(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リミッタの通過後の前記複数の電圧ベクトルの出力時間の情報に基づいて、オンディレイ補正が施され前記複数のスイッチング素子を駆動する駆動信号を生成する駆動信号生成部を備え、
前記補正ベクトル生成部は、
前記オンディレイ補正による電圧誤差を補償するように前記補正ベクトルを生成する
ことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一つに記載の電力変換装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する電力変換装置、制御装置および制御方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
[1.電力変換装置]
図1は、実施形態に係る電力変換装置1の構成例を示す図である。
図1に示す電力変換装置1は、直流電源2と電動機3との間に配置される。かかる電力変換装置1は、電力変換部10と、制御部20とを備える。
【0013】
電力変換部10は、コンデンサ11と、スイッチング部12と、電流検出部13と、電圧検出部14とを備え、直流電源2から供給される直流電力を3相交流電力へ変換し、電動機3へ出力する。コンデンサ11は、直流電源2に対して並列に接続される。かかるコンデンサ11は、直流母線15a、15b(以下、直流母線15と記載する場合がある)間に接続されるコンデンサであり、主回路コンデンサとも呼ばれる。
【0014】
スイッチング部12は、例えば、3相ブリッジ回路であり、
図1に示すように、複数のスイッチング素子Swup、Swun、Swvp、Swvn、Swwp、Swwn(以下、スイッチング素子Swと記載する場合がある)を有する。これら複数のスイッチング素子Swが制御部20によってON/OFF制御されることによって、直流電源2から供給される直流電力が3相交流電力へ変換され、電動機3へ出力される。なお、電力変換装置1は、電動機3に代えて電力系統へ3相交流電力を出力するものであってもよい。
【0015】
スイッチング素子Swは、例えば、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体スイッチング素子である。また、スイッチング素子Swは、次世代半導体スイッチング素子のSiC、GaNであってもよい。なお、以下において、スイッチング素子Swup、Swvp、Swwpを上アームと呼び、スイッチング素子Swun、Swvn、Swwnを下アームと呼ぶ場合がある。
【0016】
電流検出部13は、直流母線15に流れる電流を検出する。かかる電流検出部13は、たとえば、磁電変換素子であるホール素子、シャント抵抗、または、電流トランスを有し、直流母線15に流れる電流の瞬時値I
dc(以下、母線電流I
dcと記載する)を検出する。電圧検出部14は、直流母線15a、15b間の電圧の瞬時値V
dc(以下、母線電圧V
dcと記載する)を検出する。
【0017】
制御部20は、3相電流検出部31と、指令生成部32と、合成部33と、演算部34と、調整部35と、補正ベクトル生成部36と、PWM信号出力部37とを備える。
【0018】
かかる制御部20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力ポートなどを有するマイクロコンピュータや各種の回路を含む。かかるマイクロコンピュータのCPUがROMに記憶されているプログラムを読み出して実行することにより、3相電流検出部31、指令生成部32、合成部33、演算部34、調整部35、補正ベクトル生成部36およびPWM信号出力部37の機能が実現される。
【0019】
また、3相電流検出部31、指令生成部32、合成部33、演算部34、調整部35、補正ベクトル生成部36およびPWM信号出力部37は、それぞれ一部または全部が例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアで構成されてもよい。
【0020】
3相電流検出部31は、電流検出部13によって検出された母線電流I
dcに基づき、電力変換部10と電動機3のU相、V相、W相との間に流れる電流の瞬時値i
u、i
v、i
w(以下、相電流i
u、i
v、i
wと記載する)を検出する。相電流i
uは、U相の電流であり、相電流i
vは、V相の電流であり、相電流i
wは、W相の電流である。
【0021】
指令生成部32は、相電流i
u、i
v、i
wに基づいて、例えば、相電流i
u、i
v、i
wが目標の電流になるように電圧指令ベクトルv
αβ*を生成する。電圧指令ベクトルv
αβ*は、固定座標上の直交した2軸のαβ軸成分であるα軸電圧指令v
α*とβ軸電圧指令v
β*を含む。合成部33は、電圧指令ベクトルv
αβ*に補正ベクトルΔv
αβを合成して合成ベクトルv
αβ**を生成する。かかる合成ベクトルv
αβ**は、α軸電圧指令v
α**とβ軸電圧指令v
β**を含む。
【0022】
演算部34は、合成ベクトルv
αβ**に対応する複数の基本電圧ベクトルV
x、V
y(電圧ベクトルの一例)の電力変換部10からの出力時間比率ζ
x、ζ
yを演算する。
図2および
図3は、合成ベクトルv
αβ**の位相θvと、領域1〜6と、基本電圧ベクトルV
1〜V
7との関係を示す図である。
【0023】
基本電圧ベクトルは、電力変換部に設けられたスイッチング素子のオン/オフの組み合わせによって電力変換部から出力可能な電圧ベクトルである。
