特許第6368984号(P6368984)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368984
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】光硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20180730BHJP
   C09J 153/00 20060101ALI20180730BHJP
   C09J 4/02 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   C08F2/44 C
   C08F2/44 B
   C09J153/00
   C09J4/02
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-83289(P2014-83289)
(22)【出願日】2014年4月15日
(65)【公開番号】特開2015-203074(P2015-203074A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2017年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 淳也
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−307082(JP,A)
【文献】 特開2010−126697(JP,A)
【文献】 特開2002−226509(JP,A)
【文献】 特開平07−090228(JP,A)
【文献】 特開2009−209256(JP,A)
【文献】 特開2005−336369(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/080737(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/154138(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00 − 2/60
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)〜(D)成分を含むが、(B)成分以外の(メタ)アクリル基を1有する(メタ)アクリルモノマーを含まず、(A)成分が100質量部に対して(B)成分が100〜300質量部含む光硬化性組成物。
(A)成分:スチレン重合体とエチレン/ブチレン重合体のブロック共重合体
(B)成分:炭化水素基と(メタ)アクリル基を1有する(メタ)アクリルモノマー
(C)成分:2以上のチオール基を有する化合物
(D)成分:光開始剤
【請求項2】
−20℃における貯蔵弾性率が5.0×10−8Pa以下であり、損失弾性率のガラス転移点が−30℃以下にある請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
(A)成分100質量部に対して、(C)成分が0.1〜10質量部添加される請求項1または2のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
(A)成分に無水マレイン酸変性されたスチレン重合体とエチレン/ブチレン重合体のブロック共重合体を含む請求項1〜3のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
(B)成分が、鎖状炭化水素基と(メタ)アクリル基を1有する(メタ)アクリルモノマーおよび環状炭化水素基と(メタ)アクリル基を1有する(メタ)アクリルモノマーを含む請求項1〜4のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
さらに、(メタ)アクリル基を2以上有する(メタ)アクリルモノマーを含む請求項1〜5のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の光硬化性組成物を含む光学部品用接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ等の光学部品の接着に適した光硬化性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、熱可塑性エラストマー、アクリルモノマーおよび光開始剤を必須成分とする光硬化性の組成物が記載されている。特に、接着しにくい材料に接着力があることが特徴である。しかしながら、特許文献1の発明は表面にタックが残りやすく、光学部品の接着においては、埃などが硬化物表面に付着しやすいため、不良率の向上を招いて工程管理が難しい。また、電子機器において重要な部分であることから、耐湿試験(例えば、85℃×85%RH雰囲気で500時間)やヒートサイクル試験(例えば、−40℃×30分と80℃×30分を1サイクルとして500サイクル)などの信頼性試験に対する耐性を求められる。耐性とは、具体的には接着力などの試験項目が安定することを指す。