特許第6368656号(P6368656)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368656
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】中間転写ベルト
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/16 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
   G03G15/16
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-16262(P2015-16262)
(22)【出願日】2015年1月30日
(65)【公開番号】特開2016-142791(P2016-142791A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年10月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金原 輝佳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】藤田 司
(72)【発明者】
【氏名】石田 政典
【審査官】 中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−78599(JP,A)
【文献】 特開2001−215806(JP,A)
【文献】 特開2012−194229(JP,A)
【文献】 特開平8−183884(JP,A)
【文献】 特開2012−177761(JP,A)
【文献】 特開2014−186280(JP,A)
【文献】 特開2012−189916(JP,A)
【文献】 米国特許第6560435(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真方式の画像形成装置に用いられる中間転写ベルトであって、
筒状に形成された基層と、該基層の外周に積層されたゴム弾性層と、該ゴム弾性層の外周に積層された表層とを有しており、
該表層は、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムを含むマトリックスポリマーと、該マトリックスポリマー中に充填された多数の球状微粒子とを有しており、
該多数の球状微粒子は、上記表層の厚み方向に積み重なった状態で上記表層の面内方向に広がって存在しており、
上記表層表面に、上記多数の球状微粒子によって上記マトリックスポリマーが隆起して形成された表面凹凸を有していることを特徴とする中間転写ベルト。
【請求項2】
上記表層における上記球状微粒子の含有量は、5〜45体積%の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の中間転写ベルト。
【請求項3】
上記球状微粒子の平均粒子径は、0.1以上3μm未満の範囲内にあることを特徴とする請求項1または2に記載の中間転写ベルト。
【請求項4】
上記ゴム弾性層の形成に用いられるゴム弾性層用材料は、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、および、ブタジエンゴムからなる群より選択される1種または2種以上のゴムを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の中間転写ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成装置に用いられる中間転写ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を採用する複写機、プリンター、印刷機等の画像形成装置には、中間転写ベルトが組み込まれている。画像形成装置内において、複数の感光体によって色別に形成された各トナー像は、中間転写ベルトのベルト表面に一次転写される。一次転写により重ね合わされた各色のトナー像は、ベルト表面から紙等の印字媒体に二次転写される。
【0003】
このような機能を有する中間転写ベルトとしては、従来、筒状に形成された樹脂製の基層単層が用いられてきた。近年では、二次転写性を向上させるために、基層の外周に、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等からなる柔軟で平滑なゴム弾性層が積層された二層構造の中間転写ベルトが用いられるようになっている。アクリロニトリル−ブタジエンゴム等からなるゴム弾性層は、高い柔軟性を有しているものの、そのままでは層表面のタック性が強い。そのため、トナー離れ性やトナークリーニング性を良くするために、ゴム弾性層の表面に、アクリル樹脂等の樹脂により、比較的硬度が高く、平滑な表面を有する表層が形成された三層構造の中間転写ベルトも知られている。
【0004】
なお、先行する特許文献1には、ベルト表面に、独立した球形樹脂粒子が所定の埋没率で埋め込まれ、これによって凹凸形状が形成された中間転写ベルトも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−150059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した二層構造、三層構造の中間転写ベルトは、以下の点で問題がある。すなわち、中間転写ベルトでは、一次転写時に、感光体により、平滑なベルト表面にトナー像が押さえ付けられる。この際、トナーに応力が生じてトナー同士が凝集するとともに、凝集したトナーが部分的に脱落することにより、一次転写が不十分となる「中抜け」と呼ばれる現象が生じるという問題がある。一次転写時に中抜け現象が発生すると、画像形成装置の画質が低下する。
