む山と、艶消し剤(第2の粒子)のピーク(第2のピーク)を含む山とは、通常、重ならないが、第1のピークの山と第2のピークの山とが重なった場合は、より小さい方のピークを第一のピークとし、より大きい方のピークを第2のピークと特定することができる。また、これらのピークを含む分布曲線は、適当な方法で、例えば両ピーク間の谷で分割することで、各ピークを有する山として特定してもよい。
【0039】
上塗り塗膜における艶消し剤の含有量は、0.01〜15体積%の範囲内である。艶消し剤の含有量が多すぎると上塗り塗膜の光沢が低すぎてしまい、少なすぎると当該光沢が高すぎてしまい、いずれも所期の意匠性が得られないことがある。たとえば、75°における鏡面光沢度が1〜25の塗装金属板を得るためには、上塗り塗膜中における艶消し剤の含有量は、0.4体積%以上であることが好ましく、0.6体積%以上であることがより好ましい。また、上塗り塗膜中における艶消し剤の含有量は、13体積%以下であることが好ましく、10体積%以下であることがより好ましい。当該含有量は、前述したように上塗り塗膜の灰分の測定や上塗り塗膜の溶解による光沢調整剤の回収、複数箇所での元素識別した断面像についての画像解析などによって確認することが可能である。
【0040】
艶消し剤は、一次粒子である。艶消し剤は、公知の一次粒子から選ぶことができる。一次粒子は、樹脂粒子であっても無機粒子であってもよく、艶消し剤として用いられる公知の一次粒子から選ぶことができる。一次粒子の具体例には、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリアミド樹脂などの樹脂からなる一次粒子(樹脂粒子);ガラス、炭化ケイ素、窒化ホウ素、ジルコニア、アルミナ・シリカなどの無機化合物からなる一次粒子(無機粒子)である。これらの一次粒子の形状は、略球形であることが好ましいが、円柱形状や円板形状などの他の形状であってもよい。また、粒子の崩壊の起点となるような細孔でなければ、一次粒子の表面には、凹部などが存在してもよい。
【0041】
上塗り塗膜は、本実施の形態における効果が得られる範囲において、前述した樹脂、光沢調整剤および艶消し剤以外の他の成分をさらに含有していてもよい。たとえば、上塗り塗膜は、硬化剤をさらに含有していてもよい。硬化剤は、上塗り塗膜を作製する際の焼付け時に、樹脂(ポリエステル樹脂またはアクリル樹脂)を架橋する。硬化剤の種類は、使用する樹脂の種類や焼付け条件などに応じて、前述の架橋剤や既知の硬化剤などから適宜選択することができる。硬化剤の例には、メラミン化合物やイソシアネート化合物が含まれる。メラミン化合物の例には、イミノ基型、メチロールイミノ基型、メチロール基型または完全アルキル基型のメラミン化合物が含まれる。また、上塗り塗膜は、上塗り塗膜用の塗料の貯蔵安定性に影響しない範囲内において、硬化触媒をさらに適宜含有していてもよい。上塗り塗膜中における硬化剤の含有量は、例えば、樹脂100質量部に対して10〜30質量部である。
【0042】
また、上塗り塗膜は、着色剤をさらに含有していてもよい。着色剤の例には、酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボンブラック、鉄黒、チタンイエロー、ベンガラ、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、群青、コバルトグリーン、モリブデン赤などの無機顔料;CoAl、CoCrAl、CoCrZnMgAl、CoNiZnTi、CoCrZnTi、NiSbTi、CrSbTi、FeCrZnNi、MnSbTi、FeCr、FeCrNi、FeNi、FeCrNiMn、CoCr、Mn、Co、SnZnTiなどの金属成分を含む複合酸化物焼成顔料;Al、樹脂コーティングAl、Niなどのメタリック顔料;および、リソールレッドB、ブリリアントスカーレットG、ピグメントスカーレット3B、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、レーキレッドD、パーマネントレッド4R、ボルドー10B、ファストイエローG、ファストイエロー10G、パラレッド、ウォッチングレッド、ベンジジンイエロー、ベンジジンオレンジ、ボンマルーンL、ボンマルーンM、ブリリアントファストスカーレット、バーミリオンレッド、フタロシアニンブロー、フタロシアニングリーン、ファストスカイブルー、アニリンブラックなどの有機顔料;が含まれる。着色剤は、光沢調整剤および艶消し剤に対して十分に小さく、例えば、着色剤の平均粒径は、0.01〜1.5μmの範囲内である。また、上塗り塗膜における着色剤の含有量は、例えば、樹脂100質量部に対して2〜20質量部の範囲内である。
