特許第6368430号(P6368430)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6368430クロマトグラフィー用分離剤、クロマトグラフィーカラム、及びクロマトグラフィーによる分離方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368430
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】クロマトグラフィー用分離剤、クロマトグラフィーカラム、及びクロマトグラフィーによる分離方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/281 20060101AFI20180723BHJP
   B01J 20/286 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   B01J20/281 X
   B01J20/281 G
   B01J20/286
【請求項の数】16
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-522567(P2017-522567)
(86)(22)【出願日】2016年12月20日
(86)【国際出願番号】JP2016087973
(87)【国際公開番号】WO2017110819
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2017年4月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-254636(P2015-254636)
(32)【優先日】2015年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-78106(P2016-78106)
(32)【優先日】2016年4月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591159251
【氏名又は名称】信和化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(72)【発明者】
【氏名】福澤 興祐
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/176215(WO,A1)
【文献】 特開平07−103955(JP,A)
【文献】 特表2006−507122(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/087937(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0152880(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/281
B01J 20/286
G01N 30/00−30/93
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミンで修飾された芳香環を含むシラン官能基で表面修飾された多孔質基材からなり、前記芳香環が前記多孔質基材と前記ジアミンの間に介在し、かつ、前記ジアミンが前記シラン官能基の末端に導入されたものである、クロマトグラフィー用分離剤。
【請求項2】
前記芳香環のメタ位又はパラ位が前記ジアミンで修飾されている、請求項1に記載のクロマトグラフィー用分離剤。
【請求項3】
前記ジアミンが第2級アミンを含む、請求項1又は2に記載のクロマトグラフィー用分離剤。
【請求項4】
前記ジアミンが炭素数2〜17のアルキレンジアミンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のクロマトグラフィー用分離剤。
【請求項5】
前記ジアミンが−(CHNH(CHNH(式中、nは1〜11、mは1〜6である)で表される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のクロマトグラフィー用分離剤。
【請求項6】
前記ジアミンが−CHNH(CHNHである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のクロマトグラフィー用分離剤。
【請求項7】
前記芳香環がベンゼン環である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のクロマトグラフィー用分離剤。
【請求項8】
前記シラン官能基に含まれる前記芳香環の数が1である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のクロマトグラフィー用分離剤。
【請求項9】
前記シラン官能基が、該シラン官能基のケイ素と前記芳香環との間に、炭素数1〜6のアルキレン基又はオキシアルキレン基からなる連結基を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載のクロマトグラフィー用分離剤。
【請求項10】
前記連結基が−(CH−(式中、xは1〜3である)で表される、請求項9に記載のクロマトグラフィー用分離剤。
【請求項11】
前記連結基が−(CH−である、請求項10に記載のクロマトグラフィー用分離剤。
