特許第6368501号(P6368501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6368501電池用非水電解液、及びリチウム二次電池
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  • 特許6368501-電池用非水電解液、及びリチウム二次電池 図000017
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368501
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】電池用非水電解液、及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20180723BHJP
   C07C 309/05 20060101ALI20180723BHJP
   C07D 327/10 20060101ALI20180723BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20180723BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20180723BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20180723BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   C07C309/05
   C07D327/10
   H01M10/052
   H01M10/0525
   H01M10/058
【請求項の数】12
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2014-35532(P2014-35532)
(22)【出願日】2014年2月26日
(65)【公開番号】特開2015-162289(P2015-162289A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2016年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】宮里 将敬
(72)【発明者】
【氏名】藤山 聡子
(72)【発明者】
【氏名】林 剛史
【審査官】 光本 美奈子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/053644(WO,A1)
【文献】 特開2012−226878(JP,A)
【文献】 特開2013−134859(JP,A)
【文献】 特開2006−156315(JP,A)
【文献】 特開2015−072799(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/016440(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/058387(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/196177(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/068805(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/054197(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00〜4/62
H01M 10/05〜10/0587
H01M 10/36〜10/39
C07C 309/05
C07D 327/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される環状硫酸エステル化合物である添加剤Aと、下記一般式(V)で表されるジスルホン酸エステル化合物である添加剤Bと、を含有する電池用非水電解液。
【化1】


〔一般式(I)において、Rは、一般式(II)で表される基又は式(III)で表される基を表し、Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、一般式(II)で表される基、又は式(III)で表される基を表す。
一般式(II)において、Rは、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、又は式(IV)で表される基を表す。一般式(II)、式(III)、および式(IV)における波線は、結合位置を表す。
一般式(I)で表される環状硫酸エステル化合物中に、一般式(II)で表される基が2つ含まれる場合、2つの一般式(II)で表される基は、同一であっても互いに異なっていてもよい。〕
【化2】


〔一般式(V)中、Rは、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、又は炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基を表す。
及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、若しくはフェニル基を表すか、又は、
一体となって、炭素数1〜10のアルキレン基、若しくは1,2−フェニレン基を表し、前記1,2−フェニレン基は、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、若しくはシアノ基によって置換されていてもよい。〕
【請求項2】
前記一般式(I)において、前記Rは、前記一般式(II)で表される基(但し、前記一般式(II)中、前記Rは、フッ素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、又は前記式(IV)で表される基を表す。)、又は前記式(III)で表される基であり、前記Rは、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、前記一般式(II)で表される基(但し、前記一般式(II)中、前記Rは、フッ素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、又は前記式(IV)で表される基を表す。)、又は前記式(III)で表される基である請求項1に記載の電池用非水電解液。
【請求項3】
前記一般式(I)において、前記Rは、前記一般式(II)で表される基(但し、前記一般式(II)中、前記Rは、フッ素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、又は前記式(IV)で表される基を表す。)又は前記式(III)で表される基であり、前記Rは、水素原子又はメチル基である請求項1又は請求項2に記載の電池用非水電解液。
【請求項4】
前記一般式(V)において、前記Rは、炭素数1〜3のアルキレン基である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の電池用非水電解液。
【請求項5】
前記一般式(V)において、前記Rは、炭素数1〜3のアルキレン基であり、
前記R及び前記Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基であるか、又は、一体となって、炭素数1〜3のアルキレン基、若しくは1,2−フェニレン基であり、前記1,2−フェニレン基は、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、若しくはシアノ基によって置換されていてもよい請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の電池用非水電解液。
【請求項6】
前記一般式(V)において、前記Rは、メチレン基であり、
前記R及び前記Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基であるか、又は、一体となって、炭素数1〜3のアルキレン基、若しくは1,2−フェニレン基であり、前記1,2−フェニレン基は、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、若しくはシアノ基によって置換されていてもよい請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の電池用非水電解液。
【請求項7】
前記一般式(V)において、前記R及び前記Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基であるか、又は、一体となって、炭素数1〜3のアルキレン基である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の電池用非水電解液。
【請求項8】
前記添加剤Bが、ジメチルメタンジスルホネート、メチレンメタンジスルホネート、ジメチレンメタンジスルホネート、及び(3H)−1,5,2,4−ベンゾジオキサジチエピン−2,2,4,4−テトラオキシドからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の電池用非水電解液。
【請求項9】
前記添加剤Aの含有量が、0.001質量%〜10質量%である請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の電池用非水電解液。
【請求項10】
前記添加剤Bの含有量が、0.001質量%〜10質量%である請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の電池用非水電解液。
【請求項11】
正極と、金属リチウム、リチウム含有合金、リチウムとの合金化が可能な金属若しくは合金、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な酸化物、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な遷移金属窒素化物、及び、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な炭素材料からなる群から選ばれる少なくとも1種を負極活物質として含む負極と、請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の電池用非水電解液と、を含むリチウム二次電池。
【請求項12】
正極と、金属リチウム、リチウム含有合金、リチウムとの合金化が可能な金属若しくは合金、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な酸化物、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な遷移金属窒素化物、及び、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な炭素材料からなる群から選ばれる少なくとも1種を負極活物質として含む負極と、請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の電池用非水電解液と、を含むリチウム二次電池を充放電させて得られたリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用非水電解液、並びに、携帯電子機器の電源、車載、及び電力貯蔵などに利用される充放電可能なリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池は、携帯電話やノート型パソコンなどの電子機器、或いは電気自動車や電力貯蔵用の電源として広く使用されている。特に最近では、ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載可能な、高容量で高出力かつエネルギー密度の高い電池の要望が急拡大している。
