特許第6368527号(P6368527)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368527
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】ねじ装置及び駆動機構
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/24 20060101AFI20180723BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   F16H25/24 A
   F16H25/22 M
   F16H25/24 C
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-87843(P2014-87843)
(22)【出願日】2014年4月22日
(65)【公開番号】特開2015-206424(P2015-206424A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2017年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(72)【発明者】
【氏名】伴 敏和
(72)【発明者】
【氏名】久保田 祐次
(72)【発明者】
【氏名】岸 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】大岡 輝明
(72)【発明者】
【氏名】亀田 絵里
(72)【発明者】
【氏名】浅野 祐介
(72)【発明者】
【氏名】打越 友哉
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−166054(JP,A)
【文献】 特開昭57−103962(JP,A)
【文献】 特開平11−303965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
F16H 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸本体、前記ねじ軸本体の外周面に形成され、第一のリードを持ち、第一の転動体が転がり運動する螺線状の第一の転動体転走溝、前記ねじ軸本体の外周面に形成され、前記第一のリードと異なる第二のリードを持ち、第二の転動体が転がり運動する螺旋状の第二の転動体転走溝、前記第一の転動体転走溝と前記第二の転動体転走溝が交差する交差部を備えるねじ軸と、
内周面に前記ねじ軸の前記第二の転動体転走溝に対向する螺旋状の第二の負荷転動体転走溝が形成される第二のナットと、を備え、
前記第一の転動体転走溝の深さが前記第二の転動体転走溝の深さよりも深く、
前記第二のナットの内径をD2、前記第二の転動体のボール径をDa2、前記ねじ軸の前記第一の転動体転走溝に前記第一の転動体を配置したときの前記第一の転動体の内側の径をd1とするとき、
d1+2Da2≧D2
が成立するねじ装置。
【請求項2】
周面に前記ねじ軸の前記第一の転動体転走溝に対向する螺旋状の第一の負荷転動体転
走溝が形成される第一のナットを備えることを特徴とする請求項1に記載のねじ装置。
【請求項3】
前記第一のナットの内径をD1、前記第一の転動体のボール径をDa1、前記ねじ軸の前記第二の転動体転走溝に前記第二の転動体を配置したときの前記第二の転動体の内側の径をd2とするとき、
2+2Da1≧D1が成立することを特徴とする請求項2に記載のねじ装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のねじ装置と、
前記第一のナット及び前記第二のナットが連結される本体部と、
前記第一のナットを前記本体部に前記第一のナットの軸線の回りに回転可能に連結する
状態と、前記第一のナットを前記本体部に前記第一のナットの軸線の回りに回転不可能に
連結する状態と、を切り替える第一のクラッチ手段と、
前記第二のナットを前記本体部に前記第二のナットの軸線の回りに回転可能に連結する
状態と、前記第二のナットを前記本体部に前記第二のナットの軸線の回りに回転不可能に
連結する状態と、を切り替える第二のクラッチ手段と、を備える駆動機構。
【請求項5】
請求項2又は3に記載のねじ装置と、
前記ねじ軸の軸方向の両端部を回転可能に支持する支持部と、
