特許第6368301号(P6368301)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6368301マルチモーダル造影剤としての超微細ナノ粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368301
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】マルチモーダル造影剤としての超微細ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   A61K 49/04 20060101AFI20180723BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20180723BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20180723BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20180723BHJP
   A61K 41/00 20060101ALI20180723BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20180723BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20180723BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20180723BHJP
   A61K 49/18 20060101ALI20180723BHJP
   A61K 51/12 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   A61K49/04
   A61K9/10
   A61K9/51
   A61K9/72
   A61K41/00
   A61K47/18
   A61K47/22
   A61K47/34
   A61K49/18
   A61K51/12 100
   A61K51/12 200
   A61P35/00
【請求項の数】15
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2015-504970(P2015-504970)
(86)(22)【出願日】2013年4月12日
(65)【公表番号】特表2015-518478(P2015-518478A)
(43)【公表日】2015年7月2日
(86)【国際出願番号】EP2013057677
(87)【国際公開番号】WO2013153197
(87)【国際公開日】20131017
【審査請求日】2014年12月10日
【審判番号】不服2016-19539(P2016-19539/J1)
【審判請求日】2016年12月27日
(31)【優先権主張番号】1253438
(32)【優先日】2012年4月13日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】596096180
【氏名又は名称】ユニベルシテ・クロード・ベルナール・リヨン・プルミエ
(73)【特許権者】
【識別番号】514258801
【氏名又は名称】ナノ−アシュ
(73)【特許権者】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】508193426
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ジョゼフ フリエ
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100098590
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 隆
(72)【発明者】
【氏名】クレミリュ,ヤニック
(72)【発明者】
【氏名】ビアンキ,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】デュフォール,サンドリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】コル,ジャン−リュク
(72)【発明者】
【氏名】リュクス,フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ティレマン,オリヴィエ
【合議体】
【審判長】 田村 聖子
【審判官】 大久保 元浩
【審判官】 阪野 誠司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/124131(WO,A2)
【文献】 特表2008−506636(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/135101(WO,A2)
【文献】 HAK SOO CHOI,RAPID TRANSLOCATION OF NANOPARTICLES 以下省略,NATURE BIOTECHNOLOGY,2010年12月 1日,V28 N12,P1300−1303
【文献】 J.Aerosol.Res.,,2006年,Vol.21,No.1,p.10−15
【文献】 エアロゾル研究,2010年,Vol.25,No.2,p.155−165
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 49/00-49/22
A61K 51/00-51/12
A61K 41/00
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00-9/72
CAPlus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線増感剤として、あるいは医用イメージングのための造影剤として使用するためのナノ粒子であって、
a.該粒子は、ポリオルガノシロキサンマトリックスからできており、該ポリオルガノシロキサンマトリックスは、該ポリオルガノシロキサンマトリックスにグラフトしたキレート剤、および該キレート剤で錯体化された希土類カチオンMn+(nは2〜4の整数である)を造影剤もしくは放射線増感剤として含み、必要に応じて該キレート剤で錯体化されたドーピングカチオンDm+(mは2〜6の整数であり、Dは、M以外の希土類金属、アクチニドまたは遷移元素である)を、(i) 造影剤として、(ii) 放射線増感剤として、(iii) 蛍光剤として、(iv) PETまたはSPECTシンチグラフィーのための放射性核種として、又は (v) キュリー療法剤として伴っていること
b.該粒子は、該キレート剤を、全てのMn+カチオンおよび必要に応じてDm+カチオンを錯体化することができる充分な量含むこと;
c.該粒子は、キレート剤及び/又はpH調整剤の存在下でのナノ粒子前駆体のコアの溶解によって得られた結果、該粒子の平均直径が1〜5nmの値に減少しており、ここで、該コアは、の酸化物及び/又はオキシ水酸化物であって、少なくとも一部がカチオン形Mn+(nは2〜4の整数である)であるものを含み、該ナノ粒子前駆体が該コアとポリオルガノシロキサンマトリックスの層とを含むこと
d.該粒子は、気道を介して、特に鼻腔内もしくは気管内にてヒトまたは動物に投与されること;
を特徴とするナノ粒子。
【請求項2】
請求項1に記載のナノ粒子であって、TMRIイメージングのための少なくとも1種の造影剤、ならびに
(i)PETもしくはSPECTシンチグラフィー、
(ii)近赤外領域での蛍光、および
(iii)X線断面デンシトメトリー、
のイメージング手法の1つに適した少なくとも1種の造影剤、
を含むことを特徴とするナノ粒子。
【請求項3】
請求項1に記載のナノ粒子であって、粒子1つ当たり50〜5000mM−1−1の緩和能r、及び/又は、少なくとも5重量%の、例えば5〜50重量%のGd重量割合を有することを特徴とするナノ粒子。
【請求項4】
請求項1に記載のナノ粒子であって、該キレート剤が、ランタニド錯体形成剤から、特にジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−四酢酸(DOTA)、1,4,7−トリアザシクロノナン−1,4,7−三酢酸(NOTA)、またはこれらの誘導体から選ばれることを特徴とするナノ粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のナノ粒子であって、該ナノ粒子がそれぞれ、ランタニド、ならびにランタニド酸化物及び/又はランタニドオキシ水酸化物から選ばれる造影剤、放射性薬剤、または放射線増感剤を含み、該ランタニドが、好ましくはDy、Lu、Gd、Ho、Eu、Tb、Nd、Er、およびYb、またはこれらの混合物から選ばれることを特徴とするナノ粒子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のナノ粒子であって、該ナノ粒子前駆体が、更に、該ポリオルガノシロキサンマトリックスにグラフトしたキレート剤C1であってn+カチオンとの錯体を形成することができるキレート剤C1と、必要に応じて、水性媒体中でのナノ粒子の懸濁を確実にもたらすことのできる親水性分子とを含むオーバーコーティングを含み、該ナノ粒子前駆体のコアの溶解がキレート剤の存在下で行われる場合における該キレート剤が、C1と同一または異なるキレート剤であってMn+カチオンとDm+カチオンの全部もしくは一部と錯体を形成することができるキレート剤C2であることを特徴とするナノ粒子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のナノ粒子であって、In、Tc、Ga、Zr、Y、Cu、またはLuの放射性同位体、例えば111In、99mTc、68Ga、64Cu、89Zr、90Y、または177Luなど、からなる群から選ばれるのが好ましい、シンチグラフィーにおいて使用することができる放射性同位体を捕捉していることを特徴とするナノ粒子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のナノ粒子であって、肺の医用イメージングのための造影剤として使用するためのナノ粒子。
【請求項9】
請求項8に記載の使用のためのナノ粒子であって、肺腫瘍の核磁気共鳴イメージング用のナノ粒子。
【請求項10】
請求項9に記載の使用のためのナノ粒子であって、非肺腫瘍をターゲットにするためのナノ粒子。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の使用のためのナノ粒子であって、TMRIイメージングに適したマルチモーダル造影剤としての、ならびに
i)PETもしくはSPECTシンチグラフィー、
ii)近赤外領域での蛍光、および
iii)X線断面デンシトメトリー、
から選ばれる他のイメージング手法の1つ以上に適したマルチモーダル造影剤としてのナノ粒子。
【請求項12】
ヒトまたは動物における医用イメージングの非侵襲的方法であって、該ヒトまたは動物が、請求項1〜7のいずれか一項に記載のナノ粒子を含む組成物気道を介して、例えばエアロゾルの形態にてTMRI造影剤として投与されたヒトまたは動物である方法であり、適切なMRIシーケンスを使用してMRI画像を取り込むステップを含む方法。
【請求項13】
ヒトまたは動物における治療処置の治療有効性をモニターする方法であって、該ヒトまたは動物が、処置の開始時に、請求項1〜7のいずれか一項に記載のナノ粒子を、気道を介してエアロゾルの形態で、造影剤として患者に投与されたヒトまたは動物である方法であり、
)病変を視覚化するために、適切なイメージング手法を使用して画像を取り込むステップ;および
ii)処置中の病変の変化を比較するステップ
を含む方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、喘息や肺癌等の肺疾患をモニターするための方法。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のナノ粒子であって、
肺癌を治療するために、
(i)放射線療法用の放射線増感剤もしくは放射性薬剤として;
(ii)中性子療法用の薬剤として;
(iii)光線療法用の薬剤として;または
(iv)温熱療法用の薬剤として;
使用するためのナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気道を介する投与方法を特徴とする、超微細ナノ粒子の診断薬、治療薬、またはセラノスティック薬(theranostic agent)としての新規使用に関する。本発明はさらに、この新規投与方法から得られる種々の応用(特に、肺を撮像する場合)、ならびに病理学的肺疾患の診断と予後に関する。治療分野において考えられる応用は、放射線療法〔および必要に応じてキュリー療法(curietherapy)〕のための、または中性子療法のための放射線増感剤や放射性薬剤としての応用、あるいは光線療法や温熱療法のための(特に、肺腫瘍を治療するための)薬剤としての応用などがある。
【背景技術】
【0002】
