特許第6368302号(P6368302)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6368302HIVウイルスのDNAの異なるウイルス形を定量する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368302
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】HIVウイルスのDNAの異なるウイルス形を定量する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6844 20180101AFI20180723BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C12Q1/6844 Z
   C12N15/09 Z
   C12N15/09ZNA
【請求項の数】8
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-516727(P2015-516727)
(86)(22)【出願日】2013年6月12日
(65)【公表番号】特表2015-519074(P2015-519074A)
(43)【公表日】2015年7月9日
(86)【国際出願番号】IB2013054809
(87)【国際公開番号】WO2013186718
(87)【国際公開日】20131219
【審査請求日】2016年5月26日
(31)【優先権主張番号】1255489
(32)【優先日】2012年6月12日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502205846
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク
(73)【特許権者】
【識別番号】514316215
【氏名又は名称】エコール ノーマル スーペリオール ド カシャン
【氏名又は名称原語表記】ECOLE NORMALE SUPERIEURE DE CACHAN
(73)【特許権者】
【識別番号】514316226
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ ディドロ − パリ 7
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS DIDEROT − PARIS 7
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】ムニル,サウンダッセ
(72)【発明者】
【氏名】ティエリー,シルヴァン
(72)【発明者】
【氏名】スブラ,フレデリク
(72)【発明者】
【氏名】ドゥプレ,エリク
(72)【発明者】
【氏名】デレリス,オリヴィエ
【審査官】 藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/088491(WO,A1)
【文献】 CLINICAL APPLICATIONS OF MASS SPECTROMETRY,2009年,Vol.485,pp.55-72
【文献】 Journal of Virology,2002年,Vol.76, No.17,pp.8518-8531
【文献】 Nature Medicine,2001年,Vol.7, No.5,pp.631-634
【文献】 日本臨床,2002年,Vol.60, No.4,pp.694-702
【文献】 Retrovirology,2009年,Vol.6,#114
【文献】 Journal of Virology,2002年,Vol.76, No.21,pp.10942-10950
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00 − 3/00
C12N 15/00 − 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 試料中のHIV-1のゲノムの直鎖形の全量を、ヒト免疫不全ウイルス1(HIV-1)のDNAゲノムの直鎖形の3'成熟直鎖形および3'未成熟直鎖形とのライゲーションを可能にする2本鎖オリゴヌクレオチドであって、配列5'-GT-3'の2ヌクレオチドの付着末端を含むものを用いて行われるライゲーション反応によって得られたライゲーション生成物をもとにして行われる定量PCRから導き出し、
- 試料中のHIV-1のDNAゲノムの未成熟直鎖形の量を、HIV-1のDNAゲノムの3'未成熟直鎖形とのライゲーションを特異的に可能にする2本鎖オリゴヌクレオチドであって、平滑末端を含むものを用いて行われるライゲーション反応によって得られたライゲーション生成物をもとにして行われる定量PCRから導き出し、
試料中のHIV-1のDNAゲノムの成熟直鎖形の量が、試料中のHIV-1のDNAゲノムの未成熟直鎖形の量を、試料中のHIV-1のゲノムの直鎖形の全量から減じることにより導き出される、試料中のHIV-1のDNAゲノムの成熟直鎖形を定量する方法。
【請求項2】
定量PCRが、2ステップ、すなわち増幅された核酸の定量を行わない第1増幅ステップと、増幅された核酸の定量を行う第2増幅ステップとで行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
定量PCRの第1ステップが、9〜30サイクルを含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
定量PCRの第1ステップが、10〜14サイクルを含む請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
定量PCRが、リアルタイムPCRである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
リアルタイムPCRが、ハイブリダイゼーションプローブを用いて行われる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項で定義されるような方法を実行することを含む、HIV-1のゲノムの非組み込み形の量を改変できる化合物をスクリーニングする方法。
【請求項8】
化合物が、HIV-1のDNAゲノムの直鎖形の成熟を阻害でき、請求項1〜6のいずれか1項で定義されるような方法が実行される、請求項7に記載の化合物をスクリーニングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のウイルスDNAが採用できる異なる形、特に直鎖状の成熟または未成熟形および環状形1-LTRを定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、レトロウイルスファミリーの一部である。感染中に、ウイルスRNAは2本鎖直鎖状ウイルスDNA分子に変換される。逆転写により得られる直鎖状DNAは、次いで、そのLTR (長末端反復配列)の端にて成熟ステップを受ける。3’-プロセシングともよばれるこのステップは、ウイルスの各3’末端にて2つの塩基を除去する(supprime)ヌクレオチド鎖切断攻撃である(Delelisら(2008) Retrovirology 5:114)。成熟ステップは、組み込み反応に適合するDNA末端を作製するために不可欠である。DNAウイルスゲノムのこの組み込みステップは、複製サイクルの必須のステップとして文献に記載されている(Brownら(1990). Curr. Top. Microbiol. Immunol. 157:19〜48)。実際に、インテグラーゼと命名されたウイルス酵素により確実に行われるウイルスの組み込みは、細胞内でのウイルス情報の保持と、新しい感染性ウイルス粒子の生成およびそのことによるウイルスの伝播も確実にする。ウイルスDNAは、細胞において環状形(1または2LTRを有する)でも見出すことができるが、これらのウイルス形は、複製サイクルおよびウイルス進展において重要な機能を有さないと考えられる(SloanおよびWainberg (2011) Retrovirology 8:52ならびにWu (2008) Retrovirology 5:61)。これらは、「行き止まり」分子と考えられる。
【0003】
