【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例を挙けるが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
糖ペプチドのペプチド鎖のN末端アミノ基のベンゾイル(Bz)化
最初に、卵黄由来糖ペプチド(Lys−Val−Ala−Asn(Hex
5HexNAc
4Neu5Ac
2)−Lys−Thr)のリジン(Lys)の側鎖アミノ基をBeardsley R.L.らの手法(非特許文献8)によって、グアニジド化し、その後、酸加水分解によって、脱シアリル化を行い、ペプチドのN末端に1個アミノ基を有する糖ペプチド(H−Homoarg−Val−Ala−Asn(Hex
5HexNAc
4)−Homoarg−Thr−OH)を調製した。この糖ペプチドを用いて、標識による効果を調べた。
【0025】
まず、H−Homoarg−Val−Ala−Asn(Hex
5HexNAc
4)−Homoarg−Thr−OH(100pmol)に対して、無水安息香酸(Bz
2O)を用いて糖ペプチドのN末端のアミノ基の標識化を行い、質量分析計で測定した。
図2で示されるようにBz基による標識ではpositive mode,negative mode共に標識前の試料より検出感度が非常に向上している。
【0026】
<比較例1>
糖ペプチドのペプチド鎖のN末端アミノ基のアセチル(Ac)化
同様に、H−Homoarg−Val−Ala−Asn(Hex
5HexNAc
4)−Homoarg−Thr−OHに対して、無水酢酸(Ac
2O)を用いて糖ペプチドのN末端のアミノ基の標識化を行い、質量分析計で測定した。
図2で示されるようにAc基による標識ではpositive mode,negative mode共に標識前と比べて感度(ピーク強度、SN比)が悪くなっている。
【0027】
<実施例2>
糖ペプチドのペプチド鎖のN末端アミノ基への標識試薬の比較
次に、電荷的に中性かつ芳香環又は複素環を持つ表1の(2)、(5)、(8)のカルボン酸無水物、カルボン酸を用いてH−Homoarg−Val−Ala−Asn(Hex
5HexNAc
4)−Homoarg−Thr−OHのN末端のアミノ基に標識し、試料を混合して質量分析計で測定する事により、ピーク強度比を計算し、それぞれのイオン感度を評価した。
【0028】
<参考例>
表1の(3)、(4)、(6)、(7)は、芳香環又は複素環の単環を持つ標識化合物ではないが、参考例として行い、評価している。
芳香環が1、2、4個あるベンゾイル(1)、ナフトイル(3)、ピレノイル(4)基を比較した結果、芳香環が1個のベンゾイルが一番、感度が良かった。また、芳香環が1つでもメトキシが結合している物(2)は、感度が悪かった。しかしながら、カルボン酸と3級アミンが混在して電荷的に中性な化合物(5)は、感度が良かった。また、2つの芳香環又は複素環を持つ(3)、(7)と(8)を比較した結果、ほぼ同程度の感度である事が分かった。
【表1】
<表1> 糖ペプチドのペプチド鎖のN末端のアミノ基に標識した化合物のイオン検出感度(標識なしの糖ペプチドを1とした)
【0029】
<実施例3>
H−Ile−Arg−Asn(Hex
5HexNAc
4)−Lys−Ser−OH、H−Lys−Val−Ala−Asn(Hex
5HexNAc
4)−Lys−Thr−OHのN末端アミノ基のみ標識した場合と、リシン側鎖アミノ基をも標識した場合の比較
H−Ile−Arg−Asn(Hex
5HexNAc
4)−Lys−Ser−OH、H−Lys−Val−Ala−Asn(Hex
5HexNAc
4)−Lys−Thr−OHを用いてペプチドのN末端に1個だけ標識した糖ペプチドBz−Ile−Arg−Asn(Hex
5HexNAc
4)−Homoarg−Ser−OH、Bz−Homoarg−Val−Ala−Asn(Hex
5HexNAc
