(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記入口側容器材、前記出口側容器材、及び前記フィルター要素は、前記樹脂流路内に前記溶融樹脂が充填されることによって前記把持部の全周にわたって帯状に接着されていることを特徴とする請求項4記載の血液処理フィルター。
血液成分を含む液体または血液から好ましくない成分を除去するための血液処理フィルターであり、シート状のフィルター要素と、前記フィルター要素を挟んで配置された入口側容器材及び出口側容器材を有し、前記フィルター要素によって内部空間が入口空間及び出口空間に仕切られた容器と、を備え、前記フィルター要素は、前記入口空間側及び前記出口空間側に配置された一対の濾過面と、前記一対の濾過面の周縁に沿った端面とを有し、前記入口側容器材及び前記出口側容器材には、前記一対の濾過面の外縁部同士を挟み付けて圧縮すると共に、前記端面に溶融樹脂で接着された把持部が設けられ、前記容器の一部には、蒸気透過性を有する蒸気透過部が設けられており、前記把持部で圧縮された前記一対の濾過面の前記外縁部は溶融していない、血液処理フィルターの製造方法であって、
一方の金型で前記入口側容器材を、他方の金型で前記出口側容器材を射出成形すると共に、前記入口側容器材、及び前記出口側容器材の少なくとも一方に蒸気透過部を形成する容器材成形工程と、
前記入口側容器材又は前記出口側容器材にフィルター要素を装填する装填工程と、
前記フィルター要素が装填された状態で、前記入口側容器材と前記出口側容器材とを突き合せると共に、前記フィルター要素の外縁部を圧縮する接合工程と、
前記入口側容器材と前記出口側容器材と前記フィルター要素の端面とを溶融樹脂によって接着する接着工程と、を備え、
前記容器材成形工程では、前記入口側容器材及び前記出口側容器材の少なくとも一方の一部分を他の部分に比べて薄い薄肉部分とし、且つ、前記薄肉部分と前記他の部分とを一体成形することによって前記蒸気透過部を形成する、血液処理フィルターの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る血液処理フィルター及び血液処理フィルターの製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0029】
まず、
図1〜
図7を参照して、実施形態に係る血液処理フィルター1、1Aについて説明する。血液処理フィルター1、1Aは、血液成分を含む液体または血液(以下、被処理液という。)から好ましくない成分を除去するためのものである。なお、以下の説明では、主に、第1の実施形態に係る血液処理フィルター1について説明するが、第2の実施形態に係る血液処理フィルター1Aは、容器の蒸気透過部を除いて、基本的に第1の実施形態に係る血液処理フィルター1と共通である。したがって、血液処理フィルター1Aについては、
図5、
図6、及び
図7を参照しながら第1の実施形態に係る血液処理フィルター1との相違点を中心に補足説明する。
【0030】
図1、
図2、
図3に示されるように、第1の実施形態に係る血液処理フィルター1は、全体的に正方形状をなし、シート状のフィルター要素2と、容器3とを備えている。容器3は、フィルター要素2を挟んで配置され、且つ互いに接着された入口側容器材4及び出口側容器材5を有し、フィルター要素2によって内部空間3sが入口空間4s及び出口空間5sに仕切られている。入口側容器材4には被処理液を内部に導入する入口4cが設けられ、出口側容器材5にはフィルター要素2によって処理された処理液を排出する出口5cが設けられている。血液処理フィルター1は、矩形状、円盤状、長円板状なども採用できるが、製造時の材料ロスを少なくするためには、矩形状が好ましい。なお、正方形や菱形も矩形状の一種と見なすこととする。
【0031】
(第1の実施形態に係る容器の蒸気透過部について)
容器3には、蒸気透過性(水蒸気が透過する性質)を有する蒸気透過部31が形成されている。蒸気透過部31を形成することで、オートクレーブ滅菌を行ったときに水蒸気が容器3内(血液処理フィルター1内)に入り、血液処理フィルター1内の滅菌を行い易くなる。蒸気透過部31の一例について、詳細に説明する。
【0032】
入口側容器材4及び出口側容器材5の略中央には開口32が形成されており、この開口32を塞ぐように、入口側容器材4及び出口側容器材5のそれぞれに蒸気透過性を有するフィルム31aが設置されている。蒸気透過性(水蒸気が透過する性質)を有するフィルム31aを入口側容器材4または出口側容器材5に設置して蒸気透過部31を形成することで、オートクレーブ滅菌を行ったときに水蒸気が容器3内(血液処理フィルター1内)に入り、血液処理フィルター1内の滅菌を行い易くなる。なお、本実施形態では、入口側容器材4及び出口側容器材5の両方に蒸気透過部31を形成する態様を説明しているが、入口側容器材4及び出口側容器材5のどちらか一方に蒸気透過部31を形成する態様であっても良い。
【0033】
蒸気透過性を有するフィルム31aの材質としては、ポリ塩化ビニル、水添スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート等の樹脂、高密度ポリエチレン不織布をプレスし、液体は通さないようにしたタイベック(登録商標)等の高圧蒸気滅菌に使用できるフィルム31a等があげられる。
【0034】
さらに、気体透過係数=気体透過量(体積)×蒸気透過部(例えば、フィルム31a)の厚さ/(圧力差×透過面積×時間)となるため、蒸気透過部31の厚さを薄くしたり、面積を大きくしたりすることにより蒸気透過性を良くすることが可能となる。そのため、オートクレーブ滅菌を実施する時間に対応した蒸気透過部31の厚さや面積になるように気体(水蒸気)透過量を一定以上(例えば、0.50g以上(測定条件:室温、1atm、1日))に設計することが重要となる。また、ろ過中に内圧が生じるため、それに耐える強度についても考慮する必要がある。
【0035】
なお、本実施形態では、蒸気透過性を有するフィルム31aとフィルター要素2との間にリブ4h,5hが設けられている。その結果、ろ過中に血液処理フィルター1の内圧が陰圧になったとしても、水蒸気を透過するフィルム31aがフィルター要素2に張り付かないためにろ過時間の延長等の発生は起こりにくくなる。
【0036】