【請求項12】
前記シラン官能基が下記式:
【化1】
で表される、請求項1〜11のいずれか一項に記載のクロマトグラフィー用分離剤。
【請求項13】
前記多孔質基材が、多孔質無機粒子、多孔質無機バルク体、多孔質高分子粒子及び多孔質高分子バルク体からなる群から選択される少なくともいずれか1種である、請求項1〜12のいずれか一項に記載のクロマトグラフィー用分離剤。
【請求項14】
前記多孔質基材が多孔質無機粒子又は多孔質無機バルク体であり、該多孔質無機粒子又は多孔質無機バルク体がシリカゲルである、請求項1〜13のいずれか一項に記載のクロマトグラフィー用分離剤。
【請求項15】
筒状のカラム本体と、
前記カラム本体に充填又は形成される、請求項1〜14のいずれか一項に記載のクロマトグラフィー用分離剤と、
を備えた、クロマトグラフィーカラム。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のクロマトグラフィー用分離剤を用いて複数の物質の分離を行う工程を含む、クロマトグラフィーによる分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフィー用分離剤、クロマトグラフィーカラム、及びクロマトグラフィーによる分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロマトグラフィー用分離剤は、クロマトグラフィーカラムに充填又は形成されることで固定相として機能する材料である。そのようなクロマトグラフィー用分離剤として、シリカゲルが広く用いられている。シリカゲルは物理的強度が高く、比表面積が大きいといった利点を有する。
【0003】
近年、クロマトグラフィー性能の向上を図るべく、シリカゲルの表面にアミノ基ないしアミン含有基を結合させた(すなわち表面修飾した)分離剤が知られている。例えば、特許文献1(US2013/0319086A1)及び特許文献2(US2012/0273404A1)には疎水性基とイオン性基をシリカゲルに固定化した分離剤が開示されており、イオン性基がアルキレン基を介したアミノ基やアルキル基で修飾されたアミノ基を含みうることが記載されている。特許文献3(US4755294)には、短鎖のアルキレン基を介してジアミンをシリカゲルに固定化した分離剤が開示されている。特許文献4(US4560704)には、ポリアミンをシリカゲルに固定化した分離剤が開示されている。特許文献5(US4340496)及び特許文献6(US4290892)には、短鎖のアルキレン基を介してジアミンをシリカゲルに固定化した分離剤が開示されている。
【0004】
また、アミノ基ないしアミン含有基の末端にベンゼン環等の芳香環を結合させた表面修飾シリカゲルも知られている。例えば、特許文献7(US2014/0319057A1)にはシリカゲルにアントラセンを固定化するため、アミノ基を有するアントラセンとシリカゲルに修飾されたエポキシドを反応させて合成した分離剤が開示されている。この分離剤は、アミノ基の相互作用よりも、末端の芳香環の相互作用により、不飽和化合物を分離するものと解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US2013/0319086A1
【特許文献2】US2012/0273404A1
【特許文献3】US4755294
【特許文献4】US4560704
【特許文献5】US4340496
【特許文献6】US4290892
【特許文献7】US2014/0319057A1
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yuusuke Kawachi, et al., "Chromatographic characterization of hydrophilic interaction liquid chromatography stationary phases: Hydrophilicity, charge effects, structural selectivity, and separation efficiency", Journal of Chromatography A. 1218 (2011) pp.5903-5919
【発明の概要】
【0007】
本発明者は、今般、ジアミンで修飾された芳香環を含むシラン官能基で多孔質基材を表面修飾して、芳香環を多孔質基材とジアミンの間に介在させることで、選択性、保持力等の分離性能に全般的に優れたクロマトグラフィー用分離剤を提供できるとの知見を得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、選択性、保持力等の分離性能に全般的に優れたクロマトグラフィー用分離剤を提供することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、ジアミンで修飾された芳香環を含むシラン官能基で表面修飾された多孔質基材からなり、前記芳香環が前記多孔質基材と前記ジアミンの間に介在する、クロマトグラフィー用分離剤が提供される。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、筒状のカラム本体と、前記カラム本体に充填又は形成される、上記クロマトグラフィー用分離剤とを備えた、クロマトグラフィーカラムが提供される。
