(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明に関する実施の形態を説明する。
本発明の変速機構は、変速比を無段階に変速する無段変速機に適用される。本実施形態では、電気自動車に搭載された無段変速機を例に挙げて説明する。ただし、本発明は、電動モータのみを走行駆動源として搭載した車両(いわゆるEV)に限らず、電動モータおよびエンジンの双方を走行駆動源として搭載した車両(いわゆるHEV)やエンジンのみを走行駆動源として搭載した車両の無段変速機に適用されてもよい。
【0013】
〔I.一実施形態〕
[1.構成]
まず、車両の駆動系ユニットを説明する。
図1に示すように、この駆動系ユニットには、車両の駆動源である主電動モータ(単に「電動モータ」とも言う)1Aと、主電動モータ1Aの出力軸と一体に連結された入力軸2Aを有する変速機2と、変速機2に接続された減速機構6と、減速機構6に接続された差動機構7とが設けられている。
【0014】
変速機2は、いわゆる副変速機構付きのベルト式無段変速機(「CVT」とも称される)に加えて、直結ギヤ機構20が設けられたものである。この変速機2には、入力軸2Aから噛み合いクラッチ機構5Aを介して回転が入力される無段変速機(以下、「バリエータ」という)3と、このバリエータ3の出力回転軸36に連結された常時噛み合い型平行軸式歯車変速機構(以下、「副変速機構」という)4と、バリエータ3および副変速機構4を迂回するようにして入力軸2Aと減速機構6とを直結する直結ギヤ機構20とが設けられている。
はじめに、変速機2の基本的な構成について、バリエータ3,副変速機構4,直結ギヤ機構20の順に各構成を説明する。
【0015】
[1−1.駆動系ユニットの基本構成]
[1−1−1.バリエータ]
バリエータ3は、入力回転軸33に接続されたプライマリプーリ30Pと、出力回転軸36に接続されたセカンダリプーリ30Sと、これらのプーリ30P,30Sに巻き掛けられたベルト(可撓部材)37とが設けられている。
プライマリプーリ30Pには、入力回転軸33に固定された固定シーブ31と、入力回転軸33に沿って移動可能な可動シーブ32とが設けられる。これらシーブ31,32の間には、径方向断面においてV字状の溝(以下、「V溝」という)が形成される。ここでは、変速機2の入力軸2Aに対して入力回転軸33が相対回転可能に設けられている。
【0016】
同様に、セカンダリプーリ30Sには、出力回転軸36に固定された固定シーブ34と、出力回転軸36に沿って移動可能な可動シーブ35とが設けられ、シーブ34,35の間にV溝が形成される。
プーリ30P,30SそれぞれのV溝には、ベルト37が巻き掛けられている。ベルト37は、可撓性を有する動力伝達部材である。なお、ベルト37に替えて、チェーン(可撓部材)といった他の可撓性動力伝達部材を用いてもよい。
【0017】
なお、
図1には、変速比がLow側の状態とHigh側の状態とのそれぞれにおけるバリエータ3のプーリ30P,30Sおよびベルト37を示している。プーリ30P,30Sの各外側(互いに離隔している側)の半部にLow側の状態を示し、各内側(互いに近接している側)の半部にHigh側の状態を示している。ベルト37については、Low側の状態を実線で模式的に示し、High側の状態を各プーリ30P,30Sの内側に二点鎖線で模式的に示している。ただし、High側の状態は、半径方向の位置関係を仮想的に示すものであり、実際のベルト37の位置がプーリ30P,30Sの内側半部に現れることはない。
【0018】
このバリエータ3では、プーリ30P,30Sへのベルト37の巻掛半径を変更することで、変速比が無段階に調整される。変速時におけるベルト37の巻掛半径を変更するために、プライマリプーリ30Pにおけるシーブ31,32間のベルト挟圧力、あるいは、セカンダリプーリ30におけるシーブ34,35間のベルト挟圧力が調整される。