その結果、ウイルスの組み込みができる唯一のウイルス形である直鎖状ウイルスDNAの定量は、主要な課題であることがわかる。この枠組み内で、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)に基づくいくつかの技術が、異なる形のウイルスDNA、すなわち組み込み形、2 LTRを有する環状ウイルスDNAおよび「トータル」ウイルスDNAを定量するために存在する(Grafら(2011) Plos. Pathog. 7:e1001300)。トータルウイルスDNAは、細胞内に存在する全てのウイルスDNAの統計を表す。直鎖状ウイルスDNAを検出するためのPCR法が開発されているが、これらの方法は、直鎖状ウイルスDNAを定量できない(Pearsonら(2002) Journal of Virology 17:8518〜8531; Mohammedら(2011) Journal of Virology 85:4654〜66)。さらに、サザンブロット技術は、全ての形のウイルスDNA、すなわち環状または直鎖状を可視化することを可能にする(Zennouら(2000) Cell 101:173〜85)が、この技術は、定量的でなく、時間がかかり、感度が高くなく、放射活性物質を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
よって、現在、直鎖状ウイルスDNAを定量するために利用できる信頼性および再現性がある技術は存在せず、成熟ウイルスDNA(つまり、3’-プロセシング反応に供された)から未成熟直鎖状ウイルスDNAを定量するためのものは尚更である。非常に代表的な形(1-LTRサークル)を現在のところ定量できないので、計算方法(2-LTRウイルスDNA、組み込み型および1-LTRの「トータル」ウイルスDNAの量の減算により導き出される直鎖状ウイルスDNAの量)は、不可能であることを指摘しなければならない。さらに、これらの技術は、大量のウイルス材料を必要とする。
【0005】
本発明は、HIV-1のDNAゲノムの直鎖形および1-LTRを有する環状形のLM-PCR (リンカー媒介PCR)に基づく方法を本発明者らが完成したことによる。
当業者に公知のLM-PCRは、特に、MuellerおよびWold (1989) Science 246:780〜786ならびにPfeiferら(1989) Science 246:810〜813に記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
よって、本発明は、
- ヒト免疫不全ウイルス1(HIV-1)のDNAゲノムの3’成熟直鎖形および/または3’未成熟直鎖形とのライゲーションに適合する2本鎖オリゴヌクレオチドを用いてライゲーション反応を行い、
- 先行するステップで得られたライゲーション生成物をもとにして定量PCRを行い、
- 試料中のHIV-1のDNAゲノムの3’成熟直鎖形および/または3’未成熟直鎖形の量をそこから導き出す、
試料中のHIV-1のDNAゲノムの直鎖形を定量する方法に関する。
HIV-1のゲノムは、ビリオン中でのようにRNAであり得る。HIV-1のゲノムは、宿主のゲノムに組み込まれたか、または組み込まれていないDNAでもあり得る。組み込まれていない場合、HIV-1のゲノムは、直鎖形または環状形で存在し得る。環状形は、それらがLTR(末端反復配列)を1つ有するか、または2つ有するかに依存して、1-LTRまたは2-LTRとよばれる。直鎖形に関しては、3’末端にて成熟または未成熟であり得る。
【0007】
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は、当業者に公知である。本明細書において理解されるように、定量PCRは、PCRに供される試料中に当初存在する増幅される核酸の量を決定することを可能にする重合連鎖反応を表す。多数の型の定量PCRが、当業者に知られている。
当業者に明らかなように、本発明による「定量」および「量」は、絶対的であって相対的ではない。すなわち、これらにより、分子の数、モル数または質量ならびに対応する濃度またはパーセンテージが入手できる。
本明細書で理解されるように、2本鎖オリゴヌクレオチドは、連結オリゴヌクレオチドまたは「リンカー」とも呼ぶことができる。これは、配列の少なくとも一部が相補的である2つのオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションによる会合から形成される。
【0008】
ライゲーション反応は、当業者に公知である。これは、一方の核酸の3’末端と別の核酸の5’末端との間の共有的連結を創出することからなる。これは、通常、リガーゼを用いて実行される。
好ましくは、上で定義するリンカーはHIV-1のDNAゲノムの3’成熟直鎖形とのライゲーションを可能にし、配列5’-GT-3’の2ヌクレオチドの付着末端を含み、試料中のHIV-1のゲノムの直鎖形の全量は、定量PCRから導き出される。より好ましくは、連結オリゴヌクレオチドは、5’-GCGGTGACCCGGGAGATCTGAATTC-3’配列(配列番号5)または配列番号5と少なくとも90%の同一性を有する配列と配列5’-GTGAATTCAGATC-3(配列番号6)または配列番号6と少なくとも90%の同一性を有する配列との会合により形成される。
【0009】
本明細書において理解されるように、核酸の少なくとも一方の端が他方の鎖と対形成できない突出鎖を有する場合に、2本鎖核酸は、付着末端を有するという。逆に、2つの鎖が核酸の少なくとも一方の端にて完全に対形成している場合に、2本鎖核酸は、平滑末端を有するという。
【0010】
本発明による配列番号Xと少なくとも90%の同一性を有する配列は、好ましくは、配列番号Xと少なくとも95%の同一性を有する。この配列は、特に、少なくとも1ヌクレオチドの挿入、欠失または置換により、配列番号Xの配列とは異なる。本明細書において理解されるように、2つの配列間の同一性のパーセンテージは、配列を最適な様式で整列させた場合に塩基が同一である位置の数を2つの配列のうちの大きいほうの塩基の総数で除したものと定義される。2つの配列は、同一性のパーセンテージが最大である場合に、最適な様式で整列させたという。さらに、当業者に明らかであるように、2つの配列間の最適なアラインメントを得るように不完全な位置にいくつか付加(「ギャップ」の付加)を行うことが必要になることがある。さらに、本発明による配列番号Xと少なくとも90%の同一性を示す配列は、配列番号Xの特にプライマーまたはプローブの機能を保ち、すなわち、これは、増幅される核酸の増幅または検出を可能にする。
【0011】
また、好ましくは、上で定義する連結オリゴヌクレオチドは、HIV-1のゲノムの3’未成熟直鎖形とのライゲーションを特異的に可能にし、平滑末端を含み、試料中のHIV-1のゲノムの未成熟直鎖形の量は、定量PCRから導き出される。より好ましくは、連結オリゴヌクレオチドは、配列5’-GCGGTGACCCGGGAGATCTGAATTC-3’(配列番号5)または配列番号5と少なくとも90%の同一性を有する配列と配列5’-GAATTCAGATC-3’(配列番号7)または配列番号7と少なくとも90%の同一性を有する配列との会合により形成される。
好ましくは、HIV-1のゲノムの成熟直鎖形の量は、(i)本発明により決定される試料中のHIV-1のゲノムの未成熟直鎖形の量を、(ii)本発明により決定される試料中のHIV-1のゲノムの直鎖形の全量から減じることにより決定される。
【0012】
また、好ましくは、本発明による定量PCRは、リアルタイムPCRであり、好ましくは、ハイブリダイゼーションプローブタイプのプローブを用いて行われるものである。
リアルタイムPCRは、当業者に公知である。簡単に述べると、リアルタイムPCRは、核酸の増幅と、増幅された核酸の蛍光による検出とを組み合わせている。従来のPCRは、プローブ、特にハイブリダイゼーションプローブ、すなわち増幅された核酸とハイブリダイズし、このハイブリダイゼーションに応答して蛍光シグナルを発するプローブの存在下で通常行われる。蛍光の放出は、PCRサイクルの関数として測定される。閾値レベルより上、通常、基底レベルまたはバックグラウンド蛍光レベルを超えて放出される蛍光シグナルが測定されるPCRサイクルは、閾値サイクル(Ct)とよばれる。Ctは、PCR反応に当初存在する、増幅される核酸の量の10を底とする対数に比例することが示されている(例えば「Real-time in PCR Advanced Methods」S., Dorak M T. ed, Taylor and Francis, Oxford 2006を参照されたい)。
【0013】
本発明に用いることができる当業者に知られる本発明による多数のハイブリダイゼーションプローブのうち、例えば国際出願WO 98/10096に記載される分子ビーコン型のプローブを特に挙げることができる。
