特許第6368364号(P6368364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368364
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】ガラス基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 23/00 20060101AFI20180723BHJP
   C03B 33/037 20060101ALI20180723BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20180723BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20180723BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20180723BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20180723BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C03C23/00 A
   C03B33/037
   C03C19/00 Z
   C03C3/085
   C03C3/087
   C03C3/091
   B08B3/08 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-524607(P2016-524607)
(86)(22)【出願日】2016年3月23日
(86)【国際出願番号】JP2016059251
(87)【国際公開番号】WO2016152932
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2017年3月24日
(31)【優先権主張番号】特願2015-61226(P2015-61226)
(32)【優先日】2015年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(74)【代理人】
【識別番号】100159916
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】猪飼 修
(72)【発明者】
【氏名】小林 健二
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−215472(JP,A)
【文献】 特開2013−193892(JP,A)
【文献】 特開2014−052622(JP,A)
【文献】 特開2001−276759(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/004470(WO,A1)
【文献】 特開2012−171831(JP,A)
【文献】 特開2009−046353(JP,A)
【文献】 特表2006−527477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00 − 23/00
C03B 23/00 − 35/26
C03B 40/00 − 40/04
B24B 1/00 − 1/04
B24B 9/00 − 19/28
B08B 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板を切断する切断工程と、
前記切断工程で切断された前記ガラス基板の切断面である切断端面を加工する端面加工工程と、
前記切断工程で切断された前記ガラス基板の主表面を処理する表面処理工程と、
前記表面処理工程の後に、洗浄液を用いて前記ガラス基板を洗浄する洗浄工程と、
を備え、
前記端面加工工程は、前記切断端面に研削液を供給しながら前記切断端面の形状を加工し、
前記表面処理工程は、pH10未満のアルカリ性液剤を前記主表面に塗布し、かつ、前記端面加工工程と同時に行われ、
前記研削液は、前記アルカリ性液剤であり、
前記洗浄液は、前記アルカリ性液剤とは異なる、
ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ性液剤は、界面活性剤を含む、
請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス基板は、SiO2を50質量%〜70質量%含み、かつ、Al23を10質量%〜25質量%含む、アルミノシリケートガラスまたはアルカリアルミノシリケートガラスである、