リチウム二次電池は、主に、リチウムを吸蔵放出可能な材料を含む正極および負極、並びに、リチウム塩と非水溶媒とを含む電池用非水電解液から構成される。
正極に用いられる正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiFePOのようなリチウム金属酸化物が用いられる。
また、非水電解液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどカーボネート類の混合溶媒(非水溶媒)に、LiPF、LiBF、LiN(SOCF、LiN(SOCFCFのようなLi電解質を混合した溶液が用いられている。
一方、負極に用いられる負極用活物質としては、金属リチウム、リチウムを吸蔵及び放出可能な金属化合物(金属単体、酸化物、リチウムとの合金など)や炭素材料が知られており、特にリチウムを吸蔵、放出が可能なコークス、人造黒鉛、天然黒鉛を採用したリチウム二次電池が実用化されている。
【0003】
電池性能を改善する試みとして、種々の添加剤を電池用非水電解液に含有させることが提案されている。
例えば、電池の容量維持性能を改善しながら、かつ、電池の充電保存時における解放電圧の低下を抑制できる電池用非水電解液として、添加剤として環状硫酸エステルを含有する電池用非水電解液が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、電池のサイクル特性や保存特性を向上できる電池用非水電解液として、添加剤としてスルホニル基を少なくとも2個有するスルホン酸エステルを含有する電池用非水電解液が知られている(例えば、特許文献2及び3参照)。
また、電池の抵抗を低減でき、電池の保存特性を向上できる(特に、保存後の電池抵抗を低減できる)電池用非水電解液として、添加剤としてベンゾジオキサジチエピン誘導体を含有する電池用非水電解液が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2012/053644号パンフレット
【特許文献2】特許第4033074号公報
【特許文献3】特許第4819409号公報
【特許文献4】特開2012−226878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、添加剤を含有する電池用非水電解液及びかかる電池用非水電解液を用いた電池について、保存による電池抵抗の上昇及び保存後の電池抵抗を低減することに加え、初期(保存前)の電池抵抗を低減することが求められる場合がある。
【0006】
本発明は、前記課題に応えるためになされたものであり、本発明の目的は、保存による電池抵抗の上昇及び保存後の電池抵抗を低減でき、更には、初期(保存前)の電池抵抗をも低減できる電池用非水電解液及びリチウム二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討した結果、電池用非水電解液に、添加剤として、特定の環状硫酸エステル化合物である添加剤Aと、特定のジスルホン酸エステル化合物である添加剤Bと、の組み合わせを添加することにより、保存による電池抵抗の上昇及び保存後の電池抵抗を低減でき、更には、初期(保存前)の電池抵抗をも低減できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち前記課題を解決するための手段は以下のとおりである。
【0008】
<1> 下記一般式(I)で表される環状硫酸エステル化合物である添加剤Aと、下記一般式(V)で表されるジスルホン酸エステル化合物である添加剤Bと、を含有する電池用非水電解液。
【0009】
【化1】
【0010】
〔一般式(I)において、Rは、一般式(II)で表される基又は式(III)で表される基を表し、Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、一般式(II)で表される基、又は式(III)で表される基を表す。
一般式(II)において、Rは、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、又は式(IV)で表される基を表す。一般式(II)、式(III)、および式(IV)における波線は、結合位置を表す。
一般式(I)で表される環状硫酸エステル化合物中に、一般式(II)で表される基が2つ含まれる場合、2つの一般式(II)で表される基は、同一であっても互いに異なっていてもよい。〕
【0011】
【化2】
【0012】
〔一般式(V)中、Rは、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、又は炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基を表す。
及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、若しくはフェニル基を表すか、又は、
一体となって、炭素数1〜10のアルキレン基、若しくは1,2−フェニレン基を表し、前記1,2−フェニレン基は、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、若しくはシアノ基によって置換されていてもよい。〕
【0013】
<2> 前記一般式(I)において、前記Rは、前記一般式(II)で表される基(但し、前記一般式(II)中、前記Rは、フッ素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、又は前記式(IV)で表される基を表す。)、又は前記式(III)で表される基であり、前記Rは、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、前記一般式(II)で表される基(但し、前記一般式(II)中、前記Rは、フッ素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、又は前記式(IV)で表される基を表す。)、又は前記式(III)で表される基である<1>に記載の電池用非水電解液。
<3> 前記一般式(I)において、前記Rは、前記一般式(II)で表される基(但し、前記一般式(II)中、前記Rは、フッ素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、又は前記式(IV)で表される基を表す。)又は前記式(III)で表される基であり、前記Rは、水素原子又はメチル基である<1>又は<2>に記載の電池用非水電解液。
【0014】
<4> 前記一般式(V)において、前記Rは、炭素数1〜3のアルキレン基である<1>〜<3>のいずれか1項に記載の電池用非水電解液。
<5> 前記一般式(V)において、前記Rは、炭素数1〜3のアルキレン基であり、
前記R及び前記Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基であるか、又は、一体となって、炭素数1〜3のアルキレン基、若しくは1,2−フェニレン基であり、前記1,2−フェニレン基は、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、若しくはシアノ基によって置換されていてもよい<1>〜<4>のいずれか1項に記載の電池用非水電解液。
<6> 前記一般式(V)において、前記Rは、メチレン基であり、
前記R及び前記Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基であるか、又は、一体となって、炭素数1〜3のアルキレン基、若しくは1,2−フェニレン基であり、前記1,2−フェニレン基は、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、若しくはシアノ基によって置換されていてもよい<1>〜<5>のいずれか1項に記載の電池用非水電解液。
【0015】
<7> 前記添加剤Bが、ジメチルメタンジスルホネート、メチレンメタンジスルホネート、ジメチレンメタンジスルホネート、及び(3H)−1,5,2,4−ベンゾジオキサジチエピン−2,2,4,4−テトラオキシドからなる群から選択される少なくとも1種である<1>〜<6>のいずれか1項に記載の電池用非水電解液。
<8> 前記添加剤Aの含有量が、0.001質量%〜10質量%である<1>〜<7>のいずれか1項に記載の電池用非水電解液。
<9> 前記添加剤Bの含有量が、0.001質量%〜10質量%である<1>〜<8>のいずれか1項に記載の電池用非水電解液。
<10> 正極と、金属リチウム、リチウム含有合金、リチウムとの合金化が可能な金属若しくは合金、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な酸化物、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な遷移金属窒素化物、及び、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な炭素材料からなる群から選ばれる少なくとも1種を負極活物質として含む負極と、<1>〜<9>のいずれか1項に記載の電池用非水電解液と、を含むリチウム二次電池。
<11> 正極と、金属リチウム、リチウム含有合金、リチウムとの合金化が可能な金属若しくは合金、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な酸化物、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な遷移金属窒素化物、及び、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な炭素材料からなる群から選ばれる少なくとも1種を負極活物質として含む負極と、<1>〜<9>のいずれか1項に記載の電池用非水電解液と、を含むリチウム二次電池を充放電させて得られたリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、保存による電池抵抗の上昇及び保存後の電池抵抗を低減でき、更には、初期(保存前)の電池抵抗をも低減できる電池用非水電解液及びリチウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のリチウム二次電池の一例を示すコイン型電池の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の電池用非水電解液及びリチウム二次電池について、詳細に説明する。
【0019】
〔電池用非水電解液〕
