(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記画像解析部は、前記劣化の状態の判定において、前記劣化要因取得部が取得した前記劣化の要因に起因して生じる劣化の状態の特徴を学習させた前記基準情報を優先的に用いて前記コンクリート構造物に生じた劣化の状態を判定する、又は、前記劣化要因取得部が取得した前記劣化の要因に起因して生じる劣化の状態に対しその他の劣化の状態よりも大きく重みづけして前記コンクリート構造物に生じた劣化の状態を判定する
請求項1又は2に記載のコンクリート構造物の点検支援装置。
前記記憶装置は、前記地域情報に対応付けられた劣化の要因として、塩害に関する情報、アルカリシリカ反応性骨材に関する情報、凍害に関する情報、又は化学的な腐食に関す
る情報を記憶する
請求項4に記載のコンクリート構造物の点検支援装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、画像処理においてひび割れと汚れ等とを区別する精度を向上させる技術や、鉄筋コンクリートに関する情報を入力することで、化学的な劣化のような特定の要因に基づく劣化の程度を表示する技術は提案されていた。ここで、点検者の知識や能力に依存することなく、コンクリート構造物の点検を実用に耐え得る水準で行うためには、点検者の作業的な負担を軽減させつつ劣化要因の特定まで行えることが望ましい。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされてものであり、コンクリート構造物を撮像した画像に基づいて劣化状態を推定する際の精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るコンクリート構造物の点検支援装置は、点検対象のコンクリート構造物が撮像され、且つ位置を示す位置情報が付加された画像データを読み出す画像読出部と、コンクリート構造物の情報に対応付けて劣化の要因を記憶する記憶装置から、画像読出部が読み出した画像データの位置情報に対応するコンクリート構造物の情報に対応付けられた劣化の要因を取得する劣化要因取得部と、劣化要因取得部が取得した劣化の要因と、劣化の要因ごとにコンクリート構造物の表面に表れる特徴を予め学習させた基準情報とを用いて、画像読出部が読み出した画像データを解析し、撮像されたコンクリート構造物の劣化の状態を判定する画像解析部とを備える。
【0008】
このようにすれば、撮像されたコンクリート構造物の情報だけでなく、コンクリート構造物に対応付けられた劣化の要因を加味して画像データの解析を行うことができる。したがって、コンクリート構造物を撮像した画像に基づいて劣化状態を推定する際の精度を向上させることができる。
【0009】
また、画像解析部は、画像データの解析において、劣化要因取得部が取得した劣化の要因に起因して生じる劣化の状態を優先的に選択するようにしてもよい。コンクリート構造物に対応付けられた劣化の要因に起因して生じる劣化の状態の特徴を示す基準情報を優先的に選択することで、劣化状態を推定する際の精度を向上させることができる。
【0010】
また、画像解析部は、劣化の状態の判定において、劣化要因取得部が取得した劣化の要因に起因して生じる劣化の状態の特徴を学習させた基準情報を優先的に用いてコンクリート構造物に生じた劣化の状態を判定する、又は、劣化要因取得部が取得した劣化の要因に起因して生じる劣化の状態に対しその他の劣化の状態よりも大きく重みづけしてコンクリート構造物に生じた劣化の状態を判定するようにしてもよい。具体的には、このような処理によって劣化状態を推定する際の精度を向上させる。
【0011】
また、記憶装置は、地域を示す地域情報に対応付けて、コンクリート構造物に発生する可能性のある劣化の要因を記憶し、劣化要因取得部は、画像読出部が読み出した画像データの位置情報を含む地域に対応付けられた劣化の要因を取得するようにしてもよい。このようにすれば、コンクリート構造物が存在する地域に応じて発生する可能性のある劣化の要因を絞り込んだり、優先順位をつけたりすることができ、画像データの解析により画像を認識する際の判断材料となる。すなわち、コンクリート構造物を撮像した画像に基づいて劣化状態を推定する際の精度を向上させることができる。
【0012】
また、記憶装置は、地域情報に対応付けられた劣化の要因として、塩害に関する情報、アルカリシリカ反応性骨材に関する情報、凍害に関する情報、又は化学的な腐食に関する情報を記憶するようにしてもよい。具体的には、例えばこれらの情報の少なくともいずれかを利用することで、劣化状態を推定する際の精度を向上させることができる。