請求項1または2に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス基板は、オーバーフローダウンドロー法により製造される、
請求項1から3のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス基板は、一対の前記主表面である素子形成面および粗面化面を有するディスプレイ用ガラス基板であって、
前記粗面化面は、ウエットエッチング処理により算術平均粗さRaが0.3nm〜0.7nmとなるように粗面化されている、
請求項1から4のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイおよびプラズマディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)に用いられるガラス基板は、表面に高い平坦度が要求される。通常、このようなガラス基板は、オーバーフローダウンドロー法によって製造される。オーバーフローダウンドロー法では、特許文献1(米国特許第3,338,696号)に記載されているように、成形体の上面の溝に流し込まれて溝から溢れ出た熔融ガラスが、成形体の両側面を伝って流れ落ち、成形体の下端で合流してガラスリボンが成形される。成形されたガラスリボンは、下方に引っ張られながら徐冷される。冷却されたガラスリボンは、所定の寸法に切断されて、ガラス基板が得られる。
【0003】
その後、ガラス基板の切断面を研削および研磨する端面加工が行われる。ガラス基板の端面加工では、ガラスの微小な破片であるカレットが端面から発生して、ガラス基板の表面に付着することがある。ガラス基板の表面に付着したカレットは、表面に形成されるTFT配線等の断線および剥離の原因となるので、表面からできるだけ除去されることが好ましい。特許文献2(特開2008−87135号公報)には、ガラス基板の表面の中央部から端面側に向かってカーテン状に水を噴出させることで、端面加工時に発生するカレットがガラス基板表面に付着することを抑制する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この方法では、端面近傍の表面に対するカレットの付着は抑制されるが、表面の中央部に対するカレットの付着が十分に抑制されないおそれがある。また、ガラス基板の表面に向かって水を噴出させるので、端面加工中にガラス基板の端面が振動して、端面加工の精度が低下するおそれがある。
【0005】
また、近年、ガラス基板の大型化および薄型化が進み、一辺の寸法が2000mmを超える大型のガラス基板が、高精細ディスプレイ用のガラス基板として製造されている。高精細ディスプレイ用のガラス基板の表面には、従来よりも細線化および高密度化されたTFT配線電極のパターンが形成されるので、従来のディスプレイ用ガラス基板では問題視されていなかったレベルの微小なカレットが表面に付着しても、製品の品質に問題が生じるおそれがある。また、大型のガラス基板の製造工程では、生産性向上のためにガラス基板の端面を高速で加工する必要があるので、端面加工時にカレットが発生して飛散しやすくなる。このように、高精細ディスプレイ用の大型のガラス基板の表面には高い清浄性が求められるので、ガラス基板の製造工程においてガラス基板の表面に付着したカレットを効率的に除去する方法が必要とされている。
【0006】
そこで、本発明は、ガラス基板の表面の清浄性を効率的に向上させることができるガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るガラス基板の製造方法は、ガラス基板を切断する切断工程と、切断工程で切断されたガラス基板の切断面である切断端面を加工する端面加工工程と、切断工程で切断されたガラス基板の主表面を処理する表面処理工程とを備える。端面加工工程は、切断端面に研削液を供給しながら切断端面の形状を加工する。表面処理工程は、pH10未満のアルカリ性液剤を主表面に塗布し、かつ、端面加工工程と同時に行われる。
【0008】
また、アルカリ性液剤は、界面活性剤を含むことが好ましい。
【0009】
また、研削液は、アルカリ性液剤であり、かつ、20℃において30mN/m〜50mN/mの表面張力を有するように界面活性剤の含有量が調整されていることが好ましい。
【0010】
また、ガラス基板の製造方法は、表面処理工程の後に、アルカリ性液剤とは異なる洗浄液を用いて、ガラス基板を洗浄する洗浄工程をさらに含むことが好ましい。
【0011】
また、ガラス基板は、SiO2を50質量%〜70質量%含み、かつ、Al23を10質量%〜25質量%含む、アルミノシリケートガラスまたはアルカリアルミノシリケートガラスであることが好ましい。
