(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Ti、SiおよびWを含む無機酸化物担体と、VおよびMoから選ばれる少なくとも1種以上を含む金属成分とからなる石炭およびバイオマス混焼排ガス処理用ハニカム触媒であって、
カルシウム塩の物理的な沈着孔となる、幅が4〜20μm、深さが20〜300μmのデポジット孔を有し、このデポジット孔開口部面積の総和が触媒内壁表面積に占める割合が5〜10%であり、
BET法による比表面積(SABET)と、水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5μmの触媒細孔が示す比表面積(SAHg)との差(SABET−SAHg)が15〜25m2/gの範囲にあることを特徴とする石炭およびバイオマス混焼排ガス処理用ハニカム触媒。
請求項1または2に記載の石炭およびバイオマス混焼排ガス処理用ハニカム触媒に、カロリーベースで0%を超え50%以下のバイオマス燃料を含有してなる石炭混焼排ガスを接触させることを特徴とする、石炭およびバイオマス混焼排ガス処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<本発明の触媒>
本発明について説明する。
本発明は、Ti、SiおよびWを含む無機酸化物担体と、VおよびMoから選ばれる少なくとも1種以上を含む金属成分とからなる石炭およびバイオマス混焼排ガス処理用ハニカム触媒であって、カルシウム塩の物理的な沈着孔となる、幅が4〜20μm、深さが20〜300μmのデポジット孔を有し、このデポジット孔開口部面積の総和が触媒内壁表面積に占める割合が5〜10%であり、BET法による比表面積(SA
BET)と、水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5μmの触媒細孔が示す比表面積(SA
Hg)との差(SA
BET−SA
Hg)が15〜25m
2/gの範囲にあることを特徴とする石炭およびバイオマス混焼排ガス処理用ハニカム触媒である。
このような石炭およびバイオマス混焼排ガス処理用ハニカム触媒を、以下では「本発明の触媒」ともいう。
【0020】
本発明の触媒は、前記無機酸化物担体と前記金属成分とを含むハニカム状の構造体であり、少なくとも触媒内壁表面にデポジット孔を有するものである。
【0021】
ハニカム状の構造体とは、平行に貫通した多数の小孔(セル)を有する構造体を意味する。このような構造の触媒は、通常、反応管内にぴったりと収めて使用される。また、セルの形(断面形状)としては、六角形、四角形、三角形、円形などがある。通常、セルの大きさ(径)は目開き、セルとセルとの間は壁、1つのセルに注目した場合に対向する左右または上下の壁の各中心間の距離はピッチと呼ばれる。
【0022】
本発明の触媒は、ハニカムセルの肉厚(壁の厚さ)を1mm、目開きを6.4mmとしたハニカム触媒とした場合の圧縮強度が50〜300N/cm
2であることが好ましい。このような場合、本発明の触媒は圧縮強度が十分に高いので好ましい。デポジット孔開口部面積が大きすぎると圧縮強度が低下する傾向がある。
なお、圧縮強度の測定方法は、後述する実施例において詳細に説明する。
【0023】
本発明の触媒は、Ti、SiおよびWを含む無機酸化物担体と、VおよびMoからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属成分とからなる。
ただし、本発明の触媒は、前記無機酸化物および前記金属成分以外の成分を20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下の割合で含んでもよい。また、本発明の触媒は実質的に前記無機酸化物および前記金属成分からなることが好ましい。ここで「実質的になる」とは、原料や製造過程から不可避的に含まれる不純物等は含まれ得るが、それ以外は含まないことを意味する。
【0024】