図1に示す電力変換部10では、基本電圧ベクトルは、6つのスイッチング素子Swのオン/オフの8種類の組み合わせに対応する8種類の電圧ベクトルV
0〜V
7である。
【0024】
基本電圧ベクトルV
0〜V
7には、2種類のゼロ電圧ベクトルである基本電圧ベクトルV
0、V
0と6種類の有効電圧ベクトルである基本電圧ベクトルV
1〜V
6とが含まれる。なお、後述する例では、ゼロ電圧ベクトルとして、1つの基本電圧ベクトルV
0を用いているが、基本電圧ベクトルV
0に加えまたは代えて、基本電圧ベクトルV
7を用いることもできる。
【0025】
演算部34は、合成ベクトルv
αβ**が含まれる領域に対応する複数の基本電圧ベクトルV
x、V
yの出力時間比率ζ
x、ζ
yを演算する。演算部34は、例えば、合成ベクトルv
αβ**を挟む60度の位相差を有する2種類の基本電圧ベクトルV
x、V
yで挟まれる領域を合成ベクトルv
αβ**が存在する領域として判定する。
【0026】
演算部34は、例えば、合成ベクトルv
αβ**の位相θv(=atan(v
β**/v
α**))に基づいて、合成ベクトルv
αβ**が含まれる領域を判定することができるが、その他の方法によって合成ベクトルv
αβ**が含まれる領域を判定することもできる。
【0027】
例えば、演算部34は、0≦θv<60である場合、
図3に示すように、基本電圧ベクトルV
1、V
3を基本電圧ベクトルV
x、V
yとし、基本電圧ベクトルV
1、V
3の出力時間比率ζ
1、ζ
3を出力時間比率ζ
x、ζ
yとして演算する。
【0028】
調整部35は、リミッタ90を備え、かかるリミッタ90により出力時間比率ζ
x、ζ
yが下限値ζ
thよりも小さくならないように、出力時間比率ζ
x、ζ
yを調整し、出力時間比率ζ
x_lim、ζ
y_limとして出力する。
【0029】
例えば、調整部35は、出力時間比率ζ
xが下限値ζ
thよりも小さい場合、下限値ζ
thを出力時間比率ζ
x_limとして出力する。また、調整部35は、出力時間比率ζ
yが下限値ζ
thよりも小さい場合、下限値ζ
thを出力時間比率ζ
y_limとして出力する。
【0030】
一方、調整部35は、出力時間比率ζ
xが下限値ζ
th以上である場合、出力時間比率ζ
xを出力時間比率ζ
x_limとして出力する。また、調整部35は、出力時間比率ζ
yが下限値ζ
th以上である場合、出力時間比率ζ
yを出力時間比率ζ
y_limとして出力する。
【0031】
補正ベクトル生成部36は、調整部35による調整結果に基づいて、補正ベクトルΔv
αβを生成する。補正ベクトルΔv
αβには、αβ軸座標系におけるα軸成分であるα軸補正値Δv
αとβ軸成分であるβ軸補正値Δv
βが含まれる。例えば、補正ベクトル生成部36は、調整部35による調整量、例えば、出力時間比率ζ
x、ζ
yと出力時間比率ζ
x_lim、ζ
y_limとの差に基づいて、補正ベクトルΔv
αβを生成することができる。
【0032】
かかる補正ベクトルΔv
αβは、調整部35によって出力時間比率ζ
x、ζ
yの少なくとも一つが下限値ζ
th以上になるように調整された場合に、かかる調整によって生じる誤差を次の演算周期で補正するように補正ベクトル生成部36によって生成される。
【0033】
PWM信号出力部37は、下限値ζ
th以上である出力時間比率ζ
x、ζ
yに応じた時間T
x(=ζ
x×T)、T
y(=ζ
y×T)で基本電圧ベクトルV
x、V
yが出力されるように電力変換部10を制御するPWM信号Sup、Sun、Svp、Svn、Swp、Swn(以下、PWM信号Sと記載する場合がある)を生成する。なお、「T」は、PWM制御の変調周期である。
【0034】
これにより、電力変換部10から出力される基本電圧ベクトルV
x、V
yの出力幅を一定以上になるように抑制することができ、電流の検出を安定して行うことができる。また、出力時間比率ζ
x、ζ
y、ζ
x_lim、ζ
y_limを演算する毎に、補正ベクトルΔv
αβを次の演算周期で電圧指令ベクトルv
αβ*と合成することで、電力変換部10から出力される電圧の精度を向上させることができる。以下、制御部20の構成についてさらに詳細に説明する。
【0035】
[2.制御部20]
図4は、
図1に示す制御部20の構成例を示す図である。上述したように、制御部20は、3相電流検出部31と、指令生成部32と、合成部33と、演算部34と、調整部35と、補正ベクトル生成部36と、PWM信号出力部37とを備えている。以下、PWM信号出力部37、3相電流検出部31、指令生成部32、合成部33、演算部34、調整部35、補正ベクトル生成部36の順に説明する。
【0036】
[2.1.PWM信号出力部37]
PWM信号出力部37は、
図3に示す領域1〜6のうち、合成ベクトルv
αβ**が含まれる領域に対応する複数の基本電圧ベクトルV
x、V
yと基本電圧ベクトルV
0とに応じた電圧ベクトルパターンで出力する。
【0037】
図5は、領域1〜6と電圧ベクトルパターンとの関係を示す図である。
図5に示すように、PWM信号出力部37は、例えば、0≦θv<60である場合、V
0→V
1→V
3→V
3→V
1→V
0の順に基本電圧ベクトルが出力されるように電力変換部10を制御するPWM信号Sを生成する。
【0038】
PWM信号出力部37は、調整部35を通過した出力時間比率ζ
1_limで基本電圧ベクトルV
1が出力され、調整部35を通過した出力時間比率ζ
3_limで基本電圧ベクトルV
3が出力されるように、PWM信号Sを生成する。
【0039】
なお、