好ましい様式では、本発明による定量PCRは、2ステップ:増幅された核酸の定量を行わない第1増幅ステップと、増幅された核酸の定量を行う第2増幅ステップとで行われる。
より好ましい様式では、本発明による定量PCRの第1ステップは、配列5’-GCGGTGACCCGGGAGATCTGAATTC-3’(配列番号5)、例えば配列5’-GCGCGCGGCGGTGACCCGGGAGATCTGAATTC-3’(配列番号25)または配列番号5もしくは25と少なくとも90%の同一性を有する配列を含むプライマーと、配列5’-CTCGCCTCTTGCCGTGCGCG-3’(配列番号9)または配列番号9と少なくとも90%の同一性を有する配列を含むプライマーとを用いて行われる。
【0014】
より好ましい様式では、また、本発明による定量PCRの第2ステップは、配列5’-GCGGTGACCCGGGAGATCTGAATTC-3’(配列番号5)または配列番号5と少なくとも90%の同一性を有する配列を含むプライマーと、配列5’-GAGTCCTGCGTCGAGAGATC-3’(配列番号26)または配列番号26と少なくとも90%の同一性を有する配列を含むプライマーと、配列5’-CCCTCAGACCCTTTTAGTCAGTGTGGAA-3’(配列番号27)もしくは配列番号27と少なくとも90%の同一性を有する配列を含むハイブリダイゼーションプローブおよび/または配列5’-TCTCTAGCAGTGGCGCCCGAACAG-3’(配列番号28)もしくは配列番号28と少なくとも90%の同一性を有する配列を含むハイブリダイゼーションプローブとを用いて行われる。
【0015】
さらに、上で定義される方法において、定量PCRの第1ステップは、9〜30サイクル、より好ましくは10〜14サイクル、さらにより好ましくはおよそ12サイクルを含むことが好ましい。
【0016】
試料中のHIV-1のDNAゲノムの成熟3’直鎖形および/または未成熟3’直鎖形の量を導き出すステップは、特に、検量線を参照して実行できる。この検量線は、特に、HIV-1のDNAゲノムの成熟3’直鎖形および/または未成熟3’直鎖形を模倣する既知量の2本鎖DNA分子をもとにして、本発明の定量手順の最初の2ステップを行うことにより得ることができる。HIV-1のDNAゲノムの成熟3’直鎖形および/または未成熟3’直鎖形を模倣するこれらの既知量のDNA分子は、好ましくは、既知量のプラスミドを、特に直鎖状未成熟形を模倣する分子については少なくとも1つの平滑末端を有し、未成熟直鎖形を模倣する分子については2ヌクレオチドの少なくとも1つの付着末端を有する2本鎖DNA分子が遊離されることを可能にする制限酵素を用いて消化することにより得られる。さらに、HIV-1のDNAゲノムの3’成熟直鎖形および/または3’未成熟直鎖形を模倣する2本鎖DNA分子は、該3’成熟直鎖形および/または3’未成熟直鎖形と同じサイズおよび/または本質的に同じ配列を有することが好ましい。しかし、サイズまたは配列の限定された変動が許容できる。特に、HIV-1のDNAゲノムの成熟直鎖形を模倣する2本鎖DNA分子の2ヌクレオチドの付着末端は、該成熟直鎖形のものと異なる配列を有することができる。この場合、当業者は、この2本鎖DNAとのライゲーションに適合され、検量線の作成に用いられる連結オリゴヌクレオチドの(2本鎖DNAのものと相補的な)付着末端が結果として改変されることが適当であることを理解している。
【0017】
さらに、本発明は、配列5’-GCGCTTCAGCAAGCCGAGTCCT-3’(配列番号1)または配列番号1と少なくとも90%の同一性を有する配列と、配列5’-GTCACACCTCAGGTACCTTTAAGACCAATGAC-3’(配列番号2)または配列番号2と少なくとも90%の同一性を有する配列とをそれぞれ含む2つのプライマーを用いて本発明による定量PCRを行う、試料中のHIV-1のDNAゲノムの1-LTR環状形を定量する方法にも関する。
好ましくは、定量PCRは、配列5’-CACAACAGACGGGCACACACTACTTGA-3’(配列番号3)または配列番号3と少なくとも90%の同一性を有する配列を含むハイブリダイゼーションプローブおよび/または配列5’-CACTCAAGGCAAGCTTTATTGAGGC-3’(配列番号4)または配列番号4と少なくとも90%の同一性を有する配列を含むハイブリダイゼーションプローブを用いて行われる。
好ましくは、また、本発明によるHIV-1のDNAゲノムの1-LTRを有する環状形の定量方法において採用される定量PCRは、PCRの伸長ステップの厳密な期間を規定する必要がある。よって、伸長ステップ、すなわち熱安定性DNAポリメラーゼの活性に好ましい温度にて行われるステップは、20〜30秒、より好ましくは23〜27秒、さらにより好ましくはおよそ25秒の期間であることが好ましい。
【0018】
本発明は、また、上で定義するような直鎖形または1-LTRを有する環状形の定量の方法を実行することを含む、HIV-1のゲノムの非組み込み形の量を改変できる化合物をスクリーニングする方法に関する。本発明によるスクリーニング法の実行の好ましい形態では、化合物は、HIV-1のDNAゲノムの直鎖形の成熟を阻害でき、上で定義するような直鎖形の定量の方法が実行される。
【0019】
本発明は、以下の実施例および図面を用いてさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】プラスミドpLIN-HIV-ScaIの希釈物に対するPCR。プラスミドpLIN-HIV-ScaIの連続希釈を行った(2e6コピー〜2e0コピー)。 Light Cycler定量プログラム、バージョン3.5(Roche Diagnostics)が提供する第2派生法の助けを用いて計算したPCRの効率は、90%である。蛍光強度(縦軸)は、サイクル数(横軸)に基づいて追跡する。
図1B】リンカーおよび研究した異なる基質を用いた異なるPCRの結果。
図1C】増幅生成物を泳動した電気泳動ゲルの写真。
図2A】基質1-LTR(1)、2-LTR(2)および直鎖状ウイルスDNA(3)に対する、1-LTRサークル(cercles)の定量用のプライマーを用いる増幅スキーム。
図2B】用いたプラスミド:プラスミド1-LTR(1)、2-LTR(2)および酵素ScaIによるプラスミド2-LTRの消化後の直鎖状ウイルスDNAを模倣するDNA(3)。
図2C】定量1-LTR PCRの効率。プラスミド1-LTRの連続希釈(2e6コピー〜2e2コピー)を行った。蛍光強度(縦軸)は、サイクル数(横軸)の関数として追跡する。
図2D】プラスミド1-LTR(1)、プラスミド2-LTR(2)および酵素ScaIによるプラスミド2-LTRの消化後の直鎖状ウイルスDNAを模倣するDNA(3)をもとにして得られた増幅生成物を泳動した電気泳動ゲルの写真。
図3A】トータルウイルスDNAの動態。MT4細胞にWTウイルス(RALの存在下または非存在下)またはウイルスD116Nを感染させた後の異なる形のウイルスDNAの動態。ラルテグラビルなしの条件WTについての印は、黒の四角である。ラルテグラビルありの条件WTについての印は、黒の菱形である。条件D116Nについての印は、白の環である。トータル細胞DNAの量で標準化したウイルスDNAのコピー数(縦軸)は、時間(横軸、単位;時間)の関数として示す。
図3B】2-LTRサークルの動態。MT4細胞にWTウイルス(RALの存在下または非存在下)またはウイルスD116Nを感染させた後の異なる形のウイルスDNAの動態。ラルテグラビルなしの条件WTについての印は、黒の四角である。ラルテグラビルありの条件WTについての印は、黒の菱形である。条件D116Nについての印は、白の環である。トータル細胞DNAの量で標準化したウイルスDNAのコピー数(縦軸)は、時間(横軸、単位;時間)の関数として示す。
図3C】1-LTRサークルの動態。MT4細胞にWTウイルス(RALの存在下または非存在下)またはウイルスD116Nを感染させた後の異なる形のウイルスDNAの動態。ラルテグラビルなしの条件WTについての印は、黒の四角である。ラルテグラビルありの条件WTについての印は、黒の菱形である。条件D116Nについての印は、白の環である。トータル細胞DNAの量で標準化したウイルスDNAのコピー数(縦軸)は、時間(横軸、単位;時間)の関数として示す。