【0007】
また、中間転写ベルトでは、ベルト表面にてトナーの授受を行うため、電圧が印加される。この電圧印加により、使用雰囲気中にオゾンが発生する。発生したオゾンは、ベルト表面を劣化させる。その結果、ベルト使用時にベルト表面にクラックが発生するという問題がある。ベルト表面にクラックが発生すると、中間転写ベルトの耐久性が低下し、その結果、画像形成装置の耐久性も低下する。
【0008】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、一次転写時の中抜け現象を抑制することができ、オゾン劣化によるベルト表面のクラックを抑制可能な中間転写ベルトを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、電子写真方式の画像形成装置に用いられる中間転写ベルトであって、
筒状に形成された基層と、該基層の外周に積層されたゴム弾性層と、該ゴム弾性層の外周に積層された表層とを有しており、
該表層は、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムを含むマトリックスポリマーと、該マトリックスポリマー中に充填された多数の球状微粒子とを有しており、
該多数の球状微粒子は、上記表層の厚み方向に積み重なった状態で上記表層の面内方向に広がって存在しており、
上記表層表面に、上記多数の球状微粒子によって上記マトリックスポリマーが隆起して形成された表面凹凸を有していることを特徴とする中間転写ベルトにある。
【発明の効果】
【0010】
上記中間転写ベルトは、表層を構成するマトリックスポリマー中に充填された多数の球状微粒子が、表層の厚み方向に積み重なった状態で表層の面内方向に広がって存在している。そして、表層表面に、これら多数の球状微粒子によってマトリックスポリマーが隆起して形成された表面凹凸を有している。そのため、一次転写時に、感光体によって表層表面にトナー像が押さえ付けられた場合に、上記表面凹凸が変形するとともに内部に配置された球状微粒子が面内方向に逃げやすい。その結果、トナーにかかる応力が緩和され、トナー同士が凝集し難くなり、一次転写時に従来生じていた中抜け現象を抑制することが可能となる。
【0011】
さらに、ベルト表面を構成する表層に用いられている水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)は、アクリロニトリル−ブタジエンゴム中の二重結合が水素化されているため、オゾンにより切断される二重結合が少なく、オゾン劣化し難い。そのため、上記中間転写ベルトは、オゾン劣化による表層表面(ベルト表面)のクラックを抑制することができる。
【0012】
よって、本発明によれば、一次転写時の中抜け現象を抑制することができ、オゾン劣化によるベルト表面のクラックを抑制可能な中間転写ベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の中間転写ベルトを模式的に示した説明図である。
図2図1のII−II断面を拡大して模式的に示した説明図である。
図3】実験例における試料1の中間転写ベルトの表層表面のレーザー顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記中間転写ベルトは、電子写真方式の画像形成装置に用いられる。画像形成装置としては、例えば、帯電像を用いる電子写真方式の複写機、プリンター、ファクシミリ、複合機、オンデマンド印刷機等を例示することができる。
【0015】
上記中間転写ベルトは、筒状に形成された基層を有している。基層は、樹脂を主成分とすることができる。基層に用いられる樹脂としては、例えば、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン樹脂、フッ素系樹脂、ポリカーボネート樹脂などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。これら樹脂のうち、好ましくは、ポリイミド、および/または、ポリアミドイミドであるとよい。この場合には、基層の剛性が高くなるため、中間転写ベルトの耐久性向上に有利である。
【0016】
なお、基層の形成に用いられる基層用材料は、必要に応じて、導電剤、難燃剤、架橋剤、レベリング剤、充填剤、酸化防止剤などの各種添加剤を1種または2種以上含むことができる。導電剤としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素系導電材料、アルミニウム粉末、ステンレス粉末等の金属粉末材料、導電性酸化亜鉛(c−ZnO)、導電性酸化チタン(c−TiO)、導電性酸化鉄(c−Fe)、導電性酸化錫(c−SnO)等の導電性金属酸化物等の電子導電剤などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。また、基層の筒径、厚みは、用途(例えば、画像形成装置の機種、大きさ等)に応じて適宜決定することができる。基層の筒径は、例えば、120mm〜1000mm程度とすることができる。基層の厚みは、好ましくは30〜200μm、より好ましくは40〜130μm、さらに好ましくは60〜90μmとすることができる。
【0017】