図5に示す電圧ベクトルパターンは、PWM制御の変調周期T内において、同一の基本電圧ベクトルが2回出力されるパターンである。したがって、1変調周期Tにおいて、T
1(=ζ
1×T)/2の長さの基本電圧ベクトルV
1とT
3(=ζ
3×T)/2の長さの基本電圧ベクトルV
3とがそれぞれ2回ずつ電力変換部10から出力される。
【0040】
また、PWM信号出力部37は、調整部35を通過した出力時間比率ζ
1_lim、ζ
3_limに基づいて算出した出力時間比率ζ
0で基本電圧ベクトルV
0が出力されるように、PWM信号Sを生成する。なお、基本電圧ベクトルV
1、V
3と同様に、基本電圧ベクトルV
0は、1変調周期Tにおいて、電力変換部10からT
0(=ζ
0×T)/2の長さで2回出力される。
【0041】
かかるPWM信号出力部37は、例えば、下記式(1)の演算によって、基本電圧ベクトルV
0の出力時間比率ζ
0を求めることができる。また、下記式(1)の演算は、PWM信号出力部37ではなく演算部34によって演算し、演算部34からPWM信号出力部37へ通知することもできる。PWM信号出力部37は、出力時間比率ζ
x_lim、ζ
y_lim、ζ
0に基づいて、PWM信号Sを生成し、かかるPWM信号Sにオンディレイ補正を施したPWM信号Sを出力する。
【数1】
【0042】
図6は、基本電圧ベクトルとPWM信号と母線電流I
dcとの関係を示す図である。
図6に示すように、PWM信号出力部37は、基本電圧ベクトルV
1を出力する場合、PWM信号Supをアクティブレベル(例えば、Highレベル)にし、PWM信号Svp、Swpをノンアクティブレベル(例えば、Lowレベル)にする。
【0043】
また、PWM信号出力部37は、基本電圧ベクトルV
3を出力する場合、PWM信号Sup、Svpをアクティブレベル(例えば、Highレベル)にし、PWM信号Swpをノンアクティブレベル(例えば、Lowレベル)にする。また、PWM信号出力部37は、基本電圧ベクトルV
0を出力する場合、PWM信号Sup、Svp、Swpをノンアクティブレベル(例えば、Lowレベル)にする。
【0044】
PWM信号出力部37は、例えば、PWM信号Sup、Svp、Swpをそれぞれ反転した信号をPWM信号Sun、Svn、Swnとし、かかるPWM信号Sにオンディレイ補正を施して電力変換部10へPWM信号Sとして出力する。なお、電力変換部10は、PWM信号Sを増幅してスイッチング素子Swへ出力する増幅回路を備えることもできる。
【0045】
図7は、3相電圧の変調率と領域との関係を示す図である。PWM信号出力部37は、例えば、
図7に示すように、出力時間比率ζ
x_lim、ζ
y_limに基づき、領域に応じた3相電圧v
u、v
v、v
wの変調率ζ
u、ζ
v、ζ
wを演算することができる。PWM信号出力部37は、例えば、変調率ζ
u、ζ
v、ζ
wとアップダウンカウンタのカウンタ値とを比較することで、変調率ζ
u、ζ
v、ζ
wに応じたデューティ比のPWM信号Sを生成することができる。
【0046】
[2.2.3相電流検出部31]
3相電流検出部31は、演算部34によって演算される取得タイミングに基づいて、電流検出部13によって検出された母線電流I
dcを取得し、相電流i
u、i
v、i
wを求める。
【0047】
3相電流検出部31は、
図6に示すように、電力変換部10から出力される基本電圧ベクトルの種類によって、母線電流I
dcに基づいて検出される相電流が相電流i
u、i
v、i
wのうちいずれであるかがわかる。
【0048】
図8は、合成ベクトルv
αβ**が領域1に含まれる場合において、電力変換部10から出力される基本電圧ベクトルとPWM信号Sup、Svp、Swpと検出電流との関係例を示す図である。
図8に示すように、変調周期Tにおいて、基本電圧ベクトルがV
0→V
1→V
3→V
3→V
1→V
0の順に出力されるように、PWM信号Sup、Svp、Swpが出力される。
【0049】
電力変換部10から基本電圧ベクトルV
1が出力される場合、電動機3のU相からV相およびW相へ電流が流れる。そのため、この場合に電流検出部13によって検出される母線電流I
dcは、相電流i
uと一致する。したがって、3相電流検出部31は、基本電圧ベクトルV
1が出力されるタイミングで電流検出部13によって検出される母線電流I
dcを取得することにより、相電流i
uを検出することができる。
【0050】
また、電力変換部10から基本電圧ベクトルV
3が出力される場合、電動機3のU相およびV相からW相へ電流が流れる。そのため、この場合に電流検出部13によって検出される母線電流I
dcは、相電流i
wの反転値と一致する。したがって、3相電流検出部31は、基本電圧ベクトルV
3が出力されるタイミングで電流検出部13によって検出される母線電流I
dcを取得し、かかる母線電流I
dcを反転することにより相電流i
wを検出することができる。
【0051】
同様に、3相電流検出部31は、基本電圧ベクトルV
2が出力されるタイミングの母線電流I
dcを取得して相電流i
wを検出し、基本電圧ベクトルV
4が出力されるタイミングの母線電流I
dcを取得して相電流i
vを検出することができる。また、3相電流検出部31は、基本電圧ベクトルV
6が出力されるタイミングの母線電流I
dcを取得し反転することにより相電流i
uを検出し、基本電圧ベクトルV
5が出力されるタイミングの母線電流I
dcを取得し反転することにより相電流i
vを検出することができる。
【0052】
このように、各領域では、2つの基本電圧ベクトルV
x、V