本発明の電池用非水電解液(以下、単に「非水電解液」ともいう)は、下記一般式(I)で表される環状硫酸エステル化合物である添加剤Aと、下記一般式(V)で表されるジスルホン酸エステル化合物である添加剤Bと、を含有する。
【0020】
添加剤を含有する非水電解液及びかかる非水電解液を用いた電池について、保存による電池抵抗の上昇及び保存後の電池抵抗を低減することに加え、初期(保存前)の電池抵抗を低減することが求められる場合がある。
このうち、保存による電池抵抗の上昇や保存後の電池抵抗を低減するためには、非水電解液への上記添加剤Bの添加が有効である。
本発明者等は鋭意検討した結果、非水電解液に対し、添加剤Bに加えて添加剤Aを添加することにより、保存時の抵抗上昇を抑制でき、保存後の電池抵抗を低減できるだけでなく、初期(保存前)の電池抵抗をも低減できるとの知見を得た。初期(保存前)の電池抵抗を低減できる効果については、予期せぬ効果であった。
上述の、添加剤Aと添加剤Bとの組み合わせによる効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推察される。
即ち、
(1)初期の充放電によって先に添加剤A由来の被膜が電極表面に形成されることにより、初期(保存前)の電池抵抗が低減され、
(2)上記(1)の後において、添加剤Bが添加剤A由来の被膜を補強すること、及び、添加剤Aが作用しきれなかった電極表面サイトに添加剤Bが作用することの少なくとも一方により、保存による電池抵抗の上昇及び保存後の電池抵抗が低減されると考えられる。より詳細には、添加剤Bは一分子中にSO基を2つ有することから、橋かけをするような形で、添加剤A由来の被膜を補強し、また、上記電極表面サイトに作用することができると考えられる。その結果、電極表面と溶媒との接触を効果的に抑制できると考えられる。しかも、添加剤B中の2つのSO基は、Rによって隔てられていることから、添加剤Bが作用した後の被膜には適度な空間が存在すると考えられる。従って、添加剤Bが作用した後の被膜は、リチウムイオンの出入りに対しては障害とならないと考えられる。
以上のように、上記(1)と上記(2)との組み合わせにより、電極表面での溶媒の分解が効果的に抑制されて、上述した、添加剤Aと添加剤Bとの組み合わせによる効果が生み出されたと考えられる。
【0021】
以上のように、本発明の非水電解液によれば、保存による電池抵抗の上昇及び保存後の電池抵抗を低減でき、更には、初期(保存前)の電池抵抗をも低減できる。
本発明の非水電解液によれば、保存による電池抵抗の上昇及び保存後の電池抵抗を低減できるので、電池の寿命を延ばす効果(即ち、電池の保存性能向上の効果)を有することが期待される。
【0022】
なお、保存による電池抵抗の上昇抑制の効果は、保存前の電池抵抗に対する保存後の電池抵抗の比率(以下、「比率〔保存後/保存前〕」ともいう)を調べることによって評価できる。この比率〔保存後/保存前〕が小さい程、保存による電池抵抗の上昇が抑制されていることとなる。
また、本発明において、「保存による電池抵抗の上昇が抑制される」という概念には、保存による電池抵抗の上昇が無いこと、保存による電池抵抗の上昇幅が小さいこと、及び、保存により電池抵抗が上昇するのではなく寧ろ低減することの全てが含まれる。
【0023】
以下、本発明の非水電解液の成分について具体的に説明する。
【0024】
<添加剤A(環状硫酸エステル化合物)>
本発明の非水電解液は、添加剤Aとして、下記一般式(I)で表される環状硫酸エステル化合物(以下、単に「一般式(I)で表される化合物」ともいう)を含有する。
【0025】
【化3】
【0026】
一般式(I)において、Rは、一般式(II)で表される基又は式(III)で表される基を表し、Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、一般式(II)で表される基、又は式(III)で表される基を表す。
一般式(II)において、Rは、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、又は式(IV)で表される基を表す。一般式(II)、式(III)、および式(IV)における波線は、結合位置を表す。
一般式(I)で表される環状硫酸エステル化合物中に、一般式(II)で表される基が2つ含まれる場合、2つの一般式(II)で表される基は、同一であっても互いに異なっていてもよい。
【0027】
一般式(I)中、「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が具体例として挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0028】
一般式(I)中、「炭素数1〜6のアルキル基」とは、炭素数が1〜6個である直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、2−メチルブチル基、1−メチルペンチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、3,3−ジメチルブチル基などが具体例として挙げられる。
炭素数1〜6のアルキル基としては、炭素数1〜3のアルキル基がより好ましい。
【0029】
一般式(I)中、「炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基」とは、炭素数が1〜6個である直鎖又は分岐鎖のハロゲン化アルキル基であり、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロイソブチル基、クロロメチル基、クロロエチル基、クロロプロピル基、ブロモメチル基、ブロモエチル基、ブロモプロピル基、ヨウ化メチル基、ヨウ化エチル基、ヨウ化プロピル基などが具体例として挙げられる。
炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基としては、炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基がより好ましい。
【0030】
一般式(I)中、「炭素数1〜6のアルコキシ基」とは、炭素数が1〜6個である直鎖又は分岐鎖アルコキシ基であり、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、2−メチルブトキシ基、1−メチルペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、1−エチルプロポキシ基、ヘキシルオキシ基、3,3−ジメチルブトキシ基などが具体例として挙げられる。
炭素数1〜6のアルコキシ基としては、炭素数1〜3のアルコキシ基がより好ましい。
【0031】
一般式(I)中のRとして、好ましくは、一般式(II)で表される基(一般式(II)において、Rは、フッ素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、又は式(IV)で表される基であることが好ましい。)、又は式(III)で表される基である。
一般式(I)中のRとして、好ましくは、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、一般式(II)で表される基(一般式(II)において、Rは、フッ素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、又は、式(IV)で表される基であることが好ましい。)、又は式(III)で表される基であり、より好ましくは水素原子又はメチル基であり、特に好ましくは水素原子である。
【0032】
一般式(I)中のRが一般式(II)で表される基である場合、一般式(II)中のRは前述のとおり、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、又は式(IV)で表される基であるが、Rとしてより好ましくは、フッ素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、又は、式(IV)で表される基であり、更に好ましくは、フッ素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、又は、式(IV)で表される基である。
一般式(I)中のRが一般式(II)で表される基である場合、一般式(II)中のRの好ましい範囲については、一般式(I)中のRが一般式(II)で表される基である場合におけるRの好ましい範囲と同様である。
【0033】
本発明の効果がより効果的に奏される点からみた一般式(I)の好ましい形態は、
が、一般式(II)で表される基(一般式(II)中、Rはフッ素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、又は式(IV)で表される基であることが好ましい)、又は式(III)で表される基であり、Rが、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、一般式(II)で表される基(一般式(II)中、Rはフッ素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、又は式(IV)で表される基であることが好ましい。)、又は式(III)で表される基である形態である。
一般式(I)のより好ましい形態は、Rが一般式(II)で表される基(一般式(II)中、Rはフッ素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、又は式(IV)で表される基であることが好ましい)又は式(III)で表される基であり、Rが水素原子又はメチル基である形態である。
一般式(I)の更に好ましい形態は、Rが式(III)で表される基であり、Rが水素原子である組み合わせ(最も好ましくは1,2:3,4−ジ−O−スルファニル−メゾ−エリスリトール)である。
【0034】
一般式(I)において、Rが一般式(II)で表される基である環状硫酸エステル化合物は、下記一般式(XII)で表される環状硫酸エステル化合物である。
【0035】
【化4】
【0036】
一般式(XII)中、R及びRは、一般式(I)及び一般式(II)におけるR及びRとそれぞれ同義である。
【0037】
一般式(XII)で表される環状硫酸エステル化合物としては、Rが、水素原子、又は炭素数1〜6のアルキル基であり、Rが、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、又は式(IV)で表される基である化合物が好ましい。
更に、一般式(XII)で表される環状硫酸エステル化合物としては、Rが、水素原子又はメチル基であって、Rが、フッ素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、又は式(IV)で表される基である化合物が特に好ましい。
【0038】
