特許第6369218号(P6369218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6369218架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法、および塗膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369218
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法、および塗膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 6/14 20060101AFI20180730BHJP
   C08F 2/24 20060101ALI20180730BHJP
   C08F 220/10 20060101ALI20180730BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   C08F6/14
   C08F2/24
   C08F220/10
   C09D201/00
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-167611(P2014-167611)
(22)【出願日】2014年8月20日
(65)【公開番号】特開2016-44205(P2016-44205A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000224123
【氏名又は名称】藤倉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】石本 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】谷田部 真司
【審査官】 岡山 太一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−177009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00−6/28
C08F 2/00−2/60
C08F 220/00−220/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤を用い、架橋剤の存在下、アクリル系モノマーを含む単量体成分を水中で重合して、架橋樹脂粒子が水に分散した水性ラテックスを得る重合工程と、
得られた水性ラテックスに凝集剤を添加する添加工程と、
凝集剤を添加した水性ラテックスに、さらに有機溶媒を添加して架橋樹脂粒子を水から有機溶媒に移行させる移行工程とを有する架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法であって、
前記乳化剤はカチオン系乳化剤であり、
前記凝集剤はドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ジナトリウム、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム、ジ−2−エチルへキシルスルホコハク酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上のアニオン系凝集剤であり、
前記有機溶媒は水と分離し、かつ、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、炭素数が4以上のアルコール系溶媒からなる群より選ばれる1種以上である、架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法により架橋樹脂粒子含有分散体を製造する分散体製造工程と、
得られた架橋樹脂粒子含有分散体とバインダーとを混合して塗膜形成組成物を調製する組成物調製工程と、
得られた塗膜形成組成物を用いて塗膜を形成する塗膜形成工程とを有する、塗膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法、および塗膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗膜の耐傷付き性を向上させるために、架橋したナノオーダーの樹脂粒子(以下、「架橋樹脂粒子」という。)を塗膜に含有させる場合がある。
架橋樹脂粒子は、乳化剤を用い、架橋剤の存在下、水中でモノマーを重合させた後、加熱噴霧してポリマーを粉体化することで得られる。架橋樹脂粒子を塗膜の形成に用いる際には、このポリマーを有機溶媒に分散させて分散体の状態で用いるのが一般的であった。また、粉体化したポリマーは有機溶媒に分散しにくいため、通常、乳化剤を用いてポリマーを有機溶媒に分散させていた。
【0003】
しかし、このようにして得られた分散体を用いて形成した塗膜は、耐傷付き性が必ずしも十分ではなかった。これは、架橋樹脂粒子を含有する分散体に、乳化剤や未反応のモノマーなどが不純物として含まれているためと考えられる。
【0004】
