特許第6368657号(P6368657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368657
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】金属ベース回路基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/05 20060101AFI20180723BHJP
   H05K 3/44 20060101ALI20180723BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20180723BHJP
   H05K 3/20 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   H05K1/05 A
   H05K3/44 A
   H05K1/03 610H
   H05K3/20 Z
【請求項の数】17
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-18744(P2015-18744)
(22)【出願日】2015年2月2日
(65)【公開番号】特開2016-143775(P2016-143775A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(72)【発明者】
【氏名】水野 克美
(72)【発明者】
【氏名】池田 大記
【審査官】 小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−254921(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/007327(WO,A1)
【文献】 特開平09−139580(JP,A)
【文献】 特開2003−023223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/03
H05K 1/05
H05K 3/20
H05K 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ベース基板と、第一の回路パターンと、前記金属ベース基板と前記第一の回路パターンとの間に第一の絶縁層を具備する金属ベース回路基板であって、
前記第一の絶縁層は、前記第一の回路パターンのうち、前記金属ベース基板と向き合った下面と、前記第一の回路パターンの側面のうち少なくとも前記下面と隣接した領域とを被覆しており、
前記第一の絶縁層による前記第一の回路パターンの側面の被覆率が5〜100%である金属ベース回路基板。
【請求項2】
前記第一の絶縁層の厚みが30〜200μmである請求項1に記載の金属ベース回路基板。
【請求項3】
前記第一の絶縁層が樹脂と無機充填材を含有する請求項1又は2に記載の金属ベース回路基板。
【請求項4】
前記第一の絶縁層が前記樹脂として少なくともビスフェノールE型シアネート樹脂を含有する請求項に記載の金属ベース回路基板。
【請求項5】
前記第一の絶縁層に含有される前記ビスフェノールE型シアネート樹脂の割合が、前記樹脂の合計質量を基準として50質量%以上である請求項に記載の金属ベース回路基板。
【請求項6】
前記第一の絶縁層に含有される前記無機充填材の割合が、前記樹脂の合計体積を基準として70体積%以下である請求項3〜5のいずれか1項に記載の金属ベース回路基板。
【請求項7】
前記金属ベース基板と前記第一の絶縁層との間に、前記金属ベース基板上に形成された第二の絶縁層と、前記第二の絶縁層上に形成された第二の回路パターンとを具備する請求項1〜のいずれか1項に記載の金属ベース回路基板。
【請求項8】
前記第二の絶縁層は、前記第二の回路パターンのうち、前記金属ベース基板と向き合った下面と、前記第二の回路パターンの側面のうち少なくとも前記下面と隣接した領域とを被覆している請求項に記載の金属ベース回路基板。
【請求項9】
前記第二の絶縁層の厚みが30〜200μmである請求項に記載の金属ベース回路基板。
【請求項10】
前記第二の絶縁層による前記第二の回路パターンの側面の被覆率が5〜100%である請求項又はに記載の金属ベース回路基板。
【請求項11】
前記第二の絶縁層が樹脂と無機充填材を含有する請求項7〜10のいずれか1項に記載の金属ベース回路基板。
【請求項12】
前記第二の絶縁層が前記樹脂として少なくともビスフェノールE型シアネート樹脂を含有する請求項11に記載の金属ベース回路基板。
【請求項13】
前記第二の絶縁層に含有される前記ビスフェノールE型シアネート樹脂の割合が、前記樹脂の合計質量を基準として50質量%以上である請求項12に記載の金属ベース回路基板。
【請求項14】
前記第二の絶縁層に含有される前記無機充填材の割合が、前記樹脂の合計体積を基準として70体積%以下である請求項11〜13のいずれか1項に記載の金属ベース回路基板。
【請求項15】
請求項1〜のいずれか1項に記載の金属ベース回路基板の製造方法であり、
未硬化の前記第一の絶縁層に前記第一の回路パターンを圧着することにより、前記第一の回路パターンのうち、前記金属ベース基板と向き合った下面と、前記第一の回路パターンの側面のうち少なくとも前記下面と隣接した領域とを未硬化の前記第一の絶縁層により被覆すること、及び
未硬化の前記第一の絶縁層を加熱により硬化すること
を含む、金属ベース回路基板の製造方法。
【請求項16】
請求項に記載の金属ベース回路基板の製造方法であり、
未硬化の前記第一の絶縁層に前記第一の回路パターンを圧着することにより、前記第一の回路パターンのうち、前記金属ベース基板と向き合った下面と、前記第一の回路パターンの側面のうち少なくとも前記下面と隣接した領域とを未硬化の前記第一の絶縁層により被覆すること、及び
未硬化の前記第一の絶縁層を加熱により硬化すること
を含む、金属ベース回路基板の製造方法。
【請求項17】
請求項8〜14のいずれか1項に記載の金属ベース回路基板の製造方法であり、
未硬化の前記第一の絶縁層に前記第一の回路パターンを圧着することにより、前記第一の回路パターンのうち、前記金属ベース基板と向き合った下面と、前記第一の回路パターンの側面のうち少なくとも前記下面と隣接した領域とを未硬化の前記第一の絶縁層により被覆すること、
