(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368797
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】炭素ナノチューブ繊維およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 13/192 20060101AFI20180723BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20180723BHJP
C01B 32/158 20170101ALI20180723BHJP
D02G 3/02 20060101ALI20180723BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20180723BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20180723BHJP
【FI】
D06M13/192
D06M15/263
C01B32/158
D02G3/02
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】22
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-563031(P2016-563031)
(86)(22)【出願日】2014年8月4日
(65)【公表番号】特表2017-514030(P2017-514030A)
(43)【公表日】2017年6月1日
(86)【国際出願番号】KR2014007177
(87)【国際公開番号】WO2015160041
(87)【国際公開日】20151022
【審査請求日】2016年10月17日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0046277
(32)【優先日】2014年4月17日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(73)【特許権者】
【識別番号】506376458
【氏名又は名称】ポステック アカデミー−インダストリー ファンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】イ、 グン−ホン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ジェグン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、 ア ルム
【審査官】
春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2012/0144984(US,A1)
【文献】
特開2009−251601(JP,A)
【文献】
特開2011−153392(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0282802(US,A1)
【文献】
国際公開第2014/185497(WO,A1)
【文献】
特表2008−517182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00−15/715
B82Y5/00−99/00
C01B32/00−32/991
D02G1/00−3/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強度が5GPa〜40GPaである炭素ナノチューブ繊維であって、前記炭素ナノチューブ繊維を構成する炭素ナノチューブの壁面が互いに架橋結合された形態であり、前記架橋結合された形態は、前記炭素ナノチューブの壁面間のアシル化反応によって架橋結合された形態である、炭素ナノチューブ繊維。
【請求項2】
前記アシル化反応は、単一段階反応である、請求項1に記載の炭素ナノチューブ繊維。
【請求項3】
前記炭素ナノチューブ繊維の直径は、1〜150μmである、請求項1に記載の炭素ナノチューブ繊維。
【請求項4】
炭素ナノチューブから構成された炭素ナノチューブ繊維前駆体を製造する段階と、
前記炭素ナノチューブ繊維前駆体に架橋結合剤を均一に分布させる段階と、
前記架橋結合剤が均一に分布した炭素ナノチューブ繊維前駆体を熱処理して、炭素ナノチューブ繊維を得る段階とを含み、
前記得られた炭素ナノチューブ繊維は、炭素ナノチューブの壁面間の架橋結合が形成された形態であり、前記架橋結合剤は、2個以上のアシル基が含まれたものであり、
前記得られた炭素ナノチューブ繊維の引張強度は、5GPa〜40GPaである、高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【請求項5】