また、入口側容器材4及び出口側容器材5のうち、フィルム(蒸気透過部)31a以外の他の部分31Yの肉厚は1mm以上、5mm以下であることが好ましい。1mm以上にすることによりろ過中に血液処理フィルター1の出口空間5sの内圧が陰圧になっても形状変化が起こりにくくなる。また、入口側容器材4及び出口側容器材5の他の部分31Yの肉厚を5mm以下にすることにより、容器成形時の成形時間の増加、冷却不足での変形を防ぐことができる。本実施形態に係る血液処理フィルター1は、蒸気透過性を付与するために蒸気透過部としてのフィルム31aを設けるが、蒸気透過部以外の厚みをある程度以上とすることで、フィルターとしての強度や剛性を担保している。
【0037】
フィルム31aを設置することで、入口側容器材4及び出口側容器材5のどちらか、または両方の一部に蒸気透過部31を形成する方法としては、容器材を射出成形等で成形するときに蒸気透過性を有するフィルム31aをインサート成形しても良いし、入口側容器材4、出口側容器材5の一部がくり抜かれており、その上に、接着剤または、高周波、超音波等の溶着方法で接着させてもよい。この場合、インサート成形の方が工程の削減できるためにより良い。また、入口側容器材4、出口側容器材5の材料自体が水蒸気を透過しやすい材質の場合には、フィルム31aを使用しなくても蒸気透過部31を形成することができる。例えば、入口側容器材4や出口側容器材5自体の蒸気透過性が更に向上するように、部分的に薄肉部分を作成するのみでよい場合もある。この場合、薄肉部分の厚みは、蒸気透過性を向上させるために、50μm以上、500μm以下の厚みとすればよい。
【0038】
なお、蒸気透過部31の変形例として、例えば、
図4に示されるように、入口側容器材4及び出口側容器材5のどちらか一方の一部、または両方の一部にオートクレープ滅菌用の開口32を形成し、この開口32を塞ぐように蒸気透過性を有する可撓性樹脂を設置して蒸気透過部31Aを形成することもできる。
【0039】
(第2の実施形態に係る容器の蒸気透過部について)
図5、
図6、及び
図7に示されるように、第2の実施形態に係る血液処理フィルター1Aの入口側容器材4及び出口側容器材5の一部分31Bは、他の部分31Xの厚みdxに比べて厚み(肉厚)daを薄くした薄肉部分であり、この薄肉部分は他の部分(厚肉部分)31Xと一体成形されている。薄肉部分を形成する入口側容器材4または出口側容器材5の材質にもよるが、薄肉部分の厚みdaは、蒸気透過性(水蒸気が透過する性質)を有する程度まで薄くしており、その結果、この薄肉部分が蒸気透過部31Bとなる。具体的には、入口側容器材4または出口側容器材5の材質にもよるが、蒸気透過部31Bの厚みdaは50μm以上、且つ500μm以下が好ましい。50μm以下では、成形時樹脂が入り込まず成形が困難になることが発生するためであり、500μmを超えると水蒸気透過の効果が低くなるためである。なお、水蒸気透過の効果が低くなるとは、滅菌の成果が不十分となる程度まで低くなることを意味する。つまり、蒸気透過部の厚みdaは、成形のし易さ、水蒸気透過の効果を確認しながら、使用する容器、目的に応じて設計することが必要となる。
【0040】
また、入口側容器材4及び出口側容器材5のうち、蒸気透過部31B以外の他の部分31Xの肉厚は1mm以上、5mm以下であることが好ましい。1mm以上にすることによりろ過中に血液処理フィルター1Aの出口空間5sの内圧が陰圧になっても形状変化が起こりにくくなる。また、入口側容器材4及び出口側容器材5の他の部分31Xの肉厚を5mm以下にすることにより、容器成形時の成形時間の増加、冷却不足での変形を防ぐことができる。本実施形態に係る血液処理フィルター1Aは、蒸気透過性を付与するために蒸気透過部31Bを設けるが、蒸気透過部31B以外の厚みをある程度以上とすることで、フィルターとしての強度や剛性を担保している。
【0041】
以下の内容は、第1、及び第2の実施形態に係る血液処理フィルター1、1Aに共通するので、第1の実施形態に血液処理フィルター1を代表して説明する。
【0042】
(フィルター要素について)
図3に示されるように、フィルター要素2は、入口空間4sに面する濾過面2aと、出口空間5sに面する濾過面2bと、一対の濾過面2a,2bの周縁に沿った端面2cとを有する。フィルター要素2には、不織布や織布などの繊維状多孔性媒体や、スポンジ状構造物などの三次元網目状連続細孔を有する多孔質体などの濾過媒体を用いることができる。なお、メッシュやスクリーン等の接着性に優れないものでない方が好適である。フィルター要素2の素材としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、スチレン−イソブチレン−スチレン共重合体、ポリウレタン、ポリエステル等が挙げられる。フィルター要素2が不織布である場合には、生産性の点から特に好ましい。
【0043】
フィルター要素2は、単一のフィルター要素でもよく、積層された複数のシート状フィルター材からなる複数のフィルター要素からなってもよい。複数のフィルター要素からなる場合、上流に配置された主に微小凝集物を除去する第一のフィルター要素と、微小凝集物以外の好ましくない成分を除去するために、第一のフィルター要素の下流に配置された第二のフィルター要素からなるのが好ましい。
【0044】
例えば、入口側に繊維径が数μm〜数十μmの不織布からなるフィルター材を主に凝集物除去の為の第一のフィルター要素として配置し、次に繊維径が0.3μm〜3.0μmの不織布からなるフィルター材を、凝集物以外の好ましくない成分を除去するための第二のフィルター要素として配置して用いることができる。第一、第二のフィルター要素は、それぞれが更に繊維径の異なる複数種類のフィルター材から構成されていても良く、片方のみが複数種類のフィルター材から構成されてもよい。
【0045】
例えば繊維径が30μm〜40μmの不織布および/または繊維径が10μm〜20μmの不織布からなる第一のフィルター要素を上流側に配置し、第一のフィルター要素の下流側に繊維径が1.5μm〜2.5μmの不織布および/または繊維径が0.5μm〜1.8μmの不織布からなる第二のフィルター要素を配置してフィルター要素2を形成しても良い。なお、太い繊維径の不織布と細い繊維径の不織布が交互に配置されていても良いが、太い繊維径の不織布が上流側に配置されている方が好ましい。
【0046】
(容器の把持部について)
