特許第6368545号(P6368545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368545
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】制振要素
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
   E04H9/02 321B
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-110265(P2014-110265)
(22)【出願日】2014年5月28日
(65)【公開番号】特開2015-224480(P2015-224480A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 ▲琢▼也
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 賢二
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−150936(JP,A)
【文献】 特開平10−246025(JP,A)
【文献】 特開2011−064024(JP,A)
【文献】 特開2005−200882(JP,A)
【文献】 特開2001−012105(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0115170(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架構内に上下方向に沿って配置され、一つ又は左右方向に並べられた縦材と、
前記架構内に左右方向に配置され、前記縦材と回転自在に連結された一つ又は上下方向に並べられた横材と、
前記縦材及び前記横材の少なくとも一方の両端部を前記架構に回転自在に連結する連結部材と、
前記縦材と前記横材との連結部位における回転エネルギーを吸収するエネルギー吸収手段と、
を備え
前記エネルギー吸収手段は、
前記連結部位において、前記縦材と前記横材とが当接し、ボルト締結によって回転自在に摩擦接合された当接面と、
前記連結部位における前記縦材と前記横材との間に設けられ、両者を回転自在に連結するボルトが挿通し、前記縦材と前記横材とに接合された塑性変形する鋼管と、
前記連結部位に設けられたロータリーダンパーと、
の少なくとも一つである、
制振要素。
【請求項2】
架構内に上下方向に沿って配置され、一つ又は左右方向に並べられた縦材と、
前記縦材の両端部を前記架構に回転自在に連結する連結部材と、
前記縦材と前記連結部材との連結部位における回転エネルギーを吸収するエネルギー吸収手段と、
を備え
前記エネルギー吸収手段は、
前記連結部位において、前記縦材と前記連結部材とが当接し、ボルト締結によって回転自在に摩擦接合された当接面と、
前記連結部位における前記縦材と前記連結部材との間に設けられ、両者を回転自在に連結するボルトが挿通し、前記縦材と前記連結部材とに接合された塑性変形する鋼管と、
前記連結部位に設けられたロータリーダンパーと、
の少なくとも一つである、
制振要素。
【請求項3】
架構内に左右方向に沿って配置され、一つ又は上下方向に並べられた横材と、
前記横材の両端部を前記架構に回転自在に連結する連結部材と、
前記横材と前記連結部材との連結部位における回転エネルギーを吸収するエネルギー吸収手段と、
を備え
前記エネルギー吸収手段は、
前記連結部位において、前記横材と前記連結部材とが当接し、ボルト締結によって回転自在に摩擦接合された当接面と、
前記連結部位における前記横材と前記連結部材との間に設けられ、両者を回転自在に連結するボルトが挿通し、前記横材と前記連結部材とに接合された塑性変形する鋼管と、
前記連結部位に設けられたロータリーダンパーと、
の少なくとも一つである、
制振要素。
【請求項4】
前記エネルギー吸収手段は、前記鋼管であって、
前記鋼管の両端部に形成された突起部が、接合相手に形成された係合孔に係合することで、両者が接合されている、
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の制振要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振要素に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、地震時に構造物に入力されるエネルギーを塑性変形による履歴エネルギーとして吸収する鋼製耐震壁に関する技術が開示されている。
