(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記溝は、前記Ag層のうち、半導体素子が配設される素子接合領域よりも外側に広がる周辺領域と、前記回路層とを結ぶように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板。
前記Ag焼成層は、平面視した時に略矩形を成し、前記溝は、前記Ag層の四辺のそれぞれに形成されていることを特徴とする請求項1ないし3いずれか一項に記載のパワーモジュール用基板。
前記溝は、その延長方向に直角な幅が、当該溝が形成されたAg焼成層の一辺の長さに対して5%以上、75%以下であることを特徴とする請求項1ないし6いずれか一項に記載のパワーモジュール用基板。
請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板を構成する前記Ag焼成層の一方の面側に配設された半導体素子と、を備え、前記半導体素子は、前記Ag焼成層に対して接合層を介して接合されていることを特徴とするパワーモジュール。
前記溝形成工程は、前記Ag層の一方の面から前記回路層に向けて、前記Ag層を押し潰すように線状のけがき線を形成する工程であることを特徴とする請求項11に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
各種の半導体素子のうち、例えば、電気自動車や電気車両などを制御するために用いられる大電力制御用のパワー素子は、発熱量が多い。こうした大電力制御用のパワー素子を搭載する基板としては、例えばAlN(窒化アルミ)などからなるセラミックス基板上に導電性の優れた金属板を回路層として接合したパワーモジュール用基板が、従来から広く用いられている。
そして、このようなパワーモジュール用基板は、その回路層上に、はんだ材を介してパワー素子としての半導体素子が搭載される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
回路層を構成する金属としては、一般的にアルミニウム又はアルミニウム合金、或いは、銅又は銅合金が用いられている。
ここで、アルミニウムからなる回路層においては、表面にアルミニウムの自然酸化膜が形成されるため、はんだ材との接合を良好に行うことが困難である。また、銅からなる回路層においては、溶融したはんだ材と銅とが反応して回路層の内部にはんだ材の成分が侵入し、回路層の導電性が劣化するといった課題があった。
【0004】
一方、はんだ材を使用しない接合方法として、例えば、特許文献2には、Agナノペーストを用いて半導体素子を接合する技術が提案されている。
また、例えば、特許文献3、4には、はんだ材を用いずに金属酸化物粒子と有機物からなる還元剤とを含む酸化物ペーストを用いて半導体素子を接合する技術が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献2に開示されているように、はんだ材を使用せずにAgナノペーストを用いて半導体素子を接合した場合には、Agナノペーストからなる接合層がはんだ材に比べて厚みが薄く形成されるため、熱サイクル負荷時の応力が半導体素子に作用しやすくなり、半導体素子自体が破損してしまうおそれがあった。
【0006】
また、特許文献3、4に開示されているように、金属酸化物と還元剤とを用いて半導体素子を接合した場合にも、やはり、酸化物ペーストの焼成層が薄く形成されることから、熱サイクル負荷時の応力が半導体素子に作用しやすくなり、パワーモジュールの性能が劣化するおそれがあった。
【0007】
そこで、例えば、特許文献5〜7には、ガラス含有Agペーストを用いてアルミニウム又は銅からなる回路層上にAg焼成層を形成した後に、はんだ材又はAgペーストを介して回路層と半導体素子を接合する技術が提案されている。この技術では、アルミニウム又は銅からなる回路層の表面に、ガラス含有Agペーストを塗布して焼成することによって、回路層の表面に形成されている酸化被膜をガラスに反応させて除去してAg焼成層を形成し、このAg焼成層が形成された回路層上に、はんだ材を介して半導体素子を接合している。
【0008】
ここで、Ag焼成層は、ガラスが回路層の酸化被膜と反応することにより形成されたガラス層と、このガラス層上に形成されたAg層とを備えている。このガラス層には導電性粒子が分散しており、この導電性粒子によってガラス層の導通が確保されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、回路層とAg焼成層との接合信頼性を向上させるためには、ガラス含有Agペースト中のガラスの含有量を多くすることが効果的である。