図3D】組み込まれたウイルスDNAの動態。MT4細胞にWTウイルス(RALの存在下または非存在下)またはウイルスD116Nを感染させた後の異なる形のウイルスDNAの動態。ラルテグラビルなしの条件WTについての印は、黒の四角である。ラルテグラビルありの条件WTについての印は、黒の菱形である。条件D116Nについての印は、白の環である。トータル細胞DNAの量で標準化したウイルスDNAのコピー数(縦軸)は、時間(横軸、単位;時間)の関数として示す。
図3E】ラルテグラビルなしの条件WT (WT、黒のバー)、ラルテグラビルありの条件WT (RAL、灰色のバー)および条件D116N (白のバー)についての時間(横軸、時間)の関数としての2-LTRサークルのパーセンテージ(トータルウイルスDNA中の2-LTRの量、縦軸)。
図3F】ラルテグラビルなしの条件WT (WT、黒のバー)、ラルテグラビルありの条件WT (RAL、灰色のバー)および条件D116N (白のバー)についての時間(横軸、時間)の関数としての1-LTRサークルのパーセンテージ(トータルウイルスDNA中の1-LTRの量、縦軸)。
図4A】CEM細胞にWTウイルス(ラルテグラビルの存在下または非存在下、それぞれ図4Bおよび図4A)またはD116Nウイルス(図4C)を感染させた後の成熟および未成熟直鎖状ウイルスDNAの動態。未成熟DNAの量についての印は、白の丸である。成熟DNAの量についての印は、黒の四角である。トータル細胞DNAの量で標準化したウイルスDNAのコピー数(縦軸)は、時間(横軸、単位;時間)の関数として示す。
図4B】CEM細胞にWTウイルス(ラルテグラビルの存在下または非存在下、それぞれ図4Bおよび図4A)またはD116Nウイルス(図4C)を感染させた後の成熟および未成熟直鎖状ウイルスDNAの動態。未成熟DNAの量についての印は、白の丸である。成熟DNAの量についての印は、黒の四角である。トータル細胞DNAの量で標準化したウイルスDNAのコピー数(縦軸)は、時間(横軸、単位;時間)の関数として示す。
図4C】CEM細胞にWTウイルス(ラルテグラビルの存在下または非存在下、それぞれ図4Bおよび図4A)またはD116Nウイルス(図4C)を感染させた後の成熟および未成熟直鎖状ウイルスDNAの動態。未成熟DNAの量についての印は、白の丸である。成熟DNAの量についての印は、黒の四角である。トータル細胞DNAの量で標準化したウイルスDNAのコピー数(縦軸)は、時間(横軸、単位;時間)の関数として示す。
図4D】成熟DNAのパーセンテージ(成熟DNAの量を、トータル直鎖状DNAの量で除したもの)を、3つの条件、すなわちWT (黒)、ラルテグラビルの存在下でのWT (灰色)およびD116N (白)について示す。
図5】CEM細胞に、20μMのFZ41の非存在下(WT)または存在下(WT + FZ41)でpNL4.3ウイルスを感染させた。成熟および未成熟ウイルスDNAを、感染後24時間で定量する。成熟直鎖状ウイルスDNA(灰色)および未成熟(白)のそれぞれの種の割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施例
実施例1
材料および方法
細胞およびウイルス。リンパ系株化細胞CEM(NIH、カタログ参照117)は、10%胎児ウシ血清(SVF) (PAA、Lot#A10109-113)を補ったRPMI1640培地(Invitrogen、Cat#61870-044)中で培養した。293TおよびHeLa細胞は、10%のSVFを補ったDMEM (Invitrogen, Cat#31966-047) (ダルベッコ改変イーグル培地)で培養した。HIV-1のストックは、pNL4-3 (Gelderblomら(2008) Retrovirology 9;5:60)に由来する異なる分子クローンで293T細胞をトランスフェクトすることにより調製した。ウイルスΔenv NLENG1-ES-IRES WTおよびNLENG1-ES-IRES D116N (Gelderblomら(2008) Retrovirology 9;5:60)は、それぞれ、インテグラーゼの野生型および触媒活性がない変異体D116Nをコードする。エレメントIRESは、GFPの抑制に必須である。ウイルスΔenvの偽型化は、リン酸カルシウム法を用いて、293T細胞にVSV-Gプラスミド(Addgene、プラスミド 8454)を同時トランスフェクトすることにより行った。ウイルス上清を、孔径0.45μmのフィルタ(Sartorius、参照16537K)を通してろ過し、次いで-80℃にて凍結した。
【0022】
ウイルス感染。培養上清のHIV-1のp24gag抗原含量を、ELISA (Perkin-Elmer Life Sciences、Paris、France、参照: NEK050B001KT)により決定した。0.1の感染多重度(m.o.i.)に相当する106細胞あたり40 ngのp24gag抗原を感染のために用いた。必要であれば、細胞を、500 nMまでのインテグラーゼ阻害薬ラルテグラビル(RAL)の存在下で処理した。2〜5百万細胞を、感染後の異なる時間に回収した。細胞を次いでPBSで洗浄し、次いで遠心分離し、乾燥細胞ペレットを使用時まで-80℃にて凍結した。株化細胞CEMの感染細胞のトータル細胞DNAを、製造者の使用説明に従ってQIAamp DNA Bloodミニキット(Qiagen、参照51104)を用いて精製した。残存トランスフェクションプラスミドを分解するために、抽出したDNAを5UのDpnI (NEB、参照R0176S)と、20 mM Tris pH 7.9を含有する緩衝液中で4時間、37℃にてインキュベートした。
【0023】
プラスミド。4つのプラスミド、すなわちp1-LTR、p2-LTR、p-LIN-HIV-ScaIおよびp-LIN-HIV-NdeIを構築した。
p-LIN-HIV-ScaIは、以下のようにして構築した。プラスミドpNL4.3をマトリクスとして用いて、オリゴヌクレオチド25tSca-HIV(5’-GCGGTGACCCGGGAGATCTGAATTCAGTACTGGAAGGGCTAATTTGGTCCC-3’、配列番号8)およびオリゴヌクレオチドMS1(5’-CTCGCCTCTTGCCGTGCGCG-3’、配列番号9)を用いるPCRによる増幅。増幅生成物を、次いで、精製し、ベクターpGEMT-easy (Promega、参照A1360)に導入した。下線を付したヌクレオチドは、LTR5’ (領域U3)のウイルスDNA配列を表す。ScaI部位(5’-AGTACT-3’、配列番号10)がプラスミドpNL4.3中の315位に存在することを指摘しておく。このScaI部位は、配列5’-CCCGAGAGCTGCATCCGGAGAACTACAAAGACTGCTGACATCG-3’(配列番号12)および5’-CGATGTCAGCAGTCTTTGTAGTTCTCCGGATGCAGCTCTCGGG-3’、配列番号13)の配列のオリゴヌクレオチドを用いる部位特異的突然変異誘発法(QuikChange Lightningキット、Agilent)によって、制限酵素ScaIによる切断を可能にしない部位にて改変させた(5’-AGAACT-3’に変異させた5’-AGTACT-3’、配列番号11)。ScaIおよびAatIIによる消化により、ウイルスDNAの未成熟末端を模倣する断片が得られる。精製の後に、この断片を2本鎖連結オリゴヌクレオチド(または「リンカー」) 25t/11bまたは25t/11GTを用いるライゲーション反応を行うために用いる。
【0024】
p-LIN-HIV-NdeIは、配列5’-CCGGGAGATCTGAATTCAGTCATATGGAAGGGCTAATTTGGTCC-3’、配列番号15)および5’-GGACCAAATTAGCCCTTCCATATGACTGAATTCAGATCTCCCGG-3’、配列番号16)のオリゴヌクレオチドを用いてウイルスDNAの端にてScaI部位(5’-AGTACT-3’、配列番号10)をNdeI部位(5’-CATATG-3’、配列番号14)に変異させることにより、プラスミドp-LIN-HIV-ScaIの部位特異的突然変異誘発(QuikChange Lightningキット、Agilent)により構築した。NdeIおよびAatIIによる消化(この消化部位はベクター pGEMT-easy中にのみ存在する)により、ウイルスDNAの成熟3’末端を模倣する断片が得られる。精製後、3’における成熟DNAを定量することを狙いとしてPCR標準物質としてこの断片を用いる。NdeIおよびAatIIによる二重消化により、HIV-1の成熟DNAを模倣する断片が得られることに注目することが重要である(2対の塩基(5’-TA-3’)の付着末端が得られる)。しかし、これらの塩基の性質は、成熟ゲノムの端にて見出されるもの(5’-AC-3’)とは異なる。しかし、これらの塩基の性質は、成熟ウイルスDNAの定量の方法に全く干渉しない。