【0012】
また、ガラス基板は、オーバーフローダウンドロー法により製造されることが好ましい。
【0013】
また、ガラス基板は、一対の主表面である素子形成面および粗面化面を有するディスプレイ用ガラス基板であることが好ましい。この場合、粗面化面は、ウエットエッチング処理により算術平均粗さRaが0.3nm〜0.7nmとなるように粗面化されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るガラス基板の製造方法は、ガラス基板の表面の清浄性を効率的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係るガラス基板の断面図である。
図2】実施形態に係るガラス基板の製造方法を示すフローチャートである。
図3】研削された切断端面を有するガラス基板の断面図である。
図4】ガラス基板の素子形成面の側の平面図である。
図5】SiO2およびAl23のゼータ電位のpH依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1)ガラス基板の製造方法の概略
本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法について、図面を参照しながら説明する。本実施形態のガラス基板の製造方法によって製造されるガラス基板10は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイおよび有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)の製造に用いられる。ガラス基板10は、太陽電池パネルの製造にも用いられる。ガラス基板10は、例えば、0.1mm〜1.1mmの厚みを有し、かつ、縦360mm〜3000mmおよび横460mm〜3200mmのサイズを有する。
【0017】
図1は、ガラス基板10の断面図である。ガラス基板10は、一方の主表面である素子形成面12と、他方の主表面である粗面化面14とを有する。素子形成面12は、FPDの製造工程において、TFT等の半導体素子が形成される面である。素子形成面12は、例えば、低温ポリシリコン半導体または酸化物半導体が形成される面であり、低温ポリシリコン薄膜、ITO(Indium Thin Oxide)薄膜、および、カラーフィルタ等からなる複数層の薄膜が形成される面である。高精細・高解像度向けのディスプレイ用TFTパネルでは、TFTのゲート絶縁膜の厚みは、100nm未満である。例えば、ゲート絶縁膜の厚みが50nm未満であるTFTパネルの開発・製造も進められている。このようなTFTパネルでは、ゲート絶縁膜だけでなく、半導体素子を形成する各層の膜厚も薄い。そのため、素子形成面12は、Ra(算術平均粗さ:JIS B 0601:2001)が0.2nm以下である極めて滑らかな面である。素子形成面12にTFTが形成されたガラス基板10は、好ましくは、配線の最小線幅が4μm未満であり、ゲート絶縁膜の膜厚が100nm未満である回路を有する。TFTパネルに用いられる電極の材料は、Ti−CuおよびMo−Cu等のCu系材料である。
【0018】
粗面化面14は、ガラス基板10の製造工程において、エッチング処理によって微小な凹凸が形成される面である。粗面化面14は、算術平均粗さRaが0.3nm〜0.7nmとなるように粗面化されている。エッチング処理は、例えば、ドライエッチング処理およびウエットエッチング処理である。なお、粗面化面14は、所望の表面状態を形成することができれば、エッチング処理以外の表面処理により凹凸が形成されてもよい。例えば、粗面化面14は、テープ研磨、ブラシ研磨、パッド研磨、砥粒研磨およびCMP(Chemical Mechanical Polishing)等の物理研磨によって凹凸が形成されてもよい。
【0019】
ガラス基板10に用いられるガラスは、以下の組成を有するアルミノシリケートガラスまたはアルカリアルミノシリケートガラスである。
【0020】
(a)SiO2:50質量%〜70質量%、
(b)Al23:10質量%〜25質量%、
(c)B23:0質量%〜18質量%、
(d)MgO:0質量%〜10質量%、
(e)CaO:0質量%〜20質量%、
(f)SrO:0質量%〜20質量%、
(g)BaO:0質量%〜10質量%、
(h)RO:5質量%〜20質量%(Rは、Mg、Ca、SrおよびBaから選択される少なくとも1種である。)、
(i)R’2O:0質量%〜2.0質量%(R’は、Li、NaおよびKから選択される少なくとも1種である。)、
