特許第6369423号(P6369423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369423
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】電力変換装置、制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/24 20160101AFI20180730BHJP
【FI】
   H02P21/24
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-172343(P2015-172343)
(22)【出願日】2015年9月1日
(65)【公開番号】特開2017-50974(P2017-50974A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2017年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】福丸 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】森本 進也
(72)【発明者】
【氏名】井浦 英昭
(72)【発明者】
【氏名】木野村 浩史
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−230767(JP,A)
【文献】 特開2014−197978(JP,A)
【文献】 特開2014−033566(JP,A)
【文献】 特開2012−235582(JP,A)
【文献】 特開2015−042010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 1/00−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスイッチング素子を有する電力変換部と、
前記複数のスイッチング素子を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
電圧指令ベクトルを生成する指令生成部と、
前記電圧指令ベクトルに補正ベクトルを合成して合成ベクトルを生成する合成部と、
前記合成ベクトルに対応する複数の電圧ベクトルの前記電力変換部からの出力時間を調整する調整部と、
前記調整部による調整結果に基づき、前記補正ベクトルを生成する補正ベクトル生成部と、を備え
前記補正ベクトル生成部は、
前記調整部による前記複数の電圧ベクトルの調整前後の前記出力時間の差を調整量として、前記調整量に応じた前記補正ベクトルを生成する
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記合成ベクトルに対応する前記複数の電圧ベクトルの前記電力変換部からの出力時間の情報を演算する演算部を備え、
前記調整部は、
前記演算部によって演算された前記複数の電圧ベクトルの出力時間の情報がそれぞれ下限値以上になるように調整するリミッタを備える
ことを特徴とする請求項に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記補正ベクトル生成部は、
前記複数の電圧ベクトルの出力時間の情報それぞれの前記リミッタの通過前後の差を前記調整結果として前記補正ベクトルを生成する
ことを特徴とする請求項に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記出力時間の情報は、前記出力時間の比率を示す情報または前記出力時間を示す情報を含む
ことを特徴とする請求項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記リミッタの通過後の前記複数の電圧ベクトルの出力時間の情報に基づいて、オンディレイ補正が施され前記複数のスイッチング素子を駆動する駆動信号を生成する駆動信号生成部を備え、
前記補正ベクトル生成部は、
前記オンディレイ補正による電圧誤差を補償するように前記補正ベクトルを生成する
ことを特徴とする請求項のいずれか一つに記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記補正ベクトル生成部は、
前記スイッチング素子のオン電圧による電圧誤差を補償するように前記補正ベクトルを生成する
ことを特徴とする請求項1〜のいずれか一つに記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記電力変換部は、
前記制御部による制御によって直流母線から供給される直流電力を交流電力へ変換し、
前記補正ベクトル生成部は、
前記調整部による調整結果と前記直流母線の電圧の変化に基づいて前記補正ベクトルを生成する
ことを特徴とする請求項1〜のいずれかつに記載の電力変換装置。
【請求項8】
電圧指令ベクトルを生成する指令生成部と、
前記電圧指令ベクトルに補正ベクトルを合成して合成ベクトルを生成する合成部と、
前記合成ベクトルに応じた複数の電圧ベクトルの出力時間を調整する調整部と、
前記調整部による調整結果に基づき、前記補正ベクトルを生成する生成部と、を備え
前記生成部は、
前記調整部による前記複数の電圧ベクトルの調整前後の前記出力時間の差を調整量として、前記調整量に応じた前記補正ベクトルを生成する
ことを特徴とする電圧ベクトルの制御装置。
【請求項9】
電圧指令ベクトルを生成することと、
前記電圧指令ベクトルに補正ベクトルを合成して合成ベクトルを生成することと、
前記合成ベクトルに応じた複数の電圧ベクトルの出力時間を調整することと、
前記調整の結果に基づき、前記補正ベクトルを生成することと、を含み、
前記補正ベクトルを生成することは、
前記複数の電圧ベクトルの調整前後の前記出力時間の差を調整量として、前記調整量に応じた前記補正ベクトルを生成する
ことを特徴とする電圧ベクトルの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、電力変換装置、制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のスイッチング素子を有する電力変換部から複数の異なる電圧ベクトルを出力するように複数のスイッチング素子を制御して電力変換を行う電力変換装置が知られている。
【0003】
かかる電力変換装置は、電力変換部が電圧ベクトルを出力している間に電力変換部の電流を検出するため、電圧ベクトルの出力時間が微小な場合に電流の検出を安定して行うことが難しい場合がある。
