特許第6369511号(P6369511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6369511改質成形品の製造方法、成形品、ダイヤフラム及びダイヤフラムバルブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369511
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】改質成形品の製造方法、成形品、ダイヤフラム及びダイヤフラムバルブ
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20180730BHJP
   F16K 7/12 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   C08J7/00 305
   C08J7/00CEW
   F16K7/12 A
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-168249(P2016-168249)
(22)【出願日】2016年8月30日
(65)【公開番号】特開2018-35234(P2018-35234A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2017年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 均
(72)【発明者】
【氏名】舩岡 達也
(72)【発明者】
【氏名】下野 武司
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−028951(JP,A)
【文献】 特開平11−080392(JP,A)
【文献】 特開昭61−215050(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/081293(WO,A1)
【文献】 特許第3177983(JP,B2)
【文献】 特開2004−043736(JP,A)
【文献】 特開2008−069280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00〜 7/02
7/12〜 7/18
B29C71/04
F16K 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン単位及びテトラフルオロエチレンと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含む変性ポリテトラフルオロエチレンを成形して成形品を得る工程、及び、
前記成形品に280〜310℃で、30kGy以上70kGy未満の放射線を照射して改質成形品を得る工程
を含み、
前記変性ポリテトラフルオロエチレンは、非溶融加工性を有し、ASTM D4895−89に規定される標準比重が2.13〜2.23である
ことを特徴とする改質成形品の製造方法。
【請求項2】
前記変性ポリテトラフルオロエチレンは、前記変性モノマー単位がテトラフルオロエチレン単位及び前記変性モノマー単位の合計に対して0.001〜1質量%である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記変性ポリテトラフルオロエチレンは、二次融点が320〜329℃である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記成形品を得た後、更に、前記成形品を機械加工により加工する工程を含む請求項1、2又は3記載の製造方法。
【請求項5】
前記改質成形品を得た後、更に、前記改質成形品を機械加工により加工する工程を含む請求項1、2又は3記載の製造方法。
【請求項6】
前記改質成形品は、ダイヤフラムである請求項1、2、3、4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
変性ポリテトラフルオロエチレンの成形品であって、
前記変性ポリテトラフルオロエチレンは、非溶融加工性を有し、ASTM D4895−89に規定される標準比重が2.13〜2.23であり、テトラフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレンと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位、及び、第三級炭素を含み、
前記第三級炭素がテトラフルオロエチレン単位及び前記変性モノマー単位の合計に対して0.035〜0.100モル%である
ことを特徴とする成形品。
【請求項8】
前記変性ポリテトラフルオロエチレンは、前記変性モノマー単位がテトラフルオロエチレン単位及び前記変性モノマー単位の合計に対して0.001〜1質量%である請求項7記載の成形品。
【請求項9】
請求項7又は8記載の成形品からなることを特徴とするダイヤフラム。
【請求項10】
弁座と請求項9記載のダイヤフラムとを備えることを特徴とするダイヤフラムバルブ。
【請求項11】
