(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368717
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】トリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/31 20060101AFI20180723BHJP
C07C 69/675 20060101ALI20180723BHJP
C07C 69/708 20060101ALI20180723BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20180723BHJP
【FI】
C07C67/31
C07C69/675
C07C69/708 A
!C07B61/00 300
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-537588(P2015-537588)
(86)(22)【出願日】2014年7月16日
(86)【国際出願番号】JP2014068899
(87)【国際公開番号】WO2015040946
(87)【国際公開日】20150326
【審査請求日】2017年6月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-195281(P2013-195281)
(32)【優先日】2013年9月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】田中 悠也
(72)【発明者】
【氏名】園井 竹比呂
(72)【発明者】
【氏名】池田 直
【審査官】
前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−286731(JP,A)
【文献】
米国特許第03629323(US,A)
【文献】
米国特許第03502732(US,A)
【文献】
米国特許第03480603(US,A)
【文献】
Journal of Fluorine Chemistry,2002年,115(1),p.67-74
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/00
C07C 69/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される含フッ素アルコキシプロパン酸エステルと、硫酸と、アルコールとを
、前記硫酸とアルコールとの質量比が、1:1〜5:1で反応させる、
下記一般式(2)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルの水和物および、下記一般式(3)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルのヘミケタールからなるトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物の製造方法。
【化1】
(前記一般式(1)において、R
1およびR
2は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基である。)
【化2】
(前記一般式(2)において、R
2は炭素数1〜6のアルキル基である。)
【化3】
(前記一般式(3)において、R
2およびR
3は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基である。)
【請求項2】
前記一般式(1)、(2)および(3)において、R1、R2およびR3が、メチル基である請求項1に記載のトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物の製造方法。
【請求項3】
前記反応がシリカゲル存在下で行われる、請求項1または2に記載のトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリフルオロピルビン酸エステル類は2‐位カルボニル炭素がトリフルオロメチル基とアルコキシカルボニル基と結合しているため、電子欠損の状態となり、求核攻撃を受けやすいという特徴がある。そのため、分子内にトリフルオロメチル基を導入する際に有用なビルディングブロックであることが知られており、医農薬分野を始め、電子分野、材料技術の分野において注目されている化合物である。
【0003】
例えば、非特許文献1では各種エナミン化合物に対し、トリフルオロピルビン酸エステルを反応させることにより、対応するジヒドロ‐4‐オキソ‐3‐ヒドロキシ‐3‐トリフルオロメチル‐2‐オキシインドールや、これに類似する分子内にトリフルオロメチル基を有するγーラクタム類の合成をする試みがなされている(非特許文献1参照)。
【0004】
また、従来よりトリフルオロピルビン酸エステルの製造方法については検討がなされており、その中でも工業的に大量生産されるヘキサフルオロプロピレンオキシドを原料として製造することが最も廉価でありかつ効率的な合成法であると考えられ、種々の検討がなされている。具体的にはヘキサフルオロプロピレンオキシドとメタノールとを反応させることにより、メタノールを付加し、2,3,3,3‐テトラフルオロ‐2‐メトキシプロパン酸メチルを得た後に、2‐位の分子変換を行うことでトリフルオロピルビン酸メチルを得る方法が挙げられる。
【0005】
トリフルオロピルビン酸メチルを得る方法としては2,3,3,3‐テトラフルオロ‐2‐メトキシプロパン酸メチルに硫酸を作用させることが提案されている(例えば非特許文献2参照)。
【0006】
非特許文献2には、得られたトリフルオロピルビン酸メチルを蒸留により回収することが開示されているが、該文献には2,3,3,3‐テトラフルオロ‐2‐メトキシプロパン酸メチルに硫酸を作用させる場合には、得られたトリフルオロピルビン酸メチルに対してさらに硫酸が作用することにより、脱CO反応が進行し、トリフルオロ酢酸メチルが副生物として得られることが開示されている。
【0007】
トリフルオロ酢酸メチルはトリフルオロピルビン酸エステルとは炭素数が異なり、また、反応活性も異なるため、上述のようなビルディングブロックとして用いることはできず、目的とする次工程を行う上で阻害要因となるものと考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Synlett、 第20巻、第3484‐3488頁、2006年