一般式(I)で表される環状硫酸エステル化合物として、好ましくは、4−メチルスルホニルオキシメチル−2,2−ジオキソ−1,3,2−ジオキサチオラン、4−エチルスルホニルオキシメチル−2,2−ジオキソ−1,3,2−ジオキサチオラン、ビス((2,2−ジオキソ−1,3,2−ジオキサチオラン−4−イル)メチル)サルフェート、又は4,4’−ビス(2,2−ジオキソ−1,3,2−ジオキサチオランであり、更に好ましくは、4−メチルスルホニルオキシメチル−2,2−ジオキソ−1,3,2−ジオキサチオラン、4−エチルスルホニルオキシメチル−2,2−ジオキソ−1,3,2−ジオキサチオラン、ビス((2,2−ジオキソ−1,3,2−ジオキサチオラン−4−イル)メチル)サルフェート、又は4,4’−ビス(2,2−ジオキソ−1,3,2−ジオキサチオランであり、特に好ましくは、4−メチルスルホニルオキシメチル−2,2−ジオキソ−1,3,2−ジオキサチオラン、4−エチルスルホニルオキシメチル−2,2−ジオキソ−1,3,2−ジオキサチオラン、又はビス((2,2−ジオキソ−1,3,2−ジオキサチオラン−4−イル)メチル)サルフェートである。
【0039】
本発明における一般式(I)で表される環状硫酸エステル化合物の具体例〔例示化合物A−1〜例示化合物A−30〕を、一般式(I)における各置換基を明示することで下記の表に記載するが、本発明はこれらの化合物に限定されるものではない。
下記例示化合物の構造中、「Me」はメチル基を、「Et」はエチル基を、「Pr」はプロピル基を、「iPr」はイソプロピル基を、「Bu」はブチル基を、「tBu」はターシャリーブチル基を、「Pent」はペンチル基を、「Hex」はヘキシル基を、「OMe」はメトキシ基を、「OEt」はエトキシ基を、「OPr」はプロポキシ基を、「OBu」はブトキシ基を、「OPent」はペンチルオキシ基を、「OHex」はヘキシルオキシ基を、それぞれ表す。また、R〜Rにおける「波線」は、結合位置を表す。
なお、2,2−ジオキソ−1,3,2−ジオキサチオラン環の4位及び5位の置換基に由来する立体異性体が生じる場合があるが、両者とも本発明に含まれる化合物である。
【0040】
【化5】
【0041】
【化6】
【0042】
【化7】
【0043】
一般式(I)で表される環状硫酸エステル化合物のうち、分子内に2個以上の不斉炭素が存在する場合はそれぞれ立体異性体(ジアステレオマー)が存在するが、特に記載しない限りは、対応するジアステレオマーの混合物である。
【0044】
一般式(I)で表される環状硫酸エステル化合物を合成する方法には特に制限はないが、例えば、国際公開第2012/053644号パンフレットの段落0062〜0068に記載の合成方法によって合成することができる。
【0045】
本発明の非水電解液は、添加剤A(例えば、一般式(I)で表される化合物)を、1種のみ含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
本発明の非水電解液中における添加剤Aの含有量(2種以上である場合には総含有量)には特に制限はないが、本発明の効果がより効果的に奏される観点から、非水電解液の全量に対し、0.001質量%〜10質量%であることが好ましく、0.05質量%〜5質量%の範囲であることがより好ましい。
【0046】
<添加剤B(ジスルホン酸エステル化合物)>
本発明の非水電解液は、添加剤Bとして、下記一般式(V)で表されるジスルホン酸エステル化合物(以下、単に「一般式(V)で表される化合物」ともいう)を含有する。
【0047】
【化8】
【0048】
一般式(V)中、Rは、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、又は炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基を示す。
及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、若しくはフェニル基を表すか、又は、
一体となって、炭素数1〜10のアルキレン基、若しくは1,2−フェニレン基を表し、前記1,2−フェニレン基は、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、若しくはシアノ基によって置換されていてもよい。
【0049】
において、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基は、炭素数が1〜10個である直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基(好ましくは、炭素数が1〜10個である直鎖又は分岐鎖のアルキレン基)である。
炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチレン基(−CH−基)、ジメチレン基(−(CH−基)、トリメチレン基(−(CH−基)、テトラメチレン基(−(CH−基)、ペンタメチレン基(−(CH−基)、ヘキサメチレン基(−(CH−基)、ヘプタメチレン基(−(CH−基)、オクタメチレン基(−(CH−基)、ノナメチレン基(−(CH−基)、デカメチレン基(−(CH10−基)が挙げられる。
また、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基としては、メチルメチレン基(−CH(CH)−基)、ジメチルメチレン基(−C(CH−基)、ビニルメチレン基、ジビニルメチレン基、アリルメチレン基、ジアリルメチレン基、等の置換メチレン基も挙げられる。
炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基としては、炭素数1〜3のアルキレン基がより好ましく、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、ジメチルメチレン基が更に好ましく、メチレン基、ジメチレン基が更に好ましく、メチレン基が特に好ましい。
【0050】
において、炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基は、炭素数が1〜3個である直鎖又は分岐鎖のハロゲン化アルキレン基であり、例えば、フルオロメチレン基(−CHF−基)、ジフルオロメチレン基(−CF−基)、テトラフルオロジメチレン基(−CFCF−基)、等が挙げられる。
【0051】
としては、炭素数1〜3のアルキレン基がより好ましく、メチレン基が特に好ましい。
【0052】
及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、又はフェニル基を表す。または、R及びRは、一体となって、炭素数1〜10のアルキレン基、若しくは1,2−フェニレン基を表し、前記1,2−フェニレン基は、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、若しくはシアノ基によって置換されていてもよい。
【0053】
及びRにおいて、炭素数1〜6のアルキル基及びハロゲン原子については、それぞれ、既述の一般式(1)中の炭素数1〜6のアルキル基及びハロゲン原子と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0054】
及びRにおいて、炭素数1〜10のアルキレン基は、炭素数が1〜10個である直鎖又は分岐鎖のアルキレン基である。
及びRにおける炭素数1〜10のアルキレン基の例及び好ましい範囲は、Rにおける炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基の例及び好ましい範囲と同様である。
【0055】
及びRにおいて、炭素数1〜12のアルキル基は、炭素数が1〜12個である直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、2−メチルブチル基、1−メチルペンチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、3,3−ジメチルブチル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデカニル基、ドデカニル基が挙げられる。
炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜3のアルキル基が特に好ましい。
【0056】
一般式(V)で表される化合物のうち、R及びRが、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、若しくはフェニル基を表す形態の化合物は、下記一般式(V−1)で表される化合物である。
一般式(V)で表される化合物のうち、R及びRが一体となって炭素数1〜10のアルキレン基を表す形態の化合物は、下記一般式(V−2)で表される化合物である。
また、一般式(V)で表される化合物のうち、R及びRが一体となって1,2−フェニレン基を表し、前記1,2−フェニレン基は、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、又はシアノ基によって置換されていてもよい形態の化合物は、下記一般式(V−3)で表される化合物である。
【0057】
【化9】
【0058】
一般式(V−1)〜(V−3)中、Rは、一般式(V)中のRと同義である。
一般式(V−1)中、R5A及びR6Bは、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、又はフェニル基を表す。
一般式(V−2)中、R5Bは、炭素数1〜10のアルキレン基を表す。
一般式(V−3)中、Rは、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、又はシアノ基を表し、nは、0〜4の整数(好ましくは0、1又は2、特に好ましくは0)を表す。
【0059】
一般式(V)で表される化合物(添加剤B)において、本発明の効果に寄与する部位は、一般式(V)中の下記の点線で囲った部分と考えられる(例えば、後述の実施例1〜9参照)。
従って、一般式(V)で表される化合物が、上述の一般式(V−1)〜(V−3)のいずれの構造であっても、本発明の効果が同様に奏される。
【0060】
【化10】
【0061】
本発明の効果がより効果的に奏される点からみた一般式(V)の好ましい形態は、
が、炭素数1〜3のアルキレン基(好ましくは、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、ジメチルメチレン基、より好ましくは、メチレン基、ジメチレン基、特に好ましくはメチレン基)であり、
及びRが、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基、より好ましくはメチル基)であるか、又は、一体となって、炭素数1〜3のアルキレン基(好ましくは、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、ジメチルメチレン基、より好ましくは、メチレン基、ジメチレン基)、若しくは1,2−フェニレン基であり、前記1,2−フェニレン基は、ハロゲン原子(好ましくはフッ素原子、塩素原子、より好ましくはフッ素原子)、炭素数1〜3のアルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基、より好ましくはメチル基)、若しくはシアノ基によって置換されていてもよい態様である。
一般式(V)のより好ましい形態は、
が、メチレン基であり、
