(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0023】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、挿入膜および空隙の平面図、
図1(c)および
図1(d)は、
図1(a)のA−A断面図である。
図1(c)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器を、
図1(d)は例えばラダー型フィルタの並列共振器を示している。
【0024】
図1(a)および
図1(c)を参照し、直列共振器Sの構造について説明する。シリコン(Si)基板である基板10上に、下部電極12が設けられている。基板10の平坦主面と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが大きくなるような形状の膨らみである。下部電極12は下層12aと上層12bとを含んでいる。下層12aは例えばCr(クロム)膜であり、上層12bは例えばRu(ルテニウム)膜である。
【0025】
下部電極12上に、(002)方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする圧電膜14が設けられている。圧電膜14は、下部圧電膜14aおよび上部圧電膜14bを備えている。下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に挿入膜28が設けられている。下部圧電膜14a、挿入膜28および上部圧電膜14bが積層された多層膜が積層膜15である。
【0026】
圧電膜14を挟み下部電極12と対向する領域(共振領域50)を有するように圧電膜14上に上部電極16が設けられている。共振領域50は、楕円形状を有し、厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。上部電極16は下層16aおよび上層16bを含んでいる。下層16aは例えばRu膜であり、上層16bは例えばCr膜である。
【0027】
上部電極16上には周波数調整膜24として酸化シリコン膜が形成されている。共振領域50内の積層膜18は、下部電極12、圧電膜14、上部電極16および周波数調整膜24を含む。周波数調整膜24はパッシベーション膜として機能してもよい。
【0028】
図1(a)のように、下部電極12には犠牲層をエッチングするための導入路33が形成されている。犠牲層は空隙30を形成するための層である。導入路33の先端付近は圧電膜14で覆われておらず、下部電極12は導入路33の先端に孔部35を有する。
【0029】
図1(d)を参照し、並列共振器Pの構造について説明する。並列共振器Pは直列共振器Sと比較し、上部電極16の下層16aと上層16bとの間に、Ti(チタン)層からなる質量負荷膜20が設けられている。よって、積層膜18は直列共振器Sの積層膜に加え、共振領域50内の全面に形成された質量負荷膜20を含む。その他の構成は直列共振器Sの
図1(c)と同じであり説明を省略する。
【0030】
直列共振器Sと並列共振器Pとの共振周波数の差は、質量負荷膜20の膜厚を用い調整する。直列共振器Sと並列共振器Pとの両方の共振周波数の調整は、周波数調整膜24の膜厚を調整することにより行なう。
【0031】
2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器の場合、下部電極12の下層12aを膜厚が100nmのCr膜、上層12bを膜厚が200nmのRu膜とする。圧電膜14を膜厚が1200nmのAlN膜とする。挿入膜28を膜厚が350nmのSiO
2(酸化シリコン)膜とする。挿入膜28は、圧電膜14の膜厚方向の中心に設けられている。上部電極16の下層16aを膜厚が230nmのRu膜、上層16bを膜厚が50nmのCr膜とする。周波数調整膜24を膜厚が50nmの酸化シリコン膜とする。質量負荷膜20を膜厚が120nmのTi膜とする。各層の膜厚は、所望の共振特性を得るため適宜設定することができる。
【0032】
図1(b)に示すように、空隙30は、共振領域50を含み、共振領域50より大きい。挿入膜28は、共振領域50内には設けられておらず、共振領域50の外輪郭60に接して設けられている。中央領域は、共振領域50内の領域であって、共振領域50の中央を含む領域である。中央は幾何学的な中心でなくてもよい。挿入膜28は、共振領域50外において空隙30の外側まで連続して設けられている。挿入膜28には、孔部35に対応する孔部34が設けられている。共振領域50の外側の空隙30と重なる領域52においては、空隙30、積層膜15(すなわち圧電膜14と挿入膜28)が積層されている。
【0033】
特許文献2に記載されているように、挿入膜28のヤング率は圧電膜14より小さいことが好ましい。密度がほぼ同じであれば、ヤング率は音響インピーダンスと相関することから、挿入膜28の音響インピーダンスは圧電膜14より小さいことが好ましい。これにより、Q値を向上できる。また、挿入膜28を金属膜とすることにより実効的電気機械結合係数を向上できる。さらに、挿入膜28の音響インピーダンスを圧電膜14より小さくするため、圧電膜14が窒化アルミニウムを主成分とする場合、挿入膜28は、Al膜、Au(金)膜、Cu(銅)膜、Ti膜、Pt(白金)膜、Ta(タンタル)膜、Cr膜または酸化シリコン膜であることが好ましい。特に、ヤング率の観点から挿入膜28は、Al膜または酸化シリコン膜であることが好ましい。
