特許第6368346号(P6368346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6368346マグネシウムカルボキシレート混合物からのカルボン酸回収
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368346
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】マグネシウムカルボキシレート混合物からのカルボン酸回収
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/02 20060101AFI20180723BHJP
   C07C 59/08 20060101ALI20180723BHJP
   C07C 55/10 20060101ALI20180723BHJP
   C07C 51/47 20060101ALI20180723BHJP
   B01J 39/02 20060101ALI20180723BHJP
   B01J 39/05 20170101ALI20180723BHJP
   B01J 39/09 20170101ALI20180723BHJP
   B01J 39/18 20170101ALI20180723BHJP
   B01J 47/02 20170101ALI20180723BHJP
   B01J 49/12 20170101ALI20180723BHJP
   B01J 49/53 20170101ALI20180723BHJP
   C12P 7/56 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C07C51/02
   C07C59/08
   C07C55/10
   C07C51/47
   B01J39/02
   B01J39/05
   B01J39/09
   B01J39/18
   B01J47/02
   B01J49/12
   B01J49/53
   C12P7/56
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-222907(P2016-222907)
(22)【出願日】2016年11月16日
(62)【分割の表示】特願2015-513178(P2015-513178)の分割
【原出願日】2013年5月23日
(65)【公開番号】特開2017-71621(P2017-71621A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2016年12月5日
(31)【優先権主張番号】12169359.2
(32)【優先日】2012年5月24日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/651,040
(32)【優先日】2012年5月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504421730
【氏名又は名称】ピュラック バイオケム ビー. ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】ディルク アドリアーン コン
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ バニエール デ ハーン
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス ロドゥヴィカス パウルス ファン デル ウェイデ
(72)【発明者】
【氏名】タンジャ デキック ジブコヴィック
(72)【発明者】
【氏名】ヨゼフ リーンダー ヘンリ ルシアン デ コニンク
【審査官】 高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/153886(WO,A1)
【文献】 特開昭60−217897(JP,A)
【文献】 国際公開第00/017378(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/082378(WO,A1)
【文献】 特表2001−506585(JP,A)
【文献】 特表2008−502657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/02
B01J 39/02
B01J 39/05
B01J 39/09
B01J 39/18
B01J 47/02
B01J 49/12
B01J 49/53
C07C 51/47
C07C 55/10
C07C 59/08
C12P 7/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムカルボキシレート含有水性混合物からカルボン酸を回収する方法であって、
炭水化物源を微生物によって発酵ブロス中で発酵させてカルボン酸を形成する工程、及び、該カルボン酸の少なくとも一部をマグネシウム塩基の添加により中和し、それによりマグネシウムカルボキシレート塩を含む発酵媒体を形成する工程と、
固形物が除去される工程に該発酵媒体を付して、水性混合物を形成する工程と、
該水性混合物を酸性イオン交換体と接触させ、それによりカルボン酸混合物と、マグネシウムイオンを負わされたイオン交換体とを形成する工程;そして
マグネシウムイオンを負わされた該イオン交換体を塩化水素酸溶液と接触させ、それにより塩化マグネシウム溶液を形成する工程;そして
該塩化マグネシウム溶液を少なくとも300℃の温度で熱分解し、それにより酸化マグネシウム(MgO)及び塩化水素(HCl)を形成する工程
を含む前記方法。
【請求項2】
該HClを水に溶解し、それによりHCl溶液を得ること;及び、
該MgOを水と接触させ、それによりMg(OH)2を得ること
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
MgO及び/又はMg(OH)2が、特には中和剤として又はその前駆物としての、発酵プロセスにおける使用のために再循環される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該カルボン酸混合物の少なくとも一部が、該水性混合物へ戻し供給される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
マグネシウムイオンを負わされた該イオン交換体が、該塩化水素酸溶液と接触される前に、水により洗浄される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
該酸性イオン交換体が、強酸性であり、且つ、1又はそれより多くのスルホン酸基及び/又はホスホン酸基を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