【0013】
また、コンクリート構造物の情報は、コンクリート構造物の設計に関する情報、施工に関する情報、又は維持管理の履歴を示す情報を含み、記憶装置は、劣化の要因に対応付けてコンクリート構造物の設計に関する情報、施工に関する情報、又は維持管理の履歴を示す情報が満たすべき条件を記憶するようにしてもよい。具体的には、これらの情報の少なくともいずれかを利用することでも、劣化状態を推定する際の精度を向上させることができる。
【0014】
なお、課題を解決するための手段に記載の内容は、本発明の課題や技術的思想を逸脱しない範囲で可能な限り組み合わせることができる。また、課題を解決するための手段の内容は、コンピュータ等の装置若しくは複数の装置を含むシステム、コンピュータが実行する方法、又はコンピュータに実行させるプログラムとして提供することができる。なお、プログラムを保持する記録媒体を提供するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コンクリート構造物を撮像した画像に基づいて劣化状態を推定する際の精度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、下記の実施形態は本発明の例示であり、本発明は、下記の構成には限定されない。
【0018】
<点検支援の概要>
図1は、本実施形態に係る点検支援を含む、コンクリート構造物(単に「構造物」とも呼ぶ)の点検の概要を説明するための図である。
図1には、点検支援装置1と、構造物2と、撮像装置3とが示されている。点検支援装置1は、構造物2を撮像した画像(写真)データ、その他の情報を解析して、構造物2の劣化の状態を推定したり、劣化の程度を評価したりする。なお、点検支援装置1は、点検対象の構造物2の位置情報等、所定の情報を予め格納したデータベース(Database:DB)を有するものとする。また、構造物2は、橋梁、トンネルの覆工コンクリート、ダム堤体、護岸用擁壁、建築物等といった、コンクリートで形成された構造物であり、本実施形態において劣化の状況を点検する対象である。撮像装置3は、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ等の画像データを生成する装置である。なお、撮像装置3は、GPS(Global Positioning System)等の衛星
測位システムを利用するための受信機を備えており、撮像装置3の位置情報をメタデータとして画像データに付加するものとする。なお、メタデータは、例えばExif(Exchangeable Image File Format)等の規格に基づいて画像データに埋め込むことができる。また、位置情報は、所定の測地系に基づく緯度及び経度を含み、さらに標高を含むものとしてもよい。GPS受信環境下にない場所で撮影された画像データの場合は、後で手動入力で位置情報の緯度経度を付加しても良い。このようなシステムにおいて、撮像装置3が生成した画像データは、メモリカード等の記憶媒体を介して、または図示していないネットワークを介して点検支援装置1に取り込まれる。そして、点検支援装置1は、画像データに付加された位置情報や、DBに保持されている所定の情報を用いて画像を解析し、撮像された構造物2の劣化状態やその程度を判定する。
【0019】
なお、本実施形態で行う点検とは、いわゆる日常点検、定期点検、詳細点検、緊急点検、臨時点検の少なくともいずれかを含む。点検は、構造物の維持管理を効率的に行うために必要な情報を得ることを目的として実施される。具体的には、損傷状況の把握、損傷程度の評価、対策方法の判定、点検結果の記録等を行う。本実施形態によれば、このような点検を目視で実施する場合よりも、人件費等のコストを低減することができると共に、点検員の能力に起因する判定精度のばらつきを低減することができる。
【0020】
また、鉄筋コンクリートの劣化現象を分類すると次のようになる。まず、鉄筋コンクリートの劣化は、コンクリートの劣化と鉄筋の劣化とに大きく分けることができる。さらに、コンクリートの劣化は、強度劣化、ひび割れ、表面劣化といった劣化現象に分類できる。一方、鉄筋の劣化は主として鉄筋腐食である。そして、各劣化現象の劣化原因を挙げると、コンクリートの強度劣化は、主として水セメント比に起因する強度不足による。また、コンクリートのひび割れは、乾燥収縮、温度変化の繰り返し、アルカリ骨材反応、凍結融解作用の繰り返し(凍害)、施工不良、水和熱(マスコンクリート)、鉄筋腐食、火災ひび割れ、構造ひび割れ(曲げ・せん断)、過荷重(大たわみ)、地震・基礎(不同沈下)等の劣化原因が挙げられる。一方、鉄筋腐食は、ひび割れ、水セメント比若しくはかぶり厚不足に起因する中性化、又は初期内在塩化物(内部塩害)若しくは外来塩化物(外部塩害)に起因する塩化物イオンといった劣化原因が挙げられる。