前記炭素ナノチューブから構成された炭素ナノチューブ繊維前駆体を製造する段階は、
フォレストスピニング、ダイレクトスピニング、およびソリューションスピニングのうちのいずれか1つの方法によって行われる、請求項4に記載の高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【請求項6】
前記炭素ナノチューブから構成された炭素ナノチューブ繊維前駆体を製造する段階は、
フォレストスピニングによって行われる、請求項4に記載の高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【請求項7】
前記炭素ナノチューブから構成された炭素ナノチューブ繊維前駆体を製造する段階は、
基板を準備する段階と、
前記基板上に炭素ナノチューブを成長させる段階と、
前記炭素ナノチューブが成長した基板から炭素ナノチューブ繊維前駆体を引き出す段階とを含む、請求項4に記載の高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【請求項8】
前記基板は、シリコンを含む、請求項7に記載の高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【請求項9】
前記炭素ナノチューブが成長した基板から炭素ナノチューブ繊維前駆体を引き出す段階は、
前記基板上に成長した炭素ナノチューブを一方向に延伸させて、面状に引き取るものである、請求項7に記載の高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【請求項10】
前記炭素ナノチューブ繊維前駆体は、炭素ナノチューブリボンの形態である、請求項7に記載の高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【請求項11】
前記炭素ナノチューブから構成された炭素ナノチューブ繊維前駆体を製造する段階は、
600〜1000℃の温度範囲で行われる、請求項4に記載の高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【請求項12】
前記炭素ナノチューブから構成された炭素ナノチューブ繊維前駆体を製造する段階は、
炭素数1〜20の炭化水素の群より選択された1つ以上が炭素源として使用されるものである、請求項4に記載の高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【請求項13】
前記炭素ナノチューブ繊維前駆体に架橋結合剤を均一に分布させる段階は、
エアガン、ネブライザー、加熱、および真空のうちのいずれか1つの方法を利用して、前記成長した炭素ナノチューブ繊維前駆体の表面に前記架橋結合剤を分布させるものである、請求項4に記載の高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【請求項14】
前記炭素ナノチューブ繊維前駆体に架橋結合剤を均一に分布させる段階は、
溶液状態の前記架橋結合剤に前記炭素ナノチューブ繊維前駆体の端部分を浸して、前記炭素ナノチューブ繊維前駆体を濡らすものである、請求項4に記載の高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【請求項15】
前記架橋結合剤は、ハロゲン化アシル化合物、カルボン酸化合物を含む群より選択された1つ以上である、請求項4に記載の高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【請求項16】
前記架橋結合剤は、アゼライン酸ジクロライド、ポリアクリルクロライド、アゼライン酸、ポリアクリル酸を含む群より選択された1つ以上である、請求項4に記載の高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【請求項17】
前記架橋結合剤が均一に分布した炭素ナノチューブ繊維前駆体を熱処理して、炭素ナノチューブ繊維を得る段階は、
単一段階反応によるものである、請求項4に記載の高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【請求項18】
前記架橋結合剤が均一に分布した炭素ナノチューブ繊維前駆体を熱処理して、炭素ナノチューブ繊維を得る段階は、
アシル化反応によるものである、請求項4に記載の高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【請求項19】
前記架橋結合剤が均一に分布した炭素ナノチューブ繊維前駆体を熱処理して、炭素ナノチューブ繊維を得る段階は、
