特許第6368313号(P6368313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368313
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】自動車部品のレーザー金属蒸着溶接
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/211 20140101AFI20180723BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20180723BHJP
   C23C 22/07 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   B23K26/211
   B23K26/21 F
   C23C22/07
【請求項の数】8
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-539773(P2015-539773)
(86)(22)【出願日】2013年10月24日
(65)【公表番号】特表2016-501724(P2016-501724A)
(43)【公表日】2016年1月21日
(86)【国際出願番号】US2013066494
(87)【国際公開番号】WO2014066569
(87)【国際公開日】20140501
【審査請求日】2016年9月14日
(31)【優先権主張番号】61/718,089
(32)【優先日】2012年10月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501241575
【氏名又は名称】マグナ インターナショナル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100157185
【弁理士】
【氏名又は名称】吉野 亮平
(72)【発明者】
【氏名】ハンシュマン フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】マグダ ジェレミー ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】スミス ケヴィン デイル
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−230288(JP,A)
【文献】 特開2010−201434(JP,A)
【文献】 特開2010−075859(JP,A)
【文献】 特開2002−361458(JP,A)
【文献】 特表2005−500907(JP,A)
【文献】 特公昭49−23749(JP,B1)
【文献】 特開昭60−127088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/211
B23K 26/21
C23C 22/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) 少なくとも2つの鋼加工物を継手の形に配置するステップと、
(2) レーザー光線を用いて、前記加工物の各々の一部と、ニッケル及び鉄の少なくとも一方の粉末とを溶解させて、ニッケルと鉄の少なくとも一方を含んでケイ酸塩アイランドを実質的に全く伴わない溶接線を形成するステップと、
(3) 塗装法、リン酸塩処理法又は電着法を通じて前記溶接線の少なくとも一部上にコーティングを適用するステップと、
を含む、部品の製造方法であって、
前記方法は、前記工程(2)の後であって且つ前記工程(3)の前に、ケイ酸塩アイランドを除去するための摩耗又は化学処理を含まない、前記方法。
【請求項2】
前記粉末はニッケル粉である、
ことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記粉末は鉄粉である、
ことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記コーティングを適用する前記ステップは、前記溶接線の少なくとも一部を塗装するステップとしてさらに定義される、
ことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記コーティングを適用する前記ステップは、前記溶接線の少なくとも一部をリン酸塩処理するステップとしてさらに定義される、
ことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記コーティングを適用する前記ステップは、前記溶接線の少なくとも一部を電着するステップとしてさらに定義される、
ことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(2)において、レーザー光線による溶解の間、シールドガスが前記加工物の継手部分に供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(2)において、レーザー光線による溶解の間、前記ニッケルと鉄の少なくとも一方の粉末及びシールドガスが前記加工物の継手部分に供給される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願との相互参照〕
本PCT特許出願は、2012年10月24日に出願された「自動車部品のレーザー金属蒸着溶接」という名称の米国仮特許出願第61/718,089号の利益を主張するものであり、この仮特許出願の開示全体が本出願の開示の一部と見なされ、引用により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、鋼加工物間の溶接部に関し、具体的には、鋼加工物間の溶接部に適用するコーティングに関する。
【背景技術】
【0003】
自動車業界では、鋼加工物同士を溶接するために、金属不活性ガス(MIG)溶接としても知られているガスメタルアーク溶接(GMAW)が一般的に使用されている。GMAWを用いて鋼加工物を接合する上でよく見られる問題点は、マンガン、シリコン、鉄、酸素及びその他の微量合金のケイ酸塩アイランドが生じることである。このようなケイ酸塩アイランドは、溶接線の外面上におけるコーティングの適用を阻害することがある。例えば、塗装、リン酸塩処理及び電着(eーコーティング)を通じて適用されたコーティングは、ケイ酸塩アイランドを伴う溶接線に強力に付着することができない。
【0004】
塗装、リン酸塩処理及び電着コーティングを溶接線に結合させる1つの方法は、溶接線上の材料摩耗処理を用いてケイ酸塩アイランドを除去することである。別の方法は、化学処理を通じてケイ酸塩アイランドを除去することである。しかしながら、化学処理にはコストが掛かることもあり、溶接線からケイ酸塩アイランドを十分に除去できないこともある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
接合部にわたる塗装、リン酸塩処理及び電着を可能にしながら鋼加工物同士を接合するための改善された方法に対する有意かつ継続的なニーズが存在し続けている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様では、ニッケルと鉄の少なくとも一方を含んでケイ酸塩アイランドを実質的に全く伴わない溶接線において接合された少なくとも2つの鋼加工物を含む自動車部品などの部品を提供する。この部品は、ケイ酸塩アイランドを実質的に全く伴わない溶接線の少なくとも一部に結合させた塗装、リン酸塩処理又は電着コーティングも含む。この溶接線は、その外面が非常に安定していてケイ酸塩アイランドを実質的に全く伴わないことにより、溶接線の外面と、塗装、リン酸塩処理又は電着コーティングとの間の非常に強力な結合を可能にするので、他のタイプの溶接法によって形成された溶接線と比べて有利である。この本発明の態様の溶接線は、他の既知の溶接法を通じて形成された、例えばGMAW法などによって形成された溶接線などの溶接線よりも滑らかで硬質とすることもできる。
【0007】
本発明の別の態様によれば、溶接線がニッケルを含む。
【0008】
本発明のさらに別の態様によれば、溶接線が鉄を含む。
【0009】
本発明のさらに別の態様によれば、コーティングが塗装コーティングである。
【0010】
本発明のさらなる態様によれば、コーティングがリン酸塩処理コーティングである。
【0011】
まだ本発明のさらなる態様によれば、コーティングが電着コーティングである。
【0012】
本発明の別の態様は、自動車部品などの部品の製造方法である。この方法は、少なくとも2つの鋼加工物を継手の形で配置するステップを含む。次に、この方法は、レーザー光線を用いて、加工物の各々の一部と、ニッケルと鉄の少なくとも一方の粉末とを溶解させて、ニッケルと鉄の少なくとも一方を含んでケイ酸塩アイランドを実質的に全く伴わない溶接線を形成するステップを含む。次に、この方法は、塗装、リン酸塩処理又は電着法を通じて溶接線の少なくとも一部上にコーティングを適用するステップを含む。結果として得られる、塗装、リン酸塩処理又は電着コーティングと、ケイ酸塩アイランドを実質的に全く伴わない溶接線の外面との間の結合は非常に強力なものである。この改善された結合は、その後の材料摩耗又は化学処理を一切伴わずに、非常に効率的かつコスト効果の高い方法で実現される。
【0013】
本発明の別の態様によれば、粉末がニッケルを含む。
【0014】
本発明のさらに別の態様によれば、粉末が鉄を含む。
【0015】
本発明のさらに別の態様によれば、コーティングを適用するステップが、コーティングを塗装するステップとしてさらに定義される。
【0016】
本発明のさらに別の態様によれば、コーティングを適用するステップが、コーティングをリン酸塩処理するステップとしてさらに定義される。
【0017】
