【実施例1】
【0011】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお本発明の説明の順番であるが、その前提として一般的なモータ制御システムの構成と、このモータ制御システムの消費エネルギーの問題について明らかにしておく。その後、本発明の具体的な説明をする。
【0012】
<全体構成の説明>
図1は、本実施例におけるモータ制御装置の構成図の例である。モータ制御装置1は、大きく分け、交流電力を出力する電力変換回路5と、その電力変換回路5によって駆動されるモータ(電動機)6と、モータ6に機械的あるいは磁気的に接続されている機構部500と、モータ6に流れる電流、またはモータ6の位置あるいは速度を直接的あるいは間接的に検出しモータ6へ印加する電圧指令値を演算する制御部2、等から構成される。
【0013】
この図に示されているように、モータ制御システムでは、モータ制御装置1が与える交流の電圧または電流により、電動機6を所望の速度やトルクに制御し、電動機6に結合された負荷9を駆動する。
【0014】
この場合、駆動される側の電動機6としては種々のものが適用可能である。本発明は電動機6の動作原理を限定するものではないが、以下の説明では、電動機6は回転子に永久磁石を有する永久磁石同期モータを用いた例で行うものとする。
【0015】
次に、負荷9も含めたこれらの主要機能の構成と動作について説明する。
【0016】
<電力変換回路の説明>
図4は、電力変換回路の構成図の例である。電力変換回路5は、インバータ21、直流電圧源20、ゲートドライバ回路23によって構成される。インバータ21は、スイッチング素子22(例えば、IGBT、MOS−FETなどの半導体スイッチング素子)によって構成される。これらのスイッチング素子22は直列に接続され、U相、V相、W相の上下アームを構成している。各相の上下アームの接続点は、モータ6へ配線されている。スイッチング素子22は、制御部2で生成されるドライブ信号を基にゲートドライバ回路23が出力するパルス状のゲート信号(24a〜24f)に応じてスイッチング動作をする。直流電圧源20をスイッチングして電圧を出力することで、任意の周波数の3相交流電圧をモータ6に印加することができ、これによってモータを可変速駆動する。
【0017】
なお、制御部2で生成されるドライブ信号と、ゲートドライバ回路23によって生成(増幅)されるゲート信号は、信号の電圧レベル(例えば、5Vと15V)等が異なるため、両者は異なる信号である。しかし、本発明においてはゲートドライバ回路23を理想回路として扱ったとしても、本発明の目的や効果には全く影響が無いため、以降に出てくるドライブ信号とゲート信号は、特に断りが無い限り本実施例では同じ意味として扱う。
【0018】
電力変換回路5の直流側にシャント抵抗25を付加した場合、過大な電流が流れた際にスイッチング素子22を保護するための過電流保護回路や、後述するシングルシャント電流検出方式などに利用できる。これにより、安全性向上や部品点数削減といった効果が得られる。
【0019】
<圧縮機構部の説明>
本発明では、電動機や負荷などの機械部分を含めたシステムとしての消費エネルギーの問題を解消するものであり、そのために負荷に関する具体的な課題を明確にしておく。ここでは、負荷9として、圧縮機構を用いた場合について、説明する。
【0020】
図5に示すように、機構部(圧縮機構部)500は、モータ6を動力源としてピストン501を駆動している。これにより、圧縮動作を行う。モータ6のシャフト502に、クランクシャフト503が接続され、モータ6の回転運動を直線運動に変換している。モータ6の回転に応じて、ピストン501も動作し、吸込み、圧縮、吐出、といった一連の工程を行う。モータ6とピストン501の間の動力伝達は、
図5の様に機械的に接続するのが多いが,潤滑油の給油の構成や、圧縮あるいは搬送対象(例えば有害ガス)によっては、磁気的に接続された機構を含むことで、安全性やメンテナンス性を上げられるという効果がある。
【0021】
圧縮機構の工程は、まずシリンダ504に設けられた吸込み口505から冷媒を吸い込む。その後、弁506を閉じて圧縮を行い、吐出口507から圧縮した冷媒を吐出する。
【0022】
一連の工程において、ピストン501にかかる圧力が変化する。これは、ピストンを駆動するモータ6から見ると、周期的に負荷トルクが変化していることを意味する。