窒素または不活性雰囲気で行われる、請求項4に記載の高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【請求項20】
前記架橋結合剤が均一に分布した炭素ナノチューブ繊維前駆体を熱処理して、炭素ナノチューブ繊維を得る段階において、
前記熱処理は、160〜250℃の温度範囲で行われる、請求項4に記載の高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【請求項21】
前記得られた炭素ナノチューブ繊維の直径は、1〜150μmである、請求項4に記載の高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【請求項22】
前記得られた炭素ナノチューブ繊維の引張強度は、30〜40GPaである、請求項4に記載の高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素ナノチューブ繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素ナノチューブは機械的強度に優れたナノ材料であって、一条の引張強度は最大150GPaである。
それに対し、炭素ナノチューブ繊維の引張強度は炭素ナノチューブに比べて非常に弱く、一般に2GPa以下である。炭素ナノチューブ繊維は、数多くの炭素ナノチューブから構成されているが、弱い分子結合のファンデルワールス力で炭素ナノチューブの壁と壁との間が連結されているからである。
【0003】
そこで、炭素ナノチューブ繊維の強度増加のために、物理的、化学的方法が試みられている。
物理的方法としては、炭素ナノチューブ繊維に溶媒を散布したり、炭素ナノチューブ繊維を溶媒に浸すなどの方法で炭素ナノチューブ繊維を収縮させる方法がある。これにより、炭素ナノチューブ間の距離を狭めてファンデルワールス力を増加させることによって、炭素ナノチューブ繊維の強度を増加させることができる。
しかし、ファンデルワールス力は、根本的に共有結合に比べて弱い結合であるため、上記のように物理的方法により炭素ナノチューブ繊維の強度を増加させるには限界がある。
【0004】
一方、化学的方法としては、高分子を用いて炭素ナノチューブ繊維を構成する炭素ナノチューブ間の空間を満たしたり、炭素ナノチューブ間の架橋結合によりファンデルワールス力より強い共有結合で連結させる方法がある。
【0005】
炭素ナノチューブ繊維の化学的処理方法では、繊維を反応溶液に浸した後、化学反応させることが一般的である。この場合、反応物が炭素ナノチューブ繊維の中心まで拡散して入ることが難しく、炭素ナノチューブ繊維の中心では反応が起こりにくくなる。それによって、この化学反応による効果をうまく得られず、炭素ナノチューブ繊維の機械的強度を著しく増加させることができない限界がある。
【0006】
一方、炭素ナノチューブ繊維を構成する炭素ナノチューブは、一般に壁面よりは端部分が化学的により反応性が良い傾向がある。実際に、これまで報告された架橋結合反応は、炭素ナノチューブの壁面よりは主に端部分で反応が起こるものであるので、炭素ナノチューブの壁と壁との間の結合力を著しく増加させることができていない。
具体的には、このような化学的方法により炭素ナノチューブ繊維の引張強度は約5GPaに到達するのにとどまっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一実施形態では、引張強度が5GPa超過であって優れた炭素ナノチューブ繊維を提供することができる。
本発明の他の実施形態では、炭素ナノチューブの壁面間の架橋結合が形成された形態であって、高強度の炭素ナノチューブ繊維を製造する方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面では、引張強度が5GPa超過である、炭素ナノチューブ繊維を提供する。
前記炭素ナノチューブ繊維は、前記炭素ナノチューブ繊維を構成する炭素ナノチューブの壁面が互いに架橋結合された形態であるとよい。
前記架橋結合された形態は、前記炭素ナノチューブの壁面間のアシル化反応によって架橋結合された形態であるとよい。
前記アシル化反応は、単一段階反応であるとよい。
同時に、前記炭素ナノチューブ繊維の直径は、1〜150μmであり、具体的には3〜30μmであるとよい。
【0009】
本発明の他の側面では、炭素ナノチューブから構成された炭素ナノチューブ繊維前駆体を製造する段階と、前記炭素ナノチューブ繊維前駆体に架橋結合剤を均一に分布させる段階と、前記架橋結合剤が均一に分布した炭素ナノチューブ繊維前駆体を熱処理して、炭素ナノチューブ繊維を得る段階とを含み、前記得られた炭素ナノチューブ繊維は、炭素ナノチューブの壁面間の架橋結合が形成された形態である、高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法を提供する。
