(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
温度や圧力などのプロセス量を制御するためのプロセス制御系において、例えば温度が制御対象であれば、ヒータと温度センサと温調計が1個ずつというように、1個の制御量PVに対して1個のアクチュエータという組合せが基本になる。
【0003】
一方で、加熱アクチュエータ(ヒータ)と冷却アクチュエータ(冷却器)という2個のアクチュエータを協調動作させて、温度を制御する方法も提案されている(特許文献1参照)。
図6は特許文献1に開示された制御装置を加熱処理炉の温度制御に適用した例を示す図、
図7は特許文献1に開示された制御装置の構成を示すブロック図である。加熱処理炉100では、ヒータ101で加熱、冷却器102で冷却した空気を循環させるようになっている。
【0004】
コントローラ104は、加熱処理炉100内の温度センサ103によって計測された制御量(温度計測値)PV_Aと設定値SP_Aに基づいてPID制御演算により加熱用の操作量MV_Aを算出する。コントローラ105は、設定値SP_Bとしてコントローラ104の加熱用操作量MV_Aの望ましい値を採用し、制御量としてコントローラ104の加熱用操作量MV_Aを採用し、PID制御演算により冷却用の操作量MV_Bを算出する。
【0005】
特許文献1に開示された技術によれば、単に温度を制御するだけではなく、加熱と冷却の相殺を低減してエネルギー効率を改善することができる。特許文献1に開示された技術の特徴は、エネルギー効率に影響を与える要因である、ヒータ出力と冷却器出力との平衡点に着眼し、ヒータ出力(操作量MV_A)を常時監視しながら調整する制御ループを付加したことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
所望の平衡点設定値(
図7におけるSP_B)については、現場のオペレータが任意に設定するものなので、オペレータの知識次第では適切な平衡点から大きく外れることもある。いずれにしろ、平衡点設定値は主観で決まるものになり、制御系の目標状態に客観性が保たれるとは限らない。
【0008】
オペレータが任意に設定する平衡点設定値が適切な平衡点から外れていたとしても、技術的には制御系の動作が成り立たなくなるような重大な問題点ではない。しかし、特許文献1に開示されているように、予冷却・再加熱式の温度制御系では、冷却器によっていったん予冷却した上でヒータによる加熱で最適温度にするような出力相殺が行われるため、この出力相殺が不適切に行われると、エネルギー消費が大きくなるという問題点があった。
【0009】
特許文献1に開示された技術では、オペレータが平衡点を任意に選ぶことにより、上記のような出力相殺を最小限にして省エネルギーを実現しているので、平衡点設定値の決定方法について、より良い改善が求められる。なお、平衡点設定値の客観的な決定方法を実現することは、特許文献1に開示されたような温度制御系に限らず、制御の主目的のための主制御系に平衡点を調整するための副制御系を付加した構成の制御系に共通の課題である。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、主制御系に平衡点を調整するための副制御系を付加した構成の制御系において、客観的な方法で平衡点設定値を決定して省エネルギーを実現することができる制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明
は、主制御系の第1の操作量出力による制御対象への操作と副制御系の第2の操作量出力による制御対象への操作とが、出力相殺の関係で構成されている制御系を対象とする制御装置において、前記主制御系に対応して設けられ、前記主制御系の設定値と制御量を入力として制御演算により第1の操作量を算出
し、この第1の操作量を所定の下限値OL_A以上の値に制限する下限処理を行う第1の制御演算手段と、この第1の制御演算手段によって算出され
下限処理された第1の操作量を前記主制御系のアクチュエータに出力する第1の操作量出力手段と、主制御の定常状態での望ましい操作量出力である平衡点を調整するための
前記副制御系に対応して設けられ、前記平衡点を示す平衡点設定値を入力とすると共に、前記第1の制御演算手段によって算出された第1の操作量を制御量入力として、制御演算により第2の操作量を算出する第2の制御演算手段と、この第2の制御演算手段によって算出された第2の操作量を前記副制御系のアクチュエータに出力する第2の操作量出力手段と、前記主制御系の設定値が予め規定された時間以上同一の値に維持されている状態を、定常状態として検出する定常状態検出手段と、
