特許第6368332号(P6368332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368332
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】フィルタおよびデュプレクサ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/64 20060101AFI20180723BHJP
   H03H 9/145 20060101ALI20180723BHJP
   H03H 9/72 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   H03H9/64 Z
   H03H9/145 D
   H03H9/72
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-42817(P2016-42817)
(22)【出願日】2016年3月4日
(65)【公開番号】特開2017-158160(P2017-158160A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2017年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】山内 基
(72)【発明者】
【氏名】川内 治
【審査官】 吉田 美彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−025183(JP,A)
【文献】 特開平10−242799(JP,A)
【文献】 特開2001−267881(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/007475(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/64
H03H 9/145
H03H 9/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられたIDTを有し、入力端子と出力端子との間に直列に接続された複数の直列共振器と、
前記圧電基板上に設けられたIDTを有し、前記入力端子と前記出力端子との間の線路に対し並列に接続された1または複数の並列共振器と、
前記圧電基板上に設けられ、前記複数の直列共振器のうち最も反共振周波数の高い直列共振器である第1共振器の弾性波の伝搬方向に設けられた第1バンプを含む1または複数のバンプと、
前記圧電基板の弾性波の伝搬方向の線熱膨張係数より小さい線熱膨張係数を有し、前記1または複数のバンプを用い前記圧電基板をフリップチップ実装する実装基板と、
を具備し、
前記第1共振器は前記複数の直列共振器のうち一部の直列共振器と反共振周波数が異なり、前記一部の直列共振器の少なくとも1つの直列共振器の前記弾性波の伝搬方向には前記1または複数のバンプは設けられていないフィルタ。
【請求項2】
前記一部の直列共振器のいずれにおいても前記弾性波の伝搬方向には前記1または複数のバンプは設けられていない請求項1記載のフィルタ。
【請求項3】
圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられたIDTを有し、入力端子と出力端子との間に直列に接続された1または複数の直列共振器と、
前記圧電基板上に設けられたIDTを有し、前記入力端子と前記出力端子との間の線路に対し並列に接続された複数の並列共振器と、
前記複数の並列共振器のうち最も共振周波数の低い並列共振器である第1共振器の弾性波の伝搬方向に設けられた第1バンプを含む1または複数のバンプと、
前記圧電基板の弾性波の伝搬方向の線熱膨張係数より小さい線熱膨張係数を有し、前記1または複数のバンプを用い前記圧電基板をフリップチップ実装する実装基板と、を具備し、
前記第1共振器は前記複数の並列共振器のうち一部の並列共振器と共振周波数が異なり、前記一部の並列共振器の少なくとも1つの並列共振器の前記弾性波の伝搬方向には前記1または複数のバンプは設けられていないフィルタ。
【請求項4】
前記一部の並列共振器のいずれにおいても前記弾性波の伝搬方向には前記1または複数のバンプは設けられていない請求項3記載のフィルタ。
【請求項5】
圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられたIDTを有し、入力端子と出力端子との間に直列に接続された複数の直列共振器と、
前記圧電基板上に設けられたIDTを有し、前記入力端子と前記出力端子との間の線路に対し並列に接続された複数の並列共振器と、