上記中間転写ベルトは、基層の外周にゴム弾性層が積層されている。ゴム弾性層の形成に用いられるゴム弾性層用材料は、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、および、ブタジエンゴムからなる群より選択される1種または2種以上のゴムを含むことができる。この場合には、表層とゴム弾性層との密着性が向上し、ゴム弾性層から表層が剥離し難くなる。また、ゴム弾性層の柔軟性も確保しやすく、二次転写性の向上にも有利である。なお、上記各ゴムは、架橋して用いることが可能である。
【0018】
上記ゴム弾性層用材料は、好ましくは、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムを少なくとも含んでいるとよい。この場合には、表層およびゴム弾性層に同じ材質の水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムが用いられることになるため、表層とゴム弾性層との密着性がより一層向上し、ゴム弾性層から表層がより一層剥離し難くなる。また、表層のみならず、ゴム弾性層中の二重結合が少なくなるので、表層を透過したオゾンによってゴム弾性層がオゾン劣化されるのを抑制しやすくなる。そのため、この場合には、耐久性の向上に有利である。
【0019】
上記ゴム弾性層用材料は、他にも、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム等のゴムに加え、例えば、分子内にイソシアネート基を2個以上有する多価イソシアネートを含むことができる。この場合には、ゴム弾性層用材料の硬化物よりゴム弾性層を構成する際に、ゴム弾性層の強度が上昇し、ゴム弾性層の耐久性向上に有利である。
【0020】
多価イソシアネートとしては、例えば、脂肪族、脂環族または芳香族の多価イソシアネートあるいはこれら多価イソシアネートのイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体等の誘導体などを例示することができ、具体的には、脂肪族、脂環族または芳香族のジイソシアネートあるいはこれらジイソシアネートのイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体等の誘導体などを例示することができる。
【0021】
多価イソシアネートとしては、より具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)系、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)系、キシレンジイソシアネート(XDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)系、水添キシレンジイソシアネート(H6XDI)、水添キシレンジイソシアネート(H6XDI)系、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)系、トリレンジイソシアネート(TDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)系、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)系、これらのイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体等の誘導体等を例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。なお、上記にいう「系」は、ベースとなるイソシアネートが同じである多価イソシアネート、そのイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体等の誘導体を包括的に含む意味である。つまり、例えば、「ヘキサメチレンジイソシアネート系」の場合であれば、ヘキサメチレンジイソシアネートをベースにした各種の多価イソシアネート、そのイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体等の誘導体が含まれる。他についても同様である。
【0022】
多価イソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート系などを好適に用いることができる。この場合には、ゴム弾性層の柔軟性に優れるため、二次転写性の向上に有利である。
【0023】
上記ゴム弾性層用材料は、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム等のゴム、多価イソシアネートに加え、他にも、少なくとも2官能以上のポリオールなどを含むことができる。この場合には、ゴム弾性層用材料の硬化時にウレタン結合が形成されやすくなり、ゴム弾性層の回復弾性率を向上させやすくなる。そのため、ゴム弾性層の変形回復性能が向上し、ゴム弾性層が変形した場合に、平面状態に早く戻るようになる。それ故、この場合には、二次転写性が向上し、良好な画像形成に寄与しやすくなる。
【0024】