【0004】
そこで、PWM信号の1キャリア周期または半キャリア周期において、PWM信号のデューティ比を電流検出が可能なデューティ値に補正し、次のキャリア周期でデューティ比の増減分を修正する技術が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−189670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、例えば、軽負荷の場合に、PWM信号のデューティ比の増減分を修正する期間でデューティ比が短くなりすぎて電流を検出することができず、電流の急峻な変化に対して遅れが発生するおそれがある。
【0007】
実施形態の一態様は、電流の検出を安定して行うことができるように電圧ベクトルを適切に制御する電力変換装置、制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の一態様に係る電力変換装置は、複数のスイッチング素子を有する電力変換部と、前記複数のスイッチング素子を制御する制御部とを備える。前記制御部は、指令生成部と、合成部と、調整部と、補正ベクトル生成部とを備える。前記指令生成部は、電圧指令ベクトルを生成する。前記合成部は、前記電圧指令ベクトルに補正ベクトルを合成して合成ベクトルを生成する。前記調整部は、前記合成ベクトルに対応する複数の電圧ベクトルの前記電力変換部からの出力時間を調整する、前記補正ベクトル生成部は、前記調整部による調整結果に基づき、前記補正ベクトルを生成する。
【発明の効果】
【0009】
実施形態の一態様によれば、電流の検出を安定して行うことができるように電圧ベクトルを適切に制御する電力変換装置、制御装置および制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態に係る電力変換装置の構成例を示す図である。
図2図2は、合成ベクトルの位相と領域と基本電圧ベクトルとの関係を示す図である。
図3図3は、合成ベクトルの位相と領域と基本電圧ベクトルとの関係を示す図である。
図4図4は、図1に示す制御部の構成例を示す図である。
図5図5は、領域と電圧ベクトルパターンとの関係を示す図である。
図6図6は、基本電圧ベクトルとPWM信号と母線電流との関係を示す図である。
図7図7は、3相電圧の変調率と領域との関係を示す図である。
図8図8は、合成ベクトルが領域1に含まれる場合において、電力変換部から出力される基本電圧ベクトルとPWM信号と検出電流との関係例を示す図である。
図9図9は、合成ベクトルが領域1に存在する場合における合成ベクトルと出力時間比率の関係をαβ軸座標系において表した図である。
図10図10は、時間比率差分で特定される補正ベクトルと、次の演算周期で演算される電圧指令ベクトルと、合成ベクトルとの関係をαβ軸座標系において表した図である。
図11図11は、次の演算周期における合成ベクトルと、出力時間比率との関係をαβ軸座標系において表した図である。
図12図12は、領域と電流極性との関係を示す図である。
図13図13は、補償係数テーブルの一例を示す図である。
図14図14は、制御部による処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する電力変換装置、制御装置および制御方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
[1.電力変換装置]
図1は、実施形態に係る電力変換装置1の構成例を示す図である。図1に示す電力変換装置1は、直流電源2と電動機3との間に配置される。かかる電力変換装置1は、電力変換部10と、制御部20とを備える。
【0013】
電力変換部10は、コンデンサ11と、スイッチング部12と、電流検出部13と、電圧検出部14とを備え、直流電源2から供給される直流電力を3相交流電力へ変換し、電動機3へ出力する。コンデンサ11は、直流電源2に対して並列に接続される。かかるコンデンサ11は、直流母線15a、15b(以下、直流母線15と記載する場合がある)間に接続されるコンデンサであり、主回路コンデンサとも呼ばれる。
【0014】
スイッチング部12は、例えば、3相ブリッジ回路であり、図1に示すように、複数のスイッチング素子Swup、Swun、Swvp、Swvn、Swwp、Swwn(以下、スイッチング素子Swと記載する場合がある)を有する。これら複数のスイッチング素子Swが制御部20によってON/OFF制御されることによって、直流電源2から供給される直流電力が3相交流電力へ変換され、電動機3へ出力される。なお、電力変換装置1は、電動機3に代えて電力系統へ3相交流電力を出力するものであってもよい。
【0015】
スイッチング素子Swは、例えば、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体スイッチング素子である。また、スイッチング素子Swは、次世代半導体スイッチング素子のSiC、GaNであってもよい。なお、以下において、スイッチング素子Swup、Swvp、Swwpを上アームと呼び、スイッチング素子Swun、Swvn、Swwnを下アームと呼ぶ場合がある。
【0016】
電流検出部13は、直流母線15に流れる電流を検出する。かかる電流検出部13は、たとえば、磁電変換素子であるホール素子、シャント抵抗、または、電流トランスを有し、直流母線15に流れる電流の瞬時値Idc(以下、母線電流Idcと記載する)を検出する。電圧検出部14は、直流母線15a、15b間の電圧の瞬時値Vdc(以下、母線電圧Vdcと記載する)を検出する。
【0017】
制御部20は、3相電流検出部31と、指令生成部32と、合成部33と、演算部34と、調整部35と、補正ベクトル生成部36と、PWM信号出力部37とを備える。
【0018】
かかる制御部20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力ポートなどを有するマイクロコンピュータや各種の回路を含む。かかるマイクロコンピュータのCPUがROMに記憶されているプログラムを読み出して実行することにより、3相電流検出部31、指令生成部32、合成部33、演算部34、調整部35、補正ベクトル生成部36およびPWM信号出力部37の機能が実現される。
【0019】
また、3相電流検出部31、指令生成部32、合成部33、演算部34、調整部35、補正ベクトル生成部36およびPWM信号出力部37は、それぞれ一部または全部が例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアで構成されてもよい。