未硬化の前記第二の絶縁層に前記第二の回路パターンを圧着することにより、前記第二の回路パターンのうち、前記金属ベース基板と向き合った下面と、前記第二の回路パターンの側面のうち少なくとも前記下面と隣接した領域とを未硬化の前記第二の絶縁層により被覆すること、及び
未硬化の前記第一の絶縁層及び未硬化の前記第二の絶縁層を加熱により硬化することを含む、金属ベース回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ベース回路基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクス技術の発達は目覚しく、電気電子機器の高性能化及び小型化は急速に進行している。これに伴い、電子素子及び/又は電子素子を実装した部品の発熱量は益々大きくなっている。このような背景のもと、典型的にはMOSFET(metal−oxide−semiconductor field−effect transistor)及びIGBT(insulated−gate bipolar transistor)などの所謂パワーデバイスを搭載する金属ベース回路基板には、十分な耐熱性、優れた放熱性、絶縁性が求められている。特に今後、デバイスにSiC(シリコンカーバイト)が使用されることで、従来のSi(シリコン)デバイスと比較して作動温度が顕著に増加し、さらに高い耐熱性が求められることが予想される。また、パワーデバイスと金属回路ベース基板を接続しているはんだ接続部にかかるヒートサイクルによる応力が大きくなり、耐久性やはんだ接続信頼性の確保が困難な状況になりつつある。
【0003】
金属ベース回路基板は、基本的に、金属基板上に絶縁層と回路パターンとがこの順に積層された構造を有している。絶縁層には、電気絶縁性、放熱性、耐熱性、接着性、耐クラック性などに優れることが要求され、各種セラミックス、無機紛体を含有する樹脂絶縁層、ガラス繊維を含有する樹脂絶縁層、および耐熱性樹脂絶縁層などが使用されている(例えば、特許文献1、2等を参照)。
【0004】
多層の金属ベース回路基板についても様々なものが開発されている。例えば、特許文献3では、多層回路基板が備える2つの金属基板の各々を被覆する2つの絶縁層として、酸化アルミニウムを含有するエポキシ樹脂を硬化させてなる、厚さ50μmの絶縁層が使用されている(特許文献3の特許請求の範囲、段落0016、0018等)。また、特許文献4に開示された多層の金属回路基板は、アルミナ、チタニア等のセラミックからなる厚さ300μm以下の絶縁層を2層備えている(特許文献4の特許請求の範囲、段落0012、0015等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−254919号公報
【特許文献2】特開2003−23223号公報
【特許文献3】特開2004−72003号公報
【特許文献4】特開2013−254803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子機器内に生じる熱に対する放熱特性を高めるために、例えば特許文献1〜3のように、金属ベース回路基板を構成する絶縁層中に、酸化アルミニウム、シリカ、窒化ホウ素などの高熱伝導性の無機充填材を配合することが行われている。絶縁層の放熱性を更に高めるためには、絶縁層の厚みを薄く、かつ熱伝導性フィラーを高充填して熱抵抗を下げればよいが、電子機器の絶縁層として用いる場合には、絶縁層の膜厚を薄くし、かつ熱伝導性フィラーの充填量を多くすると、リーク電流のパスが形成されやすくなって、耐電圧特性が低下してしまう。したがって、絶縁層の薄肉化を進めると絶縁破壊に短時間で至る問題がある。また、特許文献4には、絶縁層として用いられるアルミナ、チタニア等からなるセラミック層の厚さを300μm以下とすることが開示されているが、セラミックの脆さやヒートサイクルの応力による反りやクラックの問題から、厚さを例えば200μm以下とすることは困難であり、更には金属層に接着するための接着層が必要になるため多層になる。
【0007】
本発明の課題は、上記問題点を解決することにあり、絶縁層の膜厚を薄くしても、耐電圧特性に優れ、高い絶縁信頼性を有する金属ベース回路基板、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、例えば、以下の通りである。
【0009】
[1] 金属ベース基板と、第一の回路パターンと、上記金属ベース基板と第一の回路パターンとの間に第一の絶縁層を具備する金属ベース回路基板であって、
第一の絶縁層は、第一の回路パターンのうち、上記金属ベース基板と向き合った下面と、第一の回路パターンの側面のうち少なくとも上記下面と隣接した領域とを被覆している金属ベース回路基板。
【0010】
[2] 第一の絶縁層の厚みが30〜200μmである[1]に記載の金属ベース回路基板。
【0011】
[3] 第一の絶縁層による第一の回路パターンの側面の被覆率が5〜100%である[1]又は[2]に記載の金属ベース回路基板。
【0012】
[4] 第一の絶縁層が樹脂と無機充填材を含有する[1]〜[3]のいずれか1項に記載の金属ベース回路基板。
【0013】
[5] 第一の絶縁層が上記樹脂として少なくともビスフェノールE型シアネート樹脂を含有する[4]に記載の金属ベース回路基板。
【0014】
[6] 第一の絶縁層に含有される上記ビスフェノールE型シアネート樹脂の割合が、上記樹脂の合計質量を基準として50質量%以上である[5]に記載の金属ベース回路基板。
【0015】
[7] 第一の絶縁層に含有される上記無機充填材の割合が、上記樹脂の合計体積を基準として70体積%以下である[4]〜[6]のいずれか1項に記載の金属ベース回路基板。
【0016】
[8] 上記金属ベース基板と第一の絶縁層との間に、上記金属ベース基板上に形成された第二の絶縁層と、第二の絶縁層上に形成された第二の回路パターンとを具備する[1]〜[7]のいずれか1項に記載の金属ベース回路基板。
【0017】
[9] 第二の絶縁層は、第二の回路パターンのうち、上記金属ベース基板と向き合った下面と、第二の回路パターンの側面のうち少なくとも上記下面と隣接した領域とを被覆している[8]に記載の金属ベース回路基板。