該酸性イオン交換体が、固形の酸性イオン交換体、好ましくはポリマー状イオン交換樹脂である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
該イオン交換工程がイオン交換カラムにおいて行われる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
該イオン交換工程が、ポリマー状イオン交換樹脂ビーズの流動床又は疑似移動床において行われる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
該酸性イオン交換体が液状の酸性イオン交換体である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
該酸性イオン交換体が、1又はそれより多くのスルホン酸基及び/又はホスホン酸基を有する有機化合物であり、該有機化合物が14又はそれより多いが40に等しい又はそれより少ない炭素原子を好ましくは有し、該酸性イオン交換体が任意的に疎水性溶媒中に溶解されている、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
該カルボン酸が、乳酸、コハク酸、プロピオン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、クエン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、アクリル酸、レブリン酸、マレイン酸、テレフタル酸、2,5-フランジカルボン酸、ラクチル酸、及び脂肪酸からなる群から選ばれる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
該水性混合物の合計重量に対して、該水性混合物の少なくとも99重量%、より好ましくは少なくとも99.9重量%が液状の形又は溶解した形にある、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
該水性混合物を該酸性カチオン交換体と接触させることが、少なくとも40℃、より好ましくは少なくとも70℃、さらにより好ましくは少なくとも100℃の温度で行われる、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウムカルボキシレート含有水性混合物からカルボン酸を回収する為の方法に向けられる。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸、例えば乳酸、コハク酸、及びプロピオン酸など、は微生物による炭水化物の発酵により製造されうる。そのような発酵方法において、炭水化物源は典型的には、微生物により発酵されてカルボン酸を形成する。該炭水化物源が発酵されるところの液は、発酵ブロス又は発酵培地と呼ばれる。
【0003】
発酵の間のカルボン酸の形成は、発酵ブロスのpHの減少を結果する。そのようなpH減少は微生物の代謝プロセスを害しうるので、pHを中和する為に又は微生物にとって最適なpH値を維持する為に、中和剤、すなわち塩基を発酵培地中に添加することが一般的なプラクティスである。結果として、発酵培地中に製造されたカルボン酸は典型的には、カルボキシレート塩の形で存在する。酸性環境にある程度抵抗性である微生物がおり、その結果発酵が低いpH(例えば3のpH)で行われうるけれども、これらの方法においてさえ、該カルボン酸の少なくとも一部が、カルボキシレート塩として得られる。
【0004】
発酵後に該カルボン酸を該発酵ブロスから回収する為に、下流の処理が要求される。そのような処理において、該発酵ブロス中の該カルボキシレート塩は、カルボン酸に転化される必要がある。また、該カルボン酸(又は、もしまだ転化されないならば、カルボキシレート)が、該発酵ブロスから分離される必要がある。発酵ブロスは、相当な量のバイオマス(例えば微生物)及び塩(該中和剤に由来する)を含む多くの化合物を含むので、カルボン酸を回収すること及び分離することはかなり複雑になり得、典型的には、複数の処理を要求し、及び、廃棄物質、特には塩廃棄物をもたらす。
【0005】
国際公開第00/17378号パンフレットは、乳酸の調製に向けられ、及び、そのような処理工程の例を示す。その方法は、発酵反応において乳酸カルシウム又は乳酸マグネシウムを得、ブロスをバイオマスから分離する工程(1)、該ブロスを塩化水素酸により酸性化して乳酸と塩化マグネシウム若しくは塩化カルシウムの濃厚溶液とを産する工程(2)、該酸性化ブロスから得られた、乳酸と塩化マグネシウム若しくは塩化カルシウムとを含む該溶液を濃厚にする工程(3)、該乳酸を該乳酸含有溶液から、液−液抽出により分離する工程(4)、溶媒回収(5)、吸着精製(6)、濃厚化(7)、そして、塩化マグネシウムと水とを反応させて、酸化マグネシウム粉末と塩化水素酸とを産する熱加水分解工程(8)、クエンチングにより該酸化マグネシウムを水和する工程、すなわち該発酵器に再循環される水酸化マグネシウムを得る工程(10)、そして水による該HCLの吸収(11)を含む。
【0006】
国際公開第00/17378号パンフレットに記載された方法の不利な点は、該酸化マグネシウムの汚染が、該熱加水分解工程において起こりうることである。該抽出工程において得られた該塩化マグネシウム溶液は典型的には、不純物、特には発酵プロセスに由来する不純物、例えば糖、タンパク質、及び塩など、を含む。そのような不純物が、該熱加水分解工程の間に該塩化マグネシウム溶液中に存在するならば、それらは形成された該酸化マグネシウムを汚染しうる。
【0007】
国際公開第00/17378号パンフレットに記載された方法のさらなる不利点は、該熱加水分解工程が、ラクテートの灰化に起因する産物喪失を結果しうることである。抽出の間、少量のラクテート塩が典型的には、該水性相中に残ったままであり、そして、該熱加水分解工程において処理されるべき該塩化マグネシウム溶液中にいきつくであろう。そのようなラクテート塩は回収の間に失われる。というのも、それは、この工程において用いられる高温下で灰化されるからである。
【0008】
国際公開第00/17378号パンフレットに記載された方法のさらなる不利点は、該マグネシウムの一部及び該クロリドイオンの一部が、該有機相中に抽出されることである。その結果、これらのイオンは、該熱加水分解工程において再循環されない。さらに、これらのイオンは最終的には、該乳酸溶液中に行きつくことがあり、すなわち、より後の段階で、例えば広範な洗浄により、除去される必要があるであろう。
【0009】
国際公開第00/17378号パンフレットに記載された方法のさらなる不利点は、抽出後に得られる該乳酸溶液が、溶媒回収工程後でさえ、抽出のために用いられる該有機溶液により汚染されることである。そのような不純物は、該乳酸溶液の純度を増す為に、除去される必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、特には上記言及された不利点の1又はそれより多くを克服することによって、国際公開第00/17378号パンフレットに記載された再循環工程の効率を増すことである。