特に、レンズ等の光学部品には、接着しにくいエンジニアリングプラスチックや当該材料と金属の組み合わせが多く使用されるため、接着力の安定化は困難である。(以下、アクリルとメタクリルを合わせて、(メタ)アクリルと呼ぶ。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−307082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の光硬化性組成物は硬化物に柔軟性を維持しながら、表面硬化性が向上することが困難であったことから製造環境面への配慮が不十分であった。また、接着しにくい材料への接着力を確保し、耐湿試験やヒートサイクル試験などの信頼性試験後においてもその接着力が維持することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、信頼性試験後においてもその接着力が維持する光硬化性組成物を完成するに至った。
【0006】
本発明の要旨を次に説明する。本発明の第一の実施態様は、(A)〜(D)成分を含むが、(B)成分以外の(メタ)アクリル基を1有する(メタ)アクリルモノマーを含まず、(A)成分が100質量部に対して(B)成分が100〜300質量部含む光硬化性組成物である。
(A)成分:スチレン重合体とエチレン/ブチレン重合体のブロック共重合体
(B)成分:炭化水素基と(メタ)アクリル基を1有する(メタ)アクリルモノマー
(C)成分:2以上のチオール基を有する化合物
(D)成分:光開始剤
【0007】
本発明の第二の実施態様は、−20℃における貯蔵弾性率が5.0×10Pa以下であり、損失弾性率のガラス転移点が−30℃以下にある第一の実施態様に記載の光硬化性組成物である。
【0008】
本発明の第三の実施態様は、(A)成分100質量部に対して、(C)成分が0.1〜10質量部添加される第一または第二の実施態様のいずれかに記載の光硬化性組成物である。
【0009】
本発明の第四の実施態様は、(A)成分に無水マレイン酸変性されたスチレン重合体とエチレン/ブチレン重合体のブロック共重合体を含む第一から第三の実施態様のいずれかに記載の光硬化性組成物である。
【0010】
本発明の第五の実施態様は、(B)成分が、鎖状炭化水素基と(メタ)アクリル基を1有する(メタ)アクリルモノマーおよび環状炭化水素基と(メタ)アクリル基を1有する(メタ)アクリルモノマーを含む第一から第四の実施態様のいずれかに記載の光硬化性組成物である。
【0011】
本発明の第六の実施態様は、さらに、(メタ)アクリル基を2以上有する(メタ)アクリルモノマーを含む第一から第五の実施態様のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【0012】
本発明の第七の実施態様は、第一から第六の実施態様のいずれかに記載の光硬化性組成物を含む光学部品用接着剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、応力低減が求められる光学部品用途において使用される接着しにくい材料に対しても安定した接着性を有すると共に、硬化物が軟質であるにも関わらず硬化物表面にタックが無く、その軟質性から信頼性試験後においても安定した接着性を確保できる光学部品に適した柔軟性、表面硬化性および接着性を有する硬化物を形成する光硬化性組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の詳細を次に説明する。本発明で使用することができる(A)成分としては、スチレン重合体とエチレン/ブチレン共重合体のブロック共重合体である。ここで、ブロック共重合体とは種類の異なる重合体同士を共重合させたポリマーを指し、その構造により直鎖A−Bブロックタイプや直鎖A−B−Aブロックタイプが知られている。ブテンの構造異性体の総称としてブチレンと呼び、「エチレン/ブチレン重合体」とはエチレンとブチレンを共重合させた重合体を示す。(A)成分は不飽和結合を含まないため柔軟性が有り、信頼性試験後においてもその特性が安定して維持されている。
【0015】
特に、(A)成分には無水マレイン酸変性されたスチレン重合体とエチレン/ブチレン重合体のブロック共重合体を含むことが好ましく、無水マレイン酸変性とは部分的に無水マレイン酸を含めて重合させているブロック共重合体を指す。
【0016】
(A)成分の具体例としては、クレイトンポリマージャパン株式会社製のG1650、G1651、G1652、G1654X、G1657、G1726、FG1901X、FG1924Xなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0017】
本発明で使用することができる(B)成分としては、炭化水素基と(メタ)アクリル基を1有する(メタ)アクリルモノマーである。(以下、(メタ)アクリル基を1有するを単官能(メタ)アクリルモノマーとも呼ぶ。)特に、鎖状炭化水素基を有する(メタ)アクリルモノマーと環状炭化水素基を有する(メタ)アクリルモノマーを混合することが好ましい。上記の炭化水素基には、(A)成分の溶解性を低下させる様なエーテル基やエステル基などの極性基を含まず、炭素と水素のみからなる基を指す。環状炭化水素基を有する(メタ)アクリルモノマーは、添加することで接着力の向上を図ることができる。また、(B)成分以外の(メタ)アクリル基を1有する(メタ)アクリルモノマーを含まない方が、表面硬化性が良好であると共に信頼性試験後の接着力が安定している。