前記第一のナットを前記第一のナットの軸線の回りに回転不可能に、かつ前記ねじ軸の
長さ方向に移動可能に案内する第一の案内部と、
前記第一のナットの軸線方向の両側に配置される複数の前記第二のナットを、前記第二
のナットの軸線の回りに回転不可能に、かつ前記ねじ軸の長さ方向に移動可能に案内する
第二の案内部と、を備え、
前記第一のリードが前記第二のリードよりも大きい駆動機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周面にボール等の転動体が転動する螺旋状の転動体転走溝が形成されるねじ軸を用いたねじ装置、及びこのねじ装置を用いた駆動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは、外周面に螺旋状のボール転走溝が形成されるねじ軸と、内周面にねじ軸のボール転走溝に対向する螺旋状の負荷ボール転走溝が形成されるナットと、ねじ軸のボール転走溝とナットの負荷ボール転走溝との間に転がり運動可能に配置される複数のボールと、を備える。ナットには、ボールが循環できるように、負荷ボール転走溝の一端まで転がったボールを他端に戻す循環部材が設けられる。ナットに対してねじ軸を回転させると、ボールがこれらの間を転がり運動し、ナットがねじ軸の軸方向に直線運動する。ボールねじには、ボールの転がり運動によって軽快な動きが得られるという特徴がある。
【0003】
ボールねじのねじ軸として、ねじ軸の長さ方向の片側に第一のリードを持つ第一のボール転走溝を形成し、ねじ軸の長さ方向の残りの片側に第二のリードを持つ第二のボール転走溝を形成したねじ軸が知られている(特許文献1参照)。ねじ軸の長さ方向の片側には、第一のボール転走溝に対向する第一の負荷ボール転走溝が形成される第一のナットが組み付けられる。ねじ軸の長さ方向の残りの片側には、第二のボール転走溝に対向する第二の負荷ボール転走溝が形成される第二のナットが組み付けられる。
【0004】
このボールねじは、第一のリードと第二のリードとの差を取り出したり、第一のリードと第二のリードとの和を取り出したりするのに用いられる。例えば、ねじ軸にリード10mmの右ねじの第一のボール転走溝を形成し、ねじ軸にリード11mmの左ねじの第二のボール転走溝を形成し、両者のリードの差を取り出すことによって、リード1mmのボールねじを得ることができる。また、ねじ軸にリード10mmの右ねじの第一のボール転走溝を形成し、ねじ軸にリード10mmの右ねじの第二のボール転走溝を形成し、両者のリードの和を取り出すことによって、リード20mmのボールねじを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−30809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のボールねじにあっては、ねじ軸の長さ方向の片側に第一のボール転走溝が形成され、ねじ軸の長さ方向の片側に第二のボール転走溝が形成されるので、ねじ軸の軸方向の長さが長くなり、コンパクト化が図れないという課題がある。
【0007】
第一のボール転走溝が形成されるねじ軸と、第二のボール転走溝が形成されるねじ軸とを並列に並べれば、ねじ軸の軸方向の長さを短くすることができる。しかし、軸直交方向の寸法が大きくなるという課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、リードの異なる複数のボール転走溝をねじ軸に形成しても、コンパクト化を図れるねじ装置、及び駆動機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、ねじ軸本体、前記ねじ軸本体の外周面に形成され、第一のリードを持ち、第一の転動体が転がり運動する螺線状の第一の転動体転走溝、前記ねじ軸本体の外周面に形成され、前記第一のリードと異なる第二のリードを持ち、第二の転動体が転がり運動する螺旋状の第二の転動体転走溝、前記第一の転動体転走溝と前記第二の転動体転走溝が交差する交差部を備えるねじ軸と、内周面に前記ねじ軸の前記第二の転動体転走溝に対向する螺旋状の第二の負荷転動体転走溝が形成される第二のナットと、を備え、前記第一の転動体転走溝の深さが前記第二の転動体転走溝の深さよりも深く、前記第二のナットの内径をD2、前記第二の転動体のボール径をDa2、前記ねじ軸の前記第一の転動体転走溝に前記第一の転動体を配置したときの前記第一の転動体の内側の径をd1とするとき、d1+2Da2≧D2が成立するねじ装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第一の転動体転走溝と第二の転動体転走溝とをねじ軸の軸方向の同一の範囲に形成するので、ねじ軸のコンパクト化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態のねじ装置の中心線に沿った断面図である。
