(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369316
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】印面加工装置における保護フィルムの駆動機構
(51)【国際特許分類】
B41C 1/055 20060101AFI20180730BHJP
B41K 1/50 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
B41C1/055
B41K1/50 A
B41K1/50 B
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-253095(P2014-253095)
(22)【出願日】2014年12月15日
(65)【公開番号】特開2016-112769(P2016-112769A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】230117259
【弁護士】
【氏名又は名称】綿貫 敬典
(72)【発明者】
【氏名】阿部 栄次
(72)【発明者】
【氏名】内田 成俊
【審査官】
加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2004/0003735(US,A1)
【文献】
特開平10−193763(JP,A)
【文献】
特開平08−252963(JP,A)
【文献】
特開平04−226780(JP,A)
【文献】
特開2014−043092(JP,A)
【文献】
特開2009−208294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41C 1/00 − 3/08
B41D 1/00 − 99/00
B41K 1/00 − 99/00
B41L 1/00 − 49/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレイにセットした多孔質印材を、保護フィルムを介在させた状態でサーマルヘッドに押し当てながら移動させ、多孔質印材に印面を加工するサーマルヘッド式の印面加工装置における保護フィルムの駆動機構であって、
サーマルヘッドの前後に保護フィルムをロール状に巻回する供給用ロールと巻き取り用ロールを配置し、
前記巻き取り用ロールとトレイには稼動方向を正逆自在に変更できる駆動機構を設け、
また前記供給用ロールには保護フィルム巻き戻し用の戻りバネ機構を内蔵したことを特徴とする印面加工装置における保護フィルムの駆動機構。
【請求項2】
保護フィルムと、供給用ロールおよび巻き取り用ロールは、1個のケース体に収納されてカートリッジ式となっている請求項1に記載の印面加工装置における保護フィルムの駆動機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護フィルムの最適なテンションを保つことができる印面加工装置における保護フィルムの駆動機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、多孔質印面の加工方法としてサーマルヘッド式の印面加工装置を用いたものが公知である。また、本件特許出願人はサーマルヘッド式の印面加工装置を利用し、かつデータ処理を行うことにより高精度に印面を製作する方法を開発し、先に特許出願している(特許文献1を参照)
【0003】
特許文献1に記載の印面加工装置においては、印面が加工される多孔質印材とサーマルヘッドの間に保護フィルムが介在させてある。この保護フィルムは、多孔質印材の溶着樹脂がサーマルヘッドに溶着するのを防止し、また摩擦係数が増大して印面形成不良が生じるのを防止するのを目的で設けるものである。
【0004】
しかしながら、前記保護フィルムは高価なものであるため、一方向に連続供給して1回限りの使用にすると費用が高くなるという問題があった。また、保護フィルムは弛みを防止し最適なテンションを保っていないと鮮明な印面を形成することが難しいという問題もあった。一方、プリンタ用のカセット式インクリボンとして種々のものが提案されているが(特許文献2や特許文献3を参照)、従来のものではリボンを往復動させることについて具体的な機構を開示するものはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−153102号公報
【特許文献2】実公平2−17881号公報