相当な研究努力がなされているにもかかわらず、癌は、世界中で死亡の主な原因の1つのままである(R.Siegel et al.:Cancer Statistics 2012,2012,62,10−29)。種々のタイプの癌の中で、肺癌は、癌に関連した死亡の主原因となっている(J.S.Guthi et al.,Molecular Pharmaceutics,2009,32−40):−世界中で毎年140万人が死亡している;−5年生存率が15%未満である。
【0003】
肺癌に罹っている患者の生存率が低いのは、主として、早期診断のための、そして局所標的治療薬のための手段がないことによる。
ナノ粒子を、医用イメージングにおける造影剤として、あるいは治療薬として使用することは、20年以上にわたって知られている。これらのナノ粒子は実際、分子化合物と比較して多くの利点を有している:ナノ粒子は、マルチモーダルアプローチを可能にする(M.Lewin ea al.,Nat.Biotechnol.,2000,18,410−414)、−粒子1つ当たりの活性要素の数がより多いために、検出が大幅に改良されている;さらに、MRIの場合、Gd3+イオン1つ当たりの効率も改良されている(P.Caravan,Chem.Soc.Rev.,2006,35,512−523/J.S.Ananta et al.,Nat.Nano.,2010,5,815−821)、−考えられる応用に応じて、ナノ粒子1つ当たりの特定のリガンドの幾つかの分子を結びつけることができ、及び/又は、特定の組織もしくは細胞型に対するナノ粒子の親和性を高めるために、ナノ粒子1つ当たりの特定のタイプのリガンドを組み合わせることができる(E.Garanger et al.,Org.Biochem.,2006,4,1958−1964/Z.−H.Jin et al.,Molecular Cancer,2007,6,41)、−ナノメータ尺度により、生物医学的応用に対して使用できる新規でオリジナルな特性がナノ粒子にもたらされる(E.Boisselier,D.Astruc,Chem.Soc.Rev.,2009,38,1759−1782/C.Xu,S.Sun,Dalton Trans.,2009,5583−5591/P.Zrazhevskiy et al.,Chem.Soc.Rev.,2010,39,4326−4354)、−ナノ粒子は硬質であり、生体媒質との相互作用は殆ど示さない。
【0004】
マルチモーダルアプローチは、具体的には、それぞれが数種の分子造影剤を含む一組のナノ粒子を使用することにある。したがってマルチモーダルアプローチは、治療において有効である数種の薬剤を同じナノ粒子にグループ分けすることによって、種々の撮像技術だけでなく種々の治療技術も組み合わせることができる。イメージングにおいて有効である薬剤と治療において有効である薬剤は、互いに同一であっても、あるいは異なっていてもよい。
【0005】
このアプローチは、セラノスティクス(theranostics)における医薬の開発に特に適している。目的とするゾーンでの治療薬の濃縮のために、特に、他のイメージング機能(ルミネセンスやシンチグラフィー等)、治療機能(有効成分の放出、放射線増感、キュリー療法等)、そしてさらに生物学的ターゲティング機能を加えることもできる。このアプローチは特に、イメージングにより視覚化される生体内分布によって体中における治療薬の挙動を正確に調べることにより、イメージング誘導療法を思い描くことを可能にする。次いでセラノスティック薬を、最良の時点(濃度が、治療しようとするゾーンにおいて最大となり、健常組織において最小となるとき)において活性化させることができる(薬剤のタイプに従ってX線、γ線、中性子線、または光線によって)。
【0006】
国際特許出願第2009/053644号は、ランタニド(特にガドリニウム)をベースとするナノ粒子、およびそれらの放射線増感剤としての使用を説明している。該特許出願は、特に生体内分布を向上させるように、そして腫瘍ゾーンにおける局所的濃縮を促進するように、ナノ粒子の表面において又はナノ粒子のコーティングにて有機分子を使用することを開示している。
【0007】
国際特許出願第2011/135102号は、官能化ポリオルガノシロキサンマトリックスを含み、金属錯体(例えばガドリニウム錯体)を含み、そして必要に応じて他の造影剤や放射線増感剤を含む、平均直径が5nm未満の超微細ナノ粒子を開示している。これらの超微細ナノ粒子は、医用イメージングと癌治療に対して特に有利であるマルチモーダル特性を有する。静脈注射後に、サイズが極めて小さいことから、非常に良好な生体内分布が、速やかで完全な腎排出を伴って確認され、これにより副作用または毒作用のリスクが抑えられる(F.Lux et al.,Ange.Chem.Int.Ed.,2011,123,12507−12511)。
【0008】
肺は、静脈内投与または気道を介して、診断薬もしくは治療薬によってターゲットにすることができる、という意味でユニークな臓器である。しかしながら、造影剤として使用できるナノ粒子の投与は、肺における長期滞留のリスクのために(従って関連毒性のリスクのために)、従来から静脈注射によって行われている(J.Roller et al.,Nanomedicine,2011,7,753−762/R.Rossin et al.,J.Nucl.Med.,2008,49,103−111)。
【0009】
CT(コンピュータ断層撮影法)では、重元素(例えば金)をベースとするナノ粒子の吸入による投与(Cai,S.H.et al,Investigative Radiology,2007,42,797−806)およびヨード化合物ベースとするナノ粒子の吸入による投与(Aillon,et al,Molecular Pharmaceutics,2010,7,1274−1282)が説明されている。磁気共鳴画像法(MRI)では、毒性が低くて、合成と官能化が容易にできることから、陰性造影剤〔酸化鉄ベースのナノ粒子(G.Huang et al.,Chem.,2009,19,6367−6372)〕だけが気道を介して使用されている。しかしながら、陰性造影剤の使用は、肺を画像化する上で最適とは言えず、陽性造影剤を使用することによって診断が改良されると思われる。
【0010】
蛍光画像法の場合は、近赤外(NIR)発光ナノ粒子(例えば量子ドット)が使用されているが、それらの固有の毒性のために、推定される将来的な臨床応用が制限される。“A.Zintcheko et al.,Molecular Therapy,2009,17,1849−1856/F−X.Ble et al.,Magnetic Resonance in Medicine 62:1164−1174,2009”は、粘液線毛除去機構を研究するために、粘液を標識付けすることができる分子の合成とインビボ挙動を説明している。彼らは、近赤外においてフルオロフォアを、そしてさらにそれらの巨大分子に対して造影剤Tを使用することの利点を示している。このアプローチでは、強いMRI信号(10kDa超の分子の場合は4Gd3+)を得ることができず、はるかに高いモル質量(70kDa超)のデキストランポリマーを使用する必要がある。さらに、これらの多糖類型ポリマーは生物学的に活性であって、粘液の糖タンパク質と相互作用して、水素結合に富んだ部位に結びつくことがある。造影剤が喀出によって除去され、肺組織の輪郭強調を得ることができなくなる。
【0011】
したがって、本発明者らの知る限りでは、ガドリニウムベースナノ粒子のマルチモーダル造影剤の、気道を介しての投与は、肺のTMRIイメージングに関して全く説明されていない。超微細ナノ粒子(平均直径が10nm未満、もしくはさらに5nm未満、例えば1〜5nm)の形態の造影剤の、気道を介しての投与は、肺のイメージングあるいは病理学的肺疾患の治療に対して、および満足できる腎排出に対して特に好都合な造影剤分布を可能にし、従ってこのタイプの構造物に固有である毒性のリスクが抑えされる、ということを本発明者らは見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際特許出願第2009/053644号
【特許文献2】国際特許出願第2011/135102号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】R.Siegel et al.:Cancer Statistics 2012,2012,62,10−29
【非特許文献2】J.S.Guthi et al.,Molecular Pharmaceutics,2009,32−40
【非特許文献3】M.Lewin ea al.,Nat.Biotechnol.,2000,18,410−414
【非特許文献4】P.Caravan,Chem.Soc.Rev.,2006,35,512−523/
【非特許文献5】J.S.Ananta et al.,Nat.Nano.,2010,5,815−821
【非特許文献6】E.Garanger et al.,Org.Biochem.,2006,4,1958−1964
【非特許文献7】Z.−H.Jin et al.,Molecular Cancer,2007,6,41
【非特許文献8】E.Boisselier,D.Astruc,Chem.Soc.Rev.,2009,38,1759−1782
【非特許文献9】C.Xu,S.Sun,Dalton Trans.,2009,5583−5591
【非特許文献10】P.Zrazhevskiy et al.,Chem.Soc.Rev.,2010,39,4326−4354
【非特許文献11】F.Lux et al.,Ange.Chem.Int.Ed.,2011,123,12507−12511
【非特許文献12】J.Roller et al.,Nanomedicine,2011,7,753−762
【非特許文献13】R.Rossin et al.,J.Nucl.Med.,2008,49,103−111
【非特許文献14】Cai,S.H.et al,Investigative Radiology,2007,42,797−806
【非特許文献15】Aillon,et al,Molecular Pharmaceutics,2010,7,1274−1282
【非特許文献16】G.Huang et al.,Chem.,2009,19,6367−6372
【非特許文献17】A.Zintcheko et al.,Molecular Therapy,2009,17,1849−1856
【非特許文献18】F−X.Ble et al.,Magnetic Resonance in Medicine 62:1164−1174,2009
【発明の概要】
【0014】
本発明は、下記の目的の少なくとも1つに適合することを意図している:(i)イメージング(例えば、TMRI、PETもしくはSPECTシンチグラフィー、近赤外蛍光、X線トモグラフィー)において、毒性の弱いマルチモーダル造影剤の局所投与の新規モデルを提唱すること;(ii)病理学的肺疾患(特に、重い喘息に関連した肺腫瘍や気管支リモデリング)の確実な検出を、必要に応じて治療行為と結びつけて可能にする新規イメージング法を提唱すること;(iii)病理学的肺疾患(特に、肺癌や喘息)に対する新規の診断薬、治療薬、またはセラノスティック薬を提唱すること、ここで前記薬剤は、他のイメージングモードと組み合わせたTMRI、適切な肺分布、血液中での通過、および効率的な腎排出において大きな可能性を有する;(iv)ほとんど器具を必要とせず、患者にとって非侵襲性で、無理がなくて、しかも毒性を示さない経路によって注入すべき用量を減らすことを可能にする、プロドラッグまたは造影剤の新規投与方法を提唱すること;(v)血液中での通過により、非侵襲性投与を介して肺腫瘍ではない腫瘍(non−pulmonary tumors)をターゲットにするための新規方法を提唱すること。
【0015】
これらの目的は特に、第1の態様において、治療薬として又は医療画像用造影剤として使用するためのナノ粒子に関する本発明によって達成され、本発明のナノ粒子は、1〜20nmの、好ましくは1〜10nmの、そしてさらに好ましくは2〜5nmあるいは1〜5nmの平均直径を有していて;少なくとも1種の医療画像用造影剤及び/又は1種の放射線治療用放射線増感剤もしくは放射性薬剤、あるいは中性子療法、光線療法、もしくは温熱療法用の薬剤を含み;気道を介して(特に、鼻孔内もしくは気管内にて)ヒトや動物に投与されることを特徴とする。
【0016】
1つの好ましい実施態様では、希土類カチオンMn+(nは2〜4の整数である)を、必要に応じて一部は金属酸化物及び/又はオキシ水酸化物の形で、そして必要に応じてドーピングカチオンDm+(mは2〜6の整数であり、Dは、好ましくは遷移元素または希土類金属である)を伴わせて、造影剤もしくは放射線増感剤として含むポリオルガノシロキサン(POS)マトリックス;全てのMn+カチオンおよび必要に応じてDm+カチオンを錯体化することができる充分な量の、共有結合−Si−C−を介してPOSマトリックスにグラフトされたキレート剤、このようにしてグラフトされたキレート剤は、Mn+カチオンおよび必要に応じてDm+カチオンに対して過剰であるのが好ましい;および必要に応じて、ナノ粒子のターゲティングのための1種以上のターゲティング分子、該ターゲティング分子は、POSマトリックスまたはキレート剤にグラフトされている;を含むハイブリッドナノ粒子が使用される。