前記弁座は、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体から構成される請求項10記載のダイヤフラムバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質成形品の製造方法、成形品、ダイヤフラム及びダイヤフラムバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工場では、半導体製造に使用する腐食性の高い薬品等の供給にダイヤフラムバルブが使用されている。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)は、優れた耐薬品性、非粘着性等を有することから、ダイヤフラムバルブの構成材料として利用されている。しかし、ダイヤフラムバルブからパーティクルが発生し、半導体製造の歩留まりを低下させる等の問題が生じていた。
【0003】
特許文献1では、従来のダイヤフラム弁は、弁箱がPTFE製であるが、この弁箱は切削加工にて作られるため、バリ等の異物が付着していて、パーティクルの発生が避けられないとしている。そして、少なくとも弁箱をPFA成形品により構成することで、切削加工によるバリ等の異物の付着が無く、パーティクルの発生が避けられるとしている。
【0004】
特許文献2では、ダイヤフラムの硬度と弁座の硬度とが異なる場合には、ダイヤフラムが弁座に押し付けられるときに、硬度の低い方の部材が削り取られ易いとしている。そして、ダイヤフラムの硬度と弁座の硬度とを概ね等しくすることにより、ダイヤフラムバルブ内でのパーティクルの発生を抑制できるとしている。また、その一例として、ダイヤフラムの材質を変性PTFEとし、弁座の材質をPFAとすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−37329号公報
【特許文献2】特開2012−26476号公報
【特許文献3】特開平01−33810号公報
【特許文献4】特開平10−316761号公報
【特許文献5】特開2000−159914号公報
【特許文献6】特開2013−27875号公報
【特許文献7】特開2014−44401号公報
【特許文献8】特開平09−278907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、半導体回路の微細化に伴い、更にパーティクルを低減する技術が求められている。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、パーティクルを発生させにくいダイヤフラムを実現することができる改質成形品を製造するための製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、また、パーティクルを発生させにくい成形品、ダイヤフラム及びダイヤフラムバルブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するための手段を鋭意検討した結果、ダイヤフラムの材質を変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE)とし、弁座の材質をテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)とした場合、両者が同等の硬度を有するにも関わらず、弁座よりもダイヤフラムの摩耗が大きく、パーティクルを発生させることを突き止めた。更に検討を進めた結果、変性PTFEを特定の条件で放射線処理して得られる改質成形品が、PFA成形品と当接及び離間を繰り返した場合であっても、パーティクルを発生させにくいことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
また、特許文献3〜8に記載されているように、PTFEやPFAに放射線を照射してこれらを改質する技術が知られている。しかし、パーティクルを発生させにくい変性PTFEの改質成形品を得るためには、従来とは異なる条件で放射線を照射する必要があることもあわせて見出された。
【0011】
すなわち、本発明は、テトラフルオロエチレン単位及びテトラフルオロエチレンと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含む変性ポリテトラフルオロエチレンを成形して成形品を得る工程、及び、上記成形品に270〜310℃で、30kGy以上70kGy未満の放射線を照射して改質成形品を得る工程を含むことを特徴とする改質成形品の製造方法である。
【0012】
上記変性ポリテトラフルオロエチレンは、上記変性モノマー単位がテトラフルオロエチレン単位及び上記変性モノマー単位の合計に対して0.001〜1質量%であることが好ましい。
【0013】
上記変性ポリテトラフルオロエチレンは、二次融点が320〜329℃であることが好ましい。
【0014】
上記成形品を得た後、更に、上記成形品を機械加工により加工する工程を含むことが好ましい。
【0015】
上記改質成形品を得た後、更に、上記改質成形品を機械加工により加工する工程を含むことが好ましい。
【0016】
上記改質成形品は、ダイヤフラムであることが好ましい。
