(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態であるパワーモジュールについて、添付した図面を参照して説明する。
【0018】
(第1の実施形態)
図1に、本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール1を示す。このパワーモジュール1は、絶縁基板(絶縁層)11の一方の面に回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12上(
図1において上面)に搭載された半導体素子3と、を備えている。なお、本実施形態のパワーモジュール1では、絶縁基板11の他方の面側(
図1において下面)にヒートシンク41が接合されている。
【0019】
パワーモジュール用基板10は、絶縁層を構成する絶縁基板11と、この絶縁基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、絶縁基板11の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
【0020】
絶縁基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、例えばAlN(窒化アルミ)、Si
3N
4(窒化珪素)、Al
2O
3(アルミナ)等の絶縁性の高いセラミックスで構成され、本実施形態では、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、絶縁基板11の厚さは、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.635mmに設定されている。
【0021】
回路層12は、絶縁基板11の一方の面に、導電性を有する金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、無酸素銅の圧延板からなる銅板が絶縁基板11に接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12全体が、半導体素子3との接合面に設けられた銅又は銅合金からなる銅層に相当する。ここで、回路層12の厚さ(銅板の厚さ)は0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されていることが好ましい。
【0022】
金属層13は、絶縁基板11の他方の面に、金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、純度が99.99mass%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板が絶縁基板11に接合されることで形成されている。ここで、金属層13(アルミニウム板)の厚さは0.6mm以上3.0mm以下の範囲内に設定されていることが好ましい。
【0023】
ヒートシンク41は、前述のパワーモジュール用基板10を冷却するためのものであり、パワーモジュール用基板10と接合される天板部42と、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路43とを備えている。このヒートシンク41(天板部42)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
【0024】
半導体素子3は、Si等の半導体材料で構成されており、
図2に示すように、回路層12との接合面には、Ni、Au等からなる表面処理膜3aが形成されている。
【0025】
そして、本実施形態であるパワーモジュール1においては、回路層12と半導体素子3とが、はんだ接合されており、回路層12と半導体素子3との間にはんだ層20が形成されている。なお、本実施形態においては、はんだ層20の厚さt1は、50μm以上200μm以下の範囲内とされている。
このはんだ層20は、
図4に示すように、Sn−Cu−Ni系のはんだ材30によって形成されており、本実施形態では、Sn−0.1〜4mass%Cu−0.01〜1mass%Niのはんだ材30が用いられている。
【0026】
ここで、
図2に示すように、回路層12の表面には金属間化合物層26が形成されており、この金属間化合物層26の上に、はんだ層20が積層配置されている。ここで、金属間化合物層26は、CuとSnの金属間化合物(Cu
3Sn)とされている。また、金属間化合物層26の厚さt2は、0.8μm以下とされている。