及びRが、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基、より好ましくはメチル基)であるか、又は、一体となって、炭素数1〜3のアルキレン基(好ましくは、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、ジメチルメチレン基、より好ましくは、メチレン基、ジメチレン基)、若しくは1,2−フェニレン基であり、前記1,2−フェニレン基は、ハロゲン原子(好ましくはフッ素原子、塩素原子、より好ましくはフッ素原子)、炭素数1〜3のアルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基、より好ましくはメチル基)、若しくはシアノ基によって置換されていてもよい態様である。
一般式(V)の更に好ましい形態は、
が、メチレン基であり、
及びRが、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基、より好ましくはメチル基)であるか、又は、一体となって、炭素数1〜3のアルキレン基(好ましくは、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、ジメチルメチレン基、より好ましくは、メチレン基、ジメチレン基)、若しくは、無置換の1,2−フェニレン基である態様である。
【0062】
一般式(V)で表される化合物としては、特に好ましくは、ジメチルメタンジスルホネート(下記例示化合物B−12)、メチレンメタンジスルホネート(下記例示化合物B−1)、ジメチレンメタンジスルホネート(下記例示化合物B−2)、及び(3H)−1,5,2,4−ベンゾジオキサジチエピン−2,2,4,4−テトラオキシド(下記例示化合物B−101)である。
【0063】
以下、一般式(V)で表される化合物の具体例〔例示化合物B−1〜B−14、B−101〜130〕を示すが、本発明はこれらの化合物に限定されるものではない。
このうち、例示化合物B−1〜B−14は、一般式(V−1)又は(V−2)で表される化合物の具体例である。
また、例示化合物B−101〜130は、一般式(V−3)で表される化合物の具体例である。
例示化合物B−101〜130において、「Me」はメチル基を、「Et」はエチル基を、「Pr」はプロピル基を、「iPr」はイソプロピル基を、「Bu」はブチル基を、「tBu」はtert−ブチル基を、「Vinyl」はビニル基を、「Allyl」はアリル基を、それぞれ表す。また、例示化合物B−101〜130において、一般式中の数字は置換位置を示す。「6−Me」は6位に置換したメチル基を示し、「6,8−diF」は6位及び8位のそれぞれに1つずつ置換した2つのフッ素原子を示し、「6,7,8,9−tetraF」は、6位、7位、8位、及び9位のそれぞれに1つずつ置換した4つのフッ素原子を示し、「6,8−di(tBu)」は6位及び8位のそれぞれに1つずつ置換した2つのtert−ブチル基を示す。
【0064】
【化11】
【0065】
【化12】
【0066】
一般式(V)で表される化合物としては、上述した例示化合物以外にも、特許第4033074号公報及び特許第4819409号公報に記載された化合物の中から、適宜選択して用いることもできる。
【0067】
一般式(V)で表される化合物の合成方法には特に制限はないが、たとえば、米国特許第4950768号、特公平5−44946号公報、西独国特許第2509738号明細書、西独国特許第2233859号明細書などに記載される合成方法が挙げられる。
一般式(V)で表される化合物のうち、一般式(V−3)で表される化合物の合成方法としては、例えば、特開2012−226878号公報の段落0052〜0055に記載の合成方法も挙げられる。
【0068】
本発明の非水電解液は、添加剤Bを、1種のみ含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
本発明の非水電解液中における添加剤Bの含有量(2種以上である場合には総含有量)には特に制限はないが、本発明の効果がより効果的に奏される観点から、非水電解液の全量に対し、0.001質量%〜10質量%であることが好ましく、0.05質量%〜5質量%であることがより好ましい。
【0069】
また、本発明の効果(添加剤Aと添加剤Bとの組み合わせによる効果)をより効果的に奏する観点からは、非水電解液中における含有質量比〔添加剤B/添加剤A〕は、0.01〜3.00であることが好ましく、0.10〜3.00であることがより好ましく、0.20〜2.60であることが更に好ましい。
また、保存後の電池抵抗を更に低減する観点からは、含有質量比〔添加剤B/添加剤A〕は、0.20〜0.90であることが更に好ましく、0.30〜0.70であることが特に好ましい。
【0070】
本発明の非水電解液中における添加剤A及び添加剤Bの総含有量には特に制限はないが、本発明の効果がより効果的に奏される観点から、非水電解液の全量に対し、0.001質量%〜10質量%であることが好ましく、0.05質量%〜5質量%であることがより好ましい。
【0071】
本発明の非水電解液において、添加剤Aと添加剤Bとの好ましい組み合わせは、添加剤Aの上述の好ましい形態と、添加剤Bの上述の好ましい形態と、を任意に組み合わせてなる組み合わせである。
中でも、本発明の効果が特に顕著に奏される観点から、
添加剤Aとして、一般式(I)において、Rが一般式(II)で表される基(一般式(II)中、Rはフッ素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、又は式(IV)で表される基である)又は式(III)で表される基であり、Rが水素原子又はメチル基である環状硫酸エステル化合物を用い、かつ、添加剤Bとして、一般式(V)において、Rが、炭素数1〜3のアルキレン基(好ましくは、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、ジメチルメチレン基、より好ましくは、メチレン基、ジメチレン基、特に好ましくはメチレン基)であり、R及びRが、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基、より好ましくはメチル基)であるか、又は、一体となって、炭素数1〜3のアルキレン基(好ましくは、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、ジメチルメチレン基、より好ましくは、メチレン基、ジメチレン基)、若しくは1,2−フェニレン基であり、前記1,2−フェニレン基は、ハロゲン原子(好ましくはフッ素原子、塩素原子、より好ましくはフッ素原子)、炭素数1〜3のアルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基、より好ましくはメチル基)、若しくはシアノ基によって置換されていてもよいジスルホン酸エステル化合物を用いることが好ましく;
添加剤Aとして、一般式(I)において、Rが一般式(II)で表される基(一般式(II)中、Rはフッ素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、又は式(IV)で表される基である)又は式(III)で表される基であり、Rが水素原子又はメチル基である環状硫酸エステル化合物を用い、かつ、添加剤Bとして、一般式(V)において、Rが、メチレン基であり、R及びRが、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基、より好ましくはメチル基)であるか、又は、一体となって、炭素数1〜3のアルキレン基(好ましくは、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、ジメチルメチレン基、より好ましくは、メチレン基、ジメチレン基)、若しくは1,2−フェニレン基であり、前記1,2−フェニレン基は、ハロゲン原子(好ましくはフッ素原子、塩素原子、より好ましくはフッ素原子)、炭素数1〜3のアルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基、より好ましくはメチル基)、若しくはシアノ基によって置換されていてもよいジスルホン酸エステル化合物を用いることがより好ましく;
添加剤Aとして、一般式(I)において、Rが一般式(II)で表される基(一般式(II)中、Rはフッ素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、又は式(IV)で表される基である)又は式(III)で表される基であり、Rが水素原子又はメチル基である環状硫酸エステル化合物を用い、かつ、添加剤Bとして、一般式(V)において、Rが、メチレン基であり、R及びRが、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基、より好ましくはメチル基)であるか、又は、一体となって、炭素数1〜3のアルキレン基(好ましくは、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、ジメチルメチレン基、より好ましくは、メチレン基、ジメチレン基)、若しくは、無置換の1,2−フェニレン基であるジスルホン酸エステル化合物を用いることが更に好ましく;
添加剤Aとして、一般式(I)において、Rが一般式(II)で表される基(一般式(II)中、Rはフッ素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、又は式(IV)で表される基である)又は式(III)で表される基であり、Rが水素原子又はメチル基である環状硫酸エステル化合物を用い、かつ、添加剤Bとして、ジメチルメタンジスルホネート、メチレンメタンジスルホネート、ジメチレンメタンジスルホネート)、及び(3H)−1,5,2,4−ベンゾジオキサジチエピン−2,2,4,4−テトラオキシドを用いることが特に好ましい。
【0072】
<添加剤C>
本発明の非水電解液は、更に、炭素−炭素不飽和結合を有するカーボネート化合物、フッ素原子で置換されたカーボネート化合物、フルオロリン酸化合物、及び環状スルトン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である添加剤Cを含有することが好ましい。 本発明の非水電解液が添加剤Cを含有することにより、上述した本発明の効果がより効果的に奏される。この理由は、添加剤Cが、添加剤A及び添加剤Bによって電極表面に形成された被膜を強化することにより、電極表面での溶媒の分解がより効果的に抑制されるためと考えられる。
【0073】
(炭素−炭素不飽和結合を有するカーボネート化合物)
炭素−炭素不飽和結合を有するカーボネート化合物としては、メチルビニルカーボネート、エチルビニルカーボネート、ジビニルカーボネート、メチルプロピニルカーボネート、エチルプロピニルカーボネート、ジプロピニルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどの鎖状カーボネート類;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、4,4−ジメチルビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、4,4−ジエチニルエチレンカーボネート、4,5−ジエチニルエチレンカーボネート、プロピニルエチレンカーボネート、4,4−ジプロピニルエチレンカーボネート、4,5−ジプロピニルエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類;などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジビニルエチレンカーボネートであり、より好ましくは、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートである。