上述の通り、容器3は、所定の厚みを有する正方形状の容器であり、フィルター要素2を挟んで配置された入口側容器材4及び出口側容器材5を有している。また、容器3の内部空間3sは、フィルター要素2によって入口空間4s側及び出口空間5s側に仕切られている。なお、フィルター要素2は、上述の通り、入口空間4sに面する濾過面2aと、出口空間5sに面する濾過面2bと、一対の濾過面2a,2bの周縁に沿った端面2cとを有する。
【0047】
入口側容器材4は、容器3を厚み方向でほぼ半分に切断した正方形状の部材(
図2参照)であり、外面4a及び内面4bと、外面4a及び内面4bの周縁に沿った端面4eを有している。外面4aの一つの角の部分の近傍には、入口4cが設けられている。
【0048】
出口側容器材5は、容器3の残りの部分である正方形状の部材であり、外面5a及び内面5bと、外面5a及び内面5bの周縁に沿った端面5eとを有している。外面5aには、入口4cが設けられた角に対して対角となる部分に、つまり、反対側となる角に近接して、出口5cが設けられている。入口4c及び出口5cは、血液処理フィルター1の使用時において、入口4cが上方に開口し、且つ、出口5cが下方に開口するように設けられている。
【0049】
入口側容器材4及び出口側容器材5の端面4e,5eを含む外縁部には、フィルター要素2の端面2cを取り囲み、且つ互いに当接することで接合部7を形成する入口側接合部4d及び出口側接合部5dがそれぞれ設けられている。なお、本実施形態において、端面4e,5eは平坦面であるが、雌雄の関係を有し、互いに嵌り合う形状であってもよい。
【0050】
接合部7について更に詳しく説明する。入口側容器材4の外縁部には、外縁部以外の部分が沿っている平面に対して垂直に立ち上がった形状の入口側接合部4dが設けられており、入口側接合部4dの先端には、平坦な端面4eが設けられている。一方で、出口側容器材5の外縁部には、外縁部以外の部分が沿っている平面に対して垂直に立ち上がった形状の出口側接合部5dが設けられており、出口側接合部5dの先端には、平坦な端面5eが設けられている。入口側容器材4及び出口側容器材5は、入口側接合部4d(入口側容器材4)の端面4eと出口側接合部5d(出口側容器材5)の端面5eとが対向して当接している。
【0051】
図3に示されるように、接合部7の内側には、フィルター要素2の表裏である一対の濾過面2a,2bの外縁部2d,2e同士を挟み付けて圧縮する把持部9が設けられている。把持部9は、入口側容器材4に形成された入口側把持部4fと、出口側容器材5に形成された出口側把持部5fと、によって形成されている。
【0052】
入口側把持部4fは、入口側容器材4の周縁が内面側(出口側容器材5側)に向けて湾曲し、且つ外方に屈曲した段差によって形成されている。同様に出口側把持部5fは、出口側容器材5の周縁が内面側(入口側容器材4側)に向けて湾曲し、且つ外方に屈曲した段差によって形成されている。入口側把持部4f及び出口側把持部5fは、フィルター要素2の表裏である一対の濾過面2a,2bの外縁部2d,2e同士を挟み付けて圧縮している。
【0053】
入口側把持部4f及び出口側把持部5fによって形成される把持部9は、容器3の外縁部において所定の幅を有し、その幅の内寄りの部分(内側部分)は、フィルター要素2の把持に用いられている。また、その幅の外寄りの部分(外側部分)は、フィルター要素2の端面2cを取り囲み且つ溶融樹脂6が設けられる樹脂流路8となっている。樹脂流路8は、入口側把持部4fの外側部分、出口側把持部5fの外側部分、入口側接合部4d、出口側接合部5d、及びフィルター要素2の端面2cとで形成される管状(矩形ドーナツ状)の空洞である。樹脂流路8は、容器3の外部に通じる貫通孔(図示せず)を有している。貫通孔は1つであってもよいし、複数であってもよい。この貫通孔から樹脂流路8内に溶融樹脂6が充填されることによって、フィルター要素2は、把持部9において端面2c、入口側容器材4、及び出口側容器材5がと溶融樹脂6によって接着されている。このように、入口側容器材4、出口側容器材5、及びフィルター要素2が把持部9の全周にわたって帯状に接着されることで、容器3がシールされ、気密性、液密性が高まることとなる。
【0054】
把持部9において、フィルター要素2は溶融していない。これは、フィルター要素2と容器3との接着方法が超音波溶着等の加熱溶着によらないことに起因している。加熱溶着によれば、フィルター要素2の一部が溶融し、容器3の材料と一体化した部分が生じるが、本実施形態では、フィルター要素2の一部が溶融して容器3の材料と一体化した部分が生じるのを抑えている。これは、フィルター要素2と容器3との接着方法が超音波溶着等の加熱溶着によらないことと、把持部9において、フィルター要素2が十分に圧縮され、樹脂流路8に注入された溶融樹脂6がフィルター要素2の端面2cより内部に侵入しないことに起因する。溶融樹脂6がフィルター要素2の端面2cより内部に侵入すると、その部分はフィルターとしての機能が維持できなくなる。しかしながら、本実施形態では、フィルター要素2は、溶融樹脂6によって接着された端面2c以外でフィルターとしての機能を維持しているので血液処理効率上も有利である。
【0055】
なお、把持部9の機能として、フィルター要素2を十分に圧縮し、その結果、樹脂流路8に注入された溶融樹脂6がフィルター要素2を変形させたり、フィルター要素2内に入り込んだりしないようにすることが望ましい。そのためフィルター要素2を元の樹脂の密度となるまで潰すことが理想的ではあるが、注入させる溶融樹脂6の圧力に耐えられるのであれば、どのような構造であってもよい。
【0056】
また、把持部9の変形例として、例えば、
図8に示されるように、邪魔板21a、21bが設けられた樹脂流路8内に溶融樹脂6を充填することで形成される把持部9A、9B,9C、9Dであってもよい。具体的には、
図8(a)に示されるように、フィルター要素2の端面2cと平行に邪魔板21aが入口側把持部4fに設けられていてもよい。邪魔板21aは、樹脂流路8の貫通孔(図示せず)より端面2c側に設けられており、邪魔板21aの長さは、フィルター要素2の端面2cの厚み(圧縮方向における長さ)より短い。
【0057】
また、
図8(b)に示された把持部9Bのように、邪魔板21aと互い違いとなるように、出口側把持部5fにもフィルター要素2の端面2cと平行に邪魔板21bが設けられてもよい。邪魔板21a、21bは、端面2cから邪魔板21a、21bの順に設けられる。邪魔板21a、21bの長さは、フィルター要素2の端面2cの厚みより短い。