そこで、水中でモノマーを重合して水系ラテックスを得た後に、半透析膜やイオン交換樹脂などを用いて処理し、ついで、凝集剤を添加してポリマーを凝集させ、さらにヘキサン等の有機溶媒を添加することでポリマーを水から有機溶媒に移行させて、架橋樹脂粒子を含有する分散体を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、水系ラテックス中に含まれる不純物を半透析膜やイオン交換樹脂などによって強制的に除去するので、不純物の少ない分散体が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−177009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法で架橋樹脂粒子を含有する分散体を製造する場合、半透析膜やイオン交換樹脂を用いて不純物を除去するため、手間がかかった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、不純物が少ない架橋樹脂粒子含有分散体を、半透析膜やイオン交換樹脂を用いることなく簡便に製造できる方法、および該架橋樹脂粒子含有分散体を塗料やコーティング剤に用いた場合に耐傷付き性に優れた塗膜を形成できる塗膜の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 乳化剤を用い、架橋剤の存在下、アクリル系モノマーを含む単量体成分を水中で重合して、架橋樹脂粒子が水に分散した水性ラテックスを得る重合工程と、得られた水性ラテックスに凝集剤を添加する添加工程と、凝集剤を添加した水性ラテックスに、さらに有機溶媒を添加して架橋樹脂粒子を水から有機溶媒に移行させる移行工程とを有する架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法であって、前記乳化剤はアニオン系乳化剤またはカチオン系乳化剤であり、前記凝集剤は重合工程で用いる乳化剤と逆電荷であり、前記有機溶媒は水と分離し、かつ、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、炭素数が4以上のアルコール系溶媒からなる群より選ばれる1種以上である、架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法。
[2] 前記乳化剤がアニオン系乳化剤であり、前記凝集剤がドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライドからなる群より選ばれる1種以上のカチオン系凝集剤である、[1]に記載の架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法。
[3] 前記乳化剤がカチオン系乳化剤であり、前記凝集剤がドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ジナトリウム、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム、ジ−2−エチルへキシルスルホコハク酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上のアニオン系凝集剤である、[1]に記載の架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法。
[4] [1]〜[3]のいずれか1つに記載の架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法により架橋樹脂粒子含有分散体を製造する分散体製造工程と、得られた架橋樹脂粒子含有分散体とバインダーとを混合して塗膜形成組成物を調製する組成物調製工程と、得られた塗膜形成組成物を用いて塗膜を形成する塗膜形成工程とを有する、塗膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法によれば、不純物が少ない架橋樹脂粒子含有分散体を、半透析膜やイオン交換樹脂を用いることなく簡便に製造できる。
また、本発明の塗膜の製造方法によれば、本発明の架橋樹脂粒子含有分散体を塗料やコーティング剤に用いた場合に耐傷付き性に優れた塗膜を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」は、メタクリル酸およびアクリル酸の総称であり、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートおよびアクリレートの総称である。
また、以下の明細書において、「塗膜」とは、本発明の架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法により製造された架橋樹脂粒子含有分散体を用いて形成された塗膜のことである。
【0011】
[架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法]
本発明の架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法は、以下に示す重合工程と、添加工程と、移行工程とを有する。
【0012】
<重合工程>
重合工程は、乳化剤を用い、架橋剤の存在下、アクリル系モノマーを含む単量体成分を水中で重合して、架橋樹脂粒子が水に分散した水性ラテックスを得る工程である。