図6は、機械角1回転における、回転子の回転角度位置θdに対する負荷トルクの変化の例を示している。
図6では、モータ6として4極モータの例を示しているため、電気角2周期が機械角1周期に相当する。例えば、モータ6が6極の場合は、電気角3周期が機械角1周期に相当する。回転子の位置とピストンとの位置関係は組み付けによって決まるが、
図6ではピストンの下死点が機械角の0°として、ピストン位置に対する負荷トルクの変化を示している。圧縮工程が進むにつれ負荷トルクが大きくなり、吐出工程では、急激に負荷トルクが小さくなるのが特徴的である。
図6から、1回転中において負荷トルクが変動している事が分かる。回転する度に負荷トルクが変動するため、モータ6から見ると周期的に負荷トルクが変動していることになる。
【0023】
たとえ同じ圧縮機構部500を用いても、モータ6の回転数、吸込み口505や吐出口507の圧力、吸込み口505と吐出口507の圧力差などによって、負荷トルクの変動は変化する。弁506の開閉タイミングとピストンの位置の関係は、弁506の構成によって変わる。例えば、吸い込み口505と施リンダ504内の圧力差で作動する簡易的な弁を使用した場合には、圧力条件によって弁の開閉タイミングが変わる。すなわち、負荷トルクが一回転中で最大となるピストン位置も変化する。
【0024】
<システムの消費エネルギーの問題>
図6の回転角度位置(機械角)に対する負荷トルクの波形は、電力変換回路が出力する電圧振幅と略等価である。電圧振幅は、そのまま電力変換回路のスイッチング素子のスイッチングデューティ(各相の上下アームのオンオフ比率)に比例となる。つまり、一回転中で、スイッチングデューティが大きく変わる。
【0025】
電力変換回路のスイッチング素子は、通電時の損失(導通損)だけでなく、スイッチングする度に発生する損失(スイッチング損)がある。導通損は、スイッチング素子の特性の依存性が高い。スイッチング損もスイッチング素子の特性に依存するが、ドライブ信号の生成方法を変更することにより、損失を減らせる可能性がある。
【0026】
つまり、制御部2の構成によっては、モータ制御システムの消費エネルギーが大きく変わる場合がある。言い換えると、制御部2の構成を工夫することにより、システムの消費エネルギー削減を達成することが可能である。
【0027】
したがって、本発明の目的の一つは、モータに接続される負荷が、回転角度位置に応じて、あるいは周期的に変動する成分を有する場合においてもシステムの高効率化が可能なモータ制御装置を提供することである。
【0028】
本実施例では、圧縮機構部500のピストン501は、直線的に動くレシプロ式を例に説明しているが、圧縮機構の別な方式として、ピストンが回転することで圧縮するロータリー式や、渦巻状の旋回翼からなるスクロール式などがある。それぞれの圧縮方式によって周期的な負荷変動の特性は異なるものの、いずれの圧縮方式においても圧縮工程に起因する負荷変動がある。圧縮機だけでなく、ポンプ等の産業機器を駆動するモータ制御システムの負荷も回転角度位置に応じた周期的に変動する成分を有する。これらの負荷トルク変動特性はそれぞれ異なるが、後述する手段を備えるモータ制御装置は圧縮機構が異なる場合にも同様に適用でき、いずれにおいても本発明の目的を達成可能である。
【0029】
本発明の目的を達成するため、モータに接続される負荷が、回転角度に応じた位置依存性、あるいは周期性を有する場合においても装置の高効率化が可能なモータ制御装置を提供する。本発明では、電力変換回路の通電方式を120度通電方式と180度通電方式とを切り替える手段と、機構部あるいはモータの負荷を検出あるいは推定する手段とを備えることにより、目的を達成する。
【0030】
<通電方式(120度通電方式)の説明>
次に、本発明で重要となる電力変換回路5をスイッチング動作させるためのドライブ信号の生成方法について、通電方式と共に説明する。
【0031】
PWM信号作成器33は、通電方式切替指令に応じて、120度通電方式あるいは180度通電方式を選択すると共に、入力された電圧指令値に応じたドライブ信号を生成する。なお、通電方式切替指令と電圧指令値の作成については、後述する。
【0032】