炭素ナノチューブから構成された炭素ナノチューブ繊維前駆体を製造する段階は、フォレストスピニング(forest spinning)、ダイレクトスピニング(direct spinning)、およびソリューションスピニング(solution spinning)のうちのいずれか1つの方法によって行われ、これは具体的にはフォレストスピニングであるとよい。
より具体的には、基板を準備する段階と、前記基板上に炭素ナノチューブを成長させる段階と、前記炭素ナノチューブが成長した基板から炭素ナノチューブ繊維前駆体を引き出す段階とを含むものであるとよい。
このとき、前記基板は、シリコンを含むものであるとよい。
前記炭素ナノチューブが成長した基板から炭素ナノチューブ繊維前駆体を引き出す段階は、前記基板上に成長した炭素ナノチューブを一方向に延伸させて、面状に引き取ったものであるとよい。
これによって、前記炭素ナノチューブ繊維前駆体は、炭素ナノチューブリボンの形態であるとよい。
【0010】
一方、炭素ナノチューブから構成された炭素ナノチューブ前駆体を製造する段階は、600〜1000℃の温度範囲で行われるものであるとよい。具体的には630〜670℃の温度範囲で行われるものであるとよい。
また、炭素数1〜20の炭化水素の群より選択された1つ以上が炭素源として使用されるものであり、具体的には、アセチレン、メタン、およびエチレンのうちの1つ以上であるとよい。
前記炭素ナノチューブ繊維前駆体に架橋結合剤を均一に分布させる段階は、エアガン、ネブライザー、加熱、および真空のうちのいずれか1つの方法を利用して、前記炭素ナノチューブ繊維前駆体の表面に前記架橋結合剤を分布させるものであるとよい。
【0011】
これとは独立に、溶液状態の前記架橋結合剤に前記炭素ナノチューブ繊維前駆体の端部分を浸して、前記炭素ナノチューブ繊維前駆体を濡らすものであってもよい。
前記架橋結合剤は、2個以上のアシル基が含まれたものであるとよい。具体的には、ハロゲン化アシル化合物、カルボン酸化合物を含む群より選択された1つ以上であるとよい。より具体的には、アゼライン酸ジクロライド、ポリアクリルクロライド、アゼライン酸、ポリアクリル酸を含む群より選択された1つ以上であるとよい。
前記架橋結合剤が均一に分布した炭素ナノチューブ繊維前駆体を熱処理して、炭素ナノチューブ繊維を得る段階は、単一段階反応によるものであるとよい。具体的には、アシル化反応によるものであるとよい。
これは、窒素または不活性雰囲気で行われるものであるとよい。
【0012】
また、前記熱処理は、160〜250℃の温度範囲で行われるものであるとよい。
前記得られた炭素ナノチューブ繊維の直径は、1〜150μmであるとよい。
また、前記得られた炭素ナノチューブ繊維の引張強度は、5〜40GPaであり、具体的には30〜40GPaであるとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、引張強度が改善された炭素ナノチューブ繊維を提供することができる。
本発明の他の実施形態によれば、単純化された方法により高強度の炭素ナノチューブ繊維を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る炭素ナノチューブ繊維(上)および既存の方式で製造された炭素ナノチューブ繊維(下)のフーリエ変換赤外線分光法分析の結果である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る炭素ナノチューブ繊維の走査電子顕微鏡写真である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る炭素ナノチューブ繊維に対して4回引張強度を測定した結果である。
【
図4】既存の方式で製造された炭素ナノチューブ繊維に対して引張強度を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、これは例として提示されるものであり、これによって本発明は制限されず、本発明は添付する請求範囲の範疇によってのみ定義される。
【0016】
本発明の一実施形態では、引張強度が5GPa超過である、炭素ナノチューブ繊維を提供する。
具体的には、上記引張強度は、10GPa超過であり、より具体的には20GPa超過、さらに具体的には30GPa超過であるとよい。
上記引張強度は大きいほど目的の効果の側面では好ましいが、一般に、引張強度は36GPaまで達成できる。
【0017】
図2は、本発明の一実施形態に係る炭素ナノチューブ繊維の走査電子顕微鏡写真である。