乳化剤としては、アニオン系乳化剤またはカチオン系乳化剤を用いる。
アニオン系乳化剤としてはアニオン系界面活性剤が挙げられ、具体的には、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩類;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ジナトリウム等のアルキル(もしくはアリール)スルホン酸塩類;ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等のアルキル(もしくはアルケニル)硫酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム等のポリオキシエチレンアルキル(もしくはアルケニル)エーテル硫酸塩類;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類;モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジ−2−エチルへキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸エステル塩、またはこれらの誘導体類などが挙げられる。これらの中でも、重合時において架橋樹脂粒子が形成されやすく、また形成された架橋樹脂粒子が水中に安定に分散するという観点から、ドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ジナトリウム、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム、ジ−2−エチルへキシルスルホコハク酸ナトリウムが好ましい。
これらアニオン系乳化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
カチオン系乳化剤としてはカチオン系界面活性剤が挙げられ、具体的には、ドデシルベンジルメチルアンモニウムクロライド等のアルキルベンジルメチルアンモニウム塩;ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド等のアルキルトリメチルアンモニウム塩;ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルンモニウムクロライド等のジアルキルジメチルアンモニウム塩;ドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライト等のアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩;などの四級アンモニウム塩が挙げられる。これらの中でも、重合時において架橋樹脂粒子が形成されやすく、また形成された架橋樹脂粒子が水中に安定に分散するという観点から、ドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライドが好ましい。
これらカチオン系乳化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
また、乳化剤としては、上述した以外にも、ビニル基などのラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤を用いてもよく、具体的には、p−ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、p−ビニルベンゼンスルホン酸リチウム、p−ビニルベンゼンスルホン酸メトキシド、p−ビニルベンゼンスルホン酸エトキシドなどが挙げられる。なお、これら反応性乳化剤は、アニオン系乳化剤である。
【0015】
乳化剤の使用量は、単量体成分および架橋剤の合計100質量部に対して、0.01〜20質量部が好ましく、0.1〜10質量部がより好ましい。乳化剤の使用量が0.01質量部以上であれば、安定して架橋樹脂粒子が形成されやすくなり、形成された架橋樹脂粒子の水中での分散性が良好となる。一方、乳化剤の使用量が20質量部以下であれば、重合時に発泡が生じにくく、生産性よく架橋樹脂粒子を形成できる。
【0016】
架橋剤としては、分子内に複数のラジカル重合性の二重結合を有するものが挙げられ、具体的には、分子中に複数のラジカル重合性の二重結合を有する(メタ)アクリル系単量体やスチレン系単量体などが挙げられる。
このような架橋剤としては、例えばトリメチロールプロパントリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、デカエチレングリコールジメタクリレート、ペンタデカエチレングリコールジメタクリレート、ペンタコンタヘプタエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレンジメタクリレート、アリルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、およびこれらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物;N,N−ジビニルアニリン;ジビニルエーテル;ジビニルサルファイド;ジビニルスルホン酸;ポリブタジエン;ポリイソプレン不飽和ポリエステルなどが挙げられる。