図2】第一のボール転走溝と第二のボール転走溝の交差部を移動するボールを示す模式図である。
図3】ボールが他のボール転走溝に乗り移らないための条件を説明する模式図である。
図4】本発明の一実施形態のねじ装置を用いたリード切替えボールねじの中心線に沿った断面図である。
図5】本発明の一実施形態のねじ装置を用いた中間サポート付きアクチュエータを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態のねじ軸、ねじ装置としてのボールねじを説明する。図1は本実施形態のボールねじの断面図を示す。
【0013】
ねじ軸本体2の外周面には、第一のリードを持つ螺旋状の第一の転動体転走溝としての第一のボール転走溝2aが形成される。第一のボール転走溝2aの断面形状は、二つの円弧を組み合わせたゴシックアーチ溝である。第一のボール3aは、第一のボール転走溝2aに二点で接触する。典型的なねじ軸本体2は、ステンレス鋼等の金属製である。第一のボール転走溝2aは、切削及び研削加工、又は転造加工等によって形成される。
【0014】
ねじ軸本体2の外周面には、第二のリードを持つ螺旋状の第二の転動体転走溝としての第二のボール転走溝2bが形成される。第二のボール転走溝2bの断面形状は、二つの円弧を組み合わせたゴシックアーチ溝である。第二のボール3bは、第二のボール転走溝2bに二点で接触する。第二のボール転走溝2bは、切削及び研削加工、又は転造加工等によって形成される。
【0015】
第一のボール転走溝2aと第二のボール転走溝2bは、ねじ軸1の軸方向の同一の範囲に形成される。第一のボール転走溝2aの第一のリードは、第二のボール転走溝2bの第二のリードよりも大きい。ねじ軸本体2の外周面には、第一のボール転走溝2aと第二のボール転走溝2bとが交差する交差部2cが形成される。
【0016】
この実施形態では、第一のボール3aのボール径(すなわち第一のボール3aの直径)と第二のボール3bのボール径(すなわち第二のボール3bの直径)とは同一である。第一のボール転走溝2aのBCD1と第二のボール転走溝2bのBCD2とは同一である(図3参照)。BCDは、Ball Circular Diameterの略であり、ボール中心径とも呼ばれる。そして、第一のボール転走溝2aのリード直角断面形状と第二のボール転走溝2bのリード直角断面形状は同一である。ただし、第一のボール転走溝2aの、ねじ軸1の中心線に沿った断面形状は、第二のボール転走溝2bの、ねじ軸1の中心線に沿った断面形状よりも横幅が広い。第一のリードが第二のリードよりも大きいからである。交差部2cの、ねじ軸1の中心線に沿った断面形状は、第一のボール転走溝2aの断面形状に一致する。
【0017】
ねじ軸1には、第一のナット4a及び第二のナット4bが組み付けられる。第一のナット4aと第二のナット4bとは、ねじ軸1の軸方向に離れている。第一のナット4aの内周面には、ねじ軸1の第一のボール転走溝2aに対向する螺旋状の第一の負荷転動体転走溝としての第一の負荷ボール転走溝5aが形成される。第一の負荷ボール転走溝5aは、第一のリードを持つ。第一の負荷ボール転走溝5aの断面形状は、二つの円弧を組み合わせたゴシックアーチ溝である。第一のボール3aは、第一の負荷ボール転走溝5aに二点で接触する。第一のナット4aには、第一のボール3aが循環できるように、第一の負荷ボール転走溝5aの一端まで転がった第一のボール3aを第一の負荷ボール転走溝5aの他端に戻すリターンパイプ、エンドキャップ等の循環部材6aが設けられる。典型的な第一のナット4aは、ステンレス鋼等の金属製である。第一の負荷ボール転走溝5aは、切削及び研削加工、又は転造加工等によって形成される。
【0018】