【0021】
以上のような劣化現象は、劣化原因によって異なるひび割れパターンとして鉄筋コンク
リートの外観に表れる。したがって、画像処理によってひび割れパターンを認識し、劣化原因を特定することができると共に、損傷の程度や補修の必要性を判断することができる。また、上述の劣化原因は、例えば海岸に近い構造物ほど外部塩害による鉄筋腐食のおそれが高まったり、地域によって凍害の危険度に差異があるといった具合に、構造物の位置に応じて劣化の発生する可能性が予測できる。また、構造物の構成材料や、長さ又は厚さといったサイズによっても劣化の発生する可能性が予測できる。そこで、本実施形態では、画像処理に加え、構造物の位置情報、構成材料やサイズ等の設計情報、施工時期や施工時の温度記録等といった施工情報を用いて発生する可能性の高い劣化状態の特定を行う。このようにすることで、画像処理による劣化状態の特定やその程度の評価の精度を向上させることができる。
【0022】
なお、撮像装置3は、動画を記録するようにしてもよい。この場合、動画の1フレームを静止画として抽出してもよいし、動画から所定のアルゴリズムに基づいて静止画を生成するようにしてもよい。また、撮像装置3による画像データの生成は、様々な方法により行うことができる。例えば、トンネル内を走行しながら覆工面を撮像可能な検査車によって画像データを生成してもよい。また、複数のブームを備え、点検員を乗せたバスケットを橋桁の上から防音壁やフェンスを越えて橋桁の下へ挿入可能な高架道路・橋梁点検車を利用してもよい。さらに、複数の回転翼を備えるマルチコプターに撮像装置3を搭載すれば、点検員の接近が困難な場所も点検が可能となる。
【0023】
また、位置情報は、GLONASS(Global Navigation Satellite System)等の衛星測位システムを用いて取得してもよいし、Wi−Fiのアクセスポイント等を利用して取得してもよい。
【0024】
<機能構成>
図2は、本実施形態に係る点検支援装置1の一例を示す機能ブロック図である。点検支援装置1は、画像記憶部101と、画像読出部102と、構造物情報取得部103と、構造物DB104と、劣化要因取得部105と、劣化要因DB106と、画像解析部107と、特徴DB108と、損傷程度評価部109と、結果出力部110とを有する。
【0025】
画像記憶部101は、構造物2を撮像した画像データを記憶する。本実施形態では、撮像装置3によって生成された構造物2の画像データが、予め画像記憶部101に記憶されているものとする。なお、撮像装置3から画像記憶部101への画像データの取り込みは、フラッシュメモリや光ディスク等、可搬性の記憶媒体を介して行うようにしてもよいし、インターネット等のネットワークを介して行うようにしてもよい。
【0026】
画像読出部102は、画像記憶部101から、処理対象の画像データを読み出す。なお、画像読出し部102は、画像そのものを示す情報のほかメタデータとして付加されている位置情報も読み出す。位置情報は、画像を撮像した位置を示しており、画像データに埋め込まれた位置情報によれば、撮像された構造体2の存在するおおよその位置を特定することができる。
【0027】
構造物情報取得部103は、位置情報に対応付けて構造物DB104に保持されている構造物2に関する情報を読み出す。構造物DB104は、点検の対象となる構造物に関する情報を予め保持しているものとする。
図3は、構造物DB104に保持される情報のデータ構造の一例を示す図である。構造物DBは、「構造物識別情報」、「位置情報」、「設計情報」、「施工情報」、「維持管理情報」等の項目を含む。ここで、「構造物識別情報」の項目には、点検対象の構造物を管理するための名称やID等が保持される。なお、構造物2は、橋脚及び当該橋脚から張出した橋桁を1つの単位としたり、覆工コンクリートの所定の区間を1つの単位として、構造物DB104に登録するようにしてもよい。ま
た、「位置情報」は、「緯度」、「経度」、及び「標高」(例えば、平均海面を基準とした海抜)を含む。
【0028】