【0011】
本発明の他の一態様によれば、上記クロマトグラフィー用分離剤を用いて複数の物質の分離を行う工程を含む、クロマトグラフィーによる分離方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】実施例1で得られた分離剤を用いたHILICモードでの分離をサンプル1に対して行ったクロマトグラムである。
図1B】比較例1で得られた分離剤を用いたHILICモードでの分離をサンプル1に対して行ったクロマトグラムである。
図2A】実施例1で得られた分離剤を用いたHILICモードでの分離をサンプル2に対して行ったクロマトグラムである。
図2B】比較例1で得られた分離剤を用いたHILICモードでの分離をサンプル2に対して行ったクロマトグラムである。
図3A】実施例1で得られた分離剤を用いたHILICモードでの分離をサンプル3に対して行ったクロマトグラムである。
図3B】比較例1で得られた分離剤を用いたHILICモードでの分離をサンプル3に対して行ったクロマトグラムである。
図4A】実施例1で得られた分離剤を用いたHILICモードでの分離をサンプル4に対して行ったクロマトグラムである。
図4B】比較例1で得られた分離剤を用いたHILICモードでの分離をサンプル4に対して行ったクロマトグラムである。
図5A】実施例1で得られた分離剤を用いたHILICモードでの分離をサンプル5に対して行ったクロマトグラムである。
図5B】比較例1で得られた分離剤を用いたHILICモードでの分離をサンプル5に対して行ったクロマトグラムである。
図6A】実施例1で得られた分離剤を用いたHILICモードでの分離をサンプル6に対して行ったクロマトグラムである。
図6B】比較例1で得られた分離剤を用いたHILICモードでの分離をサンプル6に対して行ったクロマトグラムである。
図7A】実施例1で得られた分離剤を用いたHILICモードでの分離をサンプル7に対して行ったクロマトグラムである。
図7B】比較例1で得られた分離剤を用いたHILICモードでの分離をサンプル7に対して行ったクロマトグラムである。
図8A】実施例1で得られた分離剤を用いたHILICモードでの分離をサンプル8に対して行ったクロマトグラムである。
図8B】比較例1で得られた分離剤を用いたHILICモードでの分離をサンプル8に対して行ったクロマトグラムである。
図9】実施例1、比較例1及び非特許文献1に開示される各種分離剤の各々を用いた場合による固定相pH効果の評価結果を示すグラフである。
図10】実施例1と比較例1の各種評価項目についての結果を、非特許文献1に開示される各種分離剤の評価結果を含めた相対評価として示したレーダーチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
クロマトグラフィー用分離剤
本発明のクロマトグラフィー用分離剤は、シラン官能基で表面修飾された多孔質基材からなる。このシラン官能基はジアミンで修飾された芳香環を含み、この芳香環が多孔質基材とジアミンの間に介在する。このような構成とすることで、選択性、保持力等の分離性能に全般的に優れたクロマトグラフィー用分離剤を提供することができる。芳香環を多孔質基材とジアミンの間に介在させることで、選択性、保持力等の分離性能が全般的に向上するメカニズムは必ずしも定かではないが、以下のように推察される。すなわち、ジアミンの存在自体が選択性や保持力等の分離性能の向上に寄与するところ、本発明の分離剤では他の官能基として芳香環をさらに有する。芳香環はππ相互作用を呈するため、ジアミンの呈する相互作用と相まって、分離剤全体として複数の相互作用を好都合に呈することができ、それらが優れた分離性能をもたらすものと考えられる。そのような優れた分離性能は、保持力、OH選択性、CH選択性、立体配置選択性、位置異性体選択性、分子形状選択性、アニオン交換性、固定相表面pH効果といった多岐にわたるものである。特に、本発明の分離剤の表面は親水性を呈するのが典型的である。このため、本発明の分離剤は、親水性固定相を用いるクロマトグラフィーであるHILIC(親水性相互作用クロマトグラフィー)や順相クロマトグラフィーに好適に使用可能であるが、それら以外のクロマトグラフィーにも使用可能である。
【0014】
また、本発明の分離剤にあっては、耐久性にも優れることも期待される。一般的にアミノプロピルが結合した分離剤はHILICカラムとして知られているが、水溶液中ではアルキル鎖が短いとアミノ基がシリカゲル表面を溶かし劣化が早い。この点、多孔質基材(例えばシリカゲル)とジアミンとの間に芳香環を介在させることでジアミンが多孔質基材から遠くなる。また、単結合と異なり芳香環の可動域は小さいのでジアミンと多孔質基材の接触を避ける効果が期待でき、それによって分離剤の耐久性が上がることが期待される。
【0015】