【0017】
第2の態様では、本発明は、上記ハイブリッドナノ粒子を非侵襲性投与する方法に関し、該ハイブリッドナノ粒子が、エアロゾルの形態にて気道を介してヒトまたは動物に投与されることを特徴とする前記方法に関する。
【0018】
第3の態様では、本発明は、上記ナノ粒子および必要に応じて医薬的に許容しうるビヒクル、フルイド、または溶媒を含有する、気道を介して造影剤または治療薬を投与するためのエアロゾルに関する。
【0019】
第4の態様では、本発明は、ヒトまたは動物における治療処置の治療効果をモニターするための方法に関し、(i)処置の開始時において、上記ナノ粒子を、エアロゾルの形態で気道を介して造影剤として患者に投与するステップ;(ii)損傷を視覚化するために、適切なイメージング方法によって画像を取り込むステップ;(iii)患者の治療処置中に、必要に応じて何度でもステップ(i)と(ii)を繰り返すステップ;および(iv)処置時の画像に関して損傷の変化を比較することによって、処置の治療効果を導き出すステップ;を含む上記方法に関する。
【0020】
この方法は、抗腫瘍治療(特に肺腫瘍に対する)の有効性のモニタリングに、あるいは炎症性肺疾患(例えば喘息)に対する治療有効性のモニタリングに有利に応用できる。
第5の態様では、本発明は、放射線療法、中性子療法、キュリー療法、動的光線療法、または動的温熱療法における放射線増感剤、光増感剤、もしくは放射性薬剤としての、肺癌に対する治療用途のためのナノ粒子に関する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に従った応用において使用されるナノ粒子
本発明者らが示すように、本発明は、造影剤として使用することができる(特にTMRIにおいて)特定のナノ粒子を気道を介して投与する、という驚くべき利点をもたらす。従って、そこからもたらされる応用は全て、後述するこれらナノ粒子の化学的・構造的特性に関連付けられる。
【0022】
本発明は、治療薬として又は医療画像用の造影剤として使用するためのナノ粒子に関し、ここで前記ナノ粒子は、1〜20nmの、好ましくは1〜10nmの、さらに好ましくは2〜5nmまたは1〜5nmの平均直径を有し、医療画像用の少なくとも1種の造影剤及び/又は放射線療法用の1種の放射線増感剤もしくは放射性薬剤、あるいは中性子療法、光線療法、もしくは温熱療法のための薬剤を含み、気道を介してヒトまたは動物に投与される(特に、鼻腔内もしくは気管内に)ことを特徴とする。
【0023】
本発明によれば、極めて小さな直径を有するナノ粒子を使用するのが有利である。例えば好ましくは1〜10nmの、さらに好ましくは2〜5nmまたは1〜5nmの平均直径を有するナノ粒子〔肺中での極めて良好な分布(従って病理学的肺疾患の確実な検出)、血液中の通過、および速やかな腎排出(従って低い毒性)が可能となる〕が選ばれる。1つの特定の実施態様では、極めて小さな直径(例えば1〜5nm)を有するナノ粒子は、少なくとも1種のポリオルガノシロキサンマトリックスを含むナノ粒子である。
【0024】
ナノ粒子の粒度分布は、例えば市販の粒径分析計〔PCS(光子相関分光法)に基づくMalvern Zetasizer Nano−S粒径分析計等〕を使用して測定される。この分布は、平均流体力学直径であることを特徴とする。
【0025】
本発明の目的に適うよう、“平均直径”という用語は、粒子の直径の調和平均を意味するように意図されている。このパラメーターの測定方法は、ISO13321:1996標準に記載されている。
【0026】
本発明の目的に適うよう、“造影剤”という用語は、特定の解剖学的構造物(例えば特定の組織もしくは臓器)または病理学的解剖構造物(例えば腫瘍)を隣接構造物もしくは非病理学的構造物に対して視覚化することを可能にするコントラストを、人為的に増大すべく医療画像において使用される任意の物質もしくは組成物を意味するように意図されている。造影剤の作用原理は、使用されるイメージング技術により異なる。
【0027】
造影剤または放射線増感剤の正確な構造は、所望する応用に従って決定される。
1つの好ましい変形では、磁気共鳴画像法(MRI)での応用の場合、ナノ粒子は、希土類金属カチオンを含有するのが好ましく、GdやDy(CESTの場合はEu)等の磁気的挙動を有するランタニドを含有するのがさらに好ましく、これらの希土類金属カチオンは、粒子中に存在する全ての金属カチオンの少なくとも10%を構成する。ランタニドベースの(例えばガドリニウムベースの)ナノ粒子は、TMRI陽性造影剤として使用することができる(特に、肺を画像化するのに適している)。
【0028】
したがって、1つの好ましい実施態様では、ナノ粒子はそれぞれ、ランタニドならびにランタニド酸化物及び/又はランタニドオキシ水酸化物から選ばれる造影剤または放射線増感剤を含み、ランタニドは、Dy、Lu、Gd、Ho、Eu、Tb、Nd、Er、Yb、およびこれらの混合物から選ぶのが好ましく、さらに好ましくはガドリニウムである。
【0029】
有利であってよく知られているように、治療に対して、およびMRIによるインビボ検出に対してナノ粒子の使用を組み合わせることができ、これにより、例えば治療のモニタリングが可能となる。ランタニドだけ〔少なくとも50重量%のガドリニウム(Gd)、ジプロシウム(Dy)、ルテチウム(Lu)、ホルミウム(Ho)、またはこれらの混合物を含めて(例えば、少なくとも50重量%のガドリニウム)〕を放射線増感剤として選ぶのが好ましい。
【0030】
1つの変形によれば、ランタニドを含有している部分が、MRI信号を引き起こすランタニド(例えばガドリニウム)をその表面部分に、そして少なくとも1種の他のランタニドをその中心部分に含有する、というナノ粒子が使用される。したがって、大きな原子番号を有する放射線吸収性ランタニドを、ナノ粒子のコアの中心に優先的に位置させる。
【0031】
他の変形によれば、特定数のランタニドは、強いエネルギー反応と一体となった中性子捕獲のための有効な横断面を示し、したがって中性子療法による治療法(例えば癌に対する)において使用できる。必要に応じて、考えられる療法にて中性子療法による治療ができるよう、この目的に充分に適う有効な捕獲断面を有するランタニドを選ぶことができる。したがって、ガドリニウム(157Gd)の選択が特に有利であることが判明しており、少なくとも50重量%のガドリニウムからなるランタニドが造影剤として使用される。
【0032】
1つの好ましい実施態様では、本発明に従って使用することができるナノ粒子は、TMRIイメージング用の少なくとも1種の造影剤、および下記のイメージング手法の1つに適した少なくとも1種の他の造影剤を含むことを特徴とする:(i)PETまたはSPECTシンチグラフィー;(ii)可視領域または近赤外領域での蛍光;(iii)X線断面デンシトメトリー。
【0033】
さらに好ましくは、ナノ粒子は、粒子1つ当たり50〜5000mM−1−1の緩和能、及び/又は、少なくとも5重量%(例えば5〜50重量%)のGd割合を有するように選ばれる。
【0034】
シンチグラフィーによるイメージングの場合、ナノ粒子は、シンチグラフィーで使用することができて、In、Tc、Ga、Cu、Zr、Y、またはLuの放射性同位体(例えば111In、99mTc、68Ga、64Cu、89Zr、90Y、または177Lu)からなる群から選ばれるのが好ましい放射性同位体を含む。
【0035】
近赤外領域での蛍光の場合は、例えばNd、Yb、またはErから選ばれるランタニドを使用することができる。
可視領域での蛍光の場合は、EuとTbから選ばれるランタニドを使用することができる。これらの造影剤または治療薬は、有機的性質をもつコーティング(例えばポリオルガノシロキサンマトリックス)で必要に応じて保護される。
【0036】
したがって1つの実施態様は、コア−シェル型のハイブリッドナノ粒子に関する。特に、希土類酸化物と必要に応じて官能化されたポリオルガノシロキサンマトリックスからなるコアをベースとするコア−シェル型のナノ粒子が知られている(特に、国際特許出願第2005/088314号と国際特許出願第2009/053644号を参照)。
【0037】
ナノ粒子は、特定の組織に対するナノ粒子のターゲティング可能にする分子で官能化することができる。ナノ粒子はさらに、対象とする用途に応じて、放射線増感剤及び/又は造影剤に対するベクトルとして機能することもできる。前記薬剤は、共有結合によってナノ粒子に結合させることもできるし、あるいは非共有結合によって(例えば、カプセル化、親水性/疎水性相互作用、またはキレート剤の使用によって)捕捉することもできる。
【0038】
1つの好ましい実施態様では、希土類カチオンMn+(nは2〜4の整数である)を、必要に応じて一部は金属酸化物及び/又は金属オキシ水酸化物の形で、そして必要に応じてドーピングカチオンDm+(mは2〜6の整数であり、Dは、好ましくはM以外の希土類金属、アクチニド、及び/又は遷移元素である)を伴わせて、造影剤もしくは放射線増感剤として含むポリオルガノシロキサン(POS)マトリックス;全てのMn+カチオンおよび必要に応じてDm+カチオンを錯体化することができる充分な量の、共有結合−Si−C−を介してPOSマトリックスにグラフトされたキレート剤、このようにしてグラフトされたキレート剤は、Mn+カチオンおよび必要に応じてDm+カチオンに対して過剰であるのが好ましい;および必要に応じて、ナノ粒子のターゲティングのためのターゲティング分子、該ターゲティング分子は、POSマトリックスまたはキレート剤にグラフトされている;を含むハイブリッドナノ粒子が使用される。
【0039】
コア−シェル型の構造の場合、POSマトリックスは、金属カチオンをベースとするコアを取り囲む表面層を形成する。表面層の厚さは0.5〜10nmの範囲であってよく、表面層が全体積の25%〜75%を構成してよい。
【0040】
POSマトリックスは、外部媒体に対してコアを保護(特に、加水分解に対して保護)するものとして作用し、造影剤の特性(例えばルミネセンス)を最適化する。POSマトリックスはさらに、キレート剤とターゲティング分子のグラフティングを介してナノ粒子の官能化を可能にする。
【0041】
キレート剤は下記の物質から選択するのが有利である:ポリアミノポリカルボン酸とその誘導体の群からの物質、そしてさらに好ましくは、DOTA、DTPA、EDTA、EGTA、BAPTA、NOTA、およびこれらの混合物を含むサブグループからの物質;ポルフィリン、塩素、1,10−フェナントロリン、ビピリジン、ターピリジン、シクラム、トリアザシクロノナン、これらの誘導体、およびこれらの混合物を含む群からの物質;ならびに上記物質の混合物。
【0042】
Mがランタニドであれば、キレート剤は、ランタニド錯体形成特性を有するキレート剤から、特に錯体形成定数log(KC1)が15超、好ましくは20であるキレート剤から選ぶのが有利である。ランタニド錯体形成キレート剤の好ましい例としては、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−四酢酸(DOTA)、1,4,7−トリアザシクロノナン−1,4,7−三酢酸(NOTA)、またはこれらの誘導体の構造単位を含むキレート剤を挙げることができる。
【0043】
さらに、意図する応用によって、必要に応じてナノ粒子に他の希土類金属カチオンもしくはアクチニド金属カチオン(例えば、ランタニド、あるいはさらには2種の異なるランタニド、このとき少なくとも一方がEuとTbから選ばれる)をドーピングする。
【0044】
アクチニドの中で、核反応につながった療法での応用に適した変形における放射性核種は、例えば、Ac、Th、Pa、Np、U、およびPuから選ばれる。
MとDは、ランタニド、遷移元素、アクチニド、ならびに“The Merck Index−第11版”による周期表の第Ib、第IIa、第IIIa、第IIIb、第Va、第VIb、第VIIb、および第VIII族の元素群から選ぶのが好ましく;Gd、Dy、Eu、Tb、Nd、Yb、Er、Ho、またはLu等のランタニド;Cu、Ag、またはAu等の第Ib族元素;CaやMg等の第IIa族元素;GaやIn等の第IIIa族元素;Y等の第IIIb族元素;Bi等の第Va族元素;CrやMo等の第VIb族元素;MnやTc等の第VIIb族元素;ならびにFe、Ru、Pt、Rh、またはIr等の第VIII族元素;を含むサブグループから選ぶのが好ましい。
【0045】
GdとDyは、例えば、MRIにおける造影剤として有用であるナノ粒子に適している。
Eu、Tb、Nd、Yb、およびErは、例えば、蛍光剤として有用であるナノ粒子に適している。
【0046】
HoとLuは、例えば、キュリー療法剤として有用であるナノ粒子に適している。
Lu、Yb、Gd、およびHoは、例えば、放射線増感剤として有用であるナノ粒子に適している。
【0047】
本発明の有利な特徴によれば、Mn+カチオン及び/又はDm+カチオンがナノ粒子の表面に配置される。この結果、これらのカチオンが水分子に近くなり、したがって特に、MRIにおいて大幅なTコントラスト増強効果を有する、ということになる。本発明に従って使用されるナノ粒子の性能レベルのこうした改良は、とりわけ、Mn+カチオン及び/又はDm+カチオンの、表面への配置に対する制御が高められていることによるものである。