【0058】
また、
図8(c)に示された把持部9Cのように、邪魔板21b、21aは、端面2cから邪魔板21b、21aの順に設けられてもよい。また、例えば、同図(d)に示された把持部9Dのように、邪魔板21a、21bは、端面2cから同じ距離に設けられてもよい。この場合、邪魔板21a、21bの長さは、フィルター要素2の端面2cの厚みの1/2より短い。
【0059】
図3に示されるように、入口側容器材4の内面側には、入口側把持部4fで囲まれた内側の領域に凸状のリブ4hが複数設けられている。また、出口側容器材5の内面側には、出口側把持部5fで囲まれた内側の領域に凸状の
リブ5hが複数設けられている。入口側容器材4のリブ4hは、フィルター要素2の濾過面2aを押圧し、入口側容器材4の内面と濾過面2aとの間の入口空間4sを確保している。同様に、出口側容器材5のリブ5hは、フィルター要素2の濾過面2bを押圧し、出口側容器材5の内面と濾過面2bとの間の出口空間5sを確保している。
【0060】
以上の通り、本実施形態に係る血液処理フィルター1では、フィルター要素2の一対の濾過面2a,2bが、リブ4h,5hによって挟み付けられ、部分的に圧縮されることで入口空間4s、及び出口空間5sを効果的、且つ安定した状態で確保している。なお、本実施形態では、入口側容器材4のリブ4hの方が、リブ5hよりも背が高くなっており、その結果、入口空間4sは出口空間5sより広く確保されている。なお、リブ4hとリブ5hの高さは同じであってもよいし、逆に、リブ5hの方が高くてもよい。
【0061】
(容器及び溶融樹脂の材料について)
容器3(入口側容器材4、及び出口側容器材5)及び溶融樹脂6の材料としては、可撓性材料であっても、硬質材料であってもよく、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、SBS、スチレン・ブタジエンブロックコポリマー等の熱可塑性エラストマー、SBS等の熱可塑性エラストマーの部分水素添加物、完全水添スチレン系エラストマー等の熱可塑性樹脂全般、熱硬化性樹脂等の樹脂が使用できる。
【0062】
特に、入口側容器材及び出口側容器材からなる容器が可撓性材料の場合、高周波溶着等の可熱溶着によって接着するのが通常であるが、可熱溶着の場合、高い白血球除去性能を維持するには、接着部分の幅を広くして接着を確実にする必要があり、有効濾過面積の低下につながる可能性がある。一方で、本実施形態では、可熱溶着ではなく、端面2cを溶融樹脂6によって接着するので、容器3が可撓性材料の場合にも、有効濾過面積を広く確保しつつ、高い白血球除去性能を担保できる。
【0063】
容器3及び溶融樹脂6に使用される材料は、互いに接着性の高いものが選択されればよい。異なっていても、同じであってもよいが、通常は、同じ材料からなる場合の方が、なじみが良く、その結果、フィルター要素2と容器3との接着が容易になって好適である。
【0064】
また、容器3の材料として、例えば、ポリスチレン樹脂、SBS等の熱可塑性エラストマー、SBS等の熱可塑性エラストマーの部分水素添加物、完全水添スチレン系エラストマー、軟質ポリ塩化ビニル等の水蒸気透過性の高い樹脂を使用することによって、血液処理フィルター1を血液回路に接続した後に行われるオートクレーブ滅菌で、血液処理フィルター1の内側まで滅菌することが可能となる。溶融樹脂6の材料としては、溶融粘度が低い樹脂の方がフィルター要素2の樹脂となじみ易いため、フィルター要素2の端面2cと溶融樹脂6との接着強度を高めることが可能となる。
【0065】
次に、第1、第2の実施形態に係る血液処理フィルター1、1Aの製造方法ついて説明する。なお、第1、第2の実施形態に係る血液処理フィルター1、1Aの製造方法は、基本的に共通するので、主に、第1の実施形態に係る血液処理フィルター1の製造方法を説明し、第2の実施形態に係る血液処理フィルター1Aの製造方法については、相違点を補足する。
【0066】
第1の実施形態に係る血液処理フィルター1の製造方法の一例について説明する。なお、以下では、接合部7に樹脂流路8が形成される血液処理フィルター1を例に、その製造方法を説明するが、樹脂流路8が形成されていない血液処理フィルター1の場合も、基本的には、同様の工程からなる。最初に、この製造方法にて使用される射出成形機10について説明する。
【0067】
図9に示されるように、射出成形機10は、固定型11、可動型(金型)12及びスライド移動型(金型)13を備えている。固定型11は、射出成形機10の固定盤(図示せず)に固定されている。この固定型11の上面には、スライド用のシリンダ14を有する架台15が設置されている。そして、油圧あるいは空気圧等によって作動されるシリンダ14はスライド移動型13の上面に連結されている。そして、スライド移動型13は、固定型11の側面に密着した状態を保ちながら上下にスライド移動できるようにされている。
【0068】
可動型12は、射出成形機10に水平移動自在な可動盤(図示せず)に取付けられている。この可動盤は、射出成形機10の型開閉装置(図示せず)によって、固定型11に対して近接離隔移動できるようにされている。そして、可動型12は、スライド移動型13に密着する型合わせ位置と、スライド移動型13から離れた型開き位置との間を移動できるようにされている。
【0069】
固定型11には、その中心に、固定型11に取付けられた射出機(図示せず)から射出される溶融樹脂16を導くスプルー11aが設けられている。そして、スライド移動型13には、これが下方位置にあるときにスプルー11aと連続する中央のサブスプルー13aと、上方位置に移動したときにスプルー11aと連続する下方のサブスプルー13bとが設けられている。
【0070】
また、スライド移動型13の型合わせ面には、中央のサブスプルー13aの上下の対称位置に、雄型13cと雌型13dとが設けられている。この雄型13cは、入口側容器材4の内面4bを成形するものであり、雌型13dは、出口側容器材5の外面5aを成形するものである。一方、可動型12の型合わせ面には、スライド移動型13が下方位置にあるときに雄型13c及び雌型13dにそれぞれ対向する雌型12c及び雄型12dが設けられている。この雌型12cは、入口側容器材4の外面4a(