【0027】
そして、はんだ層20のうち回路層12との界面には、主成分としてSnを含有するとともに、Niを0.5mass%以上10mass%以下、Cuを30mass%以上40mass%以下、含有する組成からなる合金層21が形成されており、この合金層21の厚さt3が2μm以上20μm以下の範囲内とされている。
ここで、本実施形態では、合金層21は(Cu,Ni)
6Sn
5からなる金属間化合物を有している。
【0028】
そして、本実施形態であるパワーモジュール1においては、回路層12とはんだ層20との界面における合金層21の被覆率が85%以上とされている。なお、本実施形態では、
図2に示すように、合金層21が形成されていない領域においては金属間化合物層26も形成されていない。
ここで、界面における合金層21の被覆率は、
図2に示すように、回路層12およびはんだ層20の断面観察を行った際の、観察された界面全体の長さLに対する合金層21で被覆された界面長さL
C(=L
C1+L
C2)の割合L
C/Lとなる。
【0029】
また、本実施形態であるパワーモジュール1においては、パワーサイクル試験において、通電時間5秒、温度差80℃の条件のパワーサイクルを10万回負荷したときの熱抵抗上昇率が10%未満となるように構成されている。
詳述すると、半導体素子3としてIGBT素子を回路層12へはんだ付けするとともに、アルミニウム合金からなる接続配線をボンディングする。そして、IGBT素子への通電を、通電(ON)で素子表面温度140℃、非通電(OFF)で素子表面温度60℃となる1サイクルを10秒毎に繰り返すようにして調整し、このパワーサイクルを10万回繰り返した後における熱抵抗上昇率が10%未満とされているのである。
【0030】
以下に、本実施形態であるパワーモジュールの製造方法について、
図3及び
図4を用いて説明する。
まず、回路層12となる銅板と絶縁基板11とを接合する(回路層形成工程S01)。ここで、絶縁基板11と回路層12となる銅板との接合は、いわゆる活性金属ろう付け法によって実施した。本実施形態では、Ag−27.4質量%Cu−2.0質量%Tiからなる活性ろう材を用いた。
【0031】
絶縁基板11の一方の面に活性ろう材を介して回路層12となる銅板を積層し、絶縁基板11、銅板を積層方向に1kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下(9.8×10
4Pa以上343×10
4Pa以下)の範囲で加圧した状態で加熱炉内に装入して加熱し、回路層12となる銅板と絶縁基板11とを接合する。ここで、加熱温度は850℃、加熱時間は10分とされている。
【0032】
次に、絶縁基板11の他方の面側に金属層13となるアルミニウム板を接合する(金属層形成工程S02)。絶縁基板11とアルミニウム板とを、ろう材を介して積層し、ろう付けによって絶縁基板11とアルミニウム板を接合する。このとき、ろう材としては、例えば、厚さ20〜110μmのAl−Si系ろう材箔を用いることができ、ろう付け温度は600〜620℃とすることが好ましい。
これにより、パワーモジュール用基板10が製造される。
【0033】
次に、金属層13の他方の面側に、ヒートシンク41を接合する(ヒートシンク接合工程S03)。金属層13と、ヒートシンク41の天板部42とを、ろう材を介して積層し、ろう付けによって金属層13とヒートシンク41を接合する。このとき、ろう材としては、例えば、厚さ20〜110μmのAl−Si系ろう材箔を用いることができ、ろう付け温度は590℃〜610℃とすることが好ましい。
【0034】
そして、回路層12の上に半導体素子3を接合する(半導体素子接合工程S04)。この半導体素子接合工程S04においては、
図3に示すように、回路層表面洗浄工程S41、Niめっき膜形成工程S42、積層工程S43、はんだ接合工程S44を有している。
回路層表面洗浄工程S41においては、まず、回路層12の表面をアルカリ洗浄する。アルカリ洗浄の洗浄液としては、例えば5質量%水酸化ナトリウム水溶液等を使用することができる。その後、純水で水洗後、酸洗浄を行う。酸洗浄の洗浄液としては過酸化水素水と硫酸の混合液等を使用することができる。その後、純水で水洗する。
【0035】
次に、
図4に示すように、回路層12の表面に、厚さ0〜0.2μm程度の薄いNiめっき膜31を形成する(Niめっき膜形成工程S42)。
そして、このNiめっき膜31の上に、Sn−0.1〜4mass%Cu−0.01〜1mass%Niのはんだ材30を介して半導体素子3を積層する(積層工程S43)。
