(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369345
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】樹脂部材のレーザー溶着構造及びレーザー溶着方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/16 20060101AFI20180730BHJP
B62D 29/04 20060101ALI20180730BHJP
B23K 26/57 20140101ALI20180730BHJP
B23K 26/18 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
B29C65/16
B62D29/04 B
B23K26/57
B23K26/18
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-24486(P2015-24486)
(22)【出願日】2015年2月10日
(65)【公開番号】特開2016-147397(P2016-147397A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 健二
(72)【発明者】
【氏名】箭田 康次
【審査官】
越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−131424(JP,A)
【文献】
特開2005−119380(JP,A)
【文献】
特開昭62−053818(JP,A)
【文献】
特開平10−302512(JP,A)
【文献】
特開昭54−011975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00−65/82
B23K 26/00−26/70
B62D 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を透過する性質を有する熱可塑性の光透過樹脂部材と、
レーザー光を吸収する性質を有するとともに、上記光透過樹脂部材との相溶性を示す熱可塑性の光吸収樹脂部材と、を備え、
上記光透過樹脂部材における、上記光吸収樹脂部材と対面する表面とは反対側の表面から陥没して形成された溶着用凹部には、該光透過樹脂部材のレーザー光の透過率よりもレーザー光の透過率が高い高透過率樹脂部分がアンダーカット形状を有して埋設されており、
該高透過率樹脂部分と上記光吸収樹脂部材との間に挟まれた上記光透過樹脂部材の挟持部と、上記光吸収樹脂部材との境界部が溶着されていることによって、該光透過樹脂部材と該光吸収樹脂部材とが接合されていることを特徴とする樹脂部材のレーザー溶着構造。
【請求項2】
上記光透過樹脂部材は、車両用のインナーパネルであり、
上記光吸収樹脂部材は、上記インナーパネルの外側に配置された車両用のアウターパネルであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂部材のレーザー溶着構造。
【請求項3】
レーザー光を透過する性質を有する熱可塑性の光透過樹脂部材と、レーザー光を吸収する性質を有するとともに、上記光透過樹脂部材との相溶性を示す熱可塑性の光吸収樹脂部材とを接合するレーザー溶着方法であって、
上記光透過樹脂部材における、上記光吸収樹脂部材と対面する表面とは反対側の表面から陥没して形成された溶着用凹部には、該光透過樹脂部材のレーザー光の透過率よりもレーザー光の透過率が高い高透過率樹脂部分がアンダーカット形状を有して埋設されており、
レーザー光を、上記高透過率樹脂部分及び上記光透過樹脂部材を透過させて、上記光吸収樹脂部材の表面に吸収させ、上記光透過樹脂部材と上記光吸収樹脂部材との境界部を溶着させることを特徴とする樹脂部材のレーザー溶着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部材のレーザー溶着構造及びレーザー溶着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー光によって樹脂部材同士を接合する方法として、レーザー透過溶着法が知られている。このレーザー透過溶着法においては、光透過性樹脂部品と光吸収性樹脂部品とを重ね合わせ、光透過性樹脂部品を透過させたレーザー光を光吸収性樹脂部品の表面に吸収させる。そして、光吸収性樹脂部品の表面における発熱、及び光吸収性樹脂部品から光透過性樹脂部品への熱伝導によって、光吸収性樹脂部品と光透過性樹脂部品との境界部を溶融させて、両者を接合している。
