特許第6368516号(P6368516)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368516
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】ラマン分光測定法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
   G01N21/65
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-67870(P2014-67870)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-190836(P2015-190836A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(72)【発明者】
【氏名】竹井 弘之
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 康介
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/077756(WO,A1)
【文献】 特開2013−019747(JP,A)
【文献】 特開2012−101054(JP,A)
【文献】 特開昭60−086450(JP,A)
【文献】 特開2012−242167(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/025028(WO,A1)
【文献】 特開2012−198060(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/063535(WO,A1)
【文献】 特表平10−508699(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0086001(US,A1)
【文献】 LU,G. et al.,Nanoparticle-coated PDMS elastomers for enhancement of Raman scattering,Chem.Commun.,2011年,47,8560-8562
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/65
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方面側では平坦面で、他方面側では凹部が開口していて、少なくとも前記凹部の底面を形成する基板底面部分が弾性体で構成されている基板を用い、前記基板底面部分の前記一方面側に貴金属ナノ粒子が形成されたラマン分光基板を形成する工程と、
固体に吸着した被検体と前記貴金属ナノ粒子が対向するように前記ラマン分光基板を配置する工程と、
前記凹部内から前記基板底面部分に所定の圧力を加えることで前記基板底面部分を前記一方面側へ膨らませつつ、前記ラマン分光基板を前記固体に押し付けながら、又は、前記ラマン分光基板を前記固体に押し付けた後に表面ラマン増強分光測定を行う工程と
を行うことを特徴とするラマン分光測定法。
【請求項2】
前記基板底面部分の厚さを0.01mm〜0.5mmの範囲とすることを特徴とする請求項1に記載のラマン分光測定法。
【請求項3】
前記基板底面部分に前記凹部内から所定の圧力を加える手段として流体を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のラマン分光測定法。
【請求項4】
前記凹部に流体を導入するための流体導入管を前記ラマン分光基板に接続することを特徴とする請求項3に記載のラマン分光測定法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体表面及び固体表面に吸着した化学物質のin-situ分析(反応雰囲気下での分析、その場での分析)等に用いられるラマン分光測定法及びラマン分光測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
化学物質の同定に広く用いられている分析方法の一つとしてラマン分光法が挙げられる。収束されたレーザー光を光源として用いることにより微小領域の分析が可能であるが、散乱断面積、すなわち散乱光強度が極めて低いといった欠点を有する。そこで、貴金属ナノ粒子による表面増強ラマン効果(Surface Enhanced Raman Spectroscopy: SERS)を用いた測定方法が研究されている。
【0003】
測定に際して、上記貴金属ナノ粒子は、液体中に懸濁されていたり基板に吸着されていたりするのが一般的である。分析用基板に吸着された貴金属ナノ粒子を用いて、表面増強ラマン効果による測定を行う場合は、例えば、図7(a)に示されるように、基板52の表面に吸着された貴金属ナノ粒子51の領域に、測定対象となる分子53が懸濁された液体を滴下し、図7(c)に示されるように、分子53を貴金属ナノ粒子51上に乾固してから測定する。
【0004】
ここで、図7(b)は、図7(a)の50に示される領域を拡大したものであり、基板52の表面に貴金属ナノ粒子51が形成されている状態を示している。また、図7(d)に示されるように、測定対象の物質の粉末54を貴金属ナノ粒子51に接触させて測定する場合もある。