しかしながら、ガラス含有Agペースト中のガラス含有量を増加すると、Ag焼成層においてガラス層が厚くなる。ガラス層は、導電性粒子が分散されていても、Ag層などと比較すると電気抵抗が高い。このため、ガラス層が厚くなるに従って、Ag焼成層の電気抵抗値も大きくなる傾向にあり、接合信頼性と電気抵抗値との両方をバランスさせることが難しかった。このようにAg焼成層の電気抵抗値が高いと、Ag焼成層が形成された回路層と半導体素子とをはんだ材等を介して接合した際に、回路層と半導体素子との間に電気を良好に流すことができないおそれがあった。
【0011】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、回路層上に形成されたガラス層とAg層とを備えたAg焼成層を介して接合される半導体素子と、回路層との間の電気抵抗値を低減することが可能なパワーモジュール用基板およびその製造方法、パワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のいくつかの態様は、次のようなパワーモジュール用基板およびその製造方法、パワーモジュールを提供した。
すなわち、本発明のパワーモジュール用基板は、絶縁層の一方の面に形成された回路層と、該回路層上に形成されたAg焼成層とを備えたパワーモジュール用基板であって、前記Ag焼成層は、ガラス層と、このガラス層上に形成されたAg層とからなり、前記Ag層と、前記回路層とを結ぶ溝が形成され、前記Ag層は、前記溝の内面に沿って、前記回路層まで延びる延長部を有し、前記延長部は、前記Ag層と前記回路層とを電気的に接続することを特徴とする。
【0013】
本発明のパワーモジュール用基板によれば、Ag層と、Ag層の周囲に広がる回路層の露呈部分とを結ぶように溝が形成される。こうした溝の内面には、Ag焼成層を構成するAg層から引き延ばされたAgからなる延長部が形成され、この延長部によって、Ag層と回路層とを電気的に接続することができる。
こうした延長部を構成するAgは、導電性粒子が分散されたガラス層よりも電気抵抗値が低いので、Ag焼成層として比較的高抵抗なガラス層が形成されていても、回路層とAg層との間の電気抵抗を低減し、電気を良好に流すことを可能にする。これによって、回路層とAg焼成層との接合信頼性を向上させるために、ガラスの含有量を多くしてガラス層を厚くしても、Ag層と回路層との間の電気抵抗値を低く保つことができ、接合信頼性と電気抵抗値との両方をバランスさせることが可能になる。
【0014】
前記溝は、前記Ag層のうち、半導体素子が配設される素子接合領域よりも外側に広がる周辺領域と、前記回路層とを結ぶように形成されていることを特徴とする。
こうした構成によって、半導体素子とAg焼成層が重なる部分には溝が形成されないので、半導体素子の接合信頼性を高く保ちつつ、Ag層と回路層との間の電気抵抗値を低くすることができる。
【0015】
前記溝は、前記回路層の表面に形成される酸化膜よりも深い位置に達していることを特徴とする。
こうした構成によって、回路層の表面に存在する高抵抗の酸化膜よりも下層にある回路層とAg層とを、Agからなる延長部で導通させることができるので、Ag層と回路層との間の電気抵抗値をより一層低減することができる。
【0016】
前記Ag焼成層は、平面視した時に略矩形を成し、前記溝は、前記Ag層の四辺のそれぞれに形成されていることが望ましい。
こうした構成によって、略矩形のAg焼成層全体にわたって、Ag層と回路層との間の電気抵抗値を偏りなく均等に低減することができる。
【0017】
前記溝は、その延長方向に沿った長さが0.3mm以上、5.0mm以下であることを特徴とする。
溝の長さを0.3mm以上にすることによって、Ag層と回路層との間の電気抵抗値を確実に低くすることができる。また、溝の長さを5mm以下にすることによって、Ag焼成層と回路層との間の接合信頼性を高く保つことができる。
【0018】
前記溝は、その厚さ方向に沿った深さが10μm以上、200μm以下であることを特徴とする。
溝の深さを10μm以上にすることによって、Ag層と回路層との間の電気抵抗値を確実に低くすることができる。また、溝の深さを200μm以下にすることによって、Ag焼成層と回路層との間の接合信頼性を高く保つことができる。
【0019】
前記溝は、その延長方向に直角な幅が、当該溝が形成されたAg焼成層の一辺の長さに対して5%以上、75%以下であることを特徴とする。
こうした構成によって、Ag層と回路層との間の電気抵抗値を低くしつつ、Ag焼成層と回路層との接合信頼性を高く保つことができる。
【0020】
前記Ag焼成層は、その厚さ方向における電気抵抗値が10mΩ以下であることを特徴とする。
こうした構成によって電気抵抗値を低くすることで、通電損失の少ないパワーモジュールを得ることができる。
【0021】
本発明のパワーモジュールは、前記各項記載のパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板を構成する前記Ag焼成層の一方の面側に配設された半導体素子と、を備え、前記半導体素子は、前記Ag焼成層に対して接合層を介して接合されていることを特徴とする。
