特許第6368440号(P6368440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6368440管用ねじ継手及び管用ねじ継手の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368440
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】管用ねじ継手及び管用ねじ継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 15/00 20060101AFI20180723BHJP
   F16L 15/04 20060101ALI20180723BHJP
   F16L 58/08 20060101ALI20180723BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   F16L15/00
   F16L15/04 A
   F16L58/08
   C23C28/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-558093(P2017-558093)
(86)(22)【出願日】2016年12月16日
(86)【国際出願番号】JP2016087611
(87)【国際公開番号】WO2017110686
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2018年2月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-254027(P2015-254027)
(32)【優先日】2015年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 邦夫
【審査官】 渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−327874(JP,A)
【文献】 特表2008−527249(JP,A)
【文献】 特表2008−537062(JP,A)
【文献】 特開2004−053013(JP,A)
【文献】 特開2008−215473(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/057754(WO,A1)
【文献】 特公昭62−053588(JP,B2)
【文献】 特開2002−221288(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/072486(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 15/00
C23C 28/00
F16L 15/04
F16L 58/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々がねじ部及びねじ無し金属接触部を含む接触表面を有するピン及びボックスを備える管用ねじ継手であって、
前記ピン及び前記ボックスの少なくとも一方の前記接触表面上に、Zn−Ni合金からなる第1めっき層と、
前記第1めっき層上に、Zn又はZn合金からなる多孔質の第2めっき層と、
前記第2めっき層上に、潤滑被膜とを備える、管用ねじ継手。
【請求項2】
請求項1に記載の管用ねじ継手であって、前記第2めっき層の空孔率は5〜80%である、管用ねじ継手。
【請求項3】
請求項1及び請求項2のいずれかに記載の管用ねじ継手であって、前記第1めっき層の厚さは1〜20μmであり、前記第2めっき層の厚さは2〜30μmであり、及び前記潤滑被膜の厚さは5〜50μmである、管用ねじ継手。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の管用ねじ継手であって、前記潤滑被膜が固体潤滑被膜である、管用ねじ継手。
【請求項5】
各々がねじ部及びねじ無し金属接触部を含む接触表面を有するピン及びボックスを備える管用ねじ継手の製造方法であって、
前記ピン及び前記ボックスの少なくとも一方の前記接触表面上に、電気めっき処理を実施してZn−Ni合金からなる第1めっき層を形成する工程と、
前記第1めっき層を形成した後、衝撃めっき処理を実施して、Zn又はZn合金からなる第2めっき層を形成する工程と、
前記第2めっき層を形成した後に、潤滑被膜を形成する工程とを備える、管用ねじ継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管用ねじ継手及び管用ねじ継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油田や天然ガス田の採掘のために、油井管が使用される。井戸の深さに応じて、複数の鋼管を連結して使用する。鋼管の連結は、鋼管の端部に形成された管用ねじ継手同士をねじ締めすることによって行われる。鋼管は、検査等のために引き上げられ、ねじ戻しされ、検査された後、再びねじ締めされて、再度使用される。
【0003】
管用ねじ継手は、ピン及びボックスを備える。ピンは、鋼管の先端部の外周面に、雄ねじ部及びねじ無し金属接触部を含む接触表面を有する。ボックスは、鋼管の先端部の内周面に、雌ねじ部及びねじ無し金属接触部を含む接触表面を有する。ピン及びボックスのねじ部及びねじ無し金属接触表面は、鋼管のねじ締め及びねじ戻し時に強い摩擦を繰り返し受ける。これらの部位に、摩擦に対する十分な耐久性がなければ、ねじ締め及びねじ戻しを繰り返した時にゴーリング(修復不可能な焼付き)が発生する。したがって、管用ねじ継手には、摩擦に対する十分な耐久性、すなわち、優れた耐焼付き性が要求される。
【0004】
従来、耐焼付き性を向上するために、ドープと呼ばれる重金属入りのコンパウンドグリースが使用されてきた。管用ねじ継手の表面にコンパウンドグリースを塗布することで、管用ねじ継手の耐焼き付き性を改善できる。しかしながら、コンパウンドグリースに含まれるPb、Zn及びCu等の重金属は環境に影響を与える可能性がある。このため、コンパウンドグリースを使用しない管用ねじ継手の開発が望まれている。
【0005】
特開2002−221288号公報(特許文献1)及び国際公開第2009/072486号(特許文献2)は、コンパウンドグリース無しでも耐焼付き性に優れる管用ねじ継手を提案する。
【0006】
特許文献1に記載されている管用ねじ継手のピン又はボックスの接触表面には、管用ねじ継手のピン又はボックスの少なくとも一方のねじ部やねじ無し金属接触部に、衝撃めっき法により多孔質のZnまたはZn合金層を形成し、その上に固体潤滑被膜又は重金属粉を含まない液状潤滑被膜(例、高塩基性スルホネート等の高塩基性有機金属塩を主剤とする被膜)が形成される。これにより、コンパウンドグリースなどの重金属粉を含む液状潤滑剤を用いることなく、高い防食性を有し、繰り返しの締付け・緩めの際の錆発生による焼付き発生や気密性低下を抑制することができる、と特許文献1には記載されている。
【0007】