本発明に用いられる多孔質基材は、シラン官能基で表面修飾可能なものであれば特に限定されず、クロマトグラフィー用分離剤(ないし固定相)として知られる公知各種の多孔質基材であることができる。多孔質基材の形態は多孔質であるかぎり特に限定されず、粒子状であってもよいし、モノリス等のバルク状であってもよい。すなわち、多孔質基材は多孔質粒子であってもよいし、多孔質バルク体であってもよい。典型的な多孔質基材は、多孔質無機粒子、多孔質無機バルク体、多孔質高分子粒子及び多孔質高分子バルク体からなる群から選択される少なくともいずれか1種であり、好ましくは多孔質無機粒子又は多孔質無機バルク体、特に好ましくは多孔質無機粒子である。多孔質無機粒子又は多孔質無機バルク体の例としては、シリカゲル、アルミナシリカゲル、その他表面に水酸基を有する各種セラミック粒子、及びシリカモノリスが挙げられ、特に好ましくはシリカゲルである。多孔質高分子粒子の例としては、セルロース粒子、アガロース粒子、その他表面に水酸基を有する多孔質高分子粒子が挙げられる。もっとも、シラン官能基で表面修飾された状態の多孔質基材にあっては水酸基が残存していてもよいし、水酸基がシリル化反応により消失していてもよい。
【0016】
多孔質基材はシラン官能基で表面修飾される。典型的には、多孔質基材の表面に存在する水酸基(例えばシリカゲルの場合はシラノール基)とシリル化剤とが反応することにより、シラン官能基が多孔質基材の表面に結合する。シラン官能基はジアミンで修飾された芳香環を含み、この芳香環が多孔質基材とジアミンの間に介在する。芳香環のメタ位又はパラ位がジアミンで修飾されているのが好ましく、芳香環のメタ位が修飾されたものと芳香環のパラ位が修飾されたものとの混合物であってもよい。
【0017】
ジアミンは第1級アミン、第2級アミン及び第3級アミンのいずれかを含みうるが、第2級アミンを含むのが好ましい。アミンは第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンの間で塩基性が異なるが、水溶液中では第2級アミンが最も塩基性が高く、選択性、保持力等の分離性能に特に寄与する。したがって、第2級アミンを含む2種類のアミン、すなわちジアミンをシラン官能基の末端(すなわち多孔質基材の表面から最も離れた位置)に導入するのが好ましい。
【0018】
ジアミンは炭素数2〜17のアルキレンジアミンであるのが好ましく、より好ましくは炭素数2〜13、さらに好ましくは炭素数2〜9、特に好ましくは炭素数2〜5、最も好ましくは炭素数2〜3のアルキレンジアミンである。特に好ましいジアミンは−(CHNH(CHNH(式中、nは1〜11、好ましくは1〜9、より好ましくは1〜5、特に好ましくは1〜3、最も好ましくは1であり、mは1〜6、好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜2、最も好ましくは2である)で表されるものである。したがって、最も好ましいジアミンは−CHNH(CHNHである。
【0019】
芳香環はππ相互作用を呈することが可能ないかなる芳香環であってもよい。芳香環の例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、及びアントラセン環が挙げられる。最も好ましい芳香環はベンゼン環である。好ましくは、シラン官能基に含まれる芳香環の数が1である。
【0020】
所望により、シラン官能基は、シラン官能基のケイ素と芳香環との間に、炭素数1〜6のアルキレン基又はオキシアルキレン基からなる連結基を含む。アルキレン基の例としては、メチレン基、ジメチレン基(エチレン基)、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、プロピレン基、及びエチルエチレン基が挙げられる。オキシアルキレン基の例としては、オキシメチレン基、オキシジメチレン基(オキシエチレン基)、オキシトリメチレン基、オキシテトラメチレン基、オキシペンタメチレン基、オキシヘキサメチレン基、及びオキシプロピレン基が挙げられる。アルキレン基又はオキシアルキレン基の炭素数は好ましくは1〜6であり、より好ましくは1〜3、さらに好ましくは2である。典型的な連結基は−(CH−で表されるものであり、xは好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3、さらに好ましくは2である。すなわち、特に好ましい連結基は−(CH−である。
【0021】
したがって、最も好ましいシラン官能基は下記式:
【化1】
で表されるものである。
【0022】
本発明の分離剤は、上述したようなシラン官能基を有するシリル化剤を用意して、このシリル化剤と多孔質基材(典型的にはその表面に存在する水酸基)とをシリル化反応させることにより作製することができる。シリル化反応は公知の条件に従って行えばよく、特に限定されるものではない。
【0023】
クロマトグラフィーカラム
本発明の分離剤を用いることで、クロマトグラフィーカラムを提供することができる。本発明によるクロマトグラフィーカラムは、筒状のカラム本体と、カラム本体に充填又は形成される本発明の分離剤とを備えたものである。カラム本体を構成する材料は特に限定されず、例えばステンレスやガラスなどが挙げられる。カラム本体の内径及び長さは用途に応じて適宜決定すればよく特に限定されない。分離剤の充填又は形成はいかなる手法により行ってもよい。例えば、カラム本体に粒子状の分離剤を詰め込んでもよいし、カラム本体(例えばキャピラリーチューブ)中にモノリス等のバルク状の多孔質基材(例えばモノリス型シリカゲル)を形成させてもよい。すなわち、本発明によるクロマトグラフィーカラムは、モノリス型キャピラリーカラムの形態としてもよい。
【0024】
クロマトグラフィーによる分離方法
