(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
連続炭化装置にて、550℃以上800℃以下の少なくとも一部の温度で、炭素質フィルムの原料である高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムを、炉内材を介して加熱しながら搬送し、
上記炉内材の熱輸送能力は、0.15W/K以上であり、
上記高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムの上部に配置される上部炉内材及び上記高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムの下部に配置される下部炉内材を介して、上記高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムを加熱しながら搬送するものであり、
上記上部炉内材および上記下部炉内材は、それぞれ、炭化ケイ素、シリコン含浸炭化ケイ素、ステンレス鋼(SUS)、およびこれらの複合材からなる群より選択される材料から構成される部材を含むことを特徴とする炭素質フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔実施の形態1〕
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」と同義である。
【0020】
本発明に係る炭素質フィルムの製造方法は、連続炭化装置にて、550℃以上800℃以下の少なくとも一部の温度で、炭素質フィルムの原料である高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルム(以下、「高分子フィルム等」と称する場合もある。)を、炉内材を介して加熱しながら搬送する工程を含む炭素質フィルムの製造方法であればよく、その他の具体的な構成、条件、材料等は特に限定されるものではない。
【0021】
本発明者らは、上記の構成の炭素質フィルムの製造方法によれば、炉内材を用いない場合に比べて、例えば、連続炭化装置の加熱処理装置(加熱炉)入口において、高分子フィルム等の急激な、かつムラのない均一な加熱を実現でき、高い熱拡散率を有するグラファイトフィルムの原料となる炭素質フィルムを得ることができることを見出した。特に、本発明の効果の実現には、供給される高分子フィルム等の熱容量及び熱分解に必要な熱量に見合うだけの熱輸送を行うことが好ましい。上述のように、炉内材を介して高分子フィルム等を加熱する工程は、特に連続炭化装置の加熱処理装置入口付近で行うことが好ましいが、本発明はこれに限定されることはなく、550℃〜800℃の間で熱処理する連続炭化工程のいずれかの段階で行う態様であってもよい。かかる態様であっても、所望の効果が達成できる。
【0022】
本発明において、「炉内材を介して、炭素質フィルムの原料である高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムを加熱しながら搬送する」とは、連続炭化装置の加熱処理装置に設けられる加熱部材(例えば、ヒーター)により、直接、高分子フィルム等を加熱するのではなく、上記加熱手段の熱エネルギーを、炉内材を介して高分子フィルム等に伝え、加熱することを意図する。上記炉内材が存在するため、直接ヒーター等で加熱する場合に比べて、高分子フィルム等を急激に加熱することができる。また、加熱も均一でムラのないものとなるため好ましい。
【0023】
例えば、以下の(a)〜(c)のいずれかの工程により、上記高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムを加熱しながら搬送することが好ましい:
(a)上記高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムの上部に配置される上部炉内材を介して加熱しながら搬送する、
(b)上記高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムの下部に配置される下部炉内材を介して加熱しながら搬送する、及び
(c)上記高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムの上部に配置される上部炉内材及び上記高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムの下部に配置される下部炉内材を介して加熱しながら搬送する。
【0024】
上記工程(a)〜(c)のなかでも、高分子フィルム等を加熱する際に、炉内材によりフィルムを両面から押し付けることができ、高分子フィルム等への熱輸送を効果的に行い得る点で工程(c)が最も好ましい。次いで円滑な搬送が可能となる工程(b)が好ましいが、工程(a)であっても本発明の効果を達成できる。
【0025】
「炉内材を介して、高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムを加熱(する)」の態様としては、上述の通り、連続炭化装置における加熱手段の熱エネルギーを、炉内材を介して、高分子フィルム等に熱輸送できるものであればよく、具体的な方法は限定されない。例えば、上記高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムと上記炉内材とを接触させながら搬送する方法を好ましい例として示す。
【0026】
ここで「接触」とは、炉内材と高分子フィルム等とが直接、接触していることを意図する。
【0027】
また、「炉内材」は、1つの部材からなるものであってもよいし、複数の部材からなるものであってもよい。例えば、後述する実施例に示すように、黒鉛等と高分子フィルム等との間に、潤滑シートが存在している場合は、黒鉛及び潤滑シートが炉内材となる。なお、潤滑シートは、熱伝導率が高い物質からなるものであることが好ましいが、炉内材を介しての熱輸送に支障をきたさないものであればよく限定されない。例えば、潤滑シートの厚みが十分に薄ければ、炉内材を介しての高分子フィルム等への熱輸送に影響がないため、潤滑シートは熱伝導率が高くなくても構わないといえる。
【0028】
また、炉内材として潤滑シートを備える場合、高分子フィルム等と炉内材との間に発生する摩擦を低減でき、炉内材と高分子フィルム等との直接の接触に起因する傷の発生を防止し、また円滑なフィルムの搬送が達成できる。なお、上記工程(c)を行う場合、上部炉内材及び下部炉内材のいずれか一方のみに、潤滑シートを設けてもよいし、上部炉内材及び下部炉内材の両方において、潤滑シートを設けてもよい。
【0029】
すなわち、炉内材は、変形防止、熱輸送能力、炉内材とフィルムの摩擦、及び/又は、フィルムの厚み方向への加圧の圧力の調整のために、形状及び/又は材質の異なるものを複合して用いてもよい。複合して用いる方法としては、並べたり、重ねたり、互いに勘合する形状としたり、張り合わせたり、コーティングしたり、含浸したり、混練したりすることによって一体化させる方法が挙げられる。
【0030】
本明細書において、「炉内材の熱輸送能力」は、以下の式で表される。
〔熱輸送能力(W/K)〕=〔熱伝導率(W/m・K)〕×〔厚み(m)〕
炉内材の熱輸送能力は、0.15W/K以上であることが好ましく、また0.18W/K以上であることが好ましく、0.35W/K以上であることがより好ましく、また0.38W/K以上であることがより好ましく、0.55W/K以上であることがさらに好ましく、また0.56W/K以上であることがさらに好ましく、0.75W/K以上であることが特に好ましく、また0.78W/K以上であることが特に好ましい。上記炉内材の熱輸送能力の上限値は特に限定されないが、例えば、500W/Kが好ましく、300W/Kがより好ましく、100W/Kとしてもよい。かかる値であれば、高分子フィルム等に対して、加熱部材の熱エネルギーを効率的に伝達できる。なお、炉内材が複数の部材からなるものである場合、各部材の熱輸送能力の合計が、炉内材の熱輸送能力となる。例えば、炉内材が黒鉛と潤滑シートとから構成される場合、炉内材の熱輸送能力は黒鉛の熱輸送能力と潤滑シートの熱輸送能力との合計値となる。
【0031】