【0003】
また、レーザー透過溶着法を応用したものとしては、例えば、特許文献1に開示された樹脂加工方法がある。この樹脂加工方法においては、レーザー光を照射する側から順に、第2樹脂、第1樹脂及び第3樹脂を積層し、第1樹脂及び第2樹脂を透過させたレーザー光を第3樹脂に吸収させ、第3樹脂を発熱させている。そして、第3樹脂の発熱によって第1樹脂を変色させて、第2樹脂と第3樹脂とを溶着している。この樹脂加工方法においては、第1樹脂の変色の程度に基づいて、第2樹脂と第3樹脂との溶着度合いを判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−313476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、樹脂部品の種類によっては、レーザー透過溶着法による接合が困難な場合がある。例えば、レーザー光を、その透過率が低い光透過性樹脂部品を透過させて、光吸収性樹脂部品に吸収させる場合には、レーザー光を強くすることになる。その結果、光透過性樹脂部品の表面に溶損跡が残ることがある。また、従来のレーザー透過溶着法によっては、相溶性を示さない樹脂部品同士を接合することはできない。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたもので、光透過樹脂部材と光吸収樹脂部材との接合を、溶損跡等を発生させることなく、容易に行うことができる、樹脂部材のレーザー溶着構造及びレーザー溶着方法を提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
レーザー溶着構造の一態様(1−1)は、レーザー光を透過する性質を有する熱可塑性の光透過樹脂部材と、
レーザー光を吸収する性質を有するとともに、上記光透過樹脂部材との相溶性を示す熱可塑性の光吸収樹脂部材と、を備え、
上記光透過樹脂部材における、上記光吸収樹脂部材と対面する表面とは反対側の表面から陥没して形成された溶着用凹部には、該光透過樹脂部材のレーザー光の透過率よりもレーザー光の透過率が高い高透過率樹脂部分が
アンダーカット形状を有して埋設されており、
該高透過率樹脂部分と上記光吸収樹脂部材との間に挟まれた上記光透過樹脂部材の挟持部と、上記光吸収樹脂部材との境界部が溶着されていることによって、該光透過樹脂部材と該光吸収樹脂部材とが接合されていることを特徴とする樹脂部材のレーザー溶着構造にある。
【0008】
また、レーザー溶着方法の一態様(1−2)は、レーザー光を透過する性質を有する熱可塑性の光透過樹脂部材と、レーザー光を吸収する性質を有するとともに、上記光透過樹脂部材との相溶性を示す熱可塑性の光吸収樹脂部材とを接合するレーザー溶着方法であって、
上記光透過樹脂部材における、上記光吸収樹脂部材と対面する表面とは反対側の表面から陥没して形成された溶着用凹部には、該光透過樹脂部材のレーザー光の透過率よりもレーザー光の透過率が高い高透過率樹脂部分が
アンダーカット形状を有して埋設されており、
レーザー光を、上記高透過率樹脂部分及び上記光透過樹脂部材を透過させて、上記光吸収樹脂部材の表面に吸収させ、上記光透過樹脂部材と上記光吸収樹脂部材との境界部を溶着させることを特徴とする樹脂部材のレーザー溶着方法にある。
【0009】
また、レーザー溶着構造の
参考態様(2−1)は、レーザー光を透過する性質を有する熱可塑性の光透過樹脂部材と、
該光透過樹脂部材との非相溶性を示す熱可塑性の接合樹脂部材と、を備え、
該接合樹脂部材における、上記光透過樹脂部材と対面する表面から陥没して形成された溶着用凹部には、上記光透過樹脂部材との相溶性を示すとともに、レーザー光を吸収する性質を有する光吸収樹脂部分がアンダーカット形状を有して埋設されており、
