(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368775
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】ポリ(シアノアクリレート)ファイバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/18 20060101AFI20180723BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20180723BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
D01F6/18 B
B05D7/24 301P
B05D7/24 301Z
B05D7/24 302P
B05D3/02 C
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-513486(P2016-513486)
(86)(22)【出願日】2014年5月15日
(65)【公表番号】特表2016-522863(P2016-522863A)
(43)【公表日】2016年8月4日
(86)【国際出願番号】IB2014061457
(87)【国際公開番号】WO2014184761
(87)【国際公開日】20141120
【審査請求日】2017年4月26日
(31)【優先権主張番号】TO2013A000396
(32)【優先日】2013年5月16日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】510121547
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ・イスティトゥート・イタリアーノ・ディ・テクノロジャ
【氏名又は名称原語表記】FONDAZIONE ISTITUTO ITALIANO DI TECNOLOGIA
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】イルケル・セ・バイエル
(72)【発明者】
【氏名】エリーザ・メレ
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト・チンゴラーニ
(72)【発明者】
【氏名】アタナシア・アタナシオウ
【審査官】
清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−240417(JP,A)
【文献】
特開2013−066842(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0286502(US,A1)
【文献】
特表2009−506861(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/085879(WO,A1)
【文献】
特表2012−500865(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/056312(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00−6/96
9/00−9/04
D01D 1/00−13/02
D04H 1/00−18/04
B05D 1/00−7/26
D06M 10/00−16/00
19/00−23/18
B05B 1/00−9/08
B32B 1/00−43/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(シアノアクリレート)のマイクロまたはナノファイバーの製造方法であって:
− シアノアクリレートモノマーを双極性非プロトン溶媒と混合して、ポリ(シアノアクリレート)ゲルを形成し;
− 電界紡糸に適した溶液を形成することに適した、アクリレート用溶媒にポリ(シアノアクリレート)ゲルを溶解し、および、
− 得られた溶液に電界紡糸を行い、マイクロまたはナノファイバーを形成する
ステップを含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
双極性非プロトン溶媒が、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンまたはそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
双極性非プロトン溶媒およびシアノアクリレートモノマーが0.1:1から2:1の比率で混合されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アセトニトリル、アセトン、塩素化炭化水素溶媒およびC1−C4カルボン酸ならびにそれらの混合物からなる群より選択される溶媒にポリ(シアノアクリレート)ゲルを溶解することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