上記炉内材の厚みは、特に限定されないが、0.01mm〜1000mmが好ましく、0.1mm〜100mmがより好ましく、0.5mm〜50mmがさらに好ましく、また1mm〜50mmがさらに好ましく、1mm〜20mmであることが特に好ましく、また3mm〜10mmであることが特に好ましい。特に、上部炉内材の厚みは、0.1mm〜20mmであることが好ましく、0.5mm〜10mmであることがより好ましく、0.8mm〜5mmであることがさらに好ましい。下部炉内材の厚みは、0.1mm〜30mmであることが好ましく、1mm〜20mmであることがより好ましく、5mm〜15mmであることがさらに好ましい。上記範囲内であれば、高分子フィルム等に対する炉内材を介してスムーズに熱輸送を行うことができ、また連続炭化装置での使用にも支障を生じない。
【0032】
上記炉内材の熱伝導率は、0.1W/m・K〜5500W/m・Kであることが好ましく、1.5W/m・K〜3000W/m・Kであることがより好ましく、また1.5W/mK〜1700W/mKであることがより好ましく、15W/m・K〜2500W/m・Kであることがさらに好ましく、また16W/mK〜420W/mKであることがさらに好ましく、50W/m・K〜2000W/m・Kであることが特に好ましく、また100W/mK〜200W/mKであることが特に好ましい。上記範囲内であれば、熱伝導率が十分に高いことから、炉内材の厚みを大きくしなくても、所定の熱輸送を達成できる。
【0033】
炉内材の材質は、上記の条件を満たすものであれば、特に限定されないが、高温においても劣化や変形の少なく、熱伝導率も高いものであることが好ましい。例えば、炭素材料、セラミックス、金属及びこれらの複合材からなる群より選択される材料から構成されるものであることが好ましい。炭素材料としては、例えば、等方性黒鉛、高配向グラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブなどを挙げることができる。また、金属としては、例えば、ステンレス鋼などの鉄合金、ニッケル合金、コバルト合金、プラチナ合金、チタン合金、モリブデン合金、タングステン合金などを挙げることができる。セラミックスとしては、炭化ケイ素(SiC)、シリコン含浸炭化ケイ素、炭化タングステン等の炭化物、シリカ、アルミナ、ジルコニア等の酸化物、窒化珪素、窒化ホウ素など窒化物、を挙げることができる。
【0034】
上記材質の炉内材を用いることで、熱処理中のフィルムの均熱化が図られ、所望の効果が高まる。また、黒鉛とセラミックスは熱膨張率が小さいために、加熱時に変形しにくく、本発明の効果を発揮するには適した材料である。さらに、機械的な加圧機構を作る場合は、材質の加工性が求められる場合があるが、その場合、黒鉛は加工性が非常に高いために好ましい。また、装置開口部から侵入する酸素、フィルムの熱分解ガス、又は部材に含まれる不純物との反応が考えられる場合は、耐酸化性に優れるという観点からSiCやアルミナなどのセラミックスが好ましい。黒鉛とセラミックスの利点をあわせ持つ材料としては、黒鉛材にSiCなどのセラミックスをコーティングした材料が特に好ましい。
【0035】
また、炉内材は、特にフィルム搬送の抵抗とならないように滑りがよいものであることが好ましい。
【0036】
以下、図面を用いて、本発明についてさらに詳説する。なお、図面中のx軸、y軸、z軸は、それぞれの図面における3次元空間の方向を規定している。本明細書において、フィルムのx軸方向における長さを「長さ」、y軸方向における長さを「幅」、z軸方向における長さを「厚み」とも称する。また、本明細書においては、x軸方向をフィルムの「長さ方向」、y軸方向をフィルムの「幅方向」、z軸方向をフィルムの「厚み方向」とも称する。さらに、x軸方向はフィルムの搬送方向でもある。
【0037】
<連続炭化装置>
連続炭化装置とは、一例として
図1に示す通り長尺の高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルム23を搬送する装置22と出入口を有する加熱処理装置21とを組み合わせて炭素質フィルム24を連続的に得られる装置である。ここでいう連続的とは、例えば、原料である高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムの、加熱処理装置21内への搬入中にも、得られる炭素質フィルムの、加熱処理装置21からの搬出を行いながら、原料を熱処理することを指す。また、連続炭化装置により炭素質フィルムを得る工程を連続炭化工程と呼ぶ。好ましくは、連続炭化工程においては、搬送を止めることなく高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムの熱処理が行われる。
【0038】
フィルムを搬送する装置として、巻き取り機及び/又は巻き出し機を加熱処理装置の前後に設置して、高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムを搬送してもよい。つまり、連続炭化装置は、例えば、巻き出し機及び/又は巻き取り機によって長尺の高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムを搬送し、当該高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムを加熱処理装置の内部へと搬入し、熱処理が施された炭素質フィルムを加熱処理装置の外部へと搬出する構成であってもよい。
【0039】
なお、本発明において、高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムを搬送しながら、当該高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムの厚み方向に圧力を加えてもよく、例えば、当該高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムの表面において、炉内材との間で、摩擦による張力が生じていてもよい。
【0040】
以上のように、連続炭化装置を用いた本発明は、特許文献1に記載の技術のようなバッチ方式の技術とは異なる。
【0041】
<高分子フィルム>
本発明に用いる高分子フィルムとしては、熱処理時のフィルムの強度や分解温度の観点から、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリパラフェニレンビニレン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスイミダゾール、ポリチアゾールのうちから選択された少なくとも一種類以上の高分子フィルムを例示できる。
【0042】
高分子フィルムとして特に好ましいのは、ポリイミドフィルムである。ポリイミドフィルムは、フィルム強度や熱分解温度、分子配向の目安となる複屈折の観点から他の有機材料を原料とする高分子フィルムよりも、炭化工程および黒鉛化工程によるグラファイトの層構造が発達し易いためである。
【0043】
本発明において高分子フィルムとは、上記の高分子フィルムを熱処理することで重量減少が始まっている、10%未満の重量減少率であるフィルムも含む。一方、高分子フィルムを熱処理し10%以上の重量減少を経たフィルムを炭素質フィルムと呼ぶ。また、本発明において得られる炭素質フィルムの原料となる炭素質フィルムを「原料炭素質フィルム」と呼ぶ。原料炭素質フィルムは、高分子フィルムに比べて、重量減少率が10%〜28%の状態まで熱処理された炭素質フィルムである。なお、原料炭素質フィルムの作製方法は、バッチ方式であっても連続生産方式であってもよく、特に限定されない。
【0044】
なお、本明細書において「高分子フィルム及び原料炭素質フィルム」とは、高分子フィルムの部分と原料炭素質フィルムの部分とが混在したフィルムである。
【0045】
本明細書においては、(i)高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルム、(ii)高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムを原料として得られた炭素質フィルムを総称して、単に「フィルム」と称する場合もある。
【0046】