第二のナット4bの内周面には、ねじ軸1の第二のボール転走溝2bに対向する螺旋状の第二の負荷転動体転走溝としての第二の負荷ボール転走溝5bが形成される。第二の負荷ボール転走溝5bは、第二のリードを持つ。第二の負荷ボール転走溝5bの断面形状は、二つの円弧を組み合わせたゴシックアーチ溝である。第二のボール3bは、第二の負荷ボール転走溝5bに二点で接触する。第二のナット4bには、第二のボール3bが循環できるように、第二の負荷ボール転走溝5bの一端まで転がった第二のボール3bを第二の負荷ボール転走溝5bの他端に戻すリターンパイプ、エンドキャップ等の循環部材6bが設けられる。典型的な第二のナット4bは、ステンレス鋼等の金属製である。第二の負荷ボール転走溝5bは、切削及び研削加工、又は転造加工等によって形成される。
【0019】
上記のように、ねじ軸1の第一のボール転走溝2aと第二のボール転走溝2bとは交差部2cで交差する。図2のボールねじの拡大断面図を参照しつつ、ねじ軸1の第二のボール転走溝2bを転がる第二のボール3bが、交差部2cで第一のボール転走溝2aに載り移らないための条件を説明する。図2(b)は交差部2cの断面図を示し、図2(a)は交差部2cの直前の第一のボール転走溝2a及び第二のボール転走溝2bの断面図を示す。この図2(a)(b)には、条件を一般化するために、第一のボール転走溝2aの深さが第二のボール転走溝2bの深さよりも深く、第一のボール転走溝2aの第一のリードが第二のボール転走溝2bの第二のリードよりも大きい例を示す。この場合、図2(b)に示すように、交差部2cの、ねじ軸1の中心線に沿った断面形状は、第一のボール転走溝2aの断面形状に一致する。
【0020】
第一のボール転走溝2aの深さが、第二のボール転走溝2bの深さよりも深い場合、深い方の第一のボール転走溝2aを転がる第一のボール3aは浅い方の第二のボール転走溝2bに乗り移ることはない。しかし、図2(b)に示すように、浅い方の第二のボール転走溝2bを転がる第二のボール3bは、深い方の第一のボール転走溝2aに落ち込もうとする。第二のボール3bが交差部2cで深い方の第一のボール転走溝2aに落ち込もうとしても、第二のボール3bは第二のナット4bの第二の負荷ボール転走溝5bで抱え込まれているので、第二のボール3bは第二のナット4bの第二の負荷ボール転走溝5bから抜け出ることはない。このように、第二のナット4bの第二の負荷ボール転走溝5bで第二のボール3bの位置を決定すれば、第二のボール3bが深い方の第一のボール転走溝2aに乗り移るのを防止できる。
【0021】
上記の考え方を一般化する。ボールねじに以下の関係が成立すれば、ボール転走溝2a,2bを転がるボール3a,3bが交差部2cで別のボール転走溝2b,2aに移るのを防止できる。図3に示すように、第一のナット4aの内径をD1、第一のボール3aのボール径をDa1、ねじ軸1の第一のボール転走溝2aに第一のボール3aを配置したときの第一のボール3aの内側の径をd1(すなわち、第一のボール3aの中心径BCD1からボール径Da1を引いたものであり、d1=BCD1−Da1の関係がある)、第二のナット4bの内径をD2、第二のボール3bのボール径をDa2、ねじ軸1の第二のボール転走溝2bに第二のボール3bを配置したときの第二のボール3bの内側の径をd2(すなわち、第二のボール3bの中心径BCD2からボール径Da2を引いたものであり、d2=BCD2−Da2の関係がある)とするとき、
【0022】
(式1)
d1+2Da2≧D2
【0023】
(式2)
d2+2Da1≧D1が成立すればよい。
【0024】
式1が成立すれば、交差部2cにおける第二のボール3bの位置が第二のナット4bで決定されるので、第二のボール3bが第一のボール転走溝2aに乗り移るのを防止できる。式2が成立すれば、交差部2cにおける第一のボール3aの位置が第一のナット4aで決定されるので、第一のボール3aが第二のボール転走溝2bに乗り移るのを防止できる。
【0025】
なお、この実施形態では、第一のボール転走溝2aはゴシックアーチ溝に形成される。第一のボール3aは第一のボール転走溝2aの溝底よりも高い位置で第一のボール転走溝2aに接する。ねじ軸1の第一のボール転走溝2aに第一のボール転走溝2aを配置したときの第一のボール3aの内側の径d1は、ねじ軸1の第一のボール転走溝2aの溝底の径よりも僅かに大きな値になる。同様に、ねじ軸1の第二のボール転走溝2bに第二のボール3bを配置したときの第二のボール3bの内側の径d2も、ねじ軸1の第二のボール転走溝2bの溝底の径よりも僅かに大きな値になる。