【0005】
一方、固体及び固体表面に吸着した物質の分子等の検体を測定する場合には、固体表面を削り、それを分析用基板上に形成された貴金属ナノ粒子上に散布して測定を行ったり、又は、貴金属ナノ粒子を固体表面の測定対象物質に散布して測定を行っていた。しかし、この方法では、貴金属ナノ粒子に接触しない検体が多く発生し、測定の精度が悪くなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】G. Lu et al. Nanoparticle-coated PDMS elastomers for enhancement of Raman scattering; Chem.Commun., 2011, 47, 8560-8562
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、検体が吸着している固体の表面を貴金属ナノ粒子が吸着された分析用基板に直接押し付けて測定する方法が考えられる。例えば、図8(a)のように、固体65の凹凸のある表面に検体64が吸着している場合に、貴金属ナノ粒子61が形成された基板60を用いて表面増強ラマン分光測定を行う場合、図8(b)のように固体65の表面を基板60に直接押し付けても、固体65の表面に凹凸が存在するため、測定対象の検体64の一部70が貴金属ナノ粒子61に接触するのみで、すべての検体64が接触できるわけではなく、極限られた検体からの信号しか増強されない。
【0008】
また、例え、固体66の表面が数10nmのスケールで平滑であっても、図7(c)に示されるように、基板60が傾いて押し付けられれば、図7(b)の場合と同じ問題が発生し、極限られた検体からの信号しか増強されない。
【0009】
上記のような方法は、簡便な測定方法であると言えず、定性的なデータを取得することは困難である。一方、非特許文献1に示されるように、チップ増強ラマン分光法(Tip-enhanced Raman Spectroscopy: TERS)においては、貴金属ナノ粒子が形成されたPDMS等の弾性体を固体表面に取り付けて、固体表面のサンプルと貴金属ナノ粒子を接触させることで、信号を得る方法も提案されている。しかし、チップ増強ラマン分光法では、ナノレベルの金属の探針を用いて測定するため、信号強度は、探針が押し付ける力に依存し、凹凸を有する表面に対しては圧力を一定にする必要があるが、それは困難である。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、凹凸を有する固体表面に吸着した物質のラマンスペクトルを定性的に測定することができるラマン分光測定法及びラマン分光測定器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、弾性体からなる基板の表面に貴金属ナノ粒子が形成されたラマン分光基板を用い、固体に吸着した被検体と前記貴金属ナノ粒子が対向するように前記ラマン分光基板を配置し、前記貴金属ナノ粒子が形成された領域全体に所定の圧力を加えて前記ラマン分光基板を前記固体に押し付けながら、又は、前記ラマン分光基板を前記固体に押し付けた後に表面ラマン増強分光測定を行うことを特徴とするラマン分光測定法である。
【0012】
また、請求項2記載の発明は、前記ラマン分光基板に所定の圧力を加える手段として流体を用いることを特徴とする請求項1に記載のラマン分光測定法である。
【0013】
また、請求項3記載の発明は、凹部を有する基体を備え、少なくとも前記基体の凹部に対応する領域は弾性体で構成されており、前記弾性体の表面には貴金属ナノ粒子が形成されていることを特徴とするラマン分光測定器である。
【0014】
また、請求項4記載の発明は、前記基体の凹部に流体を導入するための流体導入管を前記基体に接続したことを特徴とする請求項3に記載のラマン分光測定器である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、弾性体からなる基板の表面に貴金属ナノ粒子が形成されたラマン分光基板を用いており、貴金属ナノ粒子が形成された領域全体に所定の圧力を加えてラマン分光基板を固体に押し付けながら、又は、ラマン分光基板を固体に押し付けた後に表面ラマン増強分光測定を行っているので、固体表面に凹凸が存在し、その凹凸部分に被検体が吸着していたとしても、貴金属ナノ粒子を大半の被検体に接触させることができ、精度の良い表面増強ラマン分光測定が行うことができ、定性的な測定を行うことができる。
【0016】
また、ラマン分光法が広い分野で利用されるようになる。増強効果による信号強度の増大と、前処理を必要としない簡便な方法を組み合わせる利点が大きい。特に、野外での測定対象物に対しては、測定対象の表面から微量サンプルを剥離してラボに持ち帰る必要がなくなり、その場での測定が可能となる。その他、法医学、製造現場で利用することができる。また、農作物表面の農薬量も畑や果樹園で直接かつ簡便に測定することが可能になり、食の安全に貢献することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のラマン分光測定器の構造を示す平面図と断面図である。