4)−Homoarg−Thr−OHとLysの側鎖のアミノ基と合わせて2箇所に標識されたBz−Ile−Arg−Asn(Hex
5HexNAc
4)−Lys(Bz)−Ser−OH、3箇所に標識化されたBz−Lys(Bz)−Val−Ala−Asn(Hex
5HexNAc
4)−Lys(Bz)−Thr−OHを作成し、それぞれ等量混ぜて質量分析計で測定し、positive mode,negative modeの両方で標識化の個数によるイオン化の比較を行った。
【0030】
この結果、負電荷ではBz標識はN末端のアミノ基だけでなく、側鎖のアミノ基にも標識されている方がイオン感度は向上している事が示された。正電荷では、プロトン付加イオンとして検出される場合は、イオン化の促進があるが、ナトリウム付加イオンとして検出される場合はイオン化の促進は起こらなかった。
【0031】
<実施例4>
ウシリボヌクレアーゼB由来糖ペプチド、ヒト免疫グロブリン由来糖ペプチドのN末端アミノ基のベンゾイル化
同じペプチド鎖に複数の異性体の糖鎖が結合しているウシリボヌクレアーゼB由来糖ペプチド、ヒト免疫グロブリン由来糖ペプチドを用いて同様にペプチド鎖のN末端のアミノ基にBz標識を行い、標識前の糖ペプチドと等量混ぜて質量分析計で測定し、positive mode,negative modeの両方で標識化によるイオン検出の比較を行った。
【0032】
この結果、糖ペプチドのペプチド鎖のN末端のアミノ基へのBz標識は、糖鎖の種類によらず、イオン感度を向上させる事が出来、また、ペプチド鎖の組成が異なる糖ペプチドにおいてもイオン化が向上する事が分かった。
【0033】
<実施例5>
ウシサイログロブリン糖ペプチドPhe−Asn(Hex
5HexNAc
4dHex
1SO
3)のN末端アミノ基のベンゾイル化
ウシサイログロブリン(500μg)を100mM炭酸水素アンモニウム水溶液(50μL)に溶かし、1.0%(w/v)RapiGest水溶液(5μL)、200mMジチオトレイトール水溶液(5μL)を加え、56℃で30分間加熱し、500mMヨードアセトアミド水溶液(5μL)を加え、室温で遮光条件下30分間静置する。この溶液にTPCK処理トリプシン(10mg/ml,2μL)を加え、37℃で2時間反応させる。反応溶液を85℃30分間、加熱する事により酵素を失活させ、G−25カラム(0.8×6cm,3mL)で過剰な試薬を除去し、濃縮する。次に、100mM炭酸水素アンモニウム水溶液(50μL)を加え、サーモリシン(1000U/μL,4μL)を加え、56℃で10時間反応させる。反応溶液を減圧濃縮し、100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)(50μL)に溶かし、シアリダーゼ(10U/mL,2μL)を加え、37℃で2時間反応させる。反応溶液を85℃15分間、加熱する事により酵素を失活させ、G−25カラム(0.8×6cm,3mL)で脱塩し、濃縮する。この試料に水(20μL)、DEAE−Sepharose(wet100μL)、エタノール(100μL)、n−ブタノール(400μL)の順番で加え、室温で1時間、撹拌する。その後、溶液をエンプティカラムに移してn−ブタノール:エタノール:水=4:1:1(v/v/v)(2mL)、エタノール:水=1:1(v/v)(2mL)で洗浄し、200mM炭酸水素アンモニウム水溶液(2mL)で硫酸化糖ペプチド画分を回収し、減圧濃縮した。これにDMF(5μL)を加え、60℃5分間、加熱し、200mM無水安息香酸−メタノール溶液(100μL)を加え、超音波洗浄機を用いて15分間室温で超音波しながら反応を行い、試薬を不活性化させ、エステル化反応を止める為、1M水酸化ナトリウム水溶液(5μL)、7Mアンモニウム水溶液(10μL)を加え、減圧濃縮を行った。この反応物を水(1mL)に溶かし、C18 Spinカラム(10mg)にロードし、水(2mL)で十分洗浄した後に、50%アセトニトリル水溶液(650μL)、80%アセトニトリル水溶液(650μL)で回収し、減圧濃縮を行った。