半導体素子3を積層した状態で、還元炉内に装入し、回路層12と半導体素子3とをはんだ接合する(はんだ接合工程S44)。このとき、還元炉内は水素1〜10vol%の還元雰囲気とされ、加熱温度が280〜330℃、保持時間が0.5〜2分とされている。また、室温までの冷却速度は、平均2〜3℃/sの範囲内に設定されている。
これにより、回路層12と半導体素子3との間に、はんだ層20が形成され、本実施形態であるパワーモジュール1が製出される。
【0036】
このとき、回路層12の表面に形成されたNiめっき膜31中のNiは、はんだ材30側へと拡散し、Niめっき膜31は消失することになる。
また、回路層12のCuが、はんだ材30側へと拡散することにより、はんだ層20のうち回路層12との界面に、合金層21が形成される。また、合金層21が、主成分としてSnを含有するとともに、Niを0.5mass%以上10mass%以下、Cuを30mass%以上40mass%以下、含有する組成となる。
そして、回路層12とはんだ層20との界面における合金層21の被覆率が85%以上となる。
【0037】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール1においては、はんだ層20のうち回路層12との界面に、主成分としてSnを含有するとともに、Niを0.5mass%以上10mass%以下、Cuを30mass%以上40mass%以下、含有する合金層21が形成されており、この界面における合金層21の被覆率が85%以上とされているので、回路層12とはんだ層20との界面においてクラックが発生することを抑制でき、信頼性の高いパワーモジュール1を得ることができる。
【0038】
また、合金層21が、Niを0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含有しているので、合金層21が熱的に安定な金属間化合物で構成されることになり、はんだ層が破壊されることを確実に抑制することが可能となる。
さらに、合金層21が、Cuを30mass%以上40mass%以下の範囲内で含有しているので、界面における合金層21の被覆率を85%以上とすることができるとともに、合金層21自体が破壊の起点となることを抑制できる。
【0039】
また、本実施形態であるパワーモジュール1においては、パワーサイクル試験を、通電時間5秒、温度差80℃の条件で実施した場合において、熱抵抗上昇率が10%を越えるまでのサイクル回数が10万回以上となるように構成されているので、パワーサイクル負荷時においても、はんだ層20を破壊することがなく、信頼性の向上を図ることができる。
【0040】
さらに、本実施形態であるパワーモジュール1においては、被覆された箇所における合金層21の厚さが2μm以上20μm以下の範囲内とされているので、はんだ層20と回路層12との界面が十分に強化されることになり、界面におけるクラックの発生を確実に抑制することができるとともに、合金層21の内部において割れが発生することを抑制できる。よって、はんだ層20の破壊を確実に抑制でき、信頼性に優れたパワーモジュール1を得ることができる。
【0041】
また、本実施形態であるパワーモジュール1においては、合金層21が(Cu,Ni)
6Sn
5からなる金属間化合物を有しており、この合金層21と回路層12との間に、Cu
3Snからなる金属間化合物層26が形成されているので、はんだ層20と回路層12との界面を十分に強化させることが可能となり、界面におけるクラックの発生を確実に抑制することができ、パワーサイクル負荷時のはんだ層20の破壊を確実に抑制することが可能となる。
【0042】
さらに、本実施形態においては、回路層12の表面に、厚さ0.2μm以下の薄いNiめっき膜31を形成しているので、半導体素子3をはんだ接合した際に、Niめっき膜31が残存することがなく、かつ、回路層12のCuがはんだ材30側へ拡散することが抑制されず、はんだ層20のうち回路層12との界面に合金層21を形成することができ、はんだ層20と回路層12との界面における合金層21の被覆率を確実に85%以上とすることが可能となる。
【0043】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態であるパワーモジュールについて、添付した図面を参照して説明する。なお、第1の実施形態と同じ部材には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
