特許第6368566号(P6368566)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368566
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】軌道パッド
(51)【国際特許分類】
   E01B 9/68 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
   E01B9/68
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-141506(P2014-141506)
(22)【出願日】2014年7月9日
(65)【公開番号】特開2016-17340(P2016-17340A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】草川 公一
(72)【発明者】
【氏名】吉野 文隆
(72)【発明者】
【氏名】福岡 丈明
(72)【発明者】
【氏名】世良 範幸
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 稔
【審査官】 佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−194473(JP,A)
【文献】 特開2005−325146(JP,A)
【文献】 特開2012−127183(JP,A)
【文献】 特開2011−174299(JP,A)
【文献】 特開2006−265841(JP,A)
【文献】 特開平10−237802(JP,A)
【文献】 特開2004−044113(JP,A)
【文献】 特開平11−323801(JP,A)
【文献】 特開平07−238502(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0113133(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 9/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム状発泡体により構成されてレールとタイプレートとの間に介装されるパッド本体が、レール長手方向の両端部から下方側へ突出する突出部を有し、各前記突出部が前記タイプレートにおけるレール長手方向の端面に係合すると共に、前記パッド本体の前記両端部における前記レールとは反対側で且つ前記タイプレートとは反対側に面取り部が形成されている軌道パッド。
【請求項2】
前記ゴム状発泡体は、密度が0.50〜0.90g/cm3であり、且つ、伸びが130%以上である請求項1に記載の軌道パッド。
【請求項3】
前記パッド本体における前記レール側の表面に積層されると共に、静摩擦係数が0.35以下である樹脂層を備えた請求項1又は2に記載の軌道パッド。
【請求項4】
前記ゴム状発泡体は、架橋ウレタン発泡体である請求項1〜3の何れか1項に記載の軌道パッド。
【請求項5】
前記架橋ウレタン発泡体は、ウレタン原料として、ポリエーテル系ポリオールとMDI系のイソシアナートとを少なくとも用いて形成される請求項4に記載の軌道パッド。
【請求項6】
前記パッド本体の前記両端部には、前記突出部を補強する補強部が設けられている請求項1〜5の何れか1項に記載の軌道パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、まくら木上に固定されるタイプレートとレールとの間に介装され、所要のバネ定数を持つ軌道パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の軌道パッドは天然ゴムやSBRゴム(スチレン・ブタジエンゴム)が用いられていたが、レールの寒暖に伴う伸縮により長期間の使用で軌道パッドがめくれたり、脱離したりしてゴム材がなくなっていることが頻繁にあった。
【0003】
そのような欠点を改良した軌道パッドとして、ゴム材の上面にすべる様に鋼板が接着されたものが提案された。鋼板とゴム材は接着性が劣るため、ゴム材から鋼板が剥れやすく、万一剥れても脱離しないように数々の工夫がなされてきた(例えば、特許文献1〜3)。
【0004】
しかし、それでも長年の使用により接着不良が生じ、レールの伸縮による煎断力と車両通過による振動などで鋼板がゴムパッドから分離し、車両通過時に吹き飛ばされ、車両に損傷を与えたり、レールの絶縁部分に接触し絶縁不良をおこし、例えば、信号機故障といった重大な故障が起こったりする場合があった。
【0005】
そして、これら欠点を改良した軌道パッドとして、ゴム材の上面に鋼板を接着する代わりにエボナイトを固着したものが提案されている(例えば、特許文献4)。ゴム部材とエボナイトはゴム加硫時に同時加硫接着するため、接着面は反応接着していて接着信頼性は高い。この提案品はエボナイトが良くすべり接着もかなりしっかりしている点で優れている。しかし、低バネ定数の調整のためにゴム材底面に肉抜き、つまり凹部を設け圧締面積を調整する方法が取られており、肉抜けする事で圧力を少ない面積で負担する事になり、長い年月高い荷重を繰り返し受けると、少ない面積のゴム部にキレツが生じ、ゴム材がタイプレートから脱落する問題が生じていた。
【0006】
一方、ゴム材と鋼材を組み合わせた積層品の軌道パッドにおいて、鋼材におけるレール長手方向の両端部にレール幅方向の両側へ突出する舌状部(耳部)を形成したH形状のものが提案されている(例えば、特許文献5)。この軌道パッドでは、上記の耳部をタイプレートにおけるレール長手方向の端面に係合させることにより、タイプレートに対する位置ずれを規制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平07−238502号公報
【特許文献2】特開平10−237802号公報
【特許文献3】特開2004−44113号公報
【特許文献4】特開2006−265841号公報