炭素ナノチューブ繊維は、炭素ナノチューブ繊維を構成する炭素ナノチューブの壁面が互いに架橋結合された形態であるとよい。
このとき、架橋結合は、炭素鎖の末端以外の任意の位置で互いに直接または数個の結合を介在させて化学的に連結することを意味する。架橋結合によってファンデルワールス力より強い共有結合を形成することによって、炭素ナノチューブ繊維の強度を増加させることができる。
【0018】
また、炭素ナノチューブの端部分でない壁面間に形成された架橋結合は、炭素ナノチューブ間の剪断強度を効果的に増加させることができる。これによって、炭素ナノチューブ繊維内で力を効率的に伝達できるため、炭素ナノチューブ繊維の強度が大きくなる。
【0019】
一方、架橋結合された形態は、炭素ナノチューブの壁面間のアシル化反応によって架橋結合された形態であるとよい。アシル化反応は、有機化合物に含まれている水素をアシル基と置換する反応であり、炭素ナノチューブの端部分より壁面での反応性が良い反応である。
【0020】
また、上記アシル化反応は、単一段階反応であるとよい。これによって、炭素ナノチューブの表面改質の段階など複数段階を経る必要なく、簡単な工程で架橋結合が形成される。
上記炭素ナノチューブ繊維の直径は、1〜150μmであり、具体的には3〜30μmであるとよい。
【0021】
本発明の他の実施形態では、炭素ナノチューブから構成された炭素ナノチューブ繊維前駆体を製造する段階と、炭素ナノチューブ繊維前駆体に架橋結合剤を均一に分布させる段階と、架橋結合剤が均一に分布した炭素ナノチューブ繊維前駆体を熱処理して、炭素ナノチューブ繊維を得る段階とを含み、得られた炭素ナノチューブ繊維は、炭素ナノチューブの壁面間の架橋結合が形成された形態である、高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法を提供する。
【0022】
このとき、上記炭素ナノチューブ繊維前駆体は、これを構成する炭素ナノチューブが軸方向に固まった繊維を意味し、具体的には、炭素ナノチューブリボン、繊維、およびヤーンを全て包括する概念として定義する。
【0023】
炭素ナノチューブ繊維前駆体は、炭素ナノチューブが軸方向に整列された形態を有するものであり、具体的には、炭素ナノチューブがフィルム状に整列された構造の炭素ナノチューブリボン、炭素ナノチューブが繊維の形状に整列された構造の炭素ナノチューブ繊維、および炭素ナノチューブ繊維が撚られている形態の炭素ナノチューブヤーンを全て包括する概念として定義する。
【0024】
また、得られた炭素ナノチューブ繊維は、上記のように、これを構成する炭素ナノチューブの壁面間の架橋結合が形成された形態の炭素ナノチューブ繊維として定義する。つまり、炭素ナノチューブ繊維前駆体は、壁面間架橋結合の形成の有無と関連して区別される概念である。
【0025】
以下、本発明の一実施形態に係る高強度炭素ナノチューブ繊維の製造方法を詳細に説明する。
【0026】
炭素ナノチューブから構成された炭素ナノチューブ繊維前駆体を製造する段階は、フォレストスピニング、ダイレクトスピニング、およびソリューションスピニングのうちのいずれか1つの方法、具体的には、フォレストスピニングによって行われるものであるとよい。
【0027】
フォレストスピニングは、基板上に炭素ナノチューブフォレストを合成した後、炭素ナノチューブ繊維前駆体を引き出す方法である。ダイレクトスピニングは、炭素ナノチューブをエアロゲル状態で合成して炭素ナノチューブ繊維を製造する方法である。ソリューションスピニングは、炭素ナノチューブを分散させた溶液から炭素ナノチューブのみ固まるようにして引き取る方法である。
【0028】
フォレストスピニングは、基板を準備する段階と、基板上に炭素ナノチューブを成長させる段階と、炭素ナノチューブが成長した基板から炭素ナノチューブ繊維前駆体を引き出す段階とを含むものであるとよい。
【0029】
このとき、基板は、粗さが非常に小さい表面を有する基板、具体的にはシリコン基板、シリコン/シリコンオキサイド基板であるとよい。具体的には、アルミナ、鉄を含む群より選択された1つ以上が蒸着されたものであるとよい。より具体的には、シリコン基板上に、シリコンオキサイド、アルミナ、鉄が順次に蒸着されたものであるとよい。
【0030】
上記炭素ナノチューブが成長した基板から炭素ナノチューブ繊維前駆体を引き出す段階は、基板上に成長した炭素ナノチューブを一方向に延伸させて、面状に引き取ったものであるとよい。
これによって、上記炭素ナノチューブ繊維前駆体は、炭素ナノチューブリボンの形態であるとよい。
【0031】
例えば、上記炭素ナノチューブリボンは、シリコンウエハに垂直に成長した炭素ナノチューブアレイの端部分を引きながら面状に引き取ったものであるとよい。これによって、炭素ナノチューブが集まって数十から数百ナノメートルの炭素ナノチューブ束をなし、これらの束が集まって非常に広い表面積を有する炭素ナノチューブリボンを形成することができる。
