特許第6368636号(P6368636)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6368636シーム溶接方法及びこれを用いた熱交換器の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368636
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】シーム溶接方法及びこれを用いた熱交換器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/06 20060101AFI20180723BHJP
   F28F 3/12 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   B23K11/06 510
   F28F3/12 Z
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-254391(P2014-254391)
(22)【出願日】2014年12月16日
(65)【公開番号】特開2016-112597(P2016-112597A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 宏子
(74)【代理人】
【識別番号】100169247
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 佳世
(72)【発明者】
【氏名】中郷 政廣
(72)【発明者】
【氏名】藤井 栄
(72)【発明者】
【氏名】平出 貴史
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−75857(JP,A)
【文献】 特開平8−39261(JP,A)
【文献】 特開2003−33805(JP,A)
【文献】 特開昭55−42171(JP,A)
【文献】 特開平10−249522(JP,A)
【文献】 特開2001−334333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/06
F28F 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属板を積層した被溶接対象物を一対のローラ電極で押圧して挟み込み、当該ローラ電極を当該被溶接対象物の表面上で回転させながら、当該ローラ電極間に通電して当該被溶接対象物を溶接する方法であって、シーム溶接の終点となる前記被溶接対象物の縁端部に、当該被溶接対象物の両面のそれぞれの面と略同一平面を構成する補助板を固定してシーム溶接を行い、シーム溶接後に当該補助板を取り外すことを含むシーム溶接方法。
【請求項2】
請求項1のシーム溶接方法を用いたパネル式熱交換器の製造方法であって、
熱媒又は冷媒の流路を形成する凸部を少なくとも第1金属板と第2金属板のいずれか一方、あるいは、両方に備え、前記被溶接対象物は、当該第1金属板と当該第2金属板とからなり、前記補助板を、シーム溶接の終点となる前記被溶接対象物の縁端部に固定してシーム溶接を行い、シーム溶接後に当該補助板を取り外すことを含むパネル式熱交換器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、金属板のシーム溶接方法、特に、パネル式の熱交換器を構成する金属板のシーム溶接方法及びこれを用いたパネル式の熱交換器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばパネル式の熱交換器を構成する金属板の溶接などには、気密性を確保することができるシーム溶接方法が採用されている。このシーム溶接方法は、一対の円板状の電極ローラの間に被溶接対象物である重ね合わされた状態の金属板を挟み込み、当該金属板を押圧しながら回転移動する電極ローラに通電することにより、密着した金属板の間に電流が流れて金属板同士の接点に発生した電気抵抗による熱によって金属板同士を溶接する方法である。このシーム溶接方法では、電極ローラが金属板を押圧しながら回転することにより連続した線状の溶接が可能となる。
【0003】