図3参照)を成形するものであり、雄型12dは、出口側容器材5の内面5bを成形するものである。そして、この可動型12側の雌型12cは、
図10及び
図11に示されるように、スライド移動型13が上方位置にあるときは、スライド移動型13側の雌型13dに対向するようにされている。
【0071】
そして、
図9に示されるように、スライド移動型13が下方位置にあり、可動型12がこれに型合わせされているときには、そのスライド移動型13と可動型12との間に、各雄型12d、13cと各雌型13d、12cとによってそれぞれ囲まれる一対の空隙17,18が形成されるようになっている。このとき、これら空隙には各雌型13d、12cの端縁部から可動型12に形成されたランナー12e及び一対のゲート12fを通して、スライド移動型13の中央のサブスプルー13aが連通するようにされている。また、
図11に示されるように、スライド移動型13が上方位置にあり、可動型12がこれに型合わせされているときには、そのスライド移動型13及び可動型12の各雌型13d、12cが互いに突き合わされ、これら雌型13d、12cの端縁部に、ゲート12fを通して、下方のサブスプルー13b及びランナー12eが連通するようにされている。
【0072】
射出成形機10を用いて血液処理フィルター1を成形するには、先ず、
図9に示されるように、シリンダ14を伸長させてスライド移動型13を下方位置に位置させる。そして、射出成形機10の可動盤を固定盤側に移動させて、スライド移動型13と可動型12とを型合わせする。この状態においては、スライド移動型13の中央のサブスプルー13aは固定型11のスプルー11aに連続し、スライド移動型13と可動型12との間には一対の空隙17,18が形成される。
【0073】
次いで、固定盤に取付けられた射出機から溶融樹脂16を射出し、固定型11のスプルー11a、スライド移動型13の中央のサブスプルー13a、ランナー12e及びゲート12fを通って両方の空隙17,18に溶融樹脂16を導き、これら空隙17,18内に充填する。こうして、各空隙17,18において、一対の入口側容器材4及び出口側容器材5が形成される(容器材成形工程)。このとき、水蒸気が透過するフィルム31aを金型内に配置しておき、インサート成形をすることにより、水蒸気を透過するフィルム31aを配置した入口側容器材4及び出口側容器材5を作成することができる。
【0074】
なお、第2の実施形態に係る血液処理フィルター1Aの製造方法では、容器材成形工程において、フィルム31aのインサート成形を行わず、容器3の一部分を他の部分31Xに比べて薄い薄肉部分を成形できる金型を使用する。この製造方法の場合、蒸気透過性を有する薄肉部分である蒸気透過部31Bと他の部分31Xとが、一体成形されている入口側容器材4及び出口側容器材5を作成することができる。
【0075】
入口側容器材4及び出口側容器材5の冷却固化後、型開閉装置によって、
図10に示すように、可動型12とスライド移動型13とを型開きし、離隔させる。すると、各雄型13c,12dがその入口側容器材4及び出口側容器材5から離脱し、入口側容器材4及び出口側容器材5はそれぞれ雌型12c,
13d側に残る。この型開き時、金型のスプルー11a、サブスプルー13a及びランナー12e及びゲート12f内等で固化した樹脂部分は、金型から突き出されて落下する。このようにして得られた入口側容器材4及び出口側容器材5は、その矩形状の外形の内縁に沿って、互いに突き合わされて接合部7を形成する入口側接合部4d及び出口側接合部5dが設けられている。
【0076】
次いで、ポリエステル不織布からなるフィルター要素2を、出口側容器材5内にインサートした後、シリンダ14を収縮させ、スライド移動型13を上方位置に移動させる(装填工程)。すると、スライド移動型13の雌型13dと可動型12の雌型12cとが対向し、これらの雌型13d、12cに残された入口側容器材4及び出口側容器材5が互いに対向する状態となる。このとき、スライド移動型13の下方のサブスプルー13bは固定型11のスプルー11aに連続するように位置する。
【0077】
この状態で可動型12をスライド移動型13側に移動させ、
図11に示されるように、これらを突き合わせて型合わせする(接合工程)。すると、入口側接合部4d及び出口側接合部5dの突き合せ面が互いに突き合わされ、接合部7が形成される。また、接合部7の内側には、空洞の樹脂流路8が形成される。
【0078】
樹脂流路8は貫通孔を有しており、貫通孔を介してゲート12fに通じ、ゲート12fは更にランナー12eを介してサブスプルー13bに連通している。この状態で、樹脂流路8に充填される溶融樹脂6(
図11参照)として、射出機から溶融樹脂16を射出する。すると、この溶融樹脂16は、固定型11のスプルー11a、サブスプルー13b、ランナー12e、ゲート12f及び貫通孔を通り、溶融樹脂6として樹脂流路8に充填される。これにより、入口側容器材4及び出口側容器材5は、接合部7の周縁が溶融樹脂6によって互いに接着される(接着工程)。このように、樹脂流路8を形成後に、溶融樹脂6を充填する手法によれば、樹脂量のコントロールが容易となる。
【0079】
樹脂流路8に溶融樹脂6を注入するとき、貫通孔を設ける場所を調整することによって、フィルター要素2の端面2cに垂直な方向に溶融樹脂6を注入してもよいし、端面2cに平行な方向に溶融樹脂6を注入してもよい。好ましくは、フィルター要素2の変形を抑えるために、注入の圧力がフィルター要素2に伝わらないようにすることが望ましい。そのため、樹脂流路8内に邪魔板21a、21b(
図8参照)を配置した構造等を採用することも可能である。
【0080】
この溶融樹脂6の冷却固化後、再び型開閉装置によってスライド移動型13と可動型12との型開きをすると、入口側容器材4及び出口側容器材5が接着され、完全密封成形品として完成された血液処理フィルター1が得られる。尚、スプルー11a、サブスプルー13b、ランナー12e及びゲート12f内等で固化した樹脂部分は金型から突き出されて落下する。
【0081】
このようにして完成した血液処理フィルター1を取り外した後、再びシリンダ14を伸長させ、スライド移動型13を下方位置に位置させる。そして、可動型12とスライド移動型13とを型合わせし、次の製品の成形工程へと移行する。そして、上記のような一連の工程を繰り返すことにより、血液処理フィルター1を連続的に成形することができる。しかも、その成形工程は、スライド移動型13の上下スライド、可動型12の前後移動による型合わせ及び型開き、溶融樹脂16の射出という単純な工程によって構成されるので、その全工程の自動化も容易に行うことができる。したがって、血液処理フィルター1の量産化が可能となる。