本発明のクロマトグラフィー用分離剤或いはそれを含むクロマトグラフィーカラムを用いて複数の物質の分離を行うことができる。すなわち、本発明のクロマトグラフィーによる分離方法は、クロマトグラフィー用分離剤を用いて複数の物質の分離を行う工程を含む。すなわち、クロマトグラフィーの固定相として本発明の分離剤を用いる。一方、クロマトグラフィーに用いる移動相は、液体、気体、及び超臨界流体のいずれであってもよいが、液体又は超臨界流体が好ましい。すなわち、本発明の分離方法は、クロマトグラフィーの原理を利用したいかなる分離方法であってよく、化学分析手法としての各種クロマトグラフィーは勿論のこと、化学分析の前処理として化合物を分離又は濃縮するために用いられる手法の一つである固相抽出を含むものである。本発明の分離方法が採用可能なクロマトグラフィーは、液体クロマトグラフィー(例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC))、ガスクロマトグラフィー、及び超臨界クロマトグラフィーのいずれであってもよいが、液体クロマトグラフィー又は超臨界流体クロマトグラフィーが好ましい。液体クロマトグラフィーの分離モードは特に限定されず、順相クロマトグラフィー、HILIC(親水性相互作用クロマトグラフィー)、逆相クロマトグラフィー等であってよいが、本発明の分離剤は親水性固定相としての性質を望ましく有しうることから、順相クロマトグラフィー又はHILIC(順相クロマトグラフィーの一種)が特に好ましい。
【実施例】
【0025】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0026】
実施例1
平均粒子径5μm、平均細孔径12nm、比表面積300m/gの多孔質シリカゲル10gをトルエン50mLに分散させ、アミノエチルアミノメチルフェネチルトリメトキシシランを8g添加後、還流するまで加温し6時間反応させた。室温に冷却後、反応後のシリカゲルをろ過、洗浄し、減圧乾燥して下記一般式で表されるシラン官能基で表面修飾されたシリカゲルをクロマトグラフィー用分離剤として得た。
【化2】
【0027】
得られた分離剤を元素分析したところ、C:11.69%、H:1.60%、N:2.17%であった。
【0028】
比較例1
平均粒子径5μm、平均細孔径12nm、比表面積300m/gの多孔質シリカゲル10gをトルエン50mLに分散させ、ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランを11g添加後、還流するまで加温し6時間反応させた。室温に冷却後、反応後のシリカゲルをろ過、洗浄し、減圧乾燥して下記一般式で表されるシラン官能基で表面修飾されたシリカゲルをクロマトグラフィー用分離剤として得た。
【化3】
【0029】
得られた分離剤を元素分析したところ、C:4.53%、H:0.56%、N:0.57%であった。
【0030】
HILICモードにおけるクロマトグラフィー性能の評価
実施例1で得られた分離剤をステンレス製のカラム本体(カラム長:100mm、カラム内径:4.6mm)に充填して、クロマトグラフィーカラムを得た。このクロマトグラフィーカラムに対して、HILICモードにおけるクロマトグラフィー性能の評価を、非特許文献1(Yuusuke Kawachi, et al., "Chromatographic characterization of hydrophilic interaction liquid chromatography stationary phases: Hydrophilicity, charge effects, structural selectivity, and separation efficiency", Journal of Chromatography A. 1218 (2011) pp.5903-5919、この文献は参照により本明細書に組み込まれる)に開示される評価手法に準じた手順で、様々なサンプルに対して行った。また、比較のため、比較例1で得られた分離剤を用いて上記と同様にして作製したクロマトグラフィーカラムを用いて、実施例1と同様の評価を行った。
【0031】
なお、各サンプルの測定において、分離係数αを以下の通り算出した。先ず、サンプル注入時を0として、各サンプルに含まれるトルエン(これは分離剤に保持されない化合物である)の検出時間をtとする。そして、トルエンの次に検出されることになる化合物(以下、第1化合物という)の検出時間をtと、第1化合物の次に検出されることになる化合物(以下、第2化合物という)の検出時間tとする。そして、第1化合物のキャパシティファクターkをk=(t−t)/tの式に従い算出する一方、第2化合物のキャパシティファクターkをk=(t−t)/tの式に従い算出する。最後に、分離係数αをα=k/kの式により算出する。したがって、この分離係数αの値が大きいほど、第1化合物と第2化合物との分離性能が高いといえる。
【0032】
(1)保持力及びOH選択性の評価(HILICモード)
サンプル1として、以下に示される3種類の化合物の混合物を用意した。
【化4】
【0033】
サンプル1においてトルエンはHILICモードにおいて分離剤に保持されない化合物であり、それ故、他の化合物に対する分離剤の保持力の程度を評価するための参照指標となる(後述するサンプル2〜8においても同様の理由からトルエンが含まれている)。サンプル1において、2’−デオキシウリジン(2dU)とウリジン(U)は互いに極めて類似した化学構造を有しており、上記化学式中において丸で囲まれた部分が−H基であるか−OH基であるかにおいてのみ相違する。したがって、サンプル1に対する分離性能を評価することで、Uの保持時間から水素結合性の強さを示す保持力を評価することができ、α(U/2dU)の値によってOH基の有無の違いを示すOH選択性を評価することができる。