【0043】
また、上塗り塗膜は、体質顔料をさらに含有していてもよい。体質顔料の例には、クレー、タルク、硫酸バリウム、シリカなどが含まれる。体質顔料は、一次粒子に対して十分に小さく、例えば、体質顔料の平均粒径は、0.01〜1μmの範囲内である。また、上塗り塗膜における体質顔料の含有量は、例えば、樹脂100質量部に対して0.1〜15体積%の範囲内である。
【0044】
また、上塗り塗膜は、塗装金属板の加工時における上塗り塗膜でのカジリの発生を防止する観点から、潤滑剤をさらに含有していてもよい。潤滑剤の例には、フッ素系ワックス、ポリエチレン系ワックス、スチレン系ワックスおよびポリプロピレン系ワックスなどの有機ワックス、および、二硫化モリブデンやタルクなどの無機潤滑剤、が含まれる。上塗り塗膜における潤滑剤の含有量は、例えば、0〜10体積%である。
【0045】
また、上塗り塗膜は、本実施の形態の効果が得られる範囲において、第1および第2のピーク以外の第3のピークを上記粒度分布に有する他の粒子をさらに有していてもよい。第3のピークは、第1および第2のピークよりも低いことが好ましく、また、第1および第2のピークの間には存在しないことが好ましい。
【0046】
上塗り塗膜は、金属板の表面や後述の下塗り塗膜の表面などに、上塗り塗膜用の塗料を塗布した後、乾燥させて必要に応じて硬化させる公知の方法によって作製される。上塗り塗膜用の塗料は、例えば、前述した上塗り塗膜の材料を溶剤中に分散することによって調製される。調整された上塗り塗膜用の塗料は、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、スプレーコート、浸漬コートなどの公知の方法によって塗布される。上塗り塗膜は、上塗り塗膜用の塗料が塗布された金属板を、その到達温度が200〜250℃となるように加熱することで上塗り塗膜用の塗料を金属板に焼き付けることによって作製される。また、上り塗膜の膜厚Tは、例えば、塗料の塗布量によって適宜に調整される。
【0047】
塗装金属板は、本実施の形態における効果を奏する範囲において、さらなる構成要素を有していてもよい。たとえば、塗装金属板は、上塗り塗膜の密着性を高める観点から、金属板および上塗り塗膜の間に下塗り塗膜をさらに有していてもよい。下塗り塗膜は、金属板の表面、あるいは化成処理皮膜が形成されている場合は、化成処理皮膜の表面に配置される。
【0048】
(下塗り塗膜)
下塗り塗膜は、樹脂で構成される。樹脂の例には、ポリエステル、エポキシ樹脂、アクリル樹脂およびフェノキシ樹脂が含まれる。
【0049】
下塗り塗膜は、防錆顔料や、着色顔料、メタリック顔料、体質顔料などをさらに含有していてもよい。防錆顔料の例には、変性シリカやポリリン酸アルミニウムなどの非クロム系の防錆顔料が含まれる。着色顔料の例には、酸化チタン、カーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄、ベンガラ、チタンイエロー、コバルトブルー、コバルトグリーン、アニリンブラックおよびフタロシアニンブルーが含まれる。メタリック顔料の例には、アルミニウムフレーク(ノンリーフィングタイプ)、ブロンズフレーク、銅フレーク、ステンレス鋼フレークおよびニッケルフレークが含まれる。体質顔料の例には、硫酸バリウム、酸化チタン、シリカおよび炭酸カルシウムが含まれる。
【0050】
下塗り塗膜中における顔料の含有量は、本実施の形態における効果が得られる範囲において、適宜に決めることが可能であり、例えば下塗り塗膜における顔料の含有量は、例えば10〜70質量%の範囲内であることが好ましい。
【0051】
