(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
大型構造物の素材となる極厚鋼板、自動車を軽量化する素材である高強度薄鋼板、品質基準が厳格である油井管や軸受鋼等の分野においては、鋼の機械的特性の向上が要求されている。そのためには、これらの鋼の素材である連続鋳造鋳片の内部品質の向上が必要である。
【0003】
連続鋳造鋳片の内部品質は、鋳片の厚み方向中心部に生成する中心偏析やポロシティーによって低下する。これらの欠陥は溶鋼が凝固する際の密度変化に起因する凝固収縮により生成する。
【0004】
また、中心偏析は、溶質元素が鋳片の厚み方向中心部で濃化することにより発生する。具体的には、溶鋼の凝固過程で、凝固組織であるデンドライトが成長、粗大化し、それに伴いデンドライトの樹間で溶質元素が濃化してミクロ偏析が生じる。溶鋼の凝固が進行すると、デンドライトの前方で凝固収縮に伴って溶鋼が流動する。この流動の際に、溶質元素が濃化した溶鋼(以下「濃化溶鋼」ともいう。)もデンドライトの樹間からデンドライトの成長方向前方に向かって流れ出し、鋳片の凝固が完了すると、濃化した溶質元素によるマクロ偏析が形成される。
【0005】
ポロシティーは、鋳片の凝固完了時に、凝固収縮により減少した鋼の容積に対応した量の溶鋼が供給されない場合に生成する。
【0006】
中心偏析もポロシティーも、発生を抑制するには、凝固収縮による鋼の容積の減少に対応した量の溶鋼を供給する必要がある。また、ポロシティーは、鋳片を圧下して圧着することにより低減することが可能である。
【0007】
中心偏析の発生を抑制する方法として、特公昭62−34460号公報(特許文献1)、特開昭63−183765号公報(特許文献2)および特公平2−56982号公報(特許文献3)には、凝固末期の鋳片をロールで軽圧下し、凝固収縮に起因する濃化溶鋼の流動を抑制する方法が開示されている。軽圧下法を凝固末期の鋳片に適用することにより、中心偏析を大幅に改善することが可能である。しかし、圧下量が大きいと鋳片の内部割れや逆V偏析等が発生する。そのため、軽圧下法には、圧下量の上限に制約があるため、ポロシティーの圧着を十分に行うことができないという欠点がある。
【0008】
さらに、軽圧下法では、中心偏析の少ない鋳片の製造が可能であるものの、実操業において最適な軽圧下条件を安定して維持することは困難である。そのため、鋳片が成品となるまでの間に厳しい加工を受ける場合や、わずかな偏析も問題とされるような場合には、軽圧下法では対応できない。また、軽圧下法を適用した鋳片では、鋳片の横断面中心部を負偏析状態とした場合のように、鋳片の横断面中心部への圧延の浸透性を高め、熱間加工性や冷間加工性を大幅に改善することはできない。
【0009】
特開昭61−132247号公報(特許文献4)には、中心偏析の発生を抑制する方法として、凝固末期の鋳片を、ロールまたは金型によって大圧下する方法が開示されている。鋳片を大圧下することにより、中心偏析の改善や、濃化溶鋼を絞り出して鋳片の横断面中心部に負偏析を生じさせることができる。しかしながら、鋳片を大圧下する場合、圧下条件によっては鋳片に内部割れが発生したり、著しい偏析が生じたりして、逆に鋳片の内部品質を低下させることとなる。著しい偏析は、濃化溶鋼の絞り出しが不完全である場合に、鋳片の横断面中心部に濃化溶鋼が捕捉されることにより生じる。
【0010】
特開2009−279652号公報(特許文献5)には、内部品質の良好な鋳片を得る方法として、凝固後の鋳片をロールで圧下する方法が開示されている。この方法は、連続鋳造機で鋳造された鋳片の内部割れを防止しながら圧下し、鋳片の中央部に発生したポロシティーの個数および最大径をともに減少させる方法であり、内部品質の良好な鋳片をコンパクトな設備によって製造することが可能であるとされている。
【0011】