【0034】
クロマトグラフィーカラムを用いて、サンプル1に対するクロマトグラフィーを以下の分析条件で行った。
‐ サンプル1:トルエン1.0mg/mL、2’−デオキシウリジン(2dU)0.1mg/mL、及びウリジン(U)0.1mg/mL
‐ 移動相:20mM CHCONH(pH4.7)/CHCN=10/90
‐ 温度:30℃
‐ 検出:UV254nm
‐ 流速:0.5mL/min
‐ サンプル注入量:4.0μL
【0035】
【表1】
【0036】
実施例1におけるサンプル1のクロマトグラムを図1Aに示す一方、比較例1によるサンプル1のクロマトグラムを図1Bに示す。表1から明らかなように、実施例1による分離剤を用いることで、Uの保持力は極めて大きいだけでなく、α(U/2dU)の値によって示されるOH選択性も極めて高かった。Uの保持力が大きかった原因として実施例1の分離剤は2種類のアミンを有するため水素結合が強かったためと解される。また、実施例1の分離剤はアミン以外にベンゼン環を有し多様な相互作用が存在するため分離にも寄与したと考えられる。
【0037】
(2)CH選択性の評価(HILICモード)
サンプル2として、以下に示される3種類の化合物の混合物を用意した。
【化5】
【0038】
サンプル2において、5−メチルウリジン(5MU)とウリジン(U)は互いに極めて類似した化学構造を有しており、上記化学式中において丸で囲まれた部分における−CH基の有無においてのみ相違する。したがって、サンプル2に対する分離性能を評価することで、CH選択性を評価することができる。
【0039】
クロマトグラフィーカラムを用いて、サンプル2に対するクロマトグラフィーを以下の分析条件で行った。
‐ サンプル2:トルエン1.0mg/mL、5−メチルウリジン(5MU)0.1mg/mL、及びウリジン(U)0.1mg/mL
‐ 移動相:20mM CHCONH(pH4.7)/CHCN=10/90
‐ 温度:30℃
‐ 検出:UV254nm
‐ サンプル注入量:4.0μL
‐ 流速:0.5mL/min
【0040】
【表2】
【0041】
実施例1におけるサンプル2のクロマトグラムを図2Aに示す一方、比較例1によるサンプル2のクロマトグラムを図2Bに示す。表2から明らかなように、実施例1による分離剤を用いることで、α(U/5MU)の値によって示されるCH選択性は高かった。
【0042】
(3)立体配置選択性の評価(HILICモード)
サンプル3として、以下に示される3種類の化合物の混合物を用意した。
【化6】
【0043】
サンプル3において、アデノシン(A)とビダラビン(V)は互いに極めて類似した化学構造を有しており、上記化学式中において丸で囲まれた部分の立体配置においてのみ相違する。したがって、サンプル3に対する分離性能を評価することで、立体配置選択性を評価することができる。
【0044】
クロマトグラフィーカラムを用いて、サンプル3に対するクロマトグラフィーを以下の分析条件で行った。
‐ サンプル3:トルエン1.0mg/mL、アデノシン(A)0.1mg/mL、及びビダラビン(V)0.1mg/mL
‐ 移動相:20mM CHCONH(pH4.7)/CHCN=10/90
‐ 温度:30℃
‐ 検出:UV254nm
‐ サンプル注入量:4.0μL
‐ 流速:0.5mL/min
【0045】
【表3】
【0046】
実施例1におけるサンプル3のクロマトグラムを図3Aに示す一方、比較例1によるサンプル3のクロマトグラムを図3Bに示す。表3から明らかなように、実施例1による分離剤を用いることで、α(V/A)の値によって示される立体配置選択性は同等であった。
【0047】
(4)位置異性体選択性の評価(HILICモード)
サンプル4として、以下に示される3種類の化合物の混合物を用意した。
【化7】
【0048】
サンプル4において、3’−デオキシグアノシン(3dG)及び2’−デオキシグアノシン(2dG)は互いに極めて類似した化学構造を有しており、上記化学式中において丸で囲まれた部分の比較から分かるように、両者は位置異性体である。したがって、サンプル4に対する分離性能を評価することで、位置異性体選択性を評価することができる。
【0049】
クロマトグラフィーカラムを用いて、サンプル4に対するクロマトグラフィーを以下の分析条件で行った。
‐ サンプル:トルエン1.0mg/mL、3’−デオキシグアノシン(3dG)0.1mg/mL、及び2’−デオキシグアノシン(2dG)0.1mg/mL
‐ 移動相:20mM CHCONH(pH4.7)/CHCN=10/90
‐ 温度:30℃
‐ 検出:UV254nm
‐ サンプル注入量:4.0μL
‐ 流速:0.5mL/min
【0050】
【表4】
【0051】
実施例1におけるサンプル4のクロマトグラムを図4Aに示す一方、比較例1によるサンプル4のクロマトグラムを図4Bに示す。表4から明らかなように、実施例1による分離剤を用いることで、α(2dG/3dG)の値によって示される位置異性体選択性は同等であった。
【0052】