【0022】
本発明のパワーモジュールによれば、Ag層と、Ag層の周囲に広がる回路層の露呈部分とを結ぶように溝が形成され、溝の内面のAgからなる延長部によって、Ag層と回路層とが電気的に接続される。これによって、Ag焼成層として比較的高抵抗なガラス層が形成されていても、回路層とAg層との間の電気抵抗が低減されるので、半導体素子と回路層との電気抵抗値を低く保つことができる。
【0023】
ここで、本発明のパワーモジュール用基板においては、パワーサイクル試験において、通電時間5秒、温度差80℃の条件のパワーサイクルを20万回負荷したときの熱抵抗上昇率が2%未満であることが好ましい。
パワーモジュールに対してパワーサイクルを繰り返し負荷した場合には、半導体素子と回路層と間の接合層において局所的に電気抵抗が高い部分が存在すると、部分溶融が生じ、その部分において溶融と凝固が繰り返し発生する。すると、この部分溶融した箇所が起点となって接合層やAg焼成層に亀裂が生じ、熱抵抗が上昇してしまうおそれがあった。本発明では、上述のように、半導体素子と回路層との間の電気抵抗値が低く保たれていることから、パワーモジュールに対してパワーサイクルを繰り返し負荷した場合であっても、接合層やAg焼成層に対する熱負荷が抑制され、これら接合層やAg焼成層が早期に破壊されることがなく、パワーサイクルに対する信頼性の向上を図ることができる。なお、上述のパワーサイクル試験は、最も接合層及びAg焼成層に負荷が掛かる条件であることから、この条件下でパワーサイクルを20万回負荷したときの熱抵抗上昇率が2%未満とされていれば、通常の使用において、十分な信頼性を得ることができる。
【0024】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、絶縁層の一方の面に形成された回路層と、該回路層上に形成されたAg焼成層とを備えたパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記回路層の一方の面に、ガラス含有Agペーストを塗布する塗布工程と、前記Agペーストを焼成し、ガラス層と、このガラス層上に形成されたAg層とからなるAg焼成層を形成する焼成工程と、前記Ag層のうち、半導体素子が配設される素子接合領域よりも外側に広がる周辺領域と、前記回路層とを結ぶ溝を形成する溝形成工程と、を少なくとも備え、前記溝形成工程において、前記Ag層の一部を前記溝の内面に沿って引き伸ばすように延長部を形成し、該延長部によって前記Ag層と前記回路層とを電気的に接続させることを特徴とする。
【0025】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、Ag層と、Ag層の周囲に広がる回路層の露呈部分とを結ぶように溝が形成する溝形成工程を備えることで、溝の内面には、Ag焼成層を構成するAg層から引き延ばされたAgからなる延長部が形成され、この延長部によって、Ag層と回路層とを電気的に接続することができる。
こうしたAgは、導電性粒子が分散されたガラス層よりも電気抵抗値が低いので、Ag焼成層として比較的高抵抗なガラス層が形成されていても、回路層とAg層との間の電気抵抗を低減し、電気を良好に流すことを可能にする。これによって、回路層とAg層との間の電気抵抗を低減可能なパワーモジュール用基板の製造方法を実現することができる。
【0026】
前記溝形成工程は、前記Ag層の一方の面から前記回路層に向けて、前記Ag層を押し潰すように線状のけがき線を形成する工程であることを特徴とする。
このような構成によれば、先端の尖った治具等でAg層から回路層に向けてけがき線を形成するだけで、Ag層と回路層とを結ぶ溝、および溝の内面のAgからなる延長部とを同時に、かつ容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、回路層上に形成されたAg焼成層を介して接合される半導体素子と、回路層との間の電気抵抗値を低減することが可能なパワーモジュール用基板およびその製造方法、パワーモジュールを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明のパワーモジュール用基板およびその製造方法、パワーモジュールについて説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0030】
図1は、本発明のパワーモジュール用基板を備えたパワーモジュールを示す断面図である。
本実施形態におけるパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の表面に接合層2を介して接合された半導体チップ(半導体素子)3と、冷却器40とを備えている。
【0031】