前記圧電基板上に設けられ、前記複数の直列共振器のうち最も反共振周波数の高い直列共振器と、前記複数の並列共振器のうち最も共振周波数の低い並列共振器と、である第1共振器の各々の弾性波の伝搬方向に設けられた第1バンプを含む1または複数のバンプと、
前記圧電基板の弾性波の伝搬方向の線熱膨張係数より小さい線熱膨張係数を有し、前記1または複数のバンプを用い前記圧電基板をフリップチップ実装する実装基板と、
を具備し、
前記複数の直列共振器のうち少なくとも1つは他の直列共振器と共振周波数が異なり、
前記複数の並列共振器のうち少なくとも1つは他の並列共振器と共振周波数が異なり、
前記第1共振器は、前記複数の直列共振器と前記複数の並列共振器とにそれぞれ設けられ、
前記複数の直列共振器のうち前記第1共振器以外の直列共振器の前記弾性波の伝搬方向には前記1または複数のバンプはいずれも設けられておらず、
前記複数の並列共振器のうち前記第1共振器以外の並列共振器の前記弾性波の伝搬方向には前記1または複数のバンプはいずれも設けられていないフィルタ。
【請求項6】
前記第1バンプは前記第1共振器の前記弾性波の伝搬方向の両側に設けられている請求項1からいずれか一項記載のフィルタ。
【請求項7】
前記第1バンプは、前記第1共振器の開口の弾性波の伝搬方向に設けられている請求項1からのいずれか一項記載のフィルタ。
【請求項8】
前記第1バンプと前記第1共振器との距離は、前記1または複数のバンプのうち前記第1共振器以外の第2共振器の弾性波の伝搬方向に設けられた第2バンプと前記第2共振器との距離より小さい請求項1からのいずれか一項記載のフィルタ。
【請求項9】
前記第1共振器は、前記1または複数の直列共振器と前記1または複数の並列共振器のうち前記第1共振器以外の第2共振器と弾性波の伝搬方向が異なる請求項記載のフィルタ。
【請求項10】
前記第1バンプは、ダミーまたはグランドに接続されていることを特徴とする請求項1からのいずれか一項記載のフィルタ。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項記載のフィルタを含むデュプレクサ。
【請求項12】
請求項5に記載のフィルタを含み、
共通端子と第1端子との間に接続された第1フィルタと、
前記第1フィルタの通過帯域より高い通過帯域を有し、前記共通端子と第2端子との間に接続された第2フィルタと、
を具備し、
前記第1フィルタが前記フィルタのとき、前記第1共振器は直列共振器であり、
前記第2フィルタが前記フィルタのとき、前記第1共振器は並列共振器であるデュプレクサ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタおよびデュプレクサに関し、例えばラダー型フィルタおよびデュプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
弾性波デバイスを用いた弾性波フィルタは、例えば移動多通信用のデュプレクサに用いられている。弾性波フィルタとして、例えば弾性表面波フィルタが用いられる。弾性表面波フィルタには、圧電基板上に弾性表面波を励振するIDT(Interdigital Transducer)が形成されている。弾性波フィルタが形成されたチップをバンプを用い基板にフリップチップ実装することが知られている(特許文献1から4)。バンプをチップの放熱に用いることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−184690号公報
【特許文献2】特開2006−042007号公報
【特許文献3】特開2000−196407号公報
【特許文献4】特開2007−116628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧電基板は、線熱膨張係数が大きい。このため、温度が変化すると、フィルタの通過帯域等の周波数が変化してしまう。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、周波数の温度依存性を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、圧電基板と、前記圧電基板上に設けられたIDTを有し、入力端子と出力端子との間に直列に接続された複数の直列共振器と、前記圧電基板上に設けられたIDTを有し、前記入力端子と前記出力端子との間の線路に対し並列に接続された1または複数の並列共振器と、前記圧電基板上に設けられ、前記複数の直列共振器のうち最も反共振周波数の高い直列共振器である第1共振器の弾性波の伝搬方向に設けられた第1バンプを含む1または複数のバンプと、前記圧電基板の弾性波の伝搬方向の線熱膨張係数より小さい線熱膨張係数を有し、前記1または複数のバンプを用い前記圧電基板をフリップチップ実装する実装基板と、を具備し、前記第1共振器は前記複数の直列共振器のうち一部の直列共振器と反共振周波数が異なり、前記一部の直列共振器の少なくとも1つの直列共振器の前記弾性波の伝搬方向には前記1または複数のバンプは設けられていないフィルタである。