例えば、特許文献1には、ワークの重ね部分のシーム溶接の従来技術として、「第1ワークと第2ワークとの重ね合わせ部分をシーム溶接する溶接方法であって、一対のローラ電極により上記重ね合わせ部分を挟んで、上記一対のローラ電極間に直流又は第1の周波数の電力を印加して上記重ね合わせ部分の所定領域を加熱すると共に、上記一対のローラ電極間に該第1の周波数とは異なる第2の周波数の電力を印加して上記所定領域の周辺領域を加熱することで、上記第1ワークと第2ワークとを溶接する金属材の溶接方法」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−274306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1等のような、従来のシーム溶接を行う溶接装置は、一対のローラ電極により、重ね合わせた複数の金属板を押圧して挟み込み、回転しながらシーム溶接する機構を備えている。このような溶接装置を用いてパネル式の熱交換器を製造した場合、使用時に該熱交換器の端部から熱媒又は冷媒が漏れ、該熱交換器が破壊されるという問題があった。
【0006】
この問題について本発明者らが鋭意検討した結果、ローラ電極間に挟み込まれた複数のの金属板が一定の圧力で押圧され、一定の電源で複数の金属板に所定の電流を流して電気抵抗熱によって溶接していることから、ローラ電極が、重ね合わせた複数の金属板の端部を通過する際に、押圧方向に滑り落ち、図6に示すように、被溶接対象物100を構成する金属板101、102の端部において肉減りを生じさせ、これが1つの要因となって熱媒又は冷媒の漏れや、熱交換器の破壊が生じることが明らかとなった。また、上記肉減りは、被溶接対象物100の厚さが厚くなるほど生じやすいことが明らかになった。
【0007】
そこで、本件発明は、肉減りを生じることなく金属板の端部まで安定して溶接することを可能とするシーム溶接方法及びこれを用いた熱交換器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件発明に係るシーム溶接方法は、複数の金属板を積層した被溶接対象物を一対のローラ電極で押圧して挟み込み、当該ローラ電極を当該被溶接対象物の表面上で回転させながら、当該ローラ電極間に通電して当該被溶接対象物を溶接する方法であって、シーム溶接の終点となる前記被溶接対象物の縁端部に、当該被溶接対象物の両面のそれぞれの面と略同一平面を構成する補助板を固定してシーム溶接を行い、シーム溶接後に当該補助板を取り外すことを含む。
【0009】
本件発明に係るパネル式熱交換器の製造方法は、上述したシーム溶接方法を用いた方法であって、熱媒又は冷媒の流路を形成する凸部を少なくとも第1金属板と第2金属板のいずれか一方、あるいは、両方に備え、前記被溶接対象物は、当該第1金属板と当該第2金属板とからなり、前記補助板を、シーム溶接の終点となる前記被溶接対象物の縁端部に固定してシーム溶接を行い、シーム溶接後に当該補助板を取り外すことを含む。
【発明の効果】
【0010】
本件発明によれば、被溶接対象物の縁端部に補助板を固定するため、ローラ電極がシーム溶接の終点となる被溶接対象物の縁端部を通過する際に、肉減りが発生することを効果的に防止することができる。従って、当該シーム溶接の終点となる被溶接対象物の縁端部まで、確実にシーム溶接することが可能となる。もって、溶接物に注入する流体の漏れを防ぐことができ、溶接物の破壊を抑制することができる。また、溶接物に注入する流体の漏れが生じる可能性が高い部分への肉盛り等の作業を軽減することができ、効率よくパネル式熱交換器等の溶接物を製造することができる。また、使用上問題のないパネル式熱交換器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態としてのシーム溶接方法を実施するシーム溶接装置の模式図である。
図2】被溶接対象物の縁端部に補助板を固定した状態でシーム溶接を行っている状態を示す斜視図である。
図3】熱交換器を構成する第1金属板及び第2金属板に補助板を固定した状態を示す平面図である。
図4図3の熱交換器の部分拡大側面図である。
図5】シーム溶接箇所を示したノズル装着後の熱交換器の平面図である。
図6】肉減りの状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のシーム溶接方法の実施の形態について、当該シーム溶接方法を実施する際に好適なシーム溶接装置を用いた方法を例に挙げて説明する。図1は当該シーム溶接装置Sの模式図を示す。当該シーム溶接装置Sは、第1ローラ電極10及び第2ローラ電極20とからなる一対のローラ電極を備える。
【0013】