【0074】
(フッ素原子を有するカーボネート化合物)
フッ素原子を有するカーボネート化合物としては、メチルトリフルオロメチルカーボネート、エチルトリフルオロメチルカーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート、メチル(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネートなどの鎖状カーボネート類;4−フルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、4−トリフルオロメチルエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類;などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、4−フルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネートである。
【0075】
(フルオロリン酸化合物)
フルオロリン酸化合物としては、ジフルオロリン酸リチウム、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、ジフルオロリン酸、モノフルオロリン酸、ジフルオロリン酸メチル、ジフルオロリン酸エチル、フルオロリン酸ジメチル、フルオロリン酸ジエチルなどが挙げられる。これらのうち、好ましくはジフルオロリン酸リチウム、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムである。
【0076】
(環状スルトン化合物)
環状スルトン化合物としては、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、1,3−プロペンスルトン、1−メチル−1,3−プロペンスルトン、2−メチル−1,3−プロペンスルトン、3−メチル−1,3−プロペンスルトン等のスルトン類が挙げられる。これらのうち、好ましくは、1,3−プロパンスルトン、1,3−プロペンスルトンである。
【0077】
上述した添加剤Cは、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、1,3−プロパンスルトン、及び1,3−プロペンスルトンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0078】
本発明の非水電解液が添加剤Cを含有する場合、含有される添加剤Cは、1種のみであっても、2種以上であってもよい。
本発明の非水電解液が添加剤Cを含有する場合、その含有量(2種以上である場合には総含有量)には特に制限はないが、本発明の効果がより効果的に奏される観点から、非水電解液の全量に対し、0.001質量%〜10質量%であることが好ましく、0.05質量%〜5質量%の範囲であることがより好ましく、0.1質量%〜4質量%の範囲であることが更に好ましく、0.1質量%〜2質量%の範囲であることが更に好ましく、0.1質量%〜1質量%の範囲であることが特に好ましい。
【0079】
また、本発明の非水電解液が添加剤Cを含有する場合、添加剤A、添加剤B、及び添加剤Cの総含有量は、本発明の効果がより効果的に奏される観点から、非水電解液の全量に対し、0.001質量%〜10質量%であることが好ましく、0.1質量%〜8質量%の範囲であることがより好ましく、0.5質量%〜8質量%の範囲であることが特に好ましい。
【0080】
また、本発明の非水電解液は、上記以外のその他の添加剤を含有していてもよい。
その他の添加剤は、例えば、国際公開第2012/053644号パンフレット、特許第4033074号公報、特許第4819409号公報、特開2012−226878号公報などに記載の添加剤の中から、適宜選択して用いることができる。
【0081】
次に、非水電解液の他の成分について説明する。
非水電解液は、一般的には、電解質と非水溶媒とを含有する。
【0082】
<非水溶媒>
本発明における非水溶媒としては、種々公知のものを適宜選択することができるが、環状の非プロトン性溶媒及び/又は鎖状の非プロトン性溶媒を用いることが好ましい。
電池の安全性の向上のために、溶媒の引火点の向上を志向する場合は、非水溶媒として環状の非プロトン性溶媒を使用することが好ましい。
【0083】
(環状の非プロトン性溶媒)
環状の非プロトン性溶媒としては、環状カーボネート、環状カルボン酸エステル、環状スルホン、環状エーテルを用いることができる。
環状の非プロトン性溶媒は単独で使用してもよいし、複数種混合して使用してもよい。
環状の非プロトン性溶媒の非水溶媒中の混合割合は、10質量%〜100質量%、さらに好ましくは20質量%〜90質量%、特に好ましくは30質量%〜80質量%である。このような比率にすることによって、電池の充放電特性に関わる電解液の伝導度を高めることができる。
環状カーボネートの例として具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、2,3−ブチレンカーボネート、1,2−ペンチレンカーボネート、2,3−ペンチレンカーボネートなどが挙げられる。これらのうち、誘電率が高いエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートが好適に使用される。負極活物質に黒鉛を使用した電池の場合は、エチレンカーボネートがより好ましい。また、これら環状カーボネートは2種類以上を混合して使用してもよい。
【0084】
環状カルボン酸エステルとして、具体的にはγ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、あるいはメチルγ−ブチロラクトン、エチルγ−ブチロラクトン、エチルδ−バレロラクトンなどのアルキル置換体などを例示することができる。
環状カルボン酸エステルは、蒸気圧が低く、粘度が低く、かつ誘電率が高く、電解液の引火点と電解質の解離度を下げることなく電解液の粘度を下げることができる。このため、電解液の引火性を高くすることなく電池の放電特性に関わる指標である電解液の伝導度を高めることができるという特徴を有するので、溶媒の引火点の向上を指向する場合は、上記環状の非プロトン性溶媒として環状カルボン酸エステルを使用することが好ましい。環状カルボン酸エステルの中でも、γ−ブチロラクトンが最も好ましい。
また、環状カルボン酸エステルは、他の環状の非プロトン性溶媒と混合して使用することが好ましい。例えば、環状カルボン酸エステルと、環状カーボネート及び/又は鎖状カーボネートとの混合物が挙げられる。
【0085】
環状スルホンの例としては、スルホラン、2−メチルスルホラン、3―メチルスルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジプロピルスルホン、メチルエチルスルホン、メチルプロピルスルホンなどが挙げられる。
環状エーテルの例としてジオキソランを挙げることができる。
【0086】
(鎖状の非プロトン性溶媒)
本発明の鎖状の非プロトン性溶媒としては、鎖状カーボネート、鎖状カルボン酸エステル、鎖状エーテル、鎖状リン酸エステルなどを用いることができる。
鎖状の非プロトン性溶媒の非水溶媒中の混合割合は、10質量%〜100質量%、さらに好ましくは20質量%〜90質量%、特に好ましくは30質量%〜80質量%である。
鎖状カーボネートとして具体的には、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、メチルペンチルカーボネート、エチルペンチルカーボネート、ジペンチルカーボネート、メチルヘプチルカーボネート、エチルヘプチルカーボネート、ジヘプチルカーボネート、メチルヘキシルカーボネート、エチルヘキシルカーボネート、ジヘキシルカーボネート、メチルオクチルカーボネート、エチルオクチルカーボネート、ジオクチルカーボネート、メチルトリフルオロエチルカーボネートなどが挙げられる。これら鎖状カーボネートは2種類以上を混合して使用してもよい。
【0087】
鎖状カルボン酸エステルとして具体的には、ピバリン酸メチルなどが挙げられる。
鎖状エーテルとして具体的には、ジメトキシエタンなどが挙げられる。
鎖状リン酸エステルとして具体的には、リン酸トリメチルなどが挙げられる。
【0088】
(溶媒の組み合わせ)
本発明の非水電解液で使用する非水溶媒は、1種類でも複数種類を混合して用いてもよい。また、環状の非プロトン性溶媒のみを1種類又は複数種類用いても、鎖状の非プロトン性溶媒のみを1種類又は複数種類用いても、又は環状の非プロトン性溶媒及び鎖状のプロトン性溶媒を混合して用いてもよい。電池の負荷特性、低温特性の向上を特に意図した場合は、非水溶媒として環状の非プロトン性溶媒と鎖状の非プロトン性溶媒を組み合わせて使用することが好ましい。
さらに、電解液の電気化学的安定性から、環状の非プロトン性溶媒には環状カーボネートを、鎖状の非プロトン性溶媒には鎖状カーボネートを適用することが最も好ましい。また、環状カルボン酸エステルと環状カーボネート及び/又は鎖状カーボネートの組み合わせによっても電池の充放電特性に関わる電解液の伝導度を高めることができる。
【0089】
環状カーボネートと鎖状カーボネートの組み合わせとして、具体的には、エチレンカーボネートとジメチルカーボネート、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネート、エチレンカーボネートとジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートとジメチルカーボネート、プロピレンカーボネートとメチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとメチルエチルカーボネート、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネート、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネートとジエチルカーボネートなどが挙げられる。
環状カーボネートと鎖状カーボネートの混合割合は、質量比で表して、環状カーボネート:鎖状カーボネートが、5:95〜80〜20、さらに好ましくは10:90〜70:30、特に好ましくは15:85〜55:45である。このような比率にすることによって、電解液の粘度上昇を抑制し、電解質の解離度を高めることができるため、電池の充放電特性に関わる電解液の伝導度を高めることができる。また、電解質の溶解度をさらに高めることができる。よって、常温又は低温での電気伝導性に優れた電解液とすることができるため、常温から低温での電池の負荷特性を改善することができる。
【0090】