パワーモジュール用基板10は、絶縁層を構成するセラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面11a(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面11b(
図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
【0032】
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、例えば、絶縁性の高いAlN(窒化アルミニウム)や、Al
2O
3(酸化アルミニウム)、Si
3N
4(窒化ケイ素)などから構成されていればよく、本実施形態では、AlNを用いている。また、セラミックス基板11の厚さは、例えば、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、一例として、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0033】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面11aに、導電性を有する金属板が接合されることにより形成されている。回路層12としては、Al、またはAlを含む合金、Cuなどが挙げられる。本実施形態においては、回路層12は、例えば、純度が99.99mass%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。
【0034】
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面11bに、金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、回路層12と同様に、純度が99.99mass%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
【0035】
冷却器40は、前述したパワーモジュール用基板10で生じた熱を伝搬させて放熱することによって、パワーモジュール1全体を冷却するためのものである。こうした冷却器40は、パワーモジュール用基板10と接合される天板部41と、この天板部41から下方に向けて垂設された放熱フィン42と、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路43とを備えている。冷却器40(天板部41)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、例えば、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
【0036】
また、本実施形態においては、冷却器40の天板部41と金属層13との間には、アルミニウム又はアルミニウム合金若しくはアルミニウムを含む複合材(例えばAlSiC等)からなる緩衝層15が設けられている。
【0037】
回路層12の表面(
図1において上面)12aには、後述するAgペーストを焼成することによって得られるAg焼成層30が形成されており、このAg焼成層30の表面12aに、接合層2を介して半導体チップ3が接合されている。
接合層2としては、例えば、はんだ層が挙げられる。はんだ層を形成するはんだ材としては、例えば、Sn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系が挙げられる。
なお、Ag焼成層30は、
図1に示すように、回路層12の表面全体には形成されておらず、半導体チップ3が配設される部分にのみ選択的に形成されていればよく、その周辺は回路層12を成すアルミニウム板が露呈されている。
【0038】
そして、本実施形態であるパワーモジュール1においては、パワーサイクル試験において、通電時間5秒、温度差80℃の条件のパワーサイクルを20万回負荷したときの熱抵抗上昇率が2%未満となるように構成されている。
詳述すると、半導体チップ3としてIGBT素子を回路層12へはんだ付けするとともに、アルミニウム合金からなる接続配線をボンディングする。そして、IGBT素子への通電を、通電(ON)で素子表面温度140℃、非通電(OFF)で素子表面温度60℃となる1サイクルを10秒毎に繰り返すようにして調整し、このパワーサイクルを20万回繰り返した後で、熱抵抗上昇率が2%未満とされているのである。
【0039】
図2及び
図3は、接合層2を介して半導体チップ3を接合する前のパワーモジュール用基板10を示す断面図である。
このパワーモジュール用基板10においては、回路層12の表面(
図2及び
図3において上面)12aに、前述のAg焼成層30が形成されている。このAg焼成層30は、接合層2を介して半導体チップ3を接合する前の状態では、