【0034】
この試料を水に溶かし、約1μMにしてMALDIターゲットプレート上に0.5μL添加し、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)溶液(10mg/ml of 50%アセトニトリル水溶液)(1μL)と混合し、乾固させた。島津製作所製MALDI−QIT−TOF MS装置(AXIMA−Resonance)を用いてnegative modeでMS測定を行った。
【0035】
MS測定では、Bz−Phe−Asn(Hex
5HexNAc
4dHex
1SO
3)のm/z(質量/電荷比)=2230.8の[M−H]
−イオンが検出できた。 さらに、その糖鎖構造の異なるBz−Phe−Asn(Hex
6HexNAc
5dHex
1SO
3)、Bz−Phe−Asn(Hex
7HexNAc
5dHex
1SO
3)、Bz−Phe−Asn(Hex
7HexNAc
6dHex
1SO
3)のm/z=2598.8、2758.0、2961.0の[M−H]
−イオンも検出できた (
図7) 。
【0036】
<比較例2>
DEAE−Sepharoseで分画した硫酸糖ペプチドを標識せずに質量分析計を用いて測定したが、硫酸化糖ペプチドは観測されなかった(
図9)。
【0037】
<実施例6>
ヒト黄体形成ホルモン(LH)糖ペプチドVal−Glu−Asn(Hex
4HexNAc
5SO
3)−His−ThrのN末端アミノ基のベンゾイル化
ヒト黄体形成ホルモン(LH)(15μg)を100mM炭酸水素アンモニウム水溶液(30μL)に溶かし、1.0%(w/v)RapiGest水溶液(3μL)、200mMジチオトレイトール水溶液(3μL)を加え、56℃で30分間加熱し、500mMヨードアセトアミド水溶液 (3μL)を加え、室温で遮光条件下30分間静置する。この溶液にTPCK処理トリプシン(10mg/ml,1μL)を加え、37℃で2時間反応させる。反応溶液を85℃30分間、加熱する事により酵素を失活させ、減圧濃縮する。次に、100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)(50μL)に溶かし、シアリダーゼ(10U/mL,2μL)を加え、37℃で2時間反応させる。反応溶液を85℃15分間、加熱する事により酵素を失活させ、G−25スピンカラム(600μL)で脱塩し、減圧濃縮する。次に、100mM炭酸水素アンモニウム水溶液(50μL)を加え、サーモリシン(1000U/μL,4μL)を加え、56℃で10時間反応させ、0.8%トリフルオロ酢酸水溶液(50μL)を加え、反応を停止させ、減圧濃縮した。これにDMF(5μL)を加え、60℃5分間、加熱し、200mM無水安息香酸−メタノール溶液(100μL)を加え、超音波洗浄機を用いて15分間室温で超音波しながら反応を行い、1M水酸化ナトリウム水溶液(5 μL)、7Mアンモニウム水溶液(10μL)を加え、減圧濃縮を行った。この試料を水(1000μL)に溶かし、活性炭カラム(50mg)にロードし、水(2mL)、0.1%トリフルオロ酢酸水溶液(2mL)、水(2mL)の順番で十分洗浄した後に、50%アセトニトリル水溶液(650μL)、80%アセトニトリル水溶液(650μL)で溶出し、減圧濃縮を行った。この試料に水(20μL)、DEAE−Sepharose(wet100μL)、エタノール(100μL)、n−ブタノール(400μL)の順番で加え、室温で1時間、撹拌する。その後、溶液をエンプティカラムに移してn−ブタノール:エタノール:水=4:1:1(v/v/v)(2mL)、エタノール:水=1:1(v/v)(2mL)で洗浄し、200mM炭酸水素アンモニウム水溶液(2mL)で硫酸化糖ペプチド画分を回収し、減圧濃縮した。
【0038】