下塗り塗膜は、下塗り塗膜用の下塗り塗料の塗布によって作製される。下塗り塗料は、溶剤や架橋剤などを含んでいてもよい。溶剤の例には、トルエン、キシレンなどの炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル;セロソルブなどのエーテル;および、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン;が含まれる。また、架橋剤の例には、前述した樹脂を架橋する、メラミン樹脂やイソシアネート樹脂などが含まれる。下塗り塗膜用の塗料は、前述した材料を均一に混合、分散させることによって調製される。
【0052】
下塗り塗料は、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、スプレーコート、浸漬コートなどの公知の方法で、1〜10μm(好ましくは3〜7μm)の乾燥膜厚が得られる塗布量で金属板に塗布される。下塗り塗料の塗膜は、例えば金属板の到達温度で180〜240℃の温度で金属板を加熱することにより金属板に焼き付けられることで作製される。
【0053】
また、前述した塗装金属板は、塗装金属板における上塗り塗膜の密着性および耐食性を高める観点から、下塗り塗膜および上塗り塗膜の間に中塗り塗膜をさらに有していてもよい。
【0054】
(中塗り塗膜)
中塗り塗膜は、樹脂で構成される。樹脂の例には、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂、ポリエステル、ポリエステル変性シリコーン、アクリル樹脂、ポリウレタンおよびポリ塩化ビニルが含まれる。中塗り塗膜も、下塗り塗膜と同様に、本実施の形態における効果が得られる範囲において、防錆顔料や着色顔料、メタリック顔料などの添加剤をさらに適宜に含有していてもよい。
【0055】
本実施の形態に係る塗装金属板は、クロメートフリーであってもよく、クロムを含んでいてもよい。「クロメートフリー」とは、上記塗装金属板が6価クロムを実質的に含有しないことを意味する。上記塗装金属板が「クロメートフリー」であることは、例えば、前述した金属板、化成処理皮膜、下塗り塗膜および上塗り塗膜のいずれにおいても、上塗り塗膜または下塗り塗膜を単独で作製した金属板から50mm×50mmの試験片4枚を切り出し、沸騰している純水100mLに10分間浸漬した後、当該純水中に溶出した6価クロムを、JIS H8625付属書の2.4.1の「ジフェニルカルバジッド比色法」に準拠する濃度の分析方法で定量したときに、検出限界以下であること、によって確認することが可能である。上記塗装金属板は、実使用において環境へ6価クロムを溶出せず、かつ、平坦部で十分な耐食性を発現する。なお、「平坦部」とは、上記金属板の上記上塗り塗膜で覆われており、曲げ加工、絞り加工、張り出し加工、エンボス加工、ロール成型等により変形していない部分を言う。
【0056】
塗装金属板の用途は、外装用が好適である。「外装用」とは、屋根、壁、役物、看板および屋外設置機器などの、外気に露出する部分であって、日光やその反射光に照射され得る部分に使用されることを言う。外装用の塗装金属板の例には、外装建材用の塗装金属板などが含まれる。
【0057】
塗装金属板は、エナメル光沢を有しない艶消し板に好適である。艶消しとは、75°における鏡面光沢度が1〜25であることを意味する。当該光沢度が高すぎると、反射率が高すぎることによってエナメル調の光沢が表れてしまうおそれがある。光沢度は、光沢調整剤および艶消し剤の粒径や上塗り塗膜における含有量などによって調整される。
【0058】
上記の塗装金属板は、上記樹脂および上記光沢調整剤を含有する上塗り塗料を上記金属板上に塗布する第1の工程と、当該上塗り塗料の塗膜を硬化して上記上塗り塗膜を形成する第2の工程と、を含む塗装金属板の製造方法により製造されうる。
【0059】
第1の工程において、上塗り塗料は、金属板の表面に直接塗布されてもよいし、金属板の表面に形成された化成処理皮膜に塗布されてもよいし、塗装金属板の表面または化成処理皮膜の表面に形成された下塗り塗膜に塗布されてもよい。
【0060】