【0017】
本発明は、変性ポリテトラフルオロエチレンの成形品であって、上記変性ポリテトラフルオロエチレンは、テトラフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレンと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位、及び、第三級炭素を含み、上記第三級炭素がテトラフルオロエチレン単位及び上記変性モノマー単位の合計に対して0.035〜0.100モル%であることを特徴とする成形品でもある。
【0018】
上記変性ポリテトラフルオロエチレンは、上記変性モノマー単位がテトラフルオロエチレン単位及び上記変性モノマー単位の合計に対して0.001〜1質量%であることが好ましい。
【0019】
本発明は、上述の成形品からなることを特徴とするダイヤフラムでもある。
【0020】
本発明は、変性ポリテトラフルオロエチレンに、270〜310℃で、30kGy以上70kGy未満の放射線を照射して得られることを特徴とするダイヤフラムでもある。
【0021】
本発明は、弁座と上述のダイヤフラムとを備えることを特徴とするダイヤフラムバルブでもある。上記弁座は、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体から構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の製造方法は、パーティクルを発生させにくいダイヤフラムを実現することができる改質成形品を製造することができる。
【0023】
本発明の成形品は、パーティクルを発生させにくい。
【0024】
本発明のダイヤフラム及びダイヤフラムバルブは、パーティクルを発生させにくい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明のダイヤフラム及びダイヤフラムバルブの一実施形態を示す断面概略図である。
図2】パーティクル発生試験の方法を説明するための模式図である。
図3】実験例1で実施したパーティクル発生試験後のPFAシートの写真である。PFAシート上に析出物が付着していることが分かる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0027】
本発明の製造方法は、変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE)を成形して成形品を得る工程を含む。本明細書において、この工程を成形工程ということがある。
【0028】
上記成形の方法としては、上記変性PTFEを成形するための公知の方法を採用することができ、例えば、圧縮成形法、ラム押出成形法、アイソスタティック成形等が挙げられる。上記変性PTFEの水性分散液を塗布した後、乾燥及び焼成する方法も挙げられるが、耐屈曲性が要求されるダイヤフラム等の成形品を製造しにくいことから、本発明において、この方法は好ましくない。
【0029】
上記成形の方法としては、なかでも、上記圧縮成形法が好ましい。すなわち、上記成形工程は、上記変性PTFEの粉末を金型に充填して圧縮することにより、予備成形品(プレフォーム)を得る工程、及び、上記予備成形品を上記変性PTFEの一次融点以上に加熱して上記成形品を得る工程を含むことが好ましい。
【0030】
上記成形品の形状は、特に限定されず、例えば、フィルム、シート、板、ロッド、ブロック、円筒、容器、チューブ、ベローズ、パッキン、ガスケット等が挙げられる。また、上記成形品は、圧縮成形法により得られた成形品(ブロックとも呼ばれる)であってもよい。また、ダイヤフラムの形状に成形することにより、ダイヤフラムの形状を有する成形品を得ることもできる。
【0031】
上記製造方法は、上記成形工程により上記成形品を得た後、更に、上記成形品を機械加工により所望の形状に加工する工程を含むことも好ましい。上記変性PTFEは、融点以上に加熱しても溶融粘度が非常に高く、通常の熱可塑性樹脂に用いられる押出成形、射出成形が不可能である。従って、ダイヤフラム等の複雑で微細な形状を有する成形品を上記変性PTFEの粉末から直接得ることが容易でない。しかし、あらかじめ成形した成形品を機械加工することによって、複雑で微細な形状を有する成形品をも容易に得ることができる。
【0032】
上記機械加工の方法としては、切削加工が挙げられる。例えば、上記変性PTFEのブロックを得た後、上記ブロックから切削加工によりフィルムを削り出し、上記フィルムを切削加工により所望の形状に加工することができる。
【0033】
この加工工程では、上記機械加工、好ましくは上記切削加工により、ダイヤフラムの形状に加工することも好ましい。
【0034】
上記変性PTFEは、テトラフルオロエチレン(TFE)単位及びTFEと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含む。上記変性PTFEは、TFE単位のみからなるホモPTFEと比べて、耐クリープ性に優れる利点があり、従って、上記製造方法は、ダイヤフラムに好適に利用可能な改質成形品を製造できる。
【0035】