また、設計情報は、「構造」、「寸法」、「材料」といった中分類項目を含む。そして、「構造」の項目は、「用途」、「種別」、「種類」、「部位」、「鉄筋比」、「鉄筋かぶりコンクリート厚さ」等の項目をさらに含む。「用途」には、例えば、橋梁、擁壁、上下水道等が登録される。「種別」には、例えば、RC(Reinforced Concrete)、PC(Precast Concrete)、無筋等が登録される。「種類」には、例えば、橋脚、擁壁、ボック
スカルバート等が登録される。「部位」には、例えば、床版、壁、柱等が登録される。また、「寸法」の項目は、「部材厚さ」、「部材幅」、「リフト高さ」、「誘発目地」等の項目をさらに含む。また、「材料」の項目は、「コンクリートの構成材料」、「コンクリートの配合」、「補強材料(繊維補強材等)」等の項目を含む。
【0029】
また、「施工情報」は、「施工時期」、「打設間隔(日数)」、「施工温度(打設温度、最高温度)」、「最大ひび割れ幅」等の項目を含む。また、「維持管理情報」は、「点検履歴」、「補修履歴」、「補強履歴」等の項目を含む。構造物情報取得部103は、構造物DB104から、例えば画像データに付加された位置情報からの距離が最も近い構造物の情報を読み出す。
【0030】
劣化要因取得部105は、劣化要因DB106に保持されている劣化要因に関する情報を読み出す。
図4は、劣化要因DB106に保持される情報のデータ構造の一例を示す図である。劣化要因DB106は、「劣化要因識別情報」に対応付けて、劣化要因を示す「条件」を予め記憶しているものとする。ここで、劣化要因識別情報の項目には、劣化要因を示す名称やID等が保持される。「条件」には、劣化要因を有する地域を示す「地域情報」、構造物の「構造」、「寸法(サイズ)」、「材料」、「施工時期」、「打設間隔」、「施工温度」、又は「最大ひび割れ幅」等の劣化要因を示す情報を予め保持しているものとする。なお、「地域情報」は、複数の位置情報を包含する領域である地域を示す情報であり、「塩害環境地域」、「アルカリシリカ反応性骨材産地」、「凍害発生危険地域」、温泉地、酸性河川流域等の「化学的腐食環境地域」等に関連する地域が、例えばその影響の程度を示す情報と併せて登録される。地域を示す情報は、例えば、地図を格子状のメッシュに分割した領域の識別情報を用いることができる。具体的には、日本工業規格のJIS X0410に規定された地域メッシュコードを利用するようにしてもよい。また、「材料」の項目には、例えば海砂など、劣化の要因となりうる構造物2の構成材料が保持される。「寸法」の項目には、構造物の部分の長さや厚さ、鉄筋のかぶり等、劣化の要因となり得る構造物2の寸法を示す情報が保持される。「施工時期」は、当該構造物が建造された時期を示す。施工時期は、例えば材料や設計に関する基準等、規制の影響により、劣化の要因に影響し得る。劣化要因取得部105は、画像読出部102が読み出した位置情報や、構造物情報取得部103が取得した構造物の設計情報等に基づいて、劣化要因DB106から、当該構造物2に影響する可能性のある劣化要因の情報を読み出す。
【0031】
画像解析部107は、特徴DB108に予め記憶されている劣化要因ごとの劣化の特徴を示すモデルを用いて、画像読出部102が読み出した画像データを解析し、当該劣化要因による損傷の有無や程度を判定する。特徴DB108には、予め、劣化要因ごとの典型的な損傷の状態が表れた画像を複数入力して各々の特徴を機械学習させた関数や、劣化要因ごとの特徴を示すモデルが記憶されているものとする。なお、特徴を機械学習させた関数や特徴を示すモデルは、例えばニューラルネットワークを用いた教師付きの学習等、既存の技術を用いて生成することができ、本実施形態ではその生成手法は問わない。また、本実施形態では、特徴を機械学習させた関数や特徴を示すモデルを基準情報とも呼ぶ。本実施形態では、画像解析部107は、位置情報を含む構造物2の情報から特定された劣化要因に関する情報を用いて、画像データの認識の精度を向上させる。
【0032】
一般的に、コンクリート構造物の外観に表れる劣化(損傷)は、劣化の要因に応じたパターンがある。例えば、コンクリートの水和熱に起因するひび割れは部材の内外の温度差に伴って、部材の表面に発生する。また、ボックスカルバートの側壁のように、水和熱による部材の温度上昇後に、徐々に空冷して部材が収縮する場合には、底板にその収縮が拘束され、側壁下面から上方に向かってひび割れが発生する。中性化や塩化物の侵入による鉄筋の錆によるひび割れは、鉄筋に沿って発生する。さらに、ひび割れからの水の侵入により錆汁がコンクリート表面に流出することもある。また、コンクリートにアルカリシリカ反応性鉱物を含有する骨材が含まれる場合、膨張して亀甲状のひび割れが発生する場合がある。