このような前記無機酸化物および前記金属成分以外の成分として、例えばSn、Cu、Fe、Co、Mn、Ce、La、Yが挙げられる。
【0025】
本発明の触媒において、前記金属成分の含有率は5質量%以下であることが好ましい。この含有率は0.1〜3質量%であることが好ましく、0.3〜2質量%であることがより好ましい。
【0026】
本発明の触媒は、カルシウム塩の物理的な沈着孔となるデポジット孔を有する。デポジット孔の幅は4〜20μmであり、深さは20〜300μmである。
ここでデポジット孔とは、意図的につくった触媒の表面に存在する開孔であり、走査型電子顕微鏡写真(倍率は100倍)を用いて、その存在を確認することができる。
デポジット孔の幅および深さの測定方法は、後述する実施例において詳細に説明する。
【0027】
デポジット孔の幅は4〜15μmであることが好ましく、5〜10μmであることがより好ましい。
【0028】
デポジット孔の深さは50〜300μmであることが好ましい。
【0029】
本発明の触媒では、このデポジット孔開口部面積の総和が触媒内壁表面積に占める割合が5〜10%である。この割合は5〜8%であることが好ましい。
デポジット孔開口部面積の測定方法は、後述する実施例において詳細に説明する。
【0030】
本発明の触媒は、BET法によって測定した比表面積(SA
BET)が50〜100m
2/gであることが好ましく、60〜100m
2/gであることがより好ましい。
【0031】
BET法(BET比表面積)の測定方法について説明する。
まず、乾燥させた試料(0.2g)を測定セルに入れ、窒素ガス気流中、300℃で60分間脱ガス処理を行い、その上で試料を窒素30体積%とヘリウム70体積%の混合ガス気流中で液体窒素温度に保ち、窒素を試料に平衡吸着させる。次に、上記混合ガスを流しながら試料の温度を徐々に室温まで上昇させ、その間に脱離した窒素の量を検出し、予め作成した検量線により、試料の比表面積を測定する。
このようなBET比表面積測定法(窒素吸着法)は、例えば従来公知の表面積測定装置を用いて行うことができる。
【0032】
本発明の触媒は、水銀圧入ポロシメトリー法によって測定した比表面積(SA
Hg)が40〜80m
2/gであることが好ましく、50〜80m
2/gであることがより好ましい。
【0033】
水銀圧入ポロシメトリー法とは、ポロシメーターを使用する水銀圧入法であり、例えば従来公知の測定装置を用いて測定することができる。
【0034】
本発明の触媒は、BET法による比表面積(SA
BET)と、水銀圧入ポロシメトリー法による比表面積(SA
Hg)との差(SA
BET−SA
Hg)が15〜25m
2/gとなる。この値は15〜20m
2/gとなることが好ましい。
SA
BET−SA
Hgが上記のような範囲にあると、カルシウムを多く含むバイオマス燃料を混焼する際に用いた場合であっても失活し難い。
【0035】
このような本発明の触媒は、表面に開口部の大きなデポジット孔を形成することにより、デポジット孔にカルシウム塩をため込む、またはカルシウム塩による開口部の被覆を防止することができるので、カルシウムの塩析による触媒の失活を抑制できる。
【0036】
次に、本発明の触媒の製造方法について説明する。
本発明の触媒において無機酸化物担体は、収縮率の異なる無機酸化物を混合して製造することができる。例えば特開2004−41893号公報や特開2005−021780号公報に記載された方法で製造することができる。
本発明の触媒は、前記無機酸化物担体および前記金属成分、またはこれらの原料を混合してなる混合物を得た後、押出成形法等によってハニカム構造の形状に成形する方法や、ハニカム構造の基材上に担体成分および活性成分を含浸・担持する方法によって製造することができる。
【0037】