上塗り塗料は、例えば、前述した上塗り塗膜の材料を溶剤中に分散することによって調製される。塗料は、溶剤や架橋剤などを含んでいてもよい。溶剤の例には、トルエン、キシレンなどの炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル;セロソルブなどのエーテル;および、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン;が含まれる。
【0061】
上塗り塗料は、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、スプレーコート、浸漬コートなどの公知の方法によって塗布される。上塗り塗料の塗布量は、上塗り塗膜の所期の膜厚Tに応じて適宜に調整される。
【0062】
第2の工程は、例えば、上塗り塗料を金属板に焼き付ける公知の方法によって行うことが可能である。たとえば、第2の工程において、上塗り塗膜用の塗料が塗布された金属板は、その到達温度が200〜250℃となるように加熱される。
【0063】
塗装金属板の製造方法は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した第1の工程および第2の工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。他の工程の例には、化成処理皮膜を形成する工程、下塗り塗膜を形成する工程、および、中塗り塗膜を形成する工程、が含まれる。
【0064】
化成処理皮膜は、皮膜を形成するための水性化成処理液を、ロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの公知の方法で金属板の表面に塗布し、塗布後に金属板を水洗せずに乾燥させることによって形成することが可能である。金属板の乾燥温度および乾燥時間は、生産性の観点から、例えば、金属板の到達温度で60〜150℃、2〜10秒間であることが好ましい。
【0065】
下塗り塗膜は、下塗り塗膜用の塗料の塗布によって作製される。塗料は、溶剤や架橋剤などを含んでいてもよい。溶剤の例には、トルエン、キシレンなどの炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル;セロソルブなどのエーテル;および、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン;が含まれる。また、架橋剤の例には、前述した樹脂を架橋する、メラミン樹脂やイソシアネート樹脂などが含まれる。下塗り塗膜用の塗料は、前述した材料を均一に混合、分散させることによって調製される。
【0066】
下塗り塗膜用の塗料は、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、スプレーコート、浸漬コートなどの公知の方法で、1〜10μm(好ましくは3〜7μm)の乾燥膜厚が得られる塗布量で金属板に塗布される。塗料の塗膜は、例えば金属板の到達温度で180〜240℃の温度で金属板を加熱することにより金属板に焼き付けられ、作製される。
【0067】
中塗り塗膜も、下塗り塗膜と同様に、中塗り塗膜用の塗料の塗布によって作製される。塗料も、中塗り塗膜の材料以外に、上記溶剤や上記架橋剤などを含んでいてもよい。中塗り塗膜用の塗料は、前述した材料を均一に混合、分散させることによって調製される。中塗り塗膜用の塗料は、例えば上記の公知の方法で、塗料の乾燥膜厚と下塗り塗膜の膜厚との総和で1〜10μm(好ましくは3〜7μm)となる塗布量で下塗り塗膜に塗布されることが、加工性の観点から好ましい。塗料の塗膜は、例えば金属板の到達温度で180〜240℃の温度で金属板を加熱することにより金属板に焼き付けられ、作製される。
【0068】
塗装金属板は、曲げ加工、絞り加工、張り出し加工、エンボス加工、ロール成型などの公知の加工によって、外装建材などの外装建材に成形される。このように外装建材は、塗装金属板によって構成される。外装建材は、上記の効果が得られる範囲において、他の構成をさらに含んでいてもよい。たとえば、外装建材は、外装建材の実使用における適切な設置に供される構成をさらに有していてもよい。このような構成の例には、外装建材を建物に固定するための部材や、外装建材同士を連結するための部材、および、外装建材の取り付け時の向きを示すマーク、断熱性を向上させるための発泡シートや発泡層などが含まれる。これらの構成は、前述の外装用塗装金属板に含まれていてもよい。