(5)分子形状選択性の評価(HILICモード)
サンプル5として、以下に示される3種類の化合物の混合物を用意した。
【化8】
【0053】
サンプル5において、4−ニトロフェニルβ−D−グルコピラノシド(NPβGlu)及び4−ニトロフェニルα−D−グルコピラノシド(NPαGlu)は互いに極めて類似した化学構造を有しており、上記化学式中において丸で囲まれた部分の置換基の向き、すなわちアキシアル位又はエクアトリアル位に4−ニトロフェノキシ基が結合していることのみ相違する。したがって、サンプル5に対する分離性能を評価することで、分子形状選択性を評価することができる。
【0054】
クロマトグラフィーカラムを用いて、サンプル5に対するクロマトグラフィーを以下の分析条件で行った。
‐ サンプル5:トルエン1.0mg/mL、4−ニトロフェニルβ−D−グルコピラノシド(NPβGlu)0.1mg/mL、及び4−ニトロフェニルα−D−グルコピラノシド(NPαGlu)0.1mg/mL
‐ 移動相:20mM CHCONH(pH4.7)/CHCN=10/90
‐ 温度:30℃
‐ 検出:UV254nm
‐ サンプル注入量:4.0μL
‐ 流速:0.5mL/min
【0055】
【表5】
【0056】
実施例1におけるサンプル5のクロマトグラムを図5Aに示す一方、比較例1によるサンプル5のクロマトグラムを図5Bに示す。表5から明らかなように、実施例1による分離剤を用いることで、α(NPαGlu/NPβGlu)の値によって示される分子形状選択性は同等であった。
【0057】
(6)アニオン交換性の評価(HILICモード)
サンプル6として、以下に示される3種類の化合物の混合物を用意した。
【化9】
【0058】
サンプル6において、ウリジン(U)とは異なり、p−トルエンスルホン酸ナトリウム(SPTS)はカチオン性が高い化合物であり、アニオン交換によって分離剤に保持される傾向を有する化合物である。したがって、サンプル6に対する分離性能を評価することで、アニオン交換性を評価することができる。
【0059】
クロマトグラフィーカラムを用いて、サンプル6に対するクロマトグラフィーを以下の分析条件で行った。
‐ サンプル6:トルエン1.0mg/mL、ウリジン(U)0.1mg/mL、及びp−トルエンスルホン酸ナトリウム(SPTS)0.1mg/mL
‐ 移動相:20mM CHCONH(pH4.7)/CHCN=10/90
‐ 温度:30℃
‐ 検出:UV254nm
‐ サンプル注入量:4.0μL
‐ 流速:0.5mL/min
【0060】
【表6】
【0061】
実施例1におけるサンプル6のクロマトグラムを図6Aに示す一方、比較例1によるサンプル6のクロマトグラムを図6Bに示す。表6から明らかなように、実施例1による分離剤を用いることで、α(SPTS/U)の値によって示されるアニオン交換性は極めて高かった。特に、実施例1の分離剤が有する第2級アミンは第1級アミンや第3級アミンと比べて一般的に水溶液中の塩基性が最も強いとされており(すなわちNH<(CHN<CHNH<(CHNHの順に塩基性が強い)、これが高いアニオン交換性に寄与したものと解される。
【0062】
(7)カチオン交換性の評価(HILICモード)
サンプル7として、以下に示される3種類の化合物の混合物を用意した。
【化10】
【0063】
サンプル7において、ウリジン(U)とは異なり、N,N,N−トリメチルフェニルアンモニウムクロリド(TMPAC)はアニオン性が高い化合物であり、カチオン交換によって分離剤に保持される傾向を有する化合物である。したがって、サンプル7に対する分離性能を評価することで、カチオン交換性を評価することができる。
【0064】
クロマトグラフィーカラムを用いて、サンプル7に対するクロマトグラフィーを以下の分析条件で行った。
‐ サンプル7:トルエン1.0mg/mL、ウリジン(U)0.1mg/mL、及びN,N,N−トリメチルフェニルアンモニウムクロリド(TMPAC)0.1mg/mL
‐ 移動相:20mM CHCONH(pH4.7)/CHCN=10/90
‐ 温度:30℃
‐ 検出:UV254nm
‐ サンプル注入量:4.0μL
‐ 流速:0.5mL/min
【0065】
【表7】
【0066】
実施例1におけるサンプル7のクロマトグラムを図7Aに示す一方、比較例1によるサンプル7のクロマトグラムを図7Bに示す。図7A図7B及び表7から明らかなように、実施例1による分離剤を用いた場合、アニオン性の高い化合物であるTMPACの保持時間は参照指標のトルエンの保持時間とほぼ同様であり、TMPACは分離剤に全く保持されないことが分かる。すなわち、本発明の分離剤はカチオン交換性を有しないことが分かる。
【0067】
(8)固定相表面pH効果(HILICモード)
サンプル8として、以下に示される3種類の化合物の混合物を用意した。
【化11】
【0068】
サンプル8において、テオフィリン(Tp)及びテオブロミン(Tb)は−CH基の位置が異なることよりpKaが異なる。塩基性固定相はTbからTpの順で溶出し、α(Tp/Tb)の値によって固定相表面pH効果を評価した。
【0069】
クロマトグラフィーカラムを用いて、サンプル8に対するクロマトグラフィーを以下の分析条件で行った。
‐ サンプル:トルエン1.0mg/mL、テオフィリン(Tp)0.1mg/mL、及びテオブロミン(Tb)0.1mg/mL
‐ 移動相:20mM CHCONH(pH4.7)/CHCN=10/90