(j)SnO2、Fe23およびCeO2から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物。
【0021】
なお、上記の組成を有するガラスは、0.1質量%未満の範囲で、その他の微量成分の存在が許容される。
【0022】
次に、オーバーフローダウンドロー法を用いるFPD用のガラス基板10の製造工程について説明する。図2は、ガラス基板10の製造工程を表すフローチャートの一例である。ガラス基板10の製造工程は、主として、成形工程(ステップS1)と、徐冷工程(ステップ2)と、採板工程(ステップS3)と、切断工程(ステップS4)と、端面加工工程(ステップS5)と、表面処理工程(ステップS6)と、粗面化工程(ステップS7)と、洗浄工程(ステップS8)と、検査工程(ステップS9)と、梱包工程(ステップS10)とからなる。
【0023】
成形工程S1では、ガラス原料を加熱して得られた熔融ガラスから、オーバーフローダウンドロー法によって、シート状のガラスリボンが成形される。具体的には、成形セルの上部から溢れて分流した熔融ガラスが、成形セルの両側面に沿って下方へ流れ、成形セルの下端で合流することでガラスリボンが連続的に成形される。熔融ガラスは、成形工程S1に流入する前に、オーバーフローダウンドロー法による成形に適した温度、例えば、1200℃まで冷却される。
【0024】
徐冷工程S2では、成形工程S1で成形されたガラスリボンが、歪みおよび反りが発生しないように温度管理されながら、ガラス徐冷点以下まで徐冷される。徐冷工程S2では、ガラスリボンは、下方に搬送されながら冷却される。
【0025】
採板工程S3では、徐冷工程S2で徐冷されたガラスリボンが、所定の長さごとに切断され、さらに端部領域が切断されて、素板ガラスが得られる。端部領域は、ガラスリボンの幅方向の両端部に形成され、ガラスリボンの幅方向の中央領域と比べて厚い領域である。採板工程S3により得られた素板ガラスは、合紙と共に交互に積層されて、切断工程S4に搬送される。
【0026】
切断工程S4では、採板工程S3で得られた素板ガラスが、所定の大きさに切断されて、製品サイズのガラス基板10が得られる。素板ガラスは、例えば、レーザを用いて切断される。
【0027】
端面加工工程S5では、切断工程S4で得られたガラス基板10の端面を加工する。端面加工工程S5で加工される端面は、切断工程S4において切断されたガラス基板10の切断端面16である。端面加工工程S5は、主として、研削工程と、研磨工程とを含む。研削工程は、切断端面16に研削液を供給しながら切断端面16を研削して、切断端面16をR形状に加工する工程である。図3は、研削工程において研削された切断端面16を有するガラス基板10の断面図である。研磨工程は、研削工程で研削された切断端面16の算術平均粗さRaが0.1μm以下となるように、切断端面16を研磨する工程である。
【0028】
表面処理工程S6では、切断工程S4で得られたガラス基板10の素子形成面12に、pH10未満のアルカリ性液剤を塗布して素子形成面12を表面処理する。表面処理工程S6は、端面加工工程S5と同時に行われる。具体的には、表面処理工程S6においてアルカリ性液剤を素子形成面12に塗布する工程と、端面加工工程S5において研削液を用いて切断端面16を研削する研削工程とが同時に行われる。また、表面処理工程S6では、端面加工工程S5の研削工程の完了後に、素子形成面12に塗布されたアルカリ性液剤が除去される。
【0029】
粗面化工程S7では、端面加工工程S5および表面処理工程S6を経たガラス基板10の粗面化面14の表面粗さを増加させる表面処理が行われる。粗面化工程S7で行われる表面処理は、例えば、ウエットエッチング処理である。
【0030】
洗浄工程S8では、粗面化工程S7を経たガラス基板10を洗浄液で洗浄する。洗浄液は、表面処理工程S6で用いられるアルカリ性液剤とは異なる液剤である。なお、端面加工工程S5においてガラス基板10の主表面に研削液が付着して濡れた状態となったガラス基板10は、洗浄工程S8が終了するまで乾燥させないことが好ましい。なぜなら、洗浄工程S8が終了する前に乾燥させてしまうと、研削液に含まれる成分が析出してガラス基板10の主表面に固着するおそれがあるからである。
【0031】
検査工程S9では、洗浄工程S8で洗浄されたガラス基板10が検査される。具体的には、ガラス基板10の主表面が光学的に測定されて、ガラス基板10の欠陥が検知される。ガラス基板10の欠陥は、例えば、ガラス基板10の主表面に形成される脈理、ガラス基板10の主表面に存在するキズおよびクラック、ガラス基板10の主表面に付着している異物、および、ガラス基板10の内部に存在している微小な泡等である。