該光吸収樹脂部分と上記光透過樹脂部材との境界部が溶着されていることによって、該光透過樹脂部材と上記接合樹脂部材とが接合されていることを特徴とする樹脂部材のレーザー溶着構造にある。
【0010】
また、レーザー溶着方法の
参考態様(2−2)は、レーザー光を透過する性質を有する熱可塑性の光透過樹脂部材と、該光透過樹脂部材との非相溶性を示す熱可塑性の接合樹脂部材とを接合するレーザー溶着方法であって、
該接合樹脂部材における、上記光透過樹脂部材と対面する表面から陥没して形成された溶着用凹部には、上記光透過樹脂部材との相溶性を示すとともに、レーザー光を吸収する性質を有する光吸収樹脂部分がアンダーカット形状を有して埋設されており、
レーザー光を、上記光透過樹脂部材を透過させて、上記光吸収樹脂部分の表面に吸収させ、該光吸収樹脂部分と上記光透過樹脂部材との境界部を溶着させることを特徴とする樹脂部材のレーザー溶着方法にある。
【0011】
また、レーザー溶着構造の
他の参考態様(3−1)は、レーザー光を透過する性質を有する熱可塑性の光透過樹脂部材と、
レーザー光を吸収する性質を有するとともに、上記光透過樹脂部材との非相溶性を示す熱可塑性の光吸収樹脂部材と、を備え、
上記光透過樹脂部材における、上記光吸収樹脂部材と対面する表面から陥没して形成された溶着用凹部には、上記光吸収樹脂部材との相溶性を示すとともに、レーザー光を透過する性質を有する光透過樹脂部分がアンダーカット形状を有して埋設されており、
該光透過樹脂部分と上記光吸収樹脂部材との境界部が溶着されていることによって、上記光透過樹脂部材と上記光吸収樹脂部材とが接合されていることを特徴とする樹脂部材のレーザー溶着構造にある。
【0012】
また、レーザー溶着方法の
他の参考態様(3−2)は、レーザー光を透過する性質を有する熱可塑性の光透過樹脂部材と、レーザー光を吸収する性質を有するとともに、上記光透過樹脂部材との非相溶性を示す熱可塑性の光吸収樹脂部材とを接合するレーザー溶着方法であって、
上記光透過樹脂部材における、上記光吸収樹脂部材と対面する表面から陥没して形成された溶着用凹部には、上記光吸収樹脂部材との相溶性を示すとともに、レーザー光を透過する性質を有する光透過樹脂部分がアンダーカット形状を有して埋設されており、
レーザー光を、上記光透過樹脂部材及び上記光透過樹脂部分を透過させて、上記光吸収樹脂部材の表面に吸収させ、該光吸収樹脂部材と上記光透過樹脂部分との境界部を溶着させることを特徴とする樹脂部材のレーザー溶着方法にある。
【発明の効果】
【0013】
上記レーザー溶着構造の一態様(1−1)においては、光透過樹脂部材のレーザー光の透過率が低い場合であっても、光透過樹脂部材と光吸収樹脂部材との接合を容易にする。
このレーザー溶着構造においては、光透過樹脂部材に形成された溶着用凹部に、光透過樹脂部材のレーザー光の透過率よりもレーザー光の透過率が高い高透過率樹脂部分が埋設されている。この構造により、光透過樹脂部材と光吸収樹脂部材との接合を行う際には、レーザー光は、高透過率樹脂部分と、溶着用凹部に隣接する、厚みが薄い光透過樹脂部材の挟持部とを通過させて光吸収樹脂部材に吸収させることができる。そして、光透過樹脂部材の挟持部と光吸収樹脂部材との境界部を溶融させた後、冷却・固化させて、両者を溶着することができる。
【0014】
それ故、上記レーザー溶着構造の一態様(1−1)によれば、光透過樹脂部材のレーザー光の透過率が低い場合であっても、光透過樹脂部材と光吸収樹脂部材との接合を、溶損跡等を発生させることなく、容易に行うことができる。
また、上記レーザー溶着方法の一態様(1−2)においても、同様の効果が得られる。
【0015】
上記一態様(1−1)、(1−2)においては、光透過樹脂部材と光吸収樹脂部材とは、相溶性を示す互いに異なる種類の熱可塑性樹脂から構成することができる。また、光透過樹脂部材と光吸収樹脂部材とは、いずれも同じ種類の熱可塑性樹脂から構成し、熱可塑性樹脂への添加剤を互いに異ならせることにより、レーザー光の透過率(吸収率)を互いに異ならせることもできる。