特許文献2に記載されている管用ねじ継手は、ボックスの接触表面が、最上層として塑性もしくは粘塑性型レオロジー挙動を有する固体潤滑被膜を有し、ピンの接触表面が、最上層として紫外線硬化樹脂を主成分とする固体防食被膜を有することを特徴とする。これにより、コンパウンドグリースを使用せずに、錆の発生を抑制し、優れた耐焼付き性と気密性を示し、かつ表面にべたつきが無く、外観や検査性に優れた管用ねじ継手が得られる、と特許文献2には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−221288号公報
【特許文献2】国際公開第2009/072486号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
耐焼付き性の評価は、通常、ねじ締めする鋼管同士の芯を一致させた状態で実施される。しかしながら、実際に管用ねじ継手をねじ締めする場合、ねじ締めする鋼管同士(又は鋼管及びカップリング)の芯がずれることがある。これをミスアライメントという。ミスアライメントが生じた場合、ピン及びボックスの接触表面(ねじ部及びねじ無し金属接触部)は、強い摩擦に加え強いせん断応力を受ける。このせん断応力は、ミスアライメントなしの場合よりも、顕著に大きい。そのため、ミスアライメントが生じると、焼付きがより生じやすい。したがって、管用ねじ継手には、ミスアライメントが生じた場合でも焼付きを抑制する性能、つまり、耐ミスアライメント性が要求される。
【0010】
一方で、上述のねじ無し金属接触部は、金属シール部及びショルダー部を含む。管用ねじ継手をねじ締めする際、ピン及びボックスのショルダー部同士が接触する。このときに生じるトルクをショルダリングトルクという。管用ねじ継手をねじ締めする際には、ショルダリングトルクに到達した後、締結が完了するまでさらにねじ締めを行う。これにより、管用ねじ継手の気密性が高まる。さらにねじ締めを行うと、ピン及びボックスの少なくとも一方を構成する金属が塑性変形を起こし始める。このときに生じるトルクをイールドトルクという。
【0011】
締結完了時のトルク(締結トルクという)は、ねじ干渉量の大小に関わらず、十分なシール面圧が得られるように設定されている。ショルダリングトルクとイールドトルクとの差、つまりトルクオンショルダー値が十分に大きければ、締結トルクの範囲に余裕ができる。その結果、締結トルクの調整が容易になる。したがって、管用ねじ継手には、上述の耐ミスアライメント性に加え、優れたトルク特性を有することが要求される。
【0012】
一方で、油井管は、製造された後、船舶等により輸送され、使用されるまで一定期間保管される。油井管の輸送及び保管は、長期間に渡る場合がある。さらに、油井管の保管は屋外で行われる場合がある。屋外で長期に保管された場合、油井管用ねじ継手に錆が発生し、油井管用ねじ継手の耐焼付き性や気密性が低下する場合がある。したがって、油井管用ねじ継手には、上述の耐焼付き性に加え、気温−20℃〜+50℃程度の低温・温暖・熱帯地域だけではなく、−60℃〜−20℃といった気温になることもある極寒地域で使用した場合にも、優れた防食性が要求される。
【0013】
接触表面(ねじ部及びねじ無し金属部)には、耐焼付き性を向上する目的で潤滑被膜が形成される。上述のように油井管が屋外で保管される場合は、油井管は高温及び低温に繰り返し曝される場合がある。高温及び低温に繰り返し曝された場合、潤滑被膜の密着性が低下する場合がある。潤滑被膜の密着性が低下すれば、ねじ締めを実施した際に、潤滑被膜が剥離する。潤滑被膜が剥離すれば、管用ねじ継手の耐ミスアライメント性が低下しさらに、ショルダリングトルクが高くなる。したがって、管用ねじ継手には、繰り返しの温度変化を受けた場合でも、固体潤滑被膜の密着性が高いことが要求される。
【0014】
特許文献1に開示された管用ねじ継手は、Zn又はZn合金層が多孔質である。そのため、固体潤滑被膜との密着性は良好であり、十分な耐焼付き性を備える。しかしながら、多孔質であるが故に、Zn又はZn合金層と母材との間に空隙が生じる。そのため、生じた空隙部分の母材が、長期経過中に腐食する場合がある。
【0015】
特許文献2に記載された管用ねじ継手は、常温の使用環境において、優れた固体潤滑被膜の密着性や潤滑性能を有する。そのため、常温環境において十分な耐焼付き性を備える。しかしながら、管用ねじ継手の使用環境温度は、高温又は低温の場合がある。管用ねじ継手の母材と、固体潤滑被膜との熱膨張率は異なる。そのため、管用ねじ継手の使用環境温度が高温であれば、固体潤滑被膜の密着性が低下する。管用ねじ継手の使用環境温度が高温であればさらに、固体潤滑被膜が軟化及び酸化する。これにより、固体潤滑被膜の密着性がさらに低下する。一方、管用ねじ継手の使用環境温度が極低温であれば、固体潤滑被膜が硬質化及び脆化する。これにより、固体潤滑被膜の密着性が低下する。固体潤滑被膜の密着性が低下すれば、固体潤滑被膜の剥離や一部破損が生じ、管用ねじ継手の耐焼付き性が低下する。加えて、管用ねじ継手は、運搬時には高温に曝され、使用時には極低温に曝される場合がある。したがって、管用ねじ継手には、高温及び極低温に繰り返し曝されても、固体潤滑被膜との高い密着性を有することが要求される。
【0016】
本発明の目的は、優れた耐焼付き性、トルク特性、及び防食性を有し、高温及び極低温に繰り返し曝されても優れた潤滑被膜との密着性を有する管用ねじ継手及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本実施形態の管用ねじ継手は、ピン及びボックスを備える。ピン及びボックスの各々は、ねじ部及びねじ無し金属接触部を含む接触表面を有する。管用ねじ継手は、第1めっき層、第2めっき層、及び、潤滑被膜を備える。第1めっき層は、ピン及びボックスの少なくとも一方の接触表面上に形成され、Zn−Ni合金からなる。第2めっき層は、第1めっき層上に形成され、Zn又はZn合金からなる多孔質のめっき層である。潤滑被膜は、第2めっき層上に形成される。接触表面側から、Zn−Ni合金からなる第1めっき層、Zn又はZn合金からなる第2めっき層、及び潤滑被膜の順で積層する。
【0018】
本実施形態の管用ねじ継手の製造方法は、各々がねじ部及びねじ無し金属接触部を含む接触表面を有するピン及びボックスを備える管用ねじ継手の製造方法である。本実施形態の製造方法は、電気めっき工程と、衝撃めっき工程と、潤滑被膜形成工程とを備える。電気めっき工程では、ピン及びボックスの少なくとも一方の接触表面上に、電気めっき処理を実施してZn−Ni合金からなる第1めっき層を形成する。衝撃めっき工程では、第1めっき層を形成した後に、衝撃めっき処理を実施して、Zn又はZn合金からなる第2めっき層を形成する。潤滑被膜形成工程では、第2めっき層上に、潤滑被膜を形成する。
【発明の効果】
【0019】
本実施形態の管用ねじ継手は、優れた耐焼付き性、トルク特性、及び防食性を有し、高温及び極低温に繰り返し曝されても優れた潤滑被膜との密着性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、ミスアライメントが生じた場合の、鋼管のねじ締めの模式図である。
図2図2は、管用ねじ継手の回転数と、トルクとの関係を示す図である。