ベルト挟圧力は、回転軸33,36に沿う可動プーリ32,35の推力の変更によって変動する。このベルト挟圧力は、電動アクチュエータ80A,機械式反力機構80B及び推力発生機構9によって調整されるようになっている。
【0019】
プライマリプーリ30Pには、電動アクチュエータ80Aおよび機械式反力機構80B(以下、これらをあわせて「変速機構8」とも呼ぶ)が付設されている。また、セカンダリプーリ30Sには推力発生機構9が付設されている。これらの電動アクチュエータ80A,機械式反力機構80Bおよび推力発生機構9により溝幅および推力が調整される。
【0020】
上記の機械式反力機構80Bおよび推力発生機構9は、何れもトルクカム機構が用いられている。そのため、ベルト37を介してプーリ30P,30Sの各トルクカム機構が稼働し、ベルト37の伝達トルクに応じた推力が両プーリ30P,30Sに発生するようになっている。
これらの電動アクチュエータ80A,機械式反力機構80B,推力発生機構9については、詳細を後述する。
【0021】
[1−1−2.副変速機構]
副変速機構4は、複数の変速段(ここでは2速段)を有し、バリエータ3の出力回転軸36と同軸で一体の回転軸43に対して相対回転可能に装備されたギヤ41,42と、回転軸43と平行な回転軸46に一体に回転するように固設されたギヤ44,45とが設けられている。ギヤ41とギヤ44とは常時噛み合っており、2速ギヤ段を構成する。ギヤ42とギヤ45とは常時噛み合っており、1速ギヤ段を構成する。
【0022】
副変速機構4には、2速ギヤ段および1速ギヤ段を選択的に切り替えるために、3ポジション式の噛み合いクラッチ機構5Bが装備される。噛み合いクラッチ機構5Bは、回転軸43と一体に回転するクラッチハブ54と、クラッチハブ54に設けられた外歯54aにスプライン係合する内歯55aを有するスリーブ55と、スリーブ55をシフト方向に移動させるシフトフォーク56と、シフトフォーク56を駆動する切替用電動アクチュエータ50Bとをそなえている。
【0023】
ギヤ41にはスリーブ55の内歯55aと噛合しうる外歯41aが設けられ、ギヤ42にはスリーブ55の内歯55aと噛合しうる外歯42aが設けられている。
スリーブ55は、ニュートラルポジション(N)と、2速ギヤ段を設定する2速ポジション(H)と、1速ギヤ段を設定する1速ポジション(L)との各ポジションを有し、各ポジション間をシフトフォーク56によってスライド駆動される。
【0024】
切替用電動アクチュエータ50Bによりシフトフォーク56を駆動して、スリーブ55をギヤ41側(2速ポジション)に移動させれば、スリーブ55の内歯55aがギヤ41の外歯41aと噛み合うことで、回転軸43とギヤ41とが一体に回転することにより、2速ギヤ段が設定される。2速ギヤ段が設定されると、バリエータ3のセカンダリプーリ30Sの出力回転軸36、即ち、回転軸43からギヤ41,ギヤ44,回転軸46を経て減速機構6に動力伝達される。
【0025】
また、切替用電動アクチュエータ50Bによりシフトフォーク56を駆動して、スリーブ55をギヤ42側(1速ポジション)に移動させれば、スリーブ55の内歯55aがギヤ42の外歯42aと噛み合うことで、回転軸43とギヤ42とが一体に回転することにより、1速ギヤ段が設定される。1速ギヤ段が設定されると、バリエータ3のセカンダリプーリ30Sの出力回転軸36、即ち、回転軸43からギヤ42,ギヤ45,回転軸46を経て減速機構6に動力伝達される。
【0026】
[1−1−3.直結ギヤ機構]
直結ギヤ機構20には、入力軸2Aと相対回転可能に配置された入力ギヤ(入力歯車)21が設けられる。図示省略するが、入力ギヤ21が副変速機構4の複数の変速歯車の1つ(ここでは、1速ギヤ段の出力側歯車であるギヤ45)と噛合して駆動連結されている。なお、入力ギヤ21とギヤ45との各歯数がほぼ等しく設定され、これらのギヤ21,45の変速比がほぼ1.0となるようにされる。
【0027】