【特許文献3】特開2002−218133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような問題点を解決して、多孔質印材とサーマルヘッドの間にセットされる保護フィルムを、巻き戻して何度も往復動させつつ再使用することができ、しかも保護フィルムの弛みを防止するとともに最適なテンションを保持して鮮明な印面を形成することができる印面加工装置における保護フィルムの駆動機構を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明は、トレイにセットした多孔質印材を、保護フィルムを介在させた状態でサーマルヘッドに押し当てながら移動させ、多孔質印材に印面を加工するサーマルヘッド式の印面加工装置における保護フィルムの駆動機構であって、
サーマルヘッドの前後に保護フィルムをロール状に巻回する供給用ロールと巻き取り用ロールを配置し、
前記巻き取り用ロールとトレイには稼動方向を正逆自在に変更できる駆動機構を設け、
また前記供給用ロールには保護フィルム巻き戻し用の戻りバネ機構を内蔵したことを特徴とする保護フィルムの駆動機構である。
【0008】
また、前記保護フィルムと、供給用ロールおよび巻き取り用ロールは、1個のケース体に収納されてカートリッジ式となっていることが好ましく、これを請求項2に係る発明とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明では、トレイにセットした多孔質印材を、保護フィルムを介在させた状態でサーマルヘッドに押し当てながら移動させ、多孔質印材に印面を加工するサーマルヘッド式の印面加工装置における保護フィルムの駆動機構であって、サーマルヘッドの前後に保護フィルムをロール状に巻回する供給用ロールと巻き取り用ロールを配置し、前記巻き取り用ロールとトレイには稼動方向を正逆自在に変更できる駆動機構を設け、また前記供給用ロールには保護フィルム巻き戻し用の戻りバネ機構を内蔵した構造としたので、保護フィルムを、巻き戻して何度も往復動させつつ再使用することができ、しかも巻き戻しのための特別な駆動源を必要としない。また、印面加工時における保護フィルムの弛みも防止するので、保護フィルムの最適なテンションを保持して高精度に印面の加工を行うことが可能となる。
【0010】
請求項2に係る発明では、保護フィルムと、供給用ロールおよび巻き取り用ロールは、1個のケース体に収納されてカートリッジ式となっている構造としたので、保護フィルムの取扱いが容易となり、また交換作業等も簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態を示す概略正面図である。
【
図3】(a)は供給用ロールから保護フィルムを供給する状態を示す概略正面図、(b)は供給用ロールに保護フィルムを巻き戻す状態を示す概略正面図である。
【
図5】カートリッジ式の形態を示す概略断面図である。
【
図6】アタッチメントがセットされる前の状態の印面加工装置を示す斜視図である。
【
図7】アタッチメントがセットされた後の状態の印面加工装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
図6〜
図7は、サーマルヘッド式の印面加工装置20を示す斜視図である。この印面加工装置20にはサーマルヘッド1(
図1を参照)が内蔵されており、加工すべき多孔質印材がアタッチメント13を介してトレイ21にセットされ、前記サーマルヘッドにより多孔質印材に印面加工処理が施される構造となっている。
【0013】
加工すべき印材は、
図8〜
図9に示すように、印面が形成される多孔質印材11を樹脂製の枠体12の前端面に密閉接着し、一体化して印材付き枠体10としたものである。
前記多孔質印材11は、サーマルヘッドを用いて印面加工を行った際に加熱溶融する多孔質体であればよく、例えば、熱可塑性樹脂からなる。
また、前記多孔質印材11が密閉接着される枠体12は四角形状であり、枠体12の断面形状は略L字型を有する。この略L字型の幅広端を前端面とし、該前端面の周縁から側壁を垂下させ、前記前端面の全周にわたり前記多孔質印材11の周縁部を密閉接着させてある。なお、前記枠体12の形状は四角形状に限らず、その他の多角形状や円形状や楕円形状等、何れでもよい。
【0014】
前記印材付き枠体10は、
図6〜
図7に示すように、アタッチメント13にセットされると、この状態でアタッチメント13とともにトレイ21内に装着される。印面加工装置20では、印面の加工データに基づきトレイ21を制御しつつ作動させることで、サーマルヘッド1により任意の文字や模様を加工する。