【0048】
“コア−フリー”の官能化超微細ナノ粒子
1つの特に好ましい実施態様では、本発明に従って使用することができるナノ粒子は、特にサイズが極めて小さいことから、希土類金属酸化物及び/又は希土類金属オキシ水酸化物(M)を少なくとも一部はカチオン形Mn+(nは2〜4の整数である)にて含んでいて、必要に応じて少なくとも一部はカチオン形Dm+(mは2〜6の整数であり、Dは好ましくは遷移元素である)にて存在するドーピング剤(D)をドーピングしたコア;ポリオルガノシロキサン(POS)を含む少なくとも1種のコーティング層;および必要に応じて、Mn+カチオンとの錯体を形成することができるキレート剤C1、または水性媒体中でのナノ粒子の懸濁を確実にもたらすことのできる親水性分子を含むオーバーコーティング;を含むナノ粒子前駆体から得られ、このとき前記ナノ粒子前駆体が、このようにして得られる粒子の平均直径が1〜20nm、好ましくは1〜10nm、さらに好ましくは2〜5nmまたは1〜5nmの値に減少するように、pH調整剤、及び/又は、Mn+カチオンとDm+カチオンの全部もしくは一部と錯体を形成することができる、C1と同一または異なるキレート剤C2によって、コアMの完全もしくは部分的な溶解に付される。
【0049】
上記のモードに従って得られるこれらのナノ粒子は、少なくとも1種のコーティングによってカプセル封入されたコアを含む。この結果、観察されるサイズは3〜5nmとなる。このときに使用される用語が超微細ナノ粒子である。
【0050】
これらの“超微細”または“コアフリー”ナノ粒子は、必要に応じてターゲティング分子(特に、下記のパラグラフに記載のような、肺組織をターゲットとする分子)にグラフトされる。
【0051】
キレート剤C1及び/又はC2は、ナノ粒子中に、イオン(特に、Mn+カチオンまたはDm+カチオンさえも)の全部もしくは一部が、遊離状態ではなく錯体形成されるような量にて存在するのが好ましい。M−O−M結合、M−O−D結合、D−O−D結合、M−O−Si結合、またはD−O−Si結合に含まれている元素MとDの、元素MとDの合計数に対する重量%は、好ましさの増大する順序にて10、5、2、1、0.5、10−1、10−2、または10−3重量%以下であるのがさらに好ましい。
【0052】
ナノ粒子中のキレート剤C1及び/又はC2の数は、残留しているMn+カチオン及び/又はDm+カチオンの数より、あるいはさらに、Mn+カチオン及び/又はDm+カチオンのほかに必要に応じて加えられる他のカチオン(例えば、Ca2+やMg)の数より大きい。
【0053】
M−O−M結合、M−O−D結合、D−O−D結合、M−O−Si結合、またはD−O−Si結合(酸化物)のこのパーセント値は、構造解析と結びつけたEXAFS、XPS、振動分光法、または透過電子顕微鏡法等の公知の手法によって測定することができる。
【0054】
この測定により、コアの特定の結合の数を評価することができる。この測定により、コアの有無の定量的な測定が可能となる。この測定はさらに、容易に溶解して、溶液中にてイオン形で存在しうるM化学種またはD化学種を評価することを可能にする。
【0055】
キレート剤C1は、ポリシロキサン粒子の表面にグラフトすることもできるし、あるいはPOSマトリックスに直接挿入することもできる。これらキレート剤の一部また全部は、Mn+カチオン(例えばガドリニウムカチオン)と、あるいはさらにはDm+カチオンと錯体形成するように意図されている。これらキレート剤の他の部分は、直面する生物学的媒体との良好な相溶性が確実に得られるよう、内生カチオンの錯体形成のために使用することができる。
【0056】
本発明の超微細ナノ粒子の主要な利点の1つは、M及び/又はDが、
イメージング(例えば造影剤)及び/又は療法において有効である薬剤であってよい、という点である。
【0057】
実際、M/Mn+(例えばガドリニウム)あるいはさらにD/Dm+は、イメージング及び/又は療法における生物学的応用に対して注目すべき特性〔例えば、磁気特性、蛍光特性、放射性特性(高原子番号の元素)〕、または放射線増感特性(X線、γ線、β線、中性子線)〕を示す。
【0058】
従ってこれらのナノ粒子は、イメージングシステム(例えば、MRI、SPECTシンチグラフィー、PETシンチグラフィー、蛍光イメージング、X線スキャン)における造影剤として使用することができる。
【0059】
これらのナノ粒子は、キレート官能化(chelating functionalization)に加えて、親水性化合物(PEG)で表面変性することができ、及び/又は、有機体内の生体内分布が調整できるよう及び/又は良好な細胞ラベリング(特に、細胞療法をモニターするために)が可能となるよう別にチャージすることができる。
【0060】
例えば、これらのナノ粒子は、肺組織をターゲットとする分子をグラフトすることによって、あるいは血液中の通過のために、有機体の目的とする特定のゾーンをターゲットとする分子をグラフトすることによって表面官能化することができる。このように、これらのナノ粒子によって運ばれる薬剤が、注入される量を大幅に増やす必要なく、目的とするゾーンにおいて濃縮される。
【0061】
官能化はさらに、他の活性成分及び/又は発光化合物(フルオレセイン)を含む化合物を使用して行うこともできる。こうした官能化により、放射線療法や中性子線療法と組み合わせた放射線増感剤として、キュリー療法処置のための放射性薬剤として、PDT(光線力学療法)のための薬剤として、または治療効果を有する分子を特定の方向に向けるための薬剤として療法に使用できるようになる。
【0062】
これら超微細ナノ粒子の他の特徴は、注入後に、物質の剛性特性と粒子の全体的な形状寸法が保持されることである。この強い三次元剛性は、ポリシロキサンマトリックスによってもたらされ、このとき殆どのケイ素が、酸素ブリッジによって3個もしくは4個の他のケイ素原子に結合している。こうした剛性と小さなサイズとの組み合わせにより、市販の化合物(例えばGd−DOTAベースの錯体)と比較して、中間周波数(20〜60MHz)に対する(さらに、次世代の高磁場MRIにて存在する100MHz超の周波数に対しても)これらナノ粒子の緩和能を高めることが可能となる。
【0063】
ポリマー中に存在しないこうした剛性も、ターゲティング分子の特定方向づけとアクセスしやすさのための長所となる。
さらに、これらナノ粒子の生体適合性は、その品質上全く問題がない、ということを強調しておかねばならない。
【0064】
本発明に従った、特に本発明の実施態様に従ったナノ粒子は、20MHzの周波数に対し、Mn+イオン1個当たり5mM−1(Mn+イオンについて)s−1超の、好ましくは10mM−1(Mn+イオンについて)s−1超の緩和能rを有するのが好ましい。例えば、これらナノ粒子は、ナノ粒子1個当たり50〜5000mM−1−1の緩和能rを有する。これらナノ粒子は、60MHzにおいては、20MHzでのMn+イオン1個当たりの緩和能r以上の、Mn+イオン1個当たりの緩和能rを有するのがさらに好ましい。ここに記載の緩和能rは、Mn+(例えばガドリニウム)イオン1個当たりの緩和能である。rは、次の式から導かれる:1/T=[1/Twater+r[Mn+
他の変形では、ナノ粒子は、ランタニドタイプ(好ましくはガドリニウム)のT1 MRI造影剤の重量%が5%超であり、例えば5%〜50%である。
【0065】
これらの超微細ナノ粒子に関するさらなる詳細、それらの合成方法、およびそれらの使用は、国際特許出願第2011/135101号(該特許出願を参照により本明細書に含める)に記載されている。
【0066】
ターゲティング分子
ターゲティング分子が、ナノ粒子の表面にて及び/又はコーティング内にてグラフトされる。存在する反応性基との従来のカップリング(必要に応じて活性化段階が先行する)を使用することができる。カップリング反応は当業者に公知であり、ナノ粒子の表面層の構造に従って、およびターゲティング分子の官能基に従って選ばれる。例えば、「“Bioconjugate Techniques”,G.T Hermanson,Academic Press,1996,in“Fluorescent and Luminescent Probes for Biological Activity”,Second Edition,W.T.Mason,ed.Academic Press,1999」を参照。好ましいカップリング法については後述する。これらのターゲティング分子は、前述のように、“コアフリー”超微細ナノ粒子バリアントに従ったナノ粒子のキレート剤にグラフトされるのが好ましい。
【0067】
ターゲティング分子は、想定される応用に応じて選ばれる。
1つの好ましい実施態様では、例えば、腫瘍(特に肺腫瘍)のアクティブ・ターゲティングに適した分子が選ばれる。ナノ粒子上にグラフトすることができるターゲティング分子の例としては、αβインテグリンを認識することができるRGDトリペプチドを含有する分子を挙げることができる。このようなペプチドとそれらの誘導体(特に環状ペンタペプチド)は特に、国際特許出願第2004/026894号に記載されている。
【0068】
αβインテグリンが肺癌において極めて特異的な発現プロフィールを有する、ということが最近観察されている。健常組織においては、このヘテロダイマーは検出不能である(骨芽細胞は別として)。しかるにこのヘテロダイマーは、新生物形成や再形成を受ける毛細血管の内皮細胞の、実質的に腹部面上に約10copies by cellにて発現される。インテグリンは実際、細胞の固定と移動を可能にするように、細胞外マトリックスとの結合に関与している。したがって、血流を介してのインテグリンへのアクセスしやすさは適度なものである。腫瘍細胞(特に肺癌細胞)に関して言えば、αβインテグリンは、腫瘍浸潤フロント上に、そしてさらに腫瘍から逃れて転移癌を形成する細胞の近くにより豊富に発現される。しかしながらさらに、腫瘍が、隣接する正常組織の再形成を引き起こし、これに付随して、正常な陰性細胞の表面上にαβインテグリンの過剰発現が起こる、ということが確認されいる。したがって、本発明のナノ粒子の、気道を介しての投与〔例えば噴霧療法による投与;該ナノ粒子がさらに、αβインテグリン(例えばRGDモチーフを含有するペプチド)をターゲットとする分子を、その表面にグラフトした状態で含む〕は、特に“従来の”静脈内投与と比較して、肺腫瘍に対するとりわけ効果的なターゲティングを可能にする。
【0069】
気道を介してのナノ粒子を投与すると、血流に達することが、したがって肺中の血液でのナノ粒子の通過を介して他の組織に達することが可能となり、及び/又は、細胞免疫系による該ナノ粒子の吸収が可能となる、ということも本発明者らによって確認されている。したがってこれらのナノ粒子は、非肺腫瘍(これらは従来、静脈注射を介して造影剤によってターゲットにされている)の受動的もしくは能動的な腫瘍ターゲティングを行うことができる。
【0070】
したがって幾つかの実施態様では、他の臓器(特に癌組織)をターゲットとする分子が選ばれる。
腫瘍組織をターゲットにするのに好適なターゲティング分子は、例えば国際特許出願第01/00621号に記載されており、第四アンモニウム誘導体、アプタマー、ポリペプチド、および抗体などがある。
【0071】
親水性化合物
本発明の1つの変形によれば、ナノ粒子は、その表面において、ポリオールのグループから選ばれる、好ましくはグリコール、糖類、およびこれらの混合物を含むサブグループから選ばれる親水性化合物(デキストラン、PEG、およびPPGが特に好ましい)で官能化させることができる。
【0072】
別の1つの変形によれば、これら親水性化合物は、2000g/モル未満の、好ましくは800g/モル未満のモル質量を有する親水性化合物から選ぶことができる。好ましいモル質量(Mw)を有する親水性化合物の例としては、以下のようなものがある:ポリ(エチレングリコール)ビス(カルボキシメチル)エーテル(PEG),250<Mw<2000g/モル;ポリオキシエチレンビス(アミン),250<Mw<2000g/モル;O−メチル−O’−スクシニルポリエチレングリコール,約2000/モルのMw;メトキシポリエチレングリコールアミン,約750g/モルのMw;コハク酸とメルカプトコハク酸;糖類、特にグルコースとその誘導体(例えばデキストラン);親水性のアミノ酸もしくはペプチド(アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、システイン、セリン、トレオニン、グリシン等);ならびにこれらの混合物。
【0073】
より一般的には、親水性化合物は、アルコール、カルボン酸、アミン、アミド、エステル、エーテル−オキシド、スルホネート、ホスホネート、またはホスフィネート官能基を含むのが有利であり、POSマトリックスのケイ素原子の少なくとも10%に共有結合によって結びつけられるのが好ましい。
【0074】
本発明に従ったナノ粒子を得る方法
一般には、当業者であれば、本発明に従って使用されるナノ粒子を簡単に製造することができる。より具体的に言えば、下記の文献に留意すべきであろう:例えば、P.Perriat et al.,J.Coll.Int.Sci,2004,273,191;O.Tillement et al.,J.Am.Chem.Soc.,2007,129,5076;およびP.Perriat et al.,J.Phys.Chem.C,2009,113,4038に記載のように、ランタニド酸化物もしくはランタニドオキシ水酸化物のコアをベースとするコア−シェル型のナノ粒子に対しては、アルコールを溶媒として使用する製造方法が使用される。