【0032】
梱包工程S10では、検査工程S9における検査に合格したガラス基板10が、ガラス基板10を保護するための合紙と交互にパレット上に積層されて、梱包される。梱包されたガラス基板10は、FPDの製造業者等に出荷される。FPD製造業者は、ガラス基板10の素子形成面12にTFT等の半導体素子を形成して、FPDを製造する。
【0033】
(2)表面処理工程の詳細
表面処理工程S6で行われる素子形成面12の表面処理について説明する。表面処理工程S6では、素子形成面12にアルカリ性液剤が塗布される。アルカリ性液剤は、pH10未満の液剤であり、かつ、界面活性剤を含む液剤である。アルカリ性液剤のpHは、8〜9であることが好ましい。アルカリ性液剤は、例えば、アンモニア水である。なお、アルカリ性液剤は、トリエタノールアミン等のアミン系液剤であってもよい。界面活性剤は、例えば、非イオン系の界面活性剤である。
【0034】
図4は、ガラス基板10の素子形成面12の側の平面図である。表面処理工程S6では、素子形成面12の少なくとも中央領域12aに、アルカリ性液剤が塗布される。中央領域12aは、図4に示されるように、素子形成面12の周囲の端部を除く四角形の領域である。中央領域12aの端と、素子形成面12の端との間の距離Lは、2mm〜20mmである。
【0035】
素子形成面12に塗布されたアルカリ性液剤は、端面加工工程S5の研削工程が完了した後に、除去される。素子形成面12に付着していたアルカリ性液剤は、素子形成面12に流体を吹き付けることで、素子形成面12から取り除かれてもよい。例えば、所定の圧力で純水をノズルから素子形成面12に向かって吹き付けることで、アルカリ性液剤が素子形成面12から取り除かれてもよい。また、素子形成面12をブラシで洗浄することで、アルカリ性液剤が素子形成面12から取り除かれてもよい。いずれの場合においても、アルカリ性液剤を素子形成面12から取り除いた後、素子形成面12に純水をシャワーする等して、素子形成面12の乾燥を防止することが好ましい。素子形成面12から除去されたアルカリ性液剤は、回収される。回収されたアルカリ性液剤は、フィルタを通過させて、アルカリ性液剤に含まれている異物が取り除かれた後に再利用されてもよい。
【0036】
(3)端面加工工程の詳細
端面加工工程S5で行われる切断端面16の研削工程について説明する。端面加工工程S5の研削工程では、円柱形状の研削ホイールを回転させ、ガラス基板10の切断端面16に研削ホイールの側周面を接触させる。これにより、図3に示されるように、切断端面16の一対の角部は、R形状を有するように研削される。研削工程における切断端面16の取り代は、30μm〜150μmであることが好ましい。
【0037】
研削ホイールは、メタルボンド砥石で成形されている。メタルボンド砥石は、複数種類の金属の粉末、または、合金の粉末を、鉄系または銅系の結合剤で固めて焼結し、焼結体の表面に砥粒を固定して製造される砥石である。砥粒は、ダイヤモンド、酸化アルミニウムおよび炭化ケイ素等の微小な粒である。研削ホイールの砥粒の粒度は、♯500〜#600であることが好ましい。研削ホイールは、電動モータによって回転軸周りに回転駆動する。
【0038】
研削工程では、ガラス基板10の切断端面16に研削液を供給しながら、研削ホイールによって切断端面16が研削される。ガラス基板10の切断端面16と、回転する研削ホイールとが接触する領域には、摩擦熱が発生する。摩擦熱は、切断端面16を加熱してガラス基板10を変質させる原因となる。研削液は、切断端面16の加熱を抑制する冷却剤として機能する。
【0039】
端面加工工程S5では、研削液として、表面処理工程S6で用いられるアルカリ性液剤と同じ液剤が用いられる。研削液がアルカリ性である場合、切断端面16と研削ホイールとの隙間に研削液が浸透しやすいので、研削液の冷却効果が向上する。また、研削液が界面活性剤を含有する場合、研削液の表面張力が低下するので、研削液の浸透性が大きくなり、研削液の冷却効果がより向上する。なお、研削液の浸透性向上の観点からは、研削液は、20℃において30mN/m〜50mN/mの表面張力を有するように界面活性剤の含有量が調整されていることが好ましい。また、研削液は、20℃において30mN/m以上、かつ、48mN/m未満の表面張力を有するように界面活性剤の含有量が調整されていることが好ましい。
【0040】
(4)特徴