プライマー1LTR LA1 (5’-GCGCTTCAGCAAGCCGAGTCCT-3’、配列番号1)および1LTR LA16 (5’-GTCACACCTCAGGTACCTTTAAGACCAATGAC-3’、配列番号2)を用いて、PCRにより、1-LTRを有する環状分子に含まれる領域env-LTR-gagを、HIV-1に感染した細胞の抽出物をもとにして増幅した。プラスミドp1-LTRを、次いで、増幅生成物をベクターpGEMT-easy中でクローニングすることにより得た。
【0025】
プラスミドp2-LTRは、以下のようにして構築した。プライマーScaI-LTR3’ (5’-CGGGAGATCTGAATTCAGTACTGCTAGAGATTTTCCACACTGACTAAAAG-3’、配列番号17)および1LTR LA16 (5’-GTCACACCTCAGGTACCTTTAAGACCAATGAC-3’、配列番号2)を利用して、領域env-LTR3’を増幅し、増幅生成物をベクターpGEMT-easyに挿入して、中間プラスミドpSca-LTR3’を得た。ウイルスゲノムの10715位にてLTR3’中に存在する部位ScaI (5’-AGTACT-3’、配列番号10)を、配列5’-AGCTGCATCCGGAGCACTTCAAGAACTGCT-3’(配列番号19)および5’-AGCAGTTCTTGAAGTACTCCGGATGCAGCT-3’(配列番号20)のオリゴヌクレオチドを用いる部位特異的突然変異誘発法(QuikChange Lightningキット、Agilent)により、5’-AGCACT-3’ (配列番号18)に変異させた。プラスミドpSca-LTR3’およびプラスミドpLIN-HIV-ScaIを、酵素ScaIにより消化した。サイズ2520 bpおよび1920 bpの得られた断片を精製し、ライゲーションして、プラスミドp2-LTRを得た。最後に、ベクターpGEMT-easy (ベクターの1890位)中に存在する部位ScaI (5’-AGTACT-3’、配列番号10)を、オリゴヌクレオチド5’-GTGACTGGTGAATACTCAACCAAGTCATTCTGAG-3’(配列番号22)および5’-CTCAGAATGACTTGGTTGAGTATTCACCAGTCAC-3’(配列番号23)を用いて部位5’-AATACT-3’(配列番号21)に変異させて、酵素ScaIによるプラスミドp2-LTRの消化により該プラスミドの直線化を可能にした。
【0026】
LM-PCRによるHIV-1のDNAの3’未成熟および成熟直鎖形の定量。直鎖状ウイルスDNAを定量するために用いた方策は、ウイルス末端の端にて連結オリゴヌクレオチド(または「リンカー」)をライゲーションし、その後Piersonらのプロトコール(Piersonら(2002) Journal of Virology 17:8518〜8531)による2回のPCRを行うことに基づく。主な改良は、定量PCR型のアプローチを実行するために行った。
【0027】
2つのオリゴヌクレオチド25tおよび11b (25t:5’-GCGGTGACCCGGGAGATCTGAATTC-3’、配列番号5、11b:5’-GAATTCAGATC-3’、配列番号7)で形成されるリンカー(リンカー11b)と、オリゴヌクレオチド25tおよび11GT (25t:5’-GCGGTGACCCGGGAGATCTGAATTC-3’、配列番号5、11GT:5’-GTGAATTCAGATC-3’、配列番号6)で形成されるリンカー(リンカー11GTb)とを、それぞれ、HIV-1の未成熟直鎖状DNAおよびHIV-1の成熟直鎖状DNAの定量のために用いた。
【0028】
未成熟直鎖状ウイルスDNAの定量のために、ライゲーション-増幅の手順の効率を、酵素ScaIおよびAatIIによる消化により得られたpLIN-HIV-ScaIの消化断片の系列希釈物に連結オリゴヌクレオチド(リンカー11b)を加えることにより決定した。この断片の系列希釈物は、未成熟DNAの検量範囲を形成する。
【0029】
成熟直鎖状ウイルスDNAの定量のために、ライゲーション-増幅の手順の効率を、オリゴヌクレオチド25tおよび11TA (11TA:5’-TAGAATTCAGATC-3’、配列番号24)から形成される連結オリゴヌクレオチド(リンカー11TAb)を、NdeIおよびAatIIによるpLIN-HIV-NdeIの消化により得られた断片の系列希釈物に加えることにより決定した。この断片の系列希釈物は、成熟DNAの検量範囲を形成する。
【0030】
HIV-1ウイルスによる細胞の感染の間の成熟直鎖状ウイルスDNAの端は、検量範囲の端とは異なり、この理由のために、感染細胞における成熟ウイルスDNAの定量は、リンカー11TAbの代わりにリンカー11GTbを用いて行われることを記載しておく。この差は、成熟ウイルスDNAの定量に影響しない。成熟直鎖状ウイルスDNAの定量は、よって、検量範囲との比較により得られる。
ライゲーション/増幅の効率が、非感染細胞のDNAによって連結オリゴヌクレオチドが捕捉されることに影響されなかったことを確認するために、異なる検量線を非感染細胞のDNAの存在下で作成した。
【0031】
連結オリゴヌクレオチドは、各相補鎖(3μMの最終濃度にて)を95℃にて5分間加熱し、次いで、周囲温度に到達するまで徐冷することにより会合させた。連結オリゴヌクレオチドを、30 nMの最終濃度にて、20μLの最終容量中の200 ng〜2μgの量の感染細胞のDNAに、Quickライゲーションキットのリガーゼ0.8μL、または300ユニットの酵素(NEB、参照M2200S)の存在下に、20μLの最終容量で周囲温度にて2時間加えた。DNAライゲーション生成物を、次いで、製造者の使用説明に従ってswitch charge精製PCRキット(Life Technology、CS12000)を用いて精製し、次いで、20μL中に溶出し、リアルタイムPCRに供した。
定量は、Light Cycler装置(Roche Diagnostics、Meylan、France)でリアルタイムPCRにより行った。用いた範囲に関する定量は、Light Cyclerの定量ソフトウェア、バージョン3.5 (Roche Diagnostics)により供給される第2派生法を用いて計算した。
【0032】
1回目のPCRにおいて、予め精製したDNAの1/10を、1×LightCycler FastStart DNA master HybProbes(Roche、参照12239272001)、4mM MgCl2、300 nMのプライマー32t 5’-GCGCGCGGCGGTGACCCGGGAGATCTGAATTC-3’(配列番号25)およびMS1 5’-CTCGCCTCTTGCCGTGCGCG-3’(配列番号9)を含む20μLの反応混合物中で増幅した。
対数期にとどめるために、12サイクルだけを行った。よって、1回目のPCRの条件は、以下のとおりであった:8分間、95℃での変性ステップ、次いで12増幅サイクル(95℃にて10秒、60℃にて10秒および72℃にて31秒)。2回目のネステッドPCR (nested PCR)は、1回目のPCR生成物の1/100に対して、1×LightCycler FastStart DNA master HybProbes緩衝液、4mM MgCl2、300 nMの25tプライマー(5’-GCGGTGACCCGGGAGATCTGAATTC-3’、配列番号5)およびMS2 (5’-GAGTCCTGCGTCGAGAGATC-3’;配列番号26)ならびに200 nMのハイブリダイゼーションプローブMHFL* (5’-CCCTCAGACCCTTTTAGTCAGTGTGGAAa-3’(配列番号27)およびMHLC*(5’-TCTCTAGCAGTGGCGCCCGAACAGb-3’(配列番号28) (a:3’にてフルオレセイン; b:5’にてLCred640および3’にてリン酸化)を含む混合物中で行った。
成熟および未成熟直鎖状DNAのコピー数は、10〜105コピーの範囲の量の対応する消化断片を増幅することにより作成した検量線を参照することにより決定した。
【0033】
