特許第6369129号(P6369129)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369129
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】アンモニア吸蔵放出装置
(51)【国際特許分類】
   C01C 1/02 20060101AFI20180730BHJP
   F17C 11/00 20060101ALI20180730BHJP
   B01J 20/04 20060101ALI20180730BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20180730BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20180730BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   C01C1/02 Z
   F17C11/00 B
   B01J20/04 A
   B01J20/34 H
   F01N3/08 B
   B01D53/94 222
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-107194(P2014-107194)
(22)【出願日】2014年5月23日
(65)【公開番号】特開2015-221741(P2015-221741A)
(43)【公開日】2015年12月10日
【審査請求日】2016年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 照明
(72)【発明者】
【氏名】河村 清美
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−513673(JP,A)
【文献】 特開2002−326810(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/023841(WO,A1)
【文献】 特開2012−082291(JP,A)
【文献】 特表2008−508186(JP,A)
【文献】 特開2012−047156(JP,A)
【文献】 特表2008−546968(JP,A)
【文献】 米国特許第03347626(US,A)
【文献】 実開昭58−007837(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01C1/00−3/20
F17C
B01J20/00−20/34
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを吸蔵し、吸蔵したアンモニアを加熱により放出するアンモニア吸蔵材の層と、第1多孔質部材とが積層された積層体と、前記積層体から所定の間隔を空けて配置され、前記アンモニアを拡散する第2多孔質部材と、を備え、
前記アンモニア吸蔵材は塩化マグネシウム水和物を含み、前記塩化マグネシウム水和物の水和数は0.8〜6の範囲であることを特徴とするアンモニア吸蔵放出装置。
【請求項2】
前記塩化マグネシウム水和物の水和数は1.8〜3.5の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア吸蔵放出装置。
【請求項3】
前記アンモニア吸蔵材から放出されるアンモニアが、内燃機関から排出される排気ガス中のNOxを還元するための還元剤として使用されることを特徴とする請求項1又は2記載のアンモニア吸蔵放出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア吸蔵材を備えるアンモニア吸蔵放出装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関が排出する排気ガス中のNOx(窒素酸化物)を尿素水(AdBlue(登録商標:32.5%尿素水)を加水分解して生成したアンモニアで選択的に還元する尿素SCRシステムが知られている。しかし、このシステムでは−11℃になると尿素水が凍結すること、また、条件によっては、排気管内に中間生成物であるイソシアン酸が堆積するという問題がある。そこで、アンモニアを吸蔵したアンモニア吸蔵材を加熱してアンモニアを放出させるアンモニア吸蔵放出装置が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1及び2には、アンモニア吸蔵材として塩化マグネシウムを用いたアンモニア吸蔵放出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−326810号公報