【0011】
本発明のより一般的な目的は、マグネシウムカルボキシレート溶液から、高純度を有するカルボン酸を回収する為の方法であって、該マグネシウムイオンが、該カルボキシレート溶液から分離されそして次に非常に効率的な様式で再循環されるところの前記方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの目的の少なくとも一つが、マグネシウムカルボキシレート含有水性混合物からカルボン酸を回収する為の方法であって、
該水性混合物を、酸性イオン交換体と接触させ、それによりカルボン酸混合物とマグネシウムイオンを負わされたイオン交換体を形成する工程;そして
マグネシウムイオンを負わされた該イオン交換体を、塩化水素酸(HCl溶液)と接触させ、それにより塩化マグネシウム溶液を形成する工程;そして
該塩化マグネシウム溶液を少なくとも300℃の温度で熱分解し、それにより酸化マグネシウム及び塩化水素を形成する工程
を含む前記方法によって達成された。
【発明の効果】
【0013】
本発明者らは、該カルボキシレートをカルボン酸に転化する為の抽出の代わりにイオン交換を用いることによって、該水性混合物中に存在する該マグネシウムイオンが、より効率的に再循環されることができることを理解した。第一に、本発明者らは、マグネシウム塩及びカルボン酸の非常に効率的な分離が、イオン交換を用いることにより、特には抽出と比べて、達成されることができることを理解した。また、イオン交換の該処理は、抽出と比べて、該溶液をより汚染しない傾向にあることが分かった。より重要には、該イオン交換体を塩化水素酸により再生することによって、高純度を有し且つ本質的にカルボキシレート又はカルボン酸を有さない塩化マグネシウム溶液が得られることを、本発明者らは発見した。これは、該熱分解工程に関して有利である。第一に、該塩化マグネシウム溶液を熱分解するときに、カルボキシレートが失われないであろう。第二に、該塩化マグネシウム溶液の該高純度により、酸化マグネシウムの汚染が本質的に起こらない。酸化マグネシウムがありうる発酵工程において塩基又はその前駆物として用いられることができ及び塩化水素が該再生工程において用いられることができるので、本発明の方法は、該水性混合物中に存在する該マグネシウムイオンが効率的な様式で再循環されるところの方法を提供する。
【0014】
イオン交換を用いることによりカルボキシレート含有液からカルボン酸を回収することは、当技術分野において、例えば欧州特許出願公開第1 669 459号明細書から知られている。しかしながら、この技術と熱加水分解との組み合わせ、及び、この組み合わせに関連付けられる該有利な効果は認識されていない。
【0015】
欧州特許出願公開第1 660 459号明細書は、コハク酸の塩を含有する液を、H−タイプの強酸性カチオン交換樹脂と接触させ、そして、得られたイオン交換処理された液からコハク酸結晶を沈殿させて、精製されたコハク酸を得る方法を記載する。該塩は、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、コハク酸マグネシウム、コハク酸カルシウム、及びコハク酸アンモニウムから選ばれうる。欧州特許出願公開第1 660 459号明細書は、該塩としてコハク酸マグネシウムを具体的に選択し且つ塩化水素酸により該交換樹脂を再生することによって塩化マグネシウム溶液を得ることにより、マグネシウムが再循環されうることを記載していない。また、欧州特許出願公開第1 660 459号明細書は、熱加水分解について沈黙している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の方法は、マグネシウムカルボキシレート含有水性混合物からカルボン酸を回収することに向けられている。
【0017】
本発明の方法は好ましくは連続的プロセスであるが、バッチプロセスとして行われてもよい。
【0018】
該水性混合物は、懸濁物又は溶液でありうる。しかしながら、該水性混合物は好ましくは水性溶液である。該イオン交換工程がイオン交換カラムにおいて行われる場合、固形分の存在が望ましくないと一般に考えられる。というのも、それは、該カラムのつまりを結果しうるからである。従って、該水性混合物の合計重量に対して、該水性混合物の少なくとも99重量%、より好ましくは該水性混合物の少なくとも99.9重量%が、液状の又は溶解した形で存在する。
【0019】
該水性混合物は、マグネシウムカルボキシレートに加えて、カルボン酸も含みうる。というのも、例えば、それは、低いpHで行われた発酵工程に由来するからである。さらに、該水性混合物は、不純物、特には発酵プロセスに由来する不純物、を含みうる。そのような不純物は、該水性混合物中において可溶性若しくは不溶性でありうる。溶解した不純物の例は、糖、タンパク質、及び塩である。不溶性バイオマス(例えば微生物)及び不溶性塩が不溶性不純物の例である。これらの不純物はすべて、発酵媒体中に典型的には存在しうる。
【0020】
該水性混合物は典型的には、発酵プロセスに由来する。従って、本発明の方法は、該カルボキシレートを形成する為の発酵工程をさらに含んでよく、該発酵プロセスは、炭水化物源を微生物によって発酵ブロス中で発酵させて該カルボン酸を形成する工程、及び、該カルボン酸の少なくとも一部をマグネシウム塩基の添加により中和し、それによりカルボキシレート塩を含む発酵媒体を得る工程を含む。該発酵媒体が、本発明の方法において該水性混合物として用いられうる。しかしながら、固形物(例えばバイオマス又は不溶性糖、例えばオリゴ糖)が好ましくは、該イオン交換工程の前に、該発酵媒体から除去される。固形物を該発酵ブロスから分離するのに適した任意の手段が用いられうる。例えば、分離は、ろ過、遠心及び/又は凝集により行われうる。分離は、該発酵プロセスにおいて得られた該発酵媒体のろ過により行われうる。精密ろ過が、該発酵媒体中に存在する小さな固形粒子を除去するために行われうる。
【0021】
該水性混合物中に存在する該マグネシウムカルボキシレートは原理上は、任意のカルボン酸のマグネシウム塩でありうるが、特には発酵プロセスにおいて調製されうるカルボン酸のマグネシウム塩でありうる。該マグネシウムカルボキシレートは例えば、少なくとも2〜8の炭素原子を含むモノ−、ジ−、又はトリ−カルボン酸のマグネシウム塩(C2-C8カルボキシレート)でありうる。しかしながら、本発明はまた、8超の炭素原子を有するより長いカルボキシレートにとっても適している。該マグネシウムカルボキシレートが、C2-C8カルボキシレートである場合、該カルボキシレートは、ラクテート、サクシネート、プロピオネート、3−ヒドロキシプロピオネート、ヒドロキシブチレート、シトレート、フマレート、イタコネート、アジペート、アクリレート、レブリネート、マレエート、テレフタレート、及び2,5−フランジカルボキシレートからなる群から選ばれうる。よい結果が、マグネシウムラクテート又はマグネシウムサクシネートを用いることにより得られた。しかしながら、マグネシウムカルボキシレートはまた、マグネシウムラクテート以外のマグネシウムカルボキシレートであってもよい。
