特許第6368524号(P6368524)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368524
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】地盤制振構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/98 20060101AFI20180723BHJP
   E02D 27/34 20060101ALI20180723BHJP
   E02D 31/08 20060101ALI20180723BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20180723BHJP
   E04H 9/02 20060101ALN20180723BHJP
【FI】
   E04B1/98 E
   E02D27/34 B
   E02D31/08
   F16F15/02 C
   F16F15/02 A
   !E04H9/02 301
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-84594(P2014-84594)
(22)【出願日】2014年4月16日
(65)【公開番号】特開2015-203278(P2015-203278A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2017年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】松下 仁士
(72)【発明者】
【氏名】原 径一
(72)【発明者】
【氏名】井上 竜太
(72)【発明者】
【氏名】竹内 満
【審査官】 星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−200536(JP,A)
【文献】 特開2010−101129(JP,A)
【文献】 特開昭48−033276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/98
E02D 27/34
E02D 31/08
F16F 15/02
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤から立ち上げられた支持体と、
前記支持体に支持され、前記支持体に囲まれた空間を覆う屋根と、
加振される床版を通じて前記地盤へ伝達された振動を低減させる制御力を、前記屋根を振動させ、前記支持体を介して前記地盤へ伝達させるアクチュエータと、
を有する地盤制振構造。
【請求項2】
前記地盤の振動を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づいて、前記地盤へ伝達された前記振動を低減させる制御信号を生成し、前記アクチュエータへ出力する制御手段と、
を有する請求項1に記載の地盤制振構造。
【請求項3】
地盤から立ち上げられた支持体と、
前記支持体で囲まれた地盤の上に設けられた床版と、
前記支持体に支持され前記支持体で囲まれた空間を覆うと共に、屋根材及び前記屋根材を支持するトラス構造の構造部材を備えた屋根と、
前記屋根と前記支持体との接合部に取り付けられたダンパーと、
を有し、
前記屋根は、前記屋根材及び前記構造部材の質量がマスであり、前記屋根材と前記構造部材の剛性がバネとして形成されている、
地盤制振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤に建てられたコンサートホール等においては、音楽に合わせて大人数の観客が床版を飛び跳ねると、観客が飛び跳ねることにより発生する大人数加振によって、床板の振動が地盤へ伝達される。この、地盤の振動が建物の外部へ拡散し、周辺の建物を振動させるという問題がある。
大人数加振によって発生した振動が、建物の内部から外部へ拡散しないよう低減する技術には、例えば特許文献1がある。
【0003】
特許文献1は、コンサートホールの床版を建物及び下方の地盤と縁切し、支持地盤まで到達する杭で支持させている。更に、杭は、振動遮断手段により、周囲地盤との間で振動が遮断されている。これにより、大人数加振等によって、コンサートホールの床版が振動発生源となっても、コンサートホールの床版から、周囲の地盤へ拡散する振動を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−107208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術は、地盤の振動を直接に低減させることはできない。
【0006】
本発明は、上記事実に鑑み、地盤の振動を直接に低減させる地盤制振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明に係る地盤制振構造は、地盤から立ち上げられた支持体と、前記支持体に支持され、前記支持体に囲まれた空間を覆う屋根と、加振される床版を通じて前記地盤へ伝達された振動を低減させる制御力を、前記屋根を振動させ、前記支持体を介して前記地盤へ伝達させるアクチュエータと、を有することを特徴としている。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、アクチュエータにより屋根を振動させ、支持体を介して、地盤に制御力を伝達させることができる。