なお、本発明のさらなる態様によれば、コーティングを適用するステップが、コーティングを電着するステップとしてさらに定義される。
【0018】
本発明は、以下の詳細な説明を参照して添付図面と共に検討することによってより良く理解できるようになるので、本発明の上記の及びその他の特徴及び利点は容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】LMD溶接法を通じて形成された溶接線を含む例示的な自動車部品の断面図である。
図2】突合せ継手の形に配置された一対の例示的な加工物の断面図である。
図3図2の加工物の一部と、ニッケル粉及び/又は鉄粉とを溶解させるLMDヘッドを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1を参照して分かるように、本発明の態様は、ニッケルと鉄の少なくとも一方を含む溶接線26において接合された少なくとも2つの鋼加工物22、24を含む自動車部品20などの部品20に関する。部品20は、塗装、リン酸塩処理又は電着(eコーティング)を通じて溶接線26の少なくとも一部上に適用されたコーティング28も含む。以下でさらに詳細に説明するように、加工物22、24は、溶接線26がニッケル及び/又は鉄を含んでケイ酸塩アイランドを実質的に全く伴わないように第1及び第2の加工物22、24の金属内にニッケル粉及び/又は鉄粉30を溶解させることを含むレーザー金属蒸着(LMD)溶接法を通じて接合される。これにより、溶接線26の金属とコーティング28との間の結合を非常に強力なものにして、コーティング28が溶接線26において部品20から剥がれ落ち、又は別様に分離するリスクを低下させることができる。また、溶接線26の外面は、他の既知の方法で形成された溶接線よりも滑らかにすることができる。
【0021】
図1の例示的な実施形態では、加工物22、24が突合せ継手の形で溶接される。しかしながら、加工物22、24は、例えば縁部継手、角部継手、T字型継手、重ね継手などを含むあらゆる好適なタイプの溶接継手の形で接合することができる。加工物22、24は、あらゆる好適な自動車用又は非自動車用鋼製加工物22、24とすることができる。例えば、加工物22、24は、車両フレーム又はシャシー片22、24とすることができ、あらゆる好適な厚みを有することができる。なお、本明細書で使用する「鋼」という用語は合金鋼を含むと理解されたい。
【0022】
本発明の別の態様では、図1に示す自動車部品20などの部品20の製造方法を提供する。この方法は、少なくとも2つの鋼加工物22、24を継手の形に配置するステップを含む。加工物22、24は、0.4mmなどの所定の間隙32(図2を参照)だけ互いに間隔を空けることが好ましい。ここで図3を参照すると、次に、この方法は、レーザー光線34を用いて、第1及び第2の加工物22、24の材料と、ニッケル粉及び/又は鉄粉30とを溶解させるステップに進む。溶解ステップ中には、二酸化炭素及び/又はアルゴンなどのシールドガス36を用いて溶解領域を大気気体から保護することが好ましい。冷却時には、これらの加工物22、24の鋼とニッケル及び/又は鉄が、ケイ酸塩アイランドを実質的に全く伴わない非常に硬質な溶接線26を形成する。
【0023】
レーザー光線34、ニッケル粉及び/又は鉄粉30及びシールドガス36は、図2及び図3に示すLMDヘッド38などの単一のLMDヘッド38から全て同時に放出されることが好ましい。このLMDヘッド38は、所望の溶接線26が形成されるまで第1及び第2の加工物22、24の材料とニッケル粉及び/又は鉄粉30とを溶解させるように、第1の加工物22と第2の加工物24の間の接合部に沿って加工物22、24に対して移動させることができ、又は加工物22、24をLMDヘッド38に対して移動させることもできる。結果として得られる溶接線26は、他の既知の方法を通じて形成された溶接線よりも硬質とすることができる。
【0024】
再び図1を参照して分かるように、次に、この方法は、ニッケル及び/又は鉄を含む溶接線26の少なくとも一部上を含む加工物22、24上に、塗装、リン酸塩処理及び電着のうちの少なくとも1つを通じてコーティング28を適用するステップに進む。溶接線26は、ケイ酸塩アイランドを実質的に全く伴わないので、コーティング28と溶接線26の間の結合は非常に強力である。この方法は、加工物22、24を接合した後であって溶接線26上にコーティング28を塗装、リン酸塩処理又は電着する前に材料摩耗又は化学処理を必要としないので、特に効率的であり、コスト効果が高い。
【0025】
上記の教示に照らして、本発明の多くの修正及び変更が可能であるとともに、具体的に説明した以外の方法で添付の特許請求の範囲から逸脱せずにこれらの修正及び変更を実施できることが明らかである。
【符号の説明】
【0026】
22 第1の加工物
24 第2の加工物
26 溶接線
30 ニッケル粉及び/又は鉄粉
34 レーザー光線
36 シールドガス
38 LMDヘッド
図1
図2
図3