【0015】
前記印面加工装置20では、多孔質印材11とサーマルヘッド1の間に保護フィルム2が介在した状態として、多孔質印材11をサーマルヘッド1に押し当てながら移動させることにより、多孔質印材11に印面の加工を施すよう構成されている。
この保護フィルム2は、多孔質印材11の溶着樹脂がサーマルヘッド1に溶着するのを防止し、また摩擦係数が増大して印面形成不良が生じるのを防止するのを目的で設けるものである。
【0016】
前記保護フィルム2としては、耐熱性、平滑性の見地から、ポリイミド等を用いることが好ましい。本発明では、この保護フィルム2はロール状に巻回する供給用ロール3と巻き取り用ロール4を用いて供給・巻き取りが行われる。
【0017】
次に、保護フィルムの駆動機構について説明する。
図1〜
図2に示すように、本発明の保護フィルムの駆動機構では、サーマルヘッド1の前後に保護フィルム2をロール状に巻回する供給用ロール3と巻き取り用ロール4が配置されている。また、前記巻き取り用ロールとトレイには稼動方向を正逆自在に変更できる駆動機構5が設けられている。
【0018】
前記駆動機構5は、図示のものでは1個のモータ5aと、このモータ5aにベルト5bを介して連結した歯車5cを有し、この歯車5cに巻き取り用ロール4の駆動用歯車5dが連結され、モータ5aの回転により巻き取り用ロール4が正逆自在に回転できる構造となっている。同様に、ベルト5eを介して搬送ベルト5fの駆動用歯車5gが連結され、モータ5aの回転により搬送ベルト5fが正逆自在に回転できる構造となっており、この結果、搬送ベルト5fに固定したトレイ21が正逆自在に移動できる構造となっている。
なお、本明細書では供給用ロール3から巻き取り用ロール4に保護フィルム2を供給する方向を正方向といい、該正方向へ保護フィルム2を駆動するモータ5aの回転方向を正回転という。また、保護フィルム2の供給方向と同方向へ移動するトレイ21の移動方向も正方向という。
一方、巻き取り用ロール4から供給用ロール3に保護フィルム2を巻き戻す方向を逆方向といい、該逆方向へ保護フィルム2を案内するモータ5aの回転方向を逆回転という。また、保護フィルム2を巻き戻す方向と同方向へ移動するトレイ21の移動方向も逆方向という。
【0019】
前記駆動機構5によれば、1個のモータ5aの駆動により巻き取り用ロール4とトレイ21とが常に連動して移動するので、トレイ21が正方向へ移動するときは巻き取り用ロール4も正方向へ回転し、一方、トレイ21が逆方向へ移動するときは巻き取り用ロール4も逆方向へ回転することとなる。
なお、モータ5aは1個のみ設けたものとしたが、巻き取り用ロール4とトレイ21のそれぞれに設けて、上記と同様に動かすこともできる。
【0020】
一方、前記供給用ロール3には保護フィルム巻き戻し用の戻りバネ機構6が内蔵されており、前記保護フィルム2を巻き戻して再利用に供する構造となっている。従来、保護フィルム2は一方向のみに移動させて使い切るのを普通としており、フィルム自体が比較的高価なため加工コストを高くする一因となっていた。これに対し、本発明では前記保護フィルム2を巻き戻して再利用することでコストの低減を図るようにしている。
【0021】
前記戻りバネ機構6としては、供給用ロール3の軸部に収納できるものが好ましく、例えば捩りコイルバネやゼンマイバネ等を用いることができる。この戻りバネ機構6により、供給用ロール3の軸部には常にフィルムの送り出し方向とは逆方向の小さな引張力が作用することになる。なお、戻りバネ機構6としては、上記の他、同様の作用を奏する構造であれば何れも採用することができる。
【0022】
このように構成したものでは、
図3(a)に示すように、モータ5aを正方向に回転すると駆動用歯車5d、5gも正方向に回転し、この結果、供給用ロール3から保護フィルム2が供給されるとともに、トレイ21も正方向へ移動する。一方、
図3(b)に示すように、モータ5aを逆方向に回転すると駆動用歯車5d、5gも逆方向に回転し、この結果、供給用ロール3に巻き戻されるとともに、トレイ21も逆方向へ移動する。
【0023】
また本発明では、前記保護フィルム2の長さを次のように設定することが好ましい。保護フィルム2の長さは、供給用ロール3と巻き取り用ロール4間の距離、トレイ21の移動距離、供給用ロール3および巻き取り用ロール4それぞれの巻きしろの距離、サーマルヘッドによって保護フィルム2を押し下げる距離の合算距離を設定し、正方向に引き出した使用分だけ逆方向に巻き戻す構成とし、使用の都度、保護フィルム2を全て元の位置まで巻き戻して使用することが好ましい。使用により保護フィルム2が劣化した場合は、新しい保護フィルムと交換する。