これにより、地盤に伝達させた制御力で、加振される床版を通じて地盤へ伝達された振動を、直接に低減させることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の地盤制振構造において、前記地盤の振動を検出する検出手段と、前記検出手段の検出結果に基づいて、前記地盤へ伝達された前記振動を低減させる制御信号を生成し、前記アクチュエータへ出力する制御手段と、を有することを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、検出手段により地盤の振動が検出され、制御手段により、検出手段の検出結果に基づいてアクチュエータが制御される。このとき、制御手段は、地盤の振動を低減させる制御力が支持体に伝達するように、アクチュエータを制御して屋根を振動させる。
この結果、大人数加振等によって地盤に振動が伝達されても、加振される床版を通じて地盤へ伝達された振動を、屋根を振動させて発生させた制御力で低減させることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明に係る地盤制振構造は、地盤から立ち上げられた支持体と、前記支持体で囲まれた地盤の上に設けられた床版と、前記支持体に支持され前記支持体で囲まれた空間を覆うと共に、屋根材及び前記屋根材を支持するトラス構造の構造部材を備えた屋根と、前記屋根と前記支持体との接合部に取り付けられたダンパーと、を有し、前記屋根は、前記屋根材及び前記構造部材の質量がマスであり、前記屋根材と前記構造部材の剛性がバネとして形成されていることを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、地盤制振構造は、加振される床版を通じて、地盤へ振動が伝達されたとき、支持体を介して伝達された、地盤の振動と同調する振動周期を備えた屋根を有している。
即ち、屋根の振動周期は、地盤の振動周期と同調しているので、屋根は、地盤の振動と逆位相で振動し、支持体を介して屋根に伝達された振動が、地盤の振動を打ち消す方向に作用する。この結果、屋根の振動で地盤の振動を直接に低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記構成としてあるので、地盤の振動を直接に低減する地盤制振構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る地盤制振構造が採用された建物の基本構成を示す模式図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る地盤制振構造が採用された建物の基本構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
図1を用いて、第1実施形態に係る地盤制振構造を、例えばコンサートホール等の、大人数の観客を収容可能な建物10へ適用した例について説明する。
【0016】
図1の模式図に示すように、建物10は地盤14から立ち上げられた柱、及び柱間に設けられた壁を有する側壁(支持体)12を有している。側壁12は、室内空間18と室外空間19を仕切り、側壁12で囲まれた地盤14の上には、コンクリート製の床版22が敷設されている。床版22の上には、図示しない、大人数の観客用の観客席等が設けられ、室内空間18は、側壁12に支持されたアーチ状の屋根16で覆われている。
【0017】
これにより、床版22、側壁12及び屋根16で、大人数が収容可能な室内空間18が形成されている。また、側壁12は、地盤14に構築された基礎部54に支持され、基礎部54の下方では、建物10の内部の地盤14と、外部の地盤14が連続している。
屋根16は、表層の屋根材56と、屋根材56を支持するトラス構造の構造部材58を有している。屋根16はアーチ状に形成され、大きな質量を備えている。
【0018】
また、屋根16の下端部と側壁12の上端部との接合部には、例えば油圧ダンパー等の、制御入力を受けて伸縮するアクチュエータ20が、複数個取付けられている。
アクチュエータ20は、一端が屋根16の下端部と連結され、他端が側壁12の上端部と連結されている。これにより、アクチュエータ20は、側壁12を反力受けとして伸縮し、屋根16を、矢印42で示す上下方向に振動させることができる。
また、アクチュエータ20は、屋根16を揺らせた反力を、側壁12を介して、矢印44で示す制御力として地盤14へ伝達させる。
【0019】
また、建物10の外側の地盤14には、床版22から伝達された、矢印28で示す地盤14の振動を検出するセンサ(検出手段)24が設けられている。これにより、建物10の外側へ拡散された地盤14の振動を検出することができる。センサ24は、検出結果をコントローラ(制御手段)26へ出力する。
【0020】
コントローラ26は、センサ24の検出結果に基づいて、制御信号を出力し、アクチュエータ20を制御する。ここに、コントローラ26は、屋根16が、地盤14の振動を低減させる(打ち消す)周期で振動するように、制御信号を生成し、アクチュエータ20に出力し、アクチュエータ20を制御する。
【0021】
本構成とすることにより、大人数の観客による大人数加振で、床版22が加振され、建物10の外側の地盤14が振動したとき、地盤14へ伝達された振動がセンサ24で検出される。センサ24は、検出結果をコントローラ26へ出力する。
コントローラ26は、センサ24の検出結果に基づいて、地盤14の振動を低減させ、打ち消す周期の信号(例えば、地盤14の振動と逆位相の信号)を生成し、アクチュエータ20へ出力する。
アクチュエータ20は、コントローラ26からの制御信号に基づいて伸縮し、屋根16を、上下方向へ振動させる。
【0022】