なお、このようなアルカリシリカ反応に関する対策として試験方法や判定基準が規定され、構造物の施工時期によって当該劣化要因による損傷は少なくなっている。また、火災や表面加熱による場合は、網目状の微細なひび割れとともに梁や柱に太めのひび割れが発生する。したがって、撮像された構造物2に発生する可能性の高い劣化の要因が、構造物2の位置情報(当該位置が含まれる地域の情報)、設計情報、施工情報、維持管理情報等からわかる場合、これらの情報を加味することで画像認識により劣化の状態や程度の判定の精度を向上させることができる。本実施形態では、画像データに付加された位置情報に対応するコンクリート構造物に対応付けられた劣化の要因を特定し、当該劣化の要因に起因して生じる劣化の状態の特徴を示す基準情報を優先的に選択して画像解析を行う。
【0033】
画像解析の結果としては、ひび割れの有無、ひび割れのパターン、コンクリートの剥離の有無、さらに鉄筋の露出の有無、漏水の有無、遊離石灰の有無、コンクリートの浮きの有無、コンクリートの変色の有無といった劣化の状態や、ひび割れの幅、間隔、密度といった劣化の程度を示すパラメータが出力される。劣化の状態は、劣化の状態ごとの典型的な画像を複数入力して機械学習させることにより予め生成した関数又はモデルを用いて判断できる。また、劣化の程度のうち、例えばひび割れ幅は、ひび割れに相当する部分の画素数からひび割れ幅に相当する寸法を逆算することができる。ひび割れ幅は、画像の中にゲージや所定のサイズのマーカ等を同時に撮像し、寸法の基準として幅を推定したり、撮像する際の構造物とカメラとの距離を一定に保って幅を逆算したりすることにより求められる。ひび割れ間隔は、ひび割れ幅と同様に、同時に撮像した基準となるゲージとの比較から間隔を算出したり、撮像する距離を一定に保って間隔を逆算したりする。ひび割れ密度は、例えば、撮像された画像の中のひび割れの総延長を、認識したひび割れの長さを集計して算出し、総延長の値を画像中の対象となる部材の面積で除して算出する。例えば以上のようにして、ひび割れの発生という劣化の状態や、ひび割れの幅、間隔、密度の大きさといった劣化の程度を示すパラメータが求められる。劣化の程度については、例えばひび割れの間隔や幅の大きさと、程度を示す評価区分とを格納するDBを用意しておき、程度を示す評価区分をパラメータとして出力するようにしてもよい。
【0034】
このとき、本実施形態では、劣化要因取得部が取得した劣化要因を用いて判断の制度を向上させる。例えば、劣化要因に基づいて、発生する可能性のある劣化の状態を絞り込んだり優先順位をつけたりしてもよい。また、画像認識の後に、劣化要因に基づいて認識結果が妥当であるか判断するようにしてもよい。さらに、画像認識によって劣化の状態を判断する際に、例えば構造物2に関連する劣化要因のスコアが高くなるような重み付け処理をしてもよい。このように、本実施形態では、画像データに付加された位置情報に対応するコンクリート構造物に対応付けられた劣化の要因に起因して生じる劣化の状態を優先的に選択する。
【0035】
損傷程度評価部109は、画像解析部107が出力した劣化要因、及び劣化のパラメータに基づいて、損傷の程度を評価すると共に、対策の必要性を判定する。ここで、劣化要因によって対策の必要性も変わる。例えば、急速な打ち込みや急激な乾燥によるひび割れ
、温度ひび割れ等は、コンクリートの打ち込み直後に発生し、短期間で成長が止まる。したがって、早い段階で補修を行えば構造物の耐久性に大きな影響は生じない。一方、中性化や塩害などによる鉄筋の腐食は、鉄筋に沿ったひび割れが生じた後、短期間でかぶりコンクリートの剥落に至る。このように、劣化要因に応じて、補修を行う必要がないか、速やかに補修が必要であるかといった判断を行うことができる。具体的には、画像解析部107が解析した劣化の状態及び程度と、劣化要因DBに記憶されている情報とを用いて予め定められた条件に合致する判定区分を求めるものとする。
【0036】
また、結果出力部110は、点検支援装置1の出力として、劣化状態や程度の判定結果、対策区分の評価を出力する。出力先は、点検支援装置1に接続されたディスプレイ上であってもよいし、図示していないネットワークを介して他のコンピュータであってもよい。また、結果出力部110は、構造物DB104において、点検の対象となった構造物2の識別情報に関連づけて点検の実施や評価結果を示す履歴情報を記憶させる。
【0037】
以上のように、点検支援装置1によれば、撮像された構造体2の情報や構造体2が存在する地域の情報を用いることにより、複数の劣化要因の各々による損傷発生の可能性を加味し、画像解析の精度を向上させることができる。