【0034】
基板10としては、Si基板以外に、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等を用いることができる。下部電極12および上部電極16としては、RuおよびCr以外にもAl、Ti、Cu、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ta、Pt、Rh(ロジウム)またはIr(イリジウム)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。例えば、上部電極16の下層16aをRu、上層16bをMoとしてもよい。
【0035】
圧電膜14は、窒化アルミニウム以外にも、ZnO(酸化亜鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、PbTiO
3(チタン酸鉛)等を用いることができる。また、例えば、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、Sc(スカンジウム)、2価の元素と4価の元素との2つの元素、または2価と5価との2つの元素を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。2価の元素は、例えばCa(カルシウム)、Mg(マグネシウム)、Sr(ストロンチウム)またはZn(亜鉛)である。4価の元素は、例えばTi、Zr(ジルコニウム)またはHf(ハフニウム)である。5価の元素は、例えばTa、Nb(ニオブ)またはV(バナジウム)である。さらに、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、B(ボロン)を含んでもよい。
【0036】
周波数調整膜24としては、酸化シリコン膜以外にも窒化シリコン膜または窒化アルミニウム等を用いることができる。質量負荷膜20としては、Ti以外にも、Ru、Cr、Al、Cu、Mo、W、Ta、Pt、RhもしくはIr等の単層膜を用いることができる。また、例えば窒化シリコンまたは酸化シリコン等の窒化金属または酸化金属からなる絶縁膜を用いることもできる。質量負荷膜20は、上部電極16の層間(下層16aと上層16bとの間)以外にも、下部電極12の下、下部電極12の層間、上部電極16の上、下部電極12と圧電膜14との間または圧電膜14と上部電極16との間に形成することができる。質量負荷膜20は、共振領域50を含むように形成されていれば、共振領域50より大きくてもよい。
【0037】
図2(a)から
図2(c)は、実施例1の直列共振器の製造方法を示す断面図である。
図2(a)に示すように、平坦主面を有する基板10上に空隙を形成するための犠牲層38を形成する。犠牲層38の膜厚は、例えば10〜100nmであり、MgO(酸化マグネシウム)、ZnO、Ge(ゲルマニウム)またはSiO
2(酸化シリコン)等のエッチング液またはエッチングガスに容易に溶解できる材料から選択される。その後、犠牲層38を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。犠牲層38の形状は、空隙30の平面形状に相当する形状であり、例えば共振領域50となる領域を含む。次に、犠牲層38および基板10上に下部電極12として下層12aおよび上層12bを形成する。犠牲層38および下部電極12は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜される。その後、下部電極12を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。下部電極12は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0038】
図2(b)に示すように、下部電極12および基板10上に下部圧電膜14aを、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。下部圧電膜14a上に挿入膜28を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。その後、挿入膜28を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。挿入膜28は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0039】
図2(c)に示すように、上部圧電膜14b、上部電極16の下層16aおよび上層16bを、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。下部圧電膜14aおよび上部圧電膜14bから圧電膜14が形成される。上部電極16を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。上部電極16は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0040】
なお、
図1(d)に示す並列共振器においては、上部電極16の下層16aを形成した後に、質量負荷膜20を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。質量負荷膜20をフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。その後、上部電極16の上層16bを形成する。