【非特許文献2】Journal of Fluorine Chemistry、第115巻、第67−74頁、2002年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記背景技術に鑑み、テトラフルオロメトキシプロパン酸メチル等の含フッ素アルコキシプロパン酸エステルと硫酸とを反応させる際に、脱CO反応が進行することを抑制することが可能な方法および該方法により得られる混合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、含フッ素アルコキシプロパン酸エステルと硫酸とを反応させる際にアルコールを共存させておくことにより、含フッ素アルコキシプロパン酸エステルと硫酸とが反応することにより得られたトリフルオロピルビン酸エステルを、速やかにトリフルオロピルビン酸エステルの水和物およびトリフルオロピルビン酸エステルのヘミケタールからなる混合物に変換することが可能であり、トリフルオロピルビン酸エステルの脱CO反応を抑制することが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明のトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物は、下記一般式(1)で表される含フッ素アルコキシプロパン酸エステルと、硫酸と、アルコールとを反応することにより得られる、下記一般式(2)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルの水和物および、下記一般式(3)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルのヘミケタールからなるトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物である。
【0012】
【化1】
(前記一般式(1)において、R
1およびR
2は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0013】
【化2】
(前記一般式(2)において、R
2は炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0014】
【化3】
(前記一般式(3)において、R
2およびR
3は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0015】
前記一般式(1)、(2)および(3)において、R
1、R
2およびR
3が、メチル基であることが好ましい。
前記硫酸とアルコールとの質量比が、1:1〜5:1であることが好ましい。
前記反応がシリカゲル存在下で行われることが好ましい。
【0016】
本発明のトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物の製造方法は、前記一般式(1)で表される含フッ素アルコキシプロパン酸エステルと、硫酸と、アルコールとを反応させる、前記一般式(2)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルの水和物および、前記一般式(3)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルのヘミケタールからなるトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物の製造方法では、トリフルオロピルビン酸エステルの脱CO反応を抑制することが可能であり、トリフルオロピルビン酸エステルと同等の反応性を有し、トリフルオロピルビン酸エステルに変換することも容易なトリフルオロピルビン酸エステルの水和物および、トリフルオロピルビン酸エステルのヘミケタールからなるトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物を収率よく製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1で得られた留分の
1H−NMRスペクトルである。
【
図2】実施例1で得られた留分の
19F−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に本発明について具体的に説明する。
本発明のトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物は、下記一般式(1)で表される含フッ素アルコキシプロパン酸エステルと、硫酸と、アルコールとを反応することにより得られる、下記一般式(2)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルの水和物および、下記一般式(3)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルのヘミケタールからなるトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物である。
【0020】
【化4】
(前記一般式(1)において、R
1およびR
2は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0021】
【化5】
(前記一般式(2)において、R
2は炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0022】
【化6】
(前記一般式(3)において、R
2およびR
3は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0023】
また、本発明のトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物の製造方法は、前記一般式(1)で表される含フッ素アルコキシプロパン酸エステルと、硫酸と、アルコールとを反応させることを特徴とし、前記一般式(2)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルの水和物および、前記一般式(3)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルのヘミケタールからなるトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物が得られる製法である。