【0022】
本発明に従う方法において非常によく用いられうるより高級なカルボン酸のマグネシウム塩は、例えば、脂肪酸(脂肪アシレート)のマグネシウム塩及び/又はモノ−及び/又はジ−ラクチレート(脂肪酸のラクチレートエステル)のマグネシウム塩でありうる。該脂肪酸マグネシウム塩及びラクチレート塩は、脂肪酸又は、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びオレイン酸のラクテートエステルのマグネシウム塩及び/又はこれらの混合物から選ばれうる。
【0023】
該水性混合物中に存在するマグネシウムカルボキシレートの含有割合は好ましくは、できる限り高い。例えば、該水性混合物は、該水性混合物の合計重量に対して、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも15重量%、さらにより好ましくは少なくとも20重量%のマグネシウムカルボキシレートを含みうる。該水性混合物は、該マグネシウムカルボキシレートにより飽和されうる。しかしながら、マグネシウムカルボキシレートの濃度は好ましくは、マグネシウムカルボキシレートの沈殿が起こるように高くはない。従って、該水性混合物中の該マグネシウムカルボキシレート含有割合は好ましくは、該水性混合物中の該マグネシウムカルボキシレートの溶解度よりも低い。語「溶解度」は、本明細書内において用いられるときに、或る温度で或る量の水性混合物中に溶解されることができる化合物(この場合においてはマグネシウムカルボキシレート)の最大重量をいう。好ましくは、該水性混合物は、該水性混合物中の該化合物の該溶解度の10重量%以内、より好ましくは5重量%以内であるマグネシウムカルボキシレート濃度を有する。
【0024】
さらに、該水性混合物中に存在するマグネシウムカルボキシレートの含有割合は好ましくは、該水性混合物が該酸性イオン交換体と接触させられるとき(イオン交換工程)に、カルボン酸が沈殿しない又は本質的に沈殿しないように選ばれる。該イオン交換工程の間のカルボン酸の沈殿は望ましくなくありうる。というのも、それは、例えばカラム及び/又は充填された床又は流動床の場合において、この工程において用いられる装置を詰まらせうるからである。当業者は、該イオン交換工程において沈殿が起こらない又は沈殿が許容可能な程度で起こるマグネシウムカルボキシレート最大濃度をどのように決定したらよいかを知っているであろう。
【0025】
本発明の方法は、該水性混合物を酸性イオン交換体と接触させ、それによってカルボン酸溶液混合物(産物混合物とも呼ばれる)及びマグネシウムイオンを負わされたイオン交換体(負わされたイオン交換体とも呼ばれる)を形成する工程を含む。この工程は、イオン交換工程とも呼ばれうる。この工程において、該イオン交換体は、該マグネシウムイオンを結合し、及び、該カルボキシレートをプロトン化する。すなわち、該イオン交換工程は有効に、一つの単独工程において、該マグネシウムから該カルボキシレートを分離し及び該カルボキシレートをプロトン化する。
【0026】
該酸性イオン交換体は、H+をマグネシウムカチオンと交換するのに適しているべきである。該イオン交換体はすなわち、カチオン性である。該カルボキシレートの効率的なプロトン化のために、該イオン交換体のpKは好ましくは、該プロトン化されたカルボキシレートのもの(すなわち該イオン交換体からH+を受け取った後に形成された該カルボン酸のもの)よりも低い。該酸性イオン交換体は好ましくは、強酸性イオン交換体であり、というのもそのようなイオン交換体は典型的にはたいていのカルボキシレートを効率的にプロトン化するために十分に低いpKを有するからである。強酸性イオン交換体は典型的には、1又はそれより多くのスルホン酸及び/又はホスホン酸の基を含む。そのような基は、該イオン交換体に十分に低いpKを備える。
【0027】
該酸性イオン交換体は、固形の又は液状の酸性イオン交換体でありうる。
【0028】
固形イオン交換体の利点は、それが該水性混合物中に溶解しないので、それが該水性混合物を汚染しないことである。また、該イオン交換体は、該水性混合物から容易に分離されうる。特には、該イオン交換体を該水性混合物から分離する分離工程が必要とされない。固形イオン交換体を用いる場合、該イオン交換工程は適切には、カラム中において又は流動床において行われうる。
【0029】
該酸性イオン交換体は、有機的イオン交換体(例えばポリマー状イオン交換樹脂)又は無機的イオン交換体(例えば官能基化された無機的イオン交換体)でありうる。該酸性イオン交換体はさらに、固形の又は液状の酸性イオン交換体でありうる。
【0030】
固形の酸性イオン交換体は好ましくは、0.5〜2 mmの直径を有しうるビーズの形にある。ビーズは、固形のポリマー状イオン交換樹脂の標準化された形であり、及び、イオン交換カラム、流動床、及びSMBにおいて適切に用いられうる。
【0031】
好ましくは、該酸性イオン交換体は、ポリマー状イオン交換樹脂である。該ポリマー状イオン交換樹脂は好ましくは強酸性であり及び典型的には1又はそれより多くの酸基、例えば1又はそれより多くのスルホン酸及び/又はホスホン酸の基など、により官能基化されたポリマーを含む。適切なポリマーは、酸性条件下で十分に安定であり且つ当業者に知られているものである。該ポリマーは、架橋を形成することができてよく、これは該ポリマーに、水中における低い溶解度及び/又は高い融点を備える。適切なイオン交換ポリマー樹脂の例は、酸により官能基化されたスチレン−ジビニルベンゼン又は酸により官能基化された架橋されたポリスチレンである。
【0032】
官能基化された無機的イオン交換体はまた、該固形酸性イオン交換体としても用いられうる。しかしながら、強酸性条件下で溶解するというそれらの傾向の故に、そのようなイオン交換体の使用は、或る適用において望ましくない。適切な無機的イオン交換体の例は、官能基化されたシリカである。
【0033】
カラム中で該イオン交換工程を行う場合、該カラムは、上記で記載されたイオン交換体ビーズにより充填されうる。そのようなカラムは、当技術分野で知られており、イオン交換カラムと呼ばれる。該水性混合物は典型的には、該水性混合物を該カラムを通って通過させることにより、該酸性イオン交換体と接触させられる。該水性混合物は、該カラムの頂部で供給されてよく、その結果重力が該水性混合物を該カラムを通過させる。該水性混合物中に存在するマグネシウムは、該樹脂に結合し(すなわち該負わされたイオン交換体を形成し)、及び、該カラム中に残るであろう一方で、該カルボキシレートはプロトン化されて、カルボン酸を形成し、この酸が、該水性混合物の残りと一緒に、カラムを通って流れ、そしてカラムを出る、すなわち該カルボン酸混合物を形成する。これが、結果として、該マグネシウムの該水性混合物からの即時の且つ効率的な分離をもたらす。
【0034】