上記ポリオールは、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートジオール、ポリエステルジオール等を含むことができる。これらのうち、柔軟性の観点から、エーテル系ポリオールが好適に用いられる。上記ポリオールとしては、具体的には、例えば、エチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン等のポリオールにエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等のアルキレンオキシドが付加された化合物などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。アルキレンオキシドにより形成されるアルキレンオキシド単位は、プロピレンオキシドにより形成されるプロピレンオキシド単位で構成されていることが好ましい。この場合には、適度な硬さを発現することができ、ゴム弾性層の回復弾性率を向上させやすい。
【0025】
上記ゴム弾性層用材料は、必要に応じて、導電剤、難燃剤(有機系難燃剤、無機系難燃剤)、架橋剤、架橋助剤、加硫剤、加硫促進剤、受酸剤、滑剤、充填剤、触媒などの各種添加剤を1種または2種以上含むことができる。
【0026】
導電剤は、イオン導電剤、電子導電剤のいずれであってもよく、双方を含むこともできる。導電剤は、好ましくは、均一な体積電気抵抗が得られやすいなどの観点から、イオン導電剤であるとよい。イオン導電剤としては、具体的には、例えば、第四級アンモニウム塩、リン酸エステル、スルホン酸塩、脂肪族多価アルコール、脂肪族アルコールサルフェート、イオン液体などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。なお、電子導電剤としては、基層の説明において上述したものなどを例示することができる。
【0027】
ゴム弾性層の厚みは、柔軟性、難燃性、反り、耐摩耗性、用途などを考慮して決定することができる。ゴム弾性層の厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは50μm以上、さらにより好ましくは80μm以上とすることができる。一方、ゴム弾性層の厚みは、好ましくは400μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは250μm以下、さらにより好ましくは220μm以下とすることができる。
【0028】
上記中間転写ベルトは、ゴム弾性層の外周に表層が積層されている。ここで、表層は、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムを含むマトリックスポリマーと、マトリックスポリマー中に充填された多数の球状微粒子とを有している。なお、球状とは、真球のみならず、球に似た形状を含む。扁平率が50%以上の回転楕円体は、球状に含まれる。
【0029】
マトリックスポリマーは、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム以外にも、例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴムやブタジエンゴム等を1種または2種以上含むことができる。なお、これらは、架橋して用いることが可能である。マトリックスポリマーは、好ましくは、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムより構成されているとよい。オゾン劣化によるベルト表面のクラックの抑制が確実なものとなり、耐オゾンバリア機能を向上させやすくなるからである。
【0030】
多数の球状微粒子は、表層の厚み方向に積み重なった状態で表層中の面内方向に広がって存在している。そして、表層は、これら多数の球状微粒子によってマトリックスポリマーが隆起して形成された表面凹凸を表面に有している。したがって、上記中間転写ベルトは、表層表面に多数の球状微粒子が所定の埋没率で埋め込まれたものとは構成が異なっている。なお、上記中間転写ベルトは、中抜け現象が抑制可能な範囲内であれば、多数の球状微粒子のうちの一部が、表層表面に露出していてもよい。また、上記中間転写ベルトは、中抜け現象が抑制可能な範囲内であれば、球状微粒子が表層の厚み方向で積み重なっていない部分が含まれていてもよい。
【0031】
球状微粒子の材質としては、具体的には、例えば、樹脂等の有機材料、無機材料を例示することができる。球状微粒子としては、好ましくは、球状樹脂微粒子を好適に用いることができる。この場合には、一次転写時に、表層内部における球状微粒子が面内方向に逃げやすいうえ、表層に比較的多量に球状微粒子が充填されていても、表層の硬度が過度に大きくなり過ぎず、二次転写性の向上に有利である。また、この場合には、粒子径分布の狭い球状微粒子を入手しやすいため、一次転写時における中抜け現象の抑制効果を発現させやすい中間転写ベルトを得やすくなる。
【0032】
球状微粒子としては、より具体的には、例えば、球状(メタ)アクリル系樹脂微粒子、球状ウレタン系樹脂微粒子、球状ポリアミド系樹脂微粒子などを例示することができる。球状微粒子は、1種または2種以上併用することができる。なお、(メタ)アクリルとは、アクリル、メタクリルの両方を包含する意味である(以下、省略)。
【0033】
上記中間転写ベルトにおいて、表層における球状微粒子の含有量は、具体的には、例えば、5〜45体積%の範囲内とすることができる。この場合には、表層内において、多数の球状微粒子が、表層の厚み方向に積み重なった状態で表層中の面内方向に広がって存在しやすくなる。そのため、表層表面にマトリックスポリマーによる表面凹凸が形成されやすくなり、一次転写時における中抜け現象の抑制を確実なものとすることができる。なお、上記体積%は、マトリックスポリマー100質量部に対して、球状微粒子のかさ密度とマトリックスポリマーの比重とから計算して算出される値である。具体的には、体積%=球状微粒子の体積/マトリックスポリマーの体積×100より算出される。