【0009】
本発明は、圧電基板と、前記圧電基板上に設けられたIDTを有し、入力端子と出力端子との間に直列に接続された複数の直列共振器と、前記圧電基板上に設けられたIDTを有し、前記入力端子と前記出力端子との間の線路に対し並列に接続された複数の並列共振器と、前記圧電基板上に設けられ、前記複数の直列共振器のうち最も反共振周波数の高い直列共振器と、前記複数の並列共振器のうち最も共振周波数の低い並列共振器と、である第1共振器の各々の弾性波の伝搬方向に設けられた第1バンプを含む1または複数のバンプと、前記圧電基板の弾性波の伝搬方向の線熱膨張係数より小さい線熱膨張係数を有し、前記1または複数のバンプを用い前記圧電基板をフリップチップ実装する実装基板と、を具備し、前記複数の直列共振器のうち少なくとも1つは他の直列共振器と共振周波数が異なり、前記複数の並列共振器のうち少なくとも1つは他の並列共振器と共振周波数が異なり、前記第1共振器は、前記複数の直列共振器と前記複数の並列共振器とにそれぞれ設けられ、前記複数の直列共振器のうち前記第1共振器以外の直列共振器の前記弾性波の伝搬方向には前記1または複数のバンプはいずれも設けられておらず、前記複数の並列共振器のうち前記第1共振器以外の並列共振器の前記弾性波の伝搬方向には前記1または複数のバンプはいずれも設けられていないフィルタである
【0010】
上記構成において、前記第1バンプは前記第1共振器の前記弾性波の伝搬方向の両側に設けられている構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第1バンプは、前記第1共振器の開口の弾性波の伝搬方向に設けられている構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記第1バンプと前記第1共振器との距離は、前記1または複数のバンプのうち前記第1共振器以外の第2共振器の弾性波の伝搬方向に設けられた第2バンプと前記第2共振器との距離より小さい構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記第1共振器は、前記1または複数の直列共振器と前記1または複数の並列共振器のうち前記第1共振器以外の第2共振器と弾性波の伝搬方向が異なる構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記第1バンプは、ダミーまたはグランドに接続されている構成とすることができる。
【0015】
本発明は上記フィルタを含むデュプレクサである。
【0016】
上記構成において、共通端子と第1端子との間に接続された第1フィルタと、前記第1フィルタの通過帯域より高い通過帯域を有し、前記共通端子と第2端子との間に接続された第2フィルタと、を具備し、前記第1フィルタが前記フィルタのとき、前記第1共振器は直列共振器であり、前記第2フィルタが前記フィルタのとき、前記第1共振器は並列共振器である構成とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、周波数の温度依存性を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1(a)および図1(b)は、シミュレーションに用いたサンプルの断面図である。
図2図2(a)から図2(d)は、シミュレーションしたサンプルA1からA4およびB1からB4の平面図である。
図3図3(a)から図3(c)は、シミュレーションしたサンプルA5からA7およびB5からB7の平面図である。
図4図4は、サンプルA1からA7における線熱膨張係数を示す図である。
図5図5は、サンプルB1からB7における線熱膨張係数を示す図である。
図6図6は、実施例1に用いられるチップの平面図である。
図7図7(a)および図7(b)は、図6のA−A断面図である。
図8図8(a)は、実施例1で用いる共振器の平面図、図8(b)は、図8(a)のA−A断面図である。
図9図9は、実施例1における各共振器の減衰特性を示す図である。
図10図10は、実施例1の変形例1に用いられるチップの平面図である。
図11図11は、実施例1の変形例2に用いられるチップの平面図である。
図12図12は、実施例1の変形例3に用いられるチップの平面図である。