図3図3は、本実施形態の管用ねじ継手の構成を示す図である。
図4図4は、本実施形態による管用ねじ継手の断面図である。
図5図5は、本実施形態による管用ねじ継手の接触表面の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本実施形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0022】
本発明者は、ピン及びボックスを有する管用ねじ継手の耐焼付き性、トルク特性、防食性、及び潤滑被膜の密着性との関係について種々検討を行った。その結果、本発明者は以下の知見を得た。
【0023】
耐焼付き性の指標として、耐高温性と耐ミスアライメント性がある。従来の管用ねじ継手では、耐高温性は十分であっても、耐ミスアライメント性が不十分である場合がある。図1は、ミスアライメントを説明するための模式図である。図1を参照して、鋼管100は、鋼管本体(以下、単に本体という)101と、カップリング102とを備える。カップリング102は、本体101の上端にねじ締めされて固定されている。鋼管100は、下端(本体101の下端)の外周面にピン103を有し、上端(カップリング102の上端)の内周面にボックス104を有する。図1に示すとおり、上下に配列された鋼管100において、上方の鋼管100のピン103が下方の鋼管100のボックスに挿入され、ねじ締めされる。これにより、上下に配置された鋼管100同士が連結する。
【0024】
ねじ締めする際、上方の鋼管100を、下方の鋼管100と同軸に配置してねじ締めするのが好ましい。しかしながら、実際には、ねじ締めの際、上方の鋼管100の中心軸と、下方の鋼管100の中心軸とが揃わず、交叉することがある。これをミスアライメントという。ミスアライメントが生じた状態でねじ締めを実施すれば、ミスアライメント無しの場合と比較して、より焼付きを生じやすい。
【0025】
管用ねじ継手の耐ミスアライメント性を高めるには、高硬度及び高融点を有するめっき層を、ねじ部及びねじ無し金属接触部を含む接触表面に形成することが有効である。めっき層の硬度が高ければ、ねじ締め及びねじ戻しの際に接触表面上のめっき層が損傷を受けにくい。さらに、めっき層の融点が高ければ、ねじ締め及びねじ戻しの際、局所的に高温になった場合でもめっき層が溶け出しにくい。
【0026】
そこで、本実施形態による管用ねじ継手は、Zn−Ni合金からなる第1めっき層を接触表面上に形成する。第1めっき層は、空孔率が5%未満であるのが好ましい。空孔率が5%未満の第1めっき層は、電気めっき処理により形成することができる。したがって、第1めっき層は電気めっき層である。
【0027】
第1めっき層を構成するZn−Ni合金の硬度及び融点は高い。したがって、管用ねじ継手の耐ミスアライメント性を高めることができる。亜鉛(Zn)は、従来めっき層に用いられてきた銅(Cu)と比較して硬度及び融点が低い。しかしながら、Zn合金であるZn−Ni合金は、十分な高硬度及び高融点を有する。そのため、第1めっき層は、耐ミスアライメント性を高めることができる。
【0028】
Zn−Ni合金を用いればさらに、管用ねじ継手の防食性を高めることができる。亜鉛(Zn)は鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及びクロム(Cr)と比較して卑な金属である。したがって、亜鉛(Zn)を含む第1めっき層を接触表面上に形成すれば、鋼材よりも優先的にめっき層が腐食される(犠牲防食)。これにより、管用ねじ継手の防食性が高まる。
【0029】
一方で、潤滑性を高めるため、通常、管用ねじ継手の接触表面上に潤滑被膜が形成される。潤滑被膜は固体潤滑被膜及び液体潤滑被膜のどちらでもよい。潤滑被膜は、高温及び低温に繰り返し曝されることで、密着性が低下する場合がある。密着性が低下した潤滑被膜は、管用ねじ継手をねじ締め及びねじ戻しする際に剥離する。特に、ミスアライメントが生じた状況でねじ締めが実施された場合は、潤滑被膜が剥離し易い。潤滑被膜が剥離すれば、管用ねじ継手のねじ部分の潤滑性が低下する。
【0030】
第1めっき層は電気めっき層であるため、平坦な表面を有する。したがって、第1めっき層上に固体潤滑被膜が形成された場合は、潤滑被膜の密着性が低下しやすい。
【0031】
そこで、第1めっき層の上に、Zn又はZn合金からなる多孔質の第2めっき層を形成し、第2めっき層上に潤滑被膜を形成する。この場合、潤滑被膜の密着性が高まる。第2めっき層は、第1めっき層よりも多孔質(ポーラス:porous)である。好ましくは、第2めっき層の空孔率は5〜80%である。第1めっき層よりもポーラスな第2めっき層は、衝撃めっき処理により形成することができる。したがって、第2めっき層は衝撃めっき層である。衝撃めっき層である第2めっき層は、表面に凹凸を有する。凹凸を有する表面に潤滑被膜が形成されれば、いわゆるアンカー効果により、密着性が高まる。潤滑被膜の密着性が高ければ、高温及び低温に繰り返し曝された場合でも、潤滑被膜の剥離が抑制される。潤滑被膜の剥離が抑制されれば、ねじ締め及びねじ戻しの際に高い潤滑性が維持される。そのため、管用ねじ継手の耐ミスアライメント性がさらに高まる。
【0032】
管用ねじ継手の高い潤滑性が維持されればさらに、ねじ締めの際のイールドトルクが上昇する。図2は、管用ねじ継手のねじ部分の回転数とトルクとの関係を示す図である。図2を参照して、ピン及びボックスをねじ締めすると、ピン及びボックスのショルダー部同士が接触する。このときに生じるトルクをショルダリングトルクという。管用ねじ継手のねじ部分をねじ締めする際には、ショルダリングトルクに到達した後、締結が完了するまでさらにねじ締めを行う。これにより、管用ねじ継手のねじ部分の気密性が高まる。さらにねじ締めを行うと、ピン及びボックスの少なくとも一方を構成する金属が塑性変形を起こし始める。このときに生じるトルクをイールドトルクという。
【0033】
締結完了時のトルク(締結トルク)は、ねじ干渉量の大小に関わらず、十分なシール面圧が得られるように設定されている。ショルダリングトルクとイールドトルクとの差であるトルクオンショルダー値が十分に大きければ、締結トルクの範囲に余裕ができる。その結果、締結トルクの調整が容易になる。したがって、イールドトルクは、過度に低くならない方が好ましい。潤滑被膜の密着性が十分に高ければ、ねじ締め及びねじ戻しを繰り返しても、イールドトルクが高く維持される。すなわち、繰り返し使用後も、締結トルクの調節が容易であり、トルク特性に優れる。
【0034】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態の管用ねじ継手は、ピン及びボックスを有する。ピン及びボックスの各々は、ねじ部及びねじ無し金属接触部を含む接触表面を有する。管用ねじ継手は、ピン及びボックスの少なくとも一方の接触表面上にZn−Ni合金からなる第1めっき層と、第1めっき層上にZn又はZn合金からなる多孔質の第2めっき層と、第2めっき層上に潤滑被膜とを備える。これらは、接触表面側から、第1めっき層、第2めっき層及び潤滑被膜の順で積層する。
【0035】
