(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368788
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】厚肉部を有するソノトロード
(51)【国際特許分類】
B23K 20/10 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
B23K20/10
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-549771(P2016-549771)
(86)(22)【出願日】2015年2月5日
(65)【公表番号】特表2017-507029(P2017-507029A)
(43)【公表日】2017年3月16日
(86)【国際出願番号】EP2015052427
(87)【国際公開番号】WO2015121149
(87)【国際公開日】20150820
【審査請求日】2016年12月1日
(31)【優先権主張番号】102014101856.7
(32)【優先日】2014年2月13日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】516211282
【氏名又は名称】ヘルマン ウルトラシャルテクニーク ゲーエムベーハー ウント コー.カーゲー
【氏名又は名称原語表記】HERRMANN ULTRASCHALLTECHNIK GMBH & CO.KG
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】フォグラー、ウルリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ツェンドラー、ステファン
【審査官】
黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】
特表2003−535715(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/041065(US,A1)
【文献】
特表2000−515059(JP,A)
【文献】
実開平4−79627(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0042014(US,A1)
【文献】
特開平5−131174(JP,A)
【文献】
特許第5020962(JP,B2)
【文献】
特許第5020963(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイール軸線を有するとともに直径dをもち、かつ2つの略円形状の主面と、主面同士を接続する幅bの略円筒状のシール面とを有するホイール形状部をもつソノトロードにおいて、
少なくとも一方の主面が、主面に対して垂直な断面視で、ホイール軸線上に配置されない凸状領域を有する非中心の厚肉部を有し、
軸線方向において、厚肉部が、0.25×bと2×bとの間、好ましくは0.25×bと1×bとの間の広がりをもち、
径方向において、厚肉部が、少なくとも0.1×d、特に好ましくは少なくとも0.2×d、最も好ましくは0.2×dと0.25×dとの間の広がりcをもつことを特徴とするソノトロード。
【請求項2】
厚肉部が、接線が軸線に対して垂直に延在する頂点又は頂面を有する請求項1に記載のソノトロード。
【請求項3】
厚肉部が、ホイール軸線に対して回転的に対称的な構造をもつ請求項1又は2に記載のソノトロード。
【請求項4】
厚肉部が、少なくとも0.1×d、好ましくは少なくとも0.15×dだけ、ホイール軸線から離間して配置される請求項1〜3のいずれか1項に記載のソノトロード。
【請求項5】
厚肉部が、少なくとも0.05×d、好ましくは少なくとも0.17×dだけ、シール面から離間して配置される請求項1〜4のいずれか1項に記載のソノトロード。
【請求項6】
シール面の幅bの、厚肉部の軸線方向の広がりaに対する比が、少なくとも0.1、好ましくは少なくとも0.5である請求項1〜5のいずれか1項に記載のソノトロード。
【請求項7】
軸線方向において、厚肉部が、2mmと10mmとの間の広がりをもつ請求項1〜6のいずれか1項に記載のソノトロード。
【請求項8】
厚肉部が、両方の主面にそれぞれ配置され、好ましくは、厚肉部はホイール軸線に対して垂直な面に対して対称的に配置される請求項1〜7のいずれか1項に記載のソノトロード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイール軸線を有するとともに直径dをもち、かつ、2つの略円形状の主面と、主面同士を接続する幅bの略円筒状のシール面とを有するホイール形状部をもつソノトロードに関する。