この直結ギヤ機構20をバリエータ3と選択的に使用するために、噛み合いクラッチ機構5Bと同様に構成される3ポジション式の噛み合いクラッチ機構5Aが装備される。噛み合いクラッチ機構5Aには、入力軸2Aと一体に回転するクラッチハブ51と、クラッチハブ51に設けられた外歯51aにスプライン係合する内歯52aを有するスリーブ52と、スリーブ52をシフト方向(軸方向)に移動させるシフトフォーク53と、シフトフォーク53を駆動する切替用電動アクチュエータ50Aとが設けられている。
【0028】
入力ギヤ21にはスリーブ52の内歯52aと噛合しうる外歯22が設けられ、バリエータ3におけるプライマリプーリ30Pの入力回転軸33にはスリーブ52の内歯52aと噛合しうる外歯38が設けられている。
スリーブ52は、ニュートラルポジション(N)と、バリエータ3を経由する動力伝達経路を設定するCVTポジション(C)と、直結ギヤ機構20を経由する動力伝達経路を設定する直結ポジション(D)との各ポジションを有し、シフトフォーク53によって各ポジション間をスライド駆動される。
【0029】
切替用電動アクチュエータ50Aによりシフトフォーク53を駆動して、スリーブ52を入力回転軸33側に移動させれば、スリーブ52の内歯52aが入力回転軸33の外歯38と噛み合うことで、入力軸2Aとプライマリプーリ30Pの固定プーリ31とが一体に回転することにより、バリエータ3を経由する動力伝達経路が設定される。
また、切替用電動アクチュエータ50Aによりシフトフォーク53を駆動して、スリーブ52を入力ギヤ21側に移動させれば、スリーブ52の内歯52aが入力ギヤ21の外歯22と噛み合うことで、入力軸2Aと入力ギヤ21とが一体に回転することにより、直結ギヤ機構20を経由する動力伝達経路が設定される。
【0030】
なお、直結ギヤ機構20におけるスリーブ52の内歯52aを入力回転軸33の外歯38や入力ギヤ21の外歯22と円滑に噛合させるために、プライマリプーリ30Pの入力回転軸33に直結した補助電動モータ1Bが設けられている。補助電動モータ1Bは、噛み合いクラッチ機構5Aによる切り替え動作中に、入力回転軸33を回転駆動して、副変速機構4の何れかの変速段の入力側と出力側との回転同期を促進するために装備される。この補助電源モータ1Bは、上述した副変速機構4においてスリーブ55の内歯55aをギヤ41の外歯41aとギヤ42の外歯42aとを回転同期させて円滑に噛合させるためにも用いられる。そのため、噛み合いクラッチ機構5A,5Bともにシンクロ機構は不要であるが、シンクロ機構を装備すれば同期がより促進され、また、補助電動モータ1Bを用いず回転同期されない場合にはシンクロ機構の装備が必須である。
【0031】
[1−1−4.減速機構および差動機構]
減速機構6には、副変速機構4の回転軸46と一体に回転するように固設されたギヤ61と、回転軸46と平行な回転軸65と一体に回転するように固設されてギヤ61と噛合するギヤ62と、回転軸65と一体に回転するように固設されたギヤ63と、差動機構7の入力ギヤであってギヤ63と噛合するギヤ64とが設けられる。ギヤ61とギヤ62との間でそのギヤ比に応じて減速され、さらに、ギヤ63とギヤ64との間でそのギヤ比に応じて減速される。
【0032】
差動機構7は、図示省略する左右駆動輪の差動を許容しながら減速機構6のギヤ64からの入力を各駆動輪(図示略)に出力するものである。この差動機構7では、左右のサイドギヤに接続された車軸7L,7Rに図示しない駆動輪がそれぞれ結合されている。
【0033】
[1−2.駆動系ユニットの詳細構成]
次に、電動アクチュエータ80A,機械式反力機構80Bおよび推力発生機構9について、詳細に説明する。ここでは、推力発生機構9,機械式反力機構80B,電動アクチュエータ80Aの順に説明する。
【0034】
[1−2−1.推力発生機構]