yで2つの相電流を検出することができる。3相電流検出部31は、例えば、0=i
u+i
v+i
wであることを利用して、検出した2つの相電流に基づいて、残りの相電流を検出することができる。3相電流検出部31は、例えば、合成ベクトルv
αβ**が領域1に含まれる場合において、相電流i
uと相電流i
wとから相電流i
vを検出することができる。
【0053】
3相電流検出部31は、電力変換部10から出力されている基本電圧ベクトルの情報を演算部34から取得し、母線電流I
dcに基づいて相電流i
u、i
v、i
wを検出することができる。例えば、3相電流検出部31は、電力変換部10から出力されている基本電圧ベクトルがV
1である場合に電流検出部13によって検出される母線電流I
dcに基づき、相電流i
uを検出することができる。
【0054】
なお、
図6に示すように、基本電圧ベクトルV
1、V
2、V
4が出力された場合の母線電流I
dcは、正極性の相電流i
u、i
v、i
wであり、以下においては、便宜上、基本電圧ベクトルV
1、V
2、V
4を正極性基本電圧ベクトルと呼ぶ場合がある。また、基本電圧ベクトルV
3、V
5、V
6が出力された場合の母線電流I
dcは、負極性の相電流i
u、i
v、i
wであり、以下においては、便宜上、基本電圧ベクトルV
3、V
5、V
6を負極性基本電圧ベクトルと呼ぶ場合がある。
【0055】
[2.3.指令生成部32]
図4に示すように、指令生成部32は、加算部51と、積分部52と、3相2相変換部53と、回転座標変換部54と、電流指令出力部55と、電流制御部56と、回転座標変換部57とを備える。
【0056】
加算部51は、周波数指令f
*にスリップ周波数f
slipを加算する。積分部52は、加算部51の加算結果を積分して位相θを求める。なお、位相θは、その他の公知の方法を用いて求めることもでき、位相θを検出する構成は、
図4に示す構成に限定されない。
【0057】
3相2相変換部53は、公知の3相2相変換によって、相電流i
u、i
v、i
wから、固定座標上の直交した2軸のα軸成分であるα軸電流i
αとβ軸成分であるβ軸電流i
βを求める。回転座標変換部54は、公知のαβ/dq変換によって、αβ軸座標系の成分であるα軸電流i
αとβ軸電流i
βを、位相θに基づき、回転座標系であるdq軸座標系のd軸成分であるd軸電流i
dとq軸成分であるq軸電流i
qへ変換する。
【0058】
電流指令出力部55は、d軸電流指令i
d*とq軸電流指令i
q*を出力する。電流制御部56は、d軸電流指令i
d*とd軸電流i
dとの偏差がゼロになるようにPI(比例積分)制御を行ってd軸電圧指令v
d*を生成する。また、電流制御部56は、q軸電流指令i
q*とq軸電流i
qとの偏差がゼロになるようにPI制御を行ってq軸電圧指令v
q*を生成する。
【0059】
回転座標変換部57は、公知のdq/αβ変換によって、dq軸座標系の成分であるd軸電圧指令v
d*およびq軸電圧指令v
q*をαβ軸座標系の成分である電圧指令ベクトルv
αβ*へ座標変換を行う。なお、指令生成部32は、
図4に示す構成に限定されず、例えば、電圧指令ベクトルv
αβ*を生成する構成であればよい。
【0060】
[2.4.合成部33]
合成部33は、電圧指令ベクトルv
αβ*に補正ベクトルΔv
αβを合成して合成ベクトルv
αβ**を生成する。かかる合成部33は、
図4に示すように、加算部61、62を備え、下記式(2)の演算を行う。
【数2】
【0061】
加算部61は、α軸電圧指令v
α*とα軸補正値Δv
αとを加算し、α軸電圧指令v
α**を求める。加算部62は、β軸電圧指令v
β*とβ軸補正値Δv
βとを加算し、β軸電圧指令v
β**を求める。α軸電圧指令v
α**は、合成ベクトルv
αβ**のα軸成分であり、β軸電圧指令v
β**は、合成ベクトルv
αβ**のβ軸成分である。
【0062】
[2.5.演算部34]
演算部34は、合成ベクトルv
αβ**に対応する複数の基本電圧ベクトルV
x、V
yの電力変換部10からの出力時間比率ζ
x、ζ
yを演算する。
【0063】
演算部34は、
図4に示すように、領域判定部71と、時間比率演算部72と、出力ベクトル通知部73とを備える。領域判定部71は、合成ベクトルv
αβ**が含まれる領域が領域1〜6(
図2、
図3参照)のうちいずれの領域に存在するかを判定する。例えば、領域判定部71は、合成ベクトルv
αβ**の位相θvを求め、かかる位相θvに基づいて、合成ベクトルv
αβ**が含まれる領域を判定することができる。
【0064】
時間比率演算部72は、領域判定部71によって判定された領域に対応する複数の基本電圧ベクトルV
x、V
yの出力時間比率ζ
x、ζ
yを演算する。「領域に対応する複数の基本電圧ベクトル」は、合成ベクトルv
αβ**を挟む60度位相差を有する2つの有効電圧ベクトルである基本電圧ベクトルV
x、V
yである。
【0065】
ここで、出力時間比率ζ
k(k=x、y、0)の基本電圧ベクトルV
k(k=x、y、0)の平均値である平均電圧ベクトルvは、例えば、下記式(3)に示すように表すことができる。なお、基本電圧ベクトルV
0に代えて基本電圧ベクトルV
7を用いてもよく、2つの基本電圧ベクトルV
0、V
7を用いてもよい。
【数3】
【0066】
また、出力時間比率ζ
kは、下記式(4)によって表すことができ、出力時間比率ζ
x、ζ
y、ζ
0の積算値は、下記式(5)のように表すことができる。なお、式(4)において、「t
k」は、基本電圧ベクトルV
kの出力時間である。
【数4】
【0067】
