(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368554
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】ゲル化剤
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20180723BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20180723BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20180723BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
C09K3/00 103L
C08J3/24 ZCEP
C08J3/24CFC
A61K8/02
A61K8/73
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-118960(P2014-118960)
(22)【出願日】2014年6月9日
(65)【公開番号】特開2015-232070(P2015-232070A)
(43)【公開日】2015年12月24日
【審査請求日】2017年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100067541
【弁理士】
【氏名又は名称】岸田 正行
(74)【代理人】
【識別番号】100103506
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 弘晋
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】甲野 裕之
【審査官】
久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−085079(JP,A)
【文献】
特開2004−154165(JP,A)
【文献】
特表2003−515616(JP,A)
【文献】
国際公開第00/021581(WO,A1)
【文献】
特開平11−012304(JP,A)
【文献】
特開2005−59599(JP,A)
【文献】
特開2004−155806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00
C08J3/00−3/28、99/00
C08K3/00−13/08
C08L1/00−101/14
B01J20/00−20/34
C08B1/00−37/18
A61K8/00−8/99
A61Q1/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その水酸基が炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基で置換された置換基を有する非イオン性且つ水溶性である多糖を、エポキシ化合物で架橋させることによって得られる、前記多糖の前記炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基によるモル置換度が2.1以上であり、且つ架橋度が0.29以上である、極性有機溶媒をゲル化可能であるゲル化剤。
【請求項2】
前記多糖がグアーガム、セルロース、デンプン、キサンタンガム、タマリンドシードガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、プルラン、アラビアガムまたはそれらの混合物である請求項1に記載のゲル化剤。
【請求項3】
前記エポキシ化合物が、エチレングリコールジグリシジルエーテルである請求項1または2に記載のゲル化剤。
【請求項4】
前記ヒドロキシアルキル基が2−ヒドロキシエチル基または3−ヒドロキシプロピル基である請求項1から3のいずれか1つに記載のゲル化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は極性有機溶媒をゲル化可能なゲル化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高吸水性ポリマー(Superabsorbent Polymer:SAP)は通常白色の粉末であり,水を注ぐと瞬時に吸水、膨潤して水全体をゲル化させる性質を持ち、その吸水量はおよそ1000g/gにも達する。SAPに吸水力を付与する要因は高分子電解質と溶媒との親和力及び浸透圧であり、またその吸水力に抑制的に作用する要因は網目構造に基づくゴム弾性力である。また、SAPに取り込まれた水は立体網目構造の中に閉じ込められるため、加圧しても水はSAPから容易には出てこないという性質も有する。
【0003】
主にSAPは紙おむつ,衛生用品をはじめとする吸収素材として用いられており,その他に農園芸、生活用品、食品、土木・建築、トイレタリー、化学・電子工業、スポーツ・レジャー産業など幅広い分野で使用されている。現在、SAPとして一般的なのはポリアクリル酸ナトリウム(SPA)系の架橋体である。
【0004】
SAPの吸水性能は分子構造に由来する。SAPにおいて、側鎖は乾燥時に−COONaの形で電気的に中性な状態で存在するため、高分子鎖は密に絡み合った状態になっている。
水の影響で、当該−COONaは、−COO
-とNa
+に解離する。これにより、親水基である−COO
-は分子中に存在する他の−COO
-と静電的に反発し、ポリマーの立体網目構造が広がる。さらに、−COONaから解離したNa
+により、網目構造の内と外とでイオン濃度に差が生じ、その結果、浸透圧が発生して水がポリマー内に入り込む。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Huan-Ying Shi, Li-Ming Zhang, New grafted polysaccharides based on O-carboxymethyl-O-hydroxypropyl guar gum and N-isopropylacrylamide: Synthesis and phase transition behavior in aqueous media. Carbohydrate Polymers, Vol.67, pp. 337-342 (2007).
【非特許文献2】Lucie Verger, Solenn Corre, Robin Poirot, Guilhem Quintard, Etienne Fleury, Aureia Charlot, Dual guar/ionic liquid gels and biohybrid material thereof: Rheological investigation. Carbohydrate Polymers, Vol. 102, pp. 932-940 (2014).