第1ローラ電極10及び第2ローラ電極20は、円板状の導電性材料により構成される。第1ローラ電極10の回転面10Aは、複数の金属板を積層した被溶接対象物30の一面(例えば上面)31Aと対向して配置される。第2ローラ電極20の回転面20Aは、当該被溶接対象物30の他面(例えば下面)32Aと対向して配置される。
【0014】
被溶接対象物30は、例えば、2枚の金属板31、32を重ね合わせて積層することにより構成される。本発明において、被溶接対象物30を構成する金属板31、32は、例えば、軟鋼、チタン、アルミニウム等からなる材料、あるいは、ステンレス、ハステロイ等の合金からなる材料により構成される。なお、これらの金属板は、同じ材料から構成されていてもよいし、別の材料から構成されていてもよい。各金属板31、32は、板厚について特に制限はない。よって、各金属板31、32は同じ板厚であっても、異なる板厚であっても良い。
【0015】
また、当該被溶接対象物30を構成する金属板の積層枚数は、上述した2枚に限定されるものではなく、3枚以上であっても良い。さらに、本件発明において、被溶接対象物30は、複数の金属板の全体を重ね合わせてシーム溶接するものに限定されるものではなく、部分的に複数の金属板が重ね合わされ、当該重ね合わされた部分についてシーム溶接するものであっても良い。
【0016】
上述した第1ローラ電極10は、シャフト11を介して回転駆動モータ12に接続される。第2ローラ電極20は、シャフト21を介して回転駆動モータ22に接続される。さらに、第1ローラ電極10は、圧力を調整することにより、対向して配置される第2ローラ電極20に対して接近又は離間する方向に当該第1ローラ電極10を移動させる制御機構13を備える。同様に、第2ローラ電極20は、圧力を調整することにより、対向して配置される第1ローラ電極10に対して接近又は離間する方向に当該第2ローラ電極20を移動させる制御機構23を備える。これら制御機構13及び23により、被溶接対象物30は、第1ローラ電極10及び第2ローラ電極20で押圧されて保持される。なお、当該制御機構の構成についてはこれに限定されるものではなく、一方のローラ電極を固定し、他方のローラ電極を一方のローラ電極に対して接近又は離間する方向に移動させることにより、被溶接対象物30を押圧して保持しても良い。
【0017】
なお、各第1ローラ電極10及び第2ローラ電極20には、給電線14、24を介して電源15が接続され、一対のローラ電極間に溶接電流が供給される。
【0018】
第1ローラ電極10及び第2ローラ電極20は、上述した制御機構13、23により被溶接対象物30を挟み込んだ状態で、回転駆動モータ12及び22により、被溶接対象物30の一面31A及びこれと反対側に位置する他面32A上を回転しながら移動する。また、これらローラ電極10、20間に溶接電流が供給されることにより、被溶接対象物30を構成する金属板31、32同士の接点に電気抵抗熱を発生させ、当該金属板31、32同士を溶接する。
【0019】
次に、本発明に係るシーム溶接方法の具体的な工程について説明する。本発明に係るシーム溶接方法は、例えば、上述したシーム溶接装置Sを用いて、当該被溶接対象物30を溶接する方法であって、シーム溶接の終点となる被溶接対象物30の縁端部30Aに、被溶接対象物30の両面31A、32Aのそれぞれの面と略同一平面を構成する補助板40を固定してシーム溶接を行い、シーム溶接後に補助板40を取り外すことを含む。
【0020】
このように、被溶接対象物30をシーム溶接する際に、シーム溶接の終点となる被溶接対象物30の縁端部30Aに補助板40を固定することにより、補助板40を固定しない場合に生じる肉減りを抑制することができる。もって、パネル式の熱交換器の破壊を防ぐことができる。なお、上記肉減りは、被溶接対象物30の厚さが厚いほど生じやすいため、被溶接対象物30の厚さが厚いものに対して効果的である。
【0021】
ここで、被溶接対象物30の両面31A、32Aのそれぞれの面と略同一平面を構成する補助板40とは、被溶接対象物30の縁端部30Aまでシーム溶接した際に、該縁端部30Aに肉減りを生じさせない厚さであって、かつ、該縁端部30Aのシーム溶接が問題なく行うことができる厚さで構成された補助板40を意味する。
【0022】
したがって、補助板40は、被溶接対象物30と実質的に同じ厚さの板材を用いることが好ましい。このように、実質的に同じ厚さの板材を補助板40として用いて、被溶接対象物30の縁端部30Aに、当該補助板40の縁端部40Aを固定することにより、ローラ電極10、20の回転面10A、20Aと接する被溶接対象物30の一面31A及び他面32Aのそれぞれの面と、補助板40の一面40B及び他面40Cのそれぞれの面とが略同一平面に配置される。なお、被溶接対象物30の縁端部30Aの端面は必ずしも平らではないため、被溶接対象物30の縁端部30Aの端面と、補助板40の縁端部40Aの端面とを密着させて固定することはできない場合が多い。それゆえ、被溶接対象物30の縁端部30Aと、補助板40の縁端部40Aとの固定は、極力隙間が生じないように行うことが好ましい。