本明細書において、「炭素質フィルムの製造方法」は、原料である高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムを熱処理し、当該原料である高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムに比べて10%以上の重量減少を経た炭素質フィルムを得ることを意味する。つまり、熱処理が施されていない高分子フィルムを原料とし、当該高分子フィルムを熱処理して10%以上の重量減少を経た炭素質フィルムを製造する方法が本発明に包含される。また、熱処理が施されていない高分子フィルムに比べて重量減少が始まっている高分子フィルム(換言すれば、熱処理が施されていない高分子フィルムに比べて10%未満の重量減少を経た高分子フィルム)を原料とし、当該高分子フィルムを熱処理して、当該高分子フィルムに比べて10%以上の重量減少を経た炭素質フィルムを製造する方法も本発明に包含される。さらに、熱処理が施されていない高分子フィルムに比べて10%〜28%の重量減少を経た炭素質フィルム(つまり原料炭素質フィルム)を原料とし、当該原料炭素質フィルムを熱処理してさらに10%以上の重量減少を経た炭素質フィルムを製造する方法も本発明に包含される。
【0047】
なお、原料炭素質フィルムの重量減少率は、以下のようにして求める。
【0048】
原料炭素質フィルムを重量が一定となる(重量減少が止まる)温度まで熱処理したときの重量減少率Aと、熱処理していない高分子フィルムを重量が一定となる(重量減少が止まる)温度まで熱処理したときの重量減少率Bとから計算して、原料炭素質フィルムの重量減少率を求める。
【0049】
重量が一定となる(重量減少が止まる)温度は、高分子フィルムの材料によって決まり、ポリイミドの場合、1400℃以上である。
【0050】
重量減少率Bは、高分子フィルムの材料によって決まる値であり、ポリイミドの場合、1400℃まで熱処理したとき、52%となる。
【0051】
<複屈折>
本発明において、高分子フィルムの複屈折について特に制限はない。しかし、複屈折が0.08以上であればフィルムの炭化、黒鉛化が進行し易くなるので、グラファイト層が発達したグラファイトフィルムが得られ易くなる。特に、本発明のように高分子フィルムの分子配向が乱れやすい連続炭化工程を実施する場合には複屈折が高い方が好ましい。高分子フィルムの複屈折は好ましくは0.08以上、より好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.12以上、特に好ましくは0.14以上である。なお、複屈折とはフィルム面内の任意方向の屈折率(TE)と厚み方向の屈折率(TM)との差(TE−TM)を意味する。
【0052】
<フィルムを搬送する装置>
本発明において、連続炭化装置でフィルムを搬送する方法としては、例えば、巻き取り機でフィルムを引っ張る方法、巻き出し機でフィルムを押し込む方法、搬送ベルトなどに沿わせてフィルムを運ぶ方法などが挙げられる。本発明においてはフィルムの強度や搬送時の制御の観点から巻き取り機でフィルムを引っ張る方法で、フィルムの張力や搬送速度を制御しながら熱処理を行なうことが好ましい。張力や搬送速度を制御するための調整装置として、
図1のような巻取り装置の回転軸にトルクを加える方法などが挙げられる。
【0053】
本発明の連続炭化工程では、フィルムに張力を加えてもよい。かかる場合、フィルムに加える引張り強さは0kgf/cm
2〜400kgf/cm
2、好ましくは5kgf/cm
2〜200kgf/cm
2、さらに好ましくは30kgf/cm
2〜70kgf/cm
2であるとよい。下限は特に設けないが、フィルムに張力を加えることは蛇行やシワの発生を抑制する上で有効である。一方400kgf/cm
2以下であると過剰張力によるフィルムの割れや延伸、張力によるシワの発生を抑えることができる。
【0054】
<加熱処理装置>
加熱処理装置とは、内部に加熱空間を有する装置である。加熱空間内は真空、若しくは窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることが好ましい。真空若しくは不活性ガス雰囲気の維持が好ましい温度は400℃〜1800℃、より好ましくは300℃〜1800℃である。熱処理中に炭素質フィルムが酸素と反応するため、より低温から雰囲気調整を行うことで安定性が増す。また1800℃以下であれば真空中、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気のいずれでも熱処理できるため好ましい。本発明の加熱空間の温度とは、その加熱空間を通過するフィルムがヒーターに最も近づいたときのフィルムの最高温度を意味する。
【0055】
加熱空間は、一つだけでも、複数設けてもよい。複数の加熱空間を設ける例としては
図2、
図3に示すように、複数の加熱空間(加熱空間1 33、加熱空間2 34、加熱空間3 35)による温度分布を作りフィルム37の熱分解を制御するもの、複数の加熱空間の間に冷却空間43を設けるもの等が挙げられる。
図3では、冷却空間を設定しない場合41と冷却空間を設定した場合42とが示されている。加熱空間を複数設ける場合は急激な熱分解によるフィルムのシワや割れを抑制するために、加熱空間通過前後でのフィルムの重量減少率が0%〜25%、好ましくは0.5%〜20%、より好ましくは1%〜15%、さらに好ましくは1.5%〜10%、最も好ましくは2%〜5%となるように加熱空間の数や温度設定を決定するとよい。重量減少率は小さいほど好ましく、特に25%以下になるようにするとフィルムの収縮を緩やかにできシワが発生しにくい。また重量減少率が0%であっても加熱によりフィルムが軟化しシワを軽減できる。具体的には、近接する加熱空間の温度差は0℃〜200℃、好ましくは3℃〜100℃、より好ましくは5℃〜50℃、さらに好ましくは10℃〜30℃であるとよい。近接する加熱空間の温度差が0℃であっても熱処理時間が延びることにより熱分解が進行しうる。また、温度差が200℃以下であれば、炭素質フィルムの一度に収縮する量を小さくできるのでシワが発生しにくい。ここで近接するとは、フィルムが複数の加熱空間内を移動する場合の通過する順が隣り合うことを指し、加熱空間間の距離が離れている場合や同じ加熱空間を2回通過させる場合も含む。
【0056】
加熱空間は、
図2に示すように空間を物理的に切り分けた加熱空間31であってもよく、空間を物理的に切り分けていない加熱空間32であってもよい(つまり、例えば複数の加熱空間が1つの炉体36に囲まれている構成であってもよい)。加熱空間31は、
図3の上段に示すように、物理的に切り分けられた各加熱空間33・34・35が連続して設けられている構成であってもよい。また、
図3の中段に示すように、各加熱空間33・34が間隔を離して設けられるものであってもよい。
【0057】
加熱空間通過前後でのフィルムの重量減少率は、出発原料である高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムの初期重量に対して、熱処理前後のフィルムの重量減少の割合を指し、以下の式で算出する。なお、フィルムが吸湿により重量増加しやすい場合は、加熱空間通過前に加熱などによる予備乾燥を行い、乾燥後の重量を用いて重量減少率を求めることが好ましい。
【0058】
重量減少率(%)=
(加熱空間の入口直前のフィルム重量−加熱空間の出口直後のフィルム重量)/(高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムの重量)×100
熱処理前のフィルムの重量は、熱処理前のフィルムを切り出して、電子天秤で測定する。
【0059】
熱処理後のフィルムの重量は、重量を測定した熱処理前のフィルムと同じサイズで、マジックで印を付けておき、熱処理後に該当部分を切り出して、電子天秤で測定する。
【0060】
各フィルムを適切な条件で水分を除去した後、フィルムの重量を測定する。ポリイミドの場合、熱処理前および熱処理後の両方のフィルムについて200℃で24時間保持し、取り出し5分以内のフィルムの重量を測定する。
【0061】
急激な温度変化を避けるために、加熱空間の入口と中央部、中央部と出口において、緩やかな温度勾配をつけることも可能である。ヒーターや断熱材の配置を工夫し、加熱空間の温度分布を制御することができる。また、フィルムの収縮ムラを軽減するためにフィルム幅方向に温度差を設けてもよい。
【0062】
本発明において一つの加熱空間の長さは、5cm以上、好ましくは10cm以上、さらに好ましくは20cm以上である。5cm以上であれば、通過するフィルムへ十分に熱履歴を加えることができる。
【0063】
<冷却空間>
冷却空間とは、加熱空間で加熱されたフィルムを冷却するための空間であり、使用する高分子フィルムのTgよりも低い温度に設定されていることが好ましい。冷却空間の温度とは、その冷却空間を通過するフィルムの最低温度を意味する。冷却空間を設ける場合の温度は、直前の加熱空間よりも低い温度であって、かつ550℃以下、好ましくは500℃以下、より好ましくは450℃以下、さらには300℃以下、特には100℃以下である。
【0064】