図13図13は、実施例1の変形例4に用いられるチップの平面図である。
図14図14は、実施例2に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
周波数の温度係数(TCF:Temperature Coefficient of Frequency)は、線熱膨張係数(TEC:Thermal Expansion Coefficient)と位相速度の温度係数(TCV:Temperature Coefficient of Velocity)との和で定まる。そこで、線熱膨張係数に着目した。バンプ等の突起電極を用い、周波数の温度係数を0に近づける(すなわち絶対値を小さくする)ことを検討した。
【0020】
図1(a)および図1(b)は、シミュレーションに用いたサンプルの断面図である。図1(a)に示すように、サンプルAでは、チップ11は主に圧電基板10を備えている。実装基板20上にチップ11がバンプ22を用いフリップチップ実装されている。バンプ22と実装基板20とは、互いに接合されている。圧電基板10の厚さは厚さT11である。図1(b)に示すように、サンプルBでは、チップ11は主に圧電基板10および支持基板28を備えている。圧電基板10は支持基板28の上面(図1(b)では下面)に貼り付けられている。圧電基板10および支持基板28の厚さはそれぞれT12およびT13である。その他の構成は、サンプルAと同じであり、説明を省略する。
【0021】
サンプルAおよびBについて、以下のサンプルA1からA7、およびサンプルB1からB7の線熱膨張係数をシミュレーションした。図2(a)から図3(c)は、シミュレーションしたサンプルA1からA7およびB1からB7の平面図である。図2(a)に示すように、チップ11は、長さL1の短辺および長さL2の長辺を有する。チップ11の短辺方向をX方向、長辺方向をY方向、チップ11上面の法線方向をZ方向とする。なお、X方向、Y方向およびZ方向は圧電基板10の結晶方位のX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向とは必ずしも一致しない。領域23は、他のサンプルでバンプ22を形成しているが、このサンプルではバンプ22を形成していない領域である。線熱膨張係数をシミュレーションするためのポイントは、チップ11の中心のポイント50aと、中心から−X方向に距離L3のポイント50bと、中心から+X方向に距離L3のポイント50cである。ポイント50aから50cは、圧電基板10上に形成されたIDTを想定している。サンプルA1およびB1では、チップ11上面にバンプは形成されていない。
【0022】
図2(b)に示すように、サンプルA2およびB2では、バンプ22が形成されている。バンプ22は、ポイント50aから50cの周辺には設けられていない。その他の構成は、図2(a)と同じであり説明を省略する。図2(c)に示すように、サンプルA3およびB3では、ポイント50bの−X方向に距離L4の位置にバンプ22aが設けられている。ポイント50cの+X方向にはバンプは設けられていない。その他の構成は、図2(b)と同じであり説明を省略する。図2(d)に示すように、サンプルA4およびB4では、ポイント50cの+X方向に距離L4の位置にバンプ22bが設けられている。ポイント50bの−X方向にはバンプは設けられていない。その他の構成は、図2(b)と同じであり説明を省略する。
【0023】
図3(a)に示すように、サンプルA5およびB5では、ポイント50bの−X方向に距離L4および−Y方向に距離L5の位置にバンプ22aが設けられている。ポイント50cの+X方向に距離L4および−Y方向に距離L5の位置にバンプ22bが設けられている。その他の構成は、図2(b)と同じであり説明を省略する。図3(b)に示すように、サンプルA6およびB6では、ポイント50bの−X方向に距離L4および−Y方向に距離L6の位置にバンプ22aが設けられている。ポイント50cの+X方向に距離L4および−Y方向に距離L6の位置にバンプ22bが設けられている。その他の構成は、図2(b)と同じであり説明を省略する。図3(c)に示すように、サンプルA7およびB7では、ポイント50bの−X方向に距離L4の位置にバンプ22aが設けられている。ポイント50cの+X方向に距離L4の位置にバンプ22bが設けられている。その他の構成は、図2(b)と同じであり説明を省略する。
【0024】
シミュレーションの条件を以下に示す。
圧電基板10:42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板
ヤング率 :254Gpa
ポアソン比:0.21