【0018】
[10] 第二の絶縁層の厚みが30〜200μmである[9]に記載の金属ベース回路基板。
【0019】
[11] 第二の絶縁層による第二の回路パターンの側面の被覆率が5〜100%である[9]又は[10]に記載の金属ベース回路基板。
【0020】
[12] 第二の絶縁層が樹脂と無機充填材を含有する[8]〜[12]のいずれか1項に記載の金属ベース回路基板。
【0021】
[13] 第二の絶縁層が上記樹脂として少なくともビスフェノールE型シアネート樹脂を含有する[12]に記載の金属ベース回路基板。
【0022】
[14] 第二の絶縁層に含有される上記ビスフェノールE型シアネート樹脂の割合が、上記樹脂の合計質量を基準として50質量%以上である[13]に記載の金属ベース回路基板。
【0023】
[15] 第二の絶縁層に含有される上記無機充填材の割合が、上記樹脂の合計体積を基準として70体積%以下である[12]〜[14]のいずれか1項に記載の金属ベース回路基板。
【0024】
[16] [1]〜[7]のいずれか1項に記載の金属ベース回路基板の製造方法であり、
未硬化の第一の絶縁層に第一の回路パターンを圧着することにより、第一の回路パターンのうち、上記金属ベース基板と向き合った下面と、第一の回路パターンの側面のうち少なくとも上記下面と隣接した領域とを未硬化の第一の絶縁層により被覆すること、及び
未硬化の第一の絶縁層を加熱により硬化すること
を含む、金属ベース回路基板の製造方法。
【0025】
[17] [8]に記載の金属ベース回路基板の製造方法であり、
未硬化の第一の絶縁層に第一の回路パターンを圧着することにより、第一の回路パターンのうち、上記金属ベース基板と向き合った下面と、第一の回路パターンの側面のうち少なくとも上記下面と隣接した領域とを未硬化の第一の絶縁層により被覆すること、及び
未硬化の第一の絶縁層を加熱により硬化すること
を含む、金属ベース回路基板の製造方法。
【0026】
[18] [9]〜[15]のいずれか1項に記載の金属ベース回路基板の製造方法であり、
未硬化の第一の絶縁層に第一の回路パターンを圧着することにより、第一の回路パターンのうち、上記金属ベース基板と向き合った下面と、第一の回路パターンの側面のうち少なくとも上記下面と隣接した領域とを未硬化の第一の絶縁層により被覆すること、
未硬化の第二の絶縁層に第二の回路パターンを圧着することにより、第二の回路パターンのうち、上記金属ベース基板と向き合った下面と、第二の回路パターンの側面のうち少なくとも上記下面と隣接した領域とを未硬化の第二の絶縁層により被覆すること、及び
未硬化の第一の絶縁層及び未硬化の第二の絶縁層を加熱により硬化すること
を含む、金属ベース回路基板の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、絶縁層の膜厚を薄くしても、耐電圧特性に優れ、高い絶縁信頼性を有する金属ベース回路基板、およびその製造方法を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一形態に係る金属ベース回路基板を概略的に示す断面斜視図。
図2図1に示す金属ベース回路基板のI−I線に沿った断面図。
図3】本発明の他の形態に係る金属ベース回路基板を概略的に示す断面斜視図。
図4図3に示す金属ベース回路基板のII−II線に沿った断面図。
図5】本発明の他の形態に係る金属ベース回路基板を概略的に示す断面斜視図。
図6図5に示す金属ベース回路基板のIII−III線に沿った断面図。
図7】従来の金属ベース回路基板の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明者等は、金属ベース回路基板における絶縁層の薄肉化を進めると絶縁破壊が生じやすくなる問題点について、下記のように分析し、本発明を完成するに至った。
【0030】
金属ベース回路基板の基本的な断面構造を図7に示す。この金属ベース回路基板において、回路パターン43に電圧が印加されると、金属ベース基板41との間に形成される電界は、回路パターン43の端部(絶縁層42からの立ち上がり部分である破線枠B内)において特に高くなり、部分放電が発生しやすくなる。一般に、回路パターン43と金属ベース基板41との間に形成される電界は、絶縁層42の膜厚が薄肉化されると、厚肉である場合に比較して大きくなるため、絶縁層42の膜厚が薄くなるほど回路パターン43の端部における部分放電は起きやすくなる。部分放電は、やがて回路パターン43及び金属ベース基板41の間を短絡させ絶縁破壊に至らしめる。
【0031】
本発明に係る金属ベース回路基板は、金属ベース基板と、第一の回路パターンと、上記金属ベース基板と第一の回路パターンとの間に第一の絶縁層とを具備し、第一の絶縁層は、第一の回路パターンのうち、上記金属ベース基板と向き合った下面と、第一の回路パターンの側面のうち少なくとも上記下面と隣接した領域(第一の絶縁層からの立ち上がり部分)(以下において、「第一の回路パターンの端面」などという)とを被覆していることを第一の特徴とする。このように、本発明は、金属ベース回路基板における第一の回路パターンの下面と、第一の回路パターンの端面とが第一の絶縁層により被覆された構造とすることにより、第一の回路パターンの端部における部分放電の発生を抑制し、金属ベース回路基板における絶縁破壊の問題を解消したものである。ここで「第一の回路パターンの端部」とは、例えば、後述する図2中、破線枠Aで囲われた第一の回路パターンの部位をいう。
【0032】
本発明に係る金属ベース回路基板において、第一の回路パターンの端部における第一の絶縁層による被覆は、例えば、以下の工程を経て形成される。すなわち、本発明に係る金属ベース回路基板の製造方法は、未硬化の第一の絶縁層に第一の回路パターンを圧着し、前記第一の回路パターンのうち、金属ベース基板と向き合った下面と、第一の回路パターンの側面のうち少なくとも上記下面と隣接した領域(端面)とを未硬化の第一の絶縁層により被覆すること、未硬化の絶縁層を加熱により硬化することを含むことを第一の特徴とする。
【0033】
以下、図面を参照しながら本発明を更に詳細に説明する。
<第一の実施形態>