本実施形態の管用ねじ継手は、接触表面上に第1めっき層を備える。第1めっき層を構成するZn−Ni合金は、高硬度及び高融点である。そのため、耐ミスアライメント性に優れる。加えて、Zn−Ni合金は犠牲防食効果を有する。そのため、本実施形態の管用ねじ継手は防食性にも優れる。本実施形態の管用ねじ継手はさらに、第1めっき層と潤滑被膜との間に、Zn又はZn合金からなる第2めっき層を備える。第2めっき層は第1めっき層よりもポーラスである。そのため、第1めっき層上に直接潤滑被膜を形成した場合と比較して、管用ねじ継手に対する潤滑被膜の密着性が高くなる。第2めっき層はポーラスであるため、十分なトルクオンショルダー値を示し、優れたトルク特性を示す。
【0036】
第2めっき層は衝撃めっき処理により形成される、衝撃めっき層である。衝撃めっき処理はたとえば、めっきする金属粒子のブラスト処理である。この場合、形成される第2めっき層はポーラスであり、かつ、その表面は凹凸を有する。したがって、アンカー効果により潤滑被膜の密着性が高まる。衝撃めっき処理は、金属粒子のブラスト処理以外の他の同様の公知の方法でもよい。
【0037】
第2めっき層の空孔率は好ましくは5〜80%であり、さらに好ましくは10〜60%である。
【0038】
第1めっき層の厚さは1〜20μmであり、第2めっき層の厚さは2〜30μmであり、潤滑被膜の厚さは5〜50μmであることが好ましい。
【0039】
本実施形態の管用ねじ継手の製造方法は、上述の管用ねじ継手の製造方法である。本製造方法は、電気めっき工程と、衝撃めっき工程と、潤滑被膜形成工程とを備える。電気めっき工程では、電気めっき処理を実施して、ピン及び前記ボックスの少なくとも一方の接触表面上に、Zn−Ni合金からなる第1めっき層を形成する。衝撃めっき工程では、第1めっき層を形成した後、衝撃めっき処理を実施して、Zn又はZn合金からなる第2めっき層を形成する。潤滑被膜形成工程では、第2めっき層上に潤滑被膜を形成する。
【0040】
以下、本実施形態の管用ねじ継手及び管用ねじ継手の製造方法について詳述する。
【0041】
[管用ねじ継手]
管用ねじ継手は、ピン及びボックスを備える。図3は、本実施形態による管用ねじ継手50の一部断面を有する側面図である。図3を参照して、管用ねじ継手50は、鋼管本体(以下、単に本体という)1とカップリング2とを備える。本体1の両端には、外面に雄ねじ部を有するピン3が形成される。カップリング2の両端には、内面に雌ねじ部を有するボックス6が形成される。ピン3とボックス6とをねじ締めすることによって、本体1の端に、カップリング2が取り付けられる。一方で、カップリング2を使用せず、本体1の一方の端をピン3とし、他方の端をボックス6とした、インテグラル形式の油井管用ねじ継手もある。本実施形態の管用ねじ継手は、カップリング方式及びインテグラル形式の両方の管用ねじ継手に使用できる。
【0042】
図4は、本実施形態による管用ねじ継手50のピン及びボックスの断面図である。図4を参照して、ピン3は、接触表面を有する。接触表面は、ピン3及びボックス6とをねじ締めしたときに接触する部分である。接触表面は、ねじ部(雄ねじ)4とねじ無し金属接触部とを含む。ねじ無し金属接触部は、ピン3の先端に形成され、金属シール部8及びショルダー部9とを含む。同様に、ボックス6は、接触表面を有する。接触表面はねじ部(雌ねじ)5と、ねじ無し金属接触部(金属シール部10及びショルダー部11)とを含む。ピン3とボックス6とをねじ締めすると、ショルダー部同士(ショルダー部9及び11)、金属シール部同士(金属シール部8及び10)、及び、ねじ部同士(雄ねじ部4及び雌ねじ部5)が互いに接触する。
【0043】
図5は、本実施形態による管用ねじ継手50の接触表面の断面図である。図5を参照して、管用ねじ継手50は、ピン3及びボックス6の少なくとも一方の接触表面上に、接触表面側から順に、第1めっき層21、第2めっき層22、及び潤滑被膜23を備える。
【0044】
[第1めっき層21]
第1めっき層21は、ピン3及びボックス6の少なくとも一方の接触表面上に形成されている。第1めっき層21はZn−Ni合金からなる電気めっき層である。第1めっき層21の硬度及び融点は高い。したがって、管用ねじ継手50の耐ミスアライメント性が高まる。さらに、第1めっき層21に含まれるZnは卑な金属であるため、管用ねじ継手50の防食性が高まる。
【0045】
第1めっき層21を構成するZn−Ni合金は、Zn及びNiを含有し、残部は不純物からなる。不純物はたとえば、Fe、S、O、C等である。Zn−Ni合金の好ましいZn含有量は、85質量%であり、さらに好ましくは90質量%である。Zn−Ni合金の好ましいNi含有量は、10〜15質量%である。第1めっき層21は、Zn含有量が大きい。そのため、犠牲防食の効果が大きい。
【0046】
第1めっき層21のZn及びNi含有量は次の方法で測定する。Zn及びNi含有量の測定は、たとえば、ハンドヘルド蛍光X線分析装置(オリンパス製DP2000(商品名DELTA Premium))を用いて行う。Zn−Ni合金めっきを施した金属シール部表面の任意の4箇所(管周方向の任意の0°、90°、180°、270°箇所)を組成分析する。合金の測定モードによりZn及びNiの測定含有量を求める。
【0047】
第1めっき層21の好ましい厚さは、1〜20μmである。第1めっき層21の厚さが1μm以上であれば、管用ねじ継手50の耐ミスアライメント性及び防食性をさらに安定して高めることができる。第1めっき層21の厚さが20μm以下であれば、第1めっき層21の密着性がさらに安定する。したがって、第1めっき層21の好ましい厚さは1〜20μmである。
【0048】
第1めっき層21の厚さは、次の方法で測定する。第1めっき層21を形成した接触表面に、ISO(International Organization for Standardization)21968(2005)に準拠する過電流位相式の膜厚測定器のプローブを接触させる。プローブの入力側の高周波磁界と、それにより励起された第1めっき層21上の過電流との位相差を測定する。この位相差を第1めっき層21の厚さに変換する。ねじ継手での膜厚測定では、金属シール部の任意の4箇所(管周方向の任意の0°、90°、180°、270°箇所)を測定する。
【0049】
第1めっき層21の空孔率は5%未満であることが好ましい。電気めっき処理でめっき層を形成した場合、めっき層の空孔率は5%未満になる。電気めっき層における空孔率とは、ピンホールのような空間部やめっき層を構成する、微粒子間の空隙部、及び微粒子集合体内の開口部を含む。
【0050】
第1めっき層21の空孔率は公知の方法により測定できる。
【0051】
[第2めっき層22]
第2めっき層22は、第1めっき層21上に形成される。第2めっき層22は、Zn又はZn合金からなる。つまり、第2めっき層22はZn又はZn合金を含有し、残部は不純物からなる。不純物はたとえば、Fe、S、O、C等である。Zn合金は、Zn含有量が50%以上の合金を意味する。Zn合金はたとえば、Zn−Fe合金である。第2めっき層22は、純Zn及び不純物からなるめっき層であってもよいし、Zn合金及び不純物からなるめっき層であってもよい。Zn合金中のZn含有量は、第1めっき層21中のZn含有量と同様に測定できる。