双極性非プロトン溶媒がジメチルスルホキシドであり、かつ、ポリ(シアノアクリレート)ゲルを溶解する電界紡糸用の溶媒がアセトンおよびアセトニトリルから選択されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
シアノアクリレートモノマーがC1−C8アルキル−シアノアクリレートであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法によるマイクロまたはナノファイバーの製造、当該製造により得られたマイクロまたはナノファイバーの基板上への被着および、基板に接着するコーティングを形成するためにマイクロまたはナノファイバーを融解するのに適した温度にて、基板に被着したマイクロまたはナノファイバーに対する熱処理の付与を含むことを特徴とする、ポリ(シアノアクリレート)のポリマー性コーティングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(シアノアクリレート)のマイクロおよびナノファイバーの製造方法に関し、そのファイバーから得られる連続的、均一なコーティング層、ならびにそのコーティングが設けられた基板または製品に関する。
【背景技術】
【0002】
高い表面積/体積比および機械的特性で特徴付けられるポリマーナノファイバーの製造は、補強複合材、組織スキャフォールドやフィルター媒体に使われる材料の製造や、制御ドラッグデリバリー用途などといった様々な応用で強い関心を持たれている。
【0003】
ポリマーナノファイバーを作製する主たる技術は鋳型に存在するナノメートル寸法の孔を通す融解ポリマーの押し出し方法および電界紡糸方法を含む。電界紡糸では電荷を持ったポリマージェットを生み出すために高圧電源の使用を伴い、それらは基板上にナノファイバーのマットとして基板上に集められる。この技術は液体状態で加工可能であり高電圧に耐えられるポリマーを必要とする。
【0004】
しかしながら、実用上、これらの公知技術は、一般に“Super Glue(登録商標)”または“Super Attak(登録商標)”として知られているシアノアクリレートモノマーから重合されるナノファイバーの製造には適用することができない。水分の存在下、即座にかつ不可逆的に重合するというこれらのモノマーの特性は実際、電界紡糸工程をむしろ困難なものとする。空気中の湿気により引き起こされるモノマーの重合は実際、加工中、針先の障害をもたらす。さらに、対象の基板上に集められた生成物は通常電界紡糸には適さないドロップまたはビーズの形態となる。
【0005】
ポリ(シアノアクリレート)ナノファイバーの製造に関する問題を対処するごく最近のいくつかの仕事は、そのようなナノファイバーを製造に利用可能な唯一の実在する方法として、特別に調整されかつ構成された表面上に、シアノアクリレートの蒸気を凝縮すること提案した。
【0006】
そのような表面と接触すると、モノマーは、マイクロメートルまたはナノメートル寸法のファイバー状ネットワーク構造の形式で重合する[1−3]。
【0007】
例えば、表面に残ったフィンガープリントはシアノアクリレートモノマーの蒸気にとって開始部分として機能することができ、重合はフィンガープリントの細いラインに従って、ポリ(シアノアクリレート)ファイバーを形成する。しかしながら、これらの手法の主な欠点は、スケールアップの困難さおよび、固い白色固体の架橋ポリマー構造をもたらす、水分活性化重合中のプロセス制御の欠落に関する。
【0008】
この状態では、架橋シアノアクリレートは、一般的な溶媒に分散させて、ポリマー溶液として用いることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の概略的な目的は、シアノアクリレートモノマーからマイクロおよびナノファイバーを製造するための、単純、経済的、かつ迅速であって産業的に容易に実行可能な方法を提供することにある。
【0010】
本発明の特定の目的は、多量のマイクロおよびナノファイバーを直接電界紡糸により製造することを可能とする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの目的を考慮すると、本発明は、本明細書に不可欠な部分を構成する、付随する請求の範囲で定義される、ポリ(シアノアクリレート)のマイクロおよびナノファイバーの製造方法に関する。
【0012】
本発明は、また、付随する請求の範囲で定義される、前述のマイクロおよびナノファイバーから得られ、均一で連続的な層の形式のポリマーコーティング、ならびにそのコーティング層が設けられた物品および/または基板にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による方法はアルキル−2−シアノアクリレート(アルキルはC
1−C