推力発生機構9には、トルクカム機構90が設けられている。このトルクカム機構90は、それぞれ螺旋状に傾斜したカム面91a,93aを有する一対のカム部材91,93が、各カム面91a,93aを摺接させるようにして同軸上に対をなして並置された端面カムである。一対のカム部材91,93は、固定カム部材93が変速機2のケーシングに固定され、可動カム部材91が出力回転軸36に沿って移動可能に設けられている。
【0035】
一対のカム部材91,93が相対回転することで、これらのカム部材91,93が軸方向に相互に離接してその軸方向長さが変更されると同時に、可動カム部材91にセカンダリプーリ30Sの可動シーブ35が圧接されて推力が調整される。これらのカム面91a,93aの相互間にはボール(鋼球)95が介装され、摺接部分をボール95によって点接触とするボールトルクカム機構を採用しており、各カム面91a,93aは滑らかに摺動する。
【0036】
ところで、たとえば車両の停止時には電動モータ1A,1Bからの入力トルクが作用しない。この場合、トルクカム機構90による推力が発生しない。そのため、推力発生機構9には、車両の発進時などの初期駆動時においてもベルト37を確実にクランプして滑りを防止することができるように、セカンダリプーリ30Sの溝幅を狭める方向へ付勢する機構としてリターンスプリング(付勢機構)94が装備されている。
【0037】
すなわち、バリエータ3は、リターンスプリング94によって変速比がLow側に付勢されている。このとき、セカンダリプーリ30Sでは、出力回転軸36に沿って可動シーブ35が固定シーブ36に近接する方向(Low側)に付勢され、プライマリプーリ30Pでは、ベルト37を介して、入力回転軸33に沿って可動シーブ32が固定シーブ31から離隔する方向(Low側)に付勢される。つまり、いわゆるLowノーマルのバリエータ3を用いている。
【0038】
[1−2−2.機械式反力機構]
機械式反力機構80Bは、推力発生機構9のトルクカム機構90と同様に、それぞれ螺旋状に傾斜したカム面83a,84aを有する一対のカム部材83,84が、各カム面83a,84aを摺接させるようにして同軸上に対をなして並置された端面カムである。一対のカム部材83,84は、固定カム部材84が変速機2のケーシングに固定され、可動カム部材83が入力回転軸33に沿って移動可能に設けられている。
【0039】
一対のカム部材83,84が相対回転すると、これらのカム部材83,84が軸方向に相互に離接してその軸方向長さが変更されると同時に、可動カム部材83の摺接面83bがプライマリプーリ30Pの可動プーリ32の背面32aにスラストベアリングなどを介して圧接されて推力が調整される。なお、ここでは、摺接するカム面83a,84aの相互間にボール(鋼球)85が介装され、摺接部分をボール85によって点接触とするボールトルクカム機構を採用しており、各カム面83a,84aは、滑らかに摺動する。
【0040】
[1−2−3.電動アクチュエータ80A]
電動アクチュエータ80Aは、プライマリプーリ30Sの可動シーブ32を移動させる装置である。この電動アクチュエータ80Aには、送りネジが用いられている。送りネジとは、雄ネジが形成されたネジ軸と、この雄ネジに螺合する雌ネジが形成されたナット部とを有し、ネジ軸を回転させることでナット部を軸方向に移動させる(送る)機構である。
送りネジとしては、いわゆるボールネジやスクリューナット,チェンジナットなどが挙げられる。ここでは、送りネジとしてボールネジが用いられている。
【0041】
以下、電動アクチュエータ80Aを具体的に説明する。
電動アクチュエータ80Aには、変速用モータ81により駆動されるボールネジ70と、ボールネジ70と係合するフォーク(係合部)11と、フォーク11が一体に結合されたホイール(プーリ駆動部材)10とが設けられている。
【0042】
〈ボールネジ〉
ボールネジ70には、変速用モータ81によって回転駆動されるネジ軸82と、図示省略するボールを介して螺合するナット部71とが設けられている。
ネジ軸82は、外周に雄ネジが形成された軸状の部材である。このネジ軸82は、