特許文献5に記載の方法では、ロールで鋳片を圧下する際の鋳片の温度が規定されている。しかし、鋳片の化学組成やサイズ、鋳造速度によっては、この規定する温度を満足することができないことがある。また、この方法では、鋳片の圧下幅を鋳片の幅の5%以上40%以下の範囲と規定している。しかし、鋳片の幅が広い場合には、鋳片の厚み方向中心部で空孔が発生する部分の鋳片の幅方向の範囲が、鋳片の幅の80%にもなる場合があり、このような場合には、圧下幅を40%以下としたのではポロシティーを完全に解消することができず、ポロシティーが残存した部分と解消された部分とで鋳片の品質が異なることとなる。また、圧下幅を40%以下とすると、圧下部で鋳片の表面に凹みが生じ、後工程の圧延時に圧下部と非圧下部との境界で表面割れが発生する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.本発明を完成させるために行った検討の内容
特許文献1〜5で提案されている方法のほかに、中心偏析を低減する方法として、デンドライトの均一成長が挙げられる。デンドライトの成長は、鋳型への抜熱や2次冷却帯における冷却、鋳片の未凝固部における溶鋼の流動の影響を受ける。このため、鋳造条件や溶鋼流動の最適化によってデンドライトを均一成長させる取り組みがなされてきた。しかし、必ずしも所望の結果が得られていない。
【0019】
これは、連続鋳造機内において鋳型に注入される溶鋼の温度が一定ではないこと、この溶鋼温度の変動に依存して鋳造速度が変動すること、鋳造の進行とともに浸漬ノズルの閉塞が進行して鋳型内での溶鋼の流動状態が変動すること、鋼種によって鋳造条件が異なることに起因する。
【0020】
また、これらの要因に起因して、連続鋳造される鋳片の最終凝固位置も変動する。特に、最終凝固位置の鋳片幅方向の位置が鋳造中に変動すると、これに伴って中心偏析の状態も鋳片幅方向で鋳造中に変動する。このような変動が生じると、鋳片の品質が一定とならないため、最終製品の品質も安定しないこととなる。
【0021】
このような傾向は、特に鋳片の厚みの大きい極厚鋳片で顕著である。最終製品において品質が安定せず、これに起因して機械的特性の一つである靭性も安定せず、製品中に靭性が良好なものと劣悪なものとが混在した場合には、製品全体の靭性値は劣悪なものの値が採用される。
【0022】
また、鋳片の厚み方向中心部では、冷却速度が小さいことから、凝固組織および結晶粒が粗大化しやすい。このほかに、上述の偏析により、溶質元素の濃度が上昇すると、固相線温度および相変態温度が低下するため、結晶粒の粗大化が促進される。この結果、この鋳片を素材とする鋼板等の最終製品は機械的特性が劣ることとなる。
【0023】
本発明者らは、内部品質および表面性状の良好な連続鋳造鋳片を得るため、鋳型としてキャビティーの横断面形状が幅方向の中央部で厚み方向に広がった凹状領域を備えるもの(以下「凹鋳型」ともいう。後述する
図1参照。)を用いること、および偏析した溶質元素の拡散(以下「偏析の拡散」ともいう。)を図ることを検討した。
【0024】
このような形状の鋳型を使用した場合に、内部品質の劣化をもたらす中心偏析の発生位置を特定することができれば、中心偏析が発生する領域の凝固が完了した後にこの発生位置で鋳片を圧下して中心偏析の厚みを減少させることができる。このとき、鋳片の内部は高温であるため、厚みの減少した中心偏析の拡散が進行し、中心偏析を低減することができる。
【0025】
偏析の拡散促進効果については、下記(1)式で定義されるフーリエ数Frで評価することができる。このフーリエ数Frは無次元数であり、フーリエ数Frが大きいほど拡散の効果が大きい。(1)式に基づいて、操業中の変更可能な因子の変更が拡散にもたらす効果について以下の通り検討した。
Fr=D(T)×t/λ
2 …(1)
ここで、D(T):拡散係数[cm
2/s]、t:時間[s]、λ:拡散距離[cm]である。このうち、拡散係数D(T)は温度T[K]の関数であり、一般に温度が高いほど大きくなる。
【0026】