環状カルボン酸エステルと環状カーボネート及び/又は鎖状カーボネートの組み合わせの例として、具体的には、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとジメチルカーボネート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンとプロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトンとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネート、γ−ブチロラクトンとプロピレンカーボネートとメチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンとプロピレンカーボネートとジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとメチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネートとジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネートとジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンとスルホラン、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとスルホラン、γ−ブチロラクトンとプロピレンカーボネートとスルホラン、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとスルホラン、γ−ブチロラクトンとスルホランとジメチルカーボネートなどが挙げられる。
【0091】
(その他の溶媒)
本発明に係る非水電解液は、非水溶媒として、上記以外の他の溶媒を含んでいてもよい。他の溶媒としては、具体的には、ジメチルホルムアミドなどのアミド、メチル−N,N−ジメチルカーバメートなどの鎖状カーバメート、N−メチルピロリドンなどの環状アミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなどの環状ウレア、ほう酸トリメチル、ほう酸トリエチル、ほう酸トリブチル、ほう酸トリオクチル、ほう酸トリメチルシリル等のホウ素化合物、及び下記の一般式で表されるポリエチレングリコール誘導体などを挙げることができる。
HO(CHCHO)
HO[CHCH(CH)O]
CHO(CHCHO)
CHO[CHCH(CH)O]
CHO(CHCHO)CH
CHO[CHCH(CH)O]CH
19PhO(CHCHO)[CH(CH)O]CH
(Phはフェニル基)
CHO[CHCH(CH)O]CO[OCH(CH)CHOCH
上記式中、a〜fは、5〜250の整数、g〜jは2〜249の整数、5≦g+h≦250、5≦i+j≦250である。
【0092】
<電解質>
本発明の非水電解液は、種々公知の電解質を含有することができる。電解質としては、通常、非水電解液用電解質として使用されているものであれば、いずれをも使用することができる。
本発明における電解質の具体例としては、(CNPF、(CNBF、(CNClO、(CNAsF、(CSiF、(CNOSO(2k+1)(k=1〜8の整数)、(CNPF[C(2k+1)(6−n)(n=1〜5、k=1〜8の整数)などのテトラアルキルアンモニウム塩、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSiF、LiOSO(2k+1)(k=1〜8の整数)、LiPF[C(2k+1)(6−n)(n=1〜5、k=1〜8の整数)などのリチウム塩が挙げられる。また、次の一般式で表されるリチウム塩も使用することができる。
【0093】
LiC(SO27)(SO28)(SO29)、LiN(SOOR30)(SOOR31)、LiN(SO32)(SO33)(ここでR27〜R33は互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基である)。これらの電解質は単独で使用してもよく、また2種類以上を混合してもよい。
これらのうち、特にリチウム塩が望ましく、さらには、LiPF、LiBF、LiOSO(2k+1)(k=1〜8の整数)、LiClO、LiAsF、LiNSO[C(2k+1)(k=1〜8の整数)、LiPF[C(2k+1)(6−n)(n=1〜5、k=1〜8の整数)が好ましい。
本発明に係る電解質は、通常は、非水電解液中に0.1mol/L〜3mol/L、好ましくは0.5mol/L〜2mol/Lの濃度で含まれることが好ましい。
【0094】
本発明の非水電解液において、非水溶媒として、γ−ブチロラクトンなどの環状カルボン酸エステルを併用する場合には、特にLiPFを含有することが望ましい。LiPFは、解離度が高いため、電解液の伝導度を高めることができ、さらに負極上での電解液の還元分解反応を抑制する作用がある。LiPFは単独で使用してもよいし、LiPFとそれ以外の電解質を使用してもよい。それ以外の電解質としては、通常、非水電解液用電解質として使用されるものであれば、いずれも使用することができるが、前述のリチウム塩の具体例のうちLiPF以外のリチウム塩が好ましい。
具体例としては、LiPFとLiBF、LiPFとLiN[SO(2k+1)(k=1〜8の整数)、LiPFとLiBFとLiN[SO(2k+1)](k=1〜8の整数)などが例示される。
【0095】
リチウム塩中に占めるLiPFの比率は、1質量%〜100質量%、好ましくは10質量%〜100質量%、さらに好ましくは50質量%〜100質量%が望ましい。このような電解質は、0.1mol/L〜3mol/L、好ましくは0.5mol/L〜2mol/Lの濃度で非水電解液中に含まれることが好ましい。
【0096】
本発明の非水電解液は、本発明の目的を妨げない範囲で、上述した化合物以外の他の化合物を添加剤として少なくとも1種含有していてもよい。
他の化合物として具体的には、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸エチレン、硫酸プロピレン、硫酸ブテン、硫酸ペンテン、硫酸ビニレン等の硫酸エステル類;並びにスルホラン、3−スルホレン、ジビニルスルホン等のイオウ系化合物、を挙げることができる。
これらの化合物は単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
これらのうち、硫酸エチレン、硫酸プロピレン、硫酸ブテン、硫酸ペンテンが好ましい。
【0097】
本発明の非水電解液は、リチウム二次電池用の非水電解液として好適であるばかりでなく、一次電池用の非水電解液、電気化学キャパシタ用の非水電解液、電気二重層キャパシタ、アルミ電解コンデンサー用の電解液としても用いることができる。
【0098】
〔リチウム二次電池〕
本発明のリチウム二次電池は、負極と、正極と、上記本発明の非水電解液を含んで構成されている。
通常、負極と正極との間にセパレータが設けられている。
【0099】
(負極)
上記負極を構成する負極活物質は、金属リチウム、リチウム含有合金、リチウムとの合金化が可能な金属もしくは合金、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な酸化物、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な遷移金属窒素化物、及び、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な炭素材料からなる群から選ばれた少なくとも1種(単独で用いてもよいし、これらの2種以上を含む混合物を用いてもよい)を用いることができる。
リチウム(又はリチウムイオン)との合金化が可能な金属もしくは合金としては、シリコン、シリコン合金、スズ、スズ合金などを挙げることができる。また、チタン酸リチウムでもよい。
これらの中でもリチウムイオンをドープ・脱ドープすることが可能な炭素材料が好ましい。このような炭素材料としては、カーボンブラック、活性炭、黒鉛材料(人造黒鉛、天然黒鉛)、非晶質炭素材料、等が挙げられる。上記炭素材料の形態は、繊維状、球状、ポテト状、フレーク状いずれの形態であってもよい。
【0100】
上記非晶質炭素材料として具体的には、ハードカーボン、コークス、1500℃以下に焼成したメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソペーズビッチカーボンファイバー(MCF)などが例示される。
上記黒鉛材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。人造黒鉛としては、黒鉛化MCMB、黒鉛化MCFなどが用いられる。また、黒鉛材料としては、ホウ素を含有するものなども用いることができる。また、黒鉛材料としては、金、白金、銀、銅、スズなどの金属で被覆したもの、非晶質炭素で被覆したもの、非晶質炭素と黒鉛を混合したものも使用することができる。
【0101】
これらの炭素材料は、1種類で使用してもよく、2種類以上混合して使用してもよい。
上記炭素材料としては、特にX線解析で測定した(002)面の面間隔d(002)が0.340nm以下の炭素材料が好ましい。また、炭素材料としては、真密度が1.70g/cm以上である黒鉛又はそれに近い性質を有する高結晶性炭素材料も好ましい。以上のような炭素材料を使用すると、電池のエネルギー密度をより高くすることができる。
【0102】
(正極)
上記正極を構成する正極活物質としては、MoS、TiS、MnO、Vなどの遷移金属酸化物又は遷移金属硫化物、LiCoO、LiMnO、LiMn、LiNiO、LiNiCo(1−X)〔0<X<1〕、LiFePOなどのリチウムと遷移金属とからなる複合酸化物、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリアセン、ジメルカプトチアジアゾール、ポリアニリン複合体などの導電性高分子材料等が挙げられる。これらの中でも、特にリチウムと遷移金属とからなる複合酸化物が好ましい。負極がリチウム金属又はリチウム合金である場合は、正極として炭素材料を用いることもできる。また、正極として、リチウムと遷移金属との複合酸化物と、炭素材料と、の混合物を用いることもできる。
上記の正極活物質は、1種類で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。正極活物質は導電性が不充分である場合には、導電性助剤とともに使用して正極を構成することができる。導電性助剤としては、カーボンブラック、アモルファスウィスカー、グラファイトなどの炭素材料を例示することができる。
【0103】
(セパレータ)
上記セパレータは、正極と負極とを電気的に絶縁し且つリチウムイオンを透過する膜であって、多孔性膜や高分子電解質が例示される。
上記多孔性膜としては微多孔性高分子フィルムが好適に使用され、材質としてポリオレフィン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル等が例示される。
特に、多孔性ポリオレフィンが好ましく、具体的には多孔性ポリエチレンフィルム、多孔性ポリプロピレンフィルム、又は多孔性のポリエチレンフィルムとポリプロピレンフィルムとの多層フィルムを例示することができる。多孔性ポリオレフィンフィルム上には、熱安定性に優れる他の樹脂がコーティングされてもよい。
上記高分子電解質としては、リチウム塩を溶解した高分子や、電解液で膨潤させた高分子等が挙げられる。