図3に示すように、合成ベクトルv
αβ**が領域1に存在する場合、合成ベクトルv
αβ**のα軸成分であるα軸電圧指令v
α**とβ軸成分であるβ軸電圧指令v
β**は、それぞれ下記式(5)のように表すことができる。
【数5】
【0068】
上記式(6)において、「V
α1」は、基本電圧ベクトルV
1のα軸変調率(V
α1=1)であり、「V
β1」は、基本電圧ベクトルV
1のβ軸変調率(V
β1=0)である。また、「V
α3」は、基本電圧ベクトルV
3のα軸変調率(V
α3=1/2)であり、「V
β3」は、基本電圧ベクトルV
3のβ軸変調率(V
β3=√(3/2))である。
【0069】
したがって、例えば、出力時間比率ζ
1、ζ
3は、下記式(7)、(8)のように表すことができる。時間比率演算部72は、例えば、下記式(7)、(8)の演算を行って、出力時間比率ζ
1、ζ
3を求めることができる。
【数6】
【0070】
時間比率演算部72は、合成ベクトルv
αβ**が領域1(
図3参照)以外に存在する場合も同様に、基本電圧ベクトルV
x、V
yのα軸変調率およびβ軸変調率とα軸電圧指令v
α**およびβ軸電圧指令v
β**に基づいて、出力時間比率ζ
x、ζ
yを演算することができる。
【0071】
出力ベクトル通知部73は、電力変換部10から出力されている基本電圧ベクトルの情報を3相電流検出部31へ通知する。これにより、3相電流検出部31は、母線電流I
dcが相電流i
u、i
v、i
wのうちいずれに対応するかを判定することができる。
【0072】
[2.6.調整部35]
調整部35は、リミッタ90を備える。リミッタ90は、出力時間比率ζ
x、ζ
yが下限値ζ
thよりも小さくならないように、出力時間比率ζ
x、ζ
yを調整し、出力時間比率ζ
x_lim、ζ
y_limとして出力する。
【0073】
例えば、リミッタ90は、出力時間比率ζ
xが下限値ζ
thよりも小さい場合、下限値ζ
thを出力時間比率ζ
x_limとして出力する。また、リミッタ90は、出力時間比率ζ
yが下限値ζ
thよりも小さい場合、下限値ζ
thを出力時間比率ζ
y_limとして出力する。
【0074】
一方、リミッタ90は、出力時間比率ζ
xが下限値ζ
th以上である場合、出力時間比率ζ
xを出力時間比率ζ
x_limとして出力する。また、リミッタ90は、出力時間比率ζ
yが下限値ζ
th以上である場合、出力時間比率ζ
yを出力時間比率ζ
y_limとして出力する。
【0075】
[2.7.補正ベクトル生成部36]
補正ベクトル生成部36は、調整部35による調整結果に基づいて、補正ベクトルΔv
αβを生成する。例えば、補正ベクトル生成部36は、出力時間比率ζ
x、ζ
yから出力時間比率ζ
x_lim、ζ
y_limを減算し、かかる減算結果に基づいて、補正ベクトルΔv
αβを演算する。補正ベクトルΔv
αβには、αβ軸座標系におけるα軸成分であるα軸補正値Δv
αとβ軸成分であるβ軸補正値Δv
βが含まれる。
【0076】
かかる補正ベクトル生成部36は、減算部81と、補正ベクトル演算部82とを備える。減算部81は、出力時間比率ζ
x、ζ
yから出力時間比率ζ
x_lim、ζ
y_limを減算し、時間比率差分Δζ
x、Δζ
yを求める。減算部81は、例えば、下記式(9)の演算により、時間比率差分Δζ
x、Δζ
yを求める。
【数7】
【0077】
次に、補正ベクトル生成部36は、例えば、下記式(10)の演算によって、時間比率差分Δζ
x、Δζ
yに基づいて、補正ベクトルΔv
αβを求める。なお、下記式(10)において、「V
αx」は、基本電圧ベクトルV
xのα軸成分であり、「V
βx」は、基本電圧ベクトルV
xのβ軸成分であり、「V
αy」は、基本電圧ベクトルV
yのα軸成分であり、「V
βy」は、基本電圧ベクトルV
yのβ軸成分である。
【数8】
【0078】
また、補正ベクトル生成部36は、直流母線15の電圧(以下、母線電圧V
dcと記載する)が変動する場合、予め設定した基準電圧V
dczを考慮して、補正ベクトルΔv
αβを求めることができる。補正ベクトル生成部36は、例えば、下記式(11)の演算によって、補正ベクトルΔv
αβを求めることができる。
【数9】
【0079】
ここで、出力時間比率ζ
x、ζ
y、ζ
x_lim、ζ
y_limおよび合成ベクトルv
αβ**との関係をαβ軸座標上で説明する。なお、以下においては、説明の便宜上、ある演算周期における演算結果には、「(0)」の添え字を付し、次の演算周期における演算結果には、「(1)」の添え字を付して説明する。
【0080】
図9は、合成ベクトルv
αβ(1)**が領域1(
図3参照)に存在する場合における合成ベクトルv
αβ(0)**と出力時間比率ζ
1(0)、ζ
3(0)、ζ
1(0)_lim、ζ
3(0)_limとの関係をαβ軸座標系において表した図である。
【0081】
図9に示す例では、合成ベクトルv
αβ(0)**から演算される出力時間比率ζ
1(0)、ζ
3(0)が共に下限値ζ
thよりも短いため、出力時間比率ζ
1(0)_lim、ζ
3(0)_limが下限値ζ
thに設定される。これにより、電流検出ができないような短い基本電圧ベクトルが出力されることを抑制することができる。
【0082】
一方、出力時間比率ζ
1(0)、ζ
3(0)よりも大きな出力時間比率ζ
1(0)_lim、ζ
3(0)_limで基本電圧ベクトルが電力変換部10から出力されるため、出力電圧の誤差が生じる。
【0083】
そこで、補正ベクトル生成部36は、
図10に示すように、出力時間比率ζ
1(0)、ζ