またここで、例えば、保護フィルム2の長さを前記合算距離の2倍に設定し、前記使用によって一番目の合算距離分のフィルムが劣化した場合に、二番目の合算距離分を新しく引き出して使用する方法も考えられるが、この場合、保護フィルム2の長さを前記合算距離の2倍に設定しているため、保護フィルム2を引き出した際のバネの引張力が強くなり過ぎる傾向がある。そのため、保護フィルム2の適正なテンションを保てるようにするには、前記合算距離だけの長さの場合よりもバネの引張力を選択する際に注意を要する。また、保護フィルム2の適正なテンションを保てるのであれば、保護フィルム2の長さを前記合算距離の2倍より長く設定してもよいことは勿論である。
【0024】
このように本発明では、モータ5aを正回転させて保護フィルム2を引き出しており、この時、前記戻りバネ機構6の引張力は小さいため何ら影響することはない。一方、保護フィルム2を巻き戻して再利用に供する場合は、モータ5aを逆回転させると、戻りバネ機構6の引張力によって保護フィルム2が供給用ロール側に確実に巻き戻される。
【0025】
図4は印面加工時の状態を示す概略正面図であるが、保護フィルム2には常に供給用ロール3の戻りバネ機構6によって逆方向側へわずかな引張力が作用している状態となるため、保護フィルム2には供給用ロール3と巻き取り用ロール4の間で常に最適なテンションがかかった状態が保たれることとなる。この結果、保護フィルム2は弛みの発生が防止されて、常に鮮明な印面を形成することが可能となる。
【0026】
また保護フィルムの駆動機構は、
図5に示すように、保護フィルム2、供給用ロール3、巻き取り用ロール4、戻りバネ機構6は、1個のケース体7に収められたカートリッジ式のものとなっている。このため、保護フィルム2のセットアップや交換作業等を簡単に行えるという利点がある。ただし、カートリッジ式のものに限定されないことは勿論である。
【0027】
以上のように構成した保護フィルムの駆動機構を用い、トレイ21にセットした多孔質印材を保護フィルム2を介在させた状態でサーマルヘッド1に押し当てながら移動させ、多孔質印材に印面の加工を行う。
前記保護フィルム2は、トレイ21の移動とともに巻き取り用ロール4により巻き取られつつ正方向側へ進んで多孔質印材の印面加工が行われるが、このとき保護フィルム2にはバネ機構6によって後方側へわずかな引張力が作用しているので、保護フィルム2は最適なテンションがかかった状態となり弛みが発生することはない。従って、保護フィルム2の弛みに起因する不鮮明な印面の形成はなくなる。
また従来、保護フィルム2は一方向のみに移動させて1回きりの使用を普通としていたが、本発明ではモータ5aを逆回転させてフィルム2を正方向に引き出した分だけ逆方向に巻き戻すように構成してあるので、保護フィルム2を何度も繰り返して使用に供することが可能となる。
【0028】
なお、本発明者は保護フィルム2とトレイ21の移動速度に着目して研究した結果、所定の関係に制御すれば保護フィルム2に弛みを生じることなく、保護フィルムの最適なテンションを保持して、高精度に印面の加工を行うことができることを見出した。
前記トレイ21の移動速度に対する保護フィルム2の移動速度の比率は、1を下回らないできる限り1.0に近い値にすることが好ましい。速度比が1.0よりも小さいと保護フィルム2に弛みが生じ、1.0よりも大きいと保護フィルム2によって印面が引っ張られる力が生じるため、印面加工不良が生じやすいからである。
【0029】
以上の説明からも明らかなように、本発明は供給用ロールに保護フィルム巻き戻し用の戻りバネ機構を内蔵した印面加工装置における保護フィルムの駆動機構であり、従来は着目されていなかった保護フィルムの弛みを防止して印面の加工精度の向上を図ることができ、また巻き戻して何度も再使用することで加工コストの低減を図ることができるものである。
【符号の説明】
【0030】
1 サーマルヘッド
2 保護フィルム
3 供給用ロール
4 巻き取り用ロール
5 駆動機構
5a モータ
5b ベルト
5c 歯車
5d 駆動用歯車
5e ベルト
5f 搬送ベルト
5g 駆動用歯車
6 戻りバネ機構
7 ケース体
10 印材付き枠体
11 多孔質印材
12 枠体
13 アタッチメント
20 印面加工装置
21 トレイ