120度通電方式は、電力変換回路5の3相の上下アームの内、2相に対してスイッチング動作をさせる。すなわち、電圧を印加しない非通電相(開放相)を設ける。ある1相に注目すると、電気角で180度毎の位相の内、120度の期間スイッチングをするため、120度通電方式と呼ぶ。モータに印加される電圧の波形から、方形波駆動とも呼ぶ。120度通電方式で駆動されたモータには台形波状の電流が流れる。
【0033】
120度通電方式にもスイッチングさせる方法はいくつか方式がある。例えば、
図7に示した方式の内、いずれかを用いればよい。
図7は電気角1周期における上下アームのドライブ信号を概念的に示している。図中のGpは上アームのドライブ信号、Gnは下アームのドライブ信号を意味している。
【0034】
モータに印加する電圧を大きくするため、通電する位相を150度程度まで増加させる方法もある。この方式も本発明では120度通電と呼ぶ。
【0035】
<通電方式(180度通電方式)の説明>
180度通電方式は、基本的に電力変換回路5の3相の上下アームを全てスイッチング動作させる。
図21に標準的な三角波比較方式によるドライブ信号の生成方法を示す。
図21は、電気角360度における電圧指令値と、ドライブ信号を生成するための三角波キャリア信号を示している。両者を比較し、大小関係により図中のように上アームのドライブ信号Gpおよび下アームのドライブ信号Gnを生成する。
【0036】
180度通電方式は、電気角一周期にわたり上下アーム共スイッチングを行うため、180度通電と呼ぶ。この方式は、モータに正弦波上の電圧が印加されることから、正弦波駆動とも呼ぶ。180度通電方式で駆動されたモータには正弦波状の電流が流れる。
【0037】
ゲートドライバ回路23やスイッチング素子自体の遅れに起因して、上下アームのスイッチング素子が短絡する恐れがあるため、実際には上下アームの両方がスイッチングオフとなるデッドタイム(数マイクロ秒〜十数マイクロ秒程度)を付加して最終的なドライブ信号とする。しかしながら、デッドタイムに関しては本発明の目的や効果には全く影響が無いため、本実施例においては理想的なドライブ信号を示している。もちろん、デッドタイムを付加した構成としても問題は無い。
【0038】
電力変換回路5の直流電圧源20を最大限に利用するため、電気角60度の区間、片方のアームのスイッチング素子をオン状態で維持するドライブ信号生成方法もある。
図22は、この方式による電圧指令値とドライブ信号の関係の例である。この方法では、一定区間ドライブ信号の変化が無いため、一見すると、120度通電のドライブ信号に似ているが、実質的にモータに印加される電圧は正弦波状に近いため、この方式も180度通電と呼ぶ。
【0039】
電力変換回路5の直流電圧源20を最大限に利用する別方式として、正弦波状の3相電圧指令値に3次高調波加算し、その3次調波加算後の電圧指令を基にドライブ信号を生成する方法もある。なお本方式の電圧指令値とドライブ信号の関係は図示していない。この方法は、基本的に3相全てがスイッチング動作を行う。本発明ではこの方式も180度通電と呼ぶ。
【0040】
ドライブ信号だけで通電方式を区別するのが難しい場合には、ドライブ信号を低域通過フィルタ(ローパスフィルタ)に通すことで、180度通電方式と120度通電方式を区別することが容易にできる。
【0041】
<通電方式切替方法の説明>
次に、180度通電方式と120度通電方式を切り替える手段について説明する。ドライブ信号の作成は、180度通電方式と120度通電方式のそれぞれのために、独立に電圧指令演算手段やPWM信号作成手段を備えても良いが、本発明では両通電方式のスムーズな切替の実現や構成要素の簡素化を目的に、共通の電圧指令演算手段とPWM信号作成手段を備える。
【0042】
PWM信号作成器33の構成例を
図8に示す。PWM信号作成器33は、通電方式切替指令信号と電圧指令値と位相指令値を入力し、ドライブ信号を出力する。電圧指令演算手段に関しては後述するが、PWM信号作成器33にdq軸の電圧指令値を入力する。
【0043】
dq/3φ変換器4は、回転角度位置(位相)に応じて、d軸およびq軸電圧指令値(Vd*およびVq*)を3相電圧指令値(Vu*、Vv*、Vw*)に座標変換行う。本発明では、dq/3φ変換器4で使用する際の回転角度位置(位相)を180度通電方式と120度通電方式で変更することにより、通電方式の切り替えを実現する。
【0044】
モード判定器58の構成例を