これら架橋剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
単量体成分および架橋剤の割合は、単量体成分:架橋剤で表される質量比が99.9:0.1〜0.1:99.9となる量が好ましく、99.0:1.0〜1.0:99.0となる量がより好ましい。架橋剤の使用量が少なすぎると、架橋が不十分となり塗膜の強度が低下する。一方、架橋剤の使用量が多すぎると、重合時に形成される架橋樹脂粒子が不安定となり、ブツとなって架橋樹脂粒子含有分散体や塗膜に現れる場合がある。
【0018】
単量体成分は、アクリル系モノマーを含む。
アクリル系モノマーとしては、単官能(メタ)アクリレートが挙げられ、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸へプチル、(メタ)アクリル酸オクチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−(n−プロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(n−ブトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−(n−プロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(n−ブトキシ)プロピル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の脂環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
これらアクリル系モノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
単量体成分は、アクリル系モノマーからなるものであってもよいが、必要に応じてアクリル系モノマー以外のモノマー(以下、「他のモノマー」という。)を含んでいてもよい。
他のモノマーとしては、アクリル系モノマーと共重合可能であれば特に制限されないが、例えば芳香族ビニルモノマー、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、アクリロニトリルなどが挙げられる。
芳香族ビニルモノマーとしては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレンなどが挙げられる。
【0020】
単量体成分の重合方法としては、媒体として水を用いた乳化重合が挙げられる。
乳化重合には、重合開始剤を用いる。重合開始剤としては、例えばペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、過酸化水素等の無機過酸化物などが挙げられる。
これら重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
重合開始剤の使用量は、単量体成分および架橋剤の合計100質量部に対して、0.05〜3.0質量部が好ましく、0.2〜2.0質量部がより好ましい。重合開始剤の使用量が0.05質量部以上であれば、水性ラテックス中の未反応のモノマーの割合を減らすことができる。一方、重合開始剤の使用量が3.0質量部以下であれば、重合開始剤が分解した分解物が不純物として残るのを抑制できる。
【0022】
重合工程により、ポリマー(架橋樹脂粒子)が水に分散した水性ラテックスが得られる。なお、重合工程で使用した乳化剤、重合開始剤、および未反応の架橋剤や単量体成分は、水中に溶解または分散している。
架橋樹脂粒子の平均粒子径は、10〜800nmが好ましく、30〜500nmがより好ましい。架橋樹脂粒子の平均粒子径が10nm以上であれば、塗膜の耐傷つき性がより高まる。一方、架橋樹脂粒子の800nm以下であれば、塗膜の外観を良好に維持できる。
ここで「平均粒子径」とは、体積基準のメジアン径のことであり、具体的にはレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定した値である。
【0023】
<添加工程>
添加工程は、重合工程で得られた水性ラテックスに凝集剤を添加する工程である。
添加工程では、重合工程で用いる乳化剤と逆電荷の凝集剤を水性ラテックスに添加する。重合工程で用いる乳化剤と逆電荷の凝集剤を水性ラテックスに添加することで、架橋樹脂粒子が凝集し、後述する移行工程において架橋樹脂粒子が水から有機溶媒に移行する。
重合工程で用いる乳化剤と同じ電荷の凝集剤を水性ラテックスに添加すると、架橋樹脂粒子が凝集しにくく、移行工程において有機溶媒に移行しにくくなる。
【0024】
凝集剤としては、重合工程でアニオン系乳化剤を用いた場合にはカチオン系凝集剤を用い、重合工程でカチオン系乳化剤を用いた場合にはアニオン系凝集剤を用いる。
カチオン系凝集剤としては、カチオン系乳化剤の説明において先に例示したカチオン系界面活性剤が挙げられる。これらの中でも、凝集性に優れる観点から、ドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライドが好ましい。