【0018】
鎖状炭化水素基を有する(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、イソアミル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
環状炭化水素基を有する(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、アダマンタニル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
(B)成分の具体的な商品としては、共栄社化学株式会社製のライトアクリレートIAA、L−A、IM−A、S−A、IBX−Aなどや、大阪有機化学工業株式会社製のAIB、TBA、IOAA、LA、STA、IBXA、V#155などや、新中村化学工業株式会社製のS−1800Aなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0021】
(A)成分100質量部に対して、(B)成分は100〜300質量部含むことが好ましい。(B)成分が100質量部より多いと、(A)成分を十分に溶解させることができると共に粘度を低くすることができる。一方、(B)成分が300質量部より少ないと原因は解明されていないが組成物の外観が白濁するのを抑制できる。
【0022】
単官能(メタ)アクリルモノマー以外に、分子内に(メタ)アクリル基を2以上有する化合物を使用しても良い(以下、当該化合物を多官能(メタ)アクリルモノマーと呼ぶ。)。接着力をより安定的に発現させるために、(A)成分100質量部に対して多官能(メタ)アクリルモノマーが30質量部以下含むことが好ましい。また、多官能(メタ)アクリルモノマーが30質量部以下あれば、(A)成分との相溶性に悪影響を与えずに白濁または(A)成分の析出は抑制される。
【0023】
本発明で使用することができる(C)成分としては、2以上のチオール基を有する化合物であり、特に分子中に2〜6のチオール基を有する化合物である。(C)成分を添加することで、光硬化性組成物の硬化物表面にタックが無くなる。
【0024】
具体的なチオール化合物としては、トリス−[(3−メルカプトプロイオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレートなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。具体的な商品としては、SC有機化学株式会社製のTEMPIC、PEMP、PEMP−20P、DPMP、TMMP、淀化学株式会社製のTMTP、PETP、TMTG、PETGなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
(B)成分を含めた(メタ)アクリルモノマー100質量部に対して、(C)成分が0.1〜10質量部添加されることが好ましく、特に好ましくは(C)成分が0.1〜5質量部添加されることである。(C)成分が0.1質量部より多いと表面硬化性が向上してタックが無くなり、(C)成分が10質量部より少ないと光硬化性組成物の硬化にムラが発生しない。
【0026】
本発明で使用することができる(D)成分としては、光開始剤であり、(B)成分などの(メタ)アクリルモノマーを硬化させるために、紫外線や可視光などのエネルギー線が照射された際に分解する。特に好ましくは、エネルギー線を照射した際にラジカル種を発生する光開始剤である。
【0027】
(D)成分の具体例としては、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン、キサントール、フルオレイン、ベンズアルデヒド、アンスラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−メチルアセトフェノン、3−ペンチルアセトフェノン、4−メトキシアセトフェノン、3−ブロモアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジアセチルベンゼン、3−メトキシベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、オリゴ(2−ヒドロキシー2−メチルー1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)、4−アリルアセトフェノン、カンファーキノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、4−メチルベンゾフェノン、4−クロロ−4’−ベンジルベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、3−クロロキサントーン、3,9−ジクロロキサントーン、3−クロロ−8−ノニルキサントーン、ベンゾイル、ベンゾイルメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ビス(4−ジメチルアミノフェニル)ケトン、ベンジルメトキシケタール、2−クロロチオキサントーン、o−メチルベンゾエート、ベンジルジメチルケタール、メチルベンゾイルホーメートなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