この試料を水(20μL)に溶かし、MALDIターゲットプレート上に0.5μL添加し、DHBA溶液(10mg/ml of 50%アセトニトリル水溶液)(1μL)と混合し、乾固させた。島津製作所製MALDI−QIT−TOF MS装置(AXIMA−Resonance)を用いてnegative modeでMS測定を行った。
MS測定では、Bz−Val−Glu−Asn(Hex
4HexNAc
5SO
3)−His−Thrのm/z=2444.8の[M−H]
−イオンが検出できた。
【0039】
<実施例7>
ヒト前立腺特異抗原(PSA)糖ペプチドのN末端アミノ基のベンゾイル化
ヒト前立腺特異抗原(PSA)(1.3μg)を100mM炭酸水素アンモニウム水溶液(30μL)に溶かし、1.0%(w/v)RapiGest水溶液(3μL)を加え、56℃で30分間加熱する。この溶液にサーモリシン(1000U/μL,1μL)を加え、56℃で10時間反応させた。次に、14Mアンモニウム水溶液(22μL)を加え、O−メチルイソウレア塩酸塩水溶液(1mg/μL,12μL)を加え、65℃で30分間反応した。この反応液に10%トリフルオロ酢酸水溶液(120μL)を加え、減圧濃縮した。そして、0.8%トリフルオロ酢酸水溶液(100μL)を加え、90℃で30分間加熱する事により、脱シアリル化を行い、減圧濃縮した。これにDMF(5μL)を加え、60℃5分間、加熱し、200mM無水安息香酸−メタノール溶液(100μL)を加え、超音波洗浄機を用いて15分間室温で超音波しながら反応を行い、1M水酸化ナトリウム水溶液(5μL)、7Mアンモニウム水溶液(10μL)を加え、減圧濃縮を行った。この試料を水(1000μL)に溶かし、活性炭カラム(50mg)にロードし、水(2mL)、0.1%トリフルオロ酢酸水溶液(2mL)、水(2mL)の順番で十分洗浄した後に、50%アセトニトリル水溶液(650μL)、80%アセトニトリル水溶液(650μL)で溶出し、減圧濃縮を行った。この試料に水(20μL)、Sepharose(wet50μL)、エタノール(100μL)、n−ブタノール(400μL)の順番で加え、室温で1時間、撹拌する。その後、溶液をエンプティカラムに移してn−ブタノール:エタノール:水=4:1:1(v/v/v)(2mL)で洗浄し、エタノール:水=1:1(v/v)(2mL)で糖ペプチド画分を回収し、減圧濃縮した。
【0040】
この試料を水(10μL)に溶かし、MALDIターゲットプレート上に0.5μLを添加し、DHBA溶液(10mg/ml of 50%アセトニトリル水溶液)(1μL)と混合し、乾固させた。島津製作所製MALDI−QIT−TOF MS装置(AXIMA−Resonance)を用いてpositive,negative modeでMS測定を行った。
MS測定では、Bz−Ile−Arg−Asn(Hex
4HexNAc
5dHex
1SO
3)−Lys−Serのm/z=2651.1の[M−H]
−イオンとm/z=2652.8の[M+H]
+イオンが検出できた。
【0041】
<実施例8>
ヒト前立腺特異抗原(PSA)糖ペプチドBz−Ile−Arg−Asn(Hex
4HexNAc
5dHex
1SO
3)−Lys−SerのMS
n解析
島津製作所製MALDI−QIT−TOF MS装置(AXIMA−Resonance)を用いてpositive,negative modeでMS
n測定を行った。
【0042】
上記で得られたm/z=2652.8の[M+H]
+イオンをプリカーサーイオンとしてMS/MS(すなわちMS
2)測定を行った。 衝突誘起解離エネルギー(Collision−Induced Dissociation(CID))=100で測定すると、親イオン(プリカーサーイオン)から硫酸基が解離したイオンであるm/z=2572.8と糖の還元末端側のY
1切断を含むペプチド部分のイオンであるm/z=1112.4並びに糖の還元末端側の
0,2X
1切断を含むペプチド部分のイオンであるm/z=846.3が顕著に観測された。
【0043】
次に、上記で得られたm/z=2651.1の[M−H]
−イオンをプリカーサーイオンとしてMS