【0003】
特許文献2には、多数の透孔を略格子状に設けた鋼板を板材で挟んで固定した制震壁に関する技術が開示されている。
【0004】
しかし、このような耐震壁や制震壁は、壁自体が塑性変形することによってエネルギーを吸収し減衰力を得るので、壁を架構に設けて架構の耐力が上がると、架構の剛性が増大してしまう。架構の剛性が増大すると、建物全体の剛性分布が変わり、相対的に剛性が低く変形が集中する部位が発生する虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−181923号公報
【特許文献2】特開2003−172040公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事実を鑑み、架構の剛性の増大を抑えつつ、架構の耐震性を向上させることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、架構内に上下方向に沿って配置され、一つ又は左右方向に並べられた縦材と、前記架構内に左右方向に沿って配置され、前記縦材と回転自在に連結された一つ又は上下方向に並べられた横材と、前記縦材及び前記横材の少なくとも一方の両端部を前記架構に回転自在に連結する連結部材と、前記縦材と前記横材との連結部位における回転エネルギーを吸収するエネルギー吸収手段と、を備え、前記エネルギー吸収手段は、前記連結部位において、前記縦材と前記横材とが当接し、ボルト締結によって回転自在に摩擦接合された当接面と、前記連結部位における前記縦材と前記横材との間に設けられ、両者を回転自在に連結するボルトが挿通し、前記縦材と前記横材とに接合された塑性変形する鋼管と、前記連結部位に設けられたロータリーダンパーと、の少なくとも一つである。
【0008】
請求項1に記載の発明では、縦材は上下方向に沿って配置され、横材は左右方向に沿って配置されている。縦材及び横材は、少なくとも一方の両端部が架構に回転自在に連結されると共に、縦材と横材との連結部位において回転自在に連結されている。よって、架構の剛性は増大しない、又は殆ど増大しない。
【0009】
架構が水平方向に変位すると、縦材と横材との連結部位において縦材と横材とが相対的に回転するときの回転エネルギーを連結部位に設けられたエネルギー吸収手段が吸収し制振する。
【0010】
したがって、架構の剛性の増大が抑えられつつ、架構の耐震性が向上する。
【0011】
請求項2の発明は、架構内に上下方向に沿って配置され、一つ又は左右方向に並べられた縦材と、前記縦材の両端部を前記架構に回転自在に連結する連結部材と、前記縦材と前記連結部材との連結部位における回転エネルギーを吸収するエネルギー吸収手段と、を備え、前記エネルギー吸収手段は、前記連結部位において、前記縦材と前記連結部材とが当接し、ボルト締結によって回転自在に摩擦接合された当接面と、前記連結部位における前記縦材と前記連結部材との間に設けられ、両者を回転自在に連結するボルトが挿通し、前記縦材と前記連結部材とに接合された塑性変形する鋼管と、前記連結部位に設けられたロータリーダンパーと、の少なくとも一つである。
【0012】
請求項2に記載の発明では、縦材は、上下方向に沿って配置されると共に、架構との連結部位において回転自在に連結されているので、架構の剛性は増大しない、又は殆ど増大しない。架構が水平方向に変位すると、縦材と連結部材との連結部位において縦材が回転するときの回転エネルギーを連結部位に設けられたエネルギー吸収手段が吸収し制振する。よって、架構の剛性の増大が抑えられつつ、架構の耐震性が向上する。
【0013】
請求項3の発明は、架構内に左右方向に沿って配置され、一つ又は上下方向に並べられた横材と、前記横材の両端部を前記架構に回転自在に連結する連結部材と、前記横材と前記連結部材との連結部位における回転エネルギーを吸収するエネルギー吸収手段と、を備え、前記エネルギー吸収手段は、前記連結部位において、前記横材と前記連結部材とが当接し、ボルト締結によって回転自在に摩擦接合された当接面と、前記連結部位における前記横材と前記連結部材との間に設けられ、両者を回転自在に連結するボルトが挿通し、前記横材と前記連結部材とに接合された塑性変形する鋼管と、前記連結部位に設けられたロータリーダンパーと、の少なくとも一つである。