図2に示すように、プライマリプーリ30Sの回転軸心C
1に対して直交する軸心C
2と同心に配置されている。ここでは、ネジ軸82の基端部82aおよび先端部82bのそれぞれが軸受けを介して支持されている。
【0043】
ナット部71は、ネジ軸82の雄ネジに螺合する雌ネジが内周に形成されている。そのため、ネジ軸82が回転すると、軸心C
2に沿ってナット部71が移動(変位)する。
図3に示すように、ナット部71は、ネジ軸82の軸心C
2に沿う方向から視て矩形状のナット本体部72の側部に、突部(ナット係合部)73が突設されたナットトラニオンである。
【0044】
ナット本体部72には、軸心C
2に沿ってネジ軸82の外径に対応する穴が穿設されている。なお、
図3では図示省略するが、ナット本体部72とネジ軸82との間にはボールが介装されており、ナット本体部72に対してネジ軸82が円滑に回転する。
図4に示すように、突部73は、ネジ軸82を基準として先端側の端面73aと基端側の端面73bとのそれぞれが、回転軸心C
1に沿う方向から視て円弧状(曲面状)に形成されている。
【0045】
先端側の端面73aおよび基端側の端面73bがなす円弧の半径は、後述する爪部13,14との係合時に印加される最大トルクに基づいて設定される。このように設定された先端側の端面73aがなす円弧は、突部73において軸心C
2に沿う方向の厚み(フォーク11に対する突部73の接触面がネジ軸82の軸心C
2にほぼ直交する状態において、ネジ軸82の軸心C
2に沿う厚み)の中心点73Aよりも基端側にオフセットした箇所が中心C
3となる。すなわち、先端側の端面73aは、中心点73Aと爪部13への接触点(接点)73Bとの距離より大きな半径の円弧で形成されている。なお、基端側の端面73bがなす円弧についても、中心点73Aよりも先端側にオフセットした箇所が中心に設定されている。
【0046】
〈ホイール〉
図2に示すように、ホイール10は、変速機2の入力軸2A,プライマリプーリ30Sの入力回転軸33,可動カム部材83の回転軸心C
1と同心に配置されている。
このホイール10は、可動カム部材83の外周にセレーション結合されている。ここでは、ホイール10および可動カム部材83それぞれに回転軸心C
1に沿って形成されたセレーション溝にボール19が介装されたセレーション結合とされる。そのため、ホイール10は、可動カム部材83と一体に回転するとともに、可動カム部材83の軸方向移動を許容する。したがって、ホイール10の回転に連動して、回転軸心C
1に沿って(入力回転軸33に沿って)可動シーブ32が移動する。つまり、可動シーブ32の軸方向位置は、ホイール10の回転位相に応じたものとなる。
【0047】
ここでは、
図2に白抜きの矢印で示すように、ホイール10が時計回りに回転することで、可動シーブ32が固定シーブ31に接近し、変速比がHigh側に変更される。反対に、ホイール10が反時計回りに回転することで、可動シーブ32が固定シーブ31から離隔し、変速比がLow側に変更される。
以下の説明では、ホイール10の回転方向について、変速比がHigh側に変更される側を進角側と呼び、変速比がLow側に変更される側を遅角側と呼ぶ。
【0048】
〈フォーク〉
フォーク11は、ホイール10の外周へ向けて突出するように設けられ、ホイール10に対して一体に結合されている。そのため、ホイール10が回転すると、回転軸心C
1を基準とした周方向に沿ってフォーク11が揺動(変位)する。さらに、フォーク11は、回転軸心C
1に沿う方向から視たときに、軸心C
2(ネジ軸82)に沿ってフォーク11が移動する。
【0049】
このフォーク11は、上述したナット部71の軸心C
2に沿う側面に当接させることによりナット部71のネジ軸82に対する回転を規制するとともに、ナット部71の突部73と係合する部材である。
フォーク11には、内周側(回転軸心C
1側)のフォーク本体部12と、フォーク本体部12から外周に突出するように設けられた二つの爪部13,14とが設けられる。爪部13,14は、回転軸心C