【0016】
また、光透過樹脂部材と高透過率樹脂部分とは、相溶性を示す熱可塑性樹脂から構成することができ、相溶性を示さない熱可塑性樹脂から構成することもできる。
「相溶性」とは、分子レベルにおいて樹脂が溶け合う性質のことをいう(以下同様)。
また、「レーザー光を透過する性質」の意味には、レーザー光の全てを透過させる性質のみならず、レーザー光の多く又は一部を透過させる性質も含む(以下同様)。
【0017】
レーザー溶着構造の
参考態様(2−1)においては、光透過樹脂部材と接合樹脂部材とが相溶性を示さない場合であっても、光透過樹脂部材と接合樹脂部材との接合を容易にする。
このレーザー溶着構造においては、接合樹脂部材に形成された溶着用凹部に、光透過樹脂部材との相溶性を示すとともに、レーザー光を吸収する性質を有する光吸収樹脂部分がアンダーカット形状を有して埋設されている。この構造により、光透過樹脂部材と接合樹脂部材との接合を行う際には、レーザー光は、光透過樹脂部材を通過させて光吸収樹脂部分に吸収させることができる。そして、光透過樹脂部材と光吸収樹脂部分との境界部を溶融させた後、冷却・固化させて、両者を溶着することができる。また、光吸収樹脂部分は、接合樹脂部材との相溶性を有していなくても、アンダーカット形状によって接合樹脂部材と機械的に結合されている。
【0018】
それ故、上記レーザー溶着構造の
参考態様(2−1)によれば、光透過樹脂部材と接合樹脂部材とが相溶性を示さない場合であっても、光透過樹脂部材と接合樹脂部材との接合を、溶損跡等を発生させることなく、容易に行うことができる。
また、上記レーザー溶着方法の
参考態様(2−2)においても、同様の効果が得られる。
上記
参考態様(2−1)、(2−2)においては、光透過樹脂部材と接合樹脂部材とは、相溶性を示さない互いに異なる種類の熱可塑性樹脂から構成することができる。また、光透過樹脂部材と光吸収樹脂部分とは、相溶性を示す互いに異なる種類の熱可塑性樹脂、又は同じ種類の熱可塑性樹脂から構成することができる。また、接合樹脂部材は、レーザー光を透過する性質を有していてもよく、レーザー光を吸収する性質を有していてもよい。
【0019】
レーザー溶着構造の
他の参考態様(3−1)においては、光透過樹脂部材と光吸収樹脂部材とが相溶性を示さない場合であっても、光透過樹脂部材と光吸収樹脂部材との接合を容易にする。
このレーザー溶着構造においては、光透過樹脂部材に形成された溶着用凹部に、光吸収樹脂部材との相溶性を示すとともに、レーザー光を透過させる性質を有する光透過樹脂部分がアンダーカット形状を有して埋設されている。この構造により、光透過樹脂部材と光吸収樹脂部材との接合を行う際には、レーザー光は、光透過樹脂部材及び光透過樹脂部分を通過させて光吸収樹脂部材に吸収させることができる。そして、光吸収樹脂部材と光透過樹脂部分との境界部を溶融させた後、冷却・固化させて、両者を溶着することができる。また、光透過樹脂部分は、光透過樹脂部材との相溶性を有していなくても、アンダーカット形状によって光透過樹脂部材と機械的に結合されている。
【0020】
それ故、上記レーザー溶着構造の
他の参考態様(3−1)によれば、光透過樹脂部材と光吸収樹脂部材とが相溶性を示さない場合であっても、光透過樹脂部材と光吸収樹脂部材との接合を、溶損跡等を発生させることなく、容易に行うことができる。
また、上記レーザー溶着方法の
他の参考態様(3−2)においても、同様の効果が得られる。
上記
他の参考態様(3−1)、(3−2)においては、光透過樹脂部材と光吸収樹脂部材とは、相溶性を示さない互いに異なる種類の熱可塑性樹脂から構成することができる。また、光吸収樹脂部材と光透過樹脂部分とは、相溶性を示す互いに異なる種類の熱可塑性樹脂、又は同じ種類の熱可塑性樹脂から構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1にかかる、樹脂部材のレーザー溶接構造を示す断面説明図。
【
図2】実施例1にかかる、樹脂部材のレーザー溶接方法を示す断面説明図。
【
図3】実施例1にかかる、他の樹脂部材のレーザー溶接構造を示す断面説明図。
【
図4】