8であり得る)のいかなるモノマーにも適用され、その中でも実用上および産業上の見地から最も代表的で高い関心を持たれているモノマーはメチル−またはエチル−またはオクチル−2−シアノアクリレートおよびそれらの混合物である。
【0014】
本発明による方法の第一ステップはシアノアクリレートモノマーを、特にジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)および/またはN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を包含する双極性非プロトン溶媒中で混合することを想定しており、これらの中では特にDMSOが好まれる。
【0015】
前述の双極性非プロトン溶媒はシアノアクリレートモノマーの溶媒として、および、重合を開始するための触媒としての二つの機能を果たし、シアノアクリレートポリマーまたはプレポリマーの粘稠ゲルの形成をもたらす。
【0016】
シアノアクリレートモノマーおよび溶媒はゲル形成をもたらす体積比率でも混合され得る、例えば体積比0.1:1から2:1までである。DMSOを用いる際は、通常、同体積のシアノアクリレートモノマーとDMSOとを混合することが好まれ、シアノアクリレートモノマーを、例えばガラス製試験管中の、双極性非プロトン溶媒へと滴下することで混合が実行される。
【0017】
ボルテックスミキサーを使い内容物は攪拌され、二つの液体の完全な混合が保証される。シアノアクリレートモノマーと溶媒との接触の結果としてのゲル形成をもたらす工程は発熱的であり、それゆえゲル形成中は発熱的なゲル化工程を加速する目的のため、当該試験管または容器を低温環境下に置くことが好ましい。
【0018】
ゲル化後、好ましくは、ゲルは平衡状態になるまで室温で放置される。
【0019】
この方法の第二ステップは、電界紡糸に適した特性を有し、ポリアクリレートの溶媒としての特性を有する溶媒へのゲルの溶解を伴う。
【0020】
電界紡糸方法に適した溶媒はアセトニトリル、特にアセトンのようなケトン、塩素化炭化水素溶媒ならびにギ酸および酢酸のような単純なC
1−C
4カルボン酸を含む。しかしながら水性溶媒、水、アルコールならびにヘキサンおよびヘプタンのような直鎖型炭化水素溶媒は適さない。
【0021】
一般的に、ポリアクリレートを溶解可能および電界紡糸方法に必要な所望の電気特性を有するいかなる従来の溶媒も電界紡糸方法に使用することが可能である。電界紡糸に関する溶媒の重要な電気特性は:
− 好ましくは3デバイを上回る双極子モーメント
− 好ましくは20を上回る比誘電率、および
− 好ましくは110℃を下回る沸点
である。
【0022】
好ましい溶媒はアセトンおよび/またはアセトニトリルである。
【0023】
上述の様に、電界紡糸に適切であり、ポリ(シアノアクリレート)溶液を得るために適切な溶媒の量を用いてゲルを溶解し、典型的にはゲルを1%から30%w/vの比率で溶媒に溶解する。
【0024】
この溶液は従来の電界紡糸装置を用いる電界紡糸に付すことができる。
【0025】
従来の電界紡糸装置は、ポリマー溶液で充填したシリンジ、シリンジポンプ、高圧電源およびコレクターを含む。シリンジの金属針は、典型的には強い静電場の影響下、溶液中に電荷を導くための電極としての役割を有する。
【0026】
電荷反発がポリマー溶液の表面張力を超えたとき、荷電したポリマージェットが形成され、コレクターに向かって加速させられる。その過程で、溶媒は蒸発してポリマーマイクロおよびナノファイバーがコレクターに収集される。そのファイバーの直径は数ナノメーターから5μm以上の値まで変化しうる。
【0027】
シアノアクリレートモノマーと対照的に、修飾ポリ(シアノアクリレート)は優れた電界紡糸特性で特徴付けられる。得られるナノファイバーは長く、均一な直径を有して、多孔構造やビーズ状構造を形成しない。
【0028】
ナノファイバーの寸法および形態は、他のポリマー材料では必要とされるような界面活性剤または塩類を用いることなく、溶媒中のポリマーの濃度を変化させることで容易に制御できる。さらに、コレクターのサイズおよびそして印加電場を変化させることで、ナノファイバーマットはかなり広い領域(100cm
2より大きい)にわたって被着でき、ランダム状態でまたは整列した状態で収集できる。
【0029】
特に、本発明による方法の主たる利点は、双極性非プロトン溶媒によって引き起こされる重合が、アミンのようなその他の開始剤を用いた場合のような架橋を伴う急激な重合を引き起こさないということである。これらの条件では水分は急激かつ不可逆的な重合を引き起こさず、この形式の重合した(ゲル化した)シアノアクリレートは熱硬化性ではない。
【0030】