【0026】
本実施形態では、式1及び式2が成立した上で、第一のボール3aのボール径と第二のボール3bのボール径を同一に設定する。そして、ねじ軸1の第一のボール転走溝2aのBCDとねじ軸1の第二のボール転走溝2bのBCDとを同一に設定する。第一のボール転走溝2aと第二のボール転走溝2bとの交差部2cに段差が生ずることがないので、第一のボール3a及び第二のボール3bを円滑に移動させることができる。
【0027】
厳密にいえば、交差部2cにおいて第二のボール3bは荷重を受けることができない(図2参照)。上記のように、交差部2cの、ねじ軸1の中心線に沿った断面形状は、第二のボール転走溝2bよりも横幅が広くなっているからである。第一のボール転走溝2aの第一のリードを第二のボール転走溝2bの第二のリードの1.5倍以上、好ましくは2倍以上にすることで、交差部2cの長さを短くすることができ、荷重を受けられない第二のボール3bの個数を少なくすることができる。
【0028】
図4は、本実施形態のねじ装置を用いた駆動機構としてのリード切替えボールねじを示す。第一のナット4a及び第二のナット4bは、本体部としての筒形のケース11に収納される。第一のナット4aは、ケース11に第一の軸受12aを介して第一のナット4aの軸線の回りを回転可能に支持される。第二のナット4bは、ケース11に第二の軸受12bを介して第二のナット4bの軸線の回りを回転可能に支持される。第一のナット4a及び第二のナット4bとの距離は、軸受12a,12bによって一定に保たれる。
【0029】
第一のナット4aは、ケース11に第一のクラッチ手段としての第一の電磁クラッチ13aを介して連結される。第一の電磁クラッチ13aは、第一のナット4aをケース11に第一のナット4aの軸線の回りに回転可能に連結する状態と、第一のナット4aをケース11に第一のナット4aの軸線の回りに回転不可能に連結する状態と、を切り替える。
【0030】
第二のナット4bは、ケース11に第二のクラッチ手段としての第二の電磁クラッチ13bを介して連結される。第二の電磁クラッチ13bは、第二のナット4bをケース11に第二のナット4bの軸線の回りに回転可能に連結する状態と、第二のナット4bをケース11に第二のナット4bの軸線の回りに回転不可能に連結する状態と、を切り替える。
【0031】
ねじ軸1には図示しないモータが連結される。第一の電磁クラッチ13aが第一のナット4aをケース11に回転不可能に連結し、第二の電磁クラッチ13bが第二のナット4bをケース11に回転可能に連結した状態において、ねじ軸1を回転させると、ケース11が第一のナット4aの第一のリードでねじ軸1の軸方向に移動する。一方、第一の電磁クラッチ13aが第一のナット4aをケース11に回転可能に連結し、第二の電磁クラッチ13bが第二のナット4bをケース11に回転不可能に連結した状態において、ねじ軸1を回転させると、ケース11が第二のナット4bの第二のリードでねじ軸1の軸方向に移動する。
【0032】
ここで、第二のナット4bの第二のボール3bのボール径を第一のナット4aの第一のボール3aのボール径よりも大きくするのが望ましい。第二のナット4bの定格荷重が第一のナット4aの定格荷重よりも大きくなり、高負荷を受けるのに適した第二のナット4bを得ることができるからである。
【0033】
この実施形態のリード切替えボールねじによれば、ねじ軸1を1回転させたときのリードを、大リードと小リードの2つのリードに切り替えることができる。したがって、大リードの高速駆動と小リードの高推力駆動とを使い分けることができる。また、単一のねじ軸と単一のナットとで高速駆動と高推力駆動とを実現しようとすると、モータの回転数を変化させたり、モータとねじ軸との間に減速機を介在させたりする必要がある。第一のナット4aと第二のナット4bを切り替えることで、シンプルな機構で高速駆動と高推力駆動とを両立できるようになる。
【0034】
図5は、本実施形態のねじ装置を用いた駆動機構としての中間サポート付きアクチュエータを示す。この中間サポート付きアクチュエータにおいて、ねじ軸1の軸方向の両端部は、支持部としての一対のブラケット21a,21bに回転可能に支持される。ブラケット21a,21bには、図示しない軸受が組み込まれる。ねじ軸1は図示しないモータに連結される。