フーリエ数Frを増大させるには、拡散距離λを低減させるか、拡散係数Dまたは拡散時間tを増大させる必要がある。拡散距離λは、連続鋳造鋳片で観察される中心偏析の領域の長さ(幅方向および厚み方向の両方)に相当し、この値の制御は困難である。
【0027】
拡散係数D(T)は、温度が高いほど大きな値となる。そのため、鋳片の温度を高めることにより、フーリエ数Frも大きくなり、偏析の拡散を促進することができる。これは、操業においては加熱炉の温度を高めることに相当する。しかし、通常の操業での加熱炉の温度は1200℃程度であり、これ以上に温度を高めることは、コストの大幅な増加をもたらすのみならず、スケールの発生量の増加に伴う歩留りの低下や、鋳片の表面性状の劣化に伴う鋳片圧延後の鋼板の表面性状の圧下をももたらす。そのため、鋳片の温度を高めることにより、偏析の拡散を促進することは事実上困難である。
【0028】
拡散時間tを大きくすると、フーリエ数Frが大きくなり、偏析の拡散を促進することができる。これは、操業においては加熱炉内への鋳片の装入時間を延長することに相当する。通常の当該装入時間を数時間と仮定すると、Mn等の溶質元素の偏析を解消するには、その数倍の時間を要すると試算される。現状の操業でこのような装入時間の延長を行うと、生産効率が大幅に低下することとなるため、拡散時間tを大きくすることも事実上困難である。
【0029】
このように、拡散距離λ、拡散係数Dまたは拡散時間tの制御により、フーリエ数Frを増大させるのは困難である。
【0030】
そこで、本発明者らは、フーリエ数Frを定義する上記(1)式の拡散距離λを物理的に小さくすることを検討した。その結果、上記凹鋳型で鋳片を連続鋳造し、その鋳片の幅方向中央で凸状に膨張した凸状領域を、鋳片の凝固が完了した直後に圧下すればよいことを知見した。鋳片幅方向中央の凸状領域を圧下することにより、拡散距離λを物理的に小さくすることができ、鋳片の凝固完了直後では鋳片の厚み方向中心部の温度は1400℃近傍の高温であり、拡散係数D(T)も大きい。そのため、これらの相乗効果により、フーリエ数Frを大きくすることができ、偏析を大幅に低減できることができる。
【0031】
本発明の鋳片の連続鋳造方法は、この知見に基づいて完成されたものであり、概略として以下の(1)および(2)に示す要件を満たす。また、本発明の連続鋳造鋳片は、本発明の連続鋳造方法によって鋳造されたものであり、(3)に示す要件を満たすことが好ましい。以下の説明で各元素の含有量の単位「%」は、「質量%」を意味する。
【0032】
(1)鋳型として、キャビティーの横断面形状が幅方向中央部で厚み方向に広がった凹状領域を備えるもの(凹鋳型)を用いる。
(2)鋳型から引き出された鋳片を、鋳片の厚み方向中心部まで完全に凝固した後、厚み方向に圧下する。
(3)連続鋳造鋳片の好ましい化学組成は、C:0.02〜0.20%、Si:0.005〜2.0%、Mn:0.2〜5.0%、P:0.02%以下、S:0.0005〜0.03%、Al:0.0005〜2.0%、N:0.002〜0.010%、およびO:0.0001〜0.015%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる。
【0033】
2.本発明の鋳片の連続鋳造方法の各要件の規定理由
本発明のスラブの連続鋳造方法を上述の通り規定した理由について説明する。
【0034】
(1)本発明の鋳片の連続鋳造方法では凹鋳型を用いるため、鋳片は幅方向中央に凸状領域を有する形状(以下「凸形状」という。)となる。連続鋳造鋳片の内部で中心偏析やポロシティーが問題となるのは、鋳片厚み方向の中心部であり、特に鋳片幅方向の中央部における厚み方向の中心部である。鋳片を凸形状とすることにより、圧下を施した際の鋳片幅方向中央部の圧下量が大きくなり、中心偏析の厚みを小さくすることができるとともに、ポロシティーを圧着することができる。中心偏析の厚みを小さくすることにより、拡散距離λが小さくなるため、上記(1)式からフーリエ数Frを小さくすることができ、溶質元素の拡散を促進し、中心偏析を低減することができる。