【0075】
POSマトリックスに対しては、Stoeberによって開始される方法から導かれる幾つかの手法を使用することができる(Stoeber,W;J.Colloid Interf Sci 1968,26,62)。Louisら(Louis et al.,2005,Chemistry of Materials,17,1673−1682)や国際特許出願第2005/088314号に記載のようなコーティング方法も使用することができる。
【0076】
実際には、超微細ナノ粒子を合成するには、ランタニド酸化物コア(変性ポリオール経路を介して形成)とポリシロキサンシェル(ゾル/ゲル法により形成)を有するコア/シェル型のナノ粒子を形成させる〔この物体は、例えば約10nm(好ましくは5ナノメートル)のサイズを有する〕。したがって、極めて小さなサイズのランタニド酸化物コア(10nm未満に調整可能)は、下記の文献に記載の方法1つによってアルコール中にて製造することができる:P.Perriat et al.,J.Colli.Int.Sci,2004,273,191;O.Tillement et al.,J.Am.Chem.Soc.,2007,129,5076;およびP.Perriat et al.,J.Phys.Chem.C,2009,113,4038。
【0077】
これらのコアは、例えば下記の文献に記載の手順に従って、ポリシロキサンの層で被覆することができる:C.Louis et al.,Chem.Mat.,2005,17,1673;およびO.Tillement et al.,J.Am.Chem.Soc.,2007,129,5076。
【0078】
目的とする金属カチオンに対して特異的なキレート剤が、ポリシロキサンの表面にグラフトされる;層の内部にその一部を挿入することもできるが、ポリシロキサンの形成の制御は複雑であり、単純な外部グラフティングでも、これらの極めて小さなサイズでは、充分な割合のグラフティングが得られる。
【0079】
ナノ粒子は、適切なサイズの細孔を含む膜を使用する透析法またはタンジェンシャルろ過法(tangential filtration)によって合成残渣から分離される。
【0080】
コアは溶解によって(例えば、pHを調整することによって、あるいは錯形成分子を溶液中に導入することによって)破壊される。こうしたコアの破壊が、次にポリシロキサン層のスキャッタリングを可能にし(ゆっくりした溶食もしくは崩壊のメカニズムに従って)、これにより、複雑なモルホロジーを有するポリシロキサン物体を最終的に得ることが可能となる(このポリシロキサン物体の寸法の特徴は、ポリシロキサン層の厚さの一桁分であるということである、すなわちこれまでに得られたポリシロキサン物体よりはるかに小さい)。
【0081】
このように、コアを取り除くと、粒径を約5ナノメートルから約3ナノメートルに減少させることが可能となる。さらに、この操作により、サイズは同じであるが表面にだけM(例えばガドリニウム)を含む理論的なポリシロキサンナノ粒子と比較して、1nm当たりのM(例えばガドリニウム)の数を増大させることが可能となる。ナノ粒子のサイズに対するMの数は、EDXによって測定されるM/Si原子比によって評価することができる。
【0082】
“Montalbetti,C.A.G.N,Falque B.Tetrahedron 2005,61,10827−10852”に記載のように、ナノ粒子の有機成分上にて、例えばペプチド結合によるカップリングを使用して、これらのナノ粒子上にターゲティング分子をグラフトすることができる。
【0083】
“クリックケミストリー”を使用し、−N基、−CN基、もしくは−C≡CH基、または下記の基の1つが関与するカップリング法も使用することができる。
【0084】
【化1】
【0085】
1つの特定の実施態様では、本発明のナノ粒子は、酸性官能基を有するキレート剤(例えばDOTA)を含む。ナノ粒子の酸性官能基は、適切な量のターゲティング分子の存在下で、例えばEDC/NHS〔1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N−ヒドロスクシンイミド〕を使用して活性化される。このようにしてグラフトされたナノ粒子を、次いで例えばタンジェンシャルろ過によって精製する。
【0086】
ナノ粒子およびナノ粒子を含有するエアロゾルの投与方法
本発明の本質的な特徴によれば、上記のナノ粒子(特にコアフリーの超微細ナノ粒子)が、エアロゾルの形態で気道を介して投与される。
【0087】
したがって本発明は、ヒトや動物において気道を介して造影剤や治療薬を投与するためのエアロゾルに関し、このとき前記エアロゾルが、前記のパラグラフに記載のナノ粒子(より具体的にはコアフリー超微細ナノ粒子)、および必要に応じて、医薬的に許容しうるビヒクル、フルイド、または溶媒を造影剤または治療薬として含む。
【0088】
“気道”という用語は、特に、経口または静脈内経路からなる医薬や造影剤の他の投与方法とは対照的に、鼻腔内経路や気管内経路を含めた呼吸器官の気道の全てを意味するように意図されている。この用語の目的は、ナノ粒子の吸入によって肺に達することを表わすことにある。
【0089】
“エアロゾル”という用語は、(ナノ粒子を含有する)液滴の、あるいは支持ガス(例えば空気)中に分散された固体粒子の、準安定なサスペンションを意味するように意図されている。
【0090】
したがってエアロゾルは、所望する薬理学もしくは患者に重点が置かれたパラメーターに従った適切なデバイスによって得られる。このデバイスは、例えば、ナノ粒子のコロイドサスペンションを含有する所定体積の液体配合物を霧化することができる。所望する配合物と用量に応じて、このようなデバイスとしては、エアロゾルドーサー(an aerosol doser)、ドライパウダー吸入器、液体吸入器(a liquid−based inhaler)、(圧縮空気/ジェット)ネブライザー、超音波ネブライザー、および振動膜/メッシュネブライザーなどがあるが、これらに限定されない。使用可能な吸入器の詳細なレビューについては、特に“M.B.Dalovich et al.,Lancet,2011,377,1032−1045”を参照のこと。
【0091】
したがって本発明はさらに、前のパラグラフに記載のナノ粒子の(特に、コアフリー超微細ナノ粒子の)配合物に関し、ここで前記配合物は、エアロゾル化による投与に適していることを特徴とする。この配合物は、ナノ粒子を安定なコロイドサスペンション(例えば滅菌水中)の形態で含有する液体配合物であってよい。これとは別に、配合物は、コロイドサスペンションを含有する前記液体配合物の凍結乾燥により得られる乾燥物質であってもよい。この乾燥物質は、適切な量の液体で元に戻してから使用される。
【0092】
本発明はさらに、上記エアロゾル化のための液体配合物もしくは凍結乾燥配合物を収容する吸入器に関する。
例えば、肺のMRIイメージングの場合、適切な用量のガドリニウムベースのコアフリー超微細ナノ粒子と必要に応じて造影剤とを含有する配合物が作製され、ここで前記ナノ粒子は、水中サスペンションとなっている。この配合物のエアロゾル形態での投与は、例えば、実験の項に記載のように、食塩水の形にてネブライザーを使用して行われる。
【0093】
医用イメージング法
本発明はさらに、ヒトや動物における非侵襲的な医用イメージング法に関し、(i)前出のパラグラフに記載のナノ粒子(特にコアフリー超微細ナノ粒子)を、気道を介して、例えばエアロゾルの形態でTMRI造影剤として投与するステップ;および(ii)適切なMRIシーケンスを使用してMRI画像を取り込むステップ;を含む。
【0094】
したがって本発明のイメージング法は侵襲的な方法を含まず、患者にとって特に無理がない。本発明のイメージング法は特に、静脈注射液や静脈造影剤を含まず、後者は気道を介してのみ投与される。本発明のイメージング法は、必要に応じて、局所投与(肺における)を介して投与される用量の減少、および造影剤の投与に付きものの副作用もしくは毒作用の減少、を可能にする。
【0095】
ステップ(i)については、前出のパラグラフにおいて説明されている。
ステッブ(ii)の場合、手順は従来、例えば、“Comprendre l’IRM,manuel d’auto−apprentissage”[“Understanding MRI,self−learning manual”]by Bruno Kastler,Daniel Vetter(publisher:Masson,2011,ISBN:9782294710445)に記載のように、患者、調べようとする対象ゾーン、および所望する画像のタイプに応じた適切なMRIシーケンスを選択して、MRIマシンを使用して行われている。
【0096】
本発明に従って使用されるナノ粒子はマルチモーダル造影剤である。したがって、単回投与、幾つかのイメージング手法〔特に、TMRI、PET(例えば64Cu)、またはSPECT(111Inもしくは99mTc)シンチグラフィー〕、近赤外領域での蛍光、そして必要に応じて、放射線増感剤、感光剤、または放射線療法、キュリー療法、中性子線療法、および光線療法等において適切な薬剤と組み合わせることができる。
【0097】
1つの特に好ましいモードでは、本発明の方法は、肺のMRIイメージング(特に肺腫瘍のイメージング)に適用される。肺腫瘍のイメージングの場合は、ガドリニウムベースのコアフリー超微細ナノ粒子を投与した後に、肺のMRI信号の強度をできるだけ高くするために、例えばT1強調コントラスト(T1−weighted contrast)が短いエコー時間で求められる。使用されるMRI手法は、肺MRIの特異性を、すなわち、呼吸運動や心臓の動き、およびこの臓器の低い組織密度と磁気的不均一性を考慮に入れる(“MRI of the Lung”,Hans Ulrich Kauczor,Ed.Springer,2009,ISBN 9783540346180)。
【0098】
本発明に従ったイメージング法での肺への投与により、前記方法の明らかな応用は、病理学的肺疾患〔例えば、癌性病状(肺腫瘍)と非癌性病状、特に炎症性の病理学的肺疾患(例えば、喘息、慢性閉塞性肺疾患、および慢性閉塞性気管支肺疾患を含む)〕の診断に関する。
【0099】
本発明はさらに、ヒトや動物に対する治療処置の治療効果をモニタリングするための方法に関し、該方法は、(i)処置の開始時に、上記ナノ粒子を、エアロゾルの形態にて気道を介して造影剤として患者に投与するステップ;(ii)病変を視覚化するために、適切なイメージング法を使用して画像を取り込むステップ;(iii)患者の処置中に、必要に応じて何度でもステップ(i)と(ii)を繰り返すステップ;および(iv)処置中の病変の変化を比較することによって、処置の治療効果を推定するステップ;を含む。
【0100】
この方法の特定の応用は、ヒトや動物における治療の(例えば、肺腫瘍に対する化学療法、放射線療法、キュリー療法、光線療法、もしくは温熱療法による抗腫瘍治療の)治療効果のモニタリングに関する。
【0101】
1つの好ましい実施態様では、本発明は、ヒトや動物における抗腫瘍治療(特に、肺腫瘍を抑えるべく施される化学療法、放射線療法、キュリー療法、光線療法、または温熱療法による治療;)の治療効果をモニターする方法に関し、該方法は、(i)治療の開始時に、前出のパラグラフに記載のナノ粒子(特に、コアフリー超微細ナノ粒子)を、例えばエアロゾルの形態で気道を介して造影剤として、癌に罹っている患者に投与するステップ;(ii)腫瘍を検出するために、適切なイメージング手法を使用して画像を取り込むステップ;(iii)抗腫瘍薬による患者の治療時に、ステップ(i)と(ii)を繰り返すステップ;および(iv)治療時に得られる腫瘍の画像を比較することによって、抗腫瘍薬の治療効果を導き出すステップ;を含む。
【0102】
したがって、患者の治療前、治療中、および治療後の腫瘍の進行(特に、時間の経過に伴う腫瘍サイズの変化、および腫瘍の数と分布)をモニターすることができる。当然ながら、上記のような腫瘍の特異的ターゲティングを可能にするナノ粒子が選ばれる。
【0103】
上記方法において有利なことに、ナノ粒子は、イメージングでのマルチモーダル特性のために造影剤として(例えばT1MRI造影剤として)、および腫瘍を治療するための放射線増感剤、光増感剤、もしくは放射性薬剤として使用することができる。
【0104】
したがって上記方法において、1つの特定の実施態様では、造影剤として使用されるナノ粒子は、抗腫瘍薬として使用されるものと同じである。
本発明の他の有利な応用は、肺疾患における、特に、血管の一部に対する気管支壁の増大(血管形成)と気管支壁の過透過性を特徴とする炎症性の病理学的肺疾患(例えば、喘息、慢性閉塞性肺疾患、または慢性閉塞性気管支肺疾患、あるいは他の病的状態)における治療効果のモニタリングに関する。
【0105】
ナノ粒子のエアロゾル化による治療への応用