本発明の触媒は、(1)TiおよびWを含むスラリーを脱水し、焼成してTi−W複合酸化物を得る工程(以下「工程(1)」ともいう)、(2)Ti、WおよびSiを含むスラリーを脱水し、焼成してTi−W−Si複合酸化物を得る工程(以下「工程(2)」ともいう)と、(3)前工程において得られたTi−W複合酸化物とTi−W−Si複合酸化物とを、これらの合計質量に対するTi−W複合酸化物の質量の割合(Ti−W複合酸化物の質量/(Ti−W複合酸化物の質量+Ti−W−Si複合酸化物の質量)×100(%))が5〜80質量%となるように、水分を添加した上で混合し、ハニカム状に押し出して成形し、乾燥、焼成する工程(以下「工程(3)」ともいう)と、を有する製造方法によって製造することが好ましい。
このような好ましい製造方法を、以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0038】
<本発明の製造方法>
工程(1)について説明する。
工程(1)では、初めに、TiおよびWを含むスラリーを得る。
このスラリーは、例えばTiを含む化合物およびWを含む化合物を水等の溶媒に溶解した後、酸やアルカリを用いてpHを調整することでTiおよびWの酸化物を析出させて得ることができる。析出させた後、30〜98℃で0.5〜12時間、熟成させることが好ましい。
【0039】
ここでTiを含む化合物としては、メタチタン酸が好ましく、硫酸報による二酸化チタンの製造工程より得られる硫酸チタン溶液を用い、さらにこの硫酸チタンを加水分解してメタチタン酸を得ることが好ましい。
Wを含む化合物としては、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、燐タングステン酸アンモニウムおよびテトラチオタングステン酸アンモニウムなどのタングステン含有窒素化合物、二硫化タングステン、三硫化タングステンなどのタングステン含有硫黄化合物、六塩化タングステン、二塩化タングステン、三塩化タングステン、四塩化タングステン、五塩化タングステン、二塩化二酸化タングステン、四塩化酸化タングステンが挙げられる。
【0040】
また、Tiを含む化合物とWを含む化合物との量比は特に限定されないが、TiO
2(Tiの全てがTiO
2であると仮定した換算値)100質量部に対してWO
3(Wの全てがWO
3であると仮定した換算値)が1〜15質量部となるように調整することが好ましい。
【0041】
上記のようにしてTiおよびWを含むスラリーを得た後、これを脱水し、焼成する。
脱水方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法、具体的には遠心分離法等を適用して脱水することができる。
焼成方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法、具体的には焼成炉等を用いて焼成することができる。焼成温度は、例えば300〜700℃とする。
脱水後に得られるケーキを焼成する前に、乾燥してもよい。乾燥は、例えば従来公知の方法、具体的には電気乾燥機等を用いることができる。乾燥温度は、例えば30〜200℃とする。
【0042】
このような工程(1)によって、Ti−W複合酸化物を得ることができる。
【0043】
工程(2)について説明する。
工程(2)では、初めに、Ti、WおよびSiを含むスラリーを得る。
このスラリーは、例えばTiを含む化合物、Wを含む化合物およびSiを含む化合物を水等の溶媒に溶解または分散した後、酸やアルカリを用いてpHを調整することでTiおよびWの酸化物を析出させて得ることができる。析出させた後、30〜98℃で0.5〜12時間、熟成させることが好ましい。
【0044】
ここでTiを含む化合物およびWを含む化合物としては、工程(1)の場合と同様のものを用いることができる。
また、Siを含む化合物としては、シリカゾル、ケイ酸液、ヒュームドシリカ、シリコンアルコキシド等が挙げられる。
【0045】
また、Tiを含む化合物とWを含む化合物とSiを含む化合物の量比は特に限定されないが、TiO
2(Tiの全てがTiO
2であると仮定した換算値)100質量部に対してWO
3(Wの全てがWO
3であると仮定した換算値)が1〜10質量部となるように調整することが好ましい。また、TiO