上記変性PTFEにおいて、上記変性モノマー単位の含有量は、TFE単位及び上記変性モノマー単位の合計に対して0.001〜1質量%であり、0.01〜1質量%がより好ましく、0.02〜0.20質量%が更に好ましい。少なすぎると耐クリープ性が低下し、多すぎると引っ張り強度、耐クラック性が低下し、また高価なパーフルオロビニルエーテルを多量に使用する割には耐クリープ性の改善効果が少なく、経済的に不利である。本明細書において、上記変性モノマー単位とは、変性PTFEの分子構造の一部分であって変性モノマーに由来する部分を意味する。上記変性モノマー単位の含有量は特許第3177983号公報に記載のあるフーリエ変換型赤外分光法(FT−IR)により求めることができる。
【0036】
上記変性PTFEは、非溶融加工性を有する。上記非溶融加工性とは、ASTM D−1238及びD−2116に準拠して、結晶化融点より高い温度でメルトフローレートを測定できない性質を意味する。
【0037】
上記変性PTFEは、標準比重〔SSG〕が2.13〜2.23であることが好ましく、2.13〜2.19であることがより好ましい。上記SSGは、非溶融加工性のPTFEの分子量の指標としてASTM D4895−89に規定されるSSGである。
【0038】
上記変性PTFEは、一次融点が332〜348℃であることが好ましい。上記一次融点は、300℃以上の温度に加熱した履歴がない上記変性PTFEについて、示差走査熱量測定(DSC)の昇温速度を10℃/分として測定した値である。
【0039】
上記変性PTFEは、二次融点が320〜329℃であることが好ましい。上記二次融点は、一次融点以上の温度(例えば、360℃)に加熱した変性PTFEについて、示差走査熱量測定(DSC)の昇温速度を10℃/分として測定した値である。
【0040】
上記変性モノマーとしては、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン〔VDF〕等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロアルキルエチレン:エチレン等が挙げられる。また、用いる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0041】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては特に限定されず、例えば、下記一般式(1)
CF=CF−ORf (1)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0042】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(1)において、Rfが炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基を表すものであるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕が挙げられる。上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜5である。
【0043】
上記PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられるが、パーフルオロアルキル基がパーフルオロプロピル基であるパープルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕が好ましい。
【0044】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、更に、上記一般式(1)において、Rfが炭素数4〜9のパーフルオロ(アルコキシアルキル)基であるもの、Rfが下記式:
【0045】
【化1】
【0046】
(式中、mは、0又は1〜4の整数を表す。)で表される基であるもの、Rfが下記式:
【0047】
【化2】
【0048】
(式中、nは、1〜4の整数を表す。)で表される基であるもの等が挙げられる。
【0049】
パーフルオロアルキルエチレンとしては特に限定されず、例えば、(パーフルオロブチル)エチレン(PFBE)、(パーフルオロヘキシル)エチレン等が挙げられる。
【0050】
上記変性PTFEにおける変性モノマーとしては、HFP、CTFE、VDF、PAVE、PFBE及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。より好ましくは、PAVEであり、更に好ましくはPPVEである。
【0051】
本発明の製造方法は、更に、上記成形品に270〜310℃で、30kGy以上70kGy未満の放射線を照射して改質成形品を得る工程を含む。
【0052】
上記放射線の照射温度が上記変性PTFEの二次融点未満であっても、改質効果が得られることが、本発明者らによって見出された。270℃未満では、上記成形品の劣化が進み、脆くなり、機械的強度が不十分となる。また310℃超では、融点が近づき、上記成形品が変形してしまう問題がある。上記照射温度は、280℃以上が好ましく、300℃以下が好ましい。
【0053】