放射線療法(および必要に応じてキュリー療法)のための、又は中性子線療法のための放射線増感剤または放射性薬剤と組み合わせると、あるいはPDT(光力学療法)のための薬剤と組み合わせると、気道を介して投与されるナノ粒子は、腫瘍の治療に対して、特に肺腫瘍の治療に対してとりわけ有用である。
【0106】
したがって本発明の主題は、化学療法、放射線療法、キュリー療法、光線療法、または温熱療法による肺腫瘍の治療に対して使用することができ、上記ナノ粒子(例えばコアフリー超微細ナノ粒子)を、放射線増感剤、光増感剤、または放射性薬剤として、必要に応じて医薬的に許容しうるビヒクル及び/又は他の活性成分、あるいは気道を介して投与することができる造影剤と組み合わせて含む医薬組成物である。
【0107】
血流中への造影剤または治療薬の投与方法
気道を介する投与方法は、肺における局所投与だけでなく、体循環でのナノ粒子の通過も可能にする。したがって、治療用分子をナノ粒子に連結することによって(共有結合であろうと非共有結合であろうと)、本発明は、治療用分子または造影剤を含むこれらナノ粒子を気道を介して血流中に投与するためのベクトルとして使用することを提唱する。
【0108】
治療用分子のカップリング方法によれば、これらのベクトルは、活性成分の制御放出、持続性放出、または遅延放出によるプロドラッグとして使用することができる。
本発明はさらに、前出のナノグラフに記載のナノ粒子(特にコアフリー微細ナノ粒子)を治療有効量にて、エアロゾルの形態で気道を介して治療薬として投与することを含む、患者を治療する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0109】
図1】a)SRPナノ粒子の気管内投与前(左)と気管内投与の15分後(右)におけるマウスの肺のMRI(20mMのGd3+イオン濃度にて40μl)。ナノ粒子の投与後に、画像の強度が183%増大していることが観察される;b)Cy5.5蛍光プローブでグラフトされたSRPナノ粒子の噴霧後1時間における、マウスの肺の3D蛍光画像;c)X線顕微鏡断層撮影(“穴部”はナノ粒子の存在に相当する)によって得られる、SRPナノ粒子の噴霧前(左)と噴霧後(右)の肺の3D視覚化(20mMのGd3+イオン濃度にて50μl);d)時間の関数としての肺におけるMRI信号の増大(20mMのGd3+イオン濃度にて40μlのSRP溶液の点滴注入)。腎臓を介する除去の前にナノ粒子を検出するための時定数は約2時間である。これらの例において使用したナノ粒子は全て、実施例1に記載の手順に従って合成した。
図2】実施例1に従って得られるSRPナノ粒子の溶液の気管内投与の前に、(a)MRIイメージングと(c)蛍光光学的イメージングによって得られるマウスの肺の画像、ならびに実施例1に従って得られるSRPナノ粒子の溶液の気管内投与の3時間後に(蛍光イメージングに対してはCy5.5フルオロフォアと結合させて)(20mMのGd3+イオン濃度にて40μl)、(b)MRIイメージングと(d)蛍光光学的イメージングによって得られるマウスの肺の画像。この画像は、腎臓を介したナノ粒子の除去を示している。肝臓排泄は検出されない。
図3】実施例1に従って得られる造影剤(50mMのGd3+)の溶液を気管内投与した後の、腎臓におけるMRI信号の増強の、時間経過に伴う変化。腎臓マウスのにおけるナノ粒子の存在は、溶液を投与した後の24時間にわって検出可能である。
図4】左肺における溶液(50mMのGd3+)の選択的投与後の、マウスの肺における造影剤の生体内分布(画像中の右側)の高解像度MRI画像。使用したナノ粒子は、実施例1に従って得た。主要な捕捉パラメーター(acquisition parameters)は、276μsのエコー時間、0.5mmのセクション厚さ、2.5cmの視野、および4分の全捕捉時間である。
図5】Gd3+イオンが10mMの粒子懸濁液の、肺内噴霧または静脈注射の24時間後におけるSPR Cy5.5の生体内分布。ナノ粒子は、Cy5.5タイプのフルオロフォアのナノ粒子への結合を伴って実施例1に従って得られる。
図6】ナノ粒子懸濁液の静脈注射後または肺内噴霧後の、同所性H358−Luc肺腫瘍の受動ターゲティング。ナノ粒子は、Cy5.5タイプのフルオロフォアのナノ粒子への結合を伴って実施例1に従って得られる。
図7】10Gy放射線照射のみによって、あるいはGd3+イオンが20mMのナノ粒子懸濁液の肺内投与の24時間後に10Gy放射線照射を行うことによって治療される、H358同所性肺腫瘍を有するマウスに関して得られる生存曲線(Kaplan−Meier)。
【実施例】
【0110】
化学物質
塩化ガドリニウム六水和物([GdCl・6HO],99%)、水酸化ナトリウム(NaOH,99.99%)、テトラエトキシシラン(Si(OC,TEOS,98%)、アミノプロピルトリエトキシシラン(HN(CH−Si(OC,APTES,99%)、トリエチルアミン(TEA,99.5%)、N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC,>98.0%)、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS,>97.0%)、ジエチレントリアミン五酢酸二無水物(DTPADA)、および無水ジメチルスルホキシド(DMSO,99.5%)は、Aldrich Chemical社(フランス)から入手した。Cy5.5モノ−NHS−エステルは、GE Healthcare社から得た。ジエチレングリコール(DEG,99%)は、SDS Carlo Erba社(フランス)から、そしてアセトンは、Sodipro社(フランス)から得た。1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1−無水グルタル酸−4,7,10−三酢酸(DOTAGA)は、CheMatech SAS社から得た。cRGD環状トリペプチド(Arg−Gly−Asp)は、ルクセンブルグのGenecust社から得た。5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリフェニル塩素(TPC)は、Frontier Scientific社(ユタ州ローガン)から得た。
【0111】
特性決定
ナノ粒子の平均サイズは、PCS(光子相関分光法)によって測定した。この平均サイズは流体力学直径に相当する。これらの測定値は、Zetasizer NanoS装置(PCS用に使用されるレーザーはHe−Ne633nmレーザーである)により取得した。ゼータメトリー法(zetametry)による測定は、粒子をあらかじめ0.01MのNaCl溶液中に希釈した状態で同じ装置を使用して行った。pHは帰納的に(posteriori)調整した。サンプルに関する構造データとモルホロジーデータを得るために、透過電子顕微鏡法(TEM)を使用した。該方法は、200kVで作動するJEOL2010顕微鏡を使用して行った。サンプルは、カーボングリッド上への付着によって作製した。1.4T(60MHz)での緩和時間測定法は、Bruker Minispec MQ60型の装置を使用して行った。質量分析は、LTQスペクトロメータ(カリフォルニア州サンノゼ、Thermo Fisher Scientific社)を使用して行った。元素分析は、CNRS(フランス国立科学研究センター)の分析センターにてICP−MSにより行い、最大で0.3%という誤差にて(with a minimum accuracy of 0.3%)C、N、Si、およびGdの含量を測定することができた。蛍光分析は、Varian Carry Eclipse分光蛍光光度計により行った。粒子の凍結乾燥は、Christ Alpha 1,2凍結乾燥機を使用して行った。
【0112】
動物
MRIによる概念実証のために使用される動物は、20〜22グラムの体重の、6週齢Balb/c雌性マウスであり、これらのマウスはJanvier繁殖センター(Le Genest,Saint−Isle,France)から購入した。蛍光イメージングとX線トモグラフィーによる概念実証のために使用される動物は、約25グラムの重量の6週齢NMRI雌性ヌードマウスであり、(Le Genest,Saint−Isle,France)から購入した。実験の前に、マウスを、温度制御された部屋の中の新しい環境に1週間順応させた。動物実験は、動物保護に関するINSERM(National Institute for Health and Medical Research)のマニュアルに準拠しつつ行った。
【0113】
イメージング手段
MRI
MRI画像は、25mm未満の直径を有するエミッター/レシーバーコイル(Rapid Biomedical社、Rimpar、ドイツ)を使用して、4.7Tの磁場にてBrucker Biospec 47/50スペクトロメータ(Brucker社、Ettlingen、ドイツ)により取得した。マウスを、プラスチック製クレードル上に、お腹を上にして配置し、N/Oガス混合物(80:20)中にイソフルランを2%含有するガス混合物を送り出すガスマスクを使用して麻酔状態に保持した。温水の循環によって体温を一定に保持し、呼吸サイクルを絶えずモニターした。
【0114】
それぞれの動物に対し、1mm厚さの6つの軸方向セクションを所得した。この取得は、呼吸同期または心拍同期なしの自由呼吸下にて、マルチセクション2D UTE(超短エコー時間)シーケンスを使用して行った。主要なパラメーターは、276マイクロ秒のエコー時間、84ミリ秒の繰り返し時間、60°のフリップ角度、3cmの視野、および1分の総収集時間である。
【0115】
蛍光イメージング
インビボの2Dもしくは3D蛍光イメージングを行うために、マウスに麻酔をかけた(イソフルラン/酸素:誘発に対しては3.5〜4%、および維持に対しては1.5〜2%)。
【0116】
2Dイメージングシステムは、660nmの波長でのダイオード発光を含む励起システムで構成される。蛍光画像とさらに“白黒”画像は、RG9高域フィルター(Schott,Jena,ドイツ)を装備した、−80℃に冷却されたCCDカメラ(ORCAII−BT−512G,Hamamatsu,Massy,フランス)を使用して撮った。画像の取得とさらに分析は、Wasabiソフトウェア(Hamamatsu,Massy,フランス)を使用して行った。注入の24時間後にマウスを犠牲にし、臓器の画像を映した。臓器の蛍光の半定量化は、臓器周りの当該領域(ROI)を描くことによって得た。
【0117】
蛍光トモグラフィーは、fDOT 3Dイメージングシステムを使用して行った。このシステムは、ブラックボックス、レーザー(690nm,26mW,Powertechnology,St Nom La Bretche,フランス)から生じる励起光、およびRG9高域フィルター(Schott,Jena,ドイツ)を装備したCCDカメラ(ORCA ER,Hamamatsu)で構成される。マウス中の蛍光の3Dマッピングは、再構成アルゴリズムによって算出した。
【0118】
X線イメージング
インビボのX線イメージングと2Dもしくは3D蛍光イメージングを行うために、マウスに麻酔をかけた(イソフルラン/酸素:誘発に対しては3.5〜4%、および維持に対しては1.5〜2%)。
【0119】
X線トモグラフィー画像は、65keVのエネルギーと200ミリ秒の積分時間を使用して、Scanco viva CT40(Scanco Medical社,Bassersdorf,スイス)により撮った。肺の3D再構成は、肺中に空気が存在することをはっきり示した。したがって粒子の存在は、再構成における“孔(hole)”として示される。なぜなら粒子が、部分的に空気の場所を奪うからである。
【0120】
本発明者らはさらに、X線スキャナーと蛍光トモグラフィーに適合するベッド(これにより、画像の重ね合わせと共局在の視覚化が可能となる)を見出した。
実施例1:Gd−Si−DOTAのハイブリッドガドリニウムナノ粒子〔SRP(小さい剛性プラットフォーム)型〕の合成
ナノ粒子を、国際特許出願第2011/135101号に記載のように、三段階合成によって得た。先ず第一に、ポリシロキサン層が成長する前に、酸化物コアをジエチレングリコール中にて合成し;ナノ粒子の表面への錯形成剤の共有結合グラフティングの後に、水中に置くと酸化ガドリニウムコアが溶解し;これによって粒子のフラグメンテーションがもたらされ、これにより、ポリシロキサンもしくは有機化学種、およびイメージングに有用な錯形成剤だけからなる5ナノメートル未満の小粒子を得ることが可能となる。
【0121】
このトップダウンアプローチの利点は、マルチモーダル特性を有する極めて小さな粒子が得ることができると同時に、腎臓を介して除去するのが容易であるということである。
合成の詳細な説明
酸化物コア
5.58gの塩化ガドリニウム六水和物を500mlの無水ジエチレングリコール(DEG)中に周囲温度で溶解することによって第1の溶液を調製した。500mlのDEGに10Mの水酸化ナトリウムを4.95ml混合して得られる第2の溶液を第1の溶液に加えた。添加は、周囲温度にて24時間にわたって行った。酸化物コアに関して直径3.5nm(PCSとTEM顕微鏡法によって得られた測定値)の平均サイズを有する透明なコロイド溶液が得られた。
【0122】
カプセル封入