【0038】
なお、
図1及び
図2には1つの点検支援装置1を示しているが、複数の装置に機能を分散させるようにしてもよい。また、点検支援装置1は、図示していないネットワークを介して撮像装置3と接続されるようにしてもよい。
【0039】
また、
図2の例では構造物DB104、劣化要因DB106、特徴DB108をそれぞれデータベースと呼んでいるが、これらは1つのDBMS(Database Management System)が管理する複数のテーブルであってもよい。また、データ構造を適宜正規化等して任意の数のテーブルに分割してもよい。さらに、
図3及び
図4の例は、1つのレコードに含まれる項目(属性)を例示したが、情報を記憶する形式は特に限定されない。例えばRDBMS(Relational Database Management System)を採用するようにしてもよいし、いわ
ゆるNoSQLと呼ばれるような、ドキュメントストア型、キーバリュー型、オブジェクトデータベース、マルチバリューデータベース等の管理システムを採用してもよい。また、表計算ソフトによって作成された表や、CSV(Comma-Separated Values)のようなデリミタ区切りでデータを保持する形式であってもよい。
【0040】
<装置構成>
図5は、コンピュータの一例を示す装置構成図である。点検支援装置1は、例えば
図5に示すようなコンピュータである。
図5に示すコンピュータ1000は、CPU(Central Processing Unit)1001、主記憶装置1002、補助記憶装置(外部記憶装置)1
003、通信IF(Interface)1004、入出力IF(Interface)1005、ドライブ装置1006、通信バス1007を備えている。CPU1001は、プログラムを実行することにより本実施の形態に係る処理等を行う。主記憶装置1002は、CPU1001が読み出したプログラムやデータをキャッシュしたり、CPUの作業領域を展開したりする。主記憶装置は、具体的には、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等である。補助記憶装置1003は、CPU1001により実行されるプログラムや、本実施の形態で用いる設定情報などを記憶する。補助記憶装置1003は、具体的には、HDD(Hard-disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、eMMC(embedded
Multi-Media Card)、フラッシュメモリ等である。主記憶装置1002や補助記憶装置
1003は、点検支援装置1の画像記憶部101、構造物DB104、劣化要因DB106及び特徴DB108として働く。通信IF1004は、他のコンピュータとの間でデータを送受信する。通信IF1004は、具体的には、有線又は無線のネットワークカード等である。点検支援装置1は、ネットワークを介して撮像装置3から画像データを受信す
る構成にしてもよい。入出力IF1005は、入出力装置と接続され、ユーザから入力を受け付けたり、ユーザへ情報を出力したりする。入出力装置は、具体的には、キーボード、マウス、ディスプレイ、タッチパネル等である。ドライブ装置1006は、磁気ディスク、光磁気ディスク、光ディスク等の記憶媒体に記録されたデータを読み出したり、記憶媒体にデータを書き込んだりする。そして、以上のような構成要素が、通信バス1007で接続されている。なお、これらの構成要素はそれぞれ複数設けられていてもよいし、一部の構成要素(例えば、ドライブ装置1006)を設けないようにしてもよい。また、入出力装置がコンピュータと一体に構成されていてもよい。また、ドライブ装置1006で読み取り可能な可搬性の記憶媒体や、フラッシュメモリのような可搬性の補助記憶装置1003、通信IF1004などを介して、本実施の形態で実行されるプログラムが提供されるようにしてもよい。そして、CPU1001がプログラムを実行することにより、上記のようなコンピュータを例えば
図2に示した点検支援装置1として働かせる。
【0041】
<点検支援処理>
図6は、点検支援処理の一例を示す処理フロー図である。まず、点検支援装置1の画像読出部102は、画像記憶部101から画像データを読み出す(
図6:S1)。上述の通り、画像データには位置情報が埋め込まれており、画像読出部102は、画像そのものを表す情報と、当該画像を撮像した位置を示す位置情報とを読み出す。
【0042】