前記主制御系および前記副制御系によって操作される制御対象が、前記第1の操作量が小さいほど省エネルギーに有利な状態に維持できるものであるときに、前記定常状態において検出した前記第1の操作量の平均値と最小値との差を、前記第1の操作量の下限値OL_Aに加算することで前記平衡点設定値を算出する平衡点設定値決定手段と、この平衡点設定値決定手段によって算出された平衡点設定値を前記第2の制御演算手段が用いる値として設定する平衡点設定値出力手段とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明は、主制御系の第1の操作量出力による制御対象への操作と副制御系の第2の操作量出力による制御対象への操作とが、出力相殺の関係で構成されている制御系を対象とする制御装置において、前記主制御系に対応して設けられ、前記主制御系の設定値と制御量を入力として制御演算により第1の操作量を算出し、この第1の操作量を所定の上限値OH_A以下の値に制限する上限処理を行う第1の制御演算手段と、この第1の制御演算手段によって算出され上限処理された第1の操作量を前記主制御系のアクチュエータに出力する第1の操作量出力手段と、主制御の定常状態での望ましい操作量出力である平衡点を調整するための前記副制御系に対応して設けられ、前記平衡点を示す平衡点設定値を入力とすると共に、前記第1の制御演算手段によって算出された第1の操作量を制御量入力として、制御演算により第2の操作量を算出する第2の制御演算手段と、この第2の制御演算手段によって算出された第2の操作量を前記副制御系のアクチュエータに出力する第2の操作量出力手段と、前記主制御系の設定値が予め規定された時間以上同一の値に維持されている状態を、定常状態として検出する定常状態検出手段と、前記主制御系および前記副制御系によって操作される制御対象が、前記第1の操作量が大きいほど省エネルギーに有利な状態に維持できるものであるときに、前記定常状態において検出した前記第1の操作量の最大値と平均値との差を、前記第1の操作量の上限値OH_Aから減算することで前記平衡点設定値を算出する平衡点設定値決定手段と、この平衡点設定値決定手段によって算出された平衡点設定値を前記第2の制御演算手段が用いる値として設定する平衡点設定値出力手段とを備えることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の制御装置の1構成例において、前記平衡点設定値決定手段は、算出した平衡点設定値を所定の上限値と下限値の範囲内に制限する上下限処理を行って、上下限処理後の平衡点設定値を前記平衡点設定値出力手段に出力するものであり、前記平衡点設定値の上限値は前記第1の操作量の所定の上限値
OH_Aよりも小さく、前記平衡点設定値の下限値は前記第1の操作量の所定の下限値
OL_Aよりも大きく設定されていることを特徴とするものである。
また、本発明の制御装置の1構成例において、
前記平衡点設定値決定手段は、前記定常状態において検出した前記第1の操作量の平均値と最小値との差
を、余裕量を
決める係数で補正した値を、前記第1の操作量の下限値
OL_Aに加算することで前記平衡点設定値を算出することを特徴とするものである。
また、本発明の制御装置の1構成例において、
前記平衡点設定値決定手段は、前記定常状態において検出した前記第1の操作量の最大値と前記平均値との差
を、余裕量を
決める係数で補正した値を、前記第1の操作量の上限値
OH_Aから減算することで前記平衡点設定値を算出することを特徴とするものである
。
【0013】
また、本発明
は、主制御系の第1の操作量出力による制御対象への操作と副制御系の第2の操作量出力による制御対象への操作とが、出力相殺の関係で構成されている制御系を対象とする制御方法において、前記主制御系の設定値と制御量を入力として制御演算により第1の操作量を算出
し、この第1の操作量を所定の下限値OL_A以上の値に制限する下限処理を行う第1の制御演算ステップと、この第1の制御演算ステップで算出