【特許文献2】特表2008−508186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、アンモニア吸蔵材として塩化マグネシウムを用いたアンモニア吸蔵放出装置において、アンモニア吸蔵材のアンモニア吸蔵量の増加及びアンモニア放出温度の低温化を可能とするアンモニア吸蔵放出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアンモニア吸蔵放出装置は、アンモニアを吸蔵し、吸蔵したアンモニアを加熱により放出するアンモニア吸蔵材の層と、第1多孔質部材とが積層された積層体と、前記積層体から所定の間隔を空けて配置され、前記アンモニアを拡散する第2多孔質部材と、を備え、前記アンモニア吸蔵材は塩化マグネシウム水和物を含み、前記塩化マグネシウム水和物の水和数は0.8〜6の範囲である。
【0007】
また、前記アンモニア吸蔵放出装置において、前記塩化マグネシウム水和物の水和数は1.8〜3.5の範囲であることが好ましい。
【0008】
また、前記アンモニア吸蔵放出装置において、前記アンモニア吸蔵材から放出されるアンモニアが、内燃機関から排出される排気ガス中のNOxを還元するための還元剤として使用されることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アンモニア吸蔵材のアンモニア吸蔵量の増加及びアンモニア放出温度の低温化を可能とするアンモニア吸蔵放出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係るアンモニア吸蔵放出装置の構成の一例を示す模式断面図である。
図2】本実施形態に係るアンモニア吸蔵放出装置の構成の他の一例を示す模式断面図である。
図3】アンモニア吸蔵放出装置を備える選択的触媒還元システムの一例を示すブロック図である。
図4】試料1〜8のアンモニア吸蔵量を比較した図である。
図5】試料1〜8の重量当たりのアンモニア吸蔵量を比較した図である。
図6】試料1〜8におけるアンモニア放出の平衡状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本実施形態に係るアンモニア吸蔵放出装置の構成の一例を示す模式断面図である。図1に示すように、アンモニア吸蔵放出装置1は、アンモニア吸蔵材10が充填されたアンモニア吸蔵タンク12と、アンモニア吸蔵タンク12にアンモニアを導入するアンモニア導入管14と、アンモニア吸蔵タンク12から外部へアンモニアを導出するアンモニア導出管16と、アンモニア吸蔵タンク12に設置され、アンモニア吸蔵材10を加熱する加熱装置18と、を備えている。アンモニア導入管14及びアンモニア導出管16には、開閉弁20,22が設けられている。
【0013】
加熱装置18は、アンモニア吸蔵タンク12内のアンモニア吸蔵材10を加熱するためのものであり、例えば、ヒータ、加熱ジャケット、加熱媒体が流通する熱交換器等が挙げられる。本実施形態の加熱装置18は、アンモニア吸蔵タンク12の外周に設置されているが、これに制限されるものではなく、アンモニア吸蔵タンク12内に設置されていてもよい。
【0014】
アンモニア吸蔵タンク12内には、アンモニア吸蔵材10が充填されている。一般的に、アンモニア吸蔵材10はアンモニアを吸蔵した時に体積が増大するため、アンモニア吸蔵タンク12の内容積の80〜90%の充填量とすることが望ましい。また、本実施形態では、アンモニア吸蔵材10が充填されたアンモニア吸蔵タンク12内の空間に多孔質部材24が設置されている。多孔質部材24は、例えばシート状のステンレス製金属繊維等である。
【0015】
本実施形態のアンモニア吸蔵材10としては、塩化マグネシウム水和物が使用される。塩化マグネシウム水和物は、アンモニアを吸蔵し、加熱によりアンモニアを放出する特性を有するものである。本発明者らは、塩化マグネシウム水和物の水和数の増加に伴い、アンモニア吸蔵量が増加する一方、アンモニア吸蔵量を塩化マグネシウム水和物の重量当たりのアンモニア吸蔵量でみると、塩化マグネシウム水和物の水和数に対して単調増加ではなく、塩化マグネシウム水和物の水分量の重量増加等に起因して、水和数の最適値が存在することを見出した。所定容積を有するタンク等に充填されるアンモニア吸蔵材では、アンモニア吸蔵材の重量当たりのアンモニア吸蔵量を増加させることが重要である。さらに、本発明者らは、塩化マグネシウム水和物の水和数の増加により、塩化マグネシウム水和物がアンモニアを放出する温度(アンモニア放出温度)が低温化することも同時に見出した。