【特許文献5】特開平11−323801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献5に記載された軌道パッドにおいても、鋼材の耳部が破壊ないし変形することにより、タイプレートから脱落する場合があった。しかも、そのような場合、耳部の破壊ないし変形によって、再使用ができなくなっていた。なお、前述のエボナイトを表面材としたゴム製の軌道パッドをH形状に形成した場合でも、特許文献5に記載された軌道パッドと同様の問題が生じる。
【0009】
そこで、本発明は、上記事実を考慮し、タイプレートから脱落し難く、且つ、万が一脱落したとしても再使用が可能となることに寄与する軌道パッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の手段により解決される。
【0011】
請求項1に記載の発明に係る軌道パッドは、ゴム状発泡体により構成されてレールとタイプレートとの間に介装されるパッド本体が、レール長手方向の両端部から下方側へ突出する突出部を有し、各前記突出部が前記タイプレートにおけるレール長手方向の端面に係合すると共に、前記パッド本体の前記両端部における前記レールとは反対側で且つ前記タイプレートとは反対側に面取り部が形成されている
【0012】
請求項2に記載の発明に係る軌道パッドは、請求項1において、前記ゴム状発泡体は、密度が0.50〜0.90g/cmであり、且つ、伸びが130%以上である。
【0013】
請求項3に記載の発明に係る軌道パッドは、請求項1又は2において、前記パッド本体における前記レール側の表面に積層されると共に、静摩擦係数が0.35以下である樹脂層を備えている。
【0014】
請求項4に記載の発明に係る軌道パッドは、請求項1〜3の何れか1項において、前記ゴム状発泡体は、架橋ウレタン発泡体である。
【0015】
請求項5に記載の発明に係る軌道パッドは、請求項4において、前記架橋ウレタン発泡体は、ウレタン原料として、ポリエーテル系ポリオールとMDI系のイソシアナートとを少なくとも用いて形成される。
【0016】
請求項6に記載の発明に係る軌道パッドは、請求項1〜5の何れか1項において、前記パッド本体の前記両端部には、前記タイプレートとは反対側へ突出し、前記突出部を補強する補強部が設けられている。
【0018】
本発明に係る軌道パッドでは、ゴム状発泡体により構成されてレールとタイプレートとの間に介装されるパッド本体が、レール長手方向の両端部から下方側へ突出する突出部を有している。これらの突出部がタイプレートにおけるレール長手方向の端面に係合することにより、本発明に係る軌道パッドがタイプレートから脱落し難くすることができる。
【0019】
また、レールの寒暖に伴う伸縮により、本発明に係る軌道パッドがタイプレートに対して位置ずれし、パッド本体の突出部がタイプレート等との干渉によって変形されたとしても、当該パッド本体が復元性の良好なゴム状発泡体により構成されているため、パッド本体の破壊ないし永久変形を防止又は抑制することに寄与する。その結果、本発明に係る軌道パッドが、上記のような位置ずれに起因して、万が一タイプレートから脱落したとしても、再使用が可能となることに寄与する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、タイプレートから脱落し難く、且つ、万が一脱落したとしても再使用が可能となることに寄与する軌道パッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る軌道パッドを含む軌道スラブをレール長手方向から見た断面図である。
図2図1に示される構成の一部を分解して示す分解斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係る軌道パッドの斜視図である。
図4】本発明の実施形態に係る軌道パッドの正面図である。
図5】本発明の実施形態に係る軌道パッドの平面図である。
図6】本発明の実施形態に係る軌道パッドの背面図である。
図7】本発明の実施形態に係る軌道パッドの右側面図である。
図8図6のF8−F8線に沿った切断面を示す断面図である。
図9図1に示される構成の一部をレール幅方向から見た断面図であり、図1のF9−F9線に対応した図である。
図10A】本発明の実施形態に係る軌道パッドがタイプレートに対して位置ずれした状態を示す図9に対応した断面図である。
図10B】本発明の実施形態に係る軌道パッドが図10Aとは異なる態様でタイプレートに対して位置ずれした状態を示す図9に対応した断面図である。
図11】本発明の実施形態の第1変形例に係る軌道パッドの斜視図である。
図12】第1変形例に係る軌道パッドの正面図である。
図13】第1変形例に係る軌道パッドの平面図である。
図14】第1変形例に係る軌道パッドの背面図である。
図15】第1変形例に係る軌道パッドの右側面図である。
図16図14のF16−F16線に沿った切断面を示す断面図である。
図17】本発明の実施形態の第2変形例に係る軌道パッドの斜視図である。
図18】第2変形例に係る軌道パッドの正面図である。
図19】第2変形例に係る軌道パッドの平面図である。
図20】第2変形例に係る軌道パッドの背面図である。
図21】第2変形例に係る軌道パッドの右側面図である。
図22図20のF22−F22線に沿った切断面を示す断面図である。
図23】本発明の実施形態の第3変形例に係る軌道パッドの部分的な構成を示す平面図である。
図24】本発明の実施形態の第4変形例に係る軌道パッドの部分的な構成を示す平面図である。
図25】本発明の実施形態の第5変形例に係る軌道パッドの部分的な構成を示す平面図である。
図26】比較例3に係る軌道パッドの正面図である。
図27】比較例3に係る軌道パッドの部分的な構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る軌道パッドについて説明する。
【0023】
本実施形態に係る軌道パッド10は、スラブ軌道や直結軌道等に設けられるパッドである。この軌道パッド10は、参考例とする。
具体的には、軌道スラブは、図1に示されるように、例えば、道床(不図示)上に配列されるまくら木20と、まくら木20上に固定されるタイプレート22と、タイプレート22上に固定されるレール24と、を備えている。
【0024】