【0082】
このように、一組の金型である可動型12、及びスライド移動型13と射出成形機10を用いるだけで、入口側容器材4及び出口側容器材5の射出成形からフィルター要素2の内装、容器材である入口側容器材4及び出口側容器材5の接着までを単一工程で連続的に行なうことができ、完全密封されたものであっても成形することができる。
【0083】
以上、第1、第2の実施形態に係る血液処理フィルター1、1Aは、シート状のフィルター要素2と、フィルター要素2を挟んで配置された入口側容器材4及び出口側容器材5を有し、フィルター要素2によって内部空間3sが入口空間4s及び出口空間5sに仕切られた容器3と、を備える。フィルター要素2は、入口空間4s側及び出口空間5s側に配置された一対の濾過面2a,2bを有する。入口側容器材4及び出口側容器材5には、一対の濾過面2a,2bの外縁部2d,2e同士を挟み付けて圧縮すると共に、端面2cに溶融樹脂6で接着された把持部9が設けられている。また、容器3の一部には蒸気透過性を有する蒸気透過部31、31A、31Bが設けられている。また、第1の実施形態に係る蒸気透過部31、31Aはフィルム31aまたは可撓性樹脂であり、第2の実施形態に係る蒸気透過部31Bは、他の部分31Xに比べて薄い薄肉部分であると共に、蒸気透過部31と他の部分31Xとは一体成形されている。
【0084】
この血液処理フィルター1、1Aの容器3には、蒸気透過性を有する蒸気透過部31、31A、31Bが設けられているので、オートクレーブでの滅菌を実施し易くなる。また、入口側容器材4及び出口側容器材5には、一対の濾過面2a、2bの外縁部2d、2e同士を挟み付けて圧縮する把持部9が設けられ、把持部9は、フィルター要素2の濾過面2a、2bの周縁に沿った端面2cに溶融樹脂6で接着されている。その結果、好ましくない成分が、フィルター要素2の外縁部を乗り越えて濾過されずに通過する横漏れ(サイドフロー)が防止され、血液処理効率の向上を図る上で有利である。特に、把持部9が、フィルター要素2の端面2cに溶融樹脂6で接着されているので、上記効果を奏するために把持部9によって圧縮する外縁部2d、2eの領域を、接着されない場合に比べて低減でき、その結果、血液処理に機能しないフィルター要素2の範囲が少なくなって好適である。
【0085】
また、本実施形態に係る把持部9において、フィルター要素2が溶融していない。その結果、溶融によってフィルターとしての機能が失われる部分が減り、血液処理効率の向上を図る上で更に有利である。
【0086】
また、把持部9は、フィルター要素2の端面2cを取り囲み且つ溶融樹脂6が充填される樹脂流路8を有するので、フィルター要素2を容器3に内装した後で、樹脂流路8に溶融樹脂を充填することによって、フィルター要素の端面を樹脂流路で効果的に接着することができる。
【0087】
また、入口側容器材4、出口側容器材5、及びフィルター要素2は、樹脂流路8内に溶融樹脂6が充填されることによって把持部9の全周にわたって帯状に接着されているので、気密性、液密性が高まって好適である。
【0088】
血液処理フィルター1、1Aの製造方法は、スライド移動型13の雄型13c及び可動型12の雌型12cのうち、一方の金型で入口側容器材4を、他方の金型で出口側容器材5を射出成形すると共に、蒸気透過性を有するフィルム31aをインサート成形することで蒸気透過部31を形成する容器材成形工程と、入口側容器材4または出口側容器材5にフィルター要素2を装填する装填工程とを備える。また、血液処理フィルター1Aの製造方法では、容器材成形工程において、フィルム31aをインサート成形する代わりに、蒸気透過部31Bとなる薄肉部分を形成する。
【0089】
更に、一対の金型である可動型12及びスライド移動型13を型合わせし、入口側容器材4と出口側容器材5とを突き合せると共に、フィルター要素2の外縁部2d、2eを圧縮する接合工程と、入口側容器材4と出口側容器材5とを溶融樹脂6によって接着する接着工程と、を備える。
【0090】
この製造方法では、入口側容器材4と出口側容器材5とを互いに突き合せながら加圧する接合工程を有するので、例えば、数十tf(重量トン)といった強い力で入口側容器材4と出口側容器材5とを押し付け合うことができる。なお、超音波溶着では数百kgf(重量キログラム)程度であり、超音波溶着によって入口側容器材4と出口側容器材5とを接着することも可能であるが、上記の接合工程の後で接着工程を実施する本実施形態によれば、フィルター要素2をより高密度に圧縮することができる。
【0091】
以上の本実施形態に係る血液処理フィルター1、1Aの製造方法によれば、上述の血液処理フィルター1、1Aを効率よく製造できる。
【0092】
以上、実施形態を参照しつつ本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、
図12、
図13に示されるように、全体的に長方形をなす血液処理フィルター1Bとすることもできる。この他の実施形態に係る血液処理フィルター1Bの場合、長方形の容器3に合わせて、フィルター要素2(
図3参照)も長方形である。入口側容器材4も長方形であり、入口4cは入口側容器材4の一方の短辺の中央部分に、一方に開口するように設けられている。また、出口側容器材5も長方形であり、出口5cは出口側容器材5の他方の短辺の中央部分に、他方に開口するように設けられている。
【0093】
また、本発明に係る入口側容器材と出口側容器材との接着において、超音波溶着等の加熱溶着を部分的に利用することもでき、すなわち、入口側接合部及び出口側接合部を超音波溶着により溶着した後、樹脂流路に溶融樹脂を充填し、フィルター要素2容器とを溶融樹脂で接着するようにしてもよい。なお、上述のように、樹脂流路に注入された溶融樹脂がフィルター要素を変形させたり、フィルター要素の端面より内部に侵入したりしないようにするためには、フィルター要素が把持部で十分に圧縮されることが必要である。
【0094】