図9に示す。モード判定器58は、通電方式切替信号に従い、180度通電方式選択時は入力された回転角度位置(位相)をそのまま出力するとともに、通電モード0を出力する。一方、120度通電方式選択時は、位相通電モード変換器により、
図25に示した様に電気角が30度、90度、150度、210度、270度の6つのタイミングで位相(通電モード)が変わるとともに、通電モード位相変換器54により、
図24に示した様に通電モードに応じて位相を出力する。すなわち、120度通電方式においては、dq/3φ変換器4で使用する位相は6種に固定される。
【0045】
このように、dq/3φ変換器4で使用する際の回転角度位置(位相)を180度通電方式と120度通電方式によって変更した場合の3相電圧指令値(Vu*、Vv*、Vw*)の例を
図26に示す。
【0046】
180度通電方式選択時は、モード判定器58に入力された回転角度位置(位相)をそのまま出力するため、
図26に一点鎖線で示したような正弦波状の電圧指令値となる。一方、120度通電方式選択時は、60度毎の6種の位相に固定され、その結果、実線および点線の様な方形波上の電圧指令値となる。これらをPWMタイマ46に入力する。
【0047】
PWMタイマ46は、各相の電圧指令値とドライブ信号を生成するための三角波キャリア信号とを比較し、大小関係により上下アームのドライブ信号を生成する。
【0048】
120度通電方式選択時、すなわち通電モードが0以外の時は、その通電モードに応じて、
図26に点線で示した様に、非通電相(中間相)の上下アームのドライブ信号をOFFまたは非アクティブとして出力する。
【0049】
これにより、共通の電圧指令演算手段とPWM信号作成手段を備えた構成でも、通電方式切替信号によって180度通電方式と120度通電方式を自由に選択でき、スムーズな切替が実現するとともに、構成要素の簡素化も達成できる。
【0050】
<電圧指令値の作成についての説明>
次に、電圧指令値の作成について説明する。モータ6に印加する電圧を決定するためには、電圧の大きさ、電圧の波形、モータ6の回転子位置に対する電圧の位相、の3点を考慮する必要がある。以下、決定法について、制御部の構成例と共に説明する。まずはその前提として、座標系から説明をしていく。
【0051】
<モータ、座標軸の定義の説明>
前述の通り、本実施例ではモータ6として回転子に永久磁石を有する永久磁石同期モータを用いた例である。そのため、制御軸の位置と回転子の位置は、基本的に同期しているとして説明する。なお、実際は加減速時や負荷変動時の過渡状態において、制御軸の位置と回転子の位置にズレ(軸誤差)が生じる場合がある。軸誤差が生じた場合、モータが実際に発生するトルクが減少したり、電流歪みや跳ね上がりが生じたりすることもある。
【0052】
回転子の回転角度位置情報は、モータに流れる電流およびモータ印加電圧からモータの推定位置を出力する位置センサレス制御によって得るものとしている。その際、回転子の主磁束方向の位置をd軸とし、d軸から回転方向に電気的に90度(電気角90度)進んだq軸とからなるd−q軸(回転座標系)を定義する。回転子の回転角度位置θdは、d軸の位相を示す。これに対し、制御上の仮想回転子位置をdc軸とし、そこから回転方向に電気的に90度進んだqc軸とからなるdc−qc軸(回転座標系)も定義する。本実施例では、この回転座標系である制御軸上で電圧や電流を制御することを基本としているが、単に電圧の振幅と位相を調整してモータを制御することも可能である。これらの座標軸の関係を
図2に示す。なお、これ以降の説明において、d−q軸を実軸、dc−qc軸を制御軸、実軸と制御軸のズレである誤差角を軸誤差Δθcと呼ぶ。
【0053】
固定座標系である3相軸と制御軸との関係を
図3に示す。U相を基準に、dc軸の回転角度位置(推定磁極位置)θdcと定義する。dc軸は図中の円弧状の矢印の方向(反時計方向)に回転している。そのため、回転周波数(後に示す、インバータ周波数指令値ω1)を積分することで、推定磁極位置θdcを得られる。
【0054】
<制御部の説明>
制御部2は、モータ6に流れる交流電流または電力変換回路の直流側に流れる電流を入力し、回転子の推定回転角度位置および推定回転速度を出力する位置速度推定手段41と、通電方式を切替える通電方式切替指令信号を出力する通電方式切替手段32と、通電方式切替指令信号と電圧指令値を入力しドライブ信号を出力するPWM信号作成器33と、電圧指令値を演算する電圧指令値演算手段34等から構成される。