線熱膨張係数:16.1ppm/℃(X方向)、9.5ppm(Y方向)/℃、10.7ppm/℃(Z方向)
支持基板28:サファイア基板
ヤング率:470GPa
ポアソン比:0.245
線熱膨張係数:7.35ppm/℃
サンプルAの圧電基板10の厚さT11:0.28mm
サンプルBの圧電基板10の厚さT12:0.03mm
サンプルBの支持基板28の厚さT13:0.25mm
チップ11の短辺の長さL1:0.88mm
チップ11の長辺の長さL2:1.03mm
実装基板20の線熱膨張係数:0ppm/℃
バンプ22:Au層(膜厚:12.5μm)
バンプ22の径:75μm
距離L3:0.165mm
距離L4:0.1475mm
距離L5:0.10mm
距離L6:0.05mm
【0025】
温度を−40℃から125℃に変化させ、ポイント50aから50cの距離の変化から線熱膨張係数をシミュレーションした。図4は、サンプルA1からA7における線熱膨張係数を示す図である。各サンプルの線熱膨張係数を以下に示す。
サンプルA1:16.10ppm/℃
サンプルA2:15.35ppm/℃
サンプルA3:14.47ppm/℃
サンプルA4:13.98ppm/℃
サンプルA5:13.12ppm/℃
サンプルA6:12.83ppm/℃
サンプルA7:12.61ppm/℃
【0026】
図4に示すように、バンプ22が設けられていないサンプルA1の線熱膨張係数は圧電基板10のX方向の線熱膨張係数となる。サンプルA2のように、バンプ22が形成されると、線熱膨張係数はサンプルA1より若干小さくなる。サンプルA3およびA4のように、バンプ22aおよび22bのいずれかが、ポイント50bおよび50cのX方向に設けられると、線熱膨張係数がサンプルA2より小さくなる。サンプルA3とA4で線熱膨張係数が異なるのは、バンプ22aおよび22b以外のバンプ22の配置がX方向に対称でないためと考えられる。サンプルA5からA7のように、バンプ22aおよび22bの両方が設けられると、線熱膨張係数は、サンプルA3およびA4より小さくなる。サンプルA5およびA6のように、バンプ22aおよび22bはポイント50bおよび50cのX方向からY方向にずれて設けられていてもよい。バンプ22aおよび22bのY方向のずれ(距離L5およびL6)が小さい方が線熱膨張係数は小さくなる。
【0027】
図5は、サンプルB1からB7における線熱膨張係数を示す図である。各サンプルの線熱膨張係数を以下に示す。
サンプルB1:9.55ppm/℃
サンプルB2:9.31ppm/℃
サンプルB3:8.95ppm/℃
サンプルB4:8.65ppm/℃
サンプルB5:8.30ppm/℃
サンプルB6:8.17ppm/℃
サンプルB7:8.08ppm/℃
【0028】
図5に示すように、サンプルB1からB7は、サンプルA1からA7に比べ線熱膨張係数が小さい。これは、支持基板28の線熱膨張係数が圧電基板10より小さいためである。すなわち、支持基板28により、圧電基板10の表面の熱による伸縮が抑制されるためである。サンプルB1からB7の線熱膨張係数の傾向はサンプルA1からA7と同じである。
【0029】
以上のシミュレーション結果に基づき、実施例として、通過帯域の温度依存性の小さいフィルタを有する弾性波デバイスについて説明する。
【実施例1】
【0030】
図6は、実施例1に用いられるチップの平面図である。図7(a)および図7(b)は、図6のA−A断面図である。図7(a)は、支持基板が設けられていない例であり、図7(b)は、支持基板28上に圧電基板10が貼り付けられた例である。図6および図7(a)に示すように、チップ11において、圧電基板10上に1または複数の直列共振器S1からS4、1または複数の並列共振器P1からP3、配線34および1または複数のバンプ22が設けられている。各共振器は、IDT30とIDT30の両側に設けられた反射器32を備えている。バンプ22は、入力バンプT1、出力バンプT2、グランドバンプTg、バンプ22aおよび22bを含む。チップ11はバンプ22を用い実装基板20にフリップチップ実装(またはフェースダウン実装)されている。これにより、入力バンプT1、出力バンプT2およびグランドバンプTgは、実装基板20上に形成された電極パッド等に電気的に接続される。配線34は、各共振器間、および各共振器とバンプ22間を電気的に接続する。配線34は、Cu(銅)膜、Al(アルミニウム)膜またはAu(金)膜等の金属膜であり、金属膜18(図8(b)参照)を含んでもよい。突起電極であるバンプ22はスタッドAuバンプ、めっき法により形成されたCuピラー、またはAuSn、SnAgCuもしくはSnAg等のはんだボール等でもよい
【0031】