【0052】
第2めっき層22は第1めっき層と比較してポーラス(多孔質)であり、表面に凹凸を有する。この凹凸に潤滑被膜23が入り込んで硬化するため、いわゆるアンカー効果により、潤滑被膜23の密着性が高まり、潤滑被膜の耐久性が高まる。したがって、管用ねじ継手50のねじ締め及びねじ戻しを繰り実施した場合でも、潤滑被膜23の剥離が抑制される。さらに、管用ねじ継手50のねじ締め及びねじ戻しを繰り返して潤滑被膜23が損耗した場合でも、第2めっき層22の内(孔)に潤滑被膜23の一部もしくは摩耗粉が残存する。そのため、管用ねじ継手50は高い潤滑性を維持する。
【0053】
第2めっき層22は衝撃めっき処理により形成される衝撃めっき層である。衝撃めっき層は電気めっき層よりもポーラスである。衝撃めっき処理により形成される第2めっき層22の空孔率はたとえば5〜80%である。第2めっき層22の空孔率は、第1めっき層21の空孔率と同様に測定できる。
【0054】
第2めっき層22の好ましい厚さは2〜30μmである。第2めっき層22の厚さが2μm以上であれば、潤滑被膜23の密着性及び適切なトルクオンショルダー値がさらに安定して得られる。一方、第2めっき層22の厚さが30μmを超えると上記効果が飽和する。したがって、第2めっき層22の好ましい厚さは2〜30μmである。第2めっき層22の厚さは、上述の第1めっき層21の厚さと同様の方法で測定する。
【0055】
[潤滑被膜23]
潤滑被膜23は第2めっき層22上に形成される。潤滑被膜23により、管用ねじ継手50の潤滑性が高まる。潤滑被膜23は固体潤滑被膜であってもよいし、液体潤滑被膜であってもよい。好ましくは、潤滑被膜23は固体潤滑被膜である。潤滑被膜23は周知のものを使用できる。潤滑被膜23はたとえば、潤滑性粒子及び結合剤を含有する。潤滑被膜23は、必要に応じて、溶媒及び他の成分を含有してもよい。
【0056】
潤滑性粒子は、潤滑被膜23の表面の摩擦係数を低下する。潤滑性粒子は、潤滑性を有する粒子であれば特に限定されない。潤滑性粒子はたとえば、黒鉛、MoS2(二硫化モリブデン)、WS2(二硫化タングステン)、BN(窒化ホウ素)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、CFx(フッ化黒鉛)、CaCO3(炭酸カルシウム)もしくはそれらを組み合わせることもできる。好ましくは、黒鉛、フッ化黒鉛、MoS2及びPTFEが用いられる。潤滑被膜23を100質量%とした場合、潤滑性粒子の好ましい含有量は5〜40質量%である。
【0057】
結合剤は、潤滑性粒子を潤滑被膜23中に結合する。結合剤は、有機系樹脂、無機系樹脂又はこれらの混合物を用いることができる。有機系樹脂を用いる場合は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂はたとえば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ウレア樹脂、アクリル樹脂である。熱可塑性樹脂はたとえば、ポリアミドイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂及びエチレン酢酸ビニル樹脂である。
【0058】
結合剤として無機系樹脂を用いる場合は、ポリメタロキサンを用いることができる。ポリメタロキサンとは、金属−酸素結合の繰り返しが主鎖骨格である高分子化合物のことをいう。好ましくは、ポリチタノキサン(Ti−O)及びポリシロキサン(Si−O)が用いられる。これらの無機系樹脂は、金属アルコキシドを加水分解及び縮合させることで得られる。金属アルコキシドのアルコキシ基はたとえば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、ブトキシ基及びtert−ブトキシ基等の低級アルコキシ基である。潤滑被膜23を100質量%とした場合、結合材の好ましい含有量は60〜95質量%である。
【0059】
潤滑性粒子及び結合剤を溶解又は分散させる必要がある場合は、溶媒を用いる。溶媒は、潤滑被膜23に含まれる成分を分散又は溶解できるものであれば、特に限定されない。溶媒は、有機溶媒又は水を用いることができる。有機溶媒はたとえば、トルエン及びイソプロピルアルコールである。
【0060】
潤滑被膜23は、必要に応じて、他の成分を含有してもよい。他の成分はたとえば、防錆剤、腐食抑制剤、界面活性剤、ワックス、摩擦調整剤及び顔料等である。潤滑性粒子、結合剤、溶媒及びその他の成分のそれぞれの含有量は、適宜設定される。
【0061】
潤滑被膜23は、ピン3及びボックス6の少なくとも一方の接触表面上に上述の組成物を塗布し、固化することによって形成される。
【0062】
図3を参照して、出荷時にピン3とボックス6とを締結する管用ねじ継手50では、ピン3とボックス6の一方の接触表面のみに潤滑被膜23を形成し、その後締結してもよい。この場合、長寸法を有する本体1よりも、短寸法のカップリング2の方が、組成物の塗布作業が容易である。そのため、カップリング2のボックス6の接触表面に潤滑被膜23を形成することが好ましい。管用ねじ継手50のうち、出荷時にピン3とボックス6とが締結されていない管端部では、ピン3及びボックス6の両方の接触表面に潤滑被膜23を形成して、潤滑性と同時に防食性を付与しておいてもよい。また、ピン3及びボックス6の一方の接触表面だけに潤滑被膜23を形成し、他方の接触表面には後述する固体防食被膜を形成してもよい。いずれの場合も、ねじに耐焼付き性、気密性及び防食性を付与できる。
【0063】
潤滑被膜23はピン3及びボックス6の少なくとも一方の接触表面の全てを被覆するのが好ましい。潤滑被膜23は、接触表面の一部のみ(例えば、シール部8及び10のみ)を被覆してもよい。
【0064】
潤滑被膜23は、単層でもよいし、複層でもよい。複層とは、潤滑被膜23が接触表面側から2層以上積層している状態をいう。組成物の塗布と固化とを繰り返すことにより、潤滑被膜23を2層以上形成できる。潤滑被膜23は、接触表面上に直接形成してもよいし、後述する下地処理をした後に形成してもよい。
【0065】
潤滑被膜23の好ましい厚さは5〜50μmである。潤滑被膜23の厚さが5μm以上であれば、高い潤滑性を安定して得ることができる。一方、潤滑被膜23の厚さが50μm以下であれば、潤滑被膜23の密着性が安定する。さらに、潤滑被膜23の厚さが50μm以下であれば、摺動面のねじ公差(クリアランス)が広くなるため、摺動時の面圧が低くなる。そのため、締結トルクが過剰に高くなることを抑制できる。したがって、潤滑被膜23の好ましい厚さは5〜50μmである。
【0066】