ポリシロキサン層の成長は、2種のシラン前駆体(APTESとTEOSを60:40の割合にて)と触媒としてのトリエチルアミンを加えることにより、ゾルゲル反応を介して得られた。これを行うために、上記の溶液に1050μlのAPTESと670μlのTEOSを、40℃で激しく撹拌しながら加えた。近赤外において蛍光を得るために、種々の量のAPTESを、APTESとフルオロフォアとの間にアミド結合をつくり出すことによってCy5.5モノ−NHS−エステルに結合させることができる。1時間反応させた後、トリエチルアミンを含有するDEG溶液(0.1MのTEA、10Mの水)2550μlを加えた。上記のゾルゲル反応を3回繰り返した(それぞれ24時間の間隔を置いて)。これらの種々のステップが終了した後、溶液を40℃で48時間撹拌した。最終的なコロイド溶液の粒子の平均サイズは4.5nmであった。
【0123】
表面官能化
最後に、粒子溶液にかなり過剰のDOTAGA(ガドリニウム原子1つ当たり2つのDOTAGA)を加え、表面の有効アミン官能基とリガンドのカルボン酸官能基との間にペプチド結合を形成させた。13.76gのDOTAGAを200mlのDMSO中に分散させた。粒子溶液を、DOTAGAを含有する溶液に加えた後、混合物をさらに48時間撹拌した。次いで、9リットルのアセトンを加えることでナノ粒子を沈殿させた。アセトンを除去し、粒子をさらに3リットルのアセトンで洗浄し、そして遠心分離によって回収した。次いで、粒子を再び200mlの蒸留水中に分散させ、過剰のアセトンを蒸発除去してから、溶液をさらに24時間撹拌した。精製は、Vivaspin(登録商標)膜(細孔径:5kDa)を介するタンジェンシャル遠心分離(tangential centrifugation)によって行った。最後に、得られた精製溶液を凍結乾燥し、次いで冷蔵庫中に数ヶ月貯蔵した(物質の変性は起こらなかった)。より蛍光性の高い粒子を得るために、グラフティングの後に(すなわち、粒子が得られた後に)、Cy5.5モノ−NHS−エステルと粒子の遊離アミン官能基との直接反応によってCy5.5を組み込むことができる。粒子の蛍光分析により、粒子1個当たりほぼ1つCy5.5をグラフトすることができる、ということを示すことができた。これらナノ粒子のサイズは蛍光相関分光法によって得られ、フルオロフォアなしで得られたものよりわずか4nm大きい流体力学直径を得ることができた。
【0124】
フルオロフォアなしのナノ粒子は、いったん水溶液中に再び希釈すると、3±0.1nmの流体力学半径を有した。粒子の重量は、マススペクトロメトリー分析に従って8.5±1kDaにて評価した。縦緩和能rは、60MHzにて11.4ミリモル−1−1であった。高磁場(300MHz)では、300MHzで得られた緩和能は6ミリモル−1−1であった。元素分析と粒径とを組み合わせることで、粒子1個当たり全体で10DOTA、27Si、および7Gdを得ることができた。これらのデータは、粒子1個当たり存在する遊離DOTAの数についての電位差測定分析と蛍光分析によって裏付けられた。生物学的応用に対して粒子を使用する前に、遊離DOTAを使用して、1オブジェクト当たりの(per object)rをできるだけ大きくするために、他のGd3+イオンをキレートするか(平均で1オブジェクト当たり114ミリモル−1−1)、あるいはSPECTシンチグラフィーまたはPETシンチグラフィーにて活性イオンをキレートする。この方法は文献に記載されている(Lux et al.,Ange.Chem.Int.Ed.,2011,50,12299)。これらナノ粒子を注入するための溶液は、pHを固定するために、粒子含有食塩水をHEPES緩衝液で希釈することによって調製した。齧歯動物の尾部における静脈注射(ラットまたはマウス)により、DOTAREM(登録商標)の2倍長さの血漿寿命(a plasma lifetime)と組み合わさった、腎臓を介しての粒子の排出を示すことができた。
【0125】
実施例2:腫瘍のアクティブターゲティングのための、ナノ粒子の官能化:SRP−cRGD
グラフティングのために使用されるナノ粒子は、実施例1に記載のナノ粒子に類似している。従ってそれらのナノ粒子は、αβインテグリンをターゲットにする薬剤であることが知られているcRGDのグラフティングのために遊離DOTAの(従って、有効なカルボン酸官能基の)一組を有する。cRGDの粒子へのグラフティングは、DOTA構造単位のカルボン酸官能基と、cRGDペプチドの第一アミン官能基との間のペプチド結合によって行った。実施例1において得たナノ粒子を水中に希釈した(約100mMのGd3+濃度)。EDCとNHSとの混合物(Gd1つ当たり3.4EDCと3.4NHS)を粒子に加え、pHを5に調整し、該混合物を30分撹拌した。cRGD(Gd1つ当たり2.3cRGD)を無水DMSO中に別に溶解した。次いでこれを前記の溶液に加え、混合物のpHを7.1に調整してから8時間撹拌した。最後に、3kDa膜を通すタンジェンシャルろ過によって溶液を精製してから、凍結乾燥した。元素分析により、粒子1個当たり約2.5のcRGD含量であることが分かった。同じ手順を使用して、cRADをナノ粒子にグラフトした。これらのナノ粒子は、cRGDを使用して行われるアクティブターゲティング試験における対照標準として機能する。
【0126】
実施例3:実施例2に従って得られるSRPcRGDナノ粒子と、αβインテグリンを発現する細胞との相互作用の、フローサイトメトリーと蛍光顕微鏡法による解析
蛍光顕微鏡法による解析
αβインテグリンを過剰発現するHEK293(β3)細胞を、12ウェルプレート(1ウェル当たり100000細胞)のカバースリップ上で37℃にて一晩に培養した。1X PBSで一回すすぎ洗いし、次いで1mMのCaClと1mMのMgClを含有する1X PBSですすぎ洗いした。次いでこれらを、SRP(実施例1によるナノ粒子)の存在下にて、0.1mMのGd3+イオン濃度にて、Cy5.5タイプのフルオロフォアとともに、SRP−cRGD(実施例2に従って得られる)Cy5.5のフルオロフォアとともに、あるいはSRP−cRAD(実施例2に従って得られ、ネガティブコントロールとして作用する)Cy5.5のフルオロフォアとともに、4℃で30分(結合解析)または37℃で30分(インターナリゼーション解析)インキュベートした。次にこれらをPBS Ca2+/Mg2+(1mM)ですすぎ洗いし、固定した(0.5%パラホルムアルデヒドで10分)。核をHoechst33342標識付けした(5μMで10分)(Sigma Aldrich社,Saint Quentin Fallavier,フランス)。1X PBSで洗浄した後、カバースリップにMowiolをのせた。Apotome顕微鏡(Carl Zeiss,Jena,ドイツ)を使用して画像を撮った。
【0127】
フローサイトメトリーによる解析
結合解析の前に、接着細胞(HEK293(β3))をトリプシン処理し、次いで低温(4℃)の1X PBSで一回、そして低温の1X PBS Ca2+/Mg2+(1mM)でもう一回すすぎ洗いした。100万の細胞(200μlの最終体積にて)を、SRP Cy5.5の溶液中に、SRP−RGD Cy5.5の溶液中に、またはSRD−RAD Cy5.5の溶液中に0.1mMのGd3+イオン濃度にて再び懸濁させ、4℃で30分インキュベートした。PBS Ca2+/Mg2+(1mM)で2回すすぎ洗いした後、細胞をフローサイトメトリーによって速やかに解析した(LSR II,Becton Dickinson,フランス)。
【0128】
インターナリゼーション解析の場合、手順は同様であり、試剤の温度は37℃であって、インキュベーションは37℃にて30分である。
フローサイトメトリーと顕微鏡法によって得られた結果により、HEK293(β3)細胞へのSRP−RGD Cy5.5の特異的な結合とインターナリゼーションを実証することができた。こうした結合は、SRP Cy5.5とSRP−RAD Cy5.5の場合には観察されない。
【0129】
実施例4:実施例1に従って合成されたSRPナノ粒子を使用する肺のMRIイメージング
最良のMRIコントラストを観察するのに最も適した注入濃度を決定するために、濃度の検討をおこなった。50μg/gのケタミン(Panpharma社、フランス)と5μg/gのキシラジン(Sigma−Aldrich社,Saint−Quentin,フランス)を腹腔内注射することによって、マウスに麻酔をかけた。造影剤なしで画像を取得した後、気管内に22ゲージの静脈内テフロン(登録商標)カテーテルを入れてマウスをインキュベートした。50μlのSRP溶液を、カテーテルによって肺中に導入した。食塩水を対照標準マウスに注入すると同時に、7通りの異なるGd3+濃度を試験した(2、5、10、20、33、50、および100mM)。いったんインキュベーションを停止し、溶液を導入した後の、5分〜数時間にわたって一定間隔で肺の画像を取得した。これら全ての濃度の中で、最良の信号増大(235±15%)を示したのは50mM濃度であり、100mM濃度の場合は、信号増大は少し低かった(171±10%)。信号増大は、投与前の肺における信号対ノイズ比と、投与後の肺における信号対ノイズ比との間の差であると定義される(造影剤の投与前に、肺における信号対ノイズ比に関して正規化されている)。
【0130】
したがって、その後のMRIによる生体内分布の試験を行うために、50mM濃度を保持した。3匹のマウスに対して、50mMという最適濃度を使用して別の試験を行った。これらの動物に対し、肺、肝臓、腎臓、および膀胱のMRIイメージングを、造影剤の投与後に、5分〜2日の間にて一定間隔で行った。これらの操作により、腎臓によって排出される造影剤の半寿命が149±51分であることを示すことができた。腎臓によるナノ粒子の排出は、ナノ粒子のサイズが小さいことによるものであり、造影剤の毒性という観点から現実的な利点を示している。このことはさらに、実施例10に記載の独創的な応用に対しても重要である。
【0131】
実施例5:実施例1に従って合成したSRPナノ粒子を使用する、2Dと3Dの肺の蛍光イメージングおよびX線イメージング
実施例1に従って得た凍結乾燥のSRP Cy5.5を適切な量の水に溶解して、Gd3+イオンに関して100mMの溶液を得るべく、少なくとも30分に対する注入用製剤を得た。HEPES緩衝液と食塩水とを含有する溶液中に粒子の懸濁液を希釈した。得られた製剤は、7.4のpH値と動物への投与に適したモル浸透圧濃度を有していた。
【0132】
マイクロ噴霧器〔PennCentury(登録商標)〕を使用して肺内噴霧を行った。それぞれのマウスを麻酔にかけ(Domitor/Ketamine混合物、腹腔内注射)、肺内経路を介して50μlのナノ粒子懸濁液を投与した。蛍光イメージングによる概念実証のために使用されるマウスは、約25グラムの体重の、6週齢NMRIヌードマウスである。
【0133】
2Dと3Dの蛍光イメージングとX線イメージングによって得られた結果により、噴霧後の2つの肺中において蛍光ナノ粒子が分布していることがわかった。図1においてもたらされたこれらの結果は、MRIによって得られた結果と完全に一致した。
【0134】
実施例6:肺腫瘍に対して放射線増感効果をもたらすためのナノ粒子の合成
本実施例は、グリア芽腫の治療という状況において放射線増感剤として使用されるナノ粒子の合成を説明する(G.Le Duc et al.,ACS Nano,2011,5,9566)。これらのナノ粒子は、DTPAで官能化されたポリシロキサンの層で被覆された酸化ガドリニウムナノ粒子である(錯体は、さらにガドリニウムイオンをキレート化する)。これらのナノ粒子は、実施例1に記載のナノ粒子に極めて類似した特性(サイズとモルホロジーに関して)により、放射線増感によって肺腫瘍の治療に使用できると考えられる。
【0135】
酸化ガドリニウムコアの合成は、塩化ガドリニウム六水和物塩(5.576g)を100mlのDEG中に、周囲温度にて激しく撹拌しながら混合することによって行った。この懸濁液を、塩が完全に溶解するまで(約1時間)140℃にて加熱した。液が透明になったときに、激しい撹拌を維持しつつ、水酸化ナトリウム(4ml,3.38M)を溶液に滴下した。添加終了後、撹拌と加熱を3時間維持した。酸化ガドリニウムコアの透明コロイド溶液が得られ、この溶液は、変質することなく周囲温度で数週間貯蔵することができた。
【0136】
ポリシロキサン層の官能化は、シラン前駆体〔APTES(10.1ml)とTEOS(6.4ml)〕と加水分解溶液〔DEG中トリエチルアミン(0.1MのTEAと10Mの水)〕の存在下で行った。酸化ガドリニウムコアを含有するあらかじめ調製した溶液([Gd3+]=45mM)400mlに、40℃で撹拌しながら該溶液を数段階で加えた。この合成に対しては、ガドリニウム含量より4倍多いケイ素含量を選定した(前駆体混合物は、60%のAPTESと40%のTEOSで構成される)。種々の前駆体の添加は、連続した6ステップで行った。各ステップは、前駆体混合物を含有する溶液の一部を添加することからなった(第1のステップに対しては溶液の5%、第2のステップに対しては溶液の15%、そして後続のステップに対しては20%)。各添加の間の遅延は1時間に設定した。最終の添加の後、溶液を40℃にて48時間撹拌した。
【0137】
