(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369306
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】バックドア
(51)【国際特許分類】
B60J 5/10 20060101AFI20180730BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
B60J5/10 Z
B60J5/00 P
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-238128(P2014-238128)
(22)【出願日】2014年11月25日
(65)【公開番号】特開2016-97894(P2016-97894A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 豪介
(72)【発明者】
【氏名】奥田 篤史
【審査官】
岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−219157(JP,A)
【文献】
特開2009−083800(JP,A)
【文献】
特開2014−101060(JP,A)
【文献】
特開2010−274688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/10
B60J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用ボディの開口部に開閉可能に取り付けられ、インナーパネル及びアウターパネルを用いて構成されたバックドアであって、
該バックドアの上部には、上記自動車用ボディに対して該バックドアを開閉可能にするためのヒンジ部が設けられており、上記バックドアの下部には、上記自動車用ボディに該バックドアが閉じた状態をロックするためのロック部が設けられており、
上記インナーパネルにおける、上記アウターパネルに対向する外側面には、該インナーパネルを補強する補強部材が配置されており、
上記インナーパネルには、上記アウターパネルに近づくよう外側に膨らむインナー側ビード部が形成されており、
上記補強部材における、上記インナー側ビード部に対向する部位の一部には、上記アウターパネルに近づくよう外側に膨らむ補強側ビード部が形成されており、
上記アウターパネルには、該アウターパネルの表面形状が上記インナーパネルに近づくよう内側に折れ曲がって、略水平方向に伸びる曲折部を有する谷部が形成されており、
上記補強部材における、上記補強側ビード部を挟む両側の位置は、上記インナー側ビード部に溶接されており、
上記補強側ビード部と、上記曲折部又は該曲折部の近傍とは、接着剤によって接合されており、
上記補強部材は、上記バックドアにおける左右のランプの配設位置の周囲に配置されており、
上記バックドアにおける、上記左右のランプの配設位置には、ランプ用の第1穴が設けられており、
上記補強部材には、上記第1穴と重なる第2穴が設けられていることを特徴とするバックドア。
【請求項2】
上記補強側ビード部は、上記インナー側ビード部の一部に重なる位置に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のバックドア。
【請求項3】
上記補強部材は、上記バックドアの窓部の形成位置の下方及び側方に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のバックドア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ボディの開口部に取り付けられるバックドアに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ボディの開口部に開閉可能に取り付けられるバックドアは、インナーパネルの外側にアウターパネルをかしめて構成されている。このバックドアには、エンジンの振動を受けて振動しない剛性が必要とされる。
例えば、特許文献1においては、インナーパネル及びアウターパネルを備える自動車のバックドアの補強構造について開示されている。この補強構造においては、バックドアの裾部全体の振動を抑えるために、インナーパネルとアウターパネルとの間に、車体の横方向へ伸びる第1のリィンフォースと、車体の前後方向へ伸びる第2のリィンフォースとを設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−211049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、バックドアのアウターパネルにおいては、意匠外観上の要請等を受けて、インナーパネルに近づくよう内側に折れ曲がる谷部が形成され、この谷部に、アウターパネルの表面形状が折れ曲がった曲折部が形成されることがある。この曲折部が形成されている場合には、曲折部においてアウターパネルの剛性低下が生じ、バックドアの固有振動数が著しく低下して、この固有振動数が、エンジンの燃焼サイクルに伴う振動数に近づいてしまうおそれがある。特に、エンジンの燃焼サイクルに伴う振動数と、バックドアの固有振動数とが一致したときには、バックドアが共振現象によって大きく振動する。このバックドアの振動は、車内の空気の体積変化を誘発し、車内音に影響を与えることになる。
【0005】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたもので、アウターパネルに曲折部が形成されている場合であっても、バックドアの剛性を効果的に確保して、車内音を低減することができるバックドアを提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、自動車用ボディの開口部に開閉可能に取り付けられ、インナーパネル及びアウターパネルを用いて構成されたバックドアであって、