‐ 温度:30℃
‐ 検出:UV254nm
‐ サンプル注入量:4.0μL
‐ 流速:0.5mL/min
【0070】
【表8】
【0071】
実施例1におけるサンプル8のクロマトグラムを図8Aに示す一方、比較例1によるサンプル1のクロマトグラムを図8Bに示す。表8から明らかなように、実施例1による分離剤を用いることで、α(Tp/Tb)の値によって示される分離性能は極めて大きかった。すなわち、本発明の分離剤は塩基性固定相として極めて高い分離性能を有することが分かる。
【0072】
参考のため、非特許文献1において評価結果が開示されている、以下に列挙される市販の分離剤における値(すなわちTpk、Tbk及びα(Tp/Tb))を実施例1及び比較例1の値と並べて図9及び表9に示す。
‐ ZIC−HILIC(3.5μm,5μm,150×4.6mm.I.D)[Merck],Nucleodur HILIC(3μm,150×4.6mm.I.D)[NAGEL]
‐ Xbridge Amide(3.5μm,150×4.6mm.I.D[Waters]
‐ Amide−80(3μm,5μm,150×4.6mm.I.D)[Tosoh]
‐ PolySULFOETHYL A(3μm,100×2.1mm.I.D)[PolyLC]
‐ PolyHYDROXYETHYL A(3μm,100×2.1mm.I.D)[PolyLC]
‐ CYCLOBOND I 2000(5μm,250×4.6mm.I.D.)[Astec]
‐ LiChrospher Diol(5μm,100×4.6mm.I.D)[Merck]
‐ Chromolith Si(100×4.6mm.I.D)[Merck]
‐ Halo HILIC(2.7μm,150×4.6mm.I.D)[AMT]
‐ COSMOSIL HILIC(5μm,150×4.6mm.I.D)[Nacalai]
‐ Sugar−D(5μm,150×4.6mm.I.D)[Nacalai]
‐ NH−MS(5μm,150×4.6mm.I.D)[Nacalai]
【0073】
なお、図9に示されるTpk、Tbk及びα(Tp/Tb)の意味は以下のとおりである。
‐ Tpk:テオフィリン(Tp)のキャパシティファクター
‐ Tbk:テオブロミン(Tb)のキャパシティファクター
‐ α(Tp/Tb):Tpを第2化合物、Tbを第1化合物とした場合の分離係数
【0074】
【表9】
【0075】
図9に示される結果から明らかなように実施例1の分離剤にあっては、比較例1やその他の市販の分離剤と比較して、顕著に高い分離性能(すなわちα(Tp/Tb)=2.40)を示すことが分かる。すなわち、実施例1におけるα(Tp/Tb)=2.40の値は非特許文献1に開示される論文値と比較しても最も高い値であり、これは最も分離性能が高かったことを意味する。実施例1における高い分離性能は本発明による分離剤は相互作用が多様であることが原因であろうと考えられる。
【0076】
(9)HILICモードにおける総合評価
上記(1)〜(8)において評価された各種項目についての実施例1と比較例1の結果のレーダーチャートを図10に示す。なお、図10のレーダーチャートの各項目において1.00とされるべき基準は実施例1、比較例1及び非特許文献1に開示される各種分離剤の結果の中で最も高い評価のサンプルの評価結果に対応しており、それに対する相対評価を数値化したものが図10に示される。図10に示されるレーダーチャートから明らかなように実施例1において作製された分離剤の各種クロマトグラフィー性能は多くの評価項目で比較例1よりも大きく向上しており、その他の評価項目においても比較例1に匹敵する高い性能を発揮している。また、非特許文献1に開示される各種分離剤と比較した場合、実施例1の分離剤は、カチオン交換性は無いものの、広い観点から分離性能を発揮する点で全般的に優れた分離性能を発揮することが分かる。特に、実施例1の分離剤は2種類のアミンとベンゼン環を有するため、水素結合性k(U)は大きくなったと考えられる。また、実施例1の分離剤は第2級アミンを有するため、アニオン交換性α(SPTS/U)は大きくなったと考えられる。さらに、実施例1の分離剤は2種類のアミン以外に、ベンゼン環を有し、それ故ππ相互作用も呈するため、多様な相互作用が分離性能の向上に寄与したものと考えられる。
【0077】
一方、比較例1の分離剤は疎水性の大きい第3級アミンが1種類と水酸基を有し、実施例1に比べ水素結合性k(U)は小さくなったと考えられる。また、比較例1の分離剤は第3級アミンを有するが実施例1の第2級アミンよりも塩基性が小さいためアニオン交換性α(SPTS/U)は小さくなったと考えられる。図10より、比較例1の分離剤におけるOH選択性α(U/2dU)及び固定相表面pH効果α(Tp/Tb)は実施例1と比較して大幅に値が小さかった。比較例1の分離剤は水酸基及び第3級アミンの官能基しか持たないため、実施例1と比較して相互作用の種類の少なさが分離にも影響したのではないかと考えられる。
【0078】
なお、上記評価はHILICモードにおいて行われたものであるが、本発明の分離剤は、HILICモードのみならず、順相モード等、他の分離モードによるクロマトグラフィーにおいても有用であるものと考えられる。

図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10