(B)成分を含めた(メタ)アクリルモノマー100質量部に対して、(D)成分が0.1〜10質量部添加されることが好ましく、特に好ましくは1〜8質量部である。(D)成分が0.1質量部より多いと表面硬化性が向上してタックが無くなり、(D)成分が10質量部より少ないと光硬化性組成物の保存安定性を維持することができる。
【0029】
本発明には、無機充填剤や有機充填剤などの充填剤を適宜添加することができる。充填剤を添加することで、粘性・チクソ性だけでなく硬化性、強靱性を調整することができる。無機充填剤としては、アルミナ、シリカ、アモルファスシリカなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。一方、有機充填剤としては、スチレンフィラー、ゴムフィラー、コアシェルアクリルフィラーなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。具体的な製品としては、アドマファイン株式会社製のAO−802、日本アエロジルジャパン株式会社製のアエロジルシリーズとしてR972(ジメチルジクロロシラン処理)、R976(ジメチルジクロロシラン処理)、RY200(ジメチルシリコーン処理)、RX200(ヘキサメチルジシラザン処理)、R800(オクチルシラン処理)など挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0030】
本発明の性状や硬化物物性が損なわれない程度にその特性を調整するために、ラジカル熱硬化剤、感光剤、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、レベリング剤、重合禁止剤、老化防止剤、可塑剤、チクソ付与剤、充填剤、溶剤などの添加剤を配合してもよい。
【実施例】
【0031】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。(以下、光硬化性組成物を単に組成物と呼ぶ。)
【0032】
組成物を調製するために下記成分を準備した。
(A)成分:スチレン重合体とエチレン/ブチレン重合体のブロック共重合体
・スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンの骨格を有するブロック共重合体(G1726 クレイトンポリマージャパン株式会社製)
・無水マレイン酸変性されたスチレン重合体とエチレン/ブチレン重合体のブロック共重合体(FG1901X クレイトンポリマージャパン株式会社製)
(B)成分:炭化水素基と(メタ)アクリル基を1有する(メタ)アクリルモノマー
・イソボルニルアクリレート(ライトアクリレートIB−XA 共栄社化学株式会社製)
・イソオクチルアクリレート(IOAA 大阪有機化学工業株式会社製)
・ラウリルアクリレート(ライトアクリレートL−A 共栄社化学株式会社製)
・イソステアリルアクリレート(S−1800A 新中村化学工業株式会社製)
(B’)成分:(B)成分以外の(メタ)アクリルモノマー
・メトキシジプロピレングリコールアクリレート(ライトアクリレートDPM−A 共栄社化学株式会社製)
多官能(メタ)アクリルモノマー
・トリメチロールプロパントリアクリレート(A−TMPT 新中村化学工業株式会社製)
・ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(ライトアクリレートDCP−A 共栄社化学株式会社製)
・2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート(ライトアクリレートBEPG−A 共栄社化学株式会社製)
(C)成分:2以上のチオール基を有する化合物
・ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(PEMP−20P SC有機化学株式会社製)
(D)成分:光開始剤
・1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IRGACURE 184 BASF社製)
充填剤
・ジメチルジクロロシランで表面処理したアモルファスシリカ(AEROSIL R976 日本アエロジル株式会社製)
【0033】
[実施例1〜6、比較例1]