図5に、本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール101を示す。このパワーモジュール101は、絶縁基板(絶縁層)11の一方の面に回路層112が形成されたパワーモジュール用基板110と、回路層112上(
図5において上面)に搭載された半導体素子3と、を備えている。
【0044】
パワーモジュール用基板110は、絶縁層を構成する絶縁基板11と、この絶縁基板11の一方の面(
図5において上面)に配設された回路層112と、絶縁基板11の他方の面(
図5において下面)に配設された金属層13とを備えている。
【0045】
回路層112は、
図5に示すように、絶縁基板11の一方の面に形成されたアルミニウム層112Aと、このアルミニウム層112Aの一方の面側に積層された銅層112Bと、を備えている。
ここで、本実施形態では、アルミニウム層112Aは、純度99.99mass%以上のアルミニウムの圧延板を接合することで形成されている。また、銅層112Bは、無酸素銅の圧延板からなる銅板がアルミニウム層112Aの一方の面側に固相拡散接合されることにより形成されている。
【0046】
この回路層112の一方の面(
図5において上面)が、半導体素子3が接合される接合面とされている。ここで、回路層112の厚さは0.25mm以上6.0mm以下の範囲内に設定されていることが好ましい。また、アルミニウム層112A(アルミニウム板)の厚さは0.2mm以上3mm以下の範囲内に設定され、銅層112Bの厚さは50μm以上3.0mm以下の範囲内に設定されていることが好ましい。
【0047】
ここで、アルミニウム層112Aと銅層112Bとの界面には、
図6に示すように、拡散層115が形成されている。
拡散層115は、アルミニウム層112AのAl原子と、銅層112BのCu原子とが相互拡散することによって形成されるものである。この拡散層115においては、アルミニウム層112Aから銅層112Bに向かうにしたがい、漸次アルミニウム原子の濃度が低くなり、かつ銅原子の濃度が高くなる濃度勾配を有している。
【0048】
この拡散層115は、
図6に示すように、AlとCuからなる金属間化合物で構成されており、本実施形態では、複数の金属間化合物が接合界面に沿って積層した構造とされている。ここで、この拡散層115の厚さは、1μm以上80μm以下の範囲内、好ましくは、5μm以上80μm以下の範囲内に設定されている。
本実施形態では、
図6に示すように、アルミニウム層112A側から銅層112B側に向けて順に、アルミニウム層112Aと銅層112Bとの接合界面に沿って、θ相116、η
2相117が積層し、さらにζ
2相118a、δ相118b、及びγ
2相118cのうち少なくとも一つの相が積層して構成されている(
図7の状態図参照)。
また、本実施形態では、銅層112Bと拡散層115との界面に沿って、酸化物119がζ
2相118a、δ相118b、又はγ
2相118cのうち少なくとも一つの相からなる層の内部に層状に分散している。なお、この酸化物119は、アルミナ(Al
2O
3)等のアルミニウム酸化物とされている。
【0049】
そして、本実施形態であるパワーモジュール101においては、回路層112(銅層112B)と半導体素子3とが、はんだ接合されており、回路層112(銅層112B)と半導体素子3との間にはんだ層20が形成されている。なお、本実施形態においては、はんだ層20の厚さt1は、50μm以上200μm以下の範囲内とされている。
このはんだ層20は、第1の実施形態と同様に、Sn−Cu−Ni系のはんだ材によって形成されており、本実施形態では、Sn−0.1〜4mass%Cu−0.01〜1mass%Niのはんだ材が用いられている。
【0050】
ここで、
図8に示すように、回路層112(銅層112B)の表面には金属間化合物層26が形成されており、この金属間化合物層26の上に、はんだ層20が積層配置されている。この金属間化合物層26は、CuとSnの金属間化合物(Cu
3Sn)とされている。なお、金属間化合物層26の厚さt2は、0.8μm以下とされている。
【0051】
はんだ層20のうち回路層112(銅層112B)との界面には、主成分としてSnを含有するとともに、Niを0.5mass%以上10mass%以下、Cuを30mass%以上40mass%以下、含有する組成からなる合金層21が形成されており、この合金層21の厚さt3が2μm以上20μm以下の範囲内とされている。
ここで、本実施形態では、合金層21は(Cu,Ni)
