【実施例】
【0042】
以下、実施例の中間転写ベルトについて、図面を用いて説明する。
【0043】
(実施例1)
実施例1の中間転写ベルトについて、
図1、
図2を用いて説明する。
図1、
図2に示されるように、本例の中間転写ベルト1は、電子写真方式の画像形成装置に用いられる。中間転写ベルト1は、筒状に形成された基層2と、基層2の外周に積層されたゴム弾性層3と、ゴム弾性層3の外周に積層された表層4とを有している。つまり、中間転写ベルト1は、基層2の外周面に沿ってゴム弾性層3、ゴム弾性層3の外周面に沿って表層4が順に積層された三層構造を有している。なお、
図1では、詳細なベルト層構成が省略されている。
【0044】
本例では、具体的には、基層2は、ポリイミドまたはポリアミドイミドより形成されている。ゴム弾性層3は、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、および、ブタジエンゴムからなる群より選択される1種または2種以上のゴムと、分子内にイソシアネート基を2個以上有する多価イソシアネートとを含有するゴム弾性層用材料を用いて形成されている。基層2は、電子導電剤を含有することにより導電性を有している。ゴム弾性層3は、イオン導電剤を含有することにより導電性を有している。
【0045】
ここで、表層4は、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムを含むマトリックスポリマー41と、マトリックスポリマー41中に充填された多数の球状微粒子42とを有している。
図2に示されるように、多数の球状微粒子42は、表層4の厚み方向に積み重なった状態で表層4の面内方向に広がって存在している。そして、表層4は、その表面に、多数の球状微粒子42によってマトリックスポリマー41が隆起して形成された表面凹凸43を有している。
【0046】
本例では、具体的には、表層4における球状微粒子42の含有量が、5〜45体積%の範囲内とされている。また、球状微粒子42の平均粒子径が、0.1以上3μm未満の範囲内とされている。表層4は、具体的には、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムを含むマトリックスポリマーと、多数の球状微粒子とを含有する表層用材料を用いて形成されている。表層4は、電子導電剤を含有することにより導電性を有している。
【0047】
以下、異なる構成を有する中間転写ベルトの試料を複数作製し、評価を行った。その実験例について説明する。
【0048】
(実験例)
<基層用材料の調製>
ポリアミドイミド(PAI)(東洋紡績社製、「バイロマックスHR−16NN」) あるいは、ポリイミド(PI)(新日本理化社製、「リカコートEN−20」)100質量部と、電子導電剤(カーボンブラック)(電気化学工業社製、「デンカブラック」)10質量部と、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)800質量部とを混合することにより、PAI系の基層用材料、PI系の基層用材料を調製した。
【0049】
<ゴム弾性層用材料の調製>
ゴム弾性層用材料に用いられる各材料として以下のものを準備した。
・水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)(日本ゼオン社製、「Zetpol 1020」)
・アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)(日本ゼオン社製、「ニポール DN3335」)
・ブタジエンゴム(BR)(日本ゼオン社製、「ニポール BR1220」)
・加硫促進剤(1)(三新化学社製、「サンセラーDM」)
・加硫促進剤(2)(三新化学社製、「サンセラーTT」)
・加硫剤(硫黄粉末)(鶴見化学工業社製、「イオウPTC」)
・滑剤(ステアリン酸)(日油社製、「ステアリン酸さくら」)
・受酸剤(酸化亜鉛)(正同化学工業社製、「酸化亜鉛2種」)
・多価イソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体)(東ソー社製、「コロネートHL」)
・有機系難燃剤(ホスファゼン誘導体)(伏見製薬所社製、「ラビトルFR−110」)
・無機系難燃剤(水酸化アルミニウム)(昭和電工社製、「ハイジライトH−42M」)
・イオン導電剤(テトラブチルアンモニウムブロマイド:TBAB)(富士純薬社製)
【0050】