上記照射温度の調整は、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。具体的には、上記変性PTFEを所定の温度に維持した加熱炉内で保持する方法や、ホットプレート上に載せて、ホットプレートに内蔵した加熱ヒータに通電するか、外部の加熱手段によってホットプレートを加熱する等の方法が挙げられる。
【0054】
上記放射線の照射線量は、60kGy以下が好ましく、40kGy以上が好ましい。
【0055】
本発明の製造方法は、比較的低温かつ比較的低線量の照射条件を採用している点にも特徴がある。従って、放射線を照射しても、上記成形品にほとんど損害を与えず、上記成形品の寸法にもほとんど変化がない。従って、上記成形品がダイヤフラム等の複雑で微細な形状を有する成形品であっても、その形状を破壊しないし、機械物性を損なうこともない。
【0056】
また、本発明の製造方法は、上記の特徴により、厚みが小さい成形品や複雑で微細な形状を有する成形品も使用可能である。放射線を照射すると、ポリマーの主鎖が切断されたり、ポリマー同士が架橋したりする。従来の照射条件は、照射温度が高く、ポリマー同士の架橋が優先して進行することから、高線量の放射線を照射しても、ポリマー主鎖の切断による影響が小さい。しかし、高い照射温度は、成形品の寸法を変化させやすく、特に厚みが小さい成形品や複雑で微細な形状を有する成形品には採用が難しい。他方、低い照射温度を採用すると、照射による改質効果が得られにくいばかりか、ポリマー主鎖の切断による影響が大きく、得られる成形品が脆くなることがある。本発明者らは鋭意検討した結果、上述のとおり、照射温度及び照射線量を極めて限定された範囲とすることによって、成形品が小さい厚みを有する場合であっても、複雑で微細な形状を有する場合であっても、パーティクルを発生させにくい改質成形品を製造できることを見出した。
【0057】
上記成形品は、厚みが3.0mm以下であってよく、2.5mm以下であってよく、2.0mm以下であってよく、1.5mm以下であってよく、1.0mm以下であってよい。厚みの下限は特に限定されないが、耐屈曲性を考慮して、0.1mmであってよい。
【0058】
上記成形品の一部分のみに上記放射線を照射することもできる。上記成形品がダイヤフラムの形状を有している場合は、弁座との接触部分のみに放射線を照射することができる。
【0059】
放射線としては、電子線、紫外線、ガンマ線、X線、中性子線、あるいは高エネルギーイオン等が挙げられる。なかでも、透過力が優れており、線量率が高く、工業的生産に好適である点で電子線が好ましい。
【0060】
放射線を照射する方法としては、特に限定されず、従来公知の放射線照射装置を用いて行う方法等が挙げられる。
【0061】
放射線の照射環境としては、特に制限されないが、酸素濃度が1000ppm以下であることが好ましく、酸素不存在下であることがより好ましく、真空中、又は、窒素、ヘリウム若しくはアルゴン等の不活性ガス雰囲気中であることが更に好ましい。
【0062】
上記改質成形品の原料となる変性PTFEは、MIT値が700万回以上、より好ましくは1000万回以上であることが好ましい。
上記MIT値は、ASTM D2176に準じて測定することができる。具体的には、幅12.5mm、長さ130mm、厚さ0.25mmの試験片を準備し、MIT試験機(型番12176、安田精機製作所社製)に装着し、荷重1.25kg、左右の折り曲げ角度各135度、折り曲げ回数175回/分の条件下で試験片を屈曲させ、試験片が切断するまでの回数である。
【0063】
本発明の製造方法は、上記改質成形品を得た後、更に、上記改質成形品を機械加工により所望の形状に加工する工程を含むこともできる。上記機械加工については、上述したとおりである。しかし、本発明の製造方法における照射条件は、厚みが小さい成形品や複雑で微細な形状を有する成形品も適用できるので、放射線を照射する前に、上記成形品に機械加工により所望の形状に加工するほうが至便である。
【0064】
上述の製造方法により、改質成形品を得ることができる。上述の製造方法から得られる改質成形品は、パーティクルを発生させにくいことから、有用である。上記改質成形品はダイヤフラムであってよい。
【0065】
本発明は、変性PTFEの成形品であって、上記変性PTFEは、TFE単位、TFEと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位、及び、第三級炭素を含み、上記第三級炭素がTFE単位及び上記変性モノマー単位の合計に対して0.035〜0.100モル%であることを特徴とする成形品でもある。上記成形品は、特定量の上記第三級炭素を含む上記変性PTFEから構成されることから、パーティクルが発生しにくく、良好な機械物性を有している。
【0066】
上記第三級炭素の含有量は、上記成形品について、19F−NMR測定を行い、次のA〜Cのピーク強度(ピークの積分値)を求め、次の計算式に従い算出できる。
【0067】
19F−NMR測定条件
測定装置:固体19F−NMR測定装置、BRUKER社製
測定条件:282MHz(変性PTFEのCFを−120ppmとする)
回転数30kHz
【0068】
ピーク強度A