【0034】
表層における球状微粒子の含有量は、中抜け現象の抑制等の観点から、好ましくは8体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは13.6体積%以上、さらにより好ましくは15体積%以上、さらにより一層好ましくは17体積%以上、もっとも好ましくは18体積%以上とすることができる。また、表層における球状微粒子の含有量は、表層の柔軟性、球状微粒子の充填性、マトリックスポリマーの確保等の観点から、好ましくは43体積%以下、より好ましくは40体積%以下、さらに好ましくは38.1体積%以下、さらにより好ましくは30体積%以下、さらにより一層好ましくは25体積%以下、もっとも好ましくは21体積%以下とすることができる。
【0035】
上記中間転写ベルトにおいて、球状微粒子の平均粒子径は、具体的には、例えば、0.1以上3μm未満の範囲内とすることができる。この場合には、表層表面に、一次転写時における中抜け現象の抑制に適度な大きさの表面凹凸が確保されやすく、過度に大きな表面凹凸が表層表面に形成され難い。そのため、この場合には、例えば、ブレード部材によって表層表面がクリーニングされた際に、トナーの掻き取り残りが生じ難く、トナークリーニング性の向上にも有利な中間転写ベルトが得られる。なお、上記平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(日揮装社製、「マイクロトラックMT3300EX」)により測定される体積基準の累積度数分布が50%を示すときの粒子径(直径)d50である。
【0036】
球状微粒子の平均粒子径は、表面凹凸の形成性等の観点から、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.3μm以上、さらに好ましくは0.4μm以上とすることができる。また、球状微粒子の平均粒子径は、トナークリーニング性の向上等の観点から、好ましくは2μm以下、より好ましくは1.5μm以下、さらに好ましくは1.3μm以下、さらにより好ましくは1μm以下とすることができる。
【0037】
なお、上記中間転写ベルトにおいて、表層表面におけるJIS B0601:2001に規定される最大高さRzは、1.0〜1.4μm程度とすることができる。最大高さRzの測定時における基準長さは、10mmである。
【0038】
上記表層は、具体的には、例えば、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムを含むマトリックスポリマーと、多数の球状微粒子とを含有する表層用材料を用いて形成することができる。表層用材料は、必要に応じて、上述した導電剤(電子導電剤および/またはイオン導電剤)、難燃剤(有機系難燃剤および/または無機系難燃剤)、架橋剤、架橋助剤、加硫剤、加硫促進剤、受酸剤、滑剤、充填剤などの各種添加剤を1種または2種以上含むことができる。
【0039】
表層の厚みは、球状微粒子の充填性、表面凹凸の形成性、表面の滑り性等の観点から、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上、さらに好ましくは5μm以上、さらにより好ましくは6μm以上とすることができる。一方、表層の厚みは、ベルト表面の摩擦係数の上昇抑制、永久ひずみの抑制等の観点から、好ましくは20μm以下、より好ましくは18μm以下、さらに好ましくは15μm以下とすることができる。
【0040】
表層の表面は、トナー離れ性を向上させる観点から、光照射処理または表面処理液による表面処理が施されていてもよい。光照射処理は、具体的には、紫外線照射処理とすることができる。また、表面処理液としては、具体的には、含塩素化合物を含む表面処理液、含フッ素化合物を含む表面処理液、イソシアネートを含む表面処理液などを適用することができる。
【0041】
なお、上述した各構成は、上述した各作用効果等を得るなどのために必要に応じて任意に組み合わせることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例の中間転写ベルトについて、図面を用いて説明する。
【0043】
(実施例1)
実施例1の中間転写ベルトについて、図1図2を用いて説明する。図1図2に示されるように、本例の中間転写ベルト1は、電子写真方式の画像形成装置に用いられる。中間転写ベルト1は、筒状に形成された基層2と、基層2の外周に積層されたゴム弾性層3と、ゴム弾性層3の外周に積層された表層4とを有している。つまり、中間転写ベルト1は、基層2の外周面に沿ってゴム弾性層3、ゴム弾性層3の外周面に沿って表層4が順に積層された三層構造を有している。なお、図1では、詳細なベルト層構成が省略されている。
【0044】
本例では、具体的には、基層2は、ポリイミドまたはポリアミドイミドより形成されている。ゴム弾性層3は、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、および、ブタジエンゴムからなる群より選択される1種または2種以上のゴムと、分子内にイソシアネート基を2個以上有する多価イソシアネートとを含有するゴム弾性層用材料を用いて形成されている。基層2は、電子導電剤を含有することにより導電性を有している。ゴム弾性層3は、イオン導電剤を含有することにより導電性を有している。
【0045】