ガラス基板10からFPDを製造する工程において、ガラス基板10の素子形成面12には、TFT等の半導体素子、具体的には、ポリシリコン薄膜およびITO薄膜等からなる複数層の薄膜が形成される。半導体素子の配線電極が素子形成面12に形成される際に、素子形成面12に異物が付着していると、素子形成面12に形成される配線電極の断線および剥離の原因となる。そのため、ガラス基板10の製造工程において、素子形成面12から異物をできるだけ除去しておくことが好ましい。異物の代表例としては、ガラスの微小な欠片であるカレットが挙げられる。カレットは、主に、採板工程S3および切断工程S4でのガラスリボンの切断時において、ガラス基板10の切断端面16となる切断面から発生する。切断端面16から発生したカレットの一部は、ガラス基板10の素子形成面12に付着する。素子形成面12に付着したカレットの高さ(素子形成面12からの最大距離)が高いほど、半導体素子の配線電極の形成不良が発生しやすい。また、他の異物の例としては、雰囲気中に存在する塵、埃および有機物等が挙げられる。
【0041】
本実施形態に係るガラス基板の製造方法では、ガラス基板10の素子形成面12に付着した異物を除去するために、表面処理工程S6において、素子形成面12にアルカリ性液剤が塗布される。アルカリ性液剤のpHは、10未満である。素子形成面12にアルカリ性液剤が塗布されることで、素子形成面12に付着したカレットが、素子形成面12から剥離して除去される。次に、カレットが除去される機構について説明する。
【0042】
ガラス基板10は、アルミノシリケートガラスまたはアルカリアルミノシリケートガラスから構成される。ガラス基板10のガラス組成の主成分は、SiO2およびAl23である。そのため、ガラス基板10の切断端面16から発生するカレットは、主として、SiO2およびAl23から構成される。特に、カレットのガラス組成に占めるSiO2の割合が大きい。素子形成面12およびカレットが共に帯電しており、かつ、素子形成面12の電荷の符号と、カレットの電荷の符号とが反対になっている場合、カレットは、電磁気力による斥力によって素子形成面12に付着しやすくなる。
【0043】
図5は、カレットの主成分であるSiO2およびAl23のゼータ電位(界面動電電位)のpH依存性を示すグラフである。図5において、縦軸は、ゼータ電位(単位はmV)を示し、横軸は、pHを示す。図5に示されるように、SiO2およびAl23のゼータ電位は、pHが増加するに従って小さくなる。特に、SiO2のゼータ電位は、pH5〜6において大きく低下し、pH6以上では、ほぼ一定の負の値(−40mV)となる。
【0044】
そのため、素子形成面12にアルカリ性液剤を塗布することで、素子形成面12に存在するSiO2、および、カレットに存在するSiO2のゼータ電位が負の値になるので、素子形成面12およびカレットの表面が負に帯電する。そのため、同じ符号を持つ電荷同士に作用する電磁気力の反発力によって、カレットが素子形成面12から剥離しやすくなる。
【0045】
なお、SiO2のゼータ電位は、pH6以上においてほぼ一定となる。しかし、素子形成面12に塗布されるアルカリ性液剤を、端面加工工程S5で使用される研削液としてさらに用いる場合、研削液の浸透性の観点からは、研削液はアルカリ性であることが好ましい。また、切断端面16におけるガラスの変質を抑制する観点からは、研削液は強いアルカリ性でないことが好ましい。そのため、研削液のpHは、10未満のアルカリ性であることが好ましく、8〜9のアルカリ性であることがより好ましい。なお、素子形成面12に塗布される液剤もアルカリ性であることが好ましい。
【0046】
また、図5に示されるように、カレットの主成分の一つであるAl23のゼータ電位は、pH8以上において負の値となる。そのため、主にAl23から構成されるカレットを素子形成面12から剥離するためには、素子形成面12に塗布されるアルカリ性液剤のpHは、8〜9であることが好ましい。
【0047】
また、アルカリ性液剤は、界面活性剤を含む。界面活性剤は、素子形成面12に付着している塵、埃および有機物等の、カレット以外の異物を素子形成面12から剥離して除去する効果を有する。
【0048】
また、素子形成面12に塗布されたアルカリ性液剤は、端面加工工程S5および表面処理工程S6の完了後にブラシ等によって除去される。洗浄工程S8においてガラス基板10を洗浄するために用いられる洗浄液は、表面処理工程S6で用いられるアルカリ性液剤とは異なる液剤である。そのため、後工程への影響を防止するために、端面加工工程S5の終了後、かつ、後工程の開始前に、素子形成面12に塗布されたアルカリ性液剤は、素子形成面12からできるだけ除去しておくことが好ましい。また、後工程の粗面化工程S7において、素子形成面12の反対側の主表面である粗面化面14を、酸性液剤を用いてウエットエッチング処理する場合、粗面化面14に付着したアルカリ性液剤は、純水によって除去しておくことが好ましい。