実施例1〜6と比較例1の調整を行った。(A)成分、(B)成分およびその他の(メタ)アクリルモノマーを秤量して攪拌釜に投入し、攪拌器にて30分間攪拌して均一にする。その後、(C)成分をさらに秤量して攪拌釜に投入し、さらに30分間攪拌する。最後に、(D)成分を秤量して攪拌釜に投入し、30分間減圧脱泡攪拌を行う。詳細な調製量は表1に従い、数値は全て質量部で表記する。また、表1には(B)成分のみの合計を「(B)成分の合計」として、(B)成分と(B’)成分とその他の(メタ)アクリルモノマーの合計を「全(メタ)アクリルモノマーの合計」として、全ての(メタ)アクリルモノマーの合計を100質量部としたときの(C)成分の添加量を「全(メタ)アクリルモノマー100質量部に対する(C)成分」として記載した。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例1〜6、比較例1に対して、外観確認、粘度測定、表面硬化性確認、厚膜硬化性確認、硬度測定(ショアーA)を行った結果を表2にまとめた。
【0036】
[外観確認]
組成物をガラス容器に入れて、目視によりガラス容器が「透明」または「白濁」の確認を行い、その結果を「外観」とする。厚膜硬化性の観点から「透明」であることが好ましい。
【0037】
[粘度測定]
1ccの組成物を採取して、測定用カップに吐出する。以下の条件で、EHD型粘度計(東機産業株式会社製)にて粘度測定を行った。その結果を「初期の粘度(Pa・s)」とする。作業性の観点から、50Pa・s以下が好ましい。
測定条件
コーンローター:3°×R14
回転速度:10rpm
測定時間:3分
測定温度:25℃(恒温槽により温度制御する)
【0038】
[表面硬化性確認]
組成物がガラス容器内に深さ2mmまで入れた状態で、紫外線照射機で積算光量30kJ/mを照射してシート状の硬化物を作成する。以下の評価基準により指触にて確認し、「表面硬化性」とする。埃などの付着を防ぐため、表面硬化性は「○」が好ましい。
○:硬化物表面に指紋が残らない
×:硬化物表面に指紋が残る(タックがある)
【0039】
[厚膜硬化性確認]
組成物がガラス容器内に深さ6mmまで入れた状態で、紫外線照射機で積算光量30kJ/mを照射してシート状の硬化物を作成する。未硬化物を拭き取り、ノギスにて厚さを測定し、その数値を「厚膜硬化性(mm)」とする。硬化物の硬化状態が均一であるためには、厚膜硬化性が2mm以上あることが好ましい。
【0040】
[硬度測定(ショアーA)]
組成物の厚さを2mmに設定した状態で、紫外線照射機で積算光量30kJ/mを照射してシート状の硬化物を作成する。当該硬化物を3層に重ねて6mmの硬化物を作成する。A型デュロメータ(硬度計)の加圧面をシート状硬化物に対して平行に保ちながら、衝撃を伴うことなく速やかに10Nの力で押しつけ、加圧面と試料とを密着させる。測定時に最大値を読み取り、最大値を「硬度(単位無し)」とする。詳細はJIS K 6253に従う。A60以下であれば、環境の温度変化に追従することができる。
【0041】
【表2】
【0042】
実施例1〜6および比較例1の中で、比較例1は外観において白濁している。その原因は明確ではないが、比較例1は、(A)成分100質量部に対して(B)成分が334質量部と最も多く含まれることから、(B)成分の添加量が多すぎることが原因と推測される。実施例6の様に、(A)成分100質量部に対して(B)成分が300質量部以下であれば、外観は透明になる。
【0043】
[実施例7、比較例2〜4]
さらに検証を進めるため、表3に従い実施例7と比較例2〜4を調整した。数値は全て質量部で表記する。(A)成分、(B)成分(比較例の場合は(B’)成分)およびその他の(メタ)アクリルモノマーを秤量して攪拌釜に投入し、攪拌器にて30分間攪拌して均一にする。その後、(C)成分をさらに秤量して攪拌釜に投入し、さらに30分間攪拌する。最後に、(D)成分を秤量して攪拌釜に投入し、30分間減圧脱泡攪拌を行う。また、表3には(B)成分のみの合計を「(B)成分の合計」として、(B)成分と(B’)成分とその他の(メタ)アクリルモノマーの合計を「全(メタ)アクリルモノマーの合計」として、全ての(メタ)アクリルモノマーの合計を100質量部としたときの(C)成分の添加量を「全(メタ)アクリルモノマー100質量部に対する(C)成分」として記載した。
【0044】
【表3】
【0045】
実施例7、比較例2〜4に対して、DMA(動的粘弾性)測定、引張剪断接着強さ測定を行い、その結果を表4にまとめた。
【0046】
[DMA(動的粘弾性)測定]
組成物の厚さを1mmに設定し、積算光量30kJ/mを照射してシート状の硬化物を作成する。幅10mmに打ち抜き、テストピースを作製する。DMA装置に取り付けて−40〜100℃の温度範囲で測定を行う。−20℃における貯蔵弾性率、損失弾性率の極大値(ガラス転移点)、tanδの極大値(ガラス転移点)を確認し、それぞれ「E’(×10Pa)」、「E”(℃)」、「tanδ(℃)」と表す。また、テストピースが作成できない場合は、「測定不可」と記載する。材質の異なる被着体を接着した際に、高温雰囲気における被着体の熱膨張率の違いに追従するためには、E’における貯蔵弾性率が5.0×10Pa以下であり、E”が−30℃以下にあることが好ましい。
【0047】
[引張剪断接着強さ測定]