ここで、表層4は、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムを含むマトリックスポリマー41と、マトリックスポリマー41中に充填された多数の球状微粒子42とを有している。図2に示されるように、多数の球状微粒子42は、表層4の厚み方向に積み重なった状態で表層4の面内方向に広がって存在している。そして、表層4は、その表面に、多数の球状微粒子42によってマトリックスポリマー41が隆起して形成された表面凹凸43を有している。
【0046】
本例では、具体的には、表層4における球状微粒子42の含有量が、5〜45体積%の範囲内とされている。また、球状微粒子42の平均粒子径が、0.1以上3μm未満の範囲内とされている。表層4は、具体的には、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムを含むマトリックスポリマーと、多数の球状微粒子とを含有する表層用材料を用いて形成されている。表層4は、電子導電剤を含有することにより導電性を有している。
【0047】
以下、異なる構成を有する中間転写ベルトの試料を複数作製し、評価を行った。その実験例について説明する。
【0048】
(実験例)
<基層用材料の調製>
ポリアミドイミド(PAI)(東洋紡績社製、「バイロマックスHR−16NN」) あるいは、ポリイミド(PI)(新日本理化社製、「リカコートEN−20」)100質量部と、電子導電剤(カーボンブラック)(電気化学工業社製、「デンカブラック」)10質量部と、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)800質量部とを混合することにより、PAI系の基層用材料、PI系の基層用材料を調製した。
【0049】
<ゴム弾性層用材料の調製>
ゴム弾性層用材料に用いられる各材料として以下のものを準備した。
・水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)(日本ゼオン社製、「Zetpol 1020」)
・アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)(日本ゼオン社製、「ニポール DN3335」)
・ブタジエンゴム(BR)(日本ゼオン社製、「ニポール BR1220」)
・加硫促進剤(1)(三新化学社製、「サンセラーDM」)
・加硫促進剤(2)(三新化学社製、「サンセラーTT」)
・加硫剤(硫黄粉末)(鶴見化学工業社製、「イオウPTC」)
・滑剤(ステアリン酸)(日油社製、「ステアリン酸さくら」)
・受酸剤(酸化亜鉛)(正同化学工業社製、「酸化亜鉛2種」)
・多価イソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体)(東ソー社製、「コロネートHL」)
・有機系難燃剤(ホスファゼン誘導体)(伏見製薬所社製、「ラビトルFR−110」)
・無機系難燃剤(水酸化アルミニウム)(昭和電工社製、「ハイジライトH−42M」)
・イオン導電剤(テトラブチルアンモニウムブロマイド:TBAB)(富士純薬社製)
【0050】
後述の表2に示される各材料を、固形分が25質量%となるようにシクロヘキサノン中に、表2に示される各配合割合にて配合し、混合することにより、液状の各ゴム弾性層用材料を調製した。
【0051】
<表層用材料の調製>
表層用材料に用いられる各材料として以下のものを準備した。
・上記水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)
・上記アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)
・アクリル樹脂(根上工業社製、「パラクロンW−248E」)
・上記加硫促進剤(1)
・上記加硫促進剤(2)
・上記加硫剤(硫黄粉末)
・上記滑剤(ステアリン酸)
・上記受酸剤(酸化亜鉛)
・上記多価イソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体)
・上記有機系難燃剤(ホスファゼン誘導体)
・上記電子導電剤(カーボンブラック)
・球状微粒子(1)(球状架橋アクリル樹脂微粒子、平均粒子径0.8μm)(綜研化学社製、「MX−80H3wt」)
・球状微粒子(2)(球状架橋アクリル樹脂微粒子、平均粒子径1.0μm)(綜研化学社製、「MX−100」)
・球状微粒子(3)(球状架橋アクリル樹脂微粒子、平均粒子径0.4μm)
球状微粒子(3)は、分級機(マツボー社製、「エルボージェット分級機LABO」)を用いて、上記球状微粒子(1)を分級加工することにより得た。
・球状微粒子(4)(球状架橋アクリル樹脂微粒子、平均粒子径3.0μm)(綜研化学社製、「MX−300」)
・非球状微粒子(多孔質シリカ微粒子、平均粒子径0.8μm)
非球状微粒子は、上記分級機を用いて、多孔質シリカ微粒子(平均粒子径3.0μm、富士シリシア化学社製、「サイリシア430」)を分級加工することにより得た。
【0052】
後述の表2に示される各材料を、固形分が10質量%となるようにシクロヘキサノン中に、表2に示される各配合割合にて配合し、混合することにより、液状の各表層用材料を調製した。
【0053】
<中間転写ベルト試料の作製>