次に、点検支援装置1の構造物情報取得部103は、構造物DB104から、画像データに撮像されている構造物2の情報を読み出す(S2)。構造物描法取得部103は、
図3に示した構造物DB104のデータ構造における項目「位置情報」の値として、画像読出部101が読み出した位置情報に最も近い位置が保持されている構造物の情報を取得する。本ステップでは、画像データに撮像された構造物の設計情報、施工情報、維持管理情報等が取得される。
【0043】
また、点検支援装置1の劣化要因取得部105は、劣化要因DB106から、画像データに撮像された構造物2に影響する可能性のある劣化要因を読み出す(S3)。劣化要因取得部105は、画像読出部102が読み出した位置情報や、構造物情報取得部103が取得した構造物の設計情報等に基づいて、劣化要因DB106から、条件に該当する劣化要因を抽出する。
【0044】
その後、点検支援装置1の画像解析部107は、画像データを解析し、劣化の状態及び程度を判定する(S4)。本ステップでは、特徴DB108に予め記憶されている劣化要因ごとの劣化の特徴を示すモデルを用いて、例えば処理対象の画像に損傷が表れている場合、当該損傷がいずれの劣化要因に起因するものであるか判断する画像認識処理を行う。なお、本実施形態では、S3で抽出した劣化要因を用いて処理を行う。例えば、構造物2の位置情報が属する地域に関連付けられた劣化要因に基づいて、まず発生する可能性のある劣化の要因を絞り込んだり優先順位をつけたりして、その後当該優先順位に基づいて劣化要因ごとの特徴を示すモデルを用いて画像データの認識を行うようにしてもよい。また、先に様々な劣化要因ごとの特徴を示すモデルによって画像データの認識を行い、その後構造物2の位置情報が属する地域に関連付けられた劣化要因に基づいて認識結果が妥当であるか判断するようにしてもよい。さらに、劣化要因ごとの特徴を示すモデルによって画像データの認識を行う際に、例えば構造物2の位置情報が属する地域に関連付けられた劣化要因のスコアが高くなるような重み付けをしてもよい。画像解析の結果として、ひび割れの有無、ひび割れのパターン、コンクリートの剥離の有無、さらに鉄筋の露出の有無、漏水の有無、遊離石灰の有無、コンクリートの浮きの有無、コンクリートの変色の有無といった劣化の状態や、ひび割れの幅、密度といった劣化の程度がわかる。
【0045】
劣化による損傷程度の評価とそれに対応する対策の判定は、点検対象の構造物に応じて
、準拠すべき基準に従うものとする。例えば、直轄国道の橋梁に関しては「橋梁定期点検要領(案)」(国土交通省,平成16年3月)に従う。当該要領によれば、橋梁のコンクリート床版のひび割れに関しての損傷程度の評価区分は
図7の様に定義されている。すなわち、最小ひび割れ間隔が概ね1.0m以上であって、ひび割れが主として一方向のみ、最大ひび割れ幅が0.05mm以下(ヘアークラック程度)の場合は、比較的程度の軽い区分aとする。また、ひび割れ間隔が1.0m〜0.5m、ひび割れは一方向が主で直交方向は従、かつ格子状でない場合は、区分bとする。また、ひび割れ間隔が0.5m程度、格子状直前のものであって、ひび割れ幅は0.2mm以下が主であるが、一部に0.2mm以上も存在する場合は、区分cとする。また、ひび割れ間隔が0.5m〜0.2mで、格子状に発生しており、ひびわれ幅は0.2mm以上が目立ち、部分的な角落ちもみられる場合は、区分dとする。そして、ひび割れ間隔が0.2m以下で、格子状に発生しており、ひびわれ幅は0.2mm以上がかなり目立ち連続的な角落ちが生じている場合は、程度の重い区分eとする。なお、例えば画像からひび割れの間隔や幅といったサイズを認識するためには、予め撮像する際の構造物と撮像装置との距離を定めておくことで、画像中のひび割れのサイズが算出できるようにしてもよい。また、予めサイズのわかっているマーカを点検対象の構造物と共に撮像し、これを基準としてひび割れのサイズを算出するようにしてもよいし、撮像された構造物の2点間の距離の入力を受け付け、これを基準としてひび割れのサイズを算出するようにしてもよい。なお、このような判定の基準が橋梁以外の構造物についても予め定義されているものとする。
【0046】
そして、点検支援装置1の損傷程度評価部109は、撮像された構造物2に劣化が表れているか判断する(S5)。例えば、上述した評価区分が所定の閾値以上(a以上又はb以上等)であれば、劣化が表れていると判断する。劣化があると判断された場合(S5:YES)、損傷程度評価部109は、劣化の程度を評価する(S6)。ここでは、上述した劣化の状態や劣化の程度を用いて、対策の必要性を判定する。なお、画像解析の結果に加え、構造物2の設計情報、施工情報、維持管理情報を用いて対策の必要性を判定してもよい。例えば、