【0024】
なお、一般に硫酸との用語は、化学式H
2SO
4で表される物質を意味する場合と、該物質の水溶液を意味する場合とがあるが、本発明において、単に硫酸と記載した場合には、化学式H
2SO
4で表される物質を意味する。また、該物質の水溶液を意味する場合には、硫酸水溶液と記載し、硫酸が90質量%以上の硫酸水溶液を濃硫酸と記載し、硫酸が90質量%未満の硫酸水溶液を希硫酸と記載する。
【0025】
前記一般式(1)、(2)および(3)において、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基であり、R
1、R
2およびR
3が同様の基であることが好ましい。炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、1‐プロピル基、1‐ブチル基、1‐ペンチル基、1‐ヘキシル基等が挙げられ、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0026】
本発明に用いられる前記一般式(1)で表される含フッ素アルコキシプロパン酸エステルは、通常ヘキサフルオロプロペンオキシドと、炭素数1〜6のアルコールとを反応させることにより得られる。炭素数1〜6のアルコールとしては、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、1‐ブタノール、1‐ペンタタノール、1‐ヘキサノール等が挙げられ、メタノール、エタノールが好ましく、メタノールがより好ましい。
【0027】
なお、アルコールとしては2種以上を用いてもよいが、通常は1種で用いられる。
本発明のトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物の製造方法は、前述のように前記一般式(1)で表される含フッ素アルコキシプロパン酸エステルと、硫酸と、アルコールとを反応させる。
【0028】
該反応に用いられるアルコールとしては、前述の炭素数1〜6のアルコールを用いることが好ましく、前記一般式(1)で表される含フッ素アルコキシプロパン酸エステルを製造する際に用いたアルコールと同種のアルコールを用いることが好ましい。
【0029】
同種のアルコールを用いることにより、前記一般式(1)、(2)および(3)におけるR
1、R
2およびR
3が、同様の基になるため、反応系を複雑化することなく容易に製造できる点から好ましい。
【0030】
また、本発明において、硫酸は、通常硫酸水溶液として反応に用いられる。硫酸水溶液としては希硫酸、濃硫酸のいずれも用いることが可能であるが、反応に伴って発生するフッ化水素による反応器の腐食を抑えるため濃硫酸が好ましく、濃度96〜99質量%の濃硫酸がより好ましい。
【0031】
前記反応においては、目的の反応温度まで到達させるため、前記硫酸とアルコールとの質量比(硫酸:アルコール)が、1:1〜5:1であることが好ましく、2:1〜3:1であることがより好ましい。
【0032】
また、前記反応では、前記一般式(1)で表される含フッ素アルコキシプロパン酸エステルは、硫酸とアルコールとの混合量(合計量)に対して、質量比(一般式(1)で表される含フッ素アルコキシプロパン酸エステル:硫酸とアルコールとの混合量)が1:1〜1:5の割合で用いられることが好ましく、1:2〜1:3の割合で用いられることがより好ましい。
【0033】
また、本発明では、前記一般式(1)で表される含フッ素アルコキシプロパン酸エステルと、硫酸と、アルコールとを反応させる際に、シリカゲル等のフッ化水素の補足剤(受酸剤)存在下で行うことが好ましい。
【0034】
フッ化水素の補足剤(受酸剤)としては、シリカゲル、フッ化ナトリウム等を用いることができ、シリカゲルがより好ましい。
反応に用いられるフッ化水素の補足剤(受酸剤)は、発生するフッ化水素を補足する能力により異なるが、シリカゲルであれば含フッ素アルコキシプロパン酸エステル1モルあたり、0.25〜1モル量用いられることが好ましく、0.25〜0.5モル量用いられることがより好ましい。
【0035】
また、フッ化ナトリウムであれば、含フッ素アルコキシプロパン酸エステル1モルあたり、1〜4モル量用いられることが好ましく、1〜2モル量用いられることがより好ましい。
前記反応は、温度が通常は80〜150℃、好ましくは100〜120℃で行われ、圧力が通常は0.01〜10MPa、好ましくは常圧で行われ、反応時間が通常は1〜24時間、好ましくは3〜8時間行われる。
【0036】
また、反応は通常、前記一般式(1)で表される含フッ素アルコキシプロパン酸エステルと、硫酸と、アルコールとを撹拌することにより行われる。
なお、反応終了後、高純度の前記一般式(2)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルの水和物および、前記一般式(3)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルのヘミケタールからなるトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物を得る目的で、前記一般式(1)で表される含フッ素アルコキシプロパン酸エステルと、硫酸と、アルコールとを反応することにより得られた反応混合物を、減圧蒸留し、その留分を得ることが好ましい。減圧蒸留の条件としては通常は圧力0.1〜50kPaで行われる。なお留分の流出温度は、圧力によって異なるが通常は20〜100℃である。
【0037】