これらカチオン系凝集剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
アニオン系凝集剤としては、アニオン系乳化剤の説明において先に例示したアニオン系界面活性剤が挙げられる。これらの中でも、凝集性に優れる観点から、ドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ジナトリウム、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム、ジ−2−エチルへキシルスルホコハク酸ナトリウムが好ましい。
これらカチオン系凝集剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
凝集剤の添加量は、重合工程で用いた乳化剤100質量部に対して、10〜500質量部が好ましく、20〜400質量部がより好ましい。凝集剤の添加量が多すぎても少なすぎても架橋樹脂粒子が十分に凝集せず、移行工程において架橋樹脂粒子が水から有機溶媒に移行しにくくなる。
【0027】
<移行工程>
移行工程は、添加工程において凝集剤を添加した水性ラテックスに、さらに有機溶媒を添加して架橋樹脂粒子を水から有機溶媒に移行させる工程である。
【0028】
有機溶媒としては、水と分離し、かつエステル系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、炭素数が4以上のアルコール系溶媒からなる群より選ばれる1種以上の有機溶媒を用いる。
ここで、「水と分離する」とは、水と有機溶媒とを1:1で混合したときに、水層と有機層との境界線(界面)ができることを意味する。
【0029】
有機溶媒としては、溶解度パラメータ(SP値)が11.5(cal/cm1/2以下であるものが好ましい。溶解度パラメータ(SP値)が11.5(cal/cm1/2以下であれば、水と分離しやすい。
【0030】
エステル系溶媒としては、例えば酢酸エチル(SP値:9.1(cal/cm1/2)、酢酸−n−プロピル(SP値:8.8(cal/cm1/2)、酢酸イソプロピル(SP値:8.4(cal/cm1/2)、酢酸−n−ブチル(SP値:8.5(cal/cm1/2)、酢酸イソブチル(SP値:8.3(cal/cm1/2)、酢酸−sec−ブチル(SP値:8.2(cal/cm1/2)等の酢酸エステル;アクリル酸−n−ブチル(SP値:8.8(cal/cm1/2)、メタクリル酸メチル(SP値:8.8(cal/cm1/2)等の(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
これらエステル系溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
ケトン系溶媒としては、例えばメチルエチルケトン(SP値:9.3(cal/cm1/2)、メチルアミルケトン(SP値:8.5(cal/cm1/2)、ジエチルケトン(SP値:8.8(cal/cm1/2)、メチルイソアミルケトン(SP値:8.4(cal/cm1/2)、メチルイソブチルケトン(SP値:8.4(cal/cm1/2)、メチルイソプロピルケトン(SP値:8.5(cal/cm1/2)などが挙げられる。
これらケトン系溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
エーテル系溶媒としては、例えばエチレングリコールジエチルエーテル(SP値:8.3(cal/cm1/2)、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(SP値:9.4(cal/cm1/2)などが挙げられる。
これらエーテル系溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
アルコール系溶媒としては、例えばn−ブタノール(SP値:11.4(cal/cm1/2)、イソブタノール(SP値:10.5(cal/cm1/2)、sec−ブチルアルコール(SP値:10.8(cal/cm1/2)、ter−ブチルアルコール(SP値:10.6(cal/cm1/2)などが挙げられる。
これらアルコール系溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
ところで、脂肪族系溶媒(例えばヘキサン等)や芳香族系溶媒(例えばトルエン等)などの炭化水素系溶媒は、水と分離はするものの、極性が低い有機溶媒(以下、これらを総称して「低極性有機溶媒」という。)である。そのため、移行工程において低極性有機溶媒を用いると、架橋樹脂粒子が移行しにくい。これは、架橋樹脂粒子は表面にカルボキシ基等の極性基を有するので、低極性有機溶媒との極性に差が生じ、移行しにくくなるものと考えらえる。よって、炭化水素系溶媒などの低極性有機溶媒は、移行工程で用いる有機溶媒としては適さない。
一方、上述したエステル系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、炭素数が4以上のアルコール系溶媒は、適度に極性を有する有機溶媒であるため、架橋樹脂粒子が移行しやすい。
【0035】