2(Tiの全てがTiO
2であると仮定した換算値)100質量部に対してSiO
2(Siの全てがSiO
2であると仮定した換算値)が1〜10質量部となるように調整することが好ましい。
【0046】
上記のようにしてTi、WおよびSiを含むスラリーを得た後、これを脱水し、焼成する。
脱水方法および焼成方法は特に限定されず、工程(1)の場合と同様であってよい。また、工程(1)の場合と同様に乾燥処理を行ってもよい。
【0047】
このような工程(2)によって、Ti−W−Si複合酸化物を得ることができる。
【0048】
工程(3)について説明する。
工程(3)では、工程(1)によって得られたTi−W複合酸化物と、工程(2)によって得られたTi−W−Si複合酸化物とを、これらの合計質量に対するTi−W複合酸化物の質量の割合(Ti−W複合酸化物の質量/(Ti−W複合酸化物の質量+Ti−W−Si複合酸化物の質量)×100(%))が5〜80質量%となるように、水分を添加した上で混合する。
この割合は、20〜70質量%であることが好ましく、30〜60質量%であることがより好ましい。
【0049】
Ti−W複合酸化物とTi−W−Si複合酸化物とは、乾燥および焼成することによる収縮率が異なり、これらを特定の質量比で混合して用いると、好ましい態様のデポジット孔が形成されやすいことを、本発明者は見出した。
【0050】
上記のような特定の質量比でTi−W複合酸化物とTi−W−Si複合酸化物とを、水分を添加した上で混合する。ここで必要に応じて成形助剤を、さらに添加して混合してもよい。成形助剤としては、例えば従来公知のものを用いることができ、具体的には、ポリエチレンオキサイド、結晶性セルロース、グリセリン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0051】
そして、得られた混合物を、例えば従来公知の成形機を用いてハニカム状に成形し、その後、乾燥、焼成する。
乾燥方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法、具体的には電気乾燥機等を適用して乾燥することができる。乾燥温度は、例えば30〜200℃とする。
焼成方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法、具体的には焼成炉等を用いて焼成することができる。焼成温度は、例えば450〜700℃とする。
【0052】
このような本発明の製造方法によって、本発明の触媒を得ることができる。
【0053】
<本発明の排ガス処理方法>
本発明の触媒に、バイオマス燃料を含有してなる石炭含有燃料を燃焼して発生させた石炭混焼排ガスを接触させると、排ガス中ダストに含まれるCa塩由来の細孔閉塞による触媒劣化が抑制されるため、光化学スモッグ、酸性雨等の原因物質である窒素酸化物を従来触媒より効率的に除去することができる。
【0054】
ここで、前記石炭含有燃料における、石炭に対するバイオマス燃料の混焼率を、カロリーベースで0%を超え50%以下、さらには0%を超え30%以下であることがより好ましい。
【0055】
バイオマス燃料として、例えば木質チップや建築廃材などの樹木を用いた場合は、これらのバイオマス燃料の燃焼ダストにはCa塩が、CaO換算でおよそ5から90%含有される。
【0056】
このようなバイオマス燃料を前述の割合で石炭と混焼し、排ガスを本発明の触媒と接触する工程に導入される。この時、石炭燃焼によって排出される硫黄酸化物と、バイオマス燃料の燃焼ダスト中のCa塩が反応し、硫酸カルシウムとして触媒上に析出しやすい環境となることが多く、触媒の耐Ca塩被毒性が重要となる。
【0057】
石炭混焼排ガスと本発明の触媒との接触温度は、通常250〜500℃、好ましくは300〜400℃である。触媒層の圧力は、ゲージ圧として、通常−0.05〜0.9MPa、好ましくは−0.01〜0.5MPaである。また、空間速度(SV)は、通常100〜50000Hr
-1、好ましくは1000〜20000Hr