本発明のトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物の製造方法では、まず、前記一般式(1)で表される含フッ素アルコキシプロパン酸エステルと、硫酸とが反応し、トリフルオロピルビン酸エステルを形成し、その後速やかに、該トリフルオロピルビン酸エステルの一部が、系内に存在する水と反応し、前記一般式(2)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルの水和物となり、該トリフルオロピルビン酸エステルの一部が、系内に存在するアルコールと反応し、前記一般式(3)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルのヘミケタールとなると考えられる。すなわち、トリフルオロピルビン酸エステルの脱CO反応が起こる前に、トリフルオロピルビン酸エステルを、トリフルオロピルビン酸エステル誘導体にすることにより、脱CO反応を抑制していると考えられる。
【0038】
以上の方法で、前記一般式(1)で表される含フッ素アルコキシプロパン酸エステルと、硫酸と、アルコールとを反応することにより、前記一般式(2)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルの水和物および、前記一般式(3)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルのヘミケタールからなるトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物を得ることが可能である。
【0039】
本発明のトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物は、前記一般式(2)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルの水和物および、前記一般式(3)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルのヘミケタールからなるが、通常は前記一般式(2)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルの水和物および、前記一般式(3)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルのヘミケタールの合計100質量%中に、トリフルオロピルビン酸エステルの水和物を通常は1〜99質量%、好ましくは10〜90質量%含み、トリフルオロピルビン酸エステルのヘミケタールを通常は99〜1質量%、好ましくは90〜10質量%含む。
【0040】
本発明のトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物は、前述の方法で製造されるため、トリフルオロピルビン酸エステルの脱CO反応を抑制することが可能である。このため、トリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物中に、下記一般式(4)で表されるトリフルオロ酢酸エステルが含まれることを抑制することが可能である。
【0041】
【化7】
(前記一般式(4)において、R
2は炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0042】
なお、本発明のトリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物は、一般式(4)で表されるトリフルオロ酢酸エステルを実質的に含有しないことが好ましい。具体的には、前記一般式(2)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルの水和物および、前記一般式(3)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルのヘミケタールの合計100質量%に対して、一般式(4)で表されるトリフルオロ酢酸エステルの含有量が、通常は0〜10質量%であり、好ましくは0〜1質量%である。なお、実施例においては、NMR分析等では、一般式(4)で表されるトリフルオロ酢酸エステルが検出されないことを、本発明者らは確認した。
【0043】
前記トリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物は、トリフルオロピルビン酸エステルと同等の反応性を有し、トリフルオロピルビン酸エステルに変換することも容易なため、トリフルオロメチル基を有する化合物を合成する際の中間体(原料)としても使用することが可能である。
【0044】
なお、減圧蒸留により得られた留分にはアルコールが含まれることがある。前記トリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物を原料として、他の化合物を製造する際に、アルコールの存在が問題にならない場合には、該アルコールを除去することは不要である。一方、他の化合物を製造する際にアルコールの存在が問題になる場合等は、再度蒸留、精製を行うことにより、アルコールの除去を行うことが好ましい。
【実施例】
【0045】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
〔実施例1〕
200mlのフラスコ中で、4.1gのシリカゲル(ワコーゲル(R)C−500HG)と、40mlのメタノールとを混合し、氷水でフラスコを冷却しながら40mlの濃硫酸(濃度98質量%)を滴下した。
【0046】
次いで、48.31gの2,3,3,3‐テトラフルオロ‐2‐メトキシプロパン酸メチルを加え、内温115℃にて5時間撹拌した。
5時間経過後、室温まで冷却し、減圧蒸留(内圧3.8kPa)を行い、塔頂温度30〜60℃の留分を回収した。
得られた留分は49.92gであった。
【0047】
得られた留分をd6‐アセトンで希釈し、
1H−NMRおよび
19F−NMRを測定した。該NMRスペクトルより、留分には6.20g(193.8mmol)のメタノール、26.10g(149.9mmol)のトリフルオロピルビン酸メチルの水和物、17.62g(93.7mmol)のトリフルオロピルビン酸メチルメトキシケタールが存在することが確認された。なお、水和物と、ヘミケタールとのモル比は149.9:93.7であり、およそ8:5であった。また、トリフルオロピルビン酸エステル誘導体混合物(水和物およびヘミケタール)の収率は、95.9%であった。
【0048】
蒸留されなかった成分(硫酸釜残成分)にはフッ素成分は含まれておらず、トリフルオロ酢酸メチルは、留分および硫酸釜残成分として検出されなかった。