【0069】
以上の説明から明らかなように、本実施の形態によれば、金属板と、金属板上に配置される上塗り塗膜とを有し、一次粒子は、個数基準の累積粒度分布において第1および第2の少なくとも2つのピークを有し、上塗り塗膜の膜厚Tは、3〜20μmの範囲内であり、光沢調整剤(第1の粒子)は、0.05T〜0.75Tの間にピークを有し、艶消し剤(第2の粒子)は、1T〜4Tの間にピークを有し、上塗り塗膜中における光沢調整剤および艶消し剤の含有量は、いずれも0.01〜15体積%であることから、優れた耐傷付き性、加工部密着性、平坦部耐食性を有する塗装金属板を提供することができる。
【0070】
また、塗装金属板が金属板および上塗り塗膜の間に下塗り塗膜をさらに有することは、塗装金属板における上塗り塗膜の密着性を高める観点からより一層効果的である。
【0071】
また、塗装金属板で構成されている外装建材は、クロムフリーでありながら10年間以上の実使用において優れた耐傷付き性、加工部密着性、平坦部耐食性を奏することが可能である。
【0072】
また、金属板には非クロメート防錆処理が施されており、塗装金属板がクロメートフリーであることは、塗装金属板の使用または製造における環境の負荷を軽減する観点からより一層効果的であり、金属板にはクロメート防錆処理が施されていることは、塗装金属板の平坦部耐食性をさらに高める観点から、より一層効果的である。
【0073】
また、塗装金属板が金属板および上塗り塗膜の間に下塗り塗膜をさらに有することは、塗装金属板における上塗り塗膜の密着性および耐食性を高める観点からより効果的であり、下塗り塗膜および上塗り塗膜の間に中塗り塗膜をさらに有することは、上記の観点からより一層効果的である。
【0074】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0075】
1.塗装金属板の作製
両面付着量150g/m
2の溶融55%Al−Zn合金めっき鋼板をアルカリ脱脂した(塗装原板1)。次いで、めっき鋼板のめっき層の表面に、塗装前処理として、20℃の、非クロメート防錆処理液を塗布し、めっき鋼板を水洗することなく100℃で乾燥し、Ti換算で10mg/m
2の付着量の非クロメート防錆処理されためっき鋼板(塗装原板2)を得た。
(非クロメート防錆処理液)
ヘキサフルオロチタン酸 55g/L
ヘキサフルオロジルコニウム酸 10g/L
アミノメチル置換ポリビニルフェノール 72g/L
水 残り
【0076】
また、塗装原板2の表面に、エポキシ樹脂系の下塗り塗料を塗布し、めっき鋼板の到達温度が200℃となるように化成処理鋼板を加熱し、乾燥膜厚が5μmの下塗り塗膜を有するクロメートフリーのめっき鋼板(塗装原板3)を得た。
リン酸塩混合物 15体積%
硫酸バリウム 5体積%
シリカ 1体積%
クリアー塗料 残り
【0077】
また、クロメートフリー処理液に代えてクロメート処理液である日本ペイント株式会社製の「サーフコートNRC300NS」(「サーフコート」は同社の登録商標)を用いて、クロム換算で20mg/m
2の付着量のクロメート防錆処理をし、次いで、クロメート防錆処理されためっき鋼板の表面に、エポキシ樹脂系の下塗り塗料を塗布し、めっき鋼板の到達温度が200℃となるように化成処理鋼板を加熱し、乾燥膜厚が5μmの下塗り塗膜を有するクロメート系の下塗り塗膜を有するめっき鋼板(塗装原板4)を得た。
クロム酸ストロンチウム 15体積%
硫酸バリウム 5体積%
シリカ 1体積%
クリアー塗料 残り
【0078】
なお、下塗り塗料において、クリアー塗料は、日本ファインコーティングス株式会社製「NSC680」である。また、下塗り塗料において、リン酸塩混合物は、リン酸水素マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、および、トリポリリン酸アルミニウムの混合物である。また、シリカは、体質顔料であり、その平均粒径は5μmである。さらに、上記体積%は、下塗り塗料中の固形分に対する割合である。
【0079】
また、塗装原板3の表面に、ポリエステル系の中塗り塗料を塗布し、めっき鋼板の到達温度が220℃となるように化成処理鋼板を加熱し、下塗り塗膜の上に、乾燥膜厚が5μmの中塗り塗膜を有するクロメートフリーの上記めっき鋼板(塗装原板5)を得た。