2測定並びにMS
3測定、MS
4測定を行った。CID=100で測定すると、糖の還元末端側の
0,2X
1切断を含むペプチド部分のイオンであるm/z=844.3と硫酸基を持つ糖鎖部分を示す
0,2A
6イオンであるm/z=1805.4が観測された。次に、m/z=1805.4のイオンを選択イオンとしてCID=150でMS
3測定を行った。すると、硫酸基を持つ糖鎖部分である
2,4A
6イオンであるm/z=1599.4と非還元末端側の硫酸基を持つB
2イオン(HexNAc
2+SO
3)であるm/z=485.3が観測された。これによって、Hex
4HexNAc
5dHex
1SO
3の糖鎖構造中の非還元末端側のLacdiNAc(GalNAcβ1−4GlcNAc)に硫酸基が結合している事が示された。さらに、m/z=485.3のイオンを選択イオンとしてCID=300でMS
4測定を行った。この測定から硫酸基を持つ
3,5A
2イオンであるm/z=356.0とB
1イオン(GalNAc+SO
3)であるm/z=281.9と
3,5A
1イオンであるm/z=152.9が検出された事によって、このLacdiNAcが1−4結合しているGalNAcβ1−4GlcNAcである事、非還元末端側のGalNAcの4位もしくは6位に硫酸基が結合している事が示され、これはKhooらによって報告されたメチル化した硫酸化糖鎖と同様のフラグメントパターンを示していた。(非特許文献9)
【0044】
本発明により十分なイオンが検出され、PSA上にこの硫酸化糖鎖が結合していることを初めて見出し、MS
n測定を行うことが可能になったので、硫酸基を持つ糖鎖構造を示すフラグメントイオンが観測され、その結合位置情報も入手できる事が示された。
【0045】
<実施例9>
酸性糖鎖を持つシアロ糖ペプチドのペプチド鎖の無水安息香酸によるN末端標識
卵黄由来糖ペプチド(Lys−Val−Ala−Asn(Hex
5HexNAc
4Neu5Ac
2)−Lys−Thr)のリジン(Lys)の側鎖アミノ基をBeardsley R. L.らの手法(非特許文献8)を改良した(反応停止を氷零下で酢酸を用いて行う)グアニジド化を行い、シアル酸の脱離を起こさずにペプチドのN末端に1個アミノ基を有する糖ペプチド(H−Homoarg−Val−Ala−Asn(Hex
5HexNAc
4Neu5Ac
2)−Homoarg−Thr−OH)を調製した。この糖ペプチドに無水安息香酸(Bz
2O)を用いて糖ペプチドのN末端のアミノ基のBz標識化を行い、質量分析計で測定した。
図20で示されるように、酸性糖鎖を持つ糖ペプチドにおいてもBz標識を行う事によってpositive mode,negative mode共に検出感度(ピーク強度、SN比)が向上している。
【0046】
<実施例10>
卵黄由来糖ペプチドBz−Homoarg−Val−Ala−Asn(Hex
5HexNAc
4Neu5Ac
2)−Homoarg−ThrのMS
n解析
島津製作所製MALDI−QIT−TOF MS装置(AXIMA−Resonance)を用いてnegative modeでMS
n測定を行った。
【0047】
上記で得られたm/z=3050.8の[M−H]
−イオンをプリカーサーイオンとしてMS/MS(すなわちMS
2)測定を行った。 衝突誘起解離エネルギー(Collision−Induced Dissociation(CID))=120で測定すると、親イオン(プリカーサーイオン)からシアル酸が1個、2個解離したイオンであるm/z=2759.8、2468.7と糖の還元末端側の
0,2X
1切断を含むペプチド部分のイオンであるm/z=929.4とシアル酸1個が脱離した糖鎖部分を示す
0,2A
7イオンであるm/z=1829.4が観測された。次に、m/z=1829.4のイオンを選択イオンとしてCID=150でMS
3測定を行った。すると、シアル酸1個を持つ糖鎖部分である
2,4A
7イオンであるm/z=1769.4と非還元末端側のシアル酸1個を持つB