【0041】
周波数調整膜24を例えばスパッタリング法またはCVD法を用い形成する。フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い周波数調整膜24を所望の形状にパターニングする。
【0042】
その後、孔部35および導入路33(
図1(a)参照)を介し、犠牲層38のエッチング液を下部電極12の下の犠牲層38に導入する。これにより、犠牲層38が除去される。犠牲層38をエッチングする媒体としては、犠牲層38以外の共振器を構成する材料をエッチングしない媒体であることが好ましい。特に、エッチング媒体は、エッチング媒体が接触する下部電極12がエッチングされない媒体であることが好ましい。積層膜18(
図1(c)、
図1(d)参照)の応力を圧縮応力となるように設定しておく。これにより、犠牲層38が除去されると、積層膜18が基板10の反対側に基板10から離れるように膨れる。下部電極12と基板10との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成される。以上により、
図1(a)および
図1(c)に示した直列共振器S、および
図1(a)および
図1(d)に示した並列共振器Pが作製される。
【0043】
実施例1においては、共振領域50を囲む全ての領域において、空隙30の外側の輪郭である外輪郭62は、共振領域50の外輪郭60より外側に位置する。積層膜15の内側の輪郭である内輪郭64は共振領域50の外輪郭60に略一致する。このように、空隙30は共振領域50を含みかつ共振領域50より大きい。共振領域50の外輪郭60の外側かつ空隙30の外輪郭62の内側の領域52は、共振領域50を完全に囲んでいる。領域52の全てに積層膜15が設けられている。このように、共振領域50の外側で、空隙30、積層膜15が重なる領域52は、共振領域50の全周を囲んでいる。領域52では、共振領域50から漏れる弾性波を反射または減衰させる。このため、弾性波エネルギーの損失が小さくQ値が構造する。さら、共振領域50内に挿入膜28が設けられていない。このため、共振領域50内の積層膜18の構成はほぼ均一である。よって、電気機械結合係数を向上できる。
【実施例2】
【0044】
図3(a)は、実施例2に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図3(b)は、挿入膜および空隙の平面図、
図3(c)および
図3(d)は、
図3(a)のA−A断面図である。
図3(c)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器を、
図3(d)は例えばラダー型フィルタの並列共振器を示している。
【0045】
図3(a)から
図3(d)に示すように、共振領域50を囲む領域のうち、上部電極16を共振領域50から引き出す引き出し領域70において、空隙30の外輪郭62は、共振領域50の外輪郭60と略一致している。すなわち、上部電極16の引き出し領域70において、共振領域50の外側に空隙30は設けられていない。共振領域50を囲む領域のうち、上部電極16の引き出し領域70以外の領域72では、空隙30の外輪郭62は共振領域50の外輪郭60より外側に位置している。すなわち、空隙30は共振領域50より大きい。これにより、領域72に、平面視で空隙30と積層膜15とが重なる領域52が形成される。実施例2のように、領域52は、共振領域50の少なくとも一部を囲うように設けられていてもよい。その他の構成は実施例1と同じであり、説明を省略する。
【実施例3】
【0046】
図4(a)は、実施例3に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図4(b)は、挿入膜および空隙の平面図、
図4(c)および
図4(d)は、
図4(a)のA−A断面図である。
図4(c)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器を、
図4(d)は例えばラダー型フィルタの並列共振器を示している。
【0047】
図4(a)から
図4(d)に示すように、共振領域50を囲む領域のうち、上部電極16の引き出し領域70において、挿入膜28は形成されていない。共振領域50を囲む領域のうち上部電極16の引き出し領域72および下部電極12の引き出し領域74以外の領域において、空隙30の外輪郭62と積層膜15の外輪郭とは略一致している。下部電極12の引き出し領域74において積層膜15の外輪郭は、空隙30の外輪郭62より外側に位置する。実施例3のように、積層膜15は、領域52の外側には設けられていなくてもよい。実施例1のように、領域52が共振領域50の回りを全て囲んでいる場合において、積層膜15は領域52の外側には設けなくてもよい。その他の構成は実施例2と同じであり、説明を省略する。
【実施例4】
【0048】
図5(a)は、実施例4に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図5(b)は、挿入膜および空隙の平面図、
図5(c)および
図5(d)は、
図5(a)のA−A断面図である。
図5(c)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器を、