6Sn
5からなる金属間化合物を有している。
【0052】
そして、本実施形態であるパワーモジュール1においては、回路層112(銅層112B)とはんだ層20との界面における合金層21の被覆率が85%以上とされている。なお、本実施形態では、
図8に示すように、合金層21が形成されていない領域においては金属間化合物層26も形成されていない。
ここで、界面における合金層21の被覆率は、
図8に示すように、回路層112(銅層112B)およびはんだ層20の断面観察を行った際の、観察された界面全体の長さLに対する合金層21で被覆された界面長さL
C(=L
C1+L
C2)の割合L
C/Lとなる。
【0053】
また、本実施形態であるパワーモジュール1においては、パワーサイクル試験において、通電時間5秒、温度差80℃の条件のパワーサイクルを10万回負荷したときの熱抵抗上昇率が10%未満となるように構成されている。
【0054】
以下に、本実施形態であるパワーモジュール101の製造方法について、
図9のフロー図を用いて説明する。
まず、絶縁基板11の一方の面及び他方の面にアルミニウム板を接合し、アルミニウム層112A及び金属層13を形成する(アルミニウム層及び金属層形成工程S101)。
絶縁基板11とアルミニウム板とを、ろう材を介して積層し、ろう付けによって絶縁基板11とアルミニウム板を接合する。このとき、ろう材としては、例えば、厚さ20〜110μmのAl−Si系ろう材箔を用いることができ、ろう付け温度は600〜620℃とすることが好ましい。
【0055】
次に、アルミニウム層112Aの一方の面に銅板を接合して銅層112Bを形成する(銅層形成工程S102)。
アルミニウム層112Aの上に銅板を積層し、これらを積層方向に加圧(圧力3〜35kgf/cm
2)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱することにより、アルミニウム層112Aと銅板とを固相拡散接合する。ここで、銅層形成工程S102において、加熱温度は400℃以上548℃以下、加熱時間は15分以上270分以下とされている。なお、アルミニウム層112Aと銅板との固相拡散接合を行う場合には、加熱温度を、AlとCuの共晶温度(548.8℃)より5℃低い温度から共晶温度未満の温度範囲とすることが好ましい。
この銅層形成工程S102により、絶縁基板11の一方の面にアルミニウム層112Aと銅層112Bとからなる回路層112が形成される。
【0056】
そして、回路層112(銅層112B)の上に、半導体素子3を接合する(半導体素子接合工程S104)。この半導体素子接合工程S104においては、
図9に示すように、回路層表面洗浄工程S141、Niめっき膜形成工程S142、積層工程S143、はんだ接合工程S144を有している。
回路層表面洗浄工程S141においては、まず、回路層112(銅層112B)の表面をアルカリ洗浄する。アルカリ洗浄の洗浄液としては、例えば5質量%水酸化ナトリウム水溶液等を使用することができる。その後、純水で水洗後、酸洗浄を行う。酸洗浄の洗浄液としては過酸化水素水と硫酸の混合液等を使用することができる。その後、純水で水洗する。
【0057】
次に、回路層112(銅層112B)の表面に、厚さ0〜0.2μm程度の薄いNiめっき膜を形成する(Niめっき膜形成工程S142)。
そして、このNiめっき膜の上に、Sn−0.1〜4mass%Cu−0.01〜1mass%Niのはんだ材を介して半導体素子3を積層する(積層工程S143)。
半導体素子3を積層した状態で、還元炉内に装入し、回路層112(銅層112B)と半導体素子3とをはんだ接合する(はんだ接合工程S144)。このとき、還元炉内は水素1〜10vol%の還元雰囲気とされ、加熱温度が280〜330℃、保持時間が0.5〜2分とされている。また、室温までの冷却速度は、平均2〜3℃/sの範囲内に設定されている。
これにより、回路層112(銅層112B)と半導体素子3との間に、はんだ層20が形成され、本実施形態であるパワーモジュール101が製出される。
【0058】
このとき、回路層112(銅層112B)の表面に形成されたNiめっき膜中のNiは、はんだ材側へと拡散し、Niめっき膜は消失することになる。
また、回路層112(銅層112B)のCuが、はんだ材側へと拡散することにより、はんだ層20のうち回路層112(銅層112B)との界面に、合金層21が形成される。さらに、合金層21が、主成分としてSnを含有するとともに、Niを0.5mass%以上10mass%以下、Cuを30mass%以上40mass%以下、含有する組成となる。