該イオン交換工程を流動床において行う場合、該床は、典型的には、上記で記載された該イオン交換体ビーズを含む。該水性混合物は、該酸性イオン交換体と、該水性混合物を該流動床を通過させることにより接触させられる。該床は、該固形ビーズを含む該水性混合物が流体として振る舞うような条件下に置かれる。その結果、該水性混合物中に存在する固形物が、該床を通過することが許される。すなわち、該床の詰まりが、回避されることができ、及び、該床の汚染が減少される。該マグネシウムイオンは、該樹脂ビーズに結合され、及び、該カルボン酸混合物は、該イオン交換カラムについて上記で記載されたものと同じ様式で形成される。他の実施態様において、該イオン交換工程は、疑似移動床(Simulated Moving Bed:SMB)において行われる。SMBの利点は、該固形イオン交換体と該水性混合物との間の向流が形成されることであり、これは、より効率的なイオン交換をもたらしうる。流動床及びSMBを用いる技術は、一般的に知られており、及び、当業者は、例えば上記で記載されたビーズを用いて、そのような床をどのように調製したらよいかを知っているであろう。
【0035】
上記で記載された該イオン交換カラム及び該流動床は固形物をろ過除去する為に用いられうるが、該カラム又は床の詰まりを防ぐために、固形物を本質的に含まない水性混合物を用いることが好ましい。従って、固形物は、該イオン交換工程の前に、例えばろ過により、該水性混合物から除去されうる。精密ろ過又は限外ろ過が、特には小さい固形粒子を除去する為に用いられうる。
【0036】
該酸性イオン交換体は液状酸性イオン交換体であってもよい。液状イオン交換体の利点は、それらが、スラリーを処理するのに非常に適していることである。該液状イオン交換体は、容易に詰まらされうる装置についての必要性無く、効率的に行われることができるので、固形物の存在は、いずれの問題も一般にもたらさない。液状イオン交換体のさらなる利点は、取扱うことが容易であることである。液状イオン交換体は液状流の一部でありうるので、該方法が、必要ならば、ポンプ送りされることができる液状流を利用することができる。これは、より柔軟な方法を提供する。
【0037】
液状イオン交換体が用いられる場合、該イオン交換体は典型的には、1又はそれより多くのスルホン酸基及び/又はホスホン酸基を典型的に有する有機化合物である。すなわち、その構造は、該ポリマー状イオン交換体樹脂と類似するが、液状イオン交換体として用いられる該有機化合物は、典型的にはポリマーでなく、及び、架橋を形成することができない。該有機化合物は、14又はそれより多くの炭素原子を有しうるが、40に等しい又は40より少ない炭素原子を有しうる(C14〜40の有機化合物)。40超の炭素原子を有する有機化合物は、水中に有効であるように十分に溶解しないことがありうる。14未満の炭素原子を有する有機化合物は、水における高すぎる溶解度を有しえ、これは、該イオン交換工程後に該液状イオン交換体を該カルボン酸から分離することに関して、望ましくない。好ましくは、該有機化合物は、スルホン化及び/又はホスホン化されたベンジル基により置換された炭素鎖を有する。該化合物は例えば、ジノニルナフタレンスルホン酸(DNNSA)、ジドデシルナフタレンスルホン酸(DDNSA)、ジ(2-エチルヘキシル)リン酸(D2EHPA)、ビス(2,4,4-トリアルキル)ホスフィン酸及びビス(2,4,4-トリアルキル)ジチオホスフィン酸(両方のホスフィン酸が、Cytecから商品名CYANEX下で入手可能である)、例えばビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(CYANEX272の活性化合物)及びビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ジチオホスフィン酸(CYANEX301の活性化合物)からなる群から選ばれうる。
【0038】
液状イオン交換体は、水中での非常に低い溶解度を有するように設計される。それらは典型的には、5 ppm未満の、水における溶解度を有する。このことは、これらが該イオン交換工程において接触させられたときに、該水性混合物の液状イオン交換体による汚染が本質的に起こらないという利点を有する。これは、標準的な抽出技術において用いられる有機溶媒と対照的であり、該溶媒は、液状イオン交換体と比べて相対的に極性であり、そしてそれ故に、部分的に溶解し及び該水性相を汚染するであろう。
【0039】
該液状イオン交換体は、疎水性溶媒中に溶解されうる。そのような溶媒は好ましくは、水中において本質的に不溶性であり、その結果それらは、その中に部分的に溶解することにより該水性混合物を汚染することがないであろう。適切な疎水性溶媒の例は、炭化水素、例えばアルカン、シクロアルカン及び芳香族炭化水素である。例えば、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン及びトルエンが用いられうる。炭化水素の混合物、例えばケロシン、もまた用いられうる。疎水性溶媒中の液状イオン交換体の溶液が用いられる場合、該溶液中の該液状イオン交換体の濃度は、該溶液の合計重量に対して、10〜70重量%、好ましくは25〜50 gew.%(グラム当量%)でありうる。しかしながら、70重量%超の濃度もまた用いられうる。該液状イオン交換体を溶解することの利点は、それが、該イオン交換体の粘度を減少し及び/又は該水性混合物中の乳化を防ぎうることである。
【0040】
該液状イオン交換体は、純粋な形で、すなわち溶解されていない形で用いられてもよい。これは、該イオン交換体が、疎水性溶媒により希釈されないこと及びすなわちイオン交換基の濃度が増大されるという利点を有する。
【0041】
該イオン交換工程を液状イオン交換体により行う場合、該水性混合物は典型的には、疎水性溶媒中の酸性イオン交換体の溶液と、例えば向流の流れを用いることにより、接触させられる。液状イオン交換体の疎水的な性質により、該水性混合物は典型的には、該液状イオン交換体と混和性でない。すなわち、有機相及び水性相が形成されうる。該水性混合物中に存在するマグネシウムイオンが、該イオン交換体に結合する(すなわち負わされたイオン交換体を形成する)一方で、該カルボキシレートが、該イオン交換体によりプロトン化されて、カルボン酸を形成する(それにより該水性カルボン酸混合物を形成する)。該液状イオン交換体(有機相)は、該カルボン酸混合物(水性相)からデカンテーションにより分離されうる。
【0042】
該イオン交換体は、多孔性粒子中に存在してよく、その中に、該イオン交換体が固定される。該イオン交換体が多孔性粒子中に固定されることの利点は、該イオン交換体が、該水性混合物から、例えばろ過により、容易に分離されうることである。また、該イオン交換体が多孔性粒子中に固定される場合、該水性混合物の汚染がより少なくなる。イオン交換は、この場合において、該水性混合物を、固定化された液状イオン交換体を含む該多孔性粒子と、例えばカラム中で、接触させることにより行われる。該水性混合物中に存在する該マグネシウムイオンが、該多孔性粒子中に存在する該イオン交換体と結合し、それにより、該負わされたイオン交換体を形成する。該カルボキシレートが、該イオン交換体によりプロトン化され、それにより、カルボン酸混合物を形成する。