参考例1にかかる、樹脂部材のレーザー溶接構造を示す断面説明図。
【
図5】
参考例1にかかる、樹脂部材のレーザー溶接方法を示す断面説明図。
【
図6】
参考例2にかかる、樹脂部材のレーザー溶接構造を示す断面説明図。
【
図7】
参考例2にかかる、樹脂部材のレーザー溶接方法を示す断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上述した樹脂部材のレーザー溶着構造及びレーザー溶着方法における好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
(実施例1)
本例は、上記レーザー溶着構造及びレーザー溶着方法の一態様(1−1)、(1−2)についての実施例である。
本例の樹脂部材のレーザー溶着構造は、
図1に示すように、レーザー光Xを透過する性質を有する熱可塑性の光透過樹脂部材1と、レーザー光Xを吸収する性質を有するとともに、光透過樹脂部材1との相溶性を示す熱可塑性の光吸収樹脂部材2とを備えている。光透過樹脂部材1における、光吸収樹脂部材2と対面する表面101とは反対側の表面102から陥没して形成された溶着用凹部11には、光透過樹脂部材1のレーザー光Xの透過率よりもレーザー光Xの透過率が高い高透過率樹脂部分3が埋設されている。光透過樹脂部材1と光吸収樹脂部材2とは、高透過率樹脂部分3と光吸収樹脂部材2との間に挟まれた光透過樹脂部材1の挟持部12と、光吸収樹脂部材2との境界部Kが溶着されていることによって接合されている。
【0023】
本例のレーザー溶着構造は、自動車に採用される。光透過樹脂部材1は、車両用のインナーパネルであり、光吸収樹脂部材2は、インナーパネルの外側に配置された車両用のアウターパネルである。レーザー溶着構造は、2つのパネルを重ね合わせて接合する種々の部位に採用することができる。インナーパネルの端部とアウターパネルとの端部とは、互いに重なっており、レーザー光Xによって、この端部同士が溶着される。
【0024】
本例の高透過率樹脂部分3は、光透過樹脂部材1と一体成形(二色成形)されており、光透過樹脂部材1との相溶性を示す熱可塑性樹脂から構成されている。高透過率樹脂部分3は、溶着用凹部11に埋設されて、光透過樹脂部材1の一般部10の表面102と面一の表面301を形成している。溶着用凹部11の形成により、溶着用凹部11に隣接する、光透過樹脂部材1の挟持部12の厚みは、光透過樹脂部材1の一般部10の厚みよりも縮小している。
高透過率樹脂部分3は、レーザー溶着を行う部位に応じて、光透過樹脂部材1における複数個所に断続的に設けることができる。また、高透過率樹脂部分3は、光透過樹脂部材1における特定個所に連続的に設けることもできる。
【0025】
高透過率樹脂部分3が光透過樹脂部材1との相溶性を示さない(非相溶性を示す)場合には、
図3に示すように、高透過率樹脂部分3はアンダーカット形状を有して光透過樹脂部材1に埋設することができる。この場合には、高透過率樹脂部分3は光透過樹脂部材1と機械的に結合される。
【0026】
光透過樹脂部材1は、一般的な着色顔料を用いて着色されている。着色顔料は、熱可塑性樹脂の中に粒子(凝集物)として分散されており、レーザー光Xを吸収する性質を有する。着色顔料の添加により、熱可塑性樹脂のレーザー光Xの透過率は低くなる。一方、高透過率樹脂部分3は、着色染料を用いて着色されている。着色染料は、熱可塑性樹脂の中に分子レベルで溶解しており、レーザー光Xを透過する性質を有する。着色染料が添加されていても、熱可塑性樹脂のレーザー光Xの透過率はあまり変化しない。
【0027】
光吸収樹脂部材2は、一般的な着色顔料を用いて着色されている。光吸収樹脂部材2には、レーザー光Xを吸収する性質を付与するために、着色顔料としてのカーボンブラック等を添加することができる。一般的に、黒色に近い着色顔料を熱可塑性樹脂に添加することにより、レーザー光Xの吸収率が高くなる(レーザー光Xの透過率が低くなる)。
また、光透過樹脂部材1及び光吸収樹脂部材2は、顔料系の光吸収色素と染料系の光吸収色素とを混合させて添加するとともに、これらの光吸収色素の混合比率を適宜調整して、レーザー光Xの透過率を調整することができる。