1-LTRサークルの定量。定量は、Light Cycler装置(Roche Diagnostics、Meylan、France)で、Light Cycler定量ソフトウェア、バージョン3.5 (Roche Diagnostics)とともに提供される第2派生法を用いてリアルタイムPCRにより行った。1-LTRサークルのDNAコピー数は、遺伝子gagおよびenvならびにハイブリダイゼーションプローブとハイブリダイズするプライマーを用いてウイルス分子を定量することにより決定した。反応混合物は、1×LightCycler FastStart DNA master HybProbes緩衝液(Roche Diagnostics 参照12239272001)、4mM MgCl2、300 nMの1-LTR LA1 プライマー(5’-GCGCTTCAGCAAGCCGAGTCCT-3’、配列番号1)および1-LTR LA16 (5’-GTCACACCTCAGGTACCTTTAAGACCAATGAC-3’、配列番号2)ならびに200 nMのLTR FL*ハイブリダイゼーションプローブ(5’-CACAACAGACGGGCACACACTACTTGAa-3’、配列番号3)およびLTR LC*(5’-CACTCAAGGCAAGCTTTATTGAGGCb-3’、配列番号4) (a:3’末端にてフルオレセイン; b:5’末端にてLC red 640および3’末端にてリン酸化)を、最終容量20μl中に含有する。1-LTRサークルの定量のためのPCRサイクル条件は、以下のとおりである:8分間の変性ステップの後に40サイクル(95℃にて10秒、60℃にて10秒および72℃にて25秒)。1-LTRサークルのコピー数は、100〜105コピーの範囲の量のp1-LTRを増幅することにより作成した検量線を参照することにより決定した。
【0034】
結果
HIV-1の直鎖状DNAの定量
ウイルスDNAの定量は、Piersonら(Piersonら(2002) Journal of Virology 17:8518〜8531)のものに主な改良を加えたライゲーションを実行するPCRアプローチ(ライゲーション媒介PCR、LM-PCR)に従うことにより行った。
プライマー25tおよびMS2を用いる定量PCRの効率および感度を、pLIN-HIV-ScaIについて示す(図1A)。pLIN-HIV-NdeIについて用いるパラメータは、pLIN-HIV-ScaIについて決定したものと同じであり、このことは、ウイルスDNAの端(pLIN-HIV-ScaIについてScaI部位およびpLIN-HIV-ScaIについてNdeI部位)に関する2つのプラスミド間の差が、予期されたように定量PCRに影響しないことを示した。
【0035】
未成熟末端を模倣するDNAは、ScaI/AatIIでの消化とその後の精製により得た。成熟3’末端を模倣するDNAは、NdeI/AatIIでの消化とその後の精製により得た。精製後、これらの断片を、トータルウイルスDNAの定量のためのプライマーおよびプローブ(表1を参照されたい)を用いる定量PCRにより定量した。図1Bに記載するように、リンカー11GTbを用いるLM-PCRは、2つの事例において90%の効率および200,000細胞あたり10コピーの感度での3’成熟および未成熟直鎖状ウイルスDNAの検出を導く(材料および方法の項に記載するように、効率は、実際に、NdeIにより生じるものと相補的な2ヌクレオチドの付着末端を有するリンカー11TAbを用いて決定したが、単純化のために、図にはリンカー11GTbを示す)。
【0036】
連結オリゴヌクレオチド(リンカー11b)を用いるLM-PCRは、未成熟ウイルスDNAの検出および定量だけができる。結果として、3’成熟DNAの量は、連結オリゴヌクレオチド(リンカー11GTb)を用いて得られた量から、連結オリゴヌクレオチド(リンカー11b)を用いて得られた量から減じることにより導き出す。それぞれの定量について(未成熟直鎖状ウイルスDNAおよび3’成熟直鎖状DNA)、対応する断片のいくつかの希釈を、非感染細胞のDNA (200 ng/μL)において行った。連結オリゴヌクレオチド (未成熟直鎖状DNAについて11GTbリンカーおよび成熟直鎖状DNAについてリンカー11b)を、ウイルスDNA (未成熟または3’成熟)の端の各希釈とライゲーションした。その結果、PCRの後に得られた量は、ライゲーションの効率を考慮している。ライゲーションの後に、ライゲーションされたDNAを、製造者(Invitrogen)の使用説明に従って磁性ビーズを用いて精製して、ライゲーション反応の混合によるPCRの阻害を回避した。ライゲーションしたDNA (ライゲーション反応の1/10)を、次いで、プライマー32tおよびMS1 (表1を参照されたい)を用いるリアルタイムPCRによる増幅に供した。
サイクル数は、実験的に決定した。対数期にとどめるために、12回のPCRサイクルだけを行った。予期せぬことに、1回目のPCR中にサイクル数を減少させると(例えば8サイクル)、試料の増幅が乏しくなり、定量の誤りが導かれる。同様に、サイクル数の増加は、定量を改善しない。さらに、30サイクルの後に、定量に用いたプラスミド範囲の曲線(10のうち10の希釈)は、ほぼ重なる(quasi superposees)。その結果、試料の定量は不可能である。よって、2回目のPCRの最後にライゲーションされる全てのDNA希釈物の定量を可能にするために、12サイクルが充分である。増幅生成物(1/100)を、次いで、2回目のPCRに供した。各定量の効率(3’未成熟および成熟)を、図1Bおよび1Cに示す。
【0037】
上で示すように、NdeIによる消化から得られる断片の端は、感染細胞の3’末端で見出されるものと似ているが同一ではなく(5’-ATTGであり、感染細胞における5’-ACTGではない)、このことにより、これらの実験のために、連結オリゴヌクレオチド11GTbの代わりに連結オリゴヌクレオチド11TAbを用いることが必要になる。Piersonら(Piersonら(2002) Journal of Virology 17:8518〜8531)により記載されるように、連結オリゴヌクレオチド(リンカー11GTb)は、未成熟ウイルス末端を検出できる。これは、連結オリゴヌクレオチドの付着末端(5’-GT)が、ゲノムの5’側のリン酸とのライゲーションに関与しないからだと考えられる。しかし、この連結オリゴヌクレオチド(リンカー11GTb)を用いることにより、未成熟末端および3’成熟末端の両方を効率的に検出できる。全体として、本発明者らは、非対称連結オリゴヌクレオチドを、ウイルスDNAの端の効率的な定量のために用いることができることを示した。
結局、25t/11GT対および25t/11b対は、感染の自然な経過中に未成熟および3’成熟末端を定量するためにともに用いられる。
【0038】
1-LTRサークルの定量
PCRに基づくいくつかの方法が、1-LTRサークルを定量するために提案されている(Bukrinskyら(1992) Proc Natl Acad Sci USA 89, 14:6580〜4)。これらのPCRは、遺伝子envおよびgag中のプライマーのハイブリダイゼーションに基づく(図2A1)。しかし、PCRに基づく方法は、1-LTRサークルの正しい定量を可能にしないことが報告されている(YoderおよびFishel (2006) Journal of Virological Methods 138, 1〜2:201〜6)。実際に、図2A2に示すように、1-LTRサークル用に用いたプライマーは、2-LTRサークル内に存在するLTR-LTR領域の増幅を導き得た。
さらに、Yoderらにより記載されるように、これらのプライマーは、直鎖状ウイルスDNAの5’ LTRおよび3’LTRの線形増幅を導き得た(図2A3)。生成された直鎖状1本鎖DNAは、相同LTR配列とハイブリダイズし得、これは、ウイルスDNAからの対数増幅をもたらし、結局、1-LTRサークルの定量において偏りをもたらし得た。
【0039】
プライマー1LTR LA1 (5’-GCGCTTCAGCAAGCCGAGTCCT-3’、配列番号1)および1LTR LA16 (5’-GTCACACCTCAGGTACCTTTAAGACCAATGAC-3’、配列番号2)を用いる増幅を、CEM 株化細胞の感染細胞のDNAを用いて行い、増幅生成物をベクターpGEMT-easyにクローニングして、リアルタイムPCRの検量物質として用いるp1-LTRを得た(図2B)。この枠組みでは、PCRの伸長ステップの最適期間は、25秒と決定された。gagおよびenv領域を囲む全体にLTRを含むp2-LTRを対照として用いる(図2B)。プライマー1LTR LA1および1LTR LA16、ならびにp1-LTRをマトリクスとして用いる定量PCRは、感度が高く(図2Cおよび2D、表2)および効率的(200コピー/106細胞)な1-LTR DNAの検出を導く。同じプロトコールに供したp2-LTRは、弱い増幅シグナルを導く(図2Cおよび2D、表2)。さらに、p2-LTRをScaIにより消化して、感染細胞で見出される直鎖状ウイルスDNAを模倣した。本発明者らは、トータルウイルスDNAに適合されたプロトコールに従って、精製DNAを正確に定量した。このDNAのいくつかの希釈物をもとにした増幅により、直鎖状DNAの当初の量と比較して無視できる増幅シグナルが得られ(図2Cおよび2D、表2)、このことにより、Yoderら(YoderおよびFishel (2006) Journal of Virological Methods 138, 1〜2:201〜6)により示される直鎖状ウイルスDNAをもとにした増幅が確認される。ウイルス直鎖状DNAをもとにした非特異的増幅は、当初量に対して少なくとも1%と見積もられた。全体として、プライマーを用いるP1-LTRの増幅およびここに記載するプロトコールは、1-LTRサークルの定量の代表的なものである。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例2