該バックドアの上部には、上記自動車用ボディに対して該バックドアを開閉可能にするためのヒンジ部が設けられており、上記バックドアの下部には、上記自動車用ボディに該バックドアが閉じた状態をロックするためのロック部が設けられており、
上記インナーパネルにおける、上記アウターパネルに対向する外側面には、該インナーパネルを補強する補強部材が配置されており、
上記インナーパネルには、上記アウターパネルに近づくよう外側に膨らむインナー側ビード部が形成されており、
上記補強部材における、上記インナー側ビード部に対向する部位の一部には、上記アウターパネルに近づくよう外側に膨らむ補強側ビード部が形成されており、
上記アウターパネルには、該アウターパネルの表面形状が上記インナーパネルに近づくよう内側に折れ曲がって、略水平方向に伸びる曲折部を有する谷部が形成されており、
上記補強部材における、上記補強側ビード部を挟む両側の位置は、上記インナー側ビード部に溶接されており、
上記補強側ビード部と、上記曲折部又は該曲折部の近傍とは、接着剤によって接合されて
おり、
上記補強部材は、上記バックドアにおける左右のランプの配設位置の周囲に配置されており、
上記バックドアにおける、上記左右のランプの配設位置には、ランプ用の第1穴が設けられており、
上記補強部材には、上記第1穴と重なる第2穴が設けられていることを特徴とするバックドアにある。
【発明の効果】
【0007】
上記バックドアにおいては、バックドアを構成するアウターパネルに、略水平方向に伸びる曲折部が形成されている場合に、アウターパネルの剛性の低下を抑える工夫をしている。
具体的には、補強部材における、補強側ビード部を挟む両側の位置が、インナー側ビード部に溶接されており、補強側ビード部と、曲折部又は曲折部の近傍とが、接着剤によって接合されている。これにより、アウターパネルの曲折部又は曲折部の近傍が、接着剤及び補強部材を介してインナーパネルと一体化され、曲折部の剛性を高めることができる。
【0008】
そのため、アウターパネルに曲折部が形成されている場合であっても、バックドアの剛性を効果的に確保し、バックドアの固有振動数の低下を抑制することができる。その結果、バックドアの固有振動数がエンジンの燃焼サイクルに伴う振動数に一致しにくくなり、バックドアの振動による車内の空気の体積変化が抑えられ、車内音を低減することができる。
【0009】
それ故、上記バックドアによれば、アウターパネルに曲折部が形成されている場合であっても、バックドアの剛性を効果的に確保して、車内音を低減することができる。
なお、上記曲折部が伸びる略水平方向とは、水平方向に平行である状態以外にも、水平方向に対して20°以内の傾斜角度を有する方向を含む。また、曲折部は、谷部の上縁部及び下縁部の少なくとも一方に形成されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例にかかる、バックドアを後方側から見た状態で示す説明図。
【
図2】実施例にかかる、バックドアを、アウターパネルを外した状態で後方側から見た状態で示す説明図。
【
図4】実施例にかかる、
図1におけるA−A線断面を示し、接着剤によってアウターパネルの曲折部を補強部材の補強側ビード部に接合した状態を示す断面図。
【
図5】実施例にかかる、自動車用ボディにおけるバックドアを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述したバックドアにおける好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
(実施例)
本例のバックドア1は、
図5に示すように、自動車用ボディ6の開口部61に開閉可能に取り付けられ、インナーパネル3及びアウターパネル2を用いて構成されている。バックドア1の上部には、自動車用ボディ6に対してバックドア1を開閉可能にするためのヒンジ部62が設けられており、バックドア1の下部には、自動車用ボディ6にバックドア1が閉じた状態をロックするためのロック部63が設けられている。
【0012】
図2に示すように、インナーパネル3における、アウターパネル2に対向する外側面301には、インナーパネル3を補強する補強部材4が配置されている。インナーパネル3には、アウターパネル2に近づくよう外側に膨らむインナー側ビード部31が形成されている。
図3に示すように、補強部材4における、インナー側ビード部31に対向する部位の一部には、アウターパネル2に近づくよう外側に膨らむ補強側ビード部41が形成されている。
【0013】
図1に示すように、アウターパネル2には、アウターパネル2の表面形状がインナーパネル3に近づくよう内側に折れ曲がって、略水平方向に伸びる曲折部21を有する谷部22が形成されている。本例の曲折部21は、谷部22の下縁部に形成されている。
図3、
図4に示すように、補強部材4における、補強側ビード部41を挟む両側の位置は、インナー側ビード部31にスポット溶接されている。補強側ビード部41と曲折部21とは、接着剤5によって接合されている。
図3、
図4において、補強側ビード部41を挟む両側の位置42がインナー側ビード部31にスポット溶接されている状態を符号Sによって示す。
【0014】
以下に、本例のバックドア1について、
図1〜
図5を参照して詳説する。
図1に示すように、アウターパネル2は、自動車の表面に露出されるパネルであり、意匠外観性が要求されるパネルである。アウターパネル2には、原則としてスポット溶接等は行われない。本例のバックドア1のアウターパネル2における曲折部21は、ナンバープレートの取付位置11の左右両側に形成されている。曲折部21は、水平方向に対して10°以内の傾斜角度でアウターパネル2の左右方向に伸びている。
図4に示すように、本例の曲折部21は、アウターパネル2が折り曲げられた位置において、アウターパネル2の外側面(表面)201にライン状の凹みが形成される部分である。曲折部21は、アウターパネル2における谷部22の下側の縁部に形成されており、他の部分に形成される折曲げ部分に比べて、小さな曲率半径で折り曲げられている。
【0015】