本発明の冷却空間には、
図1に示すように加熱処理装置21で熱処理して一度巻き取ったフィルムを再度加熱処理装置で熱処理する場合(再度の加熱処理装置での熱処理温度は同じ温度でも異なる温度でも構わない)、
図2のような複数の加熱処理装置(
図2上段:加熱空間1 33、加熱空間2 34、加熱空間3 35、
図2中段:加熱空間1 33、加熱空間2 34)を設置した場合の各加熱処理装置間の空間、加熱処理装置内でヒーター間隔が広くフィルム温度が低下した空間も含む。
【0065】
冷却空間で冷却された炭素質フィルムは加熱空間で加熱されている炭素質フィルムに比べて硬くなり、フィルムの熱分解も進行せず、低温であるため、ダンサーロールやニップロール等を用いたフィルム張力の調整やフィルム搬送速度の調整、フィルム状態のモニタによるフィードバック制御などフィルムの割れを防ぐ制御を行なえ得る。
【0066】
また冷却空間を設けた連続炭化工程によって得られる炭素質フィルムからは、熱拡散率の高いグラファイトフィルムが得られやすい。これは、冷却空間を設けたことによって、冷却空間での炭素質フィルムの分子配向が保たれたまま次に続く加熱空間での熱処理をおこなえることに起因しているものと推定される。
【0067】
本発明の冷却空間の長さは、5cm以上、好ましくは10cm以上、さらに好ましくは20cm以上である。5cm以上であれば、通過するフィルム全体を冷却することができる。
【0068】
<連続炭化工程を実施する温度>
連続炭化工程を実施する温度は300℃〜1800℃であり、より好ましくは550℃〜800℃であり、さらに好ましくは550℃〜800℃の少なくとも一部である。300℃以上で熱処理することで高分子フィルムの重量減少が始まり炭素質フィルムを得られる。550℃以上では重量減少が大きくより好ましい。また1800℃以下であるとフィルム強度が十分であるためフィルムが割れにくい。特に800℃以下であると、熱分解が完全には進行していないためにフィルムが割れにくく好ましい。
【0069】
<炉内材を介した高分子フィルム等の加熱及び搬送>
炉内材は、上記加熱空間に配置されるものであることが好ましい。以下、図面を用いて、高分子フィルム等を、炉内材を介して加熱しながら搬送する工程について、説明する。
図4〜
図8は、連続炭化工程時に、炉内材を介して、高分子フィルム等を加熱しながら搬送する工程の一例を示す図である。以下の説明では、便宜上、上部炉内材及び下部炉内材を用いる炭素質フィルムの製造方法を説明するが、炉内材は、上下いずれか一方のみであってもよい。また、以下では、炉内材とフィルムとが直接接触する態様について説明する。
【0070】
図4は、炉内材を介する加熱方法の一例を示しており、加熱処理装置21内において、下部炉内材51上でフィルム37が搬送され、フィルム37上部には、上部炉内材52が設けられている。なお、フィルム37は、例えば、巻き出し機71から加熱処理装置21の内部へと巻き出され、巻き取り機72によって加熱処理装置21の外部へと巻き取られる。矢印81はフィルム37が巻き取られる方向を示している。巻き出し機71及び巻き取り機72は、
図1に示すフィルムを搬送する装置22の一部として構成されていてもよい。
【0071】
上部炉内材52は、
図5に示すように、ベルトコンベア73によってフィルム37とともに搬送され、加熱処理装置21の出口側において矢印83の方向へと回収されてもよい。つまり、加熱処理装置21の出口側へと移動した上部炉内材52が回収されて、加熱処理装置21の入口側に配置されてもよい。上記構成によれば、上部炉内材52はフィルム37とともに搬送されるので、上部炉内材52とフィルム37との間の摩擦が小さくなり、フィルム37の割れを抑制できるという点で好ましい。矢印82はベルトコンベア73の回転方向を示している。なお、上記構成によれば、回収された上部炉内材52は、いったん温度が冷えている場合があるが、この場合、加熱処理装置21の入口側では、下部炉内材51により加熱される。
【0072】
また、
図7に示すように、加熱処理装置が複数の炉体36から構成される、複数の加熱空間を備えるものである場合、各炉体36から構成される加熱空間ごとに、上部炉内材52及び下部炉内材51が設けられていてもよい。かかる構成の場合、加熱空間内では、炉体36内において下部炉内材51と上部炉内材52とによりフィルム37を上下から挟みこみ、フィルム37は下部炉内材51と上部炉内材52との間を滑らせるように搬送される。上部炉内材52及び下部炉内材51は、各炉体36に固定されており、フィルム37の搬送に伴って移動しないように構成されている。また、下部炉内材51と上部炉内材52は、加熱空間内のフィルム37の通過範囲よりも広い範囲を覆うように構成されている。
【0073】
また、連続炭化装置の入口側、つまり加熱処理装置の入口側に、熱輸送能力の高い炉内材を配置することが好ましい。「加熱処理装置の入口側と」は、加熱処理装置における、フィルムの搬送方向の上流側の端部側とも換言できる。加熱空間が複数ある加熱処理装置の場合は、加熱処理装置の入口側に最も近い加熱空間における入口側を意図し、加熱空間の低温域ともいえる。
【0074】
例えば、
図7を用いて例示すると、図中、左側の炉体36が加熱処理装置の入口側となるため、左側の炉体36に熱輸送能力の高い炉内材を設けることになる。具体的には、例えば、左側の炉体36に、熱輸送能力の高い黒鉛や高配向性グラファイトから構成される炉内材を設け、フィルム搬送方向の下流の炉体36(
図7中、左から2番目や3番目の炉体)には、よりフィルム搬送方向の上流の炉体36に配される炉内材より、熱輸送能力の低い炉内材(例えば、SiCや石英等)を設ける態様を挙げることができる。
【0075】
このように、加熱処理装置の入口側の加熱空間に、他の加熱空間(例えば、フィルムの搬送方向の下流側の加熱空間)に比べて、より熱輸送能力の高い炉内材を配置することにより、フィルムの急激な加熱を実現できる。すなわち、連続炉の加熱処理装置内では、室温の高分子フィルムが供給されて入口側、特に連続炉の加熱空間の入口側の開口部付近では、炉内温度が下がってしまい、思い通りの熱履歴を与えられない。しかし、上記の構成であれば、連続炭化装置の加熱処理装置の入口側において、高い熱輸送を可能とする炉内材が設けられるため、フィルムの急激な加熱を実現できる。結果として、高い熱拡散率を有するグラファイトフィルムの原料となる炭素質フィルムを得ることができる。
【0076】
上部炉内材及び/又は下部炉内材は、
図7に示すように、加熱空間に固定化されていてもよいが、固定化されずフィルムの搬送とともに移動するように構成されていてもよい。なお、「固定化」とは、上部炉内材及び/又は下部炉内材が所定の加熱空間内にとどまるように構成されていることをいい、その具体的な手段は限定されない。例えば、下部炉内材は炉床として構成する態様を例示できる。また、上部炉内材は、フィルムの搬送に伴って所定の加熱空間から移動しないように、各加熱空間にストッパ等の停止部材が設けられ、上部炉内材の移動が抑制される態様を挙げることができる。
【0077】
図6はプレート78a又は78bとボルト77とを使用した炉内材を示している。例えば、
図6(a)において、(i)には2つのプレート78a・78aが記載されており、一方を上部炉内材、他方を下部炉内材として、2つのプレート78a・78aの間にフィルム(図示せず)を挟み込み、
図6(a)の(ii)に示すようにボルト77を用いて、2つのプレート78a・78aを固定することによってフィルムと炉内材とを接触させてもよい。また、
図6(b)の(i)に示すヒンジ付のプレート78bを用いる場合、L字のプレート78bの一方の辺を上部炉内材、他方の辺を下部炉内材として、プレート78bの間にフィルム(図示せず)を挟み込み、
図6(b)の(ii)に示すようにボルト77を用いてプレート78bを固定することによってフィルムと炉内材とを接触させる構成としてもよい。
【0078】
<フィルムの厚み方向への加圧>
一般的に高分子フィルム等に対して熱処理を行うと、軟化に伴うフィルム内の残存応力の緩和や加熱時の応力による延伸、熱分解に伴う収縮ムラなどにより、シワや割れの発生した炭素質フィルムが得られる。このため、高分子フィルム等を連続的に熱処理する際に、炉内材により、フィルムの厚み方向への加圧を行なうことで炭素質フィルムのシワを抑制してもよい。以下、フィルム厚み方向への加圧を、加圧とも呼ぶ。つまり、連続炭化装置にて、原料である高分子フィルム等を搬送しながら、当該高分子フィルム等の厚み方向に、炉内材により圧力を加え、炭素質フィルムを製造してもよい。
【0079】