実施例1に記載する方法を確認するために、本発明者らは、pNL4-3に由来するHIV-1ウイルス、ウイルスΔenv NLENG1-ES-IRES野生型(WT)およびNLENG1-ES-IRES D116N (Gelderblomら(2008) Retrovirology 9;5:60)による細胞の感染中の異なる形のウイルスDNAを定量した。
20百万のCEM細胞に、エンベロープVSV-Gにより偽型にしたウイルス(細胞1百万あたり30 ngの抗原p24)を感染させる。3つの感染条件を用いる:500 nMのラルテグラビル(RAL)(組み込み反応の阻害薬)の非存在下または存在下での、触媒活性があるインテグラーゼを有するウイルス(野生型、WT)による感染(Steigbigelら(2008) New England Journal of Medicine 359,4: 339〜354)。最後の条件は、触媒活性がないインテグラーゼを有するウイルス(D116N)による感染である(Shinら(1994), Journal of virology 68,3 :1633〜1642)。
【0042】
予期される結果は、次のとおりである:
- 「WT」:「野生型」:インテグラーゼの活性による成熟DNAの存在および組み込まれたウイルスDNAの検出。
- 「D116N」:触媒活性がないインテグラーゼ:インテグラーゼ活性が存在しないために、成熟DNAおよび組み込まれたウイルスDNAが存在しない。
- 「RAL」:ラルテグラビルの存在下で「WT」インテグラーゼを有するウイルスによる感染:成熟ウイルスDNAの存在、なぜならラルテグラビルは、成熟反応(3’-プロセシング)の阻害薬でないからである。対照的に、組み込まれたウイルスDNAはないことが予期される。なぜなら、ラルテグラビルは、組み込み反応の阻害薬であるからである。
感染の1時間後に、細胞をリン酸塩緩衝液(PBS)で洗浄し、トリプシンと37℃にて1分間接触させる。細胞を、次いで、培養培地で1回、大量のPBSで2回洗浄する。細胞を、次いで、10%の胎児ウシ血清を含有するRPMI 1640培地で培養する。感染後の各時間にて、3百万細胞の試料を形成する。ウイルスの調製のために用いたDNAを排除するために、細胞ペレットを、20 mM Tris HCl pH 8.3、50 mM KCl、2mM MgCl2を含有する緩衝液中で周囲温度にて10分間の1500UのDNアーゼI (Invitrogen、参照AM2238)による消化に供する。細胞ペレットを、次いで、PBSで洗浄し、細胞を遠心分離し、次いで、使用まで-80℃に置く。DNAを、次いで、QIAamp DNA bloodミニキット(Qiagen、参照51104)を用いて抽出する。
【0043】
ウイルスDNAの全コピー数は、LTRの領域U5 (MH531プライマー:5’-TGTGTGCCCGTCTGTTGTGT-3’、(配列番号29)およびgag遺伝子(MH532プライマー:GAGTCCTGCGTCGAGAGAGC-3’, 配列番号30)においてハイブリダイズするプライマー(Butlerら(2001) Nature Medicine 7:631〜634)ならびにハイブリダイゼーションプローブMH FL* (5’-CCCTCAGACCCTTTTAGTCAGTGTGGAAa-3’、配列番号31)およびMH LC* (5’-TCTCTAGCAGTGGCGCCCGAACAGb、配列番号32) (a:3’末端にてフルオレセイン; b: 5’末端にてLC red 640および3’末端にてリン酸化)を用いることにより決定する(表1)。
【0044】
2-LTRを有するサークルは、LTR-LTR接合部を挟むプライマー(HIVFおよびHIVR1 プライマー) (BrusselおよびSonigo (2003) Journal of Virology 77:10119〜10124)により増幅する。組み込まれたウイルスDNAは、Alu-PCRにより定量する(BrusselおよびSonigo (2003) Journal of Virology 77:10119〜10124)。U5-gag 配列、2-LTR接合部および組み込まれたDNAの特異的増幅は、細胞DNAの抽出物の1/50をもとにして1検体につき2回増幅させる。コピー数は、DNA抽出物の1/50中のβグロビン遺伝子の量を測定することにより、1μgのDNAあたりに標準化する(表1)。
【0045】
結果は、図3A〜3Fに示す。これらの図に示すように、逆転写の対照であるトータルウイルスDNAの合成は、感染後10時間で最大である。2-LTRサークルの形成は、感染後36時間で最大である。ウイルスの組み込みは、感染後48時間で完了する。これらの動態は、HIV-1による感染の事例において記載されたことに従う(BrusselおよびSonigo (2003) Journal of Virology 77:10119〜10124)。直鎖状ウイルスDNAの量(これは、2つの部分集団:成熟および未成熟を含む)が、感染後8時間で達成される。3つの条件、すなわち「WT」、「RAL」および「D116N」についてこのことは同じであり、これは、正常である。なぜなら、インテグラーゼの変異D116Nも、ラルテグラビルも、逆転写酵素によるRNAから直鎖状DNAへの変換速度に影響しないからである。DNAは、次いで、プロテアソーム経路によるその分解を反映して分解される(Butlerら(2002) Journal of Virology 76:3739〜47)。
成熟と未成熟ウイルスDNAとの間の識別は、次いで、実施例1に示すプロトコールに従って確認した。結果を図4A〜4Dに示す。
【0046】
インテグラーゼ阻害薬であるラルテグラビルは、組み込み反応の阻害薬であって、感染との関係における端の成熟の阻害薬でない(Nguyenら(2011) Ann. N. Y. Acad Sci. 1222:83〜9)。この薬物の効率は、図3Dで証明される(組み込まれたウイルスDNAの検出の阻害、触媒部位の変異体(D116N)による組み込みの阻害と同様)。ラルテグラビルありまたはなしでの成熟ウイルスDNAの量は、同様である(図4A〜4B)。対照的に、成熟ウイルスDNAは、成熟ステップの触媒作用を含めて、活性が完全にないことが示されている触媒部位の変異体による感染の場合に、ほとんど検出できない(図4C)。さらに、直鎖状ウイルスDNAのパーセンテージは、未成熟DNAに関して、感染後時間の経過とともに減少する(図4D)。よって、この実験は、未成熟直鎖状ウイルスDNAに対して成熟ウイルスDNAの安定性がより低く、直鎖状ウイルスDNAは、異なるウイルスゲノムのうちで安定性が最も低いウイルスの形であることを強調する。
【0047】
スチリルキノリン(SQ)は、インビトロでの、ウイルスDNAへのインテグラーゼの結合の阻害薬である(Deprezら(2004) Mol. Pharmacol. 65:85〜98)ので、ラルテグラビルのものとは異なるクラスに相当する。なぜなら、SQは、成熟ステップの競合的阻害薬として作用するからである。ウイルス感染中に有効であるが、エクスビボでウイルスDNAの成熟のステップを特徴決定することを可能にするツールが欠如しているので、これらの阻害薬のうちの標的ステップは、明確に同定できていない(Bonnenfantら(2004) Journal of Virology 78:5728〜36)。本発明による方法は、よって、FZ41がプロトタイプであるスチリルキノリンがウイルスDNAの成熟反応をよく阻害することを証明することを可能にする。
【0048】
【化1】
【0049】