【非特許文献3】Yihong Huang, Huiqun Yu, Chaobo Xiao, pH-sensitive cationic guar gum/poly (acrylic acid) polyelectrolyte hydrogels: Swelling and in vitro drug release. Carbohydrate Polymers, Vol. 69, pp.774-783 (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、公知のSAPにおいては、有機溶媒とは親和性が低いこと、また、−COONaが解離しないなどの理由から、アルコールやアセトンなどの極性有機溶媒を吸収することができない。
【0007】
本発明はこのような事情に基づきなされたものであり、極性有機溶媒を吸収してゲル化可能であるゲル化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] その水酸基が炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基で置換された置換基を有する非イオン性且つ水溶性である多糖を、エポキシ化合物で架橋させることによって得られる、極性有機溶媒をゲル化可能であるゲル化剤。
[2] 前記多糖の前記炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基によるモル置換度が2.1以上であり、且つ架橋度が0.29以上である[1]に記載のゲル化剤。
[3] 前記多糖がグアーガム、セルロース、デンプン、キサンタンガム、タマリンドシードガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、プルラン、アラビアガムまたはそれらの混合物である[1]または[2]に記載のゲル化剤。
[4] 前記エポキシ化合物が、エチレングリコールジグリシジルエーテルである[1]から[3]のいずれか1つに記載のゲル化剤。
[5] 前記ヒドロキシアルキル基が2−ヒドロキシエチル基または3−ヒドロキシプロピル基である[1]から[4]のいずれか1つに記載のゲル化剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、極性有機溶媒を吸収してゲル化可能であるゲル化剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態のゲル化剤の製造フローの一例を示す図である。
【
図2】実施例のゲル化剤の極性有機溶媒に対する吸収量を示すグラフである。
【
図3】実施例のゲル化剤の極性有機溶媒に対する吸液量を示すグラフである。
【
図4】実施例のゲル化剤の極性有機溶媒に対する吸収量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態の1つについて詳細に説明する。
本実施形態は、極性有機溶媒をゲル化可能であるゲル化剤に関し、当該ゲル化剤は、その水酸基が炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基で置換された置換基を有する非イオン性且つ水溶性である多糖(以下、単にヒドロキシアルキル基置換多糖ともいう)を、エポキシ化合物で架橋させることによって得られる。
【0012】
ここで、本明細書において、極性有機溶媒とは、炭素原子にヘテロ原子等の電気陰性度の異なる原子からなる原子群が結合しており、分子内において電荷の偏りを有する溶媒をいい、親水性を備え、水に溶解できるものをいう。例えば極性有機溶媒として、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、1,4-ジオキサン、ジメチルフォルムアミド、エチレングリコールなどを挙げることができる。
【0013】
また、本明細書において、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基とは、1の水素原子が1の水酸基により置換されている直鎖又は分岐鎖状の炭素数1〜4のアルキル基をいう。炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基として、例えば、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基、1−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、1−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、4−ヒドロキシブチル基等を挙げることができ、好ましくは、2−ヒドロキシエチル基または3−ヒドロキシプロピル基が挙げられる。
【0014】
また、本実施形態に係る非イオン性且つ水溶性である多糖としては、グアーガム、セルロース、デンプン、キサンタンガム、タマリンドシードガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、プルラン、アラビアガムなどを挙げることができ、本実施形態においてはこれらのうち1種または2種以上を用いるようにしてもよい。このうち、得られるゲル化剤における極性有機溶媒に対するゲル化能がより優れるため、グアーガムが好ましい。
【0015】
また、本実施形態に係るエポキシ化合物については特に限定されず当業者が適宜設定することができ、例えばエチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテル、2−エチルへキシルグリシジルエーテル、メチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、エピクロロヒドリン(ECH)等のモノエポキシ化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDE)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセリンノブリシジルエーテル等のジエポキシ化合物、グリセリントリグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート等のトリエポキシ化合物、グリセロ−ルポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等のポリエポキシ化合物から選ばれる1種又は2種以上使用し得る。このうち、反応性が高く、また、比較的安価で入手も容易であることから、エチレングリコールジグリシジルエーテルが好ましい。