-1である。
【実施例】
【0058】
以下、本発明について実施例に基づき説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0059】
[原料調製(Ti−W複合酸化物原料)]
メタチタン酸スラリー(石原産業製)を還流器付攪拌機に仕込み、これにパラタングステン酸アンモニウム(新興化学工業社製)を、TiO
2100質量部に対してWO
3が7質量部となるように添加し、さらに15重量%アンモニア水をpH9.5となるように添加した後、60℃で1時間に亘り十分な撹拌を行いつつ加熱熟成した。
そして、得られたスラリーを脱水洗浄し、脱水ケーキを110℃乾燥の後500℃で焼成して、Ti−W複合酸化物原料を得た。
【0060】
[原料調製(Ti−W−Si複合酸化物原料)]
メタチタン酸スラリー(石原産業製)を還流器付攪拌機に仕込み、これにパラタングステン酸アンモニウム(日本新金属社製)を、TiO
2100質量部に対してWO
3が5質量部となるように添加し、さらにシリカゾル(日揮触媒化成社製、S−20L)を、TiO
2100質量部に対してSiO
2が5質量部となるように添加し、加えて15重量%アンモニア水をpH9.5となるように添加した後、60℃で1時間に亘り十分な撹拌を行いつつ加熱熟成した。
そして、得られたスラリーを脱水洗浄し、脱水ケーキを110℃乾燥の後500℃で焼成して、Ti−W−Si複合酸化物原料を得た。
【0061】
触媒調整
[実施例1]Ti−W−Si:45%
上記のようにして得たTi−W複合酸化物原料13.4kgとTi−W−Si複合酸化物原料11.0kgに、メタバナジン酸アンモニウム(新興化学工業社製)200g、15wt%アンモニア水2.30kgと水、ポリエチレングリコール(第一工業製薬社製 PEG−20000)188g、結晶セルロース(武田薬品工業社製 ビオポリー)164gを添加し、水分濃度が30wt%になるように混練後、ハニカム状に押し出して乾燥後、600℃焼成し触媒を得た。
【0062】
[実施例2]Ti−W−Si:60%
Ti−W複合酸化物原料9.76kgとTi−W−Si複合酸化物原料14.6kgを使用すること以外は実施例1と同様にして触媒を得た。
【0063】
[実施例3]Ti−W−Si:75%
Ti−W複合酸化物原料6.10kgとTi−W−Si複合酸化物原料18.3kgを使用すること以外は実施例1と同様にして触媒を得た。
【0064】
[比較例1]Ti−W:100%
Ti−W複合酸化物原料24.4kgを使用し、Ti−W−Si複合酸化物原料を使用しないこと以外は実施例1と同様にして触媒を得た。
【0065】
[比較例2]Ti−W−Si:15%
Ti−W複合酸化物原料20.7kgとTi−W−Si複合酸化物原料3.66kgを使用すること以外は実施例1と同様にして触媒を得た。
【0066】
[比較例3]Ti−W−Si:100%
Ti−W複合酸化物原料を使用せず、Ti−W−Si複合酸化物原料24.4kgを使用すること以外は実施例1と同様にして触媒を得た。
【0067】
[試験例1] デポジット孔面積割合の計算
実施例および比較例において得られた各触媒の触媒表面を電子顕微鏡によって観察した。
測定装置および測定条件を以下に示す。
測定装置:日本電子 JSM−6010LA
測定条件:加速電圧20kV 低真空30Pa 倍率100倍 無蒸着
【0068】
実施例2において得られた触媒の表面の観察結果を
図1に、比較例2において得られた触媒の表面の観察結果を
図2に示す。
実施例2において得られた触媒は、比較例2において得られた触媒に比べ、デポジット孔の幅、長さ共に大きくなっており、また、数も増加していることがわかる。
【0069】
上記装置、条件にて触媒表面SEM画像を撮影し、縦200mm×横286mmの大きさになるように画像を出力した。この時の実際の撮影範囲は縦889μm×横1,271μm、撮影面積11.3×10
5μm
2であった。
【0070】