【背景技術】
【0002】
そのようなソノトロードは既知である。ソノトロードは、例えば材料ウェブの連続的な超音波加工に用いられる。このような超音波加工機械10を、
図1に図式的に示す。
【0003】
ソノトロード12には径方向振動が与えられ、加工作業の際には、周速度がウェブ送り速度と等しくなるように、ホイール軸線周りに回転する。
【0004】
ソノトロード12は、材料加工作業の際、加工対象の材料ウェブ15を、一方の対応ツール11と他方のソノトロード12との間を通過させるように、対向配置された対応ツール11と協働する。その場合、ソノトロード12と対応ツール11とにより、加工対象の材料15に溶着力が一般に加えられる。材料15は、幅bをもつ円筒状のシール面と接触し、超音波の作用を受ける。円筒状のシール面及び/又は対応ツールの対応するシール面は、構造化された構成とすることができる。すなわち、加工対象の材料を構造化するための複数の突出部を設けることができる。
【0005】
可能な限り最適な超音波加工を実現するには、ソノトロードに円筒波の定在波を誘起する。つまり、ソノトロードは、定在波の振動最大がシール面上に生じるように、ソノトロードに円筒波の定在波が生じる共鳴周波数を有する。言い換えると、ソノトロードが共鳴周波数で励振されると、ソノトロードは略円筒状のシール面が超音波周波数で径方向に振動するように振動し、これによりシール面は、大きい方の直径の位置と小さい方の直径の位置との間を往復する。超音波振動は、ホイール軸線に対して垂直に、径方向に伝播する。
【0006】
この定在する径方向振動は、この種のソノトロードの主要周波数(HF)であり、効果的な超音波加工に誘起されて用いられる。
【0007】
しかしながら、所望の振動状態が得られない更なる共鳴も存在することに注意されたい。
【0008】
従って、例えば6つの振動節と6つの振動最大とをもつ定在波が、シール面に周方向に生じる、いわゆる三角周波数(DF)を誘起できる。
図2は、その振動モードを図式的に示す。三角周波数が誘起されると、ホイール形状のソノトロード12は、より径方向内方の配置位置と、より径方向外方の配置位置との間を往復する、参照符号13で示す振動最大によって変形する。これにより、隣接する振動最大同士が相反する関係をもって、つまりある点がより径方向内方の配置位置にあるとき、その両隣の点がより径方向外方の配置位置にあるように振動する。2つの振動最大13の間には、溶着面が径方向にほとんど動かない振動節14がある。この振動モードは、例えば、特許文献1に記載されている。
【0009】
この振動は、径方向に伝達されるエネルギーが、振動最大の領域よりも、振動節の領域においてはるかに少なくなり、シール面でのエネルギーの伝達が不均質になることから、材料の超音波加工においては望ましくない。それにも関わらず、共に誘起される三角周波数を完全に防ぐことは不可能であり、その結果、主要振動と三角振動とが重畳されることを特徴とする振動状態が生じる。この重畳振動状態においても、振動振幅は周方向に変化することから、主要周波数のみを誘起する場合よりも溶着結果が悪くなる。
【0010】
従って、三角モードの誘起を低く抑えるために、実際に望まれている主要モードの自然周波数から三角モードの自然周波数を可能な限り除去することが有益である。更に具体的には、三角周波数も励振されると、超音波エネルギーの不規則的な伝達が生じるだけでなく、励振モード間の不可避な結合のために可聴範囲内の振動周波数をももたらす。更に具体的には、モードの結合により、主要周波数と三角周波数との差で周波数が決まる振動が生じる。それが可聴範囲内であれば、超音波加工作業の際に望ましくない音が生じ、聴覚を保護する観点からの要求が増すことが考えられる。
【0011】
特許文献2は、複数の異なるソノトロードを示す。特許文献2の
図13は、ホイール形状部と、くさび形状のシール面とを有するソノトロードを示す。このソノトロードの主面は凹状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2004/060581号パンフレット