潤滑被膜23の厚さは、次の方法で測定する。管用ねじ継手に潤滑被膜23を塗布する場合と同条件で、平板上に潤滑被膜を塗布する。管用ねじ継手及び平板の塗布条件のうち、塗布対象物とノズル先端との距離、噴射圧力、組成物の粘度及び塗布対象物の回転速度等の条件を一致させる。組成物の粘度を一致させるには、タンク、配管及びノズル吹き出し口の温度を、管用ねじ継手及び平板とで一致させる。組成物を塗布する前の平板の重量と、組成物を塗布した後の平板の重量との差から、単位時間当たりの組成物の塗布量を算出する。平板上で組成物を固化させ、潤滑被膜23を形成する。潤滑被膜23の膜厚を膜厚計を用いて測定する。組成物を塗布する前の平板の重量と、潤滑被膜23を形成した後の平板の重量との差から、潤滑被膜23の重量を算出する。潤滑被膜23の膜厚と重量とから、潤滑被膜23の密度を算出する。次に、ねじ形状及び大きさ(内径及び肉厚等)から、管用ねじ継手の塗布対象面積を算出する。塗布対象面積とは、凹凸のあるねじ形成面を平面に展開した時の面積に相当する。管用ねじ継手への組成物の塗布時間、塗布対象面積及び潤滑被膜23の密度から、管用ねじ継手に対する、潤滑被膜23の平均膜厚を算出する。
【0067】
[固体防食被膜]
上述の管用ねじ継手50は、ピン3及びボックス6の一方の接触表面に潤滑被膜23を備え、ピン3及びボックス6の他方の接触表面に、固体防食被膜を備えてもよい。上述したように、管用ねじ継手50は実際に使用するまでの間に、長期間保管される場合がある。この場合、固体防食被膜が形成されていれば、ピン3又はボックス6の防食性が高まる。
【0068】
固体防食被膜はたとえば、クロム酸塩からなるクロメート被膜である。クロメート被膜は、周知の三価クロメート処理により形成される。
【0069】
固体防食被膜はクロメート被膜に限定されない。他の固体防食被膜はたとえば、紫外線硬化樹脂を含有する。この場合、固体防食被膜がプロテクター装着時に加わる力により破壊されない強度を有する。さらに、輸送時や保管中に、露点の関係から凝縮した水に曝されても固体防食被膜が溶解しない。さらに、40℃を超える高温下でも固体防食被膜は容易には軟化しない。紫外線硬化樹脂は、公知の樹脂組成物である。紫外線硬化樹脂は、モノマー、オリゴマー及び光重合開始剤を含有し、紫外線を照射されることにより光重合反応を起こして硬化被膜を形成するものであれば、特に限定されない。
【0070】
管用ねじ継手50の他方の接触表面には、めっき層が形成され、そのめっき層上に上述の固体防食被膜が形成されてもよいし、他方の接触表面に直接固体防食被膜が形成されてもよい。
【0071】
[管用ねじ継手50の母材]
管用ねじ継手50の母材の組成は、特に限定されない。管用ねじ継手50の母材はたとえば、炭素鋼、ステンレス鋼及び合金鋼等である。合金鋼の中でも、Cr、Ni及びMo等の合金元素を含んだ二相ステンレス鋼及びNi合金等の高合金鋼は防食性が高い。そのため、これらの高合金鋼を管用ねじ継手50の母材に使用すれば、硫化水素や二酸化炭素等を含有する腐食環境において、優れた防食性が得られる。
【0072】
[製造方法]
以下、本実施形態による管用ねじ継手50の製造方法を説明する。
【0073】
本実施形態による管用ねじ継手50の製造方法は、電気めっき工程と、衝撃めっき工程と、潤滑被膜形成工程とを備える。
【0074】
[電気めっき工程]
電気めっき工程では、電気めっき処理を実施して、ピン3及びボックス6の少なくとも一方の接触表面上に、第1めっき層21を形成する。電気めっき処理は周知の方法で実施する。たとえば、亜鉛イオン及びニッケルイオンを含有するめっき浴に、ピン3及びボックス6の少なくとも一方の接触表面を浸漬し、通電することによって行う。めっき浴は市販のものを使用できる。めっき浴は、好ましくは、亜鉛イオン:1〜100g/L及びニッケルイオン:1〜50g/Lを含有する。電気めっき処理の処理条件は適宜設定できる。電気めっき処理条件はたとえば、めっき浴pH:1〜10、めっき浴温度:10〜60℃、電流密度:1〜100A/dm2、及び、処理時間:0.1〜30分である。上述のとおり、第1めっき層21の好ましい厚さは、1〜20μmである。
【0075】
[衝撃めっき工程]
衝撃めっき工程では、乾式衝撃めっき処理を実施して、第1めっき層21の上に衝撃めっき層である第2めっき層22を形成する。乾式衝撃めっき法は、たとえばブラスト装置を用いて粒子を被めっき物に衝突させる投射めっき法である。本実施形態では接触表面だけにめっきを施せばよい。そのため、局部的なめっきが可能な投射めっき法が適している。
【0076】
投射めっき法等の乾式衝撃めっき法に使用する粒子は、少なくとも表面にZn又はZn合金を有する金属粒子である。全体がZn又はZn合金からなる金属粒子でもよい。好ましい投射材料は、特許文献1で使用された、Fe又はFe合金を核(コア)とし、その表面に、Fe−Zn合金層を介して、Zn又はZn合金層を被覆した粒子からなる。粒子は、たとえば、同和鉄粉工業株式会社製商品名Zアイアンを使用できる。粒子の好ましい粒径は0.2〜1.5mmである。
【0077】
このFe又はFe合金の核の表面をZn又はZn合金で被覆した金属粒子を管用ねじ継手50に投射すると、粒子の被覆層であるZn又はZn合金のみが鋼管に付着する。これにより、Zn又はZn合金からなる衝撃めっき層である第2めっき層22が第1めっき層21上に形成される。衝撃めっき層は空孔率が5〜80%の多孔質である。そのため、第2めっき層22上に潤滑被膜23及び固体防食被膜を形成すれば、いわゆる「アンカー効果」により、潤滑被膜23及び固体防食被膜の密着性がさらに高まる。上述のとおり、第2めっき層22の好ましい厚さは、2〜30μmである。
【0078】
[潤滑被膜形成工程]
衝撃めっき工程の後に、潤滑被膜形成工程を実施する。潤滑被膜形成工程では、はじめに、潤滑被膜用組成物(以下、組成物とも称する。)を準備する。組成物は、上述の潤滑性粒子及び結合剤を混合することで形成される。組成物はさらに、上述の溶媒及び他の成分を含有してもよい。
【0079】
得られた組成物を第2めっき層22上に塗布する。塗布の方法は特に限定されない。たとえば、溶媒を用いた組成物を、スプレーガンを用いて、第2めっき層22上に噴霧する。この場合、組成物が第2めっき層22上に均一に塗布される。組成物が塗布されたピン3又はボックス6を、乾燥又は加熱乾燥する。加熱乾燥はたとえば、市販の熱風乾燥装置等を用いて実施できる。これにより、組成物が硬化し、第2めっき層22上に固体の潤滑被膜23が形成される。加熱乾燥の条件は、組成物に含まれる各成分の沸点及び融点等を考慮して、適宜設定できる。
【0080】
溶媒を用いない組成物を用いて潤滑被膜23を形成する場合、たとえば、ホットメルト法を用いることができる。ホットメルト法では、組成物を加熱して流動状態にする。流動状態になった組成物をたとえば、温度保持機能を有するスプレーガンを用いて噴霧する。これにより、第2めっき層22上に組成物を均一に塗布する。組成物の加熱温度は、上述の結合剤及びその他の成分の融点及び軟化温度を考慮して適宜設定できる。組成物を塗布したピン3又はボックス6を、空冷等により冷却する。これにより、組成物が硬化し、第2めっき層22上に潤滑被膜23が形成される。
【0081】
[固体防食被膜の形成(三価クロメート処理)]
上述のとおり、ピン3及びボックス6の一方の接触表面に、電気めっき工程、衝撃めっき工程、及び、潤滑被膜形成工程を実施して、第1めっき層21、第2めっき層22及び潤滑被膜23を形成する。
【0082】
一方、ピン3及びボックス6の他方の接触表面に対しては、第1めっき層21、第2めっき層22及び潤滑被膜23を形成してもよいし、めっき層及び/又は固体防食被膜を形成してもよい。以下、他方の接触表面において、第1めっき層21及びクロメート被膜からなる固体防食被膜を形成する場合について説明する。