本発明の金属ベース回路基板の一形態を図1及び図2を用いて説明する。金属ベース回路基板10は、金属ベース基板11と、金属ベース基板11上に形成され、一方向(Y)に延在した第一の絶縁層12と、第一の絶縁層12上に形成され、一方向(Y)に延在した第一の回路パターン13とを備える。ここで、第一の絶縁層12は、第一の回路パターン13の接着層として、第一の回路パターン13の下で一方向(Y)に延在しているが、これに限定されるものではなく、例えば、金属ベース基板11の一面(XY方向)を覆っていてもよい。なお、図1及び図2、並びに後述する図3図6において、X及びY方向は金属ベース基板11の主面に平行であり且つ互いに直交する方向であり、Z方向はX及びY方向に対して垂直な厚さ方向である。
【0034】
金属ベース回路基板10は、第一の回路パターン13の端部(図2の破線枠Aで囲われた部分)が第一の絶縁層12により被覆されている。すなわち、金属ベース回路基板10は、第一の回路パターン13のうち、金属ベース基板11に向き合った下面13bと、第一の回路パターン13の側面13aのうち少なくとも下面13bと隣接した領域である端面(第一の絶縁層12からの立ち上がり部分)とが連続的に第一の絶縁層12により被覆されている。本発明において、このように第一の回路パターン13の端部を被覆する第一の絶縁層12の形状をフィレット形状という。第一の回路パターン13の端部がフィレット形状の第一の絶縁層12により被覆されることにより、絶縁層12の膜厚hを薄肉化した場合にも、回路パターン13の端部における部分放電の発生が抑制され、高い耐電圧を確保することができる。
【0035】
金属ベース回路基板10において、第一の絶縁層12の膜厚h(z方向)は、例えば、200μm以下であることが好ましく、30〜200μmであることがより好ましく、30〜150μmあることが更に好ましい。ここで第一の絶縁層12の膜厚hは、第一の回路パターン13の下面13bと金属ベース基板11に挟まれた第一の絶縁層12の厚みを意味する。
【0036】
本発明の一形態において、第一の絶縁層12による第一の回路パターン13の側面13aの被覆率は、例えば、5〜100%が好ましく、25〜100μmがより好ましく、50〜100μmが更に好ましい。
【0037】
ここで、被覆率は、第一の回路パターン13の側面13aにおける、硬化後の第一の絶縁層12により被覆された平均高さ(Z方向)を、回路パターン13の平均厚み(Z方向)で割って求めた値(%)を表す。ここで、第一の回路パターン13の側面13aにおける第一の絶縁層12により被覆された平均高さは、断面のSEM画像より測定し、回路パターン13の平均厚みはマイクロメーターにてランダムに測定したそれぞれ5点の平均値とした。また、回路パターン13の平均厚みは、圧着する前に、予めマイクロメーターにてランダムに測定したそれぞれ5点の平均値とした。
【0038】
図1及び図2に示される金属ベース回路基板10は、例えば、以下の工程を含む製造方法により製造することができる。
【0039】
まず、第一の回路パターン13の一方の面に、未硬化の第一の絶縁層12’を配置する(工程(a1))。
【0040】
この手法は特に限定されるものではない。例えば、予め回路形状に加工された第一の回路パターン13の一方の面に、液状の絶縁組成物を、ロールコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、ディスペンサー法、ダイコート法等の公知の方法を用いて塗布することにより、未硬化の第一の絶縁層12’を第一の回路パターン上に設置する態様(以下、「態様1」という。)であってもよい。
【0041】
また、他の手法としては、金属ベース基板11上に、予め回路形状に加工された第一の回路パターン13を配置し、第一の回路パターン13が配置されていない金属ベース基板11上の隙間に、トランスファーモールド法やオートクレーブ法により圧力を付加して液状の絶縁組成物を流し込むことにより、金属ベース基板11と第一の回路パターン13との間に未硬化の第一の絶縁層12'を設置する態様(以下、「態様2」という。)であってもよい。この未硬化の第一の絶縁層12’は、第一の回路パターン13と金属ベース基板11の接着剤としての役割も有する。
【0042】
次いで、工程(a1)で形成した未硬化の第一の絶縁層12’と、第一の回路パターン13とを圧着する(工程(a2))。
上述した態様1により、第一の回路パターン13の一方の面に、未硬化の第一の絶縁層12’を配置した場合には、未硬化の第一の絶縁層12’を備えた第一の回路パターン13を、未硬化の第一の絶縁層12’が間に配置されるように金属ベース基板11に圧着し、第一の回路パターン13の端部に未硬化の絶縁層によるフィレット形状を形成する。
【0043】
上述した態様2により、金属ベース基板11と第一の回路パターン13との間に未硬化の第一の絶縁層12’が設置されている場合には、第一の回路パターン13を金属ベース基板11に対して圧着し、第一の回路パターン13の端部に未硬化の絶縁層によるフィレット形状を形成する。
【0044】
圧着の程度は、硬化後の第一の絶縁層12による第一の回路パターン13の側面13aの被覆率が、上述した範囲となるよう圧着することが好ましい。
【0045】
次いで、未硬化の第一の絶縁層12’を加熱硬化させる(工程(a3))。これにより、第一の回路パターン13の端部が、図1及び図2に示されるようなフィレット形状の第一の絶縁層12により被覆された金属ベース回路基板10が得られる。
【0046】
加熱硬化工程(a3)では、加圧しなくてもよい。本発明の金属ベース回路基板10は、第一の回路パターン13の端部がフィレット状の絶縁層12で被覆されていることにより、回路パターン13の端部における部分放電の発生が抑制されるため、加熱硬化工程(a3)で加圧しなくても、耐電圧特性の良好な金属ベース回路基板を得ることができる。加熱硬化工程(a3)において加熱する必要がない場合、加熱装置及びそれに必要な補材(クッション材等)が必要ないため、生産コストの観点からも有利である。
【0047】
本発明の金属ベース回路基板10において、絶縁層12は、第一の回路パターン13を金属ベース基板11から電気的に絶縁する役割を果たしているのに加え、それらを互いに張り合わせる接着剤としての役割も果たしている。そのため、絶縁層12には一般に樹脂が使用される。さらに、絶縁層12は、回路パターン13の高い発熱性に対する高い耐熱性と、この発熱を金属ベース基板11に伝達する高い熱伝達性が必要とされるため、絶縁層12は無機充填材を更に含有することが好ましい。