【0043】
上記で記載れた該イオン交換体を用いてイオン交換を行う方法は当技術分野において一般に知られているので、当業者は、そのような工程をどのように行ったらよいか及びどの条件を選択すべきかを、過度の負担なく理解するであろう。
【0044】
好ましくは、該イオン交換工程は、高温で行われる。高温は、該カルボン酸の沈殿のリスクを減少するので望ましい。これは、イオン交換カラムを用いる場合に特に関連し、該カラムはそのような沈殿により詰まらされうる。さらに、化合物の溶解度が高い温度で増すので、そのような温度は、非常に濃厚なカルボキシレート及びカルボン酸の混合物を用いて実施することを許す。従って、該イオン交換工程は好ましくは、少なくとも40℃、より好ましくは少なくとも70℃、さらにより好ましくは少なくとも100℃の温度で行われる。もし100℃超の温度が用いられるならば、該イオン交換工程は、溶媒の実質的な損失を回避する為の圧力下で行われうる。
【0045】
該イオン交換工程は、複数のイオン交換体の使用を含みうる。これは該イオン交換工程が(バッチ様式に対して)連続的に行われる場合に特に好ましい。この場合において、該イオン交換工程において得られた該カルボン酸混合物は、次に、第一の酸性イオン交換体と類似する、さらなる酸性イオン交換体との接触に付されうる。さらなる酸性イオン交換体そのような使用は、第一のイオン交換と接触させられた後に該溶液中になお存在する、任意のマグネシウムカルボキシレートをプロトン化し及び任意のマグネシウムイオンを結合する為に望ましい。これは特には、該イオン交換が該水性混合物及び該イオン交換体の向流の流れを用いて行われる場合に、すなわちイオン交換が、該水性混合物の流(供給流)を、該イオン交換体を含む流(例えば上記で記載されたポリマー状酸性イオン交換ビーズを含む液状流又は該液状イオン交換体を含む多孔性粒子を含む液状流)と向流的に接触させることにより行われる場合に望ましい。すなわち、該水性混合物中の該マグネシウムカルボキシレートの濃度は徐々に減少しながら、なおプロトン化されたイオン交換体の徐々に増加する濃度を有するイオン交換体流と接触させられる。同様の効果が、複数のイオン交換カラムを通って、該水性混合物をそして次にカルボン酸混合物を流すことにより得られうる。
【0046】
該負わされたイオン交換体は、それを塩化水素酸と接触させる前に、好ましくは水により、洗浄されうる。すなわち、カルボン酸及び/又はカルボキシレートの任意の残存する量が、該負わされたイオン交換体から除去されうる。これは、希釈されたカルボン酸混合物を結果しうる。このようにして得られたカルボン酸は、該カルボン酸混合物に添加されうる。この洗浄工程のさらなる利点は、それが、該塩化マグネシウム溶液の純度を増加しうることである。マグネシウムイオン以外の化合物は、該洗浄工程により除去されることができ、その結果それらは、該塩化マグネシウム溶液中にいきつかないであろう。
【0047】
該イオン交換工程において得られた該カルボン酸混合物は、カルボン酸溶液又はカルボン酸懸濁物でありうる。いくつかの実施態様において、マグネシウムカルボキシレート溶液を該マグネシウムカルボキシレート含有混合物として用いることが好ましく、この場合において、該得られたカルボン酸混合物は、溶液の形にもあるであろう。しかしながら、該イオン交換工程が、該水性混合物として懸濁物を用いて行われる場合、イオン交換後に得られる該カルボン酸混合物は、懸濁物でもありうる。カルボン酸懸濁物は例えば、該イオン交換工程が液状のイオン交換体又は流動床を用いて行われる場合に形成されうる。
【0048】
好ましい実施態様において、該カルボン酸混合物(産物混合物)の一部が、該マグネシウムカルボキシレート含有水性混合物へと戻し供給され、該一部は好ましくは溶液である。これは、該イオン交換工程間に、しかし好ましくは該イオン交換工程の前に行われ得る。後者の場合、該カルボン酸混合物の一部はすなわち、該マグネシウムカルボキシレート含有水性混合物に添加される。これは、該水性混合物中に存在しうる固形マグネシウムカルボキシレートの少なくとも一部(しかし好ましくは全て)を溶解することを結果しうる。本発明者らは驚くべきことに、該産物溶液の少なくとも一部を該水性混合物に戻し供給することにより、該イオン交換工程において得られる該カルボン酸混合物中のカルボン酸濃度が増加され得ることを発見した。すなわち、20重量%超のカルボン酸濃度が、該水性カルボン酸混合物において得られうる。該産物混合物以外のカルボン酸溶液もまた、同じ効果を達成するために用いられうることが意図される(ただし、該溶液中の該カルボン酸が、該水性混合物中の該カルボキシレートに対応する)。該水性混合物に供給された該カルボン酸溶液は、5〜25重量%のカルボン酸濃度を有しうる。
【0049】
該カルボン酸は、当技術分野において既知の任意の方法により、例えば沈殿又は水蒸発により、該カルボン酸混合物から回収されうる。コハク酸を回収する場合に、沈殿が特に好ましい。該カルボン酸混合物の一部が、該水性混合物に戻し供給されうる。上記で記載されたとおり、これは、該カルボン酸混合物中の最終カルボン酸濃度を増加しうる。
【0050】
本発明の方法はさらに、マグネシウムイオンを負わされたイオン交換体を、塩化水素酸と接触させ、それにより、塩化マグネシウム溶液を形成する工程を含む。加えて、該負わされたイオン交換体を塩化水素酸と接触させることにより、該イオン交換体は、その酸性型へ再生される。それ故に、この工程はまた、再生工程とも呼ばれうる。
【0051】
用いられる該塩化水素酸は好ましくは、例えば塩化水素酸溶液の合計重量に対して、少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも20重量%の塩化水素濃度を有する、水中の塩化水素の濃厚溶液である。塩化水素酸の濃度が高ければ高いほど、より濃厚な塩化マグネシウム溶液が得られるであろう。濃厚な塩化マグネシウム溶液は、該熱分解工程においてそのような溶液を熱分解する為のより低いエネルギーコストの故に、望ましい。
【0052】
該水性混合物中に当初に存在するカルボキシレート、カルボン酸、又は可溶性不純物は、本質的に該イオン交換体により結合されないので、該塩化マグネシウムが、非常に純粋な形で得られうる。これは、該熱分解工程に関して望ましく、該工程において、塩化マグネシウム以外の化合物は、回収の間に失われ及び/又はこの工程において形成される産物、特には酸化マグネシウムを汚染する。
【0053】
該再生工程が行われるところの温度は、20〜120℃、好ましくは60〜100℃である。他方で、温度は、特にはイオン交換カラムを用いる場合に、塩化マグネシウムの沈殿を回避する為に十分に高くあるべきである。しかしながら、120℃より高い温度は一般に望ましくなく、というのも、それらは、用いられる装置及び/又はイオン交換体を害しうるからである。