有機溶媒の添加量は、重合工程で用いた水との質量比(水:有機溶媒)が、80:20〜20:80となる量が好ましく、70:30〜30:70となる量がより好ましい。有機溶媒の添加量が少なすぎると、架橋樹脂粒子が有機溶媒に十分に移行されにくくなる。一方、有機溶媒の添加量が多すぎると、後述する塗膜形成組成物を調製して塗膜を形成する際に、塗膜形成組成物中の有機溶媒の割合が多くなる。そのため、厚みのある塗膜を形成するには、塗膜形成組成物の塗布回数が増える。
【0036】
移行工程にて架橋樹脂粒子を水から有機溶媒に移行させた後は、水と有機溶媒とを分離して、架橋樹脂粒子が有機溶媒に分散した架橋樹脂粒子含有分散体を得る。
【0037】
<作用効果>
以上説明した本発明の架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法によれば、重合工程で得られた水性ラテックスに凝集剤を添加した後に、特定の有機溶媒を添加して架橋樹脂粒子を水から有機溶媒に移行させる。このとき、重合工程で使用した乳化剤、重合開始剤、および未反応の架橋剤や単量体成分は水中に溶解または分散したままであり、有機溶媒には移行しにくい。よって、不純物となる乳化剤、重合開始剤、および未反応の架橋剤や単量体成分の割合が少ない架橋樹脂粒子含有分散体が得られる。
【0038】
また、本発明では、特定の有機溶媒に架橋樹脂粒子を移行させ、不純物と架橋樹脂粒子とを分離している。よって、本発明においては、添加工程において水性ラテックスに凝集剤を添加する前に、半透析膜やイオン交換樹脂等を用いて水性ラテックスを処理する(すなわち、強制的に不純物を水性ラテックスから除去する)必要がない。
このように、本発明では、重合工程の後、半透析膜やイオン交換樹脂等を用いて水性ラテックスを処理することなく、水性ラテックスに凝集剤を添加するので、架橋樹脂粒子含有分散体を簡便に製造できる。
【0039】
本発明により得られる架橋樹脂粒子含有分散体は、乳化剤、重合開始剤、未反応の架橋剤や単量体成分などの不純物の割合が少ないので、耐傷付き性に優れた塗膜を形成できる。
【0040】
[塗膜の製造方法]
本発明の塗膜の製造方法は、以下に示す分散体製造工程と、組成物調製工程と、塗膜形成工程とを有する。
【0041】
<分散体製造工程>
分散体製造工程は、上述した本発明の架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法により、架橋樹脂粒子が有機溶媒に分散した架橋樹脂粒子含有分散体を製造する工程である。
【0042】
<組成物調製工程>
組成物調製工程は、分散体製造工程により得られた架橋樹脂粒子含有分散体と、バインダーとを混合して塗膜形成組成物を調製する工程である。
バインダーとしては、例えば、ポリスチレン、ポリ−p−クロルスチレン、ポリビニルトルエン等のスチレンまたはその置換体の単重合体;スチレン−p−クロルスチレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、スチレン−ビニルナフタリン共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−クロルメタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルエーテル共重合体、スチレン−ビニルメチルケトン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−インデン共重合体等のスチレン系共重合体などが挙げられる。
また、上述した以外にも、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂、天然変性フェノール樹脂、天然樹脂変性マレイン酸樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリアミド樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール、テルペン樹脂、クマロインデン樹脂、石油系樹脂などをバインダーとして用いることができる。
【0043】
バインダーと架橋樹脂粒子含有分散体との固形分換算での混合比は、バインダー:架橋樹脂粒子含有分散体=3.0:2.0〜6.0:1.0が好ましい。架橋樹脂粒子含有分散体の割合が少なすぎると、架橋樹脂粒子の効果が十分に得られない。一方、架橋樹脂粒子含有分散体の割合が多すぎると、塗膜が形成されにくい。バインダーと架橋樹脂粒子含有分散体との混合比が上記範囲内であれば、耐傷付き性に優れた塗膜を容易に形成できる。
【0044】
塗膜形成組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、添加剤や有機溶媒が含まれていてもよい。
添加剤としては、例えば顔料、充填剤、可塑剤、表面調整剤、分散剤、塗面調製剤、界面活性剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。
【0045】
有機溶媒としては、上述した架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法の移行工程の説明において先に例示したエステル系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、炭素数が4以上のアルコール系溶媒などが挙げられる。