そして、回路層112(銅層112B)とはんだ層20との界面における合金層21の被覆率が85%以上となる。
【0059】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール101においては、第1の実施形態と同様の作用効果を奏することが可能となる。
また、本実施形態では、回路層112が銅層112Bを有しているので、半導体素子3から発生する熱を銅層112Bで面方向に拡げることができ、パワーモジュール用基板110側へ効率的に熱を伝達することができる。
【0060】
さらに、絶縁基板11の一方の面に、比較的変形抵抗の小さいアルミニウム層112Aが形成されているので、ヒートサイクル負荷時に発生する熱応力をこのアルミニウム層112Aによって吸収することができ、絶縁基板11の割れを抑制することができる。
また、回路層112の一方の面側に比較的変形抵抗の大きい銅又は銅合金からなる銅層112Bが形成されているので、パワーサイクル負荷時に、回路層112の変形を抑制することができ、パワーサイクルに対する高い信頼性を得ることが可能となる。
【0061】
また、本実施形態においては、アルミニウム層112Aと銅層112Bとが固相拡散接合されており、この固相拡散接合時の温度が400℃以上とされているので、Al原子とCu原子との拡散が促進され、短時間で十分に固相拡散させることができる。また、固相拡散接合する際の温度が548℃以下とされているので、AlとCuとの液相が生じることがなく、アルミニウム層112Aと銅層112Bとの接合界面にコブが生じたり、厚みが変動したりすることを抑制できる。
さらに、上述の固相拡散接合の加熱温度を、AlとCuの共晶温度(548.8℃)より5℃低い温度から共晶温度未満の範囲とした場合には、AlとCuの化合物が必要以上に形成されることを抑制できるとともに、固相拡散接合の際の拡散速度が確保され、比較的短時間で固相拡散接合することができる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、金属層を、純度99.99mass%以上の4Nアルミニウムで構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、他のアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されていてもよいし、銅又は銅合金で構成されていてもよい。
【0063】
また、本実施形態では、回路層となる金属板として無酸素銅の圧延板を例にあげて説明したが、これに限定されることはなく、その他の銅又は銅合金で構成されていてもよい。さらに、回路層のうち半導体素子との接合面が銅又は銅合金で構成されていればよい。
また、絶縁層としてAlNからなる絶縁基板を用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、Al
2O
3、Si
3N
4等からなる絶縁基板を用いても良い。
【0064】
また、絶縁基板と回路層となる銅板を、活性金属ろう付け法によって接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、DBC法、鋳造法等によって接合したものであってもよい。
さらに、絶縁基板と金属層となるアルミニウム板を、ろう付けによって接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、過渡液相接合法(Transient Liquid Phase Bonding)、金属ペースト法、鋳造法等を適用してもよい。
【0065】
また、はんだ材の組成は、本実施形態に限定されることはなく、はんだ接合後に形成される合金層の組成が、主成分としてSnを含有するとともに、Niを0.5mass%以上10mass%以下、Cuを30mass%以上40mass%以下、含有するものであればよい。
さらに、
図1に示すヒートシンクを配設するものとして説明したが、これに限定されることはなく、ヒートシンクを配設していなくてもよいし、
図1に示す構造以外のヒートシンク(例えば、放熱板、放熱フィン付放熱板等)であってもよい。
【0066】
また、第2の実施形態において、アルミニウム層の一方の面に銅板を固相拡散接合することにより、回路層の接合面に銅層を形成したもので説明したが、これに限定されることはなく、銅層の形成方法に制限はない。