なお、各図に適宜示される矢印UPは上方を示しており、矢印Lはレール24の長手方向(以下、レール長手方向と称する)を示しており、矢印Wはレール24の幅方向(以下、レール幅方向と称する)を示している。また、以下の説明に記載する「レール長手直交方向」は、レール長手方向と直交する方向のことである。
【0025】
上記のタイプレート22は、平板状に形成されたプレート本体22Aと、このプレート本体22Aの上面から上方に突出したレール底部24Aガイド用の一対の突壁22Bとを一体に備えている。一対の突壁22Bは、レール24の底部24Aの幅寸法に略一致する間隔を空けて起立しており、これらの突壁22Bの間にレール24が敷かれている。
【0026】
このタイプレート22は、例えば、プレート本体22Aの両端部がボルト28及びナット30により、まくら木20上に締め付け固定されている。レール24は、例えば、ボルト32及びナット34により一対の突壁22Bに締め付け固定された一対の板バネ26により、プレート本体22A上に押さえ付けられて固定されている。
【0027】
そして、レール24は、例えば、プレート本体22Aとの間に、可変パッド36(例えば樹脂注入式可変パッド)及び軌道パッド10を介した状態で固定されている。この可変パッド36は、レール高さ調節用のパッドであり、任意に設けられるパッドである。なお、図9に示される可変パッド36の厚さ寸法T4は、例えば9mmに設定されている。
【0028】
上記のようにして、本実施形態に係る軌道パッド10は、レール24とタイプレート22のプレート本体22Aとの間に介装される。この軌道パッド10は、図1図10に示すように、パッド本体であるゴム状発泡層12によって構成されており、所要のバネ定数を持っている。
【0029】
ゴム状発泡層12は、ゴム状発泡体によって構成されている。このゴム状発泡層12は、レール長手方向に長尺な略平板状に形成されており、板厚方向が上下方向に沿う姿勢でレール24と可変パッド36との間に配置されている。
【0030】
ゴム状発泡層12は、レール長手方向に長尺な平板状に形成された平坦部12Aと、該平坦部12Aの長手方向両端部12A1からレール長手直交方向(ここでは下方側)に突出した一対の突出部(停止部:ストッパ部)12Bとによって構成されている。このため、このゴム状発泡層12は、レール幅方向から見て下方側へ開口した逆凹形状(略逆U字状)に形成されている。
【0031】
平坦部12Aは、長手方向中間部12A2におけるレール幅方向の寸法W1(図4参照)が一対の突壁22Bの間隔と略一致する寸法に設定されており、当該長手方向中間部12A2が一対の突壁22Bの間においてレール24と可変パッド36との間に挟まれている。この平坦部12Aは、レール長手方向の寸法L1(図5参照)がタイプレート22におけるレール長手方向の寸法よりも長く形成されており、長手方向両端部12A1がタイプレート22からレール長手方向の両側に突出している。
【0032】
平坦部12Aの長手方向両端部12A1は、長手方向中間部12A2よりもレール幅方向の寸法W2(図4参照)が小さく設定されている。このため、平坦部12Aは、上下方向から見て略十字状(略X字状)に形成されている。
【0033】
一方、平坦部12Aの長手方向両端部12A1から下方側へ突出する一対の突出部12Bは、タイプレート22におけるレール長手方向の寸法よりも若干広い間隔を空けてレール長手方向に対向している(図9参照)。これらの突出部12Bは、プレート本体22Aの上面よりも下方へ突出しており、これらの突出部12Bの間には、可変パッド36及びプレート本体22Aの一部が配置されている。これらの突出部12Bと平坦部12Aとの間のコーナー部12Cは、レール幅方向から見て円弧形の曲面状に形成されている。
【0034】
ゴム状発泡層12における突出部12Bが設けられた部位の上下方向の寸法T1(図5参照)は、例えば、平坦部12Aの上下方向の寸法T2の2倍程度に設定されている。また例えば、これらの突出部12Bは、レール幅方向の寸法W2が、長手方向両端部12A1におけるレール幅方向の寸法W2と一致しており、レール長手方向の寸法L2(図5参照)が、平坦部12の厚さ寸法(上下方向寸法)T2よりも若干小さく設定されている。
【0035】
一方の突出部12Bは、可変パッド36及びプレート本体22Aにおけるレール長手方向一側の端面に係合(当接又は近接して対向)しており、他方の突出部12Bは、可変パッド36及びプレート本体22Aにおけるレール長手方向他側の端面に係合(当接又は近接して対向)している。このため、これらの突出部12Bによって、タイプレート22に対する軌道パッド10のレール長手方向の位置ずれが規制されている。
【0036】
本実施形態に係る軌道パッド10では、ゴム状発泡層12が、レール長手方向の両端部から下方側へ突出する一対の突出部12Bを有している。これらの突出部12Bがタイプレート22におけるレール長手方向の両端面に係合することにより、本軌道パッド10がタイプレート22から脱落し難くすることができる(図9参照)。その結果、本軌道パッド10が車両通過時に吹き飛ばされて車両に損傷を与えることや、レール24の絶縁部分に本軌道パッド10が接触することで生じる絶縁不良に起因して信号機故障が発生することを防止又は効果的に抑制できる。
【0037】
また、レール24の寒暖に伴う伸縮により、図10Aに示されるように、本軌道パッド10が可変パッド36及びタイプレート22に対して位置ずれし、ゴム状発泡層12の突出部12Bがタイプレート22や可変パッド36との干渉によって変形されたとしても、ゴム状発泡層12の良好な復元性によって、ゴム状発泡層12の破壊ないし永久変形を防止又は抑制することに寄与する。その結果、本軌道パッド10が、上記のような位置ずれに起因して、万が一タイプレート22から脱落したとしても、再使用が可能となることに寄与する。なお、図10Bに示されるように、可変パッド36が軌道パッド10に追随してタイプレート22に対して位置ずれする場合もある。このような場合、突出部12Bが斜めに変形するが、このような場合でも上記同様の作用効果を得ることができる。
【0038】