【0032】
一方、炭素ナノチューブから構成された炭素ナノチューブ前駆体を製造する段階は、600〜1000℃の温度範囲で行われるものであるとよい。仮に1000℃を超える場合、アセチレンガスの分解速度が速すぎるため、炭素の過剰供給で触媒を被毒させて安定した炭素ナノチューブの成長を阻害する。一方、600℃未満の場合、アセチレンガスの分解が円滑でなく、触媒に炭素が供給されにくい。
上記温度範囲は、具体的には630〜670℃であるとよい。
【0033】
また、炭素ナノチューブから構成された炭素ナノチューブ繊維前駆体を製造する段階は、炭素数1〜20の炭化水素の群より選択された1つ以上が炭素源として使用されるものであり、具体的には、アセチレン、メタン、およびエチレンのうちの1つ以上であるとよい。
【0034】
上記炭素ナノチューブ繊維前駆体に架橋結合剤を均一に分布させる段階は、エアガン、ネブライザー、加熱、および真空のうちのいずれか1つを用いて、炭素ナノチューブ繊維前駆体の表面に架橋結合剤を分布させるものであるとよい。
【0035】
例えば、表面積が最大となっている炭素ナノチューブ繊維前駆体の表面に架橋結合剤をエアガンで噴射すると、架橋結合剤は、炭素ナノチューブ繊維前駆体の間に均一に分布できる。
【0036】
これとは独立に、溶液状態の架橋結合剤に炭素ナノチューブ繊維前駆体の端部分を浸して、毛細管現象によって架橋結合剤は炭素ナノチューブ繊維前駆体の間に均一に分布できる。
【0037】
一方、上記架橋結合剤は、2個以上のアシル基が含まれたものであり、具体的には、両端にアシル基が含まれている物質であるとよい。この場合、後述のように、炭素ナノチューブ繊維を構成する炭素ナノチューブの壁面間の架橋結合が単一段階反応で形成される。
具体的には、上記架橋結合剤は、反応性が非常に大きい物質であって、ハロゲン化アシル化合物、カルボン酸化合物を含む群より選択された1つ以上であるとよい。
【0038】
例えば、上記アゼライン酸ジクロライドは、常温で液体状態で存在する。また、両端に官能基を含んでいるため、単一段階によって架橋結合を形成することができる。
【0039】
より具体的には、炭素の個数と関係なく両側にカルボン酸やCOCl官能基を有する化合物であって、アゼライン酸ジクロライド、ポリアクリルクロライド、アゼライン酸、ポリアクリル酸を含む群より選択された1つ以上であるとよい。
【0040】
上記架橋結合剤が均一に分布した炭素ナノチューブ繊維前駆体を熱処理して、炭素ナノチューブ繊維を得る段階は、単一段階反応によるものであるとよい。具体的には、アシル化反応によるものであるとよい。上記架橋結合およびアシル化反応に関する詳細な説明は上述した通りである。
これは、窒素または不活性雰囲気で行われるものであるとよい。
【0041】
また、上記熱処理は、160〜250℃の温度範囲で行われるものであるとよい。250℃を超える場合、架橋結合剤が分解して架橋結合が起こることが難しく、160℃未満の場合には、反応が起こるほどエネルギーが十分でなくなる。
【0042】
得られた炭素ナノチューブ繊維の直径は、1〜150μmであり、具体的には3〜30μmであるとよい。
また、得られた炭素ナノチューブ繊維の引張強度は、5〜40GPaであるとよい。具体的には20〜40GPaであり、より具体的には30〜40GPaであるとよい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の好ましい実施例および比較例を説明する。しかし、下記の実施例は本発明の好ましい一実施形態に過ぎず、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例)本発明の一実施形態に係る炭素ナノチューブ繊維の製造
a)炭素ナノチューブリボンの製造
基板上に炭素ナノチューブリボンを形成するために、フォレストスピニングを利用した。
【0045】
上記基板としては、300nmのシリコンオキサイド(SiO
2)が蒸着されたシリコン(Siltron Inc.Korea、<100>方向、厚さ:660−690μm)を用い、この基板上に原子層蒸着方式で酸化アルミニウム(Al
2O
3)を10nm蒸着した後、その上にe−beam蒸着法で鉄(Fe)を1nm蒸着して使用した。
【0046】
上記基板をチューブ状ファーネス(Lindberg Blue M、HTF55322、チューブの直径4cm、長さ70cm)の中央に位置させた後、アルゴン(Ar)を500sccm流し、温度を上昇させた。反応温度の670℃に到達した後、アルゴン286sccm、水素96sccm、アセチレン19sccmを3分間流して炭素ナノチューブアレイを合成した。