【0023】
ここで、被溶接対象物30と実質的に同じ厚さの補助板40は、通常、被溶接対象物30の板厚全体に対して0%〜−10%の範囲内の板厚であり、0%〜−7%の範囲内であることが好ましく、0%〜−5%の範囲内であることが特に好ましい。なお、補助板40の板厚が、被溶接対象物30の板厚全体に対して10%までの範囲で薄く形成されたものであればよいとしたのは、これら被溶接対象物30及び補助板40の表面を移動するローラ電極10、20の回転面10A、20Aが、被溶接対象物30の縁端部30Aまで所定の押圧力を加えながら移動することができ、支障なくシーム溶接を行うことができるからである。
【0024】
また、補助板40は、図1に示すように、被溶接対象物30と同様に、複数(図1では2枚)の金属板41、42を重ね合わせて構成したものであっても良いが、単体の金属板であってもよい。この際、補助板40は、被溶接対象物30を構成する金属板とそれぞれ異なる材料により構成しても良いが、被溶接対象物30を構成する各金属板31、32とそれぞれ同じ材料により構成することがより好ましい。これにより、シーム溶接による被溶接対象物30及び補助板40の板厚の変動を一定にすることができ、被溶接対象物30の縁端部30Aに肉減りを生じさせることなく、該縁端部30Aのシーム溶接を問題なく行うことができるからである。
【0025】
なお、補助板40の縁端部40Aの被溶接対象物30の縁端部30Aへの固定は、例えば、TIG溶接やMIG溶接などのアーク溶接により行うことができる。これ以外に、ピン等の金具を用いて、補助板40の縁端部40Aを被溶接対象物30の縁端部30Aに固定しても良い。
【0026】
また、補助板40が、複数の金属板を重ねて構成されている場合には、補助板40を構成する各補助板用金属板を、被溶接対象物30を構成する各金属板にそれぞれ固定してから、被溶接対象物30を構成する各金属板及び補助板40を構成する各補助板用金属板を重ね合わせてシーム溶接してもよい。また、各金属板を重ね合わせた状態の被溶接対象物30に、各補助板用金属板を重ね合わせた状態の補助板40を固定してから、シーム溶接してもよい。
【0027】
さらに、本発明における補助板40は、被溶接対象物30の縁端部30A側に固定させる縁端部40Aが少なくとも当該被溶接対象物30と実質的に同等の厚さであればよい。すなわち、補助板40は、被溶接対象物30に固定される縁端部40A側から、該縁端部40Aとは反対側の縁端部に向けて低く傾斜するようにテーパー形状に構成されていても良い。これにより、ローラ電極10、20が補助板40の端部を通過する際に生じる衝撃を緩和することができる。
【0028】
本発明に係るシーム溶接方法は、上述した補助板40を被溶接対象物30に固定した後、上述したようなシーム溶接装置Sを用いて被溶接対象物30のシーム溶接を行う。図2には縁端部30Aに補助板40を固定した被溶接対象物30の溶接を行っている状態を示す。
【0029】
ローラ電極10及び20が被溶接対象物30を挟み込んだ状態で、回転駆動モータ12、22を駆動することにより、ローラ電極10は、被溶接対象物30の一面31A上で回転すると共に、ローラ電極20は、被溶接対象物30の他面32A上で回転する。そして、ローラ電極10の回転面10Aは、被溶接対象物30の一面31Aから補助板40の一面40Bへの境界面を通過する際に衝撃を生じることなく回転する。同様に、ローラ電極20の回転面20Aは、被溶接対象物30の他面32Aから補助板40の他面40Cへの境界面を通過する際に衝撃を生じることなく回転する。よって、シーム溶接の終点となる被溶接対象物30の縁端部30Aに対し、金属板31と金属板32のシーム溶接を確実に行うことができる。なお、ローラ電極10、20間への溶接電流の供給は、少なくとも、ローラ電極10、20の回転面10A、20Aが被溶接対象物30から補助板40への境界部分を超えた直後まで行えばよい。そして、当該シーム溶接が完了した後、被溶接対象物30から補助板40を切断等により取り外す。
【0030】