また、本実施形態では、突出部12Bと平坦部12Aとの間のコーナー部12Cが曲面状に形成されている。これにより、レール24の寒暖に伴う伸縮により、軌道パッド40がタイプレート22に対して位置ずれし、一方の突出部12Bが変形された際(図10参照)に、当該一方の突出部12B側のコーナー部12Cに応力が集中することを抑制できる。このコーナー部12Cの曲率半径R1は、2mm〜20mmの範囲内が好ましく、更に好ましくは、5mm〜10mmの範囲内である。当該範囲内に曲率半径R1を設定することで、上述の如き位置ずれに起因するゴム状発泡層12の破壊を効果的に防止又は抑制することができ、位置ずれ後の復元性も良好に確保することができる。
【0039】
さらに、本実施形態では、ゴム状発泡層12をパッド本体として設けることで、ゴム部材のように肉抜きをしなくても、そのウレタン原料の組成(イソシアナート濃度等)、発泡状態(独泡率等)、膜厚等を調製することより、容易に、目的とする軌道パッド10のバネ定数を制御でき、その復元性、耐久性及び耐摩耗性を確保することができる。
【0040】
しかも、軌道パッド10のパッド本体がゴム状発泡体によって構成されているため、タイプレート22から脱落し難い特殊形状を、液状原料により容易に製造することが可能である。
【0041】
なお、ゴム状発泡層12のレール24側の表面に樹脂製の摺動層(図示省略)を積層形成する構成にしてもよい。樹脂製の摺動層をレール24とゴム状発泡層12との間に介在させることにより、レール24に対する軌道パッド10の摺動性が高まるので、本軌道パッド10がタイプレート22から脱落し難くすることに寄与する。また、摺動層を構成する樹脂として、ゴム状発泡層12と接着性が高いものを選択することにより、摺動層とゴム状発泡層12との分離を防止又は効果的に抑制することが可能になる。その結果、長寿命化が実現されると共に、レール24の伸縮による煎断力と車両通過による振動が負荷されても、本軌道パッド10がレール24から離脱し難くすることができる。
【0042】
また、突出部12Bのレール長手方向寸法L2は、平坦部12Aの厚さ寸法の略100%から150%程度がタイプレート22から脱落し難く、更に脱落し難くするために、突出部12Bを補強する補強部(補強リブ)を設けることも好ましい。また、突出部12Bのレール幅方向寸法W2は、レール24の幅寸法の50%程度以上で、且つ最大で120%程度にすることが好ましく、一対の突壁22Bのレール幅方向の間隔よりも大きくしてもかまわない。また、突出部12Bの厚さ寸法T3は、プレート本体22Aの板厚と同等が好ましく、大きいほどタイプレート22から脱落し難い。
【0043】
また、本発明に係る軌道パッドの形状は、図1図10Bに示される軌道パッド10の形状に限らず、軌道スラブにおける介装態様などに応じて適宜変更可能である。
【0044】
例えば、図11図16に示される軌道パッド40(第1変形例)のように、ゴム状発泡層12の形状を設定してもよい。この軌道パッド40では、ゴム状発泡層12の長手方向両端部に、レール幅方向に並ぶ複数の補強リブ(補強部)12Dが一体に形成されている。これらの補強リブ12Dは、本軌道パッド40がレール24とタイプレート22との間に介装された状態において、タイプレート22とは反対側へ突出し、各突出部12Bをタイプレート22とは反対側から補強する。これらの補強リブ12Dによって、平坦部12Aに対する突出部12Bの折れ曲がりを抑制できるので、タイプレート22からの脱落し難さを向上させることができる。
【0045】
また、この軌道パッド40では、各補強リブ12Dにおける下端側には、曲面状の面取り部12Eが形成されている。これらの面取り部12Eが形成された部位は、軌道パッド40がレール24とタイプレート22との間に介装された状態において、ゴム状発泡層12のレール長手方向両端部におけるレール24とは反対側で且つタイプレート22とは反対側に位置する部位である。このため、タイプレート22に対して位置ずれした軌道パッド40が、レール24の寒暖に伴う伸縮によって正規の位置(図9参照)に戻される際に、一方の面取り部12Eが可変パッド36又はプレート本体22Aと摺接することにより、軌道パッド40が上記正規の位置に戻り易くなる。この面取り部12Eの曲率半径R2は、5mm〜20mmの範囲内が好ましく、更に好ましくは、10mm〜15mmの範囲内である。
【0046】
また例えば、図17図22に示される軌道パッド50(第2変形例)のように、ゴム状発泡層12の形状を設定してもよい。この軌道パッド50では、第1変形例に係る軌道パッド40のように、補強リブ12Dがレール幅方向に複数に分割されておらず、補強リブ12Dがレール幅方向に一体に繋がっている。この第2変形例においても、第1変形例と同様の作用効果を得ることができる。
【0047】
なお、補強リブ12Dの形状は、軌道パッド40、50のものに限らず、適宜変更可能である。例えば、図23に示される軌道パッド60(第3変形例)及び図24に示される軌道パッド70(第4変形例)のように、補強リブ12Dがレール幅方向から見て上方側へ向かうほどレール長手方向に厚くなるテーパー形状に形成された構成にしてもよい。また、図25に示される軌道パッド80(第5変形例)のように、補強リブ12Dがレール幅方向から見て円弧状に形成された構成にしてもよい。図11図25に示されるような補強リブ12Dの形状は、流動性が良好な原料でないと製造しにくいが、架橋ウレタン系の発泡原料を用いると複雑な形状でも成形が良いので好ましい。なお、第4変形例は、参考例とする。
【0048】
以下、上述した軌道パッド10、40、50、60、70、80の構成層の詳細について説明する。なお、以下の説明においては、符号を適宜省略する。
【0049】
(ゴム状発泡層)
ゴム状発泡層は、軌道パッドのバネに相当するもので、復元性が特に要求される層である。そして、特性を満たすために、当該層はゴム状発泡体で構成している。
【0050】
ゴム状発泡体は、所要のバネ定数(例えば15〜60MN/m)を持つ。そして、ゴム状発泡体は、密度が0.50〜0.90g/cmであり、且つ、伸びが130%以上であることが好ましい。密度が低いほどレールから引抜けが起きても軌道パッドにキズが付きにくいが、引抜き強度が低く、所要のばね定数を得られにくい。逆に、密度が大きいと脱落しにくいが、レールから抜ける時に傷つきやすい。一方、伸びは、130%未満ではレールから抜ける時に軌道パッドが引き千切れやすくなる。