例えば、アルミニウム層の一方の面にめっき法により銅層を形成してもよい。なお、厚さ5μmから50μm程度の銅層を形成する場合にはめっき法を適用することが好ましい。厚さが50μmから3mm程度の銅層を形成する場合には固相拡散接合を適用することが好ましい。
【実施例1】
【0067】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
前述の実施形態に記載されたパワーモジュールを準備した。絶縁基板は、AlNで構成され、27mm×17mm、厚さ0.6mmのものを使用した。また、回路層は、無酸素銅で構成され、25mm×15mm、厚さ0.3mmのものを使用した。金属層は、4Nアルミニウムで構成され、25mm×15mm、厚さ0.6mmのものを使用した。半導体素子は、IGBT素子とし、13mm×10mm、厚さ0.25mmのものを使用した。ヒートシンクとしては、40.0mm×40.0mm×2.5mmのアルミニウム板(A6063)を使用した。
【0068】
ここで、本発明例1〜7及び比較例2〜5においては、回路層の表面を以下のように洗浄した。まず、回路層の表面をアルカリ洗浄した。なお、アルカリ洗浄液として5質量%水酸化ナトリウム水溶液を用いた。純水で水洗した後、回路層の表面を酸洗浄した。なお、酸洗浄液として、35質量%の過酸化水素水と、98質量%の硫酸と、エッチング液の安定化剤として上村工業株式会社製「アディティブMGE−9」を体積比で5:3:3となるよう混合した洗浄液を使用した。その後、純水で水洗した。
なお、比較例1においては、回路層の洗浄を実施しなかった。
【0069】
そして、本発明例7においては、回路層の表面に、Niめっき膜を形成し、はんだ材を用いて半導体素子を接合した。このとき、はんだ材の組成を表1に示すように変更することにより、はんだ接合後の合金層の組成、合金層の厚さ等を調整し、本発明例1〜7及び比較例1〜5となる種々のパワーモジュールを作製した。本発明例1〜6及び比較例1〜5については回路層の表面にNiめっき膜を設けなかった。
なお、はんだ接合条件は、はんだ付け温度、はんだ付け保持時間については表1記載の条件とし、水素3vol%還元雰囲気、室温までの平均冷却速度を2.5℃/sとした。
【0070】
(被覆率)
上述のようにして得られたパワーモジュールにおいて、はんだ層のうち回路層との界面に形成された合金層の被覆率を測定した。半導体素子と回路層の断面を、走査型電子顕微鏡(FEI製QUANTA FEG450)を用いて観察し、観察された界面全体の長さLに対する合金層によって被覆された界面長さL
Cの割合(L
C/L)を算出した。本実施例では、150μm×100μmの視野で視野数10視野の断面観察を行い、各視野で算出された観察された界面全体の長さLに対する合金層によって被覆された界面長さL
Cの割合(L
C/L)の平均値を合金層の被覆率とした。
また、上述の断面観察において、
図10に示すように、Ni、Cuの元素マッピングを行い、これらの元素が重複して存在している部分を合金層とした。
【0071】
(合金層の組成)
また、はんだ層のうち回路層との界面に形成された合金層の成分分析を、EPMA分析によって実施した。本実施例では、EPMA分析装置(日本電子株式会社製JXA−8530F)を用いて、加速電圧:15kV、スポット径:1μm以下、倍率:250倍で、合金層の平均組成を分析した。
【0072】
(合金層厚さ)
さらに、はんだ層のうち回路層との界面に形成された合金層の厚さを測定した。上述のEPMA装置を用いてEPMAマッピングを得て、回路層との界面に連続的に形成された(Cu,Ni)
6Sn
5からなる金属間化合物を有する合金層の面積を測定し、マッピング幅の寸法で除して求めた。なお、回路層との界面に形成された合金層のうち、回路層との界面から厚さ方向に連続的に形成されていない領域を含めずに、合金層の面積を測定した。また、Cu
3Snからなる金属間化合物層は、合金層に比べて極めて薄いことから、回路層表面からの厚さを、合金層の厚さとして測定した。
【0073】
(パワーサイクル試験)
IGBT素子への通電を、通電(ON)で素子表面温度140℃、非通電(OFF)で素子表面温度60℃となる1サイクルを10秒毎に繰り返すようにして調整し、このパワーサイクルを10万回繰り返した。そして、初期状態からの熱抵抗の上昇率を評価した。なお、本発明例1〜7においては、すべて、熱抵抗上昇率が10%未満とされている。
【0074】
(パワーサイクル寿命)