【0028】
光透過樹脂部材1、光吸収樹脂部材2及び高透過率樹脂部分3を構成する熱可塑性樹脂は、例えば、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PA(ポリアミド)、PMMA(アクリル(ポリメタクリル酸メチル))、PC(ポリカーボネート)、AS(アクリロニトリル・スチレン)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)等とすることができる。
また、着色顔料には、一般的なものを使用することができる。また、着色染料には、レーザー光を透過させる性質のものとして、例えば、アントラキノン系染料、アゾ系染料等を使用することができる。
【0029】
次に、本例の樹脂部材のレーザー溶着方法について説明する。
レーザー溶着方法において用いるレーザー光Xは、種々の波長のレーザー光Xとすることができる。本例のレーザー光Xは、808nm、840nm、940nm、980nm等の波長を有する半導体レーザーによる光である。また、レーザー光Xは、1064nmの波長を有するYAGレーザー等とすることもできる。
レーザー溶着を行うに当たっては、まず、
図2に示すように、高透過率樹脂部分3が埋設されたインナーパネルとしての光透過樹脂部材1と、アウターパネルとしての光吸収樹脂部材2とを重ね合わせる。そして、光透過樹脂部材1と光吸収樹脂部材2とを加圧して挟み込み、光透過樹脂部材1と光吸収樹脂部材2とが重ね合わされた状態を維持する。
【0030】
次いで、同図に示すように、高透過率樹脂部分3の表面301からレーザー光Xを照射する。このとき、レーザー光Xのほとんどが高透過率樹脂部分3を透過し、レーザー光Xの一部が光透過樹脂部材1の挟持部12に吸収され、レーザー光Xの残部は挟持部12を透過する。そして、レーザー光Xは、光吸収樹脂部材2の表面201に吸収され、光吸収樹脂部材2の表面201付近が発熱し、溶融する。また、光吸収樹脂部材2から光透過樹脂部材1の挟持部12へ熱伝導によって熱が伝わり、挟持部12が溶融する。これにより、光吸収樹脂部材2の表面201付近と挟持部12とが溶け合い、レーザー光Xの照射が停止された後には、光透過樹脂部材1、光吸収樹脂部材2及び高透過率樹脂部分3が冷却され、固化する。こうして、光透過樹脂部材1の挟持部12と光吸収樹脂部材2との境界部Kが溶着される。
【0031】
光透過樹脂部材1に高透過率樹脂部分3を設けることにより、光透過樹脂部材1の剛性をほとんど低下させることなく、レーザー光Xが、光透過樹脂部材1と対面する光吸収樹脂部材2の表面201(境界部K)に到達しやすくすることができる。
それ故、本例のレーザー溶着構造及びレーザー溶着方法によれば、光透過樹脂部材1のレーザー光Xの透過率が低い場合であっても、光透過樹脂部材1と光吸収樹脂部材2との接合を、溶損跡等を発生させることなく、容易に行うことができる。
【0032】
(
参考例1)
本例は、上記レーザー溶着構造及びレーザー溶着方法の
参考態様(2−1)、(2−2)についての
参考例である。
本例は、光透過樹脂部材1と接合樹脂部材2Aとが相溶性を示さない(非相溶性を示す)場合を示す。
図4に示すように、本例の溶着用凹部21は、接合樹脂部材2Aにおける、光透過樹脂部材1と対面する表面201から陥没して形成されている。溶着用凹部21には、光透過樹脂部材1との相溶性を示すとともに、レーザー光Xを吸収する性質を有する光吸収樹脂部分4が、アンダーカット形状を有して埋設されている。光透過樹脂部材1と接合樹脂部材2Aとは、光吸収樹脂部分4と光透過樹脂部材1との境界部Kが溶着されていることによって接合されている。
【0033】
本例の樹脂部材のレーザー溶着方法においては、まず、
図5に示すように、インナーパネルとしての光透過樹脂部材1と、光吸収樹脂部分4が埋設されたアウターパネルとしての接合樹脂部材2Aとを重ね合わせる。また、光透過樹脂部材1と接合樹脂部材2Aとを加圧して挟み込み、光透過樹脂部材1と接合樹脂部材2Aとが重ね合わされた状態を維持する。