【0051】
つまり、ゴム状発泡体は、密度および伸びを上記範囲とすると、レールから軌道パッドが脱落したとしても、軌道パッドの損傷が生じにくくなる。同様の点から、ゴム状発泡体は、密度が0.60〜0.90g/cmであり、且つ伸びが150〜400%であることがより好ましく、密度が0.70〜0.90g/cmであり、且つ伸びが160〜300%であることが更に好ましい。
【0052】
ゴム状発泡体としては、例えば、1)天然ゴム、SBR(スチレンブタジエン)、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)等の汎用のゴム類に、発泡剤および加硫剤を併用して成形された成形体、2)熱可塑性エラストマーに発泡剤を添加し、射出発泡等の方法で発泡成形した成形体が挙げられる。発泡剤としては、例えば、アゾジカーボンアミド(ADCA)、炭酸水素ナトリウム、クエン酸ソーダー等の汎用の発泡剤を単独又は組み合わせて使用したり、発泡マイクロカプセルを使用する。
【0053】
更に、ゴム状発泡体としては、液状の原料を用いて発泡成形したウレタン発泡体(特に架橋ウレタン発泡体)も挙げられる。
【0054】
これらゴム状発泡体の中でも、軌道パッドの諸特性を得る点で、架橋ウレタン発泡体が好ましい。特に、架橋ウレタン発泡体は、凹凸形状や、肉厚が変化する形状等の複雑な形状に成形可能な点でメリットがある。
ここで、以下、架橋ウレタン発泡体で構成したゴム状発泡層を「架橋ウレタン発泡層」とも称する。
【0055】
架橋ウレタン発泡体は、例えば、1)ウレタン原料として、ポリオール、イソシアネート、発泡剤、及び、必要に応じて鎖延長剤を含む混合原液をモールドに注入し成形する方法、2)当該混合原液を離型紙に塗布し加熱硬化後、所定形状に打抜く方法により形成できる。なお、ウレタン原料を含む混合原液には、発泡剤を含有し、その他の添加剤を含有してもよい。
【0056】
−ポリオール−
ポリオールは、例えば、ポリオキシプロピレンポリオール(PPG)、ポリオキシエチレンポリオール(PEG)、PPGとPEGの共重合物、ポリオキシテトラメチレンポリオール(PTMG)等のポリエーテル系ポリオールを用いることがよい。ポリエーテル系ポリオール(特に、PPG、PTMG)は、反応性と共に、耐加水分解性にも優れることから、架橋ウレタン発泡体の耐久性及び復元性が高まり易くなる。また、ポリエーテル系ポリオールは、粘度も低く取扱い性も高いという利点もある。
【0057】
ポリオールは、ポリエーテル系ポリオール以外に、ジカルボン酸(アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、ダイマー酸等)とグリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチルプロパンジオール、3−メチルペンタンジオール等)とを縮合させたポリエステルポリオール(PES)、ポリカプロラクトンポリオール(PCL)、ポリカーボネートポリオール(PCA)、(水添)ポリブタジエン系ポリオール、(水添)ポリイソプレン系ポリオール等も使用してもよい。
【0058】
なお、ポリオールは予め過剰当量のイソシアナートと反応させて末端NCO基のプレポリマーとして用いると、架橋ウレタン発泡体の復元性や強靭性が高まり好ましい。
【0059】
−イソシアナート−
イソシアナートは、例えば、トルエンジイソシアナート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)、粗製のMDI(cr−MDI)を用いることがよい。特に、ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)系のイソシアナートを用いると、反応性が高く、架橋ウレタン発泡体の耐久性及び復元性が高まり易くなり好ましい。
【0060】
−鎖延長剤−
鎖延長剤は、例えば、芳香族ジアミン(例えば4,4‘−ジアミノ−3,3’−ジクロロジフェニルメタン(MOCA)等)、分子量500以下グリコール又は多官能アルコール(例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、トリメチロールプロパン等)及びそれらのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物、ヒドロキノンのエチレンオキサイド付加物、レゾルシンのエチレンオキサイド付加物を用いることがよい。
【0061】
これらのうち、鎖延長剤としては、分子量200以下で1級アルコールの低分子ポリオールで、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ヒドロキノン、レゾルシンのエチレンオキシド付加物等が最も好ましい。
【0062】
−発泡剤その他の添加剤−
その他の添加剤は、発泡剤の他、必要に応じて、触媒、整泡剤等の周知の添加剤を用いる。
発泡剤は、例えば、水、低沸点の有機溶剤(シクロペンタン、ジクロロメタン等)、ハロゲン化炭化水素、これらの混合液等が用いられる。なお、ウレタンの発泡には、ポリオールやプレポリマーを空気や窒素を用いて気泡を巻き込む方法も取り得る。
触媒は、例えば、アミン系触媒やスズ系等の金属触媒が用いられる。
整泡剤は、例えば、ポリジメチルシロキサンとポリオキシアルキレンポリオールの共重合体を代表例としたシリコーン系化合物が用いられる。
【0063】
−ウレタンの架橋導入−
ウレタンに架橋を導入するには、ポリオール、イソシアナート、鎖延長剤のいずれかに2官能以上のものを用いることが好ましい。特に、末端NCO基のポリオールのプレポリマーを用いる場合、ウレタンに架橋を導入するには、末端NCO基のポリオールのプレポリマーを2官能にして、鎖延長材を2官能以上にすること、多官能イソシアナートを併用すること、又はこれらを併用することが、プレポリマーの合成の容易さと低粘度化できるため好ましい。
【0064】
−その他態様−
ゴム状発泡体は、独立気泡の発泡体であることがよい。ゴム状発泡体の気泡を独立気泡とすると、当該層が吸水し難くなり、耐久性が高まり易くなる。