図5(d)は例えばラダー型フィルタの並列共振器を示している。
【0049】
図5(a)から
図5(d)に示すように、上部電極16の引き出し領域70において、積層膜15の内輪郭64は、共振領域50の外輪郭60および空隙30の外輪郭62と略一致している。共振領域50を囲む領域のうち領域70以外の領域72において、積層膜15の内輪郭64は、共振領域50の外輪郭60の外側に位置する。実施例4のように、積層膜15の内輪郭64は、共振領域50の外輪郭60の外側に位置してもよい。実施例1のように、領域52が共振領域50の回りを全て囲んでいる場合において、積層膜15の内輪郭64の少なくとも一部は共振領域50の外輪郭60より外側に位置してもよい。
【実施例5】
【0050】
図6(a)は、実施例5に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図6(b)は、挿入膜および空隙の平面図、
図6(c)および
図6(d)は、
図6(a)のA−A断面図である。
図6(c)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器を、
図6(d)は例えばラダー型フィルタの並列共振器を示している。
【0051】
図6(a)から
図6(d)に示すように、共振領域50を囲む領域のうち、上部電極16の引き出し領域70以外の領域72において、空隙30の外輪郭62と上部圧電膜14bの外輪郭66とが略一致している。実施例5のように、領域52外の上部圧電膜14bは除去されていてもよい。空隙30の外輪郭62と上部圧電膜14bの外輪郭66とは一致していなくともよい。実施例1および2のように、共振領域50の外輪郭60と積層膜15の内輪郭64が略一致する場合に領域52外の上部圧電膜14bは除去されていてもよい。その他の構成は、実施例4と同じであり説明を省略する。
【実施例6】
【0052】
図7(a)は、実施例6に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図7(b)は、挿入膜および空隙の平面図、
図7(c)および
図7(d)は、
図7(a)のA−A断面図である。
図7(c)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器を、
図7(d)は例えばラダー型フィルタの並列共振器を示している。
【0053】
図7(a)から
図7(d)に示すように、共振領域50囲む領域のうち、上部電極16の引き出し領域70以外の領域72において、空隙30の外輪郭62と圧電膜14の外輪郭68とが略一致している。実施例6のように、領域52外の圧電膜14は除去されていてもよい。空隙30の外輪郭62と圧電膜14の外輪郭68とは一致していなくともよい。実施例1および2のように、共振領域50の外輪郭60と積層膜15の内輪郭64が略一致する場合に領域52の外側圧電膜14が除去されていてもよい。その他の構成は、実施例4と同じであり説明を省略する。
【実施例7】
【0054】
図8(a)は、実施例7に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図8(b)は、挿入膜および空隙の平面図、
図8(c)および
図8(d)は、
図8(a)のA−A断面図である。
図8(c)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器を、
図8(d)は例えばラダー型フィルタの並列共振器を示している。
【0055】
図8(a)から
図8(d)に示すように、共振領域50を囲む領域のうち、上部電極16の引き出し領域70以外の領域72において、共振領域50の外輪郭60と圧電膜14の外輪郭68が略一致している。このように、領域72において、共振領域50外の圧電膜14および挿入膜28は除去されていてもよい。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0056】
上部電極16の引き出し領域70における弾性波エネルギーの共振領域50外への漏洩は、挿入膜28を含む領域52を用い抑制し、領域72における弾性波の漏洩は圧電膜14を除去することにより行なう。これにより、共振領域50を囲む領域からの弾性波エネルギーの漏洩を抑制できる。領域72において、圧電膜14の外輪郭60は上部電極16の外輪郭より内側に位置してもよい。
【実施例8】
【0057】
実施例8およびその変形例は、空隙の構成を変えた例である。
図9(a)は、実施例8の圧電薄膜共振器の断面図、
図9(b)は、実施例8の変形例1の圧電薄膜共振器の断面図である。
図9(a)に示すように、基板10の上面に窪みが形成されている。下部電極12は、基板10上に平坦に形成されている。これにより、空隙30が、基板10の窪みに形成されている。空隙30は共振領域50を含むように形成されている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。空隙30は、基板10を貫通するように形成されていてもよい。なお、下部電極12の下面に絶縁膜が接して形成されていてもよい。すなわち、空隙30は、基板10と下部電極12に接する絶縁膜との間に形成されていてもよい。絶縁膜としては、例えば窒化アルミニウム膜を用いることができる。
【0058】