【0047】
以降、水素とアセチレンの供給を中断し、アルゴン雰囲気で常温まで冷却させた後、上記炭素ナノチューブアレイが合成された基板をチューブから取り出した。その後、上記炭素ナノチューブアレイの端部分を一方向に引きながら一定面積に延伸させて、表面積が最大となる炭素ナノチューブリボンを得ることができた。
【0048】
b)架橋結合剤の噴射
製造された炭素ナノチューブリボンの表面に、エアガン(BLUE BIRD)を用いて液体状態のアゼライン酸ジクロライドを0.5ml噴射した。
【0049】
上記アゼライン酸ジクロライドは常温で液体状態で存在するので、これをエアガンで噴射することによって、表面積が最大となる炭素ナノチューブリボン内の炭素ナノチューブの間に均一に分布することができた。
【0050】
c)アシレーション反応
上記のようにアゼライン酸ジクロライドが均一に分布している炭素ナノチューブリボンをファーネス(Lindberg Blue M、HTF55322、チューブの直径4cm、長さ70cm)に入れて、アルゴン雰囲気で160℃に加熱した。
【0051】
このとき、上記アゼライン酸ジクロライドは反応性が非常に良いため、炭素ナノチューブ壁の芳香族環と反応してアシル化反応を起こすことができた。また、上記アゼライン酸ジクロライドは両端に官能基を含んでいるため、単一段階で架橋結合を形成することができた。
【0052】
(比較例)既存の方式による炭素ナノチューブ繊維の製造
上記実施例で製造された100mmの長さを有する炭素ナノチューブ繊維の一方を固定し、他の一方はモータに付着させた。このとき、底と繊維の角度が10〜15度となるように固定した。
上記モータを200〜2000rpmで回転させ、リボンを撚って炭素ナノチューブ繊維を製造した。
【0053】
(試験例1)フーリエ変換赤外線分光法分析の結果
上記実施例および上記比較例による炭素ナノチューブ繊維に対して、それぞれフーリエ変換赤外線分光法分析(VARIAN、670−IR)を実施した。
【0054】
図1は、上記実施例による炭素ナノチューブ繊維(上)および上記比較例による炭素ナノチューブ繊維(下)のフーリエ変換赤外線分光法分析の結果である。
図1によれば、比較例による炭素ナノチューブ繊維は、特定の官能基ピークがないのに対し、実施例による炭素ナノチューブをさせた後、アシル官能基によるピークが現れたことを確認することができる。
したがって、炭素ナノチューブ内の官能基とアゼライン酸ジクロライドとが反応しながらアシル官能基を形成し、共有結合を形成したことが分かる。
【0055】
(試験例2)走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)分析の結果
上記実施例による炭素ナノチューブ繊維に対して、それぞれモルフォロジーおよび直径を確認(走査電子顕微鏡、Hitachi、S4800)した。
【0056】
図2は、上記実施例による炭素ナノチューブ繊維の走査電子顕微鏡写真である。
図2によれば、炭素ナノチューブ繊維は、炭素ナノチューブ束が軸方向に整列された状態で収縮しており、約3μmの直径を有することを確認することができる。
【0057】
(試験例3)引張強度の測定結果
上記実施例および上記比較例による炭素ナノチューブ繊維に対して、それぞれ引張強度を測定した。このために、ナノ引張試験器(NANO Bionix、Agilent Technologies)が用いられた。具体的には、10mmの炭素ナノチューブ繊維の端を固定させ、0.0027/sのストレインを加えて引張強度を測定した。
【0058】
図3は、本発明の上記実施例による炭素ナノチューブ繊維に対して4回引張強度を測定した結果であり、
図4は、上記比較例による炭素ナノチューブ繊維に対する引張強度の測定結果である。
【0059】
図4では、上記比較例による炭素ナノチューブ繊維の引張強度が0.4GPaであると確認された。それに対し、
図3では、上記実施例による炭素ナノチューブ繊維の引張強度が最大36GPaであると確認された。
【0060】
したがって、本発明の実施例による炭素ナノチューブ繊維は、既存の炭素ナノチューブ繊維に比べて非常に高強度であることが分かる。これは、アシル化反応によって炭素ナノチューブ繊維を構成する炭素ナノチューブの壁面間の架橋結合が形成された結果、炭素ナノチューブ間の剪断強度が増加できたからである。
【0061】
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態に製造され、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施可能であることを理解するであろう。そのため、以上に記述した実施例は、あらゆる面で例示的なものであり、限定的ではないと理解すべきである。