図3に示すように、回路層12側に形成されたガラス層31と、このガラス層31上に形成されたAg層32と、を備えている。そして、このガラス層31内部には、粒径が数ナノメートル程度の微細な導電性粒子33が分散されている。この導電性粒子33は、例えば、Ag又はAlの少なくとも一方を含有する結晶性粒子とされている。
【0040】
回路層12は、純度99.99mass%のアルミニウムで構成されているが、回路層12の表面(
図3において上面)は、大気中で自然発生したアルミニウム酸化皮膜(酸化膜:Al
2O
3)12Aによって覆われる。しかし、前述したAg焼成層30が形成された部分においては、アルミニウム酸化皮膜12Aは、Ag焼成層30を形成する際のガラスとの反応によって除去されている。
【0041】
従って、この部分(回路層12のうち、Ag焼成層30と重なる部分)においては、回路層12上にアルミニウム酸化皮膜12Aを介さず、直接、Ag焼成層30が形成されている。つまり、回路層12を構成するアルミニウムとガラス層31とが直接接合されている。
【0042】
図4は、接合層2を介して半導体チップ3を接合する前のパワーモジュール用基板10を、上面から見た時の平面図である。
Ag焼成層30は、上面から平面視した時に略矩形、例えば長方形を成すように、回路層12の一部に形成されている。回路層12は、Ag焼成層30の形成部分の周囲の露呈された部分においては、アルミニウム酸化皮膜12Aによって覆われている。
【0043】
Ag焼成層30の中心付近は、接合層2を介して半導体チップ3が接合される領域である素子接合領域E1とされる。一方、この素子接合領域E1の周囲に広がる周辺領域E2は、半導体チップ3の接合後もAg層32が露呈された状態となる。
そして、Ag焼成層30の周辺領域E2と、Ag焼成層30の周囲に広がる回路層12の露呈部分とを結ぶように、細長い溝35が形成されている。溝35は、例えば、平面視長方形のAg焼成層30の四辺のうち、それぞれの一辺の中央に1か所ずつ、合計で4本の溝35,35…が形成されていることが好ましい。
【0044】
図5は、Ag焼成層に溝が形成された部分を示す要部拡大断面図である。Ag焼成層30の四辺のそれぞれに形成された溝35は、Ag層32の表面(
図5において上面)32aから、ガラス層31およびアルミニウム酸化皮膜12Aを貫通して回路層12の表面12aに達する細長い凹部である。
【0045】
溝35は、その延長方向(長手方向)に沿った長さL(
図4参照)が、例えば、0.3mm以上、5.0mm以下となるように形成されている。また、溝35は、その厚さ方向に沿った深さDが10μm以上、200μm以下となるように形成されている。こうした溝35の深さDは、Ag焼成層30を構成するガラス層31やAg層32の厚みに応じて、適宜調節される。
さらに、溝35は、その延長方向に直角な幅Wが、この溝35を形成したAg焼成層30の一辺の長さに対して5%以上、75%以下となるように形成されている。
【0046】
それぞれの溝35には、溝35の内面35aに沿って、Ag層32の一部が展延された延長部36が形成されている。こうした延長部36は、Ag層32を構成する、比較的柔軟な金属であるAgが、溝35の形成時に治具によって引き延ばされることで形成されたものであり、Ag層32から延びて回路層12の表面12aに達する。こうした延長部36によって、溝35の形成部分において、Ag層32と回路層12とは、電気抵抗値の低いAgで、直接、電気的に接続される。なお、溝35の形成方法は後述する。
【0047】
このように、溝35に形成された延長部36によって、Ag層32と回路層12とをAgで電気的に接続させることで、Ag焼成層30の厚さ方向の電気抵抗値Pを、例えば、10mΩ以下となる。
【0048】
なお、ここで、本実施形態においては、Ag焼成層30の厚さ方向における電気抵抗値Pは、Ag焼成層30の上面と回路層12の上面との間の電気抵抗値としている。これは、回路層12を構成する4Nアルミニウムの電気抵抗がAg焼成層30の厚さ方向の電気抵抗に比べて非常に小さいためである。この電気抵抗の測定の際には、
図6及び
図7に示すように、Ag焼成層30の上面中央点と、Ag焼成層30の上面中央点からAg焼成層30端部までの距離Hに対してAg焼成層30端部からHだけ離れた回路層12上の点と、の間の電気抵抗を測定することとしている。
【0049】
本実施形態においては、
図3に示すように、回路層12上に自然発生するアルミニウム酸化皮膜12Aの厚さtoが、4nm≦to≦6nmとされている。また、ガラス層31の厚さtgが0.01μm≦tg≦5μm、Ag層32の厚さtaが1μm≦ta≦100μm、Ag焼成層30全体の厚さtg+taが1.01μm≦tg+ta≦105μmとなるように構成されている。
【0050】
次に、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法について説明する。