3(0)と下限値ζ
thとの差分である時間比率差分Δζ
1(0)、Δζ
3(0)を求める。時間比率差分Δζ
1(0)は、基本電圧ベクトルV
6の出力時間比率で表され、時間比率差分Δζ
3(0)は、基本電圧ベクトルV
4の出力時間比率で表される。
図10は、時間比率差分Δζ
1(0)、Δζ
3(0)で特定される補正ベクトルΔv
αβ(0)と、次の演算周期で演算される電圧指令ベクトルv
αβ(1)*と、合成ベクトルv
αβ(1)**との関係をαβ軸座標系において表した図である。
【0084】
そして、補正ベクトル生成部36は、
図10に示すように、時間比率差分Δζ
1(0)、Δζ
3(0)で特定される補正ベクトルΔv
αβ(0)と、次の演算周期で演算部34によって演算される電圧指令ベクトルv
αβ(1)*とを合成して、合成ベクトルv
αβ(1)**を求める。これにより、前回の演算周期によって生じる出力電圧の誤差を補正することができ、出力電圧の精度が低下することを抑制することができる。
【0085】
図11は、次の演算周期における合成ベクトルv
αβ(1)**と、出力時間比率ζ
1(1)、ζ
3(1)、ζ
1(1)_lim、ζ
3(1)_limとの関係をαβ軸座標系において表した図である。
図11に示すように、合成ベクトルv
αβ(1)**によって演算される出力時間比率ζ
1(1)、ζ
3(1)は、共に下限値ζ
thよりも短いため、出力時間比率ζ
1(1)_lim、ζ
3(1)_limが下限値ζ
thに設定される。これにより、電流検出ができないような短い基本電圧ベクトルが出力されることを抑制することができる。
【0086】
補正ベクトル生成部36は、以降同様の処理を行うことで、電流検出ができないような短い基本電圧ベクトルが出力されることを抑制しつつ、出力電圧の精度低下を精度よく抑制することができる。
【0087】
ところで、PWM信号出力部37によって変調率ζ
u、ζ
v、ζ
wに対し、オンディレイ補正やオン電圧補償を施した場合、基本電圧ベクトルの出力幅が短くなり、相電流の検出を安定して行うことができないおそれがある。
【0088】
そこで、補正ベクトル生成部36は、オンディレイ補正やオン電圧補償による変調率ζ
u、ζ
v、ζ
wの補償量は、電圧誤差として補正ベクトルΔv
αβに加え、次の演算周期で合成ベクトルv
αβ**として出力することができる。
【0089】
これにより、3相電圧の変調率ζ
u、ζ
v、ζ
wに対してオンディレイ補正やオン電圧補償を行った場合であっても、電流検出ができないような短い基本電圧ベクトルが出力されることを抑制しつつ、出力電圧の精度低下を精度よく抑制することができる。
【0090】
なお、オンディレイ補正とは、PWM信号Sがオンからオフになるタイミングを遅延させて上アームと下アームとが共にオンになる状態を回避するオンディレイによって生じる電圧誤差を補償する処理である。また、オン電圧補償とは、電力変換部10のスイッチング素子Swのオン電圧降下による電圧誤差を補償する処理である。
【0091】
3相電圧の変調率ζ
u、ζ
v、ζ
wに対してオンディレイ補正を行う場合、U相、V相およびW相の3相のうち、スイッチングする2相の電流極性が同極性であると、2相のPWMの幅が一様に増加もしくは減少することから、正極性基本電圧ベクトルの時間比率はオンディレイ補正前後で変わらないが、負極性基本電圧ベクトルの時間比率については、オンディレイ補正分変化が生じる。
【0092】
また、U相、V相およびW相の3相のうち、スイッチングする2相の電流極性が異極性である場合、負極性基本電圧ベクトルについては、同極性の場合と同じであるが、正極性基本電圧ベクトルについては、1相のPWM幅が増加すると残りの相のPWM幅が減少することから、同極性の場合に比べ、2倍の変化が生じる。
【0093】
そこで、補正ベクトル生成部36は、PWM信号出力部37によってオンディレイ補正が行われる場合、スイッチングを行う相の電流極性を
図12に示すテーブルに基づいて決定する。
図12は、領域と電流極性との関係を示す図である。
【0094】
図12に示すように、補正ベクトル生成部36は、例えば、合成ベクトルv
αβ**が領域1に存在する場合、相電流i
uのsign関数の演算結果をI
sig_pとし、相電流i
vのsign関数の演算結果をI
sig_nとする。
【0095】
例えば、補正ベクトル生成部36は、相電流i
uがプラスである場合、I
sig_p=1とし、相電流i
uがマイナスである場合、I
sig_p=−1とする。また、補正ベクトル生成部36は、相電流i
vがプラスである場合、I
sig_n=1とし、相電流i
vがマイナスである場合、I
sig_n=−1とする。「I
sig_p」は、正極性基本電圧ベクトル出力時に変化する相の電流極性であり、「I
sig_n」は、負極性基本電圧ベクトル出力時に変化する相の電流極性である。
【0096】
さらに、補正ベクトル生成部36は、I
sig_pとI
sig_nとの乗算結果に基づいて、補償係数V
p_compk、V
n_compkを決定する。「V
p_compk」は、正極性電圧補償係数であり、「V
n_compk」は、負極性電圧補償係数である。
【0097】
例えば、補正ベクトル生成部36は、
図13に示す補償係数テーブルを有しており、I
sig_pとI
sig_nとの乗算結果がゼロ以上である場合、V
p_compk=0とし、V
n_compk=1とする。また、補正ベクトル生成部36は、I
sig_pとI
sig_nとの乗算結果がマイナスである場合、V
p_compk=2とし、V
n_compk=1とする。