して下限処理した第1の操作量を前記主制御系のアクチュエータに出力する第1の操作量出力ステップと、主制御の定常状態での望ましい操作量出力である平衡点を示す平衡点設定値を入力とすると共に、前記第1の制御演算ステップで算出した第1の操作量を制御量入力として、制御演算により第2の操作量を算出する第2の制御演算ステップと、この第2の制御演算ステップで算出した第2の操作量を、前記平衡点を調整するための
前記副制御系のアクチュエータに出力する第2の操作量出力ステップと、前記主制御系の設定値が予め規定された時間以上同一の値に維持されている状態を、定常状態として検出する定常状態検出ステップと、
前記主制御系および前記副制御系によって操作される制御対象が、前記第1の操作量が小さいほど省エネルギーに有利な状態に維持できるものであるときに、前記定常状態において検出した前記第1の操作量の平均値と最小値との差を、前記第1の操作量の下限値OL_Aに加算することで前記平衡点設定値を算出する平衡点設定値決定ステップと、この平衡点設定値決定ステップで算出した平衡点設定値を前記第2の制御演算ステップで用いる値として設定する平衡点設定値出力ステップとを含むことを特徴とするものである。
また、本発明は、主制御系の第1の操作量出力による制御対象への操作と副制御系の第2の操作量出力による制御対象への操作とが、出力相殺の関係で構成されている制御系を対象とする制御方法において、前記主制御系の設定値と制御量を入力として制御演算により第1の操作量を算出し、この第1の操作量を所定の上限値OH_A以下の値に制限する上限処理を行う第1の制御演算ステップと、この第1の制御演算ステップで算出して上限処理した第1の操作量を前記主制御系のアクチュエータに出力する第1の操作量出力ステップと、主制御の定常状態での望ましい操作量出力である平衡点を示す平衡点設定値を入力とすると共に、前記第1の制御演算ステップで算出した第1の操作量を制御量入力として、制御演算により第2の操作量を算出する第2の制御演算ステップと、この第2の制御演算ステップで算出した第2の操作量を、前記平衡点を調整するための前記副制御系のアクチュエータに出力する第2の操作量出力ステップと、前記主制御系の設定値が予め規定された時間以上同一の値に維持されている状態を、定常状態として検出する定常状態検出ステップと、前記主制御系および前記副制御系によって操作される制御対象が、前記第1の操作量が大きいほど省エネルギーに有利な状態に維持できるものであるときに、前記定常状態において検出した前記第1の操作量の最大値と平均値との差を、前記第1の操作量の上限値OH_Aから減算することで前記平衡点設定値を算出する平衡点設定値決定ステップと、この平衡点設定値決定ステップで算出した平衡点設定値を前記第2の制御演算ステップで用いる値として設定する平衡点設定値出力ステップとを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、主制御系の第1の制御演算手段と、主制御系の第1の操作量出力手段と、副制御系の第2の制御演算手段と、副制御系の第2の操作量出力手段と、主制御系の設定値が予め規定された時間以上同一の値に維持されている状態を、定常状態として検出する定常状態検出手段と、定常状態において検出した第1の操作量の平均値と最小値との差、あるいは第1の操作量の最大値と平均値との差に基づき、平衡点設定値を算出する平衡点設定値決定手段と、平衡点設定値を第2の制御演算手段が用いる値として設定する平衡点設定値出力手段とを設けることにより、従来よりも客観的な方法で平衡点設定値を決定して省エネルギーを実現することができる。
【0015】
また、本発明では、算出した平衡点設定値を所定の上限値と下限値の範囲内に制限する上下限処理を行った上で、第2の制御演算手段が用いる値として設定することにより、従来よりも格段に客観的な方法で平衡点設定値を決定して省エネルギーを実現することができる。
【0016】
また、本発明では、定常状態において検出した第1の操作量の平均値と最小値との差に余裕量を含めた値を、第1の操作量の下限値に加算して平衡点設定値を算出することにより、第1の操作量の下限値との間の余裕量が最小になるように平衡点設定値を設定することができ、第1の操作量が小さいほど省エネルギーに有利な状態に維持できる制御対象に適合した平衡点設定値を決定することができる。
【0017】
また、本発明では、定常状態において検出した第1の操作量の最大値と平均値との差に余裕量を含めた値を、第1の操作量の上限値から減算して平衡点設定値を算出することにより、第1の操作量の上限値との間の余裕量が最小になるように平衡点設定値を設定することができ、第1の操作量が大きいほど省エネルギーに有利な状態に維持できる制御対象に適合した平衡点設定値を決定することができる。