上記方法は、ガラス、金属、およびプラスチックのような種々の基板上に被着されるナノファイバーの層の厚みおよび密度を制御することが可能である。例えば、使用される融解方法およびファイバーマットの厚みに依存するが、ホットプレート、電子レンジ、および/またはレーザーを有するストーブ中で、100〜300℃の温度の下、典型的には10秒から5分の熱処理により、ファイバーが被着される表面上で融解する様子が観察される。非多孔性、透明なコーティングが得られ、良好な擦傷抵抗性、耐摩耗性を有し、潤滑コーティングや親水的自浄特性や非結露特性(防曇特性)として有効である。例えば、融解ナノファイバーによりコーティングされたガラス基板上に結露した水蒸気は、通常の温度および湿気の条件下では、未処理の基板に比べて半分の時間で完全に蒸発する。さらに、融解ファイバーのコーティングについて行われた機械強度試験はかく得られたコーティングがテフロン(登録商標)(典型的に潤滑剤として使われる)よりも低い摩擦係数を有していることを実証する。それらは下層の基板との優れた接着性でも特徴付けられる。加えて、重合したシアノアクリレートの融解ナノファイバーのコーティングは低い表面粗さおよび良好な光透過性(可視光範囲の波長に対して100%の透過率)を有する。このコーティングは、プラスチック基板(例えばポリジメチルシロキサン、PDMS)に付与されたとき、その表面上でイン・サイチュー硬化した他のポリマー性材料(例えば同じくPDMS)の剥離を促進する(抗粘着特性)。このことはパリレン(登録商標)およびテフロン(登録商標)、シラン化溶液の被着のような他の技術の代替として、本発明による方法を用いることを可能とする。
【0031】
本発明は、それゆえ、ポリマーの気相被着方法の代替として、コーティング被着方法を提供し、特にかく得られたコーティングの特殊な特性は、もしそのコーティングがスピンコーティングやキャスティングなどの他の方法でコーティングが形成されたのであれば、達成できない。
【0032】
開発されたシアノアクリレートコーティングは、また良好な生体適合性という特徴も有しており、従来これらの目的のため使われてきた基板(ガラス、ポリスチレンなど)よりも細胞の成長を促進する。
【0033】
本発明による方法のさらなる特徴は以下の具体例により例示される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて得られた写真であり、種々の倍率での電界紡糸されたナノファイバーを示す。(a)倍率×1000:アセトン中5%w/vのポリマーの溶液から得られたナノファイバー;(b)
図1(a)のファイバーの倍率×5000;(c)倍率×2000:アセトン中10%w/vのポリマーの溶液から得られたナノファイバー。
【実施例】
【0035】
上述の混合手順に従い、ポリ(シアノアクリレート)ゲルを体積比1:1で混合されたエチル−2−シアノアクリレートおよびジメチルスルホキシドを用いて作製した。
【0036】
アセトンおよびアセトニトリル中のポリ(シアノアクリレート)ゲルの溶液を2%から20%w/vの濃度で調整した。スピナレットとして作用し、高圧発電機に接続された内径0.5mmのステンレススチール製の針が付けられた1mlのシリンジにそれぞれの溶液を収集した。
【0037】
溶液の粘度に依存して、3−5ml/hの流速に維持するためのシリンジポンプにシリンジを取り付けた。アルミニウム箔に覆われた銅板をコレクターとして使用した。印加電圧および先端からコレクターまでの距離はそれぞれ10−15kVおよび15cmであった。
【0038】
製造されたファイバーのサイズはポリマー溶液の濃度に従って、変化させることができ、増大した濃度の溶液は著しく溶液の粘度を増大させ、より大きな直径のファイバーが製造されることを可能とする。
【0039】
添付された図は、直径が約300nm(
図1(a)および(b))から約1.3μm(
図1(c))に制御されたファイバーを示す。
【0040】
かく得られた電界紡糸ナノファイバーを熱処理して融解状態で(例えば約130℃にて)、ガラス基板上またはその他の表面上に透明なコーティングを形成し、親水的で自浄特性を有するコーティングを得ることができる。
【0041】
得られたコーティングは、基板に対する高い接着性、耐摩耗性および耐擦傷性、および極めてヒステリシスの低い親水性挙動、ならびに結露防止特性および生体適合性を有する。
【0042】
本発明は、かくして、特に、低コストであり、かつ、市販グレードの割にさらなる精製が不要なDMSOを触媒として用いたとき、経済的な方法を提供する。
【0043】
これらのファイバーは、前処理またはパターニングを施すことなしに、表面にも被着でき、ナノファイバーおよびコーティングを構成するポリマーは生分解性である。
【0044】
さらに、重合および電界紡糸方法は、直接分散によるまたは、前駆体を用いるファイバー中への機能性ナノフィラーの導入を可能とするのに適していることが証明された、すなわち、種々の天然または合成ポリマーを追加的にナノファイバーに混合できる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
主たるアプリケーションは、フィルター、膜、生物医学的なスキャホールド、医療機器、機械的補強材、コーティングの製造ならびに、繊維工業での応用である。