【0014】
請求項3に記載の発明では、横材は、左右方向に沿って配置されると共に、架構との連結部位において回転自在に連結されているので、架構の剛性は増大しない、又は殆ど増大しない。架構が水平方向に変位すると、横材と連結部材との連結部位において横材が回転するときの回転エネルギーを連結部位に設けられたエネルギー吸収手段が吸収し制振する。よって、架構の剛性の増大が抑えられつつ、架構の耐震性が向上する。
【0015】
請求項4の発明は、前記エネルギー吸収手段は、前記鋼管であって、前記鋼管の両端部に形成された突起部が、接合相手に形成された係合孔に係合することで、両者が接合されている、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の制振要素である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、架構の剛性の増大を抑えつつ、架構の耐震性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る制振壁を示す正面図である。
図2】架構に設けられたガセットプレートと縦材との連結部位を示す断面図である。
図3】縦材と横材との連結部位を示す分解斜視図である。
図4】縦材と横材との連結部位を示す、(A)は正面図であり、(B)は断面図である。
図5図1に示す架構が水平変位した場合の制振壁の挙動を説明するための正面図である。
図6図1に示す架構が水平変位した場合の鋼管によるエネルギー吸収の履歴ループを示すグラフである。
図7】縦材と横材との連結部位の変形例を示す、(A)は正面図であり、(B)は断面図である。
図8】開口部を有する制振壁を示す正面図である。
図9】横材が連結されていない制振壁を示す正面図である。
図10】縦材のみで構成されている制振壁を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態>
本発明の一実施形態に係る制振壁について説明する。なお、各図における矢印Xは水平方向を示し、矢印Zは鉛直方向を示し、矢印YはX方向及びY方向と直交する方向、すなわち制振壁の面外方向を示している。また、本実施形態では、本発明の一実施形態に係る制振壁を用いて既存の建物に対して耐震補強を行う例で説明するが、これに限定されない。新築の建物にも本発明を適用することができる。
【0022】
図1に示すように、制振要素の一例としての制振壁50は、建物10を構成する左右の柱12L、12Rと上下の梁14U、14Lとで囲まれた架構11の構面内に設けられている。制振壁50は、縦材30、横材40、及び連結部材の一例としての四つのガセットプレート60を有している。四つのガセットプレート60は、上側の梁14U、下側の梁14L、左側の柱12L、及び右側の柱12Rにそれぞれ接合されている。
【0023】
図2に示すように、ガセットプレート60は、接合プレート62と連結プレート64とで構成された断面T字形状とされている。そして、ガセットプレート60の接合プレート62が上側の梁14Uに後施工のアンカー16で接合されている。なお、図示は省略するが、下側の梁14L、左側の柱12L、及び右側の柱12Rにも、ガセットプレート60の接合プレート62が、それぞれ後施工のアンカー16で接合されている。
【0024】
図1に示すように、縦材30及び横材40は、長尺の鋼製の板材で構成されている。縦材30は、架構11の溝面内に上下方向(本実施形態では鉛直方向)を長手方向として配置され、長手方向の端部30Aがガセットプレート60の連結プレート64に回転自在に連結(ピン接合)されている(連結構造については後述する)。一方、横材40は、架構11の溝面内に左右方向(本実施形態では水平方向)を長手方向として配置され、長手方向の端部40Aがガセットプレート60の連結プレート64に回転自在に連結(ピン接合)されている(連結構造については後述する)。
【0025】
このように、縦材30と横材40とは、正面視(面外方向に見た場合)において、格子状に配置され、それぞれの端部30A、40Aがガセットプレート60によって架構11に回転自在に連結(ピン接合)されている。そして、縦材30と横材40とは、縦材30と横材40とが交差して連結された各連結部位35において、回転自在に連結(ピン接合)されている(連結構造については後述する)。