【0018】
また、本発明では、平衡点設定値決定手段が算出した平衡点設定値が平衡点設定値の上限値あるいは下限値から逸脱している場合に、アラームでオペレータに通知することにより、平衡点設定値の不適切な自動決定が行われる可能性があったことをオペレータに伝えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[発明の原理1]
平衡点設定値は、基本的には「出力相殺を最小限にして、省エネルギーを実現する」ための操作量の選び方を意味する。ここで、制御の平衡状態とは、制御動作の視点で見れば定常状態であり、主目的の制御系の設定値(
図7におけるSP_A)が長時間に亘って同一の値に維持されている状態である。したがって、発明者は、定常状態の操作量MV_Aの実績に基づき、定常状態で必要な「操作量MV_Aの上下限値との間の余裕量」が最小になるように平衡点設定値を逆算すれば、客観的かつ原理的に妥当な平衡点設定値を求めることができることに想到した。
【0021】
例えば、特許文献1に開示されたような加熱・冷却出力相殺の緩和であれば、
図7の設定値SP_Aが規定時間以上同一の値に維持されている定常状態を検出し、この定常状態において検出される操作量MV_Aの平均値MV_A_aveと最小値MV_A_minとの差に基づいて平衡点設定値SP_Bを逆算すればよい。制御性能を犠牲にせずに出力相殺を最小限とする理論上の平衡点設定値SP_Bは、操作量MV_Aの下限値OL_A(通常の場合0.0%)との余裕量が最小になるものとして、次式のように算出することができる。
SP_B=OL_A+(MV_A_ave−MV_A_min) ・・・(1)
【0022】
なお、式(1)および以下の式の説明では、制御量PV_A、設定値SP_A,SP_B、操作量MV_A,MV_Bは全て0〜100%に正規化されているものとして説明する。
【0023】
式(1)では平衡点設定値SP_Bの算出に余裕量を設けていないが、実用上は、制御対象の特性に応じて、現場のオペレータよりも知識の豊富な制御系設計の専門家が、予め余裕の取り方を規定しておくのが好ましい。実用的な平衡点設定値SP_Bは、例えば次式のようなものになる。
SP_B=OL_A+(MV_A_ave−MV_A_min)×α ・・・(2)
SP_B=OL_A+(MV_A_ave−MV_A_min+β) ・・・(3)
【0024】
式(2)におけるαは余裕量を決める係数であり、例えば1.0を中心に0.8〜1.2程度の値である。同様に、式(3)におけるβも余裕量を決める係数であり、例えば0.0を中心に−5.0%〜5.0%程度の値である。ここで、余裕量を決める係数α,βは、理屈上は主観で決めることになる。しかし、直接的に平衡点設定値SP_Bを決める部分ではないので、係数α,βの可変幅を小さくしてしまうことも可能である(例えばαについては1.0で固定、βについては0.0で固定)。このように可変幅を小さくすれば、従来の特許文献1に比べ、平衡点設定値SP_Bの客観性を格段に保つことが可能となる。
【0025】
操作量MV_Aの上限値OH_Aとの間の余裕量で平衡点設定値SP_Bを決定すべきケースでも、同様に設計できる。この場合、定常状態において検出される操作量MV_Aの平均値MV_A_aveと最大値MV_A_maxとの差に基づいて平衡点設定値SP_Bを次式のように逆算すればよい。
SP_B=OH_A−(MV_A_max−MV_A_ave)×α ・・・(4)
SP_B=OH_A−(MV_A_max−MV_A_ave+β) ・・・(5)
式(4)の係数αは例えば1.0を中心に0.8〜1.2程度の値であり、式(5)の係数βは例えば0.0を中心に−5.0%〜5.0%程度の値である。
【0026】
[発明の原理2]
本発明は、制御の実績に基づく平衡点設定値SP_Bの自動決定手法であるので、極めて特殊な制御状態の実績に基づいて、平衡点設定値SP_Bの不適切な自動決定が行なわれる危険性も考慮する必要がある。この危険性に対しては、平衡点設定値SP_B自体に対して、制御系設計の専門家が予め上下限値を設定しておけばよい。自動決定される平衡点設定値SP_Bが上下限値に到達した場合は、アラームなどでオペレータに通知するのが好ましい。
【0027】