カーボンブラック 7体積%
シリカ粒子1 1体積%
ポリエステル系の塗料 残り
【0080】
ポリエステル系の塗料は、日本ファインコーティングス株式会社製の「CAクリアー塗料」であり、ポリエステル系の塗料(PE)である。カーボンブラックは着色顔料である。上記体積%は、上塗り塗料中の固形分に対する割合である。
【0081】
また、シリカ粒子1(シリカ1)は、例えば分級品またはその混合物であり、正規分布様の粒度分布を有する。シリカ粒子1の個数平均粒径Rは5.0μmであり、個数粒度分布における上限粒径Ruは、9.5μmである。
【0082】
作製した塗装金属板の上塗り塗膜の構成を表1および表2に示す。表1および表2の光沢調整剤の種類の欄および艶消し剤の種類の欄において、アクリル1は、アクリル樹脂粒子(FH−S005;東洋紡績株式会社)であり、アクリル2は、アクリル樹脂粒子(アートパールG−800;根上工業株式会社)であり、アクリル3は、アクリル樹脂粒子(分級品またはその混合物)であり、アクリル4は、アクリル樹脂粒子(分級品またはその混合物)であり、アクリル5は、アクリル樹脂粒子(分級品またはその混合物)であり、アクリル6は、アクリル樹脂粒子(分級品またはその混合物)であり、アクリル7は、アクリル樹脂粒子(アートパールJ−5P;根上工業株式会社)であり、PAN1は、ポリアクリロニトリル粒子(ASF−7;東洋紡績株式会社)であり、PAN2は、ポリアクリロニトリル粒子(A−20;東洋紡績株式会社)であり、ウレタン1は、ウレタン樹脂粒子(C−800;根上工業株式会社)であり、ウレタン2は、ウレタン樹脂粒子(C−200;根上工業株式会社)であり、アルミナ1は、CB−P07(昭和電工株式会社)であり、アルミナ2は、CB−A40(昭和電工株式会社)であり、ガラス1は、ガラス粒子(EMB−10;ポッターズ・バロティーニ株式会社)であり、ガラス2は、ガラス粒子(GB731;ポッターズ・バロティーニ株式会社)である。各光沢調整剤の個数基準の累積粒度分布におけるピークの光沢調整剤の粒子径と、各艶消し剤の個数基準の累積粒度分布におけるピークの艶消し剤の粒子径とは、ベックマン・コールター社製「Multisizer4」で50μm径のアパーチャーチューブを用いてそれぞれ求めた。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
2.評価試験
塗装金属板1〜43のそれぞれについて、下記の測定および試験を行った。
【0086】
(1)75°光沢度(G75)
塗装金属板1〜43のそれぞれの、JIS K5600−4−7(ISO 2813:1994)で規定される75°における鏡面光沢度(G60)を日本電色株式会社製 光沢計VG−2000によって測定した。
【0087】
(2)塗装外観
塗装金属板1〜43のそれぞれの、乾燥後の上塗り塗膜の外観を、以下の基準により評価した。
(評価基準)
G:光沢異常および塗膜欠陥が認められず、フラットであり、またエナメル外観が認められる
NG1:光沢が高すぎる
NG2:光沢が低すぎる
NG3:塗膜の凹凸感が強く、フラットとは認められず、またエナメル外観が得られない
NG4:塗膜焼付け時の、揮発成分による塗膜膨れが見られる
NG5:隠蔽性不足
【0088】
(3)耐傷付き性
塗装金属板1〜45のそれぞれに125μmφダイヤモンド針を使用し、400gの荷重を加えてクレメンス型引っ掻き試験を行い、下記の基準で評価した。
(評価基準)
G:素地(金属板)に到達する傷が認められない
NG:素地(金属板)に到達する傷が認められる
【0089】
(4)加工部密着性
塗装金属板1〜43のそれぞれに0T曲げ(密着曲げ)加工を施し、0T曲げ部のセロハンテープ剥離試験を行い、以下の基準により評価した。
(評価基準)
G:塗膜の剥離が認められない
NG:塗膜の剥離が認められる
【0090】
(5)平坦部耐食性