なお、容器の接着で通常用いられる超音波溶着の場合、フィルター要素を高密度に圧縮し難く、圧縮できたとしても溶着された血液処理フィルターの溶着部のリークが発生したり、過剰に容器同士を押し付けるために容器の溶着部に割れ等が生じたりすることとなり収率の面で問題がある。したがって、超音波溶着を行う場合であっても、溶融樹脂による接着は必須となる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0096】
(全血での濾過性能評価)
濾過性能評価には、以下の様に調製した全血製剤を用いた。豚全血2100mLを抗凝固剤CPD320mLが入った血液バッグに採血、混和し、採血時に発生した比較的粗大な凝集物を以下に述べる実施例および比較例の血液処理フィルターとは別の下処理用フィルターで濾過して取り除いた。この下処理用フィルターは、孔径の平均値が60μmで目付が50g/m
2のもの12枚、孔径の平均値が50μmで目付がg/m
2のもの8枚、孔径の平均値が50μmで目付が30g/m
2のもの8枚を上流側からこの順に積層したものを、濾過面積が45cm
2の硬質樹脂からなる容器に収容した構成とした。下処理用フィルターで採血時の粗大な凝集物を取り除いた後の血液を、採血当日に460mLずつに分割し、バッグに分注した。こうして得た全血製剤を室温のままにしておき、採血当日に実施例および比較例の血液フィルターで、室温下で濾過した。また、濾過開始から終了までの濾過時間を測定し、これを濾過時間とした。白血球除去性能に関しては、下記の式(1)に従って算出した。
【0097】
白血球除去性能=Log(濾過前白血球濃度(個/μL)/濾過後白血球濃度(個/μL))・・・(1)
【0098】
濾過前後の白血球濃度は、自動血球計数装置SF3000(シスメックス社)を用いて測定した。
(オートクレーブ滅菌性能評価)
【0099】
血液フィルターの内部にバイオインジケータを挿入したものを作成し、入口側容器材の入口、出口側容器材の出口にはPVCで作成した密栓を使用し、滅菌中に入口、出口から水蒸気が入らないようにした。滅菌は123℃、30分で実施し培養後の菌の有無で滅菌の性能を評価した。
【0100】
[実施例1]
実施例1に係る血液処理フィルターは、上記の実施形態に係る血液処理フィルター1の製造方法にて説明した方法を利用して作成した。すなわち、一方の金型で入口側容器材を、他方の金型で出口側容器材を成形した後に、出口側容器材に血液処理フィルター要素を装填し、金型を移動させて入口側容器材及び出口側容器材を突き合わせた。続いて、入口側容器材及び出口側容器材の接合部の周縁に形成された金型の流路を通じて容器の樹脂流路に溶融樹脂を射出し、接合部の全周縁を溶着する方法を用いて血液処理フィルターを作成した。
【0101】
容器及び溶樹脂流路に充填(注入)する溶融樹脂の材料をポリカーボネート樹脂とし、把持部の距離、即ち、入口側把持部及び出口側把持部の向かい合う面の距離が2.0mmとした。また、フィルター要素の表裏の濾過面の外縁部は、入口側把持部及び出口側把持部により挟み付けて圧縮された圧縮領域が、フィルター要素の端面から内側に5mmの距離範囲の領域となるようにした。この時有効濾過面積を46cm
2とした。また、入口側容器に水蒸気を透過させる(蒸気透過性を有する)フィルムを13cm
2の面積で設置し、また、出口側容器材に蒸気透過性を有するフィルムを16cm
2の面積で設置し、それぞれ蒸気透過部を形成した。ここで、蒸気透過性を有するフィルムとして0.2mmの厚さのポリ塩化ビニル製のフィルムを使用した。なお、フィルター要素の元の厚みD0は、9mmであり、把持部による圧縮率は、22.2%であった。また、フィルター要素として、ポリエステル不織布を以下の構成で積層したものを用いた。
ポリエステル不織布1(平均繊維径が12μm、目付が30g/m2) 6枚
ポリエステル不織布2(平均繊維径1.6μm、目付が66g/m2) 2枚
ポリエステル不織布3(平均繊維径1.2μm、目付が30g/m2) 32枚
【0102】
このようにして作成した血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果を表1に示す。白血球除去性能は1.52となり、高い性能を示した。滅菌後の生菌も確認されなかった。
【0103】
[実施例2]
容器材料を水添スチレン系熱可塑性エラストマーとし、入口側容器材に蒸気透過性を有するフィルムを13cm
2の面積で設置し、出口側容器材に蒸気透過性を有するフィルムを16cm
2の面積で設置し、それぞれ蒸気透過部を形成した。ここで、蒸気透過性を有するフィルムとして0.1mmの厚さのポリカーボネート製のフィルムを使用した。なお、以上の条件以外は、実施例1と同様にして血液処理フィルターを作成した。このようにして作成した血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果を表1に示す。白血球除去性能は1.45となり、高い性能を示した。滅菌後の生菌も確認されなかった。
【0104】
[実施例3]
容器材料を水添スチレン系熱可塑性エラストマーとし、入口側容器材に蒸気透過性を有するフィルムは設置せず、出口側容器材にのみ蒸気透過性を有するフィルムを16cm
2の面積で設置して蒸気透過部を形成した。水蒸気を透過するフィルムとして0.1mmの厚さの軟質ポリ塩化ビニル製のフィルムを使用した以外は実施例1と同様にして血液処理フィルターを作成した。このようにして作成した血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果を表1に示す。この血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果、白血球除去性能は1.46となり、高い性能を示した。滅菌後の生菌も確認されなかった。
【0105】
[比較例1]
一方の金型で入口側容器材を、他方の金型で出口側容器材を成形した後に、金型から入口側容器材及び出口側容器材を取り出し、フィルター要素を装填した。入口側接合部及び出口側接合部を接着し、且つ、フィルター要素の端面を接着しないで血液処理フィルターを作成した。また、容器材料をポリカーボネートとし、水蒸気を透過するフィルムは配置しなかった以外は実施例1と同様にして血液処理フィルターを作成した。この比較例の血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果を表1に示す。この血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果、白血球除去性能は0.28となり、実施例と比較してかなり低い性能を示した。また、滅菌後の生菌が確認された。