【0020】
3相電流検出部31は、電流検出部13によって検出された母線電流Idcに基づき、電力変換部10と電動機3のU相、V相、W相との間に流れる電流の瞬時値i、i、i(以下、相電流i、i、iと記載する)を検出する。相電流iは、U相の電流であり、相電流iは、V相の電流であり、相電流iは、W相の電流である。
【0021】
指令生成部32は、相電流i、i、iに基づいて、例えば、相電流i、i、iが目標の電流になるように電圧指令ベクトルvαβ*を生成する。電圧指令ベクトルvαβ*は、固定座標上の直交した2軸のαβ軸成分であるα軸電圧指令vα*とβ軸電圧指令vβ*を含む。合成部33は、電圧指令ベクトルvαβ*に補正ベクトルΔvαβを合成して合成ベクトルvαβ**を生成する。かかる合成ベクトルvαβ**は、α軸電圧指令vα**とβ軸電圧指令vβ**を含む。
【0022】
演算部34は、合成ベクトルvαβ**に対応する複数の基本電圧ベクトルV、V(電圧ベクトルの一例)の電力変換部10からの出力時間比率ζ、ζを演算する。図2および図3は、合成ベクトルvαβ**の位相θvと、領域1〜6と、基本電圧ベクトルV〜Vとの関係を示す図である。
【0023】
基本電圧ベクトルは、電力変換部に設けられたスイッチング素子のオン/オフの組み合わせによって電力変換部から出力可能な電圧ベクトルである。図1に示す電力変換部10では、基本電圧ベクトルは、6つのスイッチング素子Swのオン/オフの8種類の組み合わせに対応する8種類の電圧ベクトルV〜Vである。
【0024】
基本電圧ベクトルV〜Vには、2種類のゼロ電圧ベクトルである基本電圧ベクトルV、Vと6種類の有効電圧ベクトルである基本電圧ベクトルV〜Vとが含まれる。なお、後述する例では、ゼロ電圧ベクトルとして、1つの基本電圧ベクトルVを用いているが、基本電圧ベクトルVに加えまたは代えて、基本電圧ベクトルVを用いることもできる。
【0025】
演算部34は、合成ベクトルvαβ**が含まれる領域に対応する複数の基本電圧ベクトルV、Vの出力時間比率ζ、ζを演算する。演算部34は、例えば、合成ベクトルvαβ**を挟む60度の位相差を有する2種類の基本電圧ベクトルV、Vで挟まれる領域を合成ベクトルvαβ**が存在する領域として判定する。
【0026】
演算部34は、例えば、合成ベクトルvαβ**の位相θv(=atan(vβ**/vα**))に基づいて、合成ベクトルvαβ**が含まれる領域を判定することができるが、その他の方法によって合成ベクトルvαβ**が含まれる領域を判定することもできる。
【0027】
例えば、演算部34は、0≦θv<60である場合、図3に示すように、基本電圧ベクトルV、Vを基本電圧ベクトルV、Vとし、基本電圧ベクトルV、Vの出力時間比率ζ、ζを出力時間比率ζ、ζとして演算する。
【0028】
調整部35は、リミッタ90を備え、かかるリミッタ90により出力時間比率ζ、ζが下限値ζthよりも小さくならないように、出力時間比率ζ、ζを調整し、出力時間比率ζx_lim、ζy_limとして出力する。
【0029】
例えば、調整部35は、出力時間比率ζが下限値ζthよりも小さい場合、下限値ζthを出力時間比率ζx_limとして出力する。また、調整部35は、出力時間比率ζが下限値ζthよりも小さい場合、下限値ζthを出力時間比率ζy_limとして出力する。
【0030】
一方、調整部35は、出力時間比率ζが下限値ζth以上である場合、出力時間比率ζを出力時間比率ζx_limとして出力する。また、調整部35は、出力時間比率ζが下限値ζth以上である場合、出力時間比率ζを出力時間比率ζy_limとして出力する。
【0031】
補正ベクトル生成部36は、調整部35による調整結果に基づいて、補正ベクトルΔvαβを生成する。補正ベクトルΔvαβには、αβ軸座標系におけるα軸成分であるα軸補正値Δvαとβ軸成分であるβ軸補正値Δvβが含まれる。例えば、補正ベクトル生成部36は、調整部35による調整量、例えば、出力時間比率ζ、ζと出力時間比率ζx_lim、ζy_limとの差に基づいて、補正ベクトルΔvαβを生成することができる。
【0032】
かかる補正ベクトルΔvαβは、調整部35によって出力時間比率ζ、ζの少なくとも一つが下限値ζth以上になるように調整された場合に、かかる調整によって生じる誤差を次の演算周期で補正するように補正ベクトル生成部36によって生成される。
【0033】
PWM信号出力部37は、下限値ζth以上である出力時間比率ζ、ζに応じた時間T(=ζ×T)、T(=ζ×T)で基本電圧ベクトルV、Vが出力されるように電力変換部10を制御するPWM信号Sup、Sun、Svp、Svn、Swp、Swn(以下、PWM信号Sと記載する場合がある)を生成する。なお、「T」は、PWM制御の変調周期である。
【0034】
これにより、電力変換部10から出力される基本電圧ベクトルV、Vの出力幅を一定以上になるように抑制することができ、電流の検出を安定して行うことができる。また、出力時間比率ζ、ζ、ζx_lim、ζy_limを演算する毎に、補正ベクトルΔvαβを次の演算周期で電圧指令ベクトルvαβ*と合成することで、電力変換部10から出力される電圧の精度を向上させることができる。以下、制御部20の構成についてさらに詳細に説明する。
【0035】
[2.制御部20]
図4は、図1に示す制御部20の構成例を示す図である。上述したように、制御部20は、3相電流検出部31と、指令生成部32と、合成部33と、演算部34と、調整部35と、補正ベクトル生成部36と、PWM信号出力部37とを備えている。以下、PWM信号出力部37、3相電流検出部31、指令生成部32、合成部33、演算部34、調整部35、補正ベクトル生成部36の順に説明する。
【0036】
[2.1.PWM信号出力部37]
PWM信号出力部37は、図3に示す領域1〜6のうち、合成ベクトルvαβ**が含まれる領域に対応する複数の基本電圧ベクトルV、Vと基本電圧ベクトルVとに応じた電圧ベクトルパターンで出力する。
【0037】
図5は、領域1〜6と電圧ベクトルパターンとの関係を示す図である。図5に示すように、PWM信号出力部37は、例えば、0≦θv<60である場合、V→V→V→V→V→Vの順に基本電圧ベクトルが出力されるように電力変換部10を制御するPWM信号Sを生成する。
【0038】
PWM信号出力部37は、調整部35を通過した出力時間比率ζ1_limで基本電圧ベクトルVが出力され、調整部35を通過した出力時間比率ζ3_limで基本電圧ベクトルVが出力されるように、PWM信号Sを生成する。