後述の表2に示される各材料を、固形分が25質量%となるようにシクロヘキサノン中に、表2に示される各配合割合にて配合し、混合することにより、液状の各ゴム弾性層用材料を調製した。
【0051】
<表層用材料の調製>
表層用材料に用いられる各材料として以下のものを準備した。
・上記水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)
・上記アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)
・アクリル樹脂(根上工業社製、「パラクロンW−248E」)
・上記加硫促進剤(1)
・上記加硫促進剤(2)
・上記加硫剤(硫黄粉末)
・上記滑剤(ステアリン酸)
・上記受酸剤(酸化亜鉛)
・上記多価イソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体)
・上記有機系難燃剤(ホスファゼン誘導体)
・上記電子導電剤(カーボンブラック)
・球状微粒子(1)(球状架橋アクリル樹脂微粒子、平均粒子径0.8μm)(綜研化学社製、「MX−80H3wt」)
・球状微粒子(2)(球状架橋アクリル樹脂微粒子、平均粒子径1.0μm)(綜研化学社製、「MX−100」)
・球状微粒子(3)(球状架橋アクリル樹脂微粒子、平均粒子径0.4μm)
球状微粒子(3)は、分級機(マツボー社製、「エルボージェット分級機LABO」)を用いて、上記球状微粒子(1)を分級加工することにより得た。
・球状微粒子(4)(球状架橋アクリル樹脂微粒子、平均粒子径3.0μm)(綜研化学社製、「MX−300」)
・非球状微粒子(多孔質シリカ微粒子、平均粒子径0.8μm)
非球状微粒子は、上記分級機を用いて、多孔質シリカ微粒子(平均粒子径3.0μm、富士シリシア化学社製、「サイリシア430」)を分級加工することにより得た。
【0052】
後述の表2に示される各材料を、固形分が10質量%となるようにシクロヘキサノン中に、表2に示される各配合割合にて配合し、混合することにより、液状の各表層用材料を調製した。
【0053】
<中間転写ベルト試料の作製>
基体として、アルミニウム製の円筒状金型を準備した。また、1つのノズルを有するディスペンサ(液体定量吐出装置)を準備した。このディスペンサのノズルは、内径φ=1mmのニードルノズルである。次いで、上記調製した所定の基層用材料、ゴム弾性層用材料、および、表層用材料を、それぞれ別のエアー加圧タンクに収容し、金型の外周面とノズルとのクリアランスを1mmとして、金型およびノズルをセットした。次いで、金型を垂直にした状態で、回転数200rpmで軸中心に回転させながら、基層用材料を吐出するノズルを、1mm/secの移動速度で軸方向下方に移動させるとともに、エアー加圧タンクに0.4MPaの圧力をかけて基層用材料をノズルに圧送し、ノズルから基層用材料を吐出させ、金型の外周面上にらせん状に塗工した。これにより、らせん状塗膜の連続体からなる全体塗膜を形成した。次いで、形成された全体塗膜に対して、2時間で常温から250℃まで昇温し、250℃で1時間保持するという条件にて熱処理を施した。これにより、金型の外周面上に、筒状に形成された基層(厚み80μm)を形成した。
【0054】
次に、上記基層が形成された金型を、回転数200rpmで軸中心に回転させながら、所定のゴム弾性層用材料を吐出するノズルを、1mm/secの移動速度で軸方向下方に移動させるとともに、エアー加圧タンクに0.8MPaの圧力をかけてゴム弾性層用材料をノズルに圧送し、ノズルからゴム弾性層用材料を吐出させ、金型の外周面上にある基層表面にらせん状に塗工した。これにより、らせん状塗膜の連続体からなる全体塗膜を形成した。次いで、形成された全体塗膜に対して、3時間で常温から170℃まで昇温し、170℃で30分間保持するという条件で熱処理を施した。これにより、基層の外周面に沿って、ゴム弾性層(厚み200μm)を積層した。
【0055】
次に、上記ゴム弾性層が形成された金型を、回転数100rpmで軸中心に回転させながら、所定の表層用材料を吐出するノズルを、1mm/secの移動速度で軸方向下方に移動させるとともに、エアー加圧タンクに0.8MPaの圧力をかけて表層用材料をノズルに圧送し、ノズルから表層用材料を吐出させ、金型の外周面上にあるゴム弾性層表面にらせん状に塗工した。これにより、らせん状塗膜の連続体からなる全体塗膜を形成した。次いで、形成された全体塗膜に対して、30分間で常温から170℃まで昇温し、170℃で30分間保持するという条件で熱処理を施した。これにより、ゴム弾性層の外周面に沿って、表層(厚み15μm)を積層した。