次に、撮影画像内に観察されるデポジット孔全てについて、デジタルノギスを用いて最大幅を測定した。なお、便宜的に、45度以上の角度を持って交わっているデポジット孔については、別々のデポジット孔として計上した。
次に、測定されたデポジット孔最大幅とSEM画像スケールとの比から、実際のデポジット孔最大幅に換算した。
【0071】
次に、実際のデポジット孔最大幅が4μm〜20μmのデポジット孔について、デジタルノギスを用いてデポジット孔開口部の中心を通る直線の長さを測定し、デポジット孔長さとした。
図3に示すように、デポジット孔がうねっている場合はうねりに合わせてデポジット孔開口部の幅方向の中心を通る直線を適宜引き直し、直線長さの合計をデポジット孔長さとした。
次に、測定されたデポジット孔長さとSEM画像スケールの比から、実際のデポジット孔長さに換算した。
次に、最大幅が4μm〜20μmの全てのデポジット孔において、換算された実際のデポジット孔最大幅×実際のデポジット孔長さを計算し、その値の合計をデポジット孔面積とした。
そして、デポジット孔面積/撮影面積の値を、デポジット孔開口部面積の総和が触媒内壁表面積に占める割合とした。
【0072】
第1表に、実施例1〜3および比較例1〜3の触媒におけるデポジット孔開口部面積の総和が触媒内壁表面積に占める割合(第1表において、デポジット孔面積割合と記す)を示す。
実施例1〜3の触媒の場合は5〜10の範囲内となった。一方、比較例1〜3の触媒の場合は、この範囲を外れる値となった。
【0073】
[試験例2] デポジット孔深さの測定
図4に示すように、初めに、実施例および比較例において得られた各触媒の内肉部分を5mm×5mm程度に切出し、エポキシ樹脂に包埋して試料とした。そして、得られた試料を、内肉断面が出るように粗削りし、面出しした。
次に、イオンミリング装置を用いて測定面を滑らかに削り出した。なお、イオンミリング装置及び処理条件等は以下の通りである。
イオンミリング装置:日立 E−3500
処理条件:放電電圧4kV、アルゴンイオン加速電圧6kV、放電電流350から500μA、イオン電流60から150μA
【0074】
次に、イオンミリング加工した触媒内肉断面のSEM測定を行った。測定装置、測定条件は以下の通りである。
測定装置:日本電子 JSM−7600F
測定条件:加速電圧20kV、高真空、カーボン蒸着
【0075】
次に、SEM測定された断面中に確認されたデポジット孔のうち、表面開口部の幅をデジタルノギスで測定し、SEM画像スケールの比から換算した実際のデポジット孔開口部幅が4μm以上のデポジット孔について、表面開口部からの深さを、
図5に示すように、デジタルノギスで測定した。
そして、測定された深さをSEM画像のスケールの比から換算した値を実際のデポジット孔深さとした。
【0076】
実施例1〜3の触媒の場合、デポジット孔の深さは20〜300μmの範囲内であった。
【0077】
[試験例3] BET比表面積測定、水銀ポロシメータ比表面積測定によるデポジット孔由来比表面積の見積もり
実施例および比較例において得られた各触媒について、BET比表面積測定値と、水銀ポロシメータによる5nmから5μmの細孔が占める比表面積測定値の比較を行った。BET法による比表面積SA
BETは大小全ての細孔およびデポジット孔によって形成される比表面積の値であるため、この値から水銀ポロシメータによる5nmから5μmの細孔が占める比表面積SA
Hgの測定値を引いた値は、デポジット孔由来の比表面積値と相関する値となり、また、触媒表面に一様にデポジット孔が分布していることを示す指標となる。
BET比表面積測定及び水銀ポロシメータ比表面積測定は以下の条件で行った。
BET比表面積測定装置:Mountech HM model-1220
BET比表面積測定条件:前処理300℃1時間、BET一点法
水銀ポロシメータ比表面積測定装置:Quantachrome PoreMaster
水銀ポロシメータ比表面積測定条件:前処理300℃1時間、水銀圧入角130度、表面張力473erg/cm
2