直列共振器S1からS4は、入力バンプT1(すなわち入力端子)と出力バンプT2(すなわち出力端子)との間に、配線34を介し直列に接続されている。並列共振器P1からP3は、入力バンプT1と出力バンプT2との間の線路に対し、配線34を介し並列に接続されている。このように、直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP3はラダー型フィルタとして機能する。直列共振器S3および並列共振器P2のX方向(弾性波の伝搬方向)の両側にバンプ22aおよび22bが形成されている。
【0032】
図8(a)は、実施例1で用いる共振器の平面図、図8(b)は、図8(a)のA−A断面図である。図8(a)および図8(b)に示すように、1ポート共振器では、圧電基板10上にIDT30および反射器32が形成されている。圧電基板10は、例えばニオブ酸リチウム基板またはタンタル酸リチウム基板である。IDT30および反射器32は、圧電基板10に形成された金属膜18により形成される。金属膜18は例えばCu(銅)膜またはAl(アルミニウム)膜である。IDT30は、対向する一対の櫛型電極16を備える。櫛型電極16は、複数の電極指12と、複数の電極指12が接続されたバスバー14を備える。一対の櫛型電極16は、電極指12がほぼ互い違いとなるように、対向して設けられている。IDT30は主に電極指12の配列方向(X方向)に伝搬する弾性波を励振する。弾性波は反射器32により反射される。櫛型電極16における電極指12のピッチは櫛型電極16が励振する弾性波の波長λにほぼ相当する。
【0033】
図9は、実施例1における各共振器の減衰特性を示す図である。図9に示すように、ラダー型フィルタの通過帯域の高周波側の減衰極は、直列共振器S1からS4の反共振点により形成される。通過帯域の低周波側の減衰極は、並列共振器P1からP3の共振点により形成される。通過帯域の高周波側のスカート特性に最も影響するのは直列共振器のうち反共振周波数の最も高い直列共振器S3である。通過帯域の低周波側のスカート特性に最も影響するのは並列共振器のうち共振周波数の最も低い並列共振器P2である。通過帯域の温度依存性を抑制するためには、直列共振器S3および並列共振器P2の温度依存性を小さくすることが有効である。
【0034】
そこで、図6のように、直列共振器S3および並列共振器P2のそれぞれのX方向の両側にバンプ22aおよび22bを設ける。これにより、サンプルA7およびB7と同様に、直列共振器S3および並列共振器P2における線熱膨張係数が小さくなる。直列共振器S3および並列共振器P2のTCFが抑制される。よって、通過特性のスカート特性の温度依存が小さくなり、通過地域の温度依存が小さくなる。
【0035】
反共振周波数と共振周波数との間隔は共振器によって変わらない。よって、直列共振器S3は直列共振器S1からS4のうち共振周波数の最も高い直列共振器ともいえる。また、並列共振器P2は並列共振器P1からP3のうち反共振周波数の最も低い並列共振器ともいえる。
【0036】
サンプルA1からA7およびB1からB7を用いた実験では実装基板20の線熱膨張係数を0と仮定した。実施例1では、圧電基板10のX方向の線熱膨張係数より小さい線熱膨張係数を有する実装基板20を用いる。例えば、タンタル酸リチウム基板のX方向の線熱膨張係数は16.1ppm/℃である。そこで、実装基板20としてセラミックスを用いる。例えばアルミナを用いたファインセラミックスの線熱膨張係数は7.2ppm/℃である。これにより、共振器における線熱膨張係数を小さくすることができる。実装基板20として、樹脂等の有機材料を用いてもよい。
【0037】
図7(b)の例では、圧電基板10が支持基板28に接合されている。その他の構成は図7(a)と同じであり説明を省略する。支持基板28上に圧電基板10を貼り付けた場合、実装基板20の線熱膨張係数は圧電基板10の線熱膨張係数より小さければ効果があるが、支持基板28の線熱膨張係数より小さいことが好ましい。
【0038】
実施例1によれば、圧電基板10上であって、複数の直列共振器S1からS4のうち最も反共振周波数の高い直列共振器S3(第1共振器)の弾性波の伝搬方向にバンプ22aおよび22bを設ける。複数の並列共振器P1からP3のうち最も共振周波数の低い並列共振器P2(第1共振器)の弾性波の伝搬方向にバンプ22aおよび22bを設ける。これにより、通過帯域の温度特性を抑制できる。バンプ22aおよび22bは、直列共振器S3および並列共振器P2の少なくとも一方に設けられていればよい。
【0039】