塗装金属板1〜43のそれぞれについて、まずJIS K5600−7−7(ISO 11341:2004)に規定されているキセノンランプ法促進耐候性試験を1,000時間行い、次いで、JIS H8502に規定されている「中性塩水噴霧サイクル試験」(いわゆるJASO法)を720時間行った。上記二つの試験の実施を1サイクルとし、塗装金属板1〜35のそれぞれについて、1サイクル(実使用の耐久年数が5年程度に相当)試験品と、2サイクル(実使用の耐久年数10年程度に相当)試験品のそれぞれを水洗し、目視、および、10倍ルーペによる拡大観察によって、塗装金属板の平坦部における塗膜の膨れの有無を観察し、以下の基準により評価した。
(評価基準)
A:膨れが認められない
B:拡大観察で僅かに微小な膨れが認められるが、目視では当該膨れが認められない
C:目視で膨れが認められる
【0091】
(6)評価結果
各塗装金属板の各評価結果を表3および表4に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
【0094】
(7)平坦部耐食性
塗装金属板1、20〜24のそれぞれについて、平坦部耐食性に係る前述の試験を3サイクル(実使用の耐久年数15年程度に相当)まで行い、3サイクル試験品のそれぞれを水洗し、目視、および、10倍ルーペによる拡大観察によって、塗装金属板の平坦部における塗膜の膨れの有無を観察し、前述の基準により評価した。結果を表5に示す。
【0095】
【表5】
【0096】
表4に示されるように、塗装金属板30は、隠蔽性が不足しており、すなわち上塗り塗膜の下地(下塗り塗膜)が目視で観察され得る程にしか上塗り塗膜の視認性が発現されておらず、所期の意匠性が得られず、加工部密着性が劣っていた。これは、上塗り塗膜の膜厚が薄すぎたためと考えられる。
【0097】
塗装金属板31は、上塗り塗膜の焼付け時に、揮発成分による塗膜膨れが発生し、所期の意匠性が得られなかった。これは、上塗り塗膜の膜厚が厚すぎたためと考えられる。
【0098】
塗装金属板32は、光沢が高すぎであった。これは、光沢調整剤の粒子径の分布のピークが0.05T未満であるためと考えられる。塗装金属板33は、加工部密着性に劣っていた。これは、光沢調整剤の粒子径の分布のピークが0.75T超であるためと考えられる。
【0099】
塗装金属板34は、光沢が高すぎ、所期の意匠性が得られなかった。塗装金属板34の光沢が高すぎたのは、光沢調整剤の含有量が少なすぎて光沢が調整されなかったためと考えられる。
【0100】
塗装金属板35、36は、光沢が低すぎ、加工部密着性に劣っていた。これは、光沢調整剤の含有量が多すぎてしまったためと考えられる。
【0101】
塗装金属板37は、平坦部耐食性に劣っていた。これは、光沢調整剤の粒子が細孔粒子であったためと考えられる。なお、細孔粒子とは、細孔を有する粒子であり、細孔粒子の例には、一次粒子が化学的に接合した凝集体、一次粒子が物理的に接合した集合体、および多孔質粒子が含まれる。多孔質粒子は、少なくとも粒子の内部に多孔質構造を有する。
【0102】
塗装金属板38は、耐傷付き性に劣っていた。これは、艶消し剤の粒子径の分布のピークが1.0T未満であったためと考えられる。塗装金属板39は、加工部密着性に劣っていた。これは、艶消し剤の粒子径の分布のピークが4.0T超であったためと考えられる。
【0103】
塗装金属板40は、光沢が高すぎ、所期の意匠性が得られず、耐傷付き性に劣っていた。これは、艶消し剤の含有量が少なすぎたためと考えられる。塗装金属板41、42は、加工部密着性に劣っていた。これは、艶消し剤の含有量が多すぎたためと考えられる。塗装金属板43は、平坦部耐食性に劣っていた。これは、艶消し剤の粒子が細孔粒子であったためと考えられる。
【0104】
一方、表3および表4に示されるように、塗装金属板1〜29は、所定の外観が得られ、耐傷付き性、加工部密着性および平坦部耐食性に優れていた。
【0105】
また、表5に示されるように、塗装金属板20〜22は、いずれも、塗装金属板1、23、24よりも、平坦部耐食性をより長期間維持する。これは、塗装金属板20〜22における塗装原板4が、下塗り塗膜にクロメート系防錆顔料を含有し、かつめっき鋼板にクロメート防錆処理が施されていることから、塗装金属板1、23、24における塗装原板1に比べて高い耐食性を有しているため、と考えられる。
【0106】
以上の結果から、本発明に係る塗装鋼板は、塗装外観、耐傷付き性、加工部密着性および平坦部耐食性の全てに優れていることがわかる。