【0048】
絶縁層12のマトリクス樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、トリアジン型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂;ビスフェノールE型シアネート樹脂、ビスフェノールA型シアネート樹脂、ノボラック型シアネート樹脂等のシアネート樹脂等を単独又は2種以上を混合して用いることができる。
上述の通り、第一の回路パターンの側面の少なくとも端面における第一の絶縁層による被覆は、未硬化の第一の絶縁層に第一の回路パターンを圧着することにより形成される。また、未硬化の第一の絶縁層の加熱硬化工程では、加圧する必要がない。そのため樹脂には、圧着により第一の回路パターンの端部にフィレット形状を形成しやすく、且つ、無加圧での加熱硬化においてボイドレス接着が可能となるような性能が求められる。
【0049】
この観点からは、マトリクス樹脂は、常温で液状であること、溶融粘度が低いこと、硬化速度が速すぎないこと、の少なくともいずれかを満たす樹脂であることが好ましい。具体的には、樹脂は蒸気圧が低いことが好ましく、例えば、25℃、1kPaで沸騰しない液状樹脂であることが好ましい。また、樹脂は粘度が低いことが好ましく、例えば、無機充填材などの添加物を含まない状態の粘度は25℃で10Pa・s以下が好ましく、アルミナやシリカなどの無機充填材を添加したときは1〜50Pa・sのスラリーであることが好ましい。
【0050】
また、耐熱性の観点からは、マトリクス樹脂は、硬化後のガラス転移点(Tg)が高いことが好ましく、例えば、175℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることが更に好ましい。Tgの上限値は特に限定されるものではないが、例えば、400℃以下であることが好ましい。ここで、Tgは、動的粘弾性測定装置(DMA)によるTanδのピーク値である。
【0051】
マトリクス樹脂として具体的には、例えば、ビスフェノールE型シアネート樹脂、ビスフェノールA型シアネート樹脂、ノボラック型シアネート樹脂等のシアネート樹脂から選択される少なくともいずれかを用いることが好ましく、少なくともビスフェノールE型シアネート樹脂を用いることがより好ましい。
【0052】
本発明の一形態において、絶縁層12は、少なくともビスフェノールE型シアネート樹脂を含有し、その含有率は、絶縁層12に含有される樹脂の合計を基準として、50〜100体積%であることが好ましく、60〜100体積%がより好ましく、70〜100体積%が更に好ましい。
【0053】
第一の絶縁層12は、上述の通り、樹脂と無機充填材を含有することが好ましい。この無機充填材としては、電気絶縁性に優れかつ熱伝導率の高いものが好ましく、例えば、アルミナ、シリカ、窒化アルミ、窒化ホウ素、窒化ケイ素、酸化マグネシウム等が挙げられ、これらの中から選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0054】
第一の絶縁層12における無機充填材の充填率は、無機充填剤の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、絶縁層12に含有されるマトリクス樹脂の全体積を基準として70体積%以下であることが好ましく、30〜70体積%がより好ましい。
【0055】
第一の絶縁層12は、上述したマトリックス樹脂及び無機充填材以外に、例えば、カップリング剤、分散剤等を更に含有していてもよい。
【0056】
金属ベース基板11は、例えば、単体金属又は合金からなる。金属ベース基板11の材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、アルミニウム合金、又はステンレスを使用することができる。金属ベース基板11は、炭素などの非金属を更に含んでいてもよい。例えば、金属ベース基板11は、炭素と複合化したアルミニウムを含んでいてもよい。また、金属ベース基板11は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。
【0057】
金属ベース基板11は、高い熱伝導率を有している。典型的には、金属ベース基板11は、60W・m−1・K−1以上の熱伝導率を有している。
金属ベース基板11は、可撓性を有していてもよく、可撓性を有していなくてもよい。金属ベース基板11の厚さは、例えば、0.2〜5mmの範囲内にある。
【0058】
第一の回路パターン13は、例えば、単体金属又は合金からなる。第一の回路パターン13の材料としては、例えば、銅又はアルミニウムを使用することができる。第一の回路パターン13の厚さは、例えば、10〜500μmの範囲である。
【0059】
<第二の実施形態>
本発明の金属ベース回路基板の他の形態を図3及び図4を用いて説明する。金属ベース回路基板20は、金属ベース基板21と、金属ベース基板21の回路面となる一方の面上(XY方向)に形成された第二の絶縁層24と、第二の絶縁層24上に形成され、一方向(Y)に延在した第二の回路パターン25と、第二の回路パターン25上に形成され、一方向(Y)に延在した第一の絶縁層22と、第一の絶縁層22上に形成され、一方向(Y)に延在した第一の回路パターン23とを備える。ここで、第一の絶縁層22は、第一の回路パターン23の接着層として、第一の回路パターン23の下で一方向(Y)に延在しているが、これに限定されるものではなく、例えば、第二の回路パターン25の一面(XY方向)を覆っていてもよい。
【0060】
金属ベース回路基板20は、第一の回路パターン23の端部(図4の破線枠Aで囲まれた部位)が第一の絶縁層22により被覆されている。すなわち、金属ベース回路基板20は、第一の回路パターン23のうち、金属ベース基板21に向き合った下面23bと、第一の回路パターン23の側面23aのうち少なくとも下面23bと隣接した領域である端面(第一の絶縁層22からの立ち上がり部分)とが連続的に第一の絶縁層22により被覆されている。第一の回路パターン23の端部がフィレット形状の第一の絶縁層22により被覆されることにより、第一の絶縁層22の膜厚hを薄肉化した場合にも、第一の回路パターン23の端部における部分放電の発生が抑制され、高い耐電圧を確保することができる。