【0026】
図3及び図4に示すように、縦材30と横材40とが交差し連結された連結部位35(図1も参照)における縦材30と横材40との間には、円筒状の鋼管100が設けられている。鋼管100の軸方向(Y方向)の両端部には突起部102が形成されている。そして、連結部位35における縦材30及び横材40には、それぞれ係合孔32,42が形成され、これら係合孔32,42に鋼管100の突起部102が係合している。
【0027】
また、連結部位35における縦材30及び横材40には、回転孔34,44が形成され、回転孔34,44にボルト120が挿通され、ナット122が螺合されている。なお、ボルト120は、鋼管100の中を挿通している。
【0028】
このような連結部位35の構成によって、縦材30と横材40とがボルト120を回転軸として回転自在に連結されると共に、縦材30と横材40とがボルト120を回転軸として相対的に回転することで、鋼管100が塑性変形し回転エネルギーが吸収されるようになっている。
【0029】
なお、図2に示すように、本実施形態では、縦材30の端部30A(図1も参照)とガセットプレート60の連結プレート64との連結部位37も図4に示す縦材30と横材40との連結部位35と同様の構造となっている。また、図示は省略するが、本実施形態では、図1に示す横材40の端部40Aとガセットプレート60の連結プレート64との連結部位39も図4に示す縦材30と横材40との連結部位35と同様の構造となっている。
【0030】
よって、縦材30及び横材40とガセットプレート60の連結プレート64とが回転自在に連結されると共に、縦材30及び横材40がボルト120(図2を参照)を回転軸として回転することで、鋼管100(図2参照)が塑性変形し、回転エネルギーが吸収されるようになっている。
【0031】
(作用及び効果)
つぎに、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0032】
制振壁50を構成する縦材30及び横材40は、長手方向の端部30A,40Aが架構11に設けられたガセットプレート60との連結部位37,39において回転自在に連結(ピン接合)されると共に、縦材30と横材40とが交差する連結部位35において回転自在に連結(ピン接合)されている。
【0033】
また、縦材30は鉛直方向を長手方向として配置され、横材40は水平方向を長手方向として配置されている。よって、図5に架構11が水平方向に変位しても(図5では一例として左から右の水平変位を図示)、縦材30及び横材40とガセットプレート60との連結部位37間及び連結部位39間の長さは変化しない又は殆ど変化しないので、縦材30及び横材40には、圧縮力及び引張力は作用しない、又は殆ど作用しない。
【0034】
したがって、架構11に制振壁50を設けても、架構11の剛性は増大しない、又は殆ど増大しない。
【0035】
しかし、図5に示すように、架構11が水平方向に変位すると、縦材30と横材40との連結部位35において、縦材30と横材40とが相対的に回転することで、連結部位35に設けられた鋼管100が塑性変形して回転エネルギーを吸収し制振する。
【0036】
更に、本実施形態では、架構11が水平方向に変位すると、縦材30及び横材40がガセットプレート60の連結プレート64に対して回転することで、同様に鋼管100が塑性変形し、回転エネルギーを吸収し制振する。
【0037】
なお、図6は、横軸を図5に示す柱12Lの角度(変位)γとし、縦軸を水平力(荷重)Qとした場合の鋼管100の塑性変形によるエネルギー吸収の履歴ループ(履歴エネルギー)を示すグラフである。
【0038】
このように、架構11に制振壁50を設けることで、架構11の剛性の増大を抑えつつ、架構11の耐力が向上する。また、制振壁50を架構11に設けても建物10全体の剛性が変わらない又は殆ど変わらないので、制振壁50を架構11に設けても建物10において相対的に剛性が低く応力が集中する部位の発生が防止又は抑制される。
【0039】
また、制振壁50は、ガセットプレート60の架構11への接合以外は、各構成部材同士はボルト締結で組み付けられているので、組立と分解が容易である。また、本実施形態の制振壁50は、複数の幅の狭い構成部材(縦材30、横材40、ガセットプレート60等)や複数の小さな構成部材(鋼管100、ボルト120等)で構成されている。よって、制振壁50が分解された状態(縦材30と横材40とが組み付けられていない状態)で、建物10内を架構11まで容易に運搬し、制振壁50を組み付けることができるので、施工が容易である。また、塑性変形した鋼管100を交換することで、容易に耐力を回復させることができる。