【0056】
なお、本例では、上記表層が形成された金型を、回転数60rpmで軸中心に回転させながら、紫外線照射機(アイグラフィックス社製、「UB031−2A/BM」(水銀ランプ形式))を用いて、照射強度120mW/cm
2、照射時間30秒、光源と表層表面との距離100mmという条件にて、表層表面に紫外線を照射し、表層にUV処理を施した。但し、表層にアクリル樹脂を用いた試料10は、上記UV処理が施されていない。
【0057】
次いで、基層の一端縁と金型の外周面との間に高圧エアーを吹き込み、金型を抜き取った。以上により、試料1〜試料12の中間転写ベルトを作製した。
【0058】
試料1〜9の中間転写ベルトについて、表層表面に垂直な断面を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、表層を構成するマトリックスポリマー中に充填された多数の球状微粒子が、表層の厚み方向に積み重なった状態で表層の面内方向に広がって存在していることが確認された。また、表層表面をレーザー顕微鏡にて観察したところ、
図3に代表して示されるように、表層表面に露出する球状微粒子はほとんど見られず、表層表面には、多数の球状微粒子によってマトリックスポリマーが隆起して形成された緩やかな表面凹凸が確認された。
【0059】
<一次転写性>
作製した各中間転写ベルトを、電子写真方式を採用するカラープリンタ(沖データ社製、「MICROLINE VINCI C941dn」)の中間転写ベルトとして組み込み、ベタパターンの細線(線幅:0.5mm)を形成するためのトナー像を、中間転写ベルトの表層表面に一次転写させた。その後、一次転写されたトナー像を顕微鏡にて観察した。トナー像に、凝集したトナーの脱落部分が確認されなかった場合を、中抜け現象が生じていないとして「A」とした。トナー像に、凝集したトナーの脱落部分が確認された場合を、中抜け現象が生じているとして「C」とした。
【0060】
<耐オゾン性>
回転駆動装置が有する、直径10mmの駆動側ローラと、直径10mmの従動側ローラとの間に、作製した各中間転写ベルトを架け回した。この際、試料の中間転写ベルトにかかる張力は、片側2kgfに調整した。そして、オゾン濃度が質量比で5ppmである空気雰囲気中に暴露しながら、回転数40rpmにて、試料の中間転写ベルトを50時間回転させた。その後、張架した状態のまま、ベルト表面である表層表面のクラックの有無を確認した。100倍率のマイクロスコープにてクラックが確認されなかった場合を、オゾン劣化によるベルト表面のクラックが抑制されているとして「A」とした。100倍率のマイクロスコープにてクラックが確認された場合を、オゾン劣化によるベルト表面のクラックが抑制されていないとして「C」とした。
【0061】
<密着性>
作製した中間転写ベルトを、40℃×95%RHの環境下に1週間放置した。その後、各中間転写ベルトにおける表層とゴム弾性層との密着性を、JIS K5400に準拠し、碁盤目テープ試験により調査した。具体的には、表層表面にカッターナイフ(オルファ社製、「小型刃」)を用いて、ゴム弾性層に達する切り込みを、間隔1mmにて11本引いた後、90°向きを変えてさらに11本引いた。これにより、表層表面に100マスの碁盤目を形成した。次いで、粘着テープ(3M社製、「PTFEテープ」)(幅25mm)を約50mmの長さで付着するように上記碁盤目に貼り付けた後、粘着テープ上に5kgの荷重を5分間かけて放置することにより、粘着テープを碁盤目に十分に密着させた。次いで、粘着テープの端を持ち、表層表面に対して粘着テープが直角となるように保ちつつ、瞬間的に粘着テープを引き剥がした。そして、粘着テープ側を確認し、表1に示されるように0〜5までの6段階にて評価した。具体的には、粘着テープにどの格子の表層も付着せず、粘着テープに変化がなかった場合を「5」とした。また、表1に示される程度に応じて粘着テープに表層が付着した場合を、「4」、「3」、「2」、「1」、または、「0」とした。
【0062】
【表1】
【0063】
<クリーニング性>
試料1〜試料9の中間転写ベルトを、電子写真方式を採用するカラープリンタ(沖データ社製、「MICROLINE VINCI C941dn」)の中間転写ベルトとして組み込み、単色全面ベタ画像にて画像形成後、クリーニングブレードによりベルト表面である表層表面をクリーニングした。その後、目視にて表層表面を確認した。トナーの掻き取り残りがない場合を、クリーニング性に優れるとして「A」とした。また、許容範囲内であるが、わずかにトナーの掻き取り残りが見られた場合を「B」とした。