図2】ラマン分光測定器の基本的な構造を用いてラマン分光測定を行った結果と、その基本的な構造を用いずにラマン分光測定を行った結果とを比較した図である。
図3図2で用いられたラマン分光測定状態を示す図である。
図4】ラマン分光測定器の製造方法を示す図である。
図5】ラマン分光測定器の基体に相当する部分の構造を示す図である。
図6】ラマン分光測定器の拡張された基体に相当する部分を示す図である。
図7】従来のラマン分光用基板を用いて、液体中に懸濁している分子、粉末を測定する状態を示す図である。
図8】従来のラマン分光用基板を用いて固体表面上に吸着した分子を分析する際に発生する問題を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。構造に関する図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0019】
本発明のラマン分光測定器の一例を図1に示す。図1(a)は、ラマン分光測定器10を上面から見た図であり、図1(b)は、図1(a)のA−A断面を示す。基部1上に平板状の基板2が形成されており、これにより、凹部3が形成される。基板2は、弾性体で構成されており、弾力性を有する。図1では、上面から見た全体形状は四角形状に形成されており、凹部は円形に形成されているが、一例を示したに過ぎず、形状はこれに限定されるものではない。
【0020】
また、基板2と基部1とは、異なる材料で構成されていても良いし、弾性体からなる同一の材料で構成されていても良い。凹部3に対応した領域Sの基板上には、金、銀、白金等の貴金属からなる貴金属ナノ粒子4が形成されている。凹部3は、図1(b)の矢印方向に、圧力が加えられるようになっている。その場合、凹部3に対応した領域Sの基板全体に圧力が加えられ、領域Sに相当する基板が外側に凸状に膨らむことにより、凹凸のある固体表面に吸着された被検体であっても接触させることができ、表面増強ラマン分光測定を精度良く行うことができる。
【0021】
したがって、図1において、弾性体からなる基板を有するのは、少なくとも領域Sの部分だけであっても良く、その場合、他の基部1や基板2から領域Sを除く部分は、非弾性体で構成しても良い。また、後述するように、基部1と基板2を同一の弾性材料で一体的に形成しても良く、あるいは、基部1と基板2を異なる材料で構成しても良い。
【0022】
貴金属ナノ粒子4は、ナノオーダーの粒径を有する貴金属からなる粒子であっても良いが、後述するように、ナノオーダーの粒径を有する誘電体の粒子上に貴金属を堆積した構造であっても良い。
【0023】
領域Sに対応する基板2の厚さは、高い柔軟性を確保するためには薄い方が望ましく、実際の作製では、0.01mm〜0.5mmの範囲で構成することができ、基板2の厚みと基部1の厚みとの合計は、1mm〜30mmの範囲で構成することができる。
【0024】
図2は、弾性体からなる基板上に貴金属ナノ粒子を形成した基板を用いて表面増強ラマン分光測定を行った結果と、貴金属ナノ粒子を形成した基板を用いないでラマン分光測定を行った結果との比較を示す。図2の縦軸はラマン信号強度を示し、横軸はラマンシフト(cm−1)を示す。
【0025】
具体的には、図2の信号Xは、以下のように測定した。図3(a)のように、弾性体であるポリジメチルシクロサン(PDMS)からなる基板2A上に貴金属ナノ粒子4を形成した分析用基板を作製する。また、スライドガラス30上にp−アミノチオフェノール(PATP)31を吸着させたものを用意する。貴金属ナノ粒子4がp−アミノチオフェノール31に対向するように基板2Aを配置し、基板2A全体をスライドガラス30に押し付けて表面増強ラマン分光によるラマンスペクトルを測定した。図3(a)の貴金属ナノ粒子4は、後述する図4(f)に示される構造のものを用い、基板2A全体を押し付ける際には、基板2A上に錘を載せて、基板2の貴金属ナノ粒子4が形成された領域又は基板2A全体に均等な圧力がかかるようにした。
【0026】
図2の信号Yは、図3(b)のように、貴金属ナノ粒子が形成された分析用基板を使用せずに、スライドガラス30上にp−アミノチオフェノール(PATP)31を吸着させた状態で、ラマン分光測定を行ったラマンスペクトルを示す。
【0027】
測定に際しては、基板2Aを加圧により測定対象物であるp−アミノチオフェノール31に接触させ、ラマン分光用の励起レーザーを接触部に収束させて照射させてラマン散乱光を測定する。スライドガラス30上のp−アミノチオフェノール31が基板2Aの表面に転写されるのであれば、加圧後に基板2Aを固体表面から離して、ラマン散乱光を測定しても良い。
【0028】
この結果からわかるように、図3(a)のような分析用基板を用いることで、弾性体からなる基板2A上に形成された貴金属ナノ粒子4を、ほとんどのp−アミノチオフェノール31に接触させることができ、定性的に測定することが可能になる。
【0029】
図4は、本発明のラマン分光測定器の製造方法を示す。実施例では、基板に用いる弾性体材料は、ポリジメチルシクロサン(PDMS)を用いたが、これに限定されるものではない。
【0030】