3、B
6イオンであるm/z=655.1、1709.4が観測された。
【0048】
<実施例11>
安定同位体標識された安息香酸−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(d
5−BzOSu)の合成
重水素で標識された安息香酸(127mg,1.00mmol)とN−ヒドロキシコハク酸イミド(230mg,2.00mmol)、トリエチルアミン(167μl,1.20mmol)をジメチルアミドホルム(1mL)に溶かし、ジシクロヘキシルカルボジイミド(206mg,1.20mmol)を加え、室温で180分間反応させた。反応溶液をフィルター濾過した後に、濾液を減圧濃縮する。この残渣にイソプロパノール(5mL)を加え、加熱しながら溶かした後に冷やす事によって、目的物となる下記式(5)で表される安息香酸−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(d
5−BzOSu,以下d−BzOSuと記す)(184mg,82%)を得た。(TLC)Rf0.42[トルエン−酢酸エチル(10:1)]
【0049】
合成した安息香酸−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(d−BzOSu)の分析値を以下に示す。
1H−NMR(600MHz,CDCl
3):δ2.91(s,4H)
13C−NMR(125MHz,CDCl
3):δ25.63,124.88,128.31,130.13,134.38,161.82,169.24
【化4】
【0050】
<実施例12>
ヒトミエローマプラズマより産生されたヒトIgG1kappa,ヒトIgG1lambda,IgG2kappa,ヒトIgG2lambda(100μg)をそれぞれ100mM炭酸水素アンモニウム水溶液(200μL)に溶かし、1.0%(w/v)RapiGest水溶液(20μL)を加え、90℃で15分間加熱し、室温で30分間静置する。この溶液にシークエンスグレードのトリプシン(10μg)を加え、37℃で15時間反応させる。反応溶液を90℃30分間、加熱する事により酵素を失活させ、G−25カラム(0.8×6cm,3mL)で脱塩し、濃縮する。これに水(20μL)とピリジン(10μL)を加え、200mM安息香酸−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(d
0−BzOSu,h−BzOSu)、ジメチルホルムアミド溶液もしくは200mM重水素標識安息香酸−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(d−BzOSu)、ジメチルホルムアミド溶液(20μL)を加え、57℃で12時間反応を行い、0.5M水酸化ナトリウム水溶液(60μL)を加え、室温にて30分間撹拌した。その後、水(200μL)を加え、EtOAc(400μL)にて3回洗浄した後に減圧濃縮を行った。この反応物をG−25カラム(0.8×6cm,3mL)で脱塩し、C18 Spinカラム(10mg)にロードし、水(2mL)で十分洗浄した後に、25%アセトニトリル水溶液(650μL)、50%アセトニトリル水溶液 (650μL)で回収し、減圧濃縮を行った。この試料に水(20μL)、Sepharose4B(wet50μL)、エタノール(100μL)、n−ブタノール(400μL)の順番で加え、室温で1時間、撹拌する。その後、溶液をエンプティカラムに移してn−ブタノール:エタノール:水=8:2:1(v/v/v)(2mL)で洗浄し、エタノール:水=1:2(v/v)(2mL)で糖ペプチドを回収し、減圧濃縮した。
【0051】