直列共振器S1からS4の反共振周波数は全て同じでもよい。この場合、バンプ22aおよび22bは直列共振器S1からS4の少なくとも1つのX方向に設けられていればよい。また、並列共振器P1からP3の共振周波数は全て同じでもよい。この場合、バンプ22aおよび22bは並列共振器P1からP3の少なくとも1つのX方向に設けられていればよい。
【0040】
直列共振器S1からS4のうち少なくとも1つは他の直列共振器と反共振周波数が異なっていてもよい。この場合、バンプ22aおよび22bは最も反共振周波数の高い直列共振器S3のX方向に設けられていればよい。並列共振器P1からP3のうち少なくとも1つは他の並列共振器と共振周波数が異なっていてもよい。この場合、バンプ22aおよび22bは最も共振周波数の低い並列共振器P2のX方向に設けられていればよい。
【0041】
直列共振器S1からS4のうち一部の直列共振器S1、S2またはS4のX方向にはバンプ22aおよび22bは設けなくてもよい。並列共振器P1からP3のうち一部の並列共振器P1およびP2のX方向にはバンプ22aおよび22bは設けなくてもよい。これらにより、バンプ22の数を減らすことができる。よって、チップ11の面積を小さくできる。
【0042】
反共振周波数の高い直列共振器S3と最も共振周波数の低い並列共振器P2との両方にバンプ22aおよび22bが設けられている場合、直列共振器S3以外の直列共振器S1、S2およびS4の弾性波の伝搬方向にはバンプ22aおよび22bを設けず、並列共振器P2以外の並列共振器P1およびP3の弾性波の伝搬方向にはバンプ22aおよび22bを設けないことが好ましい。これにより、通過地域の温度依存が小さくなり、かつチップ11の面積を小さくできる。
【0043】
サンプルA3、A4、B3およびB4のように、バンプ22aおよび22bはいずれか一方のみが設けられていてもよい。サンプルA7およびB7のように、より線熱膨張係数を小さくするため、バンプ22aおよび22bは直列共振器S3および並列共振器P2のX方向の両側に設けられていることが好ましい。
【0044】
バンプ22aおよび22bは、並列共振器P2に対応するバンプ22bのようにグランドバンプでもよい。バンプ22aおよび22bは、他のバンプ22aおよび22bのようにダミーバンプでもよい。グランドバンプはグランドに電気的に接続されるバンプである。グランドバンプとグランドとの間にグランド配線が設けられている。熱は配線を介し伝導しやすい。そこで、バンプ22aおよび22bの少なくとも1つをグランドバンプとすることで、放熱性を高めることができる。ダミーバンプは、グランド配線または信号配線と接続されておらず、電気的にフローティングである。よって、バンプ22aおよび22bの少なくとも1つをダミーとすることで、バンプと共振器等の干渉を抑制できる。
【0045】
(実施例1の変形例1)
図10は、実施例1の変形例1に用いられるチップの平面図である。図10に示すように、直列共振器S3および並列共振器P2に加え、並列共振器P3のX方向にもバンプ22bが設けられている。直列共振器S3と並列共振器P3はバンプ22bを共有している。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0046】
実施例1の変形例1のよう、バンプ22aおよび22bは、並列共振器P1からP3のうち複数の並列共振器P2およびP3に設けられていてもよい。直列共振器においても複数の直列共振器にバンプ22aおよび22bが設けられていてもよい。また、複数の共振器でバンプ22aまたは22bを共有してもよい。
【0047】
(実施例1の変形例2)
図11は、実施例1の変形例2に用いられるチップの平面図である。図11に示すように、直列共振器S3および並列共振器P2のX方向に延伸する中線54に対しバンプ22aおよび22bが−Y方向にシフトして設けられている。その他の構成は実施例1と同じであり、説明を省略する。
【0048】
サンプルA5、A6、B5およびB6のように、バンプ22aおよび22bは、共振器の中心線からY方向にずれていてもよい。平面視においてバンプ22aおよび22bの少なくとも一部はX方向からみて共振器と重なることが好ましい。また、バンプ22aおよび22bの少なくとも一部はX方向からみて共振器の開口(IDTにおいて電極指が重なる領域)と重なることがより好ましい。さらに、バンプ22aおよび22bの少なくとも一部は共振器のX方向に延伸する中心線と重なることがさらに好ましい。
【0049】
(実施例1の変形例3)
図12は、実施例1の変形例3に用いられるチップの平面図である。図12に示すように、直列共振器S3のX方向に位置するバンプ22aおよび22bの平面視形状は楕円形である。並列共振器P2のX方向に位置するバンプ22aおよび22bの平面視形状は矩形である。その他の構成は実施例1と同じであり、説明を省略する。