【0040】
また、強度が異なる(例えば、肉厚が異なる)鋼管に取り替える(変更する)ことで、耐力(制振性能)を容易に変更することができる。
【0041】
また、このように本実施形態の制振壁50は、可搬性が良く、耐力(制振性能)を容易に変更(調整)することができる構造であるので、本実施形態のように既存の建物10の耐震補強には、特に好適である。
【0042】
<変形例>
つぎに、本実施形態の変形例について説明する。
【0043】
(エネルギー吸収手段)
上記実施形態では、縦材30と横材40との連結部位35及び、縦材30及び横材40とガセットプレート60との連結部位37,39に、それぞれエネルギー吸収手段の一例としての鋼管100を設けたが、これに限定されない。
【0044】
例えば、連結部位35にのみ鋼管100(エネルギー吸収手段)を設け、連結部位37、39には鋼管100(エネルギー吸収手段)を設けていなくてもよい。また、複数の連結部位35の全箇所に鋼管100(エネルギー吸収手段)を設けていなくてもよい。必要とする耐力(制振性能(エネルギー吸収性能))に応じて鋼管100(エネルギー吸収手段)を設ける箇所を適宜増減してもよい。また、鋼管100(エネルギー吸収手段)を設ける箇所を調整することで、耐力(制振性能)を調整することできる。
【0045】
また、上記実施形態では、縦材30と横材40との連結部位35及び、縦材30及び横材40とガセットプレート60との連結部位37,39に設けられた鋼管100が塑性変形して回転エネルギーを吸収し制振した。しかし、エネルギー吸収手段は、このような構成に限定されない。
【0046】
例えば、鋼管100以外の、塑性変形してエネルギーを吸収する変形部材であってもよい。
【0047】
また、図7に示すように、縦材30と横材40とを当接させて、ボルト120とナット122とでボルト締結(摩擦接合)し、縦材30と横材40とが相対的に回転する際の当接面30Dと当接面40Dとの摩擦による摩擦力によって、エネルギー吸収し制振する構造であってもよい。なお、図示は省略するが、縦材30及び横材40とガセットプレート60との連結部位37,39においても同様の構成としてもよい。また、ボルト締結の締付力(摩擦力)を調整することで、耐力(制振性能)を容易に調整することができる。また、当接面30Dと当接面40Dとの間に摩擦力を調整する摩擦調整材を挟んでもよい。
【0048】
また、図示は省略するが、油圧抵抗等でエネルギーを吸収するロータリーダンパーを連結部位35,37,39に設けてもよい。要は、回転エネルギーを吸収する構造(エネルギー吸収手段)であればよい。
【0049】
(縦材と横材との配置構造)
上記実施形態では、縦材30と横材40とを格子状に配置したが、このような配置構造に限定されない。
【0050】
図8に示すように、一部の縦材30及び横材40を短くし、出入口として利用可能な逆U字形状の開口部15を形成してもよい。また、想像線(二点破線)のように窓開口や設備開口として利用可能な開口部17を形成してもよい。図示は省略するが、制振壁の左右方向の端部(左端又は右端に配置された縦材30)と柱12R、12Lとの間に間隔をあけることで開口部を形成してもよい。或いは、制振壁の上下方向の端部(上端又は下端に配置された横材40)と梁14U,14Lとの間に間隔をあけることで開口部を形成してもよい。また、このように本実施形態の制振壁は、開口部の位置や大きさを自由に設定することができる。
【0051】
また、上記実施形態では、縦材30及び横材40ともに端部30A,40Aがガセットプレート60によって架構11に回転自在に連結されていたが、これに限定されない。
【0052】
例えば、図9に示すように、縦材30の端部30Aは架構11に回転自在に連結され、横材40の端部40Aは架構11に連結されていなくてもよい。また、図示は省略するが、これとは逆に横材40の端部40Aは架構11に回転自在に連結され、縦材30の端部30Aは架構11に連結されていなくてもよい。要は、縦材30及び横材40の少なくとも一方の両端部が架構11に回転自在に連結(ピン接合)されていればよい。
【0053】