次いで、同図に示すように、光透過樹脂部材1における、光吸収樹脂部分4が設けられた位置に対応する表面102からレーザー光Xを照射する。このとき、レーザー光Xのほとんどが光透過樹脂部材1を透過し、光吸収樹脂部分4の表面401に吸収される。そして、光吸収樹脂部分4の表面401付近が発熱し、溶融する。また、光吸収樹脂部分4から光透過樹脂部材1へ熱伝導によって熱が伝わり、この光透過樹脂部材1の部分が溶融する。これにより、光吸収樹脂部分4の表面401付近と光透過樹脂部材1の部分とが溶け合い、レーザー光Xの照射が停止された後には、光透過樹脂部材1、接合樹脂部材2A及び光吸収樹脂部分4が冷却され、固化する。こうして、光透過樹脂部材1と光吸収樹脂部分4との境界部Kが溶着される。
【0034】
また、光吸収樹脂部分4は、接合樹脂部材2Aとの相溶性を有していなくても、アンダーカット形状によって接合樹脂部材2Aと機械的に結合されている。
それ故、本例のレーザー溶着構造及びレーザー溶着方法によれば、光透過樹脂部材1と接合樹脂部材2Aとが相溶性を示さない場合であっても、光透過樹脂部材1と接合樹脂部材2Aとの接合を、溶損跡等を発生させることなく、容易に行うことができる。
本例においても、その他の構成及び図中の符号は実施例1と同様であり、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0035】
(
参考例2)
本例は、上記レーザー溶着構造及びレーザー溶着方法の
他の参考態様(3−1)、(3−2)についての
参考例である。
本例は、
参考例1と同様に、光透過樹脂部材1と光吸収樹脂部材2とが相溶性を示さない(非相溶性を示す)場合を示す。
図6に示すように、本例の溶着用凹部13は、光透過樹脂部材1における、光吸収樹脂部材2と対面する表面101から陥没して形成されている。溶着用凹部13には、光吸収樹脂部材2との相溶性を示すとともに、レーザー光Xを透過させる性質を有する光透過樹脂部分5がアンダーカット形状を有して埋設されている。光透過樹脂部材1と光吸収樹脂部材2とは、光透過樹脂部分5と光吸収樹脂部材2との境界部Kが溶着されていることによって接合されている。
【0036】
本例の樹脂部材のレーザー溶着方法においては、まず、
図7に示すように、光透過樹脂部分5が埋設されたインナーパネルとしての光透過樹脂部材1と、アウターパネルとしての光吸収樹脂部材2とを重ね合わせる。また、光透過樹脂部材1と光吸収樹脂部材2とを加圧して挟み込み、光透過樹脂部材1と光吸収樹脂部材2とが重ね合わされた状態を維持する。
次いで、同図に示すように、光透過樹脂部材1における、光透過樹脂部分5が設けられた位置に対応する表面102からレーザー光Xを照射する。このとき、レーザー光Xのほとんどが光透過樹脂部材1を透過し、レーザー光Xの多くが光透過樹脂部分5を透過する。そして、レーザー光Xは、光吸収樹脂部材2の表面201に吸収され、光吸収樹脂部材2の表面201付近が発熱し、溶融する。また、光吸収樹脂部材2から光透過樹脂部分5へ熱伝導によって熱が伝わり、この光透過樹脂部分5が溶融する。これにより、光吸収樹脂部材2の表面201付近と光透過樹脂部分5とが溶け合い、レーザー光Xの照射が停止された後には、光透過樹脂部材1、光吸収樹脂部材2及び光透過樹脂部分5が冷却され、固化する。こうして、光吸収樹脂部材2と光透過樹脂部分5との境界部Kが溶着される。
【0037】
また、光透過樹脂部分5は、光透過樹脂部材1との相溶性を有していなくても、アンダーカット形状によって光透過樹脂部材1と機械的に結合されている。
それ故、本例のレーザー溶着構造及びレーザー溶着方法によれば、光透過樹脂部材1と光吸収樹脂部材2とが相溶性を示さない場合であっても、光透過樹脂部材1と光吸収樹脂部材2との接合を、溶損跡等を発生させることなく、容易に行うことができる。
本例においても、その他の構成及び図中の符号は実施例1と同様であり、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 光透過樹脂部材
11,13 溶着用凹部
12 挟持部
2 光吸収樹脂部材
2A 接合樹脂部材
21 溶着用凹部
3 高透過率樹脂部分
4 光吸収樹脂部分
5 光透過樹脂部分
K 境界部
X レーザー光