<グラファイトフィルムの製造方法>
本発明には、上記炭素質フィルムの製造方法により得られた炭素質フィルムを2400℃以上の温度で熱処理することによって得られるグラファイトフィルムの製造方法も含まれる。本発明の炭素質フィルムの製造方法により得られた炭素質フィルムを用いてグラファイトフィルムを得る製造方法としては、当該炭素質フィルムに対して黒鉛化工程を実施する方法や、当該炭素質フィルムに対して、さらにバッチ方式での炭化工程(以下、バッチ炭化工程と呼ぶ)を追加的に実施した後に黒鉛化工程を実施する方法が挙げられる。また、黒鉛化工程の後に柔軟化工程を行なってもよい。
【0080】
バッチ炭化工程では、出発物質である高分子フィルムを減圧下もしくは不活性ガス中で熱処理して炭化させる。このバッチ炭化工程は通常1000℃程度の温度まで熱処理を行う。本発明に係る連続炭化工程での熱処理以降にもフィルムの重量減少が続く場合は追加でバッチ炭化工程を行い、より熱分解の進行した炭素質フィルムにしてもよい。この方法は、高分子フィルムの分子配向の乱れを制御して熱拡散率の高いグラファイトフィルムを得る場合に有効である。
【0081】
黒鉛化工程では、炭素質フィルムをさらに高温まで熱処理して黒鉛化フィルムを得る。黒鉛化工程は減圧下もしくは不活性ガス中で行われるが、アルゴンを不活性ガスとして用いることが最も適当であり、アルゴンに少量のヘリウムを加えるとさらに好ましい。特に2200℃以上の高温では黒鉛が昇華するため、不活性ガスによる加圧下での熱処理が適している。ここでいう不活性ガスによる加圧とは、連続炭化工程でのフィルムの厚み方向への加圧や柔軟化工程での物理的な圧縮と違い、ガスを過剰に導入し雰囲気を大気圧以上の圧力とすることである。黒鉛化工程の熱処理温度は、2400℃以上、より好ましくは2600℃以上、さらに好ましくは2800℃以上、特に好ましくは2900℃以上である。
【0082】
黒鉛化工程は、上述した連続炭化に係る炭素質フィルムの製造方法を実施した後、続けて行ってもよいし、炭素質フィルムを得て、いったん冷却した後、黒鉛化工程を単独で行ってもよい。また、連続炭化に係る炭素質フィルムの製造方法を実施した後、バッチ炭化工程を行う場合は、黒鉛化工程はバッチ炭化工程に続けて行っても、バッチ炭化工程後に冷却してその後に黒鉛化工程を単独で行っても構わない。
【0083】
柔軟化工程では、黒鉛化工程後のフィルムに柔軟性を与える。黒鉛化工程を経た後のフィルムは、グラファイト骨格を形成しないN
2、フィラー(リン酸系)などの内部ガス発生によってグラファイト層が持ち上げられた発泡状態にある。発泡状態にある黒鉛化フィルムの場合には、黒鉛化工程後に圧縮処理、圧延処理などのフィルムの厚み方向への圧縮を行ない、耐屈曲性を向上させることができる。
【0084】
例えば、連続炭化工程後のフィルムを室温(23℃)まで冷却し、内径100mmのロール状にして、
図9のようにフィルムの幅方向が垂直になるように炭素質フィルムの巻物61を炉床62にセットして2900℃まで2℃/minの昇温速度で黒鉛化工程を行う方法を例示できる。なお、
図9において矢印63は重力方向を表している。次いで、黒鉛化工程後のフィルムを室温(23℃)まで冷却し、室温(23℃)にて黒鉛化フィルムを10MPaの圧力で柔軟化工程を実施し、グラファイトフィルムを得ることができる。
【0085】
〔実施の形態2〕
本発明に係る炭素質フィルムの製造方法の他の実施形態を説明する。なお、本実施形態2では、上記実施形態1と異なる部分のみを記載し、特に記載のない事項については、上記実施形態1の記載と共通であるとして、その記載を援用する。
【0086】
本実施の形態に係る炭素質フィルムの製造方法は、上述した実施形態1で述べた炭素質フィルムの製造方法において、さらに連続炭化装置にて、550℃以上800℃以下の少なくとも一部の温度で、炭素質フィルムの原料である高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルム(以下、単に「高分子フィルム等」と称する場合もある。)を搬送しながら、当該高分子フィルム等の厚み方向に圧力を加えることを特徴とする炭素質フィルムの製造方法、及び、得られた炭素質フィルムを2400℃以上の温度で熱処理することによって得られるグラファイトフィルムの製造方法であることが好ましい。
【0087】
特に、上記高分子フィルム等には、上記高分子フィルム等を搬送する力と、上記高分子フィルム等を搬送する力とは逆の方向へ向かう力であって、上記高分子フィルム等に対してテンションを付与する力である、引張り強さと、上記高分子フィルム等を搬送する力とは逆の方向へ向かう力であって、上記高分子フィルム等の厚み方向への加圧による摩擦によって生じる力である、摩擦による張力と、が加わっており、上記高分子フィルム等を搬送する力は、上記引張り強さと上記摩擦による張力との合計よりも大きいことが好ましい。かかる方法によれば、シワが抑制された炭素質フィルムを得られる。
【0088】
<フィルムの厚み方向への加圧>
一般的に高分子フィルムに対して熱処理を行うと、軟化に伴うフィルム内の残存応力の緩和や加熱時の応力による延伸、熱分解に伴う収縮ムラなどにより、シワや割れの発生した炭素質フィルムが得られる(
図10のフィルム11参照)。
【0089】
本実施の形態では、高分子フィルム等を連続的に熱処理する際に、フィルムの厚み方向への加圧を行なうことで炭素質フィルムのシワを抑制する。以下、フィルム厚み方向への加圧を、加圧とも呼ぶ。つまり、本実施の形態では、連続炭化装置にて、原料である高分子フィルム等を搬送しながら、当該高分子フィルム等の厚み方向に圧力を加えることで、炭素質フィルムを製造する。
【0090】
高分子フィルム等を熱処理して炭素質フィルムとなった後に、さらに熱処理する場合にもフィルムの厚み方向への加圧を行なうことがシワを抑制した炭素質フィルムを得るために有効である。
【0091】
フィルムの厚み方向への加圧方法としては、重量物の荷重やプレス等機械的に押し付けるといったフィルムに垂直な方向の応力による方法、ガス等流体をフィルムへ吹き付ける方法等が挙げられる。特に重量物の荷重による加圧は圧力の大きさや範囲の調整、装置の簡便さの観点から好ましい。なお、本明細書において、これらの加圧方法を実施するための機構を加圧機構とも称する。
【0092】
図4〜
図6,
図11を用いて、連続炭化工程時にフィルムの厚み方向に加圧する方法の一例を説明する。
図4を用いて、重量物の荷重による加圧方法の一例を説明する。加熱処理装置21内において、炉床(下部炉内材)51上のフィルム37へ、重量物(上部炉内材)52により荷重が加えられている。なお、本実施形態では、下部炉内材を炉床とし、上部炉内材を重量物として説明する。
【0093】
重量物52は、
図5に示すように、ベルトコンベア73によってフィルム37とともに搬送され、加熱処理装置21の出口側において矢印83の方向へと回収されてもよい。つまり、加熱処理装置21の出口側へと移動した重量物52が回収されて、加熱処理装置21の入口側に配置されてもよい。上記構成によれば、重量物52はフィルム37とともに搬送されるので、重量物52とフィルム37との間の摩擦が小さくなり、フィルム37の割れを抑制できるという点で好ましい。矢印82はベルトコンベア73の回転方向を示している。
【0094】
図11は、流体76をフィルム37へ吹き付ける方法を示している。流体76は、フィルム37に対して吹き付ける方向を示すため、便宜的に矢印として表されている。流体による加圧方法は、フィルムの表面における摩擦が小さいため、フィルムの割れを抑制できるという点で好ましい。
【0095】
図6を用いて、プレート78a又は78bとボルト77とを使用する加圧方法を説明する。例えば、
図6(a)の(i)に示すプレート78aの間にフィルム(図示せず)を挟み込み、
図6(a)の(ii)に示すようにボルト77を用いてプレート78aを固定することによってフィルムに対して加圧してもよい。また、
図6(b)の(i)に示すヒンジ付のプレート78bの間にフィルム(図示せず)を挟み込み、
図6(b)の(ii)に示すようにボルト77を用いてプレート78bを固定することによってフィルムに対して加圧してもよい。
【0096】