【0035】
図1は、鋳型キャビティーの横断面の形状を示す図であり、
図1(a)は凹状領域が平滑部を有するもの、
図1(b)は凹状領域の輪郭が直線からなり、中央に近いほど厚み方向に広がったもの、
図1(c)は凹状領域の輪郭が曲線からなり、中央に近いほど厚み方向に広がったものを示す。
【0036】
鋳型は、キャビティーの横断面形状が、幅方向の中央部の凹状領域1と、その両側の両端領域2とからなる。凹状領域1は、両端領域2よりも厚み方向に広がっている。両端領域2は、厚みが一定である。鋳型のキャビティーの横断面の形状は、キャビティー幅方向の中央3を対象軸として線対称であることが好ましい。
【0037】
凹状領域1の形状は、例えば
図1(a)〜(c)に示す形状とすることができる。
図1(a)に示す凹状領域1は、厚み方向の長さが一定の平滑部1aを有する形状である。
図1(a)では、平滑部1aと両端領域2とを連結する線を直線としている。当該連結線は、鋳型本体側に凸の曲線であっても、鋳型キャビティー側に凸の曲線でもよい。この曲線は、例えば円弧とすることができる。
【0038】
図1(b)および(c)に示す凹状領域1は、それぞれ輪郭が直線または曲線からなる。
図1(c)では、凹状領域1の輪郭を構成する曲線は鋳型側に凸であり、幅方向中央では両端領域2側から伸びる曲線が滑らかに接している。凹状領域1の輪郭が曲線である場合、鋳型側に凸であっても、鋳型のキャビティー側に凸であってもよく、両端領域2側から伸びる曲線が幅方向中央で接する部分が滑らかでなくてもよい。また、両端領域2側から伸びる曲線の間に直線部、すなわち凹状領域1の中央部に厚み方向の長さが一定の平滑部を有する形状であってもよい。
【0039】
凹状領域1の輪郭が曲線である場合、鋳型のキャビティー側に凸であることが好ましい。当該曲線が鋳型のキャビティー側に凸である場合には、鋳型側に凸である場合や、凹状領域1の輪郭が直線である場合と比べて鋳片が圧下される部分における圧下量が大きく、中心偏析およびポロシティーをより低減できるからである。
【0040】
鋳型のキャビティーの横断面において、キャビティーの全幅に対して凹状領域1の占める割合は10〜80%とする。キャビティーの全幅に対して凹状領域1の占める割合が10%未満であると、鋳片の最終凝固位置で中心偏析やポロシティーが生成する部分の鋳片幅方向の長さが、鋳片に形成される凸状領域の幅よりも長く、中心偏析やポロシティーに圧下の効果が及ばない部分が存在する。
【0041】
一方、キャビティーの全幅に対して凹状領域1の占める割合が80%を超える場合、鋳片の短辺側から凝固した部分であって、圧下の必要のない部分まで圧下することとなる。そのため、圧下に必要な設備的能力が大きく、設備費が増大する。また、この場合、鋳型が、連続鋳造中に短辺を幅方向に移動させ、鋳型のキャビティーの幅を変更できるものであっても、変更可能な鋳型のキャビティーの幅の範囲が狭くなる。これらの理由から、キャビティーの全幅に対して凹状領域1の占める割合は、10〜80%とする。
【0042】
(2)本発明の鋳片の連続鋳造方法では、鋳型から引き出された鋳片を、鋳片の厚み方向中心まで完全に凝固した後、圧下する。上述の凹鋳型で鋳造された凸形状の鋳片を、完全凝固した後で圧下することにより、より確実に中心偏析の厚みを小さくするとともに、ポロシティーを圧着して低減することができる。
【0043】
ここで、鋳片の形状は、製品の品質、特に表面品質に影響を及ぼし、鋳片の形状によっては後工程の熱間圧延時に鋳片に割れが生じる原因となる。そのため、本発明の鋳片の連続鋳造方法では、鋳片の圧下量は、鋳片の凸状領域の高さ分、すなわち、凸状領域の厚さとその両端領域の厚さの差の分とすることが好ましい。凸状領域の高さ分だけ圧下することにより、圧下後の鋳片の形状を平滑にし、表面性状の良好な鋳片を得ることができるとともに、この鋳片を後工程で熱間圧延する際の割れの発生を抑制することができる。
【0044】