【0039】
なお、図5に示す電圧ベクトルパターンは、PWM制御の変調周期T内において、同一の基本電圧ベクトルが2回出力されるパターンである。したがって、1変調周期Tにおいて、T(=ζ×T)/2の長さの基本電圧ベクトルVとT(=ζ×T)/2の長さの基本電圧ベクトルVとがそれぞれ2回ずつ電力変換部10から出力される。
【0040】
また、PWM信号出力部37は、調整部35を通過した出力時間比率ζ1_lim、ζ3_limに基づいて算出した出力時間比率ζで基本電圧ベクトルVが出力されるように、PWM信号Sを生成する。なお、基本電圧ベクトルV、Vと同様に、基本電圧ベクトルVは、1変調周期Tにおいて、電力変換部10からT(=ζ×T)/2の長さで2回出力される。
【0041】
かかるPWM信号出力部37は、例えば、下記式(1)の演算によって、基本電圧ベクトルVの出力時間比率ζを求めることができる。また、下記式(1)の演算は、PWM信号出力部37ではなく演算部34によって演算し、演算部34からPWM信号出力部37へ通知することもできる。PWM信号出力部37は、出力時間比率ζx_lim、ζy_lim、ζに基づいて、PWM信号Sを生成し、かかるPWM信号Sにオンディレイ補正を施したPWM信号Sを出力する。
【数1】
【0042】
図6は、基本電圧ベクトルとPWM信号と母線電流Idcとの関係を示す図である。図6に示すように、PWM信号出力部37は、基本電圧ベクトルVを出力する場合、PWM信号Supをアクティブレベル(例えば、Highレベル)にし、PWM信号Svp、Swpをノンアクティブレベル(例えば、Lowレベル)にする。
【0043】
また、PWM信号出力部37は、基本電圧ベクトルVを出力する場合、PWM信号Sup、Svpをアクティブレベル(例えば、Highレベル)にし、PWM信号Swpをノンアクティブレベル(例えば、Lowレベル)にする。また、PWM信号出力部37は、基本電圧ベクトルVを出力する場合、PWM信号Sup、Svp、Swpをノンアクティブレベル(例えば、Lowレベル)にする。
【0044】
PWM信号出力部37は、例えば、PWM信号Sup、Svp、Swpをそれぞれ反転した信号をPWM信号Sun、Svn、Swnとし、かかるPWM信号Sにオンディレイ補正を施して電力変換部10へPWM信号Sとして出力する。なお、電力変換部10は、PWM信号Sを増幅してスイッチング素子Swへ出力する増幅回路を備えることもできる。
【0045】
図7は、3相電圧の変調率と領域との関係を示す図である。PWM信号出力部37は、例えば、図7に示すように、出力時間比率ζx_lim、ζy_limに基づき、領域に応じた3相電圧v、v、vの変調率ζ、ζ、ζを演算することができる。PWM信号出力部37は、例えば、変調率ζ、ζ、ζとアップダウンカウンタのカウンタ値とを比較することで、変調率ζ、ζ、ζに応じたデューティ比のPWM信号Sを生成することができる。
【0046】
[2.2.3相電流検出部31]
3相電流検出部31は、演算部34によって演算される取得タイミングに基づいて、電流検出部13によって検出された母線電流Idcを取得し、相電流i、i、iを求める。
【0047】
3相電流検出部31は、図6に示すように、電力変換部10から出力される基本電圧ベクトルの種類によって、母線電流Idcに基づいて検出される相電流が相電流i、i、iのうちいずれであるかがわかる。
【0048】
図8は、合成ベクトルvαβ**が領域1に含まれる場合において、電力変換部10から出力される基本電圧ベクトルとPWM信号Sup、Svp、Swpと検出電流との関係例を示す図である。図8に示すように、変調周期Tにおいて、基本電圧ベクトルがV→V→V→V→V→Vの順に出力されるように、PWM信号Sup、Svp、Swpが出力される。
【0049】
電力変換部10から基本電圧ベクトルVが出力される場合、電動機3のU相からV相およびW相へ電流が流れる。そのため、この場合に電流検出部13によって検出される母線電流Idcは、相電流iと一致する。したがって、3相電流検出部31は、基本電圧ベクトルVが出力されるタイミングで電流検出部13によって検出される母線電流Idcを取得することにより、相電流iを検出することができる。
【0050】
また、電力変換部10から基本電圧ベクトルVが出力される場合、電動機3のU相およびV相からW相へ電流が流れる。そのため、この場合に電流検出部13によって検出される母線電流Idcは、相電流iの反転値と一致する。したがって、3相電流検出部31は、基本電圧ベクトルVが出力されるタイミングで電流検出部13によって検出される母線電流Idcを取得し、かかる母線電流Idcを反転することにより相電流iを検出することができる。
【0051】
同様に、3相電流検出部31は、基本電圧ベクトルVが出力されるタイミングの母線電流Idcを取得して相電流iを検出し、基本電圧ベクトルVが出力されるタイミングの母線電流Idcを取得して相電流iを検出することができる。また、3相電流検出部31は、基本電圧ベクトルVが出力されるタイミングの母線電流Idcを取得し反転することにより相電流iを検出し、基本電圧ベクトルVが出力されるタイミングの母線電流Idcを取得し反転することにより相電流iを検出することができる。
【0052】
このように、各領域では、2つの基本電圧ベクトルV、Vで2つの相電流を検出することができる。3相電流検出部31は、例えば、0=i+i+iであることを利用して、検出した2つの相電流に基づいて、残りの相電流を検出することができる。3相電流検出部31は、例えば、合成ベクトルvαβ**が領域1に含まれる場合において、相電流iと相電流iとから相電流iを検出することができる。
【0053】
3相電流検出部31は、電力変換部10から出力されている基本電圧ベクトルの情報を演算部34から取得し、母線電流Idcに基づいて相電流i、i、iを検出することができる。例えば、3相電流検出部31は、電力変換部10から出力されている基本電圧ベクトルがVである場合に電流検出部13によって検出される母線電流Idcに基づき、相電流iを検出することができる。
【0054】
なお、図6に示すように、基本電圧ベクトルV、V、Vが出力された場合の母線電流Idcは、正極性の相電流i、i、iであり、以下においては、便宜上、基本電圧ベクトルV、V、Vを正極性基本電圧ベクトルと呼ぶ場合がある。また、基本電圧ベクトルV、V、Vが出力された場合の母線電流Idcは、負極性の相電流i、i、iであり、以下においては、便宜上、基本電圧ベクトルV、V、Vを負極性基本電圧ベクトルと呼ぶ場合がある。