【0083】
この場合、上述の電気めっき工程を実施して、第1めっき層21を形成する。電気めっき工程後、三価クロメート処理を実施して固体防食被膜を形成する。三価クロメート処理とは、三価クロムのクロム酸塩の被膜(クロメート被膜)を形成する処理である。三価クロメート処理により形成されるクロメート被膜は、Zn合金めっき層の表面の白錆を抑制する。これにより、製品外観が向上する(ただし、Zn合金めっき層の白錆びは、管用ねじ継手50の錆ではない。そのため、管用ねじ継手50の耐焼付き性及び防食性に影響を与えない)。三価クロメート処理は、周知の方法で実施できる。たとえば、ピン3及びボックス6の少なくとも一方の接触表面をクロメート処理液に浸漬する、又は、クロメート処理液を接触表面にスプレー塗布する。その後接触表面を水洗する。接触表面をクロメート処理液に浸漬し、通電した後水洗してもよい。接触表面にクロメート処理液を塗布し、加熱乾燥してもよい。三価クロメートの処理条件は適宜設定することができる。
【0084】
[前処理工程]
上述の製造工程は、必要に応じて、電気めっき工程の前に前処理工程を備えてもよい。前処理工程はたとえば、酸洗及びアルカリ脱脂である。前処理工程では、接触表面上に付着した油分等を洗浄する。前処理工程はさらに、機械研削仕上げ等の研削加工を備えてもよい。
【0085】
以上の製造工程により、本実施形態の管用ねじ継手50を製造する。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を説明する。ただし、本発明は実施例により制限されるものではない。実施例において、ピンの接触表面をピン表面、ボックスの接触表面をボックス表面という。また、実施例中の%は、特に指定しない限り質量%を意味する。
【0087】
本実施例において、新日鐵住金株式会社製のVAM21(登録商標)と呼ばれる、ねじが切られた鋼管を用いた。VAM21(登録商標)は外径:24.448cm(9−5/8インチ)、肉厚1.199cm(0.472インチ)の鋼管であった。鋼管は炭素鋼であり、その化学組成は、C:0.21%、Si:0.25%、Mn:1.1%、P:0.02%、S:0.01%、Cu:0.04%、Ni:0.06%、Cr:0.17%、Mo:0.04%を含有し、残部はFe及び不純物であった。
【0088】
各試験番号の鋼管を用いたピン表面及びボックス表面に対し、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)を実施した。その後、表1に示すめっき層(第1及び第2めっき層)又は被膜(固体防食被膜、潤滑被膜)を形成して、各試験番号のピン及びボックスを準備した。
【0089】
【表1】
【0090】
各めっき層又は被膜の形成方法は以下の通りであった。なお、各試験番号において、空孔率を公知の方法で測定した。電気めっき層の空孔率は5%未満、乾式衝撃めっき層の空孔率は5〜80%であった。燐酸マンガン被膜の空孔率は30%未満であった。
【0091】
[試験番号1]
試験番号1では、ピン表面に対して、電気めっきにより大和化成株式会社製Zn−Ni電気めっきを施して、厚さ8μmの第1めっき層を形成した。電気めっきの条件は、めっき浴pH:6.5、めっき浴温度:25℃、電流密度:2A/dm2、及び処理時間:18分であった。第1めっき層の組成は、Zn:85%及びNi:15%であった。さらに、得られた第1めっき層上に、三価クロメート処理を施した。三価クロメート処理液は、大和化成株式会社製の商品名ダインクロメートTR−02を使用した。三価クロメート処理条件は、浴pH:4.0、浴温度:25℃、及び処理時間:50秒であった。
【0092】
ボックス表面に対し、ピン表面と同じ条件で、第1めっき層を形成した。その後、乾式衝撃めっき処理(投射めっき法)により第2めっき層を形成した。乾式衝撃めっき処理には、被膜がZn−Fe合金である金属粒子を用いた。得られた第2めっき層の平均膜厚は10μmであった。第1めっき層及び第2めっき層を形成したボックス表面に、固体潤滑被膜形成用組成物を塗布した。固体潤滑被膜形成用組成物は、黒鉛5質量%、PTFE4質量%、及びPFPE10質量%を含有した。固体潤滑被膜形成用組成物を130℃に加熱してスプレー塗布して冷却し、平均膜厚30μmの固体潤滑被膜を形成した。
【0093】
[試験番号2]
試験番号2では、ピン表面に対して、試験番号1と同様の処理を実施した。得られた第1めっき層の膜厚及び化学組成は、試験番号1と同様であった。三価クロメートの被膜厚さも同様であると推定された。ボックス表面に対しては、試験番号1と同様に第1めっき層及び第2めっき層を形成した後、固体潤滑被膜形成用組成物、商品名Xylan1425を塗布した。商品名Xylan1425は、エポキシ系樹脂22質量%、PTFE粒子9質量%、溶剤合計18質量%、顔料、水40質量%を含有した。固体潤滑被膜形成用組成物をボックス表面にスプレー塗布した後、加熱乾燥(90℃で5分間)、及び硬化処理(210℃で20分間)を行い固体潤滑被膜を形成した。得られた固体潤滑被膜の平均膜厚は30μmであった。
【0094】
[試験番号3]
試験番号3では、ピン表面及びボックス表面に対し、試験番号1のボックス表面と同様に、第1めっき層及び第2めっき層を形成した。得られた第1及び第2めっき層の膜厚及び化学組成は、試験番号1と同様であった。その後、ピン表面に対しては、下記の固体潤滑被膜形成用組成物を塗布した。固体潤滑被膜形成用組成物は、株式会社川邑研究所製、商品名DEFRIC COAT 405であり、無機高分子バインダーに二硫化モリブデン及び黒鉛を含有した。固体潤滑被膜形成用組成物をボックス表面にスプレー塗布した後、大気中で3時間放置した。その後、加湿した150℃の熱風を10分間吹きつけた。得られた固体潤滑被膜の平均膜厚は20μmであった。ボックス表面に対しては、試験番号2のボックス表面と同様の固体潤滑被膜を形成した。得られた固体潤滑被膜の厚さ及び化学組成は、試験番号2のボックス表面と同じであった。
【0095】
[試験番号4]
試験番号4では、ピン表面に対して、試験番号1のピン表面と同様に、第1めっき層及び三価クロメート被膜を形成した。形成した各めっき層及び被膜の厚さは、試験番号1と同様であった。ボックス表面に対して、試験番号1のボックス表面と同様の第2めっき層を形成した。得られた第2めっき層の平均膜厚は10μmであった。得られた第2めっき層上に、試験番号2のボックス表面と同様の固体潤滑被膜を形成した。得られた固体潤滑被膜の厚さ及び化学組成は、試験番号2のボックス表面と同じであった。
【0096】
[試験番号5]
試験番号5では、ピン表面に対して、試験番号1のピン表面と同様に、第1めっき層及び三価クロメート被膜を形成した。形成した各めっき層及び被膜の厚さは、試験番号1と同様であった。ボックス表面に対して、試験番号1のピン表面と同様に、第1めっき層を形成した。形成した第1めっき層の厚さは、試験番号1と同様であった。得られた第1めっき層上に、試験番号2のボックス表面と同様の固体潤滑被膜を形成した。得られた固体潤滑被膜の厚さ及び化学組成は、試験番号2のボックス表面と同じであった。