係数α,βの場合と同様に、平衡点設定値SP_Bの上下限値は、理屈上は主観で決めることになる。しかし、直接的に平衡点設定値SP_Bを決める部分ではないので、上下限値の幅を大きくすることも可能である。上下限値の幅を大きくすれば、平衡点設定値SP_Bを自動決定できる範囲が大きく取れるのであるから、従来の特許文献1に比べ、平衡点設定値SP_Bの客観性を格段に保つことが可能となる。
【0028】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本実施の形態に係る制御装置の構成を示すブロック図、
図2は本実施の形態に係る制御系のブロック線図である。本実施の形態は、上記発明の原理1、発明の原理2に対応する例である。また、本実施の形態では、
図6、
図7で説明したような加熱・冷却相殺系(操作量MV_Aが小さいほど省エネルギー的に有利な状態に維持できる系)を適用対象とする。すなわち、操作量MV_Aの下限値OL_Aとの間の余裕量で平衡点設定値SP_Bを決定すべきケースとする。
【0029】
制御装置は、制御の主目的のための主制御系に対応して設けられる主制御部1と、主制御の定常状態での望ましい操作量出力である平衡点を調整するための副制御系(操作量調整制御系)に対応して設けられる副制御部2と、平衡点を示す平衡点設定値SP_Bを決定して副制御部2で用いられる平衡点設定値SP_Bを更新する平衡点設定値決定機能部3とから構成される。
【0030】
主制御部1は、主制御系の設定値SP_Aを入力する設定値入力部10と、計測器によって計測される主制御系の制御量PV_Aを入力する制御量入力部11と、設定値SP_Aと制御量PV_Aを入力としてフィードバック制御演算により操作量MV_A(第1の操作量)を算出する制御演算部12(第1の制御演算手段)と、操作量MV_Aを主制御系のアクチュエータに出力する操作量出力部13(第1の操作量出力手段)とを備えている。
【0031】
副制御部2は、平衡点設定値SP_Bを入力する平衡点設定値設定部20と、主制御部1から操作量MV_Aを取得する操作量取得部21と、平衡点設定値SP_Bを入力とすると共に、操作量MV_Aを制御量入力として、フィードバック制御演算により調整操作量MV_B(第2の操作量)を算出する調整制御演算部22(第2の制御演算手段)と、調整操作量MV_Bを副制御系のアクチュエータに出力する調整操作量出力部23(第2の操作量出力手段)とを備えている。
【0032】
平衡点設定値決定機能部3は、主制御部1から設定値SP_Aを取得する設定値取得部30と、主制御部1から操作量MV_Aを取得する操作量取得部31と、設定値SP_Aが予め規定された時間以上同一の値に維持されている状態を、定常状態として検出する定常状態検出部32と、定常状態において検出した操作量MV_Aの平均値MV_A_aveと最小値MV_A_minとの差に基づき、平衡点設定値SP_Bを算出する平衡点設定値決定部33と、平衡点設定値SP_Bを、平衡点設定値設定部20に出力して副制御部2で用いられる平衡点設定値SP_Bを更新する平衡点設定値出力部34とを備えている。
【0033】
図2における4は主制御系のアクチュエータ(
図6、
図7の例ではヒータ101)、5は副制御系のアクチュエータ(
図6、
図7の例では冷却器102)、6は制御対象である。主制御部1とアクチュエータ4と制御対象6とが主制御系を構成し、副制御部2とアクチュエータ5と制御対象6とが副制御系を構成している。
【0034】
以下、本実施の形態の制御装置の動作を
図3を参照して説明する。
図3は制御装置の動作を示すフローチャートである。
主制御系の設定値SP_Aは、オペレータなどによって設定され、設定値入力部10を介して制御演算部12と平衡点設定値決定機能部3の設定値取得部30とに入力される(
図3ステップS100)。
【0035】
主制御系の制御量PV_Aは、センサなど(
図6の例では温度センサ103)によって計測され、制御量入力部11を介して制御演算部12と平衡点設定値決定機能部3の操作量取得部31とに入力される(
図3ステップS101)。
【0036】
主制御部1の制御演算部12は、設定値入力部10から入力された設定値SP_Aと制御量入力部11から入力された制御量PV_Aに基づいて、以下の伝達関数式のようなPID制御演算を行って操作量MV_Aを算出する(
図3ステップS102)。
MV_A=(100/PB_A){1+(1/TI_As)+TD_As}
×(SP_A−PV_A) ・・・(6)
式(6)において、PB_Aは比例帯、TI_Aは積分時間、TD_Aは微分時間、sはラプラス演算子である。