1を中心とする径方向に沿って直線状に延びるように形成されている。
爪部13,14の間には、ナット部71の突部73が配置される。
【0050】
具体的には、突部73に対してネジ軸82の先端部82b側(以下、単に「先端側」という)、即ち、プライマリプーリ30Pの可動シーブ32を固定シーブ31から離隔させる方向へ移動させる際に突部73が当接する側に主爪部13が設けられる。言い換えれば、突部73に対して、リターンスプリング94による付勢力が入力される側(付勢力の反力が作用する側)に主爪部13が設けられる。
反対に、突部73に対してネジ軸82の基端部82a側(以下、単に「基端側」という)、即ち、プライマリプーリ30Pの可動シーブ32を固定シーブ31へ離隔させる方向へ移動させる際に突部73が当接するのとは反対側に補助爪部14が設けられる。
このように、フォーク11には、本体部12の進角側に主爪部13が突設され、本体部12の遅角側に補助爪部14が突設される。
【0051】
補助爪部14は、主爪部13よりも少なくとも肉薄に形成されている。ここでは、主爪部13よりも補助爪部14のほうが、回転軸心C
1を基準とする周方向の寸法(軸心C
2に沿う方向の寸法、即ち肉厚)が小さく(薄く)、さらに、回転軸心C
1を基準とする径方向の寸法(フォーク本体部12からの突出する寸法)が小さく形成されている。
主爪部13は、上述したリターンスプリング94によりLow側に付勢されることから、突部73を基端側へ押圧するように付勢している。すなわち、突部73における先端側の端面73aは、主爪部13に対して圧接されている。一方、補助爪部14は、突部73に対して間隔をおいて配置される。
【0052】
[1−3.制御装置]
この車両には、電気自動車にかかる広汎なシステムを制御するEVECU110と、変速機2の要部を制御するCVTECU100とが備えられている。各ECU110,100は、それぞれメモリ(ROM,RAM)及びCPU等で構成されるコンピュータである。CVTECU100は、電動モータ1A、変速機構8の電動アクチュエータ80Aを構成する変速用モータ81および電動アクチュエータ50A,50Bの作動などをEVECU110からの指令または情報や他のセンサ類からの情報に基づいて制御する。
【0053】
本実施形態では、CVTECU100により実施される種々の制御のうち、変速用モータ81の制御に着目して説明する。すなわち、バリエータ3の変速制御について説明する。
CVTECU100は、主爪部13に対する突部73の圧接状態を制御することで、バリエータ3の変速比を制御する。
【0054】
High側への変速比の変更時には、リターンスプリング94による付勢力よりも大きいトルクで変速用モータ81を一方(High側)に回転駆動する。そのため、ネジ軸82が一方に回転してナット部71が先端側に移動する。そして、移動するナット部71の突部73に押圧(圧接)される主爪部13も先端側に移動する。これにより、主爪部13が設けられるフォーク11に結合されたホイール10もHigh側(進角側)に回転し、プライマリプーリ30Pの可動シーブ32が固定シーブ33に接近するように移動する。
【0055】
反対に、Low側への変速比の変更時には、リターンスプリング94による付勢力よりも小さく、且つ、この付勢力に少なくとも対抗するトルクで変速用モータ81を他方(Low側)に回転駆動する。そのため、ネジ軸82が他方(Low側)に回転してナット部71が基端側に移動する。このとき、ナット部71の突部73と主爪部13とが圧接した状態が保たれている。そして、主爪部13が設けられるフォーク11に結合されたホイール10もLow側(遅角側)に回転し、プライマリプーリ30Pの可動シーブ32が固定シーブ33から離隔するように移動する。
【0056】
このように、ネジ軸82におけるナット部71の位置を移動させることで、変速比に対応する可動シーブ32の軸方向位置が制御される。そのため、変速比が最Lowのときには、ナット部71がネジ軸82の基端部に位置する。