また、上記実施形態では、縦材30と横材40とは、いずれも複数設けられた構造であったが、これに限定されない。縦材30及び横材40のいずれか一方又は両方が一つのみ設けられた構造であってもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、制振壁(制振要素)は、縦材30と横材40との両方で構成されていたが、これに限定されない。例えば、図10に示すように、縦材30のみで構成されていてもよい。また、図示は省略するが、横材40のみで構成されていてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、縦材30は鉛直方向に沿って配置され、横材40は水平方向に沿って配置されているが、これに限定されない。縦材30は鉛直方向と角度を持って配置されていてもよいし、横材40は水平方向と角度を持って配置されていてもよい。なお、角度が大きくなるに従って、図5に示すように架構11が水平変位すると、縦材30及び横材40に作用する圧縮力及び引張力が大きくなり、架構11の剛性が増大する。よって、架構11の剛性の増大が許容される範囲の角度に抑えるように適宜設定すればよい。
【0056】
ここで、建物の架構は、耐震壁やブレース等の耐震要素を平面視で柱間の構面にバランス良く分散して配置して、建物の用途等に応じた設計がなされる。特に、既存の建物の耐力を向上させる場合には、既設の建物の耐震要素や平面計画上の制約から、耐震要素の配置が限定的となる上、既設の建物に設置済みの耐震要素等を配慮しつつ、建物全体の剛性(耐震性)のバランスも考慮する必要がある。
【0057】
そのため、本件発明に係る耐震要素を平面視で柱間の構面に配置するにあたり、配置される構面に応じた耐震要素を複数配置(連続、又は分散して配置)し、それぞれのエネルギー吸収性能(制振性能)を調整するようにして、以って、建物全体の剛性(耐震性)のバランスを図ることにある。
【0058】
また、連結部材によって回転自在に架構に連結された縦材及び横材の連結部位(ピン接合)と、回転エネルギーを吸収するエネルギー吸収手段(連結部位)との、それぞれの数及びその割合を調整することで、架構の耐力(制振性能)を容易に調整することができる。
【0059】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態及び変形例に限定されない。
【0060】
例えば、上記実施形態では、鋼管100の突起部102が係合孔32,42に係合するこことで、鋼管100に回転力が伝達される構造であったがこれに限定されない。例えば、鋼管を溶接接合して回転力が伝達される構造であってもよい。
【0061】
例えば、上記実施形態では、縦材30及び横材40は、架構11に設けられたガセットプレート60に回転自在に連結(ピン接合)されていたが、これに限定されない。ガセットプレート以外の連結部材で、縦材及び横材が架構に回転自在に連結(ピン接合)されていてもよい。
【0062】
なお、上記実施形態及び変形例における「回転自在に連結(ピン接合)」とは、連結部位にエネルギー吸収手段(具体的には、鋼管100の塑性変形、及び当接面30Dと当接面40Dとの間の摩擦力)が設けられていない構造である。例えば、図3及び図4において、突起部102と係合孔32,42とが形成されていない構造(回転しても鋼管100が塑性変形しない構造)、或いは、図7において、当接面30Dと当接面40Dとの間にフッ素樹脂(テフロン(登録商標))などの低摩擦抵抗のシート材(滑り材)を挟んだ構造(摩擦力(摩擦抵抗)が非常に小さい構造)等である。
【0063】
また、上記実施形態及び変形例では、縦材30及び横材40は、長尺の鋼製の板材(フラットバー)で構成されていたが、これに限定されない。例えば、アングル形鋼で構成されていてもよい。
【0064】
また、上記実施形態及び変形例は、適宜、組み合わされて実施可能である。
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない
【符号の説明】
【0065】
10 建物
11 架構
30 縦材
30A 端部
35 連結部位
37 連結部位
39 連結部位
40 横材
40A 端部
50 制振壁(制振要素の一例)
60 ガセットプレート(連結部材の一例)
100 鋼管(変形部材の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10