図8は、パワーモジュール用基板の製造方法の一例を段階的に示したフローチャートである。
まず、回路層12となるアルミニウム板及び金属層13となるアルミニウム板を準備し、これらのアルミニウム板を、セラミックス基板11の一方の面11a及び他方の面11bにそれぞれろう材を介して積層し、加圧・加熱後冷却することによって、前記アルミニウム板とセラミックス基板11とを接合する(回路層及び金属層接合工程S11)。ろう材としては、例えば、Al−Siろう材等を用いることができる。なお、このろう付けの温度は、例えば、640℃〜650℃に設定されている。
【0051】
次に、金属層13の他方の面側に、緩衝層15を介して冷却器40(天板部41)をろう材を介して接合する(冷却器接合工程S12)。ろう材としては、例えば、Al−Siろう材等を用いることができる。なお、冷却器40のろう付けの温度は、例えば、590℃〜610℃に設定されている。
【0052】
そして、回路層12の表面12aに、Agペーストを塗布する(塗布工程S13)。なお、Agペーストを塗布する際には、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、感光性プロセス等の種々の手段を採用することができる。本実施形態では、スクリーン印刷法によってAgペーストをパターン状に形成した。
【0053】
ここで、塗布工程S13で用いられるAgペーストについて説明する。Agペーストは、Ag粉末と、ガラス粉末と、樹脂と、溶剤と、分散剤と、を含有しており、Ag粉末とガラス粉末とからなる粉末成分の含有量が、Agペースト全体の60質量%以上90質量%以下とされており、残部が樹脂、溶剤、分散剤とされている。
【0054】
なお、本実施形態では、Ag粉末とガラス粉末とからなる粉末成分の含有量は、Agペースト全体の85質量%とされている。また、このAgペーストは、その粘度が、例えば、10Pa・s以上500Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以上300Pa・s以下に調整されている。
【0055】
Ag粉末は、その粒径が0.05μm以上1.0μm以下とされており、本実施形態では、平均粒径0.8μmのものを使用した。
ガラス粉末は、例えば、酸化鉛、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化ホウ素、酸化リン及び酸化ビスマスのいずれか1種又は2種以上を含有しており、その軟化温度が600℃以下とされている。本実施形態では、酸化鉛と酸化亜鉛と酸化ホウ素とからなり、平均粒径が0.5μmのガラス粉末を使用した。
また、Ag粉末の重量Aとガラス粉末の重量Gとの重量比A/Gは、80/20から99/1の範囲内に調整されており、本実施形態では、A/G=80/5とした。
【0056】
溶剤は、沸点が200℃以上のものが適しており、本実施形態では、ジエチレンクリコールジブチルエーテルを用いている。
樹脂は、Agペーストの粘度を調整するものであり、500℃以上で分解されるものが適している。本実施形態では、エチルセルロースを用いている。
また、本実施形態では、ジカルボン酸系の分散剤を添加している。なお、分散剤を添加することなくAgペーストを構成してもよい。
【0057】
こうした構成のAgペーストを得る方法としては、例えば、Ag粉末とガラス粉末とを混合して混合粉末を生成し、また、溶剤と樹脂とを混合して有機混合物を生成して、これら混合粉末と有機混合物と分散剤とをミキサーによって予備混合する。そして、予備混合物をロールミル機を用いて練り込みながら混合した後、得られた混錬をペーストろ過機によってろ過することによって、Agペーストが製出される。
【0058】
回路層12の表面12aにAgペーストを塗布した状態で、加熱炉内に装入してAgペーストの焼成を行う(焼成工程S14)。なお、このときの焼成温度は、例えば、350℃〜645℃に設定されている。
【0059】
この焼成工程S14により、ガラス層31とAg層32とを備えたAg焼成層30が形成される。このとき、ガラス層31によって、回路層12の表面に自然発生していたアルミニウム酸化皮膜12Aが溶融除去されることになり、回路層12に直接ガラス層31が形成される。また、ガラス層31の内部に、粒径が数ナノメートル程度の微細な導電性粒子33が分散されることになる。この導電性粒子33は、Ag又はAlの少なくとも一方を含有する結晶性粒子とされており、焼成の際にガラス層31内部に析出したものと推測される。
【0060】
次に、形成されたAg焼成層30の周辺領域E2と、Ag焼成層30の周囲に広がる回路層12の露呈部分とを結ぶように、溝35を形成する(溝形成工程S15)。
図9は、溝形成工程S15を段階的に示した要部拡大断面図である。
図9(a)に示すように、溝形成工程S15では、予め設定した溝35の形成予定線Qに沿って、例えば、先端が尖った形状の硬質な治具Mを、Ag層32の表面32aから押し込む。