【0055】
[2.3.指令生成部32]
図4に示すように、指令生成部32は、加算部51と、積分部52と、3相2相変換部53と、回転座標変換部54と、電流指令出力部55と、電流制御部56と、回転座標変換部57とを備える。
【0056】
加算部51は、周波数指令f*にスリップ周波数fslipを加算する。積分部52は、加算部51の加算結果を積分して位相θを求める。なお、位相θは、その他の公知の方法を用いて求めることもでき、位相θを検出する構成は、図4に示す構成に限定されない。
【0057】
3相2相変換部53は、公知の3相2相変換によって、相電流i、i、iから、固定座標上の直交した2軸のα軸成分であるα軸電流iαとβ軸成分であるβ軸電流iβを求める。回転座標変換部54は、公知のαβ/dq変換によって、αβ軸座標系の成分であるα軸電流iαとβ軸電流iβを、位相θに基づき、回転座標系であるdq軸座標系のd軸成分であるd軸電流iとq軸成分であるq軸電流iへ変換する。
【0058】
電流指令出力部55は、d軸電流指令i*とq軸電流指令i*を出力する。電流制御部56は、d軸電流指令i*とd軸電流iとの偏差がゼロになるようにPI(比例積分)制御を行ってd軸電圧指令v*を生成する。また、電流制御部56は、q軸電流指令i*とq軸電流iとの偏差がゼロになるようにPI制御を行ってq軸電圧指令v*を生成する。
【0059】
回転座標変換部57は、公知のdq/αβ変換によって、dq軸座標系の成分であるd軸電圧指令v*およびq軸電圧指令v*をαβ軸座標系の成分である電圧指令ベクトルvαβ*へ座標変換を行う。なお、指令生成部32は、図4に示す構成に限定されず、例えば、電圧指令ベクトルvαβ*を生成する構成であればよい。
【0060】
[2.4.合成部33]
合成部33は、電圧指令ベクトルvαβ*に補正ベクトルΔvαβを合成して合成ベクトルvαβ**を生成する。かかる合成部33は、図4に示すように、加算部61、62を備え、下記式(2)の演算を行う。
【数2】
【0061】
加算部61は、α軸電圧指令vα*とα軸補正値Δvαとを加算し、α軸電圧指令vα**を求める。加算部62は、β軸電圧指令vβ*とβ軸補正値Δvβとを加算し、β軸電圧指令vβ**を求める。α軸電圧指令vα**は、合成ベクトルvαβ**のα軸成分であり、β軸電圧指令vβ**は、合成ベクトルvαβ**のβ軸成分である。
【0062】
[2.5.演算部34]
演算部34は、合成ベクトルvαβ**に対応する複数の基本電圧ベクトルV、Vの電力変換部10からの出力時間比率ζ、ζを演算する。
【0063】
演算部34は、図4に示すように、領域判定部71と、時間比率演算部72と、出力ベクトル通知部73とを備える。領域判定部71は、合成ベクトルvαβ**が含まれる領域が領域1〜6(図2図3参照)のうちいずれの領域に存在するかを判定する。例えば、領域判定部71は、合成ベクトルvαβ**の位相θvを求め、かかる位相θvに基づいて、合成ベクトルvαβ**が含まれる領域を判定することができる。
【0064】
時間比率演算部72は、領域判定部71によって判定された領域に対応する複数の基本電圧ベクトルV、Vの出力時間比率ζ、ζを演算する。「領域に対応する複数の基本電圧ベクトル」は、合成ベクトルvαβ**を挟む60度位相差を有する2つの有効電圧ベクトルである基本電圧ベクトルV、Vである。
【0065】
ここで、出力時間比率ζ(k=x、y、0)の基本電圧ベクトルV(k=x、y、0)の平均値である平均電圧ベクトルvは、例えば、下記式(3)に示すように表すことができる。なお、基本電圧ベクトルVに代えて基本電圧ベクトルVを用いてもよく、2つの基本電圧ベクトルV、Vを用いてもよい。
【数3】
【0066】
また、出力時間比率ζは、下記式(4)によって表すことができ、出力時間比率ζ、ζ、ζの積算値は、下記式(5)のように表すことができる。なお、式(4)において、「t」は、基本電圧ベクトルVの出力時間である。
【数4】
【0067】
図3に示すように、合成ベクトルvαβ**が領域1に存在する場合、合成ベクトルvαβ**のα軸成分であるα軸電圧指令vα**とβ軸成分であるβ軸電圧指令vβ**は、それぞれ下記式(5)のように表すことができる。
【数5】
【0068】
上記式(6)において、「Vα1」は、基本電圧ベクトルVのα軸変調率(Vα1=1)であり、「Vβ1」は、基本電圧ベクトルVのβ軸変調率(Vβ1=0)である。また、「Vα3」は、基本電圧ベクトルVのα軸変調率(Vα3=1/2)であり、「Vβ3」は、基本電圧ベクトルVのβ軸変調率(Vβ3=√(3/2))である。
【0069】
したがって、例えば、出力時間比率ζ、ζは、下記式(7)、(8)のように表すことができる。時間比率演算部72は、例えば、下記式(7)、(8)の演算を行って、出力時間比率ζ、ζを求めることができる。
【数6】
【0070】
時間比率演算部72は、合成ベクトルvαβ**が領域1(図3参照)以外に存在する場合も同様に、基本電圧ベクトルV、Vのα軸変調率およびβ軸変調率とα軸電圧指令vα**およびβ軸電圧指令vβ**に基づいて、出力時間比率ζ、ζを演算することができる。
【0071】
出力ベクトル通知部73は、電力変換部10から出力されている基本電圧ベクトルの情報を3相電流検出部31へ通知する。これにより、3相電流検出部31は、母線電流Idcが相電流i、i、iのうちいずれに対応するかを判定することができる。
【0072】
[2.6.調整部35]
調整部35は、リミッタ90を備える。リミッタ90は、出力時間比率ζ、ζが下限値ζthよりも小さくならないように、出力時間比率ζ、ζを調整し、出力時間比率ζx_lim、ζy_limとして出力する。
【0073】
例えば、リミッタ90は、出力時間比率ζが下限値ζthよりも小さい場合、下限値ζthを出力時間比率ζx_limとして出力する。また、リミッタ90は、出力時間比率ζが下限値ζthよりも小さい場合、下限値ζthを出力時間比率ζy_limとして出力する。
【0074】
一方、リミッタ90は、出力時間比率ζが下限値ζth以上である場合、出力時間比率ζを出力時間比率ζx_limとして出力する。また、リミッタ90は、出力時間比率ζが下限値ζth以上である場合、出力時間比率ζを出力時間比率ζy_limとして出力する。
【0075】
[2.7.補正ベクトル生成部36]