ゴム状発泡体の引張り強さは、例えば、5〜20MPaがよく、好ましくは7〜15MPaである。
ゴム状発泡体の発泡倍率は、例えば、1.1〜2.3倍がよく、好ましくは1.1〜1.6倍である。
【0065】
−ゴム状発泡層の厚み−
ゴム状発泡の厚みは、例えば、1〜15mmがよく、好ましくは3〜13mmである。
【0066】
(摺動層)
摺動層は、レールと直接接触する表面層で、レールの伸縮により軌道パッドがずれないよう硬度が硬くなければならず、また滑り易い面とする必要がある。
このため、摺動層は、静摩擦係数0.35以下の樹脂層で構成することが好ましい。なお、静摩擦係数の下限値は軌道パッドの締結力によっても変化するが、例えば0.15程度である。
【0067】
摺動層を構成する静摩擦係数0.35以下の樹脂層としては、例えば、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂(例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等)、ナイロン樹脂(6ナイロン樹脂、66ナイロン樹脂)、ポリオキシメチレン樹脂、ポリエチレン樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂等)、エボナイト等の樹脂層が挙げられる。エボナイトの樹脂層は、ゴム状発泡層を形成するときに一体接着できるので好ましい。また、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のオレフィン系樹脂層は、オレフィン系熱可塑性エラストマーの発泡成形体であるゴム状発泡層を形成するときに同時接着できるので好ましい。
【0068】
一方、前述の樹脂層は、架橋ウレタン発泡層を形成するときに、ウレタン原料の接着性が良い事を利用して、架橋ウレタン発泡層と反応接着することもできる。その場合、これら樹脂層は、予めシート状に成形し、予め表面を機械的粗化処理(研磨、ブラスト処理等)、酸化処理(コロナ放電、プラズマ処理等)、又はプライマー処理などによる易接着処理を施しておくことが好ましい。また、これら樹脂層は、予めシート状に成形し、生産した、架橋ウレタン発泡層と接着剤を用いて接着してもかまわない。
【0069】
これら摺動層としての樹脂層の中でも、ウレタン樹脂層は、架橋ウレタン発泡体であるゴム状発泡層と同種樹脂のため接着性が良好で最も好ましい。また、高密度ポリエチレン、6ナイロン、又は66ナイロンの樹脂層は、表面処理を施すことで、架橋ウレタン発泡層を形成するときに反応接着しやすいので好ましい。
なお、高密度ポリエチレン、6ナイロン、又は66ナイロンの樹脂層は、静摩擦係数が低く軌道パッドとしての使用環境での適合性、長期耐久性及び耐摩耗性に優れるうえでも好ましい。
【0070】
高密度ポリエチレンとしては、密度0.94〜0.97g/cmのポリエチレンが用いられる。この密度の高密度ポリエチレンは、摺動層が良好で静摩擦係数が低く強靭であるため良好に使用しえる。特に、高密度ポリエチレンとして、超高分子量ポリエチレンと云われる粘度平均分子量(ASTMD2857)が50〜600万のもの用いると、摺動層の耐久性及び耐摩耗性がきわめて高くなるため好ましい。しかも、この高密度ポリエチレンとして超高分子量ポリエチレン製のシートを粗面化及び/またはコロナ放電で表面処理すると、架橋ウレタン発泡層との接着性も通常の高密度ポリエチレン製のシートより良好なので非常に好ましい。
6ナイロンと66ナイロンは汎用のグレードの物が使用しえるが、ナイロンにオレフィン系のエラストマーを配合した耐衝撃グレードを用いる事もできる。
【0071】
摺動層の厚みは、0.05〜2.5mmがよく、特に0.2〜1.0mmが耐久性及び作業性の観点から好ましい。
【0072】
(摺動層を有さない態様)
摺動層は、必要に応じて設けられる層である。この場合、軌道パッドは、ゴム状発泡層の単層体で構成される。つまり、ゴム状発泡層は、レールと直接接触する層で、レールの伸縮により軌道パッドがずれないよう、滑り易い面とする必要がある。
【0073】
このため、摺動層を設けない場合、ゴム状発泡層は、静摩擦係数が0.35以下であることが好ましい。なお、静摩擦係数の下限値は軌道パッドの締結力によっても変化するが、例えば0.15程度である。
【0074】
ゴム状発泡層の静摩擦係数を0.35以下とするには、ゴム状発泡層の組成を調整してもよいが、ゴム状発泡層に摺動性向上材を含ませることがよい。
【0075】
摺動性向上材は、例えば、シリコーン樹脂粉末、フッ素樹脂粉末、高密度ポリエチレン粉末、超高分子量ポリエチレン粉末、ポリプロピレン粉末、ポリオキシメチレン粉末、グラファイト粉末、二硫化モリブデン粉末からなる摺動粉末を用いる。その他、摺動性向上材と共に、摺動性向上助剤として液状のシリコーン油、フッ層化合物、金属石鹸等も併用してもよい。
【0076】
摺動性向上材は、ゴム状発泡層として、架橋ウレタン発泡層を適用する場合、分子中に活性水素基を有するシリコーン化合物を用いてもよい。この分子中に活性水素基を有するシリコーン化合物はウレタン原料に配合し、イソシアナートと反応させる。摺動性向上材としてのシリコーン化合物がイソシアナートと反応し、架橋ウレタン発泡層の静摩擦係数を低下させる。また、架橋ウレタン発泡層の吸水率を低下できる。
【0077】
分子中に活性水素基を有するシリコーン化合物としては、ポリジメチルシロキサンの末端及び側鎖の少なくとも一方にOH基、NH基、NH基、メルカプト基、又はこれら基の2種以上を有するシリコーン化合物が挙げられる。
【0078】
これらの分子中に活性水素基を有するシリコーン化合物の中でも、分子中にOH基を有するシリコーン化合物が最も好ましい。分子中にOH基を有するシリコーン化合物は、ウレタン原料との反応性が速度的に同じ程度なので、架橋ウレタン発泡層の製造がし易いメリットがある。
【0079】
分子中に活性水素基を有するシリコーン化合物としては、ポリジメチルシロキサン−末端OH基ポリアルキレンエーテル−グラフト共重合体も挙げられる。このシリコーン化合物を架橋ウレタン発泡層の製造する時に用いると、シリコーン整泡剤として機能すると共に、架橋ウレタン発泡層の静摩擦係数を制御できる。