ケミカルシフト−80(−74〜−85)ppmに観測されるピークであって、変性モノマーであるパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)の−O−CF−と−CFのC−F5個に由来するピークの強度
【0069】
ピーク強度B
ケミカルシフト−120(−84〜−150)ppmに観測されるピークであって、PAVEのC−F5個とテトラフルオロエチレン(TFE)由来のC−F4個が重なっているピークの強度
【0070】
ピーク強度C
ケミカルシフト−183(−178〜−191)ppmに観測されるピークであって、第三級炭素−CFCF(−CF−)CF−に由来するFのピークの強度
【0071】
計算式
第三級炭素の含有量(モル%)=100×(ピーク強度C)÷{(ピーク強度A÷5)+[ピーク強度B−ピーク強度A]÷4+(ピーク強度C)}
変性モノマーがPAVE以外のモノマーである場合も、19F−NMR測定により、第三級炭素の含有量を求めることができる。
【0072】
上記第三級炭素を含む上記変性PTFEは、上記第三級炭素を含むこと以外は、上述した改質成形品の製造方法に使用する上記変性PTFEと同じ構成を有することができる。
【0073】
上記第三級炭素を含む上記変性PTFEは、上記変性PTFEに、270〜310℃で、30kGy以上70kGy未満の放射線を照射することにより、製造することができる。すなわち、上記第三級炭素を含む上記変性PTFEの上記成形品が、上述した改質成形品であることも、本発明の好適な態様の一つである。上記照射温度は、280℃以上が好ましく、300℃以下が好ましい。上記放射線の照射線量は、60kGy以下が好ましく、40kGy以上が好ましい。
【0074】
上記第三級炭素を含む上記変性PTFEから構成される上記成形品は、厚みが3.0mm以下であってよく、2.5mm以下であってよく、2.0mm以下であってよく、1.5mm以下であってよく、1.0mm以下であってよい。厚みの下限は特に限定されないが、耐屈曲性を考慮して、0.1mmであってよい。
【0075】
本発明は、上述の成形品からなることを特徴とするダイヤフラムでもある。上記ダイヤフラムは、特定量の上記第三級炭素を含む上記変性PTFEから構成されることから、半導体工場で使用される腐食性の高い薬品等と接触しても劣化しにくく、弁座と繰り返し当接しても、パーティクルを発生させにくい。
【0076】
本発明は、また、上記変性PTFEに、270〜310℃で、30kGy以上70kGy未満の放射線を照射して得られることを特徴とするダイヤフラムでもある。放射線照射前の上記変性PTFEは、上述した改質成形品の製造方法に使用する上記変性PTFEと同じ構成を有している。上記ダイヤフラムは、270〜310℃で、30kGy以上70kGy未満の放射線を照射した上記変性PTFEから構成されることから、良好な機械物性を有しており、半導体工場で使用される腐食性の高い薬品等と接触しても劣化しにくく、弁座と繰り返し当接しても、パーティクルを発生させにくい。
【0077】
上記ダイヤフラムは、一部分のみに上記放射線が照射されたものであればよく、全部に上記放射線が照射されて得られたものに限られない。
【0078】
上記照射温度は、280℃以上が好ましく、300℃以下が好ましい。
【0079】
上記放射線の照射線量は、60kGy以下が好ましく、40kGy以上が好ましい。
【0080】
上記ダイヤフラムは、厚みが3.0mm以下であってよく、2.5mm以下であってよく、2.0mm以下であってよく、1.5mm以下であってよく、1.0mm以下であってよい。厚みの下限は特に限定されないが、耐屈曲性を考慮して、0.1mmであってよい。上記ダイヤフラムの厚みは、上記ダイヤフラムの最も薄い部分の厚みであってよい。
【0081】
上記ダイヤフラムは、融点が320〜329℃であることが好ましい。上記融点は、上記ダイヤフラムについて、示差走査熱量測定(DSC)の昇温速度を10℃/分として測定した値である。
【0082】
本発明は、弁座と上述のダイヤフラムとを備えることを特徴とするダイヤフラムバルブでもある。上記ダイヤフラムバルブは、上記特徴を有することから、半導体製造に使用する腐食性の高い薬品等の供給に使用することができ、長期間使用しても、パーティクルを発生させにくい。上記ダイヤフラムバルブは、バルブ本体に設けられた弁座と、上記弁座に当接又は離間する上述のダイヤフラムとを備えることが好ましい。
【0083】
図1は、本発明のダイヤフラム及びダイヤフラムバルブの一実施形態の断面概略図である。図1に示すダイヤフラムバルブ10は、閉弁状態にある。図1に示すように、ボディー(バルブ本体)13には、シリンダ14が接続されている。また、ダイヤフラムバルブ10は、ダイヤフラム11を備えており、ダイヤフラム11は、周縁部がボディー13とシリンダ14との間に挟み込まれることにより固定されている。また、ダイヤフラム11には、ピストンロッド15が接続されており、ピストンロッド15が上下動することにより、ダイヤフラム11も上下動する。
【0084】