補正ベクトル生成部36は、調整部35による調整結果に基づいて、補正ベクトルΔvαβを生成する。例えば、補正ベクトル生成部36は、出力時間比率ζ、ζから出力時間比率ζx_lim、ζy_limを減算し、かかる減算結果に基づいて、補正ベクトルΔvαβを演算する。補正ベクトルΔvαβには、αβ軸座標系におけるα軸成分であるα軸補正値Δvαとβ軸成分であるβ軸補正値Δvβが含まれる。
【0076】
かかる補正ベクトル生成部36は、減算部81と、補正ベクトル演算部82とを備える。減算部81は、出力時間比率ζ、ζから出力時間比率ζx_lim、ζy_limを減算し、時間比率差分Δζ、Δζを求める。減算部81は、例えば、下記式(9)の演算により、時間比率差分Δζ、Δζを求める。
【数7】
【0077】
次に、補正ベクトル生成部36は、例えば、下記式(10)の演算によって、時間比率差分Δζ、Δζに基づいて、補正ベクトルΔvαβを求める。なお、下記式(10)において、「Vαx」は、基本電圧ベクトルVのα軸成分であり、「Vβx」は、基本電圧ベクトルVのβ軸成分であり、「Vαy」は、基本電圧ベクトルVのα軸成分であり、「Vβy」は、基本電圧ベクトルVのβ軸成分である。
【数8】
【0078】
また、補正ベクトル生成部36は、直流母線15の電圧(以下、母線電圧Vdcと記載する)が変動する場合、予め設定した基準電圧Vdczを考慮して、補正ベクトルΔvαβを求めることができる。補正ベクトル生成部36は、例えば、下記式(11)の演算によって、補正ベクトルΔvαβを求めることができる。
【数9】
【0079】
ここで、出力時間比率ζ、ζ、ζx_lim、ζy_limおよび合成ベクトルvαβ**との関係をαβ軸座標上で説明する。なお、以下においては、説明の便宜上、ある演算周期における演算結果には、「(0)」の添え字を付し、次の演算周期における演算結果には、「(1)」の添え字を付して説明する。
【0080】
図9は、合成ベクトルvαβ(1)**が領域1(図3参照)に存在する場合における合成ベクトルvαβ(0)**と出力時間比率ζ1(0)、ζ3(0)、ζ1(0)_lim、ζ3(0)_limとの関係をαβ軸座標系において表した図である。
【0081】
図9に示す例では、合成ベクトルvαβ(0)**から演算される出力時間比率ζ1(0)、ζ3(0)が共に下限値ζthよりも短いため、出力時間比率ζ1(0)_lim、ζ3(0)_limが下限値ζthに設定される。これにより、電流検出ができないような短い基本電圧ベクトルが出力されることを抑制することができる。
【0082】
一方、出力時間比率ζ1(0)、ζ3(0)よりも大きな出力時間比率ζ1(0)_lim、ζ3(0)_limで基本電圧ベクトルが電力変換部10から出力されるため、出力電圧の誤差が生じる。
【0083】
そこで、補正ベクトル生成部36は、図10に示すように、出力時間比率ζ1(0)、ζ3(0)と下限値ζthとの差分である時間比率差分Δζ1(0)、Δζ3(0)を求める。時間比率差分Δζ1(0)は、基本電圧ベクトルVの出力時間比率で表され、時間比率差分Δζ3(0)は、基本電圧ベクトルVの出力時間比率で表される。図10は、時間比率差分Δζ1(0)、Δζ3(0)で特定される補正ベクトルΔvαβ(0)と、次の演算周期で演算される電圧指令ベクトルvαβ(1)*と、合成ベクトルvαβ(1)**との関係をαβ軸座標系において表した図である。
【0084】
そして、補正ベクトル生成部36は、図10に示すように、時間比率差分Δζ1(0)、Δζ3(0)で特定される補正ベクトルΔvαβ(0)と、次の演算周期で演算部34によって演算される電圧指令ベクトルvαβ(1)*とを合成して、合成ベクトルvαβ(1)**を求める。これにより、前回の演算周期によって生じる出力電圧の誤差を補正することができ、出力電圧の精度が低下することを抑制することができる。
【0085】
図11は、次の演算周期における合成ベクトルvαβ(1)**と、出力時間比率ζ1(1)、ζ3(1)、ζ1(1)_lim、ζ3(1)_limとの関係をαβ軸座標系において表した図である。図11に示すように、合成ベクトルvαβ(1)**によって演算される出力時間比率ζ1(1)、ζ3(1)は、共に下限値ζthよりも短いため、出力時間比率ζ1(1)_lim、ζ3(1)_limが下限値ζthに設定される。これにより、電流検出ができないような短い基本電圧ベクトルが出力されることを抑制することができる。
【0086】
補正ベクトル生成部36は、以降同様の処理を行うことで、電流検出ができないような短い基本電圧ベクトルが出力されることを抑制しつつ、出力電圧の精度低下を精度よく抑制することができる。
【0087】
ところで、PWM信号出力部37によって変調率ζ、ζ、ζに対し、オンディレイ補正やオン電圧補償を施した場合、基本電圧ベクトルの出力幅が短くなり、相電流の検出を安定して行うことができないおそれがある。
【0088】
そこで、補正ベクトル生成部36は、オンディレイ補正やオン電圧補償による変調率ζ、ζ、ζの補償量は、電圧誤差として補正ベクトルΔvαβに加え、次の演算周期で合成ベクトルvαβ**として出力することができる。
【0089】
これにより、3相電圧の変調率ζ、ζ、ζに対してオンディレイ補正やオン電圧補償を行った場合であっても、電流検出ができないような短い基本電圧ベクトルが出力されることを抑制しつつ、出力電圧の精度低下を精度よく抑制することができる。
【0090】
なお、オンディレイ補正とは、PWM信号Sがオンからオフになるタイミングを遅延させて上アームと下アームとが共にオンになる状態を回避するオンディレイによって生じる電圧誤差を補償する処理である。また、オン電圧補償とは、電力変換部10のスイッチング素子Swのオン電圧降下による電圧誤差を補償する処理である。
【0091】
3相電圧の変調率ζ、ζ、ζに対してオンディレイ補正を行う場合、U相、V相およびW相の3相のうち、スイッチングする2相の電流極性が同極性であると、2相のPWMの幅が一様に増加もしくは減少することから、正極性基本電圧ベクトルの時間比率はオンディレイ補正前後で変わらないが、負極性基本電圧ベクトルの時間比率については、オンディレイ補正分変化が生じる。
【0092】
また、U相、V相およびW相の3相のうち、スイッチングする2相の電流極性が異極性である場合、負極性基本電圧ベクトルについては、同極性の場合と同じであるが、正極性基本電圧ベクトルについては、1相のPWM幅が増加すると残りの相のPWM幅が減少することから、同極性の場合に比べ、2倍の変化が生じる。
【0093】