【0054】
該再生されたイオン交換体は、少量のクロリドをなお含みうる。そのような再生されたイオン交換体が本発明の方法に従い他のイオン交換工程を行う為に用いられるだろう場合、クロリドイオンは、そのようなイオン交換工程において得られたカルボン酸混合物を汚染するだろう。それ故に、該再生されたイオン交換体は好ましくは、それをイオン交換工程において再度使用する前に、洗浄される。従って、本発明の方法は、特には任意のクロリドイオンを除去する為に、該再生されたイオン交換体を洗浄する工程を含みうる。そのような洗浄工程は典型的には、水を用いて行われる。すなわち、クロリドによる該カルボン酸混合物の汚染は、本発明の方法において容易に防がれうる。これは、国際公開第00/17378号パンフレット(これにおいて、液−液抽出の間のクロリドの抽出の故に、クロリドが最終産物を汚染することを防ぐことは非常に困難である)により行われるとおり、抽出を用いることを超える利点である。
【0055】
本発明の方法はさらに、該塩化マグネシウム溶液を少なくとも300℃の温度で熱分解し、それにより酸化マグネシウム及び塩化水素を形成する工程を含む。この工程はまた、熱分解工程とも呼ばれうる。
【0056】
該熱分解工程において、該再生工程において得られる該塩化マグネシウム溶液は、少なくとも300℃の温度で熱分解工程に付される。塩化マグネシウム(MgCl2)は、熱分解されて、酸化マグネシウム(MgO)及び塩化水素(HCl)を形成する。上記でも記載されたとおり、この再循環工程の効率は、塩化マグネシウム溶液の純度に非常に依存する。カルボキシレート又はカルボン酸が塩化マグネシウム溶液中に存在するだろう場合において、これは、最終的な回収収率の減少を結果するであろう。というのも、該カルボキシレート又はカルボン酸が、この工程において用いられる高い温度下で灰化されるからである。さらに、塩化マグネシウム溶液中の不純物の存在は、該熱分解工程において形成された産物の汚染、特には酸化マグネシウムの汚染、を結果するだろう。本発明者らは、本発明の方法において得られた該塩化マグネシウムがそのようなカルボキシレート、カルボン酸、及び不純物を含まず、その結果、熱分解工程が、該水性混合物中の該マグネシウムイオンを再循環する非常に効率的な方法を提供することを発見した。
【0057】
該熱分解工程において形成された化合物は、本発明の方法における他の段階において再循環されうる。
【0058】
該酸化マグネシウムは、発酵プロセスにおいて用いられうる。酸化マグネシウムは塩基であり、及び、すなわち、中和剤として又はその前駆物として発酵プロセスにおいて用いられうる。該酸化マグネシウムの少なくとも一部が、この目的の為に、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)スラリー(又は水酸化マグネシウムと酸化マグネシウムの混合物)を得る為に、水との接触に付されうる。酸化マグネシウムは、発酵プロセスの発酵ブロスに直接に添加されてもよい。また、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの混合物を用いることも可能である。従って、本発明の方法はさらに、発酵プロセスにおける、特には該カルボキシレートが形成されるところの発酵プロセスにおける使用の為に、MgO及び/又はMg(OH)2を再循環する工程を含みうる。MgO及び/又はMg(OH)2は、中和剤として又はその前駆物として用いられうる。発酵プロセスにおいて用いられる場合、MgO及び/又はMg(OH)2の混合物は、望ましい中和剤でありうる。MgO及び/又はMg(OH)2混合物の組成を変えることにより、発酵プロセスは最適化されうる。該混合物の好ましい組成は、該発酵において用いられる発酵条件及び微生物の種類に依存する。
【0059】
該塩化水素は典型的には、熱分解の間に又は後に、水に溶解され、それにより塩化水素酸(HCl溶液)を得る。そのような溶液は、本発明の方法の再生工程において用いられうる。従って、本発明の方法はさらに、
該塩化水素を水に溶解し、それにより、塩化水素酸を得る工程を含んでよく、この塩化水素酸が、該イオン交換体のその酸性型への再生における使用の為に再循環されうる。
【0060】
すなわち、本発明の方法は、該塩廃棄物、すなわち、マグネシウム及びクロリドイオン、が効率的に再循環されうる方法を提供する。
【0061】
本発明の方法が、以下の実施例によりさらに説明されるであろう。
【実施例1】
【0062】
強カチオン交換樹脂上での乳酸マグネシウムの乳酸へのイオン交換
【0063】
乳酸マグネシウム供給溶液が、8gの乳酸マグネシウム二水和物を92gの水に添加し、そして、完全に溶解するまで混合することにより調製された。このように調製された供給溶液は、水中の6.8重量%の乳酸マグネシウムを含んだ。該溶液が、20℃に加熱された。
【0064】
発酵プロセスにおいて得られたマグネシウムカルボキシレート溶液は典型的には、追加の化合物(特には不純物、例えば糖、タンパク質、及び/又はバイオマスなど)を含むけれども、この実施例において調製された該供給溶液は、この実施例において示される原理証明のためにそのような溶液に十分に似ていると考えられて、発酵プロセスにおいて得られた供給溶液にもあてはまる。
【0065】
50mlのAmberlite FPC23 H樹脂が、ガラスカラム中に置かれた。該カラムが20℃に加熱された。樹脂が、3ベッド体積の水により洗浄された。次に、水の流が止められ、そして、6.8重量%の乳酸マグネシウム溶液が、該カラムを通って、0.83 ml/分の流量でポンプ送りされた。該供給溶液のpHは、pH 6.2であると決定された。第一に産物試料が、50分後に採られた。該試料は、pH 2を有し、且つ、5 ppmの検出限界より低い、原子吸着スペクトロメトリーにより測定されたマグネシウム含有割合を有した。これは、該イオン交換体が、H+イオンをマグネシウムイオンと交換したことを示す。ラクテートイオンの濃度は、7.1重量%で一定のままであった。
【0066】
この実施例は、カチオン交換樹脂による、マグネシウムイオンの除去及び乳酸マグネシウムの乳酸への酸性化が同時に行われ、マグネシウムイオンを負わされたイオン交換体及び乳酸水性溶液を結果することを示す。
【実施例2】
【0067】
塩化マグネシウム溶液の形成
【0068】
実施例1において用いられた、マグネシウムイオンを負わされたAmberlite FPC23 H樹脂が、3ベッド体積の水により洗浄されて、残存する乳酸マグネシウム及び乳酸を除去した。
【0069】
次に、108 gの37重量%塩化水素酸が、692 gの水と混合されて、5重量%の塩化水素酸溶液を結果した。この溶液が、該カラムを通って、1.7 ml/分の流量でポンプ送りされた。30分毎に、産物試料が採られ、そして、該試料のpH及びマグネシウム含有割合が測定された。60分後、該採られた試料のpHは0.30であり、及び、マグネシウム含有割合は9070 ppmであった。90分後、産物試料は、-0.15のpH値、及び、3910ppmのマグネシウム含有割合を有した。