本発明の非水電解液は、高分子を膨潤させて高分子電解質を得る目的で使用してもよい。
【0104】
(電池の構成)
本発明の実施形態に係るリチウム二次電池は、上記の負極活物質、正極活物質及びセパレータを含む。
本発明のリチウム二次電池は、種々公知の形状をとることができ、円筒型、コイン型、角型、フィルム型その他任意の形状に形成することができる。しかし、電池の基本構造は、形状によらず同じであり、目的に応じて設計変更を施すことができる。
本発明のリチウム二次電池(非水電解液二次電池)の例として、図1に示すコイン型電池が挙げられる。
図1に示すコイン型電池では、円盤状負極2、非水電解液を注入したセパレータ5、円盤状正極1、必要に応じて、ステンレス、又はアルミニウムなどのスペーサー板7、8が、この順序に積層された状態で、正極缶3(以下、「電池缶」ともいう)と封口板4(以下、「電池缶蓋」ともいう)との間に収納される。正極缶3と封口板4とはガスケット6を介してかしめ密封する。
この一例では、セパレータ5に注入される非水電解液として、本発明の非水電解液を用いることができる。
【0105】
なお、本発明のリチウム二次電池は、負極と、正極と、上記本発明の非水電解液と、を含むリチウム二次電池(充放電前のリチウム二次電池)を、充放電させて得られたリチウム二次電池であってもよい。
即ち、本発明のリチウム二次電池は、まず、負極と、正極と、上記本発明の非水電解液と、を含む充放電前のリチウム二次電池を作製し、次いで、この充放電前のリチウム二次電池を1回以上充放電させることによって作製されたリチウム二次電池(充放電されたリチウム二次電池)であってもよい。
【0106】
本発明のリチウム二次電池の用途は特に限定されず、種々公知の用途に用いることができる。例えば、ノートパソコン、モバイルパソコン、携帯電話、ヘッドホンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、電子手帳、電卓、ラジオ、バックアップ電源用途、モーター、自動車、電気自動車、バイク、電動バイク、自転車、電動自転車、照明器具、ゲーム機、時計、電動工具、カメラ等、小型携帯機器、大型機器を問わず広く利用可能なものである。
【実施例】
【0107】
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
なお、以下の実施例において、「wt%」は質量%を表す。
また、以下の実施例において、「添加量」は、最終的に得られる非水電解液中における含有量(即ち、最終的に得られる非水電解液全量に対する量)を表す。
【0108】
〔実施例1〕
以下の手順にて、リチウム二次電池を作製した。
<負極の作製>
人造黒鉛20質量部、天然黒鉛系黒鉛80質量部、カルボキシメチルセルロース1質量部及びSBRラテックス2質量部を水溶媒で混錬してペースト状の負極合剤スラリーを調製した。
次に、この負極合剤スラリーを厚さ18μmの帯状銅箔製の負極集電体に塗布し乾燥した後に、ロールプレスで圧縮して負極集電体と負極活物質層からなるシート状の負極を得た。このときの負極活物質層の塗布密度は10mg/cmであり、充填密度は1.5g/mlであった。
【0109】
<正極の作製>
LiCoOを90質量部、アセチレンブラック5質量部及びポリフッ化ビニリデン5質量部を、N−メチルピロリジノンを溶媒として混錬してペースト状の正極合剤スラリーを調製した。
次に、この正極合剤スラリーを厚さ20μmの帯状アルミ箔の正極集電体に塗布し乾燥した後に、ロールプレスで圧縮して正極集電体と正極活物質とからなるシート状の正極を得た。このときの正極活物質層の塗布密度は30mg/cmであり、充填密度は2.5g/mlであった。
【0110】
<非水電解液の調製>
非水溶媒としてエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とメチルエチルカーボネート(EMC)とをそれぞれ30:35:35(質量比)の割合で混合し、混合溶媒を得た。
得られた混合溶媒中に、電解質であるLiPFを、最終的に得られる非水電解液中における電解質濃度が1モル/リットルとなるように溶解させた。
上記で得られた溶液に対して、添加剤A(環状硫酸エステル化合物)としての上記例示化合物A−1(添加量0.5wt%)、及び、添加剤B(ジスルホン酸エステル化合物)としての上記例示化合物B−1(添加量0.5wt%)をそれぞれ添加し、非水電解液を得た。
【0111】
<コイン型電池の作製>
上述の負極を直径14mmで、上述の正極を直径13mmで、それぞれ円盤状に打ち抜いて、コイン状の電極(負極及び正極)を得た。また、厚さ20μmの微多孔性ポリエチレンフィルムを直径17mmの円盤状に打ち抜きセパレータを得た。
得られたコイン状の負極、セパレータ及びコイン状の正極を、この順序でステンレス製の電池缶(2032サイズ)内に積層し、上記非水電解液20μlを注入してセパレータと正極と負極に含漬させた。
さらに、正極上にアルミニウム製の板(厚さ1.2mm、直径16mm)及びバネを乗せ、ポリプロピレン製のガスケットを介して、電池缶蓋をかしめることにより電池を密封し、直径20mm、高さ3.2mmの図1で示す構成を有するコイン型のリチウム二次電池(以下、試験用電池と称する)を作製した。
得られたコイン型電池(試験用電池)について、各測定を実施した。
【0112】
[評価方法]
<電池の抵抗特性:保存前(初期)の電池抵抗>
上記コイン型電池を定電圧4.2Vで充電し、次いで、この充電後のコイン型電池を恒温槽内で25℃に調温し、25℃にて0.2mA定電流で放電し、放電開始から10秒間における電位低下を測定することにより、コイン型電池の直流抵抗[Ω] (25℃)を測定し、得られた値を保存前抵抗値[Ω](25℃)とした。
後述の比較例1のコイン型電池についても同様にして、保存前抵抗値[Ω](25℃)を測定した。
これらの結果から、下記式により、比較例1での保存前の抵抗値[Ω](25℃)を100%としたときの実施例1での保存前の抵抗値(相対値;%)として、「保存前の電池抵抗[%]」を求めた。
得られた結果を表1に示す。
【0113】
保存前の電池抵抗[%]
=(実施例1での初期抵抗値[Ω]/比較例1での初期抵抗値[Ω])×100[%]
【0114】
<電池の抵抗特性:保存後の電池抵抗>
上記コイン型電池を定電圧4.2Vで充電し、次いで、この充電後のコイン型電池を80℃の恒温槽内で2日間保存した後、初期電池抵抗と同様の方法でコイン型電池の直流抵抗[Ω](25℃)を測定し、得られた値を保存後抵抗値[Ω](25℃)とした。
後述の比較例1のコイン型電池についても同様にして、保存後抵抗値[Ω](25℃)を測定した。
これらの結果から、下記式により、比較例1での保存後抵抗値[Ω](25℃)を100%としたときの実施例1での保存後抵抗値(相対値;%)として、「保存後の電池抵抗[%]」を求めた。
得られた結果を表1に示す。
【0115】
保存後の電池抵抗[%]
=(実施例1での保存後抵抗値[Ω]/比較例1での保存後抵抗値[Ω])×100[%]
【0116】
<電池の抵抗特性:比率〔保存後/保存前〕>
保存による電池抵抗の変化を調べるために、上記「保存前の電池抵抗[%]」に対する上記「保存後の電池抵抗[%]」の比率(比率〔保存後/保存前〕)を算出した。
この比率〔保存後/保存前〕が小さい程、保存による電池抵抗の上昇が抑制されている。
【0117】
〔比較例1〕
実施例1において、例示化合物A−1および例示化合物B−1を添加しなかった(すなわち添加剤なし)こと以外は実施例1と同様にして非水電解液を調製した。電池の作製、評価についても実施例1と同様に実施した。得られた結果を表1に示す。
【0118】
〔比較例2〕
実施例1において、例示化合物B−1を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして非水電解液を調製した。電池の作製、評価についても実施例1と同様に実施した。得られた結果を表1に示す。
【0119】
〔比較例3〕
比較例2において、例示化合物A−1を同じ添加量の例示化合物A−22に変更したこと以外は比較例2と同様にして非水電解液を調製した。電池の作製、評価についても比較例2と同様に実施した。得られた結果を表1に示す。
【0120】
〔比較例4〕
比較例3において、添加剤A(例示化合物A−22)の添加量を、表1に示すように変更したこと以外は比較例3と同様にして非水電解液を調製した。電池の作製及び評価についても比較例3と同様に実施した。得られた結果を表1に示す。
【0121】
〔比較例5〕
実施例1において、例示化合物A−1を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして非水電解液を調製した。電池の作製、評価についても実施例1と同様に実施した。得られた結果を表1に示す。
【0122】
〔比較例6〕
比較例5において、添加剤B(例示化合物B−1)の添加量を、表1に示すように変更したこと以外は比較例5と同様にして非水電解液を調製した。電池の作製及び評価についても比較例5と同様に実施した。得られた結果を表1に示す。
【0123】
〔比較例7〜9〕
比較例5において、例示化合物B−1を、同じ添加量の表1に示す例示化合物に変更したこと以外は比較例5と同様にして非水電解液を調製した。電池の作製、評価についても比較例5と同様に実施した。得られた結果を表1に示す。
【0124】
〔実施例2、4〜9〕
実施例1において、添加剤Aと添加剤Bとの組み合わせを、表1に示す組み合わせに変更したこと以外は実施例1と同様にして非水電解液を調製した。電池の作製及び評価についても実施例1と同様に実施した。得られた結果を表1に示す。
【0125】
〔実施例3〕
実施例2において、添加剤B(例示化合物B−1)の添加量を、表1に示すように変更したこと以外は実施例2と同様にして非水電解液を調製した。電池の作製及び評価についても実施例2と同様に実施した。得られた結果を表1に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
−表1の説明−
・例示化合物A−1及びA−22は、一般式(I)で表される環状硫酸エステル化合物である添加剤Aの具体例である。
・例示化合物B−1、B−2、B−12、B−101は、一般式(V)で表されるジスルホン酸エステル化合物である添加剤Bの具体例である。
【0128】
表1に示すように、添加剤Aと添加剤Bとの組み合わせを用いた実施例1〜9では、添加剤Aも添加剤Bも用いなかった比較例1と比較して、比率〔保存後/保存前〕、保存後の電池抵抗、及び保存前の電池抵抗が低減されていた。即ち、実施例1〜9では、保存による電池抵抗の上昇及び保存後の電池抵抗が低減され、更には、初期(保存前)の電池抵抗も低減されていた。
【0129】
一方、添加剤Aを用い、添加剤Bを用いなかった比較例2〜4では、比較例1と比較すれば、比率〔保存後/保存前〕、保存後の電池抵抗、及び保存前の電池抵抗がすべて低減されてはいるものの、実施例1〜9と比較すれば、比率〔保存後/保存前〕及び保存後の電池抵抗が高かった。
また、添加剤Aを用いず、添加剤Bを用いた比較例5〜9では、実施例1〜9と比較して(更には、比較例1と比較しても)、保存前の電池抵抗が高かった。
【符号の説明】
【0130】
1 正極
2 負極
3 正極缶
4 封口板
5 セパレータ
6 ガスケット
7,8 スペーサー板
図1