【0061】
そして、
図9(b)に示すように、治具Mの先端Mcが回路層12に達する程度、例えば、1.00μm〜100μm程度の深さまでAg焼成層30に溝35を形成する。こうした治具MをAg層32から押し込む際に、切り込まれたAg層32の端部が治具Mによって引き延ばされて、Ag層32に連なる延長部36として回路層12まで延びる。これは、Ag層32を構成するAgが、展性、延性に富んでいるためである。これによって、Ag層32と回路層12とが、ガラス層31よりも電気抵抗値の低いAgによって電気的に接続される。
【0062】
そして、治具MをAg焼成層30の周辺領域E2から、Ag焼成層30の周囲に広がる回路層12の露呈部分まで動かす(
図4参照)。これによって、回路層12の露呈部分を覆っているアルミニウム酸化皮膜12Aが削り取られ、回路層12のAlが露出されるとともに、この露出されたAlと、Ag層32から引き延ばされた延長部36のAgとが接続される。
【0063】
以上のように、溝形成工程S15では、Ag層32を治具Mによって押し潰すように、線状のけがき線をAg焼成層30の周辺領域E2から、回路層12の露呈部分まで形成することによって、溝35が形成される。
【0064】
こうして、回路層12の表面12aにAg焼成層30が形成されたパワーモジュール用基板10が製出される。
【0065】
そして、Ag焼成層30の表面に、はんだ材を介して半導体チップ3を載置し、還元炉内においてはんだ接合する(はんだ接合工程S16)。このとき、はんだ材によって形成される接合層2には、Ag焼成層30を構成するAg層32の一部又は全部が溶融することになる。
これにより、接合層2を介して半導体チップ3が回路層12上に接合されたパワーモジュール1が製出される。
【0066】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板10及びパワーモジュール1においては、Ag焼成層30の周辺領域E2と、Ag焼成層30の周囲に広がる回路層12の露呈部分とを結ぶように、溝35を形成した。こうした溝35の内面には、Ag焼成層30を構成するAg層32から引き延ばされたAgからなる延長部36が形成され、この延長部36によって、Ag層32と回路層12とが電気的に接続される。
【0067】
こうしたAgは、導電性粒子33が分散されたガラス層31よりも電気抵抗値が低いので、Ag焼成層30として比較的高抵抗なガラス層31が形成されていても、回路層12と半導体チップ3との間の電気抵抗を低減し、電気を良好に流すことを可能にする。これによって、回路層12とAg焼成層30との接合信頼性を向上させるために、ガラスの含有量を多くしてガラス層31を厚くしても、Ag層32と回路層12との間の電気抵抗値は低く保つことができ、接合信頼性と電気抵抗値との両方をバランスさせることが可能になる。
【0068】
また、本実施形態であるパワーモジュール1においては、パワーサイクル試験において、通電時間5秒、温度差80℃のパワーサイクルを20万回負荷したときの熱抵抗上昇率が2%未満となるように構成されているので、パワーサイクル負荷時においても、早期に接合層2やAg焼成層30が破壊されることがなく、信頼性の向上を図ることができる。
詳述すると、パワーモジュール1に対してパワーサイクルを繰り返し負荷した場合には、回路層12と半導体チップ3との間において局所的に電気抵抗が高い部分が存在すると、部分溶融が生じ、その部分で溶融と凝固が繰り返し発生する。すると、この部分溶融した箇所が起点となって接合層2やAg焼成層30に亀裂が生じ、熱抵抗が上昇してしまうおそれがある。本実施形態では、上述のように、半導体チップ3と回路層12との間の電気抵抗値が低く保たれていることから、パワーモジュール1に対してパワーサイクルを繰り返し負荷した場合であっても、接合層2やAg焼成層30が早期に破壊されることがなく、パワーサイクルに対する信頼性の向上を図ることができる。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態では、接合層としてはんだ層を用いる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば接合層としてナノAg粒子と有機物とを含むAgペーストを用いて回路層と半導体素子とを接合しても良い。
【0070】
また、上述した実施形態においては、溝35を、平面視長方形のAg焼成層30の四辺のうち、それぞれの一辺の中央に1か所ずつ、合計で4本形成しているが、溝の形成本数や形成箇所はこれに限定されるものでは無い。例えば、平面視矩形のAg焼成層の四辺のうち、任意の一辺に溝を形成してもよい。また、Ag焼成層の任意の一辺に、複数の溝を形成してもよい。この場合、互いの溝同士の間隔が等間隔になるように形成することが好ましい。