【0037】
そして、制御演算部12は、算出した操作量MV_Aに対して、式(7)のような上限処理を行うと同時に、式(8)のような下限処理を行う(
図3ステップS103)。
IF MV_A>OH_A THEN MV_A=OH_A ・・・(7)
IF MV_A<OL_A THEN MV_A=OL_A ・・・(8)
【0038】
すなわち、制御演算部12は、操作量MV_Aが予め設定された上限値OH_Aより大きい場合、操作量MV_A=OH_Aとし、操作量MV_Aが予め設定された下限値OL_Aより小さい場合、操作量MV_A=OL_Aとする。通常は、上限値OH_Aは100.0%であり、下限値OL_Aは0.0%である。
【0039】
主制御部1の操作量出力部13は、制御演算部12によって算出され上下限処理された操作量MV_Aを対応する主制御系のアクチュエータ4に出力する(
図3ステップS104)。
【0040】
次に、操作量MV_Aの調整されるべき平衡点を示す平衡点設定値SP_Bの初期値は、オペレータなどによって設定され、副制御部2の平衡点設定値設定部20を介して調整制御演算部22に入力される(
図3ステップS105)。平衡点設定値SP_Bの初期値は、エネルギー効率等を考慮して決定される。
【0041】
副制御部2の操作量取得部21は、主制御部1の操作量出力部13から操作量MV_Aを取得する(
図3ステップS106)。
副制御部2の調整制御演算部22は、平衡点設定値設定部20から入力された平衡点設定値SP_Bと操作量取得部21から入力された操作量MV_Aに基づいて、以下の伝達関数式のようなPID制御演算を行って調整操作量MV_Bを算出する(
図3ステップS107)。
MV_B=(100/PB_B){1+(1/TI_Bs)+TD_Bs}
×(SP_B−MV_A) ・・・(9)
式(9)において、PB_Bは比例帯、TI_Bは積分時間、TD_Bは微分時間、sはラプラス演算子である。
【0042】
そして、調整制御演算部22は、算出した調整操作量MV_Bに対して、式(10)のような上限処理を行うと同時に、式(11)のような下限処理を行う(
図3ステップS108)。
IF MV_B>OH_B THEN MV_B=OH_B ・・・(10)
IF MV_B<OL_B THEN MV_B=OL_B ・・・(11)
【0043】
すなわち、調整制御演算部22は、調整操作量MV_Bが予め設定された上限値OH_Bより大きい場合、操作量MV_B=OH_Bとし、調整操作量MV_Bが予め設定された下限値OL_Bより小さい場合、操作量MV_B=OL_Bとする。通常は、上限値OH_Bは100.0%であり、下限値OL_Bは0.0%である。
【0044】
副制御部2の調整操作量出力部23は、調整制御演算部22によって算出され上下限処理された調整操作量MV_Bを対応する副制御系のアクチュエータ5に出力する(
図3ステップS109)。
【0045】
次に、平衡点設定値決定機能部3の設定値取得部30は、主制御部1の設定値入力部10から設定値SP_Aを取得する(
図3ステップS110)。
平衡点設定値決定機能部3の操作量取得部31は、主制御部1の操作量出力部13から操作量MV_Aを取得する(
図3ステップS111)。
【0046】
平衡点設定値決定機能部3の定常状態検出部32は、主制御が定常状態かどうかを判定する(
図3ステップS112)。具体的には、定常状態検出部32は、判定しようとする現在の制御周期時点よりも所定の時間TH以上遡った過去の時点から現在の制御周期時点まで、設定値SP_Aが同一の値に維持されていた場合、主制御が定常状態であると判定する。時間THは、設定値SP_Aを変更したときに、制御量PV_Aが設定値SP_Aに追従する過渡状態が完了するのに必要な時間以上の時間として予め規定しておくことができる。
【0047】
平衡点設定値決定機能部3の平衡点設定値決定部33は、主制御が定常状態と判定された場合(ステップS112においてYES)、定常状態において検出される操作量MV_Aの平均値MV_A_aveと定常状態において検出される操作量MV_Aの最小値MV_A_minとの差に基づき、上記の式(2)により平衡点設定値SP_Bを決定する(
図3ステップS113)。上記のとおり係数αは、例えば1.0を中心に0.8〜1.2程度の値である。平均値MV_A_aveおよび最小値MV_A_minを求める対象となる定常状態の範囲は、過去から現在の制御周期時点まで連続して検出される全ての定常状態の時間帯とする。