【0016】
非イオン性且つ水溶性である多糖に対する炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基による置換反応は特に限定されず、当業者が適宜選択することができ、公知の方法により行うことができる。また、ヒドロキシアルキル基置換多糖として、市販品を用いるようにしてもよい。
また、ヒドロキシアルキル基置換多糖の粘度平均分子量(g/mol)などについても特に限定されない。
【0017】
本実施形態のゲル化剤は、ヒドロキシアルキル基置換多糖をエポキシ化合物で架橋させることによって得ることができる。
図1は、水酸基が3−ヒドロキシプロピル基により置換されたグアーガムを原料とした場合の本実施形態のゲル化剤の合成フローの一例を示す図である。まず、3−ヒドロキシプロピル基により置換されたグアーガムを水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液に溶解させる。常温下で完全に溶解させた後、得られた溶液に架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテルなどのエポキシ化合物を滴下する。その後、当該溶液を加熱(例えば60℃の湯浴中)しながら6時間〜24時間の反応を行うことで架橋剤であるエポキシ化合物とヒドロキシアルキル基置換多糖に含まれる水酸基との間で分子間架橋が形成される。
次いで、反応後、凝集、透析、乾燥、粉砕などを行い、本実施形態のゲル化剤を得る。
本実施形態において、ヒドロキシアルキル基置換多糖とエポキシ化合物との割合は当業者が適宜設定することができ特に限定されない。
【0018】
ここで、本実施形態においては、ヒドロキシアルキル基置換多糖における炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基によるモル置換度が2.1以上であり、且つ架橋度が0.29以上であることが好ましく、より好ましくは当該モル置換度が2.1以上であり、且つ架橋度が0.52以上である。当該範囲を満足することにより、極性有機溶媒に対する吸収性をさらに高めることができる。また、モル置換度および架橋度の上限については特に限定されないが、例えばゲル化剤の生産性等の観点から、モル置換度が5.0以下、架橋度が1.5以下であることが好ましい。
なお、本明細書において、モル置換度とは、グアーガム等の、原料となる非イオン性且つ水溶性である多糖類の繰り返し単位あたりにおいて、水酸基が炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基に置換されている割合をいう。また、架橋度とは、ヒドロキシアルキル基置換多糖の繰り返し単位あたりにおいて、水酸基が架橋により置換されている割合をいう。モル置換度および架橋度は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いた測定結果に基づき算出することができる。
【0019】
以上、本実施形態によれば、極性有機溶媒を吸収してゲル化可能であるゲル化剤を提供することができる。そのため、本実施形態のゲル化剤は、従来の吸水性高分子の代替利用だけでなく、様々な工業用途に用いることができる。例えば、本実施形態のゲル化剤は、工場排水や汚染水の固化剤、固体電解質、燃料電池などへ活用できる。
【実施例】
【0020】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明のゲル化剤は実施例記載の形態のみに限られるものではない。
【0021】
そのモル置換度を以下の表1に示す3種類のヒドロキシプロピルグアーガム(HPG1、HPG2、HPG3、CPKelco社製)を、実施例においてゲル化剤の原料として用いた。ヒドロキシプロピルグアーガムを1M水酸化ナトリウム水溶液20mlに溶解し、EGDEを添加して4℃で完全に溶解した。ヒドロキシプロピルグアーガム(HPG)とEGDEの割合を表2に示す。
各溶液について、60℃で3時間攪拌し、反応後アセトン100mLで凝集させた。得られたゲル化物を外液を水として透析膜で流水透析した。内容物を再度アセトンで凝集させ、60℃で減圧乾燥した。ミルで40メッシュに粉砕し、実施例1〜9のゲル化剤を得た。各実施例1〜9のゲル化剤における架橋度を表2に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
実施例3〜9のゲル化剤 (ca. 100 mg)について、予め重量を測定した後、15mlのポリプロピレン遠心チューブ内に配置した。各チューブに溶媒を加えた後、各チューブを振蕩機にセットし、120rpm、25℃の条件で振蕩した。24時間後、各チューブを8000 × g、5分間の遠心分離に供し、続いて上澄みを除去した。吸収率(SR)は以下の式に基づき計算した。
【0025】
SR = (Ws - Wt - Wd) / Wd
【0026】
式中、Wsは溶媒を吸収したゲルを含むチューブの重量であり、Wtはチューブ自体の重量であり、Wdは試験に供する前のゲルの重量である。また、極性有機溶媒として、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、1,4-ジオキサン、ジメチルフォルムアミド、エチレングリコールを用いた。
【0027】
結果を
図2、3および4に示す。
図2〜4から理解できるように、実施例1〜9のゲル化剤について、極性有機溶媒の吸収およびゲル化が確認できた。吸液量が3gを超えている場合、実質的に透明なゲルが形成された(目視により観察)。一方、同重量のポリアクリル酸ナトリウム(SPA)系吸水性ポリマーについても同様の吸収性試験を行ったところ、いずれの極性有機溶媒についても吸液量は0であった。