組成物調製工程で用いる有機溶媒は、移行工程で用いる有機溶媒と同じ種類の溶媒であってもよいし、異なる種類の溶媒であってもよい。
また、組成物調製工程で用いる有機溶媒は、架橋樹脂粒子含有分散体とバインダーとを混合した混合物に添加してもよいし、予めバインダーに添加しておいてもよい。
組成物調製工程で用いる有機溶媒の添加量は、塗膜形成組成物が所望の固形分濃度となる量であれば特に制限されない。塗膜形成組成物の固形分濃度は、通常、20〜40質量%が好ましい。
【0046】
<塗膜形成工程>
塗膜形成工程は、組成物調製工程により得られた塗膜形成組成物を用いて塗膜を形成する工程である。
塗膜は、例えば基材上に塗膜形成組成物を塗布し、乾燥することで得られる。
【0047】
基材としては、金属基材、プラスチック基材などが挙げられる。
金属基材の材質としては、例えばアルミニウム、鉄、ニッケル、クロム、チタン、銅、銀、亜鉛、スズ、インジウム、マグネシウム、これらの酸化物、およびこれらの合金などが挙げられる。
一方、プラスチック基材の材質としては、例えばポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリカーボネート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS)、アクリル樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂、アクリル−スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などが挙げられる。
【0048】
基材の形状については特に限定されず、フィルム状、立体状のいずれでもよい。
また、塗膜との密着性を高める観点から、塗膜が形成される基材表面は、コロナ放電処理やプラズマ処理など前処理が施されていてもよい。
【0049】
基材への塗膜形成組成物の塗布方法については特に制限されず、公知の方法を採用できる。具体的には、スプレー塗装法、刷毛塗り法、ローラ塗装法、カーテンコート法、フローコート法、浸漬塗り法などにより、基材上に塗膜形成組成物を塗布する。ついで、25〜80℃で乾燥することにより、基材上に塗膜形成組成物からなる塗膜が形成された積層体が得られる。
塗膜の膜厚は、5〜50μmが好ましく、10〜40μmがより好ましい。
【0050】
基材上に塗膜が形成された積層体は、そのまま成形品として各種用途に用いることができる。例えば、基材がフィルム状のプラスチック基材の場合、積層体は光学フィルムとして用いることができる。
また、基材から塗膜を剥がし、塗膜単体を光学フィルムとして用いることもできる。
【0051】
<作用効果>
以上説明した本発明の塗膜の製造方法であれば、本発明の架橋樹脂粒子含有分散体の製造方法により得られる架橋樹脂粒子含有分散体を用いるので、耐傷付き性に優れた塗膜を形成できる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例1、3〜7は参考例である。
【0053】
[実施例1]
<架橋樹脂粒子含有分散体の製造>
フラスコに、単量体成分としてメチルメタクリレート(MMA)0.45質量部と、架橋剤としてエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)0.05質量部と、純水380質量部と、重合開始剤としてペルオキソ二硫酸カリウム(KPS)0.3質量部と、乳化剤としてアニオン系界面活性剤(ドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ジナトリウム)0.4質量部とを仕込み、さらに窒素を供給して10分間バブリングを行い、フラスコ内を脱気した。フラスコ内が75℃になるよう加温し、75℃に到達した時点でその温度を10分間維持しながら、メチルメタクリレート89.55質量部と、エチレングリコールジメタクリレート9.95質量部との混合物を1時間かけて滴下した。滴下終了後、フラスコ内の温度を75℃に維持しながら2時間撹拌して乳化重合を行い、架橋樹脂粒子が水に分散した水性ラテックス(水分散体)を得た(重合工程)。
なお、水性ラテックス中の架橋樹脂粒子の平均粒子径を、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定したところ、200nmであった。
【0054】
得られた水性ラテックスに、凝集剤としてカチオン系界面活性剤(ドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド)0.9質量部を添加した(添加工程)。
ついで、撹拌下で有機溶媒として酢酸ブチル340質量部を添加し、2時間撹拌し、架橋樹脂粒子を水層から有機層へ移行させた(移行工程)。
その後、静置し、透明な水層と白濁した有機層とに分離したのを確認し、水層をデカンテーションにより除去し、架橋樹脂粒子が有機溶媒に分散した架橋樹脂粒子含有分散体を得た。
【0055】
<塗膜形成組成物の調製>