この試料をそれぞれ水(20μL)に溶かし、そのままの標識体とh−BzOSuとd−BzOSuで標識した物の1:1の混合物、並びにIgG1kappaのh−Bz標識体とヒトIgG1lambdaのd−Bz標識体の1:1の混合物、IgG2kappaのh−Bz標識体とヒトIgG2lambdaのd−Bz標識体の1:1の混合物をMALDIターゲットプレート上に0.5μL添加し、DHBA溶液(10mg/ml of 50%アセトニトリル水溶液)(1μL)と混合し、乾固させた。島津製作所製MALDI−QIT−TOF MS装置(AXIMA−Resonance)を用いてpositive modeでMS測定を行った。
【0052】
MS測定では、IgG1kappaからは
図24、
図25で示されるように、Bz−Glu−Glu−Gln−Tyr−Asn−Ser−Thr−Tyr−ArgにHex
3HexNAc
4dHex
1,Hex
4HexNAc
4dHex
1,Hex
5HexNAc
4dHex
1,Hex
4HexNAc
5dHex
1の4種類の糖鎖が結合したm/z=hBz体2737.7(dBz体2742.71)、hBz体2899.74(dBz体2904.86)、hBz体3061.72(dBz体3066.74)、hBz体3102.86(dBz体3107.74)が検出され、lambdaからは
図26、
図27で示されるように、Bz−Glu−Glu−Gln−Tyr−Asn−Ser−Thr−Tyr−ArgにHex
4HexNAc
3dHex
1、Hex
3HexNAc
4dHex
1、Hex
4HexNAc
4、Hex
4HexNAc
4dHex
1、Hex
5HexNAc
4dHex
1の5種類の糖鎖が結合したm/z=hBz体2696.74(dBz体2701.66)、hBz体2737.7(dBz体2742.71)、hBz体2753.75(dBz体2758.74)、hBz体2899.74(dBz体2904.86)、hBz体3061.72(dBz体3066.74)が検出された。
【0053】
また、IgG2kappaからは
図30、
図31で示されるように、Bz−Glu−Glu−Gln−Phe−Asn−Ser−Thr−Phe−ArgにHex
3HexNAc
4,Hex
4HexNAc
4の2種類の糖鎖が結合したm/z=hBz体2559.63(dBz体2564.84)、hBz体2721.64(dBz体2726.72)が検出され、lambdaからは
図32、
図33で示されるように、Bz−Glu−Glu−Gln−Phe−Asn−Ser−Thr−Phe−ArgにHex
3HexNAc
3dHex
1,Hex
3HexNAc
4,Hex
4HexNAc
3dHex
1,Hex
3HexNAc
4dHex
1,Hex
4HexNAc
4,Hex
4HexNAc
4dHex
1,Hex
3HexNAc
5dHex
1,Hex
5HexNAc
4dHex
1,Hex
4HexNAc
5dHex
1の9種類の糖鎖が結合したm/z=hBz体2502.54(dBz体2507.58)、hBz体2559.63(dBz体2564.84)、hBz体2664.71(dBz体2669.72)、hBz体2705.77(dBz体2710.72)hBz体2721.64(dBz体2726.72)、hBz体2867.77(dBz体2872.72)、hBz体2908.8(dBz体2913.8)、hBz体3029.71(dBz体3034.77)、hBz体3070.75(dBz体3075.86)が検出された。
【0054】
また、h−BzOSuとd−BzOSuで標識した物の1:1の混合物からのスペクトルからそれぞれの糖鎖毎に分子量差5.03Daの等量のイオンペアが検出されているので、この標識方法が軽水素標識の物と重水素標識の物とで定量的に反応している事が示された。さらに、IgG1kappaのh−Bz標識体とヒトIgG1lambdaのd−Bz標識体の1:1の混合物のスペクトルから
図28、
図29で示されるように、およびIgG2kappaのh−Bz標識体とヒトIgG2lambdaのd−Bz標識体の1:1の混合物のスペクトルから
図34、
図35で示されるように、同じ量のIgG中での糖鎖の割合が違うのを定量的に示す事が出来た。