加圧を実施する際は、フィルムを両面から押し付けることが効果的であり、その押し付ける部材の粗さや硬度といった表面性や形状によっても更にシワや割れを抑制できる。特にフィルム搬送の抵抗とならないように滑りが良いことが好ましい。押し付ける部材の材質としては高温においても劣化や変形の少ないものであれば、どのようなものでもよい。中でも、熱伝導率が高い材料が好ましく、黒鉛、セラミックス、金属及びその複合材などが適している。これらの材質を用いることで、熱処理中のフィルムの均熱化が図れ、シワの抑制効果が高まる。また、黒鉛とセラミックスは熱膨張率が小さいために、加熱時に変形しにくく、本実施形態の効果を発揮するには適した材料である。さらに、メカ的な加圧機構を作る場合は、材質の加工性が求められる場合があるが、その場合、黒鉛は加工性が非常に高いために好ましい。また、装置開口部から侵入する酸素やフィルムの熱分解ガス、部材に含まれる不純物との反応が考えられる場合は、耐酸化性に優れるという観点からSiCやアルミナなどのセラミックスが好ましい。黒鉛とセラミックスの利点をあわせ持つ材料としては、黒鉛材にSiCなどのセラミックスをコーティングした材料が特に好ましい。
【0097】
フィルムの厚み方向への加圧は熱分解による変形が起こる加熱空間内で行う。フィルムの厚み方向への加圧は、連続炭化工程の全温度域で行なっても構わないが、特に550℃〜800℃の少なくとも一部の温度で行い、550℃〜800℃の全範囲で行うことがより好ましい。なお、加圧をする温度はフィルムの重量減少の多い範囲を含むことが好ましい。
【0098】
フィルムの厚み方向への加圧の圧力の下限は0.1g/cm
2以上、好ましくは0.5g/cm
2以上、より好ましくは1g/cm
2以上、更に好ましくは2g/cm
2以上、特に好ましくは5g/cm
2以上である。柔軟なフィルムの場合は0.1g/cm
2程度の低い圧力でもシワ抑制の効果が現れるが、圧力が大きいほどシワ抑制の効果が大きい。加圧の圧力が大きいほどシワ抑制の効果は大きいので上限は制限されない。なお、フィルムの割れが発生する場合は20g/cm
2以下で行うことが好ましい。
【0099】
<摩擦による張力>
本実施形態において、フィルムの表面には、フィルム厚み方向への加圧によって摩擦が生じ得る。これに伴い、フィルムには、フィルム厚み方向への加圧による摩擦によって生じる力である、摩擦による張力(以下、摩擦による張力とも称する)が加わり得る。
【0100】
図12は、フィルムに加わる力を説明する模式図である。まず、例えばフィルムをx軸の方向へ搬送する場合、フィルムに対して当該方向へフィルムを搬送する力が加えられる。例えば、連続炭化装置が、フィルム37を搬送する装置として、巻き出し機71及び巻き取り機72を備えている場合、フィルム37を巻き取り機72によって矢印81の方向へ巻き取ることによって、フィルム37に対して搬送する力が加えられる。
【0101】
また、フィルムには、上記フィルムを搬送する力とは逆の方向へ向かう力であって、上記フィルムに対してテンションを付与する力も加えられる。上記フィルムを搬送する力とは逆の方向へ向かう力であって、上記フィルムに対してテンションを付与する力として、例えば、フィルム37を巻き取り機72によって矢印81の方向へ巻き取る場合、矢印85の方向へフィルム37を引張る力が加わる。当該引張る力は、上述の<フィルムを搬送する装置>における引張り強さに対応している。つまり、フィルムに対して引張り強さが加えられていることにより、フィルムのたるみ及びシワが抑制された状態が保たれる。
【0102】
さらに、フィルムには、上述のように摩擦による張力が加えられる。本明細書において、摩擦による張力は、上記フィルムを搬送する力とは逆の方向へ向かう力であって、上記フィルムの厚み方向への加圧による摩擦によって生じる力ともいえる。例えば、フィルム37と重量物52又は炉床51との間に摩擦が生じる。矢印86は、摩擦による張力が生じている様子を模式的に表している。なお、加圧機構として
図11に示す構成を使用する場合は、フィルムと流体との間に摩擦が生じ得る。
【0103】
図12において、矢印87はフィルム搬送に必要な力(フィルムを搬送する力)を表し、矢印88は上記引張り強さと上記摩擦による張力との合計を表している。ここで、上記フィルムを搬送する力が上記引張り強さと上記摩擦による張力との合計よりも大きいことによって、フィルムをx軸の矢印の方向へと搬送することができる。
【0104】
以下に、摩擦による張力の測定の手順を記載する。
図13は、摩擦による張力の測定方法を示す模式図である。
図13では、例として重量物52による加圧を行う場合の測定方法が示されているが、上述の<フィルムの厚み方向への加圧>に示す他の方法においても同様に測定することができる。
【0105】
まず、フィルム厚み方向への加圧が有る場合(さらに具体的には、550℃〜800℃の加熱空間において、フィルム厚み方向への加圧が有る場合)のフォースゲージの値を測定する。以下に、具体的な測定手順について説明する。フォースゲージとしては、株式会社イマダ製DS2−500Nを使用する。
【0106】
フィルム37に対して加圧及び熱処理を行っている間に、フィルム37の搬送を止める。そして、フィルムパスラインに沿って、加熱処理装置21へフィルム37が搬入される側において、加熱処理装置21の入口から、フィルム37が搬送される方向とは逆向きに20cm離れた地点Bと、加熱処理装置21からフィルム37が搬出される側において、加熱処理装置21の出口から、フィルム37が搬送される方向へと20cm離れた地点Aと、において、フィルムを長さ方向に対して垂直に切断する。つまり、
図13における距離a及び距離bはそれぞれ20cmである。加熱処理装置から20cm離れた地点での切断ができないほど装置間(加熱処理装置と巻き出し機及び/又は巻き取り機との間)の距離が短い場合は、フィルムを20cm巻き出してから切断する。
【0107】
当該フィルムの切断は、地点A、地点Bの順に行われ、フィルムの搬送停止から2〜4秒の間に行われる。フィルムの切断には例えばカッターを用いることができる。フィルムの長さ方向と、フィルムの切断面とがなす角度であって、z軸方向から見た2つの角度の両方が80°以上100°以下となるようにフィルムを切断する。
【0108】
次に、フィルムが搬入される側(地点B)においてフィルムの幅方向中央部にフォースゲージ79を固定する。フォースゲージ79の固定は、張力が均一になるように、フォースゲージ79の先端に設けられている連結部(例えば、フック)が粘着テープ80とフィルム37との間に配置された状態で、フィルム37の幅方向全体を横断するように粘着テープ80をフィルム37に対して貼り付けることによって行う。ここで、粘着テープ80のx軸方向の長さを50mmとする。粘着テープ80のy軸方向の長さは、フィルム幅と等しければよい。フォースゲージ79は先端に連結部(例えば、フック)を備えており、当該連結部が粘着テープ80によって全て覆われていればよい。フォースゲージの固定は、フィルムの搬送停止から6〜10秒の間に行われればよい。粘着テープとしては、寺岡製作所製P−カットテープNo.4140(幅50mm、厚み0.155mm、対ステンレス粘着力14.22N/25mm、引張強度97.7N/25mm)を使用することができる。
【0109】
そして、フィルム搬送方向と逆向き(すなわち、矢印89の方向)にフィルムパスラインに沿ってフォースゲージ79を引っ張り、ライン速度1.0m/minとなるように搬送した場合のフォースゲージの値を読む。
【0110】
以下に、ライン速度の測定方法について説明する。ライン速度は、ロータリーエンコーダ(OMRON製 E6C2−C型)を用いて測定する。具体的な測定方法について、以下に説明する。
【0111】
加熱処理装置から外へ引き出したフィルムの一端を手で引っ張って、フィルムを移動させる。上記加熱処理装置と巻き出し機との間には、フリーロールが配置されており、当該フリーロールは、回転可能に支持棒に取り付けられている。
【0112】
このとき、上記フリーロールとフィルムとが接触する状態にて、フィルムをフリーロールの上で移動させる。フリーロールとフィルムとは接触しているので、フリーロールとフィルムとの間には摩擦が生じ、フィルムが移動するに伴ってフリーロールが回転することになる。
【0113】
上述したフリーロールと接触する状態にて、回転可能なゴムローラが配置されており、当該ゴムローラは、エンコーダに連結されている。フリーロールとゴムローラとは接触しているので、フリーロールとゴムローラとの間には摩擦が生じ、フリーロールが回転するに伴ってゴムローラが回転することになる。
【0114】
つまり、フィルムが移動すればフリーロールが回転し、フリーロールが回転すればゴムローラが回転し、当該ゴムローラの回転(具体的には回転数)をエンコーダによって検出することになる。
【0115】