【0080】
なお、これらの分子中に活性水素基を有するシリコーン化合物は、ウレタン原料に良く熔けるが、反応が進行すると同時に表面にブリードしてきて最終的には層表面に偏在するため摩擦係数の低下に効果があり、また組成に組みいられているため溶出するようなことがなく、長期間の効果が持続され易い。
【実施例】
【0081】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、配合量(含有量、添加量)に関する「部」、「%」はすべて質量基準である。
【0082】
(実施例1−1)
PTMG1000(三菱化学社製PTMG、分子量1000)100部とミリオネートP−MDI(日本ポリウレタン社製ピュアーMDI) 60.87部からなるプレポリマー100部に、ミリオネートP−MDI 11.1部、1,4−ブタンジオール/トリメチロールプロパン(75/25)10.94部、水0.1部、触媒としてジブチルチンジラウレート0.03部、及び、整泡剤SH−193(東レダウコ―ニング社製)0.5部を撹拌混合した。この発泡原液を所定のモールドに所定量注入し型閉めした。5分後100℃のオーブンにて10分間加熱硬化させた。その後、脱型して、架橋ウレタン発泡層の単層体で構成された製品を取り出した。
このようにして、図1図10に示されるタイプの軌道パッド10を製作した。この軌道パッド10では、図4に示されるW1を140mmに設定し、W2を80mmに設定し、W3を30mmに設定すると共に、図5に示されるL1を232mm、L2を10mm、T1を24mm、T2を10.8mm、T3を13.2mmに設定した。また、この軌道パッド10では、タイプレート接触面寸法(ここでは可変パッド36との接触面の寸法)を長さ178mm×幅140mmに設定した。また、この軌道パッド10では、コーナー部12Cの曲率半径R1を5mmに設定し、面取り部12Eの曲率半径R2を12mmに設定した。これらの曲率半径R1、R2については、以下に記載する他の実施例及び比較例においても同様に設定した。
【0083】
(実施例1−2)
モールドを変更した以外は、実施例1−1と同様な方法で、図11図16に示されるタイプの軌道パッド40を製作した。この軌道パッド40では、図12で示されるW1を140mmに設定し、W2を80mmに設定し、W3を30mmに設定し、W4を11mmに設定する共に、図13に示されるL1を260mmに設定し、L2を10mmに設定し、L3を24mmに設定し、T1を24mmに設定し、T2を10.8mmに設定し、T3を13.2mmに設定した。また、この軌道パッド10では、タイプレート接触面寸法を長さ178mm×幅140mmに設定した。
【0084】
(実施例1−3)
モールドを変更した以外は、実施例1−1と同様な方法で、図17図22に示されるタイプの軌道パッド50を製作した。この軌道パッド50では、図18に示されるW1を140mmに設定し、W2を80mmに設定し、W3を30mmに設定すると共に、図19に示されるL1を260mmに設定し、L2を10mmに設定し、L3を24mmに設定し、T1を24mmに設定し、T2を10.8mmに設定し、T3を13.2に設定した。また、この軌道パッド10では、タイプレート接触面寸法を長さ178mm×幅140mmに設定した。
【0085】
(実施例1−4)
ミリオネートP−MDIの代わりに、ミリオネートP−MDI/ミリオネートM−200(重量比=1/1)を11.55部で用いた以外は、実施例1−3と同様な方法で、図17図22に示されるタイプの軌道パッド50を製作した。
なお、ミリオネートP−MDI(日本ポリウレタン社製ピュアーMDI)は2官能イソシアナートであり、ミリオネートM−200(日本ポリウレタン社製)は多官能基数のイソシアナートである。
【0086】
(実施例1−5)
ミリオネートP−MDIの代わりに、ミリオネートM−200(日本ポリウレタン社製)を12部用いた以外は、実施例1−3と同様な方法で、図17図22に示されるタイプの軌道パッド50を製作した。
【0087】
(実施例1−6)
発泡剤としての水の量を調整した以外は、実施例1−4と同様にして、架橋ウレタン発泡体の密度が0.92g/cmで、図17図22に示されるタイプの軌道パッド50を製作した。
【0088】
(実施例2)
−ウレタン樹脂シートの作製−
PTMG650(三菱化学社製ポリテトラメチレングリコール、分子量650)100部とミリオネートP−MDI(日本ポリウレタン社製ジフェニルメタンジイソシアナート)158部よりなるプレポリマー140部に。14−ブタンジオール23部と触媒としてジブチルチンジラウレート0.05部とを撹拌した。この原料液をシリコーン離型処理されたポリエステルフィルム上に厚み1mm程度に塗布し、100℃で10分加熱硬化してウレタン樹脂シートを得た。得られたウレタン樹脂シートは、厚み1.2mm、A硬度97、静摩擦係数0.25で、磨耗試験による磨耗量は2mgであり、極めて強靭であった。
【0089】
−軌道パッドの作製−
ウレタン樹脂シートを、モールドの上面に敷いた以外は、実施例1−3と同様な方法で、ウレタン樹脂シートからなる摺動層と架橋ウレタン発泡層との積層体で構成され、図17図22に示されるタイプの軌道パッド50を製作した。
【0090】
(実施例3)
ウレタン樹脂シートの代わりに、厚み0.13mmの超高分子量ポリエチレン樹脂シート(作新工業社製)を使用した以外は、実施例2と同様な方法で、超高分子量ポリエチレン樹脂シートからなる摺動層と架橋ウレタン発泡層との積層体で構成され、図17図22に示されるタイプの軌道パッド50を製作した。
【0091】
(比較例1)
モールドを変更した以外は、実施例1−1と同様な方法で、全体寸法およびタイプレート接触面寸法が共に長さ178mm×幅140mm×厚み24mmである軌道パッドを作製した。この軌道パッドは、軌道パッド10において、平坦部12Aのみで構成したパッドである。
【0092】
(比較例2)