以上、詳述したように、本発明によれば、複数の金属板31、32を積層した被溶接対象物30を一対のローラ電極10、20で押圧して挟み込み、当該ローラ電極10、20を被溶接対象物30の表面31A、32A上で回転させながら、当該ローラ電極10、20間に通電して被溶接対象物30をシーム溶接する場合において、シーム溶接の終点となる被溶接対象物30の縁端部30Aに、被溶接対象物30の両面のそれぞれの面31A、32Aと略同一平面を構成する補助板40を固定してシーム溶接を行うことにより、肉減りを生じることなく、シーム溶接の終点となる被溶接対象物の縁端部まで確実にシーム溶接することが可能となる。もって、溶接物に注入する流体の漏れを防ぐことができ、溶接物の破壊を抑制することができる。また、溶接物に注入する流体の漏れが生じる可能性の高い部分への肉盛り等の作業を軽減することができ、効率よくパネル式熱交換器等の溶接物を製造することができる。
【0031】
次に、本発明のシーム溶接方法を適用したパネル式熱交換器の製造方法について説明する。本発明を適用したパネル式熱交換器の製造方法は、第1金属板と第2金属板との間に、熱媒又は冷媒が流通する流路が形成された熱交換器の製造方法であり、第1金属板と第2金属板との溶接方法として、上述した本発明に係るシーム溶接方法を採用する。
【0032】
以下、具体的に図3図5を参照して説明する。図3は熱交換器50を構成する第1金属板51及び第2金属板52に補助板60を固定した状態を示す平面図を、図4図3の熱交換器50の部分拡大側面図を、図5はシーム溶接箇所を示したノズル装着後の熱交換器50の平面図を、それぞれ示している。
【0033】
熱交換器50を構成する第1金属板51及び第2金属板52は、上述したシーム溶接方法において被溶接対象物30の構成に用いた金属板31、32と同様に、例えば、軟鋼、チタン、アルミニウム等からなる材料、あるいは、ステンレス、ハステロイ等の合金からなる材料により構成される。第1金属板51及び第2金属板52は、少なくとも一方、あるいは、両方に、熱媒又は冷媒の流路54を形成する凸部53がプレス加工などにより形成されている。第1金属板51又は第2金属板52のどちらか一方のみが流路54を形成する凸部53が成形された流路形成金属板である場合、他方を平板状の金属板としてもよい。また、第1金属板51及び第2金属板52の両者を積層し、溶接した際に、流路54を形成する凸部53が成形された流路形成金属板を用いても良い。なお、図4に示すように、本実施の形態において示す熱交換器50は、第1金属板51及び第2金属板52の両者に流路54を形成する凸部53が成形されている。
【0034】
そして、第1金属板51と第2金属板52とを重ね合わせ積層体とした状態で、これら第1金属板51と第2金属板52との間には、流路54が連通して形成される。当該流路54の両端部54A、54Aは、第1金属板51と第2金属板52とを重ね合わせて構成される熱交換器50の縁端部50A(上記積層体の縁端部でもある。)に位置し、外部に開口して形成される。そして、流路54の両端部54A、54Aは、いずれか一方が、熱媒又は冷媒の入口を形成し、他方が、熱媒又は冷媒の出口を形成する。そして、これら入口及び出口には、外部と接続するためのノズル55、55が取り付けられる。
【0035】
上述した熱交換器50を製造する場合には、まず、第1金属板51と第2金属板52とを重ね合わせ積層体を形成する。この際、第1金属板51と第2金属板52との間に、流路54が形成される。第1金属板51と第2金属板52とを重ね合わせてシーム溶接する場合、これらがずれることを防止するため、後段のシーム溶接工程を行う前に、アーク溶接や固定具などによって第1金属板51と第2金属板52とを仮止めして固定する。アーク溶接による仮止めとしては、例えば、TIG溶接、MIG溶接などのアーク溶接により複数箇所を仮止めする方法を挙げることができる。当該仮止めの方法は、これに限定されるものではなく、従来より採用されているいずれの仮止め方法を適用することができる。
【0036】
次に、第1金属板51と第2金属板52とを重ね合わせた積層体において、シーム溶接の終点となる縁端部50A、すなわち、縁端部50Aまでシーム溶接する部分に、補助板60を固定する。補助板60は、上記シーム溶接方法で説明したように、該補助板60の縁端部60Aを積層体の縁端部50Aに固定する。補助板60は、上記シーム溶接方法で説明したものと同様のものを用いることができる。なお、補助板60の固定は、シーム溶接方法と同様に、第1金属板51と第2金属板52とを仮止めしてから行ってもよいし、第1金属板51と第2金属板52とを仮止めする前に第1金属板51及び第2金属板52に対して行ってもよい。シーム溶接の終点となる縁端部50Aに補助板60を固定することによって、シーム溶接装置Sのローラ電極10、20の回転面10A、20Aとそれぞれ接触する第1金属板51の表面51A、及び第2金属板52の表面52Aと、補助板60の一面60B及び他面60Cとが略同一平面に配置される。