そこで、補正ベクトル生成部36は、PWM信号出力部37によってオンディレイ補正が行われる場合、スイッチングを行う相の電流極性を図12に示すテーブルに基づいて決定する。図12は、領域と電流極性との関係を示す図である。
【0094】
図12に示すように、補正ベクトル生成部36は、例えば、合成ベクトルvαβ**が領域1に存在する場合、相電流iのsign関数の演算結果をIsig_pとし、相電流iのsign関数の演算結果をIsig_nとする。
【0095】
例えば、補正ベクトル生成部36は、相電流iがプラスである場合、Isig_p=1とし、相電流iがマイナスである場合、Isig_p=−1とする。また、補正ベクトル生成部36は、相電流iがプラスである場合、Isig_n=1とし、相電流iがマイナスである場合、Isig_n=−1とする。「Isig_p」は、正極性基本電圧ベクトル出力時に変化する相の電流極性であり、「Isig_n」は、負極性基本電圧ベクトル出力時に変化する相の電流極性である。
【0096】
さらに、補正ベクトル生成部36は、Isig_pとIsig_nとの乗算結果に基づいて、補償係数Vp_compk、Vn_compkを決定する。「Vp_compk」は、正極性電圧補償係数であり、「Vn_compk」は、負極性電圧補償係数である。
【0097】
例えば、補正ベクトル生成部36は、図13に示す補償係数テーブルを有しており、Isig_pとIsig_nとの乗算結果がゼロ以上である場合、Vp_compk=0とし、Vn_compk=1とする。また、補正ベクトル生成部36は、Isig_pとIsig_nとの乗算結果がマイナスである場合、Vp_compk=2とし、Vn_compk=1とする。図13は、補償係数テーブルの一例を示す図である。
【0098】
また、オン電圧補償についても同様に考えることができるため、オンディレイおよびオン電圧による電圧誤差の時間比率ζp_compk、ζn_compkは、下記式(12)に示すように表すことができる。
【数10】
【0099】
なお、上記式(12)において、「DT」は、オンディレイ時間であり、「fc」は、PWM制御の変調周波数である。また、「Von」は、オン電圧補償電圧値であり、「ζp_compk」は、正極性電圧ベクトルにおけるオンディレイ補正およびオン電圧による電圧誤差の時間比率であり、「ζn_compk」は、負極性電圧ベクトルにおけるオンディレイ補正およびオン電圧による電圧誤差の時間比率である。
【0100】
補正ベクトル生成部36は、例えば、下記式(13)の演算により、補正ベクトルΔvαβを求める。下記式(13)において、「Vαp」は、正極性基本電圧ベクトルのα軸成分であり、「Vβp」は、正極性基本電圧ベクトルのβ軸成分であり、「Vαn」は、負極性の基本電圧ベクトルのα軸成分であり、「Vβn」は、負極性の基本電圧ベクトルのβ軸成分である。また、下記式(13)において、「Δζ」は、合成ベクトルvαβ**に対応する正極性基本電圧ベクトルの出力時間比率のリミッタ90通過後の出力時間比率であり、「Δζ」は、合成ベクトルvαβ**に対応する負極性基本電圧ベクトルの出力時間比率のリミッタ90通過後の出力時間比率である。
【数11】
【0101】
[3.制御部20による処理]
図14は、制御部20による処理の流れを示すフローチャートである。図14に示す処理は、例えば、所定の演算周期で繰り返し実行される処理である。
【0102】
図14に示すように、指令生成部32は、電圧指令ベクトルvαβ*を生成する(ステップS10)。次に、合成部33は、電圧指令ベクトルvαβ*に補正ベクトルΔvαβを合成して合成ベクトルvαβ**を生成する(ステップS11)。
【0103】
次に、演算部34は、合成ベクトルvαβ**に対応する複数の基本電圧ベクトルV、Vの電力変換部10からの出力時間比率ζ、ζを演算する(ステップS12)。調整部35は、出力時間比率ζ、ζが下限値ζthよりも小さくならないように、出力時間比率ζ、ζを調整し、出力時間比率ζx_lim、ζy_limとして出力する(ステップS13)。
【0104】
PWM信号出力部37は、出力時間比率ζx_limで基本電圧ベクトルVが出力され、出力時間比率ζy_limで基本電圧ベクトルVが出力されるように、PWM信号Sを生成する(ステップS14)。補正ベクトル生成部36は、出力時間比率ζ、ζから出力時間比率ζx_lim、ζy_limを減算し、かかる減算結果に基づいて、補正ベクトルΔvαβを演算する(ステップS15)。
【0105】
このように、制御部20は、ステップS10において、電圧指令ベクトルvαβ*を生成し、ステップS11で、電圧指令ベクトルvαβ*に補正ベクトルΔvαβを合成して合成ベクトルvαβ**を生成する。さらに、制御部20は、ステップS12、S13により、合成ベクトルvαβ**に応じた複数の基本電圧ベクトルの出力時間を調整し、ステップS15において、ステップS12、S13における調整の結果に基づき、補正ベクトルΔvαβを生成する。制御部20は、かかる処理を繰り返し実行することで、電力変換部10から出力される基本電圧ベクトルの出力幅を一定以上になるように抑制しつつ、電力変換部10から出力される電圧の精度を向上させることができる。
【0106】
なお、上述した実施形態では、演算部34は、基本電圧ベクトルの出力時間の情報として出力時間比率ζ、ζを演算したが、演算部34は、基本電圧ベクトルの出力時間の情報として出力時間T(=T×ζ)、T(=T×ζ)を演算することもできる。この場合、調整部35は、出力時間T、Tが下限値Tthよりも小さくならないように、出力時間T、Tを調整し、出力時間Tx_lim、Ty_limとして出力する。補正ベクトル生成部36の減算部81は、出力時間T、Tから出力時間Tx_lim、Ty_limを減算し、時間差分ΔT(=T−Tx_lim)、ΔT(=T−Ty_lim)を求める。補正ベクトル生成部36は、時間差分ΔT、ΔTとPWM制御の変調周期Tに基づいて、時間比率差分Δζ=(ΔT/T)、Δζ=(ΔT/T)を演算する。
【0107】
また、上述した実施形態では、制御部20は、複数の基本電圧ベクトルの調整前後の出力時間の情報の差(例えば、出力時間比率ζ、ζや時間差分ΔT、ΔT)に応じた補正ベクトルを生成するが、補正ベクトルの生成はかかる処理に限定されない。すなわち、合成ベクトルvαβ**そのものによって電力変換部10から出力される基本電圧ベクトルによる出力電圧と出力時間が調整された基本電圧ベクトルによる出力電圧との差が、次の合成ベクトルvαβ**で調整されるように、補正ベクトルを生成することができればよい。
【0108】