図7の評価区分、構造物DB又は劣化要因DBに保持されている情報等に基づいて損傷程度と判定区分を決定する。
【0047】
図8は、コンクリート床版の判定区分の一例を説明するための図である。
図8は、判定区分、当該区分の内容、及び当該区分と判定されるための条件を対応付けて示している。本実施形態に係る条件は、S4で求めた評価区分、及びS3で抽出した劣化要因を用いて予め定められているものとする。例えば、ひび割れに関する評価区分がa或いはbの場合、損傷が認められないか、損傷が軽微で補修を行う必要がないと判定し、判定区分はAとする。また、ひび割れに関する評価区分がcの場合、状況に応じて補修を行う必要があると判定し、判定区分はBとする。また、ひび割れに関する評価区分がdの場合は、速やかに補修等を行う必要があると判定し、判定区分はCとする。また、ひび割れに関する評価区分がeの場合は原則的に、例えば構造物2が橋梁であれば、橋梁構造の安全性の観点から、緊急対応の必要があると判定し、判定区分はE1とする。また、ひび割れに関する評価区分がeの場合であって、例えば画像が橋梁の床版を撮像したものであり、抜け落ち寸前の床版ひびわれが発生していると判断できるようなときは、その他、緊急対応の必要があると判定し、判定区分はE2とする。また、例えばひび割れに関する評価区分がbの場合あって、同程度の年代に構築された他の構造物と比較して損傷の程度が大きいと判断される場合、構造物2の位置情報が含まれる地域についてアルカリ骨材反応や塩害等、特定の事象のおそれがあると判断される場合には、詳細調査の必要があると判定し、判定区分はSとする。なお、処理対象の構造物が、例えば橋梁以外の用途や、コンクリート床板以外の部位である場合であって、所定の条件に該当するときは、維持工事で対応する必要がある旨の判定区分が選択されるようにしてもよい。
【0048】
S6の後、又はS5において劣化がないと判断された場合(S5:NO)、結果出力部
110は、処理の結果を出力する(S7)。なお、構造物2を撮像した複数の画像データについてそれぞれ
図6の処理を行う。処理の結果は、同一の構造物2を撮像した複数の画像データを処理した後に結果を統合してから出力するようにしてもよい。また、点検の実施や結果を示す履歴情報を、構造物DB104の維持管理情報に記憶させる。例えば、上述した判定区分のような情報が出力される。なお、結果出力部110は、評価区分や判定区分を例えば構造物DBにも記憶させておき、損傷程度評価部109が、ある構造物について同程度の年代に構築された他の構造物の平均と比較して損傷の程度が大きいか否か判断できるようにしてもよい。
【0049】
図6の点検支援処理によれば、撮像された構造物2の情報や構造物2が存在する地域の情報を用いることにより、複数の劣化要因の各々による損傷発生の可能性が加味され、画像解析の精度が向上する。すなわち、本発明では、画像データに付加された位置情報に対応するコンクリート構造物に対応付けられた劣化の要因に起因して生じる劣化の状態を優先的に選択することで、画像解析の精度が向上する。なお、コンクリート構造物に対応付けられた劣化の要因には、コンクリート構造物の設計情報、施工情報、維持管理情報等に応じた劣化の要因のほか、コンクリート構造物が構築された地域に応じた劣化の要因がある。
【0050】
<その他>
本発明は上述の処理を実行するコンピュータプログラムを含む。さらに、当該プログラムを記録した、コンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に属する。当該プログラムが記録された記録媒体については、コンピュータに、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、上述の処理が可能となる。
【0051】
ここで、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータから読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体のうちコンピュータから取り外し可能なものとしては、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、光ディスク、磁気テープ、メモリカード等がある。また、コンピュータに固定された記録媒体としては、ハードディスクドライブやROM等がある。