【0055】
制御部2の多くは、マイコン(マイクロコンピュータ)やDSPなどの半導体集積回路(演算制御手段)によって構成され、ソフトウェアなどで実現している。
【0056】
<電流検出手段の説明>
位置速度推定手段41でモータ6に流れる電流を使用する場合、電流検出手段7を用いて、モータ6または電力変換回路5に流れる3相の交流電流の内、U相とW相に流れる電流を検出する。電流検出手段の構成例を
図4に示す。例えば、CT(Current Transformer)等で構成できる。この構成を採用した場合、電力変換回路5のスイッチング状態を気にせず、任意のタイミングで電流検出できるという利点がある。
【0057】
なお、全相の交流電流を検出しても構わないが、キルヒホッフの法則から、3相のうち2相が検出できれば、他の1相は検出した2相から算出できる。
【0058】
モータ6または電力変換回路5に流れる交流電流を検出する別方式として、例えば、電力変換回路5の直流側に付加されたシャント抵抗25に流れる直流電流から、電力変換回路5の交流側の電流を検出するシングルシャント電流検出方式がある。この方式は、電力変換回路5を構成するスイッチング素子の通電状態によって、電力変換回路5の各相の交流電流と同等の電流がシャント抵抗25に流れることを利用している。シャント抵抗25に流れる電流は時間的に変化するため、ドライブ信号が変化するタイミングを基準に適切なタイミングで電流検出する必要がある。図示はしていないが、電流検出手段12に、シングルシャント電流検出方式を用いても問題ない。
【0059】
<電圧指令作成方法の例の説明>
モータ6を180度通電で駆動するためには、前述の通りdc−qc軸(回転座標系)で制御するのが好適である。回転座標上で制御するために3相交流軸から座標変換する必要があるが、回転座標上では電圧や電流を直流量として扱えるという利点がある。
【0060】
そのため、推定磁極位置θdcを用いて、電流検出手段7で検出した3相交流軸のモータ電流検出値122をdc−qc軸に座標変換し、d軸およびq軸の電流検出値(IdcおよびIqc)を得る。同様に、推定磁極位置θdcを用いて、後述する電圧指令値作成器3で生成したdc−qc軸上の電圧指令値を3相交流電圧指令値に座標変換する。
【0061】
次に、位置速度推定手段41の動作について説明する。
図15は、位置速度推定手段41の構成の例である。位置速度推定手段41は、主に軸誤差演算器10と、PLL制御器13と、積分器15、等から構成されている。
【0062】
本実施例の位置速度推定手段41は、軸誤差Δθcの演算値を基にしている。軸誤差演算器10は、制御軸上の電流検出値(IdcおよびIqc)と、後述する電圧指令値(Vd*およびVq*)を入力して、次式により実軸と制御軸との軸誤差Δθcを出力する。
【0063】
【数1】
【0064】
PLL制御器13は、軸誤差Δθcが軸誤差指令値Δθ*(通常はゼロ)になるようにインバータ周波数指令値ω1を出力する。軸誤差指令値Δθ*と軸誤差Δθcの差を減算器17aで求め、これに乗算器18aで比例ゲインKp_pllを乗じ比例制御した演算結果と、乗算器18bで積分ゲインKi_pllを乗じそれを積分器15bで積分し積分制御した演算結果とを加算器16aで加算し、インバータ周波数指令値ω1を出力する。
【0065】
定常状態においては、軸誤差Δθcはゼロとなる点、永久磁石同期モータでは制御軸の位置と回転子の位置は基本的に同期している点から、インバータ周波数指令値ω1がモータの速度に相当する。つまり、速度推定値とも呼べる。
【0066】
回転子の回転角度位置θd(電気角位相)は速度を積分することで得られる。そのため、積分器15aの出力が回転角度位置θdとなる。
【0067】
次に電圧指令値演算手段34の動作について説明する。
図14は、電圧指令値演算手段34の構成の例である。電圧指令値演算手段34は、例えば、速度制御器14と、電流制御器12と、通電方式切替スイッチ59と、電圧指令値作成器3と、dq/3φ変換器4、等から構成されている。
【0068】
電圧指令値作成器3は、後述する速度制御器14や電流制御器12から得られるd軸およびq軸電流指令値(Id*およびIq*)と、回転角速度指令値ω*または後述するインバータ周波数指令値ω1とを電圧指令値作成器3に入力し、次式の様にベクトル演算を行い、d軸電圧指令値Vd*とq軸電圧指令値Vq*を得る。