【特許文献2】欧州特許出願公開第0457187号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、三角周波数が主要周波数と著しく異なるソノトロードを提供することである。主要周波数を励振する際に、三角周波数が主要周波数よりも低いと、三角周波数との関連で強い結合が生じることが明らかとなっている。逆に、三角周波数が主要周波数よりも高いと、結合は著しく弱まる。従って、三角周波数が主要周波数よりも可能な限り高いソノトロードを目標とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成する本発明のソノトロードは、ホイール軸線を有するとともに直径dをもち、かつ2つの略円形状の主面と、主面同士を接続する幅bの略円筒状のシール面とを有するホイール形状部をもつソノトロードにおいて、少なくとも一方の主面が、主面に対して垂直な断面視で、ホイール軸線上に配置されない凸状領域を有する非中心の厚肉部を
有し、軸線方向において、厚肉部が、0.25×bと2×bとの間、好ましくは0.25×bと1×bとの間の広がりをもち、径方向において、厚肉部が、少なくとも0.1×d、特に好ましくは少なくとも0.2×d、最も好ましくは0.2×dと0.25×dとの間の広がりcをもつことを特徴とするものである。
【0015】
凸状領域という用語は、主面よりも突出する面又は外向湾曲部のいずれかを有する領域を示すために使用される。言い換えると、凸状領域という用語は、境界面上の2つの点の間に2つの点の接続線の外側に位置する境界面点をもつ領域を示すために使用される。
【0016】
この厚肉部は中心ではない。つまり厚肉部はホイール軸線に対して中心に配置されていない。
【0017】
より具体的には、広範な実験によって、ホイール軸線の外側に厚肉部を設けることが、主要モードの自然周波数よりも三角モードの自然周波数に大きく影響することが示されている。従って、この手法によって、三角周波数と主要周波数との差を大きくすることが可能となる。
【0018】
好ましい実施形態において、厚肉部は、接線が軸線に対して垂直に延在する頂点又は頂面を有する。この場合、好ましくは頂点又は面はシール面から離間して配置される。
【0019】
確かに、厚肉部を周方向における構造の単なる一部とすることは、基本的には可能である。しかしながら、厚肉部をホイール軸線に対して回転的に対称的な構造とすれば、最大の効果が得られる。言い換えると、少なくとも一方の主面が略環状の厚肉部を有する。
【0020】
特に好ましい実施形態において、厚肉部は少なくとも0.1×d、好ましくは少なくとも0.15×dだけ、ホイール軸線から離間して配置される。しかしながら、実験によれば、不本意ながら主要周波数は厚肉部の配置に影響されるため、厚肉部はホイール軸線に近過ぎないように配置されるべきと示されている。
【0021】
更に好ましい実施形態において、少なくとも0.05×d、好ましくは少なくとも0.17×dだけ、シール面から離間して配置される厚肉部が提供される。実験によれば、厚肉部は、本発明に係る効果が可能な限り明白に発揮されるように、シール面に近過ぎないように配置されるべきであると示されている。
【0023】
例えば、径方向において、厚肉部は少なくとも18mm、特に好ましくは少なくとも22mm、最も好ましくは22mmと30mmとの間の広がりcをもっていてもよい。
【0025】
例えば、軸線方向において、厚肉部は2mmと10mmとの間の広がりをもってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ソノトロードの主面の内少なくとも一方が、主面に対して垂直な断面視で、ホイール軸線上に配置されない凸状領域を有する非中心の厚肉部を有することで、目的が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】技術水準に係る超音波加工装置の線図である。
【
図3】直径に沿う位置に関する技術水準の径方向振動ソノトロード内部の応力パターンの線図である。
【
図4】三角モードに対する、
図3に示した応力パターンの線図である。
【
図5a】本発明の第1実施形態の断面図及び斜視図である。
【
図5b】本発明の第1実施形態の断面図及び斜視図である。
【
図6a】本発明の第2実施形態の断面図及び斜視図である。
【
図6b】本発明の第2実施形態の断面図及び斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の更なる利点、特徴及び可能な使用は、以下の好ましい実施形態の説明から明らかとなろう。
【0029】
図3は、主要周波数(HF)での励振の直径に沿ったセクションと、三角周波数(DF1、DF2)での励振の2つのセクションとに従う、円盤形状のソノトロードにおける材料の算出応力を示す。この計算は、理想的な円盤形状に対して行った。しかしながら実際には、ソノトロードはコンバータの接続のための軸状の接続部分を少なくとも有する。しかしながら、ソノトロードの実際の形態において、質的に異なる応力の構成は求められていない。