【0106】
[比較例2]
一方の金型で入口側容器材を、他方の金型で出口側容器材を成形した後に、金型から入口側容器材及び出口側容器材を取り出し、フィルター要素を装填した。入口側接合部及び出口側接合部を接着し、且つ、フィルター要素の端面を接着しないで血液処理フィルターを作成した以外は実施例1と同様にして血液処理フィルターを作成した。なお、比較例2では、入口側接合部及び出口側接合部も実施例1と同様の蒸気透過部を形成した。この比較例の血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果を表1に示す。この血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果、白血球除去性能は0.25となり、実施例と比較してかなり低い性能を示した。一方で、滅菌後の生菌は確認されなかった。
【0107】
[比較例3]
容器材料をポリカーボネートとし、蒸気透過部を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして血液処理フィルターを作成した。なお、比較例3では、入口側接合部及び出口側接合部とフィルター要素の端面とを溶融樹脂にて接着した。この比較例の血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果を表1に示す。この血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果、白血球除去性能は1.49となり、高い性能を示した。一方で、菌後の生菌が確認された。
【0108】
【表1】
【0109】
[実施例4]
容器及び溶樹脂流路に充填(注入)する溶融樹脂の材料をポリカーボネート樹脂とし、把持部の距離、即ち、入口側把持部及び出口側把持部の向かい合う面の距離が2.0mmとした。また、フィルター要素の表裏の濾過面の外縁部は、入口側把持部及び出口側把持部により挟み付けて圧縮された圧縮領域が、フィルター要素の端面から内側に5mmの距離範囲の領域となるようにした。この時有効濾過面積を46cm
2とした。また、入口側容器に水蒸気を透過させる(蒸気透過性を有する)薄肉部分を13cm
2の面積で形成し、また、出口側容器材に蒸気透過性を有する薄肉部分を16cm
2の面積で形成し、それぞれ蒸気透過部とした。ここで、蒸気透過部としての薄肉部分の厚みは0.2mmとした。なお、フィルター要素の元の厚みD0は、9mmであり、把持部による圧縮率は、22.2%であった。また、フィルター要素として、ポリエステル不織布を以下の構成で積層したものを用いた。
ポリエステル不織布1(平均繊維径が12μm、目付が30g/m2) 6枚
ポリエステル不織布2(平均繊維径1.6μm、目付が66g/m2) 2枚
ポリエステル不織布3(平均繊維径1.2μm、目付が30g/m2) 32枚
このようにして作成した血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果を表2に示す。白血球除去性能は1.55となり、高い性能を示した。滅菌後の生菌も確認されなかった。
【0110】
[実施例5]
容器材料を水添スチレン系熱可塑性エラストマーとした以外は、実施例4と同様にして血液処理フィルターを作成した。このようにして作成した血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果を表2に示す。白血球除去性能は1.48となり、高い性能を示した。滅菌後の生菌も確認されなかった。
【0111】
[実施例6]
容器材料を水添スチレン系熱可塑性エラストマーとし、入口側容器材に薄肉部分は形成せず、出口側容器材にのみ薄肉部分(厚み0.1mm)を16cm
2の面積で形成して蒸気透過部とした以外は、実施例4と同様にして血液処理フィルターを作成した。このようにして作成した血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果を表2に示す。この血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果、白血球除去性能は1.56となり、高い性能を示した。滅菌後の生菌も確認されなかった。
【0112】
[比較例4]
一方の金型で入口側容器材を、他方の金型で出口側容器材を成形した後に、金型から入口側容器材及び出口側容器材を取り出し、フィルター要素を装填した。入口側接合部及び出口側接合部を接着し、且つ、フィルター要素の端面を接着しないで血液処理フィルターを作成した。また、容器材料をポリカーボネートとし、薄肉部分は形成しなかった以外は実施例4と同様にして血液処理フィルターを作成した。この比較例の血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果を表2に示す。この血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果、白血球除去性能は0.28となり、実施例と比較してかなり低い性能を示した。また、滅菌後の生菌が確認された。
【0113】
[比較例5]
一方の金型で入口側容器材を、他方の金型で出口側容器材を成形した後に、金型から入口側容器材及び出口側容器材を取り出し、フィルター要素を装填した。入口側接合部及び出口側接合部を接着し、且つ、フィルター要素の端面を接着しないで血液処理フィルターを作成した以外は実施例4と同様にして血液処理フィルターを作成した。なお、比較例5では、入口側接合部及び出口側接合部も実施例4と同様の蒸気透過部を形成した。この比較例の血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果を表2に示す。この血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果、白血球除去性能は0.3となり、実施例と比較してかなり低い性能を示した。一方で、滅菌後の生菌は確認されなかった。
【0114】
[比較例6]
薄肉部分を形成しなかった以外は、実施例4と同様にして血液処理フィルター作成した。この血液処理フィルターを用いて試験を実施した結果、白血球除去性能は1.49となり、高い性能を示した。一方で、菌後の生菌が確認された。
【0115】
【表2】