【0069】
【数2】
【0070】
ここで、Rはモータ6の巻線抵抗値、Ldはd軸のインダクタンス、Lqはq軸のインダクタンス、Keは誘起電圧定数である。
【0071】
上述のようにモータを駆動する制御は一般的にベクトル制御と呼ばれ、モータに流れる電流を界磁成分とトルク成分に分離して演算し、モータ電流位相が所定の位相になるように、電圧の位相と大きさを制御する。ベクトル制御の構成にはいくつか方式があり、例えば、特開2005−39912号公報に記載の構成がある。これを用いて例えば
図14のような構成とする。
【0072】
本実施例のモータ6は、非突極型の永久磁石モータとしている。すなわち、d軸とq軸のインダクタンス値は同じである。つまり、d軸とq軸のインダクタンスの差によって発生するリラクタンストルクは考慮していない。したがって、モータ6の発生トルクはq軸を流れる電流に比例する。そのため、本実施例においては、d軸電流指令値Id*はゼロを設定している。なお、突極型モータ(d軸とq軸のインダクタンス値が異なるモータ)の場合は、q軸電流によるトルクの他に、d軸とq軸のインダクタンスの差に起因するリラクタンストルクが発生する。そのため、リラクタンストルクを考慮してd軸電流指令値Id*を設定することで、同じトルクをより小さいq軸電流で発生できる。この場合、効率向上の効果が得られる。
【0073】
<速度制御器の説明>
q軸電流指令値は、上位制御系などから得てもよいが、速度指令値への追従性を良くするため、
図14は速度制御器を用いてq軸電流指令値を得る構成として示した。
【0074】
速度制御器14の構成例を
図16に示す。周波数指令値ω*とインバータ周波数指令値ω1の差を減算器17bで求め、これに乗算器18cで比例ゲインKp_asrを乗じて比例制御した演算結果と、乗算器18dで積分ゲインKi_asrを乗じ積分器15cで積分し積分制御した演算結果とを加算器16bで加算し、q軸電流指令値Iq*を出力する。
【0075】
<電流制御器の説明>
図17は電流制御器の構成の例である。d軸およびq軸電流指令値への追従性を上げるため、電流制御を行う。d軸およびq軸電流値(Id*およびIq*)とd軸およびq軸電流検出値との差をそれぞれ減算器(17cおよび17d)で求め、これらに乗算器(18eおよび18f)で比例ゲイン(Kp_dacrおよびKp_qdacr)を乗じて比例制御した演算結果と、乗算器(18gおよび18h)で積分ゲイン(Ki_dacrおよびKi_qacr)を乗じ積分器(15dおよび15e)で積分し積分制御した演算結果とを加算器(16cおよび16d)で加算し、第2のd軸およびq軸電流指令値(Id**およびIq**)を出力する。
【0076】
通常、上位制御系等から与えられる周波数指令値ω*は、インバータ周波数指令値ω1に比べると変化の周期は非常に長いため、モータが1回転する間においては一定値と見ても良い。そのため、速度制御器によって、モータはほぼ一定周波数で回転する。この時、インバータ周波数指令値ω1を積分することで得られる推定磁極位置θdcは、ほぼ一様に増加する。
【0077】
以上が、電圧指令値演算手段34の基本動作である。
【0078】
<一回転中での通電方式切替の説明>
次に、通電方式切替信号の作成方法について説明する。
【0079】
前述の通り,本発明の目的の一つは、モータに接続される負荷が、回転角度位置に応じて、あるいは周期的に変動する成分を有する場合においてもシステムの高効率化が可能なモータ制御装置を提供することである。特に,電力変換回路のスイッチング損に注目し,負荷特性に応じて通電方式を切替える。
【0080】
負荷を検出し,所定値と比較して、通電方式切替信号を作成しても良いが、負荷を検出するのが難しい場合が多いため、間接的に負荷を検出あるいは推定する方式について説明する。
【0081】
第1の方式例は、負荷をモータの発生トルクとみなす方式である。モータの発生トルクはモータの電流振幅あるいはq軸電流に比例する。そこで、
図10のようにモータの電流振幅あるいはq軸電流に応じて、通電方式切替信号を変化させる。
図10の例では、通電方式切替信号が0のときに180度通電方式を選択し、1の時に120度通電方式を選択するとして示している。つまり、入力した電流が所定値より小さい場合に、120度通電方式で駆動する。例えば、負荷が