【0061】
金属ベース回路基板20において、第一の絶縁層22の膜厚h(z方向)の好ましい範囲は、上述した金属ベース回路基板10における第一の絶縁層12の膜厚h(z方向)の好ましい範囲と同様である。
【0062】
また、金属ベース回路基板20において、第一の絶縁層22による第一の回路パターン23の側面23aの被覆率の好ましい範囲は、上述した金属ベース回路基板10における第一の絶縁層12による被覆率の好ましい範囲と同様である。
【0063】
図3及び図4に示される金属ベース回路基板20は、例えば、以下の工程(b1)、工程(b2)、工程(b3)及び工程(b4)を含む製造方法により得ることができる。
<工程(b1)>
金属ベース基板21と、金属ベース基板21の上に形成された第二の絶縁層24と、第二の絶縁層24の上に形成された第二の回路パターン25からなる単層の金属ベース回路基板を製造する(工程(b1))。この単層の金属ベース回路基板は、公知の方法により製造することができる。
【0064】
例えば、液状の絶縁組成物を、金属ベース基板21、及び、第二の回路パターン25がパターニングされる前の金属箔の少なくとも一方に、例えばロールコート法、バーコート法又はスクリーン印刷法など公知の方法により塗布することにより、未硬化の第二の絶縁層24’を形成する。
【0065】
次いで、金属ベース基板21と上記金属箔とが未硬化の第二の絶縁層24’を挟んで向き合うように重ね合わせ、加圧加熱処理により未硬化の第二の絶縁層24’を硬化させる。次いで、上記金属箔をパターニングして第二の回路パターン25を形成することにより、単層の金属ベース回路基板を得る。
【0066】
上述した態様では、液状の絶縁組成物を金属ベース基板21及び金属箔の少なくとも一方に塗布することにより未硬化の第二の絶縁層24’を形成するが、他の態様において、液状の絶縁組成物をPETフィルム等の基材に塗布し乾燥することにより予め塗膜を形成し、これを金属ベース基板21及び金属箔の一方に熱転写してもよい。
【0067】
<工程(b2)>
予め回路形状に加工された第一の回路パターン23の一方の面に、未硬化の第一の絶縁層22’を配置する(工程(b2))。
【0068】
この手法は特に限定されるものではなく、上述した金属ベース回路基板10の製造方法において説明した態様1又は態様2に準拠して行うことができる。すなわち、第一の回路パターン23の一方の面に、液状の絶縁組成物を上述した公知の方法を用いて塗布することにより、未硬化の第一の絶縁層22’を第一の回路パターン23の一方の面に設置する態様(以下、「態様3」という)であってもよい。あるいは、上述した工程(b1)で得られた単層の金属ベース回路基板における第二の回路パターン25上に、第一の回路パターン23を配置し、第一の回路パターン23が配置されていない第二の回路パターン25上の隙間に、トランスファーモールド法やオートクレーブ法により圧力を付加して液状の絶縁組成物を流し込むことにより、第二の回路パターン25と第一の回路パターン23との間に未硬化の第一の絶縁層22'を設置する態様(以下、「態様4」という)であってもよい。
【0069】
<工程(b3)>
工程(b2)で形成した未硬化の第一の絶縁層22’と、第一の回路パターン23とを圧着する(工程(b3))。
上述した態様3により、第一の回路パターン23の一方の面に、未硬化の第一の絶縁層22’を配置した場合には、未硬化の第一の絶縁層22’を備えた第一の回路パターン23を、未硬化の第一の絶縁層22’が間に配置されるように第二の回路パターン25に圧着し、第一の回路パターン23の端部に未硬化の絶縁層によるフィレット形状を形成する。
【0070】
上述した態様4により、第二の回路パターン25と第一の回路パターン23との間に未硬化の第一の絶縁層22’が設置されている場合には、第一の回路パターン23を第二の回路パターン25に対して圧着し、第一の回路パターン23の端部に未硬化の絶縁層によるフィレット形状を形成する。
【0071】
圧着の程度は、硬化後の第一の絶縁層22による第一の回路パターン23の側面23aの被覆率が、上述した範囲となるよう圧着することが好ましい。
【0072】
<工程(b4)>
次いで、未硬化の第一の絶縁層22’を加熱硬化させる(工程(b4))。これにより、第一の回路パターン23の端部が、図3及び図4に示されるようなフィレット形状の第一の絶縁層22により被覆された金属ベース回路基板20が得られる。なお、加熱工程(b4)では、加圧しなくてもよい。
【0073】
本発明の金属ベース回路基板20において、第一の絶縁層22及び第二の絶縁層24は、上述した金属ベース回路基板10における第一の絶縁層12と同様、高い絶縁性、接着性、耐熱性及び熱伝達性が求められる。このため、第一の絶縁層22及び第二の絶縁層24は、一般に樹脂を含み、好ましくは無機充填材を更に含有する。また、第一の絶縁層22及び第二の絶縁層24は、無機充填材及びマトリックス樹脂以外に、例えば、カップリング剤、分散剤等を更に含有していてもよい。
【0074】
第一の絶縁層22は、金属ベース回路基板10における第一の絶縁層12と同様、未硬化の状態で第一の回路パターン23に圧着されることにより、フィレット形状を形成し、第一の回路パターン23の端部を被覆するものである。このため第一の絶縁層22における好ましい態様は、上述した金属ベース回路基板10における第一の絶縁層12の好ましい態様と同様である。
【0075】
一方、第二の絶縁層24においてマトリクスとなる樹脂としては、絶縁性を付与することができ、上述した加熱加圧処理により接着性を示し且つ熱分解しない樹脂であれば特に限定されるものではない。例えば、ポリアミドイミド、液晶ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリフェニルサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンスルフィド、エポキシ樹脂、イミド樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾオキサンジン樹脂などが挙げられ、これらの樹脂は、単独又は組み合わせて用いることができる。また、このマトリクス樹脂に分散され得る無機充填材としては、上述した金属ベース回路基板10における第一の絶縁層12が含有し得る上記無機充填剤と同様の具体例が挙げられる。また、この無機充填材の含有率は、例えば、マトリクス樹脂を基準として40〜80体積%であることが好ましく、50〜80体積%あることがより好ましい。