【0064】
表2、表3に、各中間転写ベルトの詳細な構成および評価結果をまとめて示す。
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
上記結果によれば、以下のことがわかる。すなわち、試料10の中間転写ベルトは、表層が、アクリル樹脂に添加された非球状微粒子によって形成された表面凹凸を有している。そのため、試料10の中間転写ベルトは、一次転写時に、感光体によって表層表面にトナー像が押さえ付けられた場合に、トナーにかかる応力が十分に緩和されず、中抜け現象を抑制することができなかった。これは、非球状微粒子を用いているので、非球状微粒子が表層内にて面内方向に逃げ難かったためであると考えられる。また、アクリル樹脂が硬いため、表面凹凸の変形が少なかったことも原因として考えられる。
【0068】
また、試料11の中間転写ベルトは、表層を構成するマトリックスポリマーがアクリロニトリル−ブタジエンゴムであり、表層中にアクリロニトリル−ブタジエンゴムよる二重結合が多く含まれている。そのため、表層がオゾンに暴露されると、表層中の二重結合がオゾンにより切断され、オゾン劣化によるクラックが発生した。また、試料11の中間転写ベルトは、試料10の中間転写ベルトと同様に、表層表面の表面凹凸が非球状微粒子によって形成されているため、中抜け現象を抑制することができなかった。
【0069】
また、試料12の中間転写ベルトは、表層を構成するマトリックスポリマーがアクリロニトリル−ブタジエンゴムである。また、表層が球状微粒子を含んでいない。つまり、表層表面は、球状微粒子による微細な表面凹凸がなく、平滑である。そのため、試料12の中間転写ベルトは、一次転写時の中抜け現象、オゾン劣化によるベルト表面のクラックのいずれも抑制することができなかった。
【0070】
これらに対し、試料1〜試料9の中間転写ベルトは、表層を構成するマトリックスポリマー中に充填された多数の球状微粒子が、表層の厚み方向に積み重なった状態で表層の面内方向に広がって存在している。そして、表層表面に、これら多数の球状微粒子によってマトリックスポリマーが隆起して形成された表面凹凸を有している。そのため、一次転写時に、感光体によって表層表面にトナー像が押さえ付けられた場合に、表面凹凸が変形するとともに内部に配置された球状微粒子が面内方向に逃げやすい。その結果、トナーにかかる応力が緩和され、トナー同士が凝集し難くなり、一次転写時における中抜け現象を抑制することができる。
【0071】
また、ベルト表面を構成する表層に用いられている水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムは、アクリロニトリル−ブタジエンゴム中の二重結合が水素化されているため、オゾンにより切断される二重結合が少なく、オゾン劣化し難い。そのため、試料1〜試料9の中間転写ベルトは、オゾン劣化による表層表面のクラックを抑制することができる。
【0072】
さらに、試料1〜試料9の中間転写ベルト同士を比較すると、以下のことがわかる。
【0073】
試料1〜試料9の中間転写ベルトは、ゴム弾性層の形成に用いられるゴム弾性層用材料が、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、および、ブタジエンゴムからなる群より選択される1種または2種以上のゴムを含んでいる。そのため、試料1〜試料9の中間転写ベルトは、表層とゴム弾性層との密着性が高い。とりわけ、試料1、試料4〜試料9は、表層およびゴム弾性層に同じ材質の水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムが用いられている。そのため、試料1、試料4〜試料9は、表層とゴム弾性層との密着性がより一層高くなっている。
【0074】
また、試料1〜試料8の中間転写ベルトは、球状微粒子の平均粒子径が0.1〜3μm未満にある。そのため、表層表面に、一次転写時における中抜け現象の抑制に適度な大きさの表面凹凸が確保される一方、過度に大きな表面凹凸が表層表面に形成され難い。それ故、試料1〜試料8の中間転写ベルトは、クリーニングブレードによって表層表面がクリーニングされた際に、トナーの掻き取り残りが生じ難く、トナークリーニング性にも優れる。
【0075】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。