【0035】
第一のナット4aは、ねじ軸1の軸方向の中央部に配置される。一対の第二のナット4b1,4b2は、第一のナット4aの、ねじ軸1の軸方向の両側に配置される。第二のナット4b1は、第一のナット4aとブラケット21aとの中間に配置され、中間サポートとして機能する。第二のナット4b2は、第一のナット4aとブラケット21bとの中間に配置され、中間サポートとして機能する。
【0036】
第一のナット4aは、第一の案内部としての第一のリニアガイド22aにねじ軸1の軸方向に移動可能に案内される。第一のリニアガイド22aは、第一のナット4aが第一のナット4aの軸線の回りに回転するのを防止する。第一のナット4aには、テーブル23が取り付けられる。第二のナット4b1,4b2は、第二の案内部としての第二のリニアガイド22b1,22b2にねじ軸1の軸方向に移動可能に案内される。第二のリニアガイド22b1,22b2は、第二のナット4b1,4b2が第一のナット4aの軸線の回りに回転するのを防止する。第一及び第二の案内部22a,22b1,22b2には、リニアガイドの替わりに、レールに沿って移動するローラ、溝に沿って移動するピン等を用いることができる。
【0037】
ねじ軸1の第一のボール転走溝2aの第一リードは、第二のボール転走溝2bの第二のリードの2倍に設定される。ねじ軸1を回転させると、第二のナット4b1,4b2は第一のナット4aの1/2倍だけねじ軸1の軸方向に移動する。第一のナット4aが軸線方向に移動しても、第二のナット4b1は常に、第一のナット4aとブラケット21aとの中間に位置する。第二のナット4b2は、常に第一のナット4aとブラケット21bとの中間に位置する。
【0038】
ねじ軸1を高速で回転させると、ねじ軸1の共振周波数でねじ軸1が振れ回る。第一のナット4aとブラケット21a,21bとの間に中間サポートとして第二のナット4b1,4b2を配置することで、ねじ軸1のスパンを1/2にすることができ、ねじ軸1の振れ回りを防止することができる。
【0039】
本実施形態のアクチュエータによれば、第一のナット4aと第二のナット4b1,4b2の速度比は完全な2:1であるので、第一のナット4a及び第二のナット4b1,4b2に位置ずれが生ずるのを防止できる。また、第二のナット4b1,4b2及び第二のリニアガイド22b1,22b2によって中間サポートを構成することで、部品点数を削減でき、取付け姿勢に係わらず中間サポートを動作させることができる。
【0040】
本発明は上記実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲でさまざまな実施形態に具現化可能である。
【0041】
上記実施形態では、ねじ軸のボール転走溝及びナットの負荷ボール転走溝の断面形状を二つの円弧からなるゴシックアーチ溝にしているが、単一の円弧からなるサーキュラアーク溝にすることもできる。
【0042】
上記実施形態では、第一のボール転走溝及び第二のボール転走溝が右ねじの例を説明したが、第一のボール転走溝及び第二のボール転走溝が左ねじであってもよい。また、第一のボール転走溝が右ねじであり、第二のボール転走溝が左ねじであり、両者のリードの大きさが同一でもよい。
【0043】
上記実施形態では、第一のボール転走溝及び第二のボール転走溝がねじ軸の軸方向の全長に渡って形成されているが、ねじ軸の軸方向の一部に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…ねじ軸,2…ねじ軸本体,2a…第一のボール転走溝(第一の転動体転走溝),2b…第二のボール転走溝(第二の転動体転走溝),2c…交差部,3a…第一のボール(第一の転動体),3b…第二のボール(第二の転動体),4a…第一のナット,4b…第二のナット,4b1…中間サポートとしての第二のナット,4b2…中間サポートとしての第二のナット,5a…第一の負荷ボール転走溝(第一の負荷転動体転走溝),5b…第二の負荷ボール転走溝(第二の負荷転動体転走溝),11…ケース(本体部),13a…第一の電磁クラッチ(第一のクラッチ手段),13b…第二の電磁クラッチ(第二のクラッチ手段),21a,21b…ブラケット(支持部),22a…第一のリニアガイド(第一の案内部),22b1,22b2…第二のリニアガイド(第二の案内部)
図1
図2
図3
図4
図5