【0037】
積層体への補助板60の固定は、上記シーム溶接方法で説明したように、例えば、アーク溶接により行っても良いが、ピン等の金具を用いて固定しても良い。
【0038】
補助板60は、上記シーム溶接方法で説明したように、単体の金属板により構成しても良いが、図4に示す熱交換器50を構成する第1金属板51及び第2金属板52とそれぞれ同じ材料から構成されていてもよく、異なる材料で構成されていてもよい。
【0039】
補助板60を上記積層体に固定した後、該積層体を構成する第1金属板51と第2金属板52のシーム溶接を行う。この際、シーム溶接は、ローラ電極10、20を回転させて流路54を縁取るようにして行う。一例として、図5に上記積層体のシーム溶接を行う部分を太線にて示す。
【0040】
上記積層体のシーム溶接を行う際にも、シーム溶接の終点となる縁端部50Aには、積層体を構成する第1金属板51及び第2金属板52の両面51A、52Aのそれぞれの面と略同一平面を構成する補助板60が固定されている。
【0041】
ローラ電極10及び20が上記積層体を挟み込んだ状態で、回転駆動モータ12、22を駆動することにより、ローラ電極10は、積層体の一面51A上で回転すると共に、ローラ電極20は、積層体の他面52A上で回転する。そして、ローラ電極10の回転面10Aは、積層体の一面51Aから補助板60の一面60Bへの境界面を通過する際に衝撃を生じることなく回転する。同様に、ローラ電極20の回転面20Aは、積層体の他面52Aから補助板60の他面60Cへの境界面を通過する際に衝撃を生じることなく回転する。よって、シーム溶接の終点となる積層物の縁端部50Aに対し、第1金属板51と第2金属板52のシーム溶接を確実に行うことができる。なお、ローラ電極10、20間への溶接電流の供給は、少なくとも、ローラ電極10、20の回転面10A、20Aが積層体から補助板60への境界部分を超えた直後まで行えばよい。
【0042】
そして、上述したような当該シーム溶接が完了した後、積層体から補助板60を切断等により取り外す。その後、積層体の流路54の端部54Aにノズル55を、例えば、溶接などの方法により取り付けて熱交換器50を得る。このノズル55の取り付けの際、流路54の端部54Aのシーム溶接を行った箇所についても、ノズル55を取り付ける溶接と重ねて溶接を行うことが好ましい。
【0043】
以上、詳述したように、本願発明に係るシーム溶接方法を用いてパネル式熱交換器の製造を行った場合、第1金属板51及び第2金属板52を積層して構成される積層物の端部50Aに肉減りを生じることなく、シーム溶接の終点となる積層物の縁端部まで確実にシーム溶接を行うことが可能となる。もって、当該パネル式熱交換器の流路54を通過する熱媒又は冷媒の漏れを防ぐことができ、パネル式熱交換器の破壊を抑制することができる。また、パネル式熱交換器の流路54を通過する熱媒又は冷媒の漏れが生じる可能性の高い部分への肉盛り等の作業を軽減することができ、効率よくパネル式熱交換器を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明にかかるシーム溶接方法は、被溶接対象物の縁端部において肉減りを生じることなく、確実にシーム溶接を行うことを可能とするものである。よって、本発明は、シーム溶接の終点が被溶接対象物の縁端部であって、当該部分を含め、確実にシーム溶接を行うことが要求されるパネル式熱交換器等の被溶接対象物の溶接を行う場合に、特に有用である。
【符号の説明】
【0045】
S シーム溶接装置
10 第1ローラ電極
10A、20A 回転面
11、21 シャフト
12、22 回転駆動モータ
13、23 制御機構
14、24 給電線
15 電源
20 第2ローラ電極
30 被溶接対象物
30A 縁端部
31、32 金属板
31A 被溶接対象物の一面
32A 被溶接対象物の他面
40、60 補助板
40A、60A 縁端部
40B、60B 補助板の一面
40C、60C 補助板の他面
41、42、61、62 金属板
50 熱交換器
50A 縁端部
51 第1金属板
52 第2金属板
53 凸部
54 流路
54A 端部
55 ノズル
図1
図2
図3
図4
図5
図6