【0016】
そして、本発明者らによる鋭意検討の結果、水和数が0.8〜6の範囲の塩化マグネシウム水和物(すなわち、MgCl・0.8HO〜6HO)を使用することにより、塩化マグネシウム水和物の重量当たりのアンモニア吸蔵量の増加、及び塩化マグネシウム水和物からアンモニアが放出される温度(アンモニア放出温度)の低温化が可能となった。特に、塩化マグネシウム水和物の重量当たりのアンモニア吸蔵量を増加させる点で、水和数が1.8〜3.5の範囲の塩化マグネシウム水和物(すなわち、MgCl・1.8HO〜3.5HO)を使用することが好ましい。
【0017】
本実施形態の塩化マグネシウム水和物の水和数の調製方法は、特に制限されるものではないが、例えば、塩化マグネシウム無水物を所定時間加湿したり、塩化マグネシウム6水和物を真空場で所定時間及び所定温度で加熱して脱水したりする方法等が挙げられる。塩化マグネシウムは、一般的に無水物と6水和物が市販されているが、無水物より6水和物の方が安価であるため、水和数の調製は、塩化マグネシウム6水和物を脱水する方法が望ましい。
【0018】
次に、本実施形態に係るアンモニア吸蔵放出装置1の動作の一例について説明する。
【0019】
開閉弁20を開放することによって、アンモニアが、アンモニア導入管14からアンモニア吸蔵タンク12に供給される。アンモニア吸蔵タンク12内に供給されたアンモニアは、多孔質部材24により拡散された後、アンモニア吸蔵材10に吸蔵される。アンモニアの吸蔵は発熱反応であるため、アンモニア吸蔵時の発熱によるアンモニア吸蔵材10の温度上昇を抑えるために、例えば、アンモニア吸蔵タンク12に冷却装置を設置して、アンモニア吸蔵材10を冷却しながら(例えば、5℃〜10℃の範囲)、アンモニアの吸蔵を行うことが望ましい。これにより、アンモニアをアンモニア吸蔵材10に効率的に吸蔵させることが可能となる。そして、アンモニア吸蔵材10に吸蔵されるアンモニアの量が飽和量に達したら、開閉弁20を閉じて、アンモニア吸蔵タンク12へのアンモニア供給を終了する。本実施形態では、アンモニア吸蔵材10として、水和数0.8〜6の塩化マグネシウム水和物(MgCl・0.8HO〜6HO)を使用しているため、塩化マグネシウム無水物、水和数0.8未満の塩化マグネシウム水和物より多くのアンモニアを吸蔵することが可能となる。その結果、アンモニア吸蔵材10からのアンモニア放出量を増加させることができる。
【0020】
アンモニア吸蔵材10に吸蔵させたアンモニアを放出するときは、開閉弁22を開放し、加熱装置18の電源をONして、アンモニア吸蔵材10を加熱する。加熱されたアンモニア吸蔵材10の温度が、アンモニア放出温度に達すると、アンモニア吸蔵材10からアンモニアが放出される。放出されたアンモニアは、アンモニア吸蔵タンク12からアンモニア導出管16を通り、例えばNOxの浄化に利用される。
【0021】
本実施形態では、アンモニア吸蔵材10として、水和数が0.8〜6の範囲の塩化マグネシウム水和物を使用しているため、塩化マグネシウム無水物より低い温度でアンモニアを放出させることができる。その結果、アンモニア放出時に作動させる加熱装置18の消費電力を低減させることができる。塩化マグネシウム無水物をアンモニア吸蔵材として使用する場合、アンモニア放出圧(使用圧力)を0.3MPa・G〜0.8MPa・Gの範囲とすると、例えば160℃〜190℃まで塩化マグネシウム無水物を加熱しなければ、アンモニアの放出は起こらないが、本実施形態の塩化マグネシウム水和物では、例えば20℃〜50℃の加熱温度で、アンモニアを放出させることが可能となる。なお、アンモニア放出温度が外気温とほとんど変わらない場合でも、アンモニア吸蔵材10からのアンモニア放出は吸熱反応であるため、加熱装置18によってアンモニア吸蔵材10を加熱することが望ましい。
【0022】