実際に、CEM細胞に、触媒活性がある「野生型」インテグラーゼを有するウイルスを感染させた。細胞を、感染時に、20μMのFZ41で処理したかまたはしなかった。感染の20時間後に、成熟直鎖状ウイルスDNAおよび未成熟ウイルスDNAを定量し、図5に報告する。結果は、化合物FZ41によるウイルスDNAの成熟の阻害を示す。実際に、成熟ウイルスDNAのパーセンテージは、SQの非存在下で75%(およびその結果、25%の未成熟DNA)であるのに対して、FZ41の存在下では28%の成熟DNAである。ウイルスDNAの成熟の阻害は、よって、SQの存在下で重要である。
【0050】
本発明による信頼でき、感度が高く安価な方法は、よって、組み込み反応の唯一の基質である直鎖状DNAの成熟に対するそれらの活性を試験する観点で、インテグラーゼを阻害する化合物のスクリーニングのためによく適合する。
さらに、この方法は、患者の回避の予測検査という観点で、臨床検査に変形できる(ウイルス負荷が感染細胞中のウイルスDNAの量に関連付けられる)。
【0051】
実施例3
2-LTRサークルの含量が本発明による1-LTRサークルの定量に与える影響を評価するために、Nalm-6 (リガーゼ-4+)およびNalm-114 (リガーゼ-4-)細胞に野生型またはD116N型(触媒活性がないインテグラーゼ)のいずれかのHIV-1Δenvを感染させた。サザンブロッティングにより、リガーゼ-4は、2-LTRにてサークルの形成に独特に関与し(1-LTRでのサークルの形成には関与しない)、変異D116Nの存在が、組み込みの欠如により、リガーゼ-4+の関係において2-LTRの高い蓄積(およびより少ない程度で1-LTRサークルのわずかな蓄積)を導くことが以前に示されている。本発明者らによる結果から、Nalm-6細胞に対して、Nalm-114細胞において野生型のウイルスおよびD116Nについて同時に2-LTRサークルの形成の強い阻害(40倍)が確認される。1-LTRサークルの量は、野生型またはD116N型のウイルスに感染した株化細胞について同様である。これらの結果から、リガーゼ-4が1-LTRサークルの形成に関与しないことが確認される。重要なことに、本発明者らは、1-LTRサークルの量が、2-LTRサークルの蓄積レベルに関わらず本質的に変化せず、このことにより、本発明の定量アプローチを用いることにより、細胞の関係における1-LTRサークルの正確でおそらくは偏りのない定量が、2-LTRサークルと連結することが確認されることに気付いた。
【0052】
実施例4
2つの他のインテグラーゼ阻害薬(INSTI)であるエルビテグラビル(EVG)およびドルテグラビル(DTG)を、成熟反応(3’-プロセシング)を阻害するそれらの能力について研究し、系統的にラルテグラビル(RAL)と比較した。ウイルス組み込みを完全に阻害するRAL、DTGおよびEVGの最低濃度(500 nM)にて(3つの阻害薬は、ウイルス組み込みの阻害に関する限り同様のIC50を有する、DTGおよびEVGについて2nM、RALについて8nM)、成熟ステップは、いずれの阻害薬を用いても影響されなかった。興味深いことに、阻害薬の濃度の増加は、化合物によるこの成熟反応に対して異なる影響を与えた。つまり、RALは、5μMの濃度まで本質的に効果がないままであり、ここで、成熟活性の80%をまだ見ることができた。これに対して、成熟活性は、2.5または5μMのDTGおよびEVGにて大きく影響を受けた(それぞれ2.5μMおよび5μMにておよそ40%および25%より下の成熟効率)。
実際に、組換えインテグラーゼを用いるインビトロ研究は、3つの阻害薬が成熟反応を同じレベルで阻害しないことを示す。成熟反応に関するIC50は、DTG、EVGおよびRALについてそれぞれ2μM、5μMおよび10μMである。
【0053】
成熟反応に対するそれぞれの阻害薬の異なる影響は、PCRに由来する放射性標識プローブを用いて確認した。500 nMの各阻害薬は、類似の量の成熟DNAを導いたが、5μMの阻害薬にて、DTGおよびEVGは、RALとは反対に、成熟を著しく阻害する。
興味深いことに、DTGおよびEVGの濃度を500 nMから5μMに変動することにより、成熟の阻害が継続的に増加するが、2-LTRまたは1-LTRサークルの蓄積の増加は導かない。実際に、DTGおよびEVGが組み込みを完全に阻害するこの範囲の濃度にて、2 LTRサークルは感染後48時間にてウイルス形のほぼ40%を占める。これらのデータは、2-LTRサークルの蓄積が、組み込みの阻害に主につながり、成熟反応の効率にはつながらないことを証明する。
【0054】
成熟の効率は、以前に記載された野生型のΔenvウイルスを用いることによる初代CD4+ Tリンパ球の感染中に測定した(+/- 5μMのRAL、EVGまたはDTG)。成熟反応の効率が高い(75%)が、初代細胞においてわずかに遅くなり(最大の成熟は、感染後24時間で達成される)、RALではなくEVGおよびDTG (5μM)により影響されることが観察される。さらに、1-LTRおよび2-LTRサークルの蓄積動態は、株化細胞の細胞に関して初代細胞において同様である。
【0055】
実施例5
現在、1-LTRサークルの形成の起源はあまり明らかでない。よって、特定の著者らを支持すれば、1-LTRサークルの形成は、核内の直鎖状DNAの2 LTR間の相同組換えを必要とする(しかし、他のものについて、これは、細胞質区画における逆転写ステップを伴う)。
細胞分画を、以前に記載した変異D116Nを有するΔenvウイルスに感染したMT4細胞に対して感染後24時間で、すなわち核内でもっぱら形成される最大量の2-LTRサークルにより示されるように核内移行が完了したときに行った。実際に、本発明者らの結果により、99.5%を超える2-LTRサークルが核内で見出されることが確認される。これと比較して、1-LTRサークルの量は細胞質画分においてより大きい。実際に、核内移行が最大である条件において、細胞質で形成される1-LTRサークルは1-LTRサークルの全量の10%を占める。このことは、1-LTRサークルが感染後5時間および8時間からのウイルスDNAの10%を占める1-LTRサークルの形成の動態と一貫し、少なくとも一部の1-LTRサークルが逆転写ステップ中に形成できるという仮説と矛盾しない。
【0056】
インテグラーゼとインポーチンαとの間の相互作用の阻害により組み込み前複合体の核内移行を阻害すると記載されているペプチドNLS-IN-PenおよびSV40-NLS-Pen (Levinら(2009) Retrovirology 6:112)を用いて、1-LTRサークルが逆転写ステップ中にだけ形成され、組み込み前複合体の転位を必要としないかを決定した。2つのペプチドのうちの1つで処理したHeLa細胞に、PnL4.3ウイルスをRALの存在下で感染させた。ペプチドなしで、2-LTRサークルは、感染後48時間にてトータルウイルスDNAの19.3%を占めるまで蓄積される。ペプチドでの処理は、2-LTRサークルの蓄積の阻害を導き(NLS-IN-PenおよびSV40-NLS-Penについてそれぞれ5.22%および2.24)、核内移行の阻害を強調する(NLS-IN-PenおよびSV40-NLS-Penについてそれぞれ3.7および8.6倍)。興味深いことに、これらの条件下では、本発明者らは、2-LTRサークルに対する阻害についてほど著しくない1-LTRサークルの形成の減少(NLS-IN-PenおよびSV40-NLS-Penについてそれぞれ1.8および2.5倍)を観察する。
【0057】
組み込み前複合体の核内移行の阻害を、より具体的にウイルスのFLAPおよび/またはCTS領域での変異により行うことも可能である。よって、HeLA細胞に欠損変異体を、CTSおよびPPT領域にて同時に感染させた。1-LTRおよび2-LTRサークルの量は、感染後24時間にて野生型条件で決定した量に対して標準化した。本発明者らは、FLAP構造の破棄が組み込み前複合体の細胞内移行を完全にではなく部分的に阻害することを見出したが、本発明者らは、2-LTRサークルの量の実質的な減少を観察した(およそ2倍)。この関係において、本発明者らは、より小さい程度であるが1-LTRサークルの量の付随する減少について証明した(1.4倍)。まとめると、これらのデータは、1-LTRサークルの形成の2つの機構が互いに排他的でないことを明らかに示唆する。1-LTRサークルは、逆転写段階中に細胞質で形成され得るが、1-LTRサークルの主要部分(90%)は、組み込み前複合体の転位の後に、核内での相同組換えにより形成され得る。
【0058】
【表2-1】
【表2-2】
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]