基体として、アルミニウム製の円筒状金型を準備した。また、1つのノズルを有するディスペンサ(液体定量吐出装置)を準備した。このディスペンサのノズルは、内径φ=1mmのニードルノズルである。次いで、上記調製した所定の基層用材料、ゴム弾性層用材料、および、表層用材料を、それぞれ別のエアー加圧タンクに収容し、金型の外周面とノズルとのクリアランスを1mmとして、金型およびノズルをセットした。次いで、金型を垂直にした状態で、回転数200rpmで軸中心に回転させながら、基層用材料を吐出するノズルを、1mm/secの移動速度で軸方向下方に移動させるとともに、エアー加圧タンクに0.4MPaの圧力をかけて基層用材料をノズルに圧送し、ノズルから基層用材料を吐出させ、金型の外周面上にらせん状に塗工した。これにより、らせん状塗膜の連続体からなる全体塗膜を形成した。次いで、形成された全体塗膜に対して、2時間で常温から250℃まで昇温し、250℃で1時間保持するという条件にて熱処理を施した。これにより、金型の外周面上に、筒状に形成された基層(厚み80μm)を形成した。
【0054】
次に、上記基層が形成された金型を、回転数200rpmで軸中心に回転させながら、所定のゴム弾性層用材料を吐出するノズルを、1mm/secの移動速度で軸方向下方に移動させるとともに、エアー加圧タンクに0.8MPaの圧力をかけてゴム弾性層用材料をノズルに圧送し、ノズルからゴム弾性層用材料を吐出させ、金型の外周面上にある基層表面にらせん状に塗工した。これにより、らせん状塗膜の連続体からなる全体塗膜を形成した。次いで、形成された全体塗膜に対して、3時間で常温から170℃まで昇温し、170℃で30分間保持するという条件で熱処理を施した。これにより、基層の外周面に沿って、ゴム弾性層(厚み200μm)を積層した。
【0055】
次に、上記ゴム弾性層が形成された金型を、回転数100rpmで軸中心に回転させながら、所定の表層用材料を吐出するノズルを、1mm/secの移動速度で軸方向下方に移動させるとともに、エアー加圧タンクに0.8MPaの圧力をかけて表層用材料をノズルに圧送し、ノズルから表層用材料を吐出させ、金型の外周面上にあるゴム弾性層表面にらせん状に塗工した。これにより、らせん状塗膜の連続体からなる全体塗膜を形成した。次いで、形成された全体塗膜に対して、30分間で常温から170℃まで昇温し、170℃で30分間保持するという条件で熱処理を施した。これにより、ゴム弾性層の外周面に沿って、表層(厚み15μm)を積層した。
【0056】
なお、本例では、上記表層が形成された金型を、回転数60rpmで軸中心に回転させながら、紫外線照射機(アイグラフィックス社製、「UB031−2A/BM」(水銀ランプ形式))を用いて、照射強度120mW/cm、照射時間30秒、光源と表層表面との距離100mmという条件にて、表層表面に紫外線を照射し、表層にUV処理を施した。但し、表層にアクリル樹脂を用いた試料10は、上記UV処理が施されていない。
【0057】
次いで、基層の一端縁と金型の外周面との間に高圧エアーを吹き込み、金型を抜き取った。以上により、試料1〜試料12の中間転写ベルトを作製した。
【0058】
試料1〜9の中間転写ベルトについて、表層表面に垂直な断面を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、表層を構成するマトリックスポリマー中に充填された多数の球状微粒子が、表層の厚み方向に積み重なった状態で表層の面内方向に広がって存在していることが確認された。また、表層表面をレーザー顕微鏡にて観察したところ、図3に代表して示されるように、表層表面に露出する球状微粒子はほとんど見られず、表層表面には、多数の球状微粒子によってマトリックスポリマーが隆起して形成された緩やかな表面凹凸が確認された。
【0059】
<一次転写性>
作製した各中間転写ベルトを、電子写真方式を採用するカラープリンタ(沖データ社製、「MICROLINE VINCI C941dn」)の中間転写ベルトとして組み込み、ベタパターンの細線(線幅:0.5mm)を形成するためのトナー像を、中間転写ベルトの表層表面に一次転写させた。その後、一次転写されたトナー像を顕微鏡にて観察した。トナー像に、凝集したトナーの脱落部分が確認されなかった場合を、中抜け現象が生じていないとして「A」とした。トナー像に、凝集したトナーの脱落部分が確認された場合を、中抜け現象が生じているとして「C」とした。
【0060】
<耐オゾン性>
回転駆動装置が有する、直径10mmの駆動側ローラと、直径10mmの従動側ローラとの間に、作製した各中間転写ベルトを架け回した。この際、試料の中間転写ベルトにかかる張力は、片側2kgfに調整した。そして、オゾン濃度が質量比で5ppmである空気雰囲気中に暴露しながら、回転数40rpmにて、試料の中間転写ベルトを50時間回転させた。その後、張架した状態のまま、ベルト表面である表層表面のクラックの有無を確認した。100倍率のマイクロスコープにてクラックが確認されなかった場合を、オゾン劣化によるベルト表面のクラックが抑制されているとして「A」とした。100倍率のマイクロスコープにてクラックが確認された場合を、オゾン劣化によるベルト表面のクラックが抑制されていないとして「C」とした。
【0061】
<密着性>
作製した中間転写ベルトを、40℃×95%RHの環境下に1週間放置した。その後、各中間転写ベルトにおける表層とゴム弾性層との密着性を、JIS K5400に準拠し、碁盤目テープ試験により調査した。具体的には、表層表面にカッターナイフ(オルファ社製、「小型刃」)を用いて、ゴム弾性層に達する切り込みを、間隔1mmにて11本引いた後、90°向きを変えてさらに11本引いた。これにより、表層表面に100マスの碁盤目を形成した。次いで、粘着テープ(3M社製、「PTFEテープ」)(幅25mm)を約50mmの長さで付着するように上記碁盤目に貼り付けた後、粘着テープ上に5kgの荷重を5分間かけて放置することにより、粘着テープを碁盤目に十分に密着させた。次いで、粘着テープの端を持ち、表層表面に対して粘着テープが直角となるように保ちつつ、瞬間的に粘着テープを引き剥がした。そして、粘着テープ側を確認し、表1に示されるように0〜5までの6段階にて評価した。具体的には、粘着テープにどの格子の表層も付着せず、粘着テープに変化がなかった場合を「5」とした。また、表1に示される程度に応じて粘着テープに表層が付着した場合を、「4」、「3」、「2」、「1」、または、「0」とした。