本実施形態では、上記の水和数を有する塩化マグネシウム水和物のみをアンモニア吸蔵材10としてアンモニア吸蔵タンク12に充填する場合に限られず、上記の水和数を有する塩化マグネシウム水和物とそれ以外のアンモニア吸蔵材(例えば、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム等)との混合物を本実施形態のアンモニア吸蔵材10としてアンモニア吸蔵タンク12に充填してもよい。塩化マグネシウム水和物とその他のアンモニア吸蔵材との混合比は、アンモニア吸蔵量の増加、アンモニア放出温度の低温化等の点から、例えば、塩化マグネシウム水和物:その他のアンモニア吸蔵材の比で、50:50〜70:30の範囲であることが好ましい。
【0023】
また、本実施形態では、塩化マグネシウム水和物を含むアンモニア吸蔵材10を粉末状態でアンモニア吸蔵タンク12に充填する場合、例えば、伝熱面積を大きくするために、アンモニア吸蔵タンク12内にハニカム状の金属支持体(不図示)等を設置し、その支持体内に形成される空孔にアンモニア吸蔵材10の粉末を充填することが望ましい。
【0024】
図2は本実施形態に係るアンモニア吸蔵放出装置の構成の他の一例を示す模式断面図である。図2に示すアンモニア吸蔵放出装置2において、図1に示すアンモニア吸蔵放出装置1と同様の構成について同一の符号を付し、その説明を省略する。図2に示すアンモニア吸蔵放出装置2では、前述の塩化マグネシウム水和物を含むアンモニア吸蔵材10を圧縮成形した層26と、アンモニア吸蔵材10を圧縮成形した層26間に配置される多孔質部材24と、を備える成形体がアンモニア吸蔵タンク12に充填されている。このように、アンモニア吸蔵材10を圧縮成形した方が、粉末状態より、アンモニア吸蔵タンク12への充填率が向上するため、アンモニア吸蔵量を増加させることが可能となる。なお、本実施形態の成形体は、アンモニア吸蔵材10を圧縮成形した層26のみから構成されていてもよい。また、アンモニア吸蔵材10を圧縮成形した層26は、タンクの大きさにもよるが、例えば、1層〜10層の範囲とすることが好ましい。
【0025】
図3は、アンモニア吸蔵放出装置を備える選択的触媒還元システムの一例を示すブロック図である。図3に示す選択的触媒還元システム3は、内燃機関としてのディーゼルエンジン30の排気系32上に設けられた酸化触媒コンバータ34と、排気系32における酸化触媒コンバータ34の下流側に設けられたSCR触媒コンバータ36と、SCR触媒コンバータ36の下流側に設けられたスリップ触媒コンバータ38と、排気系32における酸化触媒コンバータ34とSCR触媒コンバータ36との間にアンモニアを注入するアンモニア注入装置40と、アンモニア注入装置40に接続されたアンモニア吸蔵放出装置42と、を備える。
【0026】
アンモニア吸蔵放出装置42は、アンモニア注入装置40にアンモニアを供給する機能を有し、例えば図1及び図2に示すアンモニア吸蔵放出装置(1,2)が使用される。なお、アンモニア吸蔵タンク12は、アンモニア導出管16を介してアンモニア注入装置40に接続されている。
【0027】
酸化触媒コンバータ34は、ディーゼルエンジン30の排気ガスに含まれる炭化水素とCOとを水とCOとに、また、NOをNOに酸化する機能を有する。
【0028】
アンモニア注入装置40は、酸化触媒コンバータ34で酸化された排気ガスにアンモニアを注入する機能を有する。
【0029】
SCR触媒コンバータ36は、アンモニア注入装置40によって注入されたアンモニアによって排気ガス中のNOxを窒素ガスと水とに還元する機能を有する。
【0030】
スリップ触媒コンバータ38は、SCR触媒コンバータ36から排気ガスと共にアンモニアが排出された場合に、排出されたアンモニアを酸化分解して除去する機能を有する。
【0031】
以下に選択的触媒還元システム3の作用について説明する。
【0032】
ディーゼルエンジン30から排出された排気ガスは、酸化触媒コンバータ34に導入され、排気ガス中の炭化水素とCOとが水およびCOに、NOがNOに夫々酸化される。そして、アンモニア吸蔵放出装置42から放出されたアンモニアが、アンモニア注入装置40によって、酸化触媒コンバータ34を通過した排気ガスに注入される。アンモニア及び排気ガスは、SCR触媒コンバータ36に導入され、SCR触媒コンバータ36により、排気ガス中のNOxがアンモニアによって窒素と水とに還元されて除去される。SCR触媒コンバータ36から余剰のアンモニアが排出された場合、余剰のアンモニアはスリップ触媒コンバータ38で酸化されて除去される。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