【0076】
また、第二の絶縁層24の厚さは、絶縁性を確保するなどの観点から、80μm以上であることが好ましく、80〜200μmであることがより好ましい。
【0077】
本発明の金属ベース回路基板20において、金属ベース基板21は、上述した金属ベース回路基板10の金属ベース基板11において説明した通りであり、第一の回路パターン23及び第二の回路パターン25は、金属ベース回路基板10の第一の回路パターン13において説明した通りである。
【0078】
<第三の実施形態>
本発明の金属ベース回路基板の更なる他の形態を図5及び図6を用いて説明する。金属ベース回路基板30は、金属ベース基板31と、金属ベース基板31の回路面となる一方の面上に一方向(Y)に延在した第二の絶縁層34と、第二の絶縁層34上に形成され、一方向(Y)に延在した第二の回路パターン35と、第二の回路パターン35上に形成され、一方向(Y)に延在した第一の絶縁層32と、第一の絶縁層32上に形成され、一方向(Y)に延在した第一の回路パターン33とを備える。ここで、第一の絶縁層32は、第一の回路パターン33の接着層として、第一の回路パターン33の下で一方向(Y)に延在しているが、これに限定されるものではなく、例えば、第二の回路パターン35の一面(XY方向)を覆っていてもよい。同様に、第二の絶縁層34は、金属ベース基板31の一面(XY方面)を覆っていてもよい。
【0079】
金属ベース回路基板30は、第一の回路パターン33の端部(図6の破線枠A1で囲まれた部位)が第一の絶縁層32により被覆されている。すなわち、第一の回路パターン33のうち、金属ベース基板31に向き合った下面33bと、第一の回路パターン33の側面33aのうち少なくとも下面33bと隣接した領域である端面(第一の絶縁層32からの立ち上がり部分)とが連続的に第一の絶縁層32により被覆されている。
【0080】
更に、金属ベース回路基板30は、第二の回路パターン35の端部(図6の破線枠A2で囲まれた部位)が第二の絶縁層34により被覆されている。すなわち、第二の回路パターン35のうち、金属ベース基板31に向き合った下面35bと、第二の回路パターン35の側面35aのうち少なくとも下面35bと隣接した領域である端面(第二の絶縁層34からの立ち上がり部分)とが連続的に第二の絶縁層34により被覆されている。
【0081】
このように、第一の回路パターン33の端部と、第二の回路パターン35の端部が、それぞれフィレット形状の第一の絶縁層32及び第二の絶縁層34により被覆されることにより、第一の絶縁層32の膜厚h、及び、第二の絶縁層34の膜厚hを薄肉化した場合にも、第一の回路パターン33及び第二の回路パターン35の端部における部分放電の発生が抑制され、高い耐電圧を確保することができる。
【0082】
金属ベース回路基板30において、第一の絶縁層32の膜厚h(z方向)及び第二の絶縁層34の膜厚h(z方向)の好ましい範囲は、上述した金属ベース回路基板10における第一の絶縁層12の膜厚h(z方向)の好ましい範囲と同様である。
【0083】
また、金属ベース回路基板30において、第一の絶縁層32による第一の回路パターン33の側面33aの被覆率、及び、第二の絶縁層34による第二の回路パターン35の側面35aの被覆率の好ましい範囲は、上述した金属ベース回路基板10における第一の絶縁層12による被覆率の好ましい範囲と同様である。
【0084】
図5及び図6に示される金属ベース回路基板30は、例えば、以下の工程(c1−1)、工程(c1−2)、工程(c2−1)、工程(c2−2)及び工程(c3)を含む製造方法により得ることができる。
【0085】
<工程(c1−1)>
予め回路形状に加工された第一の回路パターン33の一方の面に、未硬化の第一の絶縁層32’を配置する(工程(c1−1))。この手法は特に限定されるものではなく、上述した金属ベース回路基板10の製造方法において説明した態様1又は態様2に準拠して行うことができる。
【0086】
<工程(c1−2)>
工程(c1−1)で形成した未硬化の第一の絶縁層32’と、第一の回路パターン33とを圧着する(工程(c1−2))。例えば、金属ベース回路基板10の製造方法において説明した工程(a2)に準拠した手法により、未硬化の第一の絶縁層32’を間に挟む形で、第一の回路パターン33と予め回路形状に加工された第二の回路パターン35とを圧着することにより、第一の回路パターン33の端部に未硬化の絶縁層32’によるフィレット形状が形成される。
【0087】
<工程(c2−1)>
予め回路形状に加工された第二の回路パターン35の一方の面に、未硬化の第二の絶縁層34’を配置する(工程(c2−1))。この手法は特に限定されるものではなく、上述した金属ベース回路基板10の製造方法において説明した態様1又は態様2に準拠して行うことができる。
【0088】
<工程(c2−2)>
工程(c2−1)で形成した未硬化の第二の絶縁層34’と、第二の回路パターン35とを圧着する(工程(c2−2))。例えば、金属ベース回路基板10の製造方法において説明した工程(a2)に準拠した手法により、未硬化の第二の絶縁層34’を間に挟む形で、第二の回路パターン35と金属ベース基板31とを圧着することにより、第二の回路パターン35の端部に未硬化の絶縁層34’によるフィレット形状が形成される。
【0089】
上述した工程(c1−1)及び(c1−2)により、第一の回路パターン33の端部に未硬化の絶縁層32’によるフィレット形状を形成する工程と、上述した工程(c2−1)及び(c2−2)により、第二の回路パターン35の端部に未硬化の絶縁層34’によるフィレット形状を形成する工程とは、いずれを先に行ってもよい。
【0090】
<工程(c3)>