【0057】
ところで、異物の混入や各部材のひっかかりといった不具合により、リターンスプリング94の付勢力によってフォーク11を基端側に移動させることができない場合(以下、「メカロック時」という)がありうる。このようなメカロック時においても、ナット部71の突部73によりフォーク11を押圧することにより、プライマリプーリ30Pの可動シーブ32を軸方向に移動させて、変速比が変更される。
メカロック時において変速比をLow側に変速する際には、変速用モータ81を他方(Low側)に回転駆動することで、ナット部71の突部73により補助爪部14が押圧される。すなわち、補助爪部14は、メカロック時に対応するためのフェールセーフ用として機能する。
【0058】
[2.作用および効果]
本実施形態におけるバリエータ3の変速機構8は、上述のように構成されるため、以下のような作用および効果を得ることができる。
バリエータ3は、リターンスプリング94によって変速比がLow側に付勢されているため、ナット部71の突部73は主爪部13から基端側へ付勢されている。このような変速機構8では、主爪部13に対するナット部71の突部73の圧接状態を制御するだけで、バリエータ3の変速比を変更することができる。
【0059】
ただし、ナット部71の突部73に対して基端側に補助爪部14が設けられていなければ、メカロック時に変速比をLow側へ変速することができない。しかし、本変速機構8のフォーク11には、突部73に対して基端側にも補助爪部14が設けられている。そのため、メカロック時であっても、ナット部71の突部73で補助爪部14を押圧することで、変速比をLow側に変速することができる。
【0060】
たとえば、ナット部71の突部73に対して、先端側と基端側との双方に同様の爪部が形成される機構(以下、「所定機構」という)では、変速比が最Lowのときにネジ軸82の基端部82aに位置する基端側の爪部が、変速用モータ81やその周辺構造に干渉するおそれがある。この干渉は、ネジ軸82を延長することにより、最Lowにおけるナット部71の位置を変速用モータ81から離隔させることで回避することはできる。しかし、ネジ軸82を延長すると、変速機2の大型化,レイアウトの制約の増大の他、重量やコストの増加などの種々の不具合が発生しうる。
【0061】
これに対して、本変速機構8では、ナット部71の突部73に対して基端側に設けられる補助爪部14が主爪部13よりも肉薄に形成されているので、フォーク11における基端部側の構成を小型化することができる。したがって、変速用モータ81やその周辺構造に対するフォーク11の干渉を抑えつつネジ軸82の長さを抑えることができる。よって、バリエータ3におけるレイアウトの対応自由度を向上させることができる。さらに、所定機構で発生しうる種々の不具合を改善することができる。
【0062】
メカロック時には、リターンスプリング94による付勢力だけでは基端側へ突部73を移動させることまではできないため、変速用モータ81を他方(Low側)に回転駆動することで、ナット部71の突部73により補助爪部14が押圧される。このようなメカロック時には、たとえば故障状態と判断されることで、駆動源である主電動モータ1A,補助電動モータ1Bの出力トルクが規制される。そのため、機械式反力機構80Bのトルクカム機構や推力発生機構9のトルクカム機構90には、規制されたトルクに応じた大きさのトルクしか発生しない。よって、補助爪部14の負荷も小さくなり、補助爪部14に要求される強度あるいは剛性が主爪部13よりも低いものとなる。このように、メカロック時におけるLow側への変速時にはさほど大きなトルクを必要としないので、補助爪部14は、比較的大きなトルクが作用する主爪部13のような強度あるいは剛性を必要とせず、上述の通り主爪部13よりもサイズを小さくできる。したがって、補助爪部14は、主爪部13よりも肉薄に形成されていても、メカロック時に変速比をLow側に変速する際に要求される強度あるいは剛性が確保されている。よって、メカロック時においても確実に変速比を変更することができる。