【0062】
【表1】
【0063】
<クリーニング性>
試料1〜試料9の中間転写ベルトを、電子写真方式を採用するカラープリンタ(沖データ社製、「MICROLINE VINCI C941dn」)の中間転写ベルトとして組み込み、単色全面ベタ画像にて画像形成後、クリーニングブレードによりベルト表面である表層表面をクリーニングした。その後、目視にて表層表面を確認した。トナーの掻き取り残りがない場合を、クリーニング性に優れるとして「A」とした。また、許容範囲内であるが、わずかにトナーの掻き取り残りが見られた場合を「B」とした。
【0064】
表2、表3に、各中間転写ベルトの詳細な構成および評価結果をまとめて示す。
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
上記結果によれば、以下のことがわかる。すなわち、試料10の中間転写ベルトは、表層が、アクリル樹脂に添加された非球状微粒子によって形成された表面凹凸を有している。そのため、試料10の中間転写ベルトは、一次転写時に、感光体によって表層表面にトナー像が押さえ付けられた場合に、トナーにかかる応力が十分に緩和されず、中抜け現象を抑制することができなかった。これは、非球状微粒子を用いているので、非球状微粒子が表層内にて面内方向に逃げ難かったためであると考えられる。また、アクリル樹脂が硬いため、表面凹凸の変形が少なかったことも原因として考えられる。
【0068】
また、試料11の中間転写ベルトは、表層を構成するマトリックスポリマーがアクリロニトリル−ブタジエンゴムであり、表層中にアクリロニトリル−ブタジエンゴムよる二重結合が多く含まれている。そのため、表層がオゾンに暴露されると、表層中の二重結合がオゾンにより切断され、オゾン劣化によるクラックが発生した。また、試料11の中間転写ベルトは、試料10の中間転写ベルトと同様に、表層表面の表面凹凸が非球状微粒子によって形成されているため、中抜け現象を抑制することができなかった。
【0069】
また、試料12の中間転写ベルトは、表層を構成するマトリックスポリマーがアクリロニトリル−ブタジエンゴムである。また、表層が球状微粒子を含んでいない。つまり、表層表面は、球状微粒子による微細な表面凹凸がなく、平滑である。そのため、試料12の中間転写ベルトは、一次転写時の中抜け現象、オゾン劣化によるベルト表面のクラックのいずれも抑制することができなかった。
【0070】
これらに対し、試料1〜試料9の中間転写ベルトは、表層を構成するマトリックスポリマー中に充填された多数の球状微粒子が、表層の厚み方向に積み重なった状態で表層の面内方向に広がって存在している。そして、表層表面に、これら多数の球状微粒子によってマトリックスポリマーが隆起して形成された表面凹凸を有している。そのため、一次転写時に、感光体によって表層表面にトナー像が押さえ付けられた場合に、表面凹凸が変形するとともに内部に配置された球状微粒子が面内方向に逃げやすい。その結果、トナーにかかる応力が緩和され、トナー同士が凝集し難くなり、一次転写時における中抜け現象を抑制することができる。
【0071】
また、ベルト表面を構成する表層に用いられている水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムは、アクリロニトリル−ブタジエンゴム中の二重結合が水素化されているため、オゾンにより切断される二重結合が少なく、オゾン劣化し難い。そのため、試料1〜試料9の中間転写ベルトは、オゾン劣化による表層表面のクラックを抑制することができる。
【0072】
さらに、試料1〜試料9の中間転写ベルト同士を比較すると、以下のことがわかる。
【0073】
試料1〜試料9の中間転写ベルトは、ゴム弾性層の形成に用いられるゴム弾性層用材料が、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、および、ブタジエンゴムからなる群より選択される1種または2種以上のゴムを含んでいる。そのため、試料1〜試料9の中間転写ベルトは、表層とゴム弾性層との密着性が高い。とりわけ、試料1、試料4〜試料9は、表層およびゴム弾性層に同じ材質の水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムが用いられている。そのため、試料1、試料4〜試料9は、表層とゴム弾性層との密着性がより一層高くなっている。
【0074】
また、試料1〜試料8の中間転写ベルトは、球状微粒子の平均粒子径が0.1〜3μm未満にある。そのため、表層表面に、一次転写時における中抜け現象の抑制に適度な大きさの表面凹凸が確保される一方、過度に大きな表面凹凸が表層表面に形成され難い。それ故、試料1〜試料8の中間転写ベルトは、クリーニングブレードによって表層表面がクリーニングされた際に、トナーの掻き取り残りが生じ難く、トナークリーニング性にも優れる。
【0075】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 中間転写ベルト
2 基層
3 ゴム弾性層
4 表層
41 マトリックスポリマー
42 球状微粒子
43 表面凹凸
図1
図2
図3