IGBT素子への通電を、通電(ON)で素子表面温度140℃、非通電(OFF)で素子表面温度60℃となる1サイクルを10秒毎に繰り返すようにして調整し、このパワーサイクルを繰り返した。そして、初期状態からの熱抵抗の上昇率が10%以上となったサイクル回数(パワーサイクル寿命)を評価した。
【0075】
(熱抵抗測定)
熱抵抗として、過渡熱抵抗を熱抵抗テスター(TESEC社製4324−KT)を用いて測定した。印加電力:100W、印加時間:100msとし、電力印加前後のゲート−エミッタ間の電圧差を測定することにより、熱抵抗を求めた。測定は上述したパワーサイクル試験時において、1万サイクル毎に実施した。
【0076】
【表1】
【0077】
回路層の表面を洗浄しなかった比較例1においては、合金層の被覆率が85%未満であって、パワーサイクル寿命が70000回と短かった。はんだ層と回路層の界面でクラックが発生し、このクラックを起点としてはんだ破壊が早期に発生したためと推測される。
また、Niの含有量が本発明の範囲から外れた比較例2、3においては、パワーサイクル寿命が70000回及び80000回と短かった。これは、合金層が熱的に不安定となったためと推測される。
【0078】
さらに、Cuの含有量が30mass%未満とされた比較例4においては、パワーサイクル寿命が80000回と短かった。これは、合金層において、Cuが不足しているため、合金層が熱的に不安定となり、クラックが発生したものと推測される。
また、Cuの含有量が40mass%を超えた比較例5においては、パワーサイクル寿命が80000回と短かった。これは、合金層が厚くなりクラックが発生したためと推測される。
【0079】
これに対して、本発明例1〜7においては、合金層の組成が本発明の範囲内とされるとともに合金層の被覆率が85%以上とされており、パワーサイクル寿命が110000回以上となっている。合金層によって回路層とはんだ層との界面におけるクラックが抑制されており、このクラックを起点としたはんだ層の破壊が抑制されたためと推測される。
以上のように、本発明例によれば、パワーサイクル特性に優れたパワーモジュールが得られることが確認された。
【実施例2】
【0080】
次に、第2の実施形態に記載されたように、回路層をアルミ層と銅層とで構成したパワーモジュールを準備した。
絶縁基板は、AlNで構成され、27mm×17mm、厚さ0.6mmのものを使用した。金属層は、4Nアルミニウムで構成され、25mm×15mm、厚さ0.6mmのものを使用した。半導体素子は、IGBT素子とし、13mm×10mm、厚さ0.25mmのものを使用した。ヒートシンクとしては、40.0mm×40.0mm×2.5mmのアルミニウム板(A6063)を使用した。
【0081】
回路層のうちアルミニウム層は、4Nアルミニウムで構成され、25mm×15mm、厚さ0.6mmのものを使用した。そして、銅層は、表2に示すように、めっき、固相拡散接合によって形成した。
めっきの場合、アルミニウム層の表面にジンケート処理を施した後、電解めっきにて表2に示す厚さの銅層を形成した。
固相拡散接合の場合、表2に示す厚さの銅板を準備し、第2の実施形態で例示した条件でアルミニウム層の表面に銅板を固相拡散接合した。
【0082】
次に、回路層(銅層)の表面を実施例1と同様の方法で洗浄した。
そして、回路層(銅層)の表面にIGBT素子をはんだ接合した。はんだ接合条件は、はんだ付け温度、はんだ付け保持時間については表2記載の条件とし、水素3vol%還元雰囲気、室温までの平均冷却速度を2.5℃/sとした。はんだ材として、Niを0.08mass%、Cuを1.0mass%、残部がSn及び不可避不純物からなる組成のものを用いた。
以上のようにして、本発明例11〜16となる種々のパワーモジュールを作製した。
そして、実施例1と同様の方法により、合金層の組成、被覆率、合金層厚さ、パワーサイクル寿命を評価した。評価結果を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
表2に示すように、本発明例11〜16においては、いずれも、パワーサイクル寿命が110000回以上となっており、はんだ層の破壊が抑制されていることが確認される。アルミニウム層の上に各種厚さの銅層を形成して回路層を構成した場合であっても、実施例1と同様に、パワーサイクル特性を向上できることが確認された。
また、銅層の厚さが5μm以上であれば、銅層中のCuがすべてはんだ側に拡散してしまうことがなく、銅層が残存することが確認された。さらに、銅層の厚さが3mm以下であれば、パワーサイクル寿命が10万回以上となることが確認された。