図13は、補償係数テーブルの一例を示す図である。
【0098】
また、オン電圧補償についても同様に考えることができるため、オンディレイおよびオン電圧による電圧誤差の時間比率ζ
p_compk、ζ
n_compkは、下記式(12)に示すように表すことができる。
【数10】
【0099】
なお、上記式(12)において、「DT」は、オンディレイ時間であり、「fc」は、PWM制御の変調周波数である。また、「V
on」は、オン電圧補償電圧値であり、「ζ
p_compk」は、正極性電圧ベクトルにおけるオンディレイ補正およびオン電圧による電圧誤差の時間比率であり、「ζ
n_compk」は、負極性電圧ベクトルにおけるオンディレイ補正およびオン電圧による電圧誤差の時間比率である。
【0100】
補正ベクトル生成部36は、例えば、下記式(13)の演算により、補正ベクトルΔv
αβを求める。下記式(13)において、「V
αp」は、正極性基本電圧ベクトルのα軸成分であり、「V
βp」は、正極性基本電圧ベクトルのβ軸成分であり、「V
αn」は、負極性の基本電圧ベクトルのα軸成分であり、「V
βn」は、負極性の基本電圧ベクトルのβ軸成分である。また、下記式(13)において、「Δζ
p」は、合成ベクトルv
αβ**に対応する正極性基本電圧ベクトルの出力時間比率のリミッタ90通過後の出力時間比率であり、「Δζ
n」は、合成ベクトルv
αβ**に対応する負極性基本電圧ベクトルの出力時間比率のリミッタ90通過後の出力時間比率である。
【数11】
【0101】
[3.制御部20による処理]
図14は、制御部20による処理の流れを示すフローチャートである。
図14に示す処理は、例えば、所定の演算周期で繰り返し実行される処理である。
【0102】
図14に示すように、指令生成部32は、電圧指令ベクトルv
αβ*を生成する(ステップS10)。次に、合成部33は、電圧指令ベクトルv
αβ*に補正ベクトルΔv
αβを合成して合成ベクトルv
αβ**を生成する(ステップS11)。
【0103】
次に、演算部34は、合成ベクトルv
αβ**に対応する複数の基本電圧ベクトルV
x、V
yの電力変換部10からの出力時間比率ζ
x、ζ
yを演算する(ステップS12)。調整部35は、出力時間比率ζ
x、ζ
yが下限値ζ
thよりも小さくならないように、出力時間比率ζ
x、ζ
yを調整し、出力時間比率ζ
x_lim、ζ
y_limとして出力する(ステップS13)。
【0104】
PWM信号出力部37は、出力時間比率ζ
x_limで基本電圧ベクトルV
xが出力され、出力時間比率ζ
y_limで基本電圧ベクトルV
yが出力されるように、PWM信号Sを生成する(ステップS14)。補正ベクトル生成部36は、出力時間比率ζ
x、ζ
yから出力時間比率ζ
x_lim、ζ
y_limを減算し、かかる減算結果に基づいて、補正ベクトルΔv
αβを演算する(ステップS15)。
【0105】
このように、制御部20は、ステップS10において、電圧指令ベクトルv
αβ*を生成し、ステップS11で、電圧指令ベクトルv
αβ*に補正ベクトルΔv
αβを合成して合成ベクトルv
αβ**を生成する。さらに、制御部20は、ステップS12、S13により、合成ベクトルv
αβ**に応じた複数の基本電圧ベクトルの出力時間を調整し、ステップS15において、ステップS12、S13における調整の結果に基づき、補正ベクトルΔv
αβを生成する。制御部20は、かかる処理を繰り返し実行することで、電力変換部10から出力される基本電圧ベクトルの出力幅を一定以上になるように抑制しつつ、電力変換部10から出力される電圧の精度を向上させることができる。
【0106】
なお、上述した実施形態では、演算部34は、基本電圧ベクトルの出力時間の情報として出力時間比率ζ
x、ζ
yを演算したが、演算部34は、基本電圧ベクトルの出力時間の情報として出力時間T
x(=T×ζ
x)、T
y(=T×ζ
y)を演算することもできる。この場合、調整部35は、出力時間T
x、T
yが下限値T
thよりも小さくならないように、出力時間T
x、T
yを調整し、出力時間T
x_lim、T
y_limとして出力する。補正ベクトル生成部36の減算部81は、出力時間T
x、T
yから出力時間T
x_lim、T
y_limを減算し、時間差分ΔT
x(=T
x−T
x_lim)、ΔT
y(=T
y−T
y_lim)を求める。補正ベクトル生成部36は、時間差分ΔT
x、ΔT
yとPWM制御の変調周期Tに基づいて、時間比率差分Δζ
x=(ΔT
x/T)、Δζ
y=(ΔT
y/T)を演算する。
【0107】
また、上述した実施形態では、制御部20は、複数の基本電圧ベクトルの調整前後の出力時間の情報の差(例えば、出力時間比率ζ
x、ζ
yや時間差分ΔT
x、ΔT
y)に応じた補正ベクトルを生成するが、補正ベクトルの生成はかかる処理に限定されない。すなわち、合成ベクトルv
αβ**そのものによって電力変換部10から出力される基本電圧ベクトルによる出力電圧と出力時間が調整された基本電圧ベクトルによる出力電圧との差が、次の合成ベクトルv
αβ**で調整されるように、補正ベクトルを生成することができればよい。
【0108】
以上のように、実施形態に係る電力変換装置1は、複数のスイッチング素子Swを有する電力変換部10と、複数のスイッチング素子Swを制御する制御部20(電圧ベクトルの制御装置の一例)とを備える。制御部20は、指令生成部32と、合成部33と、調整部35と、補正ベクトル生成部36とを備える。指令生成部32は、電圧指令ベクトルv
αβ*を生成する。合成部33は、電圧指令ベクトルv