図9(b)に示すように、共振領域50の下部電極12下に音響反射膜31が形成されている。音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜30aと音響インピーダンスの高い膜30bとが交互に設けられている。膜30aおよび30bの膜厚は例えばそれぞれλ/4(λは弾性波の波長)である。膜30aと膜30bの積層数は任意に設定できる。例えば、音響反射膜31は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0059】
実施例1から7において、実施例8と同様に空隙30を形成してもよく、実施例8の変形例1と同様に空隙30の代わりに音響反射膜31を形成してもよい。
【0060】
実施例1から実施例8のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において空隙30が基板10と下部電極12との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例7の変形例1のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において下部電極12下に圧電膜14を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜31を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。
【0061】
実施例1から実施例8およびその変形例において、共振領域50が楕円形状の例を説明したが、他の形状でもよい。例えば、共振領域50は、四角形または五角形等の多角形でもよい。
【0062】
実施例1から8において、領域52が共振特性に及ぼす影響について、2次元の有限要素法を用いシミュレーションした。シミュレーションに用いた各材料および膜厚は以下である。
下部電極12:膜厚が0.1μmのCr膜、Cr膜上の膜厚が0.2μmのRu膜
圧電膜14:膜厚が1.26μmのAlN膜
下部圧電膜14a:膜厚が0.63μmのAlN膜
上部圧電膜14b:膜厚が0.63μmのAlN膜
挿入膜28:膜厚が0.35μmの酸化シリコン膜
上部電極16:膜厚が0.23μmのRu膜
【0063】
図10(a)から
図10(c)は、シミュレーションに用いた比較例1から3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図10(a)に示すように、比較例1において、空隙30の外輪郭62は共振領域50の外輪郭60より外側に位置している。積層膜15の内輪郭64が共振領域50の外輪郭60より内側に位置している。比較例1では、共振領域50内の外周領域76aに積層膜15が設けられている。
【0064】
図10(b)に示すように、比較例2において、共振領域50を囲む領域76bに挿入膜28が設けられている。積層膜15の内輪郭64および上部圧電膜14bの外輪郭66は共振領域50の外輪郭60に略一致している。比較例2では、挿入膜28は、共振領域50の外側の領域76bに設けられ、共振領域50内に設けられていない。共振領域50の外側に上部圧電膜14bは設けられていない。このため、領域76bには積層膜15は設けられていない。
【0065】
図10(c)に示すように、比較例3において、共振領域50を囲む領域76cに積層膜15が設けられている。空隙30の外輪郭62は、共振領域50の外輪郭60および積層膜15の内輪郭64と略一致している。比較例3では、共振領域50の外側の領域76cに積層膜15が設けられているが、空隙30が設けられていない。
【0066】
図11(a)から
図11(c)は、シミュレーションに用いた実施例1の変形例1から3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図11(a)に示すように、実施例1の変形例1において、共振領域50の外輪郭60と積層膜15の内輪郭64は略一致している。積層膜15は空隙30の外輪郭62より外側に広がっている。
【0067】
図11(b)に示すように、実施例1の変形例2において、上部圧電膜14bの外輪郭66(すなわち積層膜15の外輪郭65)は、共振領域50の外輪郭60より外側、かつ空隙30の外輪郭62の内側に位置する。挿入膜28および下部圧電膜14aは空隙30の外輪郭62の外側に広がっている。
【0068】
図11(c)に示すように、実施例1の変形例3において、圧電膜14の外輪郭68(すなわち積層膜15の外輪郭65)は、共振領域50の外輪郭60より外側、かつ空隙30の外輪郭62の内側に位置する。
【0069】
領域52、76a、76bおよび76cの幅を1.5μm、共振領域50の幅を42μmとし、共振領域50の中心(線78)をミラー条件としてシミュレーションした。
【0070】
図12は、比較例1から3、実施例1の変形例1から3における反共振周波数のQ値Qaおよび電気機械結合係数k
2を示す図である。
図12に示すように、共振領域50内の外周領域76aに積層膜15を設けた比較例1より、共振領域50の外側に積層膜15と空隙30とが重なる領域52を設けた方が、反共振周波数のQ値Qaおよび電気機械結合係数k
2とも大きくなる。比較例2のように、共振領域50の外側に空隙30と重なる挿入膜28を設けても、反共振周波数のQ値および電気機械結合係数k
2は向上しない。比較例3のように、共振領域50の外側に積層膜15を設けても空隙30と重なっていなければ反共振周波数のQ値および電気機械結合係数k