【0050】
実施例1の変形例3のように、バンプの形状は任意に設定できる。バンプ22aおよび22bをスタッドバンプすると、平面視形状は円状となる。はんだボールを用いると、バンプ22aおよび22bは球状となる。メッキバンプを用いると、平面視の形状を任意にすることができる。
【0051】
(実施例1の変形例4)
図13は、実施例1の変形例4に用いられるチップの平面図である。図13に示すように、並列共振器P3の弾性波の伝搬方向はY方向である。並列共振器P3のY方向にバンプ22aおよび22bが設けられている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0052】
実施例1の変形例4のように、共振器の少なくとも1つは弾性波の伝搬方向が異なっていてもよい。YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板を用いると、圧電基板10の上面のうちX方向(X軸方向)の線熱膨張係数が最も大きい。例えば、並列共振器P3が並列共振器P1からP3のうち最も共振周波数が低いとき、並列共振器P3の弾性波の伝搬方向をY方向とすると、線熱膨張係数が小さくなる。さらに、共振器のY方向にバンプ22aおよび22bを設ける。これにより、線熱膨張係数がより小さくなる。このように、より周波数の温度依存性を小さくする共振器(例えば並列共振器P3)の弾性波の伝搬方向を、直列共振器S1からS4および並列共振器P1およびP3のうち並列共振器P3以外の共振器(第2共振器)と異ならせ、かつバンプ22aおよび22bを設けてもよい。
【0053】
バンプ22aおよび22bは、温度依存性を抑制する共振器に最も近いことが好ましい。すなわち、反共振周波数の最も高い直列共振器S3に最も近いバンプ22aおよび22bと直列共振器S3との距離は、直列共振器S3以外の直列共振器S1、S2またはS4(第2共振器)に最も近いバンプ22(第2バンプ)と直列共振器S1、S2またはS4との距離より小さい。また、共振周波数の最も低い並列共振器P2に最も近いバンプ22aおよび22bと並列共振器P2との距離は、並列共振器P2以外の並列共振器P1またはP3(第2共振器)に最も近いバンプ22(第2バンプ)と並列共振器P1またはP3との距離より小さい。これにより、通過帯域の温度依存性に最も影響する共振器の線熱膨張係数を低減できる。
【0054】
実施例1およびその変形例における直列共振器および並列共振器の個数は適宜設定できる。チップ11に1つのフィルタを形成する例を説明したが、チップ11に複数のフィルタを形成してもよい。弾性波として弾性表面波を用いる例を説明したが、弾性境界波またはラブ波を用いてもよい。
【実施例2】
【0055】
実施例2はデュプレクサの例である。図14は、実施例2に係るデュプレクサの回路図である。図14に示すように、共通端子Antと送信端子Tx(第1端子)との間に送信フィルタ44(第1フィルタ)が接続されている。共通端子Antと受信端子Rx(第2端子)との間に受信フィルタ46(第2フィルタ)が接続されている。送信フィルタ44は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ46は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ44および受信フィルタ46の少なくとも一方を実施例1およびその変形例のフィルタとすることができる。
【0056】
例えば、受信フィルタ46の通過帯域が送信フィルタ44の通過帯域より周波数が高い。受信フィルタ46の通過帯域と送信フィルタ44の通過帯域との間はガードバンドである。通過帯域のうちガードバンド側のスカート特性の温度変化は小さいことが好ましい。よって、送信フィルタ44においては、最も反共振周波数の高い直列共振器の弾性波の伝搬方向にバンプ22aおよび22bを設けることが好ましい。受信フィルタ46においては、最も共振周波数の低い並列共振器の弾性波の伝搬方向にバンプ22aおよび22bを設けることが好ましい。
【0057】
第1フィルタとして送信フィルタ44、第2フィルタとして受信フィルタ46の例を説明したが、第1フィルタが受信フィルタ46、第2フィルタが送信フィルタ44でもよい。
【0058】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 圧電基板
16 櫛型電極
18 金属膜
20 実装基板
22 バンプ
28 支持基板
30 IDT
32 反射器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14