また、本発明の方法によれば、一般的に中心偏析が発生した部分に多くみられるMnS等の粗大な介在物の生成も抑制できるため、Mn含有率を高めた高強度鋼板の製造や、製鋼過程でのS低減量を緩和することができ、製造コストの低減も可能となる。
【0045】
ところで、特許文献5には、鋳片の圧下量が鋳片の厚みの6%を超えると、鋼種、圧下条件によっては、鋳片表面に与えた変形、すなわち圧下によって発生した鋳片表面の凹みが分解圧延時に折れ込み、最終製品の表面キズとして残存することが記載されている。
【0046】
しかし、特許文献5のように、鋳片の圧下量の上限が規制されると、鋳片を十分に圧下することができず、中心偏析やポロシティーを十分に低減することができない。また、圧下による凝固組織や結晶粒の微細化の効果も得ることができない。
【0047】
これに対して、本発明の鋳片の連続鋳造方法では、鋳片の圧下量に制約はない。そのため、内部品質が良好であり、かつ所望の凝固組織の鋳片を得ることができる。
【0048】
(3)本発明の連続鋳造鋳片は、上記の連続鋳造方法によって鋳造される。この連続鋳造鋳片の好ましい化学組成の範囲およびその限定理由は以下の通りである。以下の説明では、鋳片の化学組成についての「質量%」を、単に「%」とも表記する。
【0049】
C:0.02〜0.20%
炭素(C)は、鋼の強度向上に寄与する元素である。極厚鋼板を大型構造物用として十分な強度にするには、C含有率を0.02%以上とする必要がある。しかし、C含有率が0.20%を超えると鋼の溶接性が劣化する。そのため、好ましいC含有率は0.02〜0.20%である。C含有率のさらに好ましい下限は0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。C含有率のさらに好ましい上限は0.18%であり、さらに好ましくは0.16%である。
【0050】
Si:0.005〜2.0%
ケイ素(Si)は、鋼の曲げ性をさほど劣化させることなく強度の向上に寄与する元素である。しかし、Si含有率が2.0%を超えると、化成処理性が低下する。そのため、好ましいSi含有率は0.005〜2.0%である。Si含有率のさらに好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%である。Si含有率のさらに好ましい上限は1.8%であり、さらに好ましくは1.6%である。
であると、
【0051】
Mn:0.2〜5.0%
マンガン(Mn)は、鋼の強度向上に寄与する元素である。圧鋼板を機械構造物用として十分な強度にするには、Mn含有率を0.2%以上とする必要がある。しかし、Mn含有率が5.0%を超えると、製造コストが上昇する。そのため、好ましいMn含有率は0.2〜5.0%である。Mn含有率のさらに好ましい下限は0.3%であり、さらに好ましくは0.4%である。Mn含有率のさらに好ましい上限は3.5%であり、さらに好ましくは3.0%である。
【0052】
P:0.02%以下
リン(P)は、一般には鋼に不可避的に含有される不純物である。しかし、固溶強化元素でもあり、鋼板の強化に有効であるため、積極的に含有させても構わない。しかし、P含有率が0.02%を超えると靭性が劣化する。そのため、好ましいP含有率は0.02%以下である。P含有率のさらに好ましい上限は0.01%であり、さらに好ましくは0.005%である。
【0053】
S:0.0005〜0.03%
硫黄(S)は、鋼に不可避的に含有される不純物である。曲げ性および溶接性の観点からは、S含有率は低いほど好ましい。そのため、好ましいS含有率は0.0005〜0.03%である。S含有率のさらに好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.0015%である。S含有率のさらに好ましい上限は0.01%であり、さらに好ましくは0.005%である。
【0054】
Al:0.0005〜2.0%