【0078】
第1表に、BET比表面積測定値(SA
BET)、水銀ポロシメータ比表面積測定における5nmから5μmの細孔が占める比表面積測定値(SA
Hg)を示す。SA
BET−SA
Hgの値は、実施例1〜3の触媒の場合は15〜25の範囲内となった。一方、比較例1〜3の触媒の場合は、この範囲を外れる値となった。また、実施例1〜3の触媒におけるデポジット孔は触媒表面の一部分のみではなく一様に分布しているといえる。
【0079】
[試験例4] CaCl
2溶液スプレーによる触媒の加速劣化試験
実施例および比較例において得られた各触媒について、2目×2目×107mmLに切り出し(肉厚1mm、目開き6.4mm)、石英反応管にセットした後、Fresh状態での触媒脱硝性能を測定した。ここで求められた脱硝率をη
0(%)とした。
その後、石英反応管中にCaCl
2溶液を噴霧するためのノズルを取り付け、触媒上流側からCaCl
2溶液を添加した。ノズルは石英反応管の上流側の端面から300mm離して設置した。CaCl
2溶液の濃度は0.5質量%、噴霧時間は24時間で実施した。CaCl
2溶液スプレー後、再び触媒の脱硝性能を測定した。ここで求められた脱硝率をη(%)とした。そして、η/η
0を求めて、Fresh状態の性能との比較を行った。性能測定及びCaCl
2溶液スプレーはいずれも320℃で実施した。測定条件は以下に示す通りである。
活性測定時
SV=19290(1/h)、f=0.54(Nm
3/h)、AV=47.94(Nm
3/m
2h)、NO=180(体積ppm)、NH
3=180(体積ppm)、SO
2=500(体積ppm)、O
2=7体積%、H
2O=10体積%、N
2=バランス
CaCl
2溶液スプレー時
SV=19290(1/h)、f=0.54(Nm
3/h)、AV=47.94(Nm
3/m
2h)、NO=0(体積ppm)、NH
3=0(体積ppm)、SO
2=1000(体積ppm)、O
2=7体積%、H
2O=10体積%(CaCl
2溶液として)、N
2=バランス
【0080】
結果を第1表に示す。比較例1〜3の触媒に比べ、実施例1〜3の触媒はCaCl
2溶液スプレー後も活性が高く、カルシウムによる劣化が抑えられていることがわかる。
【0081】
[試験例5] CaCl
2溶液スプレー試験後の触媒の電子顕微鏡による表面観察
デポジット孔が大きく、またデポジット孔量が増えることでカルシウムによる物理的な細孔閉塞および表面被覆が防止されているかを確認するために、試験例4にて実施した0.5%CaCl
2溶液24hスプレー後の実施例2の触媒および比較例2の触媒の、上流側端面から10mmの触媒内壁をサンプリングし、表面状態を電子顕微鏡で観察した。測定条件は以下の通りである。
測定装置:日本電子社製、JSM−6010LA
測定条件:加速電圧20kV、低真空30Pa、倍率190−200倍、無蒸着
【0082】
0.5%CaCl
2溶液24hスプレー後の実施例2の触媒の結果を
図6、0.5%CaCl
2溶液24hスプレー後の比較例2の触媒の結果を
図7に示す。
比較例2の触媒は劣化試験後、表面に硫酸カルシウムが多量に析出し、表面を被覆している。一方で実施例2の触媒は所々に硫酸カルシウムが僅かに析出し始めているが、触媒表面及びデポジット孔は被覆されていない。これより、デポジット孔が大きくクラック量の大きな実施例2の触媒はカルシウムの物理的な被覆に対する劣化耐性が高いといえる。
【0083】
[試験例6] 圧縮強度測定
実施例1〜3および比較例1〜3の各々において、肉厚が1mm、目開きが6.4mmになるようにハニカム状に押出し成形を行い、乾燥後、600℃焼成し触媒を得た。そして、触媒を立方体形状に切り出した後、
図8に示すように、触媒貫通孔と垂直な方向に圧縮し、触媒が完全に破壊した時の圧力を測定した。
結果を第1表に示す。実施例1〜3の触媒の場合、圧縮強度が50〜300N/cm
2の範囲内となった。すなわち、圧縮強度が高いハニカム状触媒であることを確認できた。
【0084】
【表1】