そして、当該ゴムローラの回転と、ゴムローラの円周と、フリーロールの円周と、から、フィルムの移動距離を算出することができる。そして、当該フィルムの移動距離と、当該移動にかかった時間とから、ライン速度を算出することができる。
【0116】
フォースゲージ79を引っ張る作業は、フィルムの搬送停止から13〜20秒の間に行う。ライン速度が安定した時点でのフォースゲージの値を読むために、フィルムの搬送停止から17秒後のフォースゲージの値を読む。
【0117】
次いで、フィルム厚み方向への加圧が無い場合(さらに具体的には、550℃〜800℃の加熱空間において、フィルム厚み方向への加圧が無い場合)のフォースゲージの値を測定する。以下に、具体的な測定手順について説明する。
【0118】
フォースゲージの固定を行うまでは、フィルム厚み方向への加圧が有る場合と同様に、加圧を行った状態で作業を進める。フォースゲージ固定後に加圧機構によるフィルム厚み方向への加圧を解除してからフォースゲージを引っ張る。
【0119】
なお、加圧の解除は550℃〜800℃の加熱空間に対してのみ行われる。つまり、加熱処理装置内に例えば500℃又は850℃の加熱空間が存在する場合は、500℃又は850℃の加熱空間では加圧が有る場合と加圧が無い場合とのどちらの測定においても加圧を行う、又はどちらの測定においても加圧を行わない。すなわち、上記フォースゲージを用いた測定において、500℃未満の温度、及び、800℃を超える温度においては、加圧の有無が同じ状態であればよい。これにより、加圧が有る場合の測定値と加圧が無い場合の測定値との差を求めることにより、550℃〜800℃の条件下のみでの摩擦による張力を求めることができる。
【0120】
「摩擦による張力」は、上述した「フィルム厚み方向への加圧が有る場合のフォースゲージの値」から「フィルム厚み方向への加圧が無い場合のフォースゲージの値」を引いた値を原料であるフィルムの断面積で割った値として規定することができる。
【0121】
また、摩擦の張力の算出において、フィルム厚み方向への加圧が有る場合のフォースゲージの値、及び、フィルム厚み方向への加圧が無い場合のフォースゲージの値としては、それぞれ3回ずつ測定を行い、これらの平均値を使用する。なお、各測定ごとにフィルムを取り換えて、測定を行う。
【0122】
フィルムの断面積は、フィルムの幅と厚みとの積として算出する。フィルムの厚みとしては、フィルムの幅方向を5分割するようにマイクロメーターによって等間隔に4点をとり、当該4点の厚みの平均値を用いる。フィルムの幅としては、フィルムの断面の上下2辺の長さの平均値を用いる。
【0123】
摩擦による張力は、フィルムの割れを抑えるという観点から、0kgf/cm
2以上420kgf/cm
2以下、好ましくは0.9kgf/cm
2以上210kgf/cm
2以下、より好ましくは4.5kgf/cm
2以上180kgf/cm
2以下、さらに好ましくは9kgf/cm
2以上90kgf/cm
2以下であるとよい。420kgf/cm
2以下であると、割れること無くフィルムを搬送可能である。摩擦による張力は、小さいほど、フィルムが割れにくく好ましい。さらに、摩擦による張力が小さいほど、引張り強さ調整の自由度が増し、よりシワの発生を抑制できる条件での熱処理を実施できる。
【0124】
フィルム厚み方向への加圧は、大きいほどシワ抑制の効果が大きいが、摩擦による張力も大きくなるので、摩擦係数を下げる工夫をこらすことが好ましい。摩擦係数を低減する方法としては、加圧機構とフィルムとの接触部の角を取る、接触面を磨く、接触面に対して化学処理を施す、接触面をコーティングする、などの表面加工を施す方法や、接触面に粉末をまいておく、接触面に滑りの良い層を導入する、などの第三成分を摺動材として設置する方法が挙げられる。摺動材の材質としては高温においても劣化の少ない炭素材料、セラミックス、金属及びその複合材などが適している。
【0125】
フィルムの割れを抑えるという観点から、引張り強さと摩擦による張力との合計は0.9kgf/cm
2以上420kgf/cm
2以下、好ましくは4.5kgf/cm
2以上220kgf/cm
2以下、より好ましくは18kgf/cm
2以上120kgf/cm
2以下、更に好ましくは30kgf/cm
2以上75kgf/cm
2以下であるとよい。0.9kgf/cm
2以上であると張力によりシワの発生を抑えることができる。また、蛇行が減り、より安定してフィルムを搬送可能である。一方420kgf/cm
2以下であると過剰張力によるフィルムの割れや延伸を防ぎながらフィルムを搬送可能である。
【0126】
本実施形態は、以下のように構成することも可能である。
【0127】
(ア)すなわち、本発明は、連続炭化装置にて、550℃以上800℃以下の少なくとも一部の温度で、炭素質フィルムの原料である高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムを搬送しながら、当該高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムの厚み方向に圧力を加えることを特徴とする炭素質フィルムの製造方法に関するものである。
【0128】
(イ)本発明は、上記高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムの厚み方向に加える圧力が0.1g/cm
2以上であることを特徴とする(ア)に記載の炭素質フィルムの製造方法に関するものであってもよい。
【0129】
(ウ)本発明は、上記高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムには、上記高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムを搬送する力と、上記高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムを搬送する力とは逆の方向へ向かう力であって、上記高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムに対してテンションを付与する力である引張り強さと、上記高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムを搬送する力とは逆の方向へ向かう力であって、上記高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムの厚み方向への加圧による摩擦によって生じる力である、摩擦による張力と、が加わっており、上記高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムを搬送する力は、上記引張り強さと上記摩擦による張力との合計よりも大きいことを特徴とする(イ)又は(ウ)に記載の炭素質フィルムの製造方法に関するものであってもよい。
【0130】
(エ)本発明は、上記引張り強さは、0kgf/cm
2以上400kgf/cm
2以下であることを特徴とする(ウ)に記載の炭素質フィルムの製造方法に関するものであってもよい。
【0131】
(オ)本発明は、上記摩擦による張力は、0.9kgf/cm
2以上420kgf/cm
2以下であることを特徴とする(ウ)又は(エ)に記載の炭素質フィルムの製造方法に関するものであってもよい。
【0132】
(カ)本発明は、上記引張り強さと上記摩擦による張力との合計が、0.9kgf/cm
2以上420kgf/cm
2以下であることを特徴とする(ウ)〜(オ)のいずれかに記載の炭素質フィルムの製造方法に関するものであってもよい。
【0133】
(キ)本発明は、上記高分子フィルム及び/又は原料炭素質フィルムの厚み方向に加える圧力が重量物の荷重による加圧であることを特徴とする(ア)〜(カ)のいずれかに記載の炭素質フィルムの製造方法に関するものであってもよい。
【0134】
(ク)本発明は、(ア)〜(キ)のいずれかに記載の製造方法により作製された炭素質フィルムを2400℃以上の温度で熱処理することを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法に関するものであってもよい。
【0135】
また、本実施形態は、以下のように構成することもできる。
【0136】
<1>連続炭化装置を用いた炭素質フィルムの製造方法であって、550℃以上800℃以下の少なくとも一部の温度で連続炭化装置内で高分子フィルム及び/又は炭素質フィルムの厚み方向に圧力を加えることを特徴とする炭素質フィルムの製造方法に関するものであってもよい。
【0137】
<2>上記高分子フィルム及び/又は炭素質フィルムの厚み方向に加える圧力が0.1g/cm