アルミニウム(Al)は、鋼を脱酸させるために添加される元素である。Alは、Ti等の炭窒化物形成元素の歩留りを向上させるのに有効な元素である。しかし、Al含有率が2.0%を超えると、酸化物系介在物のサイズが大きくなるため、鋼板の表面性状が劣化する。そのため、好ましいAl含有率は0.0005〜2.0%である。Al含有率のさらに好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.01%である。Al含有率のさらに好ましい上限は1.0%であり、さらに好ましくは0.5%である。
【0055】
N:0.002〜0.010%
窒素(N)は、鋼に不可避的に含有される不純物である。鋼板の曲げ性の観点からは、N含有率は低いほど好ましい。一方、窒化物を活用するにはN含有率を0.002%以上とする必要がある。そのため、好ましいN含有率は0.002〜0.010%である。N含有率のさらに好ましい下限は0.003%であり、さらに好ましくは0.004%である。N含有率のさらに好ましい上限は0.008%であり、さらに好ましくは0.006%である。
【0056】
O:0.0001〜0.015%
酸素(O)は、鋼に不可避的に含有される不純物である。Oは鋼中に粗大な介在物を形成して鋼の靭性を低下させるため、O含有率は低いほど好ましい。一方、酸化物を活用するにはO含有率を0.0001%以上とする必要がある。そのため、好ましいO含有率は0.0001〜0.015%である。O含有率のさらに好ましい下限は0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。O含有率のさらに好ましい上限は0.010%であり、さらに好ましくは0.008%である。
【0057】
以上の元素以外の残部は、Feおよび不純物である。ここで、「不純物」とは、鋼材の工業的生産において原料たる鉱石やスクラップ、および製造設備からの溶出成分等から混入するものであり、鋼の性能に悪影響を及ぼさない範囲のものをいう。
【実施例】
【0058】
本発明の鋼の連続鋳造方法の効果を確認するため、以下の連続鋳造試験を行い、その結果を評価した。
【0059】
1.試験条件
連続鋳造には、表1に示す化学組成に調製された溶鋼を用いた。試験番号1〜8のいずれも、本発明の好ましい化学成分の範囲内である。タンディッシュ内での溶鋼の温度は1570℃とした。鋳片の鋳造速度は1.2m/minとした。
【0060】
【表1】
【0061】
試験番号1〜6では、鋳型として本発明で規定する凹鋳型を用いた。鋳型のキャビティーの横断面の形状は、試験番号1および4では前記
図1(b)に示す形状、すなわち凹状領域の輪郭が直線からなり、中央に近いほど厚み方向に広がった形状とした。試験番号2、3および6では前記
図1(c)に示す形状の凹状領域の中央に平滑部を設けた形状、すなわち中央部に厚み方向の長さが一定の平滑部を有し、平滑部と両端領域の連結線を鋳型側に凸の円弧とした形状とした。試験番号5では前記
図1(a)に示す形状、すなわち中央部に厚み方向の長さが一定の平滑部を有し、平滑部と両端領域の連結線を直線とした形状とした。キャビティーの横断面の凹状領域は厚さを250mmとし、両端領域は厚さを200mm(凹状領域の最大厚さの80%)とした。キャビティーの全幅(1400mm)に対して凹状領域の占める割合は、表2に示すように20%、50%または70%とした。また、試験番号2、3、5および6では、キャビティーの全幅に対して平滑部の占める割合は、表2に示すように15〜60%とした。試験番号7および8では、キャビティーの横断面の形状は幅1400mm、厚さ200mmまたは250mmの矩形とした。
【0062】
【表2】
【0063】
試験番号1〜6では、鋳片が厚み方向中心部まで完全に凝固した後、表面温度が750〜1350℃の状態で、圧下後の厚さが200mmとなるように鋳片の凸状領域の圧下量を50mmとして圧下した。圧下ロールは、直径が500mmで一定のフラットロールを用いた。試験番号1〜6は、本発明の規定を満足する本発明例である。
【0064】