図4(a)に示すように、スピンコーター23上にガラス基板20を配置し、ガラス基板20上にアルミフォイル21を配置する。重合剤を加えたジメチルシクロサン22aをアルミフォイル21上に滴下し、スピンコーター23を用い、例えば1000rpmで30秒間回転させ、図4(b)のように、PDMS薄膜22bを形成する。
【0031】
PDMS薄膜22bが完全に硬化する前に、同じくPDMSで形成され、貫通孔を有する基部24をPDMS薄膜22bに押し付けることにより、凹部を有する積層体を形成する(図4(c))。次に、前記積層体を塩酸(6M)に浸漬させてアルミフォイル21を溶かすことにより、PDMS材料で一体化された基体25を基板から剥離させる(図4(d))。
【0032】
さらに、基体25を3−アミノプロピルトリメトキシシラン溶液に10分間浸漬し、乾燥後に、図4(e)に示すように、粒径100nmのシリカナノ粒子5を基体25のA1の領域に添加して吸着させる。なお、図4(f)は、図4(e)のA1の領域を拡大したものであり、A1の領域に形成された貴金属ナノ粒子の構造を示す。
【0033】
最後に、シリカナノ粒子5に対して、真空蒸着やスパッタリング等の手法により貴金属6を厚さ10〜100nmで被覆させることにより、貴金属ナノ粒子15を形成させる。これにより、図1の構造に相当するラマン分光測定器が完成する。
【0034】
なお、上記の製造方法では、図4(c)において、基部24と薄膜22bを同じ弾性体材料で形成し、一体化した構造としているが、基部24と薄膜22bとを異なる材料で構成しても良い。例えば、薄膜22bはPDMSで形成し、基部24をプラスチックで構成しても良い。このように、基部24は非弾性体であっても良く、他にも様々な材料が考えられるが、本製造方法において、アルミフォイルを溶かすために酸を用いるので、酸に反応しない材料が望ましい。
【0035】
また、A1の領域に形成される貴金属ナノ粒子は、図4(f)のように、シリカナノ粒子5上に貴金属6を帽子状に被覆した構造のものが示されているが、基体25にシリカナノ粒子を吸着させるのではなく、貴金属で構成されたナノ粒子そのものを吸着させて用いるようにしても良い。
【0036】
次に、実際に作製したラマン分光測定器の基礎となる構造体の画像データを図5に示す。図5の250は、図4の基体25の基礎となるPDMS構造体を示す。図5(b)は、上面から見た図であり、図5(c)は下面から見た図である。図5(c)のB―B断面を模式的に表したのが図5(a)である。図5では、図4の基体25を4個一度に作製した状態を表している。すなわち、図5(b)又は(c)に示された構造体250を4分割すれば、図4の基体25を作製することができる。
【0037】
図5(a)では、構造体250の断面図が示されているが、凹部の領域の構造体250の厚さD1は0.01mm〜0.5mm範囲で、厚さD2は1mm〜30mmの範囲で作製することができる。
【0038】
図6は、基体25の背面から加圧するために、さらに構成を付加したラマン分光測定器の基礎となる構造物を示し、加圧した際に生じる薄膜部位の構造変化を示す。図6(a)は、加圧用の中空チューブ41と基体25を開口部を有する台座40を挟んで固定した状態を示す。図6(b)は加圧前の状態を、図6(c)は加圧後の状態を示す。
【0039】
また、図6(d)、(e)は、図6(a)の模式的な断面を示しており、図6(d)は図6(b)に対応した断面図であり、図6(e)は図6(c)に対応した断面図である。中空チューブ41は、加圧用の流体(気体又は液体)の導入管の役割を果たしており、図6(d)では、加圧されていないので、基体25の中央部は平坦な状態のままである。しかし、中空チューブ41に気体又は液体による流体が導入されると、図6(e)のように、矢印方向に圧力が加わるので、弾性体で構成された基体25の中央部は、外側に膨らんでいる。図6の構造物をラマン分光測定器とするには、基体25の凹部に対応する領域の表面に貴金属ナノ粒子を形成すれば良い。
【0040】
流体を用い、基体25の凹部を加圧する手段として、気体による加圧の場合にはエアーコンプレッサー等を中空チューブ41に接続して用いれば良く、液体による加圧の場合には油圧ポンプ等を中空チューブ41に接続して用いれば良い。
【0041】
測定に際しては、基体25を加圧により測定対象物である固体上の被検体に接触させ、ラマン分光用の励起レーザーを接触部に収束させて照射させて表面増強によるラマン散乱光を測定する。また、固体表面上の測定対象物が基体25の表面に転写されるのであれば、加圧後に基体25を固体表面から離して、表面増強ラマン散乱光を測定しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のラマン分光測定器及びラマン分光測定法は、固体表面及び固体表面に吸着した化学物質のin-situ分析(反応雰囲気下での分析、その場での分析)、廃棄物処理、大気汚染物のモニタリング、残留農薬検出等に適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 基部
2 基板
2A 基板
3 凹部
4 貴金属ナノ粒子
25 基体
30 スライドガラス
31 p−アミノチオフェノール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8