図2に示すように、インナーパネル3におけるインナー側ビード部31は、ナンバープレートの取付位置11の左右両側において、下方へ行くほど左右方向の中心側に位置するよう上下方向に対して傾斜して形成されている。インナー側ビード部31は、インナーパネル3の剛性を確保するために形成されたビード形状の部分である。
また、インナー側ビード部31は、補強側ビード部41と略平行に形成されており、補強側ビード部41は、曲折部21と交差して形成されている。
【0016】
図2、
図3に示すように、補強部材4は、リィンフォースであり、バックドア1における左右のランプの配設位置12の周囲に配置されている。また、補強部材4は、バックドア1の窓部の形成位置13の下方及び側方に位置して、インナーパネル3及びアウターパネル2にスポット溶接されている。インナーパネル3は、アウターパネル2及び内装材等によって覆われるパネルであり、意匠外観性は問われない。そして、補強部材4は、複数個所にスポット溶接を行ってインナーパネル3に取り付けられている。
【0017】
図3に示すように、補強部材4における補強側ビード部41は、ナンバープレートの取付位置11の左右両側において、インナー側ビード部31の一部に重なる位置に形成されている。また、補強用ビード部41は、左右の補強部材4の中心側であって下側の端部付近において形成されている。補強用ビード部41は、補強部材4の一部を平面略矩形状に突出させて形成されている。そして、補強用ビード部41の先端面(外側面)411は、略矩形状に形成されている。補強側ビード部41は、補強部材4の剛性を確保するために形成されたビード形状の部分である。
【0018】
図2、
図5に示すように、バックドア1のヒンジ部62は、自動車用ボディ6の開口部61の上縁部と、バックドア1の上部とを回動可能にする部分である。このヒンジ部62は、自動車用ボディ6の開口部61の上縁部及びバックドア1の上部の左右の位置に設けられている。また、バックドア1のロック部63は、バックドア1が自動車用ボディ6の開口部61に閉じられた際に、バックドア1の下部を、自動車用ボディ6の開口部61の下縁部にロックする部分である。
【0019】
自動車用ボディ6の開口部61の下縁部には、ロック部63を係合する被ロック部631が設けられている。ロック部63と被ロック部631とのいずれか一方は、フック部を有するロック機構によって形成されており、他方は、フック部が係止されるストライカによって形成されている。フック部は、バネによる付勢力を受けてストライカに対して係止される状態が維持される。
また、バックドア1の左右の側部65と自動車用ボディ6の開口部61の左右の縁部64との間には、作動油の粘性を利用したダンパ66がそれぞれ設けられている。ダンパ66は、人がバックドア1を自動車用ボディ6の開口部61から開ける際のサポートを行うものである。
【0020】
図4は、アウターパネル2に曲折部21が形成された位置の断面を示す。同図に示すように、補強部材4が取り付けられたインナーパネル3とアウターパネル2とを組み合わせたときには、補強部材4の補強用ビード部41とアウターパネル2との間に所定の隙間Kが形成されるようになっている。そして、この隙間Kには、マスチック等の接着剤5が設けられ、接着剤5によって補強用ビード部41の先端面411とアウターパネル2の内側面(裏面)202とが接着される。
【0021】
補強部材4における、補強用ビード部41を挟む上下の位置42は、インナーパネル3のインナー側ビード部31と対面しており、かつ、スポット溶接によってインナー側ビード部31に溶接されている。
インナーパネル3は、アウターパネル2よりも形状に凹凸を付けやすく、アウターパネル2よりも剛性を上げやすいパネルである。また、インナーパネル3に補強部材4が設けられていることにより、インナーパネル3の剛性はさらに上がる。
【0022】
本例のバックドア1においては、バックドア1を構成するアウターパネル2に、略水平方向に伸びる曲折部21が形成されている場合に、アウターパネル2の剛性の低下を抑える工夫をしている。
具体的には、補強部材4における、補強側ビード部41を挟む両側の位置42が、インナー側ビード部31に溶接されており、補強側ビード部41と曲折部21とが、接着剤5によって接合されている。これにより、アウターパネル2の曲折部21が、接着剤5及び補強部材4を介してインナーパネル3と一体化され、曲折部21の剛性を高めることができる。
【0023】
そのため、アウターパネル2に曲折部21が形成されている場合であっても、バックドア1の剛性を効果的に確保し、バックドア1の固有振動数の低下を抑制することができる。その結果、バックドア1の固有振動数がエンジンの燃焼サイクルに伴う振動数に一致しにくくなり、バックドア1の振動による車内の空気の体積変化が抑えられ、車内音を低減することができる。
【0024】
また、バックドア1の剛性が効果的に確保されることにより、バックドア1の開閉強度も高めることができる。これにより、振動性能を確保するだけでなく、強度性能も確保することができる。
さらに、補強部材4に補強用ビード部41を形成する工夫により、部品点数を増加させることなく、スポット溶接の施工箇所及び接着剤5の施工箇所の追加を行うことにより、容易に振動性能及び強度性能を確保することができる。
【0025】
それ故、本例のバックドア1によれば、アウターパネル2に曲折部21が形成されている場合であっても、バックドア1の剛性を効果的に確保して、車内音を低減することができる。
【0026】
なお、補強部材4は、左右のランプの配設位置12の周囲に配置されるリィンフォースとする以外にも、インナー側ビード部31に溶接する別の部材とすることもできる。この場合には、補強部材4を小さく形成することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 バックドア
2 アウターパネル
21 曲折部
22 谷部
3 インナーパネル
31 インナー側ビード部
4 補強部材
41 補強側ビード部
5 接着剤
6 自動車用ボディ
61 開口部
62 ヒンジ部
63 ロック部