【0071】
また、上述した実施形態においては、溝35の形状は、底部が鈍角を成す形状に形成しているが、溝の形状はこれに限定されるものでは無く、例えば、溝の底部が平坦な形状や、溝の底部が湾曲面を成す形状などであってもよい。また、溝形成工程においては、目的の溝の形状を持つ治具が適宜選択されればよい。
【0072】
また、上述した実施形態においては、絶縁層を構成するセラミックス基板に対して接合される回路層、および金属層として、アルミニウム板を例示しているが、これに限定されるものでは無い。例えば、回路層、および金属層として、それぞれ銅板を用いることもできる。また、回路層として銅板、金属層としてアルミニウム板を、それぞれ用いることもできる。また、回路層、および金属層として、セラミックス基板側から順にアルミニウム板と銅板とを接合したものをそれぞれ用いることもできる。
【実施例】
【0073】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0074】
(実施例1)
本発明例として、前述の実施形態に記載されたパワーモジュール用基板を準備した。
すなわち、Ag焼成層30の周辺領域E2と、Ag焼成層30の周囲に広がる回路層12の露呈部分とを結ぶように、溝35を形成した。溝35は、平面視長方形のAg焼成層30の四辺のうち、それぞれの一辺の中央に1か所ずつ、合計で4本形成した。それぞれの溝35の長さは3mm、深さは50μm、幅は2mmとした。
【0075】
比較例として、溝を形成しないパワーモジュール用基板を準備した。溝を形成しないこと以外は、本発明例と同様の構成とした。
【0076】
こうした本発明例と比較例のそれぞれについて、Ag焼成層の厚さ方向における電気抵抗値を測定した。電気抵抗の測定の際には、
図6及び
図7に示すように、Ag焼成層の上面中央点と、Ag焼成層の上面中央点からAg焼成層端部までの距離Hに対してAg焼成層端部からHだけ離れた回路層上の点と、の間の電気抵抗を測定した。
こうして測定された本発明例と比較例におけるAg焼成層の電気抵抗値を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示す結果によれば、従来は0.5ΩであったAg焼成層の電気抵抗値が、本発明によって10mΩ以下となり、大幅な電気抵抗値の低減効果が確認された。本発明によれば、接合信頼性と電気抵抗値との両方をバランスさせることが可能なパワーモジュール用基板を得られることが確認された。
【0079】
(実施例2)
前述の実施例1で用いた本発明例及び比較例のパワーモジュール用基板を準備し、このパワーモジュール用基板の回路層上に半導体素子としてIGBT素子をはんだ接合した。また、パワーモジュール用基板の金属層側にヒートシンクを配設した。
ここで、セラミックス基板は、AlNで構成され、27mm×17mm、厚さ0.6mmのものを使用した。また、回路層は、4Nアルミニウムで構成され、25mm×15mm、厚さ0.6mmのものを使用した。金属層は、4Nアルミニウムで構成され、25mm×15mm、厚さ0.6mmのものを使用した。半導体素子は、IGBT素子とし、13mm×10mm、厚さ0.25mmのものを使用した。ヒートシンクとしては、40.0mm×40.0mm×2.5mmのアルミニウム板(A6063)を使用した。
【0080】
なお、半導体素子(IGBT素子)は、はんだ材としてSn−Cu系はんだを用いて、水素3vol%還元雰囲気、加熱温度(加熱対象物温度)330℃及び保持時間 5分の条件で、はんだ接合した。
【0081】
(パワーサイクル試験)
IGBT素子への通電を、通電(ON)で素子表面温度140℃、非通電(OFF)で素子表面温度60℃となる1サイクルを10秒毎に繰り返すようにして調整し、このパワーサイクルを20万回繰り返した。そして、初期状態からの熱抵抗の上昇率を評価した。なお、本実施例ではパワーサイクル試験を3回繰り返した。
【0082】
(熱抵抗測定)
熱抵抗として、過渡熱抵抗を、熱抵抗テスター(TESEC社製4324−KT)を用いて測定した。印加電力:100W、印加時間:100msとし、電力印加前後のゲート−エミッタ間の電圧差を測定することにより、熱抵抗を求めた。測定は上述したパワーサイクル試験時において、5万サイクル毎に実施した。なお、熱抵抗の上昇率は、3回の試験の平均値とした。評価結果を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
比較例においては、パワーサイクルを10万回負荷した時点で熱抵抗の上昇率が1%を超えており、サイクル回数が増加するにつれて熱抵抗も上昇している。
これに対して、本発明例によれば、パワーサイクルを20万回負荷しても熱抵抗の上昇がほとんど認められない。
以上のことから、本発明例によれば、パワーサイクル信頼性に優れたパワーモジュールを提供可能であることが確認された。