以上のように、実施形態に係る電力変換装置1は、複数のスイッチング素子Swを有する電力変換部10と、複数のスイッチング素子Swを制御する制御部20(電圧ベクトルの制御装置の一例)とを備える。制御部20は、指令生成部32と、合成部33と、調整部35と、補正ベクトル生成部36とを備える。指令生成部32は、電圧指令ベクトルvαβ*を生成する。合成部33は、電圧指令ベクトルvαβ*に補正ベクトルΔvαβを合成して合成ベクトルvαβ**を生成する。調整部35は、合成ベクトルvαβ**に対応する複数の基本電圧ベクトルV、V、(複数の電圧ベクトルの一例)の電力変換部10からの出力時間を調整する。補正ベクトル生成部36は、調整部35による調整結果に基づき、補正ベクトルΔvαβを生成する。
【0109】
このように、電圧ベクトルの出力時間を調整することで、電圧ベクトルの出力時間を確保することができ、これにより相電流i、i、iの検出を安定して行うことができる。また、かかる電圧ベクトルの出力時間の調整結果に基づいて補正ベクトルΔvαβを生成し電圧指令ベクトルvαβ*と合成することで、電圧ベクトルの出力時間の調整によって生じる電圧誤差を補償することができ、電圧精度の低下を抑制することができる。
【0110】
また、補正ベクトル生成部36は、調整部35の調整結果として調整部35による調整量に基づいて、調整量に応じた補正ベクトルΔvαβを生成する。
【0111】
このように、補正ベクトル生成部36は、調整部35による調整量に応じた補正ベクトルΔvαβを生成することから、出力時間の調整によって生じる電圧誤差を精度よく補償することができる。
【0112】
また、補正ベクトル生成部36は、調整部35による複数の基本電圧ベクトルの調整前後の出力時間の差(例えば、時間比率差分Δζ、Δζ)を調整部35による調整量として、補正ベクトルΔvαβを生成する。
【0113】
このように、補正ベクトル生成部36は、複数の電圧ベクトルの調整前後の出力時間の差に応じた補正ベクトルを生成することから、出力時間の調整によって生じる電圧誤差をより精度よく補償することができる。
【0114】
また、演算部34は、合成ベクトルvαβ**に対応する複数の基本電圧ベクトルの電力変換部10からの出力時間の情報として、基本電圧ベクトルV、Vの出力時間の情報(例えば、出力時間比率ζ、ζ)を演算する。調整部35は、出力時間の情報がそれぞれ下限値(例えば、下限値ζth)以上になるように調整するリミッタ90を備える。
【0115】
かかるリミッタ90により電圧ベクトルの出力時間を下限値以上にすることで、電圧ベクトルの出力時間を容易に確保でき、これにより電流の検出を安定して行うことができる。
【0116】
また、補正ベクトル生成部36は、複数の基本電圧ベクトルの出力時間の情報それぞれのリミッタ90の通過前後の差を調整部35の調整結果のとして補正ベクトルΔvαβを生成する。
【0117】
このように、補正ベクトル生成部36は、リミッタ90の通過前後の差に基づいて補正ベクトルΔvαβを生成することから、リミッタ90によって電圧ベクトルの出力時間が調整された場合に、かかる調整結果に応じた補正ベクトルΔvαβを生成することで、電圧精度の低下を抑制することができる。
【0118】
また、出力時間の情報は、例えば、出力時間比率ζ、ζ(出力時間の比率を示す情報の一例)または出力時間T、T(出力時間を示す情報の一例)である。
【0119】
調整される出力時間の情報が出力時間比率ζ、ζである場合、たとえば、PWM制御の変調周期Tに応じて下限の比率を設定することによって、出力時間を適切に調整できる。また、調整される出力時間の情報が出力時間T、Tである場合、PWM制御の変調周期Tに関わらず、出力時間を適切に調整できる。
【0120】
また、電力変換装置1は、PWM信号出力部37(駆動信号生成部の一例)を備える。PWM信号出力部37は、リミッタ90の通過後の複数の電圧ベクトルの出力時間の情報に基づいて、オンディレイ補正が施され複数のスイッチング素子Swを駆動するPWM信号S(駆動信号の一例)を生成する。補正ベクトル生成部36は、調整部35の調整による電圧誤差に加えオンディレイ補正による電圧誤差を補償するように補正ベクトルΔvαβを生成する。
【0121】
これにより、オンディレイ補正に起因する電圧誤差を抑制しつつも、電圧ベクトルの出力時間を容易に確保できる。
【0122】
また、補正ベクトル生成部36は、調整部35の調整による電圧誤差に加えスイッチング素子Swのオン電圧による電圧誤差を補償するように補正ベクトルΔvαβを生成する。
【0123】
これにより、スイッチング素子Swのオン電圧に起因する電圧誤差を抑制しつつも、電圧ベクトルの出力時間を容易に確保できる。
【0124】
また、電力変換部10は、制御部20による制御によって直流母線15から供給される直流電力を交流電力へ変換する。補正ベクトル生成部36は、調整部35による調整結果と直流電圧変化Vdcz/Vdc(直流母線15の電圧の変化の一例)に基づいて補正ベクトルΔvαβを生成する。
【0125】
これにより、母線電圧Vdcが変動する場合であっても、かかる変動に基づく電圧誤差を抑制する補正ベクトルΔvαβを生成することができる。
【0126】
上述した電力変換装置1は、電力変換部10と、指令生成部32と、「指令生成部32によって前回生成された電圧指令ベクトルに対応する電圧ベクトルの電力変換部10からの出力時間を下限値以上になるように調整した場合に当該調整により生じる電圧誤差を補償するように指令生成部32によって今回生成された電圧指令ベクトルを補正する処理を繰り返し実行する手段(以下、処理手段と記載する)」とを備える。合成部33、調整部35および補正ベクトル生成部36がかかる処理手段の一例である。
【0127】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0128】
1 電力変換装置
2 直流電源
3 電動機
10 電力変換部
11 コンデンサ
12 スイッチング部
13 電流検出部
14 電圧検出部
15、15a、15b 直流母線
20 制御部
31 3相電流検出部
32 指令生成部
33 合成部
34 演算部
35 調整部
36 補正ベクトル生成部
37 PWM信号出力部
51、61、62 加算部
52 積分部
54、57 回転座標変換部
55 電流指令出力部
56 電流制御部
71 領域判定部
72 時間比率演算部
73 出力ベクトル通知部
81 減算部
82 補正ベクトル演算部
90 リミッタ
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