モールドを変更した以外は、実施例1−1と同様な方法で、図26図27に示されるタイプの軌道パッド100を製作した。この軌道パッド100では、平坦部12の長手方向両端部12A1からレール幅方向の両側へ突出部12Bを突出させた。また、これらの突出部12B及び長手方向両端部12A1の厚さ寸法T6は、平坦部12の厚さ寸法T5よりも小さく設定した。この軌道パッド100では、図26に示されるW1を140mmに設定し、W5を15mmに設定し、W6を170mmに設定し、L1を260mmに設定すると共に、図27に示されるL4を30mm、T5を12mm、T6を7mmに設定した。また、この軌道パッド10では、タイプレート接触面寸法を長さ178mm×幅140mmに設定した。
【0093】
(比較例3)
モールドの下面に、坪量1000g/mのガラスマット(日東紡社製)を敷きた以外は、比較例2と同様な方法で、ガラス繊維補強した架橋ウレタン発泡層の単層体で構成され、図26図27に示されるタイプの軌道パッド100を製作した。
【0094】
(比較例4)
エボナイトが積層された非発泡の天然ゴム(ゴム状非発泡層)の表面に、エボナイトが積層された軌道パッド(新日本エスライト工業、商品名EB材付軌道パッド)を準備した。この軌道パッドは、図26図27に示されるタイプの軌道パッド100と同様の形状に設定した。
【0095】
(実施例4)
オレフィン系熱可塑性エラストマーであるインフューズ9530(ダウケミカル社製、MFR 5)100部に対し、熱膨張性マイクロカプセル(松本油脂製薬社製マツモトマイクロスフィアーFN180SS)のポリエチレンマスターバッチ 5部を混合した。この混合物を射出成型機(日本製鋼所)のホッパーに投入し、金型にあらかじめ0.5mmのポリプロピレン樹脂シートをセットし、樹脂温度200℃にて射出しコアバック方式で発泡させて成形した。
これにより、ポリプロピレン樹脂シートからなる摺動層と、オレフィン系熱可塑性エラストマーの発泡体からなるゴム状発泡層との積層体で構成された軌道パッドを作製した。
なお、軌道パッドは、実施例1−1と同様の形状に成形した(図1図10参照)。ここで、ゴム状発泡層を観察したところ、一対の突出部(停止部:ストッパ部)のゴム充填性が悪い点が観察された。
【0096】
(実施例5)
EPDMゴム(住友化学社製E552)100部、シースト116(東海カーボン社製カーボンブラック)50部、ダイアナプロセスオイルPW32(出光興産社製パラフィン系プロセスオイル)60部、亜鉛華5部、ステアリン酸1部、加硫促進剤ノクセラーTS(大内新興化学社製)1.5部、加硫促進剤ノクセラーM(大内新興化学社製)0.5部、硫黄1.5、既膨張発泡マイクロカプセルMFL−100MCA(松本油脂製薬社製)10部を加圧ニーダーに投入し20分間混練した。金型にエボナイト未加硫シート2.0mmを載置し、前述の混練ゴムのシートを投入し、160℃で15分間加硫発泡させた。
これにより、エボナイトシートからなる摺動層と、EPDMゴムの発泡体からなるゴム状発泡層との積層体で構成された軌道パッドを作製した。
なお、軌道パッドは、実施例1−1と同様の形状に成形した(図1図10参照)。ここで、ゴム状発泡層を観察したところ、一対の突出部(停止部:ストッパ部)のゴム充填性が悪い点が観察された。
【0097】
(評価)
各例で得られた軌道パッドの物理特性を測定すると共に、各種試験を行い、評価を行った。
【0098】
以下、本実施例で行った各種測定方法及び各種試験について示す。なお、本発明の各種値は以下に示す測定方法により測定される値である。
【0099】
(測定方法)
−密度−
密度は、試験片の重量を重量および体積を測定し、式:密度=重量÷体積によって測定した。
【0100】
−発泡倍率−
発泡倍率は、発泡前の原料比重と発泡後の密度から、式:発泡倍率=原料比重÷発泡密度によって求めた。
【0101】
−引張り強さ、伸び、ばね定数−
引張り強さ、伸び、ばね定数は、JISE1117に準じて測定した。
【0102】
−静摩擦係数−
静摩擦係数は、JISK7125に準じ、鋼板上に軌道パッドの試験片(30mm×30mm×厚み)を置き、その試験片に荷重200gの分銅を載せる。試験片の一端をスピード50mm/分で引張り、初期の最大荷重を荷重(200g)で除した。
【0103】
(脱落試験:引抜最大荷重、破壊有無)
各例で得られた軌道パッドを60kgのレールの下面に接着剤にて固着した。次に、軌道パッドが固着したレールを、軌道パッドを下面にして、直8タイプレートに載置された可変パッド(厚み9mm)上に載せた。次に、タイプレートを直8締結ばね・ボルトで所定のトルク(ボルト軸力を7kNにする)でまくら木に固定した。この状態で、レールの片側より油圧ポンプにて定速で荷重を掛け、レールに接着された軌道パッドがタイプレートより引抜けるまで移動させる。このとき、レールにかかる荷重を連続して測定し、その中で最大の荷重値を「引抜き最大荷重」とした。また、抜け出した後の軌道パッドが破壊されているかについても観察した。
【0104】
(総合評価)
総合評価は、下記基準により評価した。
A(○):形状が良好で、脱落試験でも、引抜最大荷重が高く、軌道パッドの破壊もなかった。
B(△):形状不良、又は、脱落試験で軌道パッドの裂けが見られた。
C(×):脱落試験で、引抜最大荷重が低い、又は、軌道パッドの破壊が見られた。
【0105】
以下、各例の詳細と共に、物理特性の測定結果、各種試験の結果について、表1及び表2に一覧にして示す。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
上記結果から、本実施例の軌道パッドは、脱落試験において、引抜最大荷重が高く、軌道パッドの破壊も抑制されていることがわかる。
これにより、本実施例の軌道パッドは、タイプレートから脱落し難く、且つ、万が一脱落したとしても再使用が可能となることがわかる。
【符号の説明】
【0109】
10 軌道パッド
12 ゴム状発泡層(パッド本体)
12B 突出部
12D 補強リブ(補強部)
12E 面取り部
22 タイプレート
24 レール
40 軌道パッド
50 軌道パッド
60 軌道パッド
70 軌道パッド
80 軌道パッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
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図25
図26
図27