【0070】
この実施例は、マグネシウムが、強カチオン交換樹脂から塩化マグネシウム溶液の形で回収されることを示す。該塩化マグネシウム溶液は高い純度を有した。乳酸もラクテートも検出されず、及び、熱分解工程の効率を低くしうる分解可能な塩は、該洗浄工程により除去されると予測された。
【実施例3】
【0071】
液状イオン交換体上での乳酸マグネシウムの乳酸へのイオン交換
【0072】
乳酸マグネシウム供給溶液が、7.4 gの乳酸マグネシウム二水和物を15.2gの水に添加することにより調製された。該調製された供給溶液は、水中に28重量%の乳酸マグネシウムスラリーを含んだ。溶液は、20℃で調製された。
【0073】
発酵プロセスにおいて得られたマグネシウムカルボキシレート溶液は典型的には追加の化合物(特には不純物、例えば糖、タンパク質、及び/又はバイオマス)を含むけれども、この実施例において調製された該供給溶液は、この実施例において示された原理証明のためにそのような溶液に十分に似ていると考えられて、発酵プロセスにおいて得られた供給溶液にも当てはまる。
【0074】
該液状イオン交換体は、25 gのジノニルナフタレンスルホン酸を25gのヘプタンに添加し、そして、完全に溶解するまで混合物ことにより調製された。該液状イオン交換体はすなわち、50重量%のジノニルナフタレンスルホン酸を含んだ。
【0075】
該液状イオン交換体 (50 g)が、22.6 gの28重量%乳酸マグネシウムスラリーと20℃で混合され、そして、2時間混合された。このようにして得られた溶液が、分離漏斗に移され、そこで、2つの相が観察された:水性相及び有機相。該分離漏斗を用いて、7.8 gの水性相が分離された。該水性相は、1.8のpHを有し及び17重量%の乳酸を含んだ。これは、該イオン交換体が、H+イオンをマグネシウムイオンと交換すること及びこの方法において形成された該乳酸が該水性相中に存在することを示した。
【0076】
次に、10 gの新鮮な水が、該分離漏斗中の該有機層に添加され、その後、該漏斗が、振とうされ、そして、相が再度分離された。10.6 gの水性相が分離された。この水性相が、1.93のpHを有し及び7.5重量%の乳酸を含んだ。
【0077】
この実験において、該マグネシウム含有割合が、該マグネシウムカルボキシレート溶液中の3.36重量%から、イオン交換後の該水性相中の2280 ppmに減少された。
【0078】
すなわち、該実施例は、カチオン液状イオン交換体により、マグネシウムイオンの除去及び乳酸マグネシウムの乳酸への酸性化が同時に行われることを示す。
【実施例4】
【0079】
液状イオン交換体の再生
【0080】
20 gの塩化水素酸溶液 (水中における20重量%)が、実施例3における相分離後に得られた該有機相の60.6 gに添加された。その混合物が、50分間20℃で撹拌された。その後、該混合物が、分離漏斗に移された。2つの相が観察された:有機相及び水性相。該水性相が分離され、そして、マグネシウム含有割合が、原子吸着スペクトロスコピーを用いて分析された。該相は、8100 ppmのマグネシウムを含んだ。これは、塩化マグネシウム水性溶液が形成されたことを示す。
【0081】
この実施例は、塩化水素酸中に存在する水素イオンを該カチオン液状交換体中に存在するマグネシウムイオンと交換することにより、マグネシウムが、液状イオン交換体から塩化マグネシウム溶液の形で回収されることができることを示す。
【実施例5】
【0082】
強カチオン交換樹脂を用いたコハク酸マグネシウムのコハク酸へのイオン交換
【0083】
コハク酸マグネシウム供給溶液が、151.3 gのコハク酸マグネシウム四水和物を848.7 gの水に添加しそして完全に溶解するまで混合することにより調製された。このようにして調製された供給溶液は、10重量%のコハク酸マグネシウムを水中に含んだ。該溶液が60℃に加熱された。
【0084】
発酵プロセスにおいて得られたマグネシウムカルボキシレート溶液は典型的には追加の化合物(特には不純物、例えば糖、タンパク質、及び/又はバイオマス)を含むけれども、この実施例において調製された該供給溶液は、この実施例において示された原理証明のためにそのような溶液に十分に似ていると考えられて、発酵プロセスにおいて得られた供給溶液にも当てはまる。
【0085】
100 mlのガラスカラムが、スルホネート基を有する強酸性カチオン交換樹脂のビーズ(名称Amberlite FPC23 H下で入手可能)を充填された。該カラムが60℃に加熱された。該樹脂が、3ベッド体積(BV)の水により洗浄された。次に、該水流が止められ、そして、10重量%のコハク酸マグネシウム溶液が、該カラムを通って、3.5 ml/分の流量でポンプ送りされた。該供給溶液のpHがpH 7であると決定された。20分毎に、産物試料がとられ、そして、そのpH値が測定された。また、そのマグネシウム含有割合も、原子吸着スペクトロメトリーにより測定された。20分後にとられた該産物試料は、2.2のpHを有し、及び、5 ppmの検出限界より低いマグネシウム含有割合を有した。これは、該イオン交換体がH+イオンをマグネシウムイオンと交換したことを示す。サクシネートの濃度は、8.2重量%で一定のままであった。
【0086】
この実施例はすなわち、酸性カチオン交換樹脂により、マグネシウムイオンの除去及びコハク酸マグネシウムのコハク酸への酸性化が同時に行われ、マグネシウムイオンを負わされたイオン交換体及びコハク酸水性溶液を結果することを示す。
【実施例6】
【0087】
塩化マグネシウム溶液の形成
【0088】
実施例5において用いられた、マグネシウムイオンを負わされたAmberlite FPC23 H樹脂が、3ベッド体積(BV)(100mlに対応する)の水により洗浄されて、残留しうるコハク酸マグネシウム及びコハク酸並びに、もし存在するならば、分解可能な塩(例えばNaCl、KCl、及びCaCl2)を除去した。
【0089】
次に、108 gの37重量%塩化水素酸が、692 gの水と混合され、5重量%の塩化水素酸溶液を結果した。この溶液が、該カラムを通って、3.5 ml/分の流量でポンプ送りされた。20分毎に、産物試料がとられ、該試料のpH値及びマグネシウム含有割合が測定された。20分後、該産物試料のpHは6.8であり、及び、マグネシウム含有割合は4600 ppmであった。40分後、該産物試料は、0.38のpH及び12300 ppmのマグネシウム含有割合を有した。該試料中にコハク酸及びサクシネートは検出されることができなかった(検出限界<0.1重量%)。
【0090】
この実施例は、マグネシウムが、塩化マグネシウム溶液の形において、強カチオン交換樹脂から回収されることを示す。該塩化マグネシウム溶液は高純度を有した。コハク酸又はサクシネートは検出されず、及び、該熱分解工程の効率を低めうる分解可能塩は、該洗浄工程により除去されると予測された。