試験番号7では鋳片の圧下を行わなかった。試験番号8では、鋳片が厚み方向中心部まで完全に凝固した後、凸形状の圧下ロールを用いて圧下量を50mmとした圧下した。凸形状の圧下ロールとは、ロールの幅方向中央部の直径がその両側の部分よりも大きい形状である。試験番号8に使用したロールは、中央部の直径を600mm、その両側の部分の直径を500mmとした。また、中央部の幅方向の長さを鋳片の幅の30%とした。試験番号7および8は、鋳型の形状が本発明の規定を満たさない比較例である。
【0065】
2.評価項目と評価方法
各試験の評価は、得られた鋳片のポロシティーの大きさ、中心偏析の状態、および表面割れの有無に基づいて行った。
【0066】
ポロシティーの大きさの測定は、各試験によって得られた鋳片の幅方向中央部の厚み方向中心部から採取した幅50mm、長さ50mmの試料を用いて行った。試料は、観察面をエメリー・ペーパーおよび研磨材(粒径が6μmおよび1μmのダイヤモンドの砥粒)を順に使用して研磨した。研磨した観察面を倍率が25倍の光学顕微鏡で観察し、ポロシティー径の測定を行った。測定したポロシティー径は、円相当直径である。試験番号7(比較例)のポロシティー径を基準とした各試験番号のポロシティー径を「ポロシティー径比」と定義し、評価に用いた。
【0067】
中心偏析の測定は、各試験によって得られた鋳片の横断面から採取した、鋳片幅方向の長さが50mm、鋳片厚さ方向の長さが100mmの試料を用いて行った。測定対象とする溶質元素はMnとした。EPMA(電子線マイクロアナライザ)を用い、ビーム径を50μmとして線分析を行って、試料中のMn濃度分布を測定し、測定範囲でのMn濃度の最大値を求めた。このMn濃度の最大値を溶鋼段階での化学分析により測定したMnの初期含有率で割った値を「偏析比」とした。この偏析比が1.0〜1.1である部分を中心偏析が生じた部分とみなし、この部分の鋳片厚さ方向の長さを偏析厚とした。試験番号7(比較例)の偏析厚を基準とした各試験番号の偏析厚の値を「偏析指数」と定義し、評価に用いた。
【0068】
表面割れの有無の判断は、圧下後の鋳片をさらに熱間圧延した後で、表面を目視で観察することにより行った。熱間圧延には、直径600mmのロールを使用し、鋳片を1200℃に加熱した状態で圧延を行った。
【0069】
3.試験結果
表2には試験結果として、試験条件と併せて、偏析指数、ポロシティー径比および表面割れの結果を示した。
【0070】
本発明例である試験番号1〜6の鋳片は、偏析指数が0.6以下、ポロシティー径比が0.6以下といずれも良好な値であり、熱間圧延後の表面割れも皆無であった。この結果から、本発明の鋳片の連続鋳造方法によれば、内部品質、表面性状とも良好な鋳片の製造が可能であることがわかる。
【0071】
比較例である試験番号7では、中炭素鋼の鋳片を矩形鋳型で鋳造した。この鋳片は、熱間圧延後の表面割れは観察されなかったものの、偏析指数およびポロシティー径比が本発明例と比べて大きかった。
【0072】
比較例である試験番号8では、低炭素鋼の鋳片を矩形鋳型で鋳造し、凝固完了後に凸形状の圧下ロールを用いて圧下した。凸形状の圧下ロールを用いた圧下により、鋳型として本発明で規定する凹鋳型を用いた場合と同様に、偏析指数およびポロシティー径比をいずれも1未満の試験番号7よりも良好な値とすることができた。しかし、熱間圧延時に発生した表面割れが観察された。
【0073】
本発明例である試験番号1〜6について詳細に検討すると、キャビティーの全幅に対して凹状領域の占める割合が大きいほど、偏析指数およびポロシティー径比が小さい。同様に、キャビティーの全幅に対して平滑部の占める割合が大きいほど、偏析指数およびポロシティー径比が小さい。これは、凹状領域の割合または平滑部の割合が大きいほど、鋳片の圧下される面における圧下される部分の割合が大きいためである。中心偏析が広い範囲で高温状態で圧下され、溶質元素が拡散することにより、偏析が低減される。ポロシティーも圧下されることにより、小さくなる。