ボディー13には、弁座16が設けられており、弁座16にダイヤフラム11が当接することにより、流れ込む流体が遮蔽され、弁座16からダイヤフラム11が離間することにより、流体が供給される。このように、ダイヤフラムバルブ10は、ダイヤフラム11が弁座16に対し当接離間することによって流体の流量の制御を行う。そして、ダイヤフラム11が上述した構成を備えるダイヤフラムであることから、当接及び離間を繰り返しても、パーティクルが発生しにくい。
【0085】
弁座16が一体形成されているボディー13は、金属、樹脂等により構成することができる。上記樹脂としては、PTFE、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等が挙げられる。これらのなかでも、成形が容易であり、耐薬品性にも優れることから、PFAが好ましい。本発明のダイヤフラムは、PFAから構成された弁座と当接及び離間を繰り返しても、パーティクルが発生しにくい。上記PFAは、溶融加工性を有することが好ましい。
【実施例】
【0086】
つぎに本発明を実験例をあげて説明するが、本発明はかかる実験例のみに限定されるものではない。
【0087】
実験例の各数値は以下の方法により測定した。
【0088】
(変性PTFEの二次融点)
示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めた。
【0089】
(変性モノマー単位の含有量)
赤外分光分析法により特性吸収(パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)の場合は1040cm−1〜890cm−1の間)から求める。
【0090】
(MIT値)
ASTM D2176に準じて測定した。具体的には、幅12.5mm、長さ130mm、厚さ0.25mmの電子線未照射試験片を、MIT試験機(型番12176、安田精機製作所社製)に装着し、荷重1.25kg、左右の折り曲げ角度各135度、折り曲げ回数175回/分の条件下で試験片を屈曲させ、試験片が切断するまでの回数(MIT値)を測定した。
【0091】
実験例1
特許第3177983号公報に記載の実施例1と同様にして得られた変性PTFEパウダー(TFE単位及びPPVE単位の合計に対して0.06質量%のPPVE単位を含み、二次融点が323℃である)を用いた。50mmφ、高さ50mmの金型に200gの上記パウダーを充填し、15MPaの圧力で両押し、圧力保持30分行って、予備成形品を得た。この予備成形品を昇温速度90℃/時で昇温後、360℃で4時間保持し、40℃/時で降温し成形品ブロックを得た。このブロックを切削加工し、0.5mm厚のシートと0.25mm厚さのシートを作成した。また、0.25mm厚さのシートで測定したMIT値の結果は1500万回であった。
【0092】
0.5mm厚のシートを30mm幅で長さ220mmにカットして試験片を得た。
得られた試験片を、電子線照射装置(NHVコーポレーション社製)の電子線照射容器に収容し、その後窒素ガスを加えて容器内を窒素雰囲気にした。容器内の温度を280℃まで昇温し温度が安定した後、電子線加速電圧が3000kV、照射線量の強度が20kGy/5minの条件で、試験片に40kGyの電子線を照射した。電子線照射前後での試験片の寸法変化は1%以下でシワの発生は無かった。
【0093】
その他の実験例
表1及び2に示す照射温度及び照射量を採用した他は、実験例1と同様にして、0.5mm厚のシートを得た。
【0094】
(パーティクル発生試験)
0.5mm厚のシートを用いて、試験を実施した。染色摩擦堅ろう度試験機(安田精機製作所社製)を使用し、図2に示すように、シート21上に、摩擦子22の先端に固定したPFAシート23を設置し、両者をお互いに往復摩擦した。荷重は500g、回数は2000回(30回/分)とした。PFAシートを摩擦子から取り外し、PFAシートに付着した析出物(粉)の量を測定した。結果を表1及び2に示す。
なお、実験例5及び8では、試験中にサンプルが割れたことから、試験を中断した。実験例5及び8の結果から、放射線の照射量が大きすぎると、ダイヤフラムに通常必要とされる機械物性が得られないことが分かった。
【0095】
(析出物の分析)
実験例2で得られたPFAシートに付着した析出物の成分を次の方法により特定した。析出物が付着したPFAシートをホットステージ上に載置し、PFAの融点である305℃以上かつ変性PTFEの融点である323℃未満に加熱し、偏光顕微鏡(オリンパス社製BX51)により観察したところ、PFAシートの溶融が始まったが、析出物は溶融しなかった。更に変性PTFEの融点以上に加熱すると、析出物が溶融した。従って、PFAシートに付着した析出物は変性PTFEの析出物であることが分かった。
【0096】
(第三級炭素の含有量)
0.5mm厚のシートの19F−NMR測定を行うことにより求めた。算出方法は上述のとおりである。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【符号の説明】
【0099】
10 ダイヤフラムバルブ
11 ダイヤフラム
13 ボディー
14 シリンダ
15 ピストンロッド
16 弁座
21 シート(サンプル)
22 摩擦子
23 PFAシート
図1
図2
図3