下記の被着体(1)〜(3)の組み合わせに対して、引張剪断接着強さを測定した。被着体は長さ100mm×幅25mm×厚さ1mmの形状であり、幅25mm×長さ10mmの接着面積を組成物で貼り合わせて、はみ出し部を拭き取った後でクリップにより被着体の端部を固定する。その後、紫外線照射機で積算光量30kJ/mを照射して組成物を硬化してテストピースを作成する。テストピースを引張試験器に固定して、50mm/分の速度で引張方向に引っ張って最大強度(N)を測定し、接着面積から計算して「剪断強度(MPa)」とする。好ましくは「剪断強度」が1.0MPa以上であれば、被着体を十分固定することができる。
被着体(1):ポリフェニレンサルフィド樹脂とシクロオレフィンポリマー
被着体(2):シクロオレフィンポリマーとシクロオレフィンポリマー
被着体(3):亜鉛ダイカスト用合金とシクロオレフィンポリマー
・シクロオレフィンポリマー(ZEONEX 480R 日本ゼオン株式会社製)
・ポリフェニレンサルフィド樹脂(サスティールPPS GS−40 東ソー株式会社製)
・亜鉛ダイカスト用合金:ZDC2
以下、被着体(1)〜(3)の測定結果をそれぞれ剪断強度1〜3と呼ぶ。
【0048】
【表4】
【0049】
(C)成分が含まれない比較例2、4は表面硬化性が劣る。また、比較例3と4はE”が−30℃以下であると推測されるものの、硬化物が軟質すぎてテストピースが作成できなかった。また、比較例3の表面硬化性も「×」であった。これは、(B’)成分が含まれていることが原因と推測される。実施例7と比較例2〜4においては、剪断強度1〜3の初期測定値は、1.0MPa以上の数値が出ている。
【0050】
[実施例8〜11]
さらに検証を進めるため、表5に従い実施例8〜11を調整した。数値は全て質量部で表記する。(A)成分、(B)成分およびその他の(メタ)アクリルモノマーを秤量して攪拌釜に投入し、攪拌器にて30分間攪拌して均一にする。その後、(C)成分をさらに秤量して攪拌釜に投入し、さらに30分間攪拌する。最後に、(D)成分を秤量して攪拌釜に投入し、30分間減圧脱泡攪拌を行う。また、表5には(B)成分のみの合計を「(B)成分の合計」として、(B)成分と(B’)成分とその他の(メタ)アクリルモノマーの合計を「全(メタ)アクリルモノマーの合計」として、全ての(メタ)アクリルモノマーの合計を100質量部としたときの(C)成分の添加量を「全(メタ)アクリルモノマー100質量部に対する(C)成分」として記載した。さらに、実施例1〜6、8〜11に対して、DMA(動的粘弾性)測定、引張剪断接着強さ測定を行い、その結果を表6にまとめた。
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
実施例1〜6と実施例8〜11について、DMA測定の結果よりE’が10.0×10Pa以下であり、E”が−30℃以下にあることが分かる。また、剪断強度1〜3について、1.0MPa以上の強度が発現していることが分かる。
【0054】
さらに検証を進めるため、表3と表5に記載の実施例7〜10に対して、下記の耐湿試験とヒートサイクル試験を行い、引張剪断接着強さの変化を確認した。ここで、引張剪断接着強さ測定の初期値は、表4と表6の数値を用いる。その結果を表7にまとめた。
【0055】
[耐湿試験]
前記の引張剪断接着強さ測定におけるテストピース作成方法と同様にテストピースを作成する。85℃×85%RHの雰囲気下で、テストピースを500時間放置する。耐湿試験終了後にテストピースを取り出し、テストピースの温度が室温になった後、「剪断強度(MPa)」を測定した。また、初期の剪断強度からの変化を「変化率(%)」とする。剪断強度1〜3に関して、「変化率」は−50〜100%の範囲に入る事が好ましい。
【0056】
[ヒートサイクル試験]
前記の引張剪断接着強さ測定におけるテストピース作成方法と同様にテストピースを作成する。−40℃×30分と80℃×30分を1サイクルとして、テストピースを500サイクル放置する。ヒートサイクル試験終了後にテストピースを取り出し、テストピースの温度が室温になった後、「剪断強度(MPa)」を測定した。また、初期の剪断強度からの変化を「変化率(%)」とする。剪断強度1〜3に関して、「変化率」は−50〜100%の範囲に入る事が好ましい。
【0057】
【表7】
【0058】
(B)成分を使用した実施例7〜10については、剪断強度の変化率がほぼプラスに変化し、マイナスに変化しても−50%を下回ることはない。一方、(B’)成分を含む比較例3は、マイナスに変化すると共にその変化率が−50%を下回る。
【産業上の利用可能性】
【0059】
近年、電気・電子分野をはじめ様々な分野で成型精度が良好なポリフェニレンサルフィド樹脂、シクロオレフィンポリマーなどのエンジニアリングプラスチックが使用されるが、当該材料は接着しにくい材質である。そのため、当該材料を接着することができる接着剤が求められている。特に、レンズ等の光学部品においては、当該材料と金属とを接着面積が小さい状態で接着し、信頼性試験後においても安定した接着力が求められ、本発明は当該要求事項を満たすことができる接着剤である。