図6に示したような位置依存性を有しており、その際の
図11上部に示すようなq軸電流が流れる場合、通電方式切替手段32によって、通電方式切替信号は
図11下部に示すように変化する。このように動作することによって、負荷が軽い期間においては120度通電方式で駆動し、スイッチング損失を低減できることにより、システムの高効率化が可能になる。
【0082】
第2の方式例は、速度変動から通電方式を選択する方式である。制御部に速度制御器を組込んでいる場合、速度が一定になるように電圧指令値およびインバータ周波数指令値ω1を調整している。つまり、これらの周期的な変化から負荷を推定することが可能である。そこで、
図12のように、速度検出値または速度推定値(インバータ周波数指令値ω1)を入力し、一回転または所定時間の平均速度を基準とし、通電方式切替信号を変化させる。
図12の例では、平均速度よりも高い期間に120度通電方式を選択し、その他の期間は180度通電方式を選択する例を示している。
【0083】
速度制御器の応答周波数が無限大で、負荷変動に完全に一致したモータトルクを発生できる場合、速度変動はゼロになるが、現実は器設定可能な速度制御の応答周波数に制約があり、速度変動が生じる。そのため、速度変動から通電方式を選択する方式は有効であり、このように動作することによって、負荷が軽い期間においては120度通電方式で駆動し、スイッチング損を低減でき、システムの高効率化が可能になる。
【0084】
第3の方式例は、電圧指令値の変動から通電方式を選択する方式である。電圧指令値は、各制御器による制御の結果を反映している。従って、電圧指令値の周期的な変化から負荷を推定することが可能である。そこで、
図13のように、電圧指令値を入力し、一回転または所定時間の平均電圧を基準とし、通電方式切替信号を変化させる。
図13の例では、平均電圧よりも高い期間に120度通電方式を選択し、その他の期間は180度通電方式を選択する例を示している。
【0085】
なお、上述の制御部の説明では、速度制御について説明したが、トルク制御として構成した場合においても電圧指令値の周期的な変化に負荷変動の情報が含まれる。従って、この方式は様々な制御構成においても適用できる利点がある。また、電圧指令値の代わりに、インバータを駆動するドライブ信号を入力し、ドライブ信号のデューティ比の変動から通電方式を選択しても同様の効果が得られる。
【0086】
第4の方式例は、インバータ21に供給する直流電圧源20の電圧変動から通電方式を選択する方式である。電力変換回路は、直流電力を任意の周波数の交流電力に変換してモータを駆動している。一般的に、直流電圧源は整流回路と平滑コンデンサで構成している。そのため、モータで消費される電力に応じて、直流電圧源の電圧値は変動する。つまり、直流電圧源の電圧値の周期的な変化から負荷を推定することが可能である。そこで、
図18のように、直流電圧源の電圧値(検出値または推定値)を入力し、一回転または所定時間の平均電圧を基準とし、通電方式切替信号を変化させる。
図18の例では、平均電圧よりも高い期間に120度通電方式を選択し、その他の期間は180度通電方式を選択する例を示している。このように動作することによって、負荷が軽い期間においては120度通電方式で駆動し、スイッチング損失を低減できることにより、システムの高効率化が可能になる。
【0087】
本実施例には記載していないが、直流電圧源の電圧を一定に制御する昇降圧コンバータを構成する場合もある。この場合は、コンバータの直流電圧指令値の周期的な変化から負荷を推定することが可能である。
【0088】
第5の方式例は、モータの回転角度位置に応じて通電方式を選択する方式である。予め負荷の位置特性が分かっている場合に有効な方式である。
図19の例では、負荷の位置依存性が
図6のように、機械角1回転中に負荷トルクが変化する場合、負荷が軽くなる所定の期間で120度通電方式を選択し、その他の期間は180度通電方式を選択する例を示している。このように動作することによって、負荷が軽い期間においては120度通電方式で駆動し、スイッチング損失を低減できることにより、システムの高効率化が可能になる。
【0089】
モータが4極以上の場合には、機械角1回転に複数の電気角周期が含まれる。その場合は、例えば、特願2013−163924に記載の方法にて機械角を推定すればよい。