【0030】
本発明において重視すべき事柄は、応力の大きさではなく、ソノトロード内部の質的な応力パターンのみであるため、縦座標にプロットした応力値はランダムな単位で示されている。
【0031】
主要周波数(HF)において、応力はシール面の領域で最低となり、本件では60mmであるホイール軸線の方向で最も大きく目立っていることが分かるであろう。主要周波数でソノトロードを励振させると、ホイール軸線上に振動節とシール面上に振動最大とをもつ円筒波の定在波が材料内に生じるが、これもすぐに簡単に把握できよう。シール面は自由に振動できるため、言及するに値する応力がシール面に生じることはないが、ホイール軸線を直接囲む領域はほとんど振動しないため、材料内の増加した応力に晒される。
【0032】
主要周波数が均質な径方向振動であるため、つまり溶着面はいつでも円筒状であるため、応力パターンは考慮されるセクションの特定の配置にも左右されない。
【0033】
しかしながら、これは、三角周波数においては溶着面が不規則に形成されるため、当てはまらない。そのため、応力パターンは、
図4に図式的に示されるように、ソノトロードを通るセクションの選択に左右される。対向配置された2つの振動最大13を結ぶ線部(DF1)に沿う応力パターンは、対向配置された2つの振動最小を結ぶ線部(DF2)に沿う応力パターンと異なる。
【0034】
これらの応力パターンも、
図3に含まれる。これらは、主要周波数の応力パターンとは著しく異なる。ここで最低の応力、すなわち略ゼロの応力が、ホイール軸線(60mm)の領域内にある。応力は、シール面の方向で最大値を通過する。シール面の近傍において、応力パターンはもはや周方向に均質ではない。振動節の領域において、応力はシール面で略ゼロであり、振動最大の方向に増加する。
【0035】
図示の例において、三角周波数における励振が主要周波数における励振よりも大きな材料応力を呈す領域が、約10mmと42.5mmとの間及び約75mmと112.5mmとの間にそれぞれあることがわかるであろう。従って、三角周波数での励振に対する材料応力が、主要周波数での励振よりも高い領域において、ホイール形状のソノトロードの厚みが増す。このような厚肉部は、必ずソノトロードの自然周波数の振動をもたらす。しかしながら、厚肉部の選択的な位置付けのために、三角周波数は主要周波数よりも大きく変化する。
【0036】
従って、
図5a及び
図5bは、ソノトロード1の本発明に係る第1実施形態を示す。
図5bは斜視図を示し、
図5aは断面図を示す。このソノトロードは、周囲に延在するシール面5により互いに接続される2つの主面3及び4を有するホイール形状部2を含む。シール面5は幅bをもつ。ホイール形状のソノトロード1は直径dをもつ。本発明によれば、ソノトロードは、対向配置された主面3、4上に、2つの厚肉部6及び7を有する。これらの厚肉部は、それぞれホイール軸線8に対して回転的に対称的な構造をもち、ホイール軸線8に対して垂直に延びる鏡面に対して鏡面対称の構造をもつ。
【0037】
厚肉部は、軸線方向の高さaと、径方向の広がりcとをもつ。
【0038】
厚肉部が、ホイール軸線8に対して平行に延びる側面を有していない場合は、径方向幅cは、厚肉部が軸線方向高さaの半分に到達する地点から計測される。言い換えると、高さの半分の地点での幅が、厚肉部の幅として設定される。
【0039】
厚肉部は、シール面5から間隔eだけ離間し、図示の実施形態において、間隔eは、約0.17×dである。また、厚肉部は、ホイール軸線8から、図示の実施形態において約0.125×dである間隔fだけ離間している。
【0040】
図6a及び
図6bは、ソノトロードの第2実施形態を示す。
図6bは斜視図を示し、
図6aは断面図を示す。ここで、ホイール形状のソノトロードが多くの場合には、シール面5’に向かう方向に増加する軸方向の幅を含むという事実について説明する。この場合においても、厚肉部9の巧みな配置により、三角周波数と主要周波数との間の間隔を大きくすることが可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 ホイール形状のソノトロード
2 ホイール形状部
3、4 主面
5、5’ シール面
6、7、9 ソノトロードの厚肉部
8 ホイール軸線
10 超音波溶着設備
11 対応ツール
12 ソノトロード
13 振動最大
14 振動最小
15 材料ウェブ
a 高さ
b 直径
c 広がり
d 幅
e 間隔
f 間隔