αβ*に補正ベクトルΔv
αβを合成して合成ベクトルv
αβ**を生成する。調整部35は、合成ベクトルv
αβ**に対応する複数の基本電圧ベクトルV
x、V
y、(複数の電圧ベクトルの一例)の電力変換部10からの出力時間を調整する。補正ベクトル生成部36は、調整部35による調整結果に基づき、補正ベクトルΔv
αβを生成する。
【0109】
このように、電圧ベクトルの出力時間を調整することで、電圧ベクトルの出力時間を確保することができ、これにより相電流i
u、i
v、i
wの検出を安定して行うことができる。また、かかる電圧ベクトルの出力時間の調整結果に基づいて補正ベクトルΔv
αβを生成し電圧指令ベクトルv
αβ*と合成することで、電圧ベクトルの出力時間の調整によって生じる電圧誤差を補償することができ、電圧精度の低下を抑制することができる。
【0110】
また、補正ベクトル生成部36は、調整部35の調整結果として調整部35による調整量に基づいて、調整量に応じた補正ベクトルΔv
αβを生成する。
【0111】
このように、補正ベクトル生成部36は、調整部35による調整量に応じた補正ベクトルΔv
αβを生成することから、出力時間の調整によって生じる電圧誤差を精度よく補償することができる。
【0112】
また、補正ベクトル生成部36は、調整部35による複数の基本電圧ベクトルの調整前後の出力時間の差(例えば、時間比率差分Δζ
x、Δζ
y)を調整部35による調整量として、補正ベクトルΔv
αβを生成する。
【0113】
このように、補正ベクトル生成部36は、複数の電圧ベクトルの調整前後の出力時間の差に応じた補正ベクトルを生成することから、出力時間の調整によって生じる電圧誤差をより精度よく補償することができる。
【0114】
また、演算部34は、合成ベクトルv
αβ**に対応する複数の基本電圧ベクトルの電力変換部10からの出力時間の情報として、基本電圧ベクトルV
x、V
yの出力時間の情報(例えば、出力時間比率ζ
x、ζ
y)を演算する。調整部35は、出力時間の情報がそれぞれ下限値(例えば、下限値ζ
th)以上になるように調整するリミッタ90を備える。
【0115】
かかるリミッタ90により電圧ベクトルの出力時間を下限値以上にすることで、電圧ベクトルの出力時間を容易に確保でき、これにより電流の検出を安定して行うことができる。
【0116】
また、補正ベクトル生成部36は、複数の基本電圧ベクトルの出力時間の情報それぞれのリミッタ90の通過前後の差を調整部35の調整結果のとして補正ベクトルΔv
αβを生成する。
【0117】
このように、補正ベクトル生成部36は、リミッタ90の通過前後の差に基づいて補正ベクトルΔv
αβを生成することから、リミッタ90によって電圧ベクトルの出力時間が調整された場合に、かかる調整結果に応じた補正ベクトルΔv
αβを生成することで、電圧精度の低下を抑制することができる。
【0118】
また、出力時間の情報は、例えば、出力時間比率ζ
x、ζ
y(出力時間の比率を示す情報の一例)または出力時間T
x、T
y(出力時間を示す情報の一例)である。
【0119】
調整される出力時間の情報が出力時間比率ζ
x、ζ
yである場合、たとえば、PWM制御の変調周期Tに応じて下限の比率を設定することによって、出力時間を適切に調整できる。また、調整される出力時間の情報が出力時間T
x、T
yである場合、PWM制御の変調周期Tに関わらず、出力時間を適切に調整できる。
【0120】
また、電力変換装置1は、PWM信号出力部37(駆動信号生成部の一例)を備える。PWM信号出力部37は、リミッタ90の通過後の複数の電圧ベクトルの出力時間の情報に基づいて、オンディレイ補正が施され複数のスイッチング素子Swを駆動するPWM信号S(駆動信号の一例)を生成する。補正ベクトル生成部36は、調整部35の調整による電圧誤差に加えオンディレイ補正による電圧誤差を補償するように補正ベクトルΔv
αβを生成する。
【0121】
これにより、オンディレイ補正に起因する電圧誤差を抑制しつつも、電圧ベクトルの出力時間を容易に確保できる。
【0122】
また、補正ベクトル生成部36は、調整部35の調整による電圧誤差に加えスイッチング素子Swのオン電圧による電圧誤差を補償するように補正ベクトルΔv
αβを生成する。
【0123】
これにより、スイッチング素子Swのオン電圧に起因する電圧誤差を抑制しつつも、電圧ベクトルの出力時間を容易に確保できる。
【0124】
また、電力変換部10は、制御部20による制御によって直流母線15から供給される直流電力を交流電力へ変換する。補正ベクトル生成部36は、調整部35による調整結果と直流電圧変化V
dcz/V
dc(直流母線15の電圧の変化の一例)に基づいて補正ベクトルΔv
αβを生成する。
【0125】
これにより、母線電圧V
dcが変動する場合であっても、かかる変動に基づく電圧誤差を抑制する補正ベクトルΔv
αβを生成することができる。
【0126】
上述した電力変換装置1は、電力変換部10と、指令生成部32と、「指令生成部32によって前回生成された電圧指令ベクトルに対応する電圧ベクトルの電力変換部10からの出力時間を下限値以上になるように調整した場合に当該調整により生じる電圧誤差を補償するように指令生成部32によって今回生成された電圧指令ベクトルを補正する処理を繰り返し実行する手段(以下、処理手段と記載する)」とを備える。合成部33、調整部35および補正ベクトル生成部36がかかる処理手段の一例である。
【0127】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。