生物媒質中でのコロイド安定性を促進するために、ナノ粒子を、活性化されたカルボン酸官能基の1つと、ナノ粒子の表面に存在するAPTESに由来するアミン官能基との間ペプチド結合によりDTDTPAで官能化させた。上記にて得たナノ粒子のコロイド溶液100mlを、4.25gのDTDTPAを20mlのDMSO中に溶解して得た溶液に加えた。
【0138】
次いでナノ粒子を500mlのアセトンから沈殿させ、上澄み液を遠心分離によって除去した。得られた白色粉末をエタノール/アセトン(85/15)混合物で洗浄し、上澄み液を再び遠心分離によって除去した(この操作を3回繰り返した)。次いでナノ粒子を水中に分散させ、タンジェンシャル遠心分離によって精製した〔Vivaspin(登録商標)5kDa膜を介して〕。
【0139】
1000倍(factor of 1000)精製した後、粒子を凍結乾燥した。粒子は、HEPES緩衝液と、適切なモル浸透圧濃度での食塩水を使用することで直接に注射可能であった(pHは7.4に調整した)。これらのナノ粒子は、2nmの流体力学直径、および60MHzにて9.4mM−1−1のrを有する(r対r比は1.13である)。したがってこれらのナノ粒子は、腫瘍における生体内分布と堆積を視覚化するためのT造影剤として使用することができる(G.Le Duc et al.,ACS Nano,2011,5,9566)。イメージングによるこうしたモニタリングは、放射線療法を開始する最適時期を決定する上で重要である。これらの治療薬は、U87タイプのヒト脳腫瘍に対して、インビトロでの放射線増感能力があることが既に実証されている(P.Mowat et al.,Journal of Nanoscience and Nanotechnology,2011,11,7833−7839)。これらナノ粒子の、あるいは実施例1と2に記載のナノ粒子の使用は、イメージングで導かれる療法(この場合は放射線療法)を行うことによって肺癌と戦う、という状況において特に適していると考えられる。
【0140】
実施例7:気道を介して注入されるこれらナノ粒子の放射線増感応用に対して考えられる手順
実施例1に従って合成したナノ粒子を、気道を介して注入した。腫瘍ゾーンにおけるナノ粒子の堆積は、MRIによって(実施例4)、X線トモグラフィーに連動した蛍光イメージングによって(実施例5)、あるいはPETもしくはSPECTにおいて使用される放射性同位体をキレート化した後のシンチグラフィーによって正確に特定された。いったん、ナノ粒子の濃縮が腫瘍ゾーンにおいて最適(健常ゾーンと腫瘍ゾーンとの間のコントラストの比)であると特定されたら、放射線による治療を促進することができる。ナノ粒子が血液中を通過した後、引き続きナノ粒子は腎臓によって排出された。気道を介する投与により、少量のナノ粒子を患者に注入することが可能になった。放射線療法による治療は、臨床症状に従って幾つかのセッションに分けられるので、これらの粒子の排出が起こりうることから、そして注入される量が比較的少ないことから、これらセッションのそれぞれの前に、粒子のさらなる投与を行うことができる。U87タイプの放射線耐性腫瘍に対してこれまで行われた種々の実験によれば、肺の放射線増感において有利な結果が得られることが予測される。
【0141】
実施例8:喘息のためのセラノスティック
非侵襲性のイメージング手法は現在、重度の喘息患者におけるその重症度と気管支リモデリングの程度を評価することができない。気管支リモデリングは、繰り返された気管支炎症の後に起こる、気管支組織と気管支周囲組織の異常な変化に相当する。このリモデリングの結果、以下のような種々の組織学的変化がもたらされる:上皮下膜の厚膜化;細胞外マトリックス堆積、血管新生、および粘液腺肥大の増大;ならびに気管支平滑筋塊体の増大。重度喘息患者における気管支リモデリングの結果、予後不良、重大な病的状態、および呼吸機能の著しい低下を引き起こし、さらに、患者が通常の療法に応じなくなる。重度喘息患者が喘息患者人口の10%を占め(すなわち、フランスでは35万人の患者)、こうした患者にかかるコストが、この病状に関連したコストの半分超を占める。効果的な治療法を開発するためには、リモデリングの重症度と治療法に対する応答を正確に評価することができる有効な非侵襲的イメージング法を確立することが必須である。ターゲティング分子(例えば、実施例2に記載の、αvβ3インテグリンに対するcRGDトリペプチド)をグラフトしたナノ粒子のエアロゾルを使用すると、重度喘息の診断と治療有効性の評価を行う上で、気管支リモデリングに関連した血管形成のイメージングが可能となるはずである。こうした観点から、慢性喘息のマウスリモデリング(a murin modeling)をつくり上げることができる。これらのマウス(6週齢Balb/c雌性マウス)に対し、増感のために、オボアルブミン(100μg)またはDermatophagoides pteronyssimus(D.pter)(100μg)の腹腔内注射を施し、次いで、増感の開始から15週後に、気管支リモデリングを見えるようにするために、同じ化合物の一定間隔での鼻腔内点滴を施した。
【0142】
実施例9:肺腫瘍に動的光線療法効果をもたらすためのナノ粒子の合成
ナノ粒子に光増感剤を加えると、光の作用の下でナノ粒子に毒作用を付与することができる。それにもかかわらず、光は、最も適切な発色団〔組織の透明ウィンドウ(tissue transparency window)における吸収、すなわち近赤外ゾーン〕を使用した場合でも、数センチメートルを超えて体中に貫入することはできない。気道を介するアプローチの主要な利点は、肺腫瘍での濃縮を果たすことができることである。肺腫瘍は、内視鏡の光ファイバーによって光を当てることができる(したがって、光による組織への貫入というという問題が避けられる)。
【0143】
PDTによる作用を有していて、気道を介して注入することができるナノ粒子の合成は、以下のような方法で果たすことができる。
塩化ガドリニウム六水和物(3.346g)を、周囲温度にて60mlのDEG中に混合する。次いで、全てのガドリニウム塩を確実に溶解させるために、この懸濁液を、激しく撹拌しながら140℃にて加熱する。激しい撹拌を維持しつつ、2.03Mの水酸化ナトリウム溶液4mlを滴下する。この溶液を180℃で3時間撹拌する。次いで酸化ガドリニウムコアのコロイド溶液が得られ、このコロイド溶液は、分解のおそれなく周囲温度にて数週間保存することができる。
【0144】
塩素由来の光増感剤(photosensitizer)(TPC)の添加は、C.Frochotら(Bioorganic Chemistry,2007,35,205−220)によって説明されている手順に従って5,10,15−トリ−(p−トリル)−20−(p−カルボキシルフェニル)クローリンスクシジニルエステル(TPC−NHS)が得られるように、EDC/NHS混合物を使用してTPCのカルボン酸官能基を活性化することによって行うことができる。20mgのTPC−NHSと12.3μlのAPTESを、4.2mlの無水DMSO中にて一晩、ペプチド結合によって結合させる。
【0145】
粒子を含有する60mlのDEGに、シラン前駆体〔APTES(1.5ml)とTEOS(1.0ml)〕とさらに加水分解液〔トリエチルアミンのDEG中水溶液(0.015MのTEAと1.5Mの水)〕を、撹拌しながら40℃にて滴下する。全ての添加を6ステップにて行う。各ステップは、前駆体溶液の一部をDEG中コロイド溶液(第1のステップに対しては5%、次のステップに対しては15%、最終のステップに対しては20%)に加えることからなる。APTESと結合したTPCを含有する溶液を、第1のステップ中に、他の前駆体と同時に加えた。各添加の間の時間は1時間である。最終添加の後に、混合物を40℃にて48時間撹拌し続ける。
【0146】
次いでナノ粒子を、DTDTPAを使用して、APTESのアミンと錯形成剤の活性化カルボン酸官能基との間のペプチド結合によって官能化させる。2.5gのDTDTPAを12mlの無水DMSO中に混合して溶液を上記の溶液に加える。こうして得られる混合物を1時間撹拌した。ナノ粒子を300mlのアセトンから析出させ、上澄み液を遠心分離によって除去する。得られる粉末を、エタノール/アセトン(85/15)混合物で3回洗浄する。最後に粉末を水中に再び分散させ、5kDa膜〔Vivaspin(登録商標)〕を使用してタンジェンシャル遠心分離によって精製する。少なくとも100の精製度に達するために、この手順を数回繰り返す。次いで、精製されたコロイド溶液を凍結乾燥する。
【0147】
実施例10:ナノ粒子の肺内投与後における皮下腫瘍の受動ターゲティング
凍結乾燥されたシアニン5.5粒子を、適切な量の注射等級水中に少なくとも30分可溶化して、Gd3+イオンに関して100mMの溶液を得た。粒子の懸濁液を、HEPES緩衝液と食塩水を含有する溶液中に希釈した。得られた調製液は、7.4のpHおよび動物への投与に適したモル浸透圧濃度を有した。
【0148】
マウスに対し、あらかじめ、横腹に腫瘍細胞の皮下グラフトを施した。腫瘍が5×5mmのサイズ達したら、マウスにナノ粒子の肺内注入(マウス一匹当たり50μl)を施した。マイクロ噴霧器〔Penncentury(登録商標)〕を使用して噴霧を行った。
【0149】
得られた結果から、肺から血流中への粒子の通過(腎臓を介しての排出と組み合わさって)が極めて速やかであることが分かった。
噴霧の5時間後からスタートして、皮下腫瘍において信号が検出された。信号は、投与の24時間後まで増大した。
【0150】
生体内分布は、同量のGd3+イオンの静脈内投与に(尾静脈での注射)対して得られたものと同等であった(但し、受動腫瘍蓄積が幾らか低い)(図5)。気道を介して注入されるナノ粒子は、より低い腎取り込みを確実にするという利点を有する。
【0151】
実施例11:ナノ粒子の静脈内投与または肺内投与後の、同所性肺腫瘍の受動ターゲティング
凍結乾燥したシアニン5.5粒子を、適切な量の注射等級水中に少なくとも30分可溶化して、Gd3+イオンに関して100mMの溶液を得た。粒子の懸濁液を、HEPES緩衝液と食塩水を含有する溶液中に希釈した。得られた調製液は、7.4のpHおよび動物への投与に適したモル浸透圧濃度を有した。
【0152】
マウスに対し、あらかじめ、肺に肺腫瘍細胞(H358)の同所性グラフトを施した。腫瘍細胞がルシフェラーゼ遺伝子を安定的に発現し、これにより、インビボでの生物発光イメージングによって腫瘍増殖をモニターすることができる。腫瘍が確実に形成され、インビボでの生物発光イメージングによって検出可能となったときに、マウスに対し、ナノ粒子の静脈内注射(マウス一匹あたり200μl)または肺内注入(マウス一匹当たり50μl)を施した。マイクロ噴霧器(登録商標)〔Penncentury(登録商標)〕を使用して噴霧を行った。
【0153】
得られた結果から、静脈内投与の後に、粒子がマウスの体全体にわたって分散され、腎臓を介して排出される、ということがわかる。投与の5時間後から始めて、肺に同所的に移植されたH358肺腫瘍に対し、3D蛍光イメージングによって信号を検出することができた。信号は、投与後の最大24時間まで安定であった。
【0154】
肺内投与に関しては、得られた結果から、投与後に粒子が肺から血流中に極めて速やかに移行し(15〜20分)、腎臓を介して排出される、ということがわかる。噴霧の5時間後から始まって、粒子のほとんどが肺から排出され、肺に同所的に移植された肺腫瘍に対して信号を検出することができた。信号は、投与後の最大24時間まで安定であった。
【0155】
インビボの蛍光イメージングは、腫瘍の存在とともに、蛍光の共局在性が良好であることを示した(X線トモグラフィーは粒子の投与前に行った;図6を参照)。
肺に関してエクスビボで行った蛍光イメージングと生物発光イメージングは、生物発光信号(腫瘍細胞に対応する)および蛍光(Cy5.5−粒子に対応する)の共局在性を示した(図6を参照)。
【0156】
したがって粒子は、投与経路(静脈内または肺内)に関わりなく、同所的に移植された肺腫瘍中に受動的に蓄積することができる。
実施例12:肺内投与後の肺腫瘍に及ぼすナノ粒子の放射線増感効果
凍結乾燥した粒子を、適切な量の注射等級水中に少なくとも30分可溶化して、Gd3+イオンに関して100mMの溶液を得た。粒子の懸濁液を、HEPES緩衝液と食塩水を含有する溶液中に希釈した。得られた調製液は、7.4のpHおよび動物への投与に適したモル浸透圧濃度を有した。
【0157】
マウスに対し、あらかじめ、肺に肺腫瘍細胞(H358)の同所性グラフトを施した。腫瘍細胞がルシフェラーゼ遺伝子を安定的に発現し、これにより、インビボでの生物発光イメージングによって腫瘍増殖をモニターすることができる。腫瘍が確実に形成され、インビボでの生物発光イメージングによって検出可能となったときに、マウスに対し、ナノ粒子の肺内注入(マウス一匹当たり50μl)を施した。マイクロ噴霧器(登録商標)〔Penncentury(登録商標)〕を使用して噴霧を行った。投与の24時間後に、従来の照射器を使用して単一線量にて、マウスにX線を照射した。
【0158】
得られた結果から、照射の前にナノ粒子を肺内投与すると、単回照射と比べてマウスの生存が改良される、ということがわかる(図7を参照)。したがって、粒子は肺腫瘍に対して放射線増感作用を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7