【0063】
仮に、ナット部71の突部における先端側の端面が回転軸心C
1に沿う方向から視て直線状に形成されていれば、その端面の角部だけが主爪部13に対して摺接することになり、応力集中により突部の耐久性が低下しうる。
これに対し、突部73における先端側の端面73aは、回転軸心C
1に沿う方向から視て円弧状に形成されているため、主爪部13に対する端面73aの摺接箇所が移動する。よって、突部73に対して印加される応力を分散させることができ、突部73の耐久性を確保することができる。
【0064】
さらに、先端側の端面73aがなす円弧は、突部73の中心点73Aと接触面73Bとの距離よりも大きな半径に設定されている。そのため、中心点73Aに円弧の中心が設定される端面に比較して、大きな円弧が先端側の端面73aに形成されている。よって、中心点73Aに円弧の中心が設定される端面を有する突部に比較して、主爪部13との係合時に印加されるトルクへの耐久性を向上させることができる。
同様に、突部73における基端側の端面73bは、回転軸心C
1に沿う方向から視て円弧状に形成されているため、補助爪部14に対する摺接箇所が移動することになり、突部73の耐久性が確保される。
【0065】
仮に、基端側の端面がなす円弧の曲率を変えずに中心を中心点73Aに設定した場合には、軸心C
2に沿う突部の寸法が長くなり、これに対応して補助爪部を更に基端側(遅角側)に設けることが考えられる。このような構造では、バリエータ3の変速比が最Lowのときに、変速用モータ81やその周辺構造に補助爪部が干渉しやすくなる。これに対して、基端側の端面73bは、中心点73Aよりも先端側にオフセットした箇所が中心とされているため、変速用モータ81やその周辺構造への補助爪部14の干渉を抑えることに寄与する。
【0066】
〔II.変形例〕
以上、一実施形態について説明したが、本発明は上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。上述した一実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、適宜組み合わせてもよい。
ナット部71の突部73における端面73a,73bは、回転軸心C
1に沿う方向から視た形状が円弧状(曲面状)に限られるものではなく、種々の形状を採りうる。
さらに、突部73を省略して、ナット部71に形成された凹部や、ナット本体部72の移動方向前後端面にフォーク11が係合してもよい。
【0067】
フォーク11には、少なくとも主爪部13が設けられていればよく、補助爪部14は設けられなくてもよい。この場合、メカロック時にはバリエータ3の変速比をLow側に変更することができないものの、変速用モータ81やその周辺構造への干渉をさらに抑えて、レイアウトの対応自由度をより高めることができる。さらに、フォーク11の製造コストや重量を低減させることもできる。
【0068】
バリエータ3の変速比をLow側に付勢するものであれば、リターンスプリングに限らず、油圧機構や電動アクチュエータといった他の付勢機構を用いてもよい。この場合、上述した変速機構8は、プライマリプーリ30Pに限らず、セカンダリプーリ30Sに設けられてもよい。なお、変速機構8がセカンダリプーリ30Sに設けられる場合、付勢機構は、プライマリプーリ30Sにおいて可動シーブ32を固定シーブ31に近接させて変速比をHigh側に付勢するものとなる。
さらにまた、上記実施形態では、
図2において変速用モータ81をネジ軸82の左側に配置した構造で説明したが、本発明は、他の構成は変更しないまま、変速用モータ81をネジ軸82の右側に配置した場合でも成立する。この場合は、ネジ軸82の左側にある周辺構造機構への干渉が防止され、レイアウトの自由度を向上させることができる。