【0049】
従って、本実施形態に係るガラス基板の製造方法は、素子形成面12にアルカリ性液剤を塗布することにより、素子形成面12に付着しているカレットを効率的に除去することができる。そのため、ガラス基板10からFPDを製造する工程において、素子形成面12に形成される半導体素子のCu系材料の配線電極の破損および断線等の不具合の発生が抑制される。
【0050】
また、近年、ガラス基板の大型化および薄型化が進み、一辺の寸法が2000mmを超える大型のガラス基板が、高精細ディスプレイ用のガラス基板として製造されている。高精細ディスプレイ用のガラス基板の表面には、従来よりも細線化および高密度化された配線電極が形成されるので、従来のディスプレイ用ガラス基板では問題視されていなかったレベルの微小なカレットが表面に付着しても、製品の品質に問題が生じるおそれがある。また、大型のガラス基板の製造工程では、生産性向上のためにガラス基板の端面を高速で加工する必要があるので、端面加工時にカレットが発生しやすくなる。
【0051】
本実施形態のガラス基板の製造方法では、素子形成面12にアルカリ性液剤を塗布する工程により、ガラス基板10が大型であっても、素子形成面12へのカレットの付着を抑制でき、また、カレットが付着した場合でもカレットを効率的に除去することができる。また、素子形成面12およびカレットを負に帯電させることで素子形成面12へのカレットの付着を抑制し、微小なカレットであっても素子形成面12へのカレットの付着量を低減することができる。また、カレットが素子形成面12に付着した場合でも、後工程での洗浄工程S8でカレットを除去することができる。従って、本実施形態のガラス基板の製造方法は、従来のディスプレイ用ガラス基板では問題視されていなかったレベルの微小なカレットやガラスパーティクルを、素子形成面12から効率的に除去することができる。さらに、表面処理工程S6において、界面活性剤を含むアルカリ性液剤を用いることで、素子形成面12に付着した有機物も除去することができる。
【0052】
(5)変形例
(5−1)変形例A
本実施形態の表面処理工程S6では、ガラス基板10の素子形成面12にアルカリ性液剤が塗布される。しかし、表面処理工程S6において、ガラス基板10の粗面化面14にも、アルカリ性液剤が塗布されてもよい。粗面化面14にアルカリ性液剤を塗布することで、粗面化面14に付着しているカレットが除去される。なお、ガラス基板10の素子形成面12および粗面化面14にアルカリ性液剤を塗布するために、ガラス基板10をアルカリ性液剤の中に浸漬してもよい。
【0053】
本変形例では、素子形成面12の反対側の主表面である粗面化面14にアルカリ性液剤を塗布することで、粗面化面14へのカレットの付着を抑制でき、粗面化工程S7において、粗面化面14における局所的なエッチングムラの発生を抑制することができる。
【0054】
さらに、界面活性剤を含むアルカリ性液剤を用いることで、粗面化面14に付着した有機物も除去することができ、有機物がマスクとして作用することにより生じるエッチングムラの発生を抑制することができる。これにより、粗面化面14の中央領域の算術平均粗さRaを0.4nm〜0.6nmの範囲内にすることが可能となる。粗面化面14の中央領域は、素子形成面12の中央領域12aの反対側の領域である。
【0055】
なお、粗面化面14の粗面化処理は、酸性液剤を用いたウエットエッチング処理により行われることが好ましい。粗面化面14の粗面化処理において、ガラス基板10の温度が上昇してガラス基板10の素子形成面12が乾燥しないように、粗面化面14に塗布される酸性液剤の温度は、50℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましい。
【0056】
(5−2)変形例B
本実施形態の端面加工工程S5の研削工程は、切断端面16に研削液を供給しながら切断端面16を研削して、切断端面16をR形状に加工する工程である。本実施形態では、研削液として、表面処理工程S6で用いられるアルカリ性液剤と同じ液剤が用いられる。しかし、研削液は、表面処理工程S6で用いられるアルカリ性液剤と異なる液剤が用いられてもよい。例えば、研削液として、純水が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 ガラス基板
12 素子形成面(主表面)
14 粗面化面(主表面)
16 切断端面
【先行技術文献】
【特許文献】
【0058】
【特許文献1】米国特許第3,338,696号
【特許文献2】特開2008−87135号公報
図1
図2
図3
図4
図5