【0048】
平衡点設定値決定部33は、ステップS113で算出した平衡点設定値SP_Bに対して、式(12)のような上限処理を行うと同時に、式(13)のような下限処理を行う(
図3ステップS114)。
IF SP_B>SH THEN SP_B=SH ・・・(12)
IF SP_B<SL THEN SP_B=SL ・・・(13)
【0049】
すなわち、平衡点設定値決定部33は、平衡点設定値SP_Bが予め設定された上限値SHより大きい場合、平衡点設定値SP_B=SHとし、平衡点設定値SP_Bが予め設定された下限値SLより小さい場合、平衡点設定値SP_B=SLとする。
【0050】
特に制約がなければ、平衡点設定値SP_Bの上限値SHは操作量MV_Aの上限値OH_Aと同値でよく、平衡点設定値SP_Bの下限値SLは操作量MV_Aの下限値OL_Aと同値でよい。ただし、技術的意義を考えれば、SH<OH_Aのように設定されるべきである。
【0051】
また、平衡点設定値決定部33は、ステップS113で算出した平衡点設定値SP_Bが上限値SHあるいは下限値SLから逸脱していた場合、すなわち平衡点設定値SP_Bが上限値SHより大きいか、下限値SLより小さかった場合(
図3ステップS115)、平衡点設定値SP_Bの不適切な自動決定が行われる可能性があったことを示すアラームをオペレータに対して出力する(
図3ステップS116)。アラームの出力方法としては、例えば制御装置に設けられたアラーム通知用のLEDを点滅または点灯させたりする等の方法がある。
【0052】
平衡点設定値決定機能部3の平衡点設定値出力部34は、平衡点設定値決定部33によって算出され上下限処理された平衡点設定値SP_Bを副制御部2の平衡点設定値設定部20に出力することで、副制御部2で用いる平衡点設定値SP_Bを更新する(
図3ステップS117)。
【0053】
以上のようなステップS100〜S117の処理が、例えばオペレータからの指令によって制御が終了するまで(
図3ステップS118においてYES)、制御周期毎に繰り返し実行される。
【0054】
図4(A)、
図4(B)は本実施の形態の制御装置の動作例を示す図であり、
図4(A)は平衡点設定値SP_Bの調整前の動作例を示す図、
図4(B)は平衡点設定値SP_Bの調整後の動作例を示す図である。
図4(A)、
図4(B)の縦軸は操作量、横軸は時間である。本実施の形態によれば、
図4(A)に示す定常状態で上記のように平衡点設定値SP_Bを算出して更新することで、
図4(B)に示すように操作量MV_Aの下限値OL_Aとの間の余裕量が最小になるように平衡点設定値SP_Bを設定することができる。
【0055】
なお、本実施の形態では、平衡点設定値決定部33が平衡点設定値SP_Bを決定する式として式(2)を用いているが、前述の発明の原理1で説明したように、平衡点設定値SP_Bを式(3)によって決定してもよい。
【0056】
また、本実施の形態では、
図6、
図7で説明したような加熱・冷却系を適用対象としていたが、例えば主制御系の操作量MV_Aにより操作されるのが熱交換媒体の流量であり、副制御系の操作量MV_Bにより操作されるのが熱交換媒体の温度であるものも、本発明の適用対象に含まれる。
【0057】
このような温度制御系の構成を
図5に示す。
図5の例では、操作量MV_Aに応じて熱交換媒体流量制御弁50の開度が制御され、熱交換媒体温度制御器51から供給される熱交換媒体の温度が調整操作量MV_Bに応じて制御される。熱交換媒体流量制御弁50を通過した熱交換媒体は熱交換機52に供給され、熱交換機52を通過した熱交換媒体は熱交換媒体温度制御器51に戻る。こうして、熱交換機52によって空気が加熱または冷却される。
【0058】
このとき、熱交換媒体の流量(主制御系の操作量MV_A)が大きいほど熱交換媒体の温度を省エネルギー的に有利な状態に維持できるのであれば、操作量MV_Aの上限値OH_Aとの間の余裕量で平衡点設定値SP_Bを決定すべきケースになる。その場合は、平衡点設定値決定部33は、前述の発明の原理1で説明したように、平衡点設定値SP_Bを式(4)または式(5)によって決定できる。また、SL>OL_Aのように設定されるべきである。
【0059】
本実施の形態で説明した制御装置は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って本実施の形態で説明した処理を実行する。