アクチュエータ20は、側壁12を反力受けとして屋根16を振動させる。この結果、側壁12を介し、屋根16を振動させて発生させた制御力44を、地盤14に作用させることができる。このとき、制御力44は、地盤14の振動を打ち消す方向に作用する力(例えば、地盤14の振動と逆位相の力)であり、観客による大人数加振で加振される床版22を通じて地盤14へ伝達された振動を、制御力44で抑制することができる。
【0023】
この結果、大人数加振等によって地盤14に振動が発生しても、加振される床版22を通じて地盤14へ伝達された振動を、屋根16の振動による制御力44で制御し、地盤14の振動が建物10(側壁12)の外側の地盤14へ拡散するのを、直接に低減することができる。これにより、建物10からの振動の拡散が低減され、建物10の周辺の建物の振動を低減することができる。
【0024】
なお、本実施形態では、屋根16を、アクチュエータ20を制御して伸縮させる構成で説明した。しかし、これに限定されることはなく、図示は省略するが、屋根16に印加電圧を受けて伸縮する膜型圧電素子を貼り付け、膜型圧電素子を制御して、膜型圧電素子で屋根16を上下方向へ振動させてもよい。
また、アクチュエータ20と、膜型圧電素子の両者をそれぞれ取付けて、屋根16を上下方向へ振動させてもよい。
【0025】
また、本実施形態では、屋根16をアーチ形状として説明した。しかし、アーチ形状に限定されることはなく、屋根形状は、片流れ、切妻、寄棟、方形、入母屋、又は陸屋根等のいずれであっても良い。
【0026】
また、本実施形態では、センサ24の取付け位置を、建物10の外側の地盤14の位置として説明した。しかし、これに限定されることはなく、センサ24の取付け位置は、例えば、地盤14と床版22の振動の関係が把握されていれば、建物10の内側の床版22の位置でもよい。
【0027】
(第2実施形態)
図2を用いて、第2実施形態に係る地盤制振構造を、建物30へ適用した例について説明する。建物30は、アクチュエータを使用せずに屋根36を振動させる点において、第1実施形態と相違する。相違点を中心に説明する。
【0028】
図2の模式図に示すように、建物30は地盤14から立ち上げられた柱、及び柱間に設けられた壁を有する側壁(支持体)32を有している。側壁32は、室内空間38と室外空間39を区画し、側壁32で囲まれた地盤34の上には、コンクリート製の床版50が設けられている。床版50の上は、側壁32に支持された平板状の屋根(陸屋根)36で覆われている。
【0029】
これにより、床版50、側壁32及び屋根36で、大人数が収容可能な室内空間38が形成されている。また、側壁32は、地盤14に構築された基礎部54に支持され、基礎部54の下方の地盤14は、建物30の内部と外部で連続している。
屋根36は、上層の屋根材60と、屋根材60を支持するトラス構造の構造部材62を有し、大きな質量を備えている。
【0030】
ここに、屋根36は、屋根材60と構造部材62の質量をマスとし、屋根材60と構造部材62の剛性をバネとみなしたとき、地盤34が大人数加振で振動されたとき、側壁32を介して伝達された地盤34の振動を受けて、自ら、上下方向(矢印46の方向)の振動を開始する構成とされている。
【0031】
具体的には、屋根36の振動周期を、地盤34の振動周期と一致させて構築されている。これにより、大人数加振による地盤34の振動を受けて、屋根36が、地盤34の振動と逆位相で振動を開始する。
この屋根36の振動により、側壁32から地盤34へ、直接に矢印48で示す制御力が加えられ、大人数加振による矢印40で示す地盤34の振動が低減される。この結果、建物30の外に、地盤34の振動が拡散するのを低減することができる。
【0032】
また、屋根36の下端部と側壁12の上端部との接合部には、外力を受けて伸縮するダンパー52が取付けられている。ダンパー52は、屋根36の下端部と側壁32の上端部との間の変位を受けて伸縮し、これらの急激な変位を低減する。
これにより、屋根36を、上下方向(矢印46の方向)に振動させると、屋根36が揺れることにより生じる、矢印48で示す制御力を、側壁12を介して地盤14へ伝達させることができる。
【0033】
本構成とすることにより、大人数の観客による大人数加振で床版22が加振されたとき、地盤34へ振動が伝達される。側壁32を介してこの振動が伝達され、屋根36が振動する。このとき、屋根36の振動は、地盤34の振動を低減させる(打ち消す)方向に作用する振動(例えば、地盤34の振動と逆位相の振動)となる。これにより、側壁32を介して、制御力48を、地盤34に作用させることができる。
即ち、観客による大人数加振で加振される床版50を通じて地盤34へ伝達された振動を、屋根36の振動で低減させることができる。
【0034】
この結果、大人数加振等によって地盤34に振動が発生しても、加振される床版50を通じて地盤34へ伝達された振動を、屋根36の振動による制御力で直接制御し、地盤34の振動が側壁32の外側へ拡散するのを低減することができる。
他の構成は、第1実施形態と同じであり、説明は省略する。
【0035】
なお、本実施形態では、屋根36の形状を、傾斜のない平根屋(陸屋根)として説明した。しかし、これに限定されることはなく、屋根形状は、片流れ、切妻、寄棟、方形、入母屋、又はアーチ状等のいずれであっても良い。
【符号の説明】
【0036】
10、30 建物
12、32 壁体(支持体)
14、34 地盤
16、36 屋根
18、38 室内空間(空間)
20 アクチュエータ
22、50 床版
24 センサ(検出手段)
26 コントローラ(制御手段)
28、40 大人数による加振力(振動)
42、46 屋根の振動
44、48 地盤に伝達される制御力
図1
図2