2は向上しない。実施例1の変形例1から3のように、共振領域50の外側において、積層膜15と空隙30の少なくとも一部が重なっていれば、反共振周波数のQ値および電気機械結合係数k
2は向上する。これは、積層膜15と空隙30が重なる領域52において、共振領域50から伝搬する弾性波が反射または減衰され、弾性波エネルギーの共振領域50外への漏洩が抑制されるためと考えられる。
【0071】
以上のように、実施例1から8によれば、下部電極12下に、共振領域50を含みかつ共振領域50より大きな空隙30が設けられている。積層膜15は、共振領域50の外輪郭60の外側かつ空隙30の外輪郭62の内側にあって共振領域50を囲む少なくとも一部に設けられている。積層膜15が共振領域50の外側で空隙30と重なる領域52において、弾性波が反射または減衰する。これにより、共振領域50からの弾性エネルギーの漏洩を抑制できる。よって、Q値等の特性を向上できる。
【0072】
また、積層膜15は、共振領域50内には設けられていない。これにより、共振領域50内の積層構造はほぼ均一となる。よって、電気機械結合係数を向上できる。なお、積層膜15は、特性にほとんど影響しない範囲で共振領域50内に設けられていてもよい。積層膜15の内輪郭64は、共振領域50の外輪郭60の内側に位置する場合、内輪郭64と外輪郭60の距離は、圧電膜14内を共振領域50から外側に向かって横方向に伝搬する弾性波の波長の1/4以下であることが好ましい。
【0073】
領域52の幅は、圧電膜14内の横方向に伝搬する弾性波を効率よく反射するため、横方向に伝搬する弾性波の波長の1/4以上が好ましい。また、領域52の幅を横方向に伝搬する弾性波の波長の1/4の奇数倍とほぼ等しくする。これにより、領域52における弾性波の反射が大きくなる。よって、弾性波エネルギーの共振領域50からの漏洩を効率よく抑制できる。
【0074】
さらに、共振領域50を囲む少なくとも一部において、積層膜15の内輪郭64は、共振領域50の外輪郭60に略一致する。これにより、積層膜15が共振領域50内に設けられないため電気機械結合係数を向上でき、かつ、積層膜15が共振領域50から離れていないため、弾性波エネルギーの共振領域50からの漏洩を効率よく抑制できる。
【0075】
共振領域50を囲む少なくとも一部において、積層膜15の内輪郭64は、共振領域50の外輪郭60より外側に位置してもよい。弾性波エネルギーの共振領域50からの漏洩を効率よく抑制する観点から、積層膜15の内輪郭64と共振領域50の外輪郭60との距離は、圧電膜14内を横方向に伝搬する弾性波の波長以下が好ましく、1/4以下がより好ましい。
【0076】
共振領域50を囲む少なくとも一部において、積層膜15の内輪郭64は、空隙30の外輪郭62に略一致してもよいし、外輪郭62より内側に位置してもよいし、外輪郭62の外側に位置してもよい。
【0077】
共振領域50を囲む少なくとも一部において、空隙30の外側の圧電膜14を除去することができる。これにより、弾性波エネルギーの漏洩をより抑制できる。
【0078】
空隙30としては、空気からなる空気層を用いることができる。空気層により、圧電膜14内を縦方向に伝搬する弾性波を効率よく反射させることができる。
【0079】
実施例1から実施例8の空隙30を実施例8の変形例の音響反射膜31に代えることもできる。音響反射膜31により、圧電膜14内を伝搬する弾性波を効率よく反射することができる。
【実施例9】
【0080】
実施例9は、実施例1から8およびその変形例の圧電薄膜共振器を用いたフィルタおよびデュプレクサの例である。
図13(a)は、実施例9に係るフィルタの回路図である。
図13(a)に示すように、入力端子T1と出力端子T2との間に、1または複数の直列共振器S1からS4が直列に接続されている。入力端子T1と出力端子T2との間に、1または複数の並列共振器P1からP4が並列に接続されている。1または複数の直列共振器S1からS4および1または複数の並列共振器P1からP4の少なくとも1に実施例1から8およびその変形例の弾性波共振器を用いることができる。実施例1から8およびその変形例の弾性波共振器を含むフィルタは、ラダー型フィルタ以外に多重モードフェイルとすることもできる。
【0081】
図13(b)は、実施例9の変形例に係るデュプレクサの回路図である。
図13(b)に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ44が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ46が接続されている。送信フィルタ44は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ46は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ44および受信フィルタ46の少なくとも一方を実施例6のフィルタとすることができる。
【0082】
フィルタが実施例1から8およびその変形例の圧電薄膜共振器を含む。これにより、共振器のQ値が向上し、フィルタのスカート特性を向上できる。
【0083】
また、送信フィルタ44および受信フィルタ46の少なくとも一方を実施例1から8およびその変形例の圧電薄膜共振器を含むフィルタとすることができる。
【0084】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。