未硬化の2層の絶縁層を加熱により硬化させる(工程c3)。未硬化の第二の絶縁層32’を加熱硬化する工程と、未硬化の第二の絶縁層34’を加熱硬化する工程は、同時に行ってもよいし、別々に行ってもよいが、同時に行うことは、熱履歴が一定になる観点から好ましい。
【0091】
加熱硬化工程(c3)では、加圧しなくてもよい。本発明の金属ベース回路基板30は、第一の回路パターン33の端部並びに第二の回路パターン35の端部に、各々フィレット状の絶縁層32及び絶縁層34が形成されていることにより、第一の回路パターン33及び第二の回路パターン35の端部における部分放電の発生が抑制されるため、加熱硬化工程(c3)で加圧しなくても、耐電圧特性の良好な金属ベース回路基板を得ることができる。
【0092】
本発明の金属ベース回路基板30において、第一の絶縁層32及び第二の絶縁層34は、金属ベース回路基板10における第一の絶縁層12と同様、高い絶縁性、接着性、耐熱性及び熱伝達性が求められる。このため、第一の絶縁層22及び第二の絶縁層24は、一般に樹脂を含み、好ましくは無機充填材を更に含有する。また、第一の絶縁層32及び第二の絶縁層34は、無機充填材及びマトリックス樹脂以外に、例えば、カップリング剤、分散剤等を更に含有していてもよい。
【0093】
また、第一の絶縁層32及び第二の絶縁層34は、金属ベース回路基板10における第一の絶縁層12と同様、未硬化の状態で圧着されることにより、フィレット形状を形成し、それぞれ第一の回路パターン33及び第二の回路パターン35の端部を被覆するものである。また、未硬化の各絶縁層の加熱硬化工程では、加熱する必要がない。
【0094】
このため、第一の絶縁層32及び第二の絶縁層34に含まれる樹脂は、金属ベース回路基板10における第一の絶縁層12に含まれる樹脂と同様の性能が求められ、好ましい具体例も同様である。
【0095】
また、第一の絶縁層32及び第二の絶縁層34に含まれ得る無機充填材の具体例、及びその充填率についても、上述した金属ベース回路基板10における第一の絶縁層12と同様である。
【0096】
本発明の金属ベース回路基板30において、金属ベース基板31は、上述した金属ベース回路基板10の金属ベース基板11において説明した通りであり、第一の回路パターン33及び第二の回路パターン35は、金属ベース回路基板10の第一の回路パターン13において説明した通りである。
【実施例】
【0097】
以下に、本発明の例を記載する。本発明はこれらに限定されるものでない。
[絶縁性樹脂組成物の調製]
後掲の表1に示す樹脂の合計体積に対して充填率が60体積%となるよう球状シリカを添加し、次いで遊星式撹拌器にて混合し樹脂溶液を作製した。得られた樹脂溶液を25℃、1kPaで減圧脱泡し、絶縁性樹脂組成物を得た。なお、表1に示すTgは、以下に示す方法により求めた各絶縁樹脂組成物のガラス転移点である。
・Tgの測定方法
各絶縁樹脂組成物を、離型処理された厚さ2mmの銅板で挟み、これを200℃で硬化させ、厚さ約200μmのシートを作製した。このシートから3×50mmの短冊状に切り出した試料を、DMA測定用サンプルとし、tanδのピークからTgを求めた。
【0098】
[金属ベース回路基板の作製]
任意の回路形状に加工された厚み1.0mmの回路銅板の片面に、圧着硬化後の厚みが100μmになるように上掲で調製した絶縁性樹脂組成物を塗布し、未硬化状態の絶縁層を形成した。次いで、これを厚み1.0mmのベース銅板上に、未硬化状態の上記絶縁層を間に挟むように載せて圧着した。次いで、回路銅板が圧着されたベース銅板をオーブンで加熱して絶縁層を硬化させ、金属ベース回路基板を得た。
【0099】
得られた各金属ベース回路基板について、耐電圧、はんだ耐熱性、及び、吸湿はんだ耐熱性を、以下に示す評価方法により評価した。結果を、硬化後の絶縁層による上記回路銅板の側面の被覆率と共に示す。
【0100】
ここで、被覆率は、回路銅板の側面における、硬化後の絶縁層により被覆された平均高さを、回路銅板の平均厚みで割って求めた値(%)を表す。回路銅板の平均厚みは、圧着する前にマイクロメーターにてランダムに測定した5点の平均値である。また、回路銅板の側面における硬化後の絶縁層により被覆された平均高さは、断面のSEM画像よりランダムに測定した5点の平均値であり、回路銅板の平均厚みは、マイクロメーターにてランダムに測定した5点の平均値である。
【0101】
[比較用金属ベース回路基板の作製]
加熱加圧後の厚みが100μmになるように各絶縁性樹脂組成物を銅板の片面に塗布し、流動性が無くなる程度まで半硬化させることによりプリプレグ付き銅板を作製した。このプリプレグ付き銅板から任意の回路形状に加工された厚み1.0mmの回路銅板を、厚み1.0mmのベース銅板上に半硬化状態の上記絶縁層を間に挟むように載せて加熱加圧にて接着し、被覆率0%の比較用金属回路ベース基板を得た。
【0102】
<評価方法>
[耐電圧]
三菱電線工業株式会社社製B010を用い、試験電圧0.5kVからスタートし、クリアするごとに0.5kVずつ上げていき、絶縁破壊した時点の電圧を耐電圧(絶縁破壊電圧)(BDV)とした。測定条件は試験電圧までの昇圧時間25秒、保持時間5秒、降圧時間15秒とした。結果を表2に示す。
【0103】
[はんだ耐熱性]
はんだ耐熱性は、電子部品を回路基板に実装する際のリフロー処理を想定した試験であり、280℃のはんだ浴に金属ベース回路基板を5分間浮かべ、その後、耐電圧の上記測定条件に従いBDVを測定する。BDVが2kVよりも低い場合は×、BDVが2.0kV以上3.0kV未満の場合は△、BDVが3.0kV以上の場合を○とした。結果を表2に示す。結果を表2に示す。
【0104】
[吸湿はんだ耐熱性]
吸湿はんだ耐熱性は、電子部品を回路基板に実装する際のリフロー処理を想定した試験であり、金属ベース回路基板を40℃、湿度98%の条件下で3時間吸湿させる。次いで、280℃のはんだ浴に金属ベース回路基板を5分間浮かべ、その後、耐電圧の上記測定条件に従いBDVを測定する。BDVが2kVよりも低い場合は×、BDVが2.0kV以上3.0kV未満の場合は△、BDVが3.0kV以上の場合を○とした。結果を表2に示す。結果を表2に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7