塩化マグネシウムを5g一定とし、塩化マグネシウム6水和物(和光純薬社製)を真空場で加熱して水和数を調整した試料1〜6を作製した。加熱前後の各試料の重量変化を精密天秤により測定し、各試料の塩化マグネシウム水和物の水和数を求めた。その結果、試料1は0.32(MgCl・0.32HO)、試料2は0.61(MgCl・0.61HO)、試料3は1.11(MgCl・1.11HO)、試料4は1.86(MgCl・1.86HO)、試料5は2.99(MgCl・2.99HO)、試料6は4.12(MgCl・4.12HO)であった。また、試料7として塩化マグネシウム6水和物(和光純薬社製)、試料8として塩化マグネシウム無水物(SIGMA社製)を用意した。これら試料1〜8の組成を表1にまとめた。
【0035】
【表1】
【0036】
これら試料1〜8それぞれをステンレス容器に充填し、アンモニアの供給圧力を0.3MPa・G、アンモニア供給時間を2時間に設定して、試料1〜8へのアンモニア吸蔵を実施した。アンモニア吸蔵時の発熱による温度上昇を抑えるために、ステンレス容器を冷却しながら試料1〜8へのアンモニア吸蔵を行った(なお、吸蔵終了前の約10分〜20分間の試料1〜8の温度を6℃に保持した)。そして、試料1〜8のアンモニア吸蔵量を測定した。アンモニア吸蔵量は、アンモニア吸蔵前及びアンモニア吸蔵後の各試料の重量差から算出される。
【0037】
図4は、試料1〜8のアンモニア吸蔵量を比較した図である。図4では、試料8(塩化マグネシウム無水物)のアンモニア吸蔵量を1として、試料1〜7のアンモニア吸蔵量を試料8のアンモニア吸蔵量に対する比で表した。図4に示すように、塩化マグネシウム水和物の水和数の増加に伴い、アンモニア吸蔵量が増加した。
【0038】
図5は、試料1〜8の重量当たりのアンモニア吸蔵量を比較した図である。図5では、試料8の重量当たりのアンモニア吸蔵量を1として、試料1〜7の重量当たりのアンモニア吸蔵量を試料8の重量当たりのアンモニア吸蔵量に対する比で表した。図5に示す結果から、水和数が0.8〜6の範囲、好ましくは1.8〜3.5の範囲の塩化マグネシウム水和物を使用することで、水分量の増加に伴うアンモニア吸蔵材の重量増加を抑えて、アンモニア吸蔵量を増加させることができた。
【0039】
(実施例2)
実施例1において、密閉状態にしたステンレス容器内でアンモニアを吸蔵させた試料1〜8を加熱して(昇温して)、試料1〜8からのアンモニア放出を行った。そして、試料1〜8の加熱温度(吸蔵材温度)に対する蒸気圧をステンレス容器内圧測定用のデジタル圧力計により測定した。
【0040】
図6は、試料1〜8におけるアンモニア放出の平衡状態図である。図6の平衡状態図は、試料1〜8の加熱温度に対する蒸気圧曲線として表されており、この蒸気圧はアンモニア放出圧に相当するものである。したがって、図6に示す蒸気圧曲線が左側にシフトすればするほど、低い加熱温度でアンモニアを放出させることができること、すなわちアンモニア放出温度が低温化したことを表している。
【0041】
図6に示すように、塩化マグネシウム水和物の水和数が増加するにつれて、アンモニア放出温度が低温化した。例えば、アンモニア放出圧(使用圧力)を0.5MPa・Gとすると、塩化マグネシウム無水物(試料8)では、約173℃に加熱する必要があるが、水和数0.32〜6の塩化マグネシウム水和物(試料1〜7)では、約20℃〜30℃の低温でアンモニアを放出させることができた。そして、アンモニア放出温度の低温化の点では、塩化マグネシウム水和物の水和数は0.32〜6の範囲とすることが望ましいが、前述の試料の重量当たりのアンモニア吸蔵量の増加も考慮すると、塩化マグネシウム水和物の水和数は0.8〜6の範囲とする必要があり、1.8〜3.5の範囲とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0042】
1,2 アンモニア吸蔵放出装置、3 選択的触媒還元システム、10 アンモニア吸蔵材、12 アンモニア吸蔵タンク、14 アンモニア導入管、16 アンモニア導出管、18 加熱装置、20,22 開閉弁、24 多孔質部材、26 層、30 ディーゼルエンジン、32 排気系、34 酸化触媒コンバータ、36 SCR触媒コンバータ、38 スリップ触媒コンバータ、40 アンモニア注入装置、42 アンモニア吸蔵放出装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6