アクリル樹脂ワニス(三菱レイヨン株式会社製の「ダイヤナールBR−85」20質量部を、メチルエチルケトン30質量部に混合溶解させたもの)50質量部と、先に得られた架橋樹脂粒子含有分散体50質量部とを混合し、均一になるまで攪拌して塗膜形成組成物を得た。
【0056】
<塗膜の形成>
ABS板に、アプリケータを用いて乾燥膜厚が100μmになるように塗膜形成組成物を塗布し、室温で10分間養生した。その後、70℃で30分間焼付け乾燥を行い、さらに1日養生して、ABS板上に塗膜が形成された積層体(試験片)を得た。
得られた試験片について、以下に示す条件にて耐傷付き性を評価した。結果を表1に示す。
【0057】
<耐傷付き性の評価>
試験片を平面摩擦試験機(株式会社大栄科学精器製作所製「PA−2A」)に設置し、摩耗材として幅2cmのガラスビーズ(株式会社不二製作所製「FGB60」、粒度範囲250〜355μm)を用いて、荷重19.6N、作動幅10cm、スピード10cm/秒の条件で塗膜表面を50往復擦る摩耗試験を行った。擦った箇所のL値(明度)を測色計(スガ試験機株式会社製、「SMカラーメーター SM−T」)を用いて測定した。摩耗試験前の塗膜のL値を予め測定しておき、摩耗試験前後のL値の差(ΔL)を算出した。ΔLが小さいほど耐傷付き性に優れていることを意味し、ΔLが3未満の場合を耐傷付き性に優れ、フィルムとしての安定性も良好であると判断した。
【0058】
[実施例2]
重合工程において、乳化剤としてカチオン系界面活性剤(ドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド)を用い、添加工程において、凝集剤としてアニオン系界面活性剤(ドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ジナトリウム)を用いた以外は、実施例1と同様にして架橋樹脂粒子含有分散体を製造した。
得られた架橋樹脂粒子含有分散体を用い、実施例1と同様にして塗膜形成組成物の調製し、塗膜を形成して、耐傷付き性を評価した。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例3〜7]
移行工程において、表1に示す種類の有機溶媒を用いた以外は、実施例1と同様にして架橋樹脂粒子含有分散体を製造した。
得られた架橋樹脂粒子含有分散体を用い、実施例1と同様にして塗膜形成組成物の調製し、塗膜を形成して、耐傷付き性を評価した。結果を表1に示す。
【0060】
[比較例1]
実施例1と同様にして水性ラテックスを得た。
得られた水性ラテックスを、スプレードライ法により含水分量が2質量%以下になるまで粉体化し、乾燥凝集体を得た。
得られた乾燥凝集体20質量部をメチルエチルケトン80質量部に添加し、さらにノニオン系乳化剤としてソルビタンモノラウレート1質量部を添加し、ホモジナイザーを用い、回転数200rpmで5分間撹拌し、架橋樹脂粒子が有機溶媒に分散した架橋樹脂粒子含有分散体を得た。
得られた架橋樹脂粒子含有分散体を用い、実施例1と同様にして塗膜形成組成物の調製し、塗膜を形成して、耐傷付き性を評価した。結果を表1に示す。
【0061】
[比較例2]
重合工程において、乳化剤としてノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)を用いた以外は、実施例1と同様にして水性ラテックスを得た。
得られた水性ラテックスに、凝集剤としてノニオン系界面活性剤(α−[5メチル2,3−2(2−フェニルエチル)フェニル]−ω−ヒドロキシポリエチレンオキサイド)を添加した以外は、実施例1と同様にして添加工程を行ったが、架橋樹脂粒子は凝集しなかった。さらに酢酸ブチルを添加して移行工程を行ったが、架橋樹脂粒子は有機層に移行しなかった。
【0062】
[比較例3]
実施例1と同様にして重合工程および移行工程を行った。
ついで、撹拌下で有機溶媒としてイソプロパノール340質量部を添加し、2時間撹拌したが相分離は起こらなかった。
【0063】
[比較例4]
実施例1と同様にして重合工程および移行工程を行った。
ついで、撹拌下で有機溶媒としてトルエン340質量部を添加し、2時間撹拌したところ、相分離は起こったが、架橋樹脂粒子は有機層に移行しなかった。
【0064】
[比較例5]
実施例1と同様にして重合工程および移行工程を行った。
ついで、撹拌下で有機溶媒としてヘキサン340質量部を添加し、2時間撹拌したところ、相分離は起こったが、架橋樹脂粒子は有機層に移行しなかった。
【0065】
【表1】
【0066】
表1中、「移行の有無」とは、移行工程における架橋樹脂粒子の有機層への移行の有無のことであり、「有り」の場合は架橋樹脂粒子が有機層へ移行したことを意味し、「無し」の場合は架橋樹脂粒子が有機層へ移行しなかったことを意味する。また、添加工程において架橋樹脂粒子が凝集しなかった場合を「凝集せず」と記載し、移行工程において水層と有機層とが相分離しなかった場合を「相分離せず」と記載した。
【0067】
表1から明らかなように、各実施例で得られた塗膜は、耐傷付き性に優れていた。
一方、比較例1で得られた塗膜は、耐傷付き性に劣っていた。また、比較例2〜5の場合、架橋樹脂粒子が有機層に移行しなかったため、塗膜を形成することができず、耐傷付き性を評価できなかった。