【0097】
[試験番号6]
試験番号6では、ピン表面に対して、試験番号1のピン表面と同様に、第1めっき層及び三価クロメート被膜を形成した。形成した各めっき層及び被膜の厚さは、試験番号1と同様であった。ボックス表面に対して、試験番号1のピン表面と同様に、第1めっき層を形成した。形成した第1めっき層の厚さは、試験番号1と同様であった。第1めっき層を形成したボックス表面を、80〜95℃の燐酸マンガン化成処理液中に10分間浸漬して、厚さ12μmの燐酸マンガン被膜(表面粗さ10μm)を形成した。燐酸マンガン被膜を形成したボックス表面に、試験番号2のボックス表面と同様の固体潤滑被膜を形成した。得られた固体潤滑被膜の厚さ及び化学組成は、試験番号2のボックス表面と同じであった。
【0098】
[締結性評価試験]
締結性評価試験として、耐焼付き性及びトルク特性を評価した。耐焼付き性については、耐高温性及び耐ミスアライメント性を評価した。
【0099】
[耐焼付き性:耐高温性]
高温油井における、第1めっき層上の層の影響を調べるため、試験番号2及び試験番号6のピン及びボックスを用いて、繰り返し締結試験を実施した。具体的には、ピン及びボックスを締結1回目に締結したまま、ボックス周囲をバンドヒーターによって200℃で6時間加熱した。その後緩め、ねじ締め及びねじ戻しを繰り返した。締付け速度は10rpmでスタートし、ショルダリング以降は2rpmであった。締付けトルクは42.8kN・mであった。管用ねじ継手のねじ締め及びねじ戻しは常温(20℃)で行った。ねじ締め及びねじ戻しを1回行うごとに、締結時のトルク変化により焼付きの発生状況を目視により確認した。回復不可能な焼付きが生じた時点で試験を終了した。結果を表2に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
[評価結果]
表2を参照して、試験番号2は10回の繰り返しねじ締め及びねじ戻しで焼付きを発生しなかった。一方、試験番号6では、下地処理層2の燐酸マンガン層が高温劣化した。これは結晶水の脱離及び脆化のためと思われる。その結果、2回目までは焼付きなく締結できたが、3回目で回復不可能な焼付きを生じたため、試験を終了した。
【0102】
[耐焼付き性:耐ミスアライメント性]
試験番号1〜試験番号6のピン及びボックスを用いて、ミスアライメントを伴うねじ締め及びねじ戻しを繰り返し、耐ミスアライメント性を評価した。ミスアライメントの交叉角θは5°であった。ねじ締め及びねじ戻しは最大10回繰り返された。ねじ締め及びねじ戻しの締付け速度は10rpm、締付けトルクは42.8kN・mであった。ねじ締め及びねじ戻しを1回行うごとに、ピン表面及びボックス表面を目視により観察した。目視観察により、焼付きの発生状況を確認した。焼付きが軽微であり、回復可能な場合には、焼付き疵を補修して試験を続行した。回復不能な焼き付きを生ずることなく、ねじ締め及びねじ戻しができた回数を測定した。結果を表2に示す。
【0103】
[評価結果]
表2を参照して、試験番号1〜試験番号3及び試験番号6のピン及びボックスではミスアライメントによる焼付きが生じなかった。これは、第1めっき層上に形成された層により固体潤滑被膜層との密着性が向上したためと考えられる。一方、試験番号4及び試験番号5では、締結回数が大幅に低下した。
【0104】
[トルク特性]
試験番号1〜試験番号6のピン及びボックスを用いて、トルク特性試験を実施した。具体的には、トルクオンショルダー値(イールドトルクとショルダリングトルクとの差)を以下のとおり測定した。試験番号1〜試験番号6のピン及びボックスを準備し、Weatherford社製のパワ−トングを用いて締結した。締結後もさらにトルクを与えて締付けを行うことにより、図2に示すようなトルクチャートを作製した。トルクチャート上でトルクオンショルダー値を測定した。ショルダリングトルクは、ショルダー部が接触し、トルク変化が第1の線形域(弾性変形域)から離れ始めた時のトルク値である。一方、イールドトルクは、塑性変形が始まる時のトルク値である。具体的には、ショルダリングトルクに達した後に起こる、第2の線形域から離れ始めた時のトルク値である。ここで、試験番号1〜6の下地処理層1及び2、並びに固体防食被膜層を用いて、固体潤滑被膜層をAPI規格に準拠したグリースに置き換えて処理を施したピン及びボックスを用意した。この場合のトルクオンショルダー値を100として、試験番号1〜試験番号6の値を決定した。結果を表2に示す。
【0105】
[評価結果]
表2を参照して、試験番号1〜試験番号3では、衝撃めっき層である第2めっき層が形成されたため、トルクオンショルダー値が100を超え、優れたトルク特性を示した。一方、試験番号4及び試験番号5ではトルクオンショルダー値が100未満となり、トルク特性が低かった。試験番号6では第1めっき層上の層が燐酸マンガン層であったため、トルクオンショルダー値が100未満となり、トルク特性が低かった。
【0106】
[防食性評価試験:塩水噴霧試験]
試験番号1〜試験番号6と同じ組成の炭素鋼で試験片を用意した。試験片の大きさは70mm×150mmであり、厚さは1mmであった。試験片に対して、試験番号1〜試験番号6と同じ表面処理を施し、塩水噴霧試験を実施した。塩水噴霧試験はJIS Z2371:2000に記載された方法に基づいて実施した。目視観察により各試験番号の試験片表面に赤錆が発生した時間を計測した。結果を表2に示す。
【0107】
[評価結果]
試験番号1〜試験番号3、試験番号5及び試験番号6は、第1めっき層として電気めっき層が形成されたため、錆が発生しなかった。一方、試験番号4では、接触表面直上にポーラスな衝撃めっき層である第2めっき層のみが形成されたため、十分な防食効果が得られず、500時間で全面に錆が発生した。
【0108】
[耐候性試験:被膜耐久性試験(潤滑被膜の密着性)]
試験番号1〜試験番号6のボックスを準備した。ボックスはそれぞれ、管の端から1mに切断した。表3に記載したような試験気候条件(湿度は相対湿度)と順序により、極寒から高温までのあらゆる天候を模擬した耐候性試験を実施した。ボックス表面を目視で観察し、固体潤滑被膜の外観(剥がれ及び錆の有無)を調べた。
【0109】
【表3】
【0110】
[評価結果]
試験番号1〜試験番号3、及び試験番号6は、第1及び第2めっき層の両方が形成されたため、被膜の剥がれがなく、錆も発生しなかった。一方、試験番号4では、衝撃めっき層である第2めっき層のみが表面に形成されたため、母材との密着性が低く、被膜が剥がれた。さらに、十分な防食効果が得られず、500時間で全面に錆が発生した。試験番号5では、電気めっき層である第1めっき層のみが形成されたため、潤滑被膜の密着性が低く、被膜が剥がれた。
【0111】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0112】
3 ピン
4、5 ねじ部
6 ボックス
8、10 金属シール部
9、11 ショルダー部
21 第1めっき層
22 第2めっき層
23 潤滑被膜
50 管用ねじ継手
図1
図2
図3
図4
図5