2以上であることを特徴とする<1>に記載の炭素質フィルムの製造方法に関するものであってもよい。
【0138】
<3>上記高分子フィルム及び/又は炭素質フィルムの厚み方向に加える圧力が重量物の荷重による加圧であることを特徴とする<1>又は<2>に記載の炭素質フィルムの製造方法に関するものであってもよい。
【0139】
<4><1>から<3>のいずれかに記載の製造方法により作製された炭素質フィルムを2400℃以上の温度で熱処理することを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法に関するものであってもよい。
【0140】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0141】
以下に実施例により発明の実施態様の一例を示すが、本発明はこれに限られるものではない。
【0142】
<高分子フィルムの作製方法>
[樹脂Aのフィルムの作製]
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下、ODAと記載)75モル%、p−フェニレンジアミン(以下、PDAと記載)25モル%からなるジアミンを溶解したジメチルフォルムアミド(以下、DMFと記載)溶液に、100モル%のピロメリット酸二無水物(以下、PMDAと記載)からなる酸二無水物を、ジアミンと当モル量となるように溶解してポリアミド酸を18.5wt%含む溶液を得た。この溶液を冷却しながら、ポリアミド酸に含まれるカルボン酸基に対して、1当量の無水酢酸、1当量のイソキノリン、およびDMFを含むイミド化触媒を添加し脱泡した。次にこの混合溶液を、乾燥後に所定の厚さになるようにアルミ箔上に塗布した。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブン、遠赤外線ヒーターを用いて乾燥した。
【0143】
出来上がり厚みが75μmの場合の乾燥条件を示す。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブンで120℃において240秒乾燥して、自己支持性を有するゲルフィルムにした。そのゲルフィルムをアルミ箔から引き剥がし、フレームに固定した。さらに、ゲルフィルムを、熱風オーブンにて120℃で30秒、275℃で40秒、400℃で43秒、450℃で50秒、および遠赤外線ヒーターにて460℃で23秒と段階的に加熱して乾燥した。その他の厚みに対しては、厚みに比例して焼成時間を調整した。例えば厚さ50μmのフィルムの場合には、75μmの場合よりも焼成時間を1/2に短く設定した。
【0144】
以上のようにして、樹脂Aのフィルム(複屈折0.14)を作製した。
【0145】
<加熱空間の温度測定>
加熱空間の温度は、φ0.5mmのシース型K熱電対(山里産業製)を使用して、加熱空間を通過するフィルムと熱電対を接触させ、フィルム実温度を測定した。加熱空間の温度は通過するフィルムがヒーターに最も近づいた位置で測定した。
【0146】
<引張り強さの測定>
フィルムを搬送する装置の巻き出し側と加熱処理装置の間にテンションピックアップを設置してフィードバック制御にて張力を調整しその値を測定した。
【0147】
<熱輸送能力>
以下の式より炉内材の熱輸送能力を算出した。潤滑シートをはさむ実施例では、当該潤滑シートの熱輸送能力も加算した。
〔熱輸送能力(W/K)〕=〔熱伝導率(W/m・K)〕×〔厚み(m)〕
<炉内材の熱伝導率>
試験片2枚を用い、京都電子工業(株)製ホットディスク法熱物性率測定装置TPA−501にて、炉内材の熱伝導率を測定した。
【0148】
<グラファイトフィルムの熱拡散率の測定>
グラファイトフィルムの面内方向の熱拡散率は、光交流法による熱拡散測定装置(アルバック理工(株)社製「LaserPit」)を用いて、グラファイトフィルムを4×40mmの形状に切り取ったサンプルを、23℃の雰囲気下、10Hzにて測定した。
【0149】
(実施例1)
厚み75μm、幅200mm、長さ300mの樹脂Aのフィルムの巻き物を、フィルムを搬送する装置の巻き出し側にセットし、加熱処理装置に連続的に移動させながら連続炭化工程を実施した。
【0150】
図8に示すような6つの加熱空間を持つ装置を用いて、
各加熱空間のMD方向の長さは50cm、TD方向の長さは300mmとし、各加熱空間を窒素で置換し窒素雰囲気流通下(2L/min)におき、設定温度はそれぞれ600℃、615℃、630℃、645℃、670℃、720℃に調整した。加熱空間の温度は、加熱空間入り口から25cm部分のヒーターとフィルムが最も近づいた位置が設定温度となるように、また加熱空間内の温度が均一となるように調節した。特に加熱空間の入り口から25cm部分でのフィルムの幅方向の温度は±1℃で一定となるようにした。各ヒーターの間にはMD方向に長さ50cmの間隔を設け冷却空間とし、近接する加熱空間の温度測定位置の中間点でのフィルム中央の温度を測定した。フィルムの搬送速度は、1.6m/minとなるように調整した。フィルムに対して引張り強さ10Nで張力を加えながらフィルムを搬送した。加熱空間内では炉内材でフィルムを上下から挟み込み、搬送した。なお、フィルムと潤滑シート(熱伝導率200W/m・K、厚み400μm)とが接触するように設けて、フィルムを滑らせるように搬送した。炉内材は加熱空間内のフィルム通過範囲よりも広い範囲を覆うようにした。
【0151】
次に、連続炭化工程後のフィルムを室温(23℃)まで冷却し、内径100mmのロール状にして、
図12のようにフィルムの幅方向が垂直になるように炭素質フィルムの巻物61を炉床62にセットして2900℃まで2℃/minの昇温速度で黒鉛化工程を行なった。
【0152】
次いで、黒鉛化工程後のフィルムを室温(23℃)まで冷却し、室温(23℃)にて黒鉛化フィルムを10MPaの圧力で柔軟化工程を実施し、グラファイトフィルムを得た。得られたグラファイトフィルムから3ヶ所抜き取り熱拡散率の評価を行なった。
【0153】
用いた炉内材の種類とグラファイトフィルムの熱拡散率を表1に示す。
【0154】
(実施例2〜実施例9)
表1に示した通りに炉内材を変更したこと以外は、実施例1と同様にグラファイトフィルムを作製し評価を行った。結果を表1に示す。
【0155】
(実施例10、実施例11、比較例1)
表1に示した通り、炉内材を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にグラファイトフィルムを作製し評価を行った。結果を表1に示す。
【0156】
(実施例12、実施例13)
表2に示した通り、2種類の上部炉内材を用いた。高分子フィルムは、
図8中の装置に示すように、加熱空間36a(加熱空間1)、加熱空間36b(加熱空間2)、加熱空間36c(加熱空間3)、加熱空間36d(加熱空間4)、加熱空間36e(加熱空間5)、加熱空間36f(加熱空間6)の順で通過させた。2種類の上部炉内材を用いたこと以外は、実施例1と同様に、グラファイトフィルムを作製し評価を行った。結果を表2に示す。
【0157】
(実施例14、実施例15)
用いる高分子フィルムを厚み50μmの樹脂Aのフィルムへ変更し、フィルム搬送速度を3.5m/minになるように調整した。また、炉内材を表3に示すように、変更した。それ以外は、実施例1と同様に、グラファイトフィルムを作製し評価を行った。結果を表3に示す。
【0158】
【表1】
【0159】
【表2】
【0160】
【表3】
【0161】
なお、表中に記載した炉内材の品名、メーカー、熱伝導率(W/m・K)は以下の通りである。
【0162】
【表4】
【0163】
<炉内材の効果>
実施例1〜実施例9と比較例1との比較より、炉内材が存在する場合、グラファイトフィルムの熱拡散率が大きく向上することがわかる。また、炉内材の熱輸送能力が大きいほど、グラファイトフィルムの熱拡散率が大きくなることがわかる。
【0164】
実施例1、実施例10、実施例11と比較例1との比較より、炉内材は上部又は下部の少なくとも一方に存在する場合に、グラファイトフィルムの熱拡散率が大きくなることが確認できる。さらに、上部炉内材と下部炉内材の両方が存在すると特に良いことがわかる。
【0165】
実施例3、実施例4、実施例12、実施例13から、高い熱輸送能力を持つ炉内材を加熱処理装置の入口側(加熱空間の低温域)で用いることにより、グラファイトフィルムの熱拡散率の向上に寄与することがわかる。
【0166】
実施例14、実施例15から、高分子フィルムの厚みが異なる場合でも、